(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
圧電基板と、該圧電基板の第1主面に設けた第1励振電極及びこの第1励振電極から前記圧電基板の端に引き出された第1引出電極と、前記圧電基板の前記第1主面に対向する第2主面に設けた第2励振電極及びこの第2励振電極から前記圧電基板の他の端に引き出された第2引出電極と、前記圧電基板を収納している容器と、を具え、厚みすべり振動モードで振動する圧電デバイスにおいて、
前記第1主面の前記第2引出電極と対向する領域上であって、前記第1励振電極とは距離d1で離間した領域に、前記第2励振電極と同電位の第1の不要振動抑圧電極を具え、及び又は
前記第2主面の前記第1引出電極と対向する領域上であって、前記第2励振電極とは距離d2で離間した領域に前記第1励振電極と同電位の第2の不要振動抑圧電極を具え、
前記具えた不要振動抑圧電極の膜厚を、当該不要振動抑圧電極と同一平面上にある励振電極の膜厚と異なる所定膜厚としてあることを特徴とする圧電デバイス(ただし、第1及び第2の不要振動抑圧電極双方を具える場合は、距離d1、距離d2は同じでも異なっても良い)。
圧電基板と、該圧電基板の第1主面に設けた第1励振電極及びこの第1励振電極から前記圧電基板の端に引き出された第1引出電極と、前記圧電基板の前記第1主面に対向する第2主面に設けた第2励振電極及びこの第2励振電極から前記圧電基板の他の端に引き出された第2引出電極と、前記圧電基板を収納している容器と、を具え、厚みすべり振動モードで振動する圧電デバイスにおいて、
前記第1主面の前記第2引出電極と対向する領域上であって、前記第1励振電極とは距離d1で離間した領域に、前記第2励振電極と同電位の第1の不要振動抑圧電極を具え、及び又は
前記第2主面の前記第1引出電極と対向する領域上であって、前記第2励振電極とは距離d2で離間した領域に前記第1励振電極と同電位の第2の不要振動抑圧電極を具え、
前記具えた不要振動抑圧電極の表面に不要振動抑圧調整痕を具えることを特徴とする圧電デバイス(ただし、第1及び第2の不要振動抑圧電極双方を具える場合は、距離d1、距離d2は同じでも異なっても良い)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、圧電デバイスに対する特性改善の要求は益々高まっている。例えば、高精度の温度補償型水晶発振器(TCXO)では、水晶振動子自体の周波数温度特性を測定してこの温度特性を高次の関数、例えば4次から7次等の関数で近似し、この近似式にしたがい周波数を補償して、TCXOからの出力の温度特性を限りなく平坦にしたいという要求がある。このような要求を満たすためには、水晶振動子自体の周波数温度特性に関する近似曲線は相関係数が1となるものが理想である。しかし、実際には、多数の温度で周波数が近似曲線から外れる現象、いわゆる周波数ディップが生じる。高精度のTCXOに利用する水晶振動子の周波数温度特性に対しては、上記の理想状態が無理だとしても、使用予定の環境温度範囲、例えば−40〜+85℃の範囲において、上記の周波数ディップが±0.2ppm以内、より好ましくは±0.15ppm以内であることが望まれるようになっている。
このような要望に対し、特許文献1の方法では、接着剤を塗布する精度バラツキが無視できず、圧電デバイスの特性をかえって悪化させるおそれがある。圧電デバイスの小型化が益々進むことを考えると、上記要望に対応できる技術の出現が望まれている。
この出願はこのような点に鑑みなされたものであり、従って、この出願の目的は、不要振動の抑圧に好適な構造を有した圧電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的の達成を図るため、この出願の第1発明の圧電デバイスによれば、圧電基板と、該圧電基板の第1主面に設けた第1励振電極及びこの第1励振電極から前記圧電基板の端に引き出された第1引出電極と、前記圧電基板の前記第1主面に対向する第2主面に設けた第2励振電極及びこの第2励振電極から前記圧電基板の他の端に引き出された第2引出電極と、
前記圧電基板を収納している容器と、を具え、厚みすべり振動モードで振動する圧電デバイスにおいて、
前記第1主面の前記第2引出電極と対向する領域上であって、前記第1励振電極とは距離d1で離間した領域に、前記第2励振電極と同電位の第1の不要振動抑圧電極を具えること、及び又は、
前記第2主面の前記第1引出電極と対向する領域上であって、前記第2励振電極とは距離d2で離間した領域に前記第1励振電極と同電位の第2の不要振動抑圧電極を具えることを特徴とする(ただし、第1の不要振動抑圧電極及び第2の不要振動抑圧電極双方を具える場合は、前記距離d1、距離d2は同じでも異なっても良い)。
【0006】
また、この出願の第2発明の圧電デバイスによれば、前述の第1発明の圧電デバイスにおいて、第1発明の構成において具えた不要振動抑圧電極の膜厚を、当該抑圧電極と同一平面上に設けた励振電極の膜厚と異なる所定膜厚としてあることを特徴とする。
また、この出願の第3発明の圧電デバイスによれば、前述の第1発明又は第2発明において具えた不要振動抑圧電極の表面に不要振動抑圧調整痕を具えることを特徴とする。
また、この出願の第4発明の圧電デバイスによれば、前述の第1発明、第2発明又は第3発明の圧電デバイスにおいて具えた不要振動抑圧電極上に、さらに異種材料を具えることを特徴とする。異種材料としては例えば接着剤が良く、さらに接着剤としては導電性接着剤が良い。
【0007】
なお、これらの発明を実施するに当たり、上記圧電デバイスは、圧電基板をその一端側の2箇所で保持するいわゆる片持ち構造のもの、圧電基板をその対向する両端で保持するいわゆる両持ち構造のものいずれでも良い。さらに上記の各構成のいずれかに、さらに発振回路を具える発振器としての圧電デバイスも、本発明の圧電デバイスに含まれる。
【発明の効果】
【0008】
第1発明の圧電デバイスによれば、圧電基板の所定領域に抑圧電極を設けたので、抑圧電極を設けない場合に比べ、後述する実験結果から明らかなように、周波数温度特性での周波数ディップを低減することができる。また、抑圧電極は励振用電極を形成する際に一体に形成することができる等の特徴があるため、接着剤を塗布して重み付けを行う場合に比べて、精度良く抑圧電極を圧電基板に配置できる。従って、圧電デバイス本来の特性例えばクリスタルインピーダンスを悪化させる等のおそれも少ない。
第2発明の圧電デバイスによれば、不要振動抑圧電極の膜厚を励振電極の膜厚とは異なる所定の膜厚としたので、単に励振電極と同様の薄膜で不要振動抑圧電極を構成する場合に比べ、不要振動抑圧を精度良く行うことができる。
第3発明の圧電デバイスによれば、不要振動抑圧電極の表面に不要振動調整痕を具えるので、単に励振電極と同様の薄膜で不要振動抑圧電極を構成する場合に比べ、不要振動抑圧を精度良く行うことができる。
第4発明の圧電デバイスによれば、不要振動抑圧電極上にさらに異種材料例えば接着剤を具えるため、単に励振電極と同様の薄膜で不要振動抑圧電極を構成する場合に比べ、不要振動抑圧を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの出願の各発明の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれら発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の実施形態中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
1. 第1発明の第1の実施形態
図1は、第1発明の第1の実施形態の圧電デバイス10を説明する図である。特に
図1(A)は圧電デバイス10の平面図、
図1(B)は
図1(A)のP−P線に沿った断面図、
図1(C)は
図1(A)のQ−Q線に沿った断面図である。なお、
図1(A)では、
図1(B)、(C)に示した蓋部材13の図示を省略してある。
【0012】
この圧電デバイス10は、圧電基板11と、第1励振電極13aと、第1引出電極13bと、第2励振電極13cと、第2引出電極13dと、第1の不要振動抑圧電極13eと、第2の不要振動抑圧電極13fと、容器15と、導電性接着剤17と、蓋部材19と、を具える。これら構成成分について以下に説明する。
圧電基板11は、厚みすべり振動が可能なもので、水晶基板をはじめとする種々の圧電基板である。典型的には、ATカット水晶基板、又は、SCカットに代表される2回回転カットの水晶基板である。この実施形態の場合は、圧電基板11は、平面形状が四角形状、具体的には長方形状のATカット水晶基板としてある。この圧電基板11は、第1の主面11aとこれに対向する第2の主面11bを有する。
【0013】
また、第1励振電極13aを、圧電基板11の第1主面11aの中央領域を含む一部の領域に、設けてある。また、第1引出電極13bを、圧電基板11の第1励振電極13aの一部分から圧電基板11の第1の辺11xの一端側に、引き出してある。また、第2励振用電極13cを、圧電基板11の第2主面11bの中央領域を含む一部の領域に、設けてある。また、第2引出電極13dを、圧電基板11の第2励振電極13cの一部分から圧電基板11の第1の辺11xの他端側に、引き出してある。
【0014】
また、第1の不要振動抑圧電極13eを、第1主面11aの第2引出電極13dと対向する領域上であって、第1励振電極13aとは距離d1で離間した領域に、設けてある。然も、この第1の不要振動抑圧電極13eは、圧電基板11の側面を経由して第2引出電極13dと電気的に接続されている。このため、第1の不要振動抑圧電極13eは、第2励振電極13bと同電位となっている。ここで、同電位とは、真に同電位の場合は勿論、第2引出電極13d等の配線長に起因する電圧降下が生じるような程度の電位差があっても良い(以下の、第2の不要振動抑圧電極13fにおいても同様。)。また、第1の不要振動抑圧電極13eの幅W1は、設計に応じた幅とできるが、好ましくは第2の引出電極13dの幅と同程度とするのが良い。
【0015】
また、第2の不要振動抑圧電極13fを、第2主面11bの第1引出電極13bと対向する領域上であって、第2励振電極13cとは距離d2で離間した領域に、設けてある。然も、この第2の不要振動抑圧電極13fは、圧電基板11の側面を経由して第1引出電極13bと電気的に接続されている。このため、第2の不要振動抑圧電極13fは、第1励振電極13aと同電位となっている。なお、上記の距離d2は第1の不要振動抑圧電極13eに関する上記距離d1と同じであっても、異なっていても良く、不要振動の抑圧に好適な距離とすることができる。また、第2の不要振動抑圧電極13fの幅W2は、設計に応じた幅とできるが、好ましくは第2の引出電極13dの幅と同程度とするのが良い。なお、この幅W2と上記の幅W1とは同じでも異なっても良い。
これら第1励振電極13a、第1引出電極13b、第2励振電極13c、第2引出電極13d、第1の不要振動抑圧電極13e及び第2の不要振動抑圧電極13fは、公知のメッキ枠技術及び成膜技術、または、フォトリソ技術及び成膜技術を用いて圧電基板11に一括に形成することができる。なお、不要振動抑圧効果を考慮した場合、設計によっては、第1、第2の不要振動抑圧電極13e、13fの膜厚が励振電極や引出電極の膜厚と異なる場合があっても良い(この点については後述する第2発明の実施形態において詳細に説明する)。
【0016】
また、容器15は、この場合、凹部15aと、接続パッド15bと、外部端子15cとを具えるものである。凹部15aは、圧電基板11を収納する形状及び大きさとなっている。接続パッド15bは、圧電基板11の第1の辺11xの両端付近で圧電基板11を保持できるように、容器11の凹部11aの所定位置に設けてある。外部端子15cは、容器11の外側底面に設けてある。接続パッド15bと外部端子15cとは、容器15に設けた図示しないビア配線により電気的に接続してある。
この圧電基板11は、その第1の辺11xの両端付近でかつ第1、第2引出電極13b、13dの端部の位置で、導電性接着剤17、典型的にはシリコーン系導電性接着剤によって、容器11の接続パッド11bに電気的・機械的に接続固定してある。そして、この容器15を蓋部材19によって封止してある。この圧電デバイス10は、圧電基板11を片持ちの構造で容器に接続固定したものに相当する。
【0017】
2.第1発明の実施例及び比較例
次に、不要振動抑圧電極13e、13fの効果について、実験結果を参照しながら説明する。
図1を用いて説明した構造を具えた実施例の圧電デバイスと、上記構造を設けない比較例の圧電デバイスとを試作した。詳細には、実施例1の圧電デバイスとして、第1、第2の不要振動抑圧電極13e、13fを具え、かつ、上記の距離d1=d2=0.017mmとしたもの、実施例2の圧電デバイスとして、第1、第2の不要振動抑圧電極13e、13fを具え、かつ、上記の距離d1=d2=0.012mmとしたもの、比較例の圧電デバイスとして、不要振動抑圧電極を設けないものを試作した。発振周波数は38.8MHz、サンプル数は各々60個とした。
【0018】
次に、上記の3種類の圧電デバイス全部について、−40℃から85℃の範囲で5℃ステップで周波数温度特性を各々測定した。さらに、それぞれの圧電デバイスの上記測定した温度特性について、最少二乗法により4次関数による近似式を求めた。さらに、それぞれの圧電デバイスについて、各測定温度毎の上記近似式上の周波数と実際の測定周波数との差Δfを求め、このΔfを発振周波数Fで除した数値Δf/F(以下、これを周波数ディップという。単位:ppm)を求めた。次に、このようにして求めた比較例、実施例1、実施例2各々60個ずつの周波数ディップについて、各測定温度毎の平均値及び標準偏差σを求めた。
【0019】
図2(A)は、上記求めた実施例1の圧電デバイス60個分の周波数ディップの平均値、平均値+3σ、平均値−3σを、横軸に温度(℃)をとり、縦軸に周波数ディップ(ppm)をとって、プロットした特性図である。なお、図では、平均値をAVG、平均値+3σを+3σ、平均値−3σを−3σと標記している。また、
図2(B)は
図2(A)同様に作成した実施例2の圧電デバイス60個分の特性図である。また、
図3(A)は
図2(A)同様に作成した比較例の圧電デバイス60個分の特性図である。
図2(A)、
図2(B)及び
図3(A)を比較すると、不要振動抑圧電極を設けた実施例1、実施例2の方が、不要振動抑圧電極を設けない比較例の場合に比べて、周波数ディップを低減できることが分かる、さらに、不要振動抑圧電極と励振電極との距離を小さくした実施例2の方が実施例1に比べて、周波数ディップをより低減できることが分かる。
【0020】
また、比較例、実施例1、実施例2の上記の相違点をより理解し易くするために、比較例、実施例1、実施例2各々60個のサンプル毎に、温度特性測定範囲全域での最も大きな周波数ディップを抽出し、そしてそれらの平均値及び±3σを求めた。すなわち、サンプル1での−40〜+85℃の範囲での最大の周波数ディップ、・・・、サンプル60での同じく最大の周波数ディップを抽出して、それらから平均値及び±3σを求めた。その結果を下記の表1及び
図3(B)に示した。
【表1】
【0021】
表1及び
図3(B)から、周波数ディップの改善具合は、実施例2>実施例1>比較例であることが分かる。詳細には、不要振動抑圧電極と励振電極との距離を0.17mmとした実施例1の場合、周波数ディップは±3σでみて+0.192〜−0.026ppm範囲に収まり、さらに不要振動抑圧電極と励振電極との距離を0.12mmとした実施例2の場合、周波数ディップは±3σでみて+0.147〜+0.016ppm範囲にさらに収まることが分かる。従って、不要振動抑圧電極は周波数ディップの改善に寄与することが理解できる。また、上記の結果から見ると、不要振動抑圧電極と励振電極との距離は小さい方が良いことが分かる。この距離の適正値については、後述する。不要振動抑圧電極と励振電極との距離をどの程度まで小さくできるかは、主に製造技術的要素に関係する。例えばメッキ枠を用いて、励振電極、引出電極及び不要振動抑圧電極を形成する場合、現状では上記距離は0.05mm程度まで小さくできる。フォトリソ技術によるパターニング技術によればさらに小さくできる。
【0022】
不要振動抑圧電極を設けることで周波数ディップを低減できる理由は、不要振動が生じてそれが引出電極上を伝搬して圧電基板の端部に至った後に反射して励振電極に戻ろうとしても、この反射を抑圧できるためと推定する。また、不要振動により圧電基板に予期せぬ電荷が発生してもこの電荷は不要振動抑圧電極、導電性接着剤を経由して振動部以外に流れるためと推定する。
【0023】
次に、不要振動抑圧電極と励振電極との距離d1(d2)の適正値について考察した結果について説明する。具体的には、発明者は、上記距離d1を変えた場合に圧電デバイスの損失がどのように変動するかについて、有限要素法によるミュレーションを実施して、上記距離d1(d2)の適正値を考察した。用いたモデルは、ATカット水晶基板11として長辺が3.2mm、短辺が1.8mmのもの、かつ、励振電極13a、13cとして長辺が0.88mm、短辺が0.85mmのものとしたモデルである。ただし、励振電極の中心が圧電基板の中心に一致するように、励振電極を圧電基板上に配置したモデルである。そして、圧電基板11の第1の辺11x(
図1参照)側に、不要振動抑圧電極を配置すると共に、この抑圧電極と励振電極との距離d1(d2)を種々に違えたモデルを想定して、各々のモデル(圧電デバイス)での損失(1/Q)を、有限要素法により算出した。なお、各モデルでの損失であるが、いずれのモデルの場合も−30度付近の損失(1/Q)が最大値を示したことから、この温度付近の最大損失を各モデルでの損失の代表値として用いて
図7を作成した。
【0024】
図7は、横軸に距離d1(d2)をとり、縦軸に損失(1/Q)をとって、両者の関係を示した図である。なお、損失1/Q(1/k)での1/kとは、10のマイナス3乗の略記である(後述する
図8においても同じ)。
図7から分かるように、距離d1(d2)が小さすぎては損失(1/Q)が大きくなり、距離d1(d2)が適正範囲で損失は極小値を示し、さらに大きくなると損失は悪化した後にほぼ横ばいになる。具体的には、上記モデルの場合は、距離d1(d2)が105μm以下の場合は損失が増加し、同距離が110〜175μmの範囲で損失が小さくなり、然も、距離d1(d2)が140μm(すなわち0.14mm)付近で極小値を示し、距離が175μmより大きくなると損失は悪化した後横ばい状態になる。従って、距離d1(d2)は110〜170μm(すなわち0.11〜0.17mm)が良い。
【0025】
3.第1発明の第2、第3、第4、第5の実施形態
本発明は第1の実施形態に限られず、下記に説明するような各種の構造にも適用できる。以下、順に説明する。
図4は、第2の実施形態の圧電デバイス30を説明する図であり、圧電デバイス30を
図1(A)同様の平面図で示したものある。第1の実施形態の圧電デバイス10では、不要振動抑圧電極を2つ設けていたが、第2の実施形態の圧電デバイス30の場合、一方のみを設ける例である。
図2の場合は、第1実施形態の圧電デバイス10において説明した第1の不要振動抑圧電極13eを設けた例を示してある。
【0026】
図5は、第3の実施形態の圧電デバイス40を説明する図である。特に
図5(A)は圧電デバイス40の平面図、
図5(B)は
図5(A)のR−R線に沿った断面図である。
この第3の実施形態の圧電デバイス40は、いわゆる両持ち構造の圧電デバイスに本発明を適用した例である。すなわち、この圧電デバイス40では、第1引出電極13bは圧電基板11の第1の辺11x側に引き出してあり、第2引出電極13dは圧電基板11の第1の辺11xと対向する第2の辺11y側に引き出してある。そして、圧電基板11は第1の辺側と第2の辺側とで両持ちに保持してある。従って、第1の不要振動抑圧電極11eと第2の不要振動抑圧電極13fとは、両持ち構造に対応して引き出された各引出電極と対向する位置に設けてある。なお、距離d1、d2、幅W1,W2等については、第1の実施形態と同様に選択できる。このような両持ち構造の圧電デバイスに対しても本発明を適用でき、本発明の効果を得ることができる。
【0027】
図6(A)は、第4の実施形態の圧電デバイス50を説明する図であり、圧電デバイス50を
図1(B)同様の断面図で示したものある。この第4の実施形態の圧電デバイス50は、上記で述べた圧電デバイスに当該圧電デバイス用の発振回路をさらに具えた、発振器としての圧電デバイスの例である。特にこの圧電デバイス50の場合は、容器15の凹部15aの底面に発振回路51を具えたものである。ここで発振回路とは発振回路単独の場合、発振回路と温度保証用回路等とを含む高機能回路等、種々のものである。
【0028】
また、
図6(B)は、第5の実施形態の圧電デバイス60を説明する図であり、圧電デバイス60を
図1(B)同様の断面図で示したものある。第4の実施形態の圧電デバイスでは発振回路51を容器15の凹部15aの底面に設けていたが、この第5の実施形態の圧電デバイス60では、容器15の裏面側に発振回路用の裏面側の凹部61を設け、この凹部61内に発振回路51を設けた例である。これら圧電デバイス50、60によれば、従来より優れた周波数温度特性を示す発振器を実現できる。
【0029】
4.第2発明、第3発明(不要振動抑圧電極の膜厚に関するもの)
第1発明では、励振電極と不要振動抑圧電極とは同じ膜厚として検討をしていた。しかし、発明者の検討によれば、不要振動抑圧電極の膜厚を励振電極の膜厚とは異なる所定の膜厚とすることで、不要振動の抑圧効果を変化させることが可能なことが判明した。以下、このことについて説明する。
第1発明において用いたシミュレーションモデルであって、励振電極の膜厚を950Åとし、不要振動抑圧電極と励振電極との距離を0.12mmとした第1のモデルと、前記距離を0.17mmとしそれ以外は第1モデルと同様とした第2のモデルの、2種類のモデルについて、不要振動抑圧電極の膜厚を750Åから1350Åまで100Åステップで変化させた場合の各モデル(圧電デバイス)での損失を、有限要素法により算出した。
【0030】
図8は、横軸に不要振動抑圧電極の膜厚をとり、縦軸に損失(1/Q)をとって、両者の関係を示した図である。
図8から分かるように、不要振動抑圧電極の膜厚を変化させると圧電デバイスでの損失が変化する。このことから、不要振動抑圧電極の膜厚を変えることにより不要振動の抑圧効果を調整できることが分かる。また、不要振動抑圧電極と励振電極との距離を違えた場合、不要振動抑圧電極の膜厚と圧電デバイスの損失との関係が違ったものになる。すなわち、この2つのモデルの場合、不要振動抑圧電極と励振電極との距離が小さい方が(0.12mmの場合の方が)、不要振動抑圧電極の膜厚の増加に伴い圧電デバイスの損失は大きく変化することが分かる。また、
図8から分かるように、不要振動抑圧電極の膜厚は励振用電極の膜厚と同程度とする方が、損失は小さくなる。すなわち、このシミュレーションモデルの場合では、不要振動抑圧電極の膜厚は励振電極の膜厚である950ű200Å程度、換言すれば励振電極の膜厚±20%、好ましくは±10%にするのが良い。
【0031】
一方、
図8の結果から、次のことも言える。励振電極と不要振動抑圧電極との距離が0.12mmの場合では、圧電デバイスの損失を極小とできる不要振動抑圧電極の膜厚は、950Å付近であるが、励振電極と不要振動抑圧電極との距離が0.17mmの場合では、同じく極小にできる不要振動抑圧電極の膜厚は950〜1100Å程度でも良いことが分かる。このことは、励振電極と不要振動抑圧電極との距離を大きくするとともに、不要振動抑圧電極の膜厚を励振電極の膜厚より厚くすることにより、励振電極と不要振動抑圧電極との距離を小さくした場合と同様の、圧電デバイスの損失低減効果が得られることを意味する。励振電極と不要振動抑圧電極との距離を小さくするには、電極作成時のメッキ枠の機械的精度を高める必要があるが、これを回避するために、前記距離を例えば0.17mmとし、不要振動抑圧電極の部分に2回の成膜をする等により不要振動抑圧電極の膜厚を厚くしておく方法も講じることができる。
【0032】
さらには、不要振動抑圧電極の部分に2回の成膜を意図的に予めしておいて、不要振動抑圧電極の膜厚を励振電極より厚くしておき、その後、この厚い部分をアルゴンガスのイオン等で選択的に除去して圧電デバイスの損失が所望値になるように調整する等を行うこともできる。すなわち、第3発明である。
図9はその説明図である。すなわち、この第3発明の圧電デバイス70は、不要振動抑圧電極13eの表面に、圧電デバイスの損失を所望の値に調整して生じる不要振動調整痕71を具えている。なお、
図9に示した圧電デバイス70は、SMD型の圧電デバイスであるため、調整痕71は圧電基板11の第1主面11a側の不要振動抑圧電極13e上に形成されるが、圧電デバイスがリードタイプ等の場合であれば、圧電基板11の両主面の不要振動抑圧電極に調整痕71を生じさせることもできる。
【0033】
5.第4発明(異種材料付加に関するもの)
上述した各発明では、不要振動抑圧電極の励振電極に対する位置や膜厚に関して検討してきたが、発明者のさらなる検討により、不要振動抑圧電極の表面に異種材料を設けることにより、不要振動抑圧効果が変わることが判明した。以下、この例(第4発明)の実施形態について説明する。
図10はこの第4発明の圧電デバイス80を説明する断面図である。
図1(B)に対応する断面図である。
この圧電デバイス80は、不要振動抑圧電極13eの表面に異種材料81を設けることで不要振動抑圧効果を高めたものである。異種材料81として、任意好適なものを用いることができる。典型的には、接着剤を用いることができる。接着剤としては、任意好適なものを用いることができ、非導電性のものでも、導電性のものでも良い。ただし、工程の簡略化等を考慮すると、圧電基板11と容器15とを接続するために用いる導電性接着剤17を流用するのが好ましい。
【0034】
次に、この異種材料81を設けた効果について説明する。比較例として、不要振動抑圧電極を設けずにその位置に導電性接着剤を設けた圧電デバイスを、60個試作した。また、第4発明の実施例として、
図10を用いて説明した不要振動抑圧電極13eと、この上に設けた導電性接着剤による異種材料81とを有した圧電デバイス80を、60個試作した。これら比較例、実施例の圧電デバイスについて、第1発明の項にて説明したと同様に周波数温度特性を測定しかつ、周波数デイップを算出した。
図11(A)は比較例のものでの周波数ディップを示したものであり、
図11(B)は実施例のものでの周波数ディップを示したものである。なお、データのまとめ方等は、第1発明において
図2、
図3を用いて説明した方法と同じであるので、省略する。
【0035】
また、これら比較例、実施例の周波数ディップの特性と、第1発明において説明した不要振動抑圧電極を有しない比較例、不要振動抑圧電極を設けた比較例(これは第1発明では実施例に当たる)各々の周波数ディップの特性とをまとめて整理したものを、下記の表2と
図11(C)に示した。なお、いずれの水準も、不要振動抑圧電極と励振電極との距離は0.12mmとした。
【表2】
【0036】
表2及び
図11(C)から、周波数ディップの改善具合は、第4発明>比較例(接着剤のみ)≒比較例(抑圧電極のみ)>比較例(抑圧電極なし)であることが分かる。すなわち、第4発明によれば、不要振動抑圧効果を他の水準に比べて高められることが分かる。ただし、接着剤等の異種材料を不要振動抑圧電極上に付加する構成は、異種材料を付加する分、手間がかかる。従って、圧電デバイスに要求される仕様に応じて、第1〜第4発明の各構造を選択して用いるのが良い。そうすることで、圧電デバイスの要求仕様に応じた所望の圧電デバイスを得ることができる。
なお、1発明と同様に第2〜第4発明においても、
図4を用いて説明したように不要振動抑圧電極の一方のみを設けても良く、また
図5を用いて説明したように両持ち構造の圧電デバイスに適用することができ、さらに
図6(A)、(B)に示したように発振回路を有した圧電デバイスに適用することができる。