特許第6892903号(P6892903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892903メラニンの生成を促進するペプチドおよびその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892903
(24)【登録日】2021年6月1日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】メラニンの生成を促進するペプチドおよびその方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20210614BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20210614BHJP
   A61Q 5/10 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   A61K8/64
   A61Q5/10
   A61K8/06
   A61K8/02
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-155652(P2019-155652)
(22)【出願日】2019年8月28日
(65)【公開番号】特開2021-1157(P2021-1157A)
(43)【公開日】2021年1月7日
【審査請求日】2019年8月28日
(31)【優先権主張番号】108121710
(32)【優先日】2019年6月21日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】517144835
【氏名又は名称】和和實業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】H&H GROUP CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】徐和
(72)【発明者】
【氏名】徐頻
(72)【発明者】
【氏名】黄敏銓
【審査官】 玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−531496(JP,A)
【文献】 特表2008−502600(JP,A)
【文献】 特表2002−501012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00−7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラニンの生成を促進する単離または合成したペプチドであって、SEQ ID NO:1の配列からなるペプチド。
【請求項2】
メラニンの生成を促進する組成物の調製における請求項1に記載のペプチドの使用
【請求項3】
前記ペプチドは前記メラニンを顕著に生成させる有効量を有する、請求項2に記載の使用
【請求項4】
請求項1に記載のペプチド、および生物体が許容可能な支持剤を含む、組成物。
【請求項5】
前記組成物の剤形が、軟膏、乳液、クリーム、ゲル、滴剤、スプレー、液剤、シャンプー剤またはトリートメント剤を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
必要な細胞にin vitroで有効量のペプチドを投与することを含み、前記ペプチドはSEQ ID NO:1の配列からなる、メラニンの生成を促進する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペプチドに関し、特にメラニンの生成を促進するペプチドである。
【背景技術】
【0002】
頭髪の色は、毛包中のメラニン(Melanin)に影響される。メラニンはユーメラニンおよびフェオメラニンに分けられ、両者の比率が毛髪の色に影響を及ぼす主な原因である。ユーメラニンの比率が比較的多いとき、毛髪は黒色または暗褐色を呈し;フェオメラニンの比率が少し多い場合、毛髪の色は黄色または赤色を呈する。遺伝子が2つのメラニンの比率を決定する。東洋人は比較的多くが黒髪であり、西洋人は比較的多くが金髪または赤褐色の髪である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
年齢を重ねるのに伴い、毛包中の色素細胞が老化し始め、メラニンの生成量が低下し、毛髪は次第に白くなる。毛髪が次第に白くなる原因は多くあるが、色素細胞が退化する本当の原因は依然として明確でない。次第に白くなる髪色は、人々に容易に自信を失わせる。あるいは、アジア人の審美的な基準に符合しない。
【0004】
ある文献では、以前、頭髪全体が白髪の人がセリアック病を罹患し、グルテンフリー食を行うと、髪色が次第に黒くなったことを指摘している。近年の研究では、退化した色素細胞には依然として潜在性メラニン細胞が存在し;これらの潜在性細胞は通常メラニンを生成しないが、適切な刺激を与えると、メラニンを生成する能力を有する健康なメラニン細胞に分化することができることをさらに指摘している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
メラニンの生成を促進する上記の目的を達成するため、本発明はメラニンの生成を促進する単離または合成したペプチドを提供する。これはSEQ ID NO:1の配列からなり、メラニンの生成を刺激することができる。
【0006】
本発明は、SEQ ID NO:1の配列を含み、メラニンの生成を促進する組成物の調製に用いるペプチドおよび用途をさらに提供する。
【0007】
本発明は、メラニンの生成を促進する方法をさらに提供し、これは本発明のペプチドの有効量を必要な個体または細胞に投与して、前記個体のメラニンの生成を刺激することを含む。前記有効量は、前記必要な個体に顕著にメラニンを生成させることができる用量である。前記必要な個体とは、白髪を黒髪に変化させる個体、生まれつき髪色が薄い個体、および/または皮膚の色をより濃くしたい個体でよい。
【0008】
本発明は、本発明のペプチドを使用してメラニンの生成を促進する組成物を調製することをさらに提供する。前記組成物は、本発明が提供するSEQ ID NO:1および許容可能な担体を含む。前記組成物の剤形は、軟膏、乳液、クリーム、ゲル、滴剤、スプレー、液剤、シャンプー剤またはトリートメント剤を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、細胞を遠心分離して凝集させた細胞の塊である。
図2図2は、メラニン(Melanin)含量の分析結果である(*P<0.05;**P<0.01)。
図3図3は、チロシナーゼ活性の分析結果である。
図4図4は、細胞生存率の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の上記および/またはその他の目的、効果、特徴をより明確にわかりやすくするため、特に具体的な実施例を挙げて詳細に以下のように説明する。ただ、本発明は下記の実施例によりさらに説明するが、本発明の内容を制限するものではない。
【0011】
本発明の方法の一実例において、前記ペプチドは前記個体に部分的に投与される。
【0012】
このほか、本発明はメラニンの生成を促進する組成物を提供し、これはSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有するペプチドを有効量含む。前記組成物は、メラニンの生成を効果的に促進する。
【0013】
本発明の特定の具体的な実施例において、前記組成物は生理的に許容可能な担体をさらに含む。
【0014】
他に定義していなければ、本文で使用するすべての技術および科学用語は、当業者が理解するのと同じ意味を有する。
【0015】
「一」または「1個」という語を特許請求の範囲および/または明細書中で「含む」という語と共に使用するとき、その意味は「1個」でよいが、「1つまたは複数」、「少なくとも1個」および「1個以上」の意味とも一致する。
【0016】
「ペプチド」という語は、本文中でその通常の意味で使用される。つまり一種の重合体であり、その単体はアミノ酸であり、アミド結合により相互に連結し、他にポリペプチド(polypeptide)を選択的に指すことができる。前記アミノ酸がα−アミノ酸であるとき、L−光学異性体またはD−光学異性体を使用することができる。このほか、非天然アミノ酸、例えばβ−アラニン、フェニルグリシンおよびホモアルギニンを含むこともできる。アミノ酸の標準的な略号を使用する。
【0017】
本文中で使用する「担体」という語は、一般的に安定性、無菌性、輸送性を増進することができる薬物または化粧品組成物の調製に用いられる材料を指す。ペプチド輸送システムが溶液または懸濁液に調製されるとき、前記輸送システムは許容可能な担体のうち、好ましくは水性担体である。いくつかの水性担体、例えば水、緩衝液、0.8%塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸などを使用することができる。前記組成物は、必要な場合、生理的条件に近い生理的に許容可能な補助物質を含むことができ、例えばpH調整および緩衝剤、溶液の張力調整剤、湿潤剤およびその類似物であり、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウラート、オレイン酸トリエタノールアミンなどである。
【0018】
「部分的な」または「部分的に」という語は、本文中でその通常の意味で使用され、これは身体のいかなる部位内または部位上の位置を指し、表皮、その他のいかなる真皮、またはその他のいかなる身体組織を含むがこれに限定されない。部分的に投与または与えるというのは、前記ペプチドを例えばメラニン生成細胞を含む皮膚、膜、毛包などの組織と直接接触させることを意味する。
【0019】
本発明は、SEQ ID NO:1を有するペプチドを各種用途に対する活性成分として使用する。具体的な実施例において、本発明のペプチドは、許容可能な担体と組み合わせて毛髪または皮膚に用いることができる部分用製剤を形成する。部分用製剤は軟膏、乳液、ペースト剤、クリーム、ゲル、滴剤、座薬、スプレー、液剤、シャンプー剤、トリートメント剤、粉末および経皮パッチを含むことができる。需要に基づいて、増粘剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤または接着剤を使用することができる。好ましくは、担体の機能は本発明のペプチドの皮膚浸透性を高め、さらに体内条件下で、前記ペプチドをメラニン細胞に輸送することができることである。当業者にとって、適した担体は既知であり、水、ジメチルスルホキシド、エタノール、リポソーム、液体パラフィン、パラフィン、ジメチルホルムアミド、2−ピロリドン、オレイン酸、浸透増進剤を含むが、これに限定されない。
【0020】
以下の実例により本発明をさらに説明する。前記実例は具体的な例を提供する目的のために提供され、制限するものではない。
【実施例1】
【0021】
細胞培養
細胞の解凍
使用する細胞はB16F10マウスメラノーマ細胞株である。水浴を起動して温度を37℃にし、温めた(37℃)培養液を準備する。液体窒素容器から凍結チューブを取り出し、素早く水浴に移して解凍する。1mlの培養液を凍結チューブ内に添加して充分に混合し、15mlの遠心管に移す。続いて、700〜800rpm/5分間、前記遠心管を遠心分離し、上清液を除去後、1mlの培養液を添加して混合し、さらに10cmのシャーレに移す。続いて9mlの培養液をシャーレ中に補充し、37℃、5%COの細胞培養器でインキュベートする。
【0022】
細胞の継代
まず、10cmシャーレ中の培養液を吸引し、1XPBSで細胞を2回洗浄する。シャーレの中央に1mlのTrypsin−EDTAを添加して、シャーレを軽く揺らし、Trypsin−EDTAが表面を均等に覆うようにし、続いて培養器で5分間インキュベートする。シャーレを取り出して軽くたたくと、肉眼で黒色の塊(細胞)が出来ていることを観察することができる。1mlの培養液を前記シャーレに添加してTrypsin−EDTAの作用を中和し、細胞を15ml遠心管に集める。700〜800rpm、室温で2分間遠心分離し、上清液を除いてチューブを軽くたたき、実験に必要な量を判断して適量の培養液を添加する。最後に、混合した細胞懸濁液を新しい培養容器に分注し、37℃、5%COの細胞培養器に戻す。
【0023】
細胞のカウント
培養液を除いた細胞を洗浄し、Trypsin−EDTA処理を行い、遠心分離後に適量の培養液中に懸濁させ、10μlの細胞液を1.8mlマイクロチューブに移し、さらに細胞計数盤に注入する。顕微鏡の100倍視野に面積が1mmである9つの大きい格子を有し、深さは0.1mmの正方形であるため、総体積は0.1mm=1×10mlである。このうち細胞分布が比較的平均的な2つの格子を選択してカウントを行い、数値を2で割り、さらに10を乗じて、得られた数値が1ml細胞液中に含まれる細胞数である。
【0024】
ペプチドの調製
ペプチド配列はDIHMKQV(SEQ ID NO:1)であり、その組成および純度は高速液体クロマトグラフィー質量分析器で確認する。5mgペプチド粉末を0.1mlの二重脱イオン水(50mg/ml)に溶解し、−20℃の冷凍庫に保存する。
【0025】
メラニン含量の分析
8×10のB16F10細胞を24ウェルプレートに接種し、翌日、濃度が1、2、5、10μg/mlのSEQ ID NO:1のペプチドを添加して72時間作用させる。その後培養液を除き、細胞を洗浄し、Trypsin−EDTAで1.8mlマイクロチューブに集め、2500rpm、室温で5分間遠心分離する。細胞の塊を撮影して記録した後、各マイクロチューブに2NのNaOHを200μl添加し、100℃の加熱器で1時間作用させ、405nmで吸光度を測定する。試験サンプルの405nm部分の吸光度と、合成メラニンを使用して得られる標準曲線とを比較することにより、メラニン含量を分析する。
【0026】
その結果は図1に示す通りであり、細胞を遠心分離して凝集させた細胞の塊であり、SEQ ID NO:1のペプチドは濃度依存的に明らかにメラニンの生成を促進することを示している。コントロール群は本発明のペプチドを添加せずに処理した群であり;ホスホジエステラーゼ阻害剤(3−isobutyl−1−methylxanthine、IBMX)(100μM)をポジティブコントロール群とする。
【0027】
図2は、メラニン含量の分析である。細胞を2NのNaOHで溶解後、吸光度405nmを測定する。実験結果から、濃度1および2μg/mlで処理した群は、コントロール群と比較してそれぞれ31.2%および42.5%のメラニンの生成を促進し;濃度5および10μg/mlはそれぞれ55.6%および76.6%のメラニンの生成をより顕著に促進し、メラニンの生成量はペプチド濃度の増加に伴って増加することを発見した。
【0028】
チロシナーゼ(Tyrosinase)活性の分析
4×10のB16F10細胞を6ウェルプレートに接種し、翌日、濃度5、10μg/mlのSEQ ID NO:1を含むペプチドを添加して72時間作用させる。その後、培養液を吸引して、細胞を1%Triton X−100を含むphosphate buffer(pH6.8)200μlに溶解し、1.8mlマイクロチューブに集め、−80℃中に1時間置いた後取り出す。それを解凍後、14000rpm/4℃で10分間遠心分離する。タンパク質を含む上清液を集め、Bradford assayでタンパク質濃度を測定する。等量のタンパク質を取り、96ウェルプレートで100μlのタンパク質液に調製する。続いて、各ウェルに5mMのL−DOPAを100μl添加し、37℃の培養器で30分間反応させ、450nmで吸光度を測定する。
【0029】
結果は図3に示す通りであり、5および10μg/ml量のSEQ ID NO:1のペプチドで処理した細胞は、チロシナーゼ活性が明らかに増加する。
【0030】
細胞生存率の分析(MTT assay)
1×10の細胞を96ウェルプレートに接種し、翌日、濃度10、50、100、200μg/mlのSEQ ID NO:1のペプチドを添加して48時間作用させた後、100μlのThiazolyl Blue Tetrazolium Bromide(MTT)を添加し、最終濃度を0.5mg/mlとする。3時間作用させた後、0.01のHClを含む10%SDSを100μl添加する。翌日、結晶が完全に溶解されたことを確認した後、550〜630nm下の吸光度を測定する。
【0031】
結果は図4に示す通りであり、SEQ ID NO:1のペプチドで処理しても、B16F10細胞の生存力に影響を及ぼさない。
【0032】
上記をまとめると、SEQ ID NO:1のペプチドはメラニンの生成を確実に刺激することができ、さらに個体内のメラニン細胞中のメラニン含量を増加させるが、B16F10細胞の生存力は改善されないことがわかる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]