特許第6892602号(P6892602)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892602透析液調製システムにおける成分監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892602
(24)【登録日】2021年6月1日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】透析液調製システムにおける成分監視方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20210614BHJP
【FI】
   A61M1/16 163
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-155622(P2017-155622)
(22)【出願日】2017年8月10日
(65)【公開番号】特開2019-33807(P2019-33807A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082108
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】野里 信行
【審査官】 宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−081662(JP,A)
【文献】 特開平01−280468(JP,A)
【文献】 特開2011−092402(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/125902(WO,A1)
【文献】 特表平06−504708(JP,A)
【文献】 特開昭56−028767(JP,A)
【文献】 特開2014−097224(JP,A)
【文献】 特開平03−179256(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/049736(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析用水と透析原液を混合するための透析液容器と、当該透析液容器に透析用水を供給する透析用水通路と、当該透析用水通路に接続されて透析用水通路を介して上記透析液容器に透析原液を供給する原液通路とを備え、
上記透析用水通路による透析用水の供給を停止した状態で、上記原液通路から透析液容器に所定量の透析原液を供給し、その後透析用水通路から透析液容器に透析用水を供給して透析原液と混合し、当該透析液容器で透析液を調製する透析液調製システムにおける成分監視方法において、
上記透析用水通路に上記透析原液の電気伝導度を計測する伝導度計測手段を設け、上記原液通路から供給される透析原液の電気伝導度を単位時間毎に連続して計測し、上記所定量の透析原液が供給される間に計測された各電気伝導度と上記単位時間の積の和を求め、予め設定した基準値と比較することを特徴とする透析液調製システムにおける成分監視方法。
【請求項2】
上記透析液は、上記透析用水と、塩化ナトリウムを主成分とするA原液と、炭酸水素ナトリウム水溶液からなるB原液とを所定の比率で混合することで調製され、
上記計測された各電気伝導度と単位時間の積の和を求めて、予め設定した基準値と比較することを、少なくとも上記B原液について行うことを特徴とする請求項1に記載の透析液調製システムにおける成分監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透析液調製システムにおける成分監視方法に関し、詳しくは透析液容器において透析用水と透析原液とを混合して透析液を調製する透析液調製システムにおける成分監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液透析治療に用いるための透析液を調製する透析液調製システムが知られ、透析用水と透析原液を混合するための透析液容器と、当該透析液容器に透析用水を供給する透析用水通路と、当該透析用水通路に接続されて透析用水通路を介して上記透析液容器に透析原液を供給する原液通路とを備えて構成されている。
上記構成を有する透析液調製システムでは、上記透析用水通路による透析用水の供給を停止した状態で、上記原液通路から透析液容器に所定量の透析原液を供給し、その後透析用水通路から透析液容器に透析用水を供給して透析原液と混合し、当該透析液容器で透析液を調製するようになっている(特許文献1)。
また同様に、透析液容器と透析用水通路と原液通路とを備えた透析液調製システムであって、所定流量で送液される透析用水に容積式ポンプで所定量の透析原液を供給し、透析液容器で混合して透析液を調製することも知られている(特許文献2)。このシステムにおいては、透析用水と透析原液を混合した後で電気伝導度を計測することにより、調製した透析液の濃度の良否を判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平3−62108号公報
【特許文献2】特許第5803543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1における透析液調製システムは血液透析装置に備えられ、調製された透析液はそのまま透析器に供給されて治療に使用される。透析液は適正な濃度で調製されている必要があり、上記特許文献1に記載された透析液調製システムに対し、上記特許文献2に記載された技術を用いることにより、調製された透析液の電気伝導度を計測して濃度の良否を判定し、透析液が適正に調製されていることを監視することが考えられる。
ここで、透析原液としては、塩化ナトリウムを主成分とするA原液と、炭酸水素ナトリウム水溶液からなるB原液とがあり、これらを透析用水と所定の比率で混合して透析液が調製されるが、透析液の状態で電気伝導度に影響するのは主にA原液であり、B原液の増減は電気伝導度として顕著には表れない。
すなわち、調製された透析液の電気伝導度からA原液の供給量が適正であるか否かを判定することはできるが、B原液についてはできない。上記特許文献2の透析液調製システムの場合は、送液される透析用水に所定量のB原液を供給した後にA原液を供給するよう構成されており、透析用水通路にはB原液の供給位置の下流側とA原液の供給位置の下流側にそれぞれ伝導度センサを設けて、透析用水で希釈された状態のB原液の電気伝導度を計測するとともに、これにA原液を加えた透析液について電気伝導度を計測するようになっている。
このため、透析液の電気伝導度としては異常がなくとも、何らかの原因でB原液の供給量に不足が生じた場合には、透析用水で希釈された状態のB原液の電気伝導度が低下することでこれを検出することができ、透析液におけるA原液とB原液の成分量を監視することができる。
これに対し、特許文献1の透析液調製システムの場合は、透析用水の供給を停止した状態でB原液を供給するため、B原液の供給量に不足が生じた場合であっても濃度は変化せず、特許文献2の構成のように電気伝導度を計測しても供給量の不足を検出することはできない。
このような問題に鑑み、本発明は供給される透析原液の電気伝導度を計測することで、透析液における透析原液の成分量を監視することが可能な透析液調製システムにおける成分監視方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる透析液調製システムにおける成分監視方法は、透析用水と透析原液を混合するための透析液容器と、当該透析液容器に透析用水を供給する透析用水通路と、当該透析用水通路に接続されて透析用水通路を介して上記透析液容器に透析原液を供給する原液通路とを備え、
上記透析用水通路による透析用水の供給を停止した状態で、上記原液通路から透析液容器に所定量の透析原液を供給し、その後透析用水通路から透析液容器に透析用水を供給して透析原液と混合し、当該透析液容器で透析液を調製する透析液調製システムにおける成分監視方法において、
上記透析用水通路に上記透析原液の電気伝導度を計測する伝導度計測手段を設け、上記原液通路から供給される透析原液の電気伝導度を単位時間毎に連続して計測し、上記所定量の透析原液が供給される間に計測された各電気伝導度と上記単位時間の積の和を求め、予め設定した基準値と比較することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記請求項1の発明によれば、供給される透析原液の電気伝導度を計測することにより、透析液における透析原液の成分量を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施例にかかる血液透析装置の構成図
図2】第1伝導度測定手段で測定される液体の電気伝導度に関するグラフ
図3図2のグラフの内、B原液についての電気伝導度に関するグラフ
図4】第2実施例にかかる血液透析装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1は血液透析装置1を示しており、血液透析を行う透析器2と、透析器2に透析液を流通させる透析液回路3と、透析器2に血液を流通させる血液回路4とを備え、制御手段Cによって制御されるようになっている。
上記透析液回路3には、第1透析液チャンバ11と第2透析液チャンバ12が設けられている。これら第1透析液チャンバ11および第2透析液チャンバ12は、それぞれ内部が2枚のダイアフラムによって、新鮮な透析液を調製する供給室11a、12aと、使用済みの透析液を回収する回収室11b、12bと、これら供給室11a、12aと回収室11b、12bとの間に形成された可変容積室11c、12cとに区画されており、供給室11a、12aは、供給される所定量の透析用水と透析原液を混合するための透析液容器を構成している。
また、上記可変容積室11c、12cは、それぞれシリコーンオイル等の液体を収容するようになっており、接続された容積式ポンプ13A、13Bによって収容する液体を増減させることで、容積を変動させることが可能となっている。
なお、上記新鮮な透析液を調製する透析用水としてはRO水が使用され、透析原液としては、塩化ナトリウムを主成分とするA原液と、炭酸水素ナトリウム水溶液からなるB原液があり、これら透析用水とA原液とB原液とを所定の比率で混合することにより透析液が調製される。
【0009】
上記透析液回路3は、上記第1、第2透析液チャンバ11、12の供給室11a、12aに上記透析用水を供給する透析用水通路5と、当該透析用水通路5に接続されて透析用水通路5を介して上記供給室11a、12aにA原液を供給するA原液通路6と、同じく透析用水通路5に接続されて透析用水通路5を介して上記供給室11a、12aにB原液を供給するB原液通路7と、上記供給室11a、12aで調製された新鮮な透析液を透析器2に供給する透析液供給通路8と、透析器2を通過した使用済みの透析液を上記回収室11b、12bに回収する透析液回収通路9と、上記回収室11b、12bから使用済みの透析液を排液する排液通路10とを備えている。
上記血液回路4は、患者から透析器2に血液を送る動脈回路4Aと、透析器2から患者に血液を返す静脈回路4Bからなり、動脈回路4Aには血液ポンプBPが設けられている。
【0010】
上記透析用水通路5には、上記透析用水を所定の温度に加温するヒータ21と、上記透析用水を送液する給液ポンプ22とが設けられ、また透析用水通路5の下流部分は2方向に分岐して上記第1、第2透析液チャンバ11、12の上記供給室11a、12aに接続されている。
また上記A原液通路6およびB原液通路7は上記給液ポンプ22と上記第1、第2透析液チャンバ11、12の間の区間で上記透析用水通路5に接続されており、上記A原液通路6は上記A原液を収容したA原液容器23に接続され、上記B原液通路7は上記B原液を収容したB原液容器24に接続されている。
本実施例では、A原液通路6をB原液通路7よりも上流側に設けており、A原液通路6の接続箇所とB原液通路7の接続箇所との間には所定量の透析用水を貯溜するバッファ容器25が設けられている。
なお、A原液およびB原液の供給については、血液透析装置1を設置した治療施設が備える給液設備や供給装置から行うこともでき、またB原液については、容器に収容した粉末剤をRO水で溶解させながら供給することもできる。
そして、上記透析用水通路5における給液ポンプ22とA原液通路6の接続箇所の間には第1開閉弁V1が、上記第1、第2透析液チャンバ11、12の供給室11a、12aへと分岐した通路には給液弁V2,V3がそれぞれ設けられており、また上記A原液通路6にはA原液供給弁V4が、上記B原液通路7にはB原液供給弁V5が設けられている。
ここで、第1開閉弁V1より下流の透析用水通路5については、透析用水、A原液、B原液を透析液容器に供給する共通通路5Aを構成しており、この共通通路5Aを介してA原液通路6およびB原液通路7から供給室11a、12aにA原液およびB原液を供給するようになっている。
そして、これら透析用水通路5および共通通路5Aと、A原液通路6およびB原液通路7と、第1、第2チャンバ11、12の供給室11a、12aとにより、本実施例における透析液調製システムが構成されている。
【0011】
上記透析液供給通路8の上流部分は2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ11、12の供給室11a、12aに接続され、下流側の端部は上記透析器2に接続されている。上記分岐部分にはそれぞれ供給弁V6、V7が設けられ、また透析器2との接続部近傍には第2開閉弁V8が設けられている。
また、透析液供給通路8と上記透析液回収通路9との間にはバイパス通路26が配設されるとともに、当該バイパス通路26には第3開閉弁V9が設けられている。上記バイパス通路26は、異常と判定された透析液を透析器2を介さずに透析液供給通路8から透析液回収通路9に流通させるものとなっている。
【0012】
上記透析液回収通路9は、上流側の端部が上記透析器2に接続され、下流部分が2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ11、12の回収室11b、12bに接続されている。また使用済み透析液を送液するための送液ポンプ27が設けられるとともに、上記分岐部分には回収弁V10、V11が設けられている。
そして上記排液通路10は、上流部分が2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ11、12の回収室11b、12bに接続され、下流側の端部は治療施設に敷設された排液管に接続されている。また上記分岐部分には排液弁V12、V13が設けられている。
【0013】
上記共通通路5AにおけるB原液通路7の接続箇所の下流側には、接続箇所に接近させて透析原液の電気伝導度を計測する伝導度計測手段としての原液用伝導度センサ29が設けられ、主にB原液通路7から供給されるB原液の電気伝導度を計測するようになっている。また、この原液用伝導度センサ29の近傍には温度補正を行うための温度センサ28が設けられている。
さらに透析液供給通路8には、透析液の電気伝導度を計測する伝導度計測手段としての透析液用伝導度センサ31が設けられており、透析器2に供給される新鮮な透析液の電気伝導度を計測するようになっている。また、この透析液用伝導度センサ31の近傍にも温度補正用の温度センサ30が設けられている。
これら伝導度センサ29、31および温度センサ28、30の計測信号は、一定のパルスに従う単位時間毎に連続して制御手段Cに入力されるようになっている。
具体的に制御手段Cでは、当該原液用伝導度センサ29に基づく計測結果から、所定量のB原液が供給される間の単位時間毎の各電気伝導度と上記単位時間との積の和を求め、予め設定した基準値と比較して調製される透析液におけるB原液の成分量を監視するようになっている。
また、透析液用伝導度センサ31に基づく計測結果については、予め設定した基準値と比較することによって、調製された透析液の濃度異常を判定するようになっている。
上記原液用伝導度センサ29および透析液用伝導度センサ31による計測結果に異常が認められた場合、制御手段Cは透析液供給通路8の第2開閉弁V8を閉鎖して透析器2への透析液の供給を中止するとともに、バイパス通路26の第3開閉弁V9を開放して不良透析液を透析液回収通路9に流通させるようにする。
【0014】
以下、上記構成を有する血液透析装置1における上記第1透析液チャンバ11の動作について説明する。なお第2透析液チャンバ12での動作は同様であるため説明は省略する。
まず、第1透析液チャンバ11において新鮮な透析液を透析器2へと供給しながら、透析器2から使用済み透析液を回収する際の動作について説明する。
このとき、第1透析液チャンバ11の供給室11aに接続する透析用水通路5(共通通路5A)の給液弁V2および回収室11bに接続する排液通路10の排液弁V12を閉鎖し、透析液供給通路8の供給弁V6および透析液回収通路9の回収弁V10を開放する。
この状態で、透析液回収通路9に設けた送液ポンプ27が、透析器2を流通した使用済み透析液を回収室11bに流入させる。すると回収室11bの容積が増大し、供給室11aの容積が減少するため、供給室11aからはそれまでに調製されていた新鮮な透析液が透析液供給通路8から透析器2へと供給される。
その際、透析器2を介して血液から所定量の除水を行う場合には、上記容積式ポンプ13Aを用いて可変容積室11cから液体を引き出して容積を減少させ、上記供給室11aからの新鮮な透析液の流出量よりも、回収室11bへの使用済み透析液の流入量が多くなるようにし、透析器2において差圧による除水が行われる。
そして、上記回収室11bに使用済み透析液が充満すると、上記供給室11aの容積がゼロとなり、新鮮な透析液が透析液供給通路8へと完全に排出されることとなる。
【0015】
次に、第1透析液チャンバ11において新鮮な透析液を調製しながら使用済み透析液を排液する際の動作について説明する。
まず、第1透析液チャンバ11の供給室11aに接続する給液弁V2および回収室11bに接続する排液弁V12を開放するとともに、供給弁V6および回弁V10を閉鎖する。このときA原液通路6のA原液供給弁V4およびB原液通路7のB原液供給弁V5は閉鎖されている。
この状態で、上記透析用水通路5の第1開閉弁V1を短時間だけ開放し、給液ポンプ22によって透析用水を少量だけ供給室11aに流入させる。その後、第1開閉弁V1を閉鎖して透析用水の供給を停止する。
なお、供給室11aに透析用水を流入させる際、先の工程において血液から除水を行っていた場合には、容積式ポンプ13Aによって減少していた可変容積室11cの容積を復帰させる。
【0016】
第1開閉弁V1を閉鎖したら、上記排液通路10の排液弁V12を閉鎖するとともに、上記B原液通路7のB原液供給弁V5を開放し、上記容積式ポンプ13Aが所定量の液体を引き出して可変容積室11cの容積を減少させる。
上記回収弁10および排液弁V12が閉鎖されているため、回収室11bの容積は変動しないことから、供給室11aの容積だけが増大する。これに伴って共通通路5Aに留まっている透析用水が供給室11aに引き込まれるとともに、B原液通路7から共通通路5AにB原液が引き込まれ、これが供給室11aに流入する。
その後、供給室11aの容積の増大が停止するとB原液の流動も停止し、これにより供給室11aの容積の増大分、すなわち容積式ポンプ13Aが引き出した液体の量に見合う量のB原液が、B原液通路7から供給されたことになる。
その際、B原液通路7から共通通路5Aに流出したB原液は、直ちに温度センサ28と原液用伝導度センサ29とを通過し、それらの計測信号が制御手段Cに入力される。
【0017】
次に、透析用水通路5の第1開閉弁V1を閉鎖したまま、上記B原液通路7のB原液供給弁V5を閉鎖し、さらに上記A原液通路6のA原液供給弁V4を開放したら、さらに上記容積式ポンプ13Aが所定量の液体を引き出すことで、可変容積室11cの容積を減少させる。
これに伴って、共通通路5Aに留まっているB原液が供給室11aに引き込まれるとともに、バッファ容器25に貯留されている透析用水が引き出されて、A原液通路6から共通通路5AにA原液が引き込まれ、このA原液がバッファ容器25を通過して供給室11aに流入する。
その後、供給室11aの容積の増大が停止するとA原液の流動も停止し、これにより供給室11aの容積の増大分、すなわち容積式ポンプ13Aが引き出した液体の量に見合う量のA原液が、A原液通路6から供給されたことになる。
また、A原液通路6から共通通路5Aに流出したA原液は、バッファ容器25を通過すると続いて温度センサ28と原液用伝導度センサ29を通過し、それらの計測信号が制御手段Cに入力される。
上記B原液通路7の上流にバッファ容器25を設けたことにより、共通通路5Aの内部でA原液とB原液が直接接触することを防止し、結晶等の析出を防止するようになっている。
【0018】
最後に、上記A原液供給弁V4を閉鎖するとともに透析用水通路5の第1開閉弁V1を開放し、また閉鎖していた排液弁V12を開放する。これにより給液ポンプ22により供給される透析用水が共通通路5Aに流通し、留まっていたA原液が供給室11aに供給される。このような透析用水の供給は、回収室11bに収容されている使用済み透析液が全て排出されるまで続く。
その際、上記容積式ポンプ13Aは減少させていた可変容積室11cの容積をもとの容積に復帰させるようになっており、供給室11aへの透析用水の流入が停止した時点で所定量の透析用水が供給されたことになる。この透析用水の供給により、供給室11a内で透析用水とA原液、B原液が所定の比率で混合されて透析液が調製される。
その後は、上述した動作を第1、第2透析液チャンバ11、12によって交互に繰り返すことで、新鮮な透析液を調製しながら透析器2に透析液を供給し、また透析器2から使用済み透析液を回収しながらこれを排液するようになっている。
【0019】
図2は、上記原液用伝導度センサ29による、共通通路5Aを通過する透析用水、A原液、B原液の電気伝導度を計測した結果を示し、横軸は時間を、縦軸は電気伝導度をそれぞれ示している。
上述した様に、上記透析液を上記第1透析液チャンバ11の供給室11aで調製する際、共通通路5Aの原液用電導度センサ29には、透析用水が短時間だけ流通した後にB原液が流通し、その後バッファ容器25内の透析用水が流通してから、A原液が流通するようになっている。
従って、図2に示すように、最初に透析用水を示す電気伝導度がゼロの状態が計測され、続いてB原液を示す電気伝導度が検出された後、再び透析用水を示す電気伝導度がゼロの状態が検出されて、その後A原液を示す電気伝導度が計測される。
この図2の計測結果から明らかなように、A原液の電気伝導度がB原液の電気伝導度よりも遥かに高く、当該A原液、B原液を混合して調製した透析液について上記透析液用伝導度センサ31で計測する電気伝導度は、A原液の影響を大きく受けてしまうことが理解できる。
このため、何らかの原因によりB原液の供給量が不足していても、A原液が適正に供給されていれば、透析液としての電気伝導度に異常がないという判定結果が得られる場合が生じる。
【0020】
図3図2に示した計測結果の一部分を拡大したものであり、上記原液用伝導度センサ29によって上記透析用水通路5を流通するB原液の電気伝導度を計測した結果を示した図となっている。
この図3のうち、図示左方の計測結果はB原液の供給量が正常だった場合を、図示右方の計測結果はB原液の供給量が正常値よりも少ない場合を示している。なお、これらの計測結果において、計測される電気伝導度の高さは同じであり問題ない。
正常な場合の波形と供給量が少ない場合の波形とを比較すると、少ない場合には一定の電気伝導度を示す時間が短くなり、正常な場合に比べて電気伝導度の増大および減少の割合が緩やかとなる。
【0021】
そこで本発明では、異常が生じた場合における波形で囲まれる部分の面積が小さくなることに着目し、単位時間毎のB原液の電気伝導度と単位時間との積を求めるとともに、上記算出した各積の合計を算出して和を求めるようになっている。
具体的には、透析用水の流通による電気伝導度がゼロの状態から、B原液の流通によって電気伝導度が計測されると、これを上記検出開始時点として、単位時間毎に検出される電気伝導度と当該単位時間との積を算出する。
これを透析用水の流通によって電気伝導度が再度ゼロとなる検出終了時点まで繰り返し、全ての積を合計して積の和を求めて、B原液の電気伝導度による波形で囲まれる部分の面積として算出する。
制御手段Cには、予め図示左方に示す正常な波形による面積の基準値が設定されて登録されており、算出した面積の値を上記基準値と比較して所定割合以上の乖離が見られた場合には、B原液の供給量が不足していると判定する。
【0022】
以上のように、本実施例によれば、B原液の供給量の良否を当該B原液の電気伝導度によって判定することができ、調製された透析液におけるB原液の成分量を監視することが可能となる。
また上記原液用伝導度センサ29は、これまでも当該B原液の濃度の確認に用いられていたものであり、別途の設備を準備する必要がない。
【0023】
図4は第2実施例にかかる血液透析装置1の回路図を示している。なお、以下の説明を除いて、本実施例の血液透析装置1は上記第1実施例の血液透析装置と同様の構成を有しており、詳細な説明を省略するとともに各要素に対して同じ符号を用いて説明する。
本実施例の第1、第2透析液チャンバ11、12の内部は、それぞれ1枚のダイアフラムによって供給室11a、12aと回収室11b、12bに区画されており、可変容積室は備えていない。
その代わりに、透析液回収通路9と排液通路10との間に配設された除水通路41と、透析液回収通路9から排液通路10へ使用済み透析液を流す除水ポンプ42とを備えている。
また、A原液通路6にはA原液容器23への連通を開閉するA原液開閉弁V14が設けられ、このA原液開閉弁V14とA原液供給弁V4の間には、容積式ポンプからなるA原液ポンプ43が接続されている。
同様に、B原液通路7にはB原液容器24への連通を開閉するB原液開閉弁V15が設けられ、このB原液開閉弁V15とB原液供給弁V5の間には、容積式ポンプからなるB原液ポンプ44が接続されている。
本実施例の血液透析装置1も、第1実施例の血液透析装置1と同様、第1、第2透析液チャンバ11、12の供給室11a、12aで透析液を調製するようになっており、第1実施例と同じ順序で供給室11a、12aに透析用水、A原液およびB原液を供給するようになっている。
本実施例において供給室11a、12aにB原液を供給するには、最初にB原液供給弁V5を閉鎖しB原液開閉弁V15を開放した状態でB原液ポンプ44を作動させて、B原液容器24から所定量のB原液を吸い出す。
次に、B原液開閉弁V15を閉鎖しB原液供給弁V5を開放してB原液ポンプ44を作動させ、吸い出したB原液を共通通路5Aに放出する。これにより所定量のB原液が供給室11a、12aに供給される。
A原液を供給する場合についても同様に、A原液供給弁V4を閉鎖しA原液開閉弁V14を開放した状態でA原液ポンプ43を作動させて、A原液容器23から所定量のA原液を吸い出し、次に、A原液開閉弁V14を閉鎖しA原液供給弁V4を開放してA原液ポンプ43を作動させ、吸い出したA原液を共通通路5Aに放出する。これにより所定量のA原液が供給室11a、12aに供給される。
そしてこのような構成においても、共通通路5Aに放出されたB原液は、原液用伝導度センサ29を通過して単位時間毎に連続して電気伝導度が計測される。また、A原液についても同様にして、原液用伝導度センサ29を通過して単位時間毎に連続して電気伝導度が計測される。
【0024】
本実施例の構成においても、第1実施例と同様、原液用伝導度センサ29では図2に示すような波形、すなわち最初に透析用水を示す電気伝導度がゼロの状態が計測され、続いてB原液を示す電気伝導度が計測された後、再び透析用水を示す電気伝導度がゼロの状態が計測されて、その後A原液を示す電気伝導度が計測されることとなる。
そして上記実施例と同様、単位時間毎に計測される電気伝導度と当該単位時間との積を算出し、さらに上記算出した各積の和を求めることで、B原液の電気伝導度による波形の面積を算出し、B原液の供給量の判定を行うことができる。
【0025】
なお、本発明は第1、第2実施例に示す血液透析装置1に用いることに限定されず、透析液を調製するための透析液容器と、当該透析液容器に透析用水を供給する透析用水通路と、当該透析液容器に透析原液を供給する透析原液通路とを備えた透析液調整システムに適用することが可能となっている。
また上記実施例では透析原液としてB原液の電気伝導度から当該B原液の成分量を監視するようになっているが、A原液の電気伝導度から当該A原液の成分量も監視するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 血液透析装置 2 透析器
3 透析液回路 4 血液回路
5 透析用水通路 6 A原液通路
7 B原液通路 11 第1透析液チャンバ
12 第2透析液チャンバ 11a、12a 供給室(透析液容器)
11b、12b 回収室 11c、12c 可変容積室
13A、13B 容積式ポンプ 29 原液用伝導度センサ
図1
図2
図3
図4