(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カッターヘッドに取り付けられた加速度センサーと、該加速度センサーと接続されたコンピュータとを含む、切羽土質分布の判別システムを備えるシールド掘進機における切羽地盤の判定方法であって、
施工現場に立坑を構築する際に採取した掘削残土、又は施工現場の周辺の掘削現場から採取した掘削残土を土層収容槽に締め固めた状態で収容して、複数の模擬土層を形成し、前記土層収容槽において形成した各々の模擬土層に、ビット振動試験装置のビット固定冶具に支持固定されたカッタービットを埋入して移動させた際の振動データを、加速度センサーによって採取し、採取した振動データを、各々の模擬土層に対応する切削振動データとしてコンピュータに予め記憶しておき、
施工現場でシールド掘進機のカッターヘッドにより地盤を切削する際に、カッターヘッドに取り付けられた加速度センサーによって得られた振動データを、予め記憶された各々の模擬土層の切削振動データと照らし合わせることで、切削している切羽地盤の土質を判定するシールド掘進機における切羽地盤の判定方法。
前記模擬土層に埋入したカッタービットを、前記土層収容槽の開口面に沿った横方向及び深さ方向に移動させながら前記加速度センサーによって振動データを採取する請求項1記載のシールド掘進機における切羽地盤の判定方法。
前記模擬土層に埋入したカッタービットを移動させながら、前記加速度センサーによって1秒間に10〜2000点の振動データを採取する請求項1又は2記載のシールド掘進機における切羽地盤の判定方法。
前記カッタービットは、前記横方向及び深さ方向に、可変速可能に移動できるようになっている請求項2〜4のいずれか1項記載のシールド掘進機における切羽地盤の判定方法。
前記ビット固定冶具は、前記カッタービットを着脱交換可能に支持固定するようになっている請求項1〜5のいずれか1項記載のシールド掘進機における切羽地盤の判定方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい一実施形態に係るシールド掘進機における切羽地盤の判定方法は、
図1に示す切羽土質分布の判別システム10を用いて、掘進中のシールド掘進機11の切羽面の地盤の土質を、精度良く判定するための方法として採用されたものである。
【0014】
ここで、
図1に示す切羽土質分布の判別システム10は、密閉型のシールド掘進機として、例えば泥土圧式のシールド掘進機11によってシールドトンネルを構築する工事において、切削中の切羽面の地盤12a、12b、12cの状況を、リアルタイムで把握できるようにするシステムである。すなわち、例えば都市部においては、立坑用地の問題や地下埋設物との輻輳等を理由として、大口径のシールド掘進機のみならず、中小口径のシールド掘進機による工事でも、シールドトンネルを長距離化して構築することが望まれており、シールドトンネルを長距離化して構築する場合、シールド掘進機11による掘進に伴って、切羽面12の地盤12a、12b、12cの土質が変化することが多く、また積層した異なる土質の地盤12a、12b、12cの境界部分を掘進してゆく際には、切削される同じ切羽面12に、異なる土質の地盤12a、12b、12cが同時に現れる場合がある。
図1に示す切羽土質分布の判別システム10は、カッターヘッド13に設けられたカッタービット16の近傍に加速度センサー14を取り付けておき、切羽面12の地盤12a、12b、12cをカッタービット16により切削する際に発生する応答加速度を、振動データとして、カッターヘッド13を回転させながら加速度センサー14によって計測して、切羽面12の地盤12a、12b、12cの状況を判定できるようになっている。
【0015】
本実施形態の切羽地盤の判定方法は、上述の判別システム10により切羽面12の地盤12a、12b、12cの土質を判定する際に、シールド掘進機11の掘進時における、カッターヘッド13の回転速度、シールド掘進機11の掘進速度、カッタービット16の違い等のパラメータを反映させることによって、より精度良く、切羽面12の地盤12a、12b、12cの土質を判定できるようにする。
【0016】
そして、本実施形態の切羽地盤の判定方法は、カッターヘッド13に取り付けられた加速度センサー14と、加速度センサー14と接続されたコンピュータ20とを含む、切羽土質分布の判別システム10を備えるシールド掘進機11における切羽地盤の判定方法であって、施工現場に立坑30を構築する際に採取した掘削残土、又は施工現場の周辺の掘削現場から採取した掘削残土を用いて、複数の模擬土層40を形成し(
図2参照)、形成した各々の模擬土層40にカッタービット16を埋入して移動させた際の、応答加速度である振動データを、加速度センサー14によって採取し、採取した振動データを、各々の模擬土層40に対応する切削振動データとしてコンピュータ20に予め記憶しておき、施工現場でシールド掘進機11のカッターヘッド13により地盤12a、12b、12cを切削する際に、加速度センサー14によって得られた振動データを、予め記憶された各々の模擬土層40の切削振動データと照らし合わせることで、切削している切羽面12の地盤12a、12b、12cの土質を判定するようになっている。
【0017】
また、本実施形態では、
図2〜
図5に示すように、模擬土層40に埋入したカッタービット16を、横方向X及び深さ方向Zに移動させながら、加速度センサー14によって振動データを採取するようになっている。
【0018】
本実施形態では、シールド掘進機11は、
図1に示すように、密閉型のシールド掘進機として公知の、例えば泥土圧式のシールド掘進機となっている。泥土圧式のシールド掘進機11には、シールド本体15における先端部分のカッターヘッド13の後方に、泥土圧によって満たされる隔室19を形成するための隔壁17が設けられており、この隔壁17に支持させて、カッターヘッド13のセンターシャフト13aが設けられている。またシールド本体15の内部には、排泥機構(図示せず)、回転駆動モーター(図示せず)、シールドジャッキ(図示せず)、エレクター(図示せず)等が設けられている。
【0019】
本実施形態では、切羽土質分布の判別システム10を構成するコンピュータ20は、データベースサーバとして機能する公知のものであり、例えばパーソナルコンピュータ等を使用することができる。コンピュータ20としてのデータベースサーバは、CPU、ROM、RAM、I/F、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を備えている。データベースサーバのCPUは、ROMに組み込まれた制御プログラムに従って、RAMをワークエリアとして使用しながら、データベースサーバの全体の動作を制御する。また、CPUは、各種のコンピュータプログラムがROMに組み込まれていることにより、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等として機能させると共に、振動データ記憶部21よって、加速度センサー14から送られるシールド掘進機11の施工時の応答加速度である振動データを、カッターヘッド13の回転角度と共に記憶させたり、振動データ表示部22によって、振動データ記憶部21に記憶された施工時の振動データを、円周方向に分布する切削振動分布23としてディスプレイ24に表示させたり、前方土質分布判定部32によって、切羽面12よりも掘進方向前方の地盤12a、12b、12cの土質分布を、判定させたりできるようになっている。
【0020】
また、本実施形態では、コンピュータ20には、シールド工法における各種の計測器から収集される計測値や、入力手段を介してデータ入力される測量値を一元管理することが可能な、公知のシールド掘進管理システムが組み込まれている。シールド掘進管理システムは、例えばシールド工法における各種の計測器から収集された計測値を一元管理し、その情報を整理して技術者や作業者へ提供することによって、現場施工管理の支援を行う機能や、経時変化や統計処理の結果に基づいて、地山の状況や掘削土砂の状況、シールド掘進機の付加状況などを推測する機能や、或いは計測結果を入力することによりシール掘進機やセグメントの位置を計算して、基線からの偏差を求める機能等を備えている。このようなシールド掘進管理システムとしては、好ましくは株式会社演算工房製の「シールド掘進管理システム」を用いることができる。
【0021】
さらに、本実施形態では、コンピュータ20は、地上に設けられた運転管理室31に設置されており、運転管理室31に設置された当該コンピュータ20は、例えば加速度センサー用アンプ25a,25bを介すると共に、PCLからなる制御盤26、シーケンサ盤27、遠隔操作盤28等を備える公知の伝送システム29を介することによって、各種の計測器や、後述する加速度センサー14や補助加速度センサー18と接続されている。
【0022】
コンピュータ20と共に
図1に示す切羽土質分布の判別システム10を構成する加速度センサー14や補助加速度センサー18は、速度の時間変化率(時間微分)である加速度を検出するセンサーとして公知の、種々の加速度センサーを用いることができる。加速度センサーは、物体に働く加速度が、加えられた外力に比例するといった物理法則を用いて、加速度そのものの値の測定や、外力が加わったことを検出するのに用いられる。加速度センサー14や補助加速度センサー18は、高精度な測定が要求される科学実験や、重力計測、地震計測等の他、傾き、振動、動き、衝撃、落下などを検出することが可能な種々の加速度センサーを用いることができる。このような加速度センサーとして、より具体的には、振動の大きさや周波数等を精度良く検出することが可能な、例えば昭和測器(株)製の3軸型の各種の圧電型加速度検出器を用いることができる。
【0023】
本実施形態では、加速度センサー14は、好ましくはカッターヘッド13の外周部分として、カッターヘッド13の最も外周部分に配置されたカッタービット16aに近接して、このカッタービット16aと離間した状態でカッターヘッド13に取り付けられている。すなわち、加速度センサー14は、例えば3軸型の圧電型加速度検出器となっており、好ましくは第1の検出方向を、シールド掘進機11による掘進方向に沿わせ、第2の検出方向を、カッターヘッド13の回転周方向に沿わせた状態で、カッターヘッド13の最も外周部分に配置されたカッタービット16aの背面部分に取り付けられている。加速度センサー14が、カッターヘッド13の最も外周部分に配置されたカッタービット16aに近接して、カッタービット16aと離間した状態で取り付けられていることにより、切羽面の地盤をカッターヘッド13によって切削する際の応答加速度(振動データ)を、適切に計測することが可能になる。また加速度センサー14のメンテナンスが容易になると共に、カッタービット16aの交換作業に影響を及ぼすのを回避することができる。加速度センサー14は、ロータリージョイントを通じて、接続ケーブル14aを介して加速度センサー用アンプ25aと接続している。
【0024】
また、本実施形態では、補助加速度センサー18が、シールド本体15の内側壁面として、隔室19を仕切る隔壁17の背面部分に取り付けられている。補助加速度センサー18は、加速度センサー14と同様に、例えば3軸型の圧電型加速度検出器となっており、好ましくは第1の検出方向を、シールド掘進機11による掘進方向に沿わせ、第2の検出方向を、カッターヘッド13の回転周方向に沿わせた状態で、隔壁17の背面部分に取り付けられている。これによって、シールド掘進機11の稼働時に、シールド本体15が振動することによる固有の振動データを、効率良く且つ精度良く計測して得ることが可能になる。また補助加速度センサー18は、接続ケーブル18aを介して加速度センサー用アンプ25bと接続している。補助加速度センサー18からの本体部振動データが、加速度センサー用アンプ25b及び伝送システム29を介してコンピュータ20に送られることで、上述のように、振動データ表示部22は、ノイズや機械震動を取り除いた状態で、加速度センサー14から送られる回転角度毎の振動データを、円周方向の切削振動分布23として表示させることができるようになっている。
【0025】
さらに、本実施形態では、カッターヘッド13のセンターシャフト13aに、例えばロータリーエンコーダからなる回転計(図示せず)が取り付けられている。この回転計によって計測された回転角度が、伝送システム29を介してコンピュータ20に送られることで、加速度センサー14によって計測された、施工時に切羽面12を切削する際の振動データを、所定の回転角度毎に、振動データ記憶部21によって記憶させることができるようになっている。
【0026】
ここで、本実施形態によれば、加速度センサー14による円周方向の計測の頻度Δθは、データ収集の時間間隔Δtと、カッターヘッド15の回転速度r(ppm)とから、Δθ=r/60×Δt×360°の計算式によって決まるようになっている。例えばシールド掘進機11が、掘削外径が2360mm程度の小口径の掘進機であって、回転速度がr=2.3(ppm)と早くなっている場合に、計測時間間隔Δtを0.1秒と設定した際の計測の頻度Δθは、Δθ=2.3/60×0.1×360°から、1.38°となり、したがって1.38°毎に、加速度センサー14による計測がなされることになる。
【0027】
また、本実施形態では、カッターヘッド13における加速度センサー14の円周方向の位置θ°を把握するために、カッターヘッド13のセンターシャフト13aに、接点スイッチ(図示せず)が設置されており、例えばシールド掘進機11の天端をゼロ点として、このゼロ点を通過する毎回の通過時に、リセット処理を行うことができるようになっている。
【0028】
本実施形態では、加速度センサー14によって所定の回転角度毎に計測された施工時の応答加速度である振動データは、好ましくは加速度センサー14による計測時と同じタイミングで補助加速度センサー18によって計測された本体部振動データと共に、専用の加速度センサー用アンプ25a、25bを介して出力され、出力された信号は、制御盤26やシーケンサ盤27を通過することで、その他の掘進管理データと同じ伝送システム29を通じて、運転管理室31に送られるようになっている。
【0029】
そして、本実施形態では、上述のように、施工現場における施工時に、シールド掘進機11のカッターヘッド13によって地盤12a、12b、12cを切削する際に、加速度センサー14によって得られた振動データを、予めコンピュータ20に記憶されている、例えば施工現場とは離れた実験施設において得られた、各々の模擬土層40の切削振動データと照らし合わせることで、切削している切羽面12の地盤12a、12b、12cの土質を判定するようになっている。
【0030】
すなわち、本実施形態では、例えば実験施設に設けられた、例えば
図2〜
図5に示すようなビット振動試験装置50において、施工現場で立坑30を構築する際に採取した掘削残土や、施工現場の周辺の掘削現場から採取した掘削残土を用いて、複数の模擬土層40を、土層収容槽51に入れ替えるようにして順次形成する(
図2参照)。順次入れ替えられて形成された各々の模擬土層40に、カッタービット16を、埋入した状態で移動させると共に、移動させる際に生じる振動データ(応答加速度)を、加速度センサー14によって採取し、採取した振動データを、各々の模擬土層40に対応する切削振動データとして取得する。また取得した切削振動データは、有線又は無線の通信手段を介して、或いはCD−ROM等の外部記憶手段を介して、運転管理室31に設置されたコンピュータ20に取り込まれ、振動データ記憶部21よって予め記憶される。カッターヘッド13により切羽面12の地盤12a、12b、12cを実際に切削する際に、加速度センサー14によって得られた施工時の振動データ(応答加速度)を、予め記憶された模擬土層40の切削振動データと照らし合わせることで、切削している切羽面12の地盤12a、12b、12cの土質を、前方土質分布判定部32により判定する。
【0031】
ここで、各々の模擬土層40に対応する切削振動データは、
図2〜
図5に示すビット振動試験装置50を用いることによって、容易に採取して取得することができる。ビット振動試験装置50は、模擬土層40を締め固めた状態で順次入れ替えてで収容することが可能な、上面が開口面51aとなっている土層収容槽51と、カッタービット16を着脱交換可能に支持固定すると共に、加速度センサー14が取り付けられているビット固定冶具52と、ビット固定冶具52を土層収容槽51の内側で開口面51aに沿った横方向Xに往復移動させる横方向移動装置53と、ビット固定冶具52を土層収容槽51の内側で深さ方向Zに移動させる深さ方向移動装置54とを含んで構成されている。土層収容槽51に収容された模擬土層40にカッタービット16を埋入して、開口面51aに沿った横方向X及び深さ方向Zに移動させながら、加速度センサー14によって、カッタービット16の振動データ(応答加速度)を採取する。
【0032】
ビット振動試験装置50を構成する土層収容槽51は、好ましくは鋼製プレート、山形鋼、溝形鋼等の鋼材を組み付けることによって形成された、例えば長さが1700mm程度、幅が300mm程度、高さが300mm程度の内寸の土層収容部51bを内側に備える、上面が開口面51aとなった六面体形状の函体となっており、当該土層収容槽51による拘束の影響が、収容される模擬土層40に及ばないように配慮されている。土層収容槽51は、例えばH形鋼等の鋼材を組み付けることによって形成された、例えば長さが2800mm程度、幅が850mm程度の大きさの外形寸法を有する、矩形枠形状の取付け架台55における、一方の長辺側に片寄せた状態で設置されている。土層収容槽51には、施工現場で立坑30を構築する際に採取した掘削残土や、施工現場の周辺の掘削現場から採取した掘削残土が投入されて、締め固められることによって、切削振動データを得るための模擬土層40が、取り換え替え可能に収容される。取付け架台55における、土層収容槽51が設置された側とは反対の他方の長辺側には、移動装置支持架台56が、土層収容槽51の側部に沿って、取付け架台55から立設した状態で設けられている。移動装置支持架台56により支持されて、ビット固定冶具52を、土層収容槽51の開口面に沿った横方向Xに往復移動させる横方向移動装置53が取り付けられている。
【0033】
本実施形態では、ビット振動試験装置50を構成する横方向移動装置53は、例えばボールねじ53a、水平駆動用サーボモータ53b、ケーブルキャリア53c、接点スイッチ(図示せず)等の、公知の部材や装置を組み付けて形成されている。横方向移動装置53は、振動データを得るための試験対象となるカッタービット16を着脱交換可能に支持固定する、ビット固定冶具52を備える横方向移動基台57を、一対のガイドレール53dに案内させながら、土層収容槽51の開口面に沿った横方向Xとして、好ましくは水平面に沿った土層収容槽51の長さ方向Xに、ビット固定冶具52と共に往復移動させることができるようになっている。すなわち、横方向移動装置53は、土層収容槽51の長さ方向Xと平行に配置されたボールねじ53aを、水平駆動用サーボモータ53bの駆動により正方向や逆方向に回転させることによって、横方向移動基台57を、後述する所定の移動速度で、土層収容槽51の長さ方向Xに、ビット固定冶具52と共に往復移動させることができるようになっている。一対のガイドレール53dは、土層収容槽51の長さ方向Xと平行に配置されたボールねじ53aを挟んで、これの両側に設置されており、また横方向移動装置53は、公知の接点スイッチによって、水平駆動用サーボモータ53bによるボールねじ53aの回転を、正方向や逆方向に切り替えることで、横方向移動基台57を、ビット固定冶具52と共に、土層収容槽51の長さ方向Xに往復移動させることができるようになっている。
【0034】
ビット固定冶具52を備える横方向移動基台57は、例えば鋼製プレート、山形鋼、溝形鋼等の鋼材を組み付けることによって形成されており、例えば縦幅が200mm程度、横幅が500mm程度大きさの、横長矩形の平面形状を有している。横方向移動基台57は、横幅方向を土層収容槽51の長さ方向Xと垂直な方向に配置して、一対のガイドレール53dに跨るようにして配設されると共に、ケーブルキャリア53cとは反対側の部分を、土層収容槽51の開口面51aの上方まで張り出させた状態で取り付けられている。横方向移動基台57のケーブルキャリア53c側の端部は、連結アングル材57aを介して、当該ケーブルキャリア53cに連結されている。横方向移動基台57における、土層収容槽51の開口面51aの上方に張り出した部分には、ビット固定冶具52を土層収容槽51の内側で深さ方向Zに移動させる、深さ方向移動装置54が設けられている。この深さ方向移動装置54を介在させて、カッタービット14を着脱交換可能に支持固定するビット固定冶具52が、横方向移動基台57に、土層収容槽51の開口面51aに沿った横方向Xに往復移動が可能な状態で取り付けられている。
【0035】
深さ方向移動装置54は、本実施形態では、例えばスクリュージャッキ54a、垂直駆動用サーボモータ54b、ガイドピストン54c、接点スイッチ(図示せず)等の、公知の部材や装置を組み付けることによって形成されている。深さ方向移動装置54は、横方向移動基台57から垂直に立設して配置された、ガイドスリーブ54d及びガイドロッド54eからなる一対のガイドピストン54cによって案内させながら、垂直駆動用サーボモータ54bの駆動によりスクリュージャッキ54aを伸縮させることで、ガイドピストン54c及びスクリュージャッキ54aの下端部に連結して取り付けられたビット固定冶具52を、当該ビット固定冶具52に着脱交換可能に支持固定されたカッタービット16と共に、土層収容槽51の内側で、土層収容槽51の深さ方向Zに、後述する所定の移動速度で、上下に移動させることができるようになっている。
【0036】
ビット固定冶具52は、振動データを得るための試験対象となるカッタービット16を、下方に垂下させた状態で安定して支持固定することが可能な、所定の形状となるように加工形成された厚肉の鋼製プレートからなり、上下に貫通するボルト締着孔52a(
図5参照)を、複数箇所に備えている。ビット固定冶具52には、ボルト締着孔52aに締着されるボルト部材52b(
図5参照)を介して、カッタービット16が、下方に垂下した状態で着脱交換可能に固定される。またビット固定冶具52は、ボルト締着孔52aに締着されるボルト部材52bを介して、深さ方向移動装置54の一対のガイドピストン54cのガイドロッド54eの下端部、及びスクリュージャッキ54aの下端部を一体として連結する連結盤54fに、締着固定されている(
図5参照)。これによってビット固定冶具52は、当該ビット固定冶具52に取り行けられたカッタービット16と共に、深さ方向移動装置54の駆動によって、土層収容槽51の内側で、土層収容槽51の深さ方向Zに、後述する所定の移動速度で上下に移動させることができるようになっている。
【0037】
また、本実施形態では、ビット固定冶具52の上面側には、下面側に取り付けられたカッタービット16と近接して、加速度センサー14が、カッタービット16と離間した状態で取り付けられている。加速度センサー14は、好ましくは、上述の切羽土質分布の判別システム10において、カッタービット14と近接してシールド掘進機11のカッターヘッド13に取り付けられる加速度センサー14と同様の、3軸型の圧電型加速度検出器を用いることができる。加速度センサー14は、好ましくは第1の検出方向を、シールド掘進機11による掘進方向に相当する、土層収容槽51の深さ方向Zに沿わせると共に、第2の検出方向を、カッターヘッド13の回転周方向に相当する、土層収容槽51の長さ方向Xの沿わせた状態で、ビット固定冶具52に取り付けられる。
【0038】
加速度センサー14は、上述のビット振動試験装置50において、ビット固定冶具52に支持固定されているカッタービット16を、模擬土層40に埋入した状態で往復移動させながら、当該加速度センサー14によって、1秒間に10〜2000点の振動データを採取できるものであることが好ましく、1秒間に50〜1000点の振動データを採取できるものであることがさらに好ましい。これによって、採取された振動データ(応答加速度)の大きさと頻度を、フーリエ変換することにより、フーリエスペクトルを得ることが可能になって、土質毎の模擬土層40の応答加速度の違いを調べる中で、地盤の特徴をより正確に分析することが可能になる。
【0039】
本実施形態では、加速度センサー14は、例えば1000分の1秒に1点として、1分間に6万点の振動データ(応答加速度)を採取できるようになっている。これによって、模擬土層40を構成する、砂や土や石の粒子の大きさや形状を反映させた、極めの細かい振動データを採取することが可能になる。このため、加速度センサー14は、好ましくは取付け架台55に設置された操作制御盤60に組み込まれた計測装置を構成する、例えば計測頻度が1.0μs、最大計測点数が60000点の、高性能の公知のデータロガーと接続している。
【0040】
上述の構成を備えるビット振動試験装置50を用いて、施工現場やこれの周辺の掘削現場から採取した掘削残土による、複数の模擬土層40の切削振動データを得るには、採取した掘削残土を用いて、例えば粘土層、砂層、砂礫層等による模擬土層40を、土層収容槽51の内側の土層収容部51bに各々形成する。これらの模擬土層40を形成する際に、粘土層、砂層、砂礫層等の湿潤密度や締固め度を調整することによって、これらの模擬土層40が所定の硬さとなるように、適宜設定することができる。
【0041】
しかる後に、深さ方向移動装置54によりビット固定冶具52を下方に移動させて、振動データを得るための試験対象となるカッタービット16を、形成された模擬土層40の内部に埋入させると共に、埋入された状態のまま、横方向移動装置53及び深さ方向移動装置54を駆動させて、カッタービット16を、好ましくは横方向X及び深さ方向Zに同時に移動させながら、加速度センサー14によって応答加速度である振動データを採取する。
【0042】
ここで、横方向移動装置53は、ビット固定冶具52に支持固定されたカッタービット16を、カッターヘッド13の外周部分の回転速度に相当する、例えば150〜300mm/secの速度の範囲で、土層収容槽51の長さ方向Xに、可変速可能に往復移動させることができるようになっている。また深さ方向移動装置54は、連結盤54fを介して一対のガイドピストン54cのガイドロッド54eの下端部、及びスクリュージャッキ54aの下端部に、一体として取り付けられたビット固定冶具52に支持固定されたカッタービット16を、シールドジャッキの伸長速度(シールド掘進機の掘進速度)に相当する、例えば20〜50mm/minの速度の範囲で、下方に向けて深さ方向Zに可変速可能に移動させることができるようになっている。カッタービット16を土層収容槽51の長さ方向X及び深さ方向Zに可変速可能に移動させることにより、実際のシールド工事に用いる個々のシールド掘進機11のカッターヘッド13の性能や規模に対応させた、より精度良いカッタービット16の切削振動データを得ることが可能になると共に、カッターヘッドの回転速度やシールド掘進機の掘進速度をパラメータとして反映させた、より精度良いカッタービット16の切削振動データを得ることが可能になる。
【0043】
また、本実施形態では、ビット固定冶具52に、振動データを得るための試験対象となるカッタービット16を、着脱交換可能に支持固定できるようになっているので、カッタービット16として、例えば礫質土による地盤に有利な強化型先行ビットと、シルト質土、粘土、砂質土等による地盤に使用される先行ビットについて、各々の振動データを採取することによって、カッタービットの違いをパラメータとして反映させた、より精度良いカッタービット16の切削振動データを得ることが可能になる。
【0044】
採取されたこれらの切削振動データは、上述のように、各々の模擬土層40に対応する切削振動データとして、有線又は無線の通信手段を介して、或いはCD−ROM等の外部記憶手段を介して、運転管理室31に設置されたコンピュータ20に取り込まれ、振動データ記憶部21よって予め記憶されることになる。
【0045】
そして、本実施形態の切羽地盤の判定方法では、シールド工事の施工現場でシールド掘進機11のカッターヘッド13により地中の地盤を切削する際に、上述の判別システム10を構成する、好ましくはカッターヘッド13の最も外周部分に配置されたカッタービット16aに近接して取り付けられた加速度センサー14によって、切削時の振動データ(応答加速度)を採取すると共に、採取された振動データを、振動データ記憶部21よって予めコンピュータ20に記憶されている、例えば上述の実験施設において、好ましくは上述のビット振動試験装置50を用いて得られた、各々の模擬土層40の中で、カッタービット16を移動させながら当該カッタービット16によって切削した際の、複数の模擬土層40の各々に対応する切削振動データと照らし合わせることで、切削している切羽面12の地盤12a、12b、12cの土質を判定するようになっている。
【0046】
本実施形態では、振動データ記憶部21よって予めコンピュータ20に記憶されている、複数の模擬土層40の各々に対応する切削振動データは、各々の模擬土層40が、施工現場に立坑30を構築する際に実際に採取した掘削残土や、施工現場の周辺の掘削現場から実際に採取した掘削残土を用いて形成されたものとなっており、且つカッターヘッド13の回転速度、シールド掘進機11の掘進速度、カッタービット16の違い等をパラメータとして反映させた、細分化されたものとなっている。これによって、本実施形態によれば、従来の判別システムや判定方法のように、カッターヘッド13の最も外周部分に配置されたカッタービット16aに近接して取り付けられた加速度センサー14によって採取された振動データの変化を、例えばシールド掘進機による掘進前に、施工現場において予め実施されたボーリングなどによる地盤調査の結果と照らし合わせることによって、切羽面の地盤の土質を判別していたものと比較して、より精度良く、切羽面の地盤の土質を判定することが可能になる。
【0047】
すなわち、本実施形態のシールド掘進機における切羽地盤の判定方法、又は該判定方法に用いるビット振動試験装置50によれば、シールド掘進機の掘進時における、カッターヘッドの回転速度、シールド掘進機の掘進速度、カッタービットの違い等をパラメータとして反映させて、より精度良く、切羽面の地盤の土質を判定することが可能になる。
【0048】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、施工現場に立坑を構築する際に採取した掘削残土や、施工現場の周辺の掘削現場から採取した掘削残土を用いて形成した複数の模擬土層から、各々の模擬土層に対応する切削振動データを予め取得する装置として、
図2〜
図5に示す構成のビット振動試験装置を用いる必要は必ずしもなく、その他の装置を用いて、各々の模擬土層に対応する切削振動データを取得することもできる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により、本発明のシールド掘進機における切羽地盤の判定方法をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
図2〜
図5に示す構成を備える、上記実施形態に用いた試験装置と同様のビット振動試験装置を使用し、粘土、砂、及び礫地盤を模擬したRC40の砕石を用いて、土層収容槽51に、各々の試験毎に模擬土層を形成した。また、振動データを得るための試験対象となるカッタービットとして、礫質土による地盤に有利な
図6(a)に示す強化型先行ビット(ビット1)と、シルト質土、粘土、砂質土等による地盤に使用される
図6(b)に示す先行ビット(ビット2)とを、ビット固定冶具52に交換して取り付けて、各々のビットによる振動データを採取した。使用したビット振動試験装置の概要を表1に示す。また、実験ケースを表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
〔土質の違いに関する検証〕
図7は、粘土、砂、RC40の土質の違いによる応答加速度を整理したものである。縦軸に応答加速度(X方向平均)、横軸に土質を表示している。ビットの違いによらず、粘土、砂に比べてRC40の応答加速度は、大きくなる傾向がある。また、粘土と砂は、応答加速度の平均値の評価では大きな差異は表れなかった。これによって、土質による応答加速度の違いは、RC40では顕著に大きくなるが、砂と粘土は大きく変わらないことが判明する。
【0054】
〔水平移動速度(X方向速度)の違いに関する検証〕
図8〜
図10は、水平移動速度の違い(150〜300mm/s)による応答加速度の変化を、縦軸に応答加速度(平均)、横軸に水平移動速度を表示して整理したものである。すべての条件で、水平移動速度が速くなるにつれて応答加速度が大きくなることが確認された。
図8は、粘土における結果であり、X方向応答加速度はZ方向応答加速度に対して約2倍の応答加速度を示している。この傾向は
図9の砂でも同様の結果であった。一方、
図10のRC40の結果では、ビット形状による応答加速度の違いは顕著に表れているが、粘土や砂と異なり、X方向応答加速度、Z方向応答加速度に大きな違いが出ていない。これによって、水平移動速度は、カッター摺動速度(直径×回転速度)でシールドマシンごとに決まることや、移動速度〜加速度曲線が各土質で直線的となり加速度の大きさに違いが出ることから、
図8〜
図10に示す応答加速度(平均)と水平移動速度との関係のデータは、土質判別には有効なデータとなることが判明する。
【0055】
〔フーリエスペクトルによる「粘土と砂の違い」に関する再検証〕
粘土と砂について計測した、Z方向応答加速度のフーリエスペクトルを
図11、
図12に示す。砂のフーリエスペクトルにおいて卓越周波数が顕著にみられることから、フーリエスペクトルによる検証は、粘土と砂の差異を見出す手段として有効であると考えられる。またこれによって、粘土と砂の差異は、応答加速度におけるフーリエスペクトルの卓越周波数から判断できることが判明する。