(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化スズに含まれるn型不純物が、アンチモン、フッ素、リン、ヒ素及びビスマスから選ばれる1種であり、酸化スズに含まれるp型不純物が、インジウム、アルミニウム、亜鉛及びガリウムから選ばれる1種であり、酸化インジウムに含まれるn型不純物が、スズ、チタン、ゲルマニウム及びジルコニウムから選ばれる1種であり、酸化インジウムに含まれるp型不純物が、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛から選ばれる1種であり、基板が、ガラス、石英、サファイア、セラミックス、マイカ及びシリコンから選ばれる1種からなる、請求項7に記載の温度測定具。
【背景技術】
【0002】
液晶、半導体、ガラス、セラミックスなどの製造分野では、多くの熱処理工程が設けられており、その温度領域は製品の特性により異なる。例えば、液晶の熱処理ではガラス基板を用いるため150〜400℃、半導体の熱処理ではシリコン基板を用いるためそれより高温の150〜600℃、ガラスやセラミックス製品の熱処理ではさらに高温の600〜1000℃付近での熱処理が多用されている。
【0003】
これらの熱処理工程の温度管理には、温度領域や熱処理炉の構造に対応して各種の温度測定方法が用いられている。例えば、熱電対による測定は、異種金属の接合点で生じる熱起電力を測定することにより、低温から高温まで簡便かつ正確に測定できるため最も広く用いられている。また、赤外放射温度計による測定は、測定対象物が放射する赤外線の強度を測定することにより、非接触的に高速に測定することができる。
【0004】
しかし、熱電対による測定は電気的に接続するための配線が必要であり、また熱電対先端を測定する箇所に正確に設置する必要があるため、製品が搬送経路を移動しながら加熱される搬送式の熱処理工程で用いることは困難である。
また、赤外放射温度計による測定は、赤外線センサを遮るものなく測定対象物に直接向ける必要があり、真空減圧容器内で加熱される密閉式の熱処理工程で用いることは困難である。
【0005】
そこで、製品の近傍にラベルや測定具を配置することで、搬送式や密閉式の熱処理工程にも柔軟に対応することができる温度測定方法や測定具が開発されている。
例えば、示温ラベルは、樹脂フィルム間に封入された脂肪酸やワックスが、所定の温度で融解して生じる色変化により温度を記録するラベルであり、最高到達温度や温度分布を簡便に測定することができる。
【0006】
また、セラミックス成形体の焼結時の体積変化を測定する方法や、ゼーゲルコーンを用いたセラミックスの軟化変形を利用した方法があり、配線等が不要で1000℃以上の高温領域での測定が可能である。
【0007】
しかし、示温ラベルは樹脂部材を含むため、300℃以上の熱処理に用いることは難しい。また、セラミックス成形体を用いた測定方法は、通常1000℃以上の高温領域の測定に用いられ原理的にそれより低い温度領域では測定精度が低下し、ゼーゲルコーンによる測定方法は、その変形度を目視で確認して到達温度を推定するため測定精度が十分ではない。
【0008】
ここで、特許文献1には、硬質の基板上に成膜したアルミニウム薄膜の反射率が、受けた温度履歴に依存して低下する現象を利用して、最高到達温度を推定する温度測定方法等が開示されている。この方法は、配線等の付加物が不要で搬送式や密閉式の熱処理炉に用いることができ、150〜600℃程度の最高到達温度を簡便かつ正確に測定することができる。
【0009】
また、非特許文献1には、石英基板上に成膜したアンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜の可視から近赤外領域における特定波長の吸光度が、加熱温度や加熱時間に依存して単調に変化することが、本発明者らにより報告されている。この酸化物半導体膜の光学特性を利用することにより、搬送式や密閉式の熱処理炉に用いることができ、約300〜1000℃の広い温度領域において加熱温度や加熱時間を特定できる可能性が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の温度測定方法、温度測定具及び温度測定装置について、詳細に説明する。なお、説明が省略されている方法、材料、機能等については、当該技術分野の当業者に知られているものと同一又は実質的に同一のものとすることができるのは言うまでもない。
【0024】
本発明の温度測定方法、温度測定具及び温度測定装置は、n型不純物又はn型及びp型不純物を含む、酸化スズ膜又は酸化インジウム膜の電気抵抗値が、受けた温度履歴に依存して不可逆的に変化する特性を利用することが特徴である。
【0025】
なお、本発明において「不純物」とは、母材である酸化スズ(SnO
2)又は酸化インジウム(In
2O
3)の半導体特性を改良することを目的として、成膜材料や成膜工程において添加される微量元素(ドーパント)を意味する。「n型不純物」は自由電子を放出するドナー元素であり、「p型不純物」は正孔を放出するアクセプタ元素である。
【0026】
<温度測定方法>
本発明の温度測定方法で用いる温度測定具は、n型不純物を含む酸化スズ、又はn型不純物を含む酸化インジウムからなる記録層を含んでいる。
酸化スズに含まれるn型不純物としては、アンチモン、フッ素、リン、ヒ素、ビスマスなどが挙げられる。具体的にはアンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などが例示される。
【0027】
酸化インジウムに含まれるn型不純物としては、スズ、チタン、ゲルマニウム、ジルコニウムなどが挙げられる。具体的にはスズドープ酸化インジウム(ITO)、チタンドープ酸化インジウム(ITiO)などが例示される。
【0028】
また、本発明の温度測定方法で用いる温度測定具は、n型及びp型不純物を含む酸化スズ、又はn型及びp型不純物を含む酸化インジウムからなる記録層を含んでもよい。n型不純物に加えてp型不純物を添加することにより、特定の温度領域における抵抗値変化量を大きくすることができ、測定精度をさらに向上させることができる。
【0029】
酸化スズに含まれるp型不純物としては、インジウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウムなどが挙げられる。酸化インジウムに含まれるp型不純物としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などが挙げられる。
【0030】
本発明の温度測定方法では、上記温度測定具を熱処理する前に、その記録層の初期電気抵抗値を測定する。次に、初期電気抵抗値を測定した温度測定具を、測定対象物の近傍に配置して熱処理を行った後に、その記録層の加熱後電気抵抗値を測定する。
【0031】
初期電気抵抗値と加熱後電気抵抗値とを測定する、測定方法、測定機器、測定プローブ、測定環境(湿度・温度)などの測定条件は同一である。抵抗値の測定方法は接触式又は非接触式のいずれの方式でもよいが、測定精度の観点からは接触式が好ましい。
【0032】
また、本発明において「電気抵抗値を測定する」とは、電気抵抗値(Ω)から算出される体積抵抗率(Ω・cm)や表面抵抗率(Ω/sq)を、抵抗率計を用いて直接測定する場合を含むものとする。抵抗率は材料固有の物理量となることから、抵抗率を用いる場合には測定機器や測定プローブなどの同一性は必ずしも必要ではない。
【0033】
次に、初期電気抵抗値と加熱後電気抵抗値との間の変化量に基づいて、温度測定具の受けた温度履歴のうち最高到達温度を推定する。
抵抗値変化量に基づいて最高到達温度を推定する手法としては、抵抗値変化量を加熱温度に対してプロットしたグラフ又は抵抗値変化量と加熱温度との間の関係式を、予備試験により少なくとも1つ予め作成する。そして、このグラフ又は関係式に熱処理前後の抵抗値から算出した抵抗値変化量をプロット又は代入して推定する手法を用いることができる。
【0034】
また、初期電気抵抗値(R
0)及び加熱後電気抵抗値(R
a)をそのまま演算に用いると、膜厚や膜質のバラツキによる影響を受けやすいため、抵抗値変化量を抵抗比(R
a/R
0)として演算に用いることが好ましい。なお、これらの手法は抵抗率を用いる場合も同様である。
【0035】
ここで、測定対象となる製品により、加熱温度、加熱時間、雰囲気、炉内圧力等の熱処理工程の条件が異なる。また、温度測定具の記録層の種類等により、十分な抵抗値変化量を得ることができる温度領域が異なる。そのため、下記のような手順により予備試験を行う必要がある。
【0036】
最初に、測定対象となる熱処理条件を考慮して、記録層、基板等を選択し、大きな抵抗値変化量が得られ高い測定精度が期待できるテスト用の温度測定具を作製する。次に、このテスト用温度測定具の初期電気抵抗値を測定する。また、測定対象の熱処理条件とその調整範囲で熱処理を行い加熱後電気抵抗値を測定する。そして、熱処理前後の抵抗値の測定結果より、抵抗値変化量を加熱温度に対してプロットしたグラフ、又は抵抗値変化量と加熱温度との間の関係式を作成する。
【0037】
具体的には、後述する実施例1では、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜を合成石英ガラス基板上に成膜した温度測定具を、400〜700℃で30分間、大気雰囲気下で熱処理して検討している。
【0038】
熱処理前後の抵抗値の測定結果より抵抗比を算出して加熱温度に対してプロットしたところ、
図1に示すように抵抗比が加熱温度に依存して指数関数的に減少する温度依存性が認められた。
一方、抵抗比を加熱時間に対してプロットしたところ、
図3に示すように抵抗比は加熱時間が増加してもほぼ一定であり、時間依存性はほとんど認められなかった。
【0039】
したがって、同一条件で作製した温度測定具を用いて、熱処理前の初期電気抵抗値と上記熱処理条件範囲で熱処理後の加熱後電気抵抗値を測定し、測定結果から抵抗比を算出して、予め確認した上記温度依存性を示すグラフ又は関係式にプロット又は代入することにより、温度測定具が受けた最高到達温度を正確に推定することが可能となる。
【0040】
<温度測定具>
本発明の温度測定方法に用いる温度測定具は、n型不純物を含む酸化スズ、又はn型不純物を含む酸化インジウムからなる記録層を含んでいる。その種類は前述した温度測定方法と同一である。温度依存性の傾向から、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)及びフッ素ドープ酸化スズ(FTO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)及びチタンドープ酸化インジウム(ITiO)が好ましく、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)及びスズドープ酸化インジウム(ITO)がより好ましい。
【0041】
また、本発明の温度測定具は、n型及びp型不純物を含む酸化スズ、又はn型及びp型不純物を含む酸化インジウムからなる記録層を含んでいる。その種類は前述した温度測定方法と同一である。温度依存性の傾向から、In添加ATO、Ga添加ATO、In添加FTO、Ga添加FTO、Zn添加ITO、Ca添加ITO、Zn添加ITiO及びCa添加ITiOが好ましく、In添加ATO、Ga添加ATO、Zn添加ITO及びCa添加ITOがより好ましく、In添加ATO及びZn添加ITOがさらに好ましい。
【0042】
n型不純物及びp型不純物の母材となる酸化スズ又は酸化インジウムへの不純物添加量は、記録層の電気抵抗値が好適な範囲となれば特に限定されないが、抵抗値が市販の抵抗計を用いて測定できる範囲となることが望ましい。例えば、不純物添加量が1×10
17〜1×10
22/cm
3の範囲である。
【0043】
また、n型不純物が主にキャリアとして働き、p型不純物が結晶構造の歪みを緩和するなどの働きをすることから、n型不純物がp型不純物よりも多くドープされる。n型不純物とp型不純物とのドープ量の比は、好適な電気抵抗値と十分な抵抗値変化量が得られる範囲であれば特に限定されない。例えば、n型不純物がp型不純物の1.1倍以上、好ましくは1.1〜20倍の範囲である。
【0044】
記録層の成膜方法としては、スパッタリング法、蒸着法等の物理的気相法、熱CVD法、プラズマCVD法等の化学的気相法、ATOやITOなどの前駆体溶液やナノ粒子分散液を用いたスピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法等の液相成膜法が例示される。製造コストや膜質の観点からは液相成膜法が好ましい。
【0045】
また、本発明の温度測定具は、200℃以上の耐熱性を有する基板を含んでいる。その耐熱性は、200℃以上、好ましくは600℃以上の温度において、支持体としての一定の機械的強度を維持することが求められる。
【0046】
基板の種類としては、ソーダガラス、耐熱ガラス、溶融又は合成石英、サファイア、ジルコニア、アルミナなどのセラミックス、マイカ、シリコンなどが挙げられる。耐熱性、絶縁性及び製造コストの観点からは、耐熱ガラス及び石英が好ましい。
【0047】
特に、半導体の熱処理工程など測定対象によってはシリコンが好ましい。シリコン基板を用いる場合は、電気抵抗値に影響を与えないように記録層と基板の間にSiO
2の絶縁膜(熱酸化膜)を形成してもよい。この層間絶縁膜は本質的に電気絶縁性を有するものであればよく、SiO
2に限らずSi
3N
4などの絶縁膜(窒化膜)も用いることができる。
【0048】
記録層の膜厚は、薄いと膜にクラックが入りにくく剥離も生じにくい。一方、厚いと抵抗値が適度に抑えられ測定が安定する。良好な成膜性と好適な抵抗値が得られる範囲であれば特に限定はされない。
【0049】
また、シリコン基板上に形成する絶縁膜の膜厚は、厚いと高い絶縁性を得ることができる。十分な絶縁性が得られる範囲であれば特に限定されないが、例えばSiO
2(熱酸化膜)では、好ましくは0.1μm以上である。
【0050】
<温度測定装置>
本発明の温度測定装置は、本発明の温度測定方法に用いるための測定装置である。
その構成は、温度測定具を設置するための設置部と、2つ以上の電極片を有する接触式プローブ、又は1つ以上の誘導コイルを有する非接触式プローブと、前記電極片間に電流を供給して記録層の電気抵抗値を測定、又は前記誘導コイルに電流を供給して磁界を発生させ記録層の電気抵抗値を測定するための抵抗値測定部と、初期電気抵抗値と加熱後電気抵抗値との間の変化量に基づいて、前記温度測定具の受けた温度履歴のうち最高到達温度を算出する温度演算部と、を備える前記温度測定装置である。
【0051】
本発明の温度測定装置は接触式又は非接触式のいずれの方式でもよいが、測定精度の観点からは接触式が好ましい。接触式の場合には、接触式プローブが有する複数の電極片(電極探針)を温度測定具の記録層に接触させ、電極間に電流を供給して記録層の電気抵抗値を直接測定する。
【0052】
非接触式の場合には、非接触式プローブが有する誘導コイルを温度測定具の記録層に近接させ、誘導コイルに高周波電流を供給して高周波磁界を記録層に印加し、記録層に発生する渦電流によるインダクタンスの変化を検出して電気抵抗値を間接的に測定する。
【0053】
また、上記温度演算部における最高到達温度を推定する手段としては、前述した本発明の温度測定方法と同様に、予備試験により予め作成した抵抗値変化量と加熱温度との関係を示すグラフ又は関係式を入力・記憶させ、これに熱処理前後の抵抗値から演算・記憶した抵抗値変化量をプロット又は代入して算出する手段を用いることができる。
【0054】
なお、本発明の温度測定装置の上記各構成は、一般的な固体試料の抵抗値や抵抗率を測定する抵抗測定器の構成を採用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の温度測定方法等について、実施例及び比較例を参照して具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0056】
[実施例1]
(ATO膜の作製・評価)
25mm角、厚さ1mmの合成石英ガラス基板の表面に、ATO膜用コート材料(日揮触媒化成社製、ELCOM V−3560)をスピンコート法で均一に塗膜し、300℃で1時間、大気中電気炉で加熱してATO膜を成膜した。ATO膜の膜厚は0.7μmであった。
【0057】
次に、成膜したATO膜を大気中電気炉で熱処理した。最高到達温度400〜700℃で30分間保持した。温度は電気炉の熱電対の指示値を用いた。
作製したATO膜の熱処理前の初期電気抵抗値と熱処理後の加熱後電気抵抗値を、抵抗率計(三菱ケミカルアナリティック社製、ロレスターGP MCP−T610)を用いて測定した。
【0058】
[比較例1]
(ATO膜の作製・評価)
実施例1と同一の条件で合成石英ガラス基板上にATO膜を成膜した。また、実施例1と同一の条件で成膜したATO膜を熱処理した。
作製したATO膜の波長2300nmにおける熱処理前の初期透過率と熱処理後の加熱後透過率を、分光光度計(島津製作所社製、UV−3100PC)を用いて測定した。なお、上記石英基板をリファレンスとして測定した。
【0059】
(温度依存性の確認)
実施例1のATO膜の熱処理前後の初期電気抵抗値(R
0)と加熱後電気抵抗値(R
a)の測定結果から、抵抗比(R
a/R
0)を算出して抵抗比の温度依存性を確認した。抵抗比を加熱温度に対してプロットしたグラフを
図1に示す。
【0060】
また、比較例1のATO膜の熱処理前後の波長2300nmにおける初期透過率(T
0)と加熱後透過率(T
a)の測定結果から、吸光度比(log
10(1/T
a)/log
10(1/T
0))を算出して吸光度比の温度依存性を確認した。吸光度比を加熱温度に対してプロットしたグラフを
図2に示す。
【0061】
図1の結果より、抵抗比は加熱温度に依存して指数関数的に大きく減少しており、300〜500℃の温度領域では約1/10に減少することが分かる。
一方、
図2の結果より、波長2300nmの吸光度比は加熱温度に依存して単調増加するが、300〜500℃の温度領域では約3%の増加で変化量が小さいことが分かる。
【0062】
したがって、抵抗比の指数関数的に大きく変化する温度依存性を利用することにより、300〜500℃の比較的低温領域を含む700℃までの広い温度領域において、高い精度で加熱温度(最高到達温度)を推定することが可能となる。
【0063】
[実施例2]
(時間依存性の確認)
実施例1と同一の条件で合成石英ガラス基板上にATO膜を成膜した。また、実施例1と同様の方法で成膜したATO膜を熱処理した。最高到達温度400℃及び500℃で、30分、60分及び90分間保持した。
【0064】
次に、実施例1と同様の方法により初期電気抵抗値(R
0)と加熱後電気抵抗値(R
a)を測定し、抵抗比(R
a/R
0)を算出して抵抗比の時間依存性を確認した。抵抗比を加熱温度毎に加熱時間に対してプロットしたグラフを
図3に示す。
【0065】
図3の結果より、抵抗比は加熱時間に対する依存性がほとんど無いことが分かる。したがって、熱処理工程の加熱時間に依らずに高い精度で加熱温度(最高到達温度)を推定することが可能となる。
【0066】
[実施例3]
(膜厚の影響)
実施例1と同様の方法により、合成石英ガラス基板上にATO膜を成膜した。ATO膜用コート材料に溶媒を加えて濃度を調整し、0.6〜1.9μmの範囲で5種類の膜厚を調製した。また、実施例1と同様の方法により、成膜後の初期電気抵抗値(R
0)を測定して膜厚の影響を確認した。抵抗値を膜厚に対してプロットしたグラフを
図4に示す。
【0067】
図4の結果より、膜厚が厚くなると抵抗値が低くなることが分かる。本実施例の条件では、膜厚0.6〜1.9μmの範囲であれば十分な測定精度を得ることができた。なお、前駆体溶液やナノ粒子分散液を用いたスピンコート法による成膜では、膜厚0.05〜3.0μmの範囲であれば好適な抵抗値と良好な成膜性を両立でき、必要な測定精度を得ることができると考えられる。
【0068】
[実施例4]
(ITO膜の作製・評価)
25mm角、厚さ1mmの合成石英ガラス基板の表面に、ITO膜用コート材料(アルバック社製、ITO 1Cden)をスピンコート法で均一に塗膜し、250℃で1時間、大気中電気炉で加熱してITO膜を成膜した。ITO膜の膜厚は0.1μmであった。
また、実施例1と同様の方法で成膜したITO膜を熱処理した。最高到達温度300〜850℃で30分間保持した。
【0069】
次に、実施例1と同様の方法により初期電気抵抗値(R
0)と加熱後電気抵抗値(R
a)を測定し、抵抗比(R
a/R
0)を算出して抵抗比の温度依存性を確認した。抵抗比を加熱温度に対してプロットしたグラフを
図5に示す。
【0070】
図5の結果より、抵抗比は加熱温度に依存して指数関数的に大きく減少することが分かる。特に250〜400℃の温度領域で変化量が大きく、10
−2〜10
−3に減少することが分かる。したがって、ITO膜でも抵抗比の指数関数的に大きく変化する温度依存性を利用することにより、250〜400℃の比較的低温領域を含む850℃までの広い温度領域において、高い精度で加熱温度(最高到達温度)を推定することが可能となる。
【0071】
熱処理によるATO及びITOの不可逆的な抵抗値の変化は、加熱によるキャリア生成が関与している可能性が考えられる。そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、キャリアがトラップされている準位からの励起に、特定のエネルギーが必要であることから、加熱温度により抵抗値が決まることなどが考えられる。
【0072】
[実施例5]
(p型不純物の添加)
ATO膜用コート材料にp型不純物のインジウムをアンチモンより少ない比率となるように微量添加して、実施例1と同様の方法により合成石英ガラス基板上にIn添加ATO膜を成膜した。なお、In添加ATOは抵抗値が高くなるため、成膜時の加熱温度を600℃として初期電気抵抗値を調整した。膜厚は0.4μmであった。また、実施例1と同様の方法で成膜したIn添加ATO膜を熱処理した。最高到達温度700〜1000℃で30分間保持した。
【0073】
次に、実施例1と同様の方法により初期電気抵抗値(R
0)と加熱後電気抵抗値(R
a)を測定し、抵抗比(R
a/R
0)を算出して抵抗比の温度依存性を確認した。抵抗比を加熱温度に対してプロットしたグラフを
図6に示す。また、インジウムを添加していない実施例1の測定結果を合わせて示す。
【0074】
図6の結果より、ATO膜にp型不純物のInを微量添加することにより、抵抗比の指数関数的な温度依存性がさらに増大することが分かる。特に600〜800℃の温度領域において変化量が大きくなっている。このことは、p型不純物の種類や添加量を微調整することにより、特定の温度領域における測定精度をさらに高められる可能性を示唆している。