(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
<鋳物砂の製造方法>
本発明の鋳物砂の製造方法は、人工砂とフラン樹脂組成物とを混合する工程(樹脂混合工程)と、フラン樹脂組成物が混合された人工砂に硬化剤を混合する工程(硬化剤混合工程)とを含んでいる。
【0027】
1.樹脂混合工程
樹脂混合工程では、人工砂とフラン樹脂組成物とを混合する。そのため、まず、人工砂と、フラン樹脂組成物とを準備する。
【0028】
(1−1)人工砂
人工砂は、複数の粒子の集合であり、公知の方法(例えば、焼結法、溶融法、火炎溶融法など)により製造される。
【0029】
人工砂として、例えば、酸化アルミニウム砂(アルミナ砂)、ムライト砂、ムライト−ジルコン砂などが挙げられる。人工砂は、単独使用または2種類以上併用することができる。人工砂のなかでは、好ましくは、ムライト砂が挙げられる。
【0030】
ムライト砂は、酸化アルミニウム(アルミナ)と二酸化珪素(シリカ)との混合組成化合物(アルミノケイ酸塩)を主成分としている。
【0031】
酸化アルミニウムの含有割合は、ムライト砂全量に対して、例えば、50質量%以上、好ましくは、60質量%以上、さらに好ましくは、65質量%以上、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下である。
【0032】
二酸化珪素の含有割合は、ムライト砂全量に対して、例えば、5質量%以上、好ましくは、15質量%以上、例えば、45質量%以下、好ましくは、40質量%以下、さらに好ましくは、30質量%以下である。
【0033】
このようなムライト砂は、例えば、特開昭61−63333号公報に記載の方法や、特開2003−251434号公報に記載の方法により調製することができる。
【0034】
また、ムライト砂は、市販品を用いることもでき、ムライト砂の市販品として、例えば、エスパール(山川産業社製)、セラビーズ(伊藤忠セラテック社製)などが挙げられる。
【0035】
また、人工砂は、呼び寸法が53μm(281メッシュ)以上150μm(100メッシュ)以下の粒子(以下、53−150μm粒子とする。)を含んでおり、必要に応じて、呼び寸法が53μm(281メッシュ)未満の粒子(以下、PANとする。)や、呼び寸法が150μm(100メッシュ)を超過する粒子(以下、150μm超過粒子とする。)を含むことができる。
【0036】
53−150μm粒子の含有割合は、人工砂全量に対して、例えば、20質量%以上、好ましくは、99.0質量%以上、例えば、100質量%以下である。
【0037】
53−150μm粒子の含有割合が上記範囲内であれば、砂型の表面粗さの低減を図ることができるとともに、3次元積層造形に好適な流動性を有する鋳物砂を確実に製造することができる。
【0038】
また、人工砂がPANを含む場合、PANの含有割合は、砂全量に対して、例えば、0質量%を超過し、例えば、10質量%以下、好ましくは、0.5質量%以下である。
【0039】
また、人工砂が150μm超過粒子を含む場合、150μm超過粒子の含有割合は、砂全量に対して、例えば、0質量%を超過し、例えば、10質量%以下、好ましくは、0.5質量%以下である。
【0040】
また、人工砂は、長石を含んでいてもよい。長石は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有するアルミノケイ酸塩である。
【0041】
長石として、例えば、カリ長石(K
2O・Al
2O
3・6SiO
2)、ソーダ長石(Na
2O・Al
2O
3・6SiO
2)などが挙げられる。
【0042】
長石の含有割合は、人工砂の全量に対して、例えば、0質量%を超過し、例えば、10質量%以下、好ましくは、5質量%以下である。
【0043】
なお、人工砂には、例えば、天然珪砂などを添加することもできる。天然珪砂を添加する場合、天然珪砂の添加割合は、人工砂100質量部に対して、例えば、0質量部を超過し、80質量部以下である。
【0044】
(1−2)フラン樹脂組成物
フラン樹脂組成物は、硬化することによりフラン樹脂となる硬化性樹脂組成物であって、酸存在下において、例えば、35℃以上150℃未満で完全硬化状態(Cステージ)となる。
【0045】
フラン樹脂組成物は、フラン樹脂前駆体を含んでいる。
【0046】
フラン樹脂前駆体として、例えば、フルフリルアルコール、フラン樹脂プレポリマーなどが挙げられる。
【0047】
フラン樹脂プレポリマーとして、例えば、フルフリルアルコールの単独重合体、フルフリルアルコールとアルデヒド化合物との共重合体、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)、フルフリルアルコールとフルフラールとの共重合体などが挙げられる。フラン樹脂プレポリマーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0048】
このようなフラン樹脂プレポリマーのなかでは、好ましくは、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)が挙げられる。尿素変性フラン樹脂プレポリマーのモノマーとしてのアルデヒド化合物として、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、パラホルムアルデヒドなどが挙げられ、好ましくは、パラホルムアルデヒドが挙げられる。
【0049】
このようなフラン樹脂前駆体は、フルフリルアルコールおよびフラン樹脂プレポリマーのいずれか一方を単独で使用することができるが、好ましくは、フルフリルアルコールおよびフラン樹脂プレポリマーが併用される。
【0050】
フラン樹脂前駆体の含有割合は、フラン樹脂組成物の全量に対して、例えば、10質量%以上、好ましくは、50質量%以上、さらに好ましくは、60質量%以上、とりわけ好ましくは、90質量%以上、例えば、95質量%以下である。
【0051】
また、フラン樹脂組成物がフルフリルアルコールおよびフラン樹脂プレポリマーを含有する場合、フラン樹脂プレポリマーの含有割合は、フルフリルアルコール100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、100質量部以上、例えば、300質量部以下、好ましくは、150質量部である。
【0052】
フラン樹脂組成物は、上記成分に加えて、溶媒、架橋剤、さらに必要に応じて、硬化促進剤などを含有することができる。
【0053】
溶媒としては、例えば、水、アセトン、酢酸エチル、アルコールなどが挙げられ、好ましくは、水が挙げられる。
【0054】
溶媒の含有割合は、フラン樹脂組成物全量に対して、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、1質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、10質量%以下である。
【0055】
架橋剤としては、例えば、シランなどが挙げられる。
【0056】
架橋剤の含有割合は、フラン樹脂組成物全量に対して、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.5質量%以上、例えば、20質量%以下、好ましくは、3質量%以下である。
【0057】
硬化促進剤としては、例えば、レゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール、ビスヒドロキシメチルフランなどが挙げられる。
【0058】
(1−3)混合条件
そして、人工砂とフラン樹脂組成物とを混合するには、まず、人工砂を所定の温度(混合温度)に予熱した後、人工砂にフラン樹脂組成物を添加する。その後、混合温度を維持しながら、人工砂とフラン樹脂組成物とが均一になるまで撹拌混合する。
【0059】
このような工程は、例えば、公知の撹拌装置により実施される。撹拌装置は、例えば、撹拌槽と、撹拌槽内に配置され、回転可能な撹拌翼と、撹拌槽内を加熱可能なヒータとを備える。
【0060】
フラン樹脂組成物の混合割合は、人工砂100質量部に対して、例えば、0.005質量部以上、好ましくは、0.10質量部以上、さらに好ましくは、0.15質量部以上、とりわけ好ましくは、0.20質量部以上、例えば、3質量部以下、好ましくは、0.50質量部以下、さらに好ましくは、0.30質量部以下である。
【0061】
フラン樹脂組成物の混合割合が上記下限以上であると、人工砂をフラン樹脂により確実に被覆することができる。フラン樹脂組成物の混合割合が上記上限以下であると、フラン樹脂前駆体の重合反応(後述)において生成する水分量の低減を図ることができるので、鋳物砂の粘度が過度に上昇することを抑制でき、かつ、砂型の強度の向上を図ることができる。
【0062】
混合温度は、例えば、0℃以上、好ましくは、35℃以上、好ましくは、70℃以上、例えば、150℃以下、好ましくは、100℃以下、さらに好ましくは、90℃以下、とりわけ好ましくは、80℃以下である。
【0063】
混合温度が上記下限以上であると、フラン樹脂前駆体の重合反応(後述)において生成する水を安定して除去できる。そのため、鋳物砂中の水分量の低減を図ることができるので、鋳物砂の粘度が過度に上昇することを抑制できる。
【0064】
とりわけ、混合温度が70℃以上であると、水を確実に除去できるとともに、樹脂混合工程において、フラン樹脂組成物の一部が人工砂を取り囲むように被覆した後、熱硬化する。そのため、硬化剤混合工程において硬化剤が人工砂と接触することをより一層抑制できるので、硬化剤の活性能が低下することを確実に抑制でき、砂型の強度の向上を図ることができる。
【0065】
また、混合温度が上記上限以下であれば、フラン樹脂組成物の硬化速度が過度に上昇することを抑制でき、フラン樹脂組成物が安定して人工砂を被覆することができる。なお、混合温度が上記上限を超過すると、フラン樹脂組成物が人工砂を十分に被覆することなく硬化する場合がある。この場合、鋳物砂の形状がいびつになり、鋳物砂の流動性が過度に低下するおそれがある。
【0066】
一方、混合温度が上記上限以下であれば、フラン樹脂組成物が安定して人工砂を被覆することができるので、鋳物砂の流動性が過度に低下することを抑制できる。また、混合温度が上記上限以下であるので、製造コストの低減を図ることができる。
【0067】
樹脂混合工程における撹拌時間は、撹拌対象物(人工砂と樹脂組成物との混合物)が1kgである場合、例えば、1秒以上、好ましくは、3秒以上、例えば、20秒以下、好ましくは、10秒以下である。なお、撹拌時間は、撹拌対象物がNkgである場合、上記のN倍となる。
【0068】
これによって、フラン樹脂組成物が、人工砂の各粒子の周囲を取り囲むように被覆する。
【0069】
2.硬化剤混合工程
次いで、硬化剤混合工程では、フラン樹脂組成物が混合された人工砂に硬化剤を混合する。
【0070】
(2−1)硬化剤
硬化剤は、フラン樹脂前駆体を硬化(完全硬化状態に)させる酸触媒である。硬化剤は、酸成分としてキシレンスルホン酸を含み、好ましくは、酸成分としてキシレンスルホン酸のみを含んでいる。
【0071】
キシレンスルホン酸として、オルトキシレンスルホン酸(2,3−ジメチルベンゼンスルホン酸、3,4−ジメチルベンゼンスルホン酸)、メタキシレンスルホン酸(2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、3,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,6−ジメチルベンゼンスルホン酸)、パラキシレンスルホン酸(2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸)が挙げられる。これらキシレンスルホン酸は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0072】
キシレンスルホン酸の含有割合は、硬化剤全量に対して、例えば、90.0質量%以上、好ましくは、95.0質量%以上、例えば、100質量%以下、好ましくは、97.0質量%以下である。
【0073】
なお、硬化剤には、必要に応じて、公知の添加剤を添加してもよい。また、硬化剤には、硬化剤の製造工程における残留物が含有される場合がある。
【0074】
(2−1)混合条件
そして、上記した混合温度の範囲に維持しながら、フラン樹脂組成物が混合された人工砂に硬化剤を添加し混合する。その後、硬化剤が添加された人工砂が円滑に流動するまで撹拌混合する。
【0075】
このような工程は、上記の樹脂混合工程と同一の撹拌装置で実施してもよく、フラン樹脂組成物が混合された人工砂を移送し、上記の樹脂混合工程とは異なる撹拌装置で実施してもよい。
【0076】
硬化剤の混合割合は、人工砂100質量部に対して、例えば、0.005質量部以上、好ましくは、0.05質量部以上、さらに好ましくは、0.15質量部以上、とりわけ好ましくは、0.20質量部以上、例えば、3質量部以下、好ましくは、0.50質量部以下、さらに好ましくは、0.30質量部以下である。
【0077】
硬化剤の混合割合が上記下限以上であると、人工砂を被覆するフラン樹脂組成物を確実に硬化させることができる。硬化剤の混合割合が上記上限以下であると、鋳物砂の粘度が過度に上昇することを抑制できる。
【0078】
また、硬化剤中のキシレンスルホン酸の混合割合は、フラン樹脂組成物中のフラン樹脂前駆体1質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上、さらに好ましくは、0.8質量部以上、例えば、3質量部以下、好ましくは、2質量部以下、さらに好ましくは、1.2質量部以下である。
【0079】
キシレンスルホン酸の混合割合が上記の範囲であれば、鋳物砂により造形される砂型の強度の向上を図ることができる。
【0080】
硬化剤混合工程における混合温度の範囲は、上記の樹脂混合工程の混合温度の範囲と同じであり、硬化剤混合工程における撹拌時間の範囲は、上記の樹脂混合工程の撹拌時間の範囲と同じである。
【0081】
硬化剤混合工程では、人工砂を被覆するフラン樹脂組成物が、キシレンスルホン酸と接触し硬化して、硬化物であるフラン樹脂膜(層)を形成する。このとき、キシレンスルホン酸は、触媒として作用する。
【0082】
これによって、人工砂を被覆するフラン樹脂(フラン樹脂膜)を含有する表面改質層が形成される。
【0083】
詳しくは、フラン樹脂組成物がフルフリルアルコールを含有する場合、下記式(1)に示すように、フルフリルアルコールは、キシレンスルホン酸(式中ではHAとする。)と接触することにより縮合重合してフラン樹脂を形成する。
【0085】
また、上記式(1)に示されるように、フルフリルアルコールの縮合重合では、水が生成する。
【0086】
反応により生成する水の一部は、表面改質層の表面に滲出した後、蒸発により除去される。このとき、硬化剤(キシレンスルホン酸)は、水とともに表面改質層の表面に押し出される。これによって、硬化剤が、表面改質層の表面に付着して、硬化剤層を形成する。
【0087】
また、表面改質層の表面に滲出しなかった水は、例えば、フラン樹脂に内包されるか、人工砂がカリ長石やソーダ長石を含有している場合には、下記式(2)および式(3)に示すように、カリ長石およびソーダ長石と反応することにより除去される。
【0090】
3.鋳物砂
以上によって、鋳物砂が製造される。鋳物砂は、複数の粒子の集合であるが、
図1では、便宜上、鋳物砂のうち1つの粒子を鋳物砂1として示している。
【0091】
鋳物砂1は、人工砂2と、人工砂2を被覆するフラン樹脂を含有する表面改質層3と、表面改質層に付着する硬化剤層4とを備え、好ましくは、それらからなる。
【0092】
人工砂2は、上記した人工砂の各粒子を示す。
【0093】
表面改質層3に含まれるフラン樹脂は、フラン樹脂組成物の完全硬化物であって、硬化反応が完了しており、例えば、加熱してもそれ以上硬化反応は進行しない。
【0094】
表面改質層3の厚みは、例えば、0.01μm以上、好ましくは、0.1μm以上、例えば、10μm以下、好ましくは、1μm以下である。
【0095】
また、表面改質層3は、フラン樹脂以外の成分、例えば、未硬化のフラン樹脂前駆体を含有してもよいが、フラン樹脂の含有割合は、表面改質層3に対して、例えば、80質量%以上、好ましくは、90質量%以上、例えば、100質量%以下である。
【0096】
硬化剤層4は、表面改質層3の表面に配置されている。硬化剤層4は、キシレンスルホン酸を含んでおり、好ましくは、キシレンスルホン酸からなる。
【0097】
4.砂型の造形方法(製造方法)
(4−1)3Dプリンタ
このような鋳物砂1は、種々の砂型の造形に用いることができるが、特に3次元積層造形用、つまり、3Dプリンタ用の鋳物砂として有用である。
【0098】
例えば、鋳物砂1は、
図2〜
図7Bに示すように、3Dプリンタ(3次元積層造形装置)6により、砂型30(
図7B参照)に造形される。
【0099】
図2に示すように、3Dプリンタ6は、3D−CADデータから砂型を造形できる装置であって、造形ユニット7と、リコータ13と、ジェットヘッド14と、図示しない操作部とを備えている。
【0100】
図4Aおよび
図4Bに示すように、造形ユニット7は、ジョブボックス11と、ステージ12と、支持軸18とを備えている。
【0101】
ジョブボックス11は、平面視略矩形状を有しており、上下方向に延びている。ジョブボックス11の上端部は、開放されている。
【0102】
ステージ12は、平面視略矩形の板状を有しており、ジョブボックス11内に配置されている。ステージ12は、上下方向に昇降可能な支持軸18の上端部に固定されている。ステージ12は、支持軸18の昇降によりジョブボックス11内において上下方向に移動可能である。
【0103】
リコータ13は、鋳物砂を貯留可能であり、かつ、貯留される鋳物砂をステージ12に供給するように構成される。リコータ13は、ステージ12に対して平行な状態で、ステージ12の上方を間隔を空けて通過するようにステージ12の面方向に移動可能である。なお、以下において、リコータ13が移動可能な方向を横方向(X方向)とし、横方向および上下方向の両方向と直交する方向を縦方向(Y方向)とする。
【0104】
図3に示すように、リコータ13は、容器15と、ブレード16とを備えている。
【0105】
容器15は、上記の鋳物砂が貯留可能である。容器15は、縦方向に延びている(
図2参照)。容器15は、横方向に互いに間隔を空けて配置される第1壁15Aおよび第2壁15Bと、容器15の下端部に位置する底壁15Cと、容器15の内外を連通する開口17とを有している。開口17は、第1壁15Aの下端部に形成されており、第1壁15Aと底壁15Cとの間に区画されている。開口17は、縦方向に延びている。開口17の縦方向の寸法は、ステージ12の縦方向の寸法と略同じである。
【0106】
ブレード16は、容器15内に配置されている。ブレード16は、容器15に貯留される鋳物砂が開口17から排出されるように振動可能である。ブレード16は、側面視L字状を有しており、プレート16Aと、突出部16Bとを有している。
【0107】
プレート16Aは、第1壁15Aに沿うように、第1壁15Aに対して間隔を空けて配置されている。
【0108】
突出部16Bは、プレート16Aの下端部から、第2壁15Bに向かって突出している。突出部16Bの遊端部(プレート16Aと反対側の端部)は、第2壁15Bに対して、横方向に間隔を隔てて配置されている。横方向における突出部16Bの遊端部と第2壁15Bとの間の間隔Lは、例えば、0.3mm以上、好ましくは、0.7mm以上、例えば、6.0mm以下、好ましくは、1.5mm以下である。
【0109】
なお、リコータ13は、図示しないが、鋳物砂が収容される鋳物砂タンクに接続されており、容器15内の鋳物砂の貯留量が所定値以下になると、鋳物砂タンクから鋳物砂が補給される。
【0110】
図5Aおよび
図5Bに示すように、ジェットヘッド14は、ステージ12上に形成された鋳物砂の層に後述するバインダを供給するように構成される。ジェットヘッド14は、図示しないが、バインダを収容するバインダタンクに接続されており、バインダタンクからバインダが補給される。
【0111】
また、ジェットヘッド14は、図示しない操作部と電気的に接続されている。ジェットヘッド14は、ステージ12に対して平行な状態で、ステージ12の上方を間隔を空けて通過するように、縦方向および横方向に移動可能である。
【0112】
ジェットヘッド14が供給するバインダとして、例えば、上記したフラン樹脂組成物などが挙げられる。つまり、バインダは、フラン樹脂前駆体を含有している。バインダが含有するフラン樹脂前駆体としては、好ましくは、フルフリルアルコールが挙げられ、さらに好ましくは、フルフリルアルコールの単独使用が挙げられる。
【0113】
フラン樹脂前駆体の含有割合は、バインダの全量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは、10質量%以上、さらに好ましくは、85質量%以上、例えば、100質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。
【0114】
また、バインダは、上記のフラン樹脂前駆体に加えて、上記した硬化促進剤などを含有することができる。硬化促進剤として、好ましくは、レゾルシンが挙げられる。硬化促進剤の含有割合は、バインダの全量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、30質量%以下、好ましくは、15質量%以下である。
(4−2)3Dプリンタによる砂型の造形
3Dプリンタ6では、
図4Aおよび
図4Bに示すように、まず、鋳物砂を貯留するリコータ13は、横方向に移動するとともに、ブレード16が僅かに振動することにより、鋳物砂を開口17からステージ12上に層状となるように排出する(
図3参照)。
【0115】
これによって、ステージ12上に、第1鋳物砂層25(鋳物砂の層)が形成される。つまり、鋳物砂は、流動化剤が添加されることなく、ステージ12上において層状に形成される。
【0116】
第1鋳物砂層25の厚みは、鋳物砂に含まれる最大粒子の粒径よりも大きく、例えば、200μm以上、好ましくは、250μm以上、例えば、400μm以下、好ましくは、300μm以下である。
【0117】
次いで、
図5Aおよび
図5Bに示すように、ジェットヘッド14は、図示しない操作部から入力される3D−CADデータに基づいて、第1鋳物砂層25のうち砂型となる部分に、バインダを添加して、第1添加部分26を形成する。
【0118】
第1添加部分26では、添加されたバインダが、鋳物砂の表面改質層に付着する硬化剤(キシレンスルホン酸)と接触し、硬化することにより、鋳物砂を互いに接着する。これによって、第1添加部分26が、バインダ硬化物により固められる。つまり、フラン樹脂組成物を硬化する硬化剤が、バインダを硬化する硬化剤としても兼用される。
【0119】
次いで、
図6Aに示すように、ステージ12が、第1鋳物砂層25の厚み分下降した後、リコータ13が、第1鋳物砂層25上に、再度、鋳物砂を層状となるように排出して、第2鋳物砂層27(鋳物砂の層)を形成する。その後、
図6Bに示すように、ジェットヘッド14が、第2鋳物砂層27のうち砂型となる部分に、バインダを添加して、第2添加部分28を形成する。
【0120】
同様に、
図7Aに示すように、リコータ13による鋳物砂の層形成、および、ジェットヘッド14によるバインダの添加を順次繰り返す。鋳物砂の層形成がn回繰り返された場合、第1鋳物砂層25〜第n鋳物砂層が順次積層され、第1添加部分26〜第n添加部分が順次形成される。各鋳物砂の層の厚みの範囲は、上記の第1鋳物砂層25の厚みの範囲と同一である。
【0121】
その後、
図7Bに示すように、鋳物砂の層において、バインダが添加されていない部分を除去する。
【0122】
以上によって、砂型30が製造される。砂型30は、鋳物砂と、鋳物砂を互いに接着するバインダ硬化物とを含有している。なお、
図6Bおよび
図7Aでは、便宜上、砂型30の表面が段差を有するように示されているが、実際には、砂型30の表面は、
図7Bに示すように、略平滑に形成されている。
【0123】
5.作用効果
上記の鋳物砂の製造方法では、人工砂とフラン樹脂組成物とを混合した後に、硬化剤を混合している。そのため、フラン樹脂組成物が人工砂の各粒子の周囲を取り囲むように被覆した後、人工砂の各粒子を被覆するフラン樹脂組成物が、硬化剤と接触してフラン樹脂膜(層)となる。
【0124】
これによって、
図1に示すように、人工砂2と、人工砂2を被覆するフラン樹脂を含有する表面改質層3とを備える鋳物砂1が製造できる。
【0125】
鋳物砂1では、フラン樹脂を含有する表面改質層3が人工砂2を被覆しているので、表面改質層3により硬化剤が人工砂2と接触することを抑制できる。
【0126】
しかるに、硬化剤が人工砂と接触すると、人工砂に含有される成分により、硬化剤の活性能が低下してしまう場合がある。
【0127】
例えば、人工砂がカリ長石を含有する場合、上記式(2)に示すように、カリ長石と水とが反応して、炭酸カリウムが生成する。
【0128】
そして、炭酸カリウムは、下記式(4)に示すように、キシレンスルホン酸(HA)と反応する。
【0130】
これにより、硬化剤中のキシレンスルホン酸(HA)が弱酸(KA)に変換されてしまい、硬化剤の活性能が低下してしまう。
【0131】
なお、炭酸カリウムとキシレンスルホン酸との反応により生成する炭酸は、下記式(5)に示すように、水と二酸化炭素とに分解される。
【0133】
一方、鋳物砂1では、表面改質層3により硬化剤と人工砂2との接触が抑制されているので、硬化剤の活性能が低下することを抑制できる。そのため、鋳物砂1にバインダを添加すると、バインダを確実に硬化させることができ、砂型30の造形不良を抑制することができる。
【0134】
また、上記した鋳物砂は、3次元積層造形に好適な流動性を有している。そのため、
図2〜
図7Bに示すように、鋳物砂に流動化剤を添加することなく、鋳物砂を3次元積層法(3Dプリンタ)において、精度よく層状に形成でき、かつ、鋳物砂の層を積層することができる。
【0135】
また、3次元積層法(3Dプリンタ)では、
図7Aおよび
図7Bに示すように、砂型30が造形された後、バインダが添加されていない鋳物砂は除去される。このようなバインダが添加されていない鋳物砂は、流動化剤が添加されていないので、回収することによりそのまま(なんら処理することなく)再使用することができる。よって、鋳物砂のリサイクル性の向上を図ることができる。なお、鋳物砂に流動化剤が添加されている場合、流動化剤が添加された鋳物砂をそのまま再使用すると、流動化剤が劣化し、3次元積層法(3Dプリンタ)において、鋳物砂を精度よく層状に形成できない場合がある。
【0136】
また、樹脂混合工程では、好ましくは、100℃以下において人工砂とフラン樹脂組成物とが混合される。そのため、フラン樹脂組成物が安定して人工砂を被覆することができる。その結果、鋳物砂の流動性が過度に低下することを抑制でき、3次元積層造形に好適な流動性を有する鋳物砂を安定して製造することができる。また、100℃を超過する温度において、人工砂とフラン樹脂組成物とを混合する場合と比較して製造コストの低減を図ることができる。
【0137】
また、樹脂混合工程では、好ましくは、キシレンスルホン酸の混合割合が、フラン樹脂前駆体1質量部に対して、0.3質量部以上3質量部以下である。そのため、3次元積層造形に好適な流動性を有する鋳物砂をより安定して製造することができ、かつ、その鋳物砂により造形される砂型の強度の向上を図ることができる。
【0138】
6.変形例
上記の実施形態では、樹脂混合工程において、人工砂を予熱した後に、フラン樹脂組成物を添加するがこれに限定されない。人工砂とフラン樹脂組成物とを混合した後に、上記した混合温度の範囲に調整することもできる。これによっても、上記の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0139】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0140】
(実施例1〜6)
人工砂A(ムライト砂、商品名:エスパール#100DAM、山川産業社製)と、表1に示すフラン樹脂組成物(樹脂組成物)とを準備した。人工砂Aは、カリ長石およびソーダ長石を含有していた。人工砂AのAFS(粒度指数)は、106.4であった。
【0141】
次いで、人工砂A100質量部を、表2に示す混合温度に予熱した後、フラン樹脂組成物を表2に示す処方で添加して、人工砂Aとフラン樹脂組成物とが均一になるまで撹拌混合した(樹脂混合工程)。
【0142】
その後、フラン樹脂組成物が混合された人工砂Aに、キシレンスルホン酸(XS)を含む硬化剤Aを表2に示す処方で添加して、硬化剤Aが添加された人工砂Aが円滑に流動するまで撹拌混合した(硬化剤混合工程)。
【0143】
硬化剤Aは、キシレンスルホン酸を含有していた。キシレンスルホン酸の濃度は、硬化剤の全量に対して、95.0質量%以上97.0質量%以下であった。また、硬化剤混合工程では、表2に示す混合温度+5〜10℃の温度範囲に維持された。
【0144】
これによって、人工砂Aと、人工砂Aを被覆するフラン樹脂を含有する表面改質層と、表面改質層に付着する硬化剤Aとを備える鋳物砂を得た。
【0145】
(実施例7)
人工砂Aを、人工砂B(ムライト砂、商品名:セラビーズ#1450、伊藤忠セラテック社製)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして鋳物砂を得た。なお、人工砂Bは、カリ長石およびソーダ長石を含有していた。人工砂BのAFS粒度指数は、108.8であった。
【0146】
(比較例1)
硬化剤Aを、パラトルエンスルホン酸(PTS)を含む硬化剤Bに変更したこと以外は、実施例2と同様にして鋳物砂を得た。硬化剤Bは、パラトルエンスルホン酸と、硫酸と、水とを含有していた。パラトルエンスルホン酸の濃度は、硬化剤Bの全量に対して、63質量%、硫酸の濃度は、硬化剤Bの全量に対して、1.0質量%であった。
【0147】
(比較例2)
硬化剤Aを、パラトルエンスルホン酸(PTS)を含む硬化剤Bに変更したこと以外は、実施例7と同様にして鋳物砂を得た。
<流動性評価>
各実施例および各比較例で得られた鋳物砂と、表1に示すバインダとを、3次元積層造形装置(商品名:S−Print、ExOne社製)にセットし、リコータによる鋳物砂の層形成、および、ジェットヘッドによるバインダの添加を順次繰り返して、砂型を造形した。なお、各鋳物砂の層の厚みは、0.28mmであった。また、リコータにおける突出部の遊端部と第2壁との間の間隔L(
図3参照)は、鋳物砂が実施例1〜6および比較例1である場合(人工砂Aである場合)、1.0mmであり、鋳物砂が実施例7および比較例2である場合(人工砂Bである場合)、1.4mmであった。
【0148】
そして、鋳物砂の層形成および積層を下記の基準により評価した。その結果を表2に示す。
【0149】
○:鋳物砂の層を精度よく形成でき、かつ、鋳物砂の層を精度よく積層できた。
【0150】
△:鋳物砂の層の一部に乱れが生じたが、砂型の造形には問題がなかった。
【0151】
×:鋳物砂がリコータから流出し、鋳物砂をリコータ内に維持できず、砂型を造形できなかった。
<抗折力試験>
流動性評価と同様にして、各実施例および各比較例で得られた鋳物砂を用いて、
図8Aに示すように、一辺Dが22.4mm、長さLが147mmである正四角柱の試験柱を調製した。
【0152】
その試験柱を、室温24℃、湿度45%の条件下で、表2に示す各時間放置した。
【0153】
そして、
図8Bに示すように、試験柱を、試験柱の長さ方向外側から挟み込むように、試験装置(Universal Strength Machine PFG、シンプソン社製)にセットした。
【0154】
次いで、試験柱の一端を固定して、試験柱に対して他方側から、試験柱の長さ方向に沿って、試験柱に圧力を加えた。そして、試験柱が折れたときの圧力を抗折力とした。そして、上記の抗折力試験を3〜5回繰り返して、表2に示す各時間における抗折力の平均値を算出した。その結果を表2に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】