特許第6892395号(P6892395)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892395乳酸を生産する微生物及びそれを用いた乳酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892395
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】乳酸を生産する微生物及びそれを用いた乳酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20210614BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20210614BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20210614BHJP
   C12R 1/85 20060101ALN20210614BHJP
【FI】
   C12N1/19
   C12P7/56ZNA
   !C12N15/09 Z
   C12R1:85
【請求項の数】10
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-564351(P2017-564351)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(65)【公表番号】特表2018-518175(P2018-518175A)
(43)【公表日】2018年7月12日
(86)【国際出願番号】KR2016006187
(87)【国際公開番号】WO2016200207
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2017年12月28日
【審判番号】不服2019-16121(P2019-16121/J1)
【審判請求日】2019年11月29日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0083658
(32)【優先日】2015年6月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】セオン ヒエ キム
(72)【発明者】
【氏名】タエ ヘエ リー
(72)【発明者】
【氏名】ヤング リエオル ヤング
(72)【発明者】
【氏名】エウン ビン ヤング
(72)【発明者】
【氏名】キュングス ナ
(72)【発明者】
【氏名】チェオル ウォオング ハ
【合議体】
【審判長】 長井 啓子
【審判官】 中島 庸子
【審判官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−500062号公報
【文献】 国際公開第2015/057154号
【文献】 特開2013−21940号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 15/00-90
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異されていない微生物に比べて、向上した乳酸生産能を有するサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)微生物であって、ピルビン酸デカルボキシラーゼ(Pyruvate decarboxylase、PDC)の活性がその内在的活性に比べて不活性化され、ATP-クエン酸分解酵素(ATP-citrate lyase、ACL)の活性が導入され、ピルビン酸生合成経路が内在的生合成経路に比べて強化され、アルコールデヒドロゲナーゼ1(Alcohol dehydrogenase 1、ADH1)の活性が内在的活性に比べて不活性化され、D‐乳酸デヒドロゲナーゼ1(D-lactate dehydrogenase 1、DLD1)の活性が内在的活性に比べて不活性化され、かつ、ラクトバシルス・プランタラム由来の乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate dehydrogenase、LDH)活性が導入されるように変異され、
前記ピルビン酸生合成経路の強化が、i)ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(Phosphoenolpyruvate carboxykinase 1、PCK1)、及びピルビン酸キナーゼ2(Pyruvate kinase 2、PYK2)の活性強化により、または、ii)リンゴ酸デヒドロゲナーゼ2(Malate dehydrogenase 2、MDH2)、及び細胞基質リンゴ酸酵素1(cytosolic Malic enzyme 1、cytosolic MAE1)の活性強化により達成されものである、前記サッカロマイセス属微生物。
【請求項2】
前記ピルビン酸デカルボキシラーゼが、配列番号39、41及び43のアミノ酸配列からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸配列で表される酵素である、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記ATP-クエン酸分解酵素が、配列番号29のアミノ酸配列で表される酵素である、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1が、配列番号31のアミノ酸配列で表される酵素であり、ピルビン酸キナーゼ2が、配列番号33のアミノ酸配列で表される酵素である、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
前記リンゴ酸デヒドロゲナーゼ2が、配列番号35のアミノ酸配列で表される酵素であり、かつ細胞基質リンゴ酸酵素1が、配列番号37のアミノ酸配列または配列番号52のアミノ酸配列で表される酵素である、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
前記乳酸デヒドロゲナーゼが、配列番号49のアミノ酸配列で表される酵素である、請求項に記載の微生物。
【請求項7】
前記ピルビン酸デカルボキシラーゼが、ピルビン酸デカルボキシラーゼ1(Pyruvate decarboxylase 1、PDC1)である、請求項1に記載の微生物。
【請求項8】
前記サッカロマイセス属微生物が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiase)である、請求項1に記載の微生物。
【請求項9】
a)請求項1〜のいずれか一項に記載のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)微生物を培地で培養する段階;及び
b)培地から乳酸を回収する段階を含む、乳酸製造方法。
【請求項10】
乳酸の製造における、変異されたサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)微生物の使用であって、該微生物がピルビン酸デカルボキシラーゼ(Pyruvate decarboxylase、PDC)の活性がその内在的活性に比べて不活性化されて、ATP-クエン酸分解酵素(ATP-citrate lyase、ACL)の活性が導入され、ピルビン酸生合成経路が内在的生合成経路に比べて強化され、アルコールデヒドロゲナーゼ1(Alcohol dehydrogenase 1、ADH1)の活性が内在的活性に比べて不活性化され、D‐乳酸デヒドロゲナーゼ1(D-lactate dehydrogenase 1、DLD1)の活性が内在的活性に比べて不活性化され、かつ、ラクトバシルス・プランタラム由来の乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate dehydrogenase、LDH)活性が導入されるように変異され、
ピルビン酸生合成経路の強化が、i)ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(Phosphoenolpyruvate carboxykinase 1、PCK1)、及びピルビン酸キナーゼ2(Pyruvate kinase 2、PYK2)、または、ii)リンゴ酸デヒドロゲナーゼ2(Malate dehydrogenase 2、MDH2)、及び細胞基質リンゴ酸酵素1(cytosolic Malic enzyme 1、cytosolic MAE1)の活性強化により達成されたものである、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸生産能を有するサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)微生物及びそれを用いた乳酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、食品分野、医薬分野、化粧品分野などの産業分野で多様に利用され、最近はポリ乳酸の単量体として活用されて、その需要が大きく増加している。乳酸を生産する方法としては、従来の化学合成法と炭水化物を基質とする生物学的発酵法があり、最近は後者の方法が好まれている。
【0003】
一般的に酵母ベースの乳酸生産微生物は、乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate dehydrogenase、LDH)及びピルビン酸デカルボキシラーゼ(Pyruvate decarboxylase、PDC)が競争的にピルビン酸(pyruvate)を基質として用いる。そこで、製造収率を最大化するためには、ピルビン酸がLDHによって乳酸(Lactic acid、LA)に多く生産されるように、PDCの機能を最小限にすることが必要である。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)においてPDCは、PDC1、PDC5及びPDC6という3つのアイソザイム(isozyme)として存在する。そこで、乳酸生産量を最大化するためにPDC1、PDC5及びPDC6を同時欠損した三重欠損菌株を作製する方法が用いられる。しかし、PDCの活性が不活性化されると、乳酸の収率は増加するが、生産性が低下して菌株の円滑な生長が不可能である欠点が報告されており(特許文献1)、前記方法では目的とするほどの乳酸を生産するのは難しい。また、サッカロマイセス属のような酵母は、バクテリアのような原核細胞とは異なり、様々な細胞小器官及び様々な有機的体系によって単純遺伝子操作では目的とする量の乳酸が生産できるかどうかを明確に予測することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第EP2041264号
【特許文献2】国際公開特許第WO2013/036764号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mol Microbiol 35(3):553-65(2000)
【非特許文献2】J Bacteriol.1997 May; 179(9):2987-93
【非特許文献3】Metabolic Engineering, 6(2004)352-363
【非特許文献4】J. Microbiol. Biotechnol., (2006) 16(6), 979-982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、乳酸生産微生物で円滑な成長が維持され、かつ、乳酸の生産収率及び生産量をすべて増加させることができる方法を開発するために鋭意努力した結果、アセチルCoAの供給経路、及びオキサロ酢酸(Oxaloacetate、OAA)からピルビン酸への供給経路を強化したとき、乳酸生産量が向上することを確認することにより、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの目的は、乳酸生産能を有するサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)微生物を提供することにある。
【0008】
本発明のもう一つの目的は、前記微生物を用いて乳酸を製造する方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPDC活性が不活性化され、外来ACL活性が導入及びピルビン酸生合成経路が強化されるように変異された乳酸生産菌株は、従来の菌株に比べてアルコール活性経路のピルビン酸離脱の最小化及び乳酸分解経路の遮断を通じて乳酸発酵収率及び生産性に優れ、生産菌株の生長が増加するので、乳酸を原料として使用する各種製品の生産性を向上させるのに広く活用されうる。これにより生産された乳酸は、様々な製品の原料として提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】酵母微生物内に存在するPCK1(PEP carboxykinase、EC4.1.1.49)とPYK2(Pyruvate kinase、EC2.7.1.40)酵素の過発現を用いたピルビン酸生合成強化経路であって、本発明の外来ACL導入、及びPCK及びPYK経路強化を通じた乳酸生産性の増加戦略を図式化した図である。
【0011】
図2】酵母微生物内に存在するMDH2(Malate dehydrogenase2、EC1.1.1.37)及び細胞基質MAE1(Malic enzyme1、EC1.1.1.38)酵素強化を用いたピルビン酸生合成強化経路であって、本発明の外来ACL導入、及びMDH、細胞基質MAE経路を通じた乳酸生産性の増加戦略を図式化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は一つの様態として、ピルビン酸デカルボキシラーゼ(Pyruvate decarboxylase、PDC)の活性が内在的活性に比べて不活性化され、ATPクエン酸分解酵素(ATP-citrate lyase、ACL)活性が導入され、ピルビン酸生合成経路が内在的生合成経路に比べて強化されるように変異された、乳酸生産能を有するサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)微生物を提供する。
【0013】
前記乳酸生産能を有するサッカロマイセス属微生物は、ACL活性が導入されてなく、またはピルビン酸生合成経路が内在的生合成経路に比べて強化されるように変異されない菌株に比べて、乳酸の発酵収率が増加及び/または、サッカロマイセス属菌体の成長が増加(生産微生物の生長増加)及び/または、乳酸生産能が増加された微生物であってもよい。
【0014】
本発明で用語、「乳酸(lactic acid、LA)」は、COHCOOHで表される有機酸を意味する。このような乳酸は、化学合成法を用いて乳酸を生産する場合、D型乳酸とL型乳酸が50%ずつ混ざっているラセミ(racemic)混合物の形態として生成され、組成比調節が不可能であるため、ポリ乳酸を製造する場合、溶融点が低い無定形のポリマーになって用途開発時にも制限が多い。一方、微生物を用いた生物学的発酵法の場合、用いる菌株または導入される乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate dehydrogenase、LDH)に応じてD型またはL型の乳酸を選択的に生産することができる。
【0015】
本発明で用語、「乳酸生産能を有する微生物」は、本発明の目的上、乳酸を生産することができる微生物菌株であって、糖を乳酸に転換させうる菌株を意味し、その例としての酵母微生物であって、本発明の乳酸生産経路、アセチルCoAの生産経路を含む以上、制限されない。
【0016】
酵母微生物は、形態によって「サッカロマイセス属」、「ピキア属」、「カンジダ属」及び「サッカロミコプシス属」などに分けられ、具体的に、本発明では乳酸を生産できれば、様々な種を含む「サッカロマイセス属」微生物を活用してもよい。具体的には、前記サッカロマイセス属微生物はサッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロマイセス・ブルデリ(Saccharomyces bulderi)、サッカロマイセス・カリオカヌス(Saccharomyces cariocanus)、サッカロマイセス・カリオカス(Saccharomyces cariocus)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカッロマイセス・チェバリエリ(Saccharomyces chevalieri)、サッカロマイセス・ダイレネンシス(Saccharomyces dairenensis)、サッカロマイセス・エリプソイデウス(Saccharomyces ellipsoideus)、サッカロマイセス・ユーバヤヌス(Saccharomyces eubayanus)、サッカロマイセス・エクシグース(Saccharomyces exiguus)、サッカロマイセス・フロレンチヌス(Saccharomyces florentinus)、サッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、サッカロマイセス・マルチニエ(Saccharomyces martiniae)、サッカロマイセス・モナセンシス(Saccharomyces monacensis)、サッカロマイセス・ノルベンシス(Saccharomyces norbensis)、サッカロマイセス・パラドキサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロマイセス・スペンセロラム(Saccharomyces spencerorum)、サッカロマイセス・ツリセンシス(Saccharomyces turicensis)、サッカロマイセス・ユニスポラス(Saccharomyces unisporus)、サッカロマイセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)及びサッカロマイセス・ゾナトウス(Saccharomyces zonatus)からなる群から選択されたものであってもよく、より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエであってもよい。
【0017】
本発明の乳酸生産能を有するサッカロマイセス属微生物は、ピルビン酸デカルボキシラーゼの活性が内在的活性に比べて不活性化され、ATPクエン酸分解酵素の活性が導入され、ピルビン酸生合成経路が内在的生合成経路に比べて強化されるように変異された微生物であってもよい。
【0018】
前記乳酸生産能を有するサッカロマイセス属微生物は、具体的には、(i)ピルビン酸デカルボキシラーゼの活性が内在的活性に比べて不活性化されるように変異され、(ii)ATPクエン酸分解酵素の活性が導入され、(iii)ピルビン酸生合成経路が内在的生合成経路に比べて強化されるように変異されたものだけではなく、さらに(iv)乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate dehydrogenase、LDH)活性が導入され、(v)アルコールデヒドロゲナーゼ1の活性が内在的活性に比べて弱化または不活性化され、(vi)ピルビン酸デカルボキシラーゼ1の活性が内在的活性に比べて弱化または不活性化され、及び/または(vii)D‐乳酸デヒドロゲナーゼ1の活性が内在的活性に比べて弱化または不活性化されるように変異された微生物であってもよい。
【0019】
また、本発明の前記微生物は、さらに(i)アルコールデヒドロゲナーゼ1(Alcohol dehydrogenase 1、ADH1)の活性が内在的活性に比べて不活性化されるように変異され、(ii)ピルビン酸デカルボキシラーゼ1(Pyruvate decarboxylase 1、PDC1)の活性が内在的活性に比べて不活性化されるように変異され、及び(iii)D‐乳酸デヒドロゲナーゼ1(D-lactate dehydrogenase 1、DLD1)の活性が内在的活性に比べて不活性化されるように変異されたものである微生物であってもよい。
【0020】
本発明で用語、「ピルビン酸デカルボキシラーゼ(Pyruvate decarboxylase、PDC)」は、「ピルビン酸脱炭酸酵素」と混用してもよく、ピルビン酸をアセトアルデヒド(Acetaldehyde)及び二酸化炭素(CO2)に転換させる酵素を意味する。前記酵素は、無酸素条件で酵母、特にサッカロマイセス属の内で発生する発酵過程に作用する酵素であって、発酵によってエタノールを生成する酵素である。一般的に、サッカロマイセス属微生物のPDCは、PDC1、PDC5及びPDC6の3つのアイソザイム(isozyme)の形態として存在する。前記タンパク質及び遺伝子配列は公知のデータベースから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどがあるが、これに限定されない。前記酵素は、具体的にPDC1は配列番号39、PDC5は配列番号41、PDC6は配列番号43のアミノ酸からなるタンパク質であってもよいが、前記酵素の活性を有する配列であれば、制限なく含まれる。また、前記PDC1、PDC5及びPDC6をコードする遺伝子は、それぞれの具体的な例として、配列番号40、42及び44の塩基配列で表してもよいが、前記酵素をコードすることができる配列であれば、制限なく含まれる。
【0021】
本発明で用語、「ATPクエン酸分解酵素(ATP-citrate lyase、ACL、EC2.3.3.8)」は、クエン酸(citrate)をオキサロアセテート(oxaloacetate、OAA)とアセチルCoAに変換させる酵素であり、高等生物及び一部の酵母に存在すると知られている(ATP-citrate lyase:A mini-review、Biochemical and Biophysical Research Communications422(2012)1-2)。
【0022】
その反応式は次の通りである。
クエン酸 + ATP + CoA + HO→OAA + アセチルCoA + A + Pi
【0023】
アセチルCoA(acetyl-CoA)は、菌株の生長に必須の酵素であり、その重要性は、最近、様々な文献で大きく台頭している。代表的な例として、1,3-BDO(1,3-butanediol)を生産する真核細胞生物体(eukaryotic organism)で非自然的な経路(non-natural pathway)を用いて細胞基質アセチルCoA(cytosol acetyl-coA)を供給し、生産性を高めようとする研究が報告されている(特許文献2)。
【0024】
そこで、外来ACL導入を介してPDCの活性が弱化もしくは除去された菌株で生長に必須のアセチルCoAの供給を可能にして、それを通じてPDC活性に非依存的に微生物が生長できるようにするものである。前記タンパク質及び遺伝子配列は公知のデータベースから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどがあるが、これに限定されない。前記ATPクエン酸分解酵素は、配列番号29のアミノ酸配列を有してもよいが、前記酵素活性を有するタンパク質配列は制限なく含まれてもよい。また、前記ACLをコードする遺伝子は、具体的な例として、配列番号30の塩基配列で表してもよいが、前記酵素をコードすることができる配列であれば、制限なく含まれる。
【0025】
本発明で用語、「ピルビン酸生合成経路」は、酵母、すなわちサッカロマイセス属微生物内のピルビン酸が供給できる生合成経路であり、OAAからピルビン酸への供給経路であってもよい。具体的な例は、図1及び2で示した通りである。
【0026】
一例として、前記ピルビン酸生合成経路の強化は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(Phosphoenolpyruvate carboxykinase 1、PCK1)またはピルビン酸キナーゼ2(Pyruvate kinase 2、PYK2)、または前記酵素の両方の活性が内在的活性に比べて強化されるように変異させて行うことができる。
【0027】
または前記ピルビン酸生合成経路の強化は、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ2(Malate dehydrogenase 2、MDH2)または細胞基質リンゴ酸酵素1(cytosolic Malic enzyme 1、cytosolic MAE1)、または前記酵素の両方の活性が内在的活性に比べて強化されるように変異させて行うことができる。
【0028】
本発明で用語、「ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(Phosphoenolpyruvate carboxykinase 1、PCK1)」は、OAAからPEP(Phosphoenolpyruvate)への転換を触媒する酵素を意味する。PCK1は酵母微生物でOAAをPEPに転換するグルコース新生過程(gluconeogenesis)で必要な酵素であって、グルコースが存在する条件で発現の阻害を受ける酵素として知られている(非特許文献1)。
【0029】
本発明で用語、「ピルビン酸キナーゼ2(Pyruvate kinase 2、PYK2)」は、PEPからADPにリン酸基(Phosphate group)を伝達して、ピルビン酸及びATP生産を触媒する酵素を意味する。PYK2は酵母微生物においてPEPをピルビン酸に転換する解糖過程(glycolysis)の最後の段階の酵素であり、PYK2もグルコースが存在する条件で発現の阻害を受ける酵素として知られている(非特許文献2)。
【0030】
前記各タンパク質及び遺伝子配列は公知のデータベースから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどがあるが、これに限定されない。前記PCK1は配列番号31のアミノ酸配列を有してもよいが、前記酵素活性を有するタンパク質配列は制限なく含まれる。また、前記PCK1をコードする遺伝子は、具体的な例として配列番号32の塩基配列で表してもよいが、前記酵素をコードすることができる配列であれば、制限なく含まれる。前記PYK2は、配列番号33のアミノ酸配列を有してもよいが、前記酵素活性を有するタンパク質配列は制限なく含まれる。また、前記PYK2をコードする遺伝子は、具体的な例として、配列番号34の塩基配列で表してもよいが、前記酵素をコードすることができる配列であれば、制限なく含まれる。
【0031】
本発明で用語、「MDH2(Malate dehydrogenase 2)」は、OAAをリンゴ酸塩(Malate)に変える可逆的な酵素を意味する。前記MDH2は本来細胞基質(cytosol)に位置する酵素である。
【0032】
本発明で用語、「細胞基質MAE1(Cytosolic Malic Enzyme 1)」は、リンゴ酸をピルビン酸に置換する酵素であるMAE1の中のミトコンドリア標的配列(mitochondrial targeting sequence)が除去され、細胞基質に位置するように変更された酵素である。前記MAE1酵素の場合、本来ミトコンドリアに位置するタンパク質であって、ミトコンドリア内でTCA回路(tricarboxylic acid)の中間物質であるリンゴ酸をピルビン酸に置換する酵素である(非特許文献3)。前記各タンパク質及び遺伝子配列は公知のデータベースから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどがあるが、これに限定されない。前記MDH2は、配列番号35のアミノ酸配列を有してもよいが、前記酵素活性を有するタンパク質配列は制限なく含まれてもよい。また、前記MDH2をコードする遺伝子は、具体的な例として、配列番号36の塩基配列で表してもよいが、前記酵素をコードすることができる配列であれば、制限なく含まれる。前記MAE1は、配列番号37のアミノ酸配列を有してもよいが、前記酵素活性を有するタンパク質配列は制限なく含まれる。また、MAE1が細胞基質に存在するためには、配列番号37のアミノ酸のうち30番目までのアミノ酸が除去された配列(すなわち、ミトコンドリア標的配列である配列番号51のアミノ酸配列が除去された配列)であってもよく、そのような配列を配列番号52と表した。また、前記MAE1をコードする遺伝子は、具体的な例として、配列番号38の塩基配列で表してもよいが、前記酵素をコードすることができる配列であれば、制限なく含まれる。
【0033】
本発明で用語、「乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate dehydrogenase、LDH)」は、ピルビン酸及び乳酸を相互転換することができる酵素であり、前記タンパク質及び遺伝子配列は公知のデータベースから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどがあるが、これらに限定されない。前記LDHは、配列番号49のアミノ酸配列を有してもよいが、前記酵素活性を有するタンパク質配列は制限なく含まれてもよい。また、前記LDHをコードする遺伝子は、具体的な例として、配列番号50の塩基配列で表してもよいが、前記酵素をコードすることができる配列であれば、制限なく含まれる。
【0034】
前記各酵素は、前記配列番号で記載したアミノ酸配列だけでなく、前記配列と70%以上、具体的には80%以上、さらに具体的には90%以上、より一層具体的には95%以上、もっと具体的には98%以上、さらにより具体的には99%以上の相同性を示すアミノ酸配列として、実質的に前記各酵素と同一であるか、または相応する効能を示す酵素であれば、制限なく含むことができる。また、これらの相同性を有し、各酵素に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有する酵素変異体も、本発明の範囲内に含まれるのは自明である。
【0035】
また、前記各酵素をコードする遺伝子は前記配列番号で記載した塩基配列だけでなく、前記配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には98%以上、より一層具体的には99%以上の相同性を示す塩基配列として、実質的に前記各酵素と同一であるか、または相応する効能を示す酵素をコードする遺伝子配列であれば、制限なく含むことができる。また、これらの相同性を有する塩基配列であれば、一部配列が欠失、変形、置換または付加された塩基配列も、本発明の範囲内に含まれるのは自明である。
【0036】
本発明で用語、「相同性」は、二つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド部分(moiety)間の同一性のパーセントをいう。一つの部分からもう一つの部分までの配列間相同性は知られている当該技術によって決定してもよい。例えば、相同性は、配列情報を整列して容易に入手可能なコンピュータプログラムを用いて2つのポリヌクレオチド分子または2つのポリペプチド分子間の配列情報、例えば、スコア(score)、同一性(identity)及び類似度(similarity)などのパラメータ(parameter)を直接配置して決定してもよい(例えば、BLAST2.0)。また、ポリヌクレオチド間の相同性は、相同領域間の安定した二本鎖をなす条件下でポリヌクレオチドの混成化の後、一本鎖特異的なヌクレアーゼで分解して、分解された断片の大きさを決定することにより決定してもよい。
【0037】
本発明で用語、「内在的活性」は、微生物が天然の状態または該当酵素の変形前に有していた酵素の活性状態を意味する。
【0038】
前記「酵素の活性が内在的活性に比べて不活性化されるように変異された」は、酵素をコードする遺伝子の発現が天然型菌株または変形前の菌株に比べて全く発現されない場合、または発現してもその活性がないか、または減少したことを意味する。
【0039】
前記減少は、前記酵素をコードする遺伝子の変異などで酵素自体の活性が本来の微生物が有していた酵素の活性に比べて減少した場合と、それをコードする遺伝子の発現阻害または翻訳(translation)阻害などで細胞内における全体的な酵素活性の程度が天然型菌株または変形前の菌株に比べて低い場合は、それらの組み合わせも含む概念である。
【0040】
このような酵素活性の不活性化は、当該分野でよく知られている様々な方法の適用により達成することができる。前記方法の例として、前記酵素の活性が除去された場合を含み、前記酵素の活性が減少されるように突然変異された遺伝子であって、染色体上の前記酵素をコードする遺伝子を代替する方法;前記酵素をコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法;前記酵素をコードする遺伝子の発現調節配列を活性が弱いか、またはない配列と交替する方法;前記酵素をコードする染色体上の遺伝子の全体または一部を欠失させる方法;前記染色体上の遺伝子の転写体に相補的に結合して前記mRNAから酵素への翻訳を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法;前記酵素をコードする遺伝子のSD配列の上流にSD配列と相補的な配列を人為的に付加して2次構造を形成させ、リボソーム(ribosome)の付着が不可能にする方法及びその配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写されるようにプロモーターを付加するRTE(Reverse transcription engineering)方法などがあり、これらの組み合わせでも達成することができるが、前記例により特に制限されるものではない。
【0041】
具体的には、酵素をコードする遺伝子の一部または全体を欠失させる方法は、菌株内の染色体挿入用ベクターを介して、染色体内の内在的目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを一部の核酸配列が欠失されたポリヌクレオチドまたはマーカー遺伝子に交替することにより行うことができる。このような遺伝子の一部または全体を欠失する方法の一例として、相同組換えにより遺伝子を欠失させる方法を用いることができる。
【0042】
前記で「一部」とは、ポリヌクレオチドの種類によって異なるが、具体的には1〜300個、具体的には1〜100個、より具体的には1〜50個であってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0043】
前記で「相同組換え(homologous recombination)」とは、互いに相同性を有する遺伝子鎖の座位でリンク交換を介して起こる遺伝子組換えを意味する。
【0044】
具体的には、発現調節配列を変形する方法は、前記発現調節配列の核酸配列に欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせで発現調節配列上の変異を誘導して行うか、さらに弱いプロモーターと交換するなどの方法により、行うことができる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と解読の終結を調節する配列を含む。
【0045】
併せて、染色体上の遺伝子配列を変形する方法は、前記酵素の活性が低下するように遺伝子配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせで配列上の変異を誘導して行うか、さらに弱い活性を有するように改良された遺伝子配列または活性がないように改良された遺伝子配列と交換することにより、行うことができる。
【0046】
本発明で用語、「活性が内在的活性に比べて強化」するというのは、微生物がそのタンパク質の活性を保有している状態に比べて細胞内活性を向上させるように変形させることにより、前記タンパク質(または酵素)の細胞内活性を増加させることを意味する。このような「強化」は、タンパク質(または酵素)自体の活性が増大されて、本来の機能以上の効果を導出することを含むだけでなく、前記タンパク質(または酵素)をコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、前記タンパク質(または酵素)をコードする染色体上の遺伝子調節配列に変異を導入する方法、前記タンパク質(または酵素)をコードする染色体上の遺伝子の調節配列を活性が強力な配列に交替する方法、前記タンパク質(または酵素)の活性が増加するように突然変異された遺伝子で前記タンパク質(または酵素)をコードする遺伝子を代替する方法及び前記タンパク質(または酵素)の活性が強化されるように、前記タンパク質(または酵素)をコードする染色体上の遺伝子に変異を導入させる方法からなる群から選択されるいずれか一つ以上の方法により行うことができるが、タンパク質(または酵素)活性が内在的活性に比べて強化させることができるか、導入された活性を強化させることができる公知の方法は、制限なく含まれる。
【0047】
本発明で用語、「タンパク質(または酵素)活性を導入」するというのは、特定タンパク質(または酵素)活性を有してない微生物に、そのタンパク質の活性を付与したり、特定タンパク質(または酵素)活性を有してない微生物にそのタンパク質(または酵素)活性が付与された後、その細胞内活性をさらに向上させるように変形させることにより、前記タンパク質(または酵素)の細胞内活性を増加させることを意味する。
【0048】
このような「タンパク質(または酵素)活性を導入」するというのは、当該分野でよく知られている様々な方法で行うことができ、例えば、前記タンパク質(または酵素)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを染色体に挿入する方法、前記ポリヌクレオチドをベクターシステムに導入して微生物に導入する方法などでポリヌクレオチドのコピー数を増加する方法、前記タンパク質(または酵素)をコードする塩基配列の上流に改良された活性を示すプロモーターを導入したり、 プロモーターに変異を与えた前記タンパク質(または酵素)を導入する方法、前記タンパク質(または酵素)をコードする塩基配列の変異体を導入する方法などを用いてもよいが、タンパク質(または酵素)活性を導入しうる公知の方法は制限なく含まれる。
【0049】
前記でポリヌクレオチドのコピー数増加は、特にこれに限定されないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることにより行うことができる。具体的には、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主とは無関係に複製されて機能することができるベクターが宿主細胞内に導入されることによって行うことができるか、前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することができるベクターが宿主細胞内に導入されることにより、前記宿主細胞の染色体内の前記ポリヌクレオチドのコピー数を増加させる方法で行うことができる。
【0050】
前記ベクターは、適切な宿主内で目的タンパク質が発現できるように、適切な調節配列に作動可能に連結された前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA製造物であって、前記調節配列は転写を開始できるプロモーター、このような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含む。ベクターは、適切な宿主細胞の内に形質転換された後、宿主ゲノムとは無関係に複製されたり、または機能することができ、ゲノムそれ自体に統合することができる。
【0051】
前記酵母発現ベクターは、組み合わせ酵母プラスミド(YIp:integrative yeast plasmid)及び染色体の他のプラスミドベクター(extrachromosomal plasmid vector)の両方可能である。前記染色体の他のプラスミドベクターは、エピソーム酵母プラスミド(YEp:episomal yeast plasmid)、複製酵母プラスミド(YRp:replicative yeast plasmid)及び酵母セントロメアプラスミド(YCp:yeast centromere plasmid)を含んでもよい。また、人為的酵母染色体(YACs:artificial yeast chromosomes)も、本発明に係る発現ベクターとして可能である。具体的な例として、利用可能なベクターは、pESC-HIS、pESC-LEU、pESC-TRP、pESC-URA、Gateway pYES-DEST52、pAO815、pGAPZ A、pGAPZ B、pGAPZ C、pGAPαA、pGAPαB、pGAPαC、pPIC3.5K、pPIC6 A、pPIC6 B、pPIC6 C、pPIC6αA、pPIC6αB、pPIC6αC、pPIC9K、pYC2/CT、pYD1 酵母ディスプレイベクター 、pYES2、pYES2/CT、pYES2/NT A、pYES2/NT B、pYES2/NT C、pYES2/CT、pYES2.1、pYES-DEST52、pTEF1/Zeo、pFLD1、PichiaPinkTM、p427-TEF、p417-CYC、pGAL-MF、p427-TEF、p417-CYC、PTEF-MF、pBY011、pSGP47、pSGP46、pSGP36、pSGP40、ZM552、pAG303GAL-ccdB、pAG414GAL-ccdB、pAS404、pBridge、pGAD-GH、pGAD T7、pGBK T7、pHIS-2、pOBD2、pRS408、pRS410、pRS418、pRS420、pRS428、yeast micron A form、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pYJ403、pYJ404、pYJ405及びpYJ406を含むが、これに限定されるものではない。
【0052】
より具体的な酵母ベクターは、複製原点ori及び抗生物質抵抗性カセット(antibiotic resistance cassette)を含有して大腸菌(E. coli)で増殖され、選択されることができる酵母複製プラスミド(yeast replication plasmid)であってもよい。一般的に、発現ベクターは、プロモーター‐遺伝子‐転写終結配列の発現コンストラクトを含むことができる。
【0053】
例えば、宿主細胞が酵母である場合、前記発現コンストラクトで利用可能なプロモーターは、TEF1プロモーター、TEF2プロモーター、GAL10プロモーター、GAL1プロモーター、ADH1プロモーター、ADH2プロモーター、PHO5プロモーター、GAL1-10プロモーター、TDH3プロモーター(GPDプロモーター)、TDH2プロモーター、TDH1プロモーター、PGK1プロモーター、PYK2プロモーター、ENO1プロモーター、ENO2プロモーターとTPI1プロモーターを含むが、これに限定されるものではない。
【0054】
前記発現コンストラクトで利用可能な転写終結配列はADH1ターミネーター、CYC1ターミネーター、GAL10ターミネーター、PGK1ターミネーター、PHO5ターミネーター、ENO1ターミネーター、ENO2ターミネーターとTPI1ターミネーターを含むが、これに限定されるものではない。
【0055】
また、宿主細胞内の染色体挿入用ベクターを介して染色体内で内在的目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異されたポリヌクレオチドに交換することができる。または染色体内に導入させようとする外来の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異されたポリヌクレオチドに交換することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界で知られている任意の方法、例えば、相同組換えによって行うことができる。本発明のベクターは相同組換えを起こして染色体内に挿入されることができるため、前記染色体の挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、すなわち目的ポリヌクレオチドの挿入有無を確認するためのものであって、薬剤耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のように選択可能な表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみ生存するか、または他の表現形質を示すので形質転換された細胞を選別することができる。
【0056】
本発明で用語、「形質転換」は、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入して宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現することさえできれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、これらすべてを含む。また、前記ポリヌクレオチドは標的タンパク質をコードするDNA及びRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、いかなる形態で導入されるものでも構わない。例えば、前記ポリヌクレオチドは、それ自体で発現するのに必要なすべての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入することができる。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、それ自体の複製が可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞における発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよい。
【0057】
また、前記で用語、「作動可能に連結」されたということは、本発明の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するようにするプロモーター配列と、前記遺伝子配列が機能的に連結されていることを意味する。
【0058】
本発明のベクターを形質転換させる方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法も含まれており、宿主細胞に応じて当分野で公知のように、適切な標準技術を選択して行うことができる。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポソーム法、及び酢酸リチウム-DMSO法などがあるが、これに限定されない。
【0059】
前記宿主細胞では、DNAの導入効率が高く、導入されたDNAの発現効率が高い宿主を使用するのが良いが、本発明の目的上、サッカロマイセス属微生物であってもよい。
【0060】
次に、ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列に変異を導入するのは、特にこれに限定されないが、前記発現調節配列の活性をより強化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせで配列上の変異を誘導して行うか、さらにもっと強い活性を有する核酸配列と交換して行うことができる。前記発現調節配列は、特にこれに限定されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び解読の終結を調節する配列などを含む。
【0061】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターの代わりに強力な異種プロモーターが連結されてもよい
【0062】
このようなタンパク質活性の導入または強化は、対応するタンパク質の活性または濃度が野生型タンパク質や初期の微生物菌株での活性または濃度を基準にして、一般的に少なくとも10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%または500%、最大1000%または2000%まで増加されるものであってもよい。
【0063】
本発明は、もう一つの様態として、(i)前記新規なピルビン酸デカルボキシラーゼの活性が内在的活性に比べて不活性化され、ATPクエン酸分解酵素活性が導入され、ピルビン酸生合成経路が内在的生合成経路に比べて強化されるように変異された、乳酸生産能を有するサッカロマイセス属微生物を培地で培養する段階;(ii)前記培養による培地または前記微生物から乳酸を回収する段階を含む、乳酸の製造方法を提供する。
【0064】
前記乳酸生産能を有するサッカロマイセス属微生物は、前記で説明した通りである。
【0065】
本発明で用語、「培養」は、微生物を適当に人工的に調節した環境条件で生育させることを意味する。本発明ではサッカロマイセス属微生物を用いて、乳酸を培養する方法は当業界に広く知られている方法を用いて行うことができる。具体的には、前記培養は、バッチ工程、注入バッチまたは反復注入バッチ工程(fed batch or repeated fed batch process)で連続式で培養することができるが、これに限定されるものではない。
【0066】
本発明の微生物の培養に用いられる培地及びその他の培養条件は、通常のサッカロマイセス属微生物の培養に用いられる培地であれば、特別な制限なくいずれも用いることができるが、具体的には、本発明の微生物を適当な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/またはビタミンなどを含有した通常の培地内で好気性条件下で温度、pHなどを調節しながら培養することができる。
【0067】
用いられる炭素源の例は、スクロースまたはグルコースを利用することができ、スクロースを多量に含む糖蜜もまた炭素源として利用することができ、その他の適定量の炭素源が多様に用いられてもよい。
【0068】
窒素源の例としては、ペプトン、酵母エキス、肉汁、麦芽エキス、トウモロコシ浸漬液、及び大豆、小麦などの有機窒素源、及び要素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムなどの無機窒素源が含まれてもよい。これらの窒素源は、単独または組み合わせて用いてもよい。前記培地にはリン源としてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム及び対応されるナトリウム含有塩が含まれてもよい。また、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含んてもよい。その他にアミノ酸、ビタミン及び適切な前駆体などが含まれてもよい。これらの培地または前駆体は、培養物に回分式または連続式で添加されてもよい。
【0069】
培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸及び硫酸のような化合物を培養物に適切な方法で添加して、培養物のpHを調整してもよい。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を使用して気泡生成を抑制してもよい。また、培養物の好気状態を維持するために、培養物内に酸素または酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気状態を維持するために気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入してもよい。
【0070】
培養物の温度は、通常20℃〜40℃、具体的には、25℃〜35℃、より具体的には、30℃であってもよいが、目的とすることに応じて制限なく変更されてもよい。培養期間は、所望の有用物質の生成量に到達するまで継続することができ、具体的には10〜100時間であってもよいが、これに限定されない。
【0071】
本発明の乳酸を生産する方法は、前記培養による培地または前記微生物から乳酸を回収する段階を含むことができる。微生物または培地から乳酸を回収する方法は、当業界で知られている方法、例えば遠心分離、ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化及びHPLCなどが用いられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0072】
前記回収段階は、精製工程を含むことができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されるものと解釈されない。
【0074】
実施例1:乳酸生産菌株の作製
本発明で使用する代表的な乳酸生産菌株を作製するために、Euroscarfから分譲された野生型酵母の代表的なサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)CEN.PK2-1Dに一連の遺伝子操作を加えた。
【0075】
具体的には、アルコール合成経路へのピルビン酸の離脱を最小限にするために、アルコールデヒドロゲナーゼ1(alcohol dehydrogenase 1;ADH1)及びピルビン酸デカルボキシラーゼ1(pyruvate decarboxylase 1;PDC1)を欠損させ、D型乳酸の分解経路のブロックするためにD−乳酸デヒドロゲナーゼ1(d-lactate dehydrogenase 1;DLD1)を欠損した菌株を、本発明のベース菌株として用いた。
【0076】
DLD1は生長改善に直接的な影響を与える要素ではないが、D型乳酸の脱水素酵素でNAD+を利用してピルビン酸に転換させる主な酵素として知られている。したがって、乳酸を消費する酵素であるDLD1遺伝子を欠損した菌株をベースに、後続菌株を作製して、乳酸発酵の生産性を比較した。
【0077】
本発明の遺伝子操作は、一般的な分子クローニング方法を用いた。まず、酵母のADH1及びPDC1遺伝子欠損に関する実験は、非特許文献4に開示された内容を参考にしてpWAL100及びpWBR100プラスミドを用いた。ベクターに挿入した各インサートは、それぞれに対応するプライマー(配列番号1〜配列番号8)を用いてPCR(重合酵素連鎖反応、Polymerase chain reaction)を介して製造した。
【0078】
PCRは、野生型酵母のゲノムDNAを鋳型として使用した。 ADH1欠損のために配列番号1及び配列番号2のプライマーを用いてPCRを行った後、BamHI、NcoI制限酵素を用いてpWAL100にクローニングし、配列番号3及び配列番号4のプライマーを用いてPCRを行った後、BamHI、NcoI制限酵素を用いてpWBR100にクローニングした。 PCRは95℃で熱変性過程5分、53℃で結合過程1分、72℃で重合過程1分30秒の条件で行った。
【0079】
PDC1欠損のために配列番号5及び配列番号6のプライマーを用いてPCRを行った後、BamHI、NcoI制限酵素を用いてpWAL100にクローニングし、配列番号7及び配列番号8のプライマーを用いてPCRを行った後BamHI、NcoI制限酵素を用いてpWBR100にクローニングした。 PCRは95℃で熱変性過程5分、53℃での結合過程1分、72℃で重合過程1分30秒の条件で行った。
【0080】
また、DLD1の遺伝子欠損のためにHIS3マーカー遺伝子をダブルクロスオーバー(double crossover)で導入して欠損させた。ここで使用したDNA断片は、野生型酵母のゲノム DNAを鋳型とするPCRを介して収得し配列番号9及び配列番号10のプライマーを用いて製造した。PCRは95℃で熱変性過程5分、53℃での結合過程1分、72℃で重合過程1分30秒の条件で行った。
【0081】
前記遺伝子操作に用いたプライマーをまとめると、下記表1の通りである。
【0082】
【表1】
【0083】
前記のように3つの遺伝子(ADH1、PDC1及びDLD1)を欠損させた菌株をもとに、乳酸生産のための遺伝子であるD乳酸脱水素酵素(d-lactate dehydrogenase、D-LDH)を導入した。S.cerevisiae由来のTEF1プロモーターとCYC1ターミネーターとの間にラクトバシルス・プランタラム(Lb. plantarum)由来ldhD遺伝子5’及び3’末端をp413TEF1ベクターにクローニングし、ここで、Sax/PvuIIの二重切断にインサートを準備した。そしてベクターは、p-δ-neoでBamH/NotIに二重切断されたDNA切片からマングビーン(Mung Bean)ヌクレアーゼで平滑末端(blunt end)を作成した後、再びSacで処理してSac stick endとBamH blunt endを有するベクターの部分を作製した。
【0084】
前記の過程で収得したベクターとインサートをライゲーションして、pTL573ベクターを完成した。この完成ベクターをpTL573と命名した。pTL573プラスミドはLb. plantarum由来のldhD遺伝子を含んでおり、S.cerevisiae CEN.PK2-1D pdc1 adh1 dld1菌株のレトロ転位可能要素(retrotransposable element)の一部の領域であるδ-配列にランダムに多数のコピーが挿入されるように設計された。該当遺伝子の複数挿入のためにプラスミドpTL573をSal制限酵素で切断して、δ-配列上にシングルクロスオーバー(single crossover)を誘導するDNA断片を作製した。これを形質転換により親菌株内に導入して、最大5mg/mlG418濃度のYPD(1%酵母エキス、2%バクトペプトン、2%グルコース)培地で多数のコロニーを得た。このように得られた菌株は、最終的にD型乳酸の生産能付与のためにラクトバチルス・プランタルム(Lb. plantarum)由来のD-LDHが複数に挿入されていることを確認し、これをCC02-0064菌株と命名した。
【0085】
実施例2:PDC力価の減少、あるいは不活性化菌株の作製
ベース菌株である前記実施例1で製造されたCC02-0064菌株にPDCアイソザイムであるPDC5を欠損した菌株及びPDC5とPDC6の両方を欠損した菌株を作製することにより、PDCの力価を減少あるいは不活性化した菌株を作製した。
【0086】
具体的には、酵母の前記遺伝子欠損のために、pWAL100及びpWBR100プラスミド(非特許文献4)を用いた。
【0087】
PDC5欠損のために配列番号11及び配列番号12のプライマーを用いてPCRを行った後、BamHI及びNotI制限酵素を用いてpWAL100にクローニングし、配列番号13及び配列番号14のプライマーを用いてPCRを行った後SpeI及びNcoI制限酵素を用いてpWBR100にクローニングした。PCRは95℃で熱変性過程5分、53℃での結合過程1分、72℃で重合過程1分30秒の条件で行った。
【0088】
PDC6欠損のために配列番号15及び配列番号16のプライマーを用いてPCRを行った後、BamHI及びNcoI制限酵素を用いてpWAL100にクローニングし、配列番号17及び配列番号18のプライマーを用いてPCRを行った後BamHI及びNcoI制限酵素を用いてpWBR100にクローニングした。PCRは95℃で熱変性過程5分、53℃での結合過程1分、72℃で重合過程1分30秒の条件で行った。
【0089】
【表2】
【0090】
前記のように作製した新規菌株をそれぞれCC02-0256及びCC02-0553と命名し、前記新規菌株の遺伝形質を整理すると、下記の表3の通りである。
【0091】
【表3】
【0092】
実施例3:PDC活性の減少及び不活性化菌株の乳酸発酵評価
菌株の評価のために用いられた培地は、酵母の制限培地であるSC培地(Synthetic Complex media)である。この培地を作製するために0.67%アミノ酸を含まない酵母窒素塩基(yeast nitrogen base without amino acid)に基づいて、ここにアミノ酸dropout mix(Sigma)をメーカーのプロトコールに基づいて混合して、必要に応じて、除外されたアミノ酸を添加した。ロイシン(leucine)は380mg/L、ウラシル(Uracil)、トリプトファン(Tryptophan)及びヒスチジン(Histidine)は76mg/Lになるように添加し、炭素源としてグルコース8%と中和剤として1%CaCOを添加した。このように製造した培地を、酵母菌株乳酸発酵の評価に用いた。
【0093】
菌株の乳酸発酵能を評価するための条件は、作製された乳酸発酵の評価用培地を一つのフラスコあたり25mlに分注して酵母菌を接種し、30〜48時間好気培養した後、発酵液に存在する乳酸の量をHPLC分析した。
【0094】
前記実験の結果をまとめると下記の表4のとおりである。
【0095】
【表4】
【0096】
その結果、前記の表4で確認できるように、PDCの活性が減少するにつれて、その収率が増加したが、生産性は減少する結果を示した。
【0097】
実施例4:PDC不活性化菌株ベースのACL(ATP-Citrate Lyase)の導入、及びPCK1(Phosphoenolpyruvate carboxykinase 1)及びPYK2(Pyruvate kinase 2)が強化された菌株の作製
(1)外来ACLを乳酸生産菌株に導入するためのベクター作製
外来のACL酵素を導入してピルビン酸生合成経路の一つであるPCK1とPYK2を同時に過発現するための組換えベクターを作製した。
【0098】
外来のACLは、哺乳類であるマウス(Mus musculus)に由来の遺伝子を用い、該当する遺伝子はNCBI(Accession no.NP_001186225)から確認した。
【0099】
具体的には、配列番号29のアミノ酸配列(配列番号30の塩基配列)で合成し、酵母用遺伝子発現ベクターであるpRS415に基づいてGPDプロモーターを使用してベクターを作製し、前記遺伝子が挿入されたベクターをp415GPDpro-ACLと命名した。
【0100】
(2)ピルビン酸生合成の経路を強化するためのPCK1及びPYK2の強化ベクター作製
ピルビン酸生合成経路を強化するためのPCK1及びPYK2の同時過発現のための組換えベクターを作製した。
【0101】
PYK2は、酵母微生物内に存在する遺伝子であって、配列番号33で表されてもよい。配列番号19及び20のプライマーを用いて、S. cerevisiae ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、PYK1遺伝子切片を収得した。PCRは95℃で熱変性過程5分、53℃での結合過程1分、72℃で重合過程1分30秒の条件で行った。前記遺伝子切片とpRS416由来の酵母発現ベクター内の制限酵素SpeI及びXhoIを用いてクローニングし、TEF1プロモーターを用いて過発現されるようにした。この組換えベクターは、pRS416-TEF1pro-PYK2と命名した。
【0102】
PCK1も酵母微生物内に存在する遺伝子であって、配列番号31で表されてもよい。配列番号23及び24のプライマーを用いて、S. cerevisiae ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、PCK2遺伝子切片を収得した。PCRは95℃で熱変性過程5分、53℃での結合過程1分、72℃で重合過程1分30秒の条件で行った。PCK1がTEF2プロモーターを用いて発現できるように配列番号21及び22のプライマーでS. cerevisiae ゲノムDNA鋳型としてPCK1切片を収得した条件と同一の条件でPCRを行って、TEF2プロモーター切片を収得した。以後、PCK1とPYK2が一つの組換えベクターで同時に発現されるようにするためには、前記で製造したpRS416-TEF1pro-PYK2組み換えベクターをXhoIで切断した後、その間に収得したTEF2プロモーター切片とPCK1切片をClontech社In-Fusionクローニングキットを用いてクローニングした。最終的にはPCK1とPYK2をそれぞれTEF2、TEF1プロモーターで過発現できる一つの組換えベクターを作製し、これをpRS416-TEF1pro-PYK2-TEF2pro-PCK1と命名した。本実施例のPCK1とPYK2過発現ベクターの作製に用いられたプライマーをまとめると、下記表5の通りである。
【0103】
【表5】
【0104】
(3)PDCが不活性化された乳酸菌株に外来ACLの導入、及びPCK1及びPYK2が強化された菌株の作製
前記実施例2で製造したCC02-0553菌株をベースに、実施例4-(1)で作製された外来ACLの導入、及び実施例4-(2)で作製されたPCK1/PYK2同時過発現ベクターを形質転換通じて挿入した。
【0105】
形質転換は、YPD(1% 酵母エキス、2%バクトペプトン、2%グルコース)培地で18時間育てたCC02-0553菌株を0.1M 酢酸リチウム 、0.01M Tris-HCl、0.001M EDTAが添加された溶液(以下LiAc/TEバッファー)を処理した後、40%PEGが添加されたLiAc/TEバッファーと一緒に42℃で15分間熱処理して、組換えベクターが挿入できるような方法を使用した。これにより、作製された菌株をそれぞれCC02-0652、CC02-0765と命名し、その遺伝形質をまとめると、下記表6の通りである。
【0106】
【表6】
【0107】
実施例5:PDC不活性化菌株ベースのACLの導入、及びPCK1及びPYK2が強化された菌株の発酵評価
前記実施例4-(3)で製造したPDC力価不活性化菌株でのACL-PCK1-PYK2強化菌株の評価を、前記実施例3で使用した方法と同様に適用して、乳酸発酵能を評価した。前記実験の結果をまとめると下記表7の通りである。
【0108】
【表7】
【0109】
その結果、前記の表7で確認したように、PDC不活性化菌株に外来ACLを導入してPCK1及びPYK2を強化した結果、PDC不活性化菌株に比べ菌体生長であるOD600値が130%増加し、同時間で消費したグルコースの量は100%増加し、乳酸の発酵収率も10%向上した。また、乳酸の生産性は、最終的に120%向上した。 CC02-0652菌株の乳酸発酵の結果を通じて、外来のACL導入時、新しい経路のアセチルCoA生産による酵母微生物の生長を強化する効果が確認できた。また、生長強化だけでなく、生産性も増加することが確認できた。
【0110】
さらに、CC02-0765菌株の乳酸発酵の結果を通じて、ピルビン酸生合成強化により、さらに乳酸発酵の生産性を向上させることができることを確認して、本発明の新しい経路のアセチルCoA生産及びピルビン酸生合成強化戦略を通じた乳酸生産方法は、従来の技術とは異なり、乳酸発酵収率の増加、生産微生物の生長強化だけでなく、乳酸発酵の生産性まで増加させる方法であることを確認した。
【0111】
そこで、CC02-0765菌株をブダペスト条約下で国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2014年11月28日に寄託し、受託番号KCCM 11616Pを与えられた。
【0112】
実施例6:PDC不活性化菌株ベースのACL導入、及びMDH2(Malate dehydrogenase 2)及び細胞基質MAE1(Malic emzyme 1)が強化された菌株の作製
前記実施例5の結果を通じ、外来ACL導入による新たな経路のアセチルCoA生産及びピルビン酸生合成強化戦略が効果的な乳酸発酵収率の増加、生産微生物の生長を強化及び乳酸発酵生産性の増加方法であることを確認して、他の遺伝子を用いたピルビン酸生合成強化の際にも、このような結果があるかどうかを確認しようとした。
【0113】
(1)MDH2及び細胞基質MAE1が強化されたベクターの作製
外来ACL導入によって生成されたOAAは、別の経路を介してピルビン酸で生合成されることがあるが、本来の細胞基質(cytosol)に位置するMDH2を過発現して、ミトコンドリア内に位置する酵素であるMAE1を細胞基質に位置を変更して過発現しようとした。このため、組換えベクターを作製した。
【0114】
MDH2は酵母微生物内に存在する遺伝子であって、配列番号35のアミノ酸配列で表されてもよい。配列番号25及び26のプライマーを用いてS. cerevisiaeゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、MDH2遺伝子切片を収得した。PCRは95℃で熱変性過程5分、53℃での結合過程1分、72℃で重合過程1分の条件で行った。得られたMDH2遺伝子切片をSpeI及びXhoI制限酵素を用いて、pRS414ベクターをベースにクローニングして、この時TEF1プロモーターを利用して過発現できるようにした。これにより、作製された組み換えベクターは、pRS414-TEF1pro-MDH2と命名した。
【0115】
MAE1は酵母微生物内で本来のミトコンドリアに位置する酵素であって、配列番号37のアミノ酸配列で表されてもよい。MAE1を細胞基質で発現するために、前記遺伝子の開始コドンから90個の塩基配列で構成されたミトコンドリア標的配列(アミノ酸配列は配列番号51である)を除いて、クローニングした。配列番号27及び28のプライマーを用いてS. cerevisiaeゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、その条件は、95℃で熱変性過程5分、53℃での結合過程1分、72℃で重合過程2分である。得られたPCR切片をSpeI及びXmaI制限酵素を使用して、pRS416ベクターをベースにクローニングした。配列番号27のプライマーの作製方法は、MAE1 ORF開始コドンから90個の塩基配列を除去するために91番目の塩基配列から収得できるようにした。また、前記細胞基質MAE1がTEF1プロモーターを用いて過発現できるようにした。これにより、作製された組み換えベクターは、pRS416-TEF1pro-細胞基質MAE1と命名した。 pRS414-TEF1pro-MDH2及びpRS416-TEF1pro-細胞基質MAE1組み換えベクターの作製に用いられたプライマーをまとめると、下記表8のとおりである。
【0116】
【表8】
【0117】
(2)PDCが不活性化された乳酸菌株のMDH2及び細胞基質MAE1が強化された菌株の作製
前記実施例2で製造したCC02-0553菌株をベースに、実施例4-(1)で作製された外来ACL導入ベクター及び実施例6-(1)で作製されたMDH2過発現ベクターと細胞基質MAE1過発現ベクターを形質転換により挿入した。形質転換は、前記実施例4-(3)で説明した方法を使用した。前記製造された菌株をCC02-0821と命名し、その遺伝形質をまとめると、下記の表9の通りである。
【0118】
【表9】
【0119】
実施例7:PDC不活性化菌株ベースのACLの導入、及びMDH2及び細胞基質MAE1が強化された菌株の発酵評価
前記実施例6で製造されたPDC不活性化菌株でのACL-MDH2-細胞基質MAE1強化を通じた乳酸生産性の強化株の評価を前記実施例2で使用した方法で乳酸発酵能を評価した。前記実験の結果をまとめると、表10のとおりである。
【0120】
【表10】
【0121】
その結果、前記の表10で示したように、MDH2及び細胞基質MAE1の過発現を介しピルビン酸の生合成を強化したCC02-0821菌株の発酵評価結果も、CC02-0765と同様にPDC活性が除去された菌株に比べ菌体生長のOD600値が110%増加し、同時間消耗したグルコースの量は80%増加し、乳酸の発酵収率も6%向上した。また、乳酸の生産性は、最終的に90%向上された効果を示した。本結果を通じて、酵母微生物で乳酸生産性の向上のために、外来ACLの導入だけでなく、様々な経路を通じてピルビン酸生合成経路を強化することが、追加の乳酸生産性の向上に効果があることを確認した。
【0122】
実施例8:PDC活性が減少された菌株でのACL導入、及びPCK1及びPYK2強化菌株、及びMDH2及び細胞基質MAE1が強化された菌株の作製
前記実施例の結果を総合して、PDCの力価が除去された菌株で外来ACL導入及びピルビン酸生合成経路の強化を通じて、酵母微生物で乳酸発酵の生産性を向上させることができることを確認した。そこで、PDC力価が削除された菌株だけでなく、PDCの力価が減少された菌株でも同じ結果を得ることができるかの検証を行った。
【0123】
前記実施例2で製造されたPDC活性の減少菌株であるCC02-0256に基づいて、前記実施例4で作製した組換えベクターであるpRS415-GPDpro-ACL、pRS416-TEF1pro-PYK2-TEF2p-PCK1を実施例4-(3)と同様の方法で挿入し、作製された菌株をそれぞれCC02-0819、CC02-0820と命名した。また、前記実施例2で製造されたPDC活性の減少菌株であるCC02-0256に基づいて、前記実施例4で作製した組換えベクターであるpRS415-GPDpro-ACLと前記実施例6-(1)で作製した組換えベクターであるpRS414-TEF1pro-MDH2、pRS416-TEF1pro-細胞基質MAE1を前記実施例4-(3)と同様の方法で挿入した。作製された菌株をCC02-0831と命名した。その形質は下記表11にまとめた。
【0124】
【表11】
【0125】
実施例9:PDC活性が減少された菌株でのACL導入、及びPCK1及びPYK2強化菌株の発酵評価
前記実施例8で製造したCC02-0819、CC02-0820菌株を対照群であるCC02-0256と共に前記実施例3で使用した方法で乳酸発酵能を評価した。前記実験の結果をまとめると、表12のとおりである。
【0126】
【表12】
【0127】
その結果、前記表12で示したように、CC02-0256は外来ACL導入及びピルビン酸生合成経路の強化効果がCC02-0553のように大幅に生産性が増加したわけではないが、乳酸発酵収率の向上、生産微生物の菌体生長の増加及び乳酸発酵生産性が増加した。
【0128】
外来ACL導入、及びPCK1及びPYK2が強化されたCC02-0820の場合、PDC力価が減少された菌株に比べ菌体生長のOD600値が80%増加し、同時間消耗したグルコースの量は40%増加し、乳酸の発酵収率も2%向上した。また、乳酸の生産性は、最終的に40%向上された効果を示した。前記CC02-0820は外来ACLのみが導入された菌株CC02-0819に比べてもOD、同時間消耗したグルコース、乳酸発酵の収率がすべて向上され、生産性は20%増加した。
【0129】
実施例10:PDC活性が減少された菌株でのACL導入、及びMDH2及び細胞基質MAE1が強化された菌株の発酵評価の比較
前記実施例8で製造したCC02-0831菌株は対照群であるCC02-0256、CC02-0819と共に前記実施例3で使用した方法で乳酸発酵能を評価した。前記実験の結果をまとめると、表13のとおりである。
【0130】
【表13】
【0131】
その結果、前記表13で示したように、外来ACL導入、及びMDH2、細胞基質MAE1が強化されたC02-0831の場合、親菌株であるCC02-0256対比OD600値が80%増加し、同時間消耗したグルコースの量は30%増加し、乳酸の発酵収率も2%向上した。また、乳酸の生産性は、最終的に30%向上された効果を示した。前記CC02-0831は外来ACLのみ導入された菌株CC02-0819に比べてもOD、同時間消耗したグルコース、乳酸発酵の収率がすべて向上され、生産性は20%増加した。
【0132】
前記のような結果は、本発明の新しい経路のアセチルCoA生産及びピルビン酸生合成強化戦略を通じた乳酸生産方法は、従来の技術とは異なり、乳酸発酵の収率増加、生産微生物の生長強化だけでなく、乳酸発酵の生産性まで増加させる方法であることを裏付けるものである。特に、PDC活性が減少または不活性化された状態で、外来ACL導入による新たな経路のアセチルCoA生産及びピルビン酸生合成強化戦略を介して製造された微生物が、乳酸発酵の収率増加、生産微生物の生長強化だけでなく、乳酸発酵生産性まで増加させ、優れた乳酸生産微生物として提供できることを示唆する。
【0133】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。本発明の範囲は、前記の詳細な説明ではなく、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0134】
【表14】
本件出願は、以下の構成の発明を提供する。
(構成1)
ピルビン酸デカルボキシラーゼ(Pyruvate decarboxylase、PDC)の活性が内在的活性に比べて不活性化されて、ATP-クエン酸分解酵素(ATP-citrate lyase、ACL)活性が導入され、ピルビン酸生合成経路が内在的生合成経路に比べて強化されるように変異された、乳酸生産能を有するサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)微生物。
(構成2)
前記ピルビン酸生合成経路の強化が、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(Phosphoenolpyruvate carboxykinase 1、PCK1)またはピルビン酸キナーゼ(Pyruvate kinase 2、PYK2)、または両方の活性が内在的活性に比べて強化されるように変異させるものである、構成1に記載の微生物。
(構成3)
前記ピルビン酸生合成経路の強化が、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ2(Malate dehydrogenase 2、MDH2)または細胞基質リンゴ酸酵素1(cytosolic Malic enzyme 1、cytosolic MAE1)、または両方の活性が内在的活性に比べて強化されるように変異させるものである、構成1に記載の微生物。
(構成4)
前記ピルビン酸デカルボキシラーゼが、配列番号39、41及び43のアミノ酸配列からなる群から選択された一つ以上のアミノ酸配列で表される酵素である、構成1に記載の微生物。
(構成5)
前記ATP-クエン酸分解酵素が、配列番号29のアミノ酸配列で表される酵素である、構成1に記載の微生物。
(構成6)
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1が、配列番号31のアミノ酸配列で表される酵素であり、ピルビン酸キナーゼ2が、配列番号33のアミノ酸配列で表される酵素である、構成2に記載の微生物。
(構成7)
前記リンゴ酸デヒドロゲナーゼ2が、配列番号35のアミノ酸配列で表される酵素であり、細胞基質リンゴ酸酵素1が、配列番号37のアミノ酸配列または配列番号52のアミノ酸配列で表される酵素である、構成3に記載の微生物。
(構成8)
前記微生物が、乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate dehydrogenase、LDH)活性がさらに導入されるものである、構成1に記載の微生物。
(構成9)
前記乳酸デヒドロゲナーゼが、配列番号49のアミノ酸配列で表される酵素である、構成8に記載の微生物。
(構成10)
前記微生物がさらに、
(i)アルコールデヒドロゲナーゼ1(Alcohol dehydrogenase 1、ADH1)の活性が内在的活性に比べて不活性化されるように変異されたもの;
(ii)ピルビン酸デカルボキシラーゼ1(Pyruvate decarboxylase 1、PDC1)の活性が内在的活性に比べて不活性化されるように変異されたもの;及び
(iii)D−乳酸デヒドロゲナーゼ1(D-lactate dehydrogenase 1、DLD1)の活性が内在的活性に比べて不活性化されるように変異されたものである、構成1に記載の微生物。
(構成11)
前記サッカロマイセス属微生物が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiase)である、構成1に記載の微生物。
(構成12)
(i)構成1〜11のいずれか一項に記載のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)微生物を培地で培養する段階;及び
(ii)前記培養による培地または前記微生物から乳酸を回収する段階を含む、乳酸製造方法。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]