(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1にも記載されているように、レーダ信号の中から移動物体を抽出するために、速度成分がゼロに近い信号を静止物体として取り除き、残った信号を移動物体と判定する方法が使われる。
【0007】
ここで、レーダ装置自体が移動している場合、静止物体は速度成分がゼロにならず、静止物体とレーダ装置との角度方向に応じて相対速度が測定されるが、自車の速度v
0と測定された静止物体の角度θ
1とその相対速度v
1からv
1=v
0×cos(θ
1)の関係となる場合に静止物体と判定することができる。
【0008】
しかしながら、レーダ装置は、電波がガードレールなどで反射する、所謂マルチパス環境下に置かれることが多く、マルチパス環境下ではゴーストが発生し、上述の関係が成り立たなくなり、静止物体を取り除く際に問題が生じる。つまり、静止物体であるにかかわらず移動体と判定されてしまう問題がある。具体的には、例えばガードレールは静止物体にあるにもかかわらず、レーダ装置からはガードレールの反射点が移動物体に見えてしまう。
【0009】
このマルチパス環境下におけるゴーストについて、
図1を用いて簡単に説明する。ミリ波レーダによる車間距離センサにおいては、先行車11で反射した電波12が、トンネル壁、防音壁、ガードレールなどの壁13などで反射すると、壁の中をゴースト14が走行しているように見える。
【0010】
特許文献2では、所定角度の範囲の受信ビームのうち、ゴーストの生じている角度範囲の受信ビームを無効ビームとするようになっているが、このようにした場合には、無効ビームの角度範囲に歩行者等の移動物体が存在すると、それを検出できないこととなり、甚だ不都合である。
【0011】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、従来と比較して静止物体と移動物体とをより的確に検出できる物体検出方法及び物体検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の物体検出方法の一つの態様は、
自装置の移動速度v
0と、自装置の移動方向とターゲットによって反射されたレーダ波の受信方向とのなす角度θ
1と、を取得するステップと、
非マルチパス環境モデル及びマルチパス環境モデルそれぞれについて、自装置と前記ターゲットとの間の相対速度v
1を前記移動速度v
0及び前記角度θ
1を用いた関数で表す関数形成ステップと、
受信信号から、前記マルチパス環境モデルにおける前記相対速度v
1を算出するマルチパス相対速度算出ステップと、
前記マルチパス相対速度算出ステップで算出した前記相対速度v
1と前記角度θ
1とが、前記非マルチパス環境モデルの前記関数と、前記マルチパス環境モデルの前記関数との間に収まっているか否かに基づいて、受信信号が静止物体からのものであるか否かを判定する判定ステップと、
を含む。
【0013】
本発明の物体検出装置の一つの態様は、
自装置の移動速度v
0と、自装置の移動方向とターゲットによって反射されたレーダ波の受信方向とのなす角度θ
1と、を取得する取得部と、
非マルチパス環境モデル及びマルチパス環境モデルそれぞれについて、自装置と前記ターゲットとの間の相対速度v
1を前記移動速度v
0及び前記角度θ
1を用いた関数で表す関数形成部と、
受信信号から、前記マルチパス環境モデルにおける前記相対速度v
1を算出するマルチパス相対速度算出部と、
前記マルチパス相対速度算出部で算出した前記相対速度v
1と前記角度θ
1とが、前記非マルチパス環境モデルの前記関数と、前記マルチパス環境モデルの前記関数との間に収まっているか否かに基づいて、受信信号が静止物体からのものであるか否かを判定する判定部と、
を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来と比較して静止物体と移動物体とをより的確に検出できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0017】
<実施の形態の原理>
先ず、実施の形態の具体的な構成を説明する前に、実施の形態の原理について説明する。
【0018】
FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダで送信する送信周波数をω
0+ω
dtとすると位相はω
0t+ω
dt
2/2+φ
0と表されるから送信信号TX(t)は振幅をA
TXとして、次式のように表すことができる。
【数1】
【0019】
受信信号RX(t)はこの送信信号が時間τ遅延して受信されるので、次式のように表すことができる。
【数2】
【0020】
送信信号と受信信号をミキシングして次式で表されるローカル信号LO(t)を形成する。ただし振幅は以降の信号処理で使用しないため無視して1とおく。
【数3】
【0021】
ここで、本実施の形態では、
図2及び
図3に示したモデルを用いて、検知した物体が静止物体か否かの判定を行うようになっている。
図2は、マルチパス環境下でない場合(非マルチパス環境下)の静止物体からの反射モデルを示す。
図3はマルチパス環境下での反射モデルを示す。
【0022】
図中のv
0は自車速度を示す。θ
1は自車の移動方向と受信方向とのなす角度を示す。θ
2は自車の移動方向と静止物体1とのなす角度を示す。因みに、角度θ
2は実測では測定できない角度である。
【0023】
図2から、マルチパス環境下でない場合の静止物体とレーダ装置との相対速度v
1は、次式のように表すことができる。
【数4】
【0024】
また、
図3から、マルチパス環境下の場合の静止物体1とレーダ装置との相対速度v
1は、次式のように表すことができる。
【数5】
【0025】
本実施の形態では、式(5)の値を求めるために、以下のような処理を行う。
lをチャープ回数、T
PRIをチャープ繰り返し時間とすると、静止物体1への距離R
1(t,l)は、次式のように表すことができる。
【数6】
【0026】
ここで、式(6)の中で数値が小さいく影響の少ない項を省略すると、式(6)の近似値は、次式のようになる。
【数7】
【0027】
レーダ装置からの送信信号が静止物体1で反射し、さらに物体2で反射した後にレーダ装置で受信されるときの経路長R(t,l)は、次式のように表すことができる。
【数8】
【0028】
遅延時間τは電波伝搬速度cとして、次式で表すことができる。
【数9】
【0029】
よって、
図3のレーダ装置において、送信信号と受信信号をミキシングしたローカル信号LO(t,l)は、次式で表すことができる。
【数10】
【0030】
ここで、相対速度は、チャープ繰り返し回数lの方向のデータ処理で算出できるので、式(10)においてlにかかる項のみ取り出して、次式を得る。
【数11】
【0031】
ここで、式(11)において、ω
0,T
PRI,cは既知であるから、FFTなどの処理により、v
0(cos(θ
1)+cos(θ
2))を求めることができる。
【0032】
このようにして、受信信号から、マルチパス環境モデルにおける相対速度v
1を算出することができる。
【0033】
なお、マルチパス環境でない場合は、θ
1=θ
2とおけば2v
0cos(θ
1)が求められ、通常はv
0cos(θ
1)を測定値とするために2で除算される。
【0034】
本実施の形態では、θ
1は測定できるがθ
2は実際には測定できないことを考慮して、上述のような演算を行うことで、受信信号から、マルチパス環境モデル(つまり式(2))における相対速度v
1を算出するようになっている。
【0035】
因みに、上述の例では静止物体に1回反射するマルチパスを例に説明したが、2回以上静止物体で反射するマルチパスにおいても、最初に反射する物体の角度と最後に反射する物体の角度の2つのみで表すことができる。何故なら、静止物体間での反射は距離変化を生じないので、速度成分に現れないためである。
【0036】
図6は、本実施の形態による静止物体の判定の説明に供する図である。
【0037】
図中の実線は非マルチパス環境モデルの関数(つまり式(4)で表される関数)を示す。図中の点線はマルチパス環境モデルの関数(つまり式(5)で表される関数)を示す。但し、式(5)には変数θ
2が含まれているため、−1≦cos(θ
2)≦1の範囲のいずれかの値に固定する。本実施の形態では、cos(θ
2)=1に固定する。
【0038】
そして、本実施の形態では、受信信号から算出された、マルチパス環境モデル(つまり式(2))における相対速度v
1が図中実線で表される非マルチパス環境モデルの関数と、図中点線で表されるマルチパス環境モデルの関数との間に収まっている場合には、その受信信号は静止物体からのものであると判定する。
【0039】
因みに、図中の小さい丸は非マルチパス環境下の静止物体からの受信点であり、大きい丸はマルチパス環境下の静止物体からの受信点である。図からも、静止物体の受信信号から求められる相対速度v1は、非マルチパス環境モデルにおける相対速度v
1と、マルチパス環境モデルにおける相対速度v
1との間に収まっていることが分かる。
【0040】
<実施の形態の構成>
図4は、実施の形態によるレーダ装置の全体構成を示す概略図である。レーダ装置100は、送信機101、送信アンテナ102、受信アンテナ103、混合器104、フィルタ105、増幅器106、AGC(オートゲインコントローラ)107、A/D変換器108、及び信号処理部109を有する。
【0041】
送信機101は、ランプ波形に変調したミリ波信号を、送信アンテナ102から照射する。送信アンテナ102から所定のビーム角度で照射された電波は、先行車などのターゲットが存在する場合、ターゲットにより反射される。受信アンテナ103は、ターゲットにより反射された電波を受信する。受信された信号は、混合器104によって送信機101からの局部発振信号と混合され、フィルタ105、増幅器106、AGC107、A/D変換器108を経由して、信号処理部109へ入力される。
【0042】
信号処理部109では、各ターゲットについての相対距離、相対速度、及び位置等を計算する。なお、これらの構成及び作用は、従来のレーダ装置と同様なので、詳細な説明は省略する。信号処理部109は、例えば、ACC(自動走行制御装置)110と接続され、信号処理部109の計算結果は、ACC装置110へ出力される。ACC装置110は、レーダ装置100から取得した各ターゲット情報に基づいて、自動走行制御を行う。
【0043】
加えて、レーダ装置100は、物体検出部200を有する。物体検出部200は、信号処理部109で処理されたターゲットのうち静止物体を検出する。そして、物体検出部200は、どのターゲットが静止物体であったかを示す情報を信号処理部109に出力する。信号処理部109は、処理したターゲットのうち静止物体を除外し、移動物体の相対距離、相対速度、及び位置等を計算して、それをACC装置110に出力する。
【0044】
つまり、ガードレールや建物などの静止物体は、車の制御にあまり関係しない物体なので、これらはターゲットから除外し、移動物体のみをターゲットとして抽出し、これを例えば緊急ブレーキ等のターゲットとして用いる。
【0045】
図5は、物体検出部200の構成例を示すブロック図である。
【0046】
物体検出部200は、取得部201と、関数形成部202と、マルチパス相対速度算出部203と、判定部204と、を有する。
【0047】
取得部201は、自装置(レーダ装置100)の移動速度v
0と、自装置の移動方向とターゲットによって反射されたレーダ波の受信方向とのなす角度θ
1と、を取得する。具体的には、移動速度v
0は車速センサなどによって得られたものであり、角度θ
1は受信信号の到来方向検知部などによって得られたものである。
【0048】
関数形成部202は、例えばテーブルによって構成されており、非マルチパス環境モデル及びマルチパス環境モデルそれぞれについて、自装置とターゲットとの間の相対速度v
1を移動速度v
0及び角度θ
1を用いた関数で表したものを出力する。具体的には、関数形成部202は、
図6の実線で表される関数(非マルチパス環境モデルの関数)と点線で表される関数(マルチパス環境モデルの関数)とを出力する。
【0049】
マルチパス相対速度算出部203は、受信信号から、マルチパス環境モデルにおける相対速度v
1を算出する。具体的には、マルチパス相対速度算出部203は、式(1)〜式(11)を用いて上述したような手順で相対速度v
1を算出する。
【0050】
判定部204は、マルチパス相対速度算出部203で算出した相対速度v
1と角度θ
1とが、非マルチパス環境モデルの関数と、マルチパス環境モデルの関数との間に収まっているか否かに基づいて、受信信号が静止物体からのものであるか否かを判定する。判定部204は判定結果を信号処理部109に出力する。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態によれば、(i)自装置の移動速度v
0と、自装置の移動方向とターゲットによって反射されたレーダ波の受信方向とのなす角度θ
1と、を取得し、(ii)非マルチパス環境モデル及びマルチパス環境モデルそれぞれについて、自装置と前記ターゲットとの間の相対速度v
1を前記移動速度v
0及び前記角度θ
1を用いた関数で表し、(iii)受信信号から、前記マルチパス環境モデルにおける前記相対速度v
1を算出し、(iv)前記マルチパス相対速度算出ステップで算出した前記相対速度v
1と前記角度θ
1とが、前記非マルチパス環境モデルの前記関数と、前記マルチパス環境モデルの前記関数との間に収まっているか否かに基づいて、受信信号が静止物体からのものであるか否かを判定する、ようにしたことにより、従来と比較して静止物体と移動物体とをより的確に検出できる物体検出方法及び物体検出装置を実現できる。
【0052】
例えば特許文献2では、ある角度範囲のものは無効ビームとして削除してしまっているが、本実施の形態では、ある角度範囲でありかつある相対速度であるものを静止物体であると判定するので、その範囲以外にある移動物体は検出が可能となる。つまり、本実施の形態の方法は、ある角度範囲のものを全て虚像(ゴースト)として除外してしまうのではなく、そこでの物体検知も行うことができるようになる。
【0053】
また、本実施の形態の方法は、複雑な計算式を使わずに簡単な計算式を用いて、静止物を予測できる。
【0054】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【0055】
本発明は、車載のレーダ装置に限らず、種々のレーダ装置に適用可能である。本発明は、特にマルチパス環境下で利用され、自身が移動しているような(つまりv
0≠0)レーダ装置に適用して大きな効果が得られる。例えば、産業用のロボットやドローンなどに搭載するレーダ装置に適用して好適である。