【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ライトコントロールエージェント(light control agent)を提供し、即ち、生体組織損傷の修復または止血のための新しい試薬または材料を提供することにより、既存の生体組織接着剤の組織接着力及び利便性を改善する。
一方、本発明は、生体組織損傷又は止血に用いる試薬を提供し、前記試薬は、光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子を含む。いくつかの好ましいモードでは、前記試薬には他の必要な成分が含まれる。好ましくは、前記他の必要な成分には、O−ニトロベンジル型のフォトトリガーで修飾された天然の生体高分子が含まれる。好ましくは、前記試薬は、光開始剤および/または脱イオン水をさらに含んでもよい。
【0010】
いくつかの好ましい実施例では、前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子および/またはO−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子の最終質量濃度は、脱イオン水の質量の0.1〜20%を有する。
【0011】
好ましくは、前記光開始剤の最終質量濃度は、脱イオン水の質量に基づいて0.001〜10%である。
【0012】
好ましくは、前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子における光反応性架橋基は、5〜90%のグラフト置換率を有する。
【0013】
好ましくは、光反応性架橋基は、メタクリルアミドまたはメタクリル酸無水物、メチルマレイン酸無水物の1つ、またはそれらの混合物である。
【0014】
好ましくは、O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子における前記O−ニトロベンジル型フォトトリガーは、1〜100%のグラフト置換率を有する。
【0015】
いくつかの好ましい実施例では、O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子は、式(I)で示されるように、式(I)におけるR1は−H、又は−CO(CH2)xCH3、−CO(CH2CH2O)xCH3、CO(CH2)x(CH2CH2O)yCH3からのエステル結合で選択され、又は−(CH
2)xCH
3、−(CH
2CH
2O)xCH
3、−(CH
2)x(CH
2CH
2O)yCH3からのエステル結合で選択され、又は−COO(CH
2)xCH
3、−COO(CH
2CH
2O)xCH
3、−COO(CH
2)x(CH
2CH
2O)yCH
3からの炭酸結合で選択され、又は−CONH(CH
2)xCH
3、−CONH(CH
2CH
2O)xCH
3、−CONH(CH
2)x(CH
2CH
2O)yCH
3からのイソシアネート結合で選択され、ここで、x及びyは0以上の整数であり、又はR2は−H、或いは−O(CH2)xCH3、−O(CH2CH2O)xCH3、−O(CH2)x(CH2CH2O)yCH3からなるグループから選択された置換基であり、x及びyは0以上の整数であり、又はR3は、アミノタイプリンケージ−O(CH2)xCONH(CH2)yNH−、ハロゲン化タイプリンケージ−O(CH2)x−及びカルボキシルタイプリンケージ−O(CH2)xCO−からなるグループから選択され、x及びyは1以上の整数であり、または、R4は−H、或いは−CONH(CH2)xCH3であり、xは0以上の整数であり、 P1はバイオ高分子である。
【0016】
【数1】
(I)
【0017】
また、前記O−ニトロベンジル型フォトトリガーはO−ニトロベンジルであることが好ましい。
【0018】
さらに、前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子及び/またはO−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子は、ヒアルロン酸、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、絹フィブロイン、キトサン、カルボキシメチルセルロースまたはコラーゲンである。
【0019】
さらに、前記光開始剤は、2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン(I2959)またはリチウムフェニル−1−2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィン酸塩(LAP)である。
【0020】
好ましくは、前記光開始剤と、前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子との質量比は、1〜3:100である。
【0021】
さらに、前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子のグラフト置換率は10〜30%である。前記O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子のグラフト置換率は1%〜20%である。
【0022】
さらに、前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子は、グラフト置換率が10%のメタクリル酸無水物で修飾されたゼラチン、グラフト置換率が90%のメタクリルアミドで修飾されたゼラチン、グラフト置換率が40%のメタクリル酸無水物で修飾されたゼラチン、グラフト置換率が20%のメタクリルアミドで修飾されたゼラチン、グラフト置換率が30%のメタクリル酸無水物で修飾されたコラーゲン、グラフト置換率が90%のメタクリル酸無水物で修飾されたコンドロイチン硫酸、又はグラフト置換率が10%のメタクリルアミドで修飾されたカルボキシメチルセルロースの1つ、又はいくつかの混合物である。
【0023】
さらに、前記O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子は、グラフト置換率が100%のO−ニトロベンジルで修飾されたヒアルロン酸、グラフト置換率が50%のO−ニトロベンジルで修飾されたアルギン酸ナトリウム、グラフト置換率が10%のO−ニトロベンジルで修飾されたコンドロイチン硫酸、グラフト置換率が30%のO−ニトロベンジルで修飾されたゼラチン、グラフト置換率が90%のO−ニトロベンジルで修飾された絹フィブロイン、グラフト置換率が100%のO−ニトロベンジルで修飾されたコラーゲン、または、グラフト置換率が10%のO−ニトロベンジルで修飾されたキトサンの1つ、又はいくつかの混合物である。
【0024】
さらに、前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子の最終質量濃度は、脱イオン水の質量に基づいて3−10%であり、O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子の最終質量濃度は、 脱イオン水の質量に基づいて2−4%であり、前記光開始剤の最終質量濃度は、脱イオン水の質量に基づいて0.03〜0.2%である。
【0025】
一方、本発明は、組織修復または止血試薬の調製における光反応性架橋可能グループで修飾された天然の生体高分子の応用を提供する。いくつかの好ましい実施例では、前記試薬には、O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子も含まれる。好ましくは、前記試薬には、光開始剤および/または脱イオン水も含まれる。前記光開始剤の最終質量濃度は、脱イオン水の質量に基づいて0.001〜1%である。
【0026】
いくつかの好ましい実施例では、光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子及びO−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子の最終質量濃度は、両方とも脱イオン水の質量に基づいて0.1〜10%である。
【0027】
前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子における光反応性架橋基のグラフト置換率は、10〜90%であることが好ましい。好ましくは、前記光反応性架橋基は、メタクリルアミドまたはメタクリル酸無水物である。
【0028】
好ましくは、前記O−ニトロベンジル型ライトトリガーで修飾された天然の生体高分子におけるO−ニトロベンジル型フォトトリガーのグラフト置換率は1〜100%である。
【0029】
一方、本発明は、止血試薬の調製における前記光制御生体組織接着剤の応用も提供する。
【0030】
本発明はまた、組織修復試薬の調製における前記光制御生体組織接着剤の応用も提供する。
【0031】
さらに、前記応用は、前記光制御生体組織接着剤を出血の創傷又は修復が必要な組織部位に注射する同時に、波長が350〜450nm、エネルギー密度が20〜150mW/cm
2の光で1〜10秒間照射すると、生体組織接着剤を架橋固化させて、急速に止血又は組織修復を実現することができる。
【0032】
一方、本発明は、生体組織損傷の修復又は止血の方法も提供し、前記方法は、光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子が含まれる試薬を提供することと、前記試薬を前記生体組織又は出血の組織に提供することと、を備える。
【0033】
前記方法は、前記光制御生体組織接着剤を出血の創傷又は修復が必要な組織部位に注射することを備える。
【0034】
いくつかの好ましい実施例では、前記方法は、波長が350〜450nm、エネルギー密度が20〜150mW/cm
2の光で照射することを含む。好ましくは、照射の時間は1〜10秒であり、即ち、生体組織接着剤を架橋固化させて、急速に止血又は組織修復を実現することができる。
【0035】
いくつかの好ましい実施例では、前記試薬には、O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子も含まれる。好ましくは、前記試薬には、光開始剤および/または脱イオン水も含まれる。前記光開始剤の最終質量濃度は、脱イオン水の質量に基づいて0.001〜1%である。
【0036】
いくつかの好ましい実施例では、光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子及びO−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子の最終質量濃度は、両方とも脱イオン水の質量に基づいて0.1〜10%である。
【0037】
前記光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子における光反応性架橋基のグラフト置換率は、10〜90%であることが好ましい。好ましくは、光反応性架橋基は、メタクリルアミドまたはメタクリル酸無水物である。
【0038】
好ましくは、前記O−ニトロベンジル型ライトトリガーで修飾された天然の生体高分子におけるO−ニトロベンジル型フォトトリガーのグラフト置換率は、1〜100%である。
【0039】
当方の研究グループは、光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子は、創傷の治癒と修復を促進でき、及び急速な止血機能を有することが分かった。特に、O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子と共に使用すると、応用の効果を大幅に向上させることができる。
【0040】
当方は、天然の生体高分子の修飾に対する光反応性架橋基の効果は、主に以下の2つの側面に影響を及ぼすと推測する。
1.光反応性架橋基は、光照射後に自己架橋するため、急速にゲル化する。
2.O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子が光照射後にアルデヒドを生成し、アミノとの反応を提供して、コロイド機械的強度を高める。
実際には、O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子の作用は、主に次のとおりである。
1.O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子の光照射後に生成したアルデヒド基と、組織表面のアミノ基との反応により、ゲルに強い組織接着力を生じさせる。
2.O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子の光照射後に生成したアルデヒド基と、光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子におけるアミノ基との反応により、コロイドの機械的強度を増加する。
【0041】
本発明は、光励起後にO−ニトロベンジル型フォトトリガーが生成したアルデヒド基を利用し、当該生成したアルデヒド基とアミノ基は反応して強い化学接着を形成し、O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子と創傷の周辺の組織とを接着させ(組織の接着の主な作用は、小分子グループとしてのO−ニトロベンジル型フォトトリガーが光照射後にアルデヒド基を生成して、組織におけるアミノ基と化学的接着をする)、創傷の表面に強く接着する同時に、光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子は光の照射で急速に固化し創傷を閉じて、急速な止血及び創傷の修復の目的を達成し。これは、理想的な速い止血材料で、一部の創傷縫合に代わる生体組織接着剤材料である。
【0042】
本発明の光制御生体組織接着剤のバイオ粘性は、光活性化によって制御されことができる。光励起の前に、生体組織接着剤には、組織におけるアミノ基と反応するアルデヒド基が含まないので、組織粘性を有しない。光励起の後に、O−ニトロベンジル型フォトトリガーによるアルデヒド基が生成され、組織におけるアミノ基と急速に反応して、生体組織接着剤が急速に接着するようになる。O−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子の濃度を増加させることによって、生体組織接着剤の組織接着能力を強化することができる。
本発明は、光反応性架橋基で修飾された天然の生体高分子およびO−ニトロベンジル型フォトトリガーで修飾された天然の生体高分子を採用することにより、バイオセーフティと適用性が高いことを特徴とし、医療用止血および組織修復の分野で使用できる。前記生体組織接着剤は、1〜30秒以内にゲル化することができ、急速な止血と組織修復を実現する。