特許第6893189号(P6893189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893189
(24)【登録日】2021年6月2日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】磁性粉検査装置及び磁性粉検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20210614BHJP
   F16N 29/00 20060101ALI20210614BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20210614BHJP
   G01R 33/09 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   G01N27/72
   F16N29/00 A
   G01R33/02 B
   G01R33/09
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-47343(P2018-47343)
(22)【出願日】2018年3月14日
(65)【公開番号】特開2019-158688(P2019-158688A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 崇子
(72)【発明者】
【氏名】神鳥 明彦
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−122112(JP,A)
【文献】 特開平09−133652(JP,A)
【文献】 特開2003−130786(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0269036(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/90
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の潤滑剤として用いられる半固体状の試料を引き延ばして前記試料の厚みを均一にする伸展機構と、
前記試料に混入した磁性粉に磁場を印加する励磁機構と、
前記磁性粉から発生する磁気信号を検出する磁気センサと、
前記磁気信号を基に前記磁性粉の量を算出する信号解析器と、
前記信号解析器で算出された前記磁性粉の量を表示するデータ表示部と、
を備えることを特徴とする磁性粉検査装置。
【請求項2】
前記信号解析器は、既知量の磁性粉を混入した既知試料に対して、
前記磁気センサで検出された前記既知試料の磁気信号及び磁性粉の量から検量線を作成し、前記磁気センサにより検出された、磁性粉の量が不明である未知試料からの磁気信号及び前記検量線に基づいて、前記未知試料に混入した磁性粉の量を算出することを特徴とする、請求項1に記載の磁性粉検査装置。
【請求項3】
前記信号解析器は、
前記試料に含まれる磁性粉の量から軸受けの状態を判定することを特徴とする、請求項1に記載の磁性粉検査装置。
【請求項4】
前記データ表示部は、
前記信号解析器で算出される前記磁性粉の量に基づいて、前記検査対象物としての軸受けの状態を表示することを特徴とする、請求項1に記載の磁性粉検査装置。
【請求項5】
前記伸展機構は、
ローラーの回転により前記試料を引き伸ばすことを特徴とする、請求項1に記載の磁性粉検査装置。
【請求項6】
前記伸展機構は、
所定の厚みのスペーサーを挟んだ2枚の板により前記試料を引き伸ばすことを特徴とする、請求項1に記載の磁性粉検査装置。
【請求項7】
前記励磁機構は、
前記磁気センサのバイアス磁石から発生する直流磁場を形成することを特徴とする、請求項1に記載の磁性粉検査装置。
【請求項8】
前記励磁機構は、
周波数が1Hzから10MHzの交流磁場を形成することを特徴とする、請求項1に記載の磁性粉検査装置。
【請求項9】
伸展機構を用いて、検査対象物の潤滑剤として用いられる半固体状の試料を引き延ばして前記試料の厚みを均一にする伸展ステップと、
励磁機構を用いて、前記試料に混入した磁性粉に磁場を印加する励磁ステップと、
磁気センサを用いて、前記磁性粉から発生する磁気信号を検出する磁気検出ステップと、
信号解析器を用いて、前記磁気信号を基に前記磁性粉の量を算出する信号解析ステップと、
前記信号解析器で算出された前記磁性粉の量をデータ表示部に表示するデータ表示ステップと、
を有することを特徴とする磁性粉検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉検査装置及び磁性粉検査方法に関し、特に、磨耗等によって軸受けのグリスに混入した磁性粉の量を検出することにより軸受けの劣化損傷の度合いを間接的に検査する技術に関する磁性粉検査装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
軸受けは動力機器のモータや車軸などに搭載されており、動作対象物の荷重を受けながら軸を滑らかに回転させ、摩擦によるエネルギー損失を減少させる効果がある。軸受けの回転性能を向上させる目的には潤滑剤が多く使われており、液体状の油性剤と半固体状の潤滑剤(以下「グリス」という)が汎用されている。軸受けが回転すると金属同士が擦れ合うことによって摩擦が生じるが、グリスの油膜で金属面を被覆し、軸受けの回転をスムーズにさせることが可能である。しかしながら、グリスによって潤滑性能を保っていても、長期間の回転動作や不適切な制御管理によって軸受けに損傷が生じることがある。代表的な損傷には、軸受けの軌道面や転勤体の表面がうろこ上に剥離するフレーキング現象が知られている。フレーキング現象が生じた軸受けでは潤滑剤の中に磁性を持った磨耗粉が混入するため、この磁性粉の量を測定することで、軸受けのフレーキングや損傷の度合いを間接的に評価することができる。
【0003】
軸受けの状態を間接的に評価する技術として、例えば、特許文献1においては、直列に接続された一対の励磁コイルを、各励磁コイルによる磁界が対向するように配置するとともに、当該一対の励磁コイルによる合成磁界が零となる位置に検出コイルと鉄芯を配置して、一方の励磁コイルに磁性粉の混入した試料を挿脱自在に構成し、検出コイルに誘起される誘導電圧を検出する計測手段が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3377348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した計測手段では、直列に接続した一対の励磁コイル等の中心部にグリス試料を挿入する必要があるため、細径管状の容器にグリス試料を収容する必要がある。一般的にグリス試料は、半固体状で流動性が低いため、細径管状の容器に気泡を含まないように収容することは困難である。一方、この容器の径を太くすると、コイル径を太くする必要があり、検査装置の検出部が大型化するという問題がある。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、検査対象物の潤滑剤として用いられる高い粘性の試料に混入しうる磁性粉から発生する磁場を測定して間接的に検査対象物の状態を検査可能とする磁性粉検査装置及び磁性粉検査方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、本発明においては、検査対象物の潤滑剤として用いられる半固体状の試料を引き延ばして前記試料の厚みを均一にする伸展機構と、前記試料に混入した磁性粉に磁場を印加する励磁機構と、前記磁性粉から発生する磁気信号を検出する磁気センサと、前記磁気信号を基に前記磁性粉の量を算出する信号解析器と、前記信号解析器で算出された前記磁性粉の量を表示するデータ表示部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明においては、伸展機構を用いて、検査対象物の潤滑剤として用いられる半固体状の試料を引き延ばして前記試料の厚みを均一にする伸展ステップと、励磁機構を用いて、前記試料に混入した磁性粉に磁場を印加する励磁ステップと、磁気センサを用いて、前記磁性粉から発生する磁気信号を検出する磁気検出ステップと、信号解析器を用いて、前記磁気信号を基に前記磁性粉の量を算出する信号解析ステップと、前記信号解析器で算出された前記磁性粉の量をデータ表示部に表示するデータ表示ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検査対象物の潤滑剤として用いられる高い粘性の試料を収容するための容器の形状にかかわらず、当該試料に混入しうる磁性粉から発生する磁場を測定して間接的に検査対象物の状態を検査可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る磁性粉検査装置の構成例を示す斜視図である。
図2】本実施の形態に係る磁性粉検査装置に関して伸展機構の一例としてのローラーの高さの調節方法の一例を示す図である。
図3図1に示す磁性粉検査装置の構成例を示す回路図である。
図4】本実施の形態に係る磁性粉検査方法の一例を示すフローチャートである。
図5】本実施の形態に係る磁性粉検査方法おいて磁気センサの出力信号波形、及び、磁気センサの出力信号と磁性粉重量との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面について、本発明の一実施の形態について詳述する。
【0012】
(1)本実施の形態によるシステムの構成
図1は、本実施の形態に係る磁性粉検査装置1の構成例を示す。図示の例では、この磁性粉検査装置1に、検査対象物の一例としての軸受けとともに用いられる試料の一例としてのグリス試料2が設置された状態の一例を示している。磁性粉検査装置1は、高さ調整ネジ5、調整板20、ローラー4及び試料台3を具備する伸展機構を備え、さらに磁気センサ6、磁石7、電源回路部8及びデータ表示部9を備えている。
【0013】
試料台3は、例えば非磁性素材で構成され、半固体状の試料の一例としてのグリス試料2が配置されている。なお、ここでいう半固体状とは、完全な液体や固体でないものの一定の高い粘性を有する物体であり、所定の容器に収容しようとすると、その粘度に応じて容器に試料とともに気泡が混入してしまう態様の物質を表している。さらにグリス試料2は、試料台3に配置された状態で、図示しない送り出し機構によって送り出される。
【0014】
グリス試料2は、柔軟性のある非磁性の素材、例えばプラスチックバッグ素材で構成された容器に収容されることで、この容器外部から与えられる圧力により可塑性を示す状態である。
【0015】
高さ調整ネジ5は、グリス試料2の厚みを一定化するために試料台3からのローラー4の高さを調節するためのネジである。ローラー4は、その外周面がグリス試料2の上面に接触しながら、回転して移動することにより、試料台3の表面の垂直方向でのグリス試料2の厚みを均一化する。
【0016】
グリス試料2に混入しうる磁性粉は、磁石7によって磁化される。発生した磁場は、磁気センサ6によって検知される。電源回路部8は、磁気センサ6及びデータ表示部9への電源供給と動作制御を行う。
【0017】
図2は、グリス試料2の厚みを調整する伸展機構21の構成例を示す図である。図2(A)は、調整板20の形状の一例を示し、図2(B)は、調整板20とローラー4を設置した構成例を示す図を示している。なお、図2(A)では、上側が調整板20の上面図であり、下側が調整板20の側面図である(図2(B)に示す調整板20の向きに相当)。0.5mmごとに厚さが異なる調整板20(t=0.5から30mm)には、その4つの側面のうち1つの側面に略矩形の切り欠き部が形成されている。この切り欠き部には、高さ調整ネジ5のネジ部分が挿入される。
【0018】
ローラー4の高さを調節する方法としては、図2(B)に示す調整板20をローラー4の上部に設置し、高さ調整ネジ5で調整板20の位置を固定する。ローラー4は、調整板20の厚さに応じて高さ調整ネジ5を用いて上下方向(試料台3の表面の垂直方向)に高さが調整され、グリス試料2の厚みを所望の数値に調整可能となっている。
【0019】
ローラー4の動力源には、例えば、手動による回転、モータ制御による自動回転を採用することができる。
【0020】
図3は、図1に示す磁性粉検査装置1の回路構成の一例を示すブロック図である。磁気粉検査装置1は、磁気センサ6、電源回路部8、磁気センサアンプ11及びフィルタ回路12を備えている。
【0021】
電源回路部8は、電源10、A/D変換器13、信号収集器14、信号解析器15及びデータ表示部9を備えている。
【0022】
磁気センサ6は、グリス試料2に混入した磁性粉が磁石7によって磁化されることでこの磁性粉から発生する磁場の大きさを電気信号として出力するセンサである。磁気センサ6は、例えば、TMR(Tonnel Magneto Resistive)センサ、AMR(Anisotropic Magneto Resistive)センサ、GMR(Giant Magneto Resistive effect)センサ、または、検出コイルである。
【0023】
磁気センサ6は、1個でも良いが、例えば2個以上とし、グリス試料2における複数の箇所に関して出力信号を出力するようにしても良い。このようにすると、これら複数の出力信号を平均することで、グリス試料2に含まれる磁性粉の量をさらに高い精度で検出することができるようになる。
【0024】
磁石7は、グリス試料2に混入した磁性粉を磁化させるために用いられる。この磁石7としては、例えば、磁気センサ6を線形領域で動作させるものであって直流磁場を発生するバイアス磁石を用いることができる。なお、励磁機構としての磁石7は、その代わりに、例えば周波数が1Hzから10MHzの交流磁場を形成する励磁コイルで代用することもできる。
【0025】
磁気センサアンプ11は、磁気センサ6からの出力信号を増幅する。フィルタ回路12は、磁気センサアンプ11で増幅された出力信号のうち、所望の周波数領域を通過させてのアナログ信号を出力する回路である。
【0026】
A/D変換器13は、フィルタ回路12から出力したアナログ信号をデジタル信号に変換して信号収集器14にデジタル信号を出力する。信号収集器14は、例えばメモリやストレージであり、A/D変換器13が出力したデジタル信号を格納する。
【0027】
信号解析器15は、例えばCPU(Central Processing Unit)を備え、CPUが信号解析プログラムを実行して信号解析を実施する。データ表示部9は、例えば、入出力インタフェース、液晶ディスプレイ、入力装置(ボタン、エンコーダ)を備え、信号解析器15で解析された結果を表示する。
【0028】
以下、本実施の形態に係る磁性粉検査装置1の動作例としての磁性粉検査方法について説明する。まず、一例として、図示しない軸受けから採取した半固体状の潤滑剤としてのグリス試料2を試料台3に設置し、前述したように予め高さを調整したローラー4の直下にグリス試料2を配して、ローラー4の回転運動により、グリス試料2を引き伸ばすようにしてその厚さを均一化する。
【0029】
次に、試料台3を磁石7及び磁気センサ6に近接する位置に配置し、試料台3とともにグリス試料2を移動させることにより、磁石7及び磁気センサ6の上面を通過させる。このとき、磁石7によるグリス試料2の磁化と、磁気センサ6による磁場の検知が同時に行われる。
【0030】
磁気センサ6の出力は、磁気センサアンプ11で増幅され、フィルタ回路12により、ノイズ信号とみなされる周波数成分を除去した後に、所望の信号成分として出力される。ここで、ノイズ信号とみなされる周波数成分とは、例えば、電源または外部環境磁場から混入する信号の商用周波数成分、または、1〜数Hzの低周波数成分である。フィルタ回路12の出力信号は、A/D変換器13を経て信号収集器14に格納される。
【0031】
信号収集器14から出力された信号は、信号解析器15において演算処理が実行され磁気センサ6により測定された信号と磁性粉の濃度との関係が解析される。これにより、グリス試料2の磁性粉の濃度が算出される。
【0032】
さらに信号解析器15は、このように算出した磁性粉の濃度に基づいて軸受けの劣化状態を判定する。ここで、軸受けは、グリスによって潤滑性能を保っていても、長期間の回転動作や不適切な制御管理によってフレーキング現象により損傷することがある。
【0033】
データ表示部9は、信号解析器15で算出された磁性粉の濃度を表示する。フレーキングが生じた軸受けでは潤滑剤の中に磁性を持った磨耗粉が混入するため、この磁性粉の量を測定することで、軸受けのフレーキングや損傷の度合いを間接的に評価することができる。これにより、データ表示部9は、磁性粉の濃度に加えて、さらに軸受けの劣化状態の判定結果を表示する。
【0034】
図4は、本実施の形態において信号検出から判定結果の表示までの手順の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、予め磁性粉の濃度が既知であるグリス試料2を測定してその測定結果を表す信号と、既知の濃度から検量線とを作成する。
【0035】
このように検量線を作成した後、磁性粉の濃度が未知のグリス試料2を測定してその測定結果を表す信号と、予め作成した検量線とを対比し、濃度が未知のグリス試料2の磁性粉の濃度を算出する。
【0036】
図4においてステップS30〜S37は、既知濃度の磁性粉を含んだグリス試料2に係る厚みの均一化処理と、信号測定処理と、検量線の作成処理とを示している。
【0037】
始めに、既知の濃度の磁性粉を混入したグリス試料2を試料台3に設置する(ステップS30)。次に、高さ調整ネジ5でローラー4の高さを調整し、グリス試料2を所望の厚さとなるように、厚みに適合した調整板20を設置する(ステップS31)。ローラー4は、グリス試料2の上面で回転動作し(ステップS32)、試料台3の上でグリス試料2の厚みを均一化する(ステップS33)。
【0038】
厚さが均一化されたグリス試料2は、試料台3に設置した状態で、磁石7及び磁気センサ6の上面に近接される(ステップS34)。これにより、グリス試料2は、磁石7により磁化され、磁性粉から発生する磁場が磁気センサ6で検知される(ステップS35)。
【0039】
磁気センサ6で検知された磁気信号は、磁性粉検査装置1の信号処理を経て、信号収集器14に収集される。信号解析器15に入力した信号は、演算処理が実行される(ステップS36)。
【0040】
上述した手順では、濃度の異なる複数のグリス試料を対象とするため、ステップS30〜ステップS36を繰り返し実行される。対象とする試料の信号処理が終了すると、信号解析器15は、そのような信号と磁性粉の既知濃度との関係を解析し、検量線を作成する(ステップS37)。
【0041】
一方、ステップS37〜ステップS43は、磁性粉濃度が未知のグリス試料2の処理手順である。
【0042】
始めに、既知の濃度の磁性粉を混入したグリス試料2が、試料台3に配置される(ステップS38)。次に、ローラー4はグリス試料2の上面で回転動作し、グリス試料2の厚みを均一化する(ステップS39)。
【0043】
厚さが均一化されたグリス試料2は、試料台3に配置された状態で、磁石7及び磁気センサ6の上面に近接される(ステップS40)。これにより、グリス試料2は、磁石7により磁化されるとともに、磁気センサ6により磁気信号が検知される(ステップS41)。
【0044】
磁気信号は、磁性粉検査装置1の信号処理を経て、信号解析器15において、ステップS37で作成した検量線と照合され(ステップS42)、試料の磁性粉濃度が算出される(ステップS43)。
【0045】
信号解析器15は、上述のように算出された磁性粉濃度と、予め設定した軸受けの劣化を示す信号閾値とを対比し、当該磁性粉濃度が閾値以上であった場合にはデータ表示部9に軸受けの劣化を示す警告を表示する(ステップS44)。
【0046】
ところで、信号強度から磁性粉の重量を算出して磁性粉の検量線を取得することができるか否かに関して検証する。まず、予め重量が判明している磁性粉をグリス試料2に混入させ、その磁気信号を測定した。磁性粉の重量は、58mmの容量あたり58〜260μg(濃度1〜4.5mg/cm)となるように作製した試料Aと、濃度が1mg/cmで一定となるように、58〜260μgの磁性粉を58〜260mmに加えた試料Bとの2種類の試料を作製した。
【0047】
試料Aは、厚みを、例えば2mmに均一となるようにした後、磁石を用いて磁化されている。一方、試料Bは、厚みを一定にせず、高さの範囲を、例えば2mmから8mmまでのように均一でない態様とし、磁石を用いて磁化されている。
【0048】
本実施例では、磁気センサ6としてTMRセンサを採用し、このTMRセンサを線形領域で動作させるために実装されているバイアス磁石により、試料A及び試料Bを磁化させた。なお、このバイアス磁石の磁力は、約100mT(テスラ)である。
【0049】
磁化された試料A及び試料Bは、それぞれ試料台3において磁気センサ6の上面に配置されており、磁気センサ6を用いて各磁気信号が検知された。このとき、試料台3の高さが例えば1mmであることから、磁気センサ6と各試料A,Bとの距離は1mmである。検知した磁気信号は、磁気センサアンプ11によりゲイン1000倍とし、フィルタ回路12により1〜40Hzの帯域の信号を通過させ、A/D変換器13と信号収集器14に入力される。このようにして、各試料A,Bからの磁気信号を取得した。
【0050】
図5(A)は、試料Aから取得した磁気信号の波形を示す。試料Aの信号強度は、波形の極大値と極小値とからなる振幅値Vppをもとに算出した。図5(A)に示したように、磁性粉の重量が87μgである場合、磁気信号は0.25Vppであり、磁性粉の重量が260μgである場合、磁気信号は0.77Vppである。よって、磁性粉の重量が大きくなると、信号波形の振幅値が大きくなることが分かる。
【0051】
図5(B)は、各試料A,Bに関する磁気信号と磁性粉の重量との関係例を表す検量線の一例を示す。図5(B)のグラフにおいて、試料Aでは、磁性粉の重量が上がるにつれて信号強度が上昇し、相関係数R2=0.97である。一方、試料Bでは、磁性粉の重量が上がっても信号強度が上昇するとは限らず、信号強度から磁性粉の重量を算出することは困難である。よって、試料Aに示すように、試料の厚さを均一化したうえで、磁気センサ6による信号を取得することで、磁性粉の検量線を取得することができることが分かる。
【0052】
(2)その他の実施形態
上記実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。すなわち、本実施の形態は、上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれ、例えば上記した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0053】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路などのハードウェアで実現してもよい。上記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、フラッシュメモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)などの記録媒体に置くことができる。またプログラムの実行で得られたデータは、有線または無線の通信技術を用いて、オンラインで遠隔サイトに結果を送信し、警告を発することができる。
【0054】
前述した本実施形態において、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0055】
本実施の形態の変形例としては、例えば、次の(A)〜(C)のようなものを挙げることができる。
(A)グリス試料2の厚みを均一化する伸展機構は、ローラー4の回転によるものに限られず、例えば2枚の板の間に所定の厚みのスペーサーが挟み込まれており、これら2枚の板でグリス試料2を両面から圧縮して引き延ばして所定の厚みに均一化する形態であってもよい。
(B)検量線を生成する試料は、半固体状のグリスに限られず、流動性のある潤滑剤を用いてもよい。
(C)前述したステップS30〜S37の処理は、未知の試料ごとに毎回行う必要はなく、最初の測定時に一度だけ実行して検量線を設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、磨耗等によって軸受けのグリスに混入した磁性粉の量を検出することにより軸受けの劣化損傷の度合いを間接的に検査する磁性粉検査装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1……磁性粉検査装置、2……グリス試料、3……試料台、4……ローラー、5……高さ調整ネジ、6……磁気センサ、7……磁石、8……電源回路部、9……データ表示部、10……電源、11……磁気センサアンプ、12……フィルタ回路、13……A/D変換器、14……信号収集器、15……信号解析器。
図1
図2
図3
図4
図5