(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892802
(24)【登録日】2021年6月1日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】締付トルク管理具及び締付トルク管理具と締結具との組み合わせ
(51)【国際特許分類】
F16B 31/02 20060101AFI20210614BHJP
B25B 21/00 20060101ALI20210614BHJP
B25B 13/58 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
F16B31/02 H
B25B21/00 H
B25B13/58
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-161283(P2017-161283)
(22)【出願日】2017年8月24日
(65)【公開番号】特開2019-38062(P2019-38062A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228442
【氏名又は名称】日本クロージャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍太
【審査官】
熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−113307(JP,A)
【文献】
特開昭55−54185(JP,A)
【文献】
実公昭48−27912(JP,Y1)
【文献】
特開2014−156898(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3009000(JP,U)
【文献】
実開昭51−147855(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
B25B 13/58
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂から一体に形成された締結具収納部と締付トルク付加部とを含み、
該締結具収納部には自由端が開口された収納穴が形成されており、該収納穴の内周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した正多角形内周面の各辺面の中間部に凹部を形成した形態であり、
締付回転方向に見て該正多角形内周面の辺面における該凹部の上流側に位置する部分には保持突出部が配設されており、
該締付トルク付加部に加えられ該締結具収納部を介して締結具に伝達される締付トルクが閾値を超えると、該収納穴の内周面が変形されて締結具に対して該締結具収納部が空転するようになり、かくして締結具の締付トルクが管理される、
ことを特徴とする締付トルク管理具。
【請求項2】
該保持突出部は該収納穴の軸線方向に延在するリブである、請求項1記載の締付トルク管理具。
【請求項3】
該リブの突出高さは0.1乃至0.5mmであり、該リブの周方向幅は0.1乃至0.5mmである、請求項2記載の締付トルク管理具。
【請求項4】
該リブの突出端部の横断面形状は半円形状である、請求項2又は3に記載の締付トルク管理具。
【請求項5】
該トルク付加正多角形外周面は正六角形であり、6個の辺面の各々において該凹部の上流側に位置する部分に該保持突出部が配設されている、請求項1から4までのいずれかに記載の締付トルク管理具。
【請求項6】
該締付トルク付加部の外周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した正多角形である、請求項1から5までのいずれかに記載の締付トルク管理具。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかに記載の締付トルク管理具と、該締付トルク管理具の該収納穴に少なくとも部分的に収納された締結具との組み合わせ。
【請求項8】
該締結具は該収納穴内に圧入されている、請求項7記載の組み合わせ。
【請求項9】
該締結具は六角ナットである、請求項7又は8記載の組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナット又はボルトの如き締結具を所要トルクで締め付けるための締付トルク管理具及びかかる締付トルク管理具と締結具との組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば高速道路における遮音壁の取り付け、トンネル等の天井壁の取り付け或いは各種建造物における種々の部品の取り付けにおいては、周知の如くボルトとナットとの締結が多数使用されている。そして、かような締結においてはボルトに対してナット(通常は緩み止めナット)を、例えば呼び径M10の六角ナットの場合には17乃至24Nm程度である、比較的大きな所要トルクで締め付けることが重要である。下記特許文献1及び2には、ボルトに対してナットを或いはナットに対してボルトを所要トルクで締め付ける際に使用することができる締付トルク管理具が開示されている。かかる締付トルク管理具は、所要トルクで破断される接続部によって一体に接続されている締結具収納部と締付トルク付加部とを含んでいる。締結具収納部内にナット或いはボルトの頭部を収納し、そして締付トルク付加部にトルクを加えてナットをボルトに或いはボルトをナットに締め付ける。締付トルク付加部に加えられ締結部収納部を介してナット或いはボルトに加えられる締付トルクが閾値を超えると、接続部が破断されて締付トルク付加部が締結具収納部から分離され、かくしてボルトに対してナットが或いはナットに対してボルトが所要トルクで締め付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−140832公報
【特許文献2】特開2015−224781公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、上記特許文献1及び2に開示されている締付トルク管理具には、特に比較的大きな締付トルクを必要とする場合、全体を鉄の如き強靭な金属から形成することが必要であり、それ故に製造コストが高価である、という解決すべき問題がある。製造コストを低減するために適宜の合成樹脂から形成すると、締結具収納部と締付トルク付加部とを接続している接続部が、締付トルク付加部に加えられる締付トルクが小さい時点で破断されてしまう。
【0005】
上記特許文献1及び2に開示されている締付トルク管理具における上記のとおりの問題を解決するために、本発明者等は、先に特願2016−139152の明細書において、従来の形態とは全く異なった独特な形態の締付トルク管理具を提案した。かかる締付トルク管理具は、合成樹脂から一体に形成された締結具収納部と締付トルク付加部とを含む。締結具収納部には自由端部が開口された収納穴が形成されており、この収納穴は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した正多角形内周面の各辺面の中間部に凹部を形成した形態である。締付トルク付加部に加えられ締結具収納部を介して締結具に伝達される締付トルクが閾値を超えると、収納穴の内周面が変形されて締結具に対して締結具収納部が空転するようになり、かくして締結具の締付トルクが管理される。
【0006】
本発明者等が提案した上記のとおりの締付トルク管理具は、ポリカーボネート及びアクリロニトリルブタジエンスチレンの如き適宜の合成樹脂から形成しても、収納穴の内周面の変形が開始される締付トルクを充分高い値にすることができ、従って適宜の合成樹脂から形成することによって製造コストを低減することが可能になる。
【0007】
しかしながら、本発明者等の経験によれば、本発明者等が提案した上記のとおりの締付トルク管理具も、未だ充分に満足し得るものではなく、次のとおりの問題を有することが判明した。即ち、合成樹脂製の締付トルク管理具は、射出成形或いは圧縮成形によって充分精密に成形することができ、製作公差を充分に小さくすることができる。一方、当業者には周知の如く、広く販売されている通常の締結具、即ち通常のナット或いはボルトの製作公差は比較的大きい。それ故に、特に締付トルク管理具の締結具収納部に形成されている収納穴内にナット或いはボルトの頭を圧入し締付トルク管理具と締結具とを組み合わせて市場に提供する場合、(1)収納穴に対してナット或いはボルトの頭が過剰に大きいと、収納穴にナット或いはボルトの頭を圧入する際に大きな力を必要とし、締結具収納部に大きな応力が生成され、これに起因して実際にナット或いはボルトをボルト或いはナットに締め付ける際に締付トルク管理具の締結具収納部が破断されてしまう傾向があり、(2)他方、収納穴に対してナット或いはボルトの頭が過剰に小さいと、微細な力によって収納穴内にナット或いはボルトの頭が収納されるが、搬送時の振動等に起因して収納穴からナット或いはボルトの頭が脱落してしまう虞が少なくない。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、本発明者等が先に提案した上記のとおりの締付トルク管理具に更に改良を加えて、締結具の比較的大きい製作公差に起因して締結具収納部の収納穴に締結具を収納する際の必要な力が過大になる或いは過小になることが可及的に回避される、新規且つ改良された締付トルク管理具を提供すること、そしてまたかかる締付トルク管理具と締結具との新規且つ改良された組み合わせを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討及び実験の結果、収納穴を規定している正多角形内周面に対応した正多角形内周面の辺面における、締付回転方向に見て凹部の上流側に位置する部分に保持突出部を配設することによって上記主たる技術的課題を達成することができることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の一局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する締付トルク管理具として、合成樹脂から一体に形成された締結具収納部と締付トルク付加部とを含み、
該締結具収納部には自由
端が開口された収納穴が形成されており、該収納穴の内周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した正多角形内周面の各辺面の中間部に凹部を形成した形態であり、
締付回転方向に見て該正多角形内周面の辺面における該凹部の上流側に位置する部分には保持突出部が配設されており、
該締付トルク付加部に加えられ該締結具収納部を介して締結具に伝達される締付トルクが閾値を超えると、該収納穴の内周面が変形されて締結具に対して該締結具収納部が空転するようになり、かくして締結具の締付トルクが管理される、
ことを特徴とする締付トルク管理具が提供される。
【0011】
好ましくは、該保持突出部は該収納穴の軸線方向に延在するリブである。該リブの突出高さは0.1乃至0.5mmであり、該リブの周方向幅は0.1乃至0.5mmであるのが好適である。好適には、該リブの突出端部の横断面形状は半円形状である。該トルク付加正多角形外周面は正六角形であり、6個の辺面の各々において該凹部の上流側に位置する部分に該保持突出部が配設されているのが望ましい。該締付トルク付加部の外周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した正多角形であるのが好都合である。
【0012】
本発明の他の局面によれば、上記主たる技術的課題を解決する締付トルク管理具と締結具との組み合わせとして、本発明の第一の局面によって提供される締付トルク管理具と該締付トルク管理具の該収納穴に少なくとも部分的に収納された締結具との組み合わせが提供される。
【0013】
該締結具は該収納穴内に圧入されているのが好適である。該締結具は六角ナットでよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の締付トルク管理具及び締付トルク管理具と締結具との組み合わせにおいては、締付トルク管理具が合成樹脂から形成されている、従って比較的安価に製造することができるにも拘らず、締付トルクを充分大きくすることができる。そして更に、締結具収納部の収納穴に締結具を圧入する際には、締結具の比較的大きな製作公差が、辺面における締付回転方向に見て凹部の上流側に配設された保持突出部の弾性変形及び/又は塑性変形によって補償され、圧入に必要な力が過大或いは過小になってしまうことが可及的に回避される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に従って構成された締付トルク管理具の好適実施形態を上方から見た斜面図。
【
図2】
図1に示す締付トルク管理具を下方から見た斜面図。
【
図3】
図1に示す締付トルク管理具の、一部を断面で示す正面図。
【
図6】
図1に示す締付トルク管理具と締結具の典型例
であるナットとの組み合わせの、一部を断面で示す正面図。
【
図8】
図6に示す組み合わせにおいて、ナットの締付トルクが閾値を超えてナットに対して締付トルク管理具が空転した状態を示す断面図。
【
図9】保持突出部の変形例を示す、
図7と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に従って構成された締付トルク管理具の好適実施形態及びかかる実施形態と締結具の典型例であるナットとの組み合わせを示す添付図面を参照して、更に詳述する。
【0017】
図1乃至
図3を参照して説明すると、全体を番号2で示す締付トルク管理具は、適宜の合成樹脂、好ましくはポリカーボネート或いはアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)の如き比較的高強度の合成樹脂、から射出成形或いは圧縮成形によって一体に形成されている。かかる締付トルク管理具2は、その略下半部を構成している締結具収納部4とその略上半部を構成している締付トルク付加部6とを含んでいる。
【0018】
図1乃至
図3と共に
図4及び
図5を参照して説明を続けると、締結具収納部4は全体として筒形状であり、自由
端即ち下端が開放された収納穴8が形成されている。締結具収納部4の環状下面10は平坦であり、同様に環状上面12も平坦であり環状下面10と平行に延在している。締結具収納部4の外周面14は円筒形状である。
【0019】
上記収納穴8の内周面は、収納する締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した仮想正多角形内周面の各辺面15の中間部に凹部16を形成した形態であることが重要である。図示の実施形態においては、後述するとおり締結具は六角ナットであり、従って締結具のトルク付加正多角形外周面は正六角形であり、仮想正多角形内周面(
図5に二点鎖線で示す内周面)も正六角形である。凹部16の各々は底面16aと共に両側面、即ち締付回転方向(
図4において時計方向、
図5において反時計方向)に見て上流側に位置する上流面16b及び下流側に位置する下流面16cを有する。底面16aと上流面16bとが形成する角度αは、100乃至160度程度であるのが殊に好ましい、鈍角であるのが好適である。図示の実施形態においては、底面16aは外周面14と同心状の円の一部をなす円弧形状であり、上流面16bは辺面15に対して
外方に向かって上記締付回転方向に傾斜し
て延在している。底面16aと上流面16bとは弧状境界面16dを介して滑らかに接続されているのが好適である。一方、下流面16cは辺面15に対して垂直に延在している。上記締付回転方向において凹部16よりも下流側の辺面15aの周方向長さL1は凹部16よりも上流の辺面15bの周方向長さL2よりも長いのが好都合である(この場合には、後の説明から明確に理解される如く、締付トルクの閾値は凹部16よりも下流側の辺面15aの変形によって規定される)。
図3を参照することによって理解される如く、締結具収納部4の環状下面10に開口する収納穴8の内周面下端部には面取加工が施されている。図示の実施形態においては、締結具収納部4には上記収納穴8の上端に続く連通穴18も形成されている。
図5を参照することによって明確に理解される如く、連通穴18の横断面形状は円形であり、その直径は上記収納穴8における仮想正六角形に内接する円の直径よりも幾分小さく、収納穴8と連通穴18との境界には下方を向いた
環状肩面20が規定されている。
【0020】
本発明に従って構成された締付トルク管理具2においては、上記収納穴8の内周面を規定する上記辺面15における上記締付回転方向(
図4において時計方向、
図5において反時計方向)に見て上記凹部16の上流側に位置する部分15bには保持突出部が配設されていることが重要である。図示の実施形態においては、保持突出部は、収納穴8の軸線方向(
図3において上下方向、
図5において紙面に垂直な方向)に、好ましくは収納穴8の軸線に実質上平行に、延びるリブ21が形成されている。図示の実施形態においては、6個の辺面15の部分15bの各々において保持突出部即ちリブ21が形成されている。リブ21の各々は
図2及び
図3を参照することによって明確に理解される如く、収納穴8の上端から下端近傍まで収納穴8の軸線に実質上平行に延びている。特に締結具が呼び径M8、M10或いはM12である場合、リブ21の突出高さHは0.1乃至0.5mm程度であり、リブ21の各々の周方向幅Wは0.1乃至0.5mm程度であるのが好適である。リブ21の突出端部の横断面形状は、
図5に図示する如く半円形状であるのが好都合である。図示の実施形態においては、6個の辺面15の部分15bの全てにおいてリブ21を形成しているが、所望ならば、例えば1個置きに位置する3個の辺面15或いは直径方向に対向して位置する2個の辺面15の部分15bのみにリブ21を形成することもできる。
【0021】
保持突出部を構成するリブ21は、辺面15における締付回転方向に見て凹部16の上流側に位置する部分15bのみではなく、辺面15における締付回転方向に見て凹部16の下流側に位置する部分15aにも形成することもできる。しかしながら、辺面15における締付回転方向に見て凹部16の下流側に位置する部分15aにも形成した場合、後述する如く締付トルクが閾値に達する際には辺面15における締付回転方向に見て凹部16の下流側に位置する部分15aが主として変形される故、辺面15の変形に先立ってリブがその全体に渡って変形され、これに起因して締付トルクが閾値に達する前に締付トルク管理具2が締結具から離脱してしまう傾向がある。従って、辺面15における締付回転方向に見て凹部16の下流側に位置する部分15aにはリブ21を配設しないことが望ましい。
【0022】
図1乃至
図4を参照して説明を続けると、上記締結具収納部4の環状上面12から上方に延出する締付トルク付加部6も全体として筒形状であり、上下方向に延びる貫通穴22を有する。
図3から明確に理解される如く、貫通穴22は上記連通穴18を介して上記収納穴8に連通されている。貫通穴22の横断面形状は円形であり、その直径は上記連通穴18の直径よりも更に小さく、貫通穴22と連通穴18との境界には下方を向いた円環状肩面24が規定されている。締付トルク付加部6の外周面26及び上面28は、締結具収納部4内に収納される締結具の外周面及び上面に対応した形状及び寸法であるのが好適であり、図示の実施例においては締付トルク付加部6の外周面26は六角ナットの外周面に対応した正六角形状(従って締付トルク付加部6の外径は締結具収納部4の外径よりも小さい)であり、上面28の主部は平坦であるが角部外周部は面取りされている。締付トルク付加部6の貫通穴22の直径は六角ナットが締結されるボルトの軸部の外径よりも幾分大きく、後に更に言及する如く、締結具収納部4に収容された六角ナットをボルトに締結する際には、締結の進行に応じてボルトの軸部が締結具収納部4の連通穴18及び締付トルク付加部6の貫通穴22を挿通する。
【0023】
上述したとおりの締付トルク管理具2はそれ単独で市場に流通させることもできるが、
図6及び
図7(
図7においては図面の簡略化のため収納穴8の内周面下端における面取加工の図示を省略しており、そして更に締結具即ち六角ナット30を収納穴8内に圧入することによってリブ21が幾分弾性乃至塑性変形されるが、かような変形を図示することなくリブ21が変形しない状態で六角ナット30に重ねて図示している)に示すとおり、締結具と組み合わせて市場に流通させるのが好都合である。
図6及び
図7に示す実施形態においては、締結具の典型例として六角ナット30が図示されている。かかる六角ナット30の外周面32は正六角形であり、六角ナット30の製作誤差が充分に小さい場合には締結具収納部4に形成されている収納穴8に関する上記仮想正六角形よりも若干大きい(換言すれば、締付トルク管理具2における締結具収納部4の収納穴8の仮想正六角形は六角ナット30の正六角形である外周面32よりも小さく設定されている)。そして、六角ナット30の主部、即ち下端部を除く部分、が締結具収納部4の収納穴8内に圧入され、六角ナット30の上面外周縁部34の内側には形成されている円筒形突起36の上面が上記
円環状肩面24に当接される(締結具収納部4の収納穴8に収納される六角ナット30が円筒形突起36を有しない形態である場合には、六角ナット30の上面外周縁部34が上記環状
肩面20に当接される)。そして、六角ナット30は、上記締付回転方向(
図4において時計方向、
図5において反時計方向)に見て上記凹部16の下流側に位置する部分15aと共にリブ21が六角ナット30の側面に圧接することによって収納穴8内に保持される。
而して、上述したとおり、適宜の合成樹脂から射出成形或いは圧縮成形される締付トルク管理具2の製作公差は比較的小さく、従って収納穴8の内周面の製作誤差は比較的小さいのに対して、六角ナット30の製作公差は比較的大きく、従って六角ナット30の外周面の製作誤差は比較的大きいが、本発明に従って構成された締付トルク管理具2においては、収納穴8の内周面に対する六角ナット30の外周面の比較的大きな製作誤差が収納穴8の内周面の所要部分に形成されているリブ21の弾性乃至塑性変形によって補償される。それ故に、収納穴8内に六角ボルト30を圧入するのに必要な力が過大或いは過小になることが可及的に回避される。
【0024】
上述したとおりの締付トルク管理具2の使用様式について説明すると、締付トルク管理具2に六角ナット30が既に組み合わされている場合には、その六角ナット30を締結すべきボルトの軸部38(
図6)に被嵌する(締付トルク管理具2に六角ナット30が組み合わされていない場合には、ボルトに仮締結した六角ナット30を締付トルク管理具2の締結具収納部4に形成されている収納穴8に収納する)。次いで、適宜の締付具(図示していない)を締付トルク付加部6の外周面に係合して締
付回転方向(
図4において時計方向、
図5において反時計方向)に回転する。締結具から締付トルク付加部6に加えられるトルクは締結具収納部4を介して六角ナット30に伝えられ、これによって六角ナット30がボルトの軸部38に締め付けられる。ボルトの軸部38に対して六角ナット30が軸線方向に相対的に比較的長い距離に渡って進行する場合には、
図6に二点鎖線で図示する如く、ボルトの軸部38が締結具収納部4に形成されている連通穴18及び締付トルク付加部6に形成されている貫通穴22に進入し連通穴18及び貫通穴22を挿通する。
【0025】
六角ナット30に伝えられる締付トルクが所定閾値を超えると、
図8(
図8においても、
図7と同様に、図面の簡略化のため収納穴8の内周面下端における面取加工の図示を省略している)に図示する如く、締結具収納部4に形成されている収納穴8の内周面、特に締付回転方向に見て凹部16よりも下流側の部位(更に詳しくは締付回転方向に見て上流側の辺面15と下流側の辺面15との境界領域から上流側の辺面15の凹部16よりも下流側の部位)が締付回転方向とは反対側へ向かって押圧されて変形され、六角ナット30に対して締付トルク管理具2が空転するようになり、かくしてボルトに対して六角ナット30が所要
締付トルクで締結される。六角ナット30に対して締付トルク管理具2が空転し始めた際には、六角ナット30の外周面角部が締結具収納部4に形成されている収納穴8の凹部16の上流面16bに激しく衝突することがあるが、図示の実施形態においては凹部16の底面16aと上流面16bとが鈍角を形成している故に、六角ナット30の外周面角部から凹部16の上流面16bに加えられる力が適宜に緩衝乃至消失され、締結具収納部4に亀裂が生成され締結具収納部4が破損されてしまうことが可及的に回避される。六角ナット30に対して締付トルク管理具2が空転し始めた後においては、ボルトの軸部38に所要締付トルクで締め付けられ六角ナット30から締付トルク管理具2を充分容易に離脱することができる。
【0026】
上述した実施形態においては、保持突出部は収納穴8の軸線方向に延びる1個のリブ21から構成されているが、所望ならば、収納穴8の軸線方向又は周方向に間隔おいて軸線方向に延びる複数個のリブ、収納穴8の周方向に延びる1個或いは収納穴8の軸線方向又は周方向に間隔をおいて周方向に延びる複数個のリブ、或いは適宜に配設された複数個の突起(横断面形状は円形であるのが好都合である)から保持突出部を構成することもできる。
図9は保持突出部の更に他の実施形態を図示している。かかる実施形態においては、辺面15(
図5を参照されたい)における上記締付回転方向(
図9において反時計方向)に見て上記凹部16の上流側に位置する部分15bにはその表面全体に渡って隆起部40が形成されていると共に、かかる隆起部40の背面側には隆起部40に沿って延在する溝42が形成されている。かような実施形態においては、辺面15における上記締付
回転方向(
図9において反時計方向)に見て凹部16の下流側に位置する部分15aと共に隆起部40が六角ナット30の側面に圧接することによって六角ナット30が収納穴8内に保持される。収納穴8の内周面に対する六角ナット30の外周面の比較的大きな製作誤差は、隆起部40の弾性変形によって補償され、収納穴8内に六角ボルト30を圧入するのに必要な力が過大或いは過小になることが可及的に回避される。
【符号の説明】
【0027】
2:締付トルク管理具
4:締結具収納部
6:締付トルク付加部
8:収納穴
15:辺面
16:凹部
16a:凹部の底面
16b:凹部の上流面
16c:凹部の下流面
18:連通穴
21:リブ(保持突出部)
22:貫通穴
30:六角ナット
38:ボルトの軸部