特許第6893361号(P6893361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人 富山県立大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893361
(24)【登録日】2021年6月3日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】ヒドロキシニトリルリアーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20210614BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20210614BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20210614BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20210614BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20210614BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   C12N15/60
   C12N15/63 ZZNA
   C12N9/88
   C12P13/00
   C12N1/21
   C12N5/10
【請求項の数】16
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2018-503346(P2018-503346)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017007910
(87)【国際公開番号】WO2017150560
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-38640(P2016-38640)
(32)【優先日】2016年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究(ERATO)浅野酵素活性分子プロジェクト
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】浅野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】山口 拓也
【審査官】 玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−217590(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/041226(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/133462(WO,A1)
【文献】 PNAS, 2015, Vol.112, pp.10605-10610
【文献】 PNAS, 1999, Vol.96, pp. 13703-13708
【文献】 Microbial Cell Factories, 2012, Vol.11, No.56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 1/21
C12N 5/07
C12N 9/88
C12P 13/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(以下、HNL)遺伝子の製造方法であって、
ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子から、ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列TAX1DIX2G(配列番号15)(但し、X1はL又はFであり、X2はR又はKである)をコードする塩基配列およびVPNGDKIH(配列番号16)をコードする塩基配列の少なくとも一方を有する遺伝子を選択することを含み、
前記遺伝子の選択が、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子を鋳型として、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列からなる少なくとも1つのDNAをプライマーとして用いてPCRを行うことにより実施されるか、又は
前記遺伝子の選択が、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子を鋳型として、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAをプローブとして用いて、DNA−DNAハイブリダイゼーションを行うことにより実施される、
方法。
【請求項2】
ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子が、ヤスデ網に属する生物より抽出したゲノムDNA、又は、ヤスデ網に属する生物より抽出したRNAより逆転写で得られるcDNAである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プライマーが、下記の縮重プライマーHNL−FW及びHNL−RVまたはHNL−FW2及びHNL−RV2である請求項に記載の方法。
HNL−FW:CTGCAACTGCATTGGAMATTCAAGG(配列番号21)、
HNL−RV:ATGAATCTTRTCRCCGTTTGGAAC(配列番号22)
HNL−FW2:SSAACTGCATTGGAYATMMRAGG(配列番号23)
HNL−RV2:ATGAATCTTRTCRCCRTTTGGRAC(配列番号24)
【請求項4】
ヤスデ網に属する生物が、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、ヘラババヤスデ、キシャヤスデ、ミドリババヤスデ、またはアマビコヤスデである請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ヤスデ由来HNLの製造方法であって、
請求項1〜のいずれか1項に記載の方法でヤスデ由来HNL遺伝子を調製し、
得られたHNLの遺伝子を、宿主細胞内で発現させて、HNLを得ることを含む前記方法。
【請求項6】
前記宿主細胞が、昆虫培養細胞である請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記宿主細胞が、ジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
下記(4)〜()の何れかの塩基配列を有する遺伝子。
(4)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列を有し、HNL活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;又は
(5)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列において1から50個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、HNL活性を有するタンパク質をコードする塩基配
【請求項9】
請求項に記載の遺伝子をベクター中に含むプラスミド。
【請求項10】
請求項に記載の遺伝子をベクター中に含むプラスミドを発現可能に含む宿主からなる形質転換体であって、前記宿主は、昆虫培養細胞、又はジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌である、形質転換体。
【請求項11】
ヤスデ由来HNLの製造方法であって、
請求項10に記載の形質転換体を培養し、培養物からHNLを分離することを含む、HNLの製造方法。
【請求項12】
宿主が昆虫培養細胞であり、HNL遺伝子が、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、ヘラババヤスデ、キシャヤスデ、ミドリババヤスデ、またはアマビコヤスデ由来HNL遺伝子である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
宿主がジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌であり、HNL遺伝子が、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデまたはキシャヤスデ由来HNLの遺伝子である、請求項11に記載の前記方法。
【請求項14】
下記(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有し、かつHNL活性を有するタンパク質。
(1)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列;
(2)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列において1から10個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【請求項15】
下記(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有し、かつHNL活性を有する請求項14に記載のタンパク質。
(1)配列表の配列番号85又は87に記載のアミノ酸配列;
(2)配列表の配列番号85又は87に記載のアミノ酸配列において1から10個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列表の配列番号85又は87に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【請求項16】
アルデヒドまたはケトンとシアン化水素または反応系においてシアン化物イオンを生成する物質とを含む反応溶媒にヤスデ由来HNLを作用させる光学活性シアノヒドリンを調製することを含む、光学活性シアノヒドリンの製造方法であって、
前記ヤスデ由来HNLが、請求項14若しくは15に記載のタンパク質であるか、または請求項10に記載の形質転換体中で発現したHNLである、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)遺伝子のクローニング法、これらの遺伝子の発現により生産された酵素、及び発現酵素を用いた光学活性シアノヒドリンの製造方法に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2016年3月1日出願の日本特願2016−038640号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
光学活性シアノヒドリンは、医薬やファインケミカルの製造において重要な中間体である。シアノヒドリンの製造方法としては、アルデヒドまたはケトンとシアニドドナーにヒドロキシニトリルリアーゼを作用させる方法が提唱されている(特許文献1)。ヤンバルトサカヤスデから見出された(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼは、植物から見出されてきたヒドロキシニトリルリアーゼよりも、高い比活性と、熱とpHに対する優れた安定性を有している(特許文献2、非特許文献1)。
【0003】
特許文献1:日本特開2000−217590号公報
特許文献2:日本特開2015−167477号公報
【0004】
非特許文献1:Dadashipurら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 112, 10605−10610 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2において、ヤンバルトサカヤスデから見出された(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼは酵母で発現されているが、その発現量は微量で、大腸菌での発現系は構築されておらず、その大量調製は困難であった。
【0006】
他のヤスデもヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)を有しているのではないかと推察はされるが、酵素及び酵素遺伝子は見出されておらず、他のヤスデ由来HNL遺伝子のクローニング法は確立されていない。
【0007】
そこで本発明は、ヤンバルトサカヤスデ以外のヤスデ由来のHNL遺伝子及びHNLを得る(提供する)こと、さらに、得られたるHNLの発現系を確立して、実用的に使用できる量のHNLを提供できる手法を提供することを目的とする。さらに本発明は、提供されたHNLを用いた光学活性シアノヒドリンの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。
本発明者らは、ヤスデ由来HNL遺伝子間で保存された配列から、特定の配列の縮重プライマーを用いることで、様々なヤスデからHNL遺伝子をクローニングすることができることを見出し、この方法により、様々なヤスデからHNL遺伝子及びHNLを得た。さらに、昆虫培養細胞及び特定の大腸菌を用いることで、新たに見出されたHNL遺伝子を発現させ、HNLを製造し得ることを見出した。加えて、発現させたHNLを用いて、光学活性シアノヒドリンを製造できることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下の通りである。
[1]
ヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(以下、HNL)遺伝子の製造方法であって、
ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子から、ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列TAX1DIX2G(配列番号15)(但し、X1はL又はFであり、X2はR又はKである)をコードする塩基配列およびVPNGDKIH(配列番号16)をコードする塩基配列の少なくとも一方を有する遺伝子を選択することを含む方法。
[2]
前記遺伝子の選択が、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子を鋳型として、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列からなる少なくとも1つのDNAをプライマーとして用いてPCRを行うことにより実施される、[1]に記載の方法。
[3]
前記遺伝子の選択が、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子を鋳型として、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAをプローブとして用いて、DNA−DNAハイブリダイゼーションを行うことにより実施される、[1]に記載の方法。
[4]
前記遺伝子の選択が、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子のシーケンシングを行い、シーケンシングされた遺伝子配列の中から、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を選択することにより実施される、[1]に記載の方法。
[5]
ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子が、ヤスデ網に属する生物より抽出したゲノムDNA、又は、ヤスデ網に属する生物より抽出したRNAより逆転写で得られるcDNAである[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]
前記プライマーが、下記の縮重プライマーHNL−FW及びHNL−RVである[2]に記載の方法。
HNL−FW:CTGCAACTGCATTGGAMATTCAAGG(配列番号21)、
HNL−RV:ATGAATCTTRTCRCCGTTTGGAAC(配列番号22)
HNL−FW2:SSAACTGCATTGGAYATMMRAGG(配列番号23)
HNL−RV2:ATGAATCTTRTCRCCRTTTGGRAC(配列番号24)
[7]
ヤスデ網に属する生物が、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、ヘラババヤスデ、キシャヤスデ、ミドリババヤスデ、またはアマビコヤスデである[1]〜[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8]
ヤスデ由来HNLの製造方法であって、
[1]〜[7]のいずれか1項に記載の方法でヤスデ由来HNL遺伝子を調製し、
得られたHNLの遺伝子を、宿主細胞内で発現させて、HNLを得ることを含む前記方法。
[9]
前記宿主細胞が、
昆虫培養細胞である[8]に記載の方法。
[10]
前記宿主細胞が、
ジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌である、[8]に記載の方法。
[11]
下記(4)〜(6)の何れかの塩基配列を有する遺伝子。
(4)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列を有し、HNL活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
(5)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列において1から50個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、HNL活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;又は
(6)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイスする塩基配列を有し、HNL活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
[12]
[11]に記載の遺伝子をベクター中に含むプラスミド。
[13]
[11]に記載の遺伝子をベクター中に含むプラスミドを発現可能に含む宿主からなる形質転換体であって、前記宿主は、昆虫培養細胞、又はジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌である、形質転換体。
[14]
ヤスデ由来HNLの製造方法であって、
[13]に記載の形質転換体を培養し、培養物からHNLを分離することを含む、HNLの製造方法。
[15]
宿主が昆虫培養細胞であり、HNL遺伝子が、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、ヘラババヤスデ、キシャヤスデ、ミドリババヤスデ、またはアマビコヤスデ由来HNL遺伝子である、[14]に記載の方法。
[16]
宿主がジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌であり、HNL遺伝子が、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデまたはキシャヤスデ由来HNLの遺伝子である、[14]に記載の前記方法。
[17]
下記(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有し、かつHNL活性を有するタンパク質。
(1)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列;
(2)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列において1から50個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
[18]
下記(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有し、かつHNL活性を有する[17]に記載のタンパク質。
(1)配列表の配列番号85又は87に記載のアミノ酸配列;
(2)配列表の配列番号85又は87に記載のアミノ酸配列において1から50個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列表の配列番号85又は87に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
[19]
アルデヒドまたはケトンとシアン化水素または反応系においてシアン化物イオンを生成する物質とを含む反応溶媒にヤスデ由来HNLを作用させる光学活性シアノヒドリンを調製することを含む、光学活性シアノヒドリンの製造方法であって、
前記ヤスデ由来HNLが、[17]若しくは[18]に記載のタンパク質であるか、または[13]に記載の形質転換体である、前記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、様々なヤスデからHNL遺伝子をクローニングすることができる。さらに、昆虫培養細胞や、特定の遺伝子組換え大腸菌を用いて容易に高い比活性と熱安定性を有するヤスデ由来(R)-HNLを調製し、光学活性シアノヒドリンの製造に利用することができる。光学活性シアノヒドリンは医薬やファインケミカルの製造における重要な中間体であることから、本発明は、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、タンバアカヤスデから精製したNttHNLをSDS-PAGEで分析した結果である。レーン1はBroad Range Marker(バイオラッド社製)を、レーン2は精製したタンバアカヤスデ由来HNL(NttHNL)である。
図2図2は、大腸菌から精製したOgraHNLに対する熱とpHの影響を示した図である。Aは至適温度、Bは至適pH、Cは熱安定性、DはpH安定性である。
図3図3は、大腸菌から精製したNtmHNLに対する熱とpHの影響を示した図である。Aは至適温度、Bは至適pHである。
図4】NttHNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)及びNttHNL遺伝子の塩基配列(配列番号2)を示す。
図5】NtmHNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)及びNtmHNL遺伝子の塩基配列(配列番号4)を示す。
図6】OgraHNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号5)及びOgraHNL遺伝子の塩基配列(配列番号6)を示す。
図7】PfalHNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号7)及びPfalHNL遺伝子の塩基配列(配列番号8)を示す。
図8】Pton1HNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号9)及びPton1HNL遺伝子の塩基配列(配列番号10)を示す。:
図9】PlamHNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号11)及びPlamHNL遺伝子の塩基配列(配列番号12)を示す。
図10】RspHNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号13)及びRspHNL遺伝子の塩基配列(配列番号14)を示す。
図11a】Pton3HNLの至適温度の検討結果を示す。
図11b】Pton3HNLの至適pHの検討結果を示す。
図11c】Pton3HNLの温度安定性の検討結果を示す。
図11d】Pton3HNLのpH安定性の検討結果を示す。
図12a】実施例14における(R)-mandelonitrileの生産結果(pH依存性)を示す。
図12b】実施例14における(R)-mandelonitrileの生産結果(濃度依存性)を示す。
図13】PtokHNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号83)及びPtokHNL遺伝子の塩基配列(配列番号84)を示す。
図14】Pton2HNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号85)及びPton2HNL遺伝子の塩基配列(配列番号86)を示す。:
図15】Pton3HNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号87)及びPton3HNL遺伝子の塩基配列(配列番号88)を示す。
図16】RssHNLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号89)及びRssHNL遺伝子の塩基配列(配列番号90)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<HNL遺伝子の製造方法>
本発明は、ヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)遺伝子の製造方法に関する。
この方法は、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子から、ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列TAX1DIX2G(配列番号15)(但し、X1はL又はFであり、X2はR又はKである)をコードする塩基配列およびVPNGDKIH(配列番号16)をコードする塩基配列の少なくとも一方を有する遺伝子を選択することを含む方法である。
【0013】
ヤンバルトサカヤスデ以外のヤスデ由来HNL遺伝子のクローニング法は確立されていなかった。そこで本発明者らは、ヤスデ由来HNL遺伝子間で保存された配列を探索し、その結果、配列番号15および16で示されるアミノ酸配列は、ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列であることを見出した。
配列番号15のヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列は、TAX1DIX2Gであり、X1はL又はFであり、X2はR又はKである。X1およびX2の組合せは4通りある。具体的には、以下の4つである。
TALDIRG(配列番号17)
TALDIKG(配列番号18)
TAFDIRG(配列番号19)
TAFDIKG(配列番号20)
配列番号16のヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列は、VPNGDKIHである。
【0014】
上記保存アミノ酸配列コードする塩基配列に制限はないが、例えば、後述する縮重プライマーHNL−FW(配列番号21)及びHNL−RV(配列番号22)、並びに縮重プライマーHNL-FW2(配列番号23)及びHNL-RV(配列番号24)を挙げることができる。
【0015】
さらに、実施例に示すように、保存アミノ酸配列をコードする塩基配列を有するプライマー(縮重プライマー)を用いることで、初めて、様々なヤスデからHNL遺伝子をクローニングすることができるようになった。
【0016】
実施例では、上記のように縮重プライマーを用いて様々なヤスデからHNL遺伝子をクローニングすることを示したが、本発明は、ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列をコードする塩基配列の少なくとも一方を有する遺伝子を選択することを含む方法であれば、全て包含する。そのような方法の例としては以下の(1)〜(3)の方法を例示できる。
(1)前記遺伝子の選択が、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子を鋳型として、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列からなる少なくとも1つのDNAをプライマーとして用いてPCRを行うことにより実施される方法。
(2)前記遺伝子の選択が、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子を鋳型として、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAをプローブとして用いて、DNA−DNAハイブリダイゼーションを行うことにより実施される方法。
(3)前記遺伝子の選択が、ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子のシーケンシングを行い、シーケンシングされた遺伝子配列の中から、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を選択することにより実施される方法。
【0017】
本発明の方法で用いるヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子は、例えば、ヤスデ網に属する生物より抽出したゲノムDNA、又は、ヤスデ網に属する生物より抽出したRNAより逆転写で得られるcDNAであることができる。ゲノムDNAの抽出方法および、RNAから逆転写によるcDNAの調製方法は、公知の方法を適宜利用できる。
【0018】
方法(1):
鋳型として用いるヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子は上記のように抽出したゲノムDNAまたはcDNAであることができ、好ましくはcDNAであり、これらのDNAを鋳型とし、前記配列番号15および16で示される保存アミノ酸配列をコードする塩基配列からなる少なくとも1つのDNAをプライマーとして用いてPCRを行う。プライマーの塩基配列は、配列番号15および16で示される保存アミノ酸配列をコードするものであれば、制限はないが、例えば、下記の縮重プライマーHNL-FW及びHNL-RV、並びにHNL−FW2及びHNL−RV2を挙げることができる。これら縮重プライマーを用いてPCRを行い、前記生物由来のHNL遺伝子を増幅することができる。
【0019】
HNL−FW:CTGCAACTGCATTGGAMATTCAAGG(配列番号21)、
HNL−RV:ATGAATCTTRTCRCCGTTTGGAAC(配列番号22)
HNL−FW2:SSAACTGCATTGGAYATMMRAGG(配列番号23)
HNL−RV2:ATGAATCTTRTCRCCRTTTGGRAC(配列番号24)
【0020】
方法(2):
鋳型として用いるヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子は上記のように抽出したゲノムDNAまたはcDNAであることができ、好ましくは抽出したゲノムDNAであり、これらのDNAを鋳型とし、前記配列番号15および16で示される保存アミノ酸配列をコードする塩基配列からなる少なくとも1つのDNAをプローブとして用いて、DNA−DNAハイブリダイゼーションを行う。DNA−DNAハイブリダイゼーションは、公知の方法を適宜利用できる。プローブの塩基配列は、配列番号15および16で示される保存アミノ酸配列をコードするものであれば、制限はないが、例えば、前記の縮重プライマーHNL-FW及びHNL-RVと同様の塩基配列又はこれら塩基配列の一部を含む塩基配列であることができる。これらプローブを用いてDNA−DNAハイブリダイゼーションを行い、前記生物由来のHNL遺伝子を得る。DNA−DNAハイブリダイゼーションで得られたHNL遺伝子は、PCRなど公知の増幅方法で適宜増幅することができる。
【0021】
方法(3):
ヤスデ網に属する生物に存在する遺伝子のシーケンシングを行う。シーケンシングを行う対象は、上記のように抽出したゲノムDNAまたはcDNAであることができる。シーケンシングの方法は公知の方法を適宜利用することができる。シーケンシングされた遺伝子配列の中から、前記保存アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を選択する。
【0022】
ヤスデ科に属する生物には限定はない。ヤスデ網に属する生物には、例えば、オビヤスデ目オビヤスデ科のオビヤスデ、オビヤスデ目ハガヤスデ科のハガヤスデ、オビヤスデ目チビヤスデ科チビヤスデを挙げることができる。
実施例では、オビヤスデ目ヤケヤスデ科に属すウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、オビヤスデ目ババヤスデ科に属すヘラババヤスデ、キシャヤスデ、ミドリババヤスデ、及びアマビコヤスデのHNL遺伝子をクローニングすることができたことを示す。
【0023】
cDNA調製方法及びcDNAを鋳型とするPCR法は、公知の方法である。実施例の記載も参照して、縮重プライマーとして上記HNL−FW及びHNL−RVを用いることで実施できる。
【0024】
<HNL遺伝子>
本発明は、下記(4)〜(6)の何れかの塩基配列を有する遺伝子に関する。
(4)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列を有し、HNL活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
(5)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列において1から50個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、HNL活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;又は
(6)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイスする塩基配列を有し、HNL活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【0025】
(4)の配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88及び90に記載の塩基配列を有する遺伝子は、それぞれ、タンバアカヤスデ、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、ヘラババヤスデ、ミドリババヤスデ、キシャヤスデ、アマビコヤスデの一種、パラホンタリア・タカイタメシス(Parafontaria tokaiensis)、ミドリババヤスデ、ミドリババヤスデ、及びアマビコヤスデ由来のHNL遺伝子である。
【0026】
(4)、(5)、及び(6)に記載の「HNL活性を有するタンパク質」のHNL活性の測定方法は、実施例に示す「(R)-マンデロニトリル合成活性の測定方法」に記載がある。
【0027】
本明細書で言う「1から50個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列」における「1から50個」の範囲は特には限定されないが、例えば、好ましくは1から40個、より好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0028】
配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、HNL活性を有少なくともタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子(以下、これらの遺伝子を変異遺伝子と称する)については、配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。
【0029】
例えば、配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、84、86、88又は90に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて調製することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0030】
上記した「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0031】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の同一性を有するDNAが挙げられ、例えば90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するDNAが挙げられる。
【0032】
本発明の遺伝子の取得方法は特に限定されないが、好ましくは前記本発明のHNL遺伝子の製造方法がある。
【0033】
本発明は、上記本発明の遺伝子をベクター中に含むプラスミドを包含する。さらに本発明は、宿主生物中に、本発明のプラスミドを前記本発明の遺伝子がコードするHNLを発現可能に含む、形質転換体を包含する。前記宿主生物としては、昆虫培養細胞、及びジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌を挙げることができる。
【0034】
本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。好ましくは、ベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて上記遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。即ち、本発明のプラスミドに用いるベクターとしては、宿主生物内で本発明のHNL遺伝子を発現できるものであれば、特に限定されない。このような発現ベクターとして、昆虫培養細胞の場合には、例えば、pFastbac1、BacPAK6、pIEx-1、pBiEx-1などが挙げられる。
【0035】
昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。
【0036】
大腸菌の場合、発現ベクターとしては、例えば、pUC19 (タカラバイオ社製)、pBluescript、pET28、pCDF、pRSF,などが挙げられる。大腸菌で作動可能なプロモータの例としては、例えば、lac、trp若しくはtacプロモータなどが挙げられる。
【0037】
<ヤスデ由来HNLの製造方法>
本発明は、ヤスデ由来HNLの製造方法を包含する。
ヤスデ由来HNLの製造方法(1)は、上記本発明の方法でヤスデ由来HNL遺伝子を調製し、得られたHNLの遺伝子を、昆虫培養細胞を宿主として用いて発現させて、HNLを得ることを含む方法である。
【0038】
ヤスデ由来HNLの製造方法(2)は、上記本発明の方法でヤスデ由来HNL遺伝子を調製し、得られたHNLの遺伝子を、大腸菌を宿主として用いて発現させて、HNLを得ることを含み、前記大腸菌がジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌である、方法である。
【0039】
ヤスデ由来HNLの製造方法(3)は、前記本発明の形質転換体を培養し、培養物からHNLを分離することを含む、HNLの製造方法である。
【0040】
この方法(3)の具体例としては、(3−1)宿主が昆虫培養細胞であり、HNL遺伝子が、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、ヘラババヤスデ、キシャヤスデ、ミドリババヤスデ、またはアマビコヤスデ由来HNL遺伝子である方法、及び(3−2)宿主がジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌であり、HNL遺伝子が、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデまたはキシャヤスデ由来HNLの遺伝子である方法を挙げることができる。
【0041】
ヤスデ由来HNLの製造方法(3−1)は、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、ヘラババヤスデ、キシャヤスデ、ミドリババヤスデ、またはアマビコヤスデ由来HNL遺伝子を昆虫培養細胞を宿主として用いて発現させて、HNLを得ることを含む方法である。
【0042】
ヤスデ由来HNLの製造方法(3−2)は、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデまたはキシャヤスデ由来HNLの遺伝子を、大腸菌を宿主として用いて発現させて、HNLを得ることを含み、前記大腸菌がジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌である方法である。
【0043】
昆虫細胞を宿主として用いる方法(1)及び(3−1)の場合には、公知の方法を用いて組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
【0044】
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W. H. Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法又はリポフェクション法等を挙げることができる。
【0045】
宿主微生物として大腸菌を用いる方法(2)及び(3−2)の場合、ジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌やチオレドキシンレダクターゼとグルタチオンレダクターゼに変異を有する大腸菌を用いる。ジスルフィド結合イソメラーゼ発現能を有する大腸菌としては、実施例で用いた、SHuffle T7を挙げることができる。チオレドキシンレダクターゼとグルタチオンレダクターゼに変異を有する大腸菌としては、Origami及びRosetta-gami系列の大腸菌 (メルクミリポア社製)を挙げることができる。大腸菌の形質転換は、例えば、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行えばよい。
【0046】
上記の形質転換体は、導入された遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、HNLを単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。例えば、HNLが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、HNLを精製標品として得ることができる。
【0047】
<HNL活性を有するタンパク質>
本発明は、下記(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有し、かつHNL活性を有するタンパク質に関する。
(1)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列;
(2)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列において1から50個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87又は89に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【0048】
(1)の配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87及び89に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質は、それぞれ、タンバアカヤスデ、ウマガエシアカヤスデ、ヤケヤスデ、ヘラババヤスデ、ミドリババヤスデ、キシャヤスデ、アマビコヤスデの一種、パラホンタリア・タカイタメシス(Parafontaria tokaiensis)、ミドリババヤスデ、ミドリババヤスデ、及びアマビコヤスデ由来のHNLである。配列番号9、85及び87に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質は、いずれもミドリババヤスデ由来のHNLであるが、採取地が異なる。
【0049】
本発明のHNL活性を有するタンパク質のHNL活性の測定方法は、実施例に示す「(R)-マンデロニトリル合成活性の測定方法」に記載がある。
【0050】
本発明のタンパク質の(2)は、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から50個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有するタンパク質である。ここで言う「1から50個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列」における「1から50個」の範囲は、欠失等を有するタンパク質が、HNL活性を有する酵素であることを意味する。前記「1から50個」の範囲は、前記HNL活性を有するタンパク質である割合が高いという観点から、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、さらに好ましくは1から10個、一層好ましくは1から7個、さらに一層好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度であることができる。
【0051】
本発明のタンパク質の(3)は、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質である。ここで言う「配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列」における同一性は、前記アミノ酸配列の同一性を有するタンパク質が、前記HNL活性を有する酵素である限り、特に限定されない。前記アミノ酸配列の同一性は、90%以上であれば特に限定されないが、好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%、特に好ましくは99%以上である。
【0052】
本発明のHNL活性を有するタンパク質の取得方法は特に制限されず、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換えタンパク質でもよい。本発明のHNL活性を有するタンパク質は、上記HNL活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をベクター上に搭載し、このベクターによって宿主細胞を形質転換した後、形質転換させた宿主細胞を培養して培養物中に前記遺伝子がコードするタンパク質を蓄積し、蓄積したタンパク質を収集することを含む、生産方法により調製することができる。上記HNL活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の取得方法としては、前述の本発明方法を挙げることができる。本発明のタンパク質の調製方法は、例えば、前述の本発明のヤスデ由来HNLの製造方法であることができる。
【0053】
<光学活性シアノヒドリンの製造方法>
本発明は、光学活性シアノヒドリンの製造方法を包含する。
この方法は、アルデヒドまたはケトンとシアン化水素または反応系においてシアン化物イオンを生成する物質とを含む反応溶媒にヤスデ由来HNLを作用させる光学活性シアノヒドリンを調製することを含む。
【0054】
ヤスデ由来HNLが、前記本発明のHNL活性を有するタンパク質であるか、または前記本発明の形質転換体である。本発明のHNL活性を有するタンパク質は、粗酵素であっても精製酵素であっても良い。本発明の形質転換体は、菌体自身であっても、菌体の破砕物等であってもよい。
【0055】
光学活性シアノヒドリンの製造方法は、ヤスデ由来HNLが、本発明のHNL活性を有するタンパク質であるか、または本発明の形質転換体であること以外は、特許文献1に記載の方法を参照できる。
【0056】
本発明の製造方法において、反応基質となるアルデヒドまたはケトンは、例えば、式(I) R1 −(C=O)R2で表される化合物であることができる。
式(I) において、R1 とR2 は、(i)水素原子、(ii)置換または非置換の炭素数1〜18の線状または分枝鎖状の飽和アルキル基、または(iii) 置換または非置換の環員が5〜22の芳香族基である。ただし、R1 とR2 は同時に水素原子を表すことはない。上記(ii)で、R1 とR2 が置換アルキル基の場合、置換基は、1個またはそれ以上のアミノ基、イミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン、カルボキシル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または N 、O、Sのヘテロ原子で置換されていてもよい炭素数22までの芳香属基である(ここで、置換基が環状置換基の場合は、それ自体が1個またはそれ以上のハロゲン、ヒドロキシ基、炭素数1〜8の線状若しくは分枝鎖状のアルキル基、炭素数2〜8の線状若しくは分枝鎖状のアルケニル基で置換されていてもよい。)。上記(iii) で、芳香族基は、環員の4個までがN、Oおよび/またはSによって置換されているヘテロ芳香族基であってもよい。また、R1 とR2 が置換芳香族基の場合、置換基は、1個またはそれ以上のアミノ基、イミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アリルオキシ基、ハロゲン、カルボキシル基、炭素数22までの線状若しくは分枝鎖状の飽和若しくは不飽和のアルキル基である(ここで、一つの芳香族基が少なくとも2個の置換基により置換されてもよい)。
【0057】
上記のアルデヒドまたはケトンを光学活性なシアノヒドリンに変換するためにはシアン化水素を原料として用いるが、シアン化水素の供給方法は、液体として供給する方法、気体として供給する方法のいずれをも採用できる。また、シアン化水素だけではなく、シアン化水素の水溶液であるシアン化水素酸(すなわち青酸)も全く同様に用いることができる。さらに、反応系へ添加することによってシアン化物イオン(CN- ) を生じる物質であれば用いることができ、例えば、シアン化ナトリウムやシアン化カリウムなどのシアン化水素塩、アセトンシアンヒドリンなどのシアノヒドリン類などが挙げられる。
【0058】
反応溶媒としては、反応系内に水が大量に存在すると、酵素反応によって生成した光学活性シアノヒドリンのラセミ化が起こりやすくなったり、水に対する溶解度の小さいアルデヒドまたはケトンを原料として用いる場合には生産効率が低下するなどの点から、水に
難溶または不溶である有機溶媒を主成分としてなる反応溶媒を用いることが好ましい。かかる有機溶媒としては、酵素反応による光学活性シアノヒドリンの合成反応に影響を与えないものであれば特に制限なく用いることができ、合成反応に用いる原料のアルデヒドまたはケト
ンの物性、生成物であるシアノヒドリンの物性に応じて適宜選択することができる。具体的には、ハロゲン化されていてもよい脂肪族または芳香族の直鎖状または分枝状または環状の飽和または不飽和炭化水素系溶媒、例えば、ペンタン、ヘキサン、トルエン、キシレン、塩化メ
チレンなど;ハロゲン化されていてもよい脂肪族または芳香族の直鎖状または分枝状または環状の飽和または不飽和アルコール系溶媒、例えば、イソプルピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−アミルアルコールなど;ハロゲン化されていてもよい脂肪族また
は芳香族の直鎖状または分枝状または環状の飽和または不飽和エーテル系溶媒、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなど;ハロゲン化されていてもよい脂肪族または芳香族の直鎖状または分枝
状または環状の飽和または不飽和エステル系溶媒、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルなどが挙げられ、これらを単独で用いても、また複数を混合して用いてもよい。また、これらの有機溶媒は、pH7 以下の水系緩衝液、例えばク
エン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液などで飽和させてもよい。
【0059】
反応溶媒中のアルデヒドまたはケトンの濃度は0.01mM〜5Mの範囲が好ましく、アルデヒドまたはケトン1モルに対してシアン化水素または反応系においてシアン化物イオンを生成する物質1〜20モル、アルデヒドまたはケトンの濃度に対して1unit/mmol以上の酵素活性を示す量の、例えば、組換え微生物菌体を使用することができる。なお、菌体の酵素活性は、例えば、菌体を水または緩衝液に懸濁させてから破砕し、遠心分離によって得た上澄み液を用い、DL-マンデロニトリルを基質として、基質が酵素によって分解されてベンズアルデヒドを生成する際の吸光度変化を249.6nmの波長で測定することによって算出できる。
【0060】
反応溶媒のpHは、上記有機溶媒を水系緩衝液で飽和させずに用いる場合には調整する必要はないが、水系緩衝液で飽和させて用いる場合には、水系緩衝液のpHを3〜7の範囲、好ましくは3〜6の範囲に調
整する。反応温度は酵素反応によらないラセミシアノヒドリンの副生を抑制するために、酵素活性が発揮される範囲でできる限り低いほうが好ましく、通常0〜50℃、好ましくは10〜45℃とする。
【0061】
反応が終了したならば、反応液と菌体とを分離して反応生成液を得る。この反応生成液から光学活性シアノヒドリン以外の成分を分離することによって、目的の光学活性シアノヒドリンを得る。生成物の分離に
は、蒸留分離、カラムクロマトグラフィー分離、抽出分離など通常用いられる手段で行いうる。このとき、脱水剤などを添加して脱水処理をしたり、安定剤などを添加してもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0063】
(R)−マンデロニトリル合成活性の測定方法
0.4UのHNL、300mM クエン酸緩衝液(pH4〜5)、50mM ベンズアルデヒド、100mM KCNを含む反応液200μl、30〜35℃の温度で5分間行い、HPLCを用いて(R)-マンデロニトリルを定量する。
【0064】
実施例1:タンバアカヤスデ由来HNL(NttHNL)の精製
タンバアカヤスデ、Nedyopus tambanus tambanus(Attems)を富山県立大学内で採集した。ヤスデから粗酵素液を抽出し、以下のようにNttHNLの精製を行った。
【0065】
粗酵素液に、硫酸アンモニウムを35%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを添加した後に、HiTrap Butyl HP(GE ヘルスケア社製)に吸着させ、硫酸アンモニウムの濃度勾配で溶出した。脱塩後、NttHNLをResourceQに吸着させ、NaClの濃度勾配で溶出した。その後、Superdex75 10/300 GL(GEヘルスケア社製)に添加し、PBSで溶出した。精製したNttHNLは(R)−マンデロニトリル合成活性を示し、その比活性は4700U/mgであった。
【0066】
精製したNttHNLのN末端アミノ酸配列解析ならびに内部配列解析を行った。その結果、N末端アミノ酸配列、EEEPLTXDKL、内部アミノ酸配列、EEEP(I/L)TCDQ(I/L)PK、(I/L)QTQAVEVAKを得た。
【0067】
実施例2:NttHNL遺伝子のクローニング
タンバアカヤスデからTRIzol(インビトロジェン社製)を使用してtotal RNAを抽出し、Gene Racer Kit(インビトロジェン社製)を用いてcDNAを合成した。NttHNLのN末端アミノ酸配列と内部配列から縮重プライマーを設計し、NttHNLをコードするcDNAの部分配列をPCRにより増幅した。
縮重プライマー配列:
NttHNL−F:GARGARCCNHTNACNTGYGATAA(配列番号25)、
NttHNL−R:TTYTCNACNGCYTGNGTCTG(配列番号26)
【0068】
増幅したDNAは、pCR-blunt(Invitrogen)へつなぎこみ、インサートの塩基配列を決定した。続いて、内部配列から設計したプライマーを用いて、5’−および3’−RACEを行うことでNttHNLをコードするcDNAの全長の塩基配列を決定した。
プライマー配列:
NttHNL−F1:GTTCCAGTTCCTCCGTTAGAAGATTTT(配列番号27)、
NttHNL−F2:CCCAGGCTGCAACTGCATTGGACATT(配列番号28)、
NttHNL−R1:CTCTGCAATTGCAGAACCATTGCACGTA(配列番号29)、
NttHNL−R1:CCATTTGGGGTGTTCAAATTAGTATATT(配列番号30)
【0069】
続いて、ジーンスペシフィックプライマーを用いてNttHNLをコードする領域をPCRにより増幅し、pCR-bluntへつなぎこみ、塩基配列を決定した。
ジーンスペシフィックプライマー配列:
NttHNL−FW:ATGCTGTTTTACGTTTCGATTCTTCTAG(配列番号31)、
NttHNL−RV:TTAATAGAAAGCAAAACAACCATGGTG(配列番号32)
【0070】
実施例3:ヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子のホモロジークローニング
ウマガエシアカヤスデ(N. tambanus mangaesinus (Attems))、ヤケヤスデ(Oxidus gracilis (C. L. Koch))、ヘラババヤスデ(Parafontaria falcifera (Verhoeff))、キシャヤスデ(P. laminata (Attems))、ミドリババヤスデ(P. tonominea Attems)、アマビコヤスデの1種(Riukiaria sp.)、それぞれ1個体から、前述の方法でtotal RNAを調製し、Gene Racer KitまたはSMART RACE cDNA Amplification Kit(クロンテック社製)を用いてcDNAを合成した。ChuaHNLとNttHNLの相同配列から設計した縮重プライマーを用いてPCRを行うことで、各ヤスデ由来HNL遺伝子の部分配列を増幅した。
縮重プライマー配列:
HNL−FW:CTGCAACTGCATTGGAMATTCAAGG(配列番号17)、
HNL−RV:ATGAATCTTRTCRCCGTTTGGAAC(配列番号18)
【0071】
続いて、部分配列から設計したプライマーを用いて5’−および3’−RACEを行うことで各ヤスデ由来HNLをコードするcDNAの全長の塩基配列を決定した。
プライマー配列:
NtmHNL−F1:TGGTGGACCTAATAACTCCGCCATA(配列番号33)、
NtmHNL−F2:CCCAGATGGAAGTTCATATTGCGCTTA(配列番号34)、
NtmHNL−R1:GAGTGGGTCGGTTCCATTGTTATTAT(配列番号35)、
NtmHNL−R2:GCCATTGCACGTATAAGCGCAATAT(配列番号36)、
OgraHNL−F1:CGTTGGTGGTCCTAATAATTCAGCTAT(配列番号37)、
OgraHNL−F2:CACCAATCTGAACACTCCAAATGGAA、(配列番号38)
OgraHNL−R1:GGATCGGTTCCGTTGTTGTTATTA(配列番号39)、
OgraHNL−R2:CGTATAGGCGCAATAGGAGCTTCCATT(配列番号40)、
PfalHNL−F1:GACTTCACCATTGGTTCTGATTCTAT(配列番号41)、
PfalHNL−F2:CCCCAAGGTGCCAACTATTGTGCATA(配列番号42)、
PfalHNL−R1:CAGCCTGACGTTGTGTAGCTGATATGT(配列番号43)、
PfalHNL−R2:CGGGACCATTGCAAGAGTATGCACAAT(配列番号44)、
PlamHNL−F1:ATTCAAGGAACTCACATAACAATAAATGACTTC(配列番号45)、
PlamHNL−F2:ATGAATCTTGTCACCGTTTGGAACTGATCG(配列番号46)、
PlamHNL−R1:GAGTTGTTTAGGCGATATGTATCCAGTATTC(配列番号47)、
PlamHNL−R2:GAGTTGTTTAGGCGATATGTATCCAGTATTC(配列番号48)、
Pton1HNL−F1:GGTCCCGATGCTATGACGGCCTATTT(配列番号49)、
Pton1HNL−F2:GGTGCCAACTATTGTGCATACTTTT(配列番号50)、
Pton1HNL−R1:GCCTGGAGTTGTTGAGGCGATATGTA(配列番号51)、
Pton1HNL−R2:GGGACCATTGCAAAAGTATGCACAATA(配列番号52)、
RspHNL−F1:CCGGGGCAAAACAGGTTTGGTA(配列番号53)、
RspHNL−F2:GGGTGCCAACTATTGCGCATACTCTT(配列番号54)、
RspHNL−R1:GCCAGTATTGGAAGTGCATTTGTATT(配列番号55)、
RspHNL−R2:CAGGGGATCATCGAGGTCGACATATT(配列番号56)
PtokHNL−F1:GGACAGCCTTTTCGACTAATTGTGAT(配列番号91)
PtokHNL−F2:CCCAAGGTGCCAACTACTGTGCATA(配列番号92)
PtokHNL−R1:GCCTGGAGTTGTTGAGGCGATATGTAT(配列番号93)
PtokHNL−R2:GCAAGAGTAGCCTATGCACAGTAGTTG(配列番号94)
Pton2HNL−F1:CCGATGGTCTGACAGCCTATTTGACTA(配列番号95)
Pton2HNL−F2:CCCCAAGGTGCCAACTACTGTGCATA(配列番号96)
Pton2HNL−R1:GGCGATATGTATCCAGTATTCGTAGTGCA(配列番号97)
Pton2HNL−R2:CGGGACCATTGCAAGAGTATGCACAGT(配列番号98)
Pton3HNL−F1:CTGACAGCCTATTTGACTAATTGTGAT(配列番号99)
Pton3HNL−F2:GCATACTCTTGCAATGGTTCCGAAA(配列番号100)
Pton3HNL−R1:GCCTGGAGTTGTTGAGGCGATATGTAT(配列番号101)
Pton3HNL−R2:CGGAACCATTGCAAGAGTATGCACA(配列番号102)
RssHNL−F1:GACTTCCTCATCGCTCCTGATTGTAT(配列番号103)
RssHNL−F2:CGTCGAGGATCCCAAGGGTGCCAA(配列番号104)
RssHNL−R1:GCCAGCTATATTGGAAGTGCATTT(配列番号105)
RssHNL−R2:CCATCGCAAGAGTATGCGCAATAGTT(配列番号106)
【0072】
続いて、ジーンスペシフィックプライマーを用いて各ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする領域をPCRにより増幅し、PlamHNLはT−Vector pMD20ベクター(タカラ社製)へ、その他はpCR−bluntへつなぎこみ、塩基配列を決定した。
ジーンスペシフィックプライマー配列:
NtmHNL−FW:ATGCTGTTTTACGTCTCGATTCTTC(配列番号57)、
NtmHNL−RV:TCAATAGAAAGCAAAACAGCCATGG(配列番号58)、
OgraHNL−FW:ATGTTGTACTACGTTTCAATACTTT(配列番号59)、
OgraHNL−RV:CTAATAGAAAGCAAAACAGCCATGG(配列番号60)、
PfalHNL−FW:ATGACTTCGATCATTTTCCTCACG(配列番号61)、
PfalHNL−RV:TTAGTAATAGAGAGGACAGAAAGGG(配列番号62)、
PlamHNL−FW:ATGACTTCGATCATTCTCCTCATGACTG(配列番号63)、
PlamHNL−RV:GCTTAATTCAATTGCACTTTAATTTTTATATC(配列番号64)、
Pton1HNL−FW:ATGACTTCAATCATTCTCCTCTTGG(配列番号65)、
Pton1HNL−RV:TTAGTAATAGAGAGGACAGAAAGGGTG(配列番号66)、
RspHNL−FW:ATGACTTCGATCATGTTCAGCCTG(配列番号67)、
RspHNL−RV:TTAGCTATAGAAGGGGCAGATAGGG(配列番号68)
PtokHNL−FW:ATGACTTCGATCATTCTCCTCACG(配列番号107)
PtokHNL−RV:TTAGTAATAGAGGGGACAGAAAAGG(配列番号108)
Pton2HNL−FW:ATGACTTCGATCATTCTCCTCACG(配列番号109)
Pton2HNL−RV:TTAGTAATAGAGAGGACAGTAAAGGTG(配列番号110)
Pton3HNL−FW:ATGACTTCGATCATTCTCCTCACG(配列番号111)
Pton3HNL−RV:TTAGTAATAGAGAGGACAGTAAAGG(配列番号112)
RssHNL−FW:ATGACTTCGATCATGCTCTGTTTAAC(配列番号113)
RssHNL−RV:TTAGCTATAGAAGGGGCAGAAAGGG(配列番号114)
【0073】
各略語は以下の通りである。
ChuaHNL:ヤンバルトサカヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ
NttHNL:タンバアカヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号1)
NtmHNL:ウマガエシアカヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号3)
OgraHNL:ヤケヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号5)
PfalHNL:ヘラババヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号7)
Pton1HNL:ミドリババヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号9)
PlamHNL:キシャヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号11)
RspHNL:アマビコヤスデの1種由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号13)
PtokHNL:P. tokaiensis由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号83)
Pton2HNL:ミドリババヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号85)
Pton3HNL:ミドリババヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号87)
RssHNL:アマビコヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(配列番号89)
【0074】
それぞれのアミノ酸配列を配列番号1、3、5、7、9、11、13、83、85、87、及び89に示す。
それぞれの遺伝子の塩基配列を配列番号2、4、6、8、10、12、1484、86、88、及び90に示す。それぞれのアミノ酸配列の相同性を表1にまとめた。この方法で、ChuaHNLと、41%以上の相同性を有するヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子をクローニングできることが明らかとなった。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例4:ChuaHNL遺伝子のクローニング
ヤンバルトサカヤスデから実施例3に示した方法でtotal RNAを調製し、cDNAを合成した。プライマーを用いてChuaHNLをコードする領域を増幅し、pCR−bluntへつなぎこんだ。
プライマー配列:
ChuaHNL−FW:ggatccATGTTGAGTTCACTAGTAGTAACAGTAA(配列番号69)、
ChuaHNL−RV:aagcttAGTAAAAAGCAAAGCAACCGTGGGTTTCG(配列番号70)
【0077】
実施例5:昆虫培養細胞におけるヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子の発現
上記のヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子をバキュロウイルス−昆虫細胞発現系を用いて発現した。インサートDNAは実施例2,3および4で得た各プラスミドDNAを鋳型とし、各種プライマーとTks Gflex DNA polymerase を用いてPCRにより調製した。
【0078】
各種プライマー配列:
IFSf−NttHNL−FW:gggcgcggatccATGCTGTTTTACGTTTCGATTC(配列番号71),
IFSf−NttHNL−RV:acttctcgacaagcttTTAATAGAAAGCAAAACAACCATGG(配列番号72),
IFSf−NtmHNL−FW:catcgggcgcggatccATGCTGTTTTACGTTTCGATTCTTC(配列番号73),
IFSf−NtmHNL−RV:acttctcgacaagcttTCAATAGAAAGCAAAACAGCCATGG(配列番号74),
IFSf−OgraHNL−FW:catcgggcgcggatccATGTTGTACTACGTTTCAATAC(配列番号75),
IFSf−OgraHNL−RV:acttctcgacaagcttCTAATAGAAAGCAAAACAGCCATG(配列番号76),
IFSf−PfalHNL−FW:catcgggcgcggatccATGACTTCGATCATTTTCCTCACG(配列番号77),
IFSf−PfalHNL−RV:acttctcgacaagcttTTAGTAATAGAGAGGACAGAAAGGG(配列番号78),
IFSf−Pton1HNL−FW:catcgggcgcggatccATGACTTCAATCATTCTCCTCTTG(配列番号79),
IFSf−Pton1HNL−RV:acttctcgacaagcttTTAGTAATAGAGAGGACAGAAAGGGTG(配列番号80),
IFSf−RspHNL−FW:catcgggcgcggatccATGACTTCGATCATGTTCAGCCTG(配列番号81),
IFSf−RspHNL−RV:acttctcgacaagcttTTAGCTATAGAAGGGGCAGATAGGG(配列番号82)
IFSf−PtokHNL−FW:catcgggcgcggatccATGACTTCGATCATTCTCCTCACG(配列番号115)
IFSf−PtokHNL−RV:acttctcgacaagcttTTAGTAATAGAGGGGACAGAAAAGG(配列番号116)
IFSf−Pton2HNL−FW:catcgggcgcggatccATGACTTCGATCATTCTCCTCACG(配列番号117)
IFSf−Pton2HNL−RV:acttctcgacaagcttTTAGTAATAGAGAGGACAGTAAAGGTG(配列番号118)
IFSf−Pton3HNL−FW:catcgggcgcggatccATGACTTCGATCATTCTCCTCACG(配列番号119)
IFSf−Pton3HNL−RV:acttctcgacaagcttTTAGTAATAGAGAGGACAGTAAAGG(配列番号120)
IFSf−RssHNL−FW:catcgggcgcggatccATGACTTCGATCATGCTCTGTTTA(配列番号121)
IFSf−RssHNL−RV:acttctcgacaagcttttagcTATAGAAGGGGCAGAAAGGG(配列番号122)
【0079】
インサートDNAをpFastbac1ベクター(インビトロジェン社製)のBamHI−HindIIIサイトへIn−Fusion HD cloning kit(タカラバイオ社製)を用いてつなぎこんだ。さらに、KOD−Plus−Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用いて各ヒドロキシニトリルリアーゼのシグナルペプチド切断部位直下にHisタグをコードする配列を導入した。なお、シグナルペプチド切断部位はSignalP(Nature Methods,8:785−786,2011)を用いて予測した。その後、PCRによる変異がないことをインサートの配列をシークエンスし、確認した。得られた各プラスミドを大腸菌DH10BACへ導入し、形質転換体から組換えバクミドDNAをQIAGEN Plasmid Mini Kit(キアゲン社製)を用いて抽出した。組換えバクミドDNAはX−tremeGENE 9 DNA トランスフェクション試薬(ロシュ社製)を用いてSf9細胞にトランスフェクションした。組換えバキュロウイルスを回収し、再度、Sf9細胞に感染させることで組換えバキュロウイルスを増幅し、さらにSf9細胞に感染させることで組換えバキュロウイルスを増幅した。組換えバキュロウイルスのタイターは、ie1遺伝子増幅プライマー(Biotechnol. Prog., 20:354-360, 2004)を用いたリアルタイムPCRによって、タイター既知のバキュロウイルスゲノムDNAとサンプルを比較することで算出した。なお、組換えバキュロウイルスDNAはNucleoSpin Virus(タカラ社製)を用いて調製した。
【0080】
各ヤスデ由来HNLは各組換えバキュロウイルスを多重感染度1で、Sf9細胞(1.5x106細胞/mL)に感染させることによって、分泌発現させた。組換えバキュロウイルス感染72時間後に遠心分離で細胞を除き、培養上清を回収した。培養上清と等量の20mM HEPES-NaOH(pH8.0)で希釈し、cOmplete Histag Purification resin(ロシュ社製)に添加した。担体に吸着した各HNLは0.1M イミダゾールと0.1M NaClを含む10mM HEPES-NaOH(pH8.0)で溶出した。溶出液に、30%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを加えた溶液を、HiTrap Butyl HP(GE ヘルスケア社製)に添加し、硫酸アンモニウムの濃度勾配(30-0%)で溶出した。脱塩後、各HNLをResourceQに吸着させ、NaClの濃度勾配(0-300mM)で溶出した。精製したHNLの純度はSDS-PAGEにより解析した。
【0081】
タンパク質濃度は、ウシ胎仔血清由来アルブミンをスタンダードとし、TaKaRa BCA Protein Assay Kit(タカラ社製)を用いて測定した。各ヒドロキシニトリルリアーゼは(R)-マンデロニトリルの合成活性を示した。表2a参照。
【0082】
実施例6:大腸菌におけるヤスデ由来ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子の発現
大腸菌BL21(DE3)及びSHuffle T7(ニューイングランドバイオラボ社製)における、ChuaHNL、NttHNL、NtmHNL、OgraHNL、PfalHNL、Pton1HNL、PlamHNL、RspHNL、PtokHNL、Pton2HNL、Pton3HNL、RssHNL遺伝子発現を試みた。
【0083】
シグナル配列を除いた領域をインサートDNAとするため、実施例3で得た各プラスミドDNAを鋳型とし、各種プライマーとTks Gflex DNA polymerase を用いてPCRを行った。Hisタグ融合タンパク質として発現するように、インサートDNAをpET28ベクター(クロンテック社製)のNdeI-HindIIIサイトへ、In-Fusion HD cloning kit(タカラバイオ社製)を用いてつなぎこんだ。なお、PlamHNLはpET28ベクターのBamHI-HindIIIサイトへつなぎこんだ。その後、PCRによる変異がないことをインサートの配列をシークエンスし、確認した。得られた各プラスミドを大腸菌BL21(DE3)またはSHuffle T7(ニューイングランドバイオラボ社製)に導入した。形質転換体を、カナマイシンを含んだLB培地で30℃、16時間培養後、TBオートインダクション培地に植え継ぎ、26℃で24時間培養した。集菌後、超音波で破砕し、遠心分離で不溶性物質を沈殿させ、無細胞抽出液を得た。
【0084】
ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子の発現は、マンデロニトリルの分解活性で評価した。すなわち、2mMの(R,S)-マンデロニトリルを含んだ0.1Mクエン酸バッファーに無細胞抽出液を添加し、ベンズアルデヒドの生成を280nmでモニターした。
【0085】
大腸菌BL21(DE3)ではいずれのヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子の発現は認められなかった。しかし、大腸菌SHuffle T7においては、NtmHNL、OgraHNL、Pton2HNL、Pton3HNLおよびPlamHNL遺伝子の発現が認められた(表2a参照)。
【0086】
【表2a】
【0087】
後続の実施例7〜13では、発現した、NtmHNL、OgraHNL、PlamHNL、及びPton3HNLを精製し、酵素化学的諸性質を解明することにした。
【0088】
実施例7:OgraHNLの精製
OgraHNLの精製は以下のように行った。実施例6の方法で調製した無細胞抽出液をHisTrap HP(GEヘルスケア社製)に添加した。OgraHNLはイミダゾールの濃度勾配(20-500mM)で溶出した。OgraHNLが溶出されたフラクションを回収し、ResourceQ(GEヘルスケア社製)に添加した。OgraHNLは塩化ナトリウムの濃度勾配(0-300mM)で溶出した。OgraHNLが溶出されたフラクションを回収し、アミコンウルトラ-4 遠心式フィルターユニット(ミリポア社製)を用いて濃縮した。その後、Superdex75 10/300 GL(GEヘルスケア社製)に添加し、0.1M NaClを含む10mM HEPES-NaOH(pH8.0)で溶出した。精製工程を表2bにまとめた。
【0089】
精製したOgraHNLは(R)−マンデロニトリル合成活性を示し、その比活性、1779U/mgは、昆虫培養細胞で発現させたOgraHNLの比活性、2225U/mg(表2a参照)とほぼ一致した。
【0090】
【表2b】
【0091】
実施例8:OgraHNLに対する温度とpHの影響
(a)至適温度と温度安定性
OgraHNLの至適温度と温度安定性を検討した。酵素反応は、0.4UのOgraHNL、300mM クエン酸緩衝液(pH4.2)、50mM ベンズアルデヒド、100mM KCNを含む反応液200μl、各温度で、5分間行った。HPLCを用いて(R)−マンデロニトリルを定量し、測定結果を図2−Aに示した。OgraHNLの至適温度は35℃と推定された。
【0092】
各温度で60分間加熱した後、残存活性を測定することで、温度安定性を検討した。結果を図2−Cに示した。OgraHNLは65℃、1時間加熱後も活性を維持し、95℃、1時間加熱後も、18%の残存活性を有していた。既知のHNLで最も安定であると報告されているChuaHNLは、65℃で1時間加熱後も100%の活性を維持し、90℃、1時間加熱後には失活すると記載されている(Dadashipurら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 112, 10605−10610 (2015)、非特許文献1)。よってOgraHNLは、非特許文献1に記載のHNLよりも高い熱安定性を有していることが明らかになった。
【0093】
(b)至適pHとpH安定性
OgraHNLの至適pHとpH安定性を検討した。酵素反応は、0.4UのOgraHNL、300mM クエン酸緩衝液(pH2.5−5.5)、50mM ベンズアルデヒド、100mM KCNを含む反応液200μl、各温度で、5分間行った。HPLCを用いて(R)−マンデロニトリルを定量した。測定結果を図2−Bに示した。OgraHNLの至適pHは5.0と推定された。
各緩衝液中で25℃、60分間インキュベート後、残存活性を測定することで、pH安定性を検討した。測定結果を図2−Dに示した。OgraHNLはpH3-10.5で安定であった。しかし、Tris−HCl緩衝液中では、不安定であることが示された。
【0094】
実施例9:NtmHNLの精製
NtmHNLの精製は以下のように行った。実施例6の方法で調製した無細胞抽出液をHisTrap HP(GEヘルスケア社製)に添加した。NtmHNLはイミダゾールの濃度勾配(20−500mM)で溶出した。NtmHNLが溶出されたフラクションを回収し、ResourceQ(GEヘルスケア社製)に添加した。NtmHNLは塩化ナトリウムの濃度勾配(0−300mM)で溶出した。精製工程を表3にまとめた。精製したNtmHNLは(R)−マンデロニトリル合成活性を示し、その比活性は、1016U/mgであった。
【0095】
【表3】
【0096】
実施例10:NtmHNLに対する温度とpHの影響
(a)至適温度と温度安定性
NtmHNLの至適温度と温度安定性を検討した。酵素反応は、0.4UのNtmHNL、300mM クエン酸緩衝液(pH4.2)、50mM ベンズアルデヒド、100mM KCNを含む反応液200μl、各温度で、5分間行った。HPLCを用いて(R)−マンデロニトリルを定量し、測定結果を図3−Aに示した。NtmHNLの至適温度は30℃と推定された。
【0097】
(b)至適pH
NtmHNLの至適pHとpH安定性を検討した。酵素反応は、0.4UのNtmHNL、300mM クエン酸緩衝液(pH2.5−5.5)、50mM ベンズアルデヒド、100mM KCNを含む反応液200μl、各温度で、5分間行った。HPLCを用いて(R)−マンデロニトリルを定量し、測定結果を図3−Bに示した。NtmHNLの至適pHは4.8と推定された。
【0098】
実施例11: PlamHNLの精製
PlamHNLの精製は以下のように行った。実施例6の方法で調製した無細胞抽出液をNi Sepharose 6 FastFlow(GEヘルスケア社製)に添加した。PlamHNLは100mM イミダゾール、500mM 塩化ナトリウムを含む20mM KPB(pH8.0)で溶出した。精製したPlamHNLは(R)−マンデロニトリル合成活性を示し、その比活性は1156U/mgであった。
【0099】
実施例12:組換え大腸菌からのPton3HNLの精製
Pton3HNLの精製は以下のように行った。実施例6の方法で調製した無細胞抽出液をHisTrap HP(GEヘルスケア社製)に供し、イミダゾールの濃度勾配(20-500mM)で溶出した。Pton3HNLが溶出されたフラクションを回収後、ResourceQ(GEヘルスケア社製)に供し、塩化ナトリウムの濃度勾配(0-300mM)で溶出した。Pton3HNLが溶出されたフラクションを回収し、精製酵素として使用した。
【0100】
精製したPton3HNLは(R)−マンデロニトリル合成活性を示し、その比活性、2140U/mgであった。
【0101】
実施例13:Pton3HNLに対する温度とpHの影響
(a)至適温度と温度安定性
Pton3HNLの至適温度と温度安定性を検討した。酵素反応は、0.4UのPton3HNL、300mM クエン酸緩衝液(pH4.2)、50mM ベンズアルデヒド、100mM KCNを含む反応液200μl、各温度で、5分間行った。HPLCを用いて(R)−マンデロニトリルを定量し、測定結果を図11aに示した。Pton3HNLの至適温度は30℃と推定された。
【0102】
各温度で60分間加熱した後、残存活性を測定することで、温度安定性を検討した。結果を図11cに示した。Pton3HNLは60℃、1時間加熱後も活性を維持し、95℃、1時間加熱後も、18%の残存活性を有していた。
【0103】
(b)至適pHとpH安定性
Pton3HNLの至適pHとpH安定性を検討した。酵素反応は、0.4UのPton3HNL、300mM クエン酸緩衝液(pH2.5−5.5)、50mM ベンズアルデヒド、100mM KCNを含む反応液200μl、各温度で、5分間行った。HPLCを用いて(R)−マンデロニトリルを定量した。測定結果を図11bに示した。Pton3HNLの至適pHは4.5と推定された。
各緩衝液中で25℃、60分間インキュベート後、残存活性を測定することで、pH安定性を検討した。測定結果を図11dに示した。Pton3HNLはpH3-10.5で安定であった。
【0104】
実施例14
組換え大腸菌体を用いた(R)-mandelonitrileの生産
Pton3HNLを発現させたE.coli Shuffleを用いて水溶液中での全菌体反応による光学活性シアノヒドリン合成を行った。培養液0.8 mLから集菌後、150μLの0.4 Mクエン酸緩衝液 (pH3.0)に懸濁し10 μLの1 M ベンズアルデヒド、20 μLの1 M KCNを加えて22℃で5分インキュベートした。反応産物は、抽出後、上記の通りHPLCにて分析を行い、鏡像体過剰率(ee)を明らかにした結果、図12の通り、鏡像体過剰率(ee)は、97.6%に達した。
pHを2.5〜5.0の範囲で変化させた結果を図12aに示し、菌体の濃度を2倍(2x)、4倍(4x)、6倍(6x)を変化させた結果を図12bに示す。
【産業上の利用可能性】
【0105】
光学活性シアノヒドリンは医薬やファインケミカルの製造における重要な中間体であることから、本発明は、医薬やファインケミカルの製造に関連する分野に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0106】
配列番号1:NttHNLタンパク質
配列番号2:NttHNL遺伝子
配列番号3:NtmHNLタンパク質
配列番号4:NtmHNL遺伝子
配列番号5:OgraHNLタンパク質
配列番号6:OgraHNL遺伝子
配列番号7:PfalHNLタンパク質
配列番号8:PfalHNL遺伝子
配列番号9:Pton1HNLタンパク質
配列番号10:Pton1HNL遺伝子
配列番号11:PlamHNLタンパク質
配列番号12:PlamHNL遺伝子
配列番号13:RspHNLタンパク質
配列番号14:RspHNL遺伝子
配列番号15:ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列
配列番号16:ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列
配列番号17:ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列
配列番号18:ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列
配列番号19:ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列
配列番号20:ヤスデ由来HNLの保存アミノ酸配列
配列番号21:縮重プライマーHNL-FW
配列番号22:縮重プライマーHNL-RV
配列番号23:縮重プライマーHNL-FW2
配列番号24:縮重プライマーHNL-RV2
配列番号25〜82:プライマー
配列番号83:PtokHNLタンパク質
配列番号84:PtokHNL遺伝子
配列番号85:Pton2HNLタンパク質
配列番号86:Pton2HNL遺伝子
配列番号87:Pton3HNLタンパク質
配列番号88:Pton3HNL遺伝子
配列番号89:RssHNLタンパク質
配列番号90:RssHNL遺伝子
配列番号91〜122:プライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図11c
図11d
図12a
図12b
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]