特許第6892805号(P6892805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892805
(24)【登録日】2021年6月1日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】レーダ装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20210614BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20210614BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20210614BHJP
   G01S 13/931 20200101ALN20210614BHJP
   G01S 13/34 20060101ALN20210614BHJP
【FI】
   G01S7/02 216
   H01Q21/06
   H01Q3/26 Z
   !G01S13/931
   !G01S13/34
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-164722(P2017-164722)
(22)【出願日】2017年8月29日
(65)【公開番号】特開2019-45154(P2019-45154A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘貴
【審査官】 渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−230974(JP,A)
【文献】 特開2009−216470(JP,A)
【文献】 特開2006−047114(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0278456(US,A1)
【文献】 特開2013−217885(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0229300(US,A1)
【文献】 特開2013−096908(JP,A)
【文献】 岸田正幸 長谷川渉,車載ミリ波レーダーの技術と応用,2015年電子情報通信学会基礎・境界ソサイエティ大会,日本,電子情報通信学会,2015年 8月25日,Pages S-1〜S-2,ISSN 2189-700X
【文献】 畠山和久 荒川郁男,自動車レーダにおける車両位置計測の一方法,1999年電子情報通信学会総合大会,日本,電子情報通信学会,1999年 3月28日,Page 422
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − 7/42
13/00 − 13/95
H01Q 3/00 − 3/46
21/00 − 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の間隔で配置された複数の第1の受信アンテナと、
前記第1の間隔より広い第2の間隔で配置された複数の第2の受信アンテナと、
前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を合成した合成角度を1つの仮想物標の角度として算出する合成部と、
前記仮想物標の角度と略同一である前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在するか否かを判定する判定部と、
前記判定部によって前記仮想物標の角度と略同一である前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在すると判定された場合に、前記仮想物標の角度の合成元である前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標の角度のうち少なくとも1つの物標の角度を出力する出力部と、
を備える、レーダ装置。
【請求項2】
前記複数の第1の受信アンテナを用いた物標の導出では、少なくとも前記レーダ装置の出力有効範囲において、位相折り返しが発生しない、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度と略同一である前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在するか否かを判定するマッチング判定部を備え、
前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された物標のうち、前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度と略同一の角度でないと前記マッチング判定部によって判定された物標のみを用いて、前記合成部が前記仮想物標の角度を算出する、請求項1又は請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記合成部は、
前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度の中から、前記判定部において判定対象となる前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度に最も近い角度を物標毎に抽出し、
物標毎に抽出した角度を合成する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記合成部は、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を、前記角度を示す信号のパワーで重み付けして合成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記合成部は、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度に応じて、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を合成する算出方法を変更する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
第1の間隔で配置された複数の第1の受信アンテナと、
前記第1の間隔より広い第2の間隔で配置された複数の第2の受信アンテナと、を備えるレーダ装置の信号処理方法であって、
前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を合成した合成角度を1つの仮想物標の角度として算出する合成工程と、
前記仮想物標の角度と略同一である前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在するか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程によって前記仮想物標の角度と略同一である前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在すると判定された場合に、前記仮想物標の角度の合成元である前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標の角度のうち少なくとも1つの物標の角度を出力する出力工程と、
を備える、信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置によって導出される物標の角度を複数の受信アンテナにより受信された到来電波の位相差に基づいて推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置によって導出される物標の角度を複数の受信アンテナにより受信された到来電波の位相差に基づいて推定する場合、受信アンテナの間隔が到来電波の半波長よりも広ければ、位相折り返しが発生する。
【0003】
特許文献1で開示されているレーダ装置では、アンテナ間隔が異なる2つの受信アンテナ対でそれぞれ検出される物標の角度(方位)が一致したときの角度を、レーダ装置によって検出された物標の角度として採用することで、物標の角度の誤検出を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−230974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されているレーダ装置は、アンテナ間隔が異なる2つの受信アンテナ対でそれぞれ検出される物標の角度が一致した場合にしか、物標の角度を検出することができない。
【0006】
アンテナ間隔が広い受信アンテナ対を用いて物標を導出した場合には、物標の角度精度が低いため物標の分離性能も低くなる。逆に、アンテナ間隔が狭い受信アンテナ対を用いて物標を導出した場合には、物標の角度精度が高いため物標の分離性能も高くなる。
【0007】
したがって、例えば互いに角度が比較的近い複数の物標が特許文献1で開示されているレーダ装置の遠方に存在する場合、アンテナ間隔が狭い受信アンテナ対を用いた物標の導出では、物標の角度精度が低いため複数の物標が分離されずに複数の物標が合成された位置の角度が検出されるのに対して、アンテナ間隔が広い受信アンテナ対を用いた物標の導出では、物標の角度精度が高いため複数の物標が分離されて各物標の角度が検出されるとともに、アンテナ間隔が広いため位相折り返しが発生する。その結果、アンテナ間隔が異なる2つの受信アンテナ対でそれぞれ検出される物標の角度が一致しない。
【0008】
すなわち、特許文献1で開示されているレーダ装置は、遠方に複数の物標が存在する場合に、それら複数の物標それぞれの角度を検出することができない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みて、遠方に複数の物標が存在する場合でも位相折り返しの問題を解消して、レーダ装置によって導出される物標の分離性能及び角度精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るレーダ装置は、第1の間隔で配置された複数の第1の受信アンテナと、前記第1の間隔より広い第2の間隔で配置された複数の第2の受信アンテナと、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を合成した合成角度を1つの仮想物標の角度として算出する合成部と、前記仮想物標の角度と略同一である前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在するか否かを判定する判定部と、前記判定部によって前記仮想物標の角度と略同一である前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在すると判定された場合に、前記仮想物標の角度の合成元である前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標の角度のうち少なくとも1つの物標の角度を出力する出力部と、を備える構成(第1の構成)である。
【0011】
上記第1の構成のレーダ装置において、前記複数の第1の受信アンテナを用いた物標の導出では、少なくとも前記レーダ装置の出力有効範囲において、位相折り返しが発生しない構成(第2の構成)であってもよい。
【0012】
上記第1又は第2の構成のレーダ装置において、前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度と略同一である前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在するか否かを判定するマッチング判定部を備え、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された物標のうち、前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度と略同一の角度でないと前記マッチング判定部によって判定された物標のみを用いて、前記合成部が前記仮想物標の角度を算出する構成(第3の構成)であってもよい。
【0013】
上記第1〜第3いずれかの構成のレーダ装置において、前記合成部は、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度の中から、前記判定部において判定対象となる前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度に最も近い角度を物標毎に抽出し、物標毎に抽出した角度を合成する構成(第4の構成)であってもよい。
【0014】
上記第1〜第4いずれかの構成のレーダ装置において、前記合成部は、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を、前記角度を示す信号のパワーで重み付けして合成する構成(第5の構成)であってもよい。
【0015】
上記第1〜第4いずれかの構成のレーダ装置において、前記合成部は、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度に応じて、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を合成する算出方法を変更する構成(第6の構成)であってもよい。
【0016】
上記第6の構成のレーダ装置において、前記合成部が変更する算出方法の一つに、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を、前記角度を示す信号のパワーで重み付けして合成する方法が含まれる構成(第7の構成)であってもよい。
【0017】
本発明に係る信号処理方法は、第1の間隔で配置された複数の第1の受信アンテナと、前記第1の間隔より広い第2の間隔で配置された複数の第2の受信アンテナと、を備えるレーダ装置の信号処理方法であって、前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標それぞれの角度を合成した合成角度を1つの仮想物標の角度として算出する合成工程と、前記仮想物標の角度と略同一である前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在するか否かを判定する判定工程と、前記判定工程によって前記仮想物標の角度と略同一である前記複数の第1の受信アンテナを用いて導出された物標の角度が存在すると判定された場合に、前記仮想物標の角度の合成元である前記複数の第2の受信アンテナを用いて導出された複数の物標の角度のうち少なくとも1つの物標の角度を出力する出力工程と、を備える構成(第8の構成)である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、遠方に複数の物標が存在する場合でも位相折り返しの問題を解消して、レーダ装置によって導出される物標の分離性能及び角度精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】レーダ装置の構成例を示す図
図2】信号処理装置の動作を示すフローチャート
図3】ピーク角度の例を示す図
図4】方位演算及びピーク角度の出力を行う処理の流れを示すフローチャート
図5】物標の角度を示す図
図6】物標の角度及び仮想物標の角度を示す図
図7】物標の角度及び仮想物標の角度を示す図
図8】物標の角度を示す図
図9】前方他車両のレーダ反射点を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
<1.レーダ装置の構成>
図1は本実施形態に係るレーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば自動車などの車両に搭載されている。以下、レーダ装置1が搭載される車両を「自車両」という。また、自車両の直進進行方向であって、運転席からステアリングに向かう方向を「前方」という。また、自車両の直進進行方向であって、ステアリングから運転席に向かう方向を「後方」という。また、自車両の直進進行方向及び鉛直線に垂直な方向であって、前方向を向いている運転手の右側から左側に向かう方向を「左方向」という。また、自車両の直進進行方向及び鉛直線に垂直な方向であって、前方向を向いている運転手の左側から右側に向かう方向を「右方向」という。
【0022】
レーダ装置1は自車両の前端に搭載されている。レーダ装置1は、周波数変調した連続波であるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)を用いて、自車両の前方に存在する物標に係る物標データを取得する。
【0023】
レーダ装置1は、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離(以下、「縦距離」という。) [m]、自車両に対する物標の相対速度[km/h]、自車両の左右方向における物標の距離(以下、「横位置」という。)[m]などのパラメータを有する物標データを導出する。縦位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の前方では正の値、自車両の後方では負の値で表現される。横位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される。
【0024】
図1に示すように、レーダ装置1は、送信部2と、受信部3n及び3wと、信号処理装置4と、を主に備えている。受信部3nでは、隣接する受信アンテナ31nの間隔が第1の間隔d1であり、受信部3wでは、隣接する受信アンテナ31wの間隔が第1の間隔d1より広い第2の間隔d2であるが、受信部3nと受信部3wの基本的な構成は同一である。このため、以下の説明では、適宜、受信部3nと受信部3wとを区別せずに受信部3として説明する。
【0025】
送信部2は、信号生成部21と発信器22とを備えている。信号生成部21は、三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発信器22に供給する。発信器22は、信号生成部21で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成し、送信アンテナ23に出力する。
【0026】
送信アンテナ23は、発信器22からの送信信号に基づいて、送信波TWを自車両の前方に出力する。送信アンテナ23が出力する送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFMCWとなる。送信アンテナ23から自車両の前方に送信された送信波TWは、人、他車両などの物体で反射されて反射波RWとなる。
【0027】
受信部3は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ31と、その複数の受信アンテナ31に接続された複数の個別受信部32とを備えている。本実施形態では、受信部3は、例えば、4つの受信アンテナ31と4つの個別受信部32とを備えている。4つの個別受信部32は、4つの受信アンテナ31にそれぞれ対応している。各受信アンテナ31は物体からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、各個別受信部32は対応する受信アンテナ31で得られた受信信号を処理する。
【0028】
各個別受信部32は、ミキサ33とA/D変換器34とを備えている。受信アンテナ31で得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ33に送られる。ミキサ33には送信部2の発信器22からの送信信号が入力され、ミキサ33において送信信号と受信信号とがミキシングされる。これにより、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差となるビート周波数を有するビート信号が生成される。ミキサ33で生成されたビート信号は、A/D変換器34でデジタルの信号に変換された後に、信号処理装置4に出力される。
【0029】
信号処理装置4は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ41などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置4は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ41に記憶する。メモリ41は、例えばRAM(Random Access Memory)などである。信号処理装置4は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部42、フーリエ変換部43、及び、データ処理部44を備えている。送信制御部42は、送信部2の信号生成部21を制御する。
【0030】
フーリエ変換部43は、複数の個別受信部32のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT)を実行する。これにより、フーリエ変換部43は、複数の受信アンテナ31それぞれの受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部43で得られた周波数スペクトラムは、データ処理部44に入力される。
【0031】
データ処理部44は、物標データ取得処理を実行し、複数の受信アンテナ31それぞれの周波数スペクトラムに基づいて、自車両の前方の物標に係る物標データを取得する。また、データ処理部44は、物標データを車両制御ECU61などに出力する。
【0032】
図1に示すように、データ処理部44は、主な機能として、物標データ導出部45、物標データ処理部46、及び物標データ出力部47を備えている。
【0033】
物標データ導出部45は、フーリエ変換部43で得られた周波数スペクトラムに基づいて物標に係る物標データを導出する。物標データ導出部45は、合成部45aと、判定部45bと、出力部45cと、ペアリング処理部45dと、マッチング判定部45eと、を備えている。合成部45a、判定部45b、出力部45c、ペアリング処理部45d、及びマッチング判定部45eそれぞれが実行する処理の詳細については後述する。
【0034】
物標データ処理部46は、導出された物標データを対象にしてフィルタリングなどの各種の処理を行う。物標データ出力部47は、物標データを車両制御ECU61などに出力する。これにより、車両制御ECU61などは、物標データを例えばACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-crash Safety System)に用いることができる。
【0035】
<2.信号処理装置の動作>
次に、信号処理装置4の動作について説明する。図2は、信号処理装置4の動作を示すフローチャートである。信号処理装置4は、図2に示す処理を一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返す。
【0036】
図2に示す処理の開始前に、送信制御部42による信号生成部21の制御が完了している。まず、フーリエ変換部43が、複数の個別受信部32のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換を実行する(ステップS1)。そして、4つの受信アンテナ31の全てに関してアップ区間(送信波TWの周波数が上昇する区間)及びダウン区間(送信波TWの周波数が下降する区間)の双方の周波数スペクトラムが、フーリエ変換部43からデータ処理部44に入力される。
【0037】
次に、物標データ導出部45が、周波数スペクトラムを対象にピーク周波数を抽出する(ステップS2)。物標データ導出部45は、周波数スペクトラムのうち、所定の閾値を超えるパワーを有するピークが表れる周波数を、ピーク周波数として抽出する。
【0038】
次に、物標データ導出部45は、方位演算処理により、抽出したピーク周波数の信号に係る物標の角度を推定する。方位演算処理では、一つのピーク周波数の信号から、複数の角度、及びそれら複数の角度それぞれの信号のパワーが導出される。方位演算処理としては、ESPRIT、MUSIC、PRISMなどの周知の方位演算処理を用いることができる。
【0039】
図3は、方位演算処理により推定された角度を、角度スペクトラムとして概念的に示す図である。図中において、横軸は角度(deg)、縦軸は信号のパワーを示している。角度(deg)は、自車両の前方直進進行方向とレーダ装置1から物標に向かう方向とのなす角度であり、例えば物標が自車両の前方右側に存在する場合に正の値で表現され物標が自車両の前方左側に存在する場合に負の値で表現される。横位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される。角度スペクトラムにおいて、方位演算処理により推定された角度はピークPaとして表れる。以下、方位演算処理により推定された角度を「ピーク角度」といい、ピーク角度の信号のパワーを「角度パワー」という。このように一つのピーク周波数の信号から同時に導出された複数のピーク角度は、同一の縦距離(当該ピーク周波数に対応する縦距離)に存在する複数の物標の角度を示す。
【0040】
物標データ導出部45は、同一の縦距離に存在する複数の物標それぞれのピーク角度と、角度パワーとを導出する(ステップS3)。
【0041】
これにより、物標データ導出部45は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに対応する区間データを導出する。物標データ導出部45は、アップ区間及びダウン区間の双方で、ピーク周波数、ピーク角度、及び、角度パワーのパラメータを有する区間データを導出する。物標データ導出部45は区間データに含めるピーク角度を選択しており、物標データ導出部45によって選択されたピーク角度が物標データ導出部45のペアリング処理部45dに出力される。方位演算及びピーク角度の出力を行う処理に関する詳細は後述する。
【0042】
次に、物標データ導出部45のペアリング処理部45dは、アップ区間の区間データとダウン区間の区間データとを対応付ける(ステップS4)。物標データ導出部45は、例えば、マハラノビス距離を用いた演算を用いて、類似のパラメータ(ピーク周波数、ピーク角度、及び、信号のパワー)を有する2つの区間データを対応付ける。
【0043】
物標データ導出部45は、さらに、アップ区間及びダウン区間の2つの区間データの対応付けができた場合は、それら2つの区間データに基づくペアデータを導出する。物標データ導出部45は、導出したペアデータのそれぞれに関して、ペアデータの元となったアップ区間及びダウン区間の2つの区間データのパラメータを用いることで、ペアデータのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を導出する(ステップS5)。
【0044】
次に、物標データ導出部45は、導出したペアデータのうちから物標に係る物標データを確定する。物標データ導出部45が導出したペアデータには、ノイズなどの不要なデータが含まれる。このため、物標データ導出部45は、導出したペアデータのうち物標に係るペアデータのみを物標データとして確定する。
【0045】
物標データ導出部45は、パラメータに基づいて、導出したペアデータのそれぞれを過去に確定した物標データと対応付ける。物標データ導出部45は、類似のパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を有するペアデータと過去の物標データとを対応付ける。そして、物標データ導出部45は、過去の物標データと対応付けができたペアデータを、物標に係る物標データとして確定する。
【0046】
また、過去の物標データとの対応付けができなかったペアデータには、新規に検出された物標に係る物標データも含まれている。このため、物標データ導出部45は、過去の物標データとの対応付けができなかったペアデータについては、次回以降の物標データ取得処理において所定回数(例えば、3回)以上連続して過去のペアデータと対応付けができた場合に、新規に検出された物標に係る物標データとして確定する。
【0047】
このような処理により、物標データ導出部45は、自車両の周辺の物標に係る物標データを導出する。物標データ取得処理は一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返されることから、物標データ導出部45は、物標に係る物標データを一定時間ごとに導出することになる。
【0048】
物標データ処理部46は、物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を時間軸方向に平滑化するフィルタリングを行う(ステップS6)。このようなフィルタリングの後の物標データは、瞬時値を表すペアデータに対して「フィルタデータ」とも呼ばれる。
【0049】
次に、物標データ処理部46が、物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)に基づいて、同一の物体に関する物標データであると推測できる複数の物標データを1つのグループに纏める(ステップS7)。
【0050】
最後に物標データ出力部47が、このように処理された物標データを車両制御ECU61などに送る。物標データ出力部47は、グループ化された物標データから所定数(例えば、10個)の物標データを出力対象として選択する(ステップS8)。物標データ出力部47は、物標データの縦距離と横位置とを考慮して、自車両に近い物標に係る物標データを優先的に選択する。
【0051】
以上のような処理で出力対象として選択された物標データはメモリ41に記憶され、次回以降の物標データ取得処理において過去の物標データとして用いられることになる。
【0052】
<3.方位演算及びピーク角度の出力>
次に、図2に示すステップS3の処理すなわち方位演算及びピーク角度の出力を行う処理の詳細について説明する。図4は、方位演算及びピーク角度の出力を行う処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
方位演算及びピーク角度の出力を行う処理では、まず、物標データ導出部45は、方位演算処理により、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する(ステップS31)。具体的には、物標データ導出部45は、4つの個別受信部32nのそれぞれから出力されるビート信号を高速フーリエ変換して得られる周波数スペクトラムからピーク周波数を抽出し、抽出したピーク周波数の信号からピーク角度を推定する。以下、ステップS31で推定されたピーク角度を第1の角度と呼ぶ。
【0054】
次に、物標データ導出部45は、方位演算処理により、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する(ステップS32)。具体的には、物標データ導出部45は、4つの個別受信部32wのそれぞれから出力されるビート信号を高速フーリエ変換して得られる周波数スペクトラムからピーク周波数を抽出し、抽出したピーク周波数の信号からピーク角度を推定する。以下、ステップS32で推定されたピーク角度を第2の角度と呼ぶ。
【0055】
本実施形態では、ステップS31の後にステップS32を実行しているが、ステップS32を先に実行してステップS32の後にステップS31を実行してもよい。また、本実施形態とは異なり、ステップS31とステップS32とを同時に実行してもよい。
【0056】
ステップS31及びS32の処理が完了した後、物標データ導出部45のマッチング判定部45eは、第1の角度と略同一である第2の角度が存在するか否かを判定する(ステップS33)。例えば、第1の角度と第2の角度との差の絶対値が所定値以下であるときに、第1の角度と第2の角度とが略同一であると判定すればよい。上記の所定値は、第1の角度の角度精度と第2の角度の角度精度を考慮して定めればよいが、例えば5degに設定すればよい。なお、第1の角度が複数存在する場合には、ステップS33の判定はそれぞれの第1の角度に対して実行される。
【0057】
第1の角度と略同一である第2の角度が存在すると判定された場合、物標データ導出部45の出力部45cは、第1の角度と略同一である第2の角度をペアリング処理部45dに出力する(ステップS34)。これにより、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて導出される物標の第2の角度において位相折り返しが発生しても、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて導出される物標の第1の角度を手がかりとして、第2の角度を位相折り返しの問題を解消して出力することができる。すなわち、位相折り返しの問題を解消して高精度の角度を出力することができる。そして、物標データ導出部45は、ステップS34の処理を終えると、図4に示すフロー動作を終了する。
【0058】
一方、第1の角度と略同一である第2の角度が存在しないと判定された場合、互いに縦距離及び角度が比較的近い複数の物標を間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて導出したときに、物標の角度精度が低いため複数の物標が分離されずに複数の物標が合成された位置の角度が検出されている可能性がある。このように間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いた物標の導出では複数の物標を正しく分離できていなくても、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて導出される物標の第1の角度を手がかりとして、第1の角度よりも角度精度の高い第2の角度を位相折り返しの問題を解消して出力することができるように、本実施形態では後述する仮想物標の角度を用いた処理(ステップS35及びS36)を行う。
【0059】
仮想物標の角度とは、互いに縦距離及び角度が比較的近い複数の物標を間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて導出したときに、物標の角度精度が高いため複数の物標が分離されているけれども、仮想的に分離されていない状態すなわち合成されている状態を作り出し、その複数の物標を合成したものの角度を意味している。第1の角度が複数の物標が分離されずに複数の物標が合成された位置の角度であり、第2の角度が複数の物標が分離されており複数の物標それぞれの角度である場合、第1の角度と略同一である第2の角度は存在しないのに対して、第1の角度と略同一である仮想物標の角度は存在し得る。
【0060】
そこで、第1の角度と略同一である第2の角度が存在しないと判定された場合、物標データ導出部45の合成部45aは、複数の物標それぞれの第2の角度を合成した合成角度を1つの仮想物標の角度として算出する(ステップS35)。より具体的には、ステップS35において、合成部45aは、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて導出された物標のうち、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて導出された物標の角度と略同一の角度でないとマッチング判定部45eによって判定された物標のみを用いて、仮想物標の角度を算出する。これにより、無駄な仮想物標の角度の算出(第1の角度と略同一である第2の角度を合成元とする仮想物標の角度の算出)をなくすことができる。
【0061】
ステップS35に続くステップS36において、物標データ導出部45の判定部45bは、仮想物標の角度と略同一である第1の角度が存在するか否かを判定する(ステップS36)。例えば、仮想物標の角度と第1の角度との差の絶対値が所定値以下であるときに、仮想物標の角度と第1の角度とが略同一であると判定すればよい。上記の所定値は、第1の角度の角度精度と第2の角度の角度精度を考慮して定めればよいが、例えば5degに設定すればよい。
【0062】
仮想物標の角度と略同一である第1の角度が存在すると判定された場合、物標データ導出部45の出力部45cは、仮想物標の角度の合成元である複数の第2の角度それぞれを出力する(ステップS37)。このように、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて導出される複数の物標それぞれの第2の角度において位相折り返しが発生しても、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて導出される物標の第1の角度を手がかりとする。そして、仮想物標の角度と略同一の第1の角度が存在すれば、仮想的に分離されていない状態すなわち合成されている状態から元に戻した複数の物標それぞれの第2の角度(仮想物標の角度の合成元である複数の第2の角度それぞれ)を位相折り返しの問題を解消して出力することができる。すなわち、位相折り返しの問題を解消して高精度の角度を出力することができる。そして、物標データ導出部45は、ステップS37の処理を終えると、図4に示すフロー動作を終了する。なお、本実施形態では、物標データ導出部45の出力部45cは、仮想物標の角度の合成元である複数の第2の角度それぞれを出力したが、仮想物標の角度の合成元である複数の第2の角度の一部を出力してもよい。
【0063】
一方、仮想物標の角度と略同一である第1の角度が存在しないと判定された場合、物標データ導出部45の出力部45cは、第1の角度を出力する(ステップS38)。ステップS36において仮想物標の角度と略同一である第1の角度が存在しないと判定される例としては、複数の物標が存在しているにもかかわらず、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて導出された物標が単一である場合や、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて導出された物標の第1の角度の精度が著しく悪いために仮想物標の角度と略同一にならない場合などを挙げることができる。そして、物標データ導出部45は、ステップS38の処理を終えると、図4に示すフロー動作を終了する。
【0064】
ここで、レーダ装置1と前方他車両V1とが図5(a)に示す位置関係である場合について考える。
【0065】
例えば、物標の角度に関するレーダ装置1の出力有効範囲を−75deg〜+75degとし、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲を150degとし、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合にはレーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生しないようにする。これにより、前方他車両V1に対応する物標T1の第1の角度θ1は図5(b)に示すように1つのみ導出される。なお、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲は、後述する図6及び図7においても150degとする。
【0066】
また、例えば、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲を50degとする。これにより、前方他車両V1に対応する物標T1の第2の角度θ2は図5(c)に示すように3つ導出される。なお、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲は、後述する図6及び図7においても50degとする。
【0067】
レーダ装置1の物標データ導出部45が上述したステップS33及びS34の処理を実行することにより、図5(c)に示すように3つの第2の角度θ2のうち、第1の角度θ1と略同一である第2の角度θ2(図5(c)において3つの物標T1の中で一番左側に図示された物標T1の第2の角度θ2)が出力される。したがって、位相折り返しの問題を解消して、レーダ装置1によって導出される物標の角度精度を向上させることができる。
【0068】
次に、レーダ装置1と前方他車両V1及びV2とが図6(a)に示す位置関係である場合について考える。前方他車両V1と前方他車両V2は、レーダ装置1の遠方に位置している。前方他車両V1と前方他車両V2の縦距離は略同一であり、前方他車両V1の横位置と前方他車両V2の横位置は近接している。
【0069】
間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合には、物標の分離性能が低いため、図6(b)に示すように前方他車両V1及びV2の双方に対応する一つの物標T0の第1の角度θ1が導出される。
【0070】
間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合には、物標の分離性能が高いため、図6(c)に示すように前方他車両V1に対応する物標T1と前方他車両V2に対応する物標T2とが分離して導出される。
【0071】
レーダ装置1の合成部45aが上述したステップS45の処理を実行することにより、図6(c)に示すように3つの仮想物標T3の角度θcが算出され、第1の角度θ1と略同一である仮想物標T3の角度θcの合成元である第2の角度θ2(図6(c)において3つの物標T1の中で一番左側に図示された物標T1の第2の角度及び図6(c)において3つの物標T2の中で一番左側に図示された物標T2の第2の角度)が出力される。したがって、遠方に2つの物標が存在する場合でも位相折り返しの問題を解消して、レーダ装置1によって導出される物標の分離性能及び角度精度を向上させることができる。
【0072】
なお、図6(c)に示すように3つの仮想物標T3の角度θcを算出するのではなく、図7(c)に示すように、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて導出された複数の物標(物標T1及びT2)それぞれの角度の中から、ステップS36の判定において判定対象となる第1の角度に最も近い角度を物標毎に抽出し、物標毎に抽出した角度(図7(c)において3つの物標T1の中で一番左側に図示された物標T1の第2の角度及び図7(c)において3つの物標T2の中で一番左側に図示された物標T2の第2の角度)を合成して、1つの仮想物標T3の角度θcを算出するようにしてもよい。これにより、仮想物標T3の角度θcを算出する処理の負担が軽減される。
【0073】
仮想物標T3の角度θcは、例えば下記の式に示すように2つの第2の角度を第2の角度を示す信号のパワーで重み付けして算出するとよい。なお、θ2V1は前方他車両V1に対応する物標T1の第2の角度であり、PV1はθ2V1に対応する角度パワーであり、θ2V2は前方他車両V2に対応する物標T2の第2の角度であり、PV2はθ2V2に対応する角度パワーである。
θc=θ2V1×PV1/(PV1+PV2)+θ2V2×PV2/(PV1+PV2
【0074】
図6(b)に示す前方他車両V1及びV2の双方に対応する一つの物標T0の第1の角度θ1は、2つのピークPa(図3参照)が分離できずに一つのブロードなピークになっている角度スペクトラムから求まっているため、2つのピークPaの信号強度の影響も受ける。したがって、仮想物標T3の角度θcは、例えば上記の式に示すように2つの第2の角度を第2の角度を示す信号のパワーで重み付けして算出することによって、図4に示すステップS36の判定において、仮想物標T3の角度と略同一である第1の角度が存在すると判定される可能性を高めることができる。
【0075】
ここでは、2つの物標T1及びT2の第2の角度を合成して仮想物標の角度を算出したが、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合に3つ以上の物標が分離されていれば、3つ以上の物標の第2の角度を合成して仮想物標の角度を算出すればよい。
【0076】
また、物標の角度の絶対値が小さいほど、一般的に角度パワーが大きくなり、ノイズ等の影響を受け難くなり角度パワーの信頼性が高くなる。角度パワーの信頼性が低い場合には、角度パワーでの重み付けを行うよりも例えば複数の第2の角度を単純平均した方が良いことも考えられる。したがって、合成部45aは、複数の第2の角度に応じて、複数の第2の角度を合成する算出方法を変更するようにしてもよい。例えば、合成部45aは、複数の第2の角度の全てが−60deg〜+60degの範囲内である場合には、仮想物標の角度θを複数の第2の角度を第2の角度を示す信号のパワーで重み付けして算出し、それ以外の場合には、仮想物標の角度θを複数の第2の角度を単純平均して算出すればよい。
【0077】
<4.その他>
本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。また、本明細書中に示される複数の実施形態及び変形例は可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。
【0078】
例えば、上述した実施形態ではレーダ装置1はFMCW方式のレーダ装置であったが、他の方式のレーダ装置を用いてもよい。例えば、例えばFCM(Fast-Chirp Modulation)方式のレーダ装置を用いてもよい。なお、FCM方式のレーダ装置はペアリング処理を行わないので、本発明をFCM方式のレーダ装置に適用する場合、出力部45cの出力先はペアリング処理部ではなく例えば物標の横位置を演算する演算部などになる。
【0079】
例えば、上述した実施形態では、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合にはレーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生しないようにしているが、レーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生するような受信アンテナ31nの配置であってもよい。このような配置である場合、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲が、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合の隣接する複数の折り返し角度範囲を合わせた範囲と略一致しないようにすればよい。
【0080】
例えば、図8に示すように、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲R1〜R3それぞれを50degとし、間隔が広い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲R11〜R19それぞれを50/3degとした場合を考える。この場合、折り返し角度範囲R1は折り返し角度範囲R11〜R13を合わせた範囲と略一致し、折り返し角度範囲R2は折り返し角度範囲R14〜R16を合わせた範囲と略一致し、折り返し角度範囲R3は折り返し角度範囲R15〜R19を合わせた範囲と略一致する。その結果、折り返し角度範囲R1での第1の角度θ1と略同一である第2の角度(図8(c)において不図示)が折り返し角度範囲R13に存在し、折り返し角度範囲R2での第1の角度θ1と略同一である第2の角度(図8(c)において不図示)が折り返し角度範囲R16に存在し、折り返し角度範囲R3での第1の角度θ1と略同一である第2の角度(図8(c)において不図示)が折り返し角度範囲R19に存在する。
【0081】
図8に示す例のように、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲が、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合の隣接する複数の折り返し角度範囲を合わせた範囲と略一致すると、図4のステップS34において1つの物標(図8に示す例では物標T1)に対して1つの第2の角度を決定して出力することができなくなり、位相折り返しの問題を解消できなくなる。
【0082】
したがって、上述した通り、レーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生するような受信アンテナ31nの配置である場合、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲が、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合の隣接する複数の折り返し角度範囲を合わせた範囲と略一致しないようにすればよい。
【0083】
例えば、上述した実施形態では、複数の第2の角度を第2の角度を示す信号のパワーで重み付けして合成することによって仮想物標の角度を算出したが、同様の手法を図2のステップS7の処理すなわちグループ化処理に適用することもできる。すなわち、複数の物標点の角度をその角度を示す信号のパワーで重み付けして合成することによって、グループ化されて一つに纏まった物標の角度を算出し、その算出結果を用いてグループ化されて一つに纏まった物標の横位置を求めてもよい。
【0084】
例えば、前方他車両のレーダ反射点が図9に示すレーダ反射点P1〜P3である場合、3つのレーダ反射点P1〜P3の角度(3つの物標の角度)を単純平均してグループ化されて一つに纏まった物標の角度を算出した場合、グループ化されて一つに纏まった物標の角度は前方他車両の左側に片寄ってしまう。一方、3つのレーダ反射点P1〜P3の角度(3つの物標の角度)をその角度を示す信号のパワーで重み付けして合成することによって、グループ化されて一つに纏まった物標の角度を算出する場合、上述した片寄りを抑えることができる。
【0085】
なお、複数の物標点の角度をその角度を示す信号のパワーで重み付けして合成することによって、グループ化されて一つに纏まった物標の角度を算出する手法の適用範囲は、遠方に複数の物標が存在する場合でも位相折り返しの問題を解消して、導出する物標の分離性能及び角度精度を向上させることができるレーダ装置のグループ化処理に限定されない。言い換えると、複数の物標点の角度をその角度を示す信号のパワーで重み付けして合成することによって、グループ化されて一つに纏まった物標の角度を算出する手法は、レーダ装置全般のグループ化処理に適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 レーダ装置
2 送信部
3n、3w 受信部
4 信号処理装置
44 データ処理部
45 物標データ導出部
45a 合成部
45b 判定部
45c 出力部
45e マッチング判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9