【実施例】
【0298】
VI.実施例
以下の実施例は、本発明の実施について意図された最良の形態の単なる例示であり、本発明を限定すると解釈してはならない。本明細書中の全ての文献引用が明確に参照により組み入れられる。
【0299】
実施例1
本実施例は、MASP-2が欠損しているが(MASP-2-/-)MAp19は十分な(MAp19+/+)マウス系統の生成について述べる。
【0300】
材料および方法:
図3に示したように、セリンプロテアーゼドメインをコードするエキソンを含む、マウスMASP-2のC末端をコードする3つのエキソンを破壊するために、ターゲティングベクターpKO-NTKV1901を設計した。pKO-NTKV1901を用いて、マウスES細胞株E14.1a(SV129Ola)をトランスフェクトした。ネオマイシン耐性およびチミジンキナーゼ感受性のクローンを選択した。600個のESクローンをスクリーニングした。このうち4個の異なるクローンが同定され、
図3に示したように、サザンブロットによって、予想された選択的標的化および組換え事象を含むことが立証された。胚移植によって、これら4個の陽性クローンからキメラを生成した。次いで、キメラを遺伝的バックグラウンドC57/BL6において戻し交配して、トランスジェニック雄を作製した。トランスジェニック雄を雌と交配させてF1を得た。子孫の50%は、破壊されたMASP-2遺伝子についてヘテロ接合性を示した。ヘテロマウスを交雑させて、ホモMASP-2欠損子孫、ヘテロマウス、および野生型マウスをそれぞれ1:2:1の比で得た。
【0301】
結果および表現型:結果として生じたホモMASP-2-/-欠損マウスは生存可能であり、生殖能力があることが見出され、正しい標的化事象を確認するためにサザンブロットによって、MASP-2 mRNAの非存在を確認するためにノザンロットによって、MASP-2タンパク質の非存在を確認するためにウエスタンブロットによって、MASP-2欠損であることが立証された(データ示さず)。LightCycler装置による時間分解型RT-PCRを用いて、MAp19 mRNAの存在およびMASP-2 mRNAの非存在がさらに確認された。MASP-2-/-マウスは、予想通り、MAp19、MASP-1、およびMASP-3のmRNAおよびタンパク質を発現し続ける(データ示さず)。MASP-2-/-マウスにおけるプロペルジン、B因子、D因子、C4、C2、およびC3のmRNAの存在および量をLightCycler分析によって評価し、野生型同腹仔対照のものと同一であることが見出された(データ示さず)。ホモMASP-2-/-マウスに由来する血漿は、実施例2にさらに記載のように、レクチン経路を介した補体活性化が完全に欠損している。
【0302】
純粋なC57BL6バックグラウンドのMASP-2-/-系統の生成:MASP-2-/-マウスをC57BL6純系と9世代にわたって戻し交配した後に、MASP-2-/-系統を実験動物モデルとして使用した。
【0303】
マウスMASP-2-/-, MAp19+/+であり、ヒトMASP-2トランスジーン(マウスMASP-2ノックアウトおよびヒトMASP-2ノックイン)を発現するトランスジェニックマウス系統も以下のように生成した。
【0304】
材料および方法:
図4に示したように、最初の3つのエキソン(エキソン1〜エキソン3)を含むヒトMASP2遺伝子のプロモーター領域の後に、次の8つのエキソンからなるコード配列に相当するcDNA配列を含み、それによって、その内因性プロモーターによって駆動される完全長MASP-2タンパク質をコードする「ミニhMASP-2」と呼ばれるヒトMASP-2をコードするミニ遺伝子(SEQ ID NO:49)を構築した。欠損マウスMASP2遺伝子を、遺伝子導入により発現されるヒトMASP-2で置換するために、ミニhMASP-2構築物をMASP-2-/-受精卵に注入した。
【0305】
実施例2
本実施例はレクチン経路を介した補体活性化にはMASP-2が必要であることを証明する。
【0306】
方法および材料:
レクチン経路特異的C4切断アッセイ法:C4切断アッセイ法は、Petersen, S.V., et al., J. Immunol Methods 257:107(2001)によって述べられており、L-フィコリンに結合する黄色ブドウ球菌由来リポテイコ酸(LTA)に起因するレクチン経路活性化を測定する。下記のようにプレートをLPSおよびマンナンまたはザイモサンでコーティングした後に、MASP-2-/-マウスに由来する血清を添加することによって、Petersen et al., (2001)に記載のアッセイ法がMBLを介したレクチン経路活性化を測定するように適合化された。このアッセイ法を、古典経路によるC4切断の可能性を取り除くようにも変更した。これは、レクチン経路認識成分とそのリガンドとの高親和性結合を可能にするが、内因性C4の活性化を阻止し、それによって、C1複合体を解離することによって古典経路の関与を排除する、1M NaClを含有する試料希釈緩衝液を使用することによって達成された。簡単に述べると、変更されたアッセイ法では、血清試料(高塩(1M NaCl)緩衝液で希釈した)をリガンドコーティングプレートに添加した後に、生理学的濃度の塩を含む緩衝液に溶解した一定量の精製C4を添加した。MASP-2を含有する結合した認識複合体はC4を切断し、その結果、C4bが沈着する。
【0307】
アッセイ方法;
(1)Nunc Maxisorbマイクロタイタープレート(Maxisorb(登録商標), Nunc, カタログ番号442404, Fisher Scientific)を、コーティング緩衝液(15mM Na
2CO
3, 35mM NaHCO
3, pH9.6)で希釈した1μg/mlマンナン(M7504 Sigma)または他の任意のリガンド(例えば、以下の列挙したリガンド)でコーティングした。
【0308】
以下の試薬をアッセイ法において使用した:
a.マンナン(100μlコーティング緩衝液中に1μg/ウェルのマンナン(M7504 Sigma));
b.ザイモサン(100μlコーティング緩衝液中に1μg/ウェルのザイモサン(Sigma));
c.LTA(100μlコーティング緩衝液中に1μg/ウェルまたは20μlメタノール中に2μg/ウェル);
d.コーティング緩衝液中に1μgのH-フィコリン特異的Mab 4H5;
e.エロコッカス・ビリダンス(Aerococcus viridans)に由来するPSA(100μlコーティング緩衝液中に2μg/ウェル);
f.コーティング緩衝液中に100μl/ウェルのホルマリン固定黄色ブドウ球菌DSM20233(OD
550=0.5)。
【0309】
(2)プレートを4℃で一晩インキュベートした。
【0310】
(3)一晩のインキュベーション後、プレートを0.1%HSA-TBSブロッキング緩衝液(0.1%(w/v)HSAを含む10mM Tris-CL、140mM NaCl、1.5mM NaN
3、pH7.4)とともに1〜3時間インキュベートし、次いで、プレートをTBS/tween/Ca
2+(0.05%Tween20および5mM CaCl
2、1mM MgCl
2、pH7.4を含むTBS)で3回洗浄することによって、残存するタンパク質結合部位を飽和させた。
【0311】
(4)試験しようとする血清試料をMBL結合緩衝液(1M NaCl)で希釈し、希釈試料をプレートに添加し、4℃で一晩インキュベートした。緩衝液だけが入っているウェルを陰性対照として使用した。
【0312】
(5)4℃で一晩のインキュベーション後、プレートをTBS/tween/Ca
2+で3回洗浄した。次いで、ヒトC4(100μl/ウェル。1μg/ml。BBS(4mMバルビタール、145mM NaCl、2mM CaCl
2、1mM MgCl
2、pH7.4)で希釈した)をプレートに添加し、37℃で90分間インキュベートした。プレートをTBS/tween/Ca
2+で3回、再洗浄した。
【0313】
(6)C4b沈着を、アルカリホスファターゼ結合ニワトリ抗ヒトC4c(TBS/tween/Ca
2+で1:1000に希釈した)で検出し、アルカリホスファターゼ結合ニワトリ抗ヒトC4cをプレートに添加し、室温で90分間インキュベートした。次いで、プレートをTBS/tween/Ca
2+で3回、再洗浄した。
【0314】
(7)100μlのp-ニトロフェニルリン酸基質溶液を添加し、室温で20分間インキュベートし、マイクロタイタープレートリーダーにおいてOD
405を読み取ることによって、アルカリホスファターゼを検出した。
【0315】
結果:
図5AおよびBは、MASP-2+/+(十字)、MASP-2+/-(黒丸)、およびMASP-2-/-(黒三角)の血清希釈液中のマンナン(
図5A)およびザイモサン(
図5B)におけるC4b沈着の量を示す。
図5Cは、野生型血清に対して正規化されたC4b沈着量の測定に基づく、野生型マウス(n=5)と比較した、MASP-2-/+マウス(n=5)およびMASP-2-/-マウス(n=4)の、ザイモサン(白色の棒)またはマンナン(影付きの棒)でコーティングされたプレート上での相対的C4コンバターゼ活性を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図5A〜Cに示したように、MASP-2-/-マウスに由来する血漿は、マンナンコーティングプレート上およびザイモサンコーティングプレート上でのレクチン経路を介した補体活性化が完全に欠損している。これらの結果から、MASP-2はレクチン経路のエフェクター成分であることがはっきりと証明される。
【0316】
組換えMASP-2はMASP-2-/-マウスに由来する血清中でレクチン経路依存性C4活性化を再構成する
MASP-2の非存在がMASP-2-/-マウスにおけるレクチン経路依存性C4活性化消失の直接の原因であることを証明するために、血清試料への組換えMASP-2タンパク質の添加の効果を前記のC4切断アッセイ法において調べた。機能的に活性なマウスMASP-2組換えタンパク質および触媒不活性マウスMASP-2A(セリンプロテアーゼドメイン中の活性部位セリン残基がアラニン残基で置換された)組換えタンパク質を以下の実施例3に記載のように産生および精製した。4匹のMASP-2-/-マウスからプールされた血清を、漸増タンパク質濃度の組換えマウスMASP-2または不活性組換えマウスMASP-2Aとプレインキュベートし、C4コンバターゼ活性を前記のようにアッセイした。
【0317】
結果:
図6に示したように、機能的に活性なマウス組換えMASP-2タンパク質(白三角として示した)をMASP-2-/-マウスから得られた血清に添加すると、レクチン経路依存性C4活性化がタンパク質濃度依存的に回復したのに対して、触媒不活性マウスMASP-2Aタンパク質(星として示した)はC4活性化を回復しなかった。
図6に示した結果は、プールされた野生型マウス血清を用いて観察されたC4活性化(点線として示した)に対して正規化されている。
【0318】
実施例3
本実施例は、組換え完全長ヒトMASP-2、ラットおよびマウスのMASP-2、MASP-2に由来するポリペプチド、ならびに触媒不活化変異型MASP-2の組換え発現およびタンパク質産生について述べる。
【0319】
完全長ヒトMASP-2、マウスMASP-2、およびラットMASP-2の発現:
ヒトMASP-2の完全長cDNA配列(SEQ ID NO:4)を、CMVエンハンサー/プロモーター領域の制御下で真核生物発現を駆動する哺乳動物発現ベクターpCI-Neo(Promega)にもサブクローニングした(Kaufman R.J. et al., Nucleic Acids Research 19:4485-90, 1991; Kaufman, Methods in Emymology, 185:537-66(1991)に記載)。完全長マウスcDNA(SEQ ID NO:50)およびラットMASP-2 cDNA(SEQ ID NO:53)をそれぞれpED発現ベクターにサブクローニングした。次いで、Maniatis et al., 1989に記載の標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション手順を用いて、MASP-2発現ベクターを、付着性のチャイニーズハムスター卵巣細胞株DXB1にトランスフェクトした。これらの構築物でトランスフェクトされた細胞は非常にゆっくりと増殖した。このことは、コードされたプロテアーゼが細胞傷害性であることを意味する。
【0320】
別のアプローチでは、MASP-2の内因性プロモーターによって駆動されるヒトMASP-2 cDNAを含有するミニ遺伝子構築物(SEQ ID NO:49)をチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)に一過的にトランスフェクトした。ヒトMASP-2タンパク質を培養培地に分泌させ、下記のように単離した。
【0321】
完全長触媒不活性MASP-2の発現:
原理:認識小成分MBLまたはフィコリン(L-フィコリン、H-フィコリン、もしくはM-フィコリンのいずれか)がそれぞれの炭水化物パターンに結合した後に、MASP-2は自己触媒切断によって活性化される。血清からのMASP-2の単離手順中に、または組換え発現後の精製中に、MASP-2を活性化する自己触媒切断が起こることが多い。抗原として使用するための、より安定したタンパク質調製物を得るために、ラットではプロテアーゼドメインの触媒三残基(catalytic triad)に存在するセリン残基をアラニン残基で(SEQ ID NO:55 Ser617からAla617)、またはマウスでは(SEQ ID NO:52 Ser617からAla617)で;ヒトでは(SEQ ID NO:6 Ser618からAla618)で置換することによって、MASP-2Aと呼ばれる触媒不活性型MASP-2を作製した。
【0322】
触媒不活性なヒトMASP-2Aタンパク質およびマウスMASP-2Aタンパク質を生成するために、表5に示したオリゴヌクレオチドを用いて部位特異的変異誘発を行った。酵素的に活性なセリンをコードするヒトcDNAおよびマウスcDNAの領域にアニーリングするように表5のオリゴヌクレオチドを設計した。セリンコドンをアラニンコドンに変えるためにオリゴヌクレオチドはミスマッチを含有する。例えば、開始コドンから酵素的に活性なセリンまで、このセリンから停止コドンまでの領域を増幅して、Ser618からAla618への変異を含有する変異MASP-2Aからの完全オープンリーディングフレームを生成するために、PCRオリゴヌクレオチドSEQ ID NO:56〜59をヒトMASP-2 cDNA(SEQ ID NO:4)と組み合わせて使用した。アガロースゲル電気泳動およびバンド調製の後にPCR産物を精製し、標準的なテーリング手順を用いて単一アデノシン重複を作製した。次いで、アデノシン尾部のあるMASP-2AをpGEM-T easyベクターにクローニングし、形質転換によって大腸菌に導入した。
【0323】
SEQ ID NO:64およびSEQ ID NO:65をキナーゼ処理し、これらの2つのオリゴヌクレオチドを等モル量で組み合わせ、100℃で2分間、加熱し、室温までゆっくりと冷却することによってアニーリングすることによって、触媒不活性ラットMASP-2Aタンパク質を生成した。結果として生じたアニーリング断片はPst1およびXba1適合末端を有し、野生型ラットMASP-2 cDNA(SEQ ID NO:53)のPst1-Xba1断片の代わりに挿入して、ラットMASP-2Aを生成した。
【0324】
下記のように、ヒトMASP-2A、マウスMASP-2A、およびラットMASP-2Aをそれぞれ哺乳動物発現ベクターpEDまたはpCI-Neoにさらにサブクローニングし、チャイニーズハムスター卵巣細胞株DXB1にトランスフェクトした。
【0325】
別のアプローチでは、Chen et al., J. Biol. Chem., 276(28):25894-25902, 2001に記載の方法を用いて触媒不活性型MASP-2を構築する。簡単に述べると、完全長ヒトMASP-2 cDNAを含有するプラスミド(Thiel et al., Nature 386:506, 1997に記載)をXho1およびEcoR1で消化し、MASP-2 cDNA(SEQ ID NO:4として本明細書に記載)をpFastBac1バキュロウイルストランスファーベクター(Life Technologies, NY)の対応する制限部位にクローニングする。次いで、ペプチド領域アミノ酸610〜625をコードする二本鎖オリゴヌクレオチド(SEQ ID NO:13)を天然領域アミノ酸610〜625で置換して、不活性プロテアーゼドメインを有するMASP-2完全長ポリペプチドを作製することによって、Ser618にあるMASP-2セリンプロテアーゼ活性部位をAla618に変える。
【0326】
ヒトMasp-2に由来するポリペプチド領域を含有する発現プラスミドの構築
MASP-2の様々なドメインを分泌させるために、MASP-2シグナルペプチド(SEQ ID NO:5の残基1-15)を用いて以下の構築物を作製する。MASP-2(SEQ ID NO:6)の残基1〜121をコードする領域(N末端CUBIドメインに対応する)を増幅するPCRによって、ヒトMASP-2 CUBIドメイン(SEQ ID NO:8)を発現する構築物を作製する。MASP-2(SEQ ID NO:6)の残基1〜166をコードする領域(N末端CUBIEGFドメインに対応する)を増幅するPCRによって、ヒトMASP-2 CUBIEGFドメイン(SEQ ID NO:9)を発現する構築物を作製する。MASP-2(SEQ ID NO:6)の残基1〜293をコードする領域(N末端CUBIEGFCUBIIドメインに対応する)を増幅するPCRによって、ヒトMASP-2 CUBIEGFCUBIIドメイン(SEQ ID NO:10)を発現する構築物を作製する。確立されたPCR法に従って、Vent
Rポリメラーゼおよび鋳型としてpBS-MASP-2を用いたPCRによって前述のドメインを増幅する。センスプライマーの5'プライマー配列
は、PCR産物の5'末端にBamHI制限部位(下線)を導入する。以下の表5に示した、それぞれのMASP-2ドメインのアンチセンスプライマーは、それぞれのPCR産物の末端に停止コドン(太字体)の後にEcoRI部位(下線)を導入するように設計されている。DNA断片を増幅したら、BamHIおよびEcoRIで消化し、pFastBac1ベクターの対応する部位にクローニングする。結果として生じた構築物を制限酵素マッピングによって特徴決定し、dsDNA配列決定によって確認する。
【0327】
(表5)MASP-2 PCRプライマー
【0328】
MASP-2の組換え真核生物発現、ならびに酵素的に不活性なマウスMASP-2A、ラットMASP-2A、およびヒトMASP-2Aのタンパク質産生
標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション手順(Maniatis et al., 1989)を用いて、前記のMASP-2発現構築物およびMASP-2A発現構築物をDXB1細胞にトランスフェクトした。調製物が他の血清タンパク質で確実に汚染されないようにするために、MASP-2Aを無血清培地中で産生させた。1日おきに(計4回)、培地をコンフルエント細胞から回収した。組換えMASP-2Aレベルの平均は、3種類の種それぞれについて培地1リットルにつき約1.5mgであった。
【0329】
MASP-2Aタンパク質の精製:MASP-2A(前記のSer-Ala変異体)を、MBP-A-アガロースカラムでのアフィニティクロマトグラフィーによって精製した。この戦略によって、外部タグを使用することなく迅速な精製が可能になった。MASP-2A(等量のローディングバッファー(150mM NaClおよび25mM CaCl
2を含有する50mM Tris-Cl, pH7.5で希釈した培地100〜200ml)を、10mlのローディングバッファーで予め平衡状態にしたMBP-アガロースアフィニティカラム(4ml)にロードした。さらに10mlのローディングバッファーで洗浄した後に、1.25M NaClおよび10mM EDTAを含有する50mM Tris-Cl, pH7.5を用いて、タンパク質を1ml画分中に溶出させた。MASP-2Aを含有する画分をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって同定した。必要に応じて、MASP-2Aを、MonoQカラム(HR5/5)でのイオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製した。タンパク質を、50mM NaClを含有する50mM Tris-Cl pH7.5を用いて透析し、同じ緩衝液で平衡状態にしたカラムにロードした。洗浄後、結合しているMASP-2Aを、10mlにわたって0.05〜1MのNaCl勾配で溶出させた。
【0330】
結果:収量0.25〜0.5mgのMASP-2Aタンパク質を培地200mlから得た。MALDI-MSによって求められた分子量77.5kDaは、グリコシル化のために非修飾ポリペプチドの算出値(73.5kDa)よりも大きい。それぞれのN-グリコシル化部位におけるグリカンの付着が、観察された質量の原因となっている。MASP-2AはSDS-ポリアクリルアミドゲル上でシングルバンドとして移動し、このことから、MASP-2Aは生合成中にタンパク質分解処理されないことが証明される。平衡超遠心分離によって求められた重量平均分子量はグリコシル化ポリペプチドのホモ二量体の算出値と一致する。
【0331】
組換えヒトMASP-2ポリペプチドの産生
組換えMASP-2およびMASP2A由来ポリペプチドを産生するための別の方法は、Thielens, N.M., et al., J. Immunol 166:5068-5077, 2001に記載されている。簡単に述べると、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)昆虫細胞(Novagen, Madison, WIから得たReady-Plaque Sf9細胞)を、50IU/mlペニシリンおよび50mg/mlストレプトマイシン(Life Technologies)を添加したSf900II無血清培地(Life Technologies)中で増殖および維持する。イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)(High Five)昆虫細胞(Jadwiga Chroboczek, Institut de Biologie Structurale, Grenoble, Franceにより提供された)を、50 IU/mlペニシリンおよび50mg/mlストレプトマイシンで添加した、10%FCS(Dominique Dutscher, Brumath, France)を含有するTC100培地(Life Technologies)中で維持する。組換えバキュロウイルスを、Bac-to-Bacシステム(登録商標)(Life Technologies)を用いて生成する。バクミドDNAを、Qiagen midiprep精製システム(Qiagen)を用いて精製し、製造業者のプロトコールに記載のようにSf900 II SFM培地(Life Technologies)に溶解したセルフェクション(cellfectin)を用いてSf9昆虫細胞をトランスフェクトするために使用する。組換えウイルス粒子を4日後に収集し、ウイルスプラークアッセイ法によって滴定し、King and Possee, The Baculovirus Expression System:A Laboratory Guide, Chapman and Hall Ltd., London, pp.111-114, 1992に記載のように増幅する。
【0332】
High Five細胞(1.75×10
7細胞/175cm
2組織培養フラスコ)に、Sf900 II SFM培地中、感染効率2で、MASP-2ポリペプチドを含有する組換えウイルスを28℃で96時間、感染させる。上清を遠心分離によって収集し、ジイソプロピルホスホロフルオリデートを1mMの最終濃度まで添加する。
【0333】
MASP-2ポリペプチドを培地中に分泌させる。培養上清を、50mM NaCl、1mM CaCl
2、50mM塩酸トリエタノールアミン, pH8.1に対して透析し、同じ緩衝液で平衡状態にしたQ-Sepharose Fast Flowカラム(Amersham Pharmacia Biotech)(2.8×12cm)に1.5ml/分でロードする。溶出は、同じ緩衝液に溶解した350mM NaClまでの1.2リットル直線勾配を適用することによって行う。組換えMASP-2ポリペプチドを含有する画分をウエスタンブロット分析によって同定し、60%(w/v)まで(NH
4)
2SO
4を添加することによって沈降させ、4℃で一晩静置する。ペレットを、145mM NaCl、1mM CaCl
2、50mM塩酸トリエタノールアミン, pH7.4に再懸濁し、同じ緩衝液で平衡状態にしたTSK G3000 SWGカラム(7.5×600mm)(Tosohaas, Montgomeryville, PA)に適用する。次いで、精製されたポリペプチドを、Microsepマイクロコンセントレーター(microconcentrator)(m.w.カットオフ=10,000)(Filtron, Karlstein, Germany)での限外濾過によって0.3mg/mlまで濃縮する。
【0334】
実施例4
本実施例はMASP-2ポリペプチドに対するポリクローナル抗体を作製する方法について述べる。
【0335】
材料および方法;
MASP-2抗原:以下の単離されたMASP-2ポリペプチドを用いてウサギを免疫することによって、ポリクローナル抗ヒトMASP-2抗血清を作製する:血清から単離されたヒトMASP-2(SEQ ID NO:6);実施例3に記載の組換えヒトMASP-2(SEQ ID NO:6)、不活性プロテアーゼドメイン(SEQ ID NO:13)を含有するMASP-2A;ならびに前記の実施例3に記載のように発現された、組換えCUBI(SEQ ID NO:8)、CUBEGFI(SEQ ID NO:9)、およびCUBEGFCUBII(SEQ ID NO:10)。
【0336】
ポリクローナル抗体: BCG(カルメット・ゲラン杆菌ワクチン)で初回刺激を受けた6週齢ウサギを、滅菌食塩水に溶解した100μgのMASP-2ポリペプチド100μg/mlの注射によって免疫する。注射を4週間ごとに行い、実施例5に記載のようにELISAアッセイ法によって抗体価をモニタリングする。プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによる抗体精製のために、培養上清を収集する。
【0337】
実施例5
本実施例は、ラットMASP-2ポリペプチドまたはヒトMASP-2ポリペプチドに対するマウスモノクローナル抗体を作製するための方法について述べる。
【0338】
材料および方法:
雄A/Jマウス(Harlan, Houston, Tex.)、8〜12週齢に、完全フロイントアジュバント(Difco Laboratories, Detroit, Mich.)を含む200μlのリン酸緩衝食塩水(PBS)pH7.4に溶解したヒトまたはラットのrMASP-2またはrMASP-2Aポリペプチド(実施例3に記載のように作った)100μgを皮下注射する。2週間の間隔で2回、マウスに、不完全フロイントアジュバントに溶解したヒトまたはラットのrMASP-2またはrMASP-2Aポリペプチド50μgを皮下注射する。4週目に、マウスに、PBSに溶解したヒトまたはラットのrMASP-2またはrMASP-2Aポリペプチド50μgを注射し、4日後に融合する。
【0339】
それぞれの融合について、免疫したマウスの脾臓からシングルセル懸濁液を調製し、Sp2/0ミエローマ細胞との融合に使用する。50%ポリエチレングリコール(M.W.1450)(Kodak, Rochester, N.Y.)および5%ジメチルスルホキシド(Sigma Chemical Co., St. Louis. Mo.)を含有する培地中で、5×10
8個のSp2/0および5×10
8個の脾臓細胞を融合する。次いで、10%胎仔ウシ血清、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.1mMヒポキサンチン、0.4μMアミノプテリン、および16μMチミジンを添加したIscove培地(Gibco, Grand Island, N.Y.)に溶解して、細胞を1.5×10
5個の脾臓細胞/懸濁液200μlの濃度まで調節する。200マイクロリットルの細胞懸濁液を、約20個の96ウェルマイクロカルチャープレートの各ウェルに添加する。約10日後に、ELISAアッセイ法における精製因子MASP-2との反応性についてスクリーニングするために培養上清を取り出す。
【0340】
ELISAアッセイ法: 50ng/mlの精製hMASP-2 50μlまたはラットrMASP-2(もしくはrMASP-2A)を室温で一晩、添加することによって、Immulon(登録商標) 2(Dynatech Laboratories, Chantilly, Va.)マイクロテストプレートのウェルをコーティングする。コーティング用のMASP-2濃度が低いので、高親和性抗体の選択が可能である。プレートをパチンとはじくことによって、コーティング溶液を除去した後に、非特異的部位をブロックするために、PBSに溶解した200μlのBLOTTO(無脂肪ドライミルク)を各ウェルに1時間、添加する。次いで、1時間後、ウェルを緩衝液PBST(0.05%Tween20を含有するPBS)で洗浄する。それぞれの融合ウェルから50マイクロリットルの培養上清を収集し、50μlのBLOTTOと混合し、次いで、マイクロテストプレートの個々のウェルに添加する。1時間のインキュベーション後に、ウェルをPBSTで洗浄する。次いで、結合したマウス抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG(Fc特異的)(Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove, Pa.)との反応によって検出し、BLOTTOで1:2,000に希釈する。発色させるために、0.1%3,3,5,5テトラメチルベンジジン(Sigma, St. Louis, Mo.)および0.0003%過酸化水素(Sigma)を含有するペルオキシダーゼ基質溶液をウェルに30分間、添加する。反応を50μlの2M H
2SO
4/ウェルを添加することによって止める。反応混合物の450nmでの光学密度をBioTek(登録商標) ELISA Reader(BioTek(登録商標) Instruments, Winooski, Vt.)で読み取る。
【0341】
MASP-2結合アッセイ法:
前記のMASP-2 ELISAアッセイ法の試験において陽性と判定された培養上清を、MASP-2に対するMASP-2阻害物質の結合親和性を決定するために結合アッセイ法において試験することができる。阻害物質が補体系の他の抗原に結合するかどうか判定するために類似アッセイ法も使用することができる。
【0342】
ポリスチレンマイクロタイタープレートウェル(96ウェル培地結合プレート, Corning Costar, Cambridge, MA)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)pH7.4に溶解したMASP-2(20ng/100μl/ウェル, Advanced Research Technology, San Diego, CA)で4℃において一晩コーティングする。MASP-2溶液を吸引した後に、ウェルを、1%ウシ血清アルブミン(BSA; Sigma Chemical)を含有するPBSで室温において2時間ブロックする。MASP-2コーティングのないウェルはバックグラウンド対照として役立つ。ブロッキング溶液に溶解した様々な濃度のハイブリドーマ上清または精製抗MASP-2 MoAbのアリコートをウェルに添加する。室温で2時間のインキュベーション後に、ウェルをPBSで大規模にリンスする。ブロッキング溶液に溶解したペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(Sigma Chemical)を添加し、室温で1時間インキュベートすることによって、MASP-2に結合した抗MASP-2 MoAbを検出する。プレートをPBSで徹底的に再度リンスし、100μlの3,3',5,5'テトラメチルベンジジン(TMB)基質(Kirkegaard and Perry Laboratories, Gaithersburg, MD)を添加する。TMBの反応を、100μlの1Mリン酸を添加することによってクエンチし、プレートをマイクロプレートリーダー(SPECTRA MAX 250, Molecular Devices, Sunnyvale, CA)において450nmで読み取る。
【0343】
次いで、陽性ウェル由来の培養上清を、機能アッセイ法、例えば、実施例2に記載のC4切断アッセイ法において補体活性化を阻害する能力について試験する。次いで、陽性ウェル中の細胞を限界希釈によってクローニングする。MoAbを、前記のようにELISAアッセイ法においてhMASP-2との反応性について再試験する。選択されたハイブリドーマをスピナーフラスコの中で増殖させ、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによる抗体精製のために、使用済みの培養上清を収集する。
【0344】
実施例6
本実施例は、ヒト化マウス抗MASP-2抗体および抗体断片の生成および作製について述べる。
【0345】
実施例5に記載のように、雄A/Jマウスにおいてマウス抗MASP-2モノクローナル抗体を生成する。次いで、マウス抗体は、マウス抗体の免疫原性を弱めるために、マウス定常領域をそのヒト対応物で置換して抗体のキメラIgGおよびFab断片を生成することによって、下記のようにヒト化され、これは、本発明によるヒト対象におけるMASP-2依存性補体活性化の副作用を阻害するために有用である。
【0346】
1.マウスハイブリドーマ細胞に由来する抗MASP-2可変領域遺伝子のクローニング
RNAzolを用いて製造業者のプロトコール(Biotech, Houston, Tex.)に従って、総RNAを、抗MASP-2 MoAbを分泌するハイブリドーマ細胞(実施例7に記載のように得た)から単離する。プライマーとしてオリゴdTを用いて第一鎖cDNAを総RNAから合成する。免疫グロブリン定常C領域に由来する3'プライマー、および5'プライマーとしてリーダーペプチドまたはマウスV
H遺伝子もしくはV
K遺伝子の最初のフレームワーク領域に由来する縮重プライマーセットを用いてPCRを行う。アンカーPCRは、Chen and Platsucas(Chen, P.F., Scand. J. Immunol. 35:539-549, 1992)に記載のように行う。V
K遺伝子をクローニングするために、Not1-MAK1プライマー
を用いて二本鎖cDNAを調製する。アニーリングされたアダプター
を二本鎖cDNAの5'末端および3'末端の両方に連結する。3'末端にあるアダプターをNot1消化によって除去する。次いで、消化産物を、5'プライマーとしてAD1オリゴヌクレオチドおよび3'プライマーとしてMAK2
を使用するPCRにおける鋳型として使用する。約500bpのDNA断片をpUC19にクローニングする。クローニングされた配列が、予想されたマウス免疫グロブリン定常領域を含むことを確認するために、配列分析用に、いくつかのクローンを選択する。Not1-MAK1およびMAK2オリゴヌクレオチドはV
K領域に由来し、それぞれ、Cκ遺伝子の最初の塩基対から182bpおよび84bp下流にある。完全なV
Kおよびリーダーペプチドを含むクローンを選択する。
【0347】
V
H遺伝子をクローニングするために、Not1 MAG1プライマー
を用いて二本鎖cDNAを調製する。アニーリングされたアダプターAD1およびAD2を、二本鎖cDNAの5'末端および3'末端の両方に連結する。3'末端にあるアダプターをNot1消化によって除去する。消化産物を、プライマーとしてAD1オリゴヌクレオチドおよびMAG2
を使用するPCRにおける鋳型として使用する。長さが500〜600bpのDNA断片をpUC19にクローニングする。Notl-MAG1およびMAG2オリゴヌクレオチドはマウスCγ.7.1領域に由来し、それぞれ、マウスCγ.7.1遺伝子の最初の塩基対から180bp下流および93bp下流にある。完全なV
Hおよびリーダーペプチドを含むクローンを選択する。
【0348】
2.キメラMASP-2 IgGおよびFab用の発現ベクターの構築
Kozakコンセンサス配列をヌクレオチド配列の5'末端に付加し、スプライスドナーを3'末端に添加するためのPCR反応の鋳型として、前記のクローニングされたV
H遺伝子およびV
K遺伝子を使用する。PCRエラーが存在しないことを確認するために配列を分析した後に、V
H遺伝子およびV
K遺伝子を、それぞれ、ヒトC.γ1を含有する発現ベクターカセットおよびヒトC.κを含有する発現ベクターカセットに挿入して、pSV2neoV
H-huCγ1およびpSV2neoV-huCγを得る。重鎖ベクターおよび軽鎖ベクターのCsCl勾配精製プラスミドDNAを用いて、エレクトロポレーションによってCOS細胞をトランスフェクトする。48時間後に、約200ng/mlのキメラIgGの存在を確認するために、培養上清をELISAによって試験する。細胞を回収し、総RNAを調製する。プライマーとしてオリゴdTを用いて、総RNAから第一鎖cDNAを合成する。Fd DNA断片およびκDNA断片を生成するために、このcDNAをPCRにおける鋳型として使用する。Fd遺伝子の場合、5'プライマーとして
およびCH1由来3'プライマー
を用いてPCRを行う。DNA配列は、ヒトIgG1の完全なV
HドメインおよびヒトCH1ドメインを含有することが確認される。適切な酵素で消化した後に、Fd DNA断片を、発現ベクターカセットpSV2dhfr-TUSのHindIII制限部位およびBamHI制限部位に挿入して、pSV2dhfrFdを得る。pSV2プラスミドは市販されており、様々な供給源に由来するDNAセグメントからなる。pBR322DNA(薄い線)は、pBR322のDNA複製起点(pBRori)およびラクタマーゼアンピシリン耐性遺伝子(Amp)を含有する。幅広のハッチングによって表され、印が付けられているSV40 DNAは、SV40 DNA複製起点(SV40ori)、初期プロモーター(dhfr遺伝子およびneo遺伝子の5'側)、ならびにポリアデニル化シグナル(dhfr遺伝子およびneo遺伝子の3'側)を含有する。SV40由来ポリアデニル化シグナル(pA)もFd遺伝子の3'末端に配置される。
【0349】
κ遺伝子の場合、5'プライマーとして
およびC
K由来3'プライマー
を用いてPCRを行う。DNA配列は、完全なV
K領域およびヒトC
K領域を含有することが確認される。適切な制限酵素を用いた消化後に、κDNA断片を発現ベクターカセットpSV2neo-TUSのHindIII制限部位およびBamHI制限部位に挿入して、pSV2neoKを得る。Fd遺伝子およびκ遺伝子の発現は、HCMV由来エンハンサーおよびプロモーターエレメントによって駆動される。Fd遺伝子は、鎖間ジスルフィド結合に関与するシステインアミノ酸残基を含まないので、この組換えキメラFabは、非共有結合により連結された重鎖および軽鎖を含有する。このキメラFabはcFabと呼ばれる。
【0350】
重鎖と軽鎖の間のジスルフィド結合を有する組換えFabを得るために、ヒトIgG1のヒンジ領域に由来する9個のさらなるアミノ酸(EPKSCDKTH SEQ ID NO:48)のコード配列を含むように、前記のFd遺伝子を延長することができる。Fd遺伝子の3'末端にある30アミノ酸をコードするBstEII-BamHI DNAセグメントを、延長したFdをコードするDNAセグメントと取り替えて、pSV2dhfrFd/9aaを得ることができる。
【0351】
3.キメラ抗MASP-2 IgGの発現および精製
キメラ抗MASP-2 IgGを分泌する細胞株を生成するために、NSO細胞を、エレクトロポレーションによってpSV2neoV
H-huC.γ1およびpSV2neoV-huCκの精製プラスミドDNAでトランスフェクトする。トランスフェクト細胞を、0.7mg/ml G418の存在下で選択する。細胞を、血清含有培地を用いて250mlスピナーフラスコ中で増殖させる。
【0352】
100mlスピナー培養物の培養上清を、10ml PROSEP-Aカラム(Bioprocessing, Inc., Princeton, NJ.)にロードする。カラムを10ベッド体積のPBSで洗浄する。結合している抗体を50mMクエン酸緩衝液, pH3.0で溶出させる。pHを7.0に調節するために、等量の1M Hepes, pH8.0を、精製抗体を含有する画分に添加する。残留塩を、Millipore膜限外濾過(M.W.カットオフ:3,000)によるPBSを用いた緩衝液交換によって除去する。精製抗体のタンパク質濃度をBCA法(Pierce)によって求める。
【0353】
4.キメラ抗MASP-2 Fabの発現および精製
キメラ抗MASP-2 Fabを分泌する細胞株を生成するために、CHO細胞を、エレクトロポレーションによってpSV2dhfrFd(またはpSV2dhfrFd/9aa)およびpSV2neoκの精製プラスミドDNAでトランスフェクトする。トランスフェクト細胞をG418およびメトトレキセートの存在下で選択する。選択された細胞株を漸増濃度のメトトレキセートの中で増幅する。細胞を限界希釈によってシングルセルサブクローニングする。次いで、高産生シングルセルサブクローニング細胞株を、無血清培地を用いて100mlスピナーフラスコ中で増殖させる。
【0354】
キメラ抗MASP-2 Fabを、MASP-2 MoAbに対するマウス抗イディオタイプMoAbを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって精製する。抗イディオタイプMASP-2 MoAbは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合したマウス抗MASP-2 MoAbでマウスを免疫し、ヒトMASP-2と競合することができる特異的MoAb結合をスクリーニングすることによって作製することができる。精製のために、cFabまたはcFab/9aaを産生するCHO細胞のスピナー培養物由来の上清100mlを、抗イディオタイプMASP-2 MoAbと結合したアフィニティカラムにロードする。次いで、カラムをPBSで徹底的に洗浄した後に、結合しているFabを50mMジエチルアミン、pH11.5で溶出させる。残留塩を前記のように緩衝液交換によって除去する。精製Fabのタンパク質濃度をBCA法(Pierce)によって求める。
【0355】
キメラMASP-2 IgG、cFab、およびcFAb/9aaがMASP-2依存性補体経路を阻害する能力は実施例2または実施例7に記載の阻害アッセイ法を用いることによって求めることができる。
【0356】
実施例7
本実施例は、L-フィコリン/P35、H-フィコリン、M-フィコリン、またはマンナンを介したMASP-2依存性補体活性化を遮断することができるMASP-2阻害物質を同定するための機能スクリーニングとして用いられるインビトロC4切断アッセイ法について述べる。
【0357】
C4切断アッセイ法: C4切断アッセイ法は、Petersen, S.V., et al., J. Immunol. Methods 257:107, 2001によって述べられており、L-フィコリンに結合する黄色ブドウ球菌由来リポテイコ酸(LTA)に起因するレクチン経路活性化を測定する。
【0358】
試薬:ホルマリン固定黄色ブドウ球菌(DSM20233)を以下のように調製する。細菌をトリプティックソイ血液培地中で37℃において一晩増殖させ、PBSで3回洗浄し、次いで、PBS/0.5%ホルマリン中で室温において1時間固定し、PBSでさらに3回洗浄した後に、コーティング緩衝液(15mM Na
2Co
3、35mM NaHCO
3、pH9.6)に再懸濁する。
【0359】
アッセイ法:Nunc MaxiSorb(登録商標)マイクロタイタープレート(Nalgene Nunc International, Rochester, NY)のウェルを、コーティング緩衝液に溶解した1μgのL-フィコリンと共に、コーティング緩衝液に溶解した100μlのホルマリン固定黄色ブドウ球菌DSM20233(OD
550=0.5)でコーティングする。一晩のインキュベーション後、ウェルを、TBS(10mM Tris-HCl、140mM NaCl pH7.4)に溶解した0.1%ヒト血清アルブミン(HSA)でブロックし、次いで、0.05%Tween20および5mM CaCl
2を含有するTBS(洗浄液緩衝液)で洗浄する。ヒト血清試料を、内因性C4の活性化を阻止し、C1複合体(C1q、C1r、およびC1sからなる)を解離する、20mM Tris-HCl、1M NaCl、10mM CaCl
2、0.05%Triton X-100、0.1%HSA、pH7.4で希釈する。抗MASP-2 MoAbおよび阻害ペプチドを含むMASP-2阻害物質を様々な濃度で血清試料に添加する。希釈試料をプレートに添加し、4℃で一晩インキュベートする。24時間後、プレートを洗浄緩衝液で徹底的に洗浄する。次いで、100μlの4mMバルビタール、145mM NaCl、2mM CaCl
2、1mM MgCl
2、pH7.4に溶解した、0.1μgの精製ヒトC4(Dodds, A.W., Methods Enzymol. 223:46, 1993に記載のように得た)を各ウェルに添加する。37℃で1.5時間後に、プレートを再洗浄し、C4b沈着をアルカリホスファターゼ結合ニワトリ抗ヒトC4c(Immunsystem, Uppsala, Swedenから得た)を用いて検出し、比色分析基質ρ-ニトロフェニルリン酸を用いて測定する。
【0360】
マンナン上でのC4アッセイ法:MBLを介したレクチン経路活性化を測定するために、プレートをLSPおよびマンナンでコーティングした後に、様々なMASP-2阻害物質と混合した血清を添加することによって、前記のアッセイ法を適合化させる。
【0361】
H-フィコリン(Hakata Ag)上でのC4アッセイ法:H-フィコリンを介したレクチン経路活性化を測定するために、プレートをLPSおよびH-フィコリンでコーティングした後に、様々なMASP-2阻害物質と混合した血清を添加することによって、前記のアッセイ法を適合化させる。
【0362】
実施例8
以下のアッセイ法は、野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスにおける古典経路活性化の存在を証明する。
【0363】
方法:マイクロタイタープレート(Maxisorb(登録商標), Nunc, カタログ番号442404, Fisher Scientific)を、10mM Tris、140mM NaCl、pH7.4に溶解した0.1%ヒト血清アルブミンで室温において1時間コーティングした後に、TBS/tween/Ca
2+で1:1000に希釈したヒツジ抗全血清(whole serum)抗血清(Scottish Antibody Production Unit, Carluke, Scotland)と4℃で一晩インキュベートすることによって、免疫複合体をインサイチューで生成した。血清試料を野生型およびMASP-2-/-マウスから得て、コーティングされたプレートに添加した。野生型血清試料およびMASP-2-/-血清試料からC1qを枯渇させた対照試料を調製した。C1q枯渇マウス血清は、ウサギ抗ヒトC1q IgG(Dako, Glostrup, Denmark)でコーティングされたプロテインA結合Dynabeads(登録商標)(Dynal Biotech, Oslo, Norway)を用いて供給業者の説明書に従って調製した。プレートを37℃で90分間インキュベートした。結合しているC3bを、TBS/tw/Ca
++で1:1000に希釈したポリクローナル抗ヒトC3c抗体(DakoA062)を用いて検出した。二次抗体はヤギ抗ウサギIgGである。
【0364】
結果:
図7は、野生型血清、MASP-2-/-血清、C1q枯渇野生型血清、およびC1q枯渇MASP-2-/-血清中のIgGでコーティングされたプレート上の相対的C3b沈着レベルを示す。これらの結果からMASP-2-/-マウス系統において古典経路は損なわれていないことが証明される。
【0365】
実施例9
以下のアッセイ法を用いて、免疫複合体によって古典経路が開始する条件下でMASP-2阻害物質の効果を分析することによって、MASP-2阻害物質が古典経路を遮断するかどうか試験する。
【0366】
方法:免疫複合体によって古典経路が開始する補体活性化の状態に対するMASP-2阻害物質の効果を試験するために、90%NHSを含有する3つ組の試料50μlを、10μg/ml免疫複合体(IC)またはPBSの存在下で37℃においてインキュベートする。37℃でのインキュベーション中に、200nM抗プロペルジンモノクローナル抗体を含有する3つ組の対応する試料(+/-IC)も含める。37℃で2時間のインキュベーション後に、さらなる補体活性化を止めるために、13mM EDTAを全ての試料に添加し、すぐに、試料を5℃まで冷却する。次いで、試料を-70℃で保管した後に、ELISAキット(Quidelカタログ番号A015およびA009)を用いて製造業者の説明書に従って補体活性化産物(C3aおよびsC5b-9)をアッセイする。
【0367】
実施例10
本実施例はMASP-2活性を遮断する高親和性抗MASP-2 Fab2抗体断片の特定について述べる。
【0368】
背景および原理:MASP-2は、MBLおよびフィコリンの結合部位、セリンプロテアーゼ触媒部位、タンパク質分解基質C2の結合部位、タンパク質分解基質C4の結合部位、MASP-2酵素前駆体自己活性化のためのMASP-2切断部位、ならびに2つのCa
++結合部位を含む、多くの別個の機能ドメインを有する複合タンパク質である。高親和性でMASP-2に結合するFab2抗体断片を同定し、同定されたFab2断片がMASP-2機能活性を遮断できるかどうか判定するために機能アッセイ法において試験した。
【0369】
MASP-2機能活性を遮断するためには、抗体またはFab2抗体断片は、MASP-2機能活性に必要とされるMASP-2上の構造エピトープに結合し、これを妨害しなければならない。従って、高親和性結合抗MASP-2 Fab2の多くまたは全ては、それらが、MASP-2機能活性に直接関与するMASP-2上の構造エピトープに結合する場合を除いて、MASP-2機能活性を阻害しないことがある。
【0370】
レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定する機能アッセイ法を用いて、抗MASP-2 Fab2の「遮断活性」を評価した。レクチン経路におけるMASP-2の最も重要な生理学的役割は、レクチン媒介補体経路の次の機能成分、すなわち、レクチン経路C3コンバターゼを生成することであることが公知である。レクチン経路C3コンバターゼは、C3をC3aおよびC3bにタンパク分解によって切断する重要な酵素複合体(C4bC2a)である。MASP-2はレクチン経路C3コンバターゼ(C4bC2a)の構造成分ではない。しかしながら、レクチン経路C3コンバターゼを構成する2つのタンパク質成分(C4b、C2a)を生成するために、MASP-2の機能活性が必要とされる。さらに、MASP-2がレクチン経路C3コンバターゼを生成するためには、前記で列挙されたMASP-2の別個の機能活性の全てが必要であるように見える。これらの理由で、抗MASP-2 Fab2の「遮断活性」の評価において使用するための好ましいアッセイ法は、レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定する機能アッセイ法だと考えられる。
【0371】
高親和性Fab2の生成:ヒト軽鎖抗体可変配列および重鎖抗体可変配列のファージディスプレイライブラリー、ならびに関心対象の選択されたリガンドと反応するFab2を同定するための自動抗体選択技術を用いて、ラットMASP-2タンパク質(SEQ ID NO:55)に対する高親和性Fab2を作製した。抗体スクリーニングのために、既知量のラットMASP-2(約1mg、>85%純粋)タンパク質を利用した。親和性が最も高い抗体を選択するために3回の増幅を利用した。ELISAスクリーニングのために、抗体断片を発現する約250個の異なるヒットを選んだ。この後に、異なる抗体のユニークさ(uniqueness)を決定するために高親和性ヒットを配列決定した。
【0372】
50個のユニークな抗MASP-2抗体を精製し、以下でさらに詳述するように、それぞれの精製Fab2抗体250μgをMASP-2結合親和性の特徴決定および補体経路の機能試験に使用した。
【0373】
抗MASP-2 Fab2の阻害(遮断)活性の評価に用いられるアッセイ法
1.レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定するためのアッセイ法:
背景:レクチン経路C3コンバターゼは、C3を2つの強力な炎症誘発断片であるアナフィラトキシンC3aおよびオプソニンC3bにタンパク分解によって切断する酵素複合体(C4bC2a)である。C3コンバターゼの形成は、炎症を媒介する点でレクチン経路の重要な段階であるように思われる。MASP-2はレクチン経路C3コンバターゼ(C4bC2a)の構造成分ではない。従って、抗MASP-2抗体(またはFab2)は、既にあるC3コンバターゼの活性を直接阻害しない。しかしながら、レクチン経路C3コンバターゼを構成する2つのタンパク質成分(C4b、C2a)を生成するために、MASP-2セリンプロテアーゼ活性が必要とされる。従って、MASP-2機能活性を阻害する抗MASP-2 Fab2(すなわち、遮断抗MASP-2 Fab2)はレクチン経路C3コンバターゼの新規形成を阻害する。C3は、その構造の一部として、珍しく、かつ高反応性のチオエステル基を含有する。このアッセイ法ではC3がC3コンバターゼによって切断されると、C3b上のチオエステル基は、エステル結合またはアミド結合を介してプラスチックウェルの底に固定化された巨大分子上のヒドロキシル基またはアミノ基と共有結合を形成することができ、従って、ELISAアッセイ法におけるC3bの検出が容易になる。
【0374】
酵母マンナンはレクチン経路の公知の活性化因子である。C3コンバターゼ形成を測定する以下の方法では、マンナンでコーティングされたプラスチックウェルを希釈ラット血清と37℃で30分間インキュベートして、レクチン経路を活性化した。次いで、ウェルを洗浄し、標準的なELISA法を用いて、ウェル上に固定化されたC3bについてアッセイした。このアッセイ法において生成されたC3bの量は、レクチン経路C3コンバターゼの新規形成を直接反映するものである。このアッセイ法では、選択された濃度の抗MASP-2 Fab2がC3コンバターゼ形成を阻害し、その結果として起きるC3b生成を阻害する能力を試験した。
【0375】
方法:
96ウェルCostar Medium Bindingプレートを、1μg/50μl/ウェルで、50mM炭酸緩衝液、pH9.5で希釈したマンナンと5℃で一晩インキュベートした。一晩のインキュベーション後、200μl PBSで各ウェルを3回洗浄した。次いで、ウェルを、PBSに溶解した100μl/ウェルの1%ウシ血清アルブミンでブロックし、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。次いで、各ウェルを200μlのPBSで3回洗浄した。抗MASP-2 Fab2試料を、5Cで、Ca
++およびMg
++を含有するGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl
2、2.0mM CaCl
2、0.1%ゼラチン、pH7.4)で選択された濃度まで希釈した。0.5%ラット血清を5℃で前記の試料に添加し、100μlを各ウェルに移した。プレートに蓋をし、補体活性化を可能にするために37C水浴中で30分間インキュベートした。37℃水浴から、氷と水の混合物を含む容器にプレートを移すことによって、反応を止めた。各ウェルを、PBS-Tween20(0.05%Tween20を含むPBS)で200μlで5回洗浄し、次いで、200μlのPBSで2回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミンを含有するPBSに溶解した100μl/ウェルの一次抗体(ウサギ抗ヒトC3c、DAKO A0062)1:10,000希釈液を添加し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを5×200μlのPBSで洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミンを含有するPBSに溶解した、100μl/ウェルの二次抗体(ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG, American Qualex A102PU)1:10,000希釈液を添加し、シェーカーに載せて穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルをPBSで200μlで5回洗浄した。100μl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard & Perry Laboratories)を添加し、室温で10分間インキュベートした。100μl/ウェルの1.0M H
3PO
4を添加することによってペルオキシダーゼ反応を止め、OD
450を測定した。
【0376】
2.MASP-2依存性C4切断の阻害を測定するためのアッセイ法:
背景:MASP-2のセリンプロテアーゼ活性は高度に特異的であり、MASP-2のタンパク質基質はC2およびC4の2種類しか同定されていない。C4の切断によってC4aおよびC4bが生成される。抗MASP-2 Fab2は、C4切断に直接関与するMASP-2上の構造エピトープ(例えば、C4のMASP-2結合部位;MASP-2セリンプロテアーゼ触媒部位)に結合し、それによって、MASP-2のC4切断機能活性を阻害する可能性がある。
【0377】
酵母マンナンはレクチン経路の公知の活性化因子である。MASP-2のC4切断活性を測定する以下の方法では、マンナンでコーティングされたプラスチックウェルを希釈ラット血清と37℃で30分間インキュベートして、レクチン経路を活性化した。このELISA法において用いられる一次抗体はヒトC4しか認識しないので、希釈ラット血清にヒトC4(1.0μg/ml)も添加した。次いで、ウェルを洗浄し、標準的なELISA方法を用いて、ウェルに固定化されたヒトC4bについてアッセイした。このアッセイ法において生成されたC4bの量はMASP-2依存性C4切断活性の尺度である。このアッセイ法では、選択された濃度の抗MASP-2 Fab2がC4切断を阻害する能力を試験した。
【0378】
方法:96ウェルCostar Medium Bindingプレートを、1.0μg/50μl/ウェルで、50mM炭酸緩衝液、pH9.5で希釈したマンナンと5℃で一晩インキュベートした。200μl PBSで各ウェルを3回洗浄した。次いで、ウェルを、PBSに溶解した100μl/ウェルの1%ウシ血清アルブミンでブロックし、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで3回洗浄した。抗MASP-2 Fab2試料を、5℃で、Ca
++およびMg
++を含有するGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl
2、2.0mM CaCl
2、0.1%ゼラチン、pH7.4)で選択された濃度まで希釈した。これらの試料に1.0μg/ml/ヒトC4(Quidel)も含めた。前記の試料に0.5%ラット血清を5℃で添加し、100μlを各ウェルに移した。プレートに蓋をし、補体を活性化するために37℃水浴中で30分間インキュベートした。37℃水浴から、氷と水の混合物を含む容器にプレートを移すことによって、反応を止めた。各ウェルを、PBS-Tween20(0.05%Tween20を含むPBS)で200μlで5回洗浄した。次いで、各ウェルを200μlのPBSで2回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBSに溶解した、100μl/ウェルのビオチン結合ニワトリ抗ヒトC4c(Immunsystem AB, Uppsala, Sweden)1:700希釈液を添加し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。2.0mg/ml BSAを含有するPBSに溶解した、100μl/ウェルの0.1μg/mlのペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Pierce Chemical#21126)を添加し、シェーカーに載せて穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。100μl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard & Perry Laboratories)を添加し、室温で16分間インキュベートした。100μl/ウェルの1.0M H
3PO
4を添加することによってペルオキシダーゼ反応を止め、OD
450を測定した。
【0379】
3.抗ラットMASP-2 Fab2と「天然」ラットMASP-2との結合アッセイ法
背景:MASP-2は、通常、特異的レクチン分子(マンノース結合タンパク質(MBL)およびフィコリン)も含むMASP-2二量体複合体として血漿中に存在する。従って、抗MASP-2 Fab2と生理学的に関連する形態のMASP-2との結合の研究に興味があるのであれば、精製組換えMASP-2ではなく、Fab2と血漿中の「天然」MASP-2との相互作用が用いられる結合アッセイ法を開発することが重要である。この結合アッセイ法では、最初に、10%ラット血清に由来する「天然」MASP-2-MBL複合体をマンナンコーティングウェルに固定化した。次いで、標準的なELISA法を用いて、固定化「天然」MASP-2に対する様々な抗MASP-2 Fab2の結合親和性を研究した。
【0380】
方法:96ウェルCostar High Bindingプレートを、1μg/50μl/ウェルで、50mM炭酸緩衝液、pH9.5で希釈したマンナンと5℃で一晩インキュベートした。200μlのPBSで各ウェルを3回洗浄した。ウェルを100μl/ウェルの、PBST(0.05%Tween20を含むPBS)に溶解した0.5%無脂肪ドライミルクでブロックし、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのTBS/Tween/Ca
++洗浄緩衝液(5.0mM CaCl
2を含有するTris緩衝食塩水、0.05%Tween20、pH7.4)で3回洗浄した。High Salt Binding Buffer(20mM Tris、1.0M NaCl、10mM CaCl
2、0.05%Triton-X100、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン、pH7.4)に溶解した10%ラット血清を氷上で調製した。100μl/ウェルを添加し、5℃で一晩インキュベートした。ウェルを200μlのTBS/Tween/Ca
++洗浄緩衝液で3回洗浄した。次いで、ウェルを200μlのPBSで2回洗浄した。Ca
++およびMg
++を含有するGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl
2、2.0mM CaCl
2、0.1%ゼラチン、pH7.4)で希釈した100μl/ウェルの選択された濃度の抗MASP-2 Fab2を添加し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミンを含むPBSで1:5000に希釈した100μl/ウェルのHRP結合ヤギ抗Fab2(Biogenesisカタログ番号0500-0099)を添加し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。100μl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard & Perry Laboratories)を添加し、室温で70分間インキュベートした。100μl/ウェルの1.0M H
3PO
4を添加することによってペルオキシダーゼ反応を止め、OD
450を測定した。
【0381】
結果:
ELISAスクリーニングのために、高親和性でラットMASP-2タンパク質と反応した約250個の異なるFab2を選んだ。異なる抗体のユニークさを決定するために、これらの高親和性Fab2を配列決定した。さらなる分析のために、50個のユニークな抗MASP-2抗体を精製した。それぞれの精製Fab2抗体250μgを、MASP-2結合親和性の特徴決定および補体経路の機能試験に使用した。この分析の結果を以下の表6に示した。
【0382】
(表6)レクチン経路補体活性化を遮断する抗MASP-2 FAB2
【0383】
表6に示したように、試験した50個の抗MASP-2 Fab2のうち17個のFab2が、10nM Fab2に等しい、または10nM Fab2未満のIC
50でC3コンバターゼ形成を強力に阻害するMASP-2遮断Fab2であると同定された(34%の陽性ヒット率)。17個のFab2のうち8個のIC
50はnM以下の範囲である。さらに、表6に示したMASP-2遮断Fab2のうち17個全てが、レクチン経路C3コンバターゼアッセイ法においてC3コンバターゼ形成の本質的に完全な阻害を示した。
図8Aは、試験された他のFab2抗体を代表するFab2抗体番号11についてのC3コンバターゼ形成アッセイ法の結果を図示する。この結果を表6に示した。それぞれのMASP-2分子がFab2に結合している場合でも、「遮断」Fab2がMASP-2機能をほんのわずかにしか阻害しない場合があるのは理論上可能なので、これは重要な考慮事項である。
【0384】
マンナンはレクチン経路の公知の活性化因子であるが、ラット血清中に抗マンナン抗体が存在することでも古典経路が活性化し、古典経路C3コンバターゼを介してC3bが生成され得ることも理論上可能である。しかしながら、本実施例において列挙された17個の遮断抗MASP-2 Fab2はそれぞれC3b生成を強力に阻害する(>95%)。従って、このことから、レクチン経路C3コンバターゼに対する、このアッセイ法の特異性が証明される。
【0385】
それぞれの遮断Fab2の見かけのK
dを算出するために、17個全ての遮断Fab2を用いて結合アッセイ法も行った。遮断Fab2のうちの6個についての、天然ラットMASP-2に対する抗ラットMASP-2 Fab2の結合アッセイ法の結果も表6に示した。
図8Bは、Fab2抗体番号11を用いた結合アッセイ法の結果を図示する。他のFab2についても同様の結合アッセイ法を行った。この結果を表6に示した。一般的に、6個のFab2のそれぞれと「天然」MASP-2の結合について得られた見かけのK
dは、C3コンバターゼ機能アッセイ法におけるFab2のIC
50と妥当によく一致する。MASP-2はそのプロテアーゼ活性が活性化されると「不活性」型から「活性」型へとコンフォメーション変化を受けるという証拠がある(Feinberg et al., EMBO J 22:2348-59(2003); Gal et al., J. Biol.Chem. 250:33435-44(2005))。C3コンバターゼ形成アッセイ法において用いられる正常ラット血漿中には、MASP-2は主に「不活性な」酵素前駆体コンフォメーションの状態で存在する。対照的に、結合アッセイ法では、MASP-2は、固定化マンナンと結合したMBLとの複合体の一部として存在する。従って、MASP-2は「活性」コンフォメーション状態にあると考えられる(Petersen et al., J. Immunol Methods 257:107-16, 2001)。その結果、これらの2つの機能アッセイ法において試験された17個の遮断Fab2のそれぞれについてIC
50とK
dの間に厳密な対応関係が予想されるとは限らないと考えられる。なぜなら、それぞれのアッセイ法において、Fab2は異なるコンフォメーション型のMASP-2を結合するからである。にもかかわらず、Fab2番号88を除いて、2つのアッセイ法において試験された他の16個のFab2のそれぞれについてIC
50と見かけのK
dの間に妥当に密接な対応関係があるように思われる(表6を参照されたい)。
【0386】
MASP-2によって媒介されるC4切断の阻害について遮断Fab2のいくつかを評価した。
図8Cは、Fab2番号41による阻害、IC
50=0.81nMを示すC4切断アッセイ法の結果を図示する(表6を参照されたい)。
図9に示したように、試験されたFab2の全てが、C3コンバターゼアッセイ法において得られたIC
50とほぼ同じIC
50でC4切断を阻害することが見出された(表6を参照されたい)。
【0387】
マンナンはレクチン経路の公知の活性化因子であるが、ラット血清中に抗マンナン抗体が存在することでも古典経路が活性化し、それによって、C1sを介したC4切断によってC4bが生成され得ることも理論上可能である。しかしながら、C4b生成を強力に阻害する(>95%)、いくつかの抗MASP-2 Fab2が同定されている。従って、このことから、MASP-2によって媒介されるC4切断に対する、このアッセイ法の特異性が証明される。C4はC3と同様に、その構造の一部として、珍しく、かつ高反応性のチオエステル基を含有する。このアッセイ法においてC4がMASP-2によって切断されると、C4b上のチオエステル基は、エステル結合またはアミド結合を介してプラスチックウェルの底に固定化された巨大分子上のヒドロキシル基またはアミノ基と共有結合を形成することができ、従って、ELISA法におけるC4bの検出が容易になる。
【0388】
これらの結果から、C4およびC3コンバターゼ活性を両方とも機能的に遮断する、ラットMASP-2タンパク質に対する高親和性Fab2が作製され、それによって、レクチン経路活性化が阻止されることがはっきりと証明される。
【0389】
実施例11
本実施例は、実施例10に記載のように生成された遮断抗ラットMASP-2 Fab2抗体のいくつかのエピトープマッピングについて述べる。
【0390】
方法:
図10に示したように、全てN末端6×Hisタグを有する以下のタンパク質を、pED4ベクターを用いてCHO細胞において発現させた:
ラットMASP-2A、活性中心にあるセリンをアラニンに変えることによって不活性化された完全長MASP-2タンパク質(S613A);
ラットMASP-2K、自己活性化を低下させるように変えられた完全長MASP-2タンパク質(R424K);
CUBI-II、CUBIドメイン、EGF様ドメイン、およびCUBIIドメインしか含まないラットMASP-2 N末端断片;ならびに
CUBI/EGF様、CUBIドメインおよびEGF様ドメインしか含まないラットMASP-2 N末端断片。
【0391】
以前に述べられたように(Chen et al., J. Biol. Chem. 276:25894-02(2001))、これらのタンパク質をニッケル-アフィニティクロマトグラフィーによって培養上清から精製した。
【0392】
ラットMASP-2のCCPIIおよびセリンプロテアーゼドメインを含有するC末端ポリペプチド(CCPII-SP)を、pTrxFus(Invitrogen)を用いてチオレドキシン融合タンパク質として大腸菌において発現させた。タンパク質を、Thiobondアフィニティ樹脂を用いて細胞溶解産物から精製した。チオレドキシン融合パートナーを陰性対照として空のpTrxFusから発現させた。
【0393】
全ての組換えタンパク質をTBS緩衝液で透析し、280nmのODを測定することによって濃度を求めた。
【0394】
ドットブロット分析:
前述したおよび
図10に示した5個の組換えMASP-2ポリペプチドの段階希釈液(ならびにCCPII-セリンプロテアーゼポリペプチドの陰性対照としてチオレドキシンポリペプチド)をニトロセルロース膜上にスポットした。スポットされたタンパク質の量は5倍段階で100ng〜6.4pgであった。後の実験において、スポットされたタンパク質の量は、再度、5倍段階で50ng〜16pgであった。膜を、TBS(ブロッキング緩衝液)に溶解した5%スキムミルク粉末でブロックし、次いで、ブロッキング緩衝液(5.0mM Ca
2+を含有する)に溶解した1.0μg/mlの抗MASP-2 Fab2とインキュベートした。結合しているFab2を、HRP結合抗ヒトFab(AbD/Serotec;1/10,000に希釈した)およびECL検出キット(Amersham)を用いて検出した。1枚の膜を、陽性対照としてポリクローナルウサギ抗ヒトMASP-2 Ab(Stover et al., J Immunol 163:6848-59(1999)に記載)とインキュベートした。この場合、結合しているAbを、HRP結合ヤギ抗ウサギIgG(Dako; 1/2,000に希釈した)を用いて検出した。
【0395】
MASP-2結合アッセイ法
ELISAプレートを、炭酸緩衝液(pH9.0)に溶解した1.0μg/ウェルの組換えMASP-2AまたはCUBI-IIポリペプチドで4℃において一晩コーティングした。ウェルを、TBSに溶解した1%BSAでブロックし、次いで、5.0mM Ca
2+を含有するTBSに溶解した抗MASP-2 Fab2の段階希釈液を添加した。プレートをRTで1時間インキュベートした。TBS/tween/Ca
2+で3回洗浄した後、TBS/Ca
2+で1/10,000に希釈したHRP結合抗ヒトFab(AbD/Serotec)を添加し、プレートをRTでさらに1時間インキュベートした。結合している抗体を、TMBペルオキシダーゼ基質キット(Biorad)を用いて検出した。
【0396】
結果:
Fab2と様々なMASP-2ポリペプチドとの反応性を証明したドットブロット分析の結果を以下の表7に示した。表7に示した数値は、ほぼ最大半量のシグナル強度を得るのに必要とされる、スポットされたタンパク質の量を示す。示したように、(チオレドキシン融合パートナー単独を除く)全てのポリペプチドが、陽性対照Ab(ポリクローナル抗ヒトMASP-2血清、ウサギにおいて産生された)によって認識された。
【0397】
(表7)ドットブロットにおける様々な組換えラットMASP-2ポリペプチドとの反応性
NR=反応なし。陽性対照抗体は、ウサギにおいて産生されたポリクローナル抗ヒトMASP-2血清である。
【0398】
全てのFab2がMASP-2AならびにMASP-2Kと反応した(データ示さず)。Fab2の大半はCCPII-SPポリペプチドを認識したが、N末端断片を認識しなかった。2つの例外はFab2番号60およびFab2番号57である。Fab2番号60はMASP-2AおよびCUBI-II断片を認識するが、CUBI/EGF様ポリペプチドもCCPII-SPポリペプチドも認識しない。このことから、Fab2番号60は、CUBII中のエピトープまたはCUBIIとEGF様ドメインにまたがるエピトープに結合することが示唆される。Fab2番号57は、MASP-2Aを認識するが、試験されたいかなるMASP-2断片も認識することはなく、このFab2がCCP1中のエピトープを認識することを示す。Fab2番号40および番号49は完全なMASP-2Aにしか結合しなかった。
図11に示したELISA結合アッセイ法において、Fab2番号60は、わずかに低い見かけの親和性ではあるがCUBI-IIポリペプチドにも結合した。
【0399】
これらの知見から、MASP-2タンパク質の複数の領域に対するユニークな遮断Fab2が同定されたことが証明される。
【0400】
実施例12
本実施例は、免疫系の古典的(C1q依存的)経路成分を完全な状態のままにしておきながら、MASP-2に結合し、かつレクチンを介した補体活性化を阻害する完全ヒトscFv抗体をファージディスプレイを用いて同定することについて述べる。
【0401】
概略:
ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングすることによって完全ヒト高親和性MASP-2抗体を同定した。抗体の可変軽鎖断片および可変重鎖断片をscFv形式および完全長IgG形式で単離した。ヒトMASP-2抗体は、免疫系の古典的(C1q依存的)経路成分を完全な状態のままにしておきながら、レクチン経路を介した補体経路活性化に関連する細胞損傷を阻害するために有用である。一部の態様において、このMASP-2阻害抗体は、以下の特徴を有する:(a)ヒトMASP-2に対する親和性が高い(例えば、K
D 10nM以下)、および(b)IC
50 30nM以下で90%ヒト血清中でMASP-2依存性補体活性を阻害すること。
【0402】
方法:
完全長触媒不活性MASP-2の発現:
ヒトMASP-2ポリペプチドをコードするヒトMASP-2完全長cDNA配列(SEQ ID NO:4)とリーダー配列(SEQ ID NO:5)を哺乳動物発現ベクターpCI-Neo(Promega)にサブクローニングした。哺乳動物発現ベクターpCI-Neo(Promega)は、CMVエンハンサー/プロモーター領域の制御下で真核生物において発現を駆動する(Kaufman R.J. et al., Nucleic Acids Research 19:4485-90, 1991; Kaufman, Methods in Enzymology, 185:537-66 (1991)に記載)。
【0403】
触媒不活性ヒトMASP-2Aタンパク質を作製するために、本明細書に参照により組み入れられるUS2007/0172483に記載のように部位特異的変異誘発を行った。アガロースゲル電気泳動後にPCR産物を精製し、バンド調製物および1アデノシンオーバーラップを標準的なテーリング法を用いて作製した。次いで、アデノシンテールMASP-2AをpGEM-T easyベクターにクローニングし、形質転換によって大腸菌(E.coli)に導入した。ヒトMASP-2Aを哺乳動物発現ベクターpEDまたはpCI-Neoのいずれかにさらにサブクローニングした。
【0404】
標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション法(Maniatis et al.,1989)を用いて、前記のMASP-2A発現構築物をDXB1細胞に導入した。確実に調製物が他の血清タンパク質で汚染されないように、MASP-2Aを無血清培地中で産生させた。培地をコンフルエント細胞から一日おきに収集した(合計4回)。組換えMASP-2Aレベルの平均は培養培地1リットルあたり約1.5mgであった。MBP-A-アガロースカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィーによってMASP-2A(前記のSer-Ala変異体)を精製した。
【0405】
パニング/scFv変換およびフィルタースクリーニングによって同定したScFv候補クローンに対するMASP-2A ELISA
ヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域配列および重鎖可変領域配列のファージディスプレイライブラリーを抗原パニングに供し、その後に、ヒトMASP-2タンパク質に対する高親和性scFv抗体を同定するために自動抗体スクリーニングおよび選択を行った。HIS-タグ化MASP-2Aまたはビオチン-タグ化MASP-2Aに対するscFvファージライブラリーパニングを3回行った。3回目のパニングを最初にMBLで溶出させ、次いでTEA(アルカリ性)で溶出させた。標的MASP-2Aに対するscFv断片を示すファージの特異的濃縮をモニタリングするために、固定化MASP-2Aに対するポリクローナルファージELISAを行った。3回目のパニングからのscFv遺伝子をpHOG発現ベクターにクローニングし、MASP-2Aに対する特異的クローンを探すためにスモールスケールフィルタースクリーニングに供した。
【0406】
3回目のパニングからのscFv断片をコードするプラスミドを含有する細菌コロニーをつつき、ニトロセルロース膜上で格子状にし(grid)、非誘導培地上で一晩増殖させてマスタープレートを作製した。3回目のパニングから合計18,000個のコロニーをつつき、分析した。半分は競合的溶出由来であり、半分は、その後のTEA溶出由来であった。MASP-2Aに対するscFvファージミドライブラリーのパニングとそれに続くscFv変換およびフィルタースクリーニングによって137個の陽性クローンが得られた。137個のうち108個のクローンが、MASP-2結合についてのELISAアッセイ法において陽性であった(データは示さず)。このうち45個のクローンを、正常ヒト血清中でMASP-2活性を妨げる能力についてさらに分析した。
【0407】
レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定するためのアッセイ法
レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定する機能アッセイ法を用いて、MASP-2 scFv候補クローンの「ブロッキング活性」を評価した。レクチン経路C3コンバターゼを構成する2つのタンパク質成分(C4b、C2a)を生成するためにはMASP-2セリンプロテアーゼ活性が必要とされる。従って、MASP-2機能活性を阻害するMASP-2 scFv(すなわち、ブロッキングMASP-2 scFv)はレクチン経路C3コンバターゼの新規形成を阻害する。C3は、その構造の一部として珍しい高反応性のチオエステル基を含有する。このアッセイ法においてC3コンバターゼによりC3が切断されると、C3b上にあるチオエステル基は、エステル結合またはアミド結合を介して、プラスチックウェルの底に固定化された高分子上にあるヒドロキシル基またはアミノ基と共有結合を形成することができ、従って、ELISAアッセイ法におけるC3b検出が容易になる。
【0408】
酵母マンナンは公知のレクチン経路アクチベーターである。C3コンバターゼの形成を測定する以下の方法では、マンナンでコーティングしたプラスチックウェルを希釈ヒト血清とインキュベートして、レクチン経路を活性化した。次いで、ウェルを洗浄し、標準的なELISA法を用いてウェル上に固定化したC3bについてアッセイした。このアッセイ法において生成したC3bの量は、レクチン経路C3コンバターゼの新規形成を直接反映したものである。このアッセイ法では、選択された濃度のMASP-2 scFvクローンが、C3コンバターゼ形成およびその結果として起きるC3b生成を阻害する能力を試験した。
【0409】
方法:
前記のように同定した45個の候補クローンを発現させ、精製し、同じストック濃度まで希釈し、確実に全クローンに等量の緩衝液があるように、Ca
++およびMg
++を含有するGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl
2、2.0mM CaCl
2、0.1%ゼラチン、pH7.4)で再希釈した。scFvクローンをそれぞれ、2μg/mLの濃度で3つ組で試験した。陽性対照はOMS100 Fab2であり、0.4μg/mLで試験した。scFv/IgGクローンの存在下および非存在下でC3c形成をモニタリングした。
【0410】
マンナンを、50mM炭酸緩衝液(15mM Na
2CO
3+35mM NaHCO
3+1.5mM NaN
3)、pH9.5で20μg/mL(1μg/ウェル)の濃度まで希釈し、ELISAプレートに4℃で一晩コーティングした。翌日、マンナンコーティングプレートをPBS 200μlで3回洗浄した。次いで、1%HSAブロッキング溶液100μlをウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートはPBS 200μlで3回洗浄され、かつ、試料の添加までPBS 200μlを加えて氷上で保管された。
【0411】
正常ヒト血清をCaMgGVB緩衝液で0.5%まで希釈し、この緩衝液に、scFvクローンまたはOMS100 Fab2陽性対照を0.01μg/mL;1μg/mL(OMS100対照のみ)および10μg/mLにおいて3つ組で添加し、氷上で45分間プレインキュベートした後に、ブロックされたELISAプレートに添加した。37℃で1時間インキュベートすることによって反応を開始した。プレートを氷浴に移すことによって反応を止めた。ウサギα-マウスC3c抗体の後にヤギα-ウサギHRPを用いてC3b沈着が検出された。陰性対照は、抗体を含まない緩衝液(抗体なし=最大C3b沈着)であった。陽性対照は、EDTAを含む緩衝液(C3b沈着なし)であった。バックグラウンドは、ウェルがマンナンを含まないこと以外は同じアッセイ法を行うことによって決定された。マンナンを含有するウェルのシグナルから、マンナンを含まないプレートに対するバックグラウンドシグナルを差し引いた。カットオフ基準は、関連のないscFvクローン(VZV)および緩衝液のみの活性の半分に設定した。
【0412】
結果:
カットオフ基準に基づいて、合計13個のクローンがMASP-2活性を妨げることが見出された。>50%の経路抑制を生じた13個全てのクローンを選択および配列決定して、10個のユニークなクローンを得た。10個全てのクローンが同じ軽鎖サブクラス、λ3を有することが見出されたが、3つの異なる重鎖サブクラス:VH2、VH3、およびVH6を有することが見出された。機能アッセイ法において、10個の候補scFvクローンから5個が、0.5%ヒト血清を用いて、25nM目標基準よりも少ないIC
50nM値を示した。
【0413】
有効性が向上した抗体を同定するために、前記のように同定した3個の母scFvクローンを軽鎖シャッフリングに供した。このプロセスには、6人の健常ドナーに由来するナイーブヒトλ軽鎖(VL)ライブラリーと対になった、母クローンそれぞれのVHからなるコンビナトリアルライブラリーの作製を伴った。次いで、結合親和性および/または機能が改善されたscFvクローンがあるかどうか、このライブラリーをスクリーニングした。
【0414】
(表8)主要な娘クローンおよびそれらのそれぞれの母クローン(全てscFv形式)のIC
50 (nM)で表した機能的有効性の比較
【0415】
上記の表8に示した母クローンおよび娘クローンの重鎖可変領域(VH)配列を以下に示した。
【0416】
Kabat CDR(31-35(H1)、50-65(H2)、および95-107(H3))を太字で示した。Chothia CDR(26-32(H1)、52-56(H2)、および95-101(H3))に下線を引いた。
【0417】
17D20_35VH-21N11VL重鎖可変領域(VH)(SEQ ID NO:66によってコードされる、SEQ ID NO:67)
【0418】
d17N9重鎖可変領域(VH)(SEQ ID NO:68)
【0419】
上記の表8に示した母クローンおよび娘クローンの軽鎖可変領域(VL)配列を以下に示した。
【0420】
Kabat CDR(24〜34(L1);50〜56(L2);および89〜97(L3)を太字で示した。Chothia CDR(24〜34(L1);50〜56(L2);および89〜97(L3)に下線を引いた。KabatシステムでナンバリングしてもChothiaシステムでナンバリングしても、これらの領域は同一である。
【0421】
17D20m_d3521N11軽鎖可変領域(VL)(
SEQ ID NO:70によってコードされる、
SEQ ID NO:69)
【0422】
17N16m_d17N9軽鎖可変領域(VL)(SEQ ID NO:71)
【0423】
MASP-2抗体であるOMS100およびMoAb_d3521N11VL(SEQ ID NO:67に示した重鎖可変領域と
SEQ ID NO:69に示した軽鎖可変領域を含む。「OMS646」および「mAb6」とも呼ぶ)はいずれも高い親和性でヒトMASP-2に結合し、機能的補体活性を妨げる能力を有することが証明されており、これらをドットブロット分析によってエピトープ結合について分析した。これらの結果により、OMS646抗体およびOMS100抗体はMASP-2に対して高度に特異的であり、MASP-1/3に結合しないことが示される。どちらの抗体も、MAp19にも、MASP-2のCCP1ドメインを含有しないMASP-2断片にも結合しなかった。このことから結合部位はCCP1を含むと結論付けられた。
【0424】
MASP-2抗体OMS646は、C1s、C1r、またはMASP-1と比較して5000倍超の選択性で組換えMASP-2に強く結合することが決定された(Kd60〜250pM)(以下の表9を参照されたい)。
【0425】
(表9)固相ELISA試験によって評価した場合のOMS646 MASP-2抗体-MASP-2相互作用の親和性および特異性
*平均±SD; n=12。
【0426】
OMS646はレクチン依存的な終末補体成分活性化を特異的に遮断する
方法:
膜侵襲複合体(MAC)沈着に及ぼすOMS646の影響を、レクチン経路、古典経路、および第二経路の経路特異的条件を用いて分析した。この目的のために、Wieslab Comp300補体スクリーニングキット(Wieslab, Lund, Sweden)を製造業者の説明書に従って使用した。
【0427】
結果:
図12Aは、レクチン経路特異的アッセイ条件下、抗MASP-2抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。
図12Bは、古典経路特異的アッセイ条件下、抗MASP-2抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。
図12Cは、第二経路特異的アッセイ条件下、抗MASP-2抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。
【0428】
図12Aに示したように、OMS646は、レクチン経路を介したMAC沈着活性化をIC
50値 約1nMで遮断する。しかしながら、OMS646は、古典経路を介した活性化から生じたMAC沈着(
図12B)にも第二経路を介した活性化から生じたMAC沈着(
図12C)にも影響を及ぼさなかった。
【0429】
マウスに静脈内(IV)投与または皮下(SC)投与した後のOMS646の薬物動態学および薬物動力学
マウスにおける28日間の単回投与PK/PD試験においてOMS646の薬物動態学(PK)および薬物動力学(PD)を評価した。この試験では、5mg/kgおよび15mg/kgの用量レベルの皮下(SC)投与OMS646ならびに5mg/kgの用量レベルの静脈内(IV)投与OMS646を試験した。
【0430】
OMS646のPKプロファイルに関して、
図13は、示された用量のOMS646を投与した後の時間の関数としてのOMS646濃度(n=3動物/群の平均)を図示する。
図13に示したように、5mg/kg SCのOMS646は、投与してから約1〜2日後に5〜6μg/mLの最大血漿中濃度に達した。5mg/kg SCのOMS646のバイオアベイラビリティは約60%であった。
図13にさらに示したように、15mg/kg SCのOMS646は、投与してから約1〜2日後に10〜12μg/mLの最大血漿中濃度に達した。全群について、OMS646は体循環からゆっくりと除去され、終末相半減期(terminal half-life)は約8〜10日であった。OMS646のプロファイルはマウスにおけるヒト抗体に典型的である。
【0431】
OMS646のPD活性を
図14Aおよび
図14Bに図示した。
図14Aおよび14Bは、5mg/kg IV(
図14A)群および5mg/kg SC(
図14B)群における、それぞれのマウスのPD応答(全身レクチン経路活性の低下)を示す。破線はアッセイ法のベースラインを示す(最大阻害;アッセイ前に、インビトロで過剰なOMS646が添加されたナイーブマウス血清)。
図14Aに示したように、5mg/kgのOMS646をIV投与した後に全身レクチン経路活性はすぐに、ほぼ検出不可能なレベルまで低下した。レクチン経路活性は28日間の観察期間にわたってわずかな回復しか示さなかった。
図14Bに示したように、5mg/kgのOMS646 SCが投与されたマウスでは、時間依存的なレクチン経路活性阻害が観察された。薬物を投与してから24時間以内にレクチン経路活性はほぼ検出不可能なレベルまで低下し、少なくとも7日間、低いレベルのままであった。レクチン経路活性は時間と共に徐々に増加したが、28日間の観察期間内に投与前のレベルに戻らなかった。15mg/kg SCを投与した後に観察されたレクチン経路活性対時間プロファイルは5mg/kg SC用量とほぼ同じであった(データは示さず)。これはPDエンドポイントの飽和を示している。さらに、データから、IVまたはSCのいずれかで投与された5mg/kgのOMS646の毎週用量が、マウスにおける全身レクチン経路活性の連続的な抑制を達成するのに十分であることが示された。
【0432】
実施例13
本実施例は、MASP-2に特異的に結合する1つまたは複数のCDRを含む重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域と、少なくとも1つのSGMIコアペプチド配列を含む、MASP-2を阻害する組換え抗体(SGMIペプチド含有MASP-2抗体またはその抗原結合断片とも呼ばれる)の作製について説明する。
【0433】
背景/基本原理:
SGMI-2と呼ばれるMASP-2特異的阻害因子の作製は、Heja et al., J Biol Chem 287:20290 (2012)およびHeja et al., PNAS 109:10498 (2012)に記載されている。これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。SGMI-2は、プロテアーゼ結合ループの8つの位置のうち6つが完全にランダム化されたサバクトビバッタ(Schistocerca gregaria)プロテアーゼインヒビター2変種のファージライブラリーから選択された36アミノ酸ペプチドである。それに続くインビトロ進化によって、K
I値が一桁のnMである単一特異的阻害因子が得られた(Heja et al., J. Biol. Chem. 287:20290, 2012)。構造研究から、最適化されたプロテアーゼ結合ループは、2つの阻害因子の特異性を規定する一次結合部位を形成することが明らかになった。拡大された二次結合領域および内部結合領域のアミノ酸配列は2つの阻害因子に共通して見られ、接触境界面に寄与する(Heja et al., 2012. J. Biol. Chem. 287:20290)。機構的に、SGMI-2は古典経路に影響を及ぼすことなく補体活性化のレクチン経路を遮断する(Heja et al., 2012. Proc. Natl. Acad. Sci. 109:10498)。
【0434】
SGMI-2阻害因子のアミノ酸配列を以下に示した。
【0435】
本実施例に記載のように、またWO2014/144542に記載のように、SGMI-2ペプチドアミノ酸配列(例えば、SEQ ID NO:72、73、または74)をヒトMASP-2抗体の重鎖および/または軽鎖のアミノ末端またはカルボキシ末端と融合することによって、SGMI-2ペプチド含有MASP-2抗体およびその断片を作製した。SGMI-2ペプチド含有MASP-2抗体および断片には、WO2014/144542に記載のようにヒト血清を用いるC3bまたはC4b沈着アッセイ法で測定した時に、SGMI-2ペプチド配列を含有しない裸のMASP-2スキャフォールド抗体と比較して強い阻害活性があり、マウスモデルにおいてインビボで測定した時にも裸のMASP-2スキャフォールド抗体と比較して強い阻害活性がある。SGMI-2ペプチド含有MASP-2抗体を作製する方法を以下で説明する。
【0436】
方法:
4種類の例示的なSGMI-2ペプチド含有MASP-2抗体をコードするように発現構築物を作製した。ここでは、SGMI-2ペプチドを、代表的なMASP-2阻害抗体OMS646の重鎖または軽鎖のN末端またはC末端と融合した(実施例12に記載のように作製した)。
【0437】
(表10)MASP-2抗体/SGMI-2融合
表10の略語:
「H-N」=重鎖のアミノ末端
「H-C」=重鎖のカルボキシル末端
「L-N」=軽鎖のアミノ末端
「L-C」=軽鎖のカルボキシル末端
「M2」=MASP-2 abスキャフォールド(代表的なOMS646)
【0438】
表10に示したN末端融合については、ペプチドリンカー(「GTGGGSGSSS」SEQ ID NO:79)をSGMI-2ペプチドと可変領域との間に加えた。
【0439】
表10に示したC末端融合については、ペプチドリンカー(「AAGGSG」SEQ ID NO: 80)を定常領域とSGMI-2ペプチドとの間に加え、C末端のSGMI-2ペプチドを分解から守るために第2のペプチド「GSGA」(SEQ ID NO: 81)を融合ポリペプチドのC末端に加えた。
【0440】
以下の代表的なMASP-2抗体/SGMI-2融合のアミノ酸配列を下記に示した。
【0441】
H-M2ab6-SGMI-2-N(SEQ ID NO:75。SEQ ID NO:82によってコードされる):
[491aaタンパク質、aa1〜36=SGMI-2(下線)、aa37〜46=リンカー(イタリック体);aa47〜164=MASP-2 ab番号6の重鎖可変領域(下線);aa165〜491=ヒンジ変異のあるIgG4定常領域]
【0442】
H-M2ab6-SGMI-2-C(SEQ ID NO:76。SEQ ID NO:83によってコードされる):
[491aaタンパク質、aa1〜118=MASP-2 ab番号6の重鎖可変領域(下線);aa119〜445=ヒンジ変異のあるIgG4定常領域;aa446〜451=1番目のリンカー(イタリック体);aa452〜487=SGMI-2;aa488〜491=2番目のリンカー(イタリック体)]
【0443】
L-M2ab6-SGMI-2-N(SEQ ID NO:77。SEQ ID NO:84によってコードされる):
[258aaタンパク質、aa1〜36=SGMI-2(下線);aa37〜46=リンカー(イタリック体);aa47〜152=MASP-2 ab番号6の軽鎖可変領域(下線);aa153〜258=ヒトIgλ定常領域]
【0444】
L-M2ab6-SGMI-2-C(SEQ ID NO:78。SEQ ID NO:85によってコードされる):
[258aaタンパク質、aa1〜106=MASP-2 ab番号6の軽鎖可変領域(下線);aa107〜212=ヒトIgλ定常領域;aa213〜218=1番目のリンカー;aa219〜254=SGMI-2;aa255〜258=2番目のリンカー]
【0445】
機能アッセイ法:
4種類のMASP-2-SGMI-2融合抗体構築物をExpi293F細胞(Invitrogen)において一過的に発現させ、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによって精製し、下記で説明するように、C3b沈着を阻害するかどうかマンナンコーティングビーズアッセイ法において10%正常ヒト血清中で試験した。
【0446】
C3b沈着があるかどうかMASP-2-SGMI-2融合をマンナンコーティングビーズアッセイ法において試験する
MASP-2-SGMI-2融合抗体がレクチン経路を阻害するかどうか、マンナンコーティングビーズ上でのC3b沈着アッセイ法において評価した。このアッセイ法は、フローサイトメトリーによって活性の程度を求め、Wieslab(登録商標)アッセイ法よりも高い分解能を提供する。レクチン経路ビーズアッセイ法を以下の通りに行った。マンナンを炭酸塩-重炭酸緩衝液(pH9.6)中で7μM直径のポリスチレンビーズ(Bangs Laboratories; Fishers, IN, USA)に4℃で一晩吸着させた。ビーズをPBSで洗浄し、10%ヒト血清、または抗体もしくは阻害因子とプレインキュベートした10%血清に曝露した。血清-ビーズ混合物を攪拌しながら室温で1時間インキュベートした。血清インキュベーション後に、ビーズを洗浄し、抗C3cウサギポリクローナル抗体(Dako North America; Carpinteria, CA, USA)およびPE-Cy5結合ヤギ抗ウサギ二次抗体(Southern Biotech; Birmingham, AL, USA)を用いた検出によってビーズ上でのC3b沈着を測定した。染色手順後に、FACSCaliburフローサイトメーターを用いてビーズを分析した。前方散乱光および側方散乱光を用いてビーズを均一な集団としてゲーティングした。C3b沈着はFL3陽性粒子として明らかであった(FL-3または「FL-3チャンネル」はサイトメーターにある3番目のチャンネルまたは赤色チャンネルを示す)。レクチン経路阻害を評価するために、各実験条件について集団の幾何平均蛍光強度(MFI)を抗体/阻害因子濃度に対してプロットした。
【0447】
IC
50値を、GraphPad PRISMソフトウェアを用いて計算した。具体的には、可変勾配(4パラメータ)非線形フィットを、サイトメトリーアッセイ法から得たlog(抗体)対平均蛍光強度曲線に適用することによってIC
50値を得た。
【0448】
結果を表11に示した。
【0449】
(表11)10%ヒト血清中でのC3b沈着(マンナンコーティングビーズアッセイ法)
【0450】
結果:
対照である、SGMIを含有しない「裸の」MASP-2スキャフォールド抗体(mAb番号6)は、このアッセイ法では阻害性であり、IC50値は≧3.63nMであった。これは、実施例12において観察された阻害結果と合致する。注目すべきことに、表11に示したように、試験したSGMI-2-MASP-2抗体融合は全て、このアッセイ法ではMASP-2スキャフォールド抗体の効力を改善した。このことから、結合価の増加もC3b沈着阻害に有益であり得ることが示唆される。
【0451】
10%ヒト血清を用いたC4b沈着アッセイ法のためにマンナンコーティングビーズアッセイ法においてMASP-2-SGMI-2融合を試験する
10%ヒト血清と、C3b沈着アッセイ法について前述したものと同じアッセイ条件を使用し、以下の変更を加えてC4b沈着アッセイ法を行った。C4b検出およびフローサイトメトリー分析は、沈着反応を抗C4bマウスモノクローナル抗体(1:500, Quidel)で染色し、PE Cy5結合二次ヤギ抗マウスF(ab’)2(1:200, Southern Biotech)で染色した後に、フローサイトメトリーで分析することによって行った。
【0452】
結果:
SGMI-2を有するMASP-2-N末端抗体融合(H-M2-SGMI-2-N:IC50=0.34nM)、L-M2-SGMI-2-N:IC50=0.41nM))は両方ともMASP-2スキャフォールド抗体(HL-M2:IC50=0.78nM)と比較して効力が高かった。
【0453】
同様に、1つのSGMI-2を有するC末端MASP-2抗体融合(H-M2-SGMI-2-C:IC
50=0.45nMおよびL-M2-SGMI-2C:IC
50=0.47nM)は両方とも、MASP-2スキャフォールド抗体(HL-M2:IC
50=1.2nM)と比較して効力が高かった。
【0454】
10%マウス血清を用いてC3bが沈着するかどうかマンナンコーティングビーズアッセイ法においてMASP-2-SGMI-2融合を試験する
C3bが沈着するかどうか、10%マウス血清を用いてマンナンコーティングビーズアッセイ法を前記のように行った。ヒト血清において観察された結果と同様に、マウス血清中で、SGMI-2を有するMASP-2融合はMASP-2スキャフォールド抗体と比較して効力が高いことが確かめられた。
【0455】
結果の概要:
本実施例の結果から、試験したSGMI-2-MASP-2抗体融合は全てMASP-2スキャフォールド抗体の効力を改善したことが証明される。
【0456】
実施例14
本実施例は、腎臓線維症におけるレクチン経路の役割を評価するために、MASP-2-/-欠損マウスおよびMASP-2+/+十分マウスにおける腎臓線維症の片側尿管結紮(UUO)モデルを用いて得られた結果を示す。
【0457】
背景/基本原理:
腎臓の線維症および炎症は後期腎臓疾患の顕著な特徴である。腎臓尿細管間質性線維症は、持続的な細胞損傷、異常な治癒、常在性腎臓細胞および浸潤腎臓細胞の活性化、サイトカイン放出、炎症、ならびに細胞外マトリックスを産生する腎臓細胞の表現型活性化を伴う進行性のプロセスである。腎臓尿細管間質性(TI)線維症は複数の腎臓病態の共通エンドポイントであり、慢性腎疾患(CKD)における進行性の腎機能障害を予防することを目的とする、可能性のある療法の重要な標的である。腎臓TI損傷は腎糸球体疾患における腎機能低下と密接な関係があり(Risdon R.A. et al., Lancet 1: 363-366, 1968; Schainuck L.I. et al, Hum Pathol 1: 631-640, 1970; Nath K.A., Am J Kid Dis 20:1-17, 1992)、CKDを特徴とする。この場合、筋線維芽細胞が蓄積し、尿細管と、管周囲の毛細血管との間にある潜在的な空間は、コラーゲンと他のプロテオグリカンで構成されるマトリックスによって占有されるようになる。TI筋線維芽細胞の起源は激しい議論の余地が残されているが、一般的に、線維症の前には、最初のうちはTリンパ球のTI蓄積を特徴とし、次いで後になってマクロファージのTI蓄積を特徴とする炎症が生じる(Liu Y. et al., Nat Rev Nephrol 7:684-696, 2011; Duffield J.S., J Clin Invest 124:2299-2306, 2014)。
【0458】
UUOのげっ歯類モデルは、ほぼ全ての原因の進行性腎臓病の顕著な特徴である進行性腎臓線維症を生じる(Chevalier et al., Kidney International 75:1145-1152, 2009)。UUO後の野生型マウスではC3遺伝子発現が増加し、UUO後のC3-/-ノックアウトマウスでは野生型マウスと比較してコラーゲン沈着が有意に低下したと報告されている。このことから、腎臓線維症における補体活性化の役割が示唆される(Fearn et al., Mol Immunol 48:1666-1733, 2011)。C5欠損が尿細管間質損傷モデルにおける腎臓線維症の主な成分の有意な寛解につながったことも報告されている(Boor P. et al., J of Am Soc of Nephrology: 18:1508-1515, 2007)。しかしながら、本発明者らが行った本明細書に記載の研究の前には、腎臓線維症に関与する特定の補体成分は詳細に明らかにされていなかった。従って、片側尿管結紮(UUO)モデルにおいてMASP-2(-/-)雄マウスおよびMASP-2(+/+)雄マウスを評価するために以下の研究を行った。
【0459】
方法:
実施例1に記載のようにMASP-2-/-マウスを作製し、C57BL/6と10世代にわたって戻し交配した。雄の野生型(WT)C57BL/6マウス、およびC57BL/6背景のホモ接合性MASP-2欠損(MASP-2-/-)マウスを12/12昼夜サイクルの標準化された条件下で飼育し、標準的なフードペレットを与え、食物および水を自由にとれるようにした。1群につき6匹の10週齢マウスに、1.5L/分 酸素で、2.5%イソフルランで麻酔をかけた。10週齢の雄C56/BL6マウスの2つの野生型群およびMASP-2-/-群の右尿管を外科手術により結紮した。1cm側腹部切開により右腎臓を露出させた。6/0ポリグラクチン縫合糸を用いて右尿管を2箇所で完全に結紮した。手術前後に、疼痛スコアリングに応じて12時間ごとに5回までブプレノルフィン無痛法を行った。外科手術中に局所ブピバカイン麻酔薬を1回与えた。
【0460】
外科手術の7日後にマウスを屠殺し、腎臓組織を収集し、固定し、パラフィンブロックに包埋した。麻酔下で心臓穿刺によってマウスから血液を収集し、腎摘出後にマウスを放血によって間引いた。血液を氷上で2時間凝固させ、血清を遠心分離によって分離し、アリコートとして-80℃で凍結した。
【0461】
腎臓組織の免疫組織化学
コラーゲン沈着によって示されるような腎臓線維症の程度を測定するために、Whittaker P. et al., Basic Res Cardiol 89:397-410, 1994に記載のように、5ミクロンのパラフィン包埋腎臓切片を、コラーゲン特異的染料であるピクロシリウスレッドで染色した。簡単に述べると、腎臓切片を脱パラフィンし、再水和し、ピクリン酸の飽和水溶液500mLに溶解したピクロシリウスレッド水溶液(0.5 gmシリウスレッド, Sigma, Dorset UK)で1時間、コラーゲン染色した。スライドを酸性化水(蒸留水に溶解した0.5%氷酢酸)で2回、それぞれ5分間洗浄し、次いで、脱水およびマウントした。
【0462】
マクロファージ浸潤によって示されるような炎症の程度を測定するために、腎臓切片を以下の通りにマクロファージ特異的抗体F4/80で染色した。ホルマリン固定し、パラフィン包埋した5ミクロン腎臓切片を脱パラフィンおよび再水和した。抗原賦活化をクエン酸緩衝液中で95℃で20分間行い、その後に、3%H
2O
2中で10分間インキュベートすることによって内因性ペルオキシダーゼ活性を止めた。組織切片を、ブロッキング緩衝液(10%熱失活正常ヤギ血清と1%ウシ血清アルブミンを溶解したリン酸緩衝食塩水(PBS))の中で室温で1時間インキュベートし、その後に、アビジン/ビオチンブロッキングを行った。各工程の後に、組織切片をPBSで3回、5分間にわたって洗浄した。ブロッキング緩衝液で1:100に希釈したF4/80マクロファージ一次抗体(Santa Cruz, Dallas, TX, USA)を1時間適用した。次いで、1:200に希釈したビオチン化ヤギ抗ラット二次抗体を30分間適用し、その後に、ウマラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合酵素を30分適用した。ジアミノベンジジン(DAB)基質(Vector Labs, Peterborough UK)を用いて染料の色を10分間発色させ、スライドを水で洗浄し、脱水し、コンピュータによる分析を容易にするために対比染色することなくマウントした。
【0463】
画像解析
腎皮質染色のパーセントを、Furness P. N. et al., J Clin Pathol 50:118-122, 1997に記載のように確かめた。簡単に述べると、24ビットカラー画像を、腎臓切片の周辺部全体を取り囲んでいる腎被膜の真下にある腎皮質の重複しない連続視野から取り込んだ。画像を取り込むごとに、NIH Imageを用いて8ビットモノクロ画像として赤色チャンネルを抽出した。切片が所定の位置に置かれていない、光を当てた顕微鏡視野の予め記録した画像を用いて、背景照明のばらつきを取り去った。染色陽性に対応する画像の領域を同定するために、画像を、ある決まった閾値にかけた。次いで、黒い画素のパーセントを計算した。このように、腎臓の周囲にある画像を全て測定した後に平均パーセントを記録して、腎臓切片にある染色領域のパーセントに対応する値を得た。
【0464】
遺伝子発現分析
マウス腎臓における腎臓炎症および線維症に関連する、いくつかの遺伝子の発現を以下の通りに定量PCT(qPCR)によって測定した。トリゾル(登録商標)(ThermoFisher Scientific, Paisley、UK)を使用し、製造業者の説明書に従って、全RNAを腎皮質から単離した。DNA汚染を無くすために、Turbo DNA-free kit(ThermoFisher Scientific)を用いて、抽出したRNAを処理し、次いで、AMV Reverse Transcription System(Promega, Madison, WI, USA)を用いて第1鎖cDNAを合成した。TaqMan GAPDH Assay(Applied Biosystems, Paisley UK)を用いた1回のqPCR反応と、それに続くCustom TaqMan Array 96-well Plates(Life Technologies, Paisley, UK)を用いたqPCR反応によってcDNA完全性を確認した。
【0465】
本分析では12の遺伝子を研究した:
コラーゲンIV型α1(col4α1; Assay ID: Mm01210125_m1)
トランスフォーミング成長因子β-1(TGFβ-1; Assay ID: Mm01178820_m1);
カドヘリン1(Cdh1; Assay ID: Mm01247357_m1);
フィブロネクチン1(Fn1; Assay ID:Mm01256744_m1);
インターロイキン6(IL6; Assay ID Mm00446191_m1);
インターロイキン10(IL10; Assay ID Mm00439614_m1);
インターロイキン12a(IL12a; Assay ID Mm00434165_m1);
ビメンチン(Vim; Assay ID Mm01333430_m1);
アクチニンα1(Actn1; Assay ID Mm01304398_m1);
腫瘍壊死因子-α(TNF-α; Assay ID Mm00443260_g1)
補体成分3(C3; Assay ID Mm00437838_m1);
インターフェロンγ(Ifn-γ; Assay ID Mm01168134)
【0466】
以下のハウスキーピング対照遺伝子を使用した:
グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH; Assay ID Mm99999915_g1);
グルクロニダーゼβ(Gusβ; Assay ID Mm00446953_m1);
真核生物18S rRNA(18S; Assay ID Hs99999901_s1);
ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT; Assay ID Mm00446968_m1)
【0467】
20μLの反応物を、TaqMan Fast Universal Master Mix(Applied Biosystems)を用いて40サイクルにわたって増幅した。リアルタイムPCR増幅データを、Applied Biosystems 7000 SDS v1.4ソフトウェアを用いて分析した。
【0468】
結果:
片側尿管結紮(UUO)後に、結紮された腎臓には炎症細胞、特にマクロファージが流入し、その後にすぐさま、尿細管が膨張し、近位尿細管上皮が薄くなることと並行してコラーゲンが蓄積することにより証明されるように線維症が発症した(Chevalier R. L. et al., Kidney Int 75:1145-1152, 2009を参照されたい)。
【0469】
図15は、シリウスレッドで染色された腎臓組織切片のコンピュータによる画像解析の結果を図示する。ここで、組織切片は、尿管結紮(UUO)を7日間行った後の野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスまたは偽手術した対照マウスから入手した。
図15に示したように、尿管結紮を7日間行った後の野生型マウスの腎臓切片はMASP-2-/-マウスと比較して有意に多いコラーゲン沈着を示した(p値=0.0096)。野生型群のUUO手術マウスの平均値±平均の標準誤差は24.79±1.908(n=6)であり、MASP-2-/-群のUUO手術マウスの平均値±平均の標準誤差は16.58±1.3(n=6)であった。さらに
図15に示したように、偽手術した対照野生型マウスおよび偽手術した対照MASP-2-/-マウスからの組織切片は、予想した通り、非常に低いレベルのコラーゲン染色を示した。
【0470】
図16は、F4/80マクロファージ特異的抗体で染色された腎臓組織切片のコンピュータによる画像解析の結果を図示する。ここで、組織切片は、尿管結紮を7日間行った後の野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスまたは偽手術した対照マウスから入手した。
図16に示したように、野生型マウスと比較して、MASP-2-/-マウスに由来するUUO腎臓から入手した組織は、尿管結紮を7日間行った後に、有意に少ないマクロファージ浸潤を示した(WTにおいて染色されたマクロファージ領域%:2.23±0.4対MASP-2-/-において染色されたマクロファージ領域%:0.53±0.06、p=0.0035)。さらに
図16に示したように、偽手術した野生型マウスおよび偽手術したMASP-2-/-マウスに由来する組織切片は、検出可能なマクロファージ染色を示さなかった。
【0471】
尿管結紮を7日間行った後の野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスならびに偽手術した野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスから入手した腎臓組織切片において、腎臓の炎症および線維症と結び付けられた様々な遺伝子の遺伝子発現分析を行った。
図17〜
図20に示したデータは、偽手術した野生型試料に対する相対的定量化のLog10であり、バーは平均の標準誤差を表す。線維症関連遺伝子の遺伝子発現分析の結果について、
図17は、尿管結紮を7日間行った後の野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスならびに偽手術した対照マウスから入手した腎臓組織切片においてqPCRによって測定した時のコラーゲンIV型α1(コラーゲン-4)の相対mRNA発現レベルを図示する。
図18は、尿管結紮を7日間行った後の野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスならびに偽手術した対照マウスから入手した腎臓組織切片においてqPCRによって測定した時のトランスフォーミング成長因子β-1(TGFβ-1)の相対mRNA発現レベルを図示する。
図17および
図18に示したように、野生型マウスに由来する、結紮された腎臓は、野生型マウスの偽手術した腎臓と比較して線維症関連遺伝子コラーゲンIV型(
図17)およびTGFβ-1(
図18)の有意な発現増加を示した。このことから、これらの線維症関連遺伝子は、予想した通り野生型マウスではUUO損傷後に誘発されることが証明される。対照的に、さらに
図17および
図18に示したように、UUO損傷に供されたMASP-2-/-に由来する、結紮された腎臓は、UUO損傷に供された野生型マウスと比較して、コラーゲンIV型の有意な発現低下(
図17、p=0.0388)およびTGFβ-1の有意な発現低下(
図18、p=0.0174)を示した。
【0472】
炎症関連遺伝子の遺伝子発現分析の結果について、
図19は、尿管結紮を7日間行った後の野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスならびに偽手術した対照マウスから入手した腎臓組織切片においてqPCRによって測定した時のインターロイキン-6(IL-6)の相対mRNA発現レベルを図示する。
図20は、尿管結紮を7日間行った後の野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスならびに偽手術した対照マウスから入手した腎臓組織切片においてqPCRによって測定した時のインターフェロン-γの相対mRNA発現レベルを図示する。
図19および
図20に示したように、野生型マウスに由来する、結紮された腎臓は、野生型マウスにおける偽手術した腎臓と比較して炎症関連遺伝子インターロイキン-6(
図19)およびインターフェロン-γ(
図20)の有意な発現増加を示した。このことから、これらの炎症関連遺伝子は、野生型マウスではUUO損傷後に誘発されることが証明される。対照的に、さらに
図19および
図20に示したように、UUO損傷に供されたMASP-2-/-に由来する、結紮された腎臓は、UUO損傷に供された野生型マウスと比較してインターロイキン-6の有意な発現低下(
図19、p=0.0109)およびインターフェロン-γの有意な発現低下(
図20、p=0.0182)を示した。
【0473】
Vim、Actn-1、TNFα、C3、およびIL-10の遺伝子発現は全て、野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスから入手したUUO腎臓において有意にアップレギュレートされることが見出され、これらの特定の遺伝子の発現レベルには野生型マウスとMASP-2-/-マウスとの間で有意差が無かったことに注目する(データ示さず)。Cdh-1およびIL-12aの遺伝子発現レベルは、どの群の動物に由来する、結紮された腎臓でも変化しなかった(データ示さず)。
【0474】
考察:
げっ歯類におけるUUOモデルは、結紮後、1〜2週間以内に、結紮された腎臓において、腎臓血流の低下、間質炎症、および急速な線維症を伴う早期の、活発な、かつ重度の損傷を誘発すると認識され、腎臓における炎症および線維症の共通の機構およびメディエーターを理解するために広範に用いられてきた(例えば、Chevalier R.L., Kidney Int 75:1145-1152, 2009; Yang H. et al., Drug Discov Today Dis Models 7:13-19, 2010を参照されたい)。
【0475】
本実施例に記載の結果から、野生型(+/+)対照マウスと比べてMASP-2(-/-)マウスにおけるUUO手術した腎臓ではコラーゲン沈着およびマクロファージ浸潤が有意に低下することが証明される。MASP-2-/-動物では組織学的発現レベルおよび遺伝子発現レベル両方で腎損傷の有意な低下が示されたという予想外の結果から、結紮された腎臓における炎症および線維症の発症には補体活性化のレクチン経路が大いに寄与することが証明される。特定の理論に拘束されるものではないが、レクチン経路は、細胞損傷が炎症の原動力となり、炎症の結果として、さらなる細胞損傷、瘢痕、および組織喪失が起こる悪循環を永続させる炎症促進刺激を誘発および維持することで線維性疾患の病態生理に決定的に寄与すると考えられている。これらの結果を考えると、阻害因子を用いたMASP-2の阻害または遮断には、腎臓線維症の阻害または予防において予防効果および/または治療効果があり、それに加えて、線維症全般を(すなわち、組織または臓器とは無関係に)阻害または予防するための予防効果および/または治療効果があると予想される。
【0476】
実施例15
本実施例は、腎臓線維症のマウスモデルである片側尿管結紮(UUO)モデルにおける効力についてのモノクローナルMASP-2阻害抗体の分析について説明する。
【0477】
背景/基本原理:
複数の腎臓病態の共通エンドポイントである腎臓尿細管間質性線維症の寛解は、進行性腎臓病を予防することを目的とする治療方針の重要な目標である。腎臓病における炎症性線維促進経路を標的とする新たな治療および既存の治療がほとんど無いことを考慮すると、新たな療法を開発する差し迫った必要性がある。多くのタンパク尿性腎臓病患者が、尿細管間質性炎症と、腎機能の低下と密接に対応する進行性線維症を示す。タンパク尿そのものが、尿細管間質性炎症と、タンパク尿性腎症の発症を誘発する(Brunskill N.J. et al., J Am Soc Nephrol 15:504-505, 2004)。原発性腎臓病に関係なく、尿細管間質の炎症および線維症は進行性の腎機能低下がある患者において必ず認められ、排泄機能の低下と密接な相関関係がある(Risdon R.A. et al., Lancet 1:363-366, 1968; Schainuck L.I., et al., Hum Pathol 1: 631-640, 1970)。線維症につながる重要な共通する細胞経路を妨げる可能性のある療法には、腎臓障害において広い適用可能性があると期待される。
【0478】
実施例14に記載のように、非タンパク尿性腎臓線維症のUUOモデルでは、MASP-2-/-マウスは、炎症細胞浸潤物(75%低下)および線維症の組織学的マーカー、例えば、コラーゲン(1/3低下)によって示されるように野生型対照動物と比較して有意に少ない腎臓の線維症および炎症を示すことが確かめられ、それによって、腎臓線維症におけるレクチン経路の重要な役割が実証された。
【0479】
実施例13に記載のように、ヒトレクチン経路の機能を特異的に遮断する、モノクローナルMASP-2抗体(SGMI-2ペプチドがOMS646の重鎖のC末端と融合しているOMS646-SGMI-2融合)を作製した。これはマウスでもレクチン経路を遮断することが示されている。本実施例では、特異的なMASP-2阻害因子が腎臓線維症を阻害できるかどうか確かめるために、OMS646-SGMI-2を野生型マウスにおける腎臓線維症のUUOマウスモデルにおいて分析した。
【0480】
方法:
本試験では、雄WT C57BL/6マウスにおけるMASP-2阻害抗体(10mg/kg OMS646-SGMI-2)の効果をヒトIgG4アイソタイプ対照抗体(10mg/kg ET904)およびビヒクル対照と比較して評価した。UUO外科手術の7日前、4日前、および1日前に、そして再度、外科手術の2日後に抗体(10mg/kg)を9匹のマウスの群に腹腔内(ip)注射によって投与した。レクチン経路の機能活性を評価するために、抗体投与前と、実験が終わった時に血液試料を採取した。
【0481】
実施例14に記載の方法を用いて、UUO外科手術、組織収集、ならびにシリウスレッドおよびマクロファージ特異的抗体F4/80を用いた染色を行った。
【0482】
特定の比色アッセイ試験キット(Sigma)を使用し、製造業者の説明書に従って、マウス腎臓のヒドロキシプロリン含有量を測定した。
【0483】
マウスにおけるMASP-2阻害性mAbの薬力学的作用を評価するために、MASP-2 mAbまたは対照mAbをマウスに腹腔内投与した後、示された時間に収集した最小限に希釈した血清試料の中でレクチン誘発性C3活性化を定量することによって、全身レクチン経路活性を評価した。簡単に述べると、重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)に溶解した30μg/mLマンナン(Sigma)と一晩インキュベートすることによって、7μM直径ポリスチレンマイクロスフェア(Bangs Laboratories, Fisher IN, USA)をマンナンでコーティングし、次いで、洗浄し、PBSに溶解した1%胎仔ウシ血清でブロックし、1x10
8ビーズ/mLの最終濃度でPBSに再懸濁した。2.5μLのマンナンコーティングビーズ(約250,000個のビーズ)を50μLの最小限に希釈したマウス血清試料(90%最終血清濃度)に添加し、その後に、4℃で40分間インキュベートすることによって補体沈着反応を開始した。250μLの氷冷フローサイトメトリー緩衝液(FB: 0.1%胎仔ウシ血清を含有するPBS)を添加することによって沈着反応を終わらせた後に、ビーズを遠心分離によって収集し、300μLの氷冷FBを用いて、もう2回洗浄した。
【0484】
レクチン誘発性C3活性化を定量するために、ビーズを、FBで希釈したウサギ抗ヒトC3c抗体(Dako, Carpenteria, CA, USA)50μLと4℃で1時間インキュベートした。結合しなかった材料を除去するためにFBで2回洗浄した後に、ビーズを、FBで希釈したPE-Cy5結合ヤギ抗ウサギ抗体(Southern Biotech, Birmingham, AL, USA)50μLと4℃で30分間インキュベートした。結合しなかった材料を除去するためにFBで2回洗浄した後に、ビーズをFBに再懸濁し、FACS Caliburサイトメーターによって分析した。前方散乱光および側方散乱光を用いてビーズを均一な集団としてゲーティングし、各試料におけるC3b沈着を平均蛍光強度(MFI)として定量した。
【0485】
結果:
コラーゲン沈着の評価:
図21は、シリウスレッドで染色された腎臓組織切片のコンピュータによる画像解析の結果を図示する。ここで、組織切片は、MASP-2阻害抗体で処置した野生型マウスおよびアイソタイプ対照抗体で処置した野生型マウスから、尿管結紮を7日間行った後に入手した。
図21に示したように、MASP-2阻害抗体で処置した野生型マウスから入手した、結紮(UUO)して7日後に採取した腎臓からの組織切片は、IgG4アイソタイプ対照で処置した野生型マウスから入手した結紮された腎臓からの組織切片におけるコラーゲン沈着量と比較してコラーゲン沈着の有意な低下を示した(p=0.0477)。
【0486】
ヒドロキシプロリン含有量の評価:
コラーゲン含有量の指標として腎臓組織においてヒドロキシプロリンを測定した。ヒドロキシプロリンは、このモデルにおいて誘発される疾患の病態生理学的進行を高度に示すパラメータである。
【0487】
図22は、MASP-2阻害抗体またはアイソタイプ対照抗体で処置した野生型マウスから入手した、結紮(UUO)して7日後に採取した腎臓からのヒドロキシルプロリン含有量を図示する。
図22に示したように、MASP-2阻害抗体で処置したマウスに由来する、結紮された腎臓組織は、IgG4アイソタイプ対照mAbで処置したマウスに由来する腎臓よりも有意に少ない、コラーゲン含有量の指標であるヒドロキシルプロリンを示した(p=0.0439)。
【0488】
炎症の評価:
アイソタイプ対照抗体で処置した野生型動物およびMASP-2阻害抗体で処置した野生型動物からの結紮された腎臓は活発なマクロファージ浸潤物を示した。注意深く定量しても、これらの2つの群間でマクロファージ染色領域のパーセントには有意差が無いことが明らかになった(データ示さず)。しかしながら、同じ数の浸潤マクロファージがあったのにもかかわらず、MASP-2阻害抗体を注射した動物に由来する、結紮された腎臓は、シリウスレッド染色によって判断されるように、アイソタイプ対照を注射した動物に由来する、結紮された腎臓と比較して有意に少ない線維症を示した。この結果は、MASP-2阻害抗体で処置したマウスに由来する、結紮された腎臓組織のヒドロキシルプロリンが、IgG4アイソタイプ対照mAbで処置した腎臓よりも有意に少なかったという結果と合致する。
【0489】
考察
本実施例に記載の結果から、MASP-2阻害抗体を使用すると、UUOモデルにおいて腎臓線維症からの保護が得られることが証明される。これは、MASP-2-/-マウスは野生型マウスと比較してUUOモデルの腎臓の線維症および炎症が有意に少ないことを証明した実施例14に記載の結果と合致する。本実施例の結果から、MASP-2阻害抗体で処置したマウスでは線維症が低減したことが分かる。MASP-2依存性レクチン経路活性が低下したか、または遮断された動物ではUUO腎臓の線維症が低減したという発見は極めて重要な新規の発見である。まとめると、実施例14および本実施例に示した結果から、腎臓尿細管間質性炎症、尿細管細胞損傷、線維形成促進性サイトカイン放出、および瘢痕に対するMASP-2阻害の有益な効果が証明される。腎臓線維症の緩和は依然として腎臓治療の重要な目標である。UUOモデルは進行性腎臓線維症の重大なモデルであり、MASP-2阻害抗体を使用するなど、このモデルにおいて線維症を低減する介入は、腎臓線維症を阻害または予防するために用いられる可能性が高い。UUOモデルからの結果は、腎糸球体損傷および/またはタンパク尿性尿細管損傷を特徴とする腎臓病に移すことができる可能性が高い。
【0490】
実施例16
本実施例は、タンパク尿性腎症におけるレクチン経路の役割を評価するために、MASP-2-/-マウスおよび野生型マウスにおいて、腎臓線維症、炎症、および尿細管間質損傷のタンパク質過負荷タンパク尿モデルを用いて得られた結果を示す。
【0491】
背景/基本原理:
タンパク尿は、原発性腎臓病に関係なく、腎臓線維症の発症と腎臓排泄性機能の喪失の危険因子である(Tryggvason K. et al., J Intern Med 254:216-224, 2003、Williams M., Am J. Nephrol 25:77-94, 2005)。タンパク尿性腎症という考えは、腎糸球体パームセレクティビティ(permselectivity)が損なわれた結果として生じる、近位尿細管に入る過剰なタンパク質の毒性作用を表している(Brunskill N.J., J Am Soc Nephrol 15:504-505, 2004、Baines R.J., Nature Rev Nephrol 7:177-180, 2011)。この現象は多くの腎糸球体疾患に共通して見られ、腎臓において炎症促進性の瘢痕環境をもたらし、タンパク尿性の尿細管液体によって刺激されたシグナル伝達経路調節不全の結果として、近位尿細管細胞の増殖、アポトーシス、遺伝子転写、および炎症性サイトカイン産生が変化することを特徴とする。タンパク尿性腎症は、多種多様な原発性腎臓病態に共通する進行性腎損傷の重要な一因だと一般に認められている。
【0492】
慢性腎疾患は米国では成人集団の15%超に罹患し、世界中で毎年、約750,000件の死亡の原因となる(Lozano R. et al., Lancet vol 380, Issue 9859:2095-2128, 2012)。タンパク尿は慢性腎疾患の指標であり、疾患進行を促進する因子でもある。多くのタンパク尿性腎臓病患者が、尿細管間質性炎症と、腎機能の低下と密接に対応する進行性線維症を示す。タンパク尿そのものが尿細管間質性炎症と、タンパク尿性腎症の発症を誘発する(Brunskill N.J. et al., J Am Soc Nephrol 15:504-505, 2004)。タンパク尿性腎臓疾患では、過剰量のアルブミンと他の高分子が糸球体で濾過され、近位尿細管上皮細胞によって再吸収される。これは、サイトカインおよび白血球の浸潤につながる補体活性化によって媒介される炎症性の悪循環を引き起こす。この悪循環は尿細管間質の損傷および線維症の原因となり、それによってタンパク尿が悪化し、腎機能が失われ、最終的には末期腎不全への進行が起こる(例えば、Clark et al., Canadian Medical Association Journal 178:173-175, 2008を参照されたい)。この有害な炎症およびタンパク尿の循環を調整する療法が、慢性腎疾患におけるアウトカムを改善すると予想される。
【0493】
尿細管間質性損傷のUUOモデルにおけるMASP-2阻害の有益な効果を考慮して、MASP-2阻害がタンパク質過負荷モデルにおいて腎損傷を低減するかどうか確かめるために以下の実験を行った。本研究では、タンパク尿性腎臓疾患を誘発するためにIshola et al., European Renal Association 21:591-597, 2006に記載のようにタンパク質過負荷を用いた。
【0494】
方法:
実施例1に記載のようにMASP-2-/-マウスを作製し、BALB/cと10世代にわたって戻し交配した。本研究では、以下の通りにタンパク質過負荷タンパク尿モデルにおける野生型マウスおよびMASP-2-/-BALB/cマウスの結果を比較した。
【0495】
最適な応答を見るために、実験の1週間前にマウスに片側腎摘出を行った後に、タンパク質過負荷曝露を行った。使用したタンパク尿誘発剤は、以下の用量で:15日間にわたって合計15回腹腔内投与するために、2mg BSA/gm、4mg BSA/gm、6mg BSA/gm、8mg BSA/gm、10mg BSA/gm、および12mg BSA/gm体重をそれぞれ1回投薬し、15mg BSA/gm体重を9回投薬して、生理食塩水に溶解してWT(n=7)およびMASP-2-/-マウス(n=7)に腹腔内投与する低エンドトキシンウシ血清アルブミン(BSA,Sigma)であった。対照のWT(n=4)マウスおよびMASP-2-/-(n=4)マウスには食塩水だけ腹腔内投与した。最後に投薬した後に、尿を収集するために、動物を代謝ケージ(metabolic cage)に別々に24時間入れた。麻酔下での心臓穿刺によって血液を収集し、血液を氷上で2時間凝固させ、血清を遠心分離によって分離した。15日目に実験が終わった時に血清試料および尿試料を収集し、分析のために保管および凍結した。
【0496】
15日目にBSAを最後に投与して24時間後にマウスを屠殺し、分析のために様々な組織を収集した。腎臓を採取し、H&Eおよび免疫染色のために処理した。免疫組織化学染色を以下の通りに行った。各マウスに由来する、ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した5ミクロン腎臓組織切片を脱パラフィンし、再水和した。抗原賦活化をクエン酸緩衝液中で95℃で20分間行い、その後に、組織を3%H
2O
2中で10分間インキュベートした。次いで、組織を、10%アビジン溶液を含むブロッキング緩衝液(二次抗体を作製した種に由来する10%血清と、1%BSAを含むPBS)の中で室温で1時間インキュベートした。各工程の後に切片をPBSで3回、それぞれ5分間洗浄した。次いで、一次抗体を、抗体F4/80(Santa Cruzカタログ番号sc-25830)、TGFβ(Santa Cruzカタログ番号sc-7892)、IL-6(Santa Cruzカタログ番号sc-1265)については1:100の濃度で、TNFα抗体(Santa Cruzカタログ番号sc-1348)については1:50で、10%ビオチン溶液を含むブロッキング緩衝液に溶解して1時間適用した。次いで、ビオチン化二次抗体を、F4/80切片、TGFβ切片、およびIL-6切片については1:200の濃度で、TNFα切片については1:100の濃度で30分間適用し、その後にHRP結合酵素をもう30分間適用した。ジアミノベンジジン(DAB)基質キット(Vector labs)を用いて10分間、発色を行い、スライドを水で洗浄し、脱水し、コンピュータによる画像解析を容易にするために対比染色することなくマウントした。デジタル画像を取り込み、その後に自動画像解析ソフトウェアを用いて定量することによって、染色された腎皮質組織切片を解析した。
【0497】
以下の通りにデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling)(TUNEL)を用いた染色によって組織切片におけるアポトーシスを評価した。腎臓切片の中にあるアポトーシス細胞を以下の通りにApopTag(登録商標)Peroxidase kit(Millipore)を用いて染色した。各マウスに由来する、パラフィン包埋し、ホルマリンで固定した腎臓切片を脱パラフィンし、再水和し、次いで、プロテイナーゼK(20μg/mL)を用いてタンパク質透過処理した。プロテイナーゼK(20μg/mL)は、室温で15分間、各標本に適用した。工程間に標本をPBSで洗浄した。組織を3%H
2O
2中で10分間インキュベートすることによって内因性ペルオキシダーゼ活性を止めた。次いで、組織を平衡化緩衝液中でインキュベートし、その後に、TdT酵素と37℃で1時間インキュベートした。停止/洗浄緩衝液で10分間洗浄した後に、抗ジゴキシゲニン(digoxignenin)結合体を室温で30分間適用した後に、洗浄を行った。DAB基質キットで4分間、発色を行った後に、水で洗浄を行った。組織をヘマトキシリンで対比染色し、DBXにマウントした。皮質から連続して選択した20個の高倍率視野において、TUNELで染色された(茶色の)アポトーシス細胞の頻度をLeica DBXM光学顕微鏡を用いて手作業で数えた。
【0498】
結果:
タンパク尿の評価
マウスにタンパク尿が存在することを確かめるために、血清中にある総タンパク質を15日目に分析し、尿中にある総排泄タンパク質を、研究の15日目に24時間にわたって収集した尿試料中で測定した。
【0499】
図23は、食塩水だけ与えた野生型対照マウス(n=2)、BSAを与えた野生型マウス(n=6)、およびBSAを与えたMASP-2-/-マウス(n=6)において15日目に測定した血清タンパク質の総量(mg/ml)を図示する。
図23に示したように、BSAを投与すると、野生型群およびMASP-2-/-群の両方で血清総タンパク質レベルが、食塩水しか与えなかった対照群の濃度の2倍超まで増加した。処置群間で有意差は無かった。
【0500】
図24は、食塩水だけ与えた野生型対照マウス(n=2)、BSAを与えた野生型マウス(n=6)、およびBSAを与えたMASP-2-/-マウス(n=6)からの、研究の15日目に24時間にわたって収集した尿中にある排泄タンパク質の総量(mg)を図示する。
図24に示したように、本研究の15日目に、食塩水だけを与えた偽処置対照群と比較して、BSA処置群では尿中にある総排泄タンパク質が約6倍増加した。
図23および
図24に示した結果から、タンパク尿モデルが予想通り機能したことが証明される。
【0501】
腎臓における組織学的変化の評価
図25は、タンパク質過負荷研究の15日目に、以下のマウス群:(パネルA)野生型対照マウス;(パネルB)MASP-2-/-対照マウス;(パネルC)BSAで処置した野生型マウス;および(パネルD)BSAで処置したMASP-2-/-マウスから採集した代表的なH&E染色腎臓組織切片を示す。
図25に示したように、同じタンパク質過負荷曝露レベルでは、MASP-2-/-過負荷群(パネルD)の組織保存の程度は野生型過負荷群(パネルC)と比較してかなり大きい。例えば、野生型対照群にあるボーマン嚢(パネルA)と比較して、BSAで処置した野生型マウス(過負荷)にあるボーマン嚢(パネルC)は大きく拡大していることが観察された。対照的に、同じレベルのBSAで処置したMASP-2-/-マウス(過負荷)にあるボーマン嚢(パネルD)は、MASP-2-/-対照マウス(パネルB)および野生型対照マウス(パネルA)と同様の形態を保持した。さらに
図25に示したように、大きなタンパク質鋳造構造(cast structure)が野生型腎臓切片の近位尿細管および遠位尿細管に蓄積した(パネルC)。これは、MASP-2-/-マウス(パネルD)と比較して大きく、豊富にある。
【0502】
透過型電子顕微鏡による本研究からの腎臓切片の解析から、BSAで処置したマウスには、全体的に、遠位尿細管細胞および近位尿細管細胞の繊毛縁(ciliary border)に対する損傷があり、細胞内容物および核が飛び出て尿細管管腔の中にあることにも注目する。対照的に、BSAで処置したMASP-2-/-マウスでは組織は保存されていた。
【0503】
腎臓におけるマクロファージ浸潤の評価
マクロファージ浸潤によって示されるような炎症の程度を測定するために、採取した腎臓の組織切片を、Boor et al., J of Am Soc of Nephrology 18:1508-1515, 2007に記載の方法を用いてマクロファージ特異的抗体F4/80でも染色した。
【0504】
図26は、マクロファージ平均染色領域(%)を示す、マクロファージ特異的抗体F4/80で染色された腎臓組織切片のコンピュータによる画像解析の結果を図示する。ここで、組織切片は、タンパク質過負荷研究の15日目に、野生型対照マウス(n=2)、BSAで処置した野生型マウス(n=6)、およびBSAで処置したMASP-2-/-マウス(n=5)から入手した。
図26に示したように、F4/80抗マクロファージ抗体で染色された腎臓組織切片から、野生型偽対照と比較してBSAで処置した群は両方とも腎臓マクロファージ浸潤(F4/80抗体染色領域%として測定した)の有意な増加を示したが、BSAで処置した野生型マウスに由来する組織切片のマクロファージ浸潤と比較して、BSAで処置したMASP-2-/-マウスに由来する組織切片ではマクロファージ浸潤の有意な低下が観察されたことが分かった(p値=0.0345)。
【0505】
図27Aは、24時間の試料に由来する尿中で測定した総排泄タンパク質対マクロファージ浸潤(平均染色領域%)をプロットすることによって、BSAで処置した、それぞれの野生型マウス(n=6)においてマクロファージ-タンパク尿の相関が存在するかどうかの分析を図示する。
図27Aに示したように、野生型腎臓からの試料のほとんどが、存在するタンパク尿のレベルと、マクロファージ浸潤の程度との間で正の相関関係を示した。
【0506】
図27Bは、24時間の試料の尿中にある総排泄タンパク質対マクロファージ浸潤(平均染色領域%)をプロットすることによって、BSAで処置した、それぞれのMASP-2-/-マウス(n=5)においてマクロファージ-タンパク尿の相関が存在するかどうかの分析を図示する。
図27Bに示したように、野生型マウスにおいてタンパク尿レベルとマクロファージ浸潤の程度との間で観察された正の相関関係(
図27Aに示した)がMASP-2-/-マウスでは観察されなかった。特定の理論に拘束されるものではないが、これらの結果は、MASP-2-/-マウスには、高レベルのタンパク尿での炎症クリアランス機構が存在することを示しているのかもしれない。
【0507】
サイトカイン浸潤の評価
インターロイキン6(IL-6)、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)、および腫瘍壊死因子α(TNFα)はタンパク尿モデルでは野生型マウスの近位尿細管においてアップレギュレートされることが知られている炎症促進性サイトカインである(Abbate M. et al., Journal of the American Society of Nephrology: JASN, 17: 2974-2984, 2006; David S. et al., Nephrology, Didalysis, Transplantation, Official Publication of the European Dialysis and Transplant Association- European Renal Association 12: 51-56, 1997)。腎臓組織切片を前記のようにサイトカイン特異的抗体で染色した。
【0508】
図28は、BSAで処置した野生型マウス(n=4)およびBSAで処置したMASP-2-/-マウス(n=5)における、抗TGFβ抗体で染色された組織切片のコンピュータによる画像解析の結果(TGFβ抗体染色領域%として測定した)を図示する。
図28に示したように、MASP-2-/-BSA処置(過負荷)群と比較して、野生型BSA処置(過負荷)群ではTGFβ染色の有意な増加が観察された(p=0.026)。
【0509】
図29は、BSAで処置した野生型マウス(n=4)およびBSAで処置したMASP-2-/-マウス(n=5)における、抗TNFα抗体で染色された組織切片のコンピュータによる画像解析の結果(TNFα抗体染色領域%として測定した)を図示する。
図29に示したように、MASP-2-/-BSA処置(過負荷)群と比較して、野生型BSA処置(過負荷)群ではTNFα染色の有意な増加が観察された(p=0.0303)。
【0510】
図30は、野生型対照マウス、MASP-2-/-対照マウス、BSAで処置した野生型マウス(n=7)、およびBSAで処置したMASP-2-/-マウス(n=7)における、抗IL-6抗体で染色された組織切片のコンピュータによる画像解析の結果(IL-6抗体染色領域%として測定した)を図示する。
図30に示したように、MASP-2-/-BSA処置群と比較して野生型BSA処置群においてIL-6染色の極めて有意な増加が観察された(p=0.0016)。
【0511】
アポトーシスの評価
アポトーシスをデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)を用いた染色によって組織切片において評価し、TUNEL染色アポトーシス細胞の頻度を、皮質から連続して選択した20個の高倍率視野(HPF)において計数した。
【0512】
図31は、野生型対照マウス(n=1)、MASP-2-/-対照マウス(n=1)、BSAで処置した野生型マウス(n=6)、およびBSAで処置したMASP-2-/-マウス(n=7)の腎皮質に由来する組織切片から連続して選択した20個の高倍率視野(HPF)において計数したTUNELアポトーシス細胞の頻度を図示する。
図31に示したように、BSAで処置した野生型マウスから入手した腎臓では、BSAで処置したMASP-2-/-マウスから入手した腎臓と比較して皮質において有意に速いアポトーシス速度が観察された(p=0.0001)。
【0513】
結果の全体の概要および結論:
本実施例の結果から、タンパク質過負荷モデルにおいてMASP-2-/-マウスは腎損傷が少ないことが証明される。従って、MASP-2阻害物質、例えば、MASP-2阻害抗体は、有害な炎症およびタンパク尿の循環を阻害または予防し、慢性腎疾患におけるアウトカムを改善すると予想されるだろう。
【0514】
実施例17
本実施例は、マウスタンパク質過負荷タンパク尿モデルでの野生型マウスにおける腎臓炎症および尿細管間質損傷の低減および/または予防において効力があるかどうかについてのモノクローナルMASP-2阻害抗体の分析について説明する。
【0515】
背景/基本原理:
実施例16に記載のように、タンパク質過負荷タンパク尿モデルにおいてMASP-2-/-マウスは野生型マウスよりも有意に良いアウトカム(例えば、尿細管間質損傷が少なく、腎臓炎症が少ない)を示すことが確かめられた。このことは、タンパク尿性腎臓疾患においてレクチン経路には病気を起こす役割があることを意味している。
【0516】
実施例13に記載のように、ヒトレクチン経路の機能を特異的に遮断し、マウスでもレクチン経路を遮断することが示されているモノクローナルMASP-2阻害抗体(OMS646-SGMI-2)を作製した。本実施例では、野生型マウスにおいて腎臓炎症および尿細管間質損傷を低減および/または予防する効力があるかどうか、MASP-2阻害抗体OMS646-SGMI-2をマウスタンパク質過負荷タンパク尿モデルにおいて分析した。
【0517】
方法:
本研究では、MASP-2阻害抗体(10mg/kg OMS646-SGMI-2)の効果をヒトIgG4アイソタイプ対照抗体であるET904(10mg/kg)および食塩水対照と比較して評価した。
【0518】
実施例16に記載の研究と同様に、本研究では、タンパク尿性腎臓疾患を誘発するためにタンパク質過負荷を使用した(Ishola et al., European Renal Association 21:591-597, 2006)。実施例16に記載のように漸増用量(2g/kg〜15g/kg)の低エンドトキシンウシ血清アルブミン(BSA)を合計15日にわたって毎日、腹腔内注射することによって、片側腎摘出したBalb/cマウスにおいてタンパク尿を誘発した。
【0519】
抗体処置を、タンパク尿誘発の7日前から始めて隔週で腹腔内注射することによって投与し、本研究全体を通して続けた。この投薬計画は、持続的なレクチン経路抑制を証明した以前のPK/PD研究および薬理学研究に基づいて選択された(データ示さず)。マウスを15日目に屠殺し、腎臓を採取し、H&Eおよび免疫染色のために処理した。デジタル画像を取り込み、その後に自動画像解析ソフトウェアを用いて定量することによって、染色された腎皮質組織切片を解析した。
【0520】
免疫組織化学染色およびアポトーシス評価を実施例16に記載のように行った。
【0521】
結果:
タンパク尿の評価
マウスにおけるタンパク尿の存在を確かめるために、尿中にある総排泄タンパク質を、15日目(実験の終わり)に24時間にわたって収集した尿試料中で測定した。BSAで処置した群では尿試料中の総タンパク質レベルは、BSAで処置していない対照群と比較して平均してほぼ6倍増加することが確かめられた(データ示さず)。このことから、BSAで処置したマウスにはタンパク尿が存在することが確かめられた。BSA処置群間のタンパク質レベルに有意差は観察されなかった。
【0522】
組織学的変化の評価
図32は、以下のBSAで処置した後、15日目のマウス群:(パネルA)食塩水で処置した野生型対照マウス、(パネルB)アイソタイプ抗体で処置した対照マウス、および(パネルC)MASP-2阻害抗体で処置した野生型マウスからの代表的なH&E染色組織切片を示す。
【0523】
図32に示したように、同じタンパク質過負荷曝露レベルでは、MASP-2阻害抗体処置群(パネルC)の組織保存の程度は、食塩水で処置した野生型群(パネルA)またはアイソタイプ対照で処置した野生型群(パネルB)と比較してかなり大きい。
【0524】
アポトーシスの評価
アポトーシスをデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)を用いた染色によって組織切片において評価し、TUNEL染色アポトーシス細胞の頻度を、皮質から連続して選択した20個の高倍率視野(HPF)において計数した。
図33は、食塩水対照およびBSAで処置した野生型マウス(n=8)、アイソタイプ対照抗体およびBSAで処置した野生型マウス(n=8)、ならびにMASP-2阻害抗体およびBSAで処置した野生型マウス(n=7)の腎皮質に由来する組織切片から連続して選択した20個の高倍率視野(HPF)において計数したTUNELアポトーシス細胞の頻度を図示する。
図33に示したように、食塩水およびアイソタイプ対照で処置した群と比較して、MASP-2阻害抗体処置群から入手した腎臓では、皮質におけるアポトーシス速度の非常に有意な減少が観察された(食塩水対照対MASP-2阻害抗体についてはp=0.0002;アイソタイプ対照対MASP-2阻害抗体についてはp=0.0052)。
【0525】
サイトカイン浸潤の評価
タンパク尿モデルでは野生型マウスの近位尿細管においてアップレギュレートされることが知られている炎症促進性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)、および腫瘍壊死因子α(TNFα)を、本試験において入手した腎臓組織切片において評価した。
【0526】
図34は、BSAおよび食塩水で処置した野生型マウス(n=8)、BSAおよびアイソタイプ対照抗体で処置した野生型マウス(n=7)、ならびにBSAおよびMASP-2阻害抗体で処置した野生型マウス(n=8)における、抗TGFβ抗体で染色された組織切片のコンピュータによる画像解析の結果(TGFβ抗体染色領域%として測定した)を図示する。
図34に示したように、TGFβ染色領域の定量から、MASP-2阻害抗体で処置したマウスではTGFβレベルが、食塩水で処置した対照群およびアイソタイプ対照抗体で処置した対照群(それぞれ、p値=0.0324およびp値=0.0349)と比較して有意に低下したことが分かった。
【0527】
図35は、BSAおよび食塩水で処置した野生型マウス(n=8)、BSAおよびアイソタイプ対照抗体で処置した野生型マウス(n=7)、ならびにBSAおよびMASP-2阻害抗体で処置した野生型マウス(n=8)における、抗TNFα抗体で染色された組織切片のコンピュータによる画像解析の結果(TNFα抗体染色領域%として測定した)を図示する。
図35に示したように、染色された切片の解析から、MASP-2阻害抗体処置群ではTNFαレベルが食塩水対照群(p=0.011)ならびにアイソタイプ対照群(p=0.0285)と比較して有意に低下したことが分かった。
【0528】
図36は、BSAおよび食塩水で処置した野生型マウス(n=8)、BSAおよびアイソタイプ対照抗体で処置した野生型マウス(n=7)、ならびにBSAおよびMASP-2阻害抗体で処置した野生型マウス(n=8)における、抗IL-6抗体で染色された組織切片のコンピュータによる画像解析の結果(IL-6抗体染色領域%として測定した)を図示する。
図36に示したように、染色された切片の解析から、MASP-2阻害抗体処置群ではIL-6レベルが食塩水対照群(p=0.0269)ならびにアイソタイプ対照群(p=0.0445)と比較して有意に低下したことが分かった。
【0529】
結果の全体の概要および結論:
本実施例の結果から、MASP-2阻害抗体を使用すると、タンパク質過負荷モデルにおいて腎損傷からの保護が得られることが証明される。これは、タンパク尿モデルにおいてMASP-2-/-マウスの腎損傷が少ないことを証明した実施例16に記載の結果と合致する。
【0530】
実施例18
本実施例は、アドリアマイシン誘発性腎症におけるレクチン経路の役割を評価するために、MASP-2-/-マウスおよび野生型マウスにおける腎臓線維症、炎症、および尿細管間質損傷のアドリアマイシン誘発性ネフロロジーモデルを用いて得られた結果を示す。
【0531】
背景/基本原理:
アドリアマイシンは、血液悪性腫瘍、軟部組織肉腫、および多くのタイプの癌腫を含む広範囲の癌の処置において用いられるアントラサイクリン抗腫瘍性抗生物質である。アドリアマイシン誘発性腎症は、慢性タンパク尿の進行をより深く理解することを可能にしてきた、慢性腎疾患の十分に確立したげっ歯類モデルである(Lee and Harris, Nephrology, 16:30-38, 2011)。アドリアマイシン誘発性腎症における構造的損傷および機能的損傷のタイプは、ヒトにおける慢性タンパク尿性腎臓病のものとよく似ている(Pippin et al., American Journal of Renal Physiology 296:F213-29, 2009)。
【0532】
アドリアマイシン誘発性腎症は、糸球体上皮細胞への損傷と、それに続く糸球体硬化症、尿細管間質の炎症および線維症を特徴とする。アドリアマイシン誘発性腎症は、免疫に由来する機構と、免疫に由来しない機構の両方によって調整されることが多くの研究において示されている(Lee and Harris, Nephrology, 16:30-38, 2011)。アドリアマイシン誘発性腎症には、腎臓疾患モデルとして、いくつかの強みがある。第1に、アドリアマイシン誘発性腎症は高度に再現性があり、かつ断定しうる(predicable)腎損傷モデルである。これは、このモデルが薬物投与の数日以内に腎損傷が誘導されることを特徴とし、このため、損傷のタイミングが変わらないので実験デザインを簡単にすることができるからである。アドリアマイシン誘発性腎症はまた、許容可能な死亡率(<5%)と、罹患率(重量減少)に関連すると同時に、組織損傷の程度が重度になるモデルでもある。従って、アドリアマイシン誘発性腎症における腎損傷の重篤度とタイミングという理由から、これは、腎損傷から保護する介入を試験するために適したモデルである。
【0533】
実施例16および17に記載のように、タンパク尿のタンパク質過負荷モデルでは、MASP-2-/-マウスと、MASP-2阻害抗体で処置したマウスは野生型マウスよりも有意に良好なアウトカムを示した(例えば、尿細管間質損傷が少なく、腎臓炎症が少ない)ことが確かめられた。このことは、タンパク尿性腎臓疾患においてレクチン経路には病気を起こす役割があることを意味している。
【0534】
本実施例では、MASP-2欠損が、アドリアマイシンによって誘発される腎臓炎症および尿細管間質損傷を低減および/または予防するかどうか確かめるために、アドリアマイシン誘発性ネフロロジーモデル(AN)においてMASP-2-/-マウスを野生型マウスと比較して分析した。
【0535】
方法:
1.投与量および時点の最適化
治療介入を試験するために適したレベルの腎臓炎症をBALB/cマウスが発症するアドリアマイシンの用量と時点を決定するために、初回実験を行った。
【0536】
3つの野生型BALB/cマウス群(n=8)に単一用量の静脈内投与アドリアマイシン(10.5mg/kg)を注射した。3つの時点:アドリアマイシン投与の1週間後、2週間後、および4週間後にマウスを間引いた。対照マウスには食塩水だけを注射した。
【0537】
結果:
3つの群にいるマウスは全てH&E染色によって確かめられた時には糸球体硬化症およびタンパク尿の徴候を示し、腎臓におけるマクロファージ浸潤によって測定された時には組織炎症の程度は徐々に増加した(データ示さず)。組織損傷の程度は1週間群では軽度であり、2週間群では中程度であり、4週間群では重度であった(データ示さず)。本研究の残りについては2週間の時点を選択した。
【0538】
2.野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスにおけるアドリアマイシン誘発性ネフロロジーの分析
アドリアマイシン誘発性ネフロロジーにおける補体のレクチン経路の役割を解明するために、同じ用量のアドリアマイシンでMASP-2-/-マウス(BALB/c)群を野生型マウス(BALB/c)と比較した。MASP-2-/-マウスをBALB/cマウスと10世代にわたって戻し交配した。
【0539】
野生型(n=8)およびMASP-2-/-(n=8)にアドリアマイシン(10.5mg/kg)を静脈内注射し、各系統の3匹のマウスには対照として食塩水だけ与えた。処置して2週間後に全てのマウスを間引き、組織を収集した。組織病理学的(histopatholigical)損傷の程度をH&E染色によって評価した。
【0540】
結果:
図37は、以下のアドリアマイシンまたは食塩水だけ(対照)で処置した後、14日目のマウス群:(パネルA-1、A-2、A-3)食塩水だけで処置した野生型対照マウス;(パネルB-1、B-2、B-3)アドリアマイシンで処置した野生型マウス;および(パネルC-1、C-2、C-3)アドリアマイシンで処置したMASP-2-/-マウスからの代表的なH&E染色組織切片を示す。それぞれの写真は(例えば、パネルA-1、A-2、A-3)は異なるマウスを表している。
【0541】
図37に示したように、アドリアマイシンで処置したMASP-2-/-群の組織保存の程度は同じ用量のアドリアマイシンで処置した野生型群と比較してかなり大きい。
【0542】
図38は、以下のアドリアマイシンまたは食塩水だけ(野生型対照)で処置した後、14日目のマウス群:食塩水だけで処置した野生型対照マウス;アドリアマイシンで処置した野生型マウス;食塩水だけで処置したMASP-2-/-マウス、およびアドリアマイシンで処置したMASP-2-/-マウスからのマクロファージ平均染色領域(%)を示した、マクロファージ特異的抗体F4/80で染色された腎臓組織切片のコンピュータによる画像解析の結果を図示する。
図38に示したように、アドリアマイシンで処置したMASP-2-/-マウスは、アドリアマイシンで処置した野生型マウスと比較してマクロファージ浸潤が少ない(
**p=0.007)。
【0543】
図39は、以下のアドリアマイシンまたは食塩水だけ(野生型対照)で処置した後、14日目のマウス群:食塩水だけで処置した野生型対照マウス;アドリアマイシンで処置した野生型マウス;食塩水だけで処置したMASP-2-/-マウス、およびアドリアマイシンで処置したMASP-2-/-マウスからの、コラーゲン沈着染色領域(%)を示す、シリウスレッドで染色された腎臓組織切片のコンピュータによる画像解析の結果を図示する。
図39に示したように、アドリアマイシンで処置したMASP-2-/-マウスは、アドリアマイシンで処置した野生型マウスと比較してコラーゲン沈着が少ない(
**p=0.005)。
【0544】
全体の概要および結論:
腎臓尿細管間質性炎症の寛解は腎臓疾患処置の重要な目標である。本明細書において示した結果から、腎臓尿細管間質性炎症の発症には補体活性化のレクチン経路が大いに寄与することが分かる。本明細書においてさらに証明されるように、MASP-2阻害物質、例えば、MASP-2阻害抗体は、タンパク尿性腎症、アドリアマイシン腎症の処置および腎臓尿細管間質性炎症の寛解における新規の治療アプローチとして用いられる可能性がある。
【0545】
実施例19
本実施例は、ステロイド依存性免疫グロブリンA腎症(IgAN)にかかっている成人およびステロイド依存性膜性腎症(MN)にかかっている成人における完全ヒトモノクローナルMASP-2阻害抗体の安全性および臨床的有効性を評価するための、継続中の第2相臨床試験の初期結果について説明する。
【0546】
背景:
米国では2000万超の人が慢性腎疾患に罹患している(Drawz P. et al., Ann Intern Med 162(11); ITC1-16, 2015)。IgANおよびMNを含む糸球体腎症(GN)は、糸球体が損なわれ、しばしば末期腎臓病および透析につながる腎臓疾患である。いくつかのタイプの原発性GNが存在し、最もよく見られるものがIgANである。これらの患者の多くには、持続的な腎臓炎症および進行性の悪化がある。多くの場合、これらの患者は、多くの重篤な長期有害事象を有するコルチコステロイドまたは免疫抑制剤で治療される。これらの治療を受けていても多くの患者は悪化し続ける。IgANまたはMNの治療のために承認されている治療法は無い。
【0547】
IgA腎症
免疫グロブリンA腎症(IgAN)は、腎臓内炎症および腎臓傷害をもたらす自己免疫性腎臓疾患である。IgANは、原発性腎糸球体腎炎の世界的に最もよく見られる形態である(Magistroni et al., Kidney Int. 88(5):974-89, 2015)。年間発生率は100,000人あたり約2.5人であり、米国では1400人に1人がIgANを発症すると見積もられている。診断後20年以内に、IgAN患者のうち40%もの患者が末期腎臓病(ESRD)を発症する(Coppo R., D’Amico G., J Nephrol 18(5):503-12, 2005; Xie et al., PLoS One, 7(6):e38904 (2012))。患者は、典型的には、軽度から中程度のタンパク尿を伴う顕微鏡的血尿と、様々なレベルの腎機能不全を呈する(Wyatt R.J. et al., N Engl J Med 368(25):2402-14, 2013)。腎機能障害、持続的な高血圧、および重いタンパク尿(1日に1g以上)などの臨床マーカーが予後不良と関連する(Goto M et al., Nephrol Dial Transplant 24(10):3068-74, 2009; Berthoux F. et al., J Am Soc Nephrol 22(4):752-61, 2011)。複数の大規模な観察研究および前向き試験では、タンパク尿は他の危険因子とは独立した最も強力な予後因子である(Coppo R. et al., J Nephrol 18(5):503-12, 2005; Reich H. N., et al., J Am Soc Nephrol 18(12):3177-83, 2007)。治療しないままであれば疾患が発症して10年以内に患者のうち15〜20%がESRDに達すると見積もられている(D’Amico G., Am J Kidney Dis 36(2):227-37, 2000)。
【0548】
IgANの診断上の顕著な特徴は、腎糸球体メサンギウムにIgA沈着が単独で、IgG、IgM、またはその両方と一緒に圧倒的な数で存在することである。IgANでは、補体系のレクチン経路のエフェクター酵素であるMASP-2が活性化するための重要な認識分子であるマンナン結合レクチン(MBL)が腎糸球体に沈着することが腎臓生検から明らかになっている。腎糸球体へのMBL沈着は、通常、IgAと共存しており、かつ補体活性化と、高レベルの尿中MBLを示すものであり、IgANにおいて予後が悪いことと関連付けられている。これらの患者は、MBL沈着も高レベルの尿中MBLも無い患者よりも重篤な組織学的変化および糸球体間質増殖を示す(Matsuda M. et al., Nephron 80(4):408-13, 1998; Liu LL et al., Clin Exp Immunol 169(2):148-155, 2012; Roos A. et al., J Am Soc Nephrol 17(6):1724-34, 2006; Liu LL et al., Clin Exp Immunol 174(1):152-60, 2013)。MBL 沈着のある患者については、寛解 ラットもかなり低い(Liu LL et al., Clin Exp Immunol 174(1):152-60, 2013)。
【0549】
IgANを処置をする現行のアプローチは全て、腎機能の悪化を遅くするか、止めるか、または遅延させることを試みている。Kidney Disease Improving Global Outcomes (KDIGO) clinical practice guidelines for glomerulonephritisは、レニン-アンジオテンシン系(RAS)遮断による血圧調節を第一にウェイトを置いたIgAN治療計画を推奨している[KDIGO Work Group 2012]。最大耐量の血圧降下薬と良好に調節された血圧にもかかわらず1g以上のタンパク尿が毎日、持続的にある患者の場合、推奨される処置にはコルチコステロイドおよび/または他の免疫抑制剤、例えば、シクロホスファミド、アザチオプリン、またはミコフェノール酸モフェチルが含まれる。Kidney Disease Improving Global Outcomes (KDIGO) Guidelines for Glomerulonephritis(Int. Soc of Nephrol 2(2):139-274, 2012)では、1g/日以上のタンパク尿患者にはコルチコステロイドを6ヶ月の通常治療期間で投与すべきであると推奨している。半月体形成性IgAN(crescentic IgAN))(糸球体の>50%に半月体(cresent)があると定義される)にかかっており、腎臓クリアランス機能が急速に悪化している患者の場合、別の免疫抑制剤(例えば、シクロホスファミド)がコルチコステロイドに加えられる場合がある。しかしながら、重大な長期後遺症と関連する積極的な免疫抑制処置を用いても、一部の患者には進行性の腎機能悪化がある。FDAに承認されたIgAN処置法は無く、血圧調節のためにアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害因子またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)を用いても、一部の患者ではタンパク尿の増加が持続する。これらの処置はどれも、この疾患が急速に進行するリスクがある患者ではIgANを止めることが示されておらず、IgANの進行を遅らせることさえ示されていない。慢性コルチコステロイドおよび/または免疫抑制療法の必要性を低減するか、または排除することができる代替処置法は、未だ対処されていない医学的必要性に間違いなく応えるだろう。
【0550】
膜性腎症
膜性腎症(MN)の年間発生率は1,000,000人あたり約10〜12人である。MN患者には、一定しない臨床経過が起こる可能性があるが、約25%は末期腎臓病を発症する。
【0551】
膜性腎症は、免疫を介した腎糸球体疾患であり、成人におけるネフローゼ症候群の最もよく見られる原因の1つである。この疾患は、腎糸球体基底膜の外側の側面に、糸球体上皮細胞抗原およびこの抗原に特異的な抗体を含有する免疫沈着物、主としてIgG4が形成し、その結果、補体が活性化されることを特徴とする。MNの初期徴候は、ネフローゼ症候群:タンパク尿、低アルブミン血症、高脂血症、および浮腫と関連する。
【0552】
MNは治療なしで自然治癒する場合があるが、1/3もの患者が進行性の腎機能喪失を示し、診断後、5年の中央値でESRDに進行する。多くの場合、MNを治療するためにコルチコステロイドが用いられ、代替療法を開発する必要性がある。さらに、タンパク尿の重篤度に基づいて中程度の進行リスクがあると確かめられた患者は、シクロホスファミドまたはカルシニューリン阻害因子と一緒にプレドニゾンで処置され、これらの2種類の処置は共に重篤な全身副作用と関連することが多い。
【0553】
方法:
健常人において行った2つの第1相臨床試験から、MASP-2阻害抗体、OMS646を静脈内投薬および皮下投薬すると持続的なレクチン経路阻害が起こることが証明されている。
【0554】
本実施例は、IgANおよびMNにかかっている対象におけるMASP-2阻害抗体、OMS646の継続中の第2相無対照多施設試験からの中間結果について説明する。組み入れ規準は、腎臓病サブタイプに関係なく、本試験の患者全員が、試験登録前に少なくとも12週間にわたって安定用量のコルチコステロイドで維持されていたこと(すなわち、患者がステロイド依存性であること)を必要とする。本試験は、12週間の処置期間と、6週間の経過観察期間のある単一群パイロット試験である。
【0555】
1つの疾患につき約4人の対象が登録する計画を立てる。本試験は、IgANおよびMNにかかっている対象においてOMS646が腎機能を改善し(例えば、タンパク尿を改善し)、コルチコステロイドの必要性を低減する可能性があるかどうか評価するようにデザインされた。現在までに、本試験において2人のIgA腎症患者および2人の膜性腎症患者が処置を完了している。
【0556】
治験登録時には、安定コルチコステロイド用量を用いた処置が継続しているのにもかかわらず、各対象の尿中タンパク質値は高くなければならない。これらの判断基準によって、試験期間中に自然に改善する可能性が低い患者が選択される。
【0557】
対象はスクリーニング時に18歳以上であり、以下:腎臓生検時に診断されるIgANまたは腎臓生検時に診断される原発性MNのうちの1つが診断された場合にのみ本試験に組み入れられた。登録した患者は、以下の組み入れ規準も全て満たさなければならなかった。
(1)スクリーニング期間中、2回の各来診の前に、連続して、かつ毎日収集した3つの試料からの平均尿アルブミン/クレアチニン比が>0.6である;
(2)スクリーニング来診1の前に少なくとも12週間にわたって≧10mgのプレドニゾンまたは同等の用量が与えられていた;
(3)免疫抑制処置(例えば、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル)が与えられていたら、スクリーニング来診1の前に少なくとも2ヶ月にわたって安定用量が与えられており、試験期間にわたって用量の予想された変化は無い;
(4)MDRD式
1によって計算される推算糸球体濾過量(eGFR)が≧30mL/分/1.73m
2である;
(5)アンジオテンシン変換酵素阻害因子(ACEI)および/またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)を用いた、医師によって指導され、安定し、最適化された処置を受けており、安静時に収縮期血圧<150mmHg、拡張期血圧<90mmHgであること;
(6)スクリーニング来診1の6ヶ月以内にベリムマブ、エクリズマブ、またはリツジマブ(rituzimab)が用いられたことがないこと;
(7)腎臓移植の病歴がない。
【0558】
1MDRD式:eGFR(mL/分/1.73m
2)=175x(SCr)
-1.154x(年齢)
-0.203x(女性の場合、0.742)x(アフリカ系アメリカ人の場合、1.212)。注:SCr=血清クレアチニン測定値はmg/dLでなければならない。
【0559】
本試験で使用したモノクローナル抗体であるOMS646は、ヒトMASP-2に結合し、これを阻害する完全ヒトIgG4モノクローナル抗体である。MASP-2はレクチン経路のエフェクター酵素である。実施例12において証明されたように、OMS646は組換えMASP-2に強く結合し(見かけの平衡解離定数は100pMの範囲である)、相同タンパク質C1s、C1r、およびMASP-1を上回る5,000倍超の選択性を示す。機能アッセイ法ではOMS646はナノモル効力でヒトレクチン経路を阻害するが(50%阻害する濃度[IC
50]は約3nMである)、古典経路には有意な影響を及ぼさない。マウス、非ヒト霊長類、およびヒトへの静脈内(IV)注射または皮下(SC)注射によって投与したOMS646は、エクスビボアッセイ法でのレクチン経路活性化の抑制に関連する高い血漿中濃度をもたらした。
【0560】
本試験では、OMS646原薬は100mg/mLの濃度で供給され、これをIV投与用にさらに希釈した。用量調製のために、OMS646 100 mg/mL注射溶液の計算された適切量を、注射器を用いてバイアルから引き抜いた。調製して4時間以内に注入バックを投与した。
【0561】
本研究は、以下の試験デザインの概略図に示したように、スクリーニング(28日間)、処置(12週間)、および経過観察(6週間)の期間からなる。
【0562】
試験デザインの概略図
【0563】
尿アルブミン/クレアチニン比のベースライン値を確立するために、スクリーニング期間内および1回目のOMS646投薬の前に、同意が得られた対象から、3日間連続した2つの期間のそれぞれにおいて3つの尿試料を得た(1日1回、収集した)。スクリーニング期間後に、資格がある対象に、OMS646 4 mg/kg IVを12週間(処置期間)にわたって週1回与えた。OMS646を最後に投与した後に6週間の経過観察期間があった。
【0564】
OMS646を用いた最初の4週間の処置の間に、安定した試験前用量のコルチコステロイドを与えて対象を維持した。12週間の処置期間のうち最初の4週間が終わったら、忍容性が認められる場合は4週間にわたって、対象のコルチコステロイドを漸減させ(すなわち、コルチコステロイド用量を低減し)、その後に4週間にわたって、結果として生じたコルチコステロイド用量を維持した。この目標は、1日に≦6mgのプレドニゾン(または同等の用量)まで漸減させることであった。この期間の間に、試験責任者によって決定されるように、腎機能が悪化した対象では漸減を中断した。コルチコステロイド漸減を通じて、および全12週間の処置を通じて対象をOMS646で処置した。次いで、最後に処置した後、さらに6週間にわたって患者を追跡した。コルチコステロイド漸減とOMS646処置によって、安定した腎機能を維持するために必要なコルチコステロイド用量をOMS646は減らすかどうか評価することが可能になった。
【0565】
本試験における重要な効力尺度は、ベースラインから12週間までの尿アルブミン/クレアチニン比(uACR)と24時間のタンパク質レベルの変化である。尿中タンパク質またはアルブミンの測定は腎臓合併症を評価するために日常的に用いられ、持続的な高レベルの尿中タンパク質は腎臓病の進行と相関関係にある。uACRはタンパク尿を評価するために臨床で用いられる。
【0566】
効力分析
uACRの分析値は、ある時点で得られた全ての値の平均と定義された。計画されたuACR値は、予定された各時点では3である。ベースラインuACR値は、2回のスクリーニング来診時の分析値の平均と定義された。
【0567】
結果:
図40は、12週間の試験中に、4mg/kg MASP-2阻害抗体(OMS646)を用いて毎週処置した2人のIgAN患者におけるuACRを図示する。
図40に示したように、ベースラインからの変化は、未変換分析によって時点「a」(p=0.003)、時点「b」(p=0.007)、および時点「c」(p=0.033)では統計的に有意である。表12は、OMS646で処置した2人のIgAN患者の24時間の尿タンパク質データを示す。
【0568】
(表12)OMS646で処置したIgAN患者における24時間の尿タンパク質(mg/日)
【0569】
図40および表12に示したように、IgAN患者は試験中に臨床的かつ統計的に有意な腎機能改善を示した。uACR(
図40を参照されたい)と24時間の尿タンパク質濃度(表12を参照されたい)は両方とも統計的に有意に減少した。
図40のuACRデータに示したように、平均ベースラインuACRは1264mg/gであり、処置終了時には525mg/gに達し(p=0.011)、経過観察期間の終了時には128mg/gまで減少した。さらに
図40に示したように、処置効果は経過観察全体を通して維持された。24時間の尿タンパク質排泄の測定はuACRを追従し、平均して3156mg/24時間から1119mg/24時間に低下した(p=0.017)。2人の患者間で処置効果はかなり一致していた。両患者とも約2000mg/日の低下を経験し、部分寛解(24時間の尿タンパク質排泄が50パーセント超低下する、および/またはその結果としてタンパク質排泄が1000mg/日未満になると定義される);完全寛解(タンパク質排泄が300mg/日未満だと定義される)に達した。両IgA腎症患者における24時間のタンパク尿低下の大きさは腎臓生存の有意な改善と関連する。両IgA腎症患者ともステロイドを大幅に漸減することもでき、それぞれが、一日量を≦5mgまで(60mgから0mgまで;30mgから5mgまで)低減することができた。
【0570】
2人のMN患者も、OMS646を用いた処置の間にuACRの低下を示した。一方のMN患者はuACRが1003mg/gから69mg/gまで減少し、経過観察期間全体を通して、この低いレベルを維持した。他方のMN患者は、処置後、一定しない経過を伴って、uACRが1323mg/gから673mg/gまで減少した。第1のMN患者は24時間の尿タンパク質レベルが著しく低下し(ベースラインでは10,771mg/24時間から、85日目には325mg/24時間)、部分寛解およびほぼ完全な寛解に達した。これに対して、他方の患者は本質的に変化しないままであった(ベースラインでは4272mg/24時間から、85日目には4502mg/24)。2人のMN患者では、ステロイドが30mgから15mgまでと、10mgから5mgまで漸減した。
【0571】
要約すると、MASP-2阻害抗体OMS646で処置したIgAN対象およびMN対象では、首尾一貫した腎機能改善が観察された。IgAN患者におけるOMS646処置の効果は強く、かつ首尾一貫しており、このことから、強力な効力シグナルが示唆される。これらの効果はMN患者での結果によって裏付けられる。4人全員のIgAN患者およびMN患者の間で、処置中の時間経過およびuACR変化の大きさは首尾一貫していた。有意な安全問題は観察されなかった。本試験の患者は、処置するのが難しい群であり、これらの患者での治療効果は、IgAN患者およびMN患者、例えば、末期腎臓病に急速に進行するリスクのある患者を含む、ステロイド依存性のIgANおよびMNに罹患している患者(すなわち、MASP-2阻害抗体を用いた処置の前に、安定したコルチコステロイド用量を用いた処置を受けている患者)における、OMS646などのMASP-2阻害抗体を用いた効力を予測するものだと考えられる。
【0572】
前述に従って、一態様では、本発明は、IgANまたはMNに罹患しているヒト対象を治療する方法であって、MASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量のMASP-2阻害抗体を含む組成物を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。一態様において、前記方法は、腎機能を改善する(例えば、タンパク尿を改善する)のに十分な量のMASP-2阻害抗体を、IgANまたはMNに罹患しているヒト対象に投与する工程を含む。一態様において、対象はステロイド依存性IgANに罹患している。一態様において、対象はステロイド依存性MNに罹患している。一態様において、MASP-2阻害抗体は、ステロイド依存性IgANまたはステロイド依存性MNに罹患している対象において腎機能を改善する、および/またはコルチコステロイド投与量を減らすのに十分な量で前記対象に投与される。
【0573】
一態様において、前記方法は、MASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量のMASP-2阻害抗体を含む組成物を対象に投与する工程の前に、ステロイド依存性IgANに罹患しているヒト対象を同定する工程をさらに含む。
【0574】
一態様において、前記方法は、MASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量のMASP-2阻害抗体を含む組成物を対象に投与する工程の前に、ステロイド依存性MNに罹患しているヒト対象を同定する工程をさらに含む。
【0575】
本明細書中の開示されたどの態様でも、MASP-2阻害抗体は、以下の特徴:前記抗体はK
D 10nM以下でヒトMASP-2に結合する、前記抗体はMASP-2のCCP1ドメイン内にあるエピトープに結合する、前記抗体はインビトロアッセイ法において1%ヒト血清中でのC3b沈着をIC
50 10nM以下で阻害する、前記抗体は90%ヒト血清中でのC3b沈着をIC
50 30nM以下で阻害する、前記抗体は、Fv、Fab、Fab'、F(ab)
2、およびF(ab')
2からなる群より選択される抗体断片である、前記抗体は単鎖分子である、前記抗体はIgG2分子である、前記抗体はIgG1分子である、前記抗体はIgG4分子である、IgG4分子はS228P変異を含む、の少なくとも1つまたは複数を示す。一態様において、前記抗体はMASP-2に結合し、レクチン経路を選択的に阻害し、古典経路を実質的に阻害しない(すなわち、古典的補体経路を完全な状態のままにしておきながらレクチン経路を阻害する)。
【0576】
一態様において、MASP-2阻害抗体は、腎機能に関連する少なくとも1つまたは複数の臨床パラメータ、例えば、タンパク尿の改善(例えば、uACRの減少、および/または24時間の尿タンパク質濃度の減少、例えば、20パーセント超の24時間の尿タンパク質排泄の低下、もしくは、例えば、30パーセント超の24時間の尿タンパク質排泄の低下、もしくは、例えば、40パーセント超の24時間の尿タンパク質排泄の低下、もしくは、例えば、50パーセント超の24時間の尿タンパク質排泄の低下)を改善するために有効な量で投与される。
【0577】
一部の態様において、前記方法は、第1の期間(例えば、少なくとも1日〜1週間もしくは2週間もしくは3週間もしくは4週間またはそれより長く)にわたってカテーテルを介して(例えば、静脈内に)、IgAN(例えば、ステロイド依存性IgAN)に罹患している対象にMASP-2阻害抗体を投与する工程を含み、その後に、第2の期間(例えば、少なくとも2週間またはそれより長い慢性期)にわたって対象にMASP-2阻害抗体を皮下投与する工程を含む。
【0578】
一部の態様において、前記方法は、第1の期間(例えば、少なくとも1日〜1週間もしくは2週間もしくは3週間もしくは4週間またはそれより長く)にわたってカテーテルを介して(例えば、静脈内に)、MN(例えば、ステロイド依存性MN)に罹患している対象にMASP-2阻害物質を投与する工程を含み、その後に、第2の期間(例えば、少なくとも2週間またはそれより長い慢性期)にわたって対象にMASP-2阻害抗体を皮下投与する工程を含む。
【0579】
一部の態様において、前記方法は、MASP-2阻害抗体を、IgAN(例えば、ステロイド依存性IgAN)またはMN(例えば、ステロイド依存性MN)に罹患している対象に静脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与する工程を含む。処置は長期にわたってもよく、毎日〜毎月投与されてもよいが、好ましくは、少なくとも2週間ごとに、または少なくとも週1回、例えば、週2回もしくは週3回投与される。
【0580】
一態様において、前記方法は、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列のCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域を含む、ある量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を、IgAN(例えば、ステロイド依存性IgAN)またはMN(例えば、ステロイド依存性MN)に罹患している対象に投与する工程を含む、IgAN(例えば、ステロイド依存性IgAN)またはMN(例えば、ステロイド依存性MN)に罹患している対象を治療する工程を含む。一部の態様において、前記組成物は、(a)(i)SEQ ID NO:67の31〜35に由来するアミノ酸配列を含む重鎖CDR-H1;および(ii)SEQ ID NO:67の50〜65に由来するアミノ酸配列を含む重鎖CDR-H2;および(iii)SEQ ID NO:67の95〜107に由来するアミノ酸配列を含む重鎖CDR-H3を含む、重鎖可変領域、ならびに(b)(i)
SEQ ID NO:69の24〜34に由来するアミノ酸配列を含む軽鎖CDR-L1;および(ii)
SEQ ID NO:69の50〜56に由来するアミノ酸配列を含む軽鎖CDR-L2;および(iii)
SEQ ID NO:69の89〜97に由来するアミノ酸配列を含む軽鎖CDR-L3を含む、軽鎖可変領域、あるいは(II)SEQ ID NO:67と少なくとも90%の同一性(例えば、SEQ ID NO:67と少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性)を有する重鎖可変領域、および
SEQ ID NO:69と少なくとも90%の同一性(例えば、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性)を有する軽鎖可変領域を含む、その変種を含む、MASP-2阻害抗体を含む。
【0581】
一部の態様において、前記方法は、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、ある量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を対象に投与する工程を含む。
【0582】
一部の態様において、前記方法は、SEQ ID NO:67に示した重鎖可変領域および
SEQ ID NO:69に示した軽鎖可変領域を含む参照抗体OMS646が認識する、ヒトMASP-2上のエピトープの少なくとも一部を特異的に認識する、MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を対象に投与する工程を含む。
【0583】
一部の態様において、前記方法は、IgAN(例えば、ステロイド依存性IgAN)もしくはMN(例えば、ステロイド依存性MN)に罹患しているか、またはこれを発症するリスクがある対象に、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を、1mg/kg〜10mg/kg(すなわち、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、または10mg/kg)の投与量で、少なくとも週1回(例えば、少なくとも週2回または少なくとも週3回)、少なくとも3週間、または少なくとも4週間、または少なくとも5週間、または少なくとも6週間、または少なくとも7週間、または少なくとも8週間の期間、または少なくとも9週間、または少なくとも10週間、または少なくとも11週間、または少なくとも12週間にわたって投与する工程を含む。
【0584】
実施例20
本実施例は、ステロイド依存性ループス腎炎(LN)に罹患している成人における完全ヒトモノクローナルMASP-2阻害抗体の安全性および臨床的有効性を評価するための、継続中の第2相臨床試験の初期結果について説明する。
【0585】
背景:
米国では2000万超の人が慢性腎疾患に罹患している(Drawz P. et al., Ann Intern Med 162(11); ITC1-16, 2015)。IgAN、MN、およびLNを含む糸球体腎症(GN)は、糸球体が損なわれ、しばしば末期腎臓病および透析につながる腎臓疾患である。これらの患者の多くには持続的な腎臓炎症と進行性の悪化がある。多くの場合、これらの患者は、多くの重篤な長期有害事象を有するコルチコステロイドまたは免疫抑制剤で処置される。これらの処置を受けていても多くの患者は悪化し続ける。
【0586】
ループス腎炎
全身性エリテマトーデス(SLE)の主な合併症はループス腎炎とも知られる腎炎である。ループス腎炎は続発型の腎炎として分類される。SLEの後期になると、この疾患に罹患している成人の60%までが何らかの形の腎臓合併症を有し(Koda-Kimble et al., Koda-Kimble and Young’s Applied Therapeutics: the clinical use of drugs, 10
th Ed, Lippincott Williams & Wilkins: 792-9頁, 2012)、米国での有病率は100,000人に20〜70人である。ループス腎炎は、疲労、発熱、発疹、関節炎、漿膜炎、または中枢神経系疾患を含む、活動性SLEの他の症状を有する患者において現れることが多い(Pisetsky D.S. et al., Med Clin North Am 81(1):113-28,1997)。患者の中には無症候性ループス腎炎があるものもいるが、定期的な経過観察中に、高い血清クレアチニンレベル、低いアルブミンレベル、または尿中タンパク質もしくは堆積物などの臨床検査値異常によって活動性ループス腎炎が示唆される。自己免疫がループス腎炎の発病において主要な役割を果たしている。これらの自己抗体は病原性の免疫複合体を血管内に形成し、この免疫複合体は糸球体内に蓄積する。自己抗体はまた、糸球体基底膜に既にある抗原に結合して、その部位で免疫複合体を形成することもある。免疫複合体は補体を活性化し、炎症細胞を引きつけることによって炎症応答を促進する(D’Agati V.D. et al., Lupus nephritis: pathology and pathogenesis: Wallace D.J. Hahn, Dubois’ Lupus Erythematosus, 7
th Ed Philadelpha: Lippincott Williams & Wiklins: p1094-111, 2007)。従って、免疫複合体を介した補体活性化はループス腎炎の発病において重要な役割を果たしている。C4d沈着物が腎臓組織に存在し、通常、免疫複合体沈着物、C1q、およびC3と結合して古典経路を引き起こす。場合によっては、C4d沈着物はC1q無しで存在し、このことは、可能性のあるレクチン経路の関与を示している(Kim M.K., et al. Int J Clin Exp Pathol 6(10):2157-67、2013)。
【0587】
レクチン経路の重要な寄与のさらなる裏付けとして、SLE患者の皮膚病変部にMBL沈着物が生じる(Wallim L. R. et al., Hum Immunol 75(7):629-32, 2014)。さらに、ループス腎炎患者に由来する腎臓生検材料の大半においてMBLとフィコリンの活発な沈着が観察されている(Nisihara R. M. et al., Hum Immunol 74(8):907-10, 2013)。腎臓MBL沈着は高タンパク尿患者で最もよく分かった。さらに、SLE患者の血漿MBLレベルは健常対照よりもかなり高く、MBLレベルは疾患活動と相関関係にあった。このことから、MBLレベルはSLE患者活動のバイオマーカーになり得ることが示唆される(Panda A.K. et al., Arthritis Res Ther 14(5):R218, 2012)。コルチコステロイドは、軽度のループス腎炎に罹患している患者に対する主な従来の処置選択肢である。さらに重度の症例については、臨床業務では高用量のレドニゾン、メチルプレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、アザチオプリン、およびシクロスポリンが使用されている。SLEおよびループス腎炎に対する処置選択肢は高い罹患率と死亡率が付随する。副作用、特に、長期コルチコステロイド使用に起因する副作用があるために患者のアドヒアランスが制限され、それに続く処置効力への影響がある。さらに優れた、忍容性が認められる処置レジメンを開発することが必要である。
【0588】
方法:
実施例19において前述したように、健常人において行った2つの第1相臨床試験から、MASP-2阻害抗体であるOMS646を静脈内投薬および皮下投薬すると持続的なレクチン経路阻害が起こることが証明されている。
【0589】
本実施例は、ループス腎炎(LN)に罹患している対象におけるMASP-2阻害抗体、OMS646の継続中の第2相無対照多施設試験からの中間結果について説明する。組み入れ規準は、腎臓病サブタイプに関係なく、本試験の患者全員が、試験登録前に少なくとも12週間にわたって安定用量のコルチコステロイドで維持されていたこと(すなわち、患者がステロイド依存性であること)を必要とする。本試験は、12週間の処置期間と6週間の経過観察期間のある単一群パイロット試験である。
【0590】
本試験は、LNに罹患している対象におけるOMS646が腎機能を改善し(例えば、タンパク尿を改善し)かつコルチコステロイドの必要性を低減する可能性があるかどうか評価するようにデザインされた。現在までに、本試験において5人のループス腎炎(LN)患者が処置を完了している。
【0591】
治験登録時には、安定コルチコステロイド用量を用いた処置が継続しているのにもかかわらず、各対象の尿中タンパク質値は高くなければならない。これらの判断基準によって、試験期間中に自然に改善する可能性が低い患者が選択される。
【0592】
対象はスクリーニング時に18歳以上であり、腎臓生検時に診断されるループス腎炎が診断された場合にのみ本試験に組み入れられた。登録した患者は、以下の組み入れ規準も全て満たさなければならなかった。
(1)スクリーニング期間中、2回の各来診の前に、連続して、かつ毎日収集した3つの試料からの平均尿アルブミン/クレアチニン比が>0.6であること;
(2)スクリーニング来診1の前に少なくとも12週間にわたって≧10mgのプレドニゾンまたは同等量が与えられていたこと;
(3)免疫抑制処置(例えば、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル)が与えられていたら、スクリーニング来診1の前に少なくとも2ヶ月にわたって安定用量が与えられており、試験期間中に予想される用量の変化は無いこと;
(4)MDRD式
1によって計算される推算糸球体濾過量(eGFR)が≧30mL/分/1.73m
2であること;
(5)アンジオテンシン変換酵素阻害因子(ACEI)および/またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)を用いた、医師によって指導され、安定し、最適化された処置を受けており、安静時に収縮期血圧<150mmHg、拡張期血圧<90mmHgであること;
(6)スクリーニング来診1の6ヶ月以内にベリムマブ、エクリズマブ、またはリツジマブ(rituzimab)が用いられたことがないこと;
(7)腎臓移植の病歴がないこと。
【0593】
1MDRD式:eGFR(mL/分/1.73m
2)=175x(SCr)
-1.154x(年齢)
-0.203x(女性の場合、0.742)x(アフリカ系アメリカ人の場合、1.212)。注:SCr=血清クレアチニン測定値はmg/dLでなければならない。
【0594】
本試験で使用したモノクローナル抗体であるOMS646は、ヒトMASP-2に結合し、これを阻害する完全ヒトIgG4モノクローナル抗体である。MASP-2はレクチン経路のエフェクター酵素である。実施例12において証明されたように、OMS646は組換えMASP-2に強く結合し(見かけの平衡解離定数は100pMの範囲である)、相同タンパク質C1s、C1r、およびMASP-1を上回る5,000倍超の選択性を示す。機能アッセイではOMS646はナノモル効力でヒトレクチン経路を阻害するが(50%阻害する濃度[IC
50]は約3nMである)、古典経路には有意な影響を及ぼさない。マウス、非ヒト霊長類、およびヒトへの静脈内(IV)注射または皮下(SC)注射によって投与したOMS646は、エクスビボアッセイでのレクチン経路活性化の抑制に関連する高い血漿中濃度をもたらした。
【0595】
本試験では、OMS646原薬は100mg/mLの濃度で供給され、これをIV投与用にさらに希釈した。用量調製のために、OMS646 100mg/mL注射溶液の計算された適切量を、注射器を用いてバイアルから引き抜いた。調製して4時間以内に注入バックを投与した。
【0596】
本研究は、以下の試験デザインの概略図に示したように、スクリーニング(28日間)、処置(12週間)、および経過観察(6週間)の期間からなる。
【0597】
試験デザインの概略図
【0598】
24時間の尿タンパク質および尿アルブミン/クレアチニン比のベースライン値を確立するために、スクリーニング期間内と1回目のOMS646投薬の前に、同意が得られた対象から、3日間連続した2つの期間のそれぞれにおいて3つの尿試料を得た(1日1回、収集した)。スクリーニング期間後に、資格がある対象に、OMS646 4mg/kg IVを12週間(処置期間)にわたって週1回与えた。OMS646を最後に投与した後に6週間の経過観察期間があった。
【0599】
OMS646を用いた最初の4週間の処置の間に、安定した試験前用量のコルチコステロイドを与えて対象を維持した。12週間の処置期間のうち最初の4週間が終わったら、忍容性が認められた場合は4週間にわたって対象のコルチコステロイドを漸減させ(すなわち、コルチコステロイド用量を低減し)、その後に4週間にわたって、結果として生じたコルチコステロイド用量を維持した。この目標は、1日に≦6mgのプレドニゾン(または同等量)まで漸減させることであった。この期間の間に、試験責任者によって決定されるように腎機能が悪化した対象では漸減を中断した。コルチコステロイド漸減を通じて、および全12週間の処置を通じて対象をOMS646で処置した。次いで、最後に処置した後、さらに6週間にわたって患者を経過観察した。コルチコステロイド漸減とOMS646処置によって、安定した腎機能を維持するために必要なコルチコステロイド用量をOMS646は減らすかどうか評価することが可能になった。
【0600】
効力分析
本試験における重要な効力尺度は、ベースラインから12週間までの24時間タンパク質レベルの変化である。尿中タンパク質またはアルブミンの測定は腎臓合併症を評価するために日常的に用いられ、持続的な高レベルの尿中タンパク質は腎臓病の進行と相関関係にある。部分寛解は、50パーセントより大きな24時間の尿タンパク質排泄の低下と定義される。
【0601】
結果:
表13は、OMS646で処置した5人のLN患者の24時間の尿タンパク質(mg/day)を示す。
【0602】
(表13)OMS646で処置したLN患者における24時間の尿タンパク質(mg/day)
注:患者#1は試験中に全身疾患フレア(flare)を経験した。
【0603】
表13に示したように、LN患者は、試験中に臨床的かつ統計的に有意な腎機能改善を示した。表13に示したように、5人のLN患者のうち4人が処置期間にわたって大幅な(平均69パーセント)24時間の尿タンパク質排泄の低下を示した。5人目の患者(患者#1)は全身疾患フレアを経験し、大幅な増加を示した。ループス反応者の大半はステロイド用量を漸減することができた。
【0604】
要約すると、MASP-2阻害抗体OMS646で処置した5人のLN患者のうち4人において有意な腎機能改善が観察された。LN患者におけるOMS646処置の効果は底堅く、かつ首尾一貫していた。このことから強力な効力シグナルが示唆される。有意な安全問題は観察されなかった。本試験の患者は、処置するのが難しい群であり、これらの患者での治療効果は、末期腎臓病に急速に進行するリスクのある患者を含む、LN患者、例えば、ステロイド依存性LNに罹患している患者(すなわち、MASP-2阻害抗体を用いた処置の前に、安定したコルチコステロイド用量を用いた処置を受けている患者)におけるOMS646などのMASP-2阻害抗体を用いた効力を予測するものだと考えられる。
【0605】
前述に従って、一態様では、本発明は、LNに罹患しているヒト対象を治療する方法であって、MASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量のMASP-2阻害抗体を含む組成物を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。一態様において、前記方法は、腎機能を改善する(例えば、タンパク尿を改善する)ために十分な量のMASP-2阻害抗体を、LNに罹患しているヒト対象に投与する工程を含む。一態様において、対象はステロイド依存性LNに罹患している。一態様において、MASP-2阻害抗体は、ステロイド依存性LNに罹患している対象における腎機能を改善する、および/またはコルチコステロイド投与量を低減するために十分な量で前記対象に投与される。
【0606】
一態様において、前記方法は、MASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量のMASP-2阻害抗体を含む組成物を対象に投与する工程の前に、ステロイド依存性LNに罹患しているヒト対象を同定する工程をさらに含む。
【0607】
本明細書中の開示されたどの態様でも、MASP-2阻害抗体は、以下の特徴:前記抗体は10nM以下のK
DでヒトMASP-2に結合する、前記抗体はMASP-2のCCP1ドメイン内にあるエピトープに結合する、前記抗体はインビトロアッセイにおいて1%ヒト血清中でのC3b沈着をIC
50 10nM以下で阻害する、前記抗体は90%ヒト血清中でのC3b沈着をIC
50 30nM以下で阻害する、前記抗体は、Fv、Fab、Fab'、F(ab)
2、およびF(ab')
2からなる群より選択される抗体断片である、前記抗体は単鎖分子である、前記抗体はIgG2分子である、前記抗体はIgG1分子である、前記抗体はIgG4分子である、IgG4分子はS228P変異を含む、の少なくとも1つまたは複数を示す。一態様において、前記抗体はMASP-2に結合し、レクチン経路を選択的に阻害し、古典経路を実質的に阻害しない(すなわち、古典的補体経路を完全な状態のままにしておきながらレクチン経路を阻害する)。
【0608】
一態様において、MASP-2阻害抗体は、腎機能に関連する少なくとも1つまたは複数の臨床パラメータを改善するために有効な量で、例えば、タンパク尿の改善(例えば、uACRの減少、および/または24時間の尿タンパク質濃度の減少、例えば、20パーセント超の24時間の尿タンパク質排泄の低下、もしくは、例えば、30パーセント超の24時間の尿タンパク質排泄の低下、もしくは、例えば、40パーセント超の24時間の尿タンパク質排泄の低下、もしくは、例えば、50パーセント超の24時間の尿タンパク質排泄の低下)に有効な量で、LNに罹患している対象に投与される。一部の態様において、MASP-2阻害抗体は、少なくともタンパク尿の部分寛解(すなわち、ベースラインと比較して24時間の尿タンパク質排泄の50パーセント超の低下)をもたらすために有効な量で、LNに罹患している対象に投与される。
【0609】
一部の態様において、前記方法は、第1の期間(例えば、少なくとも1日〜1週間もしくは2週間もしくは3週間もしくは4週間またはそれより長く)にわたってカテーテルを介して(例えば、静脈内に)、LN(例えば、ステロイド依存性LN)に罹患している対象にMASP-2阻害抗体を投与する工程を含み、その後に、第2の期間(例えば、少なくとも2週間またはそれより長い慢性期)にわたって対象にMASP-2阻害抗体を皮下投与する工程を含む。
【0610】
一部の態様において、前記方法は、MASP-2阻害抗体を、LN(例えば、ステロイド依存性LN)に罹患している対象に静脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与する工程を含む。処置は長期にわたってもよく、毎日〜毎月投与されてもよいが、好ましくは、少なくとも2週間ごとに、または少なくとも週1回、例えば、週2回もしくは週3回投与される。
【0611】
一態様において、前記方法は、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列のCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域を含む、ある量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を対象に投与する工程を含む、LN(例えば、ステロイド依存性LN)に罹患している対象を治療する工程を含む。一部の態様において、前記組成物は、(a)(i)SEQ ID NO:67の31〜35のアミノ酸配列を含む重鎖CDR-H1;および(ii)SEQ ID NO:67の50〜65のアミノ酸配列を含む重鎖CDR-H2;および(iii)SEQ ID NO:67の95〜107のアミノ酸配列を含む重鎖CDR-H3を含む、重鎖可変領域、ならびに(b)(i)
SEQ ID NO:69の24〜34のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR-L1;および(ii)
SEQ ID NO:69の50〜56のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR-L2;および(iii)
SEQ ID NO:69の89〜97のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR-L3を含む、軽鎖可変領域を含む、MASP-2阻害抗体、あるいは(II)SEQ ID NO:67と少なくとも90%の同一性(例えば、SEQ ID NO:67と少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性)を有する重鎖可変領域、および
SEQ ID NO:69と少なくとも90%の同一性(例えば、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性)を有する軽鎖可変領域を含む、その変種を含む。
【0612】
一部の態様において、前記方法は、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、ある量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を、LN(例えば、ステロイド依存性LN)に罹患している対象に投与する工程を含む。
【0613】
一部の態様において、前記方法は、SEQ ID NO:67に示した重鎖可変領域および
SEQ ID NO:69に示した軽鎖可変領域を含む参照抗体OMS646が認識する、ヒトMASP-2上のエピトープの少なくとも一部を特異的に認識する、MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を、LN(例えば、ステロイド依存性LN)に罹患している対象に投与する工程を含む。
【0614】
一部の態様において、前記方法は、LN(例えば、ステロイド依存性LN)に罹患しているか、またはこれを発症するリスクがある対象に、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を、1mg/kg〜10mg/kg(すなわち、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、または10mg/kg)の投与量で、少なくとも週1回(例えば、少なくとも週2回または少なくとも週3回)、少なくとも3週間、または少なくとも4週間、または少なくとも5週間、または少なくとも6週間、または少なくとも7週間、または少なくとも8週間、または少なくとも9週間、または少なくとも10週間、または少なくとも11週間、または少なくとも12週間の期間で投与する工程を含む。
【0615】
実施例21
本実施例は、実施例19に記載のように、IgANを含む糸球体症に罹患している成人患者における、タンパク尿の低減に関する完全ヒトモノクローナルMASP-2阻害抗体、OMS646の安全性および臨床的有効性を評価するための、継続中の第2相臨床試験で得られた追加の結果について説明する。
【0616】
方法:
実施例19に記載のように、第2相試験は治験登録時にコルチコステロイドを服用していたIgAN患者を含む。患者全員が非盲検様式でOMS646を服用し、2人のIgAN患者から肯定的な結果が得られた。今では、実施例19に記載の方法を用いて、もう2人のIgAN患者への投薬が完了しており、合計4人のIgAN患者が本試験を完了している。
【0617】
本試験に組み入れるために、IgAN患者は、(1)生検によってIgANと診断されており、(2)uACR>0.6g/gであり、(3)eGFR≧30mL/分/1.73m
2であり、(4)安定ACEI/ARB処置を受けて血圧が調節されており、(5)少なくとも12週間にわたって安定ステロイド用量≧10mgのプレドニゾンを服用していなければならない。
【0618】
本試験においてOMS646で処置した4人の成人IgAN患者全員には、すでに罹患している腎機能低下があり、登録時の推算糸球体濾過量(eGFR)は30〜46mL/mg/1.73m
2であり、24時間タンパク質の測定値は2.44〜4.87g/24時間であった。治験登録時に患者全員が安定したレニン-アンジオテンシン系(RAS)遮断と少なくとも3ヶ月のコルチコステロイド処置を受けていた。
【0619】
患者全員にOMS646を12週間にわたって週1回、IVで与えた。患者は、4週間の導入期間(run-in period)と、それに続く、安定ステロイド用量を服用する4週間と、忍容性が認められた場合はステロイドを漸減する4週間と、漸減したステロイド用量を服用する4週間を含むOMS646処置を受けた。OMS646処置後、本試験では、さらにもう6週間にわたって患者を経過観察した。試験完了後に試験責任者が患者を経過観察した。
【0620】
本試験における効力尺度は、処置前(ベースライン)に6回測定し、処置中および経過観察中に、それぞれの効力評価時に3回測定した(1)尿アルブミン/クレアチニン比(uACR)と、(2)OMS646処置前に1回測定し、OMS646処置完了の2〜4週間後に1回測定した24時間の尿タンパク質であった。プロトコールによって、臨床上適切であれば4週目と8週目の間にコルチコステロイドを漸減した。
【0621】
結果:
4人のIgAN患者は処置後6週間の経過観察期間を完了した。表14は、これらの患者の人口統計学およびベースライン特徴を示す。
【0622】
(表14)人口統計学およびベースライン特徴
eGFR-推算糸球体濾過量;SSA-標準的な表面積(1.73m
2);uACR-尿アルブミン/クレアチニン比
【0623】
OMS646処置中に患者全員がタンパク尿の著しい低減を示した。
図41および42に示したように、uACRと24時間タンパク質測定の両方で統計的かつ臨床的に有意な改善が観察された。
【0624】
図41は、OMS646で処置した4人のIgAN患者のuACR(mg/g)をベースラインから120日まで経時的に図示する。
図41に示したように、ベースラインから試験終了までuACRの平均は1.13g/g±0.27減少した(77%の低減、p=0.026)。
図41にさらに示したように、OMS646処置後、最後の経過観察来診時に各患者のuACRはベースラインと比べて94%、86%、47%、および89%(それぞれ、患者1〜4)少なかった。
【0625】
図42は、OMS646で処置した4人のIgAN患者における、処置前の1日目のベースラインから処置後の24時間の尿タンパク質の変化を図示する。
図42に示したように、24時間の尿タンパク質はベースラインから54%、81%、63%、および95%(それぞれ、患者1〜4)減少した。
【0626】
図43は、OMS646で処置した4人のIgAN患者における、ベースラインから処置後の24時間の尿タンパク質の変化の平均を図示する。
図43に示したように、24時間の尿タンパク質の平均は2.87±1.08g/24時間減少した(73%の低減;p=0.013)。
【0627】
患者全員が試験期間中または試験期間後すぐにコルチコステロイドを中断することができた。このことから、タンパク尿に対するOMS646の効果はコルチコステロイドに関連する可能性が低いと証明された。推算糸球体濾過量(eGFR)(Modification of Diet in Renal Disease Formulaによって計算した)は処置期間および経過観察期間全体を通して安定していた。患者全員においてOMS646の忍容性は良好であった。
【0628】
要約すると、この非盲検第2相臨床研究において、OMS646で12週間処置したIgAN患者全員においてuACRの有意かつ持続的な減少が観察された。患者全員において24時間タンパク尿は有意に低減した。観察されたタンパク尿低減の程度は腎臓予後と臨床アウトカムの大幅な改善と関係づけられている(Inker L. A. et al., Am J Kidney Dis 68(3):392-401 (2016))。レクチン補体経路の効果を取り消す、MASP-2に対するモノクローナル抗体であるOMS646を用いた処置後にステロイド中止を可能にする非常に大きなタンパク尿低減が発見されたことから、IgA糸球体症におけるアウトカムを改善するための治療剤としてのOMS646の使用が裏付けられた。IgAN患者におけるOMS646の効果は底堅く、かつ首尾一貫している。このことから、この集団おいて効力があることが証明された。
【0629】
実施例22
IgA腎症(IgAN)患者におけるOMS646処置完了後の寛解の維持
背景/基本原理:
実施例19および21に記載のように、IgAN患者における第2相試験において、4人のIgAN患者を、MASP-2活性を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体であるOMS646で処置した。実施例19および21に記載のように、患者全員にOMS646を12週間にわたって週1回、IVで与えた。実施例21に記載のように、OMS646処置後、本試験において、さらにもう6週間にわたって患者を経過観察した。OMS646で処置したIgAN患者全員が部分寛解(24時間の尿タンパク質排泄の低下が50パーセント超である、および/または結果として生じるタンパク質排泄が1000mg/day未満であると定義される)を示した。本実施例に記載のように、試験後に、これら4人の患者を追跡し、OMS646処置後の寛解期間を評価した。
【0630】
方法:
実施例21に記載の第2相臨床試験が完了した後に、試験責任者は、OMS646で処置した4人のIgAN患者を経過観察した。この試験においてエンドポイントはuACRと24時間タンパク尿であった。実施例21に記載のように、試験終了時に4人のIgAN患者全員が部分寛解した。試験後の経過観察において尿中タンパク質対クレアチニン比(uPCR)を測定した。それぞれのuPCR値に0.64を掛けることでuACR(尿アルブミン/クレアチニン比)に変換した(Zhao et al., Clin J Am Soc Nephrol 11:947-55, 2016を参照されたい)。
【0631】
結果:
OMS646処置後に患者全員が部分寛解した。3人の女性および1人の男性の平均年齢は42才であった。3人が白人、1人がアジア人である。平均eGFRは41mL/分/1.73m
2であり、登録時ステロイド用量の平均は55mgであった。経過観察は、最後のOMS646投薬の後、2〜10ヶ月に及んだ。実施例21に記載のように、平均uACRは試験中に77%(p=0.026)減少した。3人の患者は利用可能な経過観察中に部分寛解を維持した(それぞれ、12ヶ月で54%のuACR減少、12ヶ月で93%のuACR減少、および5ヶ月で78%のuACR減少)。1人の患者は7ヶ月でベースラインuACRの88%であった。3人の患者はまた、経過観察中に7ml/分/1.73m
2、13ml/分/1.73m
2、および7ml/分/1.73m
2だけ改善したeGFRも示した。4人目の患者のeGFRは安定していた。患者全員がステロイドを中断した。OMS646の忍容性は良好であった。
【0632】
要約すると、実施例21に記載のように、本試験に含まれるOMS646を用いた12週間の処置と処置後の6週間の期間中にIgAN患者のタンパク尿は有意に減少した。このタンパク尿の低減は処置完了後10ヶ月まで維持された。これらのデータは、IgA糸球体症におけるアウトカムを改善するための治療剤としてのOMS646の使用を裏付けるものである。
【0633】
OMS646を用いた1回12週間の処置経過後、約1年の経過観察時での本実施例に記載した4人の患者の状態に関する試験責任者からの最新情報の中で、4人の患者のうち3人がタンパク尿低減を維持したと報告された。これら3人の患者のuACRは、OMS646処置前の患者ベースライン値の14パーセント、23パーセント、および24パーセントで少ないままであった。さらに、本試験後、4人の患者のうち3人において、腎機能の尺度である推算糸球体濾過量(eGFR)の改善が観察された。腎機能が最もひどく低下していた患者のeGFRは30mL/分/1.73m
2から47mL/分/1.73m
2に改善し、これは57パーセントの改善であった。
【0634】
要約すると、1回のOMS646処置経過が完了した後、1年経過観察時に持続的なタンパク尿低減は強い印象を与え続けた。eGFRにおいて観察された改善は、特に1年の経過観察時では予想外のことである。なぜなら、このことは、明らかになるのに、もっとかなりの時間がかかると予想されたからである。前記のように4人の患者のうち2人がeGFRのわずかな増加を示し、これらの患者のうち1人が、人を興奮させる50パーセント改善の応答を示した。eGFRにおいて観察された改善から、OMS646は、潜在的に透析を防ぐことで、または透析が必要になるまでの時間を大幅に延ばし、慢性腎疾患の進行に関連する合併症のリスクを小さくすることで患者にさらなる利益を提供できることが分かる。
【0635】
前述に従って、一態様では、本発明は、IgANに罹患しているヒト対象におけるタンパク尿を低減する方法であって、以下の投与計画:
(c) IgANに罹患している対象に約4mg/kg(すなわち、3.6mg/kg〜4.4mg/kg)の抗体を少なくとも12週間の処置期間にわたって週1回、静脈内投与する工程;または
(d) IgANに罹患している対象に約180mg〜約725mg(すなわち、162mg〜797mg)の抗体を少なくとも12週間の処置期間にわたって週1回、静脈内投与する工程
に従い、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列のCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域を含む、MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を、対象に投与する工程
を含み、前記ヒト対象におけるタンパク尿を低減する、方法を提供する。
【0636】
一態様において、MASP-2阻害抗体の投与量は、約4mg/kg(すなわち、3.6mg/kg〜4.4mg/kg)、例えば、約3.6mg/kg、約3.7mg/kg、約3.8mg/kg、約3.9m/kg、約4.0mg/kg、約4.1mg/kg、約4.2mg/kg、約4.3mg/kg、または約4.4mg/kgである。
【0637】
一態様において、MASP-2阻害抗体の投与量は、約180mg〜約725mg(すなわち、160mg〜800mg、または約300mg〜500mg、例えば、約300mg〜約400mg)の、ある決まった用量、例えば、約160mg、約165mg、約170mg、約175mg、約180mg、約185mg、約190mg、約195mg、約200mg、約205mg、約210mg、約215mg、約220mg、約225mg、約230mg、約240mg、約245mg、約250mg、約255mg、約260mg、約265mg、約270mg、約275mg、約280mg、約285mg、約290mg、約295mg、約300mg、約305mg、約310mg、約315mg、約320mg、約325mg、約330mg、約335mg、約340mg、約345mg、約350mg、約355mg、約360mg、約365mg、約370mg、約375mg、約380mg、約385mg、約390mg、約395mg、約400mg、約405mg、約410mg、約415mg、約420mg、約425mg、約430mg、約435mg、約440mg、約445mg、約450mg、約455mg、約460mg、約465mg、約470mg、約475mg、約480mg、約485mg、約490mg、約495mg、約500mg、約505mg、約510mg、約515mg、約520mg、約525mg、約530mg、約535mg、約540mg、約545mg、約550mg、約555mg、約560mg、約565mg、約570mg、約575mg、約580mg、約585mg、約590mg、約595mg、約600mg、約605mg、約610mg、約615mg、約620mg、約625mg、約630mg、約635mg、約640mg、約645mg、約650mg、約655mg、約660mg、約665mg、約670mg、約675mg、約680mg、約685mg、約690mg、約695mg、約700mg、約705mg、約710mg、約715mg、約720mg、約725mg、約730mg、約735mg、約740mg、約745mg、約750mg、約755mg、約760mg、約765mg、約770mg、約775mg、約780mg、約785mg、約790mg、約795mg、または約800mgである。
【0638】
一態様において、処置期間は12週間である。
【0639】
一態様において、処置期間の後に、少なくとも2ヶ月の休止期間(すなわち、MASP-2阻害因子の投与なし)、または少なくとも3ヶ月の休止期間、または少なくとも4ヶ月の休止期間、または少なくとも5ヶ月の休止期間、または少なくとも6ヶ月の休止期間、またはそれより長い休止期間、例えば、少なくとも7ヶ月の休止期間、または少なくとも8ヶ月の休止期間、または少なくとも9ヶ月の休止期間、または少なくとも10ヶ月の休止期間、または少なくとも11ヶ月の休止期間、または少なくとも12ヶ月の休止期間、またはそれより長い休止期間がある。
【0640】
一部の態様において、前記方法は、処置期間および/または休止期間の間に、対象における尿中タンパク質レベルを定期的にモニタリングする工程、および任意で、タンパク尿の再発が発見されたらMASP-2阻害抗体による処置を再開する工程をさらに含む。
【0641】
一部の態様において、前記方法は、IgANに罹患している対象においてタンパク尿を処置期間の終了時および/または休止期間の終了時に確かめた時に、ベースライン(処置前)から少なくとも30%低減するか、例えば、少なくとも40%低減するか、または少なくとも50%低減するか、または50%超低減するために有効である。
【0642】
一部の態様において、前記方法は、IgANに罹患している対象において推算糸球体濾過量(eGFR)を増やすために有効である。
【0643】
一部の態様において、IgANに罹患している対象は、処置前に、24時間の尿タンパク質排泄あたりタンパク質1グラム超のタンパク尿を有しており、前記方法は、前記対象におけるタンパク尿を処置期間の終了時および/もしくは休止期間の終了時に確かめた時にベースライン(処置前)から少なくとも30%低減するか、例えば、少なくとも40%低減するか、もしくは少なくとも50%低減するか、もしくは50%超低減するために有効である、ならびに/またはタンパク尿を処置期間の終了時および/もしくは休止期間の終了時に確かめた時に、24時間の尿タンパク質排泄あたり1グラムのタンパク質より少ない量まで低減するために有効である。
【0644】
一部の態様において、最大耐量の血圧降下薬と良好に調節された血圧にもかかわらず、IgANに罹患している対象は、処置前に、24時間の尿タンパク質排泄あたりタンパク質1グラム超のタンパク質尿を有しており、前記方法は、前記対象におけるタンパク尿を処置期間の終了時および/もしくは休止期間の終了時に確かめた時に、ベースライン(処置前)から少なくとも30%低減するか、例えば、少なくとも40%低減するか、もしくは少なくとも50%低減するか、もしくは50%超低減するために有効である、ならびに/またはタンパク尿を処置期間の終了時および/もしくは休止期間の終了時に確かめた時に、24時間の尿タンパク質排泄あたり1グラム未満のタンパク質まで低減するために有効である。
【0645】
一部の態様において、IgANに罹患している対象は、少なくとも1年間、ステロイドで処置されていない。一部の態様において、IgANに罹患している対象は、OMS646を用いた12週間の処置の少なくとも一部分の間にステロイド処置を受けている。一部の態様において、IgANに罹患している対象は、OMS646を用いた12週間の処置の少なくとも一部分の間にステロイド処置を受けており、前記方法は、処置期間の終了までに、および/または休止期間の終了時にタンパク尿を低減し、ステロイド処置の必要性を低減するか、または排除するために有効である。
【0646】
他の態様
本明細書において言及される刊行物、特許出願、および特許は全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0647】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本発明の説明された方法および組成物の様々な修正および変更が当業者に明らかである。本発明は、特定の望ましい態様に関連して説明されたが、請求された本発明は、このような特定の態様に過度に限定されてはならないことが理解されるはずである。
【0648】
上記にしたがって、本発明は、以下の態様を特徴とする。
【0649】
1A. 線維症および/もしくは炎症によって引き起こされるかもしくは悪化する疾患もしくは障害に罹患しているか、またはこれを発症するリスクがある哺乳動物対象において、線維症を治療、阻害、軽減、または予防するための方法であって、線維症を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を該対象に投与する工程を含む、方法。
2A. MASP-2阻害物質がMASP-2抗体またはその断片である、パラグラフ1A記載の方法。
3A. MASP-2阻害物質が、SEQ ID NO:6の一部に特異的に結合するMASP-2モノクローナル抗体またはその断片である、パラグラフ2A記載の方法。
4A. MASP-2抗体またはその断片が、SEQ ID NO:6を含むポリペプチドに、補体系の別の抗原に結合するよりも少なくとも10倍高い親和性で特異的に結合する、パラグラフ2A記載の方法。
5A. 抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、パラグラフ2A記載の方法。
6A. MASP-2阻害物質が、C1q依存性補体活性化を実質的に阻害することなくレクチン経路補体活性化を選択的に阻害する、パラグラフ1A記載の方法。
7A. MASP-2阻害物質が、皮下投与されるか、腹腔内投与されるか、筋肉内投与されるか、動脈内投与されるか、静脈内投与されるか、または吸入剤として投与される、パラグラフ1A記載の方法。
8A. 線維症および/または炎症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害が、虚血再灌流傷害に関連する、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
9A. 線維症および/または炎症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害が、虚血再灌流傷害に関連しない、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
10A. 対象が、MASP-2阻害物質の投与前にタンパク尿を示し、MASP-2阻害物質の投与によって該対象のタンパク尿が減少する、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
11A. 対象が、腎臓の線維症および/または腎臓の炎症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
12A. MASP-2阻害物質が、尿細管間質性線維症を阻害するために有効な量で投与される、パラグラフ11A記載の方法。
13A. MASP-2阻害物質が、対象における透析の必要性を低減するか、遅延させるか、または排除するために有効な量で投与される、パラグラフ11A記載の方法。
14A. 疾患または障害が、慢性腎疾患、慢性腎不全、腎糸球体疾患(例えば、巣状分節性糸球体硬化症)、免疫複合体障害(例えば、IgA腎症、膜性腎症)、ループス腎炎、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、尿細管間質損傷、および糸球体腎炎(例えば、C3糸球体症)からなる群より選択される、パラグラフ11A記載の方法。
15A. 対象が、肺の線維症および/または肺の炎症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
16A. 疾患または障害が、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、強皮症に関連する肺線維症、気管支拡張症、および肺高血圧症からなる群より選択される、パラグラフ15A記載の方法。
17A. 対象が、肝臓の線維症および/または肝臓の炎症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
18A. 疾患または障害が、硬変、非アルコール性脂肪性肝疾患(脂肪性肝炎)、アルコール乱用に続発する肝線維症、急性肝炎または慢性肝炎に続発する肝線維症、胆管疾患、および中毒性肝傷害(例えば、アセトアミノフェンまたは他の薬物、例えば、ネフロトキシンによって誘発される薬物性肝損傷による肝毒性)からなる群より選択される、パラグラフ17A記載の方法。
19A. 対象が、心臓の線維症および/または心臓の炎症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
20A. 疾患または状態が、心臓線維症、心筋梗塞、心臓弁線維症、心房線維症、心内膜心筋線維症、不整脈原性右室心筋症(ARVC)からなる群より選択される、パラグラフ19A記載の方法。
21A. 対象が、血管の線維症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
22A. 疾患または障害が、血管疾患、アテローム動脈硬化性血管疾患、血管狭窄、再狭窄、脈管炎、静脈炎、深部静脈血栓、および腹部大動脈瘤からなる群より選択される、パラグラフ21A記載の方法。
23A. 対象が、皮膚の線維症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
24A. 疾患または障害が、過剰な創傷治癒、強皮症、全身性硬化症、ケロイド、結合組織病、瘢痕、および肥厚性瘢痕からなる群より選択される、パラグラフ23A記載の方法。
25A. 対象が、関節の線維症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
26A. 疾患または障害が関節線維症である、パラグラフ2A5記載の方法。
27A. 対象が、中枢神経系の線維症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
28A. 疾患または障害が、脳卒中、外傷性脳傷害、および脊髄傷害からなる群より選択される、パラグラフ27A記載の方法。
29A. 対象が、消化器系の線維症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
30A. 疾患または障害が、クローン病、膵臓線維症、および潰瘍性大腸炎からなる群より選択される、パラグラフ29A記載の方法。
31A. 対象が、眼の線維症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
32A. 疾患または障害が、前嚢下白内障、後嚢混濁、黄斑変性、ならびに網膜および硝子体の網膜症からなる群より選択される、パラグラフ31A記載の方法。
33A. 対象が、筋骨格の骨または軟部組織構造の線維症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
34A. 疾患または障害が、骨粗鬆症および/または嚢胞性線維症に関連する骨減少、骨線維症の増加を伴う骨髄異形成状態、癒着性関節包炎、デュプュイトラン拘縮、ならびに骨髄線維症からなる群より選択される、パラグラフ33A記載の方法。
35A. 対象が、生殖器の線維症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
36A. 疾患または障害が、子宮内膜症およびペーロニー病からなる群より選択される、パラグラフ35A記載の方法。
37A. 対象が、線維症および/または炎症を引き起こす慢性感染症に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
38A. 感染症が、アルファウイルス、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、結核、HIV、およびインフルエンザからなる群より選択される、パラグラフ37A記載の方法。
39A. 対象が、線維症および/または炎症を引き起こす自己免疫疾患に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
40A. 自己免疫疾患が、強皮症および全身性エリテマトーデス(SLE)からなる群より選択される、パラグラフ39A記載の方法。
41A. 対象が、外傷に関連する瘢痕に罹患している、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
42A. 外傷に関連する瘢痕が、手術合併症(例えば、瘢痕組織が内蔵間で形成して拘縮、疼痛の原因となることがあり、不妊の原因となることがある、手術に起因する癒着)、化学療法薬誘発性線維症、放射線誘発性線維症、および火傷に関連する瘢痕からなる群より選択される、パラグラフ41A記載の方法。
43A. 線維症および/または炎症によって引き起こされるかまたは悪化する疾患または障害が、臓器移植、乳房線維症、筋肉線維症、後腹膜線維症、甲状腺線維症、リンパ節線維症、膀胱線維症、および胸膜線維症からなる群より選択される、パラグラフ1A〜7Aのいずれか一つに記載の方法。
1B. タンパク尿に関連する疾患または状態に罹患している対象において腎損傷を予防または低減する方法であって、該対象においてタンパク尿を低減または予防するために有効な量のMASP-2阻害物質を投与する工程を含む、方法。
2B. MASP-2阻害物質がMASP-2阻害抗体またはその断片である、パラグラフ1B記載の方法。
3B. MASP-2阻害物質が、処置前のベースラインの24時間の尿タンパク質排泄と比較して24時間の尿タンパク質排泄の少なくとも20%低下を達成するために有効な量および時間で投与される、パラグラフ1Bまたは2B記載の方法。
4B. タンパク尿に関連する疾患または状態が、ネフローゼ症候群、子癇前症、子癇、腎臓の毒性病変、アミロイドーシス、コラーゲン血管疾患(例えば、全身性エリテマトーデス)、ループス腎炎、脱水、腎糸球体疾患(例えば、膜性糸球体腎炎、巣状分節性糸球体腎炎、C3糸球体症、微小変化群、リポイドネフローゼ)、激しい運動、ストレス、良性直立位(起立性)タンパク尿、巣状分節性糸球体硬化症、IgA腎症(すなわち、ベルジェ病)、IgM腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症、微小変化群、類肉腫症、アルポート症候群、糖尿病(糖尿病性腎症)、薬物誘発性毒性(例えば、NSAIDS、ニコチン、ペニシラミン、炭酸リチウム、金および他の重金属、ACE阻害因子、抗生物質(例えば、アドリアマイシン)またはオピエート(例えば、ヘロイン)または他のネフロトキシン);ファブリー病、感染症(例えば、HIV、梅毒、A型肝炎、B型肝炎、またはC型肝炎、連鎖球菌感染後感染症、尿路住血吸虫症);アミノ酸尿、ファンコニー症候群、高血圧性腎硬化症、間質性腎炎、鎌状赤血球症、ヘモグロビン尿、多発性骨髄腫、ミオグロビン尿、臓器拒絶反応(例えば、腎移植拒絶反応)、エボラ出血熱、爪膝蓋骨症候群、家族性地中海熱、HELLP症候群、全身性エリテマトーデス、ウェゲナー肉芽腫症、関節リウマチ、1型糖原病、グッドパスチャー症候群、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、腎臓に広がった尿路感染症、シェーグレン症候群、ならびに感染後糸球体腎炎からなる群より選択される、パラグラフ1B〜3Bのいずれか一つに記載の方法。
5B. タンパク尿に関連する疾患または状態がIgA腎症(すなわち、ベルジェ病)である、パラグラフ1B〜3Bのいずれか一つに記載の方法。
6B. タンパク尿に関連する疾患または状態が膜性腎症である、パラグラフ1B〜3Bのいずれか一つに記載の方法。
7B. タンパク尿に関連する疾患または状態がループス腎炎である、パラグラフ1B〜3Bのいずれか一つに記載の方法。
1C. 慢性腎疾患の進行を阻害する方法であって、慢性腎疾患の進行の阻害を必要とする対象において尿細管間質性線維症を低減または予防するために有効な量のMASP-2阻害物質を投与する工程を含む、方法。
2C. MASP-2阻害物質がMASP-2阻害抗体またはその断片である、パラグラフ1C記載の方法。
3C. 前記阻害を必要とする対象が、MASP-2阻害物質の投与前にタンパク尿を示し、該対象が、処置前の対象におけるベースラインの24時間の尿タンパク質排泄と比較して24時間の尿タンパク質排泄の少なくとも20%低下を有するように、MASP-2阻害物質の投与によって該対象のタンパク尿が減少する、パラグラフ1C記載の方法。
4C. MASP-2阻害物質が、対象における透析の必要性を低減するか、遅延させるか、または排除するために有効な量で投与される、パラグラフ1C記載の方法。
1D. 1種もしくは複数種の腎毒性剤を用いた処置を受けたことがある対象、1種もしくは複数種の腎毒性剤を用いた処置を受けている対象、または1種もしくは複数種の腎毒性剤を用いた処置を受ける予定の対象において、腎傷害から腎臓を保護する方法であって、薬物誘発性腎症の発症を予防するかまたは寛解させるために有効な量のMASP-2阻害物質を投与する工程を含む、方法。
2D. MASP-2阻害物質がMASP-2阻害抗体またはその断片である、パラグラフ1D記載の方法。
3D. 腎毒性剤の前にMASP-2阻害物質が投与される、パラグラフ1D記載の方法。
4D. MASP-2阻害物質が腎毒性剤と同時に同時投与される、パラグラフ1D記載の方法。
5D. 腎毒性を治療するための腎毒性剤の後にMASP-2阻害物質が投与される、パラグラフ1D記載の方法。
1E. 免疫グロブリンA腎症(IgAN)に罹患しているヒト対象を治療する方法であって、MASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
2E. 対象がステロイド依存性IgANに罹患している、パラグラフ1E記載の方法。
3E. MASP-2阻害抗体が、ヒトMASP-2に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその断片である、パラグラフ1Eまたは2E記載の方法。
4E. 抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、パラグラフ1E〜3Eのいずれか一つに記載の方法。
5E. MASP-2阻害抗体が古典経路を実質的に阻害しない、パラグラフ1E〜4Eのいずれか一つに記載の方法。
6E. MASP-2阻害抗体が、90%ヒト血清中でのC3b沈着をIC
50 30nM以下で阻害する、パラグラフ1E〜5Eのいずれか一つに記載の方法。
7E. 腎機能を改善するために有効な量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を対象に投与する工程の前に、ステロイド依存性IgANを有するヒト対象を同定する工程をさらに含む、パラグラフ2E記載の方法。
8E. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、腎機能を改善するために有効な量で投与される、パラグラフ1E〜7Eのいずれか一つに記載の方法。
9E. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、処置前の対象におけるベースラインの24時間の尿タンパク質排泄と比較して24時間の尿タンパク質排泄の少なくとも20%低下を達成するために有効な量および十分な時間で投与される、パラグラフ8E記載の方法。
10E. 組成物が、対象における腎機能を改善しかつコルチコステロイド投与量を低減するために十分な量で投与される、パラグラフ1E記載の方法。
11E. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列のCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域を含む、パラグラフ1E〜10Eのいずれか一つに記載の方法。
1F. 膜性腎症(MN)に罹患しているヒト対象を治療する方法であって、MASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
2F. 対象がステロイド依存性MNに罹患している、パラグラフ1F記載の方法。
3F. MASP-2阻害抗体が、ヒトMASP-2に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその断片である、パラグラフ1Fまたは2F記載の方法。
4F. 抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、パラグラフ1F〜3Fのいずれか一つに記載の方法。
5F. MASP-2阻害抗体が古典経路を実質的に阻害しない、パラグラフ1F〜4Fのいずれか一つに記載の方法。
6F. MASP-2阻害抗体が、90%ヒト血清中でのC3b沈着をIC
50 30nM以下で阻害する、パラグラフ1F〜5Fのいずれか一つに記載の方法。
7F. 腎機能を改善するために有効な量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を対象に投与する工程の前に、ステロイド依存性MNを有するヒト対象を同定する工程をさらに含む、パラグラフ1F記載の方法。
8F. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、腎機能を改善するために有効な量で投与される、パラグラフ1F〜7Fのいずれか一つに記載の方法。
9F. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、処置前の対象におけるベースラインの24時間の尿タンパク質排泄と比較して24時間の尿タンパク質排泄の少なくとも20%低下を達成するために有効な量および十分な時間で投与される、パラグラフ8F記載の方法。
10F. 組成物が、対象における腎機能を改善しかつコルチコステロイド投与量を低減するために十分な量で投与される、パラグラフ1Fまたは2F記載の方法。
11F. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列のCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域を含む、パラグラフ1F〜10Fのいずれか一つに記載の方法。
1G. ループス腎炎(LN)に罹患しているヒト対象を治療する方法であって、MASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を、対象に投与する工程を含む、方法。
2G. 対象がステロイド依存性LNに罹患している、パラグラフ1G記載の方法。
3G. MASP-2阻害抗体が、ヒトMASP-2に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその断片である、パラグラフ1Gまたは2G記載の方法。
4G. 抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、パラグラフ1G〜3Gのいずれか一つに記載の方法。
5G. MASP-2阻害抗体が古典経路を実質的に阻害しない、パラグラフ1G〜4Gのいずれか一つに記載の方法。
6G. MASP-2阻害抗体が、90%ヒト血清中でのC3b沈着をIC
50 30nM以下で阻害する、パラグラフ1G〜5Gのいずれか一つに記載の方法。
7G. 腎機能を改善するために有効な量のMASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を前記対象に投与する工程の前に、ステロイド依存性LNを有するヒト対象を同定する工程をさらに含む、パラグラフ1G記載の方法。
8G. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、腎機能を改善するために有効な量で投与される、パラグラフ1G〜7gのいずれか一つに記載の方法。
9G. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、処置前の対象におけるベースラインの24時間の尿タンパク質排泄と比較して24時間の尿タンパク質排泄の少なくとも20パーセント低下を達成するために有効な量および十分な時間で投与される、パラグラフ8G記載の方法。
10G. 組成物が、前記対象における腎機能を改善しかつコルチコステロイド投与量を低減するために十分な量で投与される、パラグラフ1Gまたは2G記載の方法。
11G. MASP-2阻害抗体またはその抗原結合断片が、SEQ ID NO:67に示したアミノ酸配列のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
SEQ ID NO:69に示したアミノ酸配列のCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域を含む、パラグラフ1G〜10Gのいずれか一つに記載の方法。
【0650】
例示的な態様が例示および説明されたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更を加えることができると理解される。