(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0020】
≪実施形態に係る温熱環境解析装置の構成≫
図1を参照して、実施形態に係る温熱環境解析装置1の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る温熱環境解析装置1のブロック図である。温熱環境解析装置1は、仮想的な3次元空間を用いて、施設での温熱環境を予測する装置である。ここでの施設は、複数の人間(以下では、「群衆」と呼ぶ場合がある)を収容する空間を有するものである。本実施形態では、温熱環境を予測する対象として屋外スタジアムを想定する。屋外スタジアムは、ピッチ、観覧エリア、コンコースなどを含んで構成される。観覧エリアには、観客が座る座席(観客席)が並べて設置されており、また、観客が通行する通路が所定の間隔で観客席の間に設けられている。観覧エリアの床には、例えば、ピッチから遠ざかるにつれて位置が高くなるように段差が形成されている。なお、屋外スタジアムは、施設の例示であり、温熱環境を予測する対象の施設は、野外劇場などの群衆を収容可能なその他の施設であってよい。
【0021】
本実施形態に係る温熱環境解析装置1は、数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)解析と、放射解析との連成解析によって施設(特に、観客エリア)における温熱環境を計算する。
図1に示すように、温熱環境解析装置1は、記憶部10と、制御部20とを備える。温熱環境解析装置1は、例えば、解析担当者が操作する端末(PC:Personal Computer)や解析担当者が操作する端末と通信可能に接続されたアプリケーションサーバである。解析担当者は、例えば、解析対象である施設を管理する管理者や施設の施工を行う工事関係者である。
【0022】
記憶部10は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成される。制御部20は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。制御部20がプログラム実行処理により実現する場合、記憶部10には、制御部20の機能を実現するためのプログラムが格納される。
【0023】
記憶部10には、施設を再現した3次元形状データ(以下、「施設モデルI」と称す)と、群衆の一部が収容される施設内の部分空間(群衆を含む)を再現した3次元形状データ(以下、「部分空間モデルJ」と称す)と、群衆を簡易な図形(2次元、3次元のものを含む)で抽象化した3次元形状データ(以下、「抽象化モデルK」と称す)と、が記憶されている。
【0024】
施設モデルI、部分空間モデルJ、および抽象化モデルKは、仮想の3次元空間(例えば、全体座標系(x,y,z))において形状モデリングされたデータである。具体的には、人が見得る表面形状の範囲を複数のポリゴン(例えば、多角形ポリゴン)で示した3次元形状モデルである。なお、これらのデータは、ポリゴンを用いた3次元形状モデルとして表現できるものであればよく、形式は特に限定されない。例えば、3次元形状モデルを表現できる形式として、VRML(Virtual Reality Modeling Language)、OBJ(Wavefront OBJ)、FBX(Filebox)、3DS(3ds Max,3D Studio Max)、STL(Stereo Lithography)などがある。施設モデルI、部分空間モデルJ、および抽象化モデルKは、解析担当者によって予め登録される。
【0025】
施設モデルIのイメージを
図2に示す。
図2に示す施設モデルIは、サッカースタジアムを再現(モデル化)したものである。
図2に示す施設モデルIは、ピッチを再現したピッチモデルI1と、観覧エリアを再現した観覧エリアモデルI2と、屋根を再現した屋根モデルI3とを含んで構成される。ここでの施設モデルIは、実際の形状を簡略化してあり、例えば、観覧エリアモデルI2は、段差形状、観客席、通路を省略した傾斜面として表現されている。なお、施設モデルIにおける簡略化の程度は特に限定されず、例えば施設モデルIを作成するための負荷や解析における計算負荷を考慮して決定される。
【0026】
部分空間モデルJのイメージを
図3に示す。
図3に示す部分空間モデルJは、観覧エリアの一部(ここでは、4m×3mの範囲)を再現(モデル化)したものである。
図3に示す部分空間モデルJは、階段状の床面(段床)の形状を再現した段床モデルJ1と、人体の詳細形状を再現した人体モデルJ2とを含んで構成される。部分空間モデルJに観客が座る座席を再現した座席モデルJ3を含めてもよい。
図3に示す部分空間モデルJには、三十体の人体モデルJ2を配置してあり、後記する放射パラメータを算出するための日射解析において中心の二体(太線で表示)を評価対象とする。詳細は後記する。なお、部分空間モデルJに通路部分が含まれていてもよい。
【0027】
抽象化モデルKのイメージを
図4に示す。
図4は、施設モデルIに抽象化モデルKを配置した状態での観覧エリア部分の縦断面図である。
図4に示す抽象化モデルKは、観覧エリアの群衆を抽象化したものである。
図4に示す抽象化モデルKは、厚みのない平板で群衆をモデル化したもの(平板モデル)である。つまり、本実施形態では、観覧エリアに平面的に広く配置されている観客の一人一人をモデル化するのではなく、広く面としてマクロにとらえて群衆を平板としてモデル化する。抽象化モデルKは、観覧エリア内の観客席が設置される範囲の上方を少なくとも覆うように、観覧エリアモデルI2から所定距離だけ離れた位置に配置される。観覧エリア内の通路部分に抽象化モデルKを配置してもよく、抽象化モデルKを配置する通路部分と抽象化モデルKを配置しない通路部分とがあってもかまわない。抽象化モデルKを配置する位置は、観客が観客席に座った状態の床面からの高さ(例えば、床面から「1.1m」)の範囲内であるのがよく、ここでは床面の上方「0.6m」の位置に抽象化モデルKを配置している。抽象化モデルKは、例えば、施設モデルIの表面(具体的には、観覧エリアモデルI2)をコピーして作成することができる。
【0028】
なお、
図4では、厚みのない平板で群衆をモデル化した平板状の抽象化モデルKを想定していた。しかしながら、抽象化モデルKは、全体の形状が面状を呈するものであればよく、厚みがあってもよい。また、抽象化モデルKは、複数の面を組み合わせることで面状を構成するものであってもよい。
図5に抽象化モデルKのバリエーションを示す。
【0029】
図5(a)に示す抽象化モデルK1は、
図4で説明したものと同様であり、厚みのない平板で群衆をモデル化したもの(平板モデル)である。
図5(b)に示す抽象化モデルK2は、厚みのない湾曲したシートで群衆をモデル化したもの(シートモデル)である。
図5(c)に抽象化モデルK3は、厚みのある平板で群衆をモデル化したもの(厚みあり平板モデル)である。
【0030】
抽象化モデルKには、観客(人体)についての放射パラメータが設定されている。ここでの放射パラメータは、短波および長波の吸収率、透過率、反射率である。これにより、抽象化モデルKを用いた放射解析では、抽象化モデルKが半透明の部材のように扱われ、日射の一部を吸収し、また日射の一部を透過し、また日射の一部を反射する。つまり、人体および人体周辺の物理現象を放射パラメータが設定された抽象化モデルKでモデル化している。放射パラメータは、主に熱の入力(吸収する側の熱)の計算に使用される。なお、放射パラメータは、短波および長波の吸収率、透過率、反射率の内の何れか一つを含むものであればよい。
【0031】
図6を参照して、抽象化モデルKによる人体周辺(人体自体も含む)の物理現象のモデル化について説明する。
図6は、人体周辺(人体自体も含む)における物理現象の抽象化モデルKによるモデル化を説明するための図であり、(a)は人体周辺の物理現象のイメージ図であり、(b)は物理現象の抽象化モデルKによるモデル化のイメージ図である。
図6(a)に示すように、実際には日射の一部は人体に吸収されるとともに人体で反射し床に到達せず、日射の一部は人体の脇や隣り合う人体の間を通り抜けて床に到達する。一方、
図6(b)に示すように、モデル化することによって日射の一部は抽象化モデルKに吸収され、日射の一部は抽象化モデルKで反射し、日射の一部は抽象化モデルKを透過して床に到達する。
【0032】
図7を参照して、放射パラメータを算出するための考え方を説明する。
図7は、放射パラメータの算出方法を説明するための図である。ここでは、床面の吸収率が「100%」であると仮定する。
図7に示すように、基準日射量Q
0が人体の周りに照射されており、吸収日射量Q
1だけ人体で吸収され、吸収日射量Q
2だけ床で吸収されるとする。この場合、人体で反射される反射日射量は「Q
0−(Q
1+Q
2)」になる。この関係を用いて、抽象化モデルKが吸収する日射量が吸収日射量Q
1に等しく、また、抽象化モデルKが透過する日射量が吸収日射量Q
2に等しく、また、抽象化モデルKが反射する日射量が反射日射量「Q
0−(Q
1+Q
2)」に等しいとした場合、抽象化モデルK(ここでは、平板モデル)に与える放射パラメータを下記の式で定義できる。
平板モデルの吸収率α=Q
1/Q
0
平板モデルの透過率τ=Q
2/Q
0
平板モデルの反射率ρ=1−((Q
1+Q
2)/Q
0)
なお、本実施形態における実際の温熱環境解析では、部分空間モデルJを用いて放射パラメータを算出する。部分空間モデルJを用いた放射パラメータの算出の詳細は後記する。
【0033】
また、本実施形態では、後記する温熱環境解析において、人体による発熱や発汗などの効果を抽象化モデルKの表面を基準に計算する。抽象化モデルKの表面熱収支の関係を
図8および表1に示す。
【0035】
ここで、人体の形状と抽象化モデルK(ここでは平板モデル)の形状とに違いがあるので、その違いを考慮して熱量などの計算を行う必要がある。本実施形態では、表1の式(4),式(5)で示すように、表面積比率F
1および風速低減係数F
2を用いて対流顕熱量および蒸発潜熱量を計算する。
表面積比率F
1は、人体の表面積と抽象化モデルKの表面積との違いを考慮するために用いられるパラメータであり、例えば、群衆の総表面積(複数の人体の表面積を加算したもの)と抽象化モデルKの表面積との比率である。これにより、抽象化モデルKの発熱面を実際の人体の面積に近づける(増加させる)効果がある。
風速低減係数F
2は、人体周辺における風の抵抗と抽象化モデルKの周辺における風の抵抗との違いを考慮するために用いられるパラメータである。人体からの発熱量・発汗量は周囲の風速の影響を受けるため、風速低減係数F
2によってその補正を行う。なお、温熱環境解析の中に風速低減係数F
2による補正に相当する機能が含まれている場合には、風速低減係数F
2を省略することができる。
【0036】
また、
図1に示す記憶部10には、温熱環境解析の条件(解析条件G)についての情報が記憶されている。解析条件Gは、例えば、太陽位置、気象条件、流入流出条件、壁面境界条件などである。解析条件Gは、例えば、解析担当者によって予め登録される。解析条件Gのデータ形式は特に問わない。
太陽位置は、例えば、日射の発生源である太陽の位置である。気象条件は、例えば、天候、気温、湿度などである。流入流出条件は、例えば、解析対象の範囲(解析領域)外から解析領域内に入る各種条件(例えば、風速)である。解析領域は、例えば、解析対象の施設よりも広い範囲に設定される。壁面境界条件は、例えば、解析領域内に存在するものの各種条件(例えば、施設の表面温度や反射率など)である。
【0037】
制御部20は、解析モデル生成部30と、パラメータ算出部40と、温熱環境解析部50と、解析結果出力部60とを備える。ここでは、制御部20が備える各機能の概要の説明を行い、後記する「温熱環境解析装置の動作」でその詳細を説明する。
【0038】
解析モデル生成部30は、第一解析モデル生成部31と、第二解析モデル生成部32とを有する。第一解析モデル生成部31は、抽象化モデルKに与える放射パラメータを算出するための第一解析モデルを生成する。第一解析モデル生成部31は、主に部分空間モデルJから第一解析モデルを生成する。第二解析モデル生成部32は、施設における温熱環境を解析するための第二解析モデルを生成する。第二解析モデル生成部32は、主に施設モデルIおよび抽象化モデルKから第二解析モデルを生成する。
【0039】
パラメータ算出部40は、生成された第一解析モデルを用いて、抽象化モデルKに与える放射パラメータを算出する。パラメータ算出部40は、第一解析モデルに対して日射解析を行うことで放射パラメータを算出する。
【0040】
温熱環境解析部50は、生成された第二解析モデルを用いて、施設における温熱環境を解析する。温熱環境解析部50は、第二解析モデルに対してCFDと放射の連成解析を行い、例えば施設の観覧エリアにおける温熱環境4要素を計算する。温熱環境4要素は、例えば、「気温」、「風速」、「絶対湿度」、「平均放射温度」である。
【0041】
解析結果出力部60は、計算された温熱環境4要素を様々な態様に加工して、外部(例えば、図示しない表示部や解析担当者が操作する端末)に出力する。
【0042】
≪実施形態に係る温熱環境解析装置の動作≫
以下では、
図9および
図10を参照して(適宜、
図1ないし
図8を参照)、制御部20の処理を具体的に説明する。温熱環境解析装置1の処理は、主に、「放射パラメータの算出処理」と「温熱環境の解析処理」とからなる。
なお、本実施形態では、上方から来た熱量(日射)に対しての放射パラメータ(例えば、反射率、吸収率、透過率)を算出し、算出した放射パラメータを抽象化モデルK1の上面および下面に設定する場合について説明する。しかしながら、放射パラメータの算出方法および算出した放射パラメータの設定方法はこれに限定されない。
【0043】
<放射パラメータの算出処理>
図9は、放射パラメータの算出処理を示すフローチャートの例示である。ここでの放射パラメータは、短波および長波の吸収率α、透過率τ、反射率ρである。本実施形態では、人体の詳細形状を再現した観客席の部分空間モデルJを用いて日射解析を行い、その解析結果を用いて抽象化モデルKに与える放射パラメータを算出する。詳細な手順は、例えば以下の通りである。
【0044】
(事前準備)
最初に、解析担当者は、段床の形状モデル(段床モデルJ1(
図3参照))を作成する(ステップS1)。ステップS1で段床モデルJ1を作成する範囲は、観覧エリアの一部(例えば、通路を含まない一区画)であってよい。また、解析担当者は、人体の詳細形状を再現した人体モデルJ2を作成する(ステップS1)。観客が座る座席を再現した座席モデルJ3をさらに作成してもよい。
【0045】
なお、例えば観覧エリアの床面の形状や観客席の配置などが区画ごとに異なる場合、区画ごとに段床モデルJ1や座席モデルJ3を作成してもよいし、何れか一つの区画の段床モデルJ1や座席モデルJ3を代表して作成してもよい。前者の場合には、より正確な解析が行え、後者の場合には、部分空間モデルJを作成する手間が軽減される。
【0046】
(段床モデルに人体モデルを配置した第一状態での日射解析処理)
次に、解析担当者は、段床モデルJ1上に人体モデルJ2を配置する(ステップS2A)。これにより、部分空間モデルJが完成する。また、解析担当者は、段床モデルJ1に床の放射パラメータを設定するとともに、人体モデルJ2に人体の放射パラメータを設定する(ステップS3A)。人体モデルJ2に設定する放射パラメータは、例えば実験などによって予め算出した値であってよい。床の放射パラメータについては、床面での短波および長波の反射量が「0(ゼロ)%」になるように(つまり、反射する日射量を除外するために)、床面の吸収率を「100%」とする。これにより、第一解析モデル生成部31は、段床モデルJ1に人体モデルJ2を配置した第一状態での第一解析モデルを作成する。
【0047】
次に、解析担当者は、日射解析開始の指示を温熱環境解析装置1に入力し、パラメータ算出部40は、第一解析モデルを用いた第一状態での日射解析を実行する(ステップS4A)。これにより、パラメータ算出部40は、短波、長波別に人体の吸収日射量Q
1と床の吸収日射量Q
2(つまり、人体の周囲を通過した日射量)を算出する(ステップS5A)。
【0048】
(段床モデルに人体モデルを配置しない第二状態での日射解析処理)
解析担当者は、段床モデルJ1上に人体モデルJ2を配置しない。事前準備で座席モデルJ3を作成した場合においては、座席モデルJ3についても配置しない。解析担当者は、段床モデルJ1に床の放射パラメータを設定する(ステップS3B)。床の放射パラメータについては、第一状態の場合と同様に、床面での短波および長波の反射量が「0(ゼロ)%」になるように(つまり、反射する日射量を除外するために)、床面の吸収率を「100%」とする。これにより、第一解析モデル生成部31は、段床モデルJ1に人体モデルJ2を配置しない第二状態での第一解析モデルを作成する。
【0049】
次に、解析担当者は、日射解析開始の指示を温熱環境解析装置1に入力し、パラメータ算出部40は、第一解析モデルを用いた第二状態での日射解析を実行する(ステップS4B)。これにより、パラメータ算出部40は、短波、長波別に床の吸収日射量Q
2を算出する(ステップS5B)。なお、第二状態での床の吸収日射量Q
2は、観客の影響を受けないので、
図7で説明した基準日射量Q
0と同等の日射量である。
【0050】
(日射解析結果に基づく放射パラメータの算出処理)
次に、パラメータ算出部40は、第二状態での日射解析処理によって算出した基準日射量Q
0、ならびに第一状態での日射解析処理によって算出した人体の吸収日射量Q
1および床の吸収日射量Q
2を用いて、抽象化モデルK(ここでは、平板モデルを想定)に与える放射パラメータを算出する(ステップS6)。パラメータ算出部40は、抽象化モデルKに与える放射パラメータを下記の式より求める。下記の式は、
図7を参照して説明したものと同様である。
【0051】
平板モデルの吸収率α=Q
1/Q
0
平板モデルの透過率τ=Q
2/Q
0
平板モデルの反射率ρ=1−((Q
1+Q
2)/Q
0)
【0052】
これにより、抽象化モデルKに与える放射パラメータの算出が完了する。なお、日射の発生源である太陽の位置を変更して、太陽の位置ごとに放射パラメータを算出してもよい。また、観覧エリアの床面の形状が区画によって異なる場合、区画ごとに放射パラメータを算出してもよい。算出した放射パラメータは、記憶部10に記憶される。
【0053】
<温熱環境の解析処理>
図10は、温熱環境の解析処理を示すフローチャートの例示である。本実施形態では、抽象化モデルK(ここでは、平板モデルを想定)に
図9で算出した放射パラメータを与えることで、群衆を平板にモデル化する。そして、放射パラメータを与えた抽象化モデルKを用いて、群衆が施設(ここでは、スタジアムを想定)内の温熱環境に与える影響を考慮した温熱環境解析(CFD・放射解析)を実施する。
【0054】
最初に、解析担当者は、施設(ここでは、スタジアムを想定)の形状モデル(施設モデルI(
図1参照))を作成する(ステップS11)。続いて、解析担当者は、観覧エリアの観客席および通路部分に抽象化モデルK(ここでは平板モデル)を配置する(ステップS12)。本実施形態では、抽象化モデルKの配置作業を簡単にするために、観客席が設置される範囲だけでなく通路部分にも抽象化モデルKを配置する。このように、観客席だけでなく通路部分に抽象化モデルKを配置する場合、通路部分の面積が加わることによって放射パラメータの算出処理で想定した人員密度と温熱環境の解析処理で想定する人員密度が異なってしまう。そのため、その違いを考慮して放射パラメータの修正を行う必要がある。本実施形態では、後記する人員密度係数F
3を用いて放射パラメータの修正を行う。なお、観客席が設置される範囲にのみ抽象化モデルKを配置してもよい。
【0055】
次に、解析担当者は、解析パラメータなどの設定を行う(ステップS13)。ステップS13では、例えば、気象条件、流入流出条件、壁面境界条件などの設定を行う。また、ステップS13では、放射パラメータ、人体と平板モデルとの表面積比率F
1、風速低減係数F
2、人員密度係数F
3を設定する。これにより第二解析モデル生成部32は、施設モデルIに抽象化モデルK(ここでは、平板モデル)を配置した第二解析モデルを作成する。
【0056】
人員密度係数F
3は、人員密度の違いを考慮するために用いられるパラメータであり、例えば、観客席が設置される範囲の面積および通路部分の面積の合計値に対する観客席が設置される範囲の面積の割合である。これにより、人員密度の違いを考慮した計算が可能になる。なお、観客席が設置される範囲にのみ抽象化モデルKを配置した場合、人員密度係数F
3を用いた処理を省略できる。
【0057】
本実施形態では、表2の式(8)で示すように人員密度係数F
3を定義し、式(9)〜式(14)を用いて放射パラメータを算出する。式(9)〜式(14)で使用する係数の具体的な式を表3に示す。
【0060】
表3での観客席部分の放射パラメータの式は、
図7を参照して説明した式と同様である。また、本実施形態では通路部分に観客がいないことを想定しているので、通路部分の放射パラメータは、透過率100%、吸収率0%、反射率0%としている。
【0061】
次に、解析担当者は、温熱環境解析の開始指示を温熱環境解析装置1に入力し、温熱環境解析部50は、抽象化モデルKを有する第二解析モデルを用いた温熱環境解析(CFD・放射解析)を実行する(ステップS14)。これにより、群衆が施設内の温熱環境に与える影響(特に、後記する日射遮蔽効果)を考慮した解析を行うことができる。
【0062】
≪実施形態に係る温熱環境解析装置の効果≫
図11および
図12を参照して、温熱環境解析装置1の効果を説明する。
図11は、抽象化モデルKを用いて日射遮蔽効果を考慮した場合の解析結果である。
図12は、日射遮蔽効果を考慮しなかった場合の解析結果である。なお、
図11および
図12では、スタジアムの半分のみを表示し、残りの半分の表示を省略している。
図11に示すCase1では、実施形態で説明した計算方法で放射パラメータを与えた抽象化モデルKを用いて温熱環境解析を行っている。一方、
図12に示すCase2では、短波および長波の透過率を100%とした放射パラメータを与えた抽象化モデルKを用いて温熱環境解析を行っている。
【0063】
図11(a)、
図12(a)は、解析結果としての表面温度分布[℃]および風速ベクトル分布である。風速ベクトル分布は、芝ピッチ面から2mの位置でのものである。
図11(b)、
図12(b)は、解析結果としての気温分布[℃]である。気温分布は、段床面から1.1mの位置のものである。
図11(c)、
図12(c)は、解析結果としての風速分布[m/s]である。風速分布は、段床面から1.1mの位置のものである。
図11(d)、
図12(d)は、解析結果としての絶対湿度[g/kg´]である。絶対湿度は、段床面から1.1mの位置のものである。
図11(e)、
図12(e)は、解析結果としての平均放射温度[℃]である。平均放射温度は、段床面から0.6mの位置のものである。
【0064】
日射のあたるスタンドの1階席中央部(符号P1、P2で示す部分)に着目する。
図11(a)および
図12(a)に示した表面温度を見ると、段床表面温度は、Case1では約55℃、Case2では約77℃であった。抽象化モデルKを用いて日射遮蔽効果を考慮したことによりCase1の方が段床表面温度は約20℃低下している。
【0065】
また、
図11(b)〜(d)および
図12(b)〜(d)で示した気温、風速、絶対湿度の分布を見ると、Case1はCase2と比較して、気温が若干高くなる傾向にあるものの全体として大きな差異は見られない。一方、
図11(e)および
図12(e)で示した平均放射温度の分布をみると、Case1ではCase2と比べて全体的に約10℃程度低い値を示している。この理由としては、Case1では観客による日射遮蔽を考慮しているために、Case2と比べて段床表面温度が低下したことが考えられる。また、日射遮蔽により透過日射が減少し、床でのその反射成分も減少したことが要因と考えられる。
【0066】
以上のように、実施形態に係る温熱環境解析装置1は、群衆を再現した多数の人体モデルを配置することなしに、群衆が施設内の温熱環境に与える影響を考慮した解析を容易に行うことができる。
【0067】
観客(群衆)による主な影響は(A)熱や湿度発生効果、(B)日射遮蔽効果、(C)風速低減効果が挙げられる。
(A)熱や湿度発生効果は、代謝によって人体が発生する熱や汗をかくことによる湿度の発生などによる影響である。
(B)日射遮蔽効果は、観客が日射を受けて床面に日陰をつくることによる影響である。
(C)風速低減効果は、観客が障害物となり風速が弱まることによる効果である。
【0068】
人体モデルを配置しない従来の解析手法でも、(A)熱や湿度発生効果、(C)風速低減効果について考慮可能であったが、(B)日射遮蔽効果については考慮できていなかったため、実際の温熱環境とは異なる環境評価しかできなかった。
例えば、(A)熱の発生効果は240[W/m
2](=120[W/人]×2[人/m
2])であり、従来手法では人体座位を想定した段床面からの高さ「1.1m」までの空間に体積発熱として与えることよって、(A)熱の発生効果を考慮することができた。しかし、日射の影響が考慮できていなかったため、日射によって加熱された皮膚・着衣表面温度の上昇による発熱・発汗も考慮されていなかった。
【0069】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。実施形態の変形例は、例えば以下に示す通りである。
【0070】
実施形態では、上方から来た熱量に対しての放射パラメータ(反射率、吸収率、透過率)を算出し、算出した放射パラメータを抽象化モデルK1の上面および下面に設定する場合について説明した。しかしながら、放射パラメータの算出方法および算出した放射パラメータの設定方法はこれに限定されない。例えば、下方から来た熱量に対しての放射パラメータ(反射率、吸収率、透過率)をさらに算出し、算出した放射パラメータを抽象化モデルK1の下面に設定してもよい。これにより、より正確な解析を行うことができる。
【0071】
また。実施形態では、抽象化モデルK1として、厚みのない平板で群衆をモデル化したもの(平板モデル)を想定していた。しかしながら、抽象化モデルK1は平板モデルに限定されず、
図5(c)に示すように、厚みのある面状のものであってもよい。
【0072】
また、実施形態では、
図3に示すように、部分空間モデルJに通路部分を含めていなかった。しかしながら、部分空間モデルJに通路部分を含めてもよい。その場合、算出した放射パラメータは、通路部分の影響を受けることになり、通路部分を含めないで算出した放射パラメータとは値が異なる。
【0073】
また、部分空間モデルJは、解析対象である施設の一部を忠実に再現したものであることが好ましいが、解析対象である施設以外の施設(つまり、他の施設)を再現したものであってもよい。その場合、人員密度が同程度の施設であることが好ましい。