特許第6893386号(P6893386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893386
(24)【登録日】2021年6月3日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/00 20060101AFI20210614BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20210614BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   B62D21/00 A
   B62D21/15 B
   B62D25/20 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-15058(P2019-15058)
(22)【出願日】2019年1月31日
(65)【公開番号】特開2020-121651(P2020-121651A)
(43)【公開日】2020年8月13日
【審査請求日】2020年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】辻本 尚之
(72)【発明者】
【氏名】川尻 泰路
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−132371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00 − 25/08
B62D 25/14 − 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室前方のエンジンルームに配されたパワープラントと、
前記エンジンルームの車幅方向両側に位置して車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバに、車幅方向に橋渡し接続され、かつサスペンションを支持するサスペンションメンバと、
を備えており、
前記サスペンションメンバは、前記パワープラントの車両後方側に位置して、車幅方向において前記パワープラントとオーバラップした配置にあり、かつ前記サスペンションメンバの上面部は、前記パワープラントの下端近傍の高さに設定されている、車両前部構造であって、
前記パワープラントが車両前方からの荷重入力によって後退したときに前記パワープラントと当接するように、前記サスペンションメンバの前記上面部の前端部に設けられ、かつ前記パワープラントとの当接時に、押し潰し変形が可能な上向き凸部を、さらに備えており、
前記サスペンションメンバ上には、操安部材としてステアリングギヤボックスまたはスタビライザが、前記上向き凸部よりも上方に位置するようにして取付けられており、
前記パワープラントが後退したときには、前記パワープラントが前記上向き凸部に加えて、前記操安部材に直接当接可能な構成とされていることを特徴とする、車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部構造としては、車両前部のエンジンルームにパワープラントが配され、かつこのパワープラントの車両後方側に、サスペンションメンバが配された構造のものが多い。ここで、パワープラントは、エンジン(動力発生源)自体、またはエンジンにクラッチやトランスミッションなどの他の機器類が組み合わされてユニット化されたものである。サスペンションメンバは、サスペンションの支持に用いられ、かつ車幅方向に延びるクロスメンバに相当し、エンジンルームの車幅方向両側に位置して車両前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバに、橋渡し接続された状態に取付けられる場合が多い。
前記したような車両前部構造においては、車両の前突が発生し、車両前方からの荷重入力によってパワープラントが後退した際に、このパワープラントをサスペンションメンバに当接させる手段が適宜採用される。このような手段によれば、サスペンションメンバを衝突エネルギの吸収に利用することが可能である。
【0003】
前記したような手段を採用する場合、車両の前突時に後退するパワープラントをサスペンションメンバに対して適切に当接させて、サスペンションメンバへの衝突荷重の伝達が確実かつ安定的になされるように構成することが要望される。
これに対し、パワープラントとサスペンションメンバとの相対関係において、サスペンションメンバの上面部の高さが、パワープラントの下端近傍の高さとなる場合がある。この場合、車両の前突が発生してパワープラントが後退した際に、サスペンションメンバがパワープラントによって下方に押し下げられ、その上をパワープラントが通過する虞がある。これでは、サスペンションメンバへの衝突荷重の伝達が適切になされない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−2528号公報
【特許文献2】特開平7−61243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、車両の前突時におけるパワープラントからサスペンションメンバへの衝突荷重伝達の確実化および安定化などを、簡易な手段によって適切に図ることが可能な車両前部構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明により提供される車両前部構造は、車両の車室前方のエンジンルームに配されたパワープラントと、前記エンジンルームの車幅方向両側に位置して車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバに、車幅方向に橋渡し接続され、かつサスペンションを支持するサスペンションメンバと、を備えており、前記サスペンションメンバは、前記パワープラントの車両後方側に位置して、車幅方向において前記パワープラントとオーバラップした配置にあり、かつ前記サスペンションメンバの上面部は、前記パワープラントの下端近傍の高さに設定されている、車両前部構造であって、前記パワープラントが車両前方からの荷重入力によって後退したときに前記パワープラントと当接するように、前記サスペンションメンバの前記上面部の前端部に設けられ、かつ前記パワープラントとの当接時に、押し潰し変形が可能な上向き凸部を、さらに備えており、前記サスペンションメンバ上には、操安部材としてステアリングギヤボックスまたはスタビライザが、前記上向き凸部よりも上方に位置するようにして取付けられており、前記パワープラントが後退したときには、前記パワープラントが前記上向き凸部に加えて、前記操安部材に直接当接可能な構成とされていることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、車両の前突が発生し、車両前部への衝突荷重の入力によってパワープラントが後退した際には、このパワープラントの下端近辺がサスペンションメンバの上向き凸部に当接する。ここで、上向き凸部は、サスペンションメンバの上面部の前端部に設けられた凸部であるため、サスペンションメンバに向けてその車両前方側から後退するパワープラントの下端近辺は、上向き凸部に適切に当接し易い。また、上向き凸部は、パワープラントとの当接により押し潰し変形を生じるため、この上向き凸部とパワープラントとの接触面積が増大するとともに、パワープラントの外面の凹凸に対して上向き凸部を係合させるといったことも可能となる。したがって、前記両者間に滑りを生じないようにし、前記した当接状態を維持するのに好ましいものとなる。
このようなことから、パワープラントによって押し下げられたサスペンションメンバの上をパワープラントがそのまま通過するといった事態を生じないようにし、サスペンションメンバへの衝突荷重伝達を確実かつ安定的に生じさせることが可能となる。その結果、車両の前突時の衝撃吸収性能をよくしたり、パワープラントの後退量を縮小させるといった上で、好ましいものとなる。
また、上向き凸部は、たとえばサスペンションメンバにプレス加工を施すなどして形成することが可能である。本発明においては、パワープラントとサスペンションメンバとの当接状態の確実化および安定化を図るための手段として、特殊な部材、あるいはサイズや重量が大きい部材を、別途設ける必要はない。したがって、車両の重量の増大や、製造コストの大幅な上昇なども生じないものとすることができる。
【0009】
さらに、前記構成によれば、車両の前突時においては、高さが相違する上向き凸部と操安部材との双方にパワープラントが当接するため、パワープラントからサスペンションメンバへの衝突荷重伝達を、より確実かつ安定的に行なわせることが可能となる。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る車両前部構造の一例を示す要部側面図である。
図2図1の要部概略斜視図である。
図3図1に示す車両前部構造の要部断面側面図である。
図4】(a),(b)は、図1に示す車両前部構造の作用を示す要部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1および図2に示す車両前部構造Aは、車両1の前部のエンジンルーム10内に配されたパワープラント2、左右一対のフロントサイドメンバ3、ロアアーム7を介して前輪19を懸架するためのサスペンションメンバ4、およびこのサスペンションメンバ4上に組み付けられたステアリングギヤボックス6を備えている。
サスペンションメンバ4には、図3を参照して後述する上向き凸部41が設けられている。
【0014】
一対のフロントサイドメンバ3は、車体前部の骨格部材であり、車幅方向に間隔を隔てて車両前後方向に延びており、エンジンルーム10の左右両側に位置するフロント部30、およびその後部に繋がった後下がり傾斜部31などを有している。
【0015】
パワープラント2は、たとえばエンジンとトランスアクスル(変速機と差動歯車装置とが一体化された駆動伝達装置)とが組み合わされたものである。ただし、図2においては、エンジンの図示が省略され、トランスアクスル側のケース20の一部が簡略化して示されている。パワープラント2は、一対のフロントサイドメンバ3のフロント部30に所定のマウント部材(不図示)を利用して取付けられている。
【0016】
サスペンションメンバ4は、パワープラント2の車両後方側に位置するようにして一対のフロントサイドメンバ3に取付けられている。この取付けは、たとえばサスペンションメンバ4の前部寄り領域の上面部に起立して設けられた左右一対の前側ブラケット部49の上部を、支持部材5を介してフロント部30に固定連結するとともに、サスペンションメンバ4の後部寄り領域を、後下がり傾斜部31に接合されたブラケット部32にボルト5aを利用して固定連結することにより図られている。サスペンションメンバ4の車幅方向両端部には、ロアアーム7の二股状に分岐した前側基端部および後側基端部が上下高さ方向に回転可能に取付けられている(図2においては、右側のロアアーム7のみを示し、左側は省略している)。
【0017】
サスペンションメンバ4は、プレス成形されたパネル体としてのアッパ部材4aとロア部材4bとを組み合わせて接合して構成された中空状である。図3によく表れているように、このサスペンションメンバ4の上面部40の前端部には、上向き凸部41が設けられている。上面部40の高さは、パワープラント2の下端近傍の高さである。上向き凸部41は、アッパ部材4aの一部が、その周辺部よりも上方に向けて部分的に隆起した形態であり、プレス加工によってアッパ部材4aの他の部分と一体的に形成することが可能である。サスペンションメンバ4の前壁部42の上端部は、上向き凸部41の一部(上向き凸部41の前壁部)に相当している。上向き凸部41は、車幅方向に適度な長さをもつように設けられており、本実施形態においては、たとえば図2の符号Lで示す範囲にわたって設けられている。図2における網点模様部分は、上向き凸部41の形成領域である。
【0018】
上向き凸部41は、車両1の前突に起因してパワープラント2が後退した際に、このパワープラント2と当接するように、パワープラント2の下端部に対向接近した配置に設けられている。より具体的には、パワープラント2は、ケース20の本体部とそのカバー体など、ケース20の複数の構成要素どうしをボルト連結するためのフランジ部21を備えており、このフランジ部21の外周面は、複数の凸状部22を有する凹凸状となっている。上向き凸部41は、パワープラント2の下端近傍に位置するフランジ部21の外周面に対向接近するように設けられている。好ましくは、複数の凸状部22のうち、少なくとも1つの凸状部22(22A)は、前壁部42に対向接近する平面状の後向き面22aを有するものとされている。より好ましくは、この凸状部22Aの先端部22bは、丸みのない、または少ない鋭角に近い先端角とされている。この凸状部22Aは、サスペンションメンバ4の前壁部42に対向接近するように設定されている。
上向き凸部41は、アッパ部材4aの一部が車両前後方向に幅をもつ側面断面視山状に隆起した形態であるため、後述するように、パワープラント2と当接し、車両前方側から大きな圧力を受けた場合には、押し潰し変形を生じるものとなっている。
【0019】
ステアリングギヤボックス6は、サスペンションメンバ4の上面部40上に取付けられ
て車幅方向に延びており、車両前後方向において上向き凸部41に接近し、かつ上下高さ方向においては上向き凸部41よりも適当な寸法だけ高い配置に設けられている。車両1に前突が発生し、パワープラント2が後退した際には、このステアリングギヤボックス6にもパワープラント2が当接可能となっている。
図中、符号8は、サスペンションメンバ4上に配されたスタビライザを示し、符号80は、スタビライザ8用のブラケットを示している。
【0020】
次に、前記した車両前部構造Aの作用について説明する。
【0021】
車両1の前突が発生し、車両1の前部に衝突荷重が入力すると、フロントサイドメンバ3のフロント部30などが圧縮変形するとともに、パワープラント2は、図4(a),(b)に示すように後退していく。このことにより、同図(b)に示すように、パワープラント2のフランジ部21は、サスペンションメンバ4の前部に当接し、サスペンションメンバ4は変形する。この変形により、衝突荷重のエネルギ吸収が図られる。上向き凸部41は、サスペンションメンバ4の上面部40の前端部に設けられているため、この上向き凸部41に対して、パワープラント2のフランジ部21を確実に当接させることが可能である。
【0022】
前記した過程において、上向き凸部41は、パワープラント2から圧縮力を受けることにより押し潰し変形を生じ、パワープラント2との接触面積が増大するとともに、パワープラント2のフランジ部21の外周面の凹凸に沿った形状となって、フランジ部21の外周面と係合することとなる。このため、パワープラント2の後退時に、パワープラント2とサスペンションメンバ4との当接状態が不用意に解除され難くなり、パワープラント2からサスペンションメンバ4への衝突荷重の伝達が的確になされる。本実施形態においては、パワープラント2の凸状部22A(22)の平面状の後向き面22aが、サスペンションメンバ4の前壁部42に当接し、係合するため、パワープラント2とサスペンションメンバ4との当接・係合状態は、より確実化される。
【0023】
本実施形態においては、図4(b)に示すように、パワープラント2のフランジ部21は、上向き凸部41に加え、ステアリングギヤボックス6にも同時に当接する。この当接は、好ましくは、凸状部22がステアリングギヤボックス6に係合する態様でなされる。上向き凸部41とステアリングギヤボックス6とは、上下高さ方向に間隔を隔てた配置であるが、このような2箇所にパワープラント2が跨がった状態で同時に当接すれば、パワープラント2とサスペンションメンバ4との当接状態は、より安定したものとなる。
【0024】
このようなことから、本実施形態によれば、パワープラント2がサスペンションメンバ4を下方に押し下げて、このサスペンションメンバ4の上側をそのまま通過するような事態が生じないようにすることが可能であり、パワープラント2からサスペンションメンバ4への衝突荷重伝達を確実かつ安定的に行なわせることができる。その結果、車両1の前突時における衝撃吸収性能を優れたものとし、またパワープラント2の後退量を小さくし、パワープラント2が、エンジンルーム10の後方の車室11内に突入するといった不具合も生じないようにすることが可能である。
【0025】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両前部構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0026】
上述の実施形態においては、パワープラント2をステアリングギヤボックス6に当接可能としているが、このような構成に代えて、ステアリングギヤボックス6以外の操安部材にパワープラント2を当接させる構成とすることもできる。たとえば、上述の実施形態で示されたステアリングギヤボックス6とスタビライザ8との車両前後方向の位置関係を反
転し、スタビライザ8をサスペンションメンバ4の前部側に配置させることにより、パワープラント2の後退時には、上向き凸部41に加え、スタビライザ8にも当接するように構成することができる。
【0027】
本発明における上向き凸部は、パワープラントが後退したときに前記パワープラントと当接するようにサスペンションメンバの上面部の前端部に設けられ、かつパワープラントとの当接時に押し潰し変形が可能な構成であればよい。この上向き凸部は、上述の実施形態とは異なり、車幅方向に比較的長く延びた形態に設けられていなくてもよく、たとえばパワープラント2のフランジ部21に対向する比較的狭い領域のみに設けた構成とすることもできる。
サスペンションメンバにパワープラントが当接する場合、パワープラントの当接箇所は、凹凸状の外周面をもつフランジ部とすることが好ましいが、これに限定されない。
【符号の説明】
【0028】
A 車両前部構造
1 車両
10 エンジンルーム
11 車室
2 パワープラント
3 フロントサイドメンバ
4 サスペンションメンバ
40 上面部(サスペンションメンバの)
41 上向き凸部
図1
図2
図3
図4