(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
総細胞数が、前記培養容器が有する前記凹みの数N以上であり、前記凹みが形成する空間の体積V1を播種する細胞の体積V2で割った値に前記凹みの数Nを掛けた数以下である細胞を培地に分散させ、
前記培地を前記培養容器に添加する、請求項1に記載の培養方法。
前記培養容器内に形成されたスフェロイドの総数の60%以上が、平均スフェロイド直径のプラスマイナス5%の範囲内の直径であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の培養方法。
前記培地の攪拌が、前記培養容器を振とうして前記培地を攪拌すること、前記培地を吸引及び排出して前記培地を攪拌すること、前記培養容器に攪拌羽を設置し培地を攪拌すること、前記培養容器に攪拌子を入れ培地を攪拌すること、またはこれらの組み合わせからなる方法のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の培養方法。
20日間培養後、スフェロイド数に100を乗算した値を前記凹みが形成する空間(マイクロ空間)の数で除算したスフェロイド残存率(%)が60%以上である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の培養方法。
前記培養容器が、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、及びシリコン樹脂のうちの1つまたはこれらの組み合わせからなる樹脂成形品であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載の培養方法。
前記凹みは、プラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいずれかまたはこれら組み合わせからなる表面改質処理方法により官能基を形成させて、水接触角が45度以下になるように処理されるとともに、さらに前記ポリヒドロキシエチルメタクリレートが固定化された細胞非接着表面を有することを特徴とする請求項1乃至16のいずれか一項に記載の培養方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の培養方法は、培養の効率が極めて低く、大量培養を行う際のボトルネックになっている。また、特許文献2,3の培養方法は、単位面積当たりのスフェロイド形成効率は高いが、培地交換時にスフェロイドが空間内から離脱する恐れがある。このため、培地交換時に注意を要する。さらに、スフェロイドの離脱を防ぐためにスフェロイドの一部をマイクロ空間内に接着させる方法が検討されている(特許文献4)。しかし、細胞の接着性は各種細胞毎に異なるため、使用する細胞毎に表面処理方法を検討する必要があり実用性にかける。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、均一な大きさのスフェロイドを高効率にまたは高効率かつ大量に作製することを可能とするため、培地交換と細胞回収とが容易に実施可能となるマイクロ空間構造を設計し、設計したマイクロ空間構造を有する培養容器及びそれを用いる培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態の係る培養容器の一態様は、底部と開口部とからなる複数の凹みが配列するものである。前記底部が、半球状と円錐台とのいずれかの形状を有し、前記開口部が、前記底部との境界から前記凹みの端部までを囲むテーパ角1度以上20度以下の壁で構成される。加えて、前記境界の相当直径が50μm以上2.5mm以下であり、前記底部の底から前記端部までの深さが前記相当直径の0.6倍以上3倍以下であり、前記開口部を構成する壁が前記底部と連続する面を形成し、かつ、前記連続する面の傾斜が前記境界で変化する。
【0009】
また、一実施形態の培養容器において、前記端部の形状が半球状、台形、または逆三角形のいずれかであることが好ましく、隣り合う二つの凹みの間が平坦であり、前記二つの凹みの距離が5μmから50μmであることが好ましい。
さらに、一実施形態の培養用において、前記培養容器が、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、及びシリコン樹脂のうちの1つまたはこれらの組み合わせからなる樹脂成形品であることが好ましい。前記凹みへ、プラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいいずれかまたはこれら組み合わせからなる表面改質処理方法により官能基を形成させて、水接触角が45度以下になるように処理されたことが好ましい。
前記凹みへ、細胞接着を阻害する親水性のポリマー鎖が固定化されていることが好ましい。
前記凹みへ、リン脂質、または、リン脂質・高分子複合体が固定化されていることが好ましい。
前記凹みへ、プラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいいずれかまたはこれら組み合わせからなる表面改質処理方法により官能基を形成させて、水接触角を45度以下になるように処理した後、細胞接着を阻害する親水性のポリマー鎖、及び、リン脂質、または、リン脂質・高分子複合体のうちのいずれか一つのポリマーが固定化されている細胞非接着表面であることが好ましい。
前記親水性のポリマー鎖がポリヒドロキシエチルメタクリレートであることが好ましく、前記ポリヒドロキシエチルメタクリレートの平均分子量が10万以上であることがより好ましい。
【0010】
本発明の一実施形態の係る培養方法の一態様は、上述したいずれかの培養容器を用いる。そして、この培養方法は、総細胞数が、前記培養容器が有する前記凹みの数(N)以上であり、前記凹みが形成する空間の体積(V1)を播種する細胞の体積(V2)で割った値に前記凹みの数(N)を掛けた数以下である細胞を培地に分散させ、前記培地を前記培養容器に添加する。
【0011】
本発明の一実施形態の係る培養方法の一態様において、前記凹みが形成する空間1個につき1個のスフェロイドを形成させることが好ましく、前記空間にスフェロイドを形成させてスフェロイドを成長(増殖)させることがより好ましい。
分化誘導させる場合は、前記空間にスフェロイドを形成させた状態で誘導することが好ましい。
前記培養容器内に形成されたスフェロイドの総数の60%以上が、平均スフェロイド直径のプラスマイナス5%の範囲内の直径であることが好ましい。
前記培地を攪拌することで前記凹み内の細胞を回収することが好ましく、前記培地の攪拌が、前記培養容器を振とうして前記培地を攪拌すること、前記培地を吸引及び排出して前記培地を攪拌すること、前記培養容器に攪拌羽を設置し培地を攪拌すること、前記培養容器に攪拌子をいれ培地を攪拌すること、またはこれら組みあわせからなる方法のいずれかであることがより好ましい。
前記培地を少なくとも1回以上交換し、交換する培地の割合が20%以上であることが好ましい。
本発明の一実施形態の係る培養方法の他の一態様は、上述したいずれかの培養容器を用いる。そして、培養方法は、以下の各工程を実施することにより細胞を播種、培養、培地交換、回収する。
a)培養容器に存在する凹みの数(n)と同数以上、前記凹みの体積(V)を播種する細胞の体積(v)で割った値に前記凹みの数(n)を掛けた数以下の細胞数を培地に分散させ、前記培地を培養容器に添加する工程、
b)12時間以上前記培養容器内で前記細胞を培養してスフェロイドを形成させる工程、
c)前記培地を20%以上吸引した後、同量の新鮮な培地を注入する工程、
d)前記a)からc)の工程を複数回行い、スフェロイドを成長させる工程、
e)前記スフェロイドを所望の大きさに成長させた後、前記培地を攪拌して各凹み内の細胞を前記培地中に浮遊させる工程、及び
f)前記培地ごと前記細胞を吸引機にて吸い取り前記細胞を回収する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、均一な大きさのスフェロイドを高効率かつ大量に作製することが可能な上、容易に培地交換と回収との実施を可能するマイクロ空間構造を設計し、設計したマイクロ空間構造を有する培養容器及びそれを用いる培養方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において同一の構成または機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0015】
実施形態1.
<培養容器>
図1は、一実施形態の培養容器の一例を示す図である。
図1では、複数の培養容器1を有する培養プレート3の一部分を示す。
図1の上段には、培養容器1の底に形成される複数の凹み10の一部分を、培養プレート3の上からみた図を示す。培養容器1は、複数の凹み10が配置される。複数の凹み10は、培養容器1の製造や細胞培養の効率の観点から、規則的に配置されることが好ましい。培養容器1は例えば複数のウェルを有するウェルプレートの一つのウェルに相当する。言い換えると、ウェルプレートの各ウェルに複数の凹み10が配置されることになる。
ウェルプレートは、多数のくぼみ(穴またはウェル)のついた平板からなる実験・検査器具であり、各ウェルを試験管あるいはシャーレとして利用するものをいう。ウェルの数には例えば、6、24、96、384などがあり、それ以上の数のものもある。ウェルの底は平らなもの、丸いもののほか、細長いマイクロチューブを多数組み合わせた形式のもの(ディープウェルプレート)もある。
また、凹み10は、細胞を培養するための微小な空間であるマイクロ空間を形成することから、マイクロ容器ということもできる。
【0016】
図2、3は、実施形態1の凹みの形状例を示す図である。
図2では、一つの凹み10を横から見たときの断面図を示し、
図3は、一つの凹み10を上から見たときの図を示す。
図3に示す凹み10は、
図1の上段の凹み10の詳細な構成例となる。
各凹み10は、底部11と開口部12とから構成される。底部11は、培養容器1の底になる部分であり、開口部12は、底部11の上部に配置される部分である。底部11と開口部12とが接する部分を境界と記載する。
図2では、符号Rの矢印で示す長さの部分が境界の位置に対応する。また、
図3では、境界の位置を2点破線で示している。ただし、底部11と開口部12とは連続した面で構成され、一体として製造される。
【0017】
図2,3では、培養容器1に形成される複数の凹み10に関して、相当直径R、深さ(高さ)D、を示す。
相当直径Rは、凹み10の底部11に内接する内接円の直径をいう。ここでは、底部11と開口部12との境界において内接する内接円の直径をいう。より詳しくは、相当直径Rは、境界における、凹み10の高さHの方向と垂直になる面の形状の内接円の直径をいう。
深さDは、底部11の内側の底から凹み10の上端までの長さである。凹みの10の上端は、開口部12の端部(上端)と同じである。深さDは、凹み10が形成する空間の深さである。言い換えると、底部11が形成する空間の底から開口部12が形成する空間の上端までの深さである。
図2では凹み10の深さDに加え、底部11の深さD1及び開口部12の深さD2を示している。
【0018】
底部11は、細胞を培養する空間(第1空間)を形成する。底部11は、例えば、半球状の形状を有する。例えば、相当直径Rを直径とする球形を半分にした形状を用いることができる。底部11の形状について半球状に限定されるものではない。他の具体例については実施形態2で説明する。
開口部12は、細胞の培養及び回収を補助するように働く空間(第2空間)を形成する。開口部12は、底部11との境界から凹み10の端部(先端)までを囲むテーパ角が1度以上20度以下の壁で構成される。開口部12を構成する壁のテーパ角が5度以上15度以下であることが好ましく、10度がより好ましい。その理由は、テーパ角が小さすぎると回収する際に細胞が凹みから培地に移行できず、逆に大きすぎると培地交換中に細胞が離脱するからである。
【0019】
図2ではテーパ角を符号θ1、θ2で示す。
図2,3に示す凹み10の形状例では、テーパ角θ1、θ2は略同じ場合を示している。
底部11と開口部12との境界は、相当直径Rが50μm以上1mm以下となるように形成される。スフェロイドの中心部まで栄養を供給したい場合は相当直径50μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以上500μm以下が好ましい。その理由は、栄養分や酸素は拡散によってのみ細胞内に移行するが、中心部が壊死しない大きさは300μmといわれており(Efrem Curcio et al.,"Mass transfer and metabolic reactions in hepatocyte spheroids cultured in rotating wall gas-permeable membrane system", Biomaterials 28 (2007) 5487-5497)、その大きさ以上にならないようにするためには、上記直径が好ましい。
逆にガン細胞のように細胞の中心部にネクローシスを作製したいような場合(Franziska Hirschhaeuser et al.,"Multicellular tumor spheroids: An underestimated tool is catching up again", Journal of Biotechnology 148 (2010) 3-15, Fig1)には、相当直径Rが400μm以上2mm未満であることが好ましい。その理由は、上述したように300μmでは中心部まで栄養がいきわたりネクローシスを起こさない場合考えられるからである。よって300μm以上の直径のスフェロイドを得るためには、400μm以上なければならない。
加えて、底部の底から端部までの深さDが相当直径Rの0.6倍以上3倍以下となるように形成される。好ましくは、深さDが相当直径R0.7倍以上1.2倍以下であり、より好ましくは、0、8〜1倍である。
【0020】
また、培養容器1は、隣り合う二つの凹み10の間が平坦であることが好ましい。例えば、二つの凹み10の距離が5μmから50μmの範囲であることが好ましい。その理由は、大量のスフェロイドを効率的に得るためには、単位面積あたりのスフェロイド数を多くし高密度で培養することが好ましいからである。そのためにはスフェロイドが形成されない壁の上面は小さいほどよい。ただし、テーパ角が小さい場合は壁が薄いと細胞播種時や培地交換時の振動により容易に亀裂が生じる可能性がある。そのため5μm以上であることが好ましい。このような観点から5〜20μmが好ましい。
これに対して、隣り合う二つの凹み10が接触する場合であってもよい。例えば、二つの凹み10の端部の一部分が接触し、開口部12のテーパ角の斜面が接触して山形の形状となっていてもよい。
【0021】
上述した形状に加え、培養容器1は以下のように製造されることが好ましい。
培養容器1が、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、及びシリコン樹脂のうちの1つまたはこれらの組み合わせからなる樹脂成形品であることが好ましい。
【0022】
培養容器1が有する各凹み10へ、プラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいいずれかまたはこれら組み合わせからなる表面改質処理方法により官能基を形成させて、水接触角が45度以下になるように処理されることが好ましい。
加えて、各凹み10へ、細胞接着を阻害する親水性のポリマー鎖が固定化されていることが好ましい。親水性のポリマー鎖は、上述した水接触角が45度以下になるように処理された各凹み10へ固定化されることがより好ましい。
さらに加えて、各凹み10へ、リン脂質、または、リン脂質・高分子複合体が固定化されていることが好ましい。この固定化の処理は、上述した水接触角が45度以下になるように処理された各凹み10、親水性のポリマー鎖が固定化された各凹み10、またはこれらを組合せた各凹み10へ実施されることがより好ましい。
【0023】
さらに、各凹み10へ、プラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいいずれかまたはこれら組み合わせからなる表面改質処理方法により官能基を形成させて、水接触角を45度以下になるように処理した後、細胞接着を阻害する親水性のポリマー鎖、及び、リン脂質、または、リン脂質・高分子複合体のうちのいずれか一つのポリマーが固定化されている細胞非接着表面であることが好ましい。この処理は、上述した各処理、または各処理の組合せた処理とともに実施されることがより好ましい。
また、上述した親水性のポリマー鎖がポリヒドロキシエチルメタクリレートであることが好ましく、さらに、ポリヒドロキシエチルメタクリレートの平均分子量が10万以上であることがより好ましい。
【0024】
<培養方法>
次に、
図1乃至3に示す培養容器1を用いる細胞の培養方法について説明する。
細胞の培養は次の各工程により実施する。
a)細胞を分散させた培地を培養容器1へ添加する工程
b)細胞を培養する工程
c)培地を交換する工程
d)スフェロイドを成長させる工程
e)スフェロイドを培地の中に浮遊させる工程
f)細胞を回収する工程
上述した各工程は、a)からd)が細胞を培養する工程(細胞培養工程)であり、e)、f)が細胞を回収する工程(細胞回収工程)と区分することもできる。
ここで、スフェロイドは、細胞が多数凝集して細胞塊を形成し、3次元状態になったものである。
【0025】
以下に各工程について説明する。
a)細胞を分散させた培地を培養容器1へ添加する工程
細胞を培養する準備を行う工程であり、培地に以下の総数の細胞を分散させ、培養容器1へ添加する。
総細胞数の下限は、培養容器1に存在する凹み10の数(n)と同数以上とする。
総細胞数の上限は、培養容器1が有する凹み10の体積(V)を播種する細胞の体積(v)で割った値に、凹みの数(n)を掛けた数以下とする。記号を用いた数式で表すと、細胞総数の上限値=V/v×n、と表すことができる。ここで、複数の凹み10の体積(V)は同じであることを前提とする。異なる場合には平均値を用いる。
培地は培養する細胞に応じて調整する。
【0026】
b)細胞を培養する工程
培養容器1内で12時間以上、細胞を培養し、スフェロイドを形成させる。培地に分散させた細胞は、培養容器1へ培地を添加すると、凹み10へ取り込まれ、各凹み10内で培養される。各凹み10に細胞が1個取り込まれることが好ましく、底部11が形成する空間に1個のスフェロイドが形成されることが好ましい。各凹み10内では、細胞が凹み10の底部11内で増殖する。培養播種時に細胞が最低1個なければ、培養中に隣の凹み10から細胞が移動することはないので、その凹み10にスフェロイドは形成されない。スフェロイドを高密度に培養するためには、全ての凹み10にスフェロイドが形成されることが好ましいことから、最低1個の細胞が凹み10に存在することが好ましい。生産効率の観点から、初期の細胞数はできる限り少なくする一方で多くのスフェロイドを回収できることが好ましいため、凹み10に存在する細胞数は少ないほどよい。そのため、1個の細胞が凹み10に存在することが好ましい。
c)培地を交換する工程
培地交換では、培養容器1内の培地を20%以上吸引した後、同量の新鮮な培地を注入する。培地交換は、細胞培養中少なくとも1回以上実施されることが好ましい。
d)スフェロイドを成長させる工程
上述したa)からc)の工程を複数回行い、スフェロイドを成長させる。分化誘導させる場合は、凹み10の底部11が形成する空間において、スフェロイドが大きくならない状態まで成長させた後、分化誘導培地に交換して分化させることが好ましい。加えて、培養容器1内に形成されたスフェロイドの総数の60%以上が、平均スフェロイド直径のプラスマイナス5%の範囲内の直径であることがより好ましい。
【0027】
e)スフェロイドを培地中に浮遊させる工程
スフェロイドを所望の大きさに成長させた後、培養容器1の培地を攪拌して各凹み11内で培養した細胞を培地中に浮遊させる。例えば、培地を攪拌することによって実施する。具体的には、培地の攪拌は、(1)培養容器1を振とうして培地を攪拌すること、(2)培地を吸引及び排出(ピペッティング操作)して培地を攪拌すること、(3)培養容器1に攪拌羽を設置し培地を攪拌すること、(4)培養容器1に攪拌子をいれ培地を攪拌すること、(5)上述した(1)から(4)の二つ以上を組合せて培地を攪拌すること、のうちのいずれかの方法を用いることができる。
f)細胞を回収する工程
培養容器1内の細胞含む培地を吸引機にて吸い取り、培地に浮遊させた細胞(スフェロイド)を回収する。
【0028】
以上説明したように、実施形態1では、細胞の播種、培地交換、回収を同じ容器で行うことができることに加えて、スフェロイドを回収可能な養容器に関して説明した。
実施形態1の培養容器1を用いて細胞を培養することにより、底部11に所望の大きさのスフェロイドを形成することができる。そして、培養したスフェロイドを効率よく回収することができる。具体的には、凹み10が底部11に加え、開口部12を有することにより、培地交換では培地を吸い取るときに細胞が底部11に接着または浮遊しているが離脱しない状態を維持しやすくし、底部11からの細胞の離脱を抑制することが期待できる。一方、細胞の回収では、底部11の培地を吸引及び排出するときに、開口部12により培地の流れを生じやすくすることが期待できる。加えて、底部11に半球状の形状を用いることにより、スフェロイドの形状、大きさを均一にすることに寄与することが期待できる。
【0029】
実施形態2.
実施形態1では、底部11が半球状の形状を有する構成例を説明したが、実施形態2では他の形状について説明する。底部は、球形状の一部分からなる形状、円錐台の形状、あるいは、線状から形成されている態様であってもよい。底部が線状とは、実質的な底部がなく、凹みが開口部のみから形成されている態様である。
図4から
図7に本実施形態の凹みの形状例を示す。
図4から
図7は、実施形態1の底部11と異なる底部21A〜21Dを有する凹み20A〜20Dを示すが、開口部12については実施形態1と同様の形状で実現できるため同じものを組み合わせた凹みの形状例を示す。
【0030】
図4,5は、実施形態1が底部11に球を半分にした半球状を用いることに対して、底部に用いる半球形の形状が異なる例を示している。
図4は、球形の半分よりさらに少ない部分を用いる底部21Aを示す。言い換えると、底部21Aが半球状の一部分を用いる場合である。
図5は、底が半球形である筒型の形状を用いる底部21Bを示す。
図5に示す底部21Bの形状の場合、筒の部分が長くなると細胞を回収するときに細胞が底部21Bから培地へ浮遊しなくなるため、筒の部分の長さを調整することが好ましい。例えば、底部21Bと開口部12との深さ(高さ)が同じ割合(1:1)となるように構成することが好ましい。
図6は、円錐台を用いる底部21Cを示す。底部が平らである場合、光の屈折・干渉が軽減でき顕微鏡観察を行う際には有用である。
図7は、底部21Dが線状、言い換えると底部21Dが空間を形成しない凹み20Dの形状例を示す。凹み20Dは、他の形状の培養容器に比べて細胞の培養・回収の効率は劣るものの、培養容器の製造工程が容易であるという利点がある。
【0031】
なお、本実施形態では上述した通り開口部12を実施形態1と同様の形状で実現する場合を説明したが、これに限られるわけではない。
本実施形態の培養容器を用いる細胞の培養方法は実施形態1と同様であるため説明を省略する。
本実施形態の培養容器も実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0032】
実施形態3.
上述した各実施形態では、開口部12の形状を円形または略円形である態様を説明したが、他の形状の開口部を有する培養容器について説明する。開口部の端部の形状は、半球状、台形、または三逆三角形等の他の形状であってもよい。一方、開口部が底部と接する境界の形状(開口部の境界部分)は、底部の境界部分と同じ形状であることが必要である。
図8,9は、実施形態1の開口部12と異なる端部の形状を有する凹み30A、30Bを表している。
図8,9では、実施形態1と同じ底部11を表しているが、実施形態2の底部21A〜21Dのいずれかと組み合わせることも可能であり、他の形状の底部であってもよい。底部及び開口部の形状は、その境界において斜面が連続して形成できる組合せであればよい。
【0033】
図8は、開口部32Aの端部が曲線を描く形状の一例を示している。
図8は、凹み30Aを上から見た図であり、底部11の端部を相当直径Rの円で示し、開口部32Aの外周を曲線で示している。開口部32Aの端部は左右及び上下が対称とならない曲線であるが、左右対称、または上下対称となるような形状であっても構わない。
図9は、開口部32Bの端部が矩形である例を示している。
図9では、正方形の例を示しているが、他の多角形、曲線と直線との組合せであってもよい。
図9は、凹み30Bを上から見た図であり、底部11の端部を相当直径Rの円で示し、開口部32Bの外周を正方形の実線で示している。例えば、隣接する凹みとの間の空間の面積を調整するために端部の形状を変形させてもよい。開口部の端部の形状は細胞の浮遊を促進する役割を果たすことが必要であるため、テーパ角が重要となる。
図8,9の形状例では、テーパ角は開口部32A、32Bの形状に応じて異なる値となる。これは、開口部32A、32Bの形状に応じて、壁を形成する斜面の傾斜が異なるからである。
【0034】
本実施形態で示した開口部の各形状は、実施形態1の底部11または実施形態2で説明した底部の各形状と組合せることが可能である。加えて、上述した実施形態で示す底部以外の形状と組合せも可能であることは言うまでもない。
本実施形態の培養容器を用いる細胞の培養方法は実施形態1と同様であるため説明を省略する。
本実施形態の培養容器も実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0035】
実施形態4.
図1では、一実施形態の培養容器1を培養プレート3(ウェルプレート)に配置した態様を説明した。一実施形態の培養容器1は、
図1の培養プレート3以外の容器(器具)にも形成することができる。
図10から12に実施形態4の培養容器の構成例を示す。
図10は、フラスコ形状の培養フラスコを用いる構成例を示す概略図である。
図11は、培養プレートの枠を用いる構成例を示す概略図である。
図12は、
図11に示す培養プレートをスタック形状にして用いる構成例を示す概略図である。
【0036】
図10では、培養フラスコ4の底の面を培養面4A(培養底面)とする。培養面4Aは
図1に示す培養容器1に相当するため、培養容器ということもできる。培養面4Aは、
図1の培養容器1と同様に、同じ培地を用いる単位となる。培養フラスコ4は、キャップ4Bを有する。培養面4Aの面積は、用途に応じて設計すればよい。一般的な培養フラスコは、25,75,225cm2がある。培養フラスコ4の培養面4Aには、複数の凹み40が形成される。例えば、培養フラスコ4の底の面のうち、網掛け部分を培養面4Aとして設計し、培養面4Aに複数の凹み40を形成する。凹み40の形状(底部及び開口部の形状)は、上記各実施形態のいずれであってもよい。
図11では、培養プレートの枠のみを用いる例である。
図1では培養プレート3に培養容器1(ウェル)が形成されているが、
図11では培養プレート5の底の面を培養面5A(培養底面)とする。培養面5Aは、
図1に示す培養容器1に相当するため、培養容器ということもできる。培養面5Aは、同じ培地を用いる単位となる。培養面5Aの構成例(概略断面図)を
図11の下段に示している。例えば、培養プレート5の底の面のうち、網掛け部分を培養面5Aとして設計し、培養面5Aに複数の凹み50を形成する。
図11に示す凹み50は、模式的に示したものであり、凹み50の数、大きさい等は、用途に応じて設計されるものである。凹み50の形状(底部及び開口部の形状)は、上記各実施形態のいずれであってもよい。
図12に、
図11に示す培養プレート5を複数積み上げて構成するセルスタック形態の構成例、言い換えると多段式の構成例を示す。より大面積化し閉鎖系で培養する場合には、セルスタック形態を用いるのが一般的である。
図12では、
図11に示す培養プレート5を積み上げた例を示したが、
図1に示す培養プレート3を積み上げてもよい。
図12中、複数の培養容器を積み上げたものを収納し、培地を交換するための仕組みを提供する容器については、省略している。複数の培養プレートを収納する容器は、例えば、一般的なスタック形状の培養容器を用いることができる。ここでは説明を省略する。
【0037】
その他の実施形態.
上記各実施形態では、底部と開口部との境界を培養容器の底と平行するようにあらわしているが、必ずしも底と平行でなくてもよい。例えば、境界が底に対して傾斜していてもよく、境界が曲線を描くように形成されていてもよい。底部11においてスフェロイドが形成されるように十分な空間が形成できればよい。
【0038】
[実施例]
細胞凝集体の培養容器及び回収方法について、次の実施例、比較例の試験を行った。
(1)培養容器
表1に示す培養容器を用いた。
【0040】
実施例の培養容器は、
図1−3に示す凹み10を有するウェル(培養容器1)を培養プレートに形成したものを作製した。
表1中、マイクロ容器は、
図1−3の凹み10に相当し、マイクロ空間は、凹み10(マイクロ空間)が形成する空間である。一ウェル当たりのマイクロ空間の数は、一ウェル当たりの凹みの数であるともいえる。
【0041】
(2)培養方法
後述する残存率及び回収率を画像解析により算出するため、GFPで蛍光標識した内胚葉細胞を用いた。この内胚葉細胞、血管内皮細胞とヒト間葉系幹細胞各々10:5-10:2の割合で混合し、内皮細胞培地キット-2:EGM-2 BulletKit(製品コード CC-3162:Lonza)で30日間培養を行った。培地は2日に1回交換した。
(3)スフェロイド残存率の測定
共焦点レーザ顕微鏡を用い、ウェル全体を観察、画像解析ソフトを用いてスフェロイドを認識させ、その数をカウントし、スフェロイド数とした。以下の式でスフェロイド残存率を計算した。
スフェロイド残存率(%)=スフェロイド数×100/マイクロ空間の数
細胞播種後数時間後(ゼロ日)、いずれの培養容器も90%以上のマイクロ空間でスフェロイド様の塊が形成されていた。培養10日目、20日目の培地交換後のスフェロイドの数をゼロ日目のスフェロイド数で其々割った値をスフェロイド残存率とした。
(4)回収方法
培養終了後、ピペット(メーカ、型番)を用いて溶液を攪拌し、浮遊してきたスフェロイドを回収した。例えば、24ウェルプレートでは500μL〜1mLの培地が入っているので、最大1mLの培地が吸引できるピペットを用いるのが適している。
(5)回収効率
回収前後に共焦点レーザ顕微鏡で画像を取得した。
【0042】
(6)結果
図13に培地交換時のスフェロイドの残存率を示す。縦軸にスフェロイドの残存率(Sphere Number)を、横軸に培養日数を示す。
図13では、培養開始から20日までのデータを示す。
図13に示すように、実施例より比較例が大きく減少していることが示されている。20日培養した後、実施例は、スフェロイドの残存率が60%以上となり、比較例の1.5倍に向上した。
【0043】
図14に、実施例及び比較例の培地交換前後のスフェロイドの画像を示す。
図14では、培養四日目、2回目の培地交換前後の培養容器内のスフェロイドの画像を示す。
図14の左側が実施例(Kuraray p-HEMA)、右側が比較例(Iwaki MPC)の写真である。また、上段に培地交換前、下段(矢印より下)に培地交換後の画像を示す。より詳細には、下段の画像は、培地交換前の状態から、培地の半量を交換する(半量交換)、二度の培地交換を実施した後を示す。
画像中、白色に見える部分がスフェロイドである。培地交換前は全体にスフェロイドが確認される。培地交換後は、実施例では培地交換前後で大きな違いはなく、ほとんどのスフェロイドが残存しているが、比較例では約半分程度しか残存していない。
【0044】
図15に、実施例の細胞を回収した前後の画像を示す。
図15中、左側(BEFORE)は回収前の画像、右側(AFTER)は回収後の画像である。上段に培養容器全体の画像を、下段に培養容器の一部分を拡大した画像を示す。
図16に実施例の培養容器から回収した後のスフェロイドの写真を示す。
黒色の円形のマイクロ容器(凹み)内の点状のものがスフェロイドである。回収後の画像には点状のものがなく、ほぼ100%回収できている。また、
図16に示すように、回収後の細胞の形態は良好なスフェロイドの形をしており、回収操作によりスフェロイドが破壊されることはなかった。
【0045】
なお、本発明は上記に示す実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲において、上記実施形態の各要素を、当業者であれば容易に考えうる内容に変更、追加、変換することが可能である。
【0046】
この出願は、2013年6月7日に出願された日本出願特願2013−120915を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。