(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両前部構造の一例として、特許文献1,2に記載のものがある。
これら特許文献1,2に記載の車両前部構造においては、車体前部の骨格部材として、左右一対のフロントサイドメンバを備えており、かつこれら一対のフロントサイドメンバの下側には、フロントサスペンションのサスペンションメンバが取付けられている。この取付けは、サスペンションメンバの車幅方向両端部を、前側連結部および後側連結部を介して一対のフロントサイドメンバに連結することにより図られている。
【0003】
このような構造においては、車両の前突が発生し、車両前方からフロントサイドメンバやサスペンションメンバに衝突荷重が入力した場合に、車両前部の各所において、衝突エネルギを効率よく吸収させたり、あるいはサスペンションメンバが大きく後退して車室に突入しないようにすることが望まれる。このため、従来においては、サスペンションメンバが後退する際に、後側連結部において適度な抵抗力を生じさせたり、あるいは後側連結部におけるサスペンションメンバとフロントサイドメンバとの連結状態を解除させてサスペンションメンバを下方に脱落させるといった手段がよく採用される。特許文献1においては、後側連結部の締結ボルトを後退させるための溝部が形成されており、サスペンションメンバに所定以上の衝突荷重が作用した際には、締結ボルトが前記溝部に沿って移動するように構成されている。
【0004】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、解決すべき課題があった。
【0005】
すなわち、特許文献2においては、フロントサイドメンバとサスペンションメンバとの後側連結部が前側連結部よりも車幅方向内方側に位置しており、これに対応して、一対のフロントサイドメンバの前側連結部および後側連結部の近傍部は、車両後方側ほど車幅方向の相互間隔が狭くなるように傾斜した一対の内入り傾斜部とされている。このような構成の車両に前突が発生し、その衝突荷重がフロントサイドメンバに入力した場合、このフロントサイドメンバには曲げモーメントが発生し易く、フロントサイドメンバのうち、後側連結部が設けられている箇所が車幅方向内方側に変形または変位する虞がある。このような変形または変位は、内入り傾斜部の傾斜角が大きいほど大きくなる。
フロントサイドメンバの前記した変形または変位が発生すると、フロントサイドメンバとサスペンションメンバとの後側連結部には、車幅方向において大きな荷重が発生し、後側連結部が本来の構造とは異なった状態となる虞がある。このことに起因し、車両の前突時において、車両前方側からの衝突荷重によって本来生じるべき衝突エネルギ吸収動作や連結解除動作(締結ボルトの後退動作や脱落動作など)を、後側連結部に適切に生じさせることができない場合がある。車両の前突時の安全性能を高める観点からすると、そのような不具合を適切に解消することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、従来よりも車両の前突時の安全性能を高めることが可能な車両前部構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明により提供される車両前部構造は、車両前部の下部において、車幅方向に互いに間隔を隔てた配置で車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバと、これら一対のフロントサイドメンバに前側連結部および後側連結部を介して車幅方向両端部が連結支持されたサスペンションメンバと、を備えており、前記後側連結部は、前記前側連結部よりも車幅方向内方側に位置し、かつ前記一対のフロントサイドメンバの前記前側連結部および前記後側連結部の周辺部は、車両後方側ほど車幅方向の相互間隔が狭くなるように傾斜した一対の内入り傾斜部とされている、車両前部構造であって、前記サスペンションメンバのうち、前記後側連結部の車幅方向内方側近傍には、前記サスペンションメンバの前記後側連結部に車幅方向内方への所定以上の荷重が作用したときに変形を生じさせることが可能な脆弱部が設けられて
おり、前記サスペンションメンバは、ロア部材とアッパ部材とが接合して構成された中空状であり、かつその内部には、前記サスペンションメンバ上に設定されるスタビライザの取付け箇所またはスタビライザとは異なる他の部材の取付け箇所を補強するための補強部材が溶接されており、前記補強部材は、前記後側連結部に対してその車幅方向内側に離間した配置に設けられ、前記サスペンションメンバのうち、前記補強部材と前記後側取連結部との相互間領域が、前記脆弱部であることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、車両の前突が発生し、その衝突荷重がフロントサイドメンバに入力した場合には、フロントサイドメンバに内入り傾斜部が設けられていることに起因して、フロントサイドメンバが車幅方向内方側に変形または変位し、サスペンションメンバの後側連結部が設けられている箇所に、車幅方向内方への所定以上の荷重(車幅方向の力)が作用する場合がある。この場合、サスペンションメンバのうち、後側連結部の車幅方向内方側近傍の脆弱部が、前記車幅方向の力により変形(座屈変形など)するため、この変形によって前記荷重の吸収が図られ、サスペンションメンバとフロントサイドメンバとの後側連結部自体の構造は、本来意図する構造に維持することが可能となる。その結果、車両の前突時において、車両前方側からの衝突荷重によって生じる後側連結部の衝突エネルギ吸収動作(たとえば、締結ボルトの後退動作)、あるいは後側連結部の連結解除動作などを適切に生じさせ、車両の前突時の安全性能を高めることが可能となる。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
図1〜
図4に示す車両前部構造Aは、車両1の前部の下部に設けられた左右一対のフロントサイドメンバ3、ロアアーム7を介して前輪19を懸架するためのサスペンションメンバ4(サブフレームとも称される)、ならびにサスペンションメンバ4を一対のフロントサイドメンバ3に取付けるための前側連結部9A、および後側連結部9B,9B’を備えている。
サスペンションメンバ4には、
図6および
図7を参照して後述する脆弱部48が設けられている。
【0015】
一対のフロントサイドメンバ3は、エンジンや変速機などから構成されたパワープラント2が内部に配されているエンジンルーム10の車幅方向両側に位置して車両前後方向に延びた一対のフロント部32を有している。
図1に示すように、これら一対のフロント部32の後端側には、一対ずつの後下がり傾斜部30および略水平部31が順次繋がっている。ただし、
図2に示す底面視(平面視も同様)においては、一対のフロント部32の後端側に、一対ずつの内入り傾斜部33(
図2の符号Saで示す範囲)および後側延設部34が順次繋がった構成とされている。一対の内入り傾斜部33は、車両後方側ほど車幅方向の相互間隔が狭くなるように底面視において傾斜している。
【0016】
各フロントサイドメンバ3は、
図4および
図5に示すように、たとえば断面ハット状などの部材を用いて構成されており、車両1のフロア部11が設けられている箇所においては、このフロア部11の下面部に溶接されている。なお、フロア部11は、ダッシュパネル11aの下端部にフロントフロアパネル11bの先端部を接合して構成されている。
【0017】
サスペンションメンバ4は、ロアアーム7の基端部を回転可能に支持する部材であり、車両側面視において、フロントサイドメンバ3の後下がり傾斜部30の下方に位置している。このサスペンションメンバ4の詳細については後述するが、車幅方向に延びた形態を有し、前側連結部9Aおよび後側連結部9B,9B’を介してフロントサイドメンバ3に取付けられている。
【0018】
図1に示すように、前側連結部9Aは、サスペンションメンバ4の前部寄り領域の上面部に起立して設けられた前側ブラケット部41の上部が、支持部材39を介してフロントサイドメンバ3に固定連結された部位である。フロントサイドメンバ3内には、支持部材39の取付け強度を高めるためのリインフォース39aが適宜設けられている。
【0019】
後側連結部9Bは、後下がり傾斜部30の下面側に溶接されたブラケット部38の下壁部38aに、サスペンションメンバ4の後部が、ボルト90を用いて締結された部位である。この後側連結部9Bにおいては、車両1の前突が発生し、車両前方側から大きな荷重を受けた場合には、
図8を参照して後述するように、ボルト90がブラケット部38の下壁部38aを破断させながら後退し、所定以上後退した後においても荷重を受け続けた場合には、ブラケット部38から脱落し得るようになっている。これに対し、前側連結部9Aは、後側連結部9Bと比較すると、フロントサイドメンバ3とサスペンションメンバ4との連結強度が高く、連結解除がされ難い部位とされている。
後側連結部9B’は、サスペンションメンバ4の後部に固定されたステー42が、後下がり傾斜部30のブラケット部38よりも下側の部分にボルト91を用いて締結された部位である。
【0020】
ロアアーム7は、先端部に支持される前輪19とサスペンションメンバ4との相対的な上下動を可能とするように、その基端部は、サスペンションメンバ4に対して回転可能に連結されている。より具体的には、ロアアーム7の基端部は、前部および後部に分岐し、かつ前側回転支持部8Aおよび後側回転支持部8Bを介してサスペンションメンバ4に取付けられている。前側回転支持部8Aは、中心軸が略水平方向に延びる姿勢のゴムブッシ
ュ81を用いて構成されており、後側回転支持部8Bは、中心軸が上下高さ方向に延びる起立姿勢のゴムブッシュ82を用いて構成されている。ゴムブッシュ82、ステー42、サスペンションメンバ4、およびブラケット部38は、ボルト90を用いて共締めされている。
【0021】
図3によく表れているように、ロアアーム7の後側回転支持部8Bの中心P2は、前側回転支持部8Aの中心P1よりも車幅方向内方側に適当な寸法L1だけオフセットされ、かつフロントサイドメンバ3の直下に位置している。このため、構成の簡素化を図りつつ、後側回転支持部8Bおよびその周辺部の建付け剛性を高め、操安性をより向上させることが可能である。
前記した構成に対応し、後側連結部9B,9B’は、前側連結部9Aよりも車幅方向内方側に適当な寸法L2だけオフセットされている。内入り傾斜部33は、このような構成を容易かつ的確に実現するのに役立つ。
【0022】
図6に示すように、サスペンションメンバ4は、ロア部材40a上にアッパ部材40bを接合して構成された中空状である。同図および
図7に示すように、このサスペンションメンバ4の上面部には、スタビライザ65を支持するブラケット66が溶接され、かつこのブラケット66の取付け箇所を補強するための補強部材5(バルク)がサスペンションメンバ4の内部に溶接されている。このことにより、後側連結部9Bの車幅方向内方側近傍は、脆弱部48とされている。
【0023】
より具体的には、
図6および
図7において、サスペンションメンバ4に設けられている上下一対の孔部47は、
図1などに示したボルト90が挿通される部位であり、サスペンションメンバ4の上下一対の孔部47の周縁部が、サスペンションメンバ4における後側連結部9Bに相当する。これに対し、補強部材5は、後側連結部9Bの車幅方向内方側に離間した配置とされ、この補強部材5の上板部50、座板部51、および突出部52の先端部52aは、サスペンションメンバ4の上壁部、下壁部、および側壁部にそれぞれ溶接されており、この補強部材5が設けられた箇所の剛性は高められている。このため、後側連結部9Bから補強部材5の取付け箇所に到るまでの範囲、すなわち
図7の符号Sbで示す範囲は、補強部材5によって補強された箇所に相対して剛性が低い脆弱部48となっている。後述するように、車両1の前突時には、後側連結部9Bに車幅方向内方への力Faが作用するが、脆弱部48は、所定値以上の力Faを受けた場合に座屈などの圧縮変形を生じる部位とされている。
好ましくは、補強部材5の主要部(上板部50)の後端は、適当な寸法Laだけ後側連結部9Bよりも車両前方側に位置し、または車両前後方向において車両後側連結部9Bと一致した位置(つまり、La=0)に設けられている。
【0024】
本実施形態においては、フロントサイドメンバ3の後側連結部9B,9B’付近の剛性を高めるための手段として、トルクボックス14(アウタトルクボックス)、インナトルクボックス13a、およびクロスメンバ6が設けられている。トルクボックス14は、ロッカ15の前端部とフロントサイドメンバ3とを橋渡し接続する部材である。インナトルクボックス13aは、フロア部11に形成されたフロアトンネル部12の基部を補強するためのインナトルクメンバ13の前部が車幅方向外方側に屈曲または湾曲した部位であり、その一端はフロントサイドメンバ3に接合されている。
図4および
図5によく表れているように、クロスメンバ6は、フロア部11を挟んでフロントサイドメンバ3の上側に接合されたアッパメンバ3Aと、フロアトンネル部12とを車幅方向に橋渡し接続する部材である。
【0025】
次に、前記した車両前部構造Aの作用について説明する。
【0026】
車両1に前突が発生し、車両1の前部に荷重入力がなされると、フロントサイドメンバ3のフロント部32などが圧縮変形するとともに、パワープラント2の後退などに伴い、サスペンションメンバ4も後退する。このため、
図8に示すように、後側連結部9Bには、車両後方側への荷重Fb(ボルト90に対する剪断力)が作用して、ボルト90はブラケット部38の下壁部38aを破断させながら後退し、その際に荷重Fbのエネルギ吸収がなされる。ボルト90が所定量後退した後において、なおも荷重Fbが作用し続ける場合には、下壁部38aの破断量が大きくなり、ボルト90がブラケット部38から脱落する。このことにより、サスペンションメンバ4をフロントサイドメンバ3から落下させることができ、サスペンションメンバ4が大きく後退して車室内に進入することを防止することが可能となる。なお、後側連結部9B’においては、ステー42が衝突荷重によって比較的容易にかつ大きく変形する。
【0027】
フロントサイドメンバ3は、内入り傾斜部33を有しているため、車両前方側から衝突荷重を受けた場合に、曲げモーメントが発生し易く、後側連結部9B,9B’の周辺部が車幅方向内方側に変形または変位し、サスペンションメンバ4における後側連結部9Bには、前記変形または変位に起因する車幅方向内方側への力Faが作用する。これに対し、力Faが所定以上の大きな力であると、サスペンションメンバ4の脆弱部48に座屈などの変形を生じて、エネルギ吸収がなされ、サスペンションメンバ4とフロントサイドメンバ3との後側連結部9Bにおける相対的な構造は、本来意図する構造、つまりボルト90に剪断力としての荷重を適切に作用させ得る適切な構造に維持される。したがって、
図8を参照して先に説明した後側連結部9Bにおける動作が、力Faによって不当に妨げられないようにすることが可能である。その結果、車両1の前突時の安全性能を高めることができる。
【0028】
本実施形態においては、
図7を参照して説明したように、補強部材5の後端部が後側連結部9Bよりも車両前方側に位置し、または車両前後方向において一致した配置に設けられているため、車両1の前突時には、
図8に示すように、車両側面視において、後側連結部9Bよりも車両前方側の位置、または後側連結部9Bと一致した位置において、サスペンションメンバ4を座屈変形させることも可能となる。このような座屈変形は、ボルト90に剪断力を発生させることとなり、ボルト90に捩じ切りの荷重を作用させる上で有効である。
【0029】
本実施形態においては、既述したように、トルクボックス14(アウタトルクボックス)、インナトルクボックス13a、およびクロスメンバ6が設けられており、フロントサイドメンバ3の後側連結部9B,9B’付近の剛性が高められている。このため、車体の捩じり剛性が高められ、またサスペンションメンバ4の支持状態を安定させることが可能である他、車両1の前突時にフロントサイドメンバ3が車幅方向内方側に変形または変位することを抑制することも可能である。したがって、
図8を参照して説明した後側連結部9Bにおける動作をより確実に生じさせることができる。
【0030】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両前部構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0031】
上述の実施形態においては、スタビライザ65の取付け箇所を補強するための補強部材5を、後側連結部9Bから離間した配置に設けることにより、脆弱部48を設けているが、本発明はこれに限定されない。補強部材としては、たとえばステアリングギヤボックスなどの他の部材の取付け箇所の補強部材を用いてもよい
。
車両1の操安性を良好にする観点からすると、フロントサスペンションのロアアーム7の後側回転支持部8Bの中心P2を、前側回転支持部8Aの中心P1よりも車幅方向内方側にオフセットすることが好ましいものの、これとは異なる構成とすることも可能である。
後側連結部としては、たとえば後側連結部9Bのみを具備し、かつ後側連結部9B’を具備しない構成とすることもできる。
本発明の車両前部構造は、エンジン自動車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車にも適用することができることは勿論である。