(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892198
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】フッ化マグネシウム結晶体の接合方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/12 20060101AFI20210614BHJP
C30B 33/06 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
C30B29/12
C30B33/06
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-26513(P2017-26513)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-131360(P2018-131360A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】597088753
【氏名又は名称】株式会社 ジャパンセル
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】深澤 篤
(72)【発明者】
【氏名】早田 智
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】大村 公則
(72)【発明者】
【氏名】河西 弘
【審査官】
山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3499717(JP,B2)
【文献】
特許第4224336(JP,B2)
【文献】
特許第4251462(JP,B2)
【文献】
特開2017−160067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/12
C30B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合するフッ化マグネシウム結晶体片の接合する面を合わせ、合わせた状態のフッ化マグネシウム結晶体片の一端側を他端側よりも強く押圧し、合わせ面に干渉縞を形成し、この状態でフッ化マグネシウム結晶体を結晶体の融点以下の温度で加熱することで、前記合わせ面を干渉縞が消失した完全な接合状態とする結晶体片の接合方法において、前記互いに接合する結晶体片の他端側の合わせ面間に加熱時の圧力で圧潰可能な材質からなる微細なスペーサを介在させることを特徴とするフッ化マグネシウム結晶体片の接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶体片の接合方法において、前記スペーサは径が15〜60μmの綿とすることを特徴とするフッ化マグネシウム結晶体片の接合方法。
【請求項3】
請求項1に記載の結晶体片の接合方法において、合わせた状態の結晶体片の一端部の押圧箇所は幅方向の一部のみとすることを特徴とするフッ化マグネシウム結晶体片の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超低屈折光学材料として知られるフッ化マグネシウム(MgF
2)結晶体の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーティクルカウンターなどに組み込む合成コランダム製のフローセルを製造するには、板状の合成コランダム片を複数用意し、これら合成コランダム片を接合することで得ている。ここで、接着剤を用いたのでは接合面において境界面ができてしまい、光が屈折したり反射してしまう。また、熱融着させた場合には、接合面に気泡が封じ込められるなどの問題もある。
【0003】
そこで、本出願人は特許文献1〜3を提案した。特許文献1〜3に開示される接合方法は基本的には同じであり、先ず結晶ブロックから合成コランダム片を切り出し、この切り出した合成コランダム片の接合面を研磨し、研磨した面同士を合わせ、合わせた状態の2枚の合成コランダム片の一端部側を強く押し付け、2枚の合成コランダム片の間隔を干渉縞ができる程度とし、この状態で2枚の合成コランダム片を合成コランダムの融点(2030℃)以下に加熱することで、一端側から他端側に向かって徐々に密着状態となるようにしたものである。
【0004】
上記において、強く押し付けた状態の一端部側ではオプティカルコンタクト状態或いは化学的加圧密着状態になっており、加熱によって干渉縞がなくなるので、この密着状態が他端側まで連続すると考えられる。そして、このように接合された合成コランダム片同士は光学的な境界面が存在せず、極めて優れた三次元構造体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3499717号公報
【特許文献2】特許第4224336号公報
【特許文献3】特許第4251462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に開示される方法によって製造された接合体は、耐薬品性に優れ、接合面が剥離したり接合面で屈折或いは反射する等の不具合がない反面、歩留りが十分ではないという問題がある。
【0007】
歩留りが十分ではない原因としては、一端部側を他端側よりも強く押し付けることで、接合面同士の間に干渉縞ができる程度の隙間を形成するようにしているが、他端側は何ら拘束していないため、他端側における合成コランダム片同士の間に形成される微細な隙間が一定でないことが考えられる。
この問題は、フッ化マグネシウム(MgF
2)結晶体を接合する場合にも生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係るフッ化マグネシウム(MgF
2)結晶体片の接合方法は、互いに接合するフッ化マグネシウム結晶体片の接合する面を合わせ、この合わせた状態の結晶体片の一端側を他端側よりも強く押圧して合わせ面に干渉縞を形成し、この状態で結晶体片を結晶体の融点以下の温度で加熱することで、前記合わせ面を干渉縞が消失した完全な接合状態とする接合方法であって、前記互いに接合する結晶体片の他端側間に加熱時の圧力で圧潰可能な材質からなる微細なスペーサを介在させるようにした。
【0009】
前記スペーサとしては、熱処理によって干渉縞が消失するのを妨げることがないもの、つまり接合する結晶体片同士がオプティカルコンタクト或いは化学的加圧密着状態となることを妨げない程度の圧潰性(弾性、柔らかさ)を有することが必要である。
【0010】
スペーサの一例としては綿繊維が挙げられるが、これに限定されるものではない。またスペーサの大きさは必要な干渉縞を形成するものであるから、合成コランダム片の接合長さによって異なるが、概ね15〜60μmの径である。
【0011】
また、本発明に係る接合方法においては、接合する結晶体片の一端側を押圧した仮接合の状態で、合わせた状態の結晶体片の単位長さ当たりの縞の本数によって、加熱処理前に仮接合状態の良否を判断することができる。
【0012】
また、合わせた状態の結晶体片の一端部の押圧箇所は幅方向の一部のみとすることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、結晶体片同士を接着剤を用いずに、一端側を他端側よりも強く押圧した状態での熱処理によって接合するに際し、他端側の結晶体片間の間隔をスペーサによって正確にコントロールできるため、歩留りを高めることができる。
【0014】
また、熱処理する前の仮接合の状態で、接合される結晶体片の接合面間に形成される干渉縞の単位長さあたりの本数によって、仮接合の状態の良否を判定できるため、更に歩留りを高めることができる。
【0015】
更に、合わせた状態の結晶体片の一端部の押圧箇所を幅方向全部ではなく幅方向の一部のみとすることで、押圧治具の跡が付く箇所が一部のみになり、接合後の不適合部分が少なくなり、材料の無駄がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】2つのフッ化マグネシウム(MgF
2)結晶体片を重ね合わせた状態の側面図
【
図2】一方のフッ化マグネシウム(MgF
2)結晶体片の端部にスペーサを載置した状態の平面図
【
図3】2つのフッ化マグネシウム(MgF
2)結晶体片を重ね合わせた際に生じる干渉縞の写真
【
図4】(a)は3つのフッ化マグネシウム結晶体を同時に接合した構造体の正面の写真、(b)は同構造体の背面の写真
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は2つのフッ化マグネシウム結晶体片を重ね合わせた状態の側面図、
図2は一方のフッ化マグネシウム結晶体片の端部にスペーサを載置した状態の平面図であり、先ず2つのフッ化マグネシウム結晶体片1、2を用意する。
【0018】
これらフッ化マグネシウム結晶体片1、2は結晶ブロックから切り出した後に、接合される面を研磨した後に洗浄し、微細なゴミなどが接合面にないことを確認したものである。尚、図示例では2つのフッ化マグネシウム結晶体片を重ねているが3つ以上の合成コランダム片を重ねて同時に接合することもできる。
【0019】
フッ化マグネシウム結晶体片1、2を重ねる際には結晶の軸、稜線及び軸角を完全に一致させる必要はなく、互いのフッ化マグネシウム結晶体片1、2の結晶の軸、稜線及び軸角のズレが5°以内とするのが好ましい。
【0020】
フッ化マグネシウム結晶体片1、2の一端側は治具4によって強く押圧或いは挟持されている。治具4による押圧箇所は幅方向の全域としてもよいが図示例のように幅方向の中央の一部のみとすることで、接合後の不適合部分を少なくしている。
【0021】
フッ化マグネシウム結晶体片1、2の他端側の接合面間にはスペーサ3が介在している。このスペーサ3は図では分かりやすくするため実際よりは大きく示しているが、実施例では直径が30μmの綿繊維を用いている。スペーサ3は、仮接合後の熱処理の際にフッ化マグネシウム結晶体片1、2の他端側に作用する圧力によって潰れることで、フッ化マグネシウム結晶体片1、2の他端側でのオプティカルコンタクト或いは化学的加圧密着状態の妨げにならないものであればよい。
【0022】
スペーサ3としては、ゲルビーズなども使用することができるが、仮接合後の熱処理の際に大量にガスを発生するものは、接合面に気泡が残る可能性があるので好ましくない。
【0023】
図3は重ね合わせたフッ化マグネシウム結晶体片1、2の一端部を押圧した状態の平面写真であり、この写真からも明らかなように、重ね合わせたフッ化マグネシウム結晶体片1、2の接合面の微細な隙間に由来する干渉縞が観察される。
【0024】
上記干渉縞の間隔は接合面の微細な隙間の大きさに比例するため、仮接合状態での単位長さあたりの干渉縞の本数をカウントすることにより、フッ化マグネシウム結晶体片1、2の接合面の微細な隙間が適切な範囲にあるか否かを、前もって判断することができる。この実施例にあっては単位長さあたりに5本の縞が観察される。
【0025】
以上の仮接合状態のフッ化マグネシウム結晶体片をフッ化マグネシウムの融点以下の温度まで加熱し一定時間保持する。
すると、既にオプティカルコンタクト或いは化学的加圧密着状態にある一端側から他端側に向かってオプティカルコンタクト或いは化学的加圧密着状態が進行し、この進行に併せて、フッ化マグネシウム結晶体片間に存在するガスは完全に排除され、接合面全体がオプティカルコンタクト或いは化学的加圧密着状態となる。
【0026】
図4(a)は3つのフッ化マグネシウム結晶体を同時に接合した構造体の正面の写真、(b)は同構造体の背面の写真であり、これらの写真から接合後には上記の干渉縞が全く観察されず、光学的な境界面が認められないことが分かる。
【0027】
実施例ではフッ化マグネシウム結晶体片同士を接合した例を示したが、本発明方法はフッ化マグネシウム結晶体と合成コランダム片、或いはフッ化マグネシウム結晶体とフッ化カルシウム結晶体片との接合にも応用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明方法は微粒子計に組み込まれるフローセルに限らず、レンズ、プリズムなどの各種光学部品、硬度が要求される機械部品、接合面が密閉状態にある特性を利用した真空容器、例えば可変波長レーザの較正、光スペクトラムアナライザの較正、ガス分析器の較正、波長計の較正、周波数標準、安定した周波数源、磁気光学トラップ法を用いた原子のレーザ冷却などに用いられるガス封入ガラスセルや高真空ガラスチャンバなどに応用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1、2…フッ化マグネシウム結晶体片、3…スペーサ、4…押圧治具。