特許第6892914号(P6892914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892914高エントロピー合金を含有する計時器用部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892914
(24)【登録日】2021年6月1日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】高エントロピー合金を含有する計時器用部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/00 20060101AFI20210614BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 22/00 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 16/00 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 24/00 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20210614BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   C22C30/00
   C22C38/00
   C22C22/00
   C22C27/06
   C22C21/00 N
   C22C27/02 103
   C22C27/02 102
   C22C19/07 N
   C22C19/03 N
   C22C16/00
   C22C24/00
   C22C23/00
   C22C28/00 A
   C22C14/00 Z
   C22C28/00 B
   C22C30/02
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-513437(P2019-513437)
(86)(22)【出願日】2017年7月28日
(65)【公表番号】特表2019-534378(P2019-534378A)
(43)【公表日】2019年11月28日
(86)【国際出願番号】EP2017069219
(87)【国際公開番号】WO2018059795
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2019年3月8日
(31)【優先権主張番号】16191867.7
(32)【優先日】2016年9月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】シャルボン,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】プランケルト,ギード
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−074173(JP,A)
【文献】 特開2010−138491(JP,A)
【文献】 特開2016−023351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エントロピー合金を含有する計時器用部品であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、FeaMnbCocCrdの式によって表され、ここで、a、b、c及びdは、原子分率で1〜55%である、
計時器用部品。
【請求項2】
高エントロピー合金を含有する計時器用部品であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、Fe80-xMnxCo10Cr10の式によって表され、ここで、xは原子分率で25〜45%である
計時器用部品。
【請求項3】
高エントロピー合金を含有する計時器用部品であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、FeaMnbNieCocCrdの式によって表され、ここで、a、b、c、d及びeは、原子分率で1〜55%である
計時器用部品。
【請求項4】
高エントロピー合金を含有する計時器用部品であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、Ta20Nb20Hf20Zr20Ti20の式によって表される
計時器用部品。
【請求項5】
高エントロピー合金を含有する計時器用部品であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、Al20Li20Mg10Sc20Ti30の式によって表される
計時器用部品。
【請求項6】
計時器用部品を製造するための高エントロピー合金の使用であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、FeaMnbCocCrdの式によって表され、ここで、a、b、c及びdは、原子分率で1〜55%である、
高エントロピー合金の使用。
【請求項7】
計時器用部品を製造するための高エントロピー合金の使用であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、Fe80-xMnxCo10Cr10の式によって表され、ここで、xは原子分率で25〜45%である、
高エントロピー合金の使用。
【請求項8】
計時器用部品を製造するための高エントロピー合金の使用であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、FeaMnbNieCocCrdの式によって表され、ここで、a、b、c、d及びeは、原子分率で1〜55%である、
高エントロピー合金の使用。
【請求項9】
計時器用部品を製造するための高エントロピー合金の使用であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、Ta20Nb20Hf20Zr20Ti20の式によって表される、
高エントロピー合金の使用。
【請求項10】
計時器用部品を製造するための高エントロピー合金の使用であって、
前記高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜6種類の元素によって形成されており、
前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度は、原子分率で1〜55%であり、
前記高エントロピー合金は、Al20Li20Mg10Sc20Ti30の式によって表される、
高エントロピー合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エントロピー合金を含有する計時器用部品及びこのような計時器用部品を製造する方法に関する。本発明は、さらに、計時器用部品を製造するための高エントロピー合金の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
計時器用部品、特に、メインばねには、大きな応力が与えられる。このような大きな応力は、特に、製造プロセスにおいて与えられるが、使用時にも与えられる。
【0003】
このような計時器用部品は、特に、機械的強度と延性が高くなければならない。しかし、現状、これらの相反する特徴を同時に備える計時器用部品は、稀にしかない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、機械的強度と延性が高い計時器用部品を提案することによって現状の技術の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これを達成するために、本発明の第1の態様によると、高エントロピー合金を含有する計時器用部品であって、前記高エントロピー合金が、単一の固溶体を形成する4〜13種類の主要合金形成元素によって形成されており、前記高エントロピー合金の各主要合金形成元素の濃度が、1〜55%であるものが提案される。実際に、このような計時器用部品は、従来技術よりも高い機械的強度と延性を有する。
【0006】
好ましくは、各主要合金形成元素の濃度は、10〜55%である。
【0007】
異なる好ましい実施形態において、
− 前記高エントロピー合金は、FeaMnbCocCrdの式によって表され、ここで、a、b、c及びdは、1〜55%である。
− 前記高エントロピー合金は、Fe50Mn30Co10Cr10の式によって表される。
− 前記高エントロピー合金は、Fe80-xMnxCo10Cr10の式によって表され、ここで、xは、25〜79%であり、好ましくは、xは、25〜45%である。
− 前記高エントロピー合金は、FeaMnbNieCocCrdの式によって表され、ここで、a、b、c、d及びeは、1〜55%である。
− 前記高エントロピー合金は、Fe20Mn20Ni20Co20Cr20の式によって表される。
− 前記高エントロピー合金は、Fe40Mn27Ni26Co5Cr2の式によって表される。
− 前記高エントロピー合金は、TaaNbbHfcZrdCreの式によって表され、ここで、a、b、c、d及びeは、1〜55%である。
− 前記高エントロピー合金は、特に、Ta20Nb20Hf20Zr20Ti20の式によって表される。
− 前記高エントロピー合金は、AlaLibMgcScdTieの式によって表され、ここで、a、b、c、d及びeは、1〜55%である。
− 前記高エントロピー合金は、特に、Al20Li20Mg10Sc20Ti30の式によって表される。
− 前記高エントロピー合金は、AlaCobCrcCudFeeNifの式によって表され、ここで、a、b、c、d、e及びfは、1〜55%である。
− 前記高エントロピー合金は、Cr18.2Fe18.2Co18.2Ni18.2Cu18.2Al9.0の式によって表される。
【0008】
好ましくは、高エントロピー合金は、C、N、Bから選択される一又は複数の種類の格子間元素を含有することができる。これらの格子間元素は、合金の機械的強度をさらに向上させる。
【0009】
好ましくは、高エントロピー合金は、Ti、Al、Be、Nbから選択される一又は複数の種類の構造硬化元素を含有し、好ましくは、濃度が0.1〜3重量%である。
【0010】
異なる実施形態において、計時器用部品は、ばね、メインばね、ジャンパーばね、インパルスピン、ローラー、パレット、スタッフ、パレットレバー、パレットフォーク、車、エスケープ車、アーバー、ピニオン、振動錘、巻きステム、リュウズ、腕時計ケース、腕輪リンク、腕時計ベゼル、腕輪クラスプのいずれかであることができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、さらに、計時器用部品を製造するための高エントロピー合金の使用に関する。この高エントロピー合金は、単一の固溶体を形成する4〜13種類の主要合金形成元素を含有しており、当該合金の各主要合金形成元素の濃度は、1〜55%である。
【0012】
添付の図面を参照しながら非限定的な例として与えられる好ましい実施形態についての下記の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の1つの実施形態に係るメインばねを概略的に示している。
図2】本発明の1つの実施形態に係るメインばねを製造する方法のいくつかのステップを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の1つの実施形態に係るメインばね1を概略的に示している。このメインばね1は高エントロピー合金によって作られている。
【0015】
このような高エントロピー合金においては、いくつかの相の混合よりも混合エントロピーが高く、単相を熱力学的に安定化する。
【0016】
メインばねは、好ましくは、刊行物「Metastable high-entropy dual-phase alloys overcome the strength-ductility trade-off」, Zhiming Li et al, Nature 534, 227-230 (09 June 2016)に記載された高エントロピー合金によって作られる。この高エントロピー合金は、Fe80-xMnxCo10Cr10の式によって表され、xは、好ましくは、25〜79%である。
【0017】
より正確には、第1の実施形態において、メインばねは、Fe35Mn45Co10Cr10合金によって作られていることができる。このようにして作られたメインばねには、高い引っ張り強さと高い延性が組み合わさっているという利点がある。
【0018】
第2の実施形態において、メインばねは、Fe40Mn40Co10Cr10合金によって作られていることができる。このようにして作られたばねには、高い引っ張り強さと高い延性という利点がある。また、このばねは、TWIP(twinning induced plasticity:双晶誘起塑性)機構にしたがって動作する。
【0019】
第3の実施形態において、メインばねは、Fe45Mn35Co10Cr10合金によって作られていることができる。このようにして作られたメインばねには、さらに高い引っ張り強さとさらに高い延性を有するという利点がある。また、このメインばねは、TRIP(transformation induced plasticity:変態誘起塑性)機構にしたがって動作する。
【0020】
第4の実施形態において、メインばねは、Fe50Mn30Co10Cr10合金によって作られていることができる。このようにして作られたメインばねには、さらに高い引っ張り強さとさらに高い延性を有するという利点がある。このメインばねは、双晶化機構によって、FCCとHCPの2つの相が見えるように、TRIP機構にしたがって動作する。
【0021】
本発明は、メインばねの製造に限定されない。実際に、ばね、スタッフ、インパルスピン、バランス、アーバー、ローラー、パレット、パレットレバー、パレットフォーク、エスケープ車、シャフト、ピニオン、振動錘、巻きステム、リュウズ、ジャンパーばね、腕時計ケース、腕輪リンク、腕時計ベゼル、腕輪クラスプのような他の計時器用部品を、高エントロピーのFe80-xMnxCo10Cr10合金によって製造することができる。
【0022】
図2は、図1のメインばねを製造する方法のいくつかのステップを概略的に示している。
【0023】
この方法は、高エントロピー合金のインゴットを製造する第1のステップ101を有する。そうするために、元素が純粋又は合金前の形態で混合され、溶かされ、そして、混合物が型に入れられてインゴットを形成する。
【0024】
そして、当該方法は、このインゴットを熱間鍛造するステップ102を有する。
【0025】
そして、当該方法は、熱間積層ステップ103を有する。
【0026】
そして、当該方法は、冷間積層ステップ104を有する。
【0027】
そして、当該方法は、伸線ステップ105を有する。
【0028】
そして、当該方法は、冷間積層ステップ106を有する。
【0029】
当然、本発明は、図面を参照しながら説明されている実施形態に限定されず、本発明の範囲から逸脱せずにいくつもの変種を考えることができる。
【0030】
これに関連して、前の例において、Fe80-xMnxCo10Cr10合金が用いられている。しかし、他の高エントロピー合金を用いることができる。例えば、
− Fe20Mn20Ni20Co20Cr20
− Fe40Mn27Ni26Co5Cr2
− Ta20Nb20Hf20Zr20Ti20
− Al20Li20Mg10Sc20Ti30
− Cr18.2Fe18.2Co18.2Ni18.2Cu18.2Al9.0
である。
図1
図2