特許第6893245号(P6893245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6893245-脂質ナノ粒子用膜材料組成物 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893245
(24)【登録日】2021年6月2日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】脂質ナノ粒子用膜材料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20210614BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210614BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   A61K9/127
   A61K47/10
   A61K47/18
   A61K47/22
   A61K47/24
   A61K47/26
   A61K47/28
   A61K48/00
   A61K31/7088
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-541840(P2019-541840)
(86)(22)【出願日】2017年10月13日
(65)【公表番号】特表2019-534899(P2019-534899A)
(43)【公表日】2019年12月5日
(86)【国際出願番号】CN2017106032
(87)【国際公開番号】WO2018072644
(87)【国際公開日】20180426
【審査請求日】2019年5月14日
(31)【優先権主張番号】201610902492.2
(32)【優先日】2016年10月17日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519139505
【氏名又は名称】南京▲緑▼叶制▲薬▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】519139516
【氏名又は名称】南京▲愛▼▲賽▼克▲納▼米生物医▲薬▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】程光
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼文忠
(72)【発明者】
【氏名】秦利利
【審査官】 大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−100645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/127
A61K 31/7088
A61K 47/10
A61K 47/18
A61K 47/22
A61K 47/24
A61K 47/26
A61K 47/28
A61K 48/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性脂質、中性リン脂質、コレステロール、トウェイン(登録商標)、ポリエチレングリコール誘導体を含み、それらのモル比は、(25〜35):(40〜50):(15〜25):(1〜5):(1〜5)である、
前記ポリエチレングリコール誘導体は、mPEG−DPPE、mPEG−DMPE、mPEG−DSPE、mPEG−DMG、TPGS、及びmPEG−コレステロールのうちの1つであり、且つ前記ポリエチレングリコール誘導体におけるPEGは、分子量が550〜5,000のモノメチルポリエチレングリコールを含む、脂質ナノ粒子用膜材料組成物。
【請求項2】
前記カチオン性脂質は、DOTAP、DOTMA、DDAB、及びDODMAのうちの1つであり
前記中性リン脂質は、Egg PC、DOPC、DSPC、DPPC、及びDMPCのうちの1つであり
前記トウェイン(登録商標)は、トウェイン(登録商標)20、トウェイン(登録商標)40、トウェイン(登録商標)60、及びトウェイン(登録商標)80のうちの1つである、請求項1に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコール誘導体は、親水性のポリエチレングリコール鎖又はメチル化ポリエチレングリコール鎖が、リン脂質二重層に埋め込み可能な疎水性構造に連接されて形成した物質であり、
前記疎水性構造は、コレステロール、ビタミンE、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、又はジミリストイルグリセリンである、請求項に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物。
【請求項4】
前記トウェイン(登録商標)は、トウェイン(登録商標)80である、請求項2に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物。
【請求項5】
脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法であって、
カチオン性脂質、中性リン脂質、コレステロール、トウェイン(登録商標)及び請求項1記載のポリエチレングリコール誘導体を、所定のモル比で80%のエタノールに溶解して、混合したエタノール溶液を得、内容物をPBS緩衝液に溶解して内容物の混合溶液を得る工程(1)と、
工程(1)で得られた混合したエタノール溶液と内容物の混合溶液とを等体積で混合して、エタノールの最終濃度が40%の混合溶液を得る工程(2)と、
更にPBS緩衝液を用いて、工程(2)で得られたエタノールの最終濃度が40%の混合溶液を等体積で希釈し、エタノールの最終濃度が5%未満の製剤混合液を得るまでPBS緩衝液を用いて最終濃度のエタノールの混合溶液を等体積で繰り返し希釈する工程(3)と、
工程(3)で得られた製剤混合液に高塩濃度溶液を加え、高塩濃度混合液を得る工程(4)と、
限外濾過装置又は透析装置を用いて、工程(4)で得られた混合液からエタノール及び被覆されていない遊離内容物を除去する工程(5)と、
工程(5)で得られた製品を、孔径が0.22μm以下の濾過膜又はフィルタエレメントにより濾過して除菌し、脂質ナノ粒子を得る工程(6)と、
を含む、脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法。
【請求項6】
前記PBS緩衝液は、デオキシリボヌクレアーゼ及びリボヌクレアーゼを含有せず、前記工程(1)に用いるPBS緩衝液の規格は、1X pH=7であり、前記工程(3)に用いるPBS緩衝液の規格は、1X pH=7.4である、請求項に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法。
【請求項7】
前記高塩濃度溶液はNaCl溶液であり、工程(4)における混合液のNaCl濃度は、0.1〜1Mである、請求項に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法。
【請求項8】
前記混合液のNaCl濃度は、0.3〜0.4Mである、請求項に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法。
【請求項9】
前記内容物がヌクレオチドである、請求項に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法。
【請求項10】
前記ヌクレオチドがオリゴヌクレオチドである、請求項に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法。
【請求項11】
前記限外濾過装置又は透析装置の分画分子量は、10,000〜100,000ダルトンである、請求項に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法。
【請求項12】
前記膜材料組成物は、モル比で25:45:20:5:5のDOTAP、Egg PC、コレステロール、トウェイン(登録商標)80、TPGSを含む、請求項2に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物。
【請求項13】
前記膜材料組成物は、モル比で30:45:20:5:5のDOTMA、Egg PC、コレステロール、トウェイン(登録商標)80、TPGSを含む、請求項2に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物。
【請求項14】
前記膜材料組成物は、モル比で30:50:20:5:5のDOTAP、DSPC、コレステロール、トウェイン(登録商標)80、TPGSを含む、請求項2に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物。
【請求項15】
前記膜材料組成物は、モル比で30:45:20:5:5のDOTAP、Egg PC、コレステロール、トウェイン(登録商標)80、mPEG2000−DPPEを含む、請求項2に記載の脂質ナノ粒子用膜材料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジー分野に関し、具体的には脂質ナノ粒子用膜材料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術による脂質ナノ粒子用膜材料においては、トウェインとポリエチレングリコール誘導体(例えばTPGS)を結合させる例がない。トウェインを単独で使用する場合、トウェインは比較的短いPEG鎖を有しており、このような短鎖のPEGがナノ粒子間の反発相互作用を強めることで、粒子の凝集による安定性の低下を防止することができる。一方、このようなナノ製剤ではナノ粒子の表面に埋め込まれる長鎖PEGが存在しないため、全身循環において食細胞に呑み込まれて機能できなくなることが多い。
【0003】
また、ポリエチレングリコール誘導体(例えばTPGS)を単独で使用する場合、TPGSは比較的長いPEG鎖を有しており、食作用系により認識され、食細胞に呑み込まれて機能を喪失することをある程度で回避し、長循環時間を延長することができるものの、TPGSが多くある場合、立体障害が存在するため、ナノ粒子が標的腫瘍細胞により有効に摂取されるのが困難になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来技術の不備を克服すべく、ナノ粒子自体の安定性を高めることで、腫瘍組織における薬物の放出を促進し、分解される可能性を軽減することができる脂質ナノ粒子用膜材料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために提供する発明は、以下の通りである。
【0006】
脂質ナノ粒子用膜材料組成物であって、前記膜材料組成物は、カチオン性脂質、中性リン脂質、コレステロール、トウェイン、ポリエチレングリコール誘導体を含み、それらのモル比は、(25〜35):(40〜50):(15〜25):(1〜5):(1〜5)である。
【0007】
更に、前記カチオン性脂質は、DOTAP、DOTMA、DDAB、DODMAを含み、
前記中性リン脂質は、Egg PC、DOPC、DSPC、DPPC、DMPCを含み、
前記トウェインは、トウェイン20、トウェイン40、トウェイン60、トウェイン80を含み、
前記ポリエチレングリコール誘導体は、mPEG−DPPE、mPEG−DMPE、mPEG−DSPE、mPEG−DMG、TPGS、mPEG−コレステロールを含む。
【0008】
更に、前記ポリエチレングリコール誘導体におけるPEGは、分子量が550〜5000のモノメチルポリエチレングリコールを含む。
【0009】
更に、前記ポリエチレングリコール誘導体におけるPEGは、分子量が550、750、1000、2000、3000、又は5000のモノメチルポリエチレングリコールを含む。
【0010】
更に、前記ポリエチレングリコール誘導体は、親水性のポリエチレングリコール鎖又はメチル化ポリエチレングリコール鎖が、リン脂質二重層に埋め込み可能な疎水性構造に連接されて形成した物質であり、前記疎水性構造は、コレステロール、ビタミンE、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジミリストイルグリセリン(DMG)、又はこれらの構造類似体である。
【0011】
更に、前記トウェインは、トウェイン80である。
【0012】
脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法であって、具体的には、
カチオン性脂質、中性リン脂質、コレステロール、トウェイン、ポリエチレングリコール誘導体を、所定のモル比で80%のエタノールに溶解して、混合したエタノール溶液を得、内容物をPBS緩衝液に溶解して内容物の混合溶液を得る工程(1)と、
工程(1)で得られた混合したエタノール溶液と内容物の混合溶液とを等体積で混合して、エタノールの最終濃度が40%の混合溶液を得る工程(2)と、
更にPBS緩衝液を用いて、工程(2)で得られたエタノールの最終濃度が40%の混合溶液を等体積で希釈し、エタノールの最終濃度が5%未満の製剤混合液を得るまでPBS緩衝液を用いて最終濃度のエタノールの混合溶液を等体積で繰り返し希釈する工程(3)と、
工程(3)で得られた製剤混合液に高塩濃度溶液を加え、高塩濃度混合液を得る工程(4)と、
限外濾過装置又は透析装置を用いて、工程(4)で得られた混合液からエタノール及び被覆されていない遊離内容物を除去する工程(5)と、
工程(5)で得られた製品を、孔径が0.22μm以下の濾過膜又はフィルタエレメントにより濾過して除菌し、脂質ナノ粒子を得る工程(6)と、を含む。
【0013】
更に、前記PBS緩衝液は、デオキシリボヌクレアーゼとリボヌクレアーゼを含有せず、前記工程(1)に用いるPBS緩衝液の規格は、1X pH=7であり、前記工程(3)に用いるPBS緩衝液の規格は、1X pH=7.4である。
【0014】
更に、前記高塩濃度溶液は、NaCl溶液であり、工程(4)における混合液のNaCl濃度は、0.1〜1Mである。
【0015】
更に、前記混合液のNaCl濃度は、0.3〜0.4Mであり、好ましくは0.3Mである。
【0016】
更に、前記内容物は、ヌクレオチドである。
【0017】
更に、前記ヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドである。
【0018】
更に、前記限外濾過装置又は透析装置の分画分子量は、10,000〜100,000ダルトンである。
【0019】
更に、前記膜材料組成物は、モル比で25:45:20:5:5のDOTAP、Egg PC、コレステロール、トウェイン80、及びTPGSからなる。
【0020】
更に、前記膜材料組成物は、モル比で30:45:20:5:5のDOTMA、Egg PC、コレステロール、トウェイン80、及びTPGSからなる。
【0021】
更に、前記膜材料組成物は、モル比で30:50:20:5:5のDOTAP、DSPC、コレステロール、トウェイン80、及びTPGSからなる。
【0022】
更に、前記膜材料組成物は、モル比で30:45:20:5:5のDOTAP、Egg PC、コレステロール、トウェイン80、mPEG2000−DPPEからなる。
【0023】
ここで、
DOTAP:1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアミノプロパン塩化塩
DOTMA:1,2−ジオキシオクタデセン−3−トリメチルアミノプロパン塩化塩
DDAB:ビスドデシルジメチル臭化アンモニウム
DODMA:1,2−ジオキシオクタデセン−3−ジメチルアミノプロパン
Egg PC:卵黄ホスファチジルコリン
DOPC:ジオレオイルホスファチジルコリン
DSPC:ジステアロイルホスファチジルコリン
DPPC:ジパルミトイルホスファチジルコリン
DMPC:ジミリストイルホスファチジルコリン
DPPE:ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン
DMPE:ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン
TPGS:コハク酸エステル
【発明の効果】
【0024】
従来技術に比べると、本発明は下記の顕著な利点を有する。
1.本発明に係るナノ粒子用膜材料は、初めて2種類のポリエチレングリコール化試薬(トウェイン及びポリエチレングリコール誘導体)が用いられ、ナノ粒子自体の安定性をある程度高め、腫瘍組織における薬物の放出を促進し、分解される可能性を軽減することができる。
【0025】
ポリエチレングリコール化試薬であるトウェインは、ナノ製剤の調製によく用いられる。トウェインシリーズは短鎖のPEGを有する。トウェインシリーズ(例えばトウェイン20/40/60/80)はナノ製剤においてナノ粒子間の反発相互作用を強めることで、凝集しにくくすることができるため、ナノ製剤の安定性をある程度高めることができ、長期保存しても粒径増加の度合いが比較的小さい。
【0026】
ポリエチレングリコール誘導体は、mPEG2000−DSPE及びTPGSを含み、よく用いられるもう一つのナノ製剤成分である。比較的長いPEG鎖を有するため、血液中におけるナノ粒子の循環を促進し、細網内皮系細胞又は食細胞からの摂取による機能喪失を回避することができ、免疫系の認識をある程度回避し、長循環時間を延長することができる。また、比較的長いPEG鎖が細胞からの摂取にある程度影響する。
【0027】
本発明はトウェインとポリエチレングリコール誘導体を組み合わせ、即ち比較的長いPEG鎖と比較的短い鎖を有するトウェインを組み合わせる。本発明者らは、この2種類のポリエチレングリコール化試薬を組み合わせると、血漿中におけるアンチセンスオリゴヌクレオチドが被覆されたナノ粒子の安定性、長循環時間、標的細胞への放出及び標的細胞中の遺伝子への分解効果を効果的に高めることができることを見出した。
【0028】
2.本発明において、トウェインシリーズとTPGSの組成物について安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行った。図1に示すように、1か月の期間にナノ製剤の粒径変化が比較的小さく、トウェインが製剤の全体的安定性を維持できることが明らかになった。
【0029】
具体的な試験データは、以下のとおりである。
【0030】
トウェイン80を使用して安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行うと、ナノ製剤の粒径が126nmから181nmに変化し、安定性が最も高く、
トウェイン20を使用して安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行うと、ナノ製剤の粒径が99.8nmから274.2nmに変化し、安定的であり、
トウェイン40を使用して安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行うと、ナノ製剤の粒径が138.5nmから305.9nmに変化し、安定的であり、
トウェイン60を使用して安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行うと、ナノ製剤の粒径が76.7nmから218.6nmに変化し、安定的である。
【0031】
3.本発明に係る脂質ナノ粒子用膜材料組成物は、カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール、トウェイン、ポリエチレングリコール誘導体を含み、且つこれらを所定の割合で組み合わせることにより、調製して得られた脂質ナノ粒子はコストが効果的に削減され、安定性に優れており、細胞受容性が高いため、優れたナノ担体である。
【0032】
4.本発明の調製方法で高塩濃度溶液を加えることにより、ナノ粒子の表面に吸着した遊離内容物、例えばオリゴヌクレオチドを解離させ、内容物の吸着により粒径が大きくなることを軽減することができる。沈降した内容物は後続の透析工程で除去することができる。
【0033】
5.本発明において、脂質ナノ粒子の調製方法は、エタノールで段階希釈する方法で、従来技術における非等体積でオンライン混合する方法は複雑で、2つのポンプ及び仕様の異なる液体貯蔵タンクを使用する必要があり、大量生産に適しない。反応速度論の観点からすれば、本発明は従来技術と比べて、系間の動バランスに至らせ、後に懸濁系の安定性を高める点で好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係るトウェインシリーズとTPGSの組成物について行った安定性試験(周期27日間、温度4℃)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明及びその実施形態を例示的に説明するが、下記説明の内容に限定されるものではない。図面に示すのは本発明の実施形態の一つに過ぎず、これだけに限定されない。よって、当業者はここから示唆を受けて、本発明の趣旨から逸脱せず、鋭意工夫をすることなく作り出した当該発明に類似する構造形態や実施例などは、いずれも本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【実施例】
【0036】
実施例1
脂質ナノ粒子用膜材料組成物であって、前記膜材料組成物は、モル比で25:45:20:5:5のDOTAP、Egg PC、コレステロール、トウェイン80、及びTPGSからなる。
【0037】
前記脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法であって、具体的には、
上記の物質を80%のエタノールに溶解して、混合したエタノール溶液を得、オリゴヌクレオチドG3139をPBS緩衝液(1X pH=7)に溶解して、オリゴヌクレオチドのPBS緩衝液を得る(G3139は、18個のヌクレオチドからなり、配列が5’−TCT CCC AGC GTG CGC CAT−3’のアンチセンスオリゴヌクレオチドセグメントである)工程(1)と、
工程(1)で得られた混合したエタノール溶液とアンチセンスオリゴヌクレオチドG3139のPBS緩衝液とを等体積で混合して、エタノールの最終濃度が40%の混合溶液を得る工程(2)と、
更にPBS緩衝液を用いて、工程(2)で得られたエタノールの最終濃度が40%の混合溶液を等体積で希釈し、エタノールの最終濃度が5%未満の製剤混合液を得るまでPBS緩衝液(1X pH=7.4)を用いて最終濃度のエタノールの混合溶液を等体積で繰り返し希釈する工程(3)と、
工程(3)で得られた製剤混合液に高塩濃度溶液を加え、最終濃度が0.1Mの混合液を得る工程(4)と、
分画分子量が10,000ダルトンの限外濾過装置を用いて、工程(4)で得られた混合液からエタノール及び遊離アンチセンスオリゴヌクレオチドを除去する工程(5)と、
工程(5)で得られた製品を、孔径が0.22μmの濾過膜により濾過して除菌し、脂質ナノ粒子を得る工程(6)と、を含む。
【0038】
実施例2
脂質ナノ粒子用膜材料組成物であって、前記膜材料組成物は、モル比で35:40:15:1:1のDOTMA、DOPC、コレステロール、トウェイン40、mPEG550−DPPEからなる。
【0039】
前記脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法であって、具体的には、
上記の物質を80%のエタノールに溶解して、混合したエタノール溶液を得、アンチセンスオリゴヌクレオチドG3139をPBS緩衝液(1X pH=7)に溶解して、アンチセンスオリゴヌクレオチドG3139のPBS緩衝液を得る工程(1)と、
工程(1)で得られた混合したエタノール溶液とアンチセンスオリゴヌクレオチドG3139のPBS緩衝液とを等体積で混合して、エタノールの最終濃度が40%の混合溶液を得る工程(2)と、
更にPBS緩衝液を用いて、工程(2)で得られたエタノールの最終濃度が40%の混合溶液を等体積で希釈し、エタノールの最終濃度が5%未満の製剤混合液を得るまでPBS緩衝液(1X pH=7.4)を用いて最終濃度のエタノールの混合溶液を等体積で繰り返し希釈する工程(3)と、
工程(3)で得られた製剤混合液に高塩濃度NaCl溶液を加え、最終濃度が0.3Mの混合液を得る工程(4)と、
分画分子量が50,000ダルトンの限外濾過装置を用いて、工程(4)で得られた混合液からエタノール及び遊離アンチセンスオリゴヌクレオチドを除去する工程(5)と、
工程(5)で得られた製品を、孔径が0.20μmの濾過膜により濾過して除菌し、脂質ナノ粒子を得る工程(6)と、を含む。
【0040】
実施例3
脂質ナノ粒子用膜材料組成物であって、前記膜材料組成物は、モル比で30:50:25:3:3のDDAB、DSPC、コレステロール、トウェイン60、mPEG2000−DMPEからなる。
【0041】
前記脂質ナノ粒子用膜材料組成物で脂質ナノ粒子を調製する方法であって、具体的には、
上記の物質を80%のエタノールに溶解して、混合したエタノール溶液を得、アンチセンスヌクレオチドをPBS緩衝液(1X pH=7)に溶解して、アンチセンスヌクレオチドG3139のPBS緩衝液を得る工程(1)と、
工程(1)で得られた混合したエタノール溶液とアンチセンスヌクレオチドのPBS緩衝液とを等体積で混合して、エタノールの最終濃度が40%の混合溶液を得る工程(2)と、
更にPBS緩衝液を用いて、工程(2)で得られたエタノールの最終濃度が40%の混合溶液を等体積で希釈し、エタノールの最終濃度が5%未満の製剤混合液を得るまでPBS緩衝液(1X pH=7.4)を用いて最終濃度のエタノールの混合溶液を等体積で繰り返し希釈する工程(3)と、
工程(3)で得られた製剤混合液に高塩濃度溶液を加え、最終濃度が1Mの混合液を得る工程(4)と、
分画分子量が100,000ダルトンの限外濾過装置を用いて、工程(4)で得られた混合液からエタノール及び被覆されていないアンチセンスヌクレオチドG3139を除去する工程(5)と、
工程(5)で得られた製品を、孔径が0.22μmの濾過膜により濾過して除菌し、脂質ナノ粒子を得る工程(6)と、を含む。
【0042】
実施例4
(1)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:50:20:5:5
(2)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=30:50:20:5:5
(3)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=35:50:20:5:5
【0043】
【表1】
【0044】
カチオン性脂質DOTAPのモル比を調整して1因子試験を行ったところ、他の成分が変わらない条件において、電位がほぼ同一でありながら、製剤1は粒径及び被覆率がいずれも他の2製剤より明らかに優れている。このため、製剤1を最良な配合として選択し、次のとおりスクリーニングを行った。
【0045】
(1)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:40:20:5:5
(2)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:20:5:5
(3)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:50:20:5:5
【0046】
【表2】
【0047】
リン脂質Egg PCのモル比を調整して1因子試験を行ったところ、他の成分が変わらない条件において、電位がほぼ同一でありながら、製剤2は粒径及び被覆率がいずれも他の2製剤より明らかに優れている。このため、製剤2を最良な配合として選択し、次のとおりスクリーニングを行った。
【0048】
(1)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:15:5:5
(2)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:20:5:5
(3)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:25:5:5
【0049】
【表3】
【0050】
コレステロールのモル比を調整して1因子試験を行ったところ、他の成分が変わらない条件において、電位がほぼ同一でありながら、製剤2は粒径及び被覆率がいずれも他の2製剤より明らかに優れている。このため、製剤2を最良な配合として選択し、次のとおりスクリーニングを行った。
【0051】
(1)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:15:1:5
(2)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:20:3:5
(3)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:25:5:5
【0052】
【表4】
【0053】
トウェイン80のモル比を調整して1因子試験を行ったところ、他の成分が変わらない条件において、電位がほぼ同一でありながら、製剤3は粒径及び被覆率がいずれも他の2製剤より明らかに優れている。このため、製剤3を最良な配合として選択し、次のとおりスクリーニングを行った。
【0054】
(1)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:15:5:1
(2)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:20:5:3
(3)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:25:5:5
【0055】
【表5】
【0056】
TPGSのモル比を調整して1因子試験を行ったところ、他の成分が変わらない条件において、電位がほぼ同一でありながら、製剤3は粒径及び被覆率がいずれも他の2製剤より明らかに優れている。このため、製剤3を最良な配合として選択し、次のとおりスクリーニングを行った。
【0057】
(1)DOTMA/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:20:5:5
(2)DOTMA/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=30:45:20:5:5
(3)DOTMA/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=35:45:20:5:5
【0058】
【表6】
【0059】
このほかに、他の関係し得るリン脂質についてもスクリーニングを行った。カチオン性脂質DOTMAのモル比を調整して1因子試験を行ったところ、他の成分が変わらない条件において、電位がほぼ同一でありながら、製剤2は粒径及び被覆率がいずれも他の2製剤より明らかに優れている。このため、製剤2を最良な配合として選択し、次のとおりスクリーニングを行った。
【0060】
(1)DOTAP/DSPC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=30:40:20:5:5
(2)DOTAP/DSPC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=30:45:20:5:5
(3)DOTAP/DSPC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=30:50:20:5:5
【0061】
【表7】
【0062】
リン脂質DSPCのモル比を調整して1因子試験を行ったところ、他の成分が変わらない条件において、電位がほぼ同一でありながら、製剤3は粒径及び被覆率がいずれも他の2製剤より明らかに優れている。このため、製剤3を最良な配合として選択し、次のとおりスクリーニングを行った。
【0063】
(1)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/DPPE−mPEG2000=30:45:20:5:1
(2)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/DPPE−mPEG2000=30:45:20:5:3
(3)DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/DPPE−mPEG2000=30:45:20:5:5
【0064】
【表8】
【0065】
DPPE−mPEG2000のモル比を調整して1因子試験を行ったところ、他の成分が変わらない条件において、電位がほぼ同一でありながら、製剤3は粒径及び被覆率がいずれも他の2製剤より明らかに優れている。
【0066】
上記のとおり各配合及びその割合についてスクリーニングすることにより、下記の結論を得ている。
「DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=25:45:20:5:5」という配合と割合が、粒径が比較的小さく、被覆率が安定しており、正電位が好適である。また、他の配合については、「DOTMA/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=30:45:20:5:5」、「DOTAP/DSPC/コレステロール/トウェイン80/TPGS=30:50:20:5:5」及び「DOTAP/Egg PC/コレステロール/トウェイン80/DPPE−mPEG2000=30:45:20:5:5」という配合と割合が、粒径、電位、被覆率、及び安定性において比較的好適である。
【0067】
本発明に係るトウェインシリーズとTPGSの組成物について安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行い、その結果を図1に示す。1か月の期間にナノ製剤の粒径変化が比較的小さいことから、トウェインが製剤の全体的安定性を維持できることが明らかになる。
【0068】
具体的な試験データは、以下のとおりである。
【0069】
トウェイン80を使用して安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行うと、G3139−GAPナノ製剤の粒径が126nmから181nmに変化し、安定性が最も高く、
トウェイン20を使用して安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行うと、G3139−GAPナノ製剤の粒径が99.8nmから274.2nmに変化し、安定的であり、
トウェイン40を使用して安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行うと、G3139−GAPナノ製剤の粒径が138.5nmから305.9nmに変化し、安定的であり、
トウェイン60を使用して安定性試験(周期27日間、温度4℃)を行うと、G3139−GAPナノ製剤の粒径が76.7nmから218.6nmに変化し、安定的である。
図1