特許第6892562号(P6892562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892562
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】圧力容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20210614BHJP
【FI】
   F17C1/06
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-553075(P2020-553075)
(86)(22)【出願日】2019年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2019039406
(87)【国際公開番号】WO2020085054
(87)【国際公開日】20200430
【審査請求日】2021年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2018-199016(P2018-199016)
(32)【優先日】2018年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023917
【氏名又は名称】八千代工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 航
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/066293(WO,A1)
【文献】 特開2011−163354(JP,A)
【文献】 特開2006−307947(JP,A)
【文献】 特開2017−145962(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/020972(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部および一対のドーム部を有するライナーと、前記ライナーの外側に形成される繊維強化樹脂材からなる補強層と、を備えた圧力容器であって、
前記補強層は、
前記各ドーム部に高角度ヘリカル巻きで膨出するように形成された膨出部と、
一対の前記膨出部の各頂上間にわたってフープ巻きあるいは前記高角度ヘリカル巻きよりも高角度で巻かれる略フープ巻きで形成される中間部と、を備え
前記膨出部は、ストランドを周方向に重なるように巻くことによって、局所的に厚みが増すように山形状に形成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記中間部は、前記頂上から、一旦、前記膨出部の軸方向外側の傾斜面の延長面となるように曲面状に形成されたうえで、前記ライナーの軸方向と平行に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒部および円筒部の両側に形成される一対のドーム部を有するライナーと、ライナーの外側に形成される繊維強化樹脂材からなる補強層と、を有する圧力容器が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
補強層は一般にフィラメントワインディング法により形成されている。フープ巻きは、図4(a)に示すように繊維補強材30を圧力容器31の軸心Oと略直交する方向に巻く巻き方であり、低角度ヘリカル巻きは、図4(b)に示すように軸心Oに対して低い配向角度θ2で巻く巻き方であり、高角度ヘリカル巻きは、図4(c)に示すように軸心Oに対して高い配向角度θ1で巻く巻き方である。一般に、フープ巻きは円筒部32を補強する目的で、低角度ヘリカル巻きはドーム部33の先端周りを補強する目的で行われる。高角度ヘリカル巻きは、主にフープ巻きや低角度ヘリカル巻きでは補強しきれない部位、すなわちドーム部33のうちで円筒部32寄りの部位である肩部35を補強する目的で行われることが多い。
【0004】
特許文献2には、肩部の補強にフープ巻きを適用した技術が記載されている。具体的には、肩部の延長面となるように、ライナーの円筒部の端部にフープ層を形成する技術が記載されている。すなわち、フープ層のフープドーム部がライナーの肩部の一部を担う構造としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−246962号公報
【特許文献2】特許第5408351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の技術では、フープ層のフープドーム部は、肩部の延長面となるように形成されている。すなわち、フープ層のフープドーム部は、ライナーのドーム部の先端側に向かうにしたがい薄くなる構造である。したがって、肩部の補強の強度は、ライナーのドーム部の先端側に向けて徐々に低減することとなる。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために創作されたものであり、ライナーのドーム部の強度低下の抑制を図れる圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、円筒部および一対のドーム部を有するライナーと、前記ライナーの外側に形成される繊維強化樹脂材からなる補強層と、を備えた圧力容器であって、前記補強層は、前記各ドーム部に高角度ヘリカル巻きで膨出するように形成された膨出部と、一対の前記膨出部の各頂上間にわたってフープ巻きあるいは前記高角度ヘリカル巻きよりも高角度で巻かれる略フープ巻きで形成される中間部と、を備え、前記膨出部は、ストランドを周方向に重なるように巻くことによって、局所的に厚みが増すように山形状に形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、次の効果が奏される。
(1)高角度ヘリカル巻きによる厚みのある膨出部でドーム部を局所的に十分に補強できる。ライナーの形状は単純なドーム形状のままで済むため、応力集中を抑制でき、ライナーの厚肉部を特段設けないことによる内部流体の影響を抑制できる。
(2)膨出部の頂上間にわたってフープ巻きあるいは前記高角度ヘリカル巻きよりも高角度で巻かれる略フープ巻きの中間部を備えることにより、膨出部の形成によってできる段差を無くすことができる。これにより、外層のうねりを抑制でき、圧力容器の強度低下を抑制できる。
【0010】
また、本発明は、前記中間部は、前記頂上から、一旦、前記膨出部の軸方向外側の傾斜面の延長面となるように曲面状に形成されたうえで、前記ライナーの軸方向と平行に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、簡単な構造で膨出部の段差を無くすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ライナーのドーム部の強度低下の抑制を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る圧力容器の側断面図である。
図2】本発明に係る膨出部周りの側断面図である。
図3図1におけるIII-III断面図である。
図4】フィラメントワインディング法の概略説明図であって、(a)はフープ巻き、(b)は低角度ヘリカル巻き、(c)は高角度ヘリカル巻きを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の圧力容器はLPG等の低圧ガス、水素ガス等の高圧ガス、その他の流体を貯留する容器として適用できる。図1に示すように、本発明の圧力容器1は、ライナー2と、ライナー2の外側にフィラメントワインディングにより形成される繊維強化樹脂材からなる補強層6とを有する。
【0015】
ライナー2は、略定断面の円筒形状の円筒部3と、円筒部3の両端に形成されるドーム部4,4とを有する。少なくとも一方のドーム部4の平面部4Bの中央には、ライナー2の軸心Oと同軸状に金属製の口金5がライナー2と一体成形されている。ライナー2は例えばポリエチレン等の合成樹脂材から構成され、インジェクション成形やブロー成形等により形成されている。
【0016】
ドーム部4は、円筒部3の端部から曲面状に縮径する肩部4Aと、肩部4Aの先端側に形成され軸心Oとの略直交面をなす平面部4Bとを有した形状からなる。場合により、平面部4Bを形成することなく、円筒部3の端部から口金5にかけて全て曲面状に縮径形成してもよい。
【0017】
補強層6は、強化繊維の束からなるストランドを、図示しない回転装置により軸心O回りに回転するライナー2の外面に巻き付けることで形成される。補強層6は、各ドーム部4の肩部4Aに高角度ヘリカル巻きで膨出するように形成された膨出部7と、一対の膨出部7の各頂上7A間にわたってフープ巻きあるいは前記高角度ヘリカル巻きよりも高角度で巻かれる略フープ巻きで形成される中間部8とを備えている。
【0018】
フープ巻きは、図4(a)で説明したように圧力容器の軸心Oと略直交する方向に巻く巻き方であり、高角度ヘリカル巻きは、図4(c)で説明したように軸心Oに対して高い配向角度θ1で巻く巻き方である。低角度ヘリカル巻きは、図4(b)で説明したように軸心Oに対して低い配向角度θ2で巻く巻き方である。高角度ヘリカル巻きの配向角度θ1は、概ね軸心Oに対し65°〜75°の範囲である。低角度ヘリカル巻きの配向角度θ2は、概ね口金5に掛け回し可能な最小角度以上で15°以下の範囲である。
【0019】
「膨出部7」
本実施形態では、ライナー2の円筒部3および肩部4Aの表面に高角度ヘリカル巻きを行っている。図3に示すように、肩部4Aの径寸法は円筒部3の径寸法よりも小さいから、円筒部3においてストランド20同士がぴったり隣接して巻かれる場合には、肩部4Aにおいてはストランド20同士が円周方向に重なるようにして巻かれる。したがって、その分、径方向の厚みが増し、肩部4Aに山形状の膨出部7が形成される。
【0020】
図2において、肩部4Aは曲面状に傾斜しているため、ストランドの含浸樹脂材の粘度が低いと、ストランドが肩部4A上で滑って巻かれてしまい、目が開いてストランドを密に巻くことができない。したがって、ストランドの含浸樹脂材は、所定粘度以上の高粘度のものを使用することが好ましい。本発明者が高粘度の含浸樹脂を使用して試験を行った結果、ライナー2の肩部の表面に対してほとんど滑ることなくストランドを密に巻けることを確認できた。ただし、次第にストランドが厚みを増していくと、その径方向外側では滑りが生じやすくなっていくため、膨出部7の形状は、頂上7Aを最膨出点として円筒部3寄り、平面部4B寄りにそれぞれ緩曲面状の傾斜面7B,7Cを有する山形状を呈することとなる。本実施形態では、斜面長さは、傾斜面7Cの方が傾斜面7Bよりも長くなっている。なお、例えば、高角度ヘリカル巻きの配向角度θ1やライナー2の回転速度を変化させるなどして膨出部7を形成してもよい。
【0021】
「中間部8」
中間部8は、一対の頂上7A間にわたって形成されるフープ巻き、あるいは少なくとも膨出部7の高角度ヘリカル巻きの配向角度θ1よりも高角度で巻かれる略フープ巻きの層であり、円筒部3の表面に形成された高角度ヘリカル層9の外側と、膨出部7の傾斜面7Bの外側に形成されている。これにより、膨出部7の頂上7Aと中間部8との間には段差が形成されることがなく、膨出部7と中間部8とは互いに滑らかに連なることとなる。
【0022】
頂上7Aに連なる中間部8の表面の形状は、図2に示すように、頂上7Aから、一旦、膨出部7の軸心O方向外側の傾斜面、すなわち傾斜面7Cの延長面10となるように曲面状に形成されたうえで、軸心O方向と平行に形成されている。これにより、膨出部7と中間部8とを滑らかに連ならせることができる。
【0023】
膨出部7および中間部8の外側には、フープ巻き、低角度ヘリカル巻き、高角度ヘリカル巻きのうちの少なくとも1つで巻かれた外層11が形成されている。一般には、外層11は、フープ巻きと低角度ヘリカル巻きの混成層で構成することが多いが、本発明においては外層11の巻き方法については特に限定されない。図1から判るように、一対の頂上7A間における外層11の厚みは略一定である。
【0024】
以上のように、補強層6として、各ドーム部4に高角度ヘリカル巻きで膨出するように形成された膨出部7と、一対の膨出部7の各頂上7A間にわたってフープ巻きあるいは前記高角度ヘリカル巻きよりも高角度で巻かれる略フープ巻きで形成される中間部8とを備える構成とすれば、次のような効果が奏される。
(1)高角度ヘリカル巻きによる厚みのある膨出部7でドーム部4を局所的に十分に補強できる。ライナー2の形状は単純なドーム形状のままで済むため、応力集中を抑制でき、ライナー2の厚肉部を特段設けないことによる内部流体の影響を抑制できる。
(2)膨出部7の頂上7A間にわたってフープ巻きあるいは前記高角度ヘリカル巻きよりも高角度で巻かれる略フープ巻きの中間部8を備えることにより、膨出部7の形成によってできる段差を無くすことができる。これにより、外層11のうねりを抑制でき、圧力容器1の強度低下を抑制できる。
【0025】
中間部8を、頂上7Aから、一旦、膨出部7の軸心O方向外側の傾斜面7Cの延長面10となるように曲面状に形成したうえで、ライナー2の軸心O方向と平行に形成すれば、簡単な構造で膨出部7の段差を無くすことができる。
【0026】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。説明した実施形態は、膨出部7をライナー2のドーム部4の表面に直接、つまり膨出部7を補強層6の第1内側層として形成した。しかし、例えば、補強層6の第1内側層を他の巻き層から構成し、その上に膨出部7を形成するようにしてもよい。その他、本発明は図面に記載したものに限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 圧力容器
2 ライナー
3 円筒部
4 ドーム部
6 補強層
7 膨出部
8 中間部
9 高角度ヘリカル層
10 延長面
11 外層
図1
図2
図3
図4