(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前段装置(3)の回転動力を受継ぐ入力軸(5)と、入力軸(5)に固定される偏心カム(6)と、偏心カム(6)で回転駆動される遊星ギヤ(7)と、遊星ギヤ(7)と噛合って同ギヤ(7)を自転しながら公転させるインナーギヤ(8)と、遊星ギヤ(7)の自転動力を受け継ぐ受動ディスク(9)および出力軸(10)と、これらの部材を収容するケーシング(4)を備えているサイクロイド式の減速機であって、
遊星ギヤ(7)の入力軸(5)側の歯端面に、遊星ギヤ(7)のギヤ歯(49)の突出方向と同じ方向にフランジ壁(51)が張出し形成されており、
遊星ギヤ(7)およびインナーギヤ(8)の噛合部における入力軸(5)とは反対側の空間に受動ディスク(9)の周縁部(53)を位置させていることを特徴とする減速機。
遊星ギヤ(7)とインナーギヤ(8)の噛合部分において、フランジ壁(51)の周縁が、インナーギヤ(8)のギヤ歯(29)の谷部分(99)を超えてオーバーラップする設定となっていることを特徴とする請求項3に記載の減速機。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施例1)
図1から
図8に、本発明におけるサイクロイド式の減速機2を、モーター(前段装置)3に直結してパワーユニット1として構成した実施例1を示す。なお、本実施例における前後、左右、上下とは、
図2および
図3に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。
【0019】
図2に示すようにサイクロイド式の減速機2は、ケーシング4を基本構造体にして、その内部にモーター3の回転動力を受継ぐ入力軸5と、入力軸5に固定される黄銅製の偏心カム6と、偏心カム6で回転駆動される遊星ギヤ7と、遊星ギヤ7と噛合って同ギヤ7を自転しながら公転させるインナーギヤ8と、遊星ギヤ7の自転動力を受け継ぐ受動ディスク9および出力軸10などで構成される。なおこの実施例では、モーター3の出力軸3aが減速機2の入力軸5を兼ねるようにしたが、出力軸3aと入力軸5とを個別に設けて、カップリングで連結してもよい。
【0020】
モーター3は、電気かみそりやマッサージ用の美容器具などの電気機器の駆動源として多用されるブラシ付の直流モーターからなり、その無負荷時の出力軸3aの駆動回転数は13000rpm、最大トルクは19mN・mである。モーター3は断面が太鼓形の金属製のハウジング13を備えており、その上端に減速機2のケーシング4に密着接合される平坦な接合壁(固定壁)14を有し、接合壁14の中央に出力軸3aの上部を支持するボス状の軸受部15が膨出形成されている。
【0021】
図3においてケーシング4は、入力軸5側の端部に配置される基端ケース16と、インナーギヤ8を兼ねる中間ケース(ケース)17と、出力軸10側の端部に配置される先端ケース18を備えている。基端ケース16およびケース17と先端ケース18の外形は、それぞれ先のハウジング13と同じ大きさの太鼓形に形成されている。
【0022】
基端ケース16はガラス粉末(フィラー)が混入されたポリアミド樹脂製の成形品からなり、太鼓形のベース壁20と、同壁20の周縁部に周回状に突設された周回壁21を一体に備えている。周回壁21で囲まれたベース壁20の中央には、先の軸受部15を嵌合支持する連結穴22が形成され、その左右にビス挿通穴23が形成されている。ベース壁20の下面は、モーター3を密着接合するための平坦な装着座24とされている。周回壁21には、対向する円弧縁に沿って4個の位置決め穴25と2個の締結穴26が形成されている。
【0023】
図2に示すように、軸受部15を連結穴22に嵌合し、接合壁14が装着座24に密着接合された状態で、ビス挿通穴23に挿通した2個のビス(ねじ軸)27を、ハウジング13のねじ穴28にねじ込むことにより、基端ケース16がモーター3と一体化される。このように、モーター3とケーシング4を複数の接合平面を介して密着接合すると、連結対象3・4どうしを複数の向きに位置決めした状態で強固に連結し、お互いが連結相手の構造強度を増強できるので、モーター3とケーシング4をさらに強固に連結できる。モーター3から減速機2へ伝動される回転動力の伝動ロスを低減できる利点もある。
【0024】
ケース17は、ステンレス板材(金属材)を素材とする平板状の精密プレス成形品からなり、その内面に形成した一群の波形のギヤ歯29でインナーギヤ8を構成している。ケース17の円弧縁に沿って、4個の位置決め穴30と2個の締結穴31が形成されており、位置決め穴30のそれぞれにステンレスなどの金属製の位置決め軸32が、ケーシング4の組付け作業に先立って圧嵌固定される。ギヤ歯29の歯数は、後述する遊星ギヤ7のギヤ歯49の歯数より1だけ多く、その歯数は18である。上記のように位置決め軸32が金属材で形成してあると、同軸32がプラスチック材で形成してある場合に比べて、軸強度を高めることができるうえ、経年劣化を考慮する必要がないので、ケーシング4の耐久性を向上できる点で好適である。
【0025】
上記のように、インナーギヤ8を兼ねるケース17を金属材で形成すると、ケース17がプラスチック材で形成されている場合に比べて、インナーギヤ8を精度よく形成できる。これは、ケース17をプラスチック材で形成する場合には、成形時の収縮歪みを避けることができず、インナーギヤ8の形状および寸法精度を高めるうえで限界があるからである。これに対し、ケース17を金属材で形成する場合には、金属素材に機械加工を施してインナーギヤ8をより精密に形成できるので、同ギヤ8の形状および寸法精度を確実に向上できるうえ、不良品の発生頻度を押えてケース17の生産性を向上できる。
【0026】
先端ケース18は、出力軸10の周囲を囲むボス部35および端壁36と、端壁36の周縁部に周回状に突設された周回壁37を一体に備えた、ポリアセタール樹脂製の成形品からなり、ボス部35の中央に出力軸10用の軸穴38が開口されている。周回壁37には、対向する円弧縁に沿って4個の位置決め穴39と2個の締結穴40および締結座41(
図6参照)が形成されている。
【0027】
図3に示すように、機械加工された偏心カム6の周囲には円形の駆動カム面44が形成されており、偏心カム6の中央寄りには入力軸5に圧嵌固定される取付穴45が形成されている。駆動カム面44の中心は取付穴45の中心に対して偏心されている。駆動カム面44にはボールベアリング(軸受体)46が装着されており、以下に説明する遊星ギヤ7がボールベアリング46で回転自在に支持されている。また、ボールベアリング46の内輪が駆動カム面44と嵌合し、さらに外輪が受動カム面48と嵌合する状態で、遊星ギヤ7を偏心カム6でボールベアリング46を介して軸心方向へ位置決めして、遊星ギヤ7が、同ギヤ7と隣接するベース壁20および受動ディスク9に対して隙間を介して正対させている。
【0028】
上記のように、偏心カム6と遊星ギヤ7の間に配置した軸受体46で遊星ギヤ7を回転自在に支持すると、偏心カム6と遊星ギヤ7の相対動作を軸受体46で吸収しながら、偏心カム6の回転動作を遊星ギヤ7に円滑に伝動できる。従って、偏心カム6と遊星ギヤ7の間の回転動力の伝動負荷を軽減して、動力の伝動効率を向上できる。因みに、遊星ギヤ7が偏心カム6で直接支持されている場合には、両者6・7の嵌合部分に、相対動作に伴う大きな摩擦力が生じるため、偏心カム6と遊星ギヤ7の間に動力ロスが生じることが避けられない。また、遊星ギヤ7が隣接するベース壁20および受動ディスク9に対して隙間を介して正対するように、遊星ギヤ7を偏心カム6で軸受体46を介して軸心方向へ位置決めするので、出力軸10に強い負荷が掛かるような場合に、受動ディスク9が遊星ギヤ7に強く接触し、あるいは、遊星ギヤ7がベース壁20に強く接触するのを確実に解消して、減速機2の負荷が増大するのを防止できる。
【0029】
遊星ギヤ7は、ポリアミド樹脂製の円形ギヤ状の成形品からなり、その中央に先のボールベアリング46で回転自在に支持される受動カム面48が形成され、受動カム面48の周囲に一群の波形のギヤ歯49が径方向外側に張出し形成されている。また、遊星ギヤ7の上面には8個の丸軸からなる駆動軸50が等間隔おきに突設されており、遊星ギヤ7の下面(入力軸5側の歯端面)にはフランジ壁51がギヤ歯49の張出し方向と同じ方向にギヤ歯49と一体に張出し形成されて、ギヤ歯49の下面側を塞いでいる。つまり、遊星ギヤ7の側面に、遊星ギヤ7のギヤ歯49の突出方向と同じ方向にフランジ壁51が張出し形成されている。また、ギヤ歯49の歯端面の歯と歯の隙間を埋めるようにフランジ壁51が、ギヤ歯49と一体で形成されているので、ギヤ歯49の強度を増すことができる。遊星ギヤ7のギヤ歯49がインナーギヤ8のギヤ歯29と噛合って高速で公転しながら低速で自転することにより、入力軸5の駆動回転数を18分の1まで減速することができる。
【0030】
受動ディスク9は、円板状のポリアセタール樹脂製の成形品からなり、その中央にステンレス製の出力軸10が固定されている。受動ディスク9の板面には、先の駆動軸50に対応して8個の受動穴54が等間隔おきに形成されている。受動穴54の直径は、駆動軸50の直径より大きく設定されており、駆動軸50の周面の1個所が受動穴54の内面と常に接触している。この接触位置が徐々にずれ動くことで遊星ギヤ7の自転動力が受動ディスク9へ伝動される。出力軸10は、先端ケース18のボス部35に圧嵌装着したボールベアリング(軸受体)55で回転自在に支持されている。また、ボールベアリング55の内輪が出力軸10と嵌合し、さらに外輪がボス部36に設けた軸受穴と嵌合する状態で、受動ディスク9および出力軸10を、ボールベアリング55を介して先端ケース18で軸心方向へ位置決めしている。これにより、受動ディスク9が、同ディスク9と隣接する端壁36および遊星ギヤ7に対して隙間を介して正対させている。
【0031】
上記のように、先端ケース18と出力軸10の間に配置したボールベアリング55で出力軸10を回転自在に支持すると、先端ケース18と出力軸10の間の摩擦抵抗を小さくして、遊星ギヤ7から受け継いだ受動ディスク9の回転動力を、動力損を伴うこともなく出力軸10から円滑に出力できる。また、受動ディスク9が端壁36および遊星ギヤ7に対して隙間を介して正対するように、出力軸10を先端ケース18でボールベアリング55を介して軸心方向へ位置決めするので、出力軸10に強い負荷が掛かるような場合に、受動ディスク9が端壁36に強く接触し、あるいは、受動ディスク9が遊星ギヤ7に強く接触するのを確実に解消して、減速機2の負荷が増大するのを防止できる。
【0032】
減速機2は、例えば以下の手順でモーター3に組付けられる。まず、基端ケース16を先に説明した要領でハウジング13に組付けたうえで、別途仮組しておいた偏心カム6とボールベアリング46と遊星ギヤ7を基端ケース16の内部に収容し、偏心カム6の取付穴45を入力軸5に圧嵌固定する。次に、インナーギヤ8を遊星ギヤ7に噛合わせながら、ケース17に固定した位置決め軸32を基端ケース16の位置決め穴25に圧嵌して、インナーギヤ8を遊星ギヤ7に組付ける。さらに、受動ディスク9の受動穴54を遊星ギヤ7の駆動軸50に係合させた状態で、先端ケース18の位置決め穴39を位置決め軸32に圧嵌し、同時に先端ケース18に仮組したボールベアリング55を出力軸10に組付ける。最後に、
図6に示すようにビス(締結軸)57を先端ケース18およびケース17に設けた締結穴40・31に挿通し、そのねじ軸を基端ケース16の締結穴26にねじ込むことにより、減速機2をモーター3と一体化できる。このように、ビス57を基端ケース16に締結した状態では、ビス57のねじ軸と先端ケース18およびケース17の締結穴40・31の間には、僅かな隙間が形成されている。そのため、位置決め軸32で位置決めされた各ケース16・17・18の位置決め精度が、ビス57を締結固定することで乱されるのを防止できる。ビス57は各ケース16・17・18をケーシング4の軸心方向へ固定するためにのみ設けてあり、各ケース16・17・18の位置決めは位置決め軸32でのみ行うように機能を分担しており、これによりケーシング4を精度よく組むことができる。
【0033】
以上のように、ケーシング4を3個のケース16・17・18で構成すると、各ケース16・17・18や内部パーツ6〜10を順に組むことで減速機2を完成できるので、ケーシング4の主要部が中空ケース状に形成されている場合に比べて、組立途中のパーツの動作状況を確認しながら各パーツを的確に組むことができる。また、金属材で形成したケース17および位置決め軸32を位置決め基準とすると、ケース17を基端ケース16に組む過程で、インナーギヤ8と遊星ギヤ7の噛合い状態や同ギヤ7の回転状態の適否を確認することができる。従って、減速機2の組立過程の初期に両ギヤ7・8の噛合い不良などを発見して、減速機2の分解や再組立などに要する手間を省くことができる。
【0034】
上記のように、各パーツを組んだ状態では、ステンレス板材で形成したケース17と同ケース17に固定した位置決め軸32を位置決め基準にして、各ケース16・17・18を位置決め軸32で位置決めできるようにした。こうした減速機2によれば、各ケース16・17・18が、後述するようにそれぞれの接合面で凹凸係合させて位置決めされている場合に比べて、誤差が集積するのを解消できるので、減速機2の小形化を実現しながら、ケーシング4内に収容される各パーツ5〜10の組立精度を向上できる。また、基端ケース16および先端ケース18がプラスチック成型品で構成したので、各ケース16・17・18の加工精度や位置決め穴25・30・39の位置精度に僅かなばらつきがあったとしても、位置決め穴25・39が変形することで先のばらつきを吸収できる。従って、基端ケース16および先端ケース18を位置決め軸32に対して的確に組むことができる。
【0035】
因みに、各ケース16・17・18を金属材で形成した場合には、加工精度や位置精度に僅かなばらつきがあるだけで各ケース16・17・18の組付けが困難になり、あるいは位置決め軸32が塑性変形して位置決め機能を発揮できなくなるおそれがある。また、基端ケース16とケース17、あるいはケース17と先端ケース18を、それぞれの接合面で凹凸係合させて位置決めした場合には誤差が集積しやすく、例えば基端ケース16と先端ケース18の位置精度に大きなばらつきを生じることがある。
【0036】
図1に示すように、減速機2を組んだ状態では、ケーシング4の入力軸5側の端部が、基端ケース16のベース壁20で塞がれて密閉されてしまう。また、周回壁21がベース壁20と協同して噛合騒音が外部へ漏れ出るのを防止する。そのため、遊星ギヤ7とインナーギヤ8のギヤ歯29・49の間の噛合騒音が、外部へ漏れ出るのを防止して減速機2を静音化できる。ケーシング4内に塵埃が侵入して、先の噛合部分に噛込まれることもない。また、ベース壁20を設けた分だけ、ケーシング4で囲まれた内部空間の容積を小さくできるので、噛合騒音がケーシング4の内部空間で共鳴するのを抑制できる。さらに、基端ケース16のベース壁20の厚みE1を、軸受部15の厚みE2と同じに設定した場合には、ケーシング4で囲まれた内部空間の容積をさらに小さくして、ギヤ歯29・49の間で生じる噛合騒音がケーシング4の内部空間で共鳴するのを効果的に抑制できる。
【0037】
遊星ギヤ7のギヤ歯49の下面側がフランジ壁51で塞がれているので、遊星ギヤ7およびインナーギヤ8の噛合部と、基端ケース16のベース壁20の間をフランジ壁51で区分して隘路化し、噛合騒音の伝導経路を複雑化している。つまり、遊星ギヤ7およびインナーギヤ8の噛合部と、両ギヤ7・8の噛合部より下方の空間S1の間をフランジ壁51で隘路化することにより、噛合騒音の伝導経路を複雑化して、両ギヤ7・8の噛合部より下方の空間S1における騒音レベルを低下している。先端ケース18の側においても同様の騒音対策が行われている。詳しくは、遊星ギヤ7およびインナーギヤ8の噛合部と先端ケース18の間を、受動ディスク9の周縁壁53で区分して隘路化し、噛合騒音の伝導経路を複雑化している。つまり、遊星ギヤ7およびインナーギヤ8の噛合部と、両ギヤ7・8の噛合部より上方の空間S2の間を受動ディスク9の周縁壁53で隘路化し、噛合騒音の伝導経路を複雑化して、両ギヤ7・8の噛合部より上方の空間S2における騒音レベルを低下している。
【0038】
遊星ギヤ7とインナーギヤ8は、
図1に向かって両ギヤ7・8の左側の噛合部分でのみ噛み合っており、先のフランジ壁51はインナーギヤ8のギヤ歯29の谷部分99の下方を覆い隠している。この状態における入力軸5の中心からフランジ壁51の周面までの半径寸法は、入力軸5の中心からギヤ歯29の谷部分99までの径方向距離と同じに設定してあれば良いが、入力軸5の中心からギヤ歯29の谷部分99までの径方向距離より大きくしてあるとさらに好ましい。いずれの場合にも、両ギヤ7・8の噛合部と、噛合部より下方の空間S1の間をフランジ壁51で確実に隘路化して、噛合騒音の伝導経路を複雑化でき、噛合部より下方の空間S1における騒音レベルを確実に低下させて、ケーシング4の低騒音化を促進できる。なお、フランジ壁51の周面までの半径寸法は、入力軸5の中心からギヤ歯29の谷部分99までの径方向距離と同じに設定する必要はなく、フランジ壁51の周面が両ギヤ7・8の噛合部においてギヤ歯29の谷部分99の中間位置(ピッチ円付近)まで覆う構成であってもよい。同様に、出力軸10の中心から受動ディスク9の周縁壁53までの半径寸法は、入力軸5の中心からギヤ歯29の谷部分99までの径方向距離と同じか、これより大きく設定してあることが好ましいが、受動ディスク9の周縁壁53が両ギヤ7・8の噛合部においてギヤ歯29の谷部分99の中間位置(ピッチ円付近)まで覆う構成であってもよい。
【0039】
本実施例では、上記の騒音対策に加えて以下の騒音対策を行って、減速機2の騒音レベルをさらに低下し静音化を図るようにしている。
図7に示すように、基端ケース16の内面(ベース壁20と周回壁21の内面)に、噛合騒音を反射する一群の凹凸体59で構成した基端側減衰壁60を設けている。また、
図8に示すように、先端ケース18の内面(ボス部35・端壁36・周回壁37の内面)に、噛合騒音を反射する一群の凹凸体61で構成した先端側減衰壁62を設けている。凹凸体59・61は、四角錐状に形成されており、その傾斜周面で反射した噛合騒音同士を干渉させて、騒音レベルを効果的に低下して減速機2を静音化できる。また、上記各減衰壁60・62に加えて、或いはそれに換えて、基端ケース16の内面、または/及び先端ケース18の内面に、遮音性シートを貼り付けて設けることができる。遮音性シートは、合成ゴムからなる独立気泡型シート、同じく合成ゴムからなる連続気泡型のシート、ウレタン等を繊維質にして構成した吸音シートのうち、いずれか一つで構成する、或いはそれぞれ種類の異なるシートを任意に組み合わせて積層して構成することができる。例えば、独立気泡型シート、連続気泡型のシート、繊維質の吸音シートを組み合わせた3層構造の遮音性シートとするのが好ましい。これによって、ケーシング4からの騒音レベルを大きく低下して減速機2の静音化に寄与できる。さらに、上記遮音性シートを、ケーシング4を構成する基端ケース16、ケース17、先端ケース18のいずれか一つ、或いはすべてのケースの外面に貼り付けて設けてケーシング4からの騒音レベルを低下させることができる。このとき、ケーシング4とケーシング4よりも径の大きい別ケース体で遮音性シートを挟み込むように重畳して構成することにより、より一層騒音レベルを低下させることができる。
【0040】
上記構成の減速機2によれば、ステンレス板材で形成したケース17を位置決め基準にして、各ケース16・17・18を位置決め軸32で互いに位置決めするので、減速機2の基幹構造となるケーシング4の組立精度を向上できる。また、ケーシング4の内部空間に臨む基端ケース16および先端ケース18から噛合騒音が漏出るのを極力防止し、遊星ギヤ7のフランジ壁51や受動ディスク9の周縁壁を利用してケーシング4の内部空間を複雑に区分し、基端ケース16および先端ケース18の内面のそれぞれに減衰壁60・62を設けるので、全体として減速機2における騒音レベルを低下できる。さらに、モーター3の接合壁14に基端ケース16をビス27で締結し、基端ケース16とケース17と先端ケース18の三者を、基端ケース16にねじ込んだビス57で締結してケーシング4を構成するので、モーター3の構造に対応する基端ケース16を用意しておくことで、市販されているモーターをそのまま使用することができる。従って、特注のモーター3を使用する場合に比べて、減速機2を低コスト化できる。加えて、締結軸57のねじ軸端を動く余地のない基端ケース16に締結するので、隣接する各ケース16・17・18を精度良く位置決めされた状態のままで締結軸57によって確りと固定して、ケーシング4の構造強度を向上できる。
【0041】
実施例1の減速機2においては、偏心カム6と遊星ギヤ7の間に配置した軸受体46で遊星ギヤ7を回転自在に支持するようにした。こうした減速機構によれば、偏心カム6と遊星ギヤ7の相対動作を軸受体46で吸収しながら、偏心カム6の回転動作を遊星ギヤ7に円滑に伝動できる。従って、偏心カム6と遊星ギヤ7の間の回転動力の伝動負荷を軽減して、動力の伝動効率を向上できる。また、先端ケース18と出力軸10の間に配置した軸受体55で出力軸10を回転自在に支持するので、先端ケース18と出力軸10の間の摩擦抵抗を小さくして、遊星ギヤ7から受け継いだ受動ディスク9の回転動力を、動力損を伴うこともなく出力軸10から円滑に出力できる。
【0042】
(実施例2)
図9は実施例1に係る減速機2の一部を変更した、本発明の実施例2に係る減速機2を示している。そこでは、基端ケース16を省略し、ケース17の下面側に周回壁64を周回状に突設して、先端ケース18とケース17を、モーター3のハウジング13のねじ穴28にねじ込まれるビス57で締結固定して、ケーシング4をモーター3と一体化した。また、先端ケース18とケース17を位置決めする位置決め軸32を、ハウジング13の接合壁14に設けた位置決め穴(図示していない)に固定し、モーター3のハウジング(前段装置の固定壁)13を位置決め基準にしてケーシング4を組付けるようにした。周回壁64を備えたケース17は、ステンレス材を素材にしてロストワックス法で形成するようにした。
【0043】
上記の減速機2は、ハウジング13に位置決め穴が形成してある特注のモーター3を使用することになるが、基端ケース16を省略できる分だけ減速機2の構造を簡素化して低コスト化できる。また、締結軸57の軸端を動く余地のない接合壁(固定壁)14に締結することで、隣接する各ケース17・18を精度良く位置決めされた状態のままで締結軸57によって確りと固定することができるので、ケーシング4の構造強度を向上できる。他は実施例1の減速機2と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。以下の実施例においても同じとする。なお、ケーシング4が基端ケース16とケース17と先端ケース18で構成されている場合にも、上記と同様に各ケース16・17・18をハウジング13のねじ穴28にねじ込まれるビス57で締結固定し、各ケース16・17・18を位置決めする位置決め軸32を、ハウジング13の位置決め穴に固定してもよい。
【0044】
(実施例3)
図10ないし
図14に、本発明の実施例3に係る減速機2を示す。本実施例においては、ケーシング4の構造を変更する点、遊星ギヤ7および受動ディスク9の回転中心軸方向へのがたつきを規制する点、遊星ギヤ7の自転動力を一対の駆動軸50および受動穴54で受動ディスク9に伝動する点が先の各実施例と異なる。
【0045】
ケーシング4の構造変更に関しては、ケーシング4を構成する各ケース16・17・18のうち、ステンレス板材(金属材)を素材とする平板状のプレス成形品で基端ケース16を構成し、ビス27でハウジング13に締結固定するようにした。連結穴22、ビス挿通穴23、位置決め穴25は機械加工で形成した。また、ケース17および先端ケース18は、それぞれポリアミド樹脂製の成形品で構成し、基端ケース16を位置決め基準にして、ケーシング4の組付け作業に先立って基端ケース16に固定した位置決め軸32で、両ケース17・18を位置決めするようにした。基端ケース16のベース壁20の厚みE1は、軸受部15の厚みE2より大きく設定して、ケーシング4で囲まれた内部空間の容積をさらに小さくして、噛合騒音がケーシング4の内部空間で共鳴するのを効果的に抑制できようにした。周回壁21は省略した。ケース17の下面側には周回壁64を周回状に突設した。先端ケース18はボス部35を省略し、端壁36と周回壁37で皿状に形成した。また、端壁36の中央に固定した平軸受(軸受体)55で出力軸10を軸支した。遊星ギヤ7の受動カム面48に偏心カム6の駆動カム面44を内嵌して、ボールベアリング46は省略した。
【0046】
上記のように基端ケース16を金属素材で形成すると、ケース17および遊星ギヤ7を樹脂素材で形成することができる。従って、遊星ギヤ7とインナーギヤ8の噛合部で生じる噛合騒音を低減して、減速機2を静音化できる。また、金属材で形成した基端ケース16と、同ケース16に固定した位置決め軸32が位置決め基準となるので、ケース17を位置決め軸32に組む過程で、インナーギヤ8と遊星ギヤ7の噛み合い状態や同ギヤ7の回転状態の適否を確認することができる。従って、ケース17が金属材で形成してある場合と同様に、減速機2の組立過程の初期に両ギヤ7・8の噛合い不良などを発見して、減速機2の分解や再組立などに要する手間を省くことができる。
【0047】
遊星ギヤ7および受動ディスク9のがたつきを規制することに関しては、ケース17の内面内方に、基端ケース16のベース壁20と正対するフランジ状の規制壁68を張出し形成して、規制壁68とベース壁20で遊星ギヤ7の対向端面を挟持して、遊星ギヤ7の回転中心軸方向へのがたつきを規制した。また、ベース壁20および規制壁68と遊星ギヤ7との接触摩擦を小さくするために、遊星ギヤ7の上端面と下端面にリング状の突出リブ69を膨出形成した。規制壁68の中央には、駆動軸50用の通口70を形成した。こうした減速機2によれば、遊星ギヤ7が公転しながら自転するとき、回転中心軸に沿ってがたつくのを解消できるので、偏心カム6と遊星ギヤ7の間の回転動力の伝動を効率よく行える。高速度で公転する遊星ギヤ7ががたついて、耳障りな衝突音が発生するのを解消できる利点もある。
【0048】
さらに、受動ディスク9の下面に受動穴54を備えた受動リング71を配置し、これら両者9・71を4個の連結ピン72で同行回転可能に固定した。そのうえで、受動ディスク9の上面と、受動リング71の下面を、先の規制壁68と、同壁68に正対する先端ケース18の端壁36で挟持して、受動ディスク9の回転中心軸方向へのがたつきを規制した。また、端壁36および規制壁68と受動ディスク9の接触摩擦を小さくするために、受動ディスク9の上面と端壁36の間にスラストワッシャー73を配置し、受動リング71の下面には、リング状の突出リブ74を膨出形成した。以上のように、遊星ギヤ7および受動ディスク9の回転中心軸方向へのがたつきを規制することにより、遊星ギヤ7の自転動力を受動リング71に伝動するときの伝動効率を向上して、入力軸5と出力軸10の間の動力損を低減することができる。こうした減速機2によれば、遊星ギヤ7から受継いだ回転動力を、受動ディスク9と出力軸10を介してがたつきを伴うこともなく出力軸10から円滑に出力できる。
【0049】
遊星ギヤ7の自転動力を受動ディスク9に伝動するために、遊星ギヤ7の中央に筒軸状の1個の駆動軸50を突設し、受動リング71の内面に駆動軸50と係合する1個の受動穴54を設けるようにした。駆動軸50の上端には空気抜き穴75を通設した。実施例1と同様に、受動穴54の直径は、駆動軸50の直径寸法よりも大きく形成して、動力伝達時の駆動軸50の周面の1個所が受動穴54の内面に接触して、受動リング71を遊星ギヤ7と同行回転させる。なお、
図10および
図14において、符号P1は入力軸5および出力軸10の軸中心、P2は受動穴54の穴中心である。以上のように、遊星ギヤ7の自転動力を一対の駆動軸50と受動穴54で受動ディスク9に伝動すると、多数個の駆動軸50と受動穴54で自転動力を受動ディスク9に伝動する場合に比べて、駆動軸50と受動穴54の間の伝動騒音(摺接音)を小さくして、減速機2を静音化できる。また、駆動軸50と受動穴54が1個所でのみ接触して動力を伝動するので、加工精度の影響を受けにくい状態で自転動力を受動ディスク9に効率よく伝動できる。
【0050】
(実施例4)
図15ないし
図17に、本発明の実施例4に係る減速機2を示す。本実施例においては、遊星ギヤ7を以下に説明する構造に変更して、ケーシング4の低騒音化をさらに効果的に行えるようにした。そこでは、
図15に示すように、遊星ギヤ7をギヤ本体部95と、ギヤ本体部95の受動ディスク9との対向面(上面)に固定されるフランジ壁96で構成した。ギヤ本体部95の入力軸5側の歯端面(下面)には、実施例1と同等のフランジ壁51が張り出してある。上面側のフランジ壁96は、
図16に示すようにリング状に形成してあり、その内縁の4個所には締結座97が等間隔おきに設けてある。フランジ壁96は、遊星ギヤ7をインナーギヤ8に組付けた状態でギヤ本体部95に組付けられ、その締結座97に挿通したビス98をギヤ本体部95にねじ込むことにより、ギヤ本体部95と一体化される。フランジ壁96の形成素材は、プラスチック材と金属材のいずれであってもよいが、とくにフランジ壁96が金属材で形成してある場合には、フランジ壁96の補強作用によって、遊星ギヤ7の全体の構造強度を増強できる。下側のフランジ壁51は、上側のフランジ壁96と同様に独立したパーツで形成して、ギヤ本体部95に締結固定してもよく、金属材で形成してあってもよい。
【0051】
遊星ギヤ7とインナーギヤ8は、
図17に向かって両ギヤ7・8の左側の噛合部分でのみ噛み合っており、各フランジ壁61・96はインナーギヤ8のギヤ歯29の谷部分99aの下方と上方を覆い隠している。この状態における入力軸5の中心からフランジ壁51・96の周面までの半径寸法は、フランジ壁51・96とインナーギヤ8の関係で言うと、先の半径寸法が入力軸5の中心からギヤ歯29の谷部分99の底部までの径方向距離より大きく設定してあると言える。また、フランジ壁51・96と遊星ギヤ7の関係で言うと、先の半径寸法が入力軸5の中心からギヤ歯49の山部分100の頂部までの径方向距離より大きく設定してあると言える。実施例1で説明したフランジ壁51も同様に設定してある。
【0052】
上記のように、各フランジ壁61・96の周縁が、ギヤ歯29の谷部分99の底部、あるいはギヤ歯49の山部分100の頂部を越える状態でオーバーラップさせてあると、両ギヤ7・8の噛合部分で発生した噛合騒音を、上下のフランジ壁61・96で遮ることができる。
図17に、各フランジ壁61・96の周縁とギヤ歯29の谷部分99のオーバーラップ量を、符号Hで示している。この実施例では、噛合部に臨む5組のギヤ歯29・49の上下面が、上下のフランジ壁61・96で覆われるようにした。こうした減速機2によれば、遊星ギヤ7とインナーギヤ8の噛合部と、噛合部より下方の空間S1、および噛合部より上方の空間S2の間を、各フランジ壁51・96で確実に隘路化して、噛合騒音の伝導経路を複雑化でき、噛合部に臨む上下の空間S1・S2における騒音レベルを確実に低下させて、ケーシング4の低騒音化を促進できる。実施例4では、噛合部に臨む5組のギヤ歯29・49の上下面をフランジ壁61・96で覆うようにしたが、その必要はなく、少なくとも1組のギヤ歯29・49の上下面がフランジ壁61・96で覆われる構成であってもよい。
【0053】
実施例4で説明した減速機2は、以下の態様で実施することができる。
減速機2は、前段装置3の回転動力を受継ぐ入力軸5と、入力軸5に固定される偏心カム6と、偏心カム6で回転駆動される遊星ギヤ7と、遊星ギヤ7と噛合って同ギヤ7を自転しながら公転させるインナーギヤ8と、遊星ギヤ7の自転動力を受け継ぐ受動ディスク9および出力軸10と、これらの部材を収容するケーシング4とを備えているサイクロイド式の減速機である。遊星ギヤ7のギヤ歯49に噛合面に臨んでフランジ壁51が張出し形成してあることを特徴とする。
【0054】
遊星ギヤ7のギヤ歯49の少なくとも一方の歯端面にフランジ壁51が張出し形成してある。
フランジ壁51の周縁が、遊星ギヤ7のギヤ歯49のギヤ歯49の山部分100の頂部より、径方向外側へ突出させてある。
フランジ壁51の周縁が、インナーギヤ8のギヤ歯29の谷部分99の底部より径方向外側へ突出させてある。
【0055】
上記のように、遊星ギヤ7のギヤ歯49に噛合面に臨んでフランジ壁51が張出し形成してあると、遊星ギヤ7とインナーギヤ8の噛合部をフランジ壁51で遮ることができる。これに伴い、両ギヤ7・8の噛合部と、同噛合部に臨む空間S1(または空間S2)の間がフランジ壁51で隘路化して、両ギヤ7・8の噛合部と先の空間S1(または空間S2)の間の噛合騒音の伝導経路を複雑化できる。従って、先の噛合部が先の空間S1(または空間S2)に臨ませてある形態に比べて、先の空間S1(または空間S2)における噛合騒音の騒音レベルを低下して減速機2の静音化に寄与できる。
【0056】
実施例1から実施例4で説明したパワーユニット1は、
図18ないし
図20に示す電気機器の駆動源として利用することができる。
図18はロータリー式の電気かみそり(電気機器)を示しており、モーター3の中心軸が内刃81の回転中心と平行になる状態でパワーユニット1を横置き配置し、巻掛け伝動機構82を介して内刃81に減速動力を伝動するようにした。巻掛け伝動機構82は、出力軸10に固定される原動プーリー83と、内刃軸に固定される従動プーリー84と、これら両プーリー83・84に巻掛けられるタイミングベルト85などで構成される。
図18において、符号86は外刃、符号87は2次電池、符号88は電源スイッチである。
【0057】
図19は外刃86が円筒状に形成してあるスティック型の電気かみそり(電気機器)を示している。そこでは、モーター3の中心軸が内刃81の回転中心の延長上に位置する状態でパワーユニット1を縦置き配置し、減速機2の出力軸10と内刃軸を、カップリング90を介して連結するようにした。
図16において、符号87は2次電池、符号88は電源スイッチである。
【0058】
図20は肌マッサージ用の美容器具(電気機器)を示しており、減速機2の減速動力でブラシ体91を回転駆動して洗顔液を泡立て、顔肌の洗浄やマッサージを行う。そこでは、パワーユニット1を縦置き配置し、減速機2の出力軸10とブラシ体91をカップリング90で連結するようにした。ブラシ体91は、ブラシ束93の下端をリング状のブラシベース94で固定して構成されている。使用時には、その先端に洗顔液を付着させ、図示していない泡立て容器内に適量にぬるま湯を注ぎ、美容器具を横臥姿勢にしてブラシ束93を湯に浸した状態で回転駆動することにより、洗顔液を泡立てることができる。
【0059】
各実施例で説明した減速機は、以下の形態で実施することができる。
【0060】
本発明は、前段装置3の回転動力を受継ぐ入力軸5と、入力軸5に固定される偏心カム6と、偏心カム6で回転駆動される遊星ギヤ7と、遊星ギヤ7と噛合って同ギヤ7を自転しながら公転させるインナーギヤ8と、遊星ギヤ7の自転動力を受け継ぐ受動ディスク9および出力軸10と、これらの部材を収容するケーシング4とを備えているサイクロイド式の減速機を対象とする。ケーシング4は、入力軸5側の端部に配置される基端ケース16と、インナーギヤ8を兼ねるケース17と、出力軸10側の端部に配置される先端ケース18を備えている。基端ケース16とケース17と先端ケース18が、各ケース16・17・18のいずれかひとつを位置決め基準にして、各ケース16・17・18の周囲複数個所を同時に貫通する位置決め軸32で位置決め固定されている。
上記のように構成した減速機2によれば、各ケース16・17・18が、それぞれの接合面で凹凸係合させて位置決めされている場合に比べて、誤差が集積するのを解消することができるので、減速機2の小形化を実現しながら、ケーシング4内に収容される各パーツ5〜10の組立精度を向上できる。
【0061】
先端ケース18、およびケース17に挿通した締結軸57の軸端を、基端ケース16、ないし基端ケース16に密着する前段装置3の固定壁14に締結して、各ケース16・17・18を分離不能に締結固定するようにした。
上記のように、締結軸57の軸端を、動く余地のない基端ケース16ないし固定壁14に締結すると、隣接する各ケース16・17・18を精度良く位置決めされた状態のままで、締結軸57によって確りと固定できるので、ケーシング4の構造強度を向上できる。
【0062】
基端ケース16に前段装置3を密着接合するための装着座24が設けられている。装着座24は前段装置3の形状および構造を基準にして形成されており、基端ケース16が前段装置3を固定する連結用アダプターを兼ねている。位置決め軸32の基端は基端ケース16に係合固定されている。
こうした減速機2によれば、前段装置3の形状や構造に対応する装着座24を備えた基端ケース16を用意しておくことにより、基端ケース16に比べてコストが嵩む前段装置3の側の形状や構造を変更することなく、前段装置3と基端ケース16を連結できる。例えば、前段装置3がモーターである場合には、連結用アダプターとなる基端ケース16に対して市販されているモーターをそのまま連結できる。従って、モーター側に基端ケース16の取付け構造や位置決め軸32のための係合構造を設ける場合、即ちモーターが特注品である場合に比べて減速機2を低コスト化できる。
【0063】
先端ケース18の側から挿通した締結軸57の軸端は基端ケース16に締結されている。
こうした減速機2によれば、前段装置3側に締結軸57のための締結構造を設ける必要がないので、上記の基端ケース16と同様に減速機2を低コスト化できる。
【0064】
ケーシング4の入力軸5側の端部は、基端ケース16に設けたベース壁20で塞がれている。
こうした減速機2によれば、ケーシング4の入力軸5側の端部をベース壁20で密閉して、遊星ギヤ7とインナーギヤ8の噛合騒音が外部へ漏れ出るのを防止できるので、減速機2を静音化できる。また、ケーシング4内に塵埃が侵入して、先の噛合部分に噛込まれることも解消できる。
【0065】
基端ケース16は、ベース壁20と、ベース壁20の周縁部に周回状に設けられる周回壁21を備えている。位置決め軸32および締結軸57が周回壁21の周囲複数個所と係合する状態で配置されている。基端ケース16のベース壁20が、ねじ軸27で前段装置3の接合壁14に締結固定されている。
【0066】
こうした減速機2によれば、ケーシング4の内部空間をベース壁20の分だけ小さくして、噛合騒音がケーシング4内で共鳴するのを抑止でき、しかも周回壁21がベース壁20と協同して噛合騒音が外部へ漏れ出るのを防止できる。さらに、基端ケース16を前段装置3の接合壁14に締結固定して、ベース壁20の共振を規制できるので、全体として減速機2の静音化をさらに促進できる。
【0067】
基端ケース16のベース壁20に、装着座24、および装着座24と協同して前段装置3を支持する連結穴22が形成されている。前段装置3のハウジング13に、基端ケース16に密着接合される接合壁14と、出力軸3aの一端を支持する軸受部15が形成されている。軸受部15が連結穴22で嵌合支持された状態で、接合壁14が装着座24に密着接合されている。
上記構成の減速機においては、前段装置3とケーシング4は、ハウジング13に設けた接合壁14と軸受部15が、基端ケース16のベース壁20に設けた装着座24と連結穴22に対して密着接合する状態で連結固定される。このように、前段装置3とケーシング4を複数の接合平面を介して密着接合すると、連結対象3・4どうしを複数の向きに位置決めした状態で強固に連結し、お互いが連結相手の構造強度を増強できるので、前段装置3とケーシング4をさらに強固に連結できる。前段装置3から減速機2へ伝動される回転動力の伝動ロスを低減できる利点もある。
【0068】
基端ケース16のベース壁20の厚みE1は、前記軸受部15の厚みE2と同じか、これより大きく設定されている。
このように、基端ケース16のベース壁20の厚みE1を、前記軸受部15の厚みE2と同じか、これより大きく設定すると、ベース壁20が分厚く形成してある分だけケーシング4の内部空間を小さくできるので、噛合騒音がケーシング4内で共鳴するのをさらに効果的に抑止して、減速機2の静音化をさらに促進できる。
【0069】
遊星ギヤ7の入力軸5側の歯端面にフランジ壁51が張出し形成されていて、遊星ギヤ7およびインナーギヤ8の噛合部と、両ギヤ7・8の噛合部より下方の空間S1の間がフランジ壁51で隘路化してある。
このように、遊星ギヤ7およびインナーギヤ8の噛合部と、両ギヤ7・8の噛合部より下方の空間S1の間をフランジ壁51で隘路化すると、両ギヤ7・8の噛合部と先の空間S1の間の噛合騒音の伝導経路を複雑化できる。従って、先の噛合部が先の空間S1に臨ませてある形態に比べて、先の空間S1における噛合騒音の騒音レベルを低下して減速機2の静音化に寄与できる。
【0070】
遊星ギヤ7およびインナーギヤ8の噛合部と、両ギヤ7・8の噛合部より上方の空間S2の間が、受動ディスク9の周縁壁53で隘路化してある。
このように、遊星ギヤ7およびインナーギヤ8の噛合部と、両ギヤ7・8の噛合部より上方の空間S2の間を、受動ディスク9の周縁壁53で隘路化すると、両ギヤ7・8の噛合部と先の空間S2の間の噛合騒音の伝導経路を複雑化できる。従って、先の噛合部が先の空間S2に臨ませてある形態に比べて、噛合部より上方の空間S2における噛合騒音の騒音レベルを低下して減速機2の静音化に寄与できる。
【0071】
基端ケース16の内面に、噛合騒音を反射させる一群の凹凸体59で構成した基端側減衰壁60が形成されている。
上記のように、基端ケース16の内面に、一群の凹凸体59で構成した基端側減衰壁60を形成すると、噛合騒音を一群の凹凸体59で反射させ互いに干渉させて減衰できるので、噛合騒音の音圧レベルを低下して減速機2を静音化できる。
【0072】
先端ケース18の内面に、噛合騒音を反射させる一群の凹凸体61で構成した先端側減衰壁62が形成されている。
上記のように、先端ケース18の内面に、一群の凹凸体61で構成した先端側減衰壁62を形成すると、上記と同様に、噛合騒音を一群の凹凸体61で反射させ互いに干渉させて減衰できるので、噛合騒音の音圧レベルを低下して減速機2を静音化できる。
【0073】
基端ケース16と、ケース17と、先端ケース18のいずれかひとつが金属材で形成され、残るケースがプラスチック材で形成されている。金属材で形成したケースと、同ケースに固定した位置決め軸32を位置決め基準にして、各ケース16・17・18が位置決めされている。
上記のように、基端ケース16と、ケース17と、先端ケース18のいずれかひとつを金属材で形成し、残るケースをプラスチック材で形成し、金属材で形成したケースと、同ケースに固定した位置決め軸32を位置決め基準にして、各ケース16・17・18を位置決めする。こうした減速機2によれば、プラスチック材で形成したケースを金属材で形成したケースに対して、精度よく組むことができるので、各ケース16・17・18で構成されるケーシング4を精度よく組むことができる。また、各ケース16・17・18の加工精度や位置決め穴25・30・39の位置精度に僅かなばらつきがあったとしても、プラスチック材で形成したケースの位置決め穴が変形することで、先のばらつきを吸収できるので、プラスチック材で形成したケースを位置決め軸32に対して的確に組むことができる。
【0074】
ケース17は金属材で形成されて、同ケース17に固定した位置決め軸32で、プラスチック材で形成された基端ケース16および先端ケース18を位置決めされている。
上記のように、インナーギヤ8を兼ねるケース17を金属材で形成すると、ケース17がプラスチック材で形成してある場合に比べて、インナーギヤ8を精度よく形成できる。これは、ケース17をプラスチック材で形成する場合には、成形時の収縮歪みを避けることができず、インナーギヤ8の形状および寸法精度を高めるうえで限界があるからである。これに対し、ケース17を金属材で形成する場合には、金属素材に機械加工を施してインナーギヤ8をより精密に形成できるので、同ギヤ8の形状および寸法精度を確実に向上できるうえ、不良品の発生頻度を押えてケース17の生産性を向上できる。また、金属材で形成したケース17および位置決め軸32が位置決め基準となるので、ケース17を基端ケース16に組む過程で、インナーギヤ8と遊星ギヤ7の噛合い状態や同ギヤ7の回転状態の適否を確認することができる。つまり、減速機2の組立過程の初期に両ギヤ7・8の噛合い不良などを発見して、減速機2の分解や再組立などに要する手間を省くことができる。
【0075】
基端ケース16は金属材で形成されて、同ケース16に固定した位置決め軸32で、プラスチック材で形成したケース17および先端ケース18を位置決めされている。
上記のように、基端ケース16を金属素材で形成すると、ケース17および遊星ギヤ7を樹脂素材で形成することができる。従って、遊星ギヤ7とインナーギヤ8の噛合部で生じる噛合騒音を低減して、減速機2を静音化できる。また、金属材で形成した基端ケース16と、同ケース16に固定した位置決め軸32が位置決め基準となるので、ケース17を位置決め軸32に組む過程で、インナーギヤ8と遊星ギヤ7の噛み合い状態や同ギヤ7の回転状態の適否を確認することができる。従って、ケース17を金属材で形成する場合と同様に、減速機2の組立過程の初期に両ギヤ7・8の噛合い不良などを発見して、減速機2の分解や再組立などに要する手間を省くことができる。
【0076】
遊星ギヤ7は、偏心カム6と遊星ギヤ7の間に配置した軸受体46で回転自在に支持されている。また、遊星ギヤ7は偏心カム6で軸受体46を介して軸心方向へ位置決めされて、遊星ギヤ7に隣接するベース壁20および受動ディスク9に対して隙間を介して正対している。
上記のように、偏心カム6と遊星ギヤ7の間に配置した軸受体46で遊星ギヤ7を回転自在に支持すると、偏心カム6と遊星ギヤ7の相対動作を軸受体46で吸収しながら、偏心カム6の回転動作を遊星ギヤ7に円滑に伝動できる。従って、偏心カム6と遊星ギヤ7の間の回転動力の伝動負荷を軽減して、動力の伝動効率を向上できる。因みに、遊星ギヤ7が偏心カム6で直接支持されている場合には、両者6・7の嵌合部分に、相対動作に伴う大きな摩擦力が生じるため、偏心カム6と遊星ギヤ7の間に動力ロスが生じることが避けられない。また、遊星ギヤ7が隣接するベース壁20および受動ディスク9に対して隙間を介して正対するように、遊星ギヤ7を偏心カム6で軸受体46を介して軸心方向へ位置決めするので、出力軸10に強い負荷が掛かるような場合に、受動ディスク9が遊星ギヤ7に強く接触し、あるいは、遊星ギヤ7がベース壁20に強く接触するのを確実に解消して、減速機2の負荷が増大するのを防止できる。
【0077】
受動ディスク9に設けた出力軸10は、先端ケース18と出力軸10の間に配置した軸受体55で回転自在に支持されている。また、出力軸10は先端ケース18で軸受体55を介して軸心方向へ位置決めされて、受動ディスク9が同ディスク9に隣接する端壁36および遊星ギヤ7に対して隙間を介して正対している。
上記のように、先端ケース18と出力軸10の間に配置した軸受体55で出力軸10が回転自在に支持してあると、先端ケース18と出力軸10の間の摩擦抵抗を小さくして、遊星ギヤ7から受け継いだ受動ディスク9の回転動力を、動力損を伴うこともなく出力軸10から円滑に出力できる。また、受動ディスク9が同ディスク9に隣接する端壁36および遊星ギヤ7に対して隙間を介して正対するように、出力軸10を先端ケース18で軸受体55を介して軸心方向へ位置決めするので、出力軸10に強い負荷が掛かるような場合に、受動ディスク9が端壁36に強く接触し、あるいは、受動ディスク9が遊星ギヤ7に強く接触するのを確実に解消して、減速機2の負荷が増大するのを防止できる。
【0078】
ケース17の内面内方に、基端ケース16のベース壁20と正対するフランジ状の規制壁68が張出し形成されている。規制壁68とベース壁20で遊星ギヤ7の対向端面が挟持され、遊星ギヤ7の回転中心軸方向へのがたつきが規制されている。
上記の減速機2では、ケース17の内面にフランジ状の規制壁68を張出し形成し、規制壁68とベース壁20で遊星ギヤ7の対向端面を挟持して、遊星ギヤ7が回転中心軸方向へがたつくのを規制できるようにした。こうした減速機2によれば、遊星ギヤ7が公転しながら自転するとき、回転中心軸に沿ってがたつくことを解消できるので、偏心カム6と遊星ギヤ7の間の回転動力の伝動を効率よく行える。高速度で公転する遊星ギヤ7ががたついて、耳障りな衝突音が発生することを解消できる利点もある。
【0079】
規制壁68と、同壁68と正対する端部ケース18で、受動ディスク9の対向端面が挟持され、受動ディスク9の回転中心軸方向へのがたつきが規制されている。
上記の減速機2では、規制壁68と端部ケース18で、受動ディスク9の対向端面を挟持して、受動ディスク9が回転中心軸方向へがたつくのを規制できるようにした。こうした減速機2によれば、遊星ギヤ7から受継いだ回転動力を、受動ディスク9と出力軸10を介してがたつきを伴うこともなく出力軸10から円滑に出力できる。
【0080】
遊星ギヤ7の自転動力を、遊星ギヤ7および受動ディスク9の中央に設けられて互いに係合する駆動軸50と受動穴54を介して受動ディスク9に伝動する。受動穴54の直径は、駆動軸50の直径寸法よりも大きく形成されて、動力伝達時の駆動軸50の周面の1個所が受動穴54の内面に接触している。
上記の伝動構造によれば、一組の駆動軸50と受動穴54のみで回転動力を伝動できるので、多数組の駆動軸50と受動穴54で回転動力を伝動する場合に比べて、駆動軸50と受動穴54の間の伝動騒音(摺接音)を小さくして、減速機2を静音化できる。
【0081】
本発明に係る電気機器は、上記の減速機と、減速機の入力軸5を回転駆動するモーター3を備えている。
減速機2とモーター3を備えた上記の電気機器によれば、インボリュート歯車方式の減速機を備えた電気機器に比べて、減速比が大きな減速機2の小形化を実現しながら騒音レベルを低下して、電気機器の小形化と静音化を実現できる。
【0082】
上記の実施例では、ケーシング4を構成する各ケース16・17・18のいずれかひとつを金属材で形成したが、全てのケース16・17・18がプラスチック材で形成してあってもよい。また、位置決め軸32はプラスチック材で形成してもよい。基端ケース16はモーターホルダー(連結アダプター)として構成することができる。その場合の装着座24は、モーター3の上端面およびハウジング13の上部周面に外嵌するキャップ状に形成するとよい。締結軸57はねじ軸で形成することで分解や再組み立てを容易に行えるが、この種のメンテナンスが不要である場合には、かしめ軸で締結軸57が形成してあってもよい。
【0083】
軸受体46・55としては、偏心カム6と遊星ギヤ7の相対動作を吸収するうえで、ボールベアリング、ローラーベアリング、ニードルベアリングなどの転がり軸受が好適であるが、平軸受であってもよい。但し、軸受体46を平軸受で構成する場合には、偏心カム6と軸受体46の間、軸受体46と遊星ギヤ7の間でそれぞれすべり摩擦を吸収して、偏心カム6と遊星ギヤ7の相対動作を吸収する必要がある。減速機2はモーター3に直結してパワーユニット1として構成する必要はなく、動力伝動系の途中や終段に設けてもよい。例えば、前段装置はクラッチ機構であってもよい。
【0084】
インナーギヤ8のギヤ歯の構造としては、特許文献2に見られるように、独立した部品からなる金属製あるいはプラスチック製のピンや、ピンに回転自在なローラーを外嵌した構造であってもよい。また、実施例1〜実施例4のパワーユニット1においては、遊星ギヤ8の側に駆動軸50を設け、受動ディスク9の側に受動穴54を形成したがその必要はなく、特許文献2に開示してあるように、遊星ギヤ8の側に駆動穴を設け、受動ディスク9の側に受動軸が設けてあってもよい。