特許第6893546号(P6893546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893546
(24)【登録日】2021年6月3日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】下水処理システムおよび下水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20210614BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   C02F3/12 J
   C02F3/34 101B
   C02F3/12 A
   C02F3/34 101C
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-195256(P2019-195256)
(22)【出願日】2019年10月28日
(65)【公開番号】特開2021-65867(P2021-65867A)
(43)【公開日】2021年4月30日
【審査請求日】2020年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】石山 明
(72)【発明者】
【氏名】熊田 浩英
(72)【発明者】
【氏名】島田 光重
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/056696(WO,A1)
【文献】 実開平07−035000(JP,U)
【文献】 特開2005−199115(JP,A)
【文献】 特開2017−113725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入する下水を曝気する好気処理部と、前記好気処理部の上流に嫌気処理部または無酸素処理部とを有する複数の処理系列と、
少なくともいずれか1つの前記処理系列における前記嫌気処理部または前記無酸素処理部に設けられたアンモニア計を有し、前記嫌気処理部または前記無酸素処理部のアンモニア性窒素濃度を取得するアンモニア計測部と、
複数の前記処理系列におけるそれぞれの前記好気処理部に設けられた溶存酸素濃度計を有し、それぞれの当該好気処理部の溶存酸素濃度を取得する溶存酸素濃度計測部と、
それぞれの前記好気処理部の曝気を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定する第一制御部と、
前記好気処理部の曝気風量を制御する第二制御部と、を有し、
前記第一制御部は、前記アンモニア性窒素濃度に基づいて、それぞれの前記好気処理部の前記溶存酸素濃度目標値を設定し、
前記第二制御部は、前記溶存酸素濃度目標値と、前記溶存酸素濃度計測部が取得したそれぞれの溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの前記好気処理部の曝気風量を制御する下水処理システム。
【請求項2】
流入する下水を曝気する好気処理部を有する複数の処理系列と、
少なくともいずれか1つの前記処理系列に設けられたアンモニア計を有し、前記処理系列のアンモニア性窒素濃度を取得するアンモニア計測部と、
複数の前記処理系列におけるそれぞれの前記好気処理部に設けられた溶存酸素濃度計を有し、それぞれの当該好気処理部の溶存酸素濃度を取得する溶存酸素濃度計測部と、
それぞれの前記好気処理部の曝気を制御する制御部と、
アンモニア性窒素濃度目標値を記憶した記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定する第一制御部と、
前記好気処理部の曝気風量を制御する第二制御部と、
前記アンモニア性窒素濃度と前記アンモニア性窒素濃度目標値との乖離度を含む制御情報を送出する第三制御部と、を有し、
前記第一制御部は、前記アンモニア性窒素濃度が所定の下限値を超える場合、それぞれの前記好気処理部の前記溶存酸素濃度目標値を前記制御情報に基づくPID制御により設定し、前記アンモニア性窒素濃度が前記下限値以下の場合、予め定められた値を前記溶存酸素濃度目標値とし、
前記第二制御部は、前記溶存酸素濃度目標値と、前記溶存酸素濃度計測部が取得したそれぞれの溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの前記好気処理部の曝気風量を制御する下水処理システム。
【請求項3】
流入する下水を曝気する好気処理部を有する複数の処理系列と、
少なくともいずれか1つの前記処理系列に設けられたアンモニア計を有し、前記処理系列のアンモニア性窒素濃度を取得するアンモニア計測部と、
複数の前記処理系列におけるそれぞれの前記好気処理部に設けられた溶存酸素濃度計を有し、それぞれの当該好気処理部の溶存酸素濃度を取得する溶存酸素濃度計測部と、
それぞれの前記好気処理部の曝気を制御する制御部と、
前記下水の水量又は水質の変化を含む変化情報を取得する入力部と、を備え、
前記制御部は、
前記好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定する第一制御部と、
前記好気処理部の曝気風量を制御する第二制御部と、を有し、
前記第一制御部は、前記アンモニア性窒素濃度及び前記変化情報に基づいて、それぞれの前記好気処理部の前記溶存酸素濃度目標値を設定し、
前記第二制御部は、前記溶存酸素濃度目標値と、前記溶存酸素濃度計測部が取得したそれぞれの溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの前記好気処理部の曝気風量を制御する下水処理システム。
【請求項4】
前記アンモニア計は、前記好気処理部に設けられている請求項2又は3に記載の下水処理システム。
【請求項5】
前記第二制御部は前記曝気風量をPID制御する請求項1からのいずれか一項に記載の下水処理システム。
【請求項6】
それぞれの前記処理系列に流入する前記下水の当該処理系列での滞留時間が等しくなるように当該下水を分配する分配部を有する請求項1からのいずれか一項に記載の下水処理システム。
【請求項7】
流入する下水を複数の処理系列に分配してそれぞれの好気処理部で曝気する曝気ステップと、
少なくともいずれか1つの前記処理系列において、前記好気処理部の上流に設けられた嫌気処理部または無酸素処理部のアンモニア性窒素濃度を取得するアンモニア計測ステップと、
それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度を取得する溶存酸素濃度計測ステップと、
前記アンモニア性窒素濃度に基づいて、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定する第一制御ステップと、
前記溶存酸素濃度目標値と、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの前記好気処理部の曝気風量を制御する第二制御ステップとを有する下水処理方法。
【請求項8】
流入する下水を複数の処理系列に分配してそれぞれの好気処理部で曝気する曝気ステップと、
少なくともいずれか1つの前記処理系列のアンモニア性窒素濃度を取得するアンモニア計測ステップと、
アンモニア性窒素濃度目標値を記憶する記憶ステップと、
それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度を取得する溶存酸素濃度計測ステップと、
前記アンモニア性窒素濃度と前記アンモニア性窒素濃度目標値との乖離度を含む制御情報を送出する送出ステップと、
前記アンモニア性窒素濃度が所定の下限値を超える場合、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度目標値を前記制御情報に基づくPID制御により設定し、前記アンモニア性窒素濃度が前記下限値以下の場合、予め定められた値を前記溶存酸素濃度目標値とする第一制御ステップと、
前記溶存酸素濃度目標値と、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの前記好気処理部の曝気風量を制御する第二制御ステップとを有する下水処理方法。
【請求項9】
流入する下水を複数の処理系列に分配してそれぞれの好気処理部で曝気する曝気ステップと、
少なくともいずれか1つの前記処理系列のアンモニア性窒素濃度を取得するアンモニア計測ステップと、
それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度を取得する溶存酸素濃度計測ステップと、
前記下水の水量又は水質の変化を含む変化情報を取得する取得ステップと、
前記アンモニア性窒素濃度及び前記変化情報に基づいて、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定する第一制御ステップと、
前記溶存酸素濃度目標値と、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの前記好気処理部の曝気風量を制御する第二制御ステップとを有する下水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理システムおよび下水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の下水処理においては、活性汚泥法による有機物の除去(酸化)に加えて、アンモニア性窒素の処理も行われている。アンモニア性窒素は、例えば好気槽で硝化菌を作用させて硝化(硝酸態窒素に酸化)する。硝酸態窒素は、更に脱窒菌を作用させて脱窒(窒素ガスに還元)する場合がある。
【0003】
特許文献1には、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置が記載されている。この下水処理場では、嫌気−無酸素−好気法により有機物、リン化合物、および窒素化合物を除去する処理が行われる。それぞれの系列には、最初沈殿池から順に嫌気槽、無酸素槽、好気槽、および最終沈殿池が連結されている。それぞれの好気槽では曝気処理が行われ、有機物の酸化とアンモニア性窒素の硝化を行う。それぞれの好気槽は、曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する。曝気風量制御装置は、全ての系列に流入する下水の流量が等しくなるように制御する流入ポンプと、複数系列のうち、いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計と、複数系列の全ての系列の好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計と、処理水のアンモニア性窒素濃度目標値を設定する一号制御目標値設定機と、アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度計による溶存酸素濃度計測値に基づいて、アンモニア計が設置されていない他の系列の好気槽の溶存酸素濃度目標値をそれぞれ設定する二号制御目標値設定機と、を備えている。また、アンモニア計が設置されている系列の好気槽の曝気装置は、アンモニア性窒素濃度の計測値をアンモニア性窒素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算する1号アンモニアコントローラを、アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置は、それぞれ溶存酸素濃度の計測値を溶存酸素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算する2号DOコントローラを備えている。この曝気風量制御装置は、高価なアンモニア計を多数用いることなく、好気槽のアンモニア性窒素濃度に基づいた曝気制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−199115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された曝気風量制御装置によれば、アンモニア計が設置されていない系列の好気槽の曝気装置の曝気風量目標値は、アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度計による溶存酸素濃度計測値に基づいて定められる。すなわち、アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度がアンモニア性窒素濃度目標値に基づいた曝気処理により変動した後に、当該変動に追従して溶存酸素濃度計測値が変動するので、アンモニア計が設置されていない系列の好気槽の溶存酸素濃度も変動する。この変動により、アンモニア計が設置されていない系列の好気槽の溶存酸素濃度がハンチングして溶存酸素濃度が不足し、有機物の酸化やアンモニア性窒素の硝化などの下水浄化が十分に行えない場合がある。これを防止するためには、アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度が安定した後に、アンモニア計が設置されていない系列の好気槽の曝気風量目標値を設定する必要がある。その結果、アンモニア計が設置されていない系列の好気槽の溶存酸素濃度の制御が、アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度の制御に比べて遅延する問題があった。溶存酸素濃度の制御が遅延すると、曝気風量が過剰になりエネルギーの無駄が生じる。そこで、複数系列の下水処理プロセスにおけるそれぞれの曝気槽の曝気風量を適切に制御し、溶存酸素濃度を適切に制御可能な下水処理システムおよび下水処理方法の提供が望まれる。
【0006】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、溶存酸素濃度を適切に制御可能な下水処理システムおよび下水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る下水処理システムの特徴構成は、流入する下水を曝気する好気処理部を有する複数の処理系列と、少なくともいずれか1つの前記処理系列に設けられたアンモニア計を有し、前記処理系列のアンモニア性窒素濃度を取得するアンモニア計測部と、複数の前記処理系列におけるそれぞれの前記好気処理部に設けられた溶存酸素濃度計を有し、それぞれの当該好気処理部の溶存酸素濃度を取得する溶存酸素濃度計測部と、それぞれの前記好気処理部の曝気を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定する第一制御部と、前記好気処理部の曝気風量を制御する第二制御部と、を有し、前記第一制御部は、前記アンモニア性窒素濃度に基づいて、それぞれの前記好気処理部の前記溶存酸素濃度目標値を設定し、前記第二制御部は、前記溶存酸素濃度目標値と、前記溶存酸素濃度計測部が取得したそれぞれの溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの前記好気処理部の曝気風量を制御する点にある。
【0008】
上記構成によれば、同じ処理方式の処理系列を複数系列有する下水処理システムにおいて高価なアンモニア計を多数用いることなく、アンモニア計が設置されている特定の処理系列においてアンモニア計測部が取得したアンモニア性窒素濃度に基づいて好気処理部の溶存酸素濃度目標値を第一制御部が設定し、当該溶存酸素濃度目標値とそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて第二制御部が曝気風量を制御可能である。例えば、少なくともいずれか1つの処理系列にアンモニア計を設け、少なくともいずれか1つの他の処理系列にはアンモニア計を設けず、アンモニア計を設けた処理系列のアンモニア性窒素濃度に基づいて、第一制御部はそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定することができる。更に第二制御部は、それぞれの好気処理部の曝気風量を、溶存酸素濃度目標値とそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて制御可能である。
【0009】
また上記構成によれば、アンモニア計測部が取得したアンモニア性窒素濃度に基づいて溶存酸素濃度目標値が設定されてそれぞれの好気処理部の曝気風量を制御する。そのため、第二制御部はそれぞれの好気処理部における曝気風量の制御を適切かつ迅速に行える。これにより、溶存酸素濃度を適切に制御可能である。例えばアンモニア性窒素濃度に基づいて第一の制御(例えば、アンモニア計を設けた処理系列の好気処理部の溶存酸素濃度の制御)を行い、当該制御結果(アンモニア計を設けた処理系列の好気処理部における、制御された後の溶存酸素濃度)に基づいて第二の制御(例えば、アンモニア計を設けていない好気処理部の溶存酸素濃度の制御)を行うような場合に比べて、制御の遅延やハンチングを回避可能である。
【0010】
本発明に係る下水処理システムの更なる特徴構成は、前記アンモニア計は、前記好気処理部に設けられている点にある。
【0011】
上記構成によれば、アンモニア計が設置されている特定の処理系列における好気処理部においてアンモニア計測部が取得したアンモニア性窒素濃度に基づいて好気処理部の溶存酸素濃度目標値を第一制御部が設定し、当該溶存酸素濃度目標値とそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて第二制御部が曝気風量を制御可能である。例えば、少なくともいずれか1つの処理系列における好気処理部にアンモニア計を設け、少なくともいずれか1つの他の処理系列にはアンモニア計を設けず、アンモニア計を設けた処理系列の好気処理部のアンモニア性窒素濃度に基づいて、第一制御部はそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定することができる。更に第二制御部は、それぞれの好気処理部の曝気風量を、溶存酸素濃度目標値とそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて制御可能である。なお好気処理部には、曝気により酸素の供給を受けている処理槽(いわゆる好気槽)や、処理槽における酸素の供給を受けている処理区分の概念を含む。
【0012】
本発明に係る下水処理システムの更なる特徴構成は、前記好気処理部の上流に嫌気処理部または無酸素処理部を更に有し、前記アンモニア計は、前記嫌気処理部または前記無酸素処理部に設けられている点にある。
【0013】
上記構成によれば、それぞれの処理系列に嫌気処理部または無酸素処理部が設けられている場合、アンモニア計が設置されている特定の処理系列における嫌気処理部または無酸素処理部においてアンモニア計測部が取得したアンモニア性窒素濃度に基づいて好気処理部の溶存酸素濃度目標値を第一制御部が設定し、当該溶存酸素濃度目標値とそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて第二制御部が曝気風量を制御可能である。例えば、少なくともいずれか1つの処理系列における嫌気処理部または無酸素処理部にアンモニア計を設け、少なくともいずれか1つの他の処理系列にはアンモニア計を設けず、アンモニア計を設けた処理系列の嫌気処理部または無酸素処理部のアンモニア性窒素濃度に基づいて、第一制御部はそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定することができる。更に第二制御部は、それぞれの好気処理部の曝気風量を、溶存酸素濃度目標値とそれぞれの好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて制御可能である。
【0014】
本発明に係る下水処理システムの更なる特徴構成は、アンモニア性窒素濃度目標値を記憶した記憶部と、前記アンモニア性窒素濃度と前記アンモニア性窒素濃度目標値に基づいた制御情報を送出する第三制御部と、を更に備え、前記第一制御部は、前記制御情報に基づいて、それぞれの前記好気処理部の前記溶存酸素濃度目標値を設定する点にある。
【0015】
上記構成によれば、第三制御部は、アンモニア計測部が取得したアンモニア性窒素濃度と記憶部に記憶されているアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいた制御情報を送出する。第一制御部は、この制御情報に基づいて溶存酸素濃度目標値を設定することで、アンモニア計測部が取得したアンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいて溶存酸素濃度目標値を設定することができる。
【0016】
制御情報としては、アンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値とが乖離している程度に対応する情報(以下では乖離度と記載する)や、アンモニア性窒素濃度から導出した所定の信号などが挙げられる。例えば、アンモニア性窒素濃度がアンモニア性窒素濃度目標値よりも所定範囲内で乖離していれば、第三制御部は乖離度を制御信号として送出する。乖離度として例えばアンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値との差を用いた場合、第一制御部はこの乖離度の正負およびその大小関係に基づいて溶存酸素濃度目標値を設定する。第一制御部は、乖離度が正であれば、乖離度が正に大きくなるほど大きな溶存酸素濃度目標値を設定する。第一制御部は、乖離度が負であれば、乖離度が負に大きくなるほど小さな溶存酸素濃度目標値を設定する。これにより、適切にアンモニア性窒素濃度を制御可能な溶存酸素濃度目標値を設定可能である。また例えば、時間帯、天候や季節の変化に伴う下水の水量や水質などの変動により、アンモニア性窒素濃度がアンモニア性窒素濃度目標値よりも所定範囲を超えて小さければ、上記所定の信号として、アンモニア性窒素濃度を無視する指示信号を送出したり、上記乖離度に代えて所定の補正を加えた補正乖離度を送出したりする。第一制御部はこの所定の信号に基づいて、有機物の酸化のための酸素消費量を考慮した(優先した)適切な溶存酸素濃度目標値を設定できる。このように、上記構成によれば、アンモニア性窒素濃度の制御を優先して考慮した溶存酸素濃度目標値の設定と、有機物の酸化のための酸素消費量を優先して考慮した溶存酸素濃度目標値の設定とを行える。
【0017】
本発明に係る下水処理システムの更なる特徴構成は、前記記憶部は、前記好気処理部における前記アンモニア性窒素濃度目標値を記憶する点にある。
【0018】
上記構成によれば、第三制御部は、アンモニア計測部が取得したアンモニア性窒素濃度と好気処理部におけるアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいた制御情報を送出する。第一制御部は、この制御情報に基づいて溶存酸素濃度目標値を設定することで、アンモニア計測部が取得したアンモニア性窒素濃度と好気処理部におけるアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいて溶存酸素濃度目標値を設定することができる。
【0019】
本発明に係る下水処理システムの更なる特徴構成は、前記第二制御部は前記曝気風量をPID制御する点にある。
【0020】
上記構成によれば、第二制御部は、溶存酸素濃度目標値と溶存酸素濃度計測部が取得したそれぞれの溶存酸素濃度とに基づいて曝気風量をPID制御することができる。これにより、溶存酸素濃度を溶存酸素濃度目標値に適切に維持できる。
【0021】
本発明に係る下水処理システムの更なる特徴構成は、前記第一制御部は前記溶存酸素濃度目標値をPID制御により設定する点にある。
【0022】
上記構成によれば、アンモニア性窒素濃度に基づいて、第一制御部がPID制御により溶存酸素濃度目標値を設定するので、時間帯、天候や季節の変化に伴う下水の水量や水質などの変動に対応した溶存酸素濃度目標値を設定することができる。
【0023】
本発明に係る下水処理システムの更なる特徴構成は、それぞれの前記処理系列に流入する前記下水の当該処理系列での滞留時間が等しくなるように当該下水を分配する分配部を有する点にある。
【0024】
上記構成によれば、それぞれの好気槽に流入する下水の滞留時間が各好気槽間で等しくなるように分配部により下水を分配することで、それぞれの好気槽を互いに均等な状態とせしめることができる。これにより、アンモニア計が設置されている特定の好気槽のアンモニア性窒素濃度に基づいて、それぞれの好気槽の溶存酸素濃度目標値を設定して曝気風量を制御した場合において、それぞれの好気槽の溶存酸素濃度をより適切に溶存酸素濃度目標値に制御することができる。
【0025】
上記目的を達成するための本発明に係る下水処理方法の特徴構成は、流入する下水を複数の処理系列に分配してそれぞれの好気処理部で曝気する曝気ステップと、少なくともいずれか1つの前記処理系列のアンモニア性窒素濃度を取得するアンモニア計測ステップと、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度を取得する溶存酸素濃度計測ステップと、前記アンモニア性窒素濃度に基づいて、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度目標値を設定する第一制御ステップと、前記溶存酸素濃度目標値と、それぞれの前記好気処理部の溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの前記好気処理部の曝気風量を制御する第二制御ステップとを有する点にある。
【0026】
上記構成によれば、上述の下水処理システムと同等の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第一実施形態の下水処理システムの説明図
図2】第一実施形態における風量の制御方法の説明図
図3】第一実施形態の変形例の説明図
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1から図3に基づいて、本発明の実施形態に係る下水処理システムおよび下水処理方法について説明する。
【0029】
〔第一実施形態〕
〔全体構成の説明〕
図1には、下水処理システム100が、流入する下水に対して並列の三系列(複数系列)の処理系列(系列A、系列B、および系列C)を有する場合を例示して図示している。系列A、系列B、および系列Cの各系列は、それぞれ同じ処理方式である。系列A、系列B、および系列Cの各系列は、好気槽1(好気処理部の一例)としてそれぞれ好気槽1a、好気槽1bおよび好気槽1cを有する。これら複数の好気槽1は、流入する下水に対して並列に設けられている。以下では、好気槽1内の下水と活性汚泥との混合液を単に混合液と記載する。
【0030】
系列Aと、系列Bおよび系列Cとは、系列Aの好気槽1aには槽内のアンモニア性窒素濃度を計測するためのアンモニア計20が取り付けられており、系列Bおよび系列Cの好気槽1bおよび好気槽1cにはアンモニア計20が取り付けられていない点で異なり、他の構成は同じである。系列Bと系列Cとは同じ構成である。
【0031】
図1に示すように、下水処理システム100は、それぞれの好気槽1の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度計30により取得する(溶存酸素濃度計測ステップの一例)溶存酸素濃度計測部3と、好気槽1aのアンモニア性窒素濃度をアンモニア計20により取得するアンモニア計測部2と、を有する下水の処理設備である。下水処理システム100の各動作は、記憶部8に記憶されたアンモニア性窒素濃度目標値や制御部9の指令に基づいて行われる。
【0032】
下水処理システム100は、系列A、系列B、および系列Cに下水を均等に分配する分配部5の下流の各系列に、下水が流入する上流側から順に、最初沈殿池51、好気槽1、最終沈殿池59を有する。最終沈殿池59からは浄化水が下水処理システム100の外部に排出される。最初沈殿池51や好気槽1などは上流から順に水路などにより接続されている。なお、分配部5による下水の均等分配により、系列A、系列B、および系列Cで浄化される下水の系列ごとの滞留時間はそれぞれ等しくなる。また、各系列の好気槽1での滞留時間もそれぞれ等しくなる。
【0033】
以下では、系列A、系列B、および系列Cの共通部分については系列Aを例示して説明し、他の系列についての説明は省略する。特に系列Bについて説明する事項は系列Cの場合も同等であるため系列Cについての説明は省略する。また、系列A、系列B、および系列Cの共通部分については、例えば系列Aの好気槽1を好気槽1aと表し、系列Bの好気槽1を好気槽1bと表すように、それぞれの共通する部分の符号表記に対して系列A、系列B、および系列Cに対応する符号a、bおよびcを付加して表記するものとし、系列ごとの説明は省略する場合がある。
【0034】
〔各部の説明〕
分配部5は、下水処理システム100へ流入する下水を、系列A、系列B、および系列Cに均等に分配する流路装置である。本実施形態の分配部5は、下水処理システム100へ下水を導く流路に設けられた開度調整可能な可動堰である。系列A、系列B、および系列Cに接続される流路5a、流路5bおよび流路5cの各流路は分配部5から分岐している。各流路には、分配部5の堰の高さの調整などにより下水が均等に配分される。
【0035】
最初沈殿池51は、流入した下水に含まれる汚泥の一部を沈降させて除去するための槽である。最初沈殿池51で沈降および除去できなかった汚泥を含んだ下水が好気槽1へ流入する。
【0036】
好気槽1は、混合液に空気を供給する曝気を行う(曝気ステップの一例)ための曝気装置6を有し、槽内の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計30が取り付けられている槽である。好気槽1は、活性汚泥法による有機物の微生物分解(酸化)処理と、微生物処理によるアンモニア性窒素の硝化とを行う曝気槽である。系列A、系列B、および系列Cは、好気槽1としてそれぞれ、好気槽1a、好気槽1bおよび好気槽1cを有する。好気槽1aには、槽内のアンモニア性窒素濃度を計測する(アンモニア計測ステップの一例)ためのアンモニア計20が取り付けられている。
【0037】
曝気装置6は、ファンやブロワなどの送風機60などを有し、外気を吸引して好気槽1の混合液に空気を供給する空気供給装置である。以下では、曝気装置6が好気槽1の槽内に供給する単位時間あたりの空気量を風量(曝気風量の一例)と記載する。以下では、有機物の酸化処理とアンモニア性窒素の硝化とを包括して、単に処理と記載する。曝気装置6は、制御部9の動作指令に基づく送風機60の回転数調整などにより所定の風量を維持する。
【0038】
好気槽1では、有機物の酸化およびアンモニア性窒素の硝化により、曝気装置6から供給される空気中の酸素が消費される。好気槽1では、有機物は酸化により、二酸化炭素と水に分解される。好気槽1では、アンモニア性窒素は硝化されて硝酸態窒素に変換される。
【0039】
好気槽1において、曝気装置6から供給される風量が不足すると、処理に要する酸素が不足して、適切(十分)な処理を行えない。この場合、未分解の有機物やアンモニア性窒素が下水処理システム100の外部に流出してしまう。曝気装置6から供給される風量が過剰であると、送風機60などで消費する電力などのエネルギーが無駄になる。
【0040】
最終沈殿池59は、好気槽1から流出した混合液を受け入れて、好気槽1の活性汚泥などを沈降させる沈降槽である。最終沈殿池59で沈降させた活性汚泥は、排出機(図示せず)などにより下水処理システム100の外部へ排出される。最終沈殿池59で沈降させた活性汚泥の一部を、好気槽1に返送する場合もある(いわゆる返送汚泥)。
【0041】
アンモニア計測部2は、アンモニア計20を含み、アンモニア計20により取得したアンモニア性窒素濃度の計測値を制御部9へ送信する処理回路である。
【0042】
溶存酸素濃度計測部3は、それぞれの好気槽1に取り付けられた溶存酸素濃度計30を含み、取得したそれぞれの好気槽1ごとの溶存酸素濃度の計測値を制御部9へ送信する処理回路である。
【0043】
制御部9は、図1図2に示すように、下水処理システム100の各動作を制御する中央制御機構である。制御部9は、アンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度に基づいてそれぞれの好気槽1における曝気風量を制御する。制御部9は、記憶部8に記憶されたソフトウェアプログラムの実行により実現される機能部である第一制御部91、第二制御部92、および第三制御部93を有する。
【0044】
第三制御部93は、図2に示すように、アンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度と、記憶部8に構築したデータベース(いわゆる、DB)であるアンモニア性窒素濃度目標値DB83にあらかじめ記憶されたアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいて制御情報を第一制御部91に送出する機能部である。本実施形態において記憶部8は、アンモニア性窒素濃度目標値として、好気槽1aにおける目標値を記憶している。
【0045】
第三制御部93は、制御情報として、アンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値との乖離度を含む信号(以下では乖離度信号と記載する)と、アンモニア性窒素濃度を無視する指示を含む信号(以下では無視信号と記載する)とを送出可能である。本実施形態において第三制御部93は、アンモニア性窒素濃度がアンモニア性窒素濃度目標値よりも所定範囲内で乖離している場合、乖離度信号を送出する。所定範囲内とは例えば、アンモニア性窒素濃度目標値よりも小さい所定の下限値を超える範囲である。また、第三制御部93は、アンモニア性窒素濃度が所定の下限値以下の場合、無視信号を送出する。
【0046】
本実施形態において第三制御部93は、アンモニア計測部2からアンモニア性窒素濃度をリアルタイムに受信し、当該アンモニア性窒素濃度の変動に対応して、リアルタイムに制御情報を出力している。
【0047】
第一制御部91は、第三制御部93から受信した制御情報に基づいてそれぞれの好気槽1における槽内の溶存酸素濃度目標値を個別に決定もしくは更新する(第一制御ステップの一例)機能部である。以下では、決定、および決定された値を更新する動作の双方を包括して単に設定と記載する。第一制御部91は、好気槽1a、好気槽1bおよび好気槽1cのそれぞれの溶存酸素濃度目標値を設定する機能部であるDO設定部91a〜DO設定部91cを有する。
【0048】
第一制御部91は、溶存酸素濃度目標値を設定すると、当該溶存酸素濃度目標値を記憶部8におけるDO目標値DB81(DO目標値DB81a〜DO目標値DB81c)に記憶する。本実施形態において第一制御部91は、第三制御部93が送出する制御情報に対応して、リアルタイムに溶存酸素濃度目標値を更新している。なお、個別に設定される当該溶存酸素濃度目標値は、同一の値であってもよいし、各系列の配置や機器構成や酸素溶解効率のばらつき等を考慮してそれぞれの好気槽1ごとに異なる値であってもよい。
【0049】
第一制御部91は、制御情報として乖離度情報を受信した場合、当該乖離度がゼロになるようにPID制御により溶存酸素濃度目標値を設定する。第一制御部91は、制御情報として無視信号を受信した場合、あらかじめ定められた溶存酸素濃度目標値を設定する。これにより第一制御部91は、アンモニア性窒素濃度の制御を優先して考慮した溶存酸素濃度目標値の設定と、有機物の酸化のための酸素消費量を優先して考慮した溶存酸素濃度目標値の設定とを適切に切替えて行える。
【0050】
第二制御部92は、記憶部8のDO目標値DB81に記憶されたそれぞれの好気槽1ごとの溶存酸素濃度目標値と、溶存酸素濃度計測部3から受信したそれぞれの好気槽1ごとの溶存酸素濃度とに基づいて、それぞれの好気槽1における曝気風量を制御する(第二制御ステップの一例)機能部である。本実施形態では、第二制御部92は、曝気風量の制御として曝気装置6の送風機60の回転数制御を行う。第二制御部92は、好気槽1a、好気槽1bおよび好気槽1cのそれぞれの送風機60a〜送風機60cの回転数制御を行う機能部である曝気装置コントローラ92a〜曝気装置コントローラ92cを有する。
【0051】
第二制御部92は、例えば、溶存酸素濃度が溶存酸素濃度目標値よりも小さい場合に送風機60の回転数を増大させて風量を増加させる。これにより混合液の溶存酸素濃度が増大する。溶存酸素濃度が溶存酸素濃度目標値を超える場合は送風機60の回転数を減少させて風量を減少させる。これにより混合液の溶存酸素濃度が減少する。溶存酸素濃度が溶存酸素濃度目標値に等しい場合には送風機60の回転数を維持する回転数制御を行う。当該回転数制御は例えばPID制御によって行う。このように、第一制御部91が制御情報に基づいて設定した溶存酸素濃度目標値に基づいて第二制御部92が曝気風量を制御することで、好気槽1のアンモニア性窒素の硝化と有機物の酸化との双方に適切な曝気操作(風量制御)を実現する。
【0052】
〔第一実施形態の変形例〕
第一実施形態では下水処理システム100の各系列が、下水が流入する上流側から順に、最初沈殿池51、好気槽1、最終沈殿池59を配置されて有する場合を説明した。しかしながら、下水処理システム100の各系列が、図3に示すように、最初沈殿池51、好気槽1、最終沈殿池59に加えて、活性汚泥の脱リンを行う嫌気槽52(嫌気処理部の一例)、活性汚泥により硝酸態窒素を還元して窒素に変換する無酸素槽53(無酸素処理部の一例)を有し、下水処理システム100が嫌気−無酸素−好気法を実行する下水の処理設備であってもよい。この場合において、好気槽1や制御部9などの動作は第一実施形態と同じであるため以下の説明では省略する。なお、嫌気槽52や無酸素槽53は、槽である。
【0053】
下水処理システム100が嫌気槽52および無酸素槽53を有する場合、下水処理システム100の各系列は、下水が流入する上流側から順に、最初沈殿池51、嫌気槽52、無酸素槽53、好気槽1、最終沈殿池59の順に配置されてなる。
【0054】
嫌気槽52には、最終沈殿池59で沈殿させた活性汚泥の一部を返送する。当該返送された活性汚泥を嫌気槽52で酸素欠乏状態に置くことでリンを放出(脱リン)する。脱リンした後に好気槽1へ移送された活性汚泥は、好気槽1の好気性状態下において、嫌気槽52で放出したリンに対して過剰に多量のリンを吸収する。これにより、下水処理システム100は下水からリンを除去する。
【0055】
無酸素槽53には、好気槽1から混合液の一部を返送する。脱窒菌の硝酸呼吸、あるいは亜硝酸呼吸を利用して、好気槽1から返送された混合液に含まれる硝酸態窒素を窒素に還元する。脱窒菌は、硝酸呼吸、あるいは亜硝酸呼吸を行う際に、下水に含まれる有機物を併せて消費する。これにより、下水処理システム100は下水から硝酸態窒素を除去する。また、硝酸態窒素の除去に伴い、下水に含まれる有機物を除去する。
【0056】
以上のようにして、下水処理システムおよび下水処理方法は、溶存酸素濃度を適切に制御することができる。
【0057】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、下水処理システム100の各系列が、下水が流入する上流側から順に、最初沈殿池51、好気槽1、最終沈殿池59を配置されて有する場合、および、下水が流入する上流側から順に、最初沈殿池51、嫌気槽52、無酸素槽53、好気槽1、最終沈殿池59の順に配置されて有する場合を説明した。しかしながら、下水処理システム100の各系列は、嫌気槽52および無酸素槽53のいずれも有しない場合、もしくは、嫌気槽52と無酸素槽53との両方を有する場合に限られない。下水処理システム100の各系列が、嫌気槽52もしくは無酸素槽53のいずれか一方を有する場合もある。また、これら無酸素槽53と好気槽1との組み合わせを二段ないし三段、あるいは四段以上直列に繋いだいわゆるステップ流入式多段硝化脱窒法などの場合もある。この場合は、最終段の好気槽1にアンモニア計20および溶存酸素濃度計30を取り付ける。
【0058】
下水処理システム100の各系列が、下水が流入する上流側から順に、最初沈殿池51、嫌気槽52、好気槽1、最終沈殿池59の順に配置されて有する場合、下水処理システム100は、いわゆる嫌気−好気法により、有機物とリンの除去を行える。
【0059】
下水処理システム100の各系列が、下水が流入する上流側から順に、最初沈殿池51、無酸素槽53、好気槽1、最終沈殿池59の順に配置されて有する場合、下水処理システム100は、いわゆる無酸素−好気法により、窒素の除去を行える。
【0060】
(2)上記実施形態では、制御部9が第一制御部91と第三制御部93とを有し、第三制御部93がアンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度と、記憶部8におけるアンモニア性窒素濃度目標値DB83にあらかじめ記憶されたアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいて制御情報を第一制御部91に送出する場合を説明した。また、第一制御部91が、第三制御部93が送出する制御情報に基づいて、好気槽1a、好気槽1bおよび好気槽1cのそれぞれの溶存酸素濃度目標値を設定し、当該溶存酸素濃度目標値を記憶部8のDO目標値DB81に記憶する場合を説明した。しかしながら、制御部9が第三制御部93を有さない場合もある。この場合、例えば、第一制御部91がアンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値DB83にあらかじめ記憶されたアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいて好気槽1a、好気槽1bおよび好気槽1cのそれぞれの溶存酸素濃度目標値を設定し、当該溶存酸素濃度目標値を記憶部8のDO目標値DB81に記憶してもよい。この場合、アンモニア性窒素濃度がアンモニア性窒素濃度目標値に近付くように、第一制御部91がPID制御により溶存酸素濃度目標値を設定しても良い。
【0061】
(3)上記実施形態では、アンモニア性窒素濃度目標値が記憶部8のアンモニア性窒素濃度目標値DB83にあらかじめ記憶されている場合を説明した。しかしながら、アンモニア性窒素濃度目標値は、単純に数値として記憶されている場合に限られない。
【0062】
例えば、アンモニア性窒素濃度の値に対応するアンモニア性窒素濃度目標値を参照可能な関係情報(以下では第一関係情報と称する)を関係情報データベースや所定の関数などとして記憶部8に記憶しておく。そして、例えば第三制御部93が、アンモニア性窒素濃度と当該第一関係情報とに基づいてアンモニア性窒素濃度目標値を選択もしくは決定することもできる。
【0063】
上記第一関係情報は、時間帯、天候や季節の変化に伴う下水の水量や水質などの変動があった場合のアンモニア性窒素濃度の値に対応するアンモニア性窒素濃度目標値を、あらかじめ学習させたものを記憶して用いることができる。この場合、下水処理システム100に、時間帯、天候や季節の変化に伴う下水の水量や水質などの変化情報の入力部(図示せず)を更に設け、第三制御部93は、当該変化情報と、アンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度と、アンモニア性窒素濃度目標値に基づいて設定された溶存酸素濃度目標値と、溶存酸素濃度計測部3から受信した溶存酸素濃度と、に基づいて、溶存酸素濃度が速やかに溶存酸素濃度目標値に収束する第一関係情報を学習し、アンモニア性窒素濃度の値に対応するアンモニア性窒素濃度目標値に関する関係情報データベースなどを更新することもできる。
【0064】
(4)上記実施形態では、第一制御部91は、第三制御部93が更新するアンモニア性窒素濃度目標値の変動に対応して、PID制御によりリアルタイムに溶存酸素濃度目標値を設定(更新)する場合を説明した。しかしながら、アンモニア性窒素濃度目標値は、PID制御により設定する場合に限られない。
【0065】
例えば、アンモニア性窒素濃度目標値の値に対応する溶存酸素濃度目標値を参照可能な関係情報(以下では第二関係情報と称する)を関係情報データベースや所定の関数などとして記憶部8に記憶しておく。そして、第三制御部93は、アンモニア性窒素濃度と当該第二関係情報とに基づいて溶存酸素濃度目標値を設定することもできる。
【0066】
上記第二関係情報は、時間帯、天候や季節の変化に伴う下水の水量や水質などの変動があった場合の溶存酸素濃度目標値を、あらかじめ学習させたものを用いることができる。この場合、下水処理システム100に、時間帯、天候や季節の変化に伴う下水の水量や水質などの変化情報の入力部(図示せず)を更に設け、第一制御部91は、当該変化情報と、アンモニア性窒素濃度目標値と、溶存酸素濃度目標値と、溶存酸素濃度計測部3から受信した溶存酸素濃度と、に基づいて、溶存酸素濃度が速やかに溶存酸素濃度目標値に収束する第二関係情報を学習し、関係情報データベースなどを更新することもできる。
【0067】
(5)上記実施形態では、第三制御部93は、アンモニア性窒素濃度がアンモニア性窒素濃度目標値よりも所定範囲内で乖離している場合、制御情報としてアンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値との乖離度を含む乖離度信号を送出し、アンモニア性窒素濃度が所定の下限値以下の場合にアンモニア性窒素濃度を無視する指示を含む無視信号を制御情報として送出する場合を説明した。また、第一制御部91は、制御情報として乖離度情報を受信した場合、当該乖離度情報に基づいて溶存酸素濃度目標値を設定し、制御情報として無視信号を受信した場合、あらかじめ定められた溶存酸素濃度目標値を設定する場合を説明した。しかしながら、第三制御部93は、無視信号に代えて、制御情報としてアンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値との乖離度に所定の補正を加えた補正乖離度を含む補正乖離度信号を送出することもできる。補正乖離度は、例えばアンモニア性窒素濃度が所定の値(ただし、アンモニア性窒素濃度目標値よりも小さく、上述の所定の下限値以上の値)である場合の乖離度を採用することができる。
【0068】
この場合、第一制御部91は、制御情報として受信した乖離度情報もしくは補正乖離度情報に基づいて溶存酸素濃度目標値を設定する。
【0069】
(6)上記実施形態では、分配部5が、下水処理システム100へ下水を導く流路に設けられた開度調整可能な可動堰である場合を説明したが、分配部5は可動堰に限られない。分配部5は、可動堰以外にも、弁やポンプ、もしくはこれらの組み合わせなどでもよい。例えば、分配部5を、下水処理システム100へ下水を導く流路から流路5a、流路5bおよび流路5cの各流路へ分岐する分岐流路と、これら各流路に設けられた弁やポンプ、もしくはポンプと弁との組み合わせであってもよい。弁であれば、流路ごとに弁の開度調整をして下水を均等配分すればよい。ポンプであれば、流路ごとにポンプの出力を調整してもよいし、ポンプの下流側流路に弁を設け、ポンプの出力は一定として弁の開度調整をして下水を均等配分してもよい。
【0070】
(7)上記実施形態では、好気槽1ごとの曝気装置6は送風機60(送風機60aなど)を有し、第二制御部92(曝気装置コントローラ92aなど)は、曝気風量の制御として好気槽1ごとの送風機60の回転数制御を行う場合を説明した。しかしながら、送風機60や第二制御部92の構成や制御はこの例示に限られない。好気槽1ごとに送風機60を設ける代わりに、複数の好気槽1に対してひとつの送風装置を設けてもよい。そして、当該一つの送風装置から送風配管などを分岐させてそれぞれの好気槽1に送風してもよい。なお、上述の送風装置は、一つ以上のブロワなどを有する装置である。この場合、それぞれの配管ごとに風量調整弁を設けて好気槽1ごとの送風量を調整することができ、第二制御部92(曝気装置コントローラ92aなど)は、送風機60の回転数制御を行う代わりに、当該風量調整弁の開度調整を行えばよい。
【0071】
(8)上記実施形態では、好気処理部の一例として、槽である好気槽1を例示して説明した。また、特に第一実施形態の変形例の説明では、嫌気処理部の一例として、槽である嫌気槽52を例示し、また、無酸素処理部の一例として槽である無酸素槽53を例示した。しかし、好気処理部、嫌気処理部、もしくは無酸素処理部は、好気槽1、嫌気槽52もしくは無酸素槽53のように、かならずしも単一の槽である場合に限られない。たとえば、一つの槽を、嫌気処理部に対応する嫌気区分、無酸素処理部に対応する無酸素区分、好気処理部に対応する好気区分として、槽内に堰などを設けて区分けする場合もある。また、最初沈殿池51や最終沈殿池59についても同様である。
【0072】
(9)上記第一実施形態の変形例の説明では、系列Aの好気槽1aに、槽内のアンモニア性窒素濃度を計測するためのアンモニア計20が取り付けられている場合を例示した。また、制御部9が、アンモニア計20を有するアンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度に基づいてそれぞれの好気槽1における曝気風量を制御する場合を説明した。また、記憶部8は、アンモニア性窒素濃度目標値として、好気槽1aにおける目標値を記憶している場合を説明した。また、制御部9は、第一制御部91、第二制御部92、および第三制御部93を有し、アンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいて制御情報を第一制御部91に送出する場合を説明した。しかし、系列Aの嫌気槽52や、無酸素槽53に、これら槽内のアンモニア性窒素濃度を計測するためのアンモニア計20を取り付ける場合もある。この場合も、制御部9は、アンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいてそれぞれの好気槽1における曝気風量を制御してよい。
【0073】
なおこの場合は、記憶部8に、アンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度に基づいて好気槽1におけるアンモニア性窒素濃度を予測するための関係情報(たとえば、嫌気槽52や無酸素槽53におけるアンモニア性窒素濃度を入力変数とし、好気槽1におけるアンモニア性窒素濃度の予測値を出力する関数。以下では予測情報と記載する)を更に記憶するとよい。このように予測情報を用いることで、制御部9は、嫌気槽52や無酸素槽53におけるアンモニア性窒素濃度に基づいて好気槽1aにおけるアンモニア性窒素濃度を予測し、当該予測されたアンモニア性窒素濃度と好気槽1aにおけるアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいてそれぞれの好気槽1における曝気風量を制御することができる。
【0074】
なお、アンモニア計20は、好気槽1の直前の無酸素槽53に取り付けることが好ましい。
【0075】
(10)上記第一実施形態の変形例の説明では、系列Aの好気槽1aに、槽内のアンモニア性窒素濃度を計測するためのアンモニア計20が取り付けられている場合を例示した。また、制御部9が、アンモニア計20を有するアンモニア計測部2から受信したアンモニア性窒素濃度に基づいてそれぞれの好気槽1における曝気風量を制御する場合を説明した。また、記憶部8は、アンモニア性窒素濃度目標値として、好気槽1aにおける目標値を記憶している場合を説明した。また、制御部9は、第一制御部91、第二制御部92、および第三制御部93を有し、アンモニア性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度目標値とに基づいて制御情報を第一制御部91に送出する場合を説明した。しかし、嫌気槽52や、無酸素槽53に、これら槽内のアンモニア性窒素濃度を計測するためのアンモニア計20を取り付ける場合もある。そして記憶部8に、アンモニア性窒素濃度目標値として、嫌気槽52や無酸素槽53における目標値を記憶する場合もある。
【0076】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、溶存酸素濃度を適切に制御可能な下水処理システムおよび下水処理方法に適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 :好気槽(好気処理部)
1a :好気槽(好気処理部)
1b :好気槽(好気処理部)
1c :好気槽(好気処理部)
2 :アンモニア計測部
3 :溶存酸素濃度計測部
5 :分配部
6 :曝気装置
9 :制御部
20 :アンモニア計
30 :溶存酸素濃度計
52 :嫌気槽(嫌気処理部)
53 :無酸素槽(無酸素処理部)
81 :DO目標値DB(溶存酸素濃度目標値)
83 :アンモニア性窒素濃度目標値DB(アンモニア性窒素濃度目標値)
91 :第一制御部
92 :第二制御部
93 :第三制御部
100 :下水処理システム
A :系列(処理系列)
B :系列(処理系列)
C :系列(処理系列)
図1
図2
図3