(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893406
(24)【登録日】2021年6月3日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】NASHやNAFLDの進展度の検査方法及び炎症疾患や癌の検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20210614BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
G01N33/53 V
G01N33/543 581A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-204978(P2016-204978)
(22)【出願日】2016年10月19日
(65)【公開番号】特開2018-66631(P2018-66631A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年10月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上原 一貴
(72)【発明者】
【氏名】小池 英子
(72)【発明者】
【氏名】梅香家 佳彦
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/163539(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0303018(US,A1)
【文献】
国際公開第2004/039844(WO,A1)
【文献】
特開2015−105951(JP,A)
【文献】
特許第5031928(JP,B2)
【文献】
S. Iacobelli,Purification and characterization of a 90 kDa protein released from human tumors and tumor cell lines,FEBS LETTERS,1993年,Vol.319 No.1,2,Page.59-65
【文献】
Peter S. Linsley,Identification of a Novel Serum Protein Secreted by Lung Carcinoma Cells,Biochemistry,1986年,Vol.25 No.10,Page.2978-2986
【文献】
Takako Sasaki,Mac-2 binding protein is a cell-adhesive protein of the extracellular matrix which self-assembles into ring-like structures and binds β1 integrins, collagens and fibronectin,The EMBO Journal,1998年,Vol.17 No.6,Page.1606-1613
【文献】
Kirston Koths,Cloning and Characterization of a Human Mac-2-binding Protein, a New Member of the Superfamily Defined by the Macrophage Scavenger Receptor Cysteine-rich Domain,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1993年,Vol.268 No.19,Page.14245-14249
【文献】
Yoshihiro Kamada,Serum Mac-2 binding protein levels as a novel diagnostic biomarker for prediction of disease severity and nonalcoholic steatohepatitis,Proteomics Clin. Appl.,2013年,Vol.7,Page.648-656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/543
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料中の分子量900kDa 以上として検出されるMac−2bp濃度を検出することを特徴とするNASHを判定するための検査方法。
【請求項2】
Mac−2bp濃度の検出が生体試料から分子量900kDa以上として検出される多量体のMac−2bpを分離した後に実施されることを特徴とする請求項1に記載のNASHを判定するための検査方法。
【請求項3】
Mac−2bpに対して特異的かつ選択的な抗体を使用して実施されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載のNASHを判定するための検査方法。
【請求項4】
測定法がラテックス凝集比濁法であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のNASHを判定するための方法。
【請求項5】
分子量900kDa以上のMac−2bpが10量体以上のMac−2bpである請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のNASHを判定するための検査方法。
【請求項6】
分子量900kDa以上の物質がMac−2bpの単量体や重合体が結合した蛋白質である請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のNASHを判定するための検査方法。
【請求項7】
血液試料中の分子量900kDa以上として検出されるMac−2bp濃度を検出することを特徴とする肝炎、肝硬変及び肝癌、前立腺癌を患っている可能性を判定するための検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量体のガレクチン-3結合蛋白質(Mac−2bp)を用いたNASHやNAFLDの進展度の検査方法及び炎症疾患や癌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓の組織中、脂肪滴を伴う肝細胞が30%以上認められる場合、脂肪肝と診断される。脂肪肝はこれまでアルコールの摂取を原因とするものが多かったが、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病といった生活習慣病の患者でも認められるようになってきた。この中でも、飲酒歴はないがアルコール性脂肪肝に類似した脂肪肝がみられる病態が非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)と呼ばれている。NAFLDの患者は国内で約1000万人いると推定されている。NAFLDは、組織診断において肝細胞の脂肪沈着のみを認める非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL)と、脂肪化に壊死・炎症や線維化を伴う進行性の非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)に分けられる。NASHはNAFLDの重症型で患者の10〜20%を占める。治療介入が無い場合、NASH患者は5〜10年で5〜20%の症例で肝硬変へ進行する(非特許文献1)。
【0003】
NASHの診断における標準の診断方法は、肝生検である。病理学的診断では、肝細胞の大滴性脂肪化に加えて、炎症を伴う肝細胞の風船様変性を認めるものをNASHとしている。肝生検は肝臓の一部を採取して観察することから、病理医によって診断結果にばらつきが生じうる。さらに肝生検の費用は高く、侵襲性も高いため、複数回実施することは難しく、全ての症例に肝生検を実施することは不可能である。そのため、非侵襲的な診断法の開発が望まれている。
【0004】
現時点ではNASHとNAFLを鑑別できる確立された血液検査マーカーは存在しない。AST、ALT、AST/ALT ratio(AAR)、血清フェリチン、ヒアルロン酸、IV型コラーゲン7S、高感度CRP、HOMA−IRなどの有用性が期待されているが、国内外で、多数例で十分に妥当性が確認されたものは少ない。アポトーシスのマーカーであるサイトケラチン18断片(CK18 fragment)はその有用性が期待されるが、現在のところ一般臨床検査値として普及していない。
【0005】
又、特許文献1には糖蛋白質としてMac−2bpを測定することにより肝疾患の検査が可能ということが記載されている。この検査は、糖鎖変化を有したMac−2bpを測定し、肝線維化進展の診断に利用されている。NASHは肝線維化を有さずとも肝細胞の風船様変性があればNASHと診断されるため、NASHの診断とは相関しない。
【0006】
又、非特許文献2には血中Mac−2bp濃度のELISA法での測定が、NASH鑑別のバイオマーカーとしてCK18 fragmentよりも優れているということが記載されている。しかし、平均値では有意な差があるものの、NASHであるのにも関わらずMac−2bp濃度が健常人と同レベルの患者や、Mac−2bp濃度が高値の健常人が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5031928号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本肝臓学会編、「NASH・NAFLDの診療ガイド2015」、文光堂出版、2015年9月11日
【非特許文献2】KAMADA,Yoshihiro,et al.Serum Mac−2 binding protein levels as a novel diagnostic biomarker for prediction of disease severity and nonalcoholic steatohepatitis.PROTEOMICS−Clinical Applications,2013,7.9−10:648−656.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来よりも高い精度でNASHを診断できるNASHやNAFLDの進展度の検査方法及び炎症疾患や癌の検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、分子量900k以上のMac−2bpを測定する事により、NASHやNAFLDの進展度及び炎症疾患や癌の検出をより明確に診断することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)生体試料中の分子量900k以上として検出されるMac−2bp濃度を検出することを特徴とするNASHやNAFLDの進展度を判定するための検査方法。
(2)前記生体試料は血清試料又は血漿試料である、前記NASHやNAFLDの進展度を判定するための検査方法。
【0012】
(3)Mac−2bp濃度の検出が生体試料から分子量900k以上として検出されるMac−2bpを分離した後に実施されることを特徴とする前記NASHやNAFLDの進展度を判定するための検査方法。
【0013】
(4)Mac−2bp濃度の検出を分子量900k以上のMac−2bpに対して特異的かつ選択的な抗体を使用して実施されることを特徴とする前記NASHやNAFLDの進展度を判定するための検査方法。
【0014】
(5)測定法がラテックス凝集比濁法であることを特徴とする前記NASH及びNAFLDの進展度を判定するための方法。
【0015】
(6)分子量900k以上のMac−2bpが10量体以上のMac−2bpである前記NASH及びNAFLDの進展度を判定するための方法。
【0016】
(7)分子量900k以上の物質がMac−2bpの単量体や副量体が結合した蛋白である前記NASH及びNAFLDの進展度を判定するための検査方法。
【0017】
(8)生体試料中の分子量900k以上として検出されるMac−2bp濃度を検出することを特徴とする炎症疾患及び癌を検出する方法。
【0018】
(9)検出する炎症疾患及び癌が肝炎、肝硬変及び肝癌、前立腺癌であることを特徴とする前記炎症疾患及び癌を検出する方法
に関する。
【発明の効果】
【0019】
分子量900k以上のMac−2bpを測定する事により、NASHやNAFLDの進展度及び炎症疾患や癌の検出をより明確に判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
生体試料は、対象から排泄、採取した試料をさす。種類は特に限定されないが、例えば、排泄物、腹水、咽頭ぬぐい液、涙液、脳脊髄液、血液、血清、血漿などの体液、組織、細胞などが挙げられる。好ましい生体試料は、血液試料(全血)である。さらに好ましい生体試料は、血清試料又は血漿試料である。より好ましい生体試料は、血清試料である。前記生体試料の採取方法に、特に制限はなく、常法により採取することができる。例えば、血液試料の場合、静脈採血や動脈採血により採取される。また、前記血液試料の採取される部位としても、特に制限はなく、体のどの部位から採取された血液であってもよい。
【0021】
本発明において、「対象」とは、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シカなど)であれば特に限定されないが、好ましくはヒトである。
【0022】
本発明において、分子量900k以上のMac−2bpとは、Mac−2bpの単量体や重合体が生体物質と結合した蛋白質又はMac−2bpのみが重合した蛋白質である。Mac−2bpのみが重合する場合、10量体以上となると分子量が900k以上となる。
【0023】
本発明において分子量900k以上のMac−2bp検査の検出方法は、定量可能な方法であればよく、特に限定されない。例えば、免疫学的手法による方法であり、間接蛍光抗体法、二重免疫拡散法、ラジオイムノアッセイ法、ウエスタンブロッティング法、ELISA法、ラテックス法、受身赤血球凝集反応、免疫沈降法、免疫ブロット法やイムノクロマト法など公知の手法で実施することができる。検出の際に使用し得る標識物質、測定機器などは、その目的・手段に適用できるものであれば特に限定されず、公知のものを適用することができる。
【0024】
本発明の検出手段は、比色法(染色法・着色コロイドや着色ラテックスなど含む)、蛍光法や発光法(化学・生物)などを挙げることができる。
【0025】
分子量900k以上のMac−2bpを分離する手段は、分子量毎に分画できるものであればよく、分子篩機能を有するゲル、膜や樹脂などを挙げることができる。
ポリアクリルアミド(やアガロース)などゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動、分離形状はフィルター分離やカラム分離などを挙げることができる。
【0026】
分子量900k以上のMac−2bpを分離して本発明の検査方法を実施する場合は、分子量900k以上のMac−2bpを分離後連続的に実施されることが望ましい。例えば、イムノクロマト法の様な方法が例として挙げられる。
【0027】
分子量900k以上のMac−2bpに対して特異的かつ選択的な抗体は、通常の免疫染色やELISA法で使用可能な抗体から選択しても良い。ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体などで良く、例えば、Mac−2bpの糖鎖を認識する抗体であっても良い(例えば特許第5031928号に記載の抗体)。この他、IBL社から入手可能な8A2、11A1、12A1、31A1、47A1、67A1、69A1が挙げられる。本発明においては検出方法に合わせて、1種類又は複数の抗体を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】ELISA測定によるNASH患者及び健常人の血清におけるMac−2bp値のプロット図である。
【
図2】全自動免疫測定によるNASH患者及び健常人の血清におけるMac−2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)値のプロット図である。
【
図3】ウエスタンブロッティング法によるNASH患者及び健常人の血清における分子量900k以上のMac−2bpを検出した画像である。
【
図4】
図3より解析したNASH患者及び健常人の血清における総Mac−2bp値(a)と分子量900k以上のMac−2bp値(b)の図である。
【
図5】ウエスタンブロッティング法によるNASH患者及び健常人の血清における総Mac−2bp値と分子量900k以上のMac−2bp値を比較したプロット図である。
【
図6】分子量比較のためNative PAGE電気泳動及びウエスタンブロッティング法で化学発光検出した画像図である。
【
図7】ラテックス凝集比濁法によるNASH患者及び健常人の血清におけるMac−2bp値のプロット図である。
図7(a)はAnti−Human Mac−2bp(8A2)Mouse IgGを、
図7(b)はAnti−Human Mac−2bp(12A1)Mouse IgGを、
図7(c)はAnti−Human Mac−2bp(67A1)Mouse IgGを、
図7(d)はAnti−Human Mac−2bp(31A1)Mouse IgGを、それぞれ使用してラテックス凝集試薬を調製して測定した結果の図である。
【
図8】ラテックス凝集比濁法による炎症疾患、癌及び健常人の血清におけるMac−2bp値のプロット図である。
【実施例】
【0029】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
[参考例1]
ELISAによるMac−2bp濃度測定
株式会社免疫生物研究所(IBL)社製のHuman Mac−2 binding protein(Mac−2bp)Assay Kitを用いて、健常人の血清9例、NASH患者の血清9例のMac−2bp濃度の測定を行った。測定方法は製品データシートに従って行った。
結果を
図1に示した。平均値では、健常人が0.86μg/mlに対してNASH患者が1.81μg/mlと有意な増加が認められた。しかし、NASH患者の低値の検体(1.18μg/ml)よりも高い値を示した健常人の検体が2検体(1.28μg/ml、1.34μg/ml)存在した。この結果より、健常人とNASH患者で値の重なりが認められた。
【0031】
[参考例2]
全自動免疫測定装置によるMac−2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)濃度測定
シスメックス株式会社製の肝臓の線維化検査用試薬(HISCL M2BPGi試薬)を用いて、健常人の血清9例NASH患者の血清9例のMac−2bp濃度の測定を行った。
結果を
図2に示した。平均値では、健常人が0.56Cut−Off Index(C.O.I.)に対してNASH患者が1.00C.O.I.と増加しているものの統計的な有意な差は認められなかった。
【0032】
[比較例1及び実施例1]ウエスタンブロッティング法を用いた分子量900k以上のMac−2bp測定
NASH鑑別のバイオマーカーである分子量900k以上のMac−2bpについて、Native PAGE電気泳動及びウエスタンブロッティング法を活用し、NASHの検出を実施した例を以下に示す。
【0033】
スタンダードとしてIBL社製のMac−2bpを用いた。
【0034】
まず、以下の条件でNative PAGE電気泳動を行った。
(1)ゲル
4−20% Non−SDS PAGE mini 1mm 8well(TEFCO社製)
(2)電気泳動層
セイフティーセルミニSTC−808(TEFCO社製)
(3)泳動バッファー
0.025Mトリスヒドロキシメチルアミノメタン + 0.2Mグリシン
(4)サンプル希釈液
10%グリセロール + 0.02%ブロムフェノールブルー
(5)サンプル希釈倍率
5倍希釈
(6)泳動条件
18mA定電流 90分間
【0035】
次に、以下の条件でウエスタンブロッティングを行った。
(1)PVDFメンブレン
Amersham Hybond−P(GE Healthcare社製)
(2)ブロッティングバッファー
20%メタノール + 25mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン + 192mMグリシン
(3)ブロッティング条件
65mA定電流 50分間
(4)ブロッキングバッファー
2%ECL Prime Blocking Reagent(GE Healthcare社製)+ 0.1%Tween 20 + リン酸塩緩衝液(PBS)
(5)ブロッキング条件
室温で1時間振盪後、冷蔵1晩
(6)一次抗体反応
Anti−Human Mac−2bp(8A2)Mouse IgG(IBL社製)
(7)二次抗体反応
HRP. Anti−Mouse IgA+IgG+IgM(H+L)(KPL社製)
(8)検出試薬
ECL Prime Solution1 + Solution2(GE Healthcare社製)
(9)検出機器
LAS−1000(富士フィルム社製)
【0036】
化学発光検出した画像を
図3に示した。最上部のバンドを分子量900k以上のMac−2bpとした。画像解析ソフト(CSAnalyzer4,ATTO社製)を用いて、スタンダードを1として総Mac−2bpの濃度と分子量900k以上のMac−2bpの濃度を計算した。総Mac−2bpの濃度の結果を比較例1(
図4a)に分子量900k以上のMac−2bpの濃度の結果を実施例1(
図4b)に示した。又、3枚のゲルを用いて、健常人の血清9例、NASH患者の血清9例の総Mac−2bpの濃度と分子量900k以上のMac−2bpの濃度の結果を
図5に示した。
【0037】
比較例1(
図4a)のように総Mac−2bp濃度では、健常人1例で10を上回り、NASH患者と同程度の値となったが、実施例1(
図4b)のように分子量900k以上のMac−2bp濃度で比べると健常人とNASH患者が明確に分かれた。検体数をそれぞれ9例に増やして測定した結果、
図5のように平均値においては、総Mac−2bp濃度(比較例)で健常人が7.07に対してNASH患者が17.05と有意な増加が認められた。しかし、NASH患者の低値の検体(7.76)よりも高い値を示した健常人の検体が3検体(8.55、11.46、14.07)存在した。この結果より、健常人とNASH患者で値の重なりが認められた。一方で、分子量900k以上のMac−2bp濃度(実施例)の平均値では健常人が2.09に対してNASH患者が10.96と有意な増加が認められた。又、NASH患者の低値の検体(4.31)よりも健常人の高値の検体(2.99)が低い値を示しており、健常人とNASH患者が明確に分かれた。以上より、実施例1は、比較例1、参考例1及び2に比べて、生体試料中の分子量900k以上のMac−2bp濃度により、健常人とNASH患者を明確に分けられることが明らかであった。
【0038】
[実施例2]多量体のMac−2bpの比較
分子量の比較を行うために、IBL社製のMac−2bpとR&D SYSTEMS社製のRecombinant Human Galectin−3BP/MAC−2BPを実施例1と同様の方法でNative PAGE電気泳動及びウエスタンブロッティング法で評価した例を以下に示す。
【0039】
化学発光検出した画像を
図6に示した。R&D SYSTEMS社製のMac−2bpは主に10量体(約900k)又は12量体(約1080k)を形成しており、重量平均分子量が950kDaである。IBL社製のMac−2bpのバンドも同じ位置で検出されているため、分子量900k以上又は10量体以上のMac−2bpを測定することにより、NASHやNAFLDの進展度をより明確に判定することができる。
【0040】
[実施例3及び比較例2]ラテックス凝集比濁法によるNASH患者及び健常人の血清Mac−2bp値の比較
実施例3−(a)はAnti−Human Mac−2bp(8A2)Mouse IgGを、実施例3−(b)はAnti−Human Mac−2bp(12A1)Mouse IgGを、実施例3−(c)はAnti−Human Mac−2bp(67A1)Mouse IgGを、実施例3−(d)はAnti−Human Mac−2bp(31A1)Mouse IgGを使用してラテックス凝集試薬を調製して、NASH患者及び健常人の血清中のMac−2bp濃度を測定した結果を示す(
図7a、7b、7c、7d)。なお、用いた4種の抗Mac−2bp抗体はIBL社製である。
【0041】
ラテックス凝集試薬は以下の様に調製した。
平均粒子径0.3μmのポリスチレンラテックス(固形分10%(W/V))100μLに、感作用緩衝液800μLを添加し、さらに抗Mac−2bp抗体 1mg/mLを100μL添加した。従って感作時には1%(W/V)ラテックス液となる。この溶液を25℃にて1時間振盪器にて110rpmで反応させた。その後、ブロッキング緩衝液を1mL添加し、25℃にて1.5時間振盪器にて反応させた。その後、5℃、15000rpmにて30分間遠心分離した。上清をアスピレータにて除去し、沈渣を得た。その沈渣にラテックス試薬用緩衝液を2mL加え、ボルテックスによりラテックスを分散させた。分散させたラテックス試薬を再び5℃、15000rpmにて30分間遠心分離することにより沈渣を洗浄した。先ほどと同様に上清をアスピレータにて除去し、沈渣を得た。この沈渣にラテックス試薬用緩衝液を2mL加え、ボルテックスにて分散させた後、さらに3mLのラテックス試薬用緩衝液を加えてよく攪拌後に超音波洗浄機にて分散処理を行い、固形分0.2%(W/V)のラテックス試薬とした。このようにして調整したラテックス試薬は4℃にて保存した。
【0042】
測定に使用した機器と測定条件は以下の通りである。
ラテックス試薬によるヒトMac−2bp量の測定は生化学用自動分析装置ビオリス24i Premium(東京貿易機械株式会社)を用いて行った。上記(1)で得られた固形分0.2%(W/V)のラテックス試薬をそのままR2試薬とした。測定条件は以下の通りである。
検体容量 10μL
検体希釈液(R1試薬) 200μL
試薬(R2試薬) 40μL
測定波長 750nm
測定温度 37℃
【0043】
R1試薬 200μLを添加し引き続いて検体10μLを添加後、37℃のセル内で5分間反応させる。その後、R2試薬 40μLを添加し約30秒後の吸光度と約360秒後の吸光度の差(△OD750)を測定し、吸光度変化量とした。また、検体の代わりに既知濃度の標準品をもちいて同様の測定を行い、予め検量線を作成しておき、上記検体の吸光度変化量を上記検量線に外挿して、検体中のヒトMac-2bp量を測定した。以上より、実施例3は、比較例2に比べて、健常人とNASH患者を明確に分けられることが明らかであった。
【0044】
[実施例4]ラテックス凝集比濁法による炎症疾患、癌及び健常人の血清Mac−2bp値の比較
実施例3−(b)で使用した抗体を含むラテックス凝集試薬を用いて、炎症疾患(肝炎、肝硬変)、癌(肝臓癌、前立腺癌)及び健常人の血清中のMac−2bp濃度を測定した結果を示す(
図8)。