(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893089
(24)【登録日】2021年6月2日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20210614BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20210614BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20210614BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20210614BHJP
C09D 175/08 20060101ALI20210614BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D7/40
C09D7/43
C09D175/08
E04F13/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-21011(P2017-21011)
(22)【出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2018-127535(P2018-127535A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松崎 亮弥
【審査官】
▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−196409(JP,A)
【文献】
特開2009−263425(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂系エマルジョンと、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトンと、該光重合開始剤と共融する紫外線吸収剤としてベンゾフェノンと、表面親水化剤として分子量10000以下のウレタン変性ポリエーテル化合物と、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、から成り、該光重合開始剤と該紫外線吸収剤とが共融混合物と成っており、該光重合開始剤は該アクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して1.0〜4.0重量部であり、該表面親水化剤は該アクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して7.5〜15.0重量部であり、一液型で下地に0.5〜6.5mm厚に塗付することを特徴とする外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物。
【請求項2】
骨材が硅砂であることを特徴とする請求項1に記載の外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁に0.5〜6.5mm厚に塗付し、該外壁に様々な凹凸模様から成る意匠性を付与する一液型の水系塗材組成物であって、特には塗材表面の汚れの付着が少ない外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐候性、耐薬品性、耐水性などの耐久性が向上し、かつ低汚染性をも改善した水性塗料用樹脂組成物が提案されている。該水性塗料用樹脂組成物は、(a)有機合成樹脂のエマルション、(b)カップリング剤、および(c)前記有機合成樹脂(a)以外でかつ前記カップリング剤(b)と反応し得る基を有する親水化用有機化合物からなる低汚染型水性塗料用樹脂組成物である(特許文献1参照)。
【0003】
また、建築物の躯体保護に使用し塗膜の耐汚染性を飛躍的に向上した水性低汚染塗料組成物が提案されている。該水性低汚染塗料組成物は、特定のエマルジョン粒子として、コア層(1)がシラン化合物、アクリル系化合物、スチレン、アクリルニトリル系化合物、メタクリル系化合物の共重合体、シェル層(2)がシラン化合物、アクリル系化合物、スチレン、アクリルニトリル系化合物、メタクリル系化合物からなる共重合体のコア・シェル重合体の樹脂エマルジョンの固形分が、全塗料組成物の固形分に対して10〜30重量部、ウェッティング剤が0.5〜5.0重量部を含むことを特徴とする水性低汚染塗料組成物である(特許文献2参照)。
【0004】
また、水系塗料からなる塗膜において、屋外に曝露されたとき従来に比べ雨筋状の汚染を低減でき、特に塗膜形成直後からの汚れが防止でき、持続性に優れ、かつ塗料としての貯蔵安定性が良好な低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物が提案されている。該低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物は、(A)水性樹脂組成物、及び、(B)平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子(固形分)1〜300質量部を乳化安定化剤として、1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部を乳化重合して得られる水性分散体を含有することを特徴とする低汚染性水性被覆組成物であり、塗膜表面を親水化して水濡れ性を良くし、雨水が塗膜と汚染物質との界面に浸透して汚染物質を洗い流す機能を有するものである(特許文献3参照)。
【0005】
また、建造物の外壁面に存在する旧塗膜の上に下塗塗料を塗布して下塗塗膜を形成した後、この下塗塗膜の上に親水性防汚塗料を塗布し、塗膜厚が10〜40μmであって、塗膜表面の水接触角が50°以下である親水性防汚塗膜を形成することを特徴とする建造物外壁面の親水性防汚処理方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る低汚染型水性塗料用樹脂組成物は、持続的な表面親水化のためにカップリング剤と親水化用有機化合物を反応させる構成であり、予想通りの効果を得るには被塗布物に塗装する直前にこれらを混合する必要があり、結果として一液型とは成らないと共に、該低汚染型水性塗料用樹脂組成物の塗装膜厚は40μm程度であるため、本願発明のような、外壁に0.5〜6.5mm厚に塗付する一液型の水系塗材組成物には適用できないという課題がある。
【0007】
また、特許文献2に係る水性低汚染塗料組成物は、ウェッティング剤により塗膜を親水化すると同時に塗膜表面に静電防止効果を付与することで耐汚染性が向上されていても、雨水等で該ウェッティング剤が塗膜表面より洗い流されると耐汚染性が低下する場合があるという課題がある。
【0008】
また、特許文献3に係る低汚染性水性被覆組成物は、水分散型無機粒子であるコロイダルシリカを乳化剤として作用させることにより塗膜の耐水性を低下させる界面活性剤を組成物中に含まないようにすると共に、該コロイダルシリカにより塗膜表面を親水化することで雨筋状の汚染を低減させているが、あくまで該組成物の塗布厚みは6mil(約0.15mm)程度であり、特許文献1の低汚染型水性塗料用樹脂組成物と同様に、本願発明のような、外壁に0.5〜6.5mm厚に塗付する一液型の水系塗材組成物には適用できないという課題がある。
【0009】
また、特許文献4に係る建造物外壁面の親水性防汚処理方法に記載の親水性防汚塗料は、上記特許文献1及び特許文献3の組成物と同様に塗膜厚みが10〜40μmと薄膜であるため、同様に本願発明のような、外壁に0.5〜6.5mm厚に塗付する一液型の水系塗材組成物には適用できないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001-72928号公報
【特許文献2】特開2004−161894号公報
【特許文献3】特開2008−239779号公報
【特許文献4】特開2012−210605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、一液型であって、塗付膜厚が0.5〜6.5mmであっても塗材表面を親水性に保持し、且つ長期に亘って該親水性を保持することで、結果として塗材表面に汚れの付着が少ない、外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討し、請求項1記載の発明は、アクリル樹脂系エマルジョンと、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトンと、該光重合開始剤と共融する紫外線吸収剤としてベンゾフェノンと、表面親水化剤として分子量10000以下のウレタン変性ポリエーテル化合物と、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、から成り、
該光重合開始剤と
該紫外線吸収剤とが共融混合物と成っており、
該光重合開始剤は
該アクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して1.0〜4.0重量部であり、
該表面親水化剤は
該アクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して7.5〜15.0重量部であり、一液型で下地に0.5〜6.5mm厚に塗付することを特徴とする外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物を提供する。
【0013】
請求項2記載の発明は、
骨材が硅砂であることを特徴とする請求項1記載の外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物は、塗付膜厚が0.5〜6.5mmであっても塗材表面が親水性に形成される効果があり、また長期に亘って該親水性が保持されるため、結果として塗材表面の汚れの付着が少ないという効果がある。
【0019】
詳しくは、本願発明には表面親水化剤が配合されていて該表面親水化剤は塗材内の他の成分と結合されていないため少しずつ塗材表面に移行する効果がある。特に塗材が乾燥硬化する過程で該効果は発揮され、塗材表面は速やかに親水性に形成される効果がある。
【0020】
従来の塗材表面であれば該表面親水化剤は雨水等により洗い流されるため塗材表面の親水性は低下するが、本願発明においては光重合開始剤が紫外線吸収剤と共に配合されているため、光重合開始剤によりアクリル樹脂エマルジョン中で残存しているα、β―エチレン性不飽和単量体が重合し、塗材表面を緻密化し、表面親水化剤の流出が防止されると推察される。
【0021】
光重合開始剤は紫外線吸収剤と共に配合されているため、紫外線は速やかに吸収されて該エネルギーにより光重合開始剤よりラジカルが放出されて前記α、β―エチレン性不飽和単量体がラジカル(付加)重合する。該作用は光エネルギーにより切断されるアクリル樹脂の再度の重合(修復)にも寄与する可能性があると推測される。
【0022】
該作用により塗材表面が緻密化することで、他の成分と結合されていない表面親水化剤の雨水等による流出が防止され、長期に亘って塗材表面の親水性が保持されると推測され、上記のように結果として塗材表面の汚れの付着が少ないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明の外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物は、アクリル樹脂系エマルジョンと、光重合開始剤と、該光重合開始剤と共融する紫外線吸収剤と、表面親水化剤と、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、から成り、光重合開始剤はアクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して1.0〜4.0重量部であり、表面親水化剤はアクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して7.5〜15.0重量部であり、一液型で下地に0.5〜6.5mm厚に塗付することを特徴とする外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物であり、必要に応じて消泡剤や分散剤等を配合することが出来る。
【0025】
[アクリル樹脂エマルジョン]
本発明のアクリル樹脂系エマルジョンには、アクリル酸エステル系共重合樹脂、酢酸ビニル・アクリル酸エステル系共重合樹脂、シリコン変性アクリル樹脂等のアクリル樹脂系エマルジョンを使用することができる。アクリル樹脂とするアクリル系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ん−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、等を使用することが出来る。他の不飽和単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、及びクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸や、クロトン酸、イタコン酸;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや、2(3)−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、アリルアルコール、多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等の水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミドや、マレインアミド等のアミド基含有単量体;2−アミノエチル(メタ)アクリレートや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートや、アリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応により得られるエポキシ基含有単量体やオリゴノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及び3−(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;その他、酢酸ビニル、塩化ビニル、更には、エチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート等を使用することが出来る。
【0026】
アクリル樹脂系エマルジョン中の樹脂のガラス転移温度は−30〜20℃が好ましい。ガラス転移温度が−30℃未満の場合は仕上がり表面にタックが生じて汚れやすくなり、20℃超の場合は成膜不良となる。本発明の水系塗材組成物全体中の樹脂固形分は5.0〜20.0重量%が好ましく、5.0重量%未満では粘着性、塗付作業性が低下し、また20.0重量%超では粘度が低下し塗付作業性が低下すると共に表現できる意匠(パターン)数が低下する。市販のアクリル樹脂系エマルジョンとしては、アクロナールPS743(BASF社製、固形分55重量%)がある。
【0027】
[光重合開始剤]
本発明に使用する光重合開始剤は、本組成物を建築物の外壁に塗付し水分が揮発して乾燥した後、光によりアクリル樹脂系エマルジョン中の例えば未反応のα、β―エチレン性不飽和単量体を重合させる等の作用により塗材表面を緻密化することを目的に配合される。具体的にはα−ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤が好ましく、特には1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトンが好ましい。光重合開始剤の配合量は、本組成物中のアクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して1.0〜4.0重量部が好ましく、1.0重量部未満では下記塗材表面にある表面親水化剤が雨水等により塗材表面より流出して塗材が汚れやすくなり、4.0重量部超では塗材表面の表面親水化剤が過剰量になり、逆に汚れが付着し易くなる場合がある。
【0028】
[紫外線吸収剤]
本発明に使用する紫外線吸収剤は、上記光重合開始剤と共融する化学品が好ましく、具体的にはベンゾフェノンを使用することが出来る。使用に際しては光重合開始剤と共融混合物とした上で配合することが好ましく、共融混合物とすることで、光重合開始剤が組成物全体に均一に分散し効果的に光重合開始剤が作用する。共融混合物とする際の光重合開始剤と紫外線吸収剤の割合は30/70〜70/30が好ましく、該紫外線吸収剤の配合量は本組成物中のアクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して1.0〜4.0重量部が好ましい。1.0重量部未満では光重合開始剤の活性化が不十分な場合があり、4.0重量部超では塗材表面に汚れが付着し易くなる場合がある。
【0029】
[表面親水化剤]
本発明に使用する表面親水化剤は、本組成物を建築物の外壁に塗付し水分が揮発して乾燥した後、塗材表面を親水化することを目的に配合され、特にはポリエーテルポリオールとイソシアネート化合物を反応させたウレタン変性ポリエーテル化合物が好ましい。該ウレタン変性ポリエーテル化合物の分子量は10000以下であって水に可溶な化合物であり、本発明の組成物に配合することにより建築物の外壁に本組成物を塗付した際に塗材表面に移行し該塗材表面を親水化する。該表面親水化剤の配合量は、本組成物中のアクリル樹脂系エマルジョンの固形分100重量部に対して7.5〜15.0重量部が好ましく、7.5重量部未満では塗材表面の親水化が不十分となり、15.0重量部超では塗材表面に汚れが付着し易くなる場合がある。
【0030】
[充填材]
本発明に使用する充填材は、平均粒径D
50(重量による積算50%の粒径)が100μm未満のものを言い、組成物の粘度や塗付性の調整を目的として配合し、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、硅砂粉等が使用でき、重質炭酸カルシウムが安価でコスト的負担を軽減させることが出来る。充填材の配合量は塗材組成物全体に対して3〜20重量%、好ましくは5〜12重量%であり、3重量%未満では下地の色が透けるなどの隠蔽性が不足し、20重量%超では塗材粘度が高くなって塗付作業性が不良となる。3重量%未満では色調によっては隠蔽性が低下する場合があり、12重量%超では冬季等の低温度下では塗付作業性が低下する傾向にある。
【0031】
[骨材]
本発明に使用する充填材は、平均粒径D
50(重量による積算50%の粒径)が100μm以上のものを言い、仕上がり表面に凹凸を付与することを目的として配合されるが、平均粒径が100μm以上であればその粒子径は任意に選択することができ、例えば硅砂,ガラス,シリカ,タルク,重質炭酸カルシウムなどが使用可能である市販の平均粒径が200μmの重質炭酸カルシウムとしてはK−250(商品名,旭鉱末(株)製)がある。骨材(B)の配合量は組成物全体に対して40〜65重量%であり40重量%未満では意匠性(塗材の凹凸感)が不足し、65重量%超では作業性が低下する。
【0032】
[顔料]
顔料には、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(弁柄)、クロム酸鉛、黄鉛、黄色酸化鉄等の無機系顔料等が使用できるが、中でも酸化チタンは下地の隠蔽性に優れ、白色であるため主たる顔料として使用することが出来る。
【0033】
[増粘剤]
増粘剤は、鏝塗り作業性や保水性の向上を目的として配合し、水溶性セルロースエーテル、ウレタン変性ポリエーテル、ポリカルボン酸等が使用できる。水溶性セルロースエーテルとしてはhiメトローズ90SH15000(信越化学株式会社製、商品名)がある。増粘剤の配合量は組成物全体100重量部に対して0.1〜5.0重量部が好ましく、0.1重量部未満では十分な増粘効果が得られず塗材の凹凸模様が不十分となり、5.0重量部超では塗付作業性が低下する。
【0034】
[成膜助剤]
成膜助剤には、エマルジョンのポリマー粒子の融着を促進し、ポリマーによる均一な皮膜を形成させることを目的で配合し、エチレングリコールジエチルエーテル、ベンジルアルコール、ブチルセロソルブ、エステルアルコール等を使用することが出来る。成膜助剤の配合量は組成物全体100重量部に対して0.5〜10重量部が好ましく、0.5重量部未満では低温での成膜が不十分となる場合があり、10重量部超では塗材の表面に汚れが付着し易くなる場合がある。
【0035】
上記の配合成分の他に、塗材中の巻き込み等による泡を消失させるために消泡剤や、充填材や顔料等を均一に分散させるための分散剤が配合されることがある。
【0036】
本発明の水系塗材組成物は施工にあたっては、ローラー刷毛、パターンローラー、金鏝、吹き付けガン等を使用して、目的としている意匠となるように適切に施工器具を選択し、その意匠に適した塗付量で仕上げる。配合された水系塗材組成物の適正粘度としては、300〜700Pa・sが好ましく、このような粘度とするには、適当量の水を加えることで調整することが出来る。
【0037】
また、本発明の水系塗材組成物の塗付厚みは0.5mm〜6.5mmと一般的な塗料よりも厚く、上記ローラー刷毛、パターンローラー、金鏝、吹き付けガン等を使用して、目的とする意匠を付与する。
【0038】
以下、実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例】
【0039】
[材料の作製]
表1の配合に従って、実施例及び比較例1乃至比較例6の水系塗材組成物を作製した。表1において、アクリル樹脂エマルジョンはアクロナール7067(固形分:47〜49%、樹脂のガラス転移温度:10℃、BASF社製、商品名)を使用し、光重合開始剤は1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトンを、紫外線吸収剤はベンゾフェノンを使用し、光重合開始剤と紫外線吸収剤は1:1(重量比)で共融混合物とした上で使用した。表面親水化剤は分子量
10000以下のウレタン変性ポリエーテル化合物 SNクリーンアクト(商品名、サンノプコ社製)を使用し、充填剤は硅砂粉#300(平均粒径25μm、株式会社トウチュウ製、商品名)を使用し、骨材は、東北硅砂7号(比重1.5、平均粒径150μm、東北硅砂株式会社製、商品名)を使用し、顔料には酸化チタンR−820(石原産業株式会社製、商品名)を使用し、増粘剤は水溶性セルロースエーテルhiメトローズ90SH−15000(信越化学株式会社製、商品名)を、成膜助剤はテキサノールCS−12(チッソ株式会社製、商品名)を使用した。この他には消泡剤及び分散剤を添加したが、これらは水系塗材用の市販品より適宜選択されるものを使用することが出来る。これらの原料を均一に混合分散させ、実施例及び比較例の外壁に意匠性を付与する水系塗材組成物とした。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例及び比較例の水系塗材組成物について、以下に示す評価方法により評価した。
【0042】
[評価方法]
【0043】
[接触角]
JISA5430規定のフレキシブルボード(100mm×150mm×4mm)にシーラーとして溶剤型塩化ゴム系下塗り材(JS−410、アイカ工業株式会社製、商品名)を0.2kg/m
2塗布し、乾燥後、実施例及び比較例の水系塗材組成物を2.0kg/m
2塗布し、7日間乾燥させた。接触角計(協和界面科学株式会社 型番:Drop Master DM−301)を用い、液滴法にて1.0μLの純水を塗材表面に滴下し、30秒静置した後の接触角を測定した。測定は23℃環境下で上記7日間乾燥後と、その後試験体を24時間水中に浸漬し、さらに24時間乾燥後にそれぞれ測定した。
【0044】
[促進汚染性]
JISA5430規定のフレキシブルボード(100mm×150mm×4mm)にシーラーとして溶剤型塩化ゴム系下塗り材(JS−410、アイカ工業株式会社製、商品名)を0.2kg/m
2塗布し、乾燥後、実施例及び比較例の水系塗材組成物を0.5〜6.5mm厚みに塗布し、1日間乾燥させた。試験体にカーボンブラック(JIS試験用粉体12種カーボンブラック、粒子径約80nm:日本粉体工業技術協会)を、茶漉しを用いて全面にふりかけ、その後、試験体を傾けて粉体を落とし霧吹きで全面に水を10回噴射して流れ落とせるカーボンブラックは流れ落とした。その後試験体全体の汚染度合いを目視で評価し、カーボンブラックをふりかけないブランクの試験体と比較して僅かな汚れであるときを○と、同様に明らかな汚れがあるときを△と、同様に著しい汚れがあるときを×と評価した。試験は23℃環境下で上記1日間乾燥後と、その後試験体を24時間水中に浸漬し、さらに24時間乾燥後にそれぞれ行なった。
【0045】
[耐汚染性]
下地としてJISA5430規定のフレキシブルボード(80×265mm厚さ4mm)を使用し、シーラーとして溶剤型塩化ゴム系下塗り材(JS−410、アイカ工業株式会社製、商品名)を0.2kg/m
2塗布して、4時間以上乾燥させた後、実施例又は比較例の水系塗材組成物を塗付量0.9kg/m
2にて金鏝を使用して塗付し、温度23℃湿度50%RHで12時間養生した。その後同一の水系塗材組成物を塗付して、水系塗材組成物の塗付厚みが0.5〜6.5mmになるように金鏝を使用して塗付し、同様に温度23℃湿度50%RHで14日間養生して試験体とした。試験体は2体づつ作製し、そのうちの一体を水平面に対して70度の角度で縦長状に設置した。当該試験体の塗膜面の上部から高さ300mmの位置には、水平面に対して10度の角度で設置された波板(波の幅32mm、長さ500mm)の下端部を配設させ、波板の波底部を流下してくる雨水が、試験体の塗膜上部に落下し、当該雨水が試験体の塗膜下部に自重で流下するようにした。この条件で3ヶ月間屋外に暴露し、雨水によって汚れた塗膜部分と、暴露していないもう一体の試験体塗膜との色差を色彩色差計(CM−2600d、コニカミノルタセンシング株式会社製)にて測定し、当該色差を耐汚染性として評価した。色差が2.5未満を○、2.5以上を×とした。
【0046】
[意匠性]
900mm角のJISA5430規定のフレキシブルボードを垂直に設置し、実施例又は比較例の水系塗材組成物を剣先ゴテで凹凸の差を付けながら塗付厚みが0.5〜6.5mmと成るようにして扇型の柄をつけ、そのまま乾燥させる。硬化後、つけた柄がそのままの状態を保っているものを○、柄に崩れ(ダレ、レベリング)がある場合は×とした。
【0047】
[成膜性(低温ひび割れ性)]
150×150mm厚さ2mmのガラス板の周縁に厚さ2mm×幅7mmのスペーサーを貼り付け、その内側に実施例又は比較例の水系塗材組成物を均一な厚みになるようにヘラで塗付し、直ちに5℃の恒温槽内に水平に載置した。48時間経過後、恒温槽から取り出し目視にて、塗膜表面にクラックが生じているものを×とし、クラックが無いものを○とした。
【0048】
[耐水性]
150×150×4mmのフレキシブルボード(JIS A5430規定のフレキシブルボード)を使用し、シーラーとして溶剤塩化ゴム系下塗り材(JS−410、アイカ工業株式会社製、商品名)を0.2kg/m
2塗布して、4時間以上乾燥させた後、実施例又は比較例の水系塗材組成物を塗付量0.9kg/m
2にて金鏝を使用して塗付し、温度23℃湿度50%RHで12時間養生した。その後同一の水系塗材組成物を塗付して、水系塗材組成物の塗付厚みが0.5〜6.5mmになるように金鏝を使用して塗付し、同様に23℃湿度50%RHで1日間養生して試験体とした。養生後23℃の水に浸漬し、24時間経過後の表面の膨れ、軟化を目視及び指蝕で評価した。膨れ、軟化がない場合は○、これ以外は×とした。
【0049】
[耐膨れ性]
JIS A 6909に準拠した方法で試験体を作製した。先ず70×70×20mmモルタルピースにシーラーとして水系アクリル下塗り材(JS−500、アイカ工業株式会社製、商品名)を0.2kg/m
2塗布して、4時間以上乾燥させた後、実施例又は比較例の水系塗材組成物を塗付量0.9kg/m
2にて金鏝を使用して塗付し、温度23℃湿度50%RHで12時間養生した。その後同一の水系塗材組成物を塗付して、水系塗材組成物の塗付厚みが0.5〜6.5mmになるように金鏝を使用して塗付し、同様に温度23℃湿度50%RHで14日間養生して試験体とした。当該試験体を、温度23℃18h水浸漬→−20℃3h→50℃3hの温冷繰り返し試験を10サイクル行い、塗材表面の膨れの有無を目視にて確認した。膨れが発生した場合は×、膨れの発生がない場合は○とした。
【0050】
[評価結果]
【0051】
評価結果を表2に示す。
【0052】
【表2】