(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のアーチ状底面拡底壁杭の例を示す図。
【
図3】突起付アーチ状底面を有する拡底壁杭の例を示す図。
【
図7】本発明の拡底部付き壁杭の掘削装置の例を示す図。
【
図11】先行エレメントを設置して先行壁を構築する状態を示す図。
【
図12】地下壁杭を構築する状態を示す図。(a)後行掘削状態。(b)後行エレメントを設置して連続壁とした状態。
【
図13】従来例(特許文献1)の独立拡底杭を示す図。
【0008】
本発明は、壁状体の下部が広がった拡底部を有し、底面がアーチ状である拡底部を備えた地下壁杭構造である。拡底部の底面をアーチ状にすることにより、アーチ状の曲面に沿って地盤反力が作用するために、フラットな拡底部で生じる地盤反力等の偏在は見られることはなく、ひび割れなどの損傷が抑制された高支持力の地中連壁となる。壁状体の延伸方向に突起部を設けた地下壁杭は、地震等において作用する水平方向の応力を支持地盤に伝えて、抵抗力を高める。
拡底部の張り出しを左右非対称とした地下壁杭は、近接している隣接境界などでも拡底部を備えた地下壁杭を構築できる。この、左右非対称は、拡幅できない地中構造物を避けるなど部分的に設けることもできる。
長手方向に伸びる地下壁杭において、拡底部を設ける場所、大きさは一様である必要はなく、上部躯体の柱部分など高軸力が作用する集中場所などに、必要な耐力に応じて設定することができる。
更に、壁の中間に拡幅部を設けた地下壁杭にあっては、鉛直支持力、及び引き抜き抵抗力を増大させて、地震時の耐力を向上させる。この拡幅部も、建物の隅部など引き抜き力が大きくなる部分に集中して設けるなど部分的に設けることができる。
本発明の地下壁杭は、壁状に連続した杭であって、建物外周だけでなく、周回していない壁杭あるいは、格子状など内部側にも設けることによって、建物柱の配置に応じた連続壁として構成することもできる。または、壁杭は、連壁状でなくても良い(
図9参照)。
【0009】
本発明の地下壁杭は、建物などの建築構造物の壁杭などの基礎支持構造あるいは、山留め用の連壁などに使用できる。
連続した壁状の杭機能を発揮するので本発明の地下壁杭は、単独杭を配置する場合に比べて、高い地盤支持力が確保できる。特に高層建物では、建物重量も増加するために、地下壁杭による杭構造が採用される場合が多い。また、建物を連続した面で支えるので安定性も向上する。拡底部の底面がアーチ状に湾曲しているので、壁杭本体の建物厚さを一様に増加させることなく、壁杭先端に拡底部を設けることで、支持地盤の支持面積が増加されるために、地下壁杭の荷重耐力が向上する。そして、拡幅部が無筋であっても、アーチ状のアーチ面にそって荷重が分散するが、平坦面を有する拡幅部を備えた壁杭では、荷重が面的に偏在するので、ひび割れなど損傷のリスクがあって、底面積に比べて設定荷重耐力に限界がある。
本発明は、掘削用カッターの軸を振り子のように回動するので、拡底部の底面がアーチ状になるので、壁杭の支配面積を増大できる。
地下杭工事は掘削深さが短いので工期の短縮と施工費を低減することができる。
拡底部の形状に伴う支配力の相違を示す模式的説明を
図10に示す。アーチ形底面は、アーチと直交方向に地盤反力が働き、その反力としての鉛直荷重もアーチ形底面と直交方向に作用することになる。また、フラットな底面であっても、直交方向に地盤反力が作用することは同様である。したがって、フラットな底面の端に働く地盤反力が配筋されていない拡底部に作用することで、ひび割れなどの損傷が発生するリスクが高まるために、地盤反力に相対する支持可能な構造物の鉛直荷重は拡底部の水平断面積に比して小さくなる。これに対して、アーチ形の底面は、壁厚方向に地盤反力が集中するので、配筋された部分で受けることとなり、損傷のリスクが小さい。
【0010】
<地下壁杭>
本発明の地下壁杭構造である壁杭の例を
図1に示す。
壁杭1は、建物の基礎などに沿って長く伸びる壁状体2とその下側に拡底部3を有し、その拡底部の底面がアーチ形底面34となっている。
拡底部の底面がアーチ形であることにより、上部構造の負荷(鉛直荷重、特に圧縮軸力)を安定して支持することができ、平らな底面に比べて、大きな鉛直荷重を負担でき、高い支持力を発揮することができる。あるいは、壁圧を薄くすることができる。また、拡底部において、壁状部よりも拡幅している部分は、配筋することが難しいので、無筋とすることにより、地震などで大きな負荷がかかると、ひび割れなどが入って損傷しやすく、拡底部を大きくすることが難しい。本発明は拡底部の底面をアーチ形とすることにより、拡底部が安定し、耐荷重が向上する。
鉄筋は、本地下壁杭構造の形に地盤を掘削した孔に壁状部の厚さに沿う組鉄筋を挿入する。壁状体から広がった部分には鉄筋を配筋することは難しく、無筋になることが多い。
この地下壁杭構造は、建物の壁状の基礎構造や山留め壁を兼用する壁杭などに適している。
【0011】
地下壁杭構造の形状の基本例を
図2に示す。
図2(a)に示す地下壁杭構造は、下部側が壁状体2の延長に対して左右に同一形に拡幅した拡底部3を設けた同張り出し拡幅地下壁杭構造11の例である。拡底部の底面は左右同角のアーチ形底面34となる。
図2(b)に示す地下壁杭構造は、拡底部3の下方に突起部4を有する突起部付き拡底部32を備えた地下壁杭構造12の例である。
突起部4は、図示の例では壁状体2の直下に同幅で設けられている。この突起部4の取付け方向及び大きさは任意であり、地盤の特性などによる側圧などを考慮して取り付け角度を設定することができる。
【0012】
図2(c)に示す地下壁杭構造は、壁状体の延伸部21から左右に張り出した量が異なる小張り出し部33aと大張り出し部33bを有する異形のアーチ形底面34を備えた異形拡幅部33を備えた地下壁杭構造13の例である。
左右の状況に応じて、拡底部の張り出し量を調整した地下壁杭構造である。
例えば、地下壁杭構造を山留め用の連壁として形成することができる。例えば、隣接境界に近接側を小さな張り出しの拡幅部とすることにより、隣地境界に近づけることができる。建物が近接している場合も同様である。
【0013】
図3には、地下壁杭構造の断面図を示す。
図2(b)に示す突起部付き拡底部32を備えた地下連続構造12の断面を
図3(a)に示している。
図3(b)は、突起部付き拡底部であって、片方にのみ拡幅部を設けたアーチ形底面34を有する突起付き片面拡幅部35を備えた片面拡幅突起付き地下壁杭構造14である。隣地境界に近接した山留め連壁用としても同様に有効である。壁杭などに利用した場合、既存杭などの地下構造物がある部分のみを避けて、その部分に拡底部を設けないなど拡幅を中断した地下壁杭構造とすることができる。
【0014】
(アーチ形拡底部)
拡底壁杭の拡底部を形成する傾斜角度は、壁の外面から広がった角度であり拡底角度と称する。
図4に示す例示は、回転中心をもつカッターを揺動して作成した例である。拡底角度をθで現すと、カッターの揺動角度は2θとなる。
拡底角度θについて、模式的に
図4に示す。地下壁杭構造の拡底部3は、直線で現される壁状体と拡幅部の交差角度がθとして現され、カッターが左右に揺動するカッターの回動角度は2θとなる。
地下壁杭構造のアーチ形底面の大きさについて、検討した例を
図5に示す。
回動するシャフトをもったカッターを利用して拡幅を形成した例であり、カッターの回動角度θとシャフト長さを設定してアーチ面の大きさを設定している。
図5(a)は、壁厚2.4m、カッター長6m、θ=20度の設定で拡幅量は5mとなり、壁厚に対する拡幅率は2.08倍である。
図5(b)は、壁厚2.0m、カッター長6m、θ=12度の設定で拡幅量は3.5mとなり、壁厚に対する拡幅率は1.75倍である。
図5(c)は、壁厚2.0m、カッター長4m、θ=20度の設定で拡幅量は3.7mとなり、壁厚に対する拡幅率は1.85倍である。
図5(d)は、壁厚1.5m、カッター長4m、θ=12度の設定で拡幅量は2.6mとなり、壁厚に対する拡幅率は1.73倍である。
図5に示す例では、壁厚に対する拡幅されているアーチ形底部の拡底部は、2θが12〜20度に設定し、拡幅部の半径は4〜6m、壁厚に対する拡幅率は1.73〜2.08倍である。
後に提案する拡底部を掘削する掘削機は、機械装置の構造上はカッターを左右にθが90度以上回動することができるので、論理的にθは、90度以上設定でき、拡幅量は、カッター長の2倍まで可能である。この間で、必要な設計強度に応じて拡幅量を設定する。また、コンクリートの強度などを勘案し、壁杭の配置の設計に反映する。
好ましい、アーチ角度(θ)は壁厚+0度以上90度以下であり、好ましくは、壁厚+10〜60度、左右で異なる拡底角度の場合もこの角度範囲で調整される。なお、アーチ面にすると、平坦面よりも支配角度が広がるので、壁杭の耐力が向上する。なお、一般的な基礎底辺部分(フーチング)が拡幅された独立フーチング基礎においては、フーチング基礎とフーチング基礎なしが区別されるフーチング幅の長さは、柱中心軸に対するフーチン基礎の広がり角度(片側)で表すと、約3.6度である。したがって、一般的な柱に限定した場合、柱外周面から外側にはね出す基部の長さは柱中心軸からの広がり角度(片側)で表すと3.6度程度の拡幅まで拡幅なしの独立柱と評価されている。本発明は、アーチ型の拡底部を備えている点で、通常の柱材とは異なるが、より拡底作用効果を奏する角度は片側5度以上(すなわち両側に拡底部を設ける場合は10度以上)が適切である。
また、施工上の管理単位は10cmなので、拡底部の片側張り出し長は、実務上10cmが最小である。
【0015】
地下壁杭構造をこのようなアーチ形の拡底部を備えた壁杭に利用することにより、鉛直荷重耐力の向上の他、引き抜き力や押し込み力に対する抵抗も向上して、壁杭用に掘削する深さを浅くすることができ、壁杭本体の壁状体の厚さを薄くすることができる。この結果、掘削手間、打設するコンクリート量、鉄筋量を低減することができ、工事を短縮することができる。
また、壁杭を基礎とした場合、高層建物などの大きな鉛直荷重が加わる建物等を支持することができる。
【0016】
<施工方法>
本発明の施工方法は、拡底部を備えた地下壁杭構造の形状に掘削した地盤空隙にコンクリートを打設する方法を採用している。
図6にその施工方法の例を示す。この例で示す工法は、先行壁構造と後行壁構造を交互に作成して、連続した地下壁杭構造を構築する例であって、先行壁構造あるいは後行壁構造を作成する工程を示している。
第1工程として、鉛直方向に同幅の掘削を行う。この掘削は、通常行われている拡底部を有しない連壁用の掘削と同様である。第1工程で掘削孔の垂直掘削孔部82が形成される。この掘削工程に用いられる工法としては、回転方式やバケット方式などの掘削工法などがある。
第2工程として、垂直掘削孔部82に拡底用の掘削機を投入する。本発明では、拡底用の掘削機は回転ビットをシャフトに取り付けたカッターを腕振り状に回動する形式である。掘削機の投入は、カッターを鉛直方向に延ばした状態で挿入する。
第3工程として、拡底用の掘削機に取り付けられているカッターを左右の一方向に回動させて拡幅掘削を行う。図示の例では拡底形掘削孔部81となる左側を拡底掘削している。そして、拡底掘削を垂直掘削孔部82の最下端よりも上側で行うことで突起部孔部83が形成される。
第4工程として、前工程で幅掘削して出た土砂を搬出する。掘削土搬出方法は、従前とおりである。第4工程は、第3工程時に同時に行うこともある。
第5工程として、反対側の拡幅掘削を行う。図示の例では、拡底形掘削孔部81となる右側を拡底掘削している。
第6工程として、第5工程で出た土砂を搬出する。土砂搬出後、掘削孔8が形成される。
第7工程として、掘削して突出した突起部孔部83を有し、拡底したアーチ形の底部を有する拡底掘削孔部81は、垂直掘削孔部82の下部に設けた掘削孔8に形成される。この掘削孔8で形成された地下壁杭構造用の空間に組鉄筋(鉄筋籠)を挿入して、コンクリートを打設する。その後養生して先行又は後行の地下壁杭構造を製造する。
【0017】
図6に示す地下壁杭構造の施工方法では、拡底部の底面から突起部を形成した例を示しているので、第1工程で、拡底部よりも突起部分が深い掘削を行っている。第1工程の掘削を深くすることによるか、第3工程でアーチ形に拡底掘削する高さを変更することにより、突起部の長さを調整することができる。
拡底部の底面は、カッターの回動によって、アーチ形に形成されることになる。
また、掘削は先行と後行に分ける通常の地下連壁の製造方法によることもでき、また、連続して形成することもできる。
【0018】
<拡底部掘削装置>
図7に全体図を示す。
図8に拡底部掘削装置の要部を示す。
拡底部掘削は、垂直方向に掘削した孔に回動してスイングできるシャフトを備えたカッターを用いて行われる。
図7には、クローラクレーンで吊って掘削孔8に拡底掘削機5を挿入した状態が図示されている。
拡底掘削機5は、ビット62を周囲に取り付けたシャフト61を備えたカッター6を備えている。シャフト61は、軸回転とスイング状に回動して拡幅掘削を行う。
【0019】
図8(a)には、掘削孔8内に吊り込まれて挿入された状態にある拡底掘削機5の要部が示されている。
フレーム7の下段に設けられた支軸64に回転自在にカッター6が取り付けられている。
フレーム7は、上下の横フレーム71、71と左右の縦フレームである固定ガイド72、72及び支軸64を備えている。固定ガイド72には旋回シリンダ65が設置されており、カッターが回動される。支軸には油圧モータ63が取り付けられており、油圧モータによってカッター6が回転駆動される。フレームは、カッターが回動して拡幅掘削する際に掘削孔に圧接して反力を取る。
カッター6は、第1カッター6a、第2カッター6b、第3カッター6cの3本が設置されている。各カッターは、軸となるシャフト61に周囲に多数のビット62が取り付けられている。
図8(b)に図示されるようにビット62は三角形をしており、切削する地盤の抵抗できるように安定した形となっている。このビットはシャフトに螺旋状に取り付けられている。シャフトは回転して掘削する。なお、拡底掘削機を構成するカッターの本数は、本実施例では3本組について記載しているが、カッター本体のビット形状等により2本、または1本で構成されるものであっても良い。
シャフトは回転と回動によって、円弧状に拡幅掘削する。
【0020】
<地下壁杭の施工例>
本発明のアーチ状の底部を有する拡底部を備えた地下壁杭構造の施工においては、本発明者等が先に特願2016−139669号に提案した先行エレメントを使用した施工方法を使用することができる。
すなわち、先願発明は
図11及び12に示すように、籠鉄筋を用いた先行エレメント100と籠鉄筋を用いた後行エレメント200との境界部に配設される仕切板110と、仕切板110の後行エレメント200側の側面に突設された接続部材120と、接続部材120の周囲に空間を形成する空間形成部材150と、仕切板110と空間形成部材150との間に形成された空間内に充填された粒状体170とを備える先行エレメントの端部構造100Bを備えており、空間形成部材は、地盤掘削機により切削可能となっている。
本発明は、先行掘削において、垂直掘削孔部82に拡底形掘削孔部81を設けた先行掘削を行った掘削溝に先願発明の先行エレメントを敷設して、コンクリートを打設する。打設されたコンクリートは、粒状物が充填された空間内には流入せずに、プラスチックなどで形成する空間部の外壁板は切削しやすい状態を維持している。そして、後行掘削を行って形成した拡底掘削孔部を備えた掘削溝に後行エレメントを敷設する。後行掘削では、先行エレメント100の端部に設けられた空間形成部材150が切削され、空間形成部材150が切削されることで、先行エレメント100の端部に凹部100Aが形成される。このとき、空間形成部材150が切削されると、粒状体170が後行掘削溝D2側に崩れるため、仕切板110、接続部材120および止水板が露出する。粒状体170は、後行掘削溝D2の掘削により発生した土砂とともに回収する。その後、コンクリートを打設することにより、連続した拡底部を備えた地下壁杭構造が形成される。