【実施例1】
【0035】
図2は、実施例1の農作業機用散布制御システムで適用される農作業機の一例を示す側面図である。
【0036】
ここでの農作業機は、トラクタ1に装着される散布機100である。散布機100はトラクタ1に装着され施肥等の散布が行われる。散布機100は、装着部であるマスト102とロワーアーム103を、トラクタ1側のトップリンク3とロワーリンク4に取り付けてトラクタ1の後部に装着されている。また、入力軸101は、図示しないジョイントを介してトラクタ1からのPTO(Power take−off)動力を入力できる。
【0037】
そして、散布機100は、容器であるホッパー110を有し、その下部の本体部115に散布筒120が備えられている。散布筒120の後部先端120a側は本体部115から突出しており、散布筒120は入力軸101から入力された動力をもとに、本体部115内を中心として後部先端120a側が(進行方向を前とした場合の)左右に一定角度内で揺動(往復運動)するように構成されている。これらにより、ホッパー110内の内容物(散布物)が散布筒120内に落下して、散布筒120を伝って、後部先端120a側から排出される。このとき、散布筒120が揺動しているため、その遠心力により、左右一定の幅で圃場面190に内容物を散布することが可能である。ホッパー110に入れる散布物としては肥料等が挙げられる。
【0038】
ホッパー110と散布筒120の間には、
図3で説明するシャッター機構を有しており、これは、本体部115に設けられたアクチュエータ130により作動するものである。
【0039】
図3は、実施例1の農作業機用散布制御システムで適用される農作業機におけるシャッター機構の動きの一例を示す平面図であり、(a)はシャッターが開いた状態を示し、(b)はシャッターが半開きの状態を示し、(c)はシャッターが閉じた状態を示す。
【0040】
プレート140は、ホッパー110の底部にホッパー110の底部を塞ぐように取り付けられる円板上の部材であり、扇形の孔141を等角度間隔で3つ有している。
【0041】
シャッター部材150は、プレート140の下側に設けられる板状部材であり、中心部153と接続され等角度間隔で形成された3つのシャッター152を有している。シャッター152は孔141を塞ぐ大きさとなっており、孔141の形状に合わせた扇形でもよい。また、隣り合うシャッター152の間は、孔141よりも広い間隔で形成されている。そして、シャッター部材150の中心部153はプレート140の中心142に対して回動可能に取り付けられている。また、シャッター152の1つには、外側に向けて形成されたレバー151を有している。
【0042】
アクチュエータ130はシリンダであり、シリンダ本体部131から内部でピストンと接続されるロッド部132が突出して伸縮するものである。ロッド部132の先端には取付部133を備え、レバー151の外側端部が取り付けられており、ロッド部132の伸縮に合わせて、シャッター部材150が中心部153を中心に回動する。アクチュエータ130は、電気により作動する電動シリンダを採用できる。ここでのアクチュエータ130は、
図1のアクチュエータ30に相当する。
【0043】
図3(a)の状態では、アクチュエータ130のロッド部132は伸びた状態であり、シャッター部材150における各シャッター152はプレート140の下部に隠れており、孔141は全開となる。これにより、ホッパー110の内容物は、孔141を最大量で通過して、散布筒120へ送られるため散布量は最大となる。
【0044】
図3(b)の状態では、アクチュエータ130のロッド部132は中間位置の状態であり、シャッター部材150における各シャッター152はプレート140の孔141を半分以上塞いでいる。これにより、ホッパー110の内容物は孔141を通過する量が減るため散布量は減少する。
【0045】
図3(c)の状態では、アクチュエータ130のロッド部132は縮んだ状態であり、シャッター部材150における各シャッター152はプレート140の孔141をすべて塞いでいる。これにより、ホッパー110の内容物は孔141を通過することができないため散布されない。
【0046】
このように、散布機100は、アクチュエータ130を作動させることで、シャッター152による孔141の開度を調節して、散布筒120からの散布量を調節することができる。そして、散布機100は、アクチュエータ130を作動させることで、シャッター152を開く場合は散布を行い、シャッター152を閉じる場合は散布を行わないようにする散布機構を備えていることになる。
【0047】
図4は、実施例1の農作業機用散布制御システムで適用される操作ボックスの一例である。ここでの操作ボックス50は、
図1で示した設定入力部24と表示部25を一体に構成したものである。
【0048】
操作ボックス50は、トラクタ1の運転席近傍に配置可能であり、遠隔で操作や入力が可能な操作・表示部である。ここでは無線による例を示しており、散布機100の本体側に設置された演算部22や制御部23(制御システム部21)と無線により情報の送受信が可能となっている。
【0049】
操作ボックス50は、電源スイッチ51a、設定スイッチ51b、開閉スイッチ51c、調節スイッチ(増)51d、調節スイッチ(減)51eのスイッチを備えており、これらは設定入力部24となり得る。さらに、操作ボックス50は、シャッター開度表示52a、散布量表示52bを備えておりこれらは、表示部25となり得る。さらに、操作ボックス50は、説明表示53を備えている。
【0050】
電源スイッチ51aは、操作ボックス50の電源をON(入)、OFF(切)するためのスイッチである。
【0051】
設定スイッチ51bは、散布量の設定、設定値の入力、最低作業速度(閾値)の入力、調量値の入力、散布幅の入力、補正値の入力、調量モード等の各項目のメニューを起動し設定するモードに変換するスイッチである。さらに、入力又は選択した値を決定するためのスイッチである。
【0052】
開閉スイッチ51cは、作業を開始するときにアクチュエータ130を制御してシャッター152を所定の開度まで開くためのスイッチである。このとき、作業の開始前や旋回時等に散布物が無駄に散布されないようにするため、
図5、6で示す制御をスタートするスイッチとすることもできる。また、もう一度押すとシャッター152を閉じるようにすることができる。さらに、開閉スイッチ51cは、調量モードを起動してスタートするスイッチにもなることができる。
【0053】
調節スイッチ(増)51d及び調節スイッチ(減)51eは、散布量、設定値、最低作業速度、調量値、散布幅、補正値等の値を入力するためのスイッチである。例えば、調節スイッチ(増)51dを押すと値が増え、調節スイッチ(減)51eを押すと値が減る等である。
【0054】
シャッター開度表示52aは、7セグ等によりシャッター開度を数字で表示するものである。設定時はシャッター開度の設定値を表示し、作業時は状態検知部27を有する場合は状態検知部27からの情報又は制御部23における制御値の情報をもとに現在のシャッター開度の値を表示することができる。
【0055】
散布量表示52bは、7セグ等により散布量を数字で表示するものである。設定時は散布量、設定値、最低作業速度、調量値、散布幅、補正値等の値を表示することができる。また、作業時は、設定された散布量を表示させてもよい。また、速度取得手段10からの情報を取得し、速度、散布幅、演算されたシャッター開度の情報をもとに現在の散布量を表示してもよい。設定時に散布量表示52bの表示が、何の表示内容を示すかが分かるようにするため、シャッター開度表示52aに「1」、「2」、「3」…のように数字を表示することができる。これは、散布量表示52bの各表示内容に対応する番号を決めておき、その番号がシャッター開度表示52aに表示されることによって、散布量表示52bでどの値が表示されているのか分かるようにするものである。
【0056】
説明表示53は、上述した散布量表示52bが示している表示内容に対応するシャッター開度表示52aに示される数字(番号)が、数字毎に何の表示内容かを説明するための表示である。
図4の例では、設定時において、「1」が「最低作業速度(km/h)」を表し、「2」が「散布幅(m)」を表し、「3」が「調量値(kg)」を表し、「4」が「補正(%)」を表している。すなわち、シャッター開度表示52aの表示が「1」の場合は、散布量表示52bの数字は「最低作業速度(km/h)」を表す。また、シャッター開度表示52aの表示が「2」の場合は、散布量表示52bの数字は「散布幅(m)」を表す。また、シャッター開度表示52aの表示が「3」の場合は、散布量表示52bの数字は「調量値(kg)」を表す。また、シャッター開度表示52aの表示が「4」の場合は、散布量表示52bの数字は「補正(%)」を表す。説明表示53は、印字、液晶による表示等で表すことができ、
図4では操作ボックス50の下部に印字されている例を示している。このように、作業者は、設定時に現在のシャッター開度表示52aに示される数字を確認して、この説明表示53を見ることで、散布量表示52bに何の内容の数値が表示されているかを確認することができる。
【0057】
図5は、実施例1の農作業機用散布制御システムで適用される加速・減速判定のフローチャートの一例である。ここでの制御は、主に演算部22(制御システム部21)で行う。
【0058】
加速・減速判定の制御がスタートすると(S101)、現在の速度データを取得し、その速度データを基の速度(初期値)とする(S102)。S101のスタートは、例えば、操作ボックス50の電源スイッチ51aの操作により電源を入れ、開閉スイッチ51cを操作する(押す)ことにより加速・減速判定の制御をスタートさせることができる。S102の現在の速度データは、速度取得手段10からの速度関連情報に基づき、速度を検知又は演算することで得ることができる。トラクタ側車速出力部11からの情報であれば、得られた車速がそのまま速度情報となる。そして、最初に取得した速度データは、「基の速度」となる。
【0059】
次に、現在の速度である速度データを取得する(S103)。速度データはS102と同様に速度取得手段10により得られる。速度データは、一定時間毎にリアルタイムで取得するとよい。
【0060】
次に、基の速度からの速度変化が設定値以上か否かを判定する(S104)。ここでの設定値は、固定の速度の値で示されるものであり、予め演算部22に記憶しておいてもよいし、設定入力部24で設定してもよい。設定入力部24として操作ボックス50を用いる場合は、例えば、設定スイッチ51bにより、設定値の設定モードにして、調節スイッチ51d、51eで値を決めることができる。また、設定値の値としては、例えば、0.1km/h〜0.5km/hの範囲から設定してもよい。また、基の速度からの速度変化が設定値以上か否かを判定することは、基の速度と現在の速度の差の絶対値が設定値以上か否かを判定することになる。ここで、基の速度は、最初はS102で設定された速度となり、S108で基の速度が再設定されている場合はそちらの速度が採用される。また、現在の速度はS103で取得した速度である。S104で、基の速度からの速度変化が設定値以上であるならS105へ行く。一方、基の速度からの速度変化が設定値以上でないならS103へ戻り、再びその時点での現在の速度データを取得して、S104の判定を行う。
【0061】
S105では、現在の速度が基の速度より大きいか否かを判定する。現在の速度はS103で取得した速度である。基の速度は、最初はS102で設定された速度となり、S108で基の速度が再設定されている場合はそちらの速度が採用される。そして、現在の速度が基の速度より大きい場合はS106へ行き、現在の速度が基の速度より大きくない場合はS107へ行く。
【0062】
S106では判定結果を「加速」として、S108へ行く。S107では判定結果を「減速」として、S108へ行く。
【0063】
S108では、現在の速度は新たな「基の速度」として、S103へ戻る。ここで、現在の速度はS103で取得した速度である。
【0064】
このように、基の速度を設定して、現在の速度が基の速度よりも設定値以上の変化があり、かつ、現在の速度が基の速度より大きい場合は加速と判定する。さらに、現在の速度が基の速度よりも設定値以上の変化があり、かつ、現在の速度が基の速度より大きくない場合は減速の判定を行う。このようにして、加速と減速の判定を行うことができる。
【0065】
図6は、実施例1の農作業機用散布制御システムで適用されるシャッター開閉の制御のフローチャートの一例である。ここでの演算と制御は、
図5で示した加速と減速の判定を用いて、主に制御システム部21である、演算部22と制御部23で行う。
【0066】
S201でシャッター開閉の制御がスタートする。このスタートは、例えば、操作ボックス50の電源スイッチ51aの操作により電源を入れ、開閉スイッチ51cを操作する(押す)ことにより加速・減速判定の処理に続いて、シャッター開閉の制御をスタートさせることができる。制御のスタート時点においては、誤作動を防止するため、シャッターは閉じた状態としておくことができる。
【0067】
次に、判定結果が「加速」か否かを判定する(S202)。ここでの、判定結果は、
図5のS106での判定を利用する。このとき、現在の速度で「加速」と判定されなくても、過去の速度データですでに「加速」と判定され、その後に「減速」と判定されない限りは、その「加速」判定が反映される。そして、判定結果が「加速」である場合はS204へ行き、判定結果が「加速」でない場合はS203へ行く。
【0068】
S203では、判定結果が「減速」か否かを判定する。ここでの、判定結果は、
図5のS107での判定を利用する。このとき、現在の速度で「減速」と判定されなくても、過去の速度データですでに「減速」と判定され、その後に「加速」と判定されない限りは、その「減速」判定が反映される。そして、判定結果が「減速」である場合はS206へ行き、判定結果が「減速」でない場合はS202へ戻る。
【0069】
S204では、現在の速度は閾値以上か否かを判定する。現在の速度データは、速度取得手段10により得ることができる。また、
図5のS103で取得した速度データを利用してもよい。閾値は、予め演算部22に記憶しておいてもよいし、設定入力部24で設定してもよい。設定入力部24として操作ボックス50を用いる場合は、例えば、設定スイッチ51bにより、閾値(最低作業速度)の設定モードにして、調節スイッチ51d、51eで値を決めることができる。閾値の値としては、例えば、1km/h〜5km/hの範囲から設定してもよい。そして、現在の速度が閾値以上の場合はS205へ行き、現在の速度が閾値以上でない場合はS202へ戻る。
【0070】
S205では、「シャッター開」と判定して、シャッターを「開」状態にする制御を行う。ここで、散布機100であれば、制御部23を介してアクチュエータ130を作動させて、シャッター152が開いた「開」の状態にする。例えば、
図3(a)や(b)の状態である。これにより、散布が行われる。このとき、シャッター152は、散布機100(トラクタ1)の速度に連動して、開く度合いを調節して、散布量を調節するようにしてもよい。S205の後はS202へ戻る。
【0071】
S206では、現在の速度は閾値以下か否かを判定する。現在の速度データは、速度取得手段10により得ることができる。また、
図5のS103で取得した速度データを利用してもよい。閾値は、予め演算部22に記憶しておいてもよいし、設定入力部24で設定してもよい。設定入力部24として操作ボックス50を用いる場合は、例えば、設定スイッチ51bにより、閾値(最低作業速度)の設定モードにして、調節スイッチ51d、51eで値を決めることができる。閾値の値としては、例えば、1km/h〜5km/hの範囲から設定してもよい。S206での閾値は、S204の閾値と同じとすることができる。なお、S204の閾値(第1の閾値)とS206での閾値(第2の閾値)を別々に設定することで、加速の場合の閾値と、減速の場合の閾値を変えることも可能である。そして、現在の速度が閾値以下の場合はS207へ行き、現在の速度が閾値以下でない場合はS202へ戻る。
【0072】
S207では、「シャッター閉」と判定して、シャッターを「閉」状態にする制御を行う。ここで、散布機100であれば、制御部23を介してアクチュエータ130を作動させて、シャッター152が閉じた「閉」の状態にする。これにより、散布は行われなくなる。これは、
図3(c)の状態である。そして、S202へ戻る。
【0073】
このようにして、加速・減速判定を用いてシャッター開閉の制御を行うことができる。そして、基の速度を決めて、それに対して、予め定めた設定値以上の速度変化のときに、加速又は減速を判定するため、速度の閾値がシャッターを開く場合と閉じる場合で同じであっても、従来のように閾値の速度付近で、散布の中断と開始を頻繁に繰り返すことを防止できる。
【0074】
ここで、S205で「開」状態になった後に、シャッター152が散布機100(トラクタ1)の速度に連動して、開度を調節する場合について説明する。散布機100の速度が変更するとき、シャッター152の開度が同じであれば、単位時間当たりの散布量は同じままであるので、単位面積当たりの散布量は変わってくる。このため、シャッター152の開度を調節して、単位面積当たりの散布量が同じになるようにアクチュエータ130の制御を行う。単位面積当たりの散布量の設定は、操作ボックス50の設定スイッチ51b等を用いて行うことができる。
【0075】
具体的には、操作ボックス50(設定入力部24)で設定された単位面積当たりの散布量になるように、速度取得手段10からの速度関連情報、操作ボックス50で入力された散布幅、操作ボックス50で入力された調量値を用いて、シャッター152の開度を算出する。ここで、調量値は、時間当たりの排出量であり、操作ボックス50の設定スイッチ51bから調量モードを用いて測定することができる。また、速度取得手段10からの速度関連情報により現在の速度を検知又は演算する。そして、現在の速度に基づいて、設定された単位面積当たりの散布量になるように、シャッター152の開度を演算部22で算出して制御部23を介してアクチュエータ130の制御を行う。このことで、単位面積当たりの散布量を一定にして散布を行うことができる。
【0076】
図7は、実施例1の農作業機用散布制御システムにおける加速時のシャッター開閉の判定の一例を説明するためのグラフである。ここで横軸が時間(s)であり、縦軸が速度(km/h)を表す。そして、速度に関するデータは速度取得手段10から一定間隔で取得している。
【0077】
散布機100を装着したトラクタ1が速度を上げ始める。このとき、散布機100のシャッター152は閉じている状態となっている。そして、ポイントQ1では、演算部22は速度取得手段10より速度を取得して、この速度を基の速度とする。さらに、散布機100が速度を上げながら、ポイントQ2に達すると、次の速度を取得する。このとき、ポイントQ1からポイントQ2にかけての速度変化が、予め設定された設定値K以上であり、かつ、ポイントQ1よりポイントQ2の方が速度は大きくなっているので、判定結果が「加速」となる(
図5のS106)。そして、このときの速度を基の速度として更新する(
図5のS108)。一方で、ポイントQ2の速度は閾値Aよりも小さいので、散布機100のシャッター152は閉じたままとなる(
図6のS204)。
【0078】
散布機100はさらに速度を上げてポイントQ3に達したときに、次の速度を取得する。このときの速度は、閾値Aと同じ速度とする。ポイントQ3では、ポイントQ2に対する速度変化が、設定値Kより小さい場合であるが、ポイントQ2ですでに「加速」判定となっているため、
図6の制御ではそれが反映される。そして、ポイントQ3で現在の速度は閾値A以上になっているので、散布機100のシャッター152を「開」の状態とする(
図6のS205)。このとき、速度に連動してシャッター152の開度を調節するように制御してもよい。
【0079】
図8は、実施例1の農作業機用散布制御システムにおける減速時のシャッター開閉の判定の一例を説明するためのグラフである。ここで横軸が時間(s)であり、縦軸が速度(km/h)を表す。そして、速度に関するデータは速度取得手段10から一定間隔で取得している。
【0080】
散布機100を装着したトラクタ1が速度を下げ始める。このとき、散布機100のシャッター152は開いている状態となっている。そして、ポイントR1では、演算部22は速度取得手段10より速度を取得して、この速度を基の速度とする。さらに、散布機100が速度を下げながら、ポイントR2に達すると、次の速度を取得する。このとき、ポイントR1からポイントR2にかけての速度変化が、予め設定された設定値K以上であり、かつ、ポイントR1よりポイントR2の方が速度は小さくなっているので、判定結果が「減速」となる(
図5のS107)。そして、このときの速度を基の速度として更新する(
図5のS108)。一方で、ポイントR2の速度は閾値Aよりも大きいので、散布機100のシャッター152は開いたままとなる(
図6のS206)。
【0081】
散布機100はさらに速度を下げポイントR3に達したときに、次の速度を取得する。このときの速度は、閾値Aと同じ速度とする。ポイントR3では、ポイントR2に対する速度変化が、設定値Kより小さい場合であるが、ポイントR2ですでに「減速」判定となっているため、
図6の制御ではそれが反映される。そして、ポイントR3で現在の速度は閾値A以下になっているので、散布機100のシャッター152を「閉」の状態とする(
図6のS207)。
【0082】
図9は、実施例1の農作業機用散布制御システムにおける加速・減速を繰り返す時のシャッター開閉の判定の一例を説明するためのグラフである。ここで横軸が時間(s)であり、縦軸が速度(km/h)を表す。そして、速度に関するデータは速度取得手段10から一定間隔で取得している。
【0083】
トラクタ1に装着された散布機100は、最初のポイントS1では速度は0km/hである。ここで、制御をスタートさせると、演算部22は速度取得手段10より速度を取得して、この速度を基の速度とする(
図5のS102)。そして、散布機100が速度を上げながらポイントS2に達すると、次の速度を取得する。ポイントS2では、現在の速度が閾値A以上になっている。このとき、ポイントS1からポイントS2にかけての速度変化が、予め設定された設定値K以上であり、かつ、ポイントS1よりポイントS2の方が速度は大きくなっているので、判定結果が「加速」となる(
図5のS106)。そして、このときの速度を基の速度として更新する(
図5のS108)。さらに、ポイントS2で現在の速度は閾値A以上になっているので、散布機100のシャッター152を「開」の状態とする(
図6のS205)。このとき、速度に連動してシャッター152の開度を調節するように制御をしてもよい。
【0084】
次に、散布機100はポイントS2からポイントS3にかけて減速に転じる。そして、ポイントS3では、次の速度を取得する。このとき、ポイントS2からポイントS3にかけての速度変化が、予め設定された設定値K以上であり、かつ、ポイントS2よりポイントS3の方が速度は小さくなっているので、判定結果が「減速」となる(
図5のS107)。そして、このときの速度を基の速度として更新する(
図5のS108)。さらに、ポイントS3で現在の速度は閾値A以下になっているので、散布機100のシャッター152を「閉」の状態とする(
図6のS207)。
【0085】
次に、散布機100はポイントS3からポイントS4にかけて加速に転じる。そして、ポイントS4では、次の速度を取得する。ポイントS4では、速度は閾値Aと同じである。このとき、ポイントS3からポイントS4にかけての速度変化が、予め設定された設定値K以上でないので、基の速度の更新は行われず、判定結果はS3での「減速」のままとなる。このため、ポイントS4では、現在の速度が閾値Aに達しているが、判定結果が「加速」ではないので、シャッター152を「閉」のままとなる(
図6のS202)。
【0086】
次に、散布機100はポイントS4からポイントS5にかけて速度を上げていく。そして、ポイントS5では、次の速度を取得する。ポイントS5では、速度は閾値Aよりも大きい値となっている。このとき、速度変化は、基の速度を更新したポイントS3と比較を行う。ここで、ポイントS3からポイントS5にかけての速度変化は、予め設定された設定値K以上であり、かつ、ポイントS3よりポイントS5の方が速度は大きくなっているので、判定結果が「加速」となる(
図5のS106)。そして、このときの速度を基の速度として更新する(
図5のS108)。さらに、ポイントS5で現在の速度は閾値A以上になっているので、散布機100のシャッター152を「開」の状態とする(
図6のS205)。このとき、速度に連動してシャッター152の開度を調節するように制御をしてもよい。
【0087】
このようにして、加速・減速判定を用いてシャッター開閉の制御を行うことで、加速時と減速時で同じ閾値を採用できると共に、閾値付近の速度での頻繁なシャッター152の開閉を防止できる。
【0088】
図10は、実施例1の農作業機用散布制御システムにおける速度変化に対するシャッター開閉の判定の一例を示すグラフである。ここで、横軸が時間(s)であり、縦軸が速度(km/h)を表す。
図10のグラフは、トラクタ1に装着された散布機100が速度を上げてその後に下げた場合のグラフである。このように、加速時のポイントT1と、減速時のポイントT2における速度の閾値は同じにでき、加速時はポイントT1でシャッター152を「開」の状態とし、減速時はポイントT2でシャッター152を「閉」の状態とすることができる。
【0089】
図11は、実施例1の農作業機用散布制御システムにおける旋回時の散布の状態の一例を示す図である。
図11に示されるように、散布機100から円弧状に散布物500を散布しながらトラクタ1が圃場の端510近辺まで前進作業をしてきたとき、作業者はトラクタ1の速度を落として旋回する。このとき、
図10で示される閾値AのポイントT2の速度で散布機100のシャッター152が閉じ散布が中断される。さらに、トラクタ1が圃場の端510手前で旋回して、トラクタ1の速度を再び上げる。このとき、
図10で示される閾値AのポイントT1で散布機100のシャッターが開き散布が再開される。このときシャッターが閉じるときと開くときの閾値Aは同じである。このため、同じように減速して旋回して加速すれば、
図11に示されているように、散布終了位置と散布開始位置は目標位置501と同じにすることができる。このため、散布した部分としない部分の境界位置が旋回前と後で圃場の端510から同じ距離にすることができる。
【実施例2】
【0090】
図12は、実施例2の農作業機用散布制御システムで適用される農作業機の一例を示す側面図である。
図13は、実施例2の農作業機用散布制御システムで適用される農作業機の一例を示す背面図である。
図14は、
図12、13における農作業機の繰り出しローラ部分の側面図である。
【0091】
実施例2では、実施例1で説明した散布機100を施肥機200に変えた場合の例を示す。ここでは、
図1のアクチュエータ30に相当するのはモータ210となる。以下実施例1と異なる点について主に説明する。
【0092】
施肥機200は、ホッパー201内にある肥料を、ホッパー201の下部に設けられた繰り出しローラ211が回転することにより、ホース203から落として施肥を行うものである。モータ210からの動力は、回転軸212等を介し、繰り出しローラ211に伝わり、繰り出しローラ211が回転する機構である。
図13に示される施肥機200では、ホッパー201を横方向に4つ有し、これらにそれぞれ、繰り出しローラ211が設置されている。一方、モータ210は左右に2つあり、それぞれのモータ210が2つの繰り出しローラ211へ動力を伝えるようになっている。これは、左右の片側のみ施肥を行いたいときのために対応するためである。施肥機200は、ロータリー220の上部に支柱202等を介して設置されている。
【0093】
ロータリー220は、装着部222側がトラクタ1の後部に装着される。そして、トラクタのPTOから出力された動力は、入力軸221から入力され、ロータリー220内部に設けられたギアやチェーン、軸等を介して、耕耘部223に伝えられ、耕耘部223が回転することにより耕耘作業を行うものである。
【0094】
繰り出しローラ211には、落とし口213(
図14参照)が設けられており、ここに、肥料が上から入る。落とし口213の大きさは決まっているため、ここに入る肥料の量は一定量となる。そして、繰り出しローラ211が回転すると、落とし口213も回転し、落とし口213が下側になると、肥料はホース203から落下し排出する。
【0095】
このため、施肥機200は、モータ210と連動する繰り出しローラ211の回転数が速ければ、排出する肥料の量が増え、モータ210と連動する繰り出しローラ211の回転数が遅ければ排出する肥料の量が減ることになる。すなわち、モータ210の回転数に応じて排出量(散布量)が変わる。施肥機200は、モータ210を回転させることにより散布を行い、モータ210の回転を止めることにより散布を行わないようにする散布機構を備えていることになる。
【0096】
次に、
図4で説明した、操作ボックス50における、実施例2の適用について実施例1と異なる点について主に説明する。
【0097】
開閉スイッチ51cは、モータ210の開始・停止スイッチに変更でき、作業を開始するときにモータ210の回転を始めるスイッチとなる。このとき、作業の開始前や旋回時等に散布物が無駄に散布されないようにするため、
図5、6で示す制御をスタートするスイッチとすることもできる。また、もう一度押すとモータ210の回転を止めるようにすることができる。さらに調量モードを起動してスタートするスイッチにもなることができる。
【0098】
シャッター開度表示52aは、モータ210又は繰り出しローラ211の回転数の表示に変更できる。設定時はモータ210又は繰り出しローラ211の回転数の設定値を表示し、作業時は状態検知部27を有する場合は状態検知部27からの情報又は制御部23における制御値の情報をもとに現在のモータ210又は繰り出しローラ211の回転の値を表示することができる。
【0099】
散布量表示52bは、実施例1と同じく設定時は散布量、設定値、最低作業速度、調量値、散布幅、補正値等の値を表示することができる。また、作業時は、設定された散布量を表示させてもよい。
【0100】
ここで、実施例1で説明した
図5及び
図6の制御の実施例2の適用について説明する。
図5の加速・減速判定のフローチャートについては、実施例2でも同様に適用でき、速度取得手段10のデータから得られる速度により処理を行う。
【0101】
図6のシャッター開閉の制御のフローチャートについては、シャッター152の開閉をモータ210の回転と停止に置き換えることができる。すなわち、S205でシャッターを「開」状態にすることは、実施例2では、モータ210の回転を行う状態とすることに置き換えればよい。これにより、散布が行われる。また、S207でシャッターを「閉」状態にすることは、実施例2では、モータ210の回転を停止することに置き換えればよい。これにより、散布が行われない。
【0102】
さらに、S205でモータ210の回転を開始した後に、モータ210の回転を施肥機200(トラクタ1)の速度に連動して、調節する場合について説明する。施肥機200の速度が変更されるとき、モータ210の回転が同じであれば、単位時間当たりの散布量は同じままであるので、単位面積当たりの散布量は変わってくる。このため、モータ210の回転を調節して、単位面積当たりの散布量が同じになるように制御を行う。単位面積当たりの散布量の設定は、操作ボックス50の設定スイッチ51b等を用いて行うことができる。
【0103】
具体的には、操作ボックス50(設定入力部24)で設定された単位面積当たりの散布量になるように、速度取得手段10からの速度関連情報、操作ボックス50で入力された散布幅、操作ボックス50で入力された調量値を用いて、モータ210の回転数を算出する。ここで調量値や速度取得手段10からの速度関連情報は、実施例1と同様である。そして、現在の速度に基づいて、設定された単位面積当たりの散布量になるように、モータ210の回転数を演算部22で算出して制御を行う。このことで、単位面積当たりの散布量を一定にして散布を行うことができる。なお、散布幅については一定であるので、予め演算部22の記憶部に記憶させておいてもよい。
【0104】
このように、モータ210の回転により散布を行う施肥機200においても、加速・減速判定を用いて加速時と減速時に対する閾値を決めることができる。これにより、旋回時の散布の中断や開始の位置を同じにすること等ができ、適切な散布作業を行うことができる。
【0105】
以上の様に、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例に設けられた全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を削除したり、他の実施例の構成に置き換えたり、あるいはまた、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
【0106】
例えば、
図5で説明した加速や減速の判定は、基の速度を決めて、それに対する速度変化が設定値以上であるか否かを利用している。これにより、正確な加速および減速の判定が可能になるが、これ以外に、過去に取得した複数の速度の平均値が、現在の速度に対して一定以上変化しているか否かで判定してもよい。この場合、過去に取得した複数の速度の平均値に対して、現在の速度が大きくなっている場合は加速、小さくなっている場合は減速と判定できる。
【0107】
また、
図6で示した閾値は、加速判定時と減速判定時で異ならせることも可能である。加速判定時と減速判定時で閾値を同じにすることで、
図11で説明したような効果があるが、加速判定時と減速判定時でそれぞれ閾値を変えれば、状況に応じた適用が可能であり、適用の幅を広げることができる。
【0108】
また、上記の実施形態では、散布筒120を有する散布機100について示したが、これに限らず、散布筒を有さない構成の散布機にも本発明を適用することができる。