特許第6893172号(P6893172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6893172ゲムシタビンリン酸ジアステレオ異性体を分離する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893172
(24)【登録日】2021年6月2日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】ゲムシタビンリン酸ジアステレオ異性体を分離する方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/10 20060101AFI20210614BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20210614BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210614BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   C07H19/10
   A61K31/7068
   A61P35/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】15
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-518474(P2017-518474)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(65)【公表番号】特表2017-530172(P2017-530172A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】GB2015052839
(87)【国際公開番号】WO2016055769
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2018年8月1日
【審判番号】不服2020-5514(P2020-5514/J1)
【審判請求日】2020年4月23日
(31)【優先権主張番号】1417644.0
(32)【優先日】2014年10月6日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516375207
【氏名又は名称】ヌカナ ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】グリフィス,ヒュー
【合議体】
【審判長】 瀬良 聡機
【審判官】 井上 千弥子
【審判官】 冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/076490(WO,A1)
【文献】 新実験化学講座1 基本操作I,日本,丸善株式会社,昭和60年6月10日第6刷発行,326−327
【文献】 化学と教育,日本,1998年,46(7),396−399
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸の少なくとも1つのジアステレオ異性体を、85%よりも高いジアステレオ異性体純度で得る方法であって、
ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸とゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸の混合物を、溶媒または溶媒混合液中で懸濁させて、スラリーを形成させるステップであって、前記溶媒または溶媒混合液が、C〜Cアルコール、アセトニトリル、トルエン、アセトン、およびメチルエチルケトンから選択される1種以上の溶媒からなる、ステップ、および
前記スラリーを濾過して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸と、前記溶媒または溶媒混合液に溶解したゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸を含む濾液とを得るステップを含み、
前記固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸が、85%よりも高いジアステレオ異性体純度のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸であり、および/または前記濾液が、85%よりも高いジアステレオ異性体純度のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む、方法。
【請求項2】
一旦形成後の前記スラリーを30℃から80℃の温度に任意選択で加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スラリーを濾過前に冷却しない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸を洗浄するステップをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を85%よりも高いジアステレオ異性体純度で得る方法であって、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む前記濾液から前記溶媒を除去して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を85%よりも高いジアステレオ異性体純度で得るステップをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒または溶媒混合液を除去するステップが、
蒸留または減圧下での蒸発などの蒸発により、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む前記濾液から、前記溶媒または溶媒混合液の一部を除去して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む濃縮した濾液を得ること、
任意選択で、前記濃縮した濾液を撹拌すること、および
前記濃縮した濾液を濾過して、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を、85%よりも高いジアステレオ異性体純度で、固体として得ることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒または溶媒混合液を除去するステップが、
ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む前記濾液を冷却して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む冷却した濾液を得ること、
任意選択で、前記冷却した濾液を撹拌すること、および
前記冷却した濾液を濾過して、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を、85%よりも高いジアステレオ異性体純度で、固体として得ることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記濾液にシード材料を添加するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記濾液にさらなる溶媒を添加するステップをさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
85%よりも高いジアステレオ異性体純度で前記固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を洗浄することをさらに含む、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸を、85%よりも高いジアステレオ異性体純度で得る方法である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1の濾過より得られた固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸を、第2の溶媒または第2の溶媒混合液中で懸濁させて、第2のスラリーを形成させるステップ、および
前記第2のスラリーを濾過して、85%よりも高いジアステレオ異性体純度で固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸を得るステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒がイソプロピルアルコールであるか、または前記溶媒混合液がイソプロピルアルコールを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記溶媒がイソプロピルアルコールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記溶媒がアセトニトリルであるか、または前記溶媒混合液がアセトニトリルを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]リン酸のリン酸エステルジアステレオ異性体を分離する方法に関する。より詳細には、本発明は、(S)−および/または(R)−リン酸エステルジアステレオ異性体を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲムシタビン(1;Gemzar(登録商標)として販売されている)は現在、乳がん、非小細胞肺がん、卵巣がんおよび膵がんの治療に承認されており、膀胱がん、胆道がん、結腸直腸がんおよびリンパ腫を含めた様々な他のがんの治療に広く使用されている、有効なヌクレオシド類似体である。
【0003】
【化1】
【0004】
ゲムシタビンの臨床的有用性は、いくつかの固有の耐性機構および後天的な耐性機構によって制限される。細胞レベルでは、耐性は、3つのパラメータ:(i)リン酸化部分への活性化に必要なデオキシシチジンキナーゼの下方制御、(ii)がん細胞による取込みに必要とされるヌクレオシド輸送体、特にhENT1の発現の減少、および(iii)ゲムシタビンを分解する触媒酵素、特にシチジンデアミナーゼの上方制御に依存する。
【0005】
国際公開第2005/012327号パンフレットには、一連のゲムシタビン用ヌクレオチドリン酸誘導体および関連するヌクレオシド薬物分子が記載されている。それらの中でも、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸(NUC−1031;2)は特に有効な化合物として特定されている。これらの誘導体は、ゲムシタビンの有用性を制限する固有の耐性機構および後天的な耐性機構の多くを回避すると思われる('Application of ProTide Technology to Gemcitabine: A Successful Approach to Overcome the Key Cancer Resistance Mechanisms Leads to a New Agent (NUC-1031) in Clinical Development'; Slusarczyk et all; J. Med. Chem.; 2014, 57, 1531-1542)。
【0006】
NUC−1031 2は典型的に、リン酸エステル中心でのエピマーである2つのジアステレオ異性体の混合物として調製される。
【0007】
【化2】
【0008】
NUC−1031 2は非常に親油性が高いので水溶性に乏しく(計算によると、0.1mg/mL未満)、またそのイオン性部分は、非経口投与に好適なpH範囲外にあるpKa計算値を有する。NUC−1031 2は、塩含有量またはpHにかかわらず本質的に水に不溶であり、このことは、有効な治療のため充分に多い用量で化合物を送達する製剤の開発に関係している。また、NUC−1031を対費用効果良く作製することが可能になる効率的な製造プロセスの開発にも関係している。
【0009】
ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の(S)−エピマー3は、数種の極性有機溶媒と水との混合液中で、治療剤としての製剤および投与に好適とするのに充分な溶解性を有することが最近発見された。(R)−エピマー4の溶解性はかなり低い。特定の溶媒混合液では、(S)−エピマーと(R)−エピマーの溶解性の差は100倍を超える。したがって、(S)−エピマーを用いることにより、(R)−エピマーまたは混合物を用いて開発されうる投与方法よりも臨床的に有効で、実用的かつ患者に優しい投与方法が開発されうることが期待される。したがって、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸3を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で提供することができることが望ましい。
【0010】
【化3】
【0011】
【化4】
【0012】
多くの溶媒中で、特にHPLCを用いた化合物の分離において通常使用される溶媒中でNUC−1031の溶解性が低いことは、いずれのHPLCに基づく分離でも多量の溶媒が必要とされることを意味する。これは、HPLCに基づく工業規模の分離プロセスはいずれも高い費用がかかり、大量のエネルギーおよび材料を消費し、大量の廃棄物を生じさせることを意味する。
【0013】
本願提出時では、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸を(S)−エピマーとして投与することが好ましいと思われるが、(R)−エピマーをジアステレオ異性体として純粋な形態で得ることを必要とする理由も考えられうる。これらの理由としては、比較試験を実施すること、(R)−エピマーを(S)−エピマーに変換するため、または(S)−エピマーよりも(R)−エピマーが、低溶解性にまさる利益をもたらすため、という理由が挙げられる。
【0014】
実際、(R)−エピマーは、単離されたヒト肝細胞とのインキュベーションにおいて、(S)−エピマーの4倍の半減期を有することが示されている。(R)−異性体に関連するより長い半減期は固有クリアランスがより低いことを示しており、(S)−異性体とは異なる薬物動態および薬力学のプロファイルをもたらすはずであり、これは、いくつかの利点を提供する可能性がある。
【0015】
(S)−および(R)−エピマーの両方が、治療上活性である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の特定の実施形態の目的は、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸3を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で提供する方法を提供することである。
【0017】
本発明の特定の実施形態の目的は、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(R)−リン酸4を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で提供する方法を提供することである。
【0018】
本発明の特定の実施形態の目的は、(S)および/または(R)−エピマーを、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で提供する方法であって、大規模化可能、経済的かつ/または効率的である方法、例えばHPLCを用いた方法よりも大規模化可能、経済的かつ/または効率的である方法を提供することである。したがって、本発明の特定の実施形態の目的は、(S)および/または(R)−エピマーを、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で提供する方法であって、大規模な製造に好適である方法を提供することである。
【0019】
本発明の特定の実施形態の目的は、(S)および/または(R)−エピマーを、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で提供する簡素な方法、すなわち最小数のプロセスステップおよび/または最小量の試薬を含む方法を提供することである。
【0020】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、分離した(S)−または(R)−エピマーが実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で提供され、それと同時に、合成および分離から生じる任意の微量不純物の量および性質に関して、米国FDAなどの組織によって要求される必要基準を満たすか、それを凌ぐことを確実にする方法を提供することである。
【0021】
本発明の特定の実施形態は、上記の目的の一部または全部を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本開示は、以下の[1]から[24]を含む。
[1]ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸の少なくとも1つのジアステレオ異性体を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で得る方法であって、
ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸とゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸の混合物を、溶媒または溶媒混合液中で懸濁させて、スラリーを形成させるステップ、および
前記スラリーを濾過して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸と、前記溶媒または溶媒混合液に溶解したゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸を含む濾液とを得るステップ
を含み、前記固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸が、実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸であり、および/または前記濾液が、実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む、方法。
[2]一旦形成後の前記スラリーを約30℃から約80℃の温度に任意選択で加熱する、上記[1]に記載の方法。
[3]前記スラリーを好ましくは濾過前に冷却しない、上記[2]に記載の方法。
[4]前記固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸を洗浄するステップをさらに含む、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸をジアステレオ異性体として純粋な形態で得る方法であって、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む前記濾液から前記溶媒を除去して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で得るステップをさらに含む、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]前記溶媒または溶媒混合液を除去するステップが、
例えば蒸留または減圧下での蒸発などの蒸発により、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む前記濾液から、前記溶媒または溶媒混合液の一部を除去して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む濃縮した濾液を得ること、
任意選択で、前記濃縮した濾液を撹拌すること、および
前記濃縮した濾液を濾過して、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で、固体として得ること
を含む、上記[5]に記載の方法。
[7]前記溶媒または溶媒混合液を除去するステップが、
ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む前記濾液を冷却して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む冷却した濾液を得ること、
任意選択で、前記冷却した濾液を撹拌すること、および
前記冷却した濾液を濾過して、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で、固体とし
て得ること
を含む、上記[5]に記載の方法。
[8]前記濾液にシード材料を添加するステップをさらに含む、上記[7]に記載の方法。
[9]前記濾液にさらなる溶媒を添加するステップをさらに含む、上記[7]または[8]に記載の方法。
[10]前記実質的にジアステレオ異性体として純粋な固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を洗浄することをさらに含む、上記[7]から[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11]ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸を、ジアステレオ異性体として純粋な形態で得る方法である、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[12]第1の濾過より得られた固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸を、第2の溶媒または第2の溶媒混合液中で懸濁させて、第2のスラリーを形成させるステップ、および
前記第2のスラリーを濾過して、実質的にジアステレオ異性体として純粋な固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸を得るステップ
をさらに含む、上記[11]に記載の方法。
[13]前記溶媒が、極性プロトン性溶媒および極性非プロトン性溶媒から選択される溶媒であるか、または前記溶媒混合液が、極性プロトン性溶媒および極性非プロトン性溶媒から選択される溶媒を含む、上記[1]から[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14]前記溶媒がIPAであるか、または前記溶媒混合液がIPAを含む、上記[13]に記載の方法。
[15]前記溶媒がIPAである、上記[14]に記載の方法。
[16]前記溶媒がアセトニトリルであるか、または前記溶媒混合液がアセトニトリルを含む、上記[13]に記載の方法。
[17]上記[1]から[16]のいずれか一項に記載の方法によって得ることが可能なゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸。
[18]上記[1]から[16]のいずれか一項に記載の方法によって得ることが可能なゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸。
[19]ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸の結晶形であって、I形である結晶形。
[20]Kα2/Kα1比が0.5のCu放射線を使用して測定した場合に、5.0±0.2、6.7±0.2、8.0±0.2、11.3±0.2、20.2±0.2および21.4±0.2から選択される2θに少なくとも2つのピークがあるXRPDパターンを有することを特徴とする、上記[19]に記載の結晶形。
[21]Kα2/Kα1比が0.5のCu放射線を使用して測定した場合に、5.0±0.2、6.7±0.2、8.0±0.2、11.3±0.2、20.2±0.2および21.4±0.2から選択される2θに少なくとも4つのピークがあるXRPDパターンを有することを特徴とする、上記[20]に記載の結晶形。
[22]Kα2/Kα1比が0.5のCu放射線を使用して測定した場合に、2θが5.0±0.2、6.7±0.2、8.0±0.2、11.3±0.2、20.2±0.2および21.4±0.2のピークがあるXRPDパターンを有することを特徴とする、上記[21]に記載の結晶形。
[23]実質的に図1に示されるXRPDパターンを有することを特徴とする、上記[19]に記載の結晶形。
[24]ヌジョール中の懸濁液として測定した場合に、実質的に図2に示されるFTIRパターンを有することを特徴とする、上記[19]から[23]のいずれか一項に記載の結晶形。
本発明の第1の態様においては、ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸の少なくとも1つのジアステレオ異性体を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で提供する方法であって、
ゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸とゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸の混合物を、溶媒または溶媒混合液中で懸濁させて、スラリーを形成させるステップ;および
上記のスラリーを濾過して、固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸と、上記の溶媒または溶媒混合液に溶解したゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸を含む濾液とを得るステップ
を含み;
上記の固体のゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-リン酸は、実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(R)-リン酸であり、かつ/または上記の濾液は、実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン-[フェニル-ベンゾキシ-L-アラニニル)]-(S)-リン酸を含む、
方法を提供する。
【0023】
発明者らは、(R)−エピマーと(S)−エピマーの溶解性における差が充分大きいので、この簡素な方法を用いてエピマーを分離することができることを見出した。意外なことに、この方法により、ジアステレオ異性体が濃縮されたゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸が提供されるだけでなく、1つのエピマーまたは両方のエピマーが、実質的にジアステレオ異性体が濃縮された形態で形成しうる。試験したすべての溶媒において、(S)−エピマーは(R)−エピマーよりも高い溶解性を有する。したがって、(S)−エピマーは典型的には濾液中の溶液として、ジアステレオ異性体が濃縮された形態で存在し、(R)−エピマーは典型的には濾過器上の固体として、ジアステレオ異性体が濃縮された形態で存在する。
【0024】
本発明の特定の実施形態は、実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含む濾液と、ジアステレオ異性体の混合物である固体生成物とを提供する。本発明の特定の実施形態は、実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(R)−リン酸である固体と、ジアステレオ異性体の混合物を含む濾液とを提供する。本発明の特定の実施形態は、実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(R)−リン酸である固体と、実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含む濾液との両方を提供する。
【0025】
スラリーの形成は、周囲温度(すなわち20℃〜30℃)で行ってもよい。発明者らは、いずれの加熱ステップまたは冷却ステップも行うことなく、それぞれのエピマーで良好なジアステレオ異性体純度を得ることができることを見出した。
【0026】
しかしながら、スラリーは、スラリーを形成させる工程の少なくとも一部分の間、加熱することが好ましい。したがって、スラリーが形成した後にスラリーを加熱してもよい。スラリーは、約30℃〜約80℃、例えば約40℃〜約70℃の温度に加熱してもよい。特定の好ましい実施形態においては、スラリーは、約50℃〜約60℃の温度に加熱する。スラリーは、1日間以下加熱してもよい。スラリーは、30分間以上加熱してもよい。1〜3時間が適切となりうる。
【0027】
またスラリーは、スラリー形成ステップの少なくとも一部分の間、撹拌してもよい。スラリーは、3日間以下、例えば1日間以下撹拌してもよい。スラリーは、30分間以上撹拌してもよい。1〜6時間が適切でありうる。撹拌には、かき混ぜること、振盪すること、またはその両方が含まれてもよい。スラリーは、同時に、または実質的に同時に、加熱とかき混ぜを行ってもよい。
【0028】
スラリーを加熱した場合、スラリーを濾過前に冷却しないことが好ましい。
【0029】
上記の方法は、固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸を洗浄するステップをさらに含んでもよい。このステップは、濾過による分離の次に行う。このステップは典型的には、スラリーの形成に使用した、同じ溶媒または溶媒混合液を用いて行うが、異なる溶媒を使用して固体を洗浄しうること、またはスラリーを溶媒混合液から形成させた場合は、混合液中の溶媒のうちの1種のみを使用して固体を洗浄することが考えられる。スラリーを加熱した場合、この洗浄ステップは、高温の、例えば約40℃〜約70℃の溶媒または溶媒混合液を使用して行ってもよいが、常に当てはまるわけではない。溶媒または溶媒混合液は、スラリーと同じ温度としてもよい。
【0030】
上の段落で述べたこの洗浄ステップは、通常、固体が濾過器上にある間に行って洗浄濾液を得る。典型的には、洗浄濾液を始めの濾液と一緒にする。本明細書全体にわたり、「濾液」という用語は、濾過後の濾液の処理に関連して使用する場合、この方法で形成した、始めの濾液と洗浄濾液を一緒にすることによって得られた合わせた濾液の両方を包含するよう意図するものであり、また、始めの濾液を洗浄濾液と一緒にしない場合は、この用語は、始めの濾液を単独で指すよう意図するものである。
【0031】
ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の出発原料は、遊離塩基、塩または水和物の出発原料の形態としてもよい。ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の出発原料は、塩および/または溶媒和物(例えば、水和物)の形態でなくてもよい。出発原料は、遊離塩基の形態とすることが好ましい。
【0032】
実質的にジアステレオ異性体として純粋なゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の生成物は、遊離塩基、塩または水和物の出発原料の形態としてもよい。ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の生成物は、塩および/または溶媒和物(例えば、水和物)の形態でなくてもよい。生成物は、遊離塩基の形態とすることが好ましい。
【0033】
通常、出発原料および生成物は同じ形態である。しかしながら、処理ステップが塩基または酸の添加を含んでもよいことが考えられ、この場合、形態は異なりうる。
【0034】
出発原料および生成物は、両方とも遊離塩基の形態であることが好ましい。
【0035】
「実質的にジアステレオ異性体として純粋な」とは、本発明では、約85%よりも高いジアステレオ異性体純度として規定される。本発明の特定の実施形態は、(R)−および/または(S)−ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の単離を、85%よりもかなり高いジアステレオ異性体純度で達成する。したがって、上記の反応方法によって得られるゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸のエピマー、またはエピマーの各々は、約90%よりも高いジアステレオ異性体純度を有してもよい。本発明の方法によって得られるエピマーの1つ、またはエピマーの両方のジアステレオ異性体純度は、95%、98%、99%またはさらには99.5%よりも高くてもよい。
【0036】
本発明では、「ジアステレオ異性体が濃縮された形態」で得られるエピマーとは、得られたゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸のうち、出発混合物に存在したよりも高い比率のものがそのエピマーであることを意味するものとして規定される。通常、出発混合物は、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の最初の合成の生成物であろう。出発原料における(R)エピマー:(S)エピマーの比は、10:1から1:10の間としてもよい。(R)エピマー:(S)エピマーの比は、5:1から1:5の間、例えば3:1から1:3の間、または2:1から1:2の間であることが好ましい。
【0037】
ジアステレオ異性体のいくらかの分離は、試験したすべての溶媒で観測された。
【0038】
溶媒は、極性プロトン性溶媒および極性非プロトン性溶媒から選択される溶媒としてもよく、または溶媒混合液は、極性プロトン性溶媒および極性非プロトン性溶媒から選択される溶媒を含んでもよい。溶媒混合液に存在しうる他の溶媒としては、極性プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒、無極性溶媒および水が挙げられる。溶媒はトルエンとしてもよく、または溶媒混合液がトルエンを含んでもよい。溶媒は、C〜Cアルコール、アセトニトリル(ACN)、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)およびそれらの混合液から選択される溶媒としてもよく、または溶媒混合液は、さらなる溶媒と共に上記の溶媒の1種または複数を含んでもよい。特定の場合においては、溶媒は、C〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、iso−プロパノール(IPA)、n−ブタノール)、アセトニトリルおよびそれらの混合液から選択される溶媒であるか、または溶媒混合液は上記の溶媒の1種または複数を含む。溶媒はC〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、IPA、n−ブタノール)としてもよく、または溶媒混合液はC〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、IPA、n−ブタノール)を含んでもよい。特定の好ましい実施形態においては、溶媒がIPAであるか、または溶媒混合液がIPAを含む。他の好ましい実施形態においては、溶媒がアセトニトリルであるか、または溶媒混合液がアセトニトリルを含む。
【0039】
溶媒はC〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、IPA、n−ブタノール)としてもよい。特定の好ましい実施形態においては、溶媒はIPAである。他の好ましい実施形態においては、溶媒はアセトニトリルである。
【0040】
「C〜Cアルコール」および「C〜Cアルコール」という用語は、直鎖アルコールおよび分岐鎖アルコールの両方を包含するよう意図するものである。したがって、念のために述べると、C〜Cアルコールという用語は、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノールおよびtert−ブタノールから選択されるアルコールを意味する。
【0041】
溶媒混合液は水を含んでもよい。溶媒と水の相対比率は、水と溶媒が混和性であるような相対比率としてもよい。この場合は、水は貧溶媒として作用して、溶媒系でのゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の溶解性を下げてもよい。水が存在する場合、水は、溶媒混合液の全体積(すなわち、溶媒の体積と水の体積を足したもの)の20%以下、例えば10%以下または5%以下としてもよい。水は、溶媒混合液の全体積の0.1%以上としてもよい。
【0042】
溶媒混合液は、別の極性プロトン性溶媒および/または極性非プロトン性溶媒を含んでもよい。溶媒混合液は、例えばアルカンまたはシクロアルカンなどの無極性溶媒を含んでもよい。アルカンおよびシクロアルカンの例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンが挙げられる。溶媒混合液が無極性溶媒を含む場合、その無極性溶媒は、溶媒混合液の50%未満の量で存在することが典型的な事例であろう。しかしながらこれは常に当てはまるわけではなく、無極性溶媒は、溶媒混合液の90%以下であることが考えられる。
【0043】
溶媒が混合液中に存在せず、微量不純物以外は実質的に純粋な(すなわち、95%超の、例えば99%超の純度を有する)溶媒を使用してもよい。
【0044】
溶媒は、実質的に純粋な(すなわち、95%超の純度を有する)C〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、IPA、n−ブタノール)またはアセトニトリルとしてもよい。特定の好ましい実施形態においては、溶媒は、実質的に純粋な(すなわち、95%超の純度を有する)IPAである。他の好ましい実施形態においては、溶媒は、実質的に純粋な(すなわち、95%超の純度を有する)アセトニトリルである。
【0045】
溶媒は、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、PEG400(ポリエチレングリコール)、NMPおよびDMSOから選択されなくてもよい。溶媒混合液を使用してスラリーを形成させる場合、溶媒混合液は、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、PEG400(ポリエチレングリコール)、NMPおよびDMSOから選択される溶媒を含まなくてもよい。
【0046】
後に続く分析などを容易にするため、1種または複数の同位体標識した溶媒を含むことが適切である状況があってもよい。
【0047】
上記の方法は、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を、ジアステレオ異性体として純粋な形態で提供する方法としてもよい。
【0048】
この場合、上記の方法は、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含む濾液から溶媒を除去して、固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で得るステップをさらに含んでもよい。
【0049】
溶媒を除去するステップは、例えば蒸留または減圧下での蒸発などの蒸発により、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸から、実質的にすべての溶媒を除去して、固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で得ることを含んでもよい。
【0050】
溶媒または溶媒混合液を除去するステップは、
例えば蒸留または減圧下での蒸発などの蒸発により、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含む濾液から、溶媒または溶媒混合液の一部を除去して、固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含む濃縮した濾液を得ること;
任意選択で、上記の濃縮した濾液を撹拌すること;および
上記の濃縮した濾液を濾過して、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で、固体として得ること
を含んでもよい。
【0051】
上記の濃縮した濾液は懸濁した固体を含有する。
【0052】
溶液を濃縮すると、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸は結晶化し、この結晶は多くの場合、第1の濾過ステップで得られる濾液と比較して改善されたジアステレオ異性体純度を有することを、発明者らは意外にも発見した。典型的には、溶液を濃縮後にかき混ぜることにより、より多くの結晶が生成して収率が向上する。(S)−エピマーは(R)−エピマーよりも溶けやすいので、(S)−エピマーがより高い純度で放出されることは意外なことである。
【0053】
上記の除去される溶媒の一部は、第1の濾過ステップで得られる体積の10%〜90%としてもよい。除去される溶媒の一部は、第1の濾過ステップで得られる体積の25%〜75%、例えば40%〜60%であることが好ましい。
【0054】
濃縮するステップおよび撹拌するステップ(もしあれば)は、各ステップの時間の少なくとも一部分の間、同時に行ってもよい。
【0055】
濃縮した濾液を撹拌する場合、7日間以下、例えば5日間以下かき混ぜてもよい。濃縮した濾液は1時間以上、例えば6時間以上、12時間以上または1日間以上撹拌してもよい。
【0056】
溶媒を除去するステップは、再結晶/濾過プロセスにより、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸から、実質的にすべての溶媒を除去して、固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で得ることを含んでもよい。これは、スラリー形成ステップおよび濾過ステップ中にスラリーを高温で維持した場合に特に好ましい。
【0057】
溶媒を除去するステップは、
ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含む濾液を冷却して、固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含む冷却した濾液を得ること;
任意選択で、上記の冷却した濾液を撹拌すること;および
上記の冷却した濾液を濾過して、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態で、固体として得ること
を含んでもよい。
【0058】
上記の冷却した濾液は懸濁した固体を含有する。
【0059】
上記の濾液は、約−10℃〜約45℃、例えば約5℃〜約40℃の温度に冷却してもよい。濾液は約15℃〜約35℃の温度に冷却することが好ましい。濾液は、徐々にまたは段階的に冷却してもよい。例えば、濾液をある温度(例えば、約25℃〜約35℃の温度)に冷却し、その温度で一定の時間(例えば、約1時間〜約2日間)維持し、その後、より低い別の温度(例えば、約15℃〜約25℃の温度)に冷却して、その温度でさらなる一定時間(例えば、約1時間〜約2日間)維持してもよい。
【0060】
上記の方法は、シード材料を濾液に添加するステップを含んでもよい。このステップは、濾液を冷却する前、濾液を冷却するとき、または濾液を冷却した後に行いうる。しかしながら、濾液を冷却した後に添加することが好ましい。シード材料は、典型的には、高いジアステレオ異性体純度(例えば、90%以上または95%以上)のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸の形態を取るであろう。シード材料は固体として添加してもよいが、より簡便には、スラリーまたは懸濁液として添加することができる。スラリーまたは懸濁液は、濾液と同じ溶媒または溶媒混合液を含んでもよい。濾液が溶媒混合液を含む場合、シード材料のスラリーまたは懸濁液は、それらの溶媒のうちの1種中にゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含んでもよい。あるいは、シード材料のスラリーまたは懸濁液は、濾液に存在しない溶媒中にゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を含んでもよい。
【0061】
上記の方法は、さらなる溶媒を濾液に添加するステップを含んでもよい。このステップは、濾液を冷却する前、濾液を冷却するとき、または濾液を冷却した後に行いうる。しかしながら、濾液を冷却した後に添加することが好ましい。さらなる溶媒の添加は、典型的には、未変性の濾液の溶媒または溶媒混合液での溶解性と比較して、変性させた濾液でのゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸の溶解性を下げる役割を果たすであろう。さらなる溶媒は水としてもよい。さらなる溶媒は、無極性溶媒、例えば、アルカンもしくはシクロアルカン、またはそれらの混合液としてもよい。濾液が溶媒混合液を含む場合、さらなる溶媒は、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸の溶解性が混合液中のそれ以外の溶媒での溶解性よりも低い、混合液中の溶媒のうちの1種または複数としてもよい。したがって、濾液が水と混合した極性プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒を含む場合、さらなる溶媒は水としてもよい。
【0062】
冷却した濾液を撹拌する場合、7日間以下、例えば5日間以下かき混ぜてもよい。冷却した濾液は1時間以上、例えば6時間以上、12時間以上または1日間以上撹拌してもよい。
【0063】
冷却するステップおよび撹拌するステップ(もしあれば)は、各ステップの時間の少なくとも一部分の間、同時に行ってもよい。
【0064】
上記の方法は、実質的にジアステレオ異性体として純粋な固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸を洗浄するステップをさらに含んでもよい。このステップは、典型的には、濾液を構成した同じ溶媒または溶媒混合液を用いて行うが、異なる溶媒を使用して固体を洗浄しうること、または濾液が溶媒混合液を含んでいた場合は、混合液中の溶媒のうちの1種のみを使用して固体を洗浄することが考えられる。この洗浄プロセスは典型的には、固体が濾過器上にある間に行う。洗浄ステップは典型的には、冷たい(例えば、約5〜約20℃の温度)溶媒または溶媒混合液を使用して行う。
【0065】
残留溶媒は、例えば真空下で固体を加熱することにより、実質的にジアステレオ異性体として純粋な形態の固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸から除去してもよい。
【0066】
上記の方法は、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(R)−リン酸を、ジアステレオ異性体として純粋な形態で提供する方法としてもよい。
【0067】
この場合、上記の方法は、
第1の濾過より得られた固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸を、第2の溶媒または第2の溶媒混合液中で懸濁させて、第2のスラリーを形成させるステップ;および
上記の第2のスラリーを濾過して、実質的にジアステレオ異性体として純粋な固体のゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(R)−リン酸を得るステップ
をさらに含んでもよい。
【0068】
第2の溶媒または第2の溶媒混合液は、第1の懸濁ステップにおいて使用したものと同じでも異なってもよい。
【0069】
第2の溶媒は、極性プロトン性溶媒および極性非プロトン性溶媒から選択される溶媒としてもよく、または第2の溶媒混合液は、極性プロトン性溶媒および極性非プロトン性溶媒から選択される溶媒を含んでもよい。第2の溶媒はトルエンとしてもよく、または第2の溶媒混合液はトルエンを含んでもよい。第2の溶媒混合液に存在しうる他の溶媒としては、極性プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒、無極性溶媒および水が挙げられる。第2の溶媒は、C〜Cアルコール、アセトニトリル(ACN)、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)およびそれらの混合液から選択される溶媒としてもよく、または第2の溶媒混合液は、C〜Cアルコール、アセトニトリル(ACN)、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)およびそれらの混合液から選択される溶媒を含んでもよい。第2の溶媒は、C〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、iso−プロパノール(IPA)、n−ブタノール)、アセトニトリルおよびそれらの混合液から選択される溶媒としてもよく、または第2の溶媒混合液は、C〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、iso−プロパノール(IPA)、n−ブタノール)、アセトニトリルおよびそれらの混合液から選択される溶媒を含んでもよい。第2の溶媒はC〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、IPA、n−ブタノール)であり、第2の溶媒混合液はそうしたものを含むことがあってもよい。特定の好ましい実施形態においては、第2の溶媒がIPAであるか、または第2の溶媒混合液がIPAを含む。他の好ましい実施形態においては、第2の溶媒がアセトニトリルであるか、または第2の溶媒混合液がアセトニトリルを含む。
【0070】
第2の溶媒はC〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、IPA、n−ブタノール)としてもよい。特定の好ましい実施形態においては、第2の溶媒はIPAである。他の好ましい実施形態においては、第2の溶媒はアセトニトリルである。
【0071】
第2の溶媒混合液は水を含んでもよい。溶媒と水の相対比率は、水と溶媒が混和性であるような相対比率としてもよい。この場合、水は貧溶媒として作用して、第2の溶媒系でのゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の溶解性を下げてもよい。水が存在する場合、水は、第2の溶媒混合液の全体積(すなわち、溶媒の体積と水の体積を足したもの)の20%以下、例えば10%以下または5%以下としてもよい。水は、第2の溶媒混合液の全体積の0.1%以上としてもよい。
【0072】
第2の溶媒混合液は、別の極性プロトン性溶媒および/または極性非プロトン性溶媒を含んでもよい。第2の溶媒混合液は、例えばアルカンまたはシクロアルカンなどの無極性溶媒を含んでもよい。アルカンおよびシクロアルカンの例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンが挙げられる。第2の溶媒混合液が無極性溶媒を含む場合、その無極性溶媒は、第2の溶媒混合液の50%未満の量で存在することが典型的な事例であろう。しかしながらこれは常に当てはまるわけではなく、無極性溶媒は、第2の溶媒混合液の90%以下であることが考えられる。
【0073】
第2の溶媒が混合液中に存在せず、微量不純物以外は実質的に純粋な(すなわち、95%超の、例えば99%超の純度を有する)第2の溶媒を使用してもよい。
【0074】
第2の溶媒は、実質的に純粋な(すなわち、95%超の純度を有する)C〜Cアルコール(例えば、n−プロパノール、IPA、n−ブタノール)またはアセトニトリルとしてもよい。特定の好ましい実施形態においては、第2の溶媒は、実質的に純粋な(すなわち、95%超の純度を有する)IPAである。他の好ましい実施形態においては、第2の溶媒は、実質的に純粋な(すなわち、95%超の純度を有する)アセトニトリルである。
【0075】
本発明はまた、第1の態様の方法によって得られうる(例えば、得られる)ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(R)−リン酸および/またはゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸に関する。
【0076】
本発明はまた、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸の結晶形であって、I形である、結晶形に関する。上記の結晶形(すなわち1形)は、Kα2/Kα1比が0.5のCu放射線を使用して測定した場合に、5.0、6.7、8.0、11.3、20.2および21.4から選択される2θで少なくとも2つのピーク(例えば、少なくとも4つのピーク)を含むXRPDパターンを上記の形態が有することを特徴としてもよい。上記の結晶形は、Kα2/Kα1比が0.5のCu放射線を使用して測定した場合に、5.0、6.7、8.0、11.3、20.2および21.4の2θでピークを含むXRPDパターンを有してもよい。上記の結晶形は、実質的に図1に示されるXRPDパターンを有してもよい。上記の結晶形は、ヌジョール中の懸濁液として測定した場合に、実質的に図2に示されるFTIRパターンを有してもよい。
【0077】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら、以下でさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸結晶形IのXRPDスペクトルである。
図2】ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸結晶形IのFTIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明のプロセスにおいて使用され、かつ/または得られるゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸は、塩の形態で得られ、保管され、かつ/または反応してもよい。塩は薬学的に許容できる塩としてもよいが、これは必ずしも当てはまるわけではない。本発明のプロセスの実施において薬学的にあまり好ましくはない塩を使用してもよく、その塩を、ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸を望ましい形態で得た後に、遊離塩基または薬学的に許容できる塩に変換してもよい。
【0080】
好適な薬学的に許容できる塩としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、スルファミン酸および臭化水素酸などの薬学的に許容できる無機酸の塩、または、酢酸、プロピオン酸、酪酸、酒石酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、粘液酸、グルコン酸、安息香酸、コハク酸、シュウ酸、フェニル酢酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、サリチル酸、スルファニル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、エデト酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パントテン酸、タンニン酸、アスコルビン酸および吉草酸などの薬学的に許容できる有機酸の塩が挙げられるが、これらに限定されない。好適な塩基塩は、非毒性の塩を形成する塩基から形成されるものである。例としては、アルミニウム塩、アルギニン塩、ベンザチン塩、カルシウム塩、コリン塩、ジエチルアミン塩、ジオラミン塩、グリシン塩、リジン塩、マグネシウム塩、メグルミン塩、オラミン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、トロメタミン塩および亜鉛塩が挙げられる。酸および塩基のヘミ塩、例えばヘミ硫酸塩およびヘミカルシウム塩なども形成してよい。
【0081】
本発明の方法から得られるゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸は、単結晶形で、もしくは結晶形の混合物で存在してもよく、または非晶質であってもよい。
【0082】
また本発明の方法を使用して、すべて薬学的に許容できる同位体で標識した形態の化合物3または4を提供することができる。この場合、同じ原子数を有するが、通常、天然で見出される主な同位体の原子質量または質量数とは異なる原子質量または質量数を有する原子によって、1個または複数個の原子が置き換えられている。
【0083】
本発明において使用される化合物、および本発明によって得られる化合物に含ませるのに好適な同位体の例としては、HおよびHなどの水素の同位体、11C、13Cおよび14Cなどの炭素の同位体、36Clなどの塩素の同位体、18Fなどのフッ素の同位体、123Iおよび125Iなどのヨウ素の同位体、13Nおよび15Nなどの窒素の同位体、15O、17Oおよび18Oなどの酸素の同位体、32Pなどのリンの同位体、35Sなどの硫黄の同位体が挙げられる。
【0084】
例えば放射性同位体を組み込んだ化合物などの、特定の同位体標識した化合物は、薬剤および/または基質の組織分布調査において有用である。この目的では、放射性同位体のトリチウム、すなわちH、および炭素−14、すなわち14Cは、それらの組み込みやすさと迅速な検出手段とを考慮すると特に有用である。
【0085】
重水素、すなわちHなどのより重い同位体と置き換えることにより、より大きな代謝的安定性からもたらされる特定の治療上の利点、例えば生体内半減期の増加または必要用量の減少などが得られることがあり、ゆえにその置き換えは、一部の状況において好ましいことがある。
【0086】
11C、18F、15Oおよび13Nなどの陽電子放出同位体との置き換えは、基質の受容体占有率を調べるための陽電子放出断層撮影法(PET)調査に有用でありうる。
【0087】
同位体標識した化合物は概して、当業者に公知の従来方法によって調製することができ、または以前に使用した非標識試薬の代わりに適切な同位体標識試薬を使用して、説明したプロセスと類似のプロセスによって調製することができる。
【0088】
測定条件(装置、試料調製または使用する機械など)に応じて、1つまたは複数の測定誤差を有するX線粉末回折パターンが得られうることは、当技術分野において公知である。特に、X線粉末回折パターンにおける強度は、測定条件および試料調製に応じて変動することがあるということが一般に公知である。例えば、ピークの相対強度は、試験中の試料の配向、ならびに使用する計器の種類および設定次第で変化することがあるということは、X線粉末回折の技術分野の当業者は理解するであろう。反射の位置は、回折計において試料が置かれている正確な高さ、および回折計のゼロ点較正によって影響されうるということも、当業者は理解するであろう。試料表面の平坦性も、小さな影響を有することがある。ゆえに、本明細書において示した回折パターンのデータは絶対的なものとして解釈されるべきものではなく、本明細書において開示する粉末回折パターンと実質的に同一の粉末回折パターンをもたらす任意の結晶形は、本開示の範囲内であるということを当業者は認識するであろう(さらなる情報は、Jenkins, R & Snyder, R.L. 'Introduction to X-Ray Powder Diffractometry' John Wiley & Sons, 1996を参照のこと)。
【0089】
本明細書の説明および特許請求の範囲の全体にわたって、「〜を含む(comprise)」および「〜を含有する(contain)」という言葉、ならびにそれらの変形物は、「〜を含むがそれらに限定されない」ことを意味し、それらは他の部分、添加物、成分、整数またはステップを除外するよう意図するものではない(かつ、除外しない)。本明細書の説明および特許請求の範囲の全体にわたって、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞を使用している場合は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数だけでなく複数も意図しているとして本明細書を理解するべきである。
【0090】
本発明の特定の態様、実施形態または例に関して記載した特徴、整数、性質、化合物、化学的部分または化学基は、不適合である場合を除き、本明細書において記載した任意の他の態様、実施形態または例に適用可能であるものとして理解すべきである。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面のいずれも含む)に開示した特徴のすべて、ならびに/または同様に開示した任意の方法もしくはプロセスのステップのすべてを、このような特徴および/またはステップの少なくとも一部が互いに排他的である組合せを除き、任意の組合せで組み合わせてもよい。本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面のいずれも含む)に開示した特徴のうちのあらゆる新規の1つ、もしくはあらゆる新規の組合せに及び、または同様に開示した任意の方法もしくはプロセスのステップのうちのあらゆる新規の1つ、もしくはあらゆる新規の組合せに及ぶ。
【0091】
読者の関心は、本明細書と同時にまたは本明細書の以前に提出されていて、本明細書と共に公衆の閲覧に付されている、本明細書に関連するすべての論文および書類に向けられており、そのような論文および書類のすべての内容は、参照により本明細書に援用される。
【0092】
以下の略語を本明細書において使用する。
ACN − アセトニトリル
DMF − N,N−ジメチルホルムアミド
DMSO − ジメチルスルホキシド
IPA − イソプロピルアルコール
MEK − メチルエチルケトン
MIBK − メチルiso−ブチルケトン
NMP − N−メチルピロリジノン
PEG − ポリエチレングリコール
TBDMS − tert−ブチルジメチルシリル
TBME − tert−ブチルメチルエーテル
TFA − トリフルオロ酢酸
FDA − 食品医薬品局
【0093】
ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸の個々の異性体は、以下の特性決定法を使用して特性を決定することができる。プロトン(H)、炭素(13C)、リン(31P)およびフッ素(19F)のNMRスペクトルは、Bruker Avance500分光計にて、25℃で記録した。スペクトルは重水素化溶媒のピークに合わせて自動較正し、13C NMRおよび31P NMRはすべて、プロトンのデカップリングを行った。最終化合物の純度は、HPLC分析によって95%超であることが確かめられた。HPLC分析では、分析カラムとしてVarian Polaris C18−A(10μM)を使用し、35分間で100/0から0/100までのHO/MeOHの勾配溶離を用いた。HPLC分析は、Varian Prostar(LC Workstation−Varian prostar335 LC検出器)によって行った。
【0094】
2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−D−シチジン−5’−O−[フェニル(ベンジルオキシ−L−アラニニル)]−(S)−リン酸 3
(ES+)m/z、実測値:(M+Na)603.14。C2527NaP 必要値:(M)580.47。
31P NMR (202 MHz, MeOD): δP3.66
1H NMR (500 MHz, MeOD): δH7.58 (d, J = 7.5 Hz, 1H, H-6), 7.38 - 7.32 (m, 7H, ArH), 7.26 - 7.20 (m, 3H, ArH), 6.24 (t, J = 7.5 Hz, 1 H, H-1'), 5.84 (d, J = 7.5 Hz, 1 H, H-5), 5.20 (AB系, JAB = 12.0 Hz, 2H, OCH2Ph), 4.46 - 4.43 (m, 1H, H-5'), 4.36 - 4.31 (m, 1H, H-5'), 4.25 - 4.19 (m, 1 H, H-3'), 4.07 - 4.00 (m, 2H, H-4', CHCH3), 1.38 (d, J= 7.2 Hz, 3H, CHCH3).
19F NMR (470 MHz, MeOD): δF- 118.0 (d, J = 241 Hz, F), - 120.24 (広幅なd, J = 241 Hz, F).
13C NMR (125 MHz, MeOD): δC174.61 (d, 3JC-P = 5.0 Hz, C=O, エステル), 167.63 (C-NH2), 157.74 (C=Oベース), 152.10 (d, 2JC-P = 7.0 Hz, C-Ar), 142.40 (CH-ベース), 137.22 (C-Ar), 130.90, 129.63, 129.39, 129.32, 126.32 (CH-Ar), 124.51 (d, 1JC-F = 257 Hz, CF2), 121.47, 121.43 (CH-Ar), 96.67 (CH-ベース), 85.92 (広幅シグナル, C-1'), 80.31 (C-4'), 71.27 (見かけ上t, 2JC-F= 23.7 Hz, C-3'), 68.03 (OCH2Ph), 65.73 (d, 2JC-P= 5.30 Hz, C-5'), 51.66 (CHCH3), 20.42 (d, 3JC-P= 6.25 Hz, CHCH3).
35分間で100/0から0/100までのHO/MeOHを用いて溶離した逆相HPLCでは、t=22.53分でジアステレオ異性体の1つのピークが示された。
【0095】
2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−D−シチジン−5’−O−[フェニル(ベンジルオキシ−L−アラニニル)]−(R)−リン酸 4。
(ES+)m/z、実測値:(M+Na)603.14。C2527NaP 必要値:(M)580.47。
31P NMR (202 MHz, MeOD): δP3.83
1H NMR (500 MHz, MeOD): δH7.56 (d, J= 7.5 Hz, 1H, H-6), 7.38-7.31 (m, 7H, ArH), 7.23-7.19 (m, 3H, ArH), 6.26 (t, J= 7.5 Hz, 1H, H-1'), 5.88 (d, J= 7.5 Hz, 1H, H-5), 5.20 (s, 2H, OCH2Ph), 4.49-4.46 (m, 1H, H-5'), 4.38-4.34 (m, 1H, H-5'), 4.23-4.17 (m, 1H, H-3'), 4.07-4.01 (m, 2H, H-4', CHCH3), 1.38 (d, J= 7.2 Hz, 3H, CHCH3).
19F NMR (470 MHz, MeOD): δF- 118.3 (d, J =241 Hz, F), - 120.38 (広幅なd, J = 241 Hz, F).
13C NMR (125 MHz, MeOD): δC174.65 (d, 3JC-P = 5.0 Hz, C=O, エステル), 167.65 (C-NH2), 157.75 (C=Oベース), 152.10 (d, 2JC-P = 7.0 Hz, C-Ar), 142.28 (CH-ベース), 137.50 (C-Ar), 130.86, 129.63, 129.40, 129.32, 126.31 (CH-Ar), 124.50 (d, 1JC-F = 257 Hz, CF2), 121.44, 121.40 (CH-Ar), 96.67 (CH-ベース), 85.90 (広幅シグナル, C-1'), 80.27 (C-4'), 71.30 (見かけ上t, 2JC-F= 23.7 Hz, C-3'), 68.02 (OCH2Ph), 65.50 (C-5'), 51.83 (CHCH3), 20.22 (d, 3JC-P = 7.5 Hz, CHCH3).
35分間で100/0から0/100までのHO/MeOHを用いて溶離した逆相HPLCでは、t=21.87分でジアステレオ異性体の1つのピークが示された。
【実施例1】
【0096】
溶媒のスクリーニング
まず、17種の異なる溶媒(表1を参照のこと)を用いて溶媒スクリーニングを行った。NUC−1031のジアステレオ異性体混合物(33:67 (R):(S))約25gを、列挙した溶媒(1mL)中で懸濁させ、一晩かき混ぜた。溶解が生じた場合は固体を追加した。懸濁液を沈降させ、溶液中の2つのジアステレオ異性体の相対量をHPLCによって決定した。
【0097】
【表1】
【0098】
このように、いくつかの溶媒(アセトン、EtOH、IPA、MEK、CAN、nPrOH、トルエン、nBuOH)では、溶液中で(S)−エピマーの高いジアステレオ異性体濃縮が示された。スクリーニングにより、溶液中で(S)−ジアステレオ異性体の優れた(94%超)濃縮を生じさせる3種の溶媒、イソプロパノール、アセトニトリルおよびn−ブタノールが特定された。
【実施例2】
【0099】
結晶化の最適化
アセトニトリルおよびイソプロパノールによってもたらされる濃縮を、ある範囲の濃度および温度(表2を参照のこと)で評価した。異なる体積での単純なスラリー(20℃)、およびスラリー/80℃での再結晶、の2種の実験を行った。実験用に、ジアステレオ異性体混合物(33:67 (R):(S))200mgを、以下に示す溶媒および容量で懸濁させ、任意選択で加熱還流して20℃に冷却した。懸濁液を一晩かき混ぜ、分離した。溶液中と固体ケーキ中の両方に存在する2つのエピマーの相対比率をHPLCによって決定した。
【0100】
【表2】
【0101】
各試料で処理を繰り返したが、これによってさらなる濃縮はもたらされなかった。これにより、第1の態様の記述において説明したように、単純にジアステレオ異性体混合物を溶解させることによって、優れたジアステレオ異性体濃縮、特に(S)−エピマーのジアステレオ異性体濃縮がもたらされうることが実証されている。この効果は、NUC−1031の質量に対する溶媒の濃度によって実質的に影響されず、また温度によって実質的に影響されない。したがって、このプロセスにより、周囲温度での効率的な分離技術が提供される。
【実施例3】
【0102】
スケールの拡大
(R)および(S)エピマーのジアステレオ異性体混合物(33:67 (R):(S))2×25gをそれぞれ、アセトニトリル75volに25℃で溶解させた。この懸濁液は、濾過中、合わせて一緒にした。第1の濾過によって、溶液A2と固体A1とを得た。フィルターケーキを再度スラリーにし、得られた懸濁液を濾過して、第2の溶液B2と、第2の固体ケーキB1とを得た(表3を参照のこと)。
【0103】
【表3】
【実施例4】
【0104】
(S)−エピマーのジアステレオ異性体純度のさらなる濃縮
上記のスケールの拡大からの、アセトニトリル(約2.6L)中の2つの溶液A2およびB2の残りを合わせて一緒にし、始めの体積の約50%まで濃縮して、3日間かき混ぜた。形成した懸濁液を濾過し、これによりジアステレオ異性体として非常に高く濃縮された(S)−エピマーの固体試料が濾過器上にもたらされた(表4)。
【0105】
【表4】
【0106】
このように、本発明のプロセスを用いることにより、(S)−エピマーは、大きなスケールにて優れたジアステレオ異性体純度で得ることができる。このプロセスは、付随する困難があっても、クロマトグラフィーのステップの必要性を回避するので、上記の結果はより大きなスケールでの製造についての重要な利点を示している。
【実施例5】
【0107】
(R)−エピマーのジアステレオ異性体純度のさらなる濃縮
(R)−エピマーの高いジアステレオ異性体濃縮を得るために、固体B1の試料を溶媒混合液中(表5に示す溶媒混合液1ml中に固体50mg)でスラリーにし、濾過した。表5に示すように、得られた固体では(R)−エピマーが濃縮されており、貧溶媒として水をアセトニトリルに添加した場合に一番良い結果が得られた。
【0108】
【表5】
【0109】
アセトニトリル/水混合液からの収率は低く、そのため、溶媒混合液中の水の量をより少なくして実験を繰り返した。この結果では、回収率の改善と、いくらかのジアステレオ異性体濃縮が示された(表6)。
【0110】
【表6】
【0111】
(R)−エピマー(固体B2)を主に含有する材料を、20体積のACN/水 10/1中で18時間、再度スラリーにし、得られた固体をアセトニトリルで洗浄した。得られた固体は、優れたジアステレオ異性体純度で(R)−エピマーを含有した(表7)。
【0112】
【表7】
【0113】
このように、本発明のプロセスを用いることにより、(R)−エピマーは、大きなスケールにて優れたジアステレオ異性体純度で得ることができる。やはり、このプロセスは、付随する困難があっても、クロマトグラフィーのステップの必要性を回避するので、上記の結果はより大きなスケールでの製造についての重要な利点を示している。
【実施例6】
【0114】
IPAを使用した、(S)−エピマーを単離するさらに最適化したプロセス
2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−D−シチジン−5’−O−[フェニル(ベンゾキシ−L−アラニニル)]ホスフェート(120g、4:6 (R):(S)、化合物を調製したプロセスから生じる未知不純物5質量%も含有した)をIPA(600mL)に添加して、スラリーを形成させた。このスラリーを50〜54℃に加熱し、その温度で2時間撹拌した。次にこのスラリーを温めながら濾過した。ケーキを濾過器上に載せたまま、さらなる一部分量の暖かい(50〜52℃)IPA(60mL)で洗浄した。濾液をゆっくり(約2時間にわたって)26〜30℃に約2時間冷却し、シード材料(600mgの95%ジアステレオ異性体純度のs−異性体をIPA12ml中のスラリーとして)を加えた。この混合物を26〜30℃で18時間かき混ぜた。その後、この混合物を18〜22℃に冷却し、さらに8時間かき混ぜた。懸濁液を濾過し、ケーキを冷却した(約15℃)IPA(120mL)で洗浄した。固体生成物を約42℃の真空下で乾燥して、(S)−エピマーを得た(ゲムシタビン−[フェニル−ベンゾキシ−L−アラニニル)]−リン酸出発材料の全量に基づき収率25%、最終ジアステレオ異性体純度:96〜98%)。
【実施例7】
【0115】
NUC−1031の(S)−エピマーの多形I
実施例6で説明したプロセスにより、結晶形がI形のNUC−1031の(S)−エピマーが得られる。I形は、(S)−エピマーの溶媒和していない遊離塩基の多形である。この形態は、クロマトグラフィー法によるエピマーの分離に従って単離した場合に(S)−エピマーが取るとして観測された形態とは異なり、また、2つの異性体の混合物の一部分として得られた場合に(S)−エピマーが取るとして観測された形態とも異なる。多形Iは、熱力学的に最も安定な(S)−異性体の多形形態であることが見出された。
【0116】
X線粉末回折(XRPD)
NUC−1031の(S)−エピマーの多形Iの試料を、3から35°2θの間でスキャンした。材料は穏やかに押圧し、カプトンフィルム上に、充分に載せた。次に試料を、透過モードで稼働するPANalytical X’Pert Pro回折計に入れ、以下の実験条件を使用して分析した。
生データ元 XRD測定(*.XRDML)
開始位置[°2θ] 3.0066
終了位置[°2θ] 34.9866
ステップサイズ[°2θ] 0.0130
スキャンステップ時間[S] 67.9377
スキャンタイプ 連続
PSDモード スキャン法
PSD長[°2θ] 3.35
オフセット[°2θ] 0.0000
発散スリットタイプ 固定
発散スリットサイズ[°] 1.0000
試料長[mm] 10.00
測定温度[℃] 25.00
陽極材料 Cu
α1[Å] 1.54060
α2[Å] 1.54443
α1/Kα2比 0.50000
発生装置設定 40mA、40kV
ゴニオメーター半径[mm]:240.00
焦点−発散スリット距離[mm] 91.00
入射ビームモノクロメーター なし
回転 なし
得られたスペクトルを図1に示す。観測されたピークは以下のとおりであった。
【0117】
【表8】
【0118】
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
NUC−1031の(S)−エピマーの多形Iの赤外分光測定を、Bruker ALPHA P分光計で行った。試料は、ヌジョール(パラフィン油)中の懸濁液として測定した。ヌジョールは、2950〜2800cm−1、1465〜1450cm−1および1380〜1370cm−1に主要なピークを有する。したがって、記録されたスペクトルでは、材料の吸収ピークに加えてこれらの吸収が示された。懸濁液を分光計のプレートの中心に置き、以下のパラメータを使用してスペクトルを得た。
分解能:4cm−1
バックグラウンドスキャン回数:16スキャン
試料スキャン回数:16スキャン
データ収集:4000〜400cm−1
得られるスペクトル:透過率
ソフトウェア:OPUSバージョン6
得られたスペクトルを図2に示す。観測されたピークは以下のとおりであった。
【0119】
【表9】
図1
図2