特許第6892983号(P6892983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892983
(24)【登録日】2021年6月2日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】3Dプリンタ及び3次元造形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/209 20170101AFI20210614BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20210614BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20210614BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20210614BHJP
【FI】
   B29C64/209
   B33Y30/00
   B33Y10/00
   B33Y70/00
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-231894(P2016-231894)
(22)【出願日】2016年11月29日
(65)【公開番号】特開2018-86814(P2018-86814A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 亮平
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/189661(WO,A1)
【文献】 特開2016−107454(JP,A)
【文献】 特表2016−505409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/209
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなるフィラメントを造形用ヘッドに設けられたヒータで溶かしてノズルから押し出し、これを積層することで造形する熱溶融積層方式の3Dプリンタであって、
フィラメントをギアで噛み込んでノズルへ供給するフィラメント送り機構を有するとともに、少なくとも前記フィラメント送り機構からヒータまでの間に少なくとも前記フィラメントを冷却する冷却機構を有し、
前記冷却機構としてフィラメントの周囲に放熱フィン及び放熱フィンと接するペルチェ素子が配されていることを特徴とする3Dプリンタ。
【請求項2】
樹脂材料からなるフィラメントを造形用ヘッドに設けられたヒータで溶かしてノズルから押し出し、これを積層することで造形する熱溶融積層方式の3Dプリンタであって、
フィラメントをギアで噛み込んでノズルへ供給するフィラメント送り機構を有するとともに、少なくとも前記フィラメント送り機構からヒータまでの間に少なくとも前記フィラメントを冷却する冷却機構を有し、
前記冷却機構としてフィラメントの周囲に冷媒が流される冷却管が配されていることを特徴とする3Dプリンタ。
【請求項3】
前記フィラメント送り機構からヒータまでの間、及びフィラメント送り機構の手前位置に前記冷却機構が設置されていることを特徴とする請求項1または2記載の3Dプリンタ。
【請求項4】
樹脂材料からなるフィラメントを造形用ヘッドに設けられたヒータで溶かしてノズルから押し出し、これを積層することで造形する熱溶融積層方式の3Dプリンタであって、
前記フィラメントが巻回されたカートリッジのみが冷却庫内に収容され、供給されるフィラメントが予め冷却されることを特徴とする3Dプリンタ。
【請求項5】
前記フィラメントを構成する樹脂材料のガラス転移温度Tgが40℃以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の3Dプリンタ。
【請求項6】
前記フィラメントを構成する樹脂材料が形状記憶樹脂であることを特徴とする請求項5記載の3Dプリンタ。
【請求項7】
樹脂材料からなるフィラメントを造形用ヘッドに設けられたヒータで溶かしてノズルから押し出し、これを積層することで造形する熱溶融積層方式の3次元造形方法であって、
フィラメント送り機構によりフィラメントをギアで噛み込んでノズルへ供給するとともに、少なくとも前記フィラメント送り機構からヒータまでの間において、少なくとも前記フィラメントを冷却する冷却機構としてフィラメントの周囲に放熱フィン及び放熱フィンと接するペルチェ素子を配し、
少なくとも前記フィラメントを冷却することを特徴とする三次元造形方法。
【請求項8】
樹脂材料からなるフィラメントを造形用ヘッドに設けられたヒータで溶かしてノズルから押し出し、これを積層することで造形する熱溶融積層方式の3次元造形方法であって、
フィラメント送り機構によりフィラメントをギアで噛み込んでノズルへ供給するとともに、少なくとも前記フィラメント送り機構からヒータまでの間において、少なくとも前記フィラメントを冷却する冷却機構としてフィラメントの周囲に冷媒が流される冷却管を配し、
少なくとも前記フィラメントを冷却することを特徴とする三次元造形方法。
【請求項9】
樹脂材料からなるフィラメントを造形用ヘッドに設けられたヒータで溶かしてノズルから押し出し、これを積層することで造形する熱溶融積層方式の3次元造形方法であって、
前記フィラメントが巻回されたカートリッジのみを冷却庫内に収容し、供給されるフィラメントを予め冷却することを特徴とする三次元造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元オブジェクト(立体物)を造形する3Dプリンタ及び3次元造形方法に関するものであり、特に熱溶融積層方式の3Dプリンタ及び3次元造形方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元オブジェクトの形成方法として、いわゆる3Dプリンタが注目されており、これまで実現することが難しかった複雑な形状の3次元オブジェクトも簡単に作製可能になってきている。3Dプリンタを用いれば、樹脂や金属等、任意の材料を積み重ねていくことにより、通常の方法では実現不可能な形状であっても加工することが可能である。
【0003】
3Dプリンタには、いくつかの方式のものが知られており、その中で樹脂製のフィラメントを押し出して積層堆積させる方式(熱溶融積層方式)のものは、コスト面で有利であること等から、各方面で開発が進められている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。
【0004】
例えば、特許文献1の積層造形システムでは、造形材料であるフィラメントを押し出しヘッドに供給し、押し出しヘッドに搭載される液化機にてフィラメントを溶融し、ノズルを通して、溶融したフィラメントをベース上に押し出す。押し出しヘッド及びベースは、3Dモデルを形成するために相対的に移動し、多数の線状及び層状の材料を積層していき、3Dモデルを製造する。
【0005】
特許文献2には、押出による積層堆積システムの押出ヘッドへ改質ABS材料を送出することと、押出ヘッドの応答時間を向上させる条件下で、送出された改質ABS材料を押出ヘッドにおいて溶融することと、3Dオブジェクトを形成するために、溶融された熱可塑性プラスチック材料を一層毎に堆積させることとを含む3Dオブジェクトを構築する方法が開示されている。
【0006】
この種の方法では、樹脂材料を溶融堆積するというのが基本的な考えであり、原料素材として樹脂のフィラメントが用いられる。特許文献3や特許文献4には、原料素材として用いる樹脂フィラメントや、その供給方法等についての開示がある。
【0007】
特許文献3には、3次元物体を作成するための組成物が開示されているが、造形物を作製する押出機では、押出ヘッドに可撓性フィラメントとして供給している。フィラメントは、押出ヘッドが携帯する液化機内で溶融される。液化機は凝固点よりもわずかに高い温度にフィラメントを加熱して、これを溶融状態にする。溶融材料は液化機のオリフィスを通じて台座上に押し出される。
【0008】
特許文献4には、3次元堆積モデリング機械内でフィラメントを供給するフィラメントカセットおよびフィラメントカセット受器が開示されている。特許文献3では、フィラメントを簡便な様態でモデリング機械に係合および分離する方法を提供し、環境における湿気からフィラメントを保護する態様で実現され得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2009−500194号公報
【特許文献2】特表2010−521339号公報
【特許文献3】特許5039549号公報
【特許文献4】特許4107960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、熱溶融積層方式の3Dプリンタでは、樹脂材料からなるフィラメントを加熱して溶融し、造形用ヘッドのノズルから押し出す必要がある。この時、ヒータの熱によりヒータ近傍のフィラメントが加熱され、フィラメントの円滑な供給の妨げになることがある。例えば、ヒータの熱によりフィラメントが樹脂材料のガラス転移温度以上に加熱されると、フィラメントが軟らかくなって座屈する。その結果、フィラメントがフィラメント供給路の壁面と接触して摩擦力が発生し、造形用ヘッドのノズルにフィラメントを円滑に供給できなくなる。
【0011】
また、フィラメントの供給は、フィラメント送り機構において、フィラメントをギアで噛み込んで行うが、ヒータの熱の影響によりフィラメントが軟らかくなると、ギアがフィラメントを噛み込まず、押し出すことができなくなるおそれもある。
【0012】
本発明は、係る従来の実情に鑑みて提案されたものであり、フィラメントの円滑な供給が可能な3Dプリンタを提供することを目的とし、さらには3次元造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的を達成するために、本発明の3Dプリンタは、樹脂材料からなるフィラメントを造形用ヘッドに設けられたヒータで溶かしてノズルから押し出し、これを積層することで造形する熱溶融積層方式の3Dプリンタであって、フィラメントをギアで噛み込んでノズルへ供給するフィラメント送り機構を有するとともに、少なくとも前記フィラメント送り機構からヒータまでの間に少なくとも前記フィラメントを冷却する冷却機構を有し、前記冷却機構としてフィラメントの周囲に放熱フィン及び放熱フィンと接するペルチェ素子が配されていることを特徴とする。あるいは、前記冷却機構としてフィラメントの周囲に冷媒が流される冷却管が配されていることを特徴とする。さらには、前記フィラメントが巻回されたカートリッジが冷却庫内に収容され、供給されるフィラメントが予め冷却されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の3次元造形方法は、樹脂材料からなるフィラメントを造形用ヘッドに設けられたヒータで溶かしてノズルから押し出し、これを積層することで造形する熱溶融積層方式の3次元造形方法であって、フィラメント送り機構によりフィラメントをギアで噛み込んでノズルへ供給するとともに、少なくとも前記フィラメントを冷却する冷却機構としてフィラメントの周囲に放熱フィン及び放熱フィンと接するペルチェ素子を配し、少なくとも前記フィラメントを冷却することを特徴とする。あるいは、少なくとも前記フィラメントを冷却する冷却機構としてフィラメントの周囲に冷媒が流される冷却管を配し、少なくとも前記フィラメントを冷却することを特徴とする。さらには、前記フィラメントが巻回されたカートリッジを冷却庫内に収容し、供給されるフィラメントを予め冷却することを特徴とする。
【0015】
樹脂材料からなるフィラメントを冷却することで、ヒータの熱の影響により軟化することがなくなり、フィラメントの硬度が維持される。そのため、フィラメントの座屈による摩擦力の発生が解消され、フィラメントはギアに確実に噛み込まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、造形用ヘッドのヒータの熱の影響によるフィラメントの軟化を抑制することができ、フィラメントの円滑な供給が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】3Dプリンタの概略構成を模式的に示す図である。
図2】造形用ヘッドの一例を模式的に示す図である。
図3】冷却機構を示す図であり、(A)は放熱フィンを設けた例、(B)はペルチェ素子を設けた例、(C)は水冷機構を設けた例をそれぞれ示す。
図4】フィラメントのカートリッジを冷却庫に収容した3Dプリンタの一例を模式的に示す図である。
図5】装置全体を冷却庫に収容した3Dプリンタの一例を模式的に示す図である。
図6】造形用ヘッドを含む造形部が冷却庫内に収容され、フィラメントのカートリッジが冷却庫外に設置された3Dプリンタの一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の3Dプリンタ及び3次元造形方法の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
本実施形態の3Dプリンタは、造形用ヘッドに冷却機構を設け、樹脂材料からなるフィラメントを冷却するようにしたものである。
【0020】
先ず、3Dプリンタの概要について説明する。その基本的な仕組みは、コンピュータで作成した3Dデータを設計図として、断面形状を積層していくことで立体物すなわち3D(三次元)オブジェクトを作成するものである。その方法としては、例えば、液状の樹脂に紫外線などを照射し少しずつ硬化させていくインクジェット方式、粉末の樹脂に接着剤を吹きつけていく粉末固着方式、熱で融解した樹脂を少しずつ積み重ねていく熱溶融積層方式等が知られているが、本実施形態の3Dプリンタは熱溶融積層方式のものであり、成形のための原料として、樹脂材料からなるフィラメントが使用される。
【0021】
図1は、3Dプリンタの一例を示す図である。本例の3Dプリンタは、駆動機構1によって3次元駆動される造形用ヘッド2と、当該造形用ヘッド2に樹脂材料からなるフィラメント3を供給するカートリッジ4とを主要な構成部材とする。カートリッジ4に巻回されるフィラメント3は、前記造形用ヘッド2へと導かれ、加熱溶融されて造形用ヘッド2のノズル2Aから押し出され、これを堆積し冷却することで基台5上に3次元造形物Mが成形される。
【0022】
フィラメント3を構成する樹脂材料としては、加熱により軟化する熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、押し出し可能な材質であれば良く、フィラメントに付与する機能に応じて適宜選択することができる。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)の他、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテルなどの非晶性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコールなどの結晶性樹脂、オレフィン系、スチレン系、ポリエステル系の熱可塑性エラストマー、及びそれらの混合物が好適に用いられる。さらに、カーボンブラック、炭素繊維、ガラス繊維、タルク、マイカ、ナノクレイ、マグネシウムなどの無機系の添加剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤などを適宜混合することができる。
【0023】
このような熱可塑性樹脂をフィラメント3の樹脂材料として使用する場合、造形用ヘッド2において熱の影響を受け、フィラメント3の円滑な供給ができなくなることがある。
【0024】
図2は、造形用ヘッド2の構成例を示すものである。造形用ヘッド2は、前述の通り加熱溶融された樹脂材料を押し出すノズル2Aを備えるものであり、さらに、ノズル2Aの手前(フィラメント3の送り方向における上流側)には、フィラメント3を加熱するヒータ2Bを備える。フィラメント3はヒータ2Bにより加熱され、溶融状態でノズル2Aに送り込まれる。また、フィラメント3をノズル2Aへと送り込むフィラメント送り機構として、ヒータ2Bの手前位置にギア2Cが設けられている。加熱溶融前のフィラメント3は、これらギア2Cによって噛み込まれ、ギア2Cが回転することによりノズル2Aへと送り込まれる。
【0025】
この時、造形用ヘッド2に設けられたヒータ2Bからの熱により、ヒータ2Bの手前においてフィラメント3が軟化することがある。フィラメント3は熱可塑性樹脂により形成されており、ヒータ2Bの熱によりガラス転移温度Tg以上になると軟化する。フィラメント3が軟化すると、フィラメント3が座屈し易くなり、座屈したフィラメント3がヒータ2Bの手前のフィラメント供給路2Dの壁面と接触して摩擦力が発生し、造形用ヘッドのノズルにフィラメントを円滑に供給できなくなるおそれがある。
【0026】
これを防ぐために、本実施形態の3Dプリンタの造形用ヘッド2においては、フィラメント送り機構であるギア2Cからヒータ2Bの間の経路に放熱フィン6を設置し、空冷によりフィラメント3を冷却するようにしている。放熱フィン6に風を送ることで、空冷される。冷却によりフィラメント3は硬度を保ち、座屈等による不都合が解消される。
【0027】
ただし、例えばフィラメント3に使用する樹脂材料のガラス転移温度Tgが低い場合、ギア2Cにより押し出す前に軟化してしまうことがあり、ギア2Cがフィラメント3を噛み込まず、フィラメント3を送り出せなくなるおそれもある。フィラメント3を構成する樹脂材料のガラス転移温度Tgが40℃以下であるような場合(例えばガラス転移温度Tgが25℃や35℃である場合)にこのような課題が問題となる。
【0028】
3Dプリンタにおいては、造形用の樹脂材料として形状記憶樹脂を用いることがある。形状記憶樹脂は、成形形状と変形形状とを熱による温度操作で使い分けることのできる樹脂である。形状記憶樹脂の成形体は、形状記憶樹脂のガラス転移温度(Tg)以上、溶融温度未満又は分解温度未満の温度で変形を加え、その形状を保持した状態でガラス転移温度以下まで冷却することにより、変形形状を固定し、また、ガラス転移温度以上、溶融温度未満又は分解温度未満の温度に加熱することにより、元の成形形状を回復する。形状記憶樹脂としては、ノルボルネン系ポリマーや、トランスポリイソプレン系ポリマー、スチレン−ブタジエン系ポリマー、ウレタン系ポリマー等が知られている。
【0029】
これらの形状記憶樹脂として、ガラス転移温度Tgが40℃以下のものがあり、このような低ガラス転移温度の形状記憶樹脂を造形材料として用いる場合に前記課題が大きな問題となる。
【0030】
この問題を解消するためには、ギア2Cを通過後に冷却によりフィラメント3が座屈しない程度の硬度を保つことの他、ギア2C到達時にフィラメント3がガラス転移温度Tg以下である硬質であること、満たす必要がある。そこで、本実施形態の3Dプリンタでは、ギア2Cからヒータ2Bの間の経路に加えて、ギア2Cの手前位置にも冷却機構を設けることとする。
【0031】
図3(A)〜図3(C)に、ギア2Cからヒータ2Bの間の経路に加えて、ギア2Cの手前位置にも冷却機構を設けた造形用ヘッド2の構成例を示す。
【0032】
例えば図3(A)に示す例では、ギア2Cからヒータ2Bの間の経路に空冷のための放熱フィン6を設けるとともに、ギア2Cの手前位置にも放熱フィン7を設けている。図3(B)に示す例では、前記放熱フィン6,7に加え、これら放熱フィン6,7に接してペルチェ素子8,9を設けている。図3(C)に示す例は、ギア2Cからヒータ2Bの間の経路、及びギア2Cの手前位置において、フィラメント3の周囲に水冷のための冷却管10を配したものである。冷却管10に水等の冷媒を流すことで、フィラメント3が冷却される。
【0033】
このように、ギア2Cからヒータ2Bの間の経路に加えて、ギア2Cの手前位置にも冷却機構を設けることで、フィラメント3が低ガラス転移温度Tgの樹脂材料で形成されている場合においても、フィラメント3はヒータ2Bに至るまで低温に保たれ、硬度が維持される。したがって、ギア2Cによる噛み込みが円滑に行われ、フィラメント3の送り出しが円滑に行われる。また、ギア2Cからヒータ2Bまでの間においてもフィラメント3の硬度が保たれ、座屈による摩擦力の増加等の不都合が生ずることもない。
【0034】
なお、前述の各冷却機構は、これを設置していない場合に比べて相対的に温度を下げ得るものであれば如何なるものであってもよい。冷却温度も任意であるが、特に、冷却機構によりヒータ2b近傍(あるいはギア2C近傍)におけるフィラメント3の温度が樹脂材料のガラス転移温度Tg未満の温度となるように冷却することが好ましい。
【0035】
(第2の実施形態)
先の実施形態においては、造形用ヘッド2に冷却機構を設ける構成としたが、この場合、造形用ヘッド2の重量が増加し、造形用ヘッド2の駆動機構1等への負荷が増加するおそれがある。
【0036】
そこで、本実施形態では、造形用ヘッド2に冷却機構を設けるのではなく、フィラメント3が巻回されたカートリッジ4を冷却することで、フィラメント3の硬度を維持するようにしている。具体的には、図4に示すように、フィラメント3のカートリッジ4を冷却庫11内に収容する構成としている。
【0037】
冷却庫11内の温度は、造形用ヘッド2のヒータ2Bで加熱されるまでフィラメント3が硬度を保ち得る温度に設定すればよい。供給されるフィラメント3の温度が造形用ヘッド2のヒータ2Bに至るまでガラス転移温度Tg以下に保たれれば、ギア2Cの噛み込みによる送り出しが円滑に行われ、座屈することなくヒータ2Bで加熱され、ノズル2Aへと供給される。
【0038】
本実施形態の3Dプリンタのように、フィラメント3のカートリッジ4を冷却庫11で冷却するような構成とする場合、冷却庫11をオプションパーツとすれば、様々な3Dプリンタに適用することができ、簡単に普及させることができるという利点がある。
【0039】
(第3の実施形態)
本実施形態の3Dプリンタは、装置全体を冷却庫内に収容し、フィラメント3を冷却するようにしたものである。図5に示すように、フィラメント3のカートリッジ4から、駆動機構1、造形用ヘッド2、基台5までを含めて、装置全体が冷却庫20内に収容されている。このような構成とすることにより、フィラメント3をヒータ2Bで加熱するまで確実に低温に保つことができ、フィラメント3の円滑な供給を実現することができる。なお、前記構成において、図6に示すように、フィラメント3が巻回されたカートリッジ4を冷却庫20の外に設置し、造形用ヘッド2を含む3次元造形物Mの造形部が冷却庫20内に収容されるようにすることも可能である。
【0040】
本実施形態の場合、フィラメント3をヒータ2Bで加熱するまで確実に低温に保つことができるという効果が得られる他、造形エリア(基台5や3次元造形物M)まで冷却することができ、ノズル2Aから出た後の樹脂材料を冷却して、造形速度を向上するという効果も得ることができる。
【0041】
以上、本発明を適用した実施形態についてを説明してきたが、本発明が前述の実施形態に限られるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 駆動機構
2 造形用ヘッド
2A ノズル
2B ヒータ
2C ギア
2D フィラメント供給路
3 フィラメント
4 カートリッジ
5 基台
6,7 放熱フィン
8,9 ペルチェ素子
10 冷却管
11,20 冷却庫
図1
図2
図3
図4
図5
図6