特許第6893254号(P6893254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6893254車両駐車ブレーキで少なくとも1つの電気式のブレーキモータの操作によってブレーキ力を生成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893254
(24)【登録日】2021年6月2日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】車両駐車ブレーキで少なくとも1つの電気式のブレーキモータの操作によってブレーキ力を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20210614BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20210614BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   B60T17/18
   B60T7/12 A
   B60T13/74 E
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-556241(P2019-556241)
(86)(22)【出願日】2018年4月18日
(65)【公表番号】特表2020-516536(P2020-516536A)
(43)【公表日】2020年6月11日
(86)【国際出願番号】EP2018059927
(87)【国際公開番号】WO2018192986
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2019年10月15日
(31)【優先権主張番号】102018205811.3
(32)【優先日】2018年4月17日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102017206608.3
(32)【優先日】2017年4月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ベールレ―ミラー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】フレンツェル,トニ
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0282249(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102007031819(DE,A1)
【文献】 特開2004−175164(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/047413(WO,A1)
【文献】 特開2015−196424(JP,A)
【文献】 特開2013−224128(JP,A)
【文献】 特開2012−035773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
B60T 8/32−8/96
B60T 13/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのブレーキモータ(13)を制御するために少なくとも2つの制御装置(11,24)を含む車両駐車ブレーキで少なくとも1つの電気式のブレーキモータの操作によってブレーキ力を生成する方法において、
車両速度もしくはこれに対応する走行状態量が割り当てられた限界値を下回っている場合に、および/または車両の特性量が生じている、もしくは目前に迫っている車両停止を示唆している場合に、第1の制御装置/ブレーキモータユニットが故障したとき自動的に第2の制御装置/ブレーキモータユニットがブレーキ力の生成のために作動化され
前記第1の制御装置(24)は、車両状態の評価後に制御に関する情報を前記第2の制御装置(11)へ転送する
方法。
【請求項2】
前記第1の制御装置(24)と第1のブレーキモータ(13)が前記第1の制御装置/ブレーキモータユニットを形成し、前記第2の制御装置(11)と第2のブレーキモータ(13)が前記第2の制御装置/ブレーキモータユニットを形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生じている、または目前に迫っている車両停止を示唆する特性量はイグニション状態、ドア接触スイッチの状態、着席認識ユニットの状態、および/またはベルトバックルの状態であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生じている、または目前に迫っている車両停止を認識するために車両速度またはこれに対応する走行状態量が限界値を下回っているだけでなく、これに加えて少なくとも1つの特性量が生じている、または目前に迫っている車両停止を示唆する値をとることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
自動的なブレーキ力生成は車両停止の認識から定義されたタイムスパンが経過した後実行されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
発進希望が確認されると自動的なブレーキ力生成に引き続いてブレーキ力が自動的に再び低減されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
発進希望が成立するのは車両の駆動トルクが割り当てられた限界値を上回ったときであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法を実施するために車両駐車ブレーキの調整可能なコンポーネントを制御するための少なくとも2つの制御装置の組み合わせ。
【請求項9】
請求項に記載の少なくとも2つの制御装置(11,24)と、少なくとも1つの制御装置(11,24)を通じて制御可能である少なくとも1つのブレーキモータ(13)とを有し、少なくとも1つの電気式の前記ブレーキモータ(13)がブレーキピストン(16)をブレーキディスク(20)に向かう方向へ位置調節する、停止時に車両を固定するための車両駐車ブレーキ。
【請求項10】
液圧式の車両ブレーキ(1)と、請求項に記載の車両駐車ブレーキとを有する車両のためのブレーキシステム。
【請求項11】
請求項10に記載のブレーキシステムを有する車両。
【請求項12】
請求項に記載の車両駐車ブレーキを有する車両。
【請求項13】
コンピュータプログラム製品が請求項に記載の制御装置で進行するときに請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法の各ステップを実行するように設計されたプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駐車ブレーキで少なくとも1つの電気式のブレーキモータの操作によってブレーキ力を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液圧式の車両ブレーキと、電気式のブレーキモータを備える電気機械式の駐車ブレーキとを含む、車両のためのブレーキシステムが記載されている。駐車ブレーキのブレーキモータは、液圧式の車両ブレーキのホイールブレーキユニットに組み込まれている。電気式のブレーキモータは、車両を停止したまま固定するために、ブレーキピストンをブレーキディスクに向かう方向へ位置調節する。走行中の通常のブレーキプロセスでは、ブレーキピストンは液圧式の車両ブレーキが操作されたときにブレーキ圧によって付勢される。電気式のブレーキモータは、ESPシステム(エレクトロニックスタビリティプログラム)の制御装置によって制御される。
【0003】
特許文献2には、運転者パーキングブレーキ希望を評価するために2つの制御ユニットを含む、車両のための電気機械式のパーキングブレーキを作動させるためのシステムが記載されている。両方の制御ユニットは、パーキングブレーキを操作するためのアクチュエータと接続されている。不具合が発生したとき、エネルギーの供給を受ける制御ユニットがアクチュエータを制御して、相応の運転者パーキングブレーキ希望が出ない限り、車両がパーキング位置で固定されるようにする。
【0004】
特許文献3には、自動車のための自動的なパーキング・動き出しロックを具体化するための制御デバイスが記載されている。この制御デバイスは、制御装置と、ベルトバックルセンサ、着席センサ、および/またはエンジンフードセンサもしくはトランクリッドセンサのセンサ信号に基づいて運転者が車両を離れていること、または離れることを希望していることが確認されたときに制御装置により制御されるアクチュエータとを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第102004004992A1号明細書
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第102007059685A1号明細書
【特許文献3】欧州特許第1063453B1号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明の方法により、車両駐車ブレーキで少なくとも1つの電気式のブレーキモータの操作によってブレーキ力を生成することができる。このブレーキ力は、車両を停止したまま固定し、不慮の動き出しに対して防護するための役目を果たす。場合により、車両駐車ブレーキによって車両の走行中にブレーキ力を生成することもでき、それにより、走行している車両の速度が低減され、それは特に低い速度領域のときであり、たとえば運転者による、または自動式に実行されるパーキングプロセス中である。
【0007】
走行が関係する車両駐車ブレーキは少なくとも2つの制御装置を含んでおり、これらを通じて駐車ブレーキの少なくとも1つのブレーキモータを制御可能である。ブレーキモータはホイールブレーキユニットに配置されるのが好ましく、ブレーキピストンをブレーキディスクに向かって位置調節する。ホイールブレーキユニットは車両の液圧式の車両ブレーキの構成要素であるのが好ましく、液圧式の車両ブレーキが操作されるとピストンが液圧式のブレーキ圧によってブレーキディスクに向かって位置調節される。別案の実施形態では、駐車ブレーキが液圧式の車両ブレーキから独立して別個に構成されることが可能である。
【0008】
車両駐車ブレーキでは、それぞれ1つの制御装置と1つのブレーキモータとを有する2つの制御装置/ブレーキモータユニットが形成される。駐車ブレーキに完全な機能性がある通常の動作のとき、運転者希望として、または運転者アシストシステムにより生起されて存在する相応の要求があるとき、ブレーキ力を生成するために少なくとも1つの制御装置/ブレーキモータユニットが制御される。駐車ブレーキの制御装置は互いに通信し、それにより、1つの制御装置から別の制御装置へ情報をやり取りすることができる。
【0009】
本発明による方法では、第1の制御装置/ブレーキモータユニットが故障したとき、第2の制御装置を通じて自動的に第2の制御装置/ブレーキモータユニットがブレーキ力の生成のために作動する。ブレーキ力のこのような生成は、運転者の行動なしに自動化された自動式の仕方で行われるが、それは、追加の条件として車両速度が割り当てられた限界値を下回っており、および/または車両の特性量が、すでに生じている、もしくは少なくとも目前に迫っている車両の停止を示唆している限りにおいてである。このようなケースについてのみ、同じく機能性のあるブレーキモータとともに第2の制御装置/ブレーキモータユニットを形成する機能性のある第2の制御装置を通じて、少なくとも1つのブレーキモータの自動的な制御が行われる。この追加の条件は、車両がすでに停止しているか、または少なくとも速度限界値を下回る比較的低い速度でのみ動いていることを保証する。
【0010】
速度への着目の代替として、速度と対応する車両の走行状態量を援用することもでき、そこから直接的または間接的に車両速度を推定することもできる。たとえば周辺区域センサ装置を通じて、センサ情報が変化しているか否か、どのような形で変化しているかを判定することができる。
【0011】
車両速度またはこれに対応する走行状態量への着目は、基本的に、車両停止または車両の低い速度を判断するために十分である。その追加または代替として、車両の少なくとも1つの特性量を分析するのが好都合な場合もあり、生じている、または目前に迫っている車両停止をそこから推定することができる。その場合、たとえばイグニション状態、ドア接触スイッチの状態、着席認識ユニットの状態、またはベルトバックルの状態などを考慮することができる。たとえばイグニション状態「オフ」は車両停止を示唆し、開いている車両ドアや開いているトランクリッドも同様であり、このことは相応の接触スイッチによって判定可能である。着席認識ユニットから、運転席が占有されているか否かを判断することができ、それにより手動の走行モードのケースでは、運転席が占有されていないときは車両停止を推定することができる。運転席のベルトバックルの最新の状態も運転席の占有について少なくとも補助的な示唆をもたらし、開いているベルトバックルは占有されていない運転席を推定させ、または、少なくとも運転者が車両から離れる意図を推定させる。
【0012】
生じている、または目前に迫っている車両停止を示唆する特性量を、場合により車両速度と、または車両速度と対応する走行状態量と、または相互に組み合わせることができ、それによって、すでに生じている車両停止または目前に迫っている車両停止の認識にあたって、いっそう高い程度の確実性が得られる。
【0013】
基本的に、ちょうど2つの制御装置とちょうど1つの電気式のブレーキモータを車両駐車ブレーキに配置すれば足りる。第1の制御装置/ブレーキモータユニットは、このケースでは第1の制御装置とブレーキモータにより形成され、第2の制御装置/ブレーキモータユニットは第2の制御装置とブレーキモータとで形成され、それによりブレーキモータは両方の制御装置/ブレーキモータユニットの構成要素となる。故障発生のとき−1つの制御装置の不具合、または制御装置への通信回線ないしエネルギー供給回線の不具合のとき−、機能性のあるブレーキモータとともに第2の制御装置/ブレーキモータユニットを形成する異常のない他方の制御装置への切換がなされ、これを通じて、他の条件が整っている場合には自動的にブレーキ力が生成される。
【0014】
好ましい実施形態では、全部でちょうど2つの制御装置とちょうど2つのブレーキモータが駐車ブレーキに存在する。第1の制御装置と第1のブレーキモータが第1の制御装置/ブレーキモータユニットを形成し、第2の制御装置とブレーキモータが第2の制御装置/ブレーキモータユニットを形成する。通常の場合には−駐車ブレーキのすべてのコンポーネントに完全に異常のない機能性があるときには−、第1および第2の両方の制御装置/ブレーキモータユニットを通じて車両を固定するための、または車両を制動するためのブレーキ力を生成することができる。両方のブレーキモータは、左と右の車両ホイールで共通の車両アクスルに据え付けられるのが好ましい。
【0015】
このとき、それぞれの制御装置が相互に通信をして、一方の制御装置から他方の制御装置へ情報が転送されるのが好ましい。たとえば、第1の制御装置はマスタ制御装置を形成し、第2の制御装置はスレーブ制御装置を形成することが可能であり、マスタ制御装置は、駐車ブレーキのコンポーネントに完全な機能性があるとき、車両状態ないし走行状態を評価し、たとえば車両速度と、駐車ブレーキの操作に関する運転者の希望とを評価して、これらの情報をスレーブ制御装置へ転送し、その後は両方の制御装置/ブレーキモータユニットが好ましくは同期した仕方で操作される。このとき駐車ブレーキはブレーキ力の引き上げのために閉じることができ、ブレーキ力の引き下げのために開くことができ、または制御なしに保たれる。
【0016】
制御装置/ブレーキモータユニットをもはや利用することができず、または各制御装置の間の通信に障害があり、その利用不能性が制御装置の不具合だけでなくブレーキモータでの不具合にも関わっている故障発生のとき、残りの異常のない制御装置/ブレーキモータユニットがブレーキ力の自動的な生成を担うが、それは、車両速度または生じている、ないしは目前に迫っている車両停止に鑑みて追加条件が満たされている限りにおいてである。たとえば各制御装置の間の通信に障害があるとき、マスタ制御装置を含む制御装置/ブレーキモータユニットだけがブレーキ力の生成のために制御される。別案として、各制御装置の間の通信に障害があるとき、スレーブ制御装置を含む制御装置/ブレーキモータユニットだけをブレーキ力の生成のために制御することができ、または、さらに別の代替案では、マスタ制御装置とスレーブ制御装置の両方をそれぞれブレーキ力の生成のために互いに独立して制御することができる。
【0017】
制御装置またはブレーキモータに不具合が生じたとき、まだ異常がないそれぞれ他方の制御装置/ブレーキモータユニットが、ブレーキ力の自動的な生成のために作動化される。このとき異常のない制御装置は、これに付属する異常のないブレーキモータを制御する。
【0018】
一方の制御装置/ブレーキモータユニットの故障時に、第2の制御装置/ブレーキモータユニットを通じて自動的にブレーキ力が生成されるか否かを決定するために、車両速度またはこれと対応する走行状態量が着目される場合、車両速度に関する情報は、車両に携行されているセンサ装置を通じて、たとえばESPシステム(エレクトロニックスタビリティプログラム)のセンサ装置を通じて判定されるのが好ましい。
【0019】
別の好ましい実施形態では、自動的なブレーキ力生成は、車両停止が認識されてから定義されたタイムスパンが経過した後で初めて実行される。第2の異常のない制御装置/ブレーキモータユニットのこのような時間遅延された操作によって、たとえば車庫入れプロセスでパーキングプロセスが完了したときに初めて駐車ブレーキがブレーキ力を生成するという利点が実現される。このことは、運転者によって実行される駐車についてだけでなく、運転者が場合により車両の外にいることもある、自動化されて行われる駐車にも当てはまる。ブレーキ力の時間遅延された作動化により、このような種類の駐車プロセスを快適に実行することができる。
【0020】
自動的なブレーキ力が生成されるために車両停止の認識から経過しなければならないタイムスパンは、固定的に設定することができ、たとえば2秒であってよく、または、他の走行状態量や車両のその他の特性量に依存して決定することができる。さらに、時間遅延を表すこのタイムスパンを、運転者により実行される駐車プロセスと、自動化された駐車プロセスのときとで相違する長さに構成することが可能であり、運転者により実行される駐車プロセスのときのほうが、自動化されて実行される駐車プロセスのときよりも時間遅延が長いのが好ましい。
【0021】
さらに別の好ましい実施形態では、発車希望が確認された限りにおいて、自動的なブレーキ力生成に引き続いてブレーキ力が再び自動的に低減される。このような種類の発車希望が成立するのは、たとえば車両の駆動トルクが割り当てられた限界値を上回っている場合である。この実施形態は、車両駐車ブレーキに不具合があるケースについても、車両の利用可能性を高める。駐車ブレーキにより生成されるブレーキ力が自動的に再び低減されるので、車両を希望に即して動かすことができる。
【0022】
制御装置のうちの1つは、たとえば液圧式の車両ブレーキの構成要素である制御装置であり、たとえばESP制御装置(エレクトロニックスタビリティプログラム)であり、これを通じて液圧式の車両ブレーキのバルブや、ブレーキシステムの液圧ポンプを制御することができる。ESP制御装置は、制御装置/ブレーキモータユニットの制御装置としての追加の機能を担う。これは特にマスタ制御装置である。
【0023】
第2の制御装置は、同じく液圧式の車両ブレーキの制御装置であるのが好ましく、たとえば、たとえばiBoosterなどの液圧式の車両ブレーキの電気操作可能なブレーキ倍力装置の制御装置である。この第2の制御装置は第2の制御装置/ブレーキモータユニットの構成要素であり、特にスレーブ制御装置の機能を担う。
【0024】
さらに本発明は、駐車ブレーキの調整可能なコンポーネントを、特に好ましくは2つの電気式のブレーキモータを制御するための制御装置システムないし少なくとも2つの制御装置の組み合わせに関する。
【0025】
さらに本発明は、少なくとも2つの制御装置と、制御装置を通じて制御可能な少なくとも1つのブレーキモータ、好ましくは2つのブレーキモータとを有する、停止時に車両を固定するための車両駐車ブレーキに関する。少なくとも1つの電気式のブレーキモータは、ブレーキ力を生成するために、ブレーキディスクに向かう方向へブレーキピストンを位置調節する。
【0026】
車両駐車ブレーキは、液圧式の車両ブレーキをさらに含む車両のためのブレーキシステムの構成要素であってよい。車両ブレーキの液圧式のブレーキ圧と、駐車ブレーキの電気式のブレーキモータとが同じブレーキピストンに対して作用するのが好ましい。
【0027】
さらに本発明は、上に説明した車両駐車ブレーキを有する車両に関する。別の実施形態では、本発明は、液圧式の車両ブレーキと上に説明した車両駐車ブレーキとを含むブレーキシステムを有する車両に関する。
【0028】
さらに本発明は、上に説明した方法ステップを実行するために設計されたプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品に関する。コンピュータプログラム製品は制御装置で進行する。
【0029】
その他の利点や好都合な実施形態はその他の請求項、図面の説明、および図面から明らかとなる。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】電気式のブレーキモータを駐車ブレーキの一部として追加的に装備するホイールブレーキユニットを有する液圧式の車両ブレーキを示す模式図である。
図2】電気式のブレーキモータを有する駐車ブレーキを示す断面図である。
図3】2つの電気式のブレーキモータとそれぞれ1つの制御装置とを有する駐車ブレーキを示す原理図である。
図4】駐車ブレーキのコンポーネントが故障したときに駐車ブレーキの操作によってブレーキ力を生成するための方法ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
各図面では、同じ構成部品には同じ符号が付されている。
【0032】
図1に示す車両のためのブレーキシステムは、車両の各々のホイールにあるホイールブレーキユニット9へ、液圧のもとにあるブレーキ液を供給して制御するためのフロントアクスルブレーキ回路2とリアアクスルブレーキ回路3とを有する液圧式の車両ブレーキ1を含んでいる。これらのブレーキ回路は、それぞれフロントホイールと、これに対して対角線上に配置されたリアホイールとを有する2つのダイアゴナルブレーキ回路として構成されていてもよい。
【0033】
両方のブレーキ回路2,3は共通のマスタブレーキシリンダ4に接続されており、このマスタブレーキシリンダはタンデム型シリンダとして施工され、ブレーキ液備蓄容器5を介してブレーキ液が供給される。マスタブレーキシリンダ4の内部のマスタブレーキシリンダピストンが運転者によりブレーキペダル6を介して操作され、運転者により及ぼされるペダルストロークがペダルストロークセンサ7を通じて測定される。ブレーキペダル6とマスタブレーキシリンダ4の間に、たとえば伝動装置を介してマスタブレーキシリンダ4を操作する電気モータを含むブレーキ倍力装置10がある(iBooster)。ブレーキ倍力装置10は、液圧式のブレーキ圧に影響を及ぼすための能動的なブレーキコンポーネントである。
【0034】
ペダルストロークセンサ7により測定されたブレーキペダル6の位置調節運動は、センサ信号としてブレーキシステムの制御装置11に伝送され、そこでブレーキ倍力装置10の制御のための位置調節信号が生成される。ホイールブレーキユニット9へのブレーキ液の供給は、各々のブレーキ回路2,3で、他の集成装置とともにブレーキ液圧系8の一部であるさまざまな切換弁を介して行われる。さらにブレーキ液圧系8には、さらに別の制御装置に付属する、エレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)の構成要素である液圧ポンプが属している。この液圧ポンプも、液圧式のブレーキ圧に影響を及ぼすための能動的なブレーキコンポーネントである。
【0035】
図2には、車両のリアアクスルのホイールに配置されたホイールブレーキユニット9が詳細に示されている。ホイールブレーキユニット9は液圧式の車両ブレーキ1の一部であり、リアアクスルブレーキ回路からブレーキ液22の供給を受ける。さらにホイールブレーキユニット9は、車両を固定するための駐車ブレーキないしパーキングブレーキの一部であるが、車両が動いているときにも、特に速度限界値を下回る低い車両速度のとき、車両を制動するために利用することができる電気機械式のブレーキ装置を有している。このような種類のホイールブレーキユニット9は、場合により、車両のフロントアクスルのホイールにも配置されていてよい。
【0036】
電気機械式のブレーキ装置は、ブレーキディスク20を取り囲むキャリパ19を有するブレーキキャリパ12を含んでいる。ブレーキ装置はアクチュエータとして、直流モータをブレーキモータ13として備えるモータ伝動装置ユニットを有しており、このブレーキモータのロータシャフトが、スピンドルナット15が回転不能に支承されたスピンドル14を回転駆動する。スピンドル14が回転すると、スピンドルナット15が軸方向に位置調節される。スピンドルナット15は、ブレーキピストン16によりブレーキディスク20に対して押圧されるブレーキライニング17の支持体であるブレーキピストン16の内部で動く。ブレーキディスク20の向かい合う側には、キャリパ19に定置に保持される別のブレーキライニング18がある。ブレーキピストン16はその外面で取り囲むシールリング23により、収容をするハウジングに対して圧力密に封止されている。
【0037】
ブレーキピストン16の内部で、スピンドル14が回転運動をしたときにスピンドルナット15が軸方向でブレーキディスク20に向かう方向へ前方に向かって動き、ないしは、スピンドル14がこれと反対向きに回転運動したときにリミットストッパ21に達するまで軸方向で後方に向かって動く。
【0038】
クランプ力を生成するために、スピンドルナット15がブレーキピストン16の内側の端面を付勢し、それにより、軸方向へスライド可能にブレーキ装置に支承されているブレーキピストン16がブレーキライニング17をもって、ブレーキディスク20の向かい合う端面に向かって押圧される。スピンドルナット15は、ブレーキモータとブレーキピストンの間の伝達部材をなす。
【0039】
液圧式のブレーキ力のために、ブレーキピストン16に対して液圧式の車両ブレーキ1からブレーキ液22の液圧が作用する。この液圧は車両停止時にも、電気機械式のブレーキ装置が操作されるときに補助的に有効となることができ、それにより全体ブレーキ力は、電気機械式に生じる割合と液圧の割合とを合わせたものとなる。車両の走行中には、ブレーキ力を生成するために、液圧式の車両ブレーキだけがアクティブになるか、または、液圧式の車両ブレーキと電気機械式のブレーキ装置の両方がアクティブになるか、または電気機械式のブレーキ装置だけがアクティブとなる。液圧式の車両ブレーキ1と電気機械式のブレーキ装置の両方の調整可能なコンポーネントの制御のための調節信号は、ブレーキ倍力装置10(iBooster)の制御装置11ないしESP制御装置24である制御装置11,24で生成される。
【0040】
駐車ブレーキは、図2の電気機械式のブレーキ装置を車両の両方のリアホイールにそれぞれ含んでいる。たとえば左側のリアホイールにある一方のブレーキ装置にESP制御装置24が付属し、他方のブレーキ装置にブレーキ倍力装置10の制御装置11が付属する。
【0041】
図3には駐車ブレーキが模式的に示されている。駐車ブレーキは、両方の電気機械式のブレーキ装置25aおよび25bを車両の左側と右側のリアホイールに含んでおり、各々の電気機械式のブレーキ装置25a,25bにそれぞれ電気式のブレーキモータ13a,13bが属している。ブレーキ装置25aはたとえば左側のリアホイールのブレーキ装置であり、ブレーキ装置25bは車両の右側のリアホイールのブレーキ装置である。
【0042】
それぞれのブレーキモータ13aないし13bを制御するために、ブレーキ装置25aにESP制御装置24が属しており、ブレーキ装置25bにiBooster制御装置11が属している。各々の制御装置11,24は、停止マネジメントユニット26a,26bと、ロジックユニット27a,27bと、ハードウェアユニット28a,28bとを含んでいる。停止マネジメントユニット26a,26bは車両の他のユニット29および30から信号を受信し、ユニット29は駐車ブレーキスイッチであり、ユニット30は車両センサ装置ないし車両周辺区域センサ装置である。ESP制御装置24の停止マネジメントユニット26aは、駐車ブレーキスイッチ29とセンサ装置30の信号をいずれも受信する。それに対してiBooster制御装置11の停止マネジメントユニット26bはセンサ装置30の信号だけを受信し、駐車ブレーキスイッチ29の信号は受信しない。
【0043】
制御装置11,24のロジックユニット27a,27bは、それぞれのブレーキモータ13a,13bを制御するための制御ロジックを含んでおり、特に制御装置のソフトウェアとして具体化される。
【0044】
ハードウェアユニット28a,28bは、ブレーキモータ13a,13bへ供給をするためのパワーエレクトロニクス、たとえばHブリッジを含んでいる。
【0045】
駐車ブレーキスイッチ29の操作を通じて、運転者は、両方の電気機械式のブレーキ装置25aおよび25bを有する駐車ブレーキを作動化させるためのリリース信号を手動で生成することができる。駐車ブレーキスイッチ29のリリース信号は、ESP制御装置24の停止マネジメントユニット26aへ入力信号として供給される。リリース信号は通常のケース−両方の制御装置11,24に完全な機能性があるとき−には、ESP制御装置24の停止マネジメントユニット26aからiBooster制御装置11の停止マネジメントユニット26bへと伝達され、それにより、リリース信号を両方の制御装置11,24で利用することができ、それに応じて両方の制御装置11,24を通じて該当する電気式のブレーキモータ13a,13bが制御される。
【0046】
一方の制御装置が故障しているとき、それに応じてそれぞれのブレーキモータも故障するが、第2の制御装置が異常なく保たれている限り、それぞれ他方の電気機械式のブレーキ装置の機能性は維持される。
【0047】
iBooster制御装置11が故障しているとき、第1の電気機械式のブレーキ装置25aは、リリース信号が生じたときに、パワーエレクトロニクス28aを介して電気式のブレーキモータ13aに供給をするESP制御装置24によって制御される。
【0048】
ESP制御装置24が故障しているとき、第2の電気機械式のブレーキ装置25bの第2の電気式のブレーキモータ13bは、iBooster制御装置11によって制御することができる。ただしこのケースでは、駐車ブレーキスイッチ29のリリース信号は利用できないので、車両センサ装置ないし車両周辺区域センサ装置30から得られる代替のリリース信号が生成されなければならない。たとえば車両停止に関する情報を車両の駆動エンジンあるいは周辺区域センサ装置から得て、リリース信号として援用することができる。
【0049】
場合によりセンサ装置30は車両のさらに別の入力システム、たとえば接触感応式のスクリーンなども含んでおり、これを通じて運転者は駐車ブレーキスイッチ29に関わりなく駐車ブレーキの作動をリリースすることができる。
【0050】
さらに制御装置11,24を通じて、その他のさまざまなユニットを制御可能である。たとえば一方または両方の電気機械式のブレーキ装置25a,25bが操作されたときに、ブレーキランプ31a,31bを操作することができる。ブレーキ装置25a,25bの間のさらに別の通信がインターフェースユニット32a,32bを介して行われる。さらに各々の制御装置は、それぞれの診断ユニット33a,33bに情報を供給する。自動的に実行されるべき駐車プロセスのとき、または場合によりそれ以外のブレーキプロセスのときにも、ESP制御装置24を通じて液圧式のブレーキ力補助をESPポンプ34を介して行い、およびiBooster制御装置11を通じて電気機械式の補助をブレーキ倍力装置ないしiBooster10を介して行うことができる。
【0051】
それぞれの制御装置11,24は、ブレーキ力の生成のために、特に停止時の車両の固定のために、付属のブレーキモータ13とともに制御装置/ブレーキモータユニットを形成する。1つの制御装置/ブレーキモータユニットが故障したとき、異常のない残りの制御装置/ブレーキモータユニットがブレーキ力を生成することができる。制御装置/ブレーキモータユニットのうちの1つにおける故障は、付属の制御装置だけでなく付属のブレーキモータも含み得る。さらに、制御装置11,24の間の通信が断絶し、そのために制御装置24から制御装置11へ信号を伝送できなくなることが起こり得る。
【0052】
図4には、制御装置/ブレーキモータユニットが、または制御装置間の通信が故障したケースについて、駐車ブレーキの操作によってブレーキ力を生成するためのさまざまな方法ステップを含むフローチャートが詳細に示されている。この方法では、車両速度が限界値を下回っている限りにおいて、または、生じている、もしくは目前に迫っている車両停止を車両の特性量が示唆している限りにおいて、残りの制御装置/ブレーキモータユニットが自動的に作動化される。
【0053】
図4では、まず第1の方法ステップ40で、制御装置/ブレーキモータユニットが故障しているかどうか、または制御装置間の通信が断絶しているかどうかがチェックされる。制御装置/ブレーキモータユニットの故障は、制御装置の故障だけでなく、ブレーキモータの故障、ないしは信号伝送や電流伝送における断絶も対象となる。第1の方法ステップ40での照会で、制御装置/ブレーキモータユニットの故障または制御装置間の通信の断絶が実際に生じていることが判明すると、イエス分岐(「Y」)に従って次の方法ステップ41へと進む。そうでない場合、完全な機能性が成立しており、ノー分岐(「N」)に従って再び方法ステップ40の照会へと戻り、これが周期的な間隔をおいてあらためて実行される。
【0054】
駐車ブレーキに不具合があるときに実行される方法ステップ41で、車両速度またはこれに対応する走行状態量が割り当てられた限界値を下回っているかどうかの照会が行われる。限界値は最高10km/hのオーダーであるのが好ましい。
【0055】
走行状態量への着目の追加または代替として、生じている、または目前に迫っている車両停止を示唆する特性量、たとえば車両の駆動エンジンのイグニション状態、特に運転席ドアのドア接触スイッチの状態、運転席についての着席認識ユニットの状態、または運転席ベルトについてのベルトバックルの状態などに着目することもできる。トランクルームの接触スイッチの状態を考慮することも可能である。相応の特性量が、停止している車両または目前に迫っている車両停止を示唆しているとき、たとえば運転席ドアが開いているときやトランクリッドが開いているとき、異常のない制御装置/ブレーキモータユニットを自動的に制御する本発明の方法のために、この情報を同じく利用することができる。好ましい実施形態では、車両速度が割り当てられた限界値を下回っているかどうかチェックされるだけでなく、生じている、または目前に迫っている車両停止を示唆する1つまたは複数の特性量も考慮される。それにより、ブレーキ力の自動的な生成の観点からの確実性と妥当性が向上する。
【0056】
ステップ41での照会により、車両速度が割り当てられた限界値を下回っておらず、および/または着目する車両の特性量が、生じている、または目前に迫っている車両停止を示唆していないことが判明すると、ノー分岐に従って再び方法ステップ41の開始まで戻り、このステップが周期的な間隔をおいてあらためて実行される。そうでない場合、ステップ41で条件のうちの1つが、またはいくつかの異なる条件が満たされているとき、イエス分岐に従って次のステップ42へと進む。
【0057】
方法ステップ41での照会のイエス出口に到達した場合、原則として、異常のない制御装置/ブレーキモータユニットを自動的に作動化させてブレーキ力を生成することができる条件が整っている。しかし快適性の理由から、方法ステップ42の対象である時間遅延がさらに考慮される。ここでは車両停止の認識後に定義されたタイムスパンが待機されてから、制御装置/ブレーキモータユニットの制御によってブレーキ力が自動的に生成される。方法ステップ42でのタイムスパンの待機によって、特に駐車プロセス中や出庫プロセス中に車両で高度の走行快適性が実現される。
【0058】
ステップ42での照会により、定義されたタイムスパンがまだ経過していないことが判明すると、ノー分岐に従って再びステップ42の開始まで戻り、このステップ42が周期的な間隔をおいてあらためて実行される。それに対して、定義されたタイムスパンが経過したことが照会で判明すると、イエス分岐に従って次の方法ステップ43へと進み、そこで異常のない制御装置/ブレーキモータユニットが作動化されて、ブレーキ力が自動的に生成される。
【0059】
次の方法ステップ44で、駐車ブレーキによるブレーキ力生成の中止につながる条件が照会される。駐車ブレーキによる自動的なブレーキ力生成は、方法ステップ44でチェックされる1つまたは複数の相応の中止条件が満たされたとき、やはり自動的に再び低減される。これはたとえば車両の駆動エンジンの駆動トルクである。駆動トルクが割り当てられた限界値を上回っていないとき、駐車ブレーキのブレーキ力は維持されたままとなり、ノー分岐に従って再びステップ44の照会の開始まで戻り、この照会が周期的な間隔をおいてあらためて実行される。それに対してステップ44の照会により、駆動トルクが割り当てられた限界値を超えていることが判明すると、車両走行が再び開始されるべきであると考えざるを得ず、これを受けてイエス分岐に従ってステップ45へと進み、駐車ブレーキのブレーキ力が自動的に再び低減される。
【符号の説明】
【0060】
1 液圧式の車両ブレーキ
11 制御装置
13 ブレーキモータ
16 ブレーキピストン
20 ブレーキディスク
24 制御装置
図1
図2
図3
図4