(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
A.偏光板
本発明の偏光板は、ポリエステル系樹脂基材と、該ポリエステル系樹脂基材の片側に積層された厚みが10μm以下の偏光膜と、を有する。
図1(a)は、本発明の1つの実施形態における偏光板の概略断面図である。偏光板10aは、ポリエステル系樹脂基材11と、該ポリエステル系樹脂基材11の一方の面に密着して(換言すれば、接着層を介さずに)積層された偏光膜12とを有する。
図1(b)は、本発明の別の実施形態における偏光板の概略断面図である。偏光板10bは、保護フィルム13をさらに有する。保護フィルム13は、偏光膜12のポリエステル系樹脂基材11が配置されている側とは反対側に配置されている。保護フィルム13は、偏光膜12に接着層を介して積層されていてもよいし、密着させて(接着層を介さずに)積層されていてもよい。偏光板10a、10bにおいては、ポリエステル系樹脂基材11が、保護フィルムとして機能し得る。本発明においては、偏光膜の作製過程における延伸および染色時に用いる樹脂基材を剥離することなく、保護フィルムとして用いることができ、偏光膜の片側にのみ該樹脂基材(保護フィルム)を有する構成(
図1(a)の構成)であっても、クラックの発生を抑制し得る。なお、偏光板10a、10bは、ポリエステル系樹脂基材11と偏光膜12との間に易接着層(図示せず)を有していてもよい。
【0011】
一般に、樹脂基材上にポリビニルアルコール(以下、「PVA」と称する場合がある)系樹脂膜が形成された積層体を延伸および染色することにより得られる偏光板においては、配向応力の緩和、収縮応力の発生等に起因して樹脂基材およびPVA系樹脂膜に寸法変化が生じる。このとき両者の寸法変化量が異なることから、その界面に歪みが生じ、クラックの発生につながると推測される。これに対し、本発明においては、樹脂基材として特定範囲の結晶化度を有するポリエステル系樹脂基材を用い、かつ、偏光膜中のホウ酸濃度を特定の範囲に調整する。これにより、偏光膜の吸収軸方向および該方向と直交する方向の両方向において、樹脂基材の寸法変化量と偏光膜の寸法変化量とが均衡するので、樹脂基材/偏光膜界面に歪みが生じ難くなり、また、生じた歪みも両方向に分散される。その結果、クラックの発生が抑制され得る。なお、本明細書において、「直交する方向」とは、90°±5.0°である場合を包含し、好ましくは90°±3.0°、さらに好ましくは90°±1.0°である。また、「平行な方向」とは、0°±5.0°である場合を包含し、好ましくは0°±3.0°、さらに好ましくは0°±1.0°である。
【0012】
A−1.偏光膜
上記偏光膜は、実質的には、ヨウ素が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは、10μm以下、好ましくは7.5μm以下、より好ましくは5μm以下である。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。厚みが薄すぎると得られる偏光膜の光学特性が低下するおそれがある。偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0013】
上記PVA系樹脂膜を形成するPVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0014】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0015】
上記偏光膜は、ホウ酸を含む。偏光膜中のホウ酸濃度は、10重量%〜20重量%であり、好ましくは12重量%〜19重量%である。ホウ酸濃度が当該範囲内である場合、吸収軸方向および該方向と直交する方向における偏光膜の寸法変化率をポリエステル系樹脂基材の寸法変化率と近い値にすることができ、かつ、吸収軸方向における偏光膜の寸法変化率とポリエステル系樹脂基材の寸法変化率との差が、吸収軸に直交する方向における偏光膜の寸法変化率とポリエステル系樹脂基材の寸法変化率との差に比べて大きくなりすぎることを防止できる。偏光膜中のホウ酸濃度は、例えば、後述する偏光板の製造方法において、延伸浴、不溶化浴、架橋浴等におけるホウ酸濃度を変化させること、これらの浴への浸漬時間を変化させること等により調整することができる。なお、偏光膜中のホウ酸濃度(重量%)は、例えば、全反射減衰分光(ATR)測定から算出されるホウ酸量指数を用いて決定することができる。
(ホウ酸量指数)=(ホウ酸ピーク665cm
−1の強度)/(参照ピーク2941cm
−1の強度)
(ホウ酸濃度)=(ホウ酸量指数)×5.54+4.1
ここで、「5.54」および「4.1」はいずれも、ホウ酸濃度が既知の試料の蛍光X線強度を測定し、検量線を作成することにより得られる定数である。
【0016】
A−2.ポリエステル系樹脂基材
上記ポリエステル系樹脂基材の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、イソフタル酸、シクロヘキサン環等を含む脂環式のジカルボン酸または脂環式のジオール等を含む共重合PET(PET−G)、その他ポリエステル、および、これらの共重合体やブレンド体等を用いることができる。なかでも、PETまたは共重合PETを用いることが好ましい。これらの樹脂によれば、未延伸状態では非晶で高倍率延伸に適した優れた延伸性を有し、延伸、加熱により結晶化することで、耐熱性および寸法安定性を付与できる。さらに、未延伸の状態でPVA系樹脂を塗布、乾燥することが可能な程度の耐熱性を確保できる。
【0017】
ポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂膜の結晶化を抑制しながら、延伸性を十分に確保することができる。水による樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、120℃以下であることがさらに好ましい。1つの実施形態においては、ポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このようなポリエステル系樹脂基材を用いることにより、後述のPVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、ポリエステル系樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)する等の不具合を防止することができる。また、積層体の延伸を、好適な温度(例えば、60℃〜70℃程度)にて行うことができる。別の実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、ポリエステル系樹脂基材が変形しなければ、60℃より低いガラス転移温度であってもよい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0018】
1つの実施形態においては、ポリエステル系樹脂基材は、吸水率が0.2%以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.3%以上である。このようなポリエステル系樹脂基材は水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、水中延伸において延伸応力を大幅に低下させることができ、延伸性に優れ得る。一方、ポリエステル系樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このようなポリエステル系樹脂基材を用いることにより、製造時にポリエステル系樹脂基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる積層体の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に破断したり、ポリエステル系樹脂基材からPVA系樹脂膜が剥離したりするのを防止することができる。なお、吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0019】
ポリエステル系樹脂基材の厚みは、好ましくは10μm〜200μm、さらに好ましくは20μm〜150μmである。
【0020】
ポリエステル系樹脂基材の全反射減衰分光(ATR)測定により算出される結晶化度は、0.55〜0.80、好ましくは0.58〜0.80、より好ましくは0.60〜0.75である。ポリエステル系樹脂基材の結晶化度が当該範囲内である場合、偏光膜の吸収軸方向および該方向と直交する方向におけるポリエステル系樹脂基材の寸法変化率を偏光膜の寸法変化率と近い値とすることができ、かつ、吸収軸方向における偏光膜の寸法変化率とポリエステル系樹脂基材の寸法変化率との差が、吸収軸に直交する方向における偏光膜の寸法変化率とポリエステル系樹脂基材の寸法変化率との差に比べて大きくなりすぎることを防止できる。ポリエステル系樹脂基材の結晶化度は、例えば、結晶化する際の加熱温度および/または加熱時間を変化させることによって調整することができる。なお、上記ポリエステル系樹脂基材の結晶化度は、以下の式に基づいて算出される。
(結晶化度)=(結晶ピーク1340cm
−1の強度)/(参照ピーク1410cm
−1の強度)
【0021】
A−3.保護フィルム
上記保護フィルムの形成材料としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。保護フィルムの厚みは、好ましくは10μm〜100μmである。
【0022】
A−4.易接着層
易接着層は、実質的に易接着層形成用組成物のみから形成される層であってもよく、易接着層形成用組成物と偏光膜の形成材料とが混合(相溶を含む)した層または領域であってもよい。易接着層が形成されていることにより、優れた密着性が得られ得る。易接着層の厚みは、0.05μm〜1μm程度とするのが好ましい。易接着層は、例えば、偏光板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認することができる。易接着層形成用組成物については、B項で詳述する。
【0023】
A−5.接着層
接着層は、任意の適切な接着剤または粘着剤で形成される。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。接着剤層は、代表的にはビニルアルコール系接着剤で形成される。
【0024】
B.偏光板の製造方法
本発明の偏光板の製造方法は、代表的には、ポリエステル系樹脂基材上にPVA系樹脂膜を形成して積層体を作製することと、該積層体を延伸することと、該PVA系樹脂膜を染色することと、該ポリエステル系樹脂基材を結晶化することと、を含む。
【0025】
B−1.積層体の作製
ポリエステル系樹脂基材上にPVA系樹脂膜を形成する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、ポリエステル系樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂膜を形成する。1つの実施形態においては、ポリエステル系樹脂基材上に、易接着層形成用組成物を塗布し、乾燥することにより、易接着層を形成し、該易接着層上にPVA系樹脂膜を形成する。
【0026】
上記ポリエステル系樹脂基材の形成材料は、上記のとおりである。ポリエステル系樹脂基材の厚み(後述する延伸前の厚み)は、好ましくは20μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂膜の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、水中延伸において、ポリエステル系樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。なお、積層体の作製に用いられる際のポリエステル系樹脂基材の全反射減衰分光(ATR)測定により算出される結晶化度は、例えば、0.20〜0.50であり得る。
【0027】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、ポリエステル系樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0028】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂膜の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。また、添加剤としては、例えば、易接着成分が挙げられる。易接着成分を用いることにより、ポリエステル系樹脂基材とPVA系樹脂膜との密着性を向上させ得る。その結果、例えば、基材からPVA系樹脂膜が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色、水中延伸を良好に行うことができる。易接着成分としては、例えば、アセトアセチル変性PVAなどの変性PVAが用いられる。
【0029】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0030】
塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0031】
上記PVA系樹脂膜の厚み(後述する延伸前の厚み)は、好ましくは3μm〜20μmである。
【0032】
PVA系樹脂膜を形成する前に、ポリエステル系樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、ポリエステル系樹脂基材上に易接着層形成用組成物を塗布(コーティング処理)してもよい。このような処理を行うことにより、ポリエステル系樹脂基材とPVA系樹脂膜との密着性を向上させることができる。その結果、例えば、基材からPVA系樹脂膜が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色および延伸を良好に行うことができる。
【0033】
易接着層形成用組成物は、好ましくはポリビニルアルコール系成分を含む。ポリビニルアルコール系成分としては、任意の適切なPVA系樹脂が用いられ得る。具体的には、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールが挙げられる。変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、アセトアセチル基、カルボン酸基、アクリル基および/またはウレタン基で変性されたポリビニルアルコールが挙げられる。これらの中でも、アセトアセチル変性PVAが好ましく用いられる。アセトアセチル変性PVAとしては、下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有する重合体が好ましく用いられる。
【0035】
上記式(I)において、l+m+nに対するnの割合は、好ましくは1%〜10%である。
【0036】
アセトアセチル変性PVAの平均重合度は、好ましくは1000〜10000であり、好ましくは1200〜5000である。アセトアセチル変性PVAのケン化度は、好ましくは97モル%以上である。アセトアセチル変性PVAの4重量%水溶液のpHは、好ましくは3.5〜5.5である。なお、平均重合度およびケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0037】
易接着層形成用組成物は、目的等に応じて、ポリオレフィン系成分、ポリエステル系成分、ポリアクリル系成分等をさらに含み得る。好ましくは、易接着層形成用組成物は、ポリオレフィン系成分をさらに含む。
【0038】
上記ポリオレフィン系成分としては、任意の適切なポリオレフィン系樹脂が用いられ得る。ポリオレフィン系樹脂の主成分であるオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のオレフィン系炭化水素が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のオレフィン系炭化水素が好ましく、さらに好ましくはエチレンが用いられる。
【0039】
上記ポリオレフィン系樹脂を構成するモノマー成分のうち、オレフィン成分の占める割合は、好ましくは50重量%〜95重量%である。
【0040】
上記ポリオレフィン系樹脂は、カルボキシル基および/またはその無水物基を有することが好ましい。このようなポリオレフィン系樹脂は水に分散し得、易接着層が良好に形成され得る。このような官能基を有するモノマー成分としては、例えば、不飽和カルボン酸およびその無水物、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミドが挙げられる。これらの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸が挙げられる。
【0041】
ポリオレフィン系樹脂の分子量は、例えば5000〜80000である。
【0042】
易接着層形成用組成物において、ポリビニルアルコール系成分とポリオレフィン系成分との配合比(前者:後者(固形分))は、好ましくは5:95〜60:40、さらに好ましくは20:80〜50:50である。ポリビニルアルコール系成分が多すぎると密着性が十分に得られないおそれがある。具体的には、偏光膜を樹脂基材から剥離する際に要する剥離力が低下して、十分な密着性が得られないおそれがある。一方、ポリビニルアルコール系成分が少なすぎると得られる偏光板の外観が損なわれるおそれがある。具体的には、易接着層の形成の際に、塗布膜が白濁する等の不具合が発生して、外観に優れた偏光板を得るのが困難となるおそれがある。
【0043】
易接着層形成用組成物は、好ましくは水系である。易接着層形成組成物は、有機溶剤を含み得る。有機溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。易接着層形成用組成物の固形分濃度は、好ましくは1.0重量%〜10重量%である。
【0044】
易接着層形成用組成物の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。易接着層形成用組成物の塗布後、塗布膜は乾燥され得る。乾燥温度は、例えば50℃以上である。
【0045】
B−2.延伸
積層体の延伸方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸(例えば、テンター延伸機を用いる方法)でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。また、同時二軸延伸(例えば、同時二軸延伸機を用いる方法)でもよいし、逐次二軸延伸でもよい。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
【0046】
延伸処理は、積層体を延伸浴に浸漬させながら行う水中延伸方式であってもよいし、空中延伸方式であってもよい。1つの実施形態においては、水中延伸処理を少なくとも1回施し、好ましくは、水中延伸処理と空中延伸処理を組み合わせる。水中延伸によれば、上記ポリエステル系樹脂基材やPVA系樹脂膜のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂膜を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた偏光特性を有する偏光膜を製造することができる。
【0047】
積層体の延伸方向としては、任意の適切な方向を選択することができる。1つの実施形態においては、長尺状の積層体の長手方向に延伸する。具体的には、積層体を長手方向に搬送し、その搬送方向(MD)に延伸する。別の実施形態においては、長尺状の積層体の幅方向に延伸する。具体的には、積層体を長手方向に搬送し、その搬送方向(MD)と直交する方向(TD)に延伸する。
【0048】
積層体の延伸温度は、ポリエステル系樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。空中延伸方式を採用する場合、延伸温度は、好ましくはポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくはポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、積層体の延伸温度は、好ましくは170℃以下である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂膜の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0049】
延伸方式として水中延伸方式を採用する場合、延伸浴の液温は、好ましくは40℃〜85℃、さらに好ましくは50℃〜85℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂膜の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、ポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂膜の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水によるポリエステル系樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂膜の溶解性が高くなって、優れた偏光特性が得られないおそれがある。
【0050】
水中延伸方式を採用する場合、積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することが好ましい(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂膜に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂膜に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた偏光特性を有する偏光膜を作製することができる。
【0051】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜10重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂膜の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を作製することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0052】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂膜に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜15重量部、さらに好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
【0053】
積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分である。好ましくは、水中延伸処理は染色処理の後に行う。
【0054】
積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、積層体の元長に対して、好ましくは4.0倍以上、さらに好ましくは5.0倍以上である。このような高い延伸倍率は、例えば、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。なお、本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
【0055】
B−3.染色
PVA系樹脂膜の染色は、代表的には、PVA系樹脂膜にヨウ素を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂膜(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂膜に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂膜に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液にPVA系樹脂膜(積層体)を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
【0056】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部〜20重量部、より好ましくは0.1重量部〜10重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃〜50℃である。染色液にPVA系樹脂膜を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂膜の透過率を確保するため、好ましくは5秒〜5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%〜44%となるように、浸漬時間を設定する。
【0057】
染色処理は、任意の適切なタイミングで行い得る。上記水中延伸を行う場合、好ましくは、水中延伸の前に行う。
【0058】
B−4.結晶化
ポリエステル系樹脂基材の結晶化は、例えば、ポリエステル系樹脂基材(実質的には、積層体)を加熱することによって行われる。結晶化は、好ましくはPVA系樹脂膜の染色および延伸後に行われる。
【0059】
加熱温度は、代表的には、ポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)を超える温度である。加熱温度は、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。また、加熱温度は、好ましくは125℃以下、より好ましくは120℃以下である。このような温度で加熱することにより、ポリエステル系樹脂基材を所望の結晶化度とすることができる。加熱時間は、加熱温度等に応じて適切に設定され得る。加熱時間は、例えば、3秒〜2分であり得る。
【0060】
上記結晶化においては、ポリエステル系樹脂基材のヘイズ値が2%以下となるように結晶化を行うことが好ましい。
【0061】
B−5.その他の処理
上記PVA系樹脂膜(積層体)には、延伸および染色以外に、偏光膜とするための処理が、適宜施され得る。偏光膜とするための処理としては、例えば、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が挙げられる。なお、これらの処理の回数、順序等は、特に限定されない。
【0062】
上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂膜(積層体)を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂膜に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。好ましくは、不溶化処理は、上記水中延伸や上記染色処理の前に行う。
【0063】
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂膜(積層体)を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂膜に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂膜に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜60℃である。好ましくは、架橋処理は上記水中延伸の前に行う。好ましい実施形態においては、空中延伸、染色処理および架橋処理をこの順で行う。
【0064】
上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂膜(積層体)を浸漬することにより行う。上記乾燥処理における乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃である。
【0065】
以上のようにして、ポリエステル系樹脂基材上に偏光膜を形成するとともに、ポリエステル系樹脂基材を結晶化することによって、本発明の偏光板が得られ得る。
【0066】
C.偏光板の用途
本発明の偏光板は、例えば、液晶表示装置に搭載され得る。この場合、偏光膜がポリエステル系樹脂基材よりも液晶セル側に配置されるように搭載されることが好ましい。このような構成によれば、ポリエステル系樹脂基材が有し得る位相差が、得られる液晶表示装置の画像特性に及ぼす影響を排除することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。また、下記実施例および比較例における「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
≪厚み≫
デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC−351C」)を用いて測定した。
≪寸法変化率≫
実施例および比較例で得られた偏光板から、偏光膜と樹脂基材とを端部にきっかけを与えることで剥がし、熱機械測定装置(TMA)にて、30℃から100℃に10℃/分で昇温後、さらに100℃で60分間保持した際の寸法変化率を測定した。なお、易接着層を間に挟む実施例6では、易接着層を形成しないこと以外は同様に作製した偏光板から、同様の手順で偏光膜と樹脂基材を単離したものを測定に供し、偏光膜および樹脂基材の寸法変化とした。
寸法変化率(%)=(加熱処理後の寸法−加熱処理前の寸法)/加熱処理前の寸法×100
≪結晶化度≫
実施例および比較例で得られたポリエステル系樹脂基材について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名「SPECTRUM2000」)を用いて、全反射減衰分光(ATR)測定により結晶ピーク(1340cm
−1)の強度および参照ピーク(1410cm
−1)の強度を測定した。得られた結晶ピーク強度および参照ピーク強度から結晶化度を下記式により算出した。
(結晶化度)=(結晶ピーク1340cm
−1の強度)/(参照ピーク1410cm
−1の強度)
≪ガラス転移温度:Tg≫
JIS K 7121に準拠し測定した。
≪ホウ酸濃度≫
実施例および比較例で得られた偏光膜について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名「SPECTRUM2000」)を用いて、偏光を測定光とする全反射減衰分光(ATR)測定によりホウ酸ピーク(665cm
−1)の強度および参照ピーク(2941cm
−1)の強度を測定した。得られたホウ酸ピーク強度および参照ピーク強度からホウ酸量指数を下記式により算出し、さらに、算出したホウ酸量指数から下記式によりホウ酸濃度を決定した。
(ホウ酸量指数)=(ホウ酸ピーク665cm
−1の強度)/(参照ピーク2941cm
−1の強度)
(ホウ酸濃度)=(ホウ酸量指数)×5.54+4.1
≪クラック評価≫
実施例および比較例で得られた偏光板を、ポリエステル系樹脂基材が表面側に来るように粘着剤を介してガラスに貼り合せた状態で、100℃のオーブンにて240h加熱した。加熱後の偏光板のクラックの有無を確認し、下記の基準に従って評価した。
良: クラック発生なし
不良: クラック発生あり
【0068】
[実施例1]
樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用いた。
樹脂基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成した。こうして、積層体を作製した。
【0069】
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.5重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を3重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
【0070】
次いで、積層体を100℃のオーブンに30秒間投入して樹脂基材を結晶化した。
このようにして、樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜が積層された偏光板を得た。
【0071】
[実施例2]
積層体を110℃のオーブンに30秒間投入して樹脂基材を結晶化したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。
【0072】
[実施例3]
積層体を120℃のオーブンに30秒間投入して樹脂基材を結晶化したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。
【0073】
[実施例4]
水中延伸時の延伸浴中のホウ酸配合量を3.5重量部としたこと、および、積層体を110℃のオーブンに30秒間投入して樹脂基材を結晶化したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。
【0074】
[実施例5]
水中延伸時の延伸浴中のホウ酸配合量を2.5重量部としたこと、および、積層体を110℃のオーブンに30秒間投入して樹脂基材を結晶化したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。
【0075】
[実施例6]
以下の方法で、樹脂基材の片面に易接着層を設けた。
樹脂基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、アセトアセチル変性PVA(日本合成化学工社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」、重合度1200、ケン化度99.0モル%以上、アセトアセチル変性度4.6%)の4.0%水溶液と変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(ユニチカ社製、商品名「アローベースSE1030N」、固形分濃度22%)と純水を混合した混合液(固形分濃度4.0%)を、乾燥後の厚みが2000nmになるように塗布し、60℃で3分間乾燥し、易接着層を形成した。ここで、混合液におけるアセトアセチル変性PVAと変性ポリオレフィンとの固形分配合比は30:70であった。
該易接着層表面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面にPVA系樹脂層を形成したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。
【0076】
[比較例1]
積層体を85℃のオーブンに30秒間投入して樹脂基材を結晶化したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。
【0077】
[比較例2]
水中延伸時の延伸浴中のホウ酸配合量を4.0重量部としたこと、および、積層体を110℃のオーブンに30秒間投入して樹脂基材を結晶化したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。
【0078】
[比較例3]
積層体を95℃のオーブンに30秒間投入して樹脂基材を結晶化したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。
【0079】
実施例および比較例における偏光板の作製条件および得られた偏光板の各特性を表1に示す。なお、表中のMDは偏光子の吸収軸方向であり、TDは吸収軸と直交する方向である。
【表1】
【0080】
表1に示されるとおり、特定の結晶化度を有する樹脂基材と特定のホウ酸濃度を満たす偏光膜とを有する実施例の偏光板は、クラックの発生が抑制されている。一方、比較例の偏光板は、クラックが発生しており、実施例の偏光板に比べて耐久性に劣ることがわかる。また、実施例6の偏光板は、他の実施例または比較例の偏光板に比べて、樹脂基材と偏光膜(PVA系樹脂層)との密着性に優れており、偏光膜の製造時や偏光板の加工(例えば、打ち抜き)時における偏光膜(PVA系樹脂層)または樹脂基材の所望でない剥離または浮きが好適に防止されていた。
【0081】
実施例の偏光板においてクラックの発生が抑制された理由としては、以下のように推測される。すなわち、実施例の偏光板においては、MD方向における樹脂基材の寸法変化率と偏光膜の寸法変化率との差(樹脂基材の寸法変化率−偏光膜の寸法変化率)およびTD方向における樹脂基材の寸法変化率と偏光膜の寸法変化率との差(樹脂基材の寸法変化率−偏光膜の寸法変化率)がいずれも5%以内であり、かつ、TD方向における寸法変化率の差(絶対値)がMD方向における寸法変化率の差(絶対値)と近い値になっている(±1.5%以内)。偏光膜は延伸方向(MD)に配向するため、機械物性として延伸方向と直交する方向(TD)に弱い傾向がある。そのため、TD方向における寸法変化率の差(絶対値)をMD方向における寸法変化率の差(絶対値)と近い値とすることで、TD方向に歪が偏ることなく、クラックの発生が抑制されたと考えられる。