(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893818
(24)【登録日】2021年6月4日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】建物の改修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20210614BHJP
E04H 6/10 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
E04G23/02 J
E04H6/10 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-75208(P2017-75208)
(22)【出願日】2017年4月5日
(65)【公開番号】特開2018-178410(P2018-178410A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】小島 一高
(72)【発明者】
【氏名】野澤 裕和
(72)【発明者】
【氏名】西崎 隆氏
(72)【発明者】
【氏名】井上 崇
(72)【発明者】
【氏名】藤田 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】本田 佳久
(72)【発明者】
【氏名】板谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智憲
(72)【発明者】
【氏名】三浦 哲也
【審査官】
園田 かれん
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−129755(JP,A)
【文献】
米国特許第04424651(US,A)
【文献】
中国特許出願公開第102913012(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00−23/08
E04H 6/00−6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の外周部に新設床構造部を増設する建物の改修方法であって、
前記新設床構造部の一部が、平面視において前記既存建物の内部に入り込む状態に配置され、その既存建物への入り込み床構造部の支持構造として前記既存建物の躯体を使用し、
前記既存建物が、複数階建ての建物であり、前記新設床構造部が、前記既存建物の下層階から上層階に亘るランプウェイを有するランプウェイ構造部である建物の改修方法。
【請求項2】
前記ランプウェイが、前記既存建物の下層階から上層階に亘って上下方向に螺旋状に延びる螺旋ランプウェイであると共に、前記螺旋ランプウェイが、前記入り込み床構造部としての直線状の内部傾斜車路、前記既存建物の外部に位置する直線状の外部傾斜車路、及び、両傾斜車路を繋ぐ曲線状の接続車路を備える請求項1に記載の建物の改修方法。
【請求項3】
前記入り込み床構造部への前記ランプウェイの出入口が、前記既存建物の既存柱を撤去して既存の柱スパンよりも広いスパンの空間で構築され、その撤去した既存柱により支持されていた躯体を隣接する既存柱により吊り下げ支持する請求項1又は2に記載の建物の改修方法。
【請求項4】
前記ランプウェイが、前記入り込み床構造部としての直線状の内部傾斜車路を備え、前記内部傾斜車路を、その直線方向に延びる既存梁に沿って設置した新設傾斜梁と当該新設傾斜梁に交差させて設置した新設梁により構築される新設梁組上に構築する請求項1〜3のいずれか1項に記載の建物の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の外周部に新設床構造部を増設する建物の改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新規に建物を新設する際に、その新設建物の外周部に新設床構造部の一例であるランプウェイ構造部を構築するような場合、新設建物とランプウェイ構造部が平面視において互いに重複しないように配置されることがある(例えば、特許文献1及び2参照)。
そして、例えば、既存建物の上層階に車が出入りするためのスペースを新設するような改修を行って、その既存建物の各階へ車が出入りするためのランプウェイ構造部を既存建物の外周部に増設するような場合には、上記新規建物と同様に、既存建物と新設ランプウェイ構造部が平面視において互いに重複しないように配置されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5886996号公報
【特許文献2】特開平11−303442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、既存建物の外周部に新設床構造部の一例であるランプウェイ構造部を増設するような場合、例えば、敷地面積の関係や既存建物の立地条件などによって、既存建物の外周部にその既存建物と平面視で重複しないようにランプウェイ構造部を増設だけのスペースを確保することができない場合もある。
【0005】
本発明の目的は、たとえ既存建物の外周部に新設床構造部を増設するに十分なスペースが確保できない場合であっても、新設床構造部の増設を比較的安価なコストで可能にする建物の改修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、既存建物の外周部に新設床構造部を増設する建物の改修方法であって、前記新設床構造部の一部が、平面視において前記既存建物の内部に入り込む状態に配置され、その既存建物への入り込み床構造部の支持構造として前記既存建物の躯体を使用
し、前記既存建物が、複数階建ての建物であり、前記新設床構造部が、前記既存建物の下層階から上層階に亘るランプウェイを有するランプウェイ構造部である点にある。
【0007】
本構成によれば、既存建物の外周部に増設する新設床構造部の一部が、平面視において既存建物の内部に入り込む状態に配置されるので、既存建物の内部に入り込む分だけ新設床構造部の増設に要するスペースを減少させることができる。
そして、その既存建物への入り込み床構造部の支持構造として既存建物の躯体を使用するので、入り込み床構造部の支持構造の一部を既存建物の躯体で代用することができ、新設床構造部の増設費用を比較的低いコストに抑えることが可能となる。
その結果、たとえ既存建物の外周部に新設床構造部を増設するに十分なスペースが確保できない場合であっても、新設床構造部を比較的安価なコストで増設することが可能となる。
【0009】
更に、本構成によれば、既存建物が、複数階建ての建物であり、かつ、新設床構造部が、既存建物の下層階から上層階に亘るランプウェイを有するランプウェイ構造部であるから、既存建物の下層階と上層階の間を車で自由に行き来することができる。
したがって、既存建物の上層階に車が出入りするためのスペースを新設するような特殊
な改修も可能となる。
【0010】
本発明の第
2特徴構成は、前記ランプウェイが、前記既存建物の下層階から上層階に亘って上下方向に螺旋状に延びる螺旋ランプウェイであると共に、前記螺旋ランプウェイが、前記入り込み床構造部としての直線状の内部傾斜車路、前記既存建物の外部に位置する直線状の外部傾斜車路、及び、両傾斜車路を繋ぐ曲線状の接続車路を備える点にある。
【0011】
本構成によれば、既存建物の下層階から上層階に亘るランプウェイが、既存建物の内部に入り込む直線状の内部傾斜車路、既存建物の外部に位置する直線状の外部傾斜車路、及び、両傾斜車路を繋ぐ曲線状の接続車路を備えて上下方向に螺旋状に延びる螺旋ランプウェイであるから、たとえ既存建物が多層階建ての建物であってその上層階に車が出入りするためのスペースを新設する改修も可能となり、螺旋ランプウェイを通って上層階へ自由に行き来することができる。
そして、その螺旋ランプウェイのうちの直線状の内部傾斜車路が、既存建物への入り込み床構造部となるので、例えば、曲線状の接続車路を入り込み床構造部とする場合に比べて、既存建物に対して無駄な空間の発生を極力抑えた状態で要領よく入り込ませることができ、しかも、既存建物の躯体を合理的に利用して内部傾斜車路の支持構造の一部に代用することが可能となる。
【0012】
本発明の第
3特徴構成は、前記入り込み床構造部への前記ランプウェイの出入口が、前記既存建物の既存柱を撤去して既存の柱スパンよりも広いスパンの空間で構築され、その撤去した既存柱により支持されていた躯体を隣接する既存柱により吊り下げ支持する点にある。
【0013】
本構成によれば、入り込み床構造部へのランプウェイの出入口が、既存建物の既存柱を撤去して既存の柱スパンよりも広いスパンの空間で構築されるので、たとえ柱スパンの狭い既存建物であっても、車の出入に必要な広いスパンの空間を有する出入口を確保することが可能となる。そして、撤去した既存柱により支持されていた躯体は、隣接する既存柱により吊り下げ支持されるので、既存柱の撤去によって既存建物の躯体の支持に支障をきたすこともない。
【0014】
本発明の第
4特徴構成は、前記ランプウェイが、前記入り込み床構造部としての直線状の内部傾斜車路を備え、前記内部傾斜車路を、その直線方向に延びる既存梁に沿って設置した新設傾斜梁と当該新設傾斜梁に交差させて設置した新設梁により構築される新設梁組上に構築する点にある。
【0015】
本構成によれば、ランプウェイが、入り込み床構造部としての直線状の内部傾斜車路を備えているので、上述したように、その直線状の内部傾斜車路を既存建物に対して無駄な空間の発生を極力抑えた状態で要領よく入り込ませることができる。
そして、その内部傾斜車路の直線方向に延びる既存梁に沿って設置した新設傾斜梁と当該新設傾斜梁に交差させて設置した新設梁により新設梁組を構築し、その新設梁組上に内部傾斜車路を構築するので、既存建物の既存梁を合理的に利用して内部傾斜車路を確実に支持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】建物の改修方法の要部を示す
図3におけるII−II矢視での断面図
【
図4】
図3におけるa−a矢視とb−b矢視での左側の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による建物の改修方法の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の建物の改修方法は、例えば、
図1(a)(b)に示すように、多層階建ての既存建物1を物流倉庫に改修するなど、既存建物1の上層階に車が出入りするためのスペースを新設するような改修を行って、その既存建物1の外周部に新設床構造部としてのランプウェイ構造部2を増設する場合などに適用される。
新設床構造部の一例であるランプウェイ構造部2は、例えば、鉄骨構造体からなり、既存建物1の任意の下層階(例えば、地上1階部分)から任意の上層階に亘って上下方向に螺旋状に延びる鉄筋コンクリート造の螺旋ランプウェイ3を有し、その螺旋ランプウェイ3を備えたランプウェイ構造部2の一部が、
図1(b)に仮想線で示すように、平面視において既存建物1の内部に入り込む状態に配置される。尚、例えば、螺旋ランプウェイ3を鉄骨鉄筋コンクリート造等にしてもよく、新設床構造部の一例であるランプウェイ構造部2は各種の構造を適宜に採用することができる。
【0018】
螺旋ランプウェイ3は、
図3に示すように、平面視において互いに平行な直線状の傾斜車路4、5を備え、そのうちの一方の傾斜車路4が、既存建物1の内部に入り込む入り込み床構造部に設定される。
すなわち、螺旋ランプウェイ3は、平面視において、既存建物1への入り込み床構造部として既存建物1の内部に位置する上下複数段に配置の直線状の内部傾斜車路4と、この内部傾斜車路4と平行で既存建物1の外部に位置する上下複数段に配置の外部傾斜車路5と、上下複数段に配置の両傾斜車路4、5を各段毎にそれぞれ繋ぐ一対の曲線状(例えば、半円形状)の接続車路6を備え、例えば、地上の1階部分から所望の上層階へ、逆に、所望の上層階から地上へと車で自由に行き来できるように2車線に設定される。
【0019】
ランプウェイ構造部2の一部である内部傾斜車路4を既存建物1の内部に入り込ませて構築するに際し、
図2中に仮想線で示すように、例えば、既存建物1の既存柱7、既存梁8、及び、既存ブレース9の一部は必要に応じて撤去し、更に、内部傾斜車路4の構築に邪魔となる壁材や各種の躯体部分も撤去して、
図2及び
図3に示すように、代わりに鉄骨製の新設柱10や長尺の新設梁11を必要に応じて新たに新設することになる。
特に入り込み床構造部としての内部傾斜車路4への螺旋ランプウェイ3の第1出入口12と第2出入口13、すなわち、
図3を参照して、1階部分から螺旋ランプウェイ3を反時計回り走行上昇した際に入口となる第1出入口12と出口となる第2出入口13(上層階から時計回りに走行下降した際には、入口と出口が逆になる)では既存柱7を撤去して、第1出入口12は、既存の柱スパンS3よりも広いスパンS1の空間で、また、第2出入口13も、既存の柱スパンS3よりも広いスパンS2の空間で構築される。
【0020】
第1出入口12においては、既存柱7に加えて既存梁8や既存ブレース9も撤去し、
図2及び
図3に示すように、代わりに鉄骨製の新設柱10を立設し、その新設柱10と既存柱7とに亘って鉄骨製の新設梁11を連結する。そして、撤去した既存柱7により支持されていた躯体、例えば、残存する既存梁8の一部8aについては、
図2に示すように、鉄骨製の新設ブレース材14を介して隣接する既存柱7により吊り下げ支持させると共に、新設柱10に連結する。その他、図示はしないが、撤去した既存柱7や既存梁8により支持されていた各種の躯体も、隣接する既存柱7により吊り下げ支持させたり、新設柱10に連結して支持させる。尚、新設ブレース14による吊り下げ支持については、適宜省略しても構わない。
第2出入口13においても、既存柱7、既存梁8、及び、既存ブレース9などを撤去し、代わりに新設梁11を既存柱7間に亘って連結し、第1出入口12の場合と同様に、撤去した既存柱7や既存梁8により支持されていた躯体は、適宜、隣接する既存柱7や新設柱10により支持させる。
【0021】
入り込み床構造部である直線状の内部傾斜車路4において、第1出入口12とその近傍部分については、既存建物1内への車の出入を安全かつ容易にするためにほぼ水平な平坦面で構成され、その他の部分が、
図3中に矢印Aで示す部分から矢印方向に向けて順次上昇する傾斜面に構成される。
この傾斜面となる内部傾斜車路4は、
図3及び
図4(a)(b)に示すように、内部傾斜車路4の直線方向に延びる既存梁8の内側に沿って設置した複数の新設傾斜梁15の上に構築される。
なお、
図4(a)(b)においては、内部傾斜路4の左側の断面しか示していないが、右側の断面は左側の断面と略対称形である。
【0022】
より具体的に説明すると、
図3及び
図4(a)(b)を参照して、複数の新設傾斜梁15が、既存梁8の内側に沿って設置され、その新設傾斜梁15に交差させて新設傾斜梁15に亘って複数の新設梁16が設置され、これら新設傾斜梁15と新設梁16により新設梁組17が構築される。その新設梁組17が、鉄骨や鉄筋などにより既存建物1の躯体である既存柱7や既存梁8などに連結されて支持される。そして、
図4(a)(b)に示すように、新設梁組17上にコンクリートが打設されて内部傾斜路4が構築される。
このように、既存建物1の躯体としての既存柱7や既存梁8などを使用して、入り込み床構造部としての内部傾斜車路4の支持構造を構築し、その支持構造によって内部傾斜車路4を強固に支持するのである。
【0023】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、既存建物1の一例として多層階建ての建物を示したが、2階建ての既存建物であっても平屋の既存建物であっても適用可能である。
また、既存建物1が2階建て以上の建物の場合、新設床構造部2としては、螺旋状のランプウェイを有するランプウェイ構造部に限らず、例えば、曲線状や直線状、又は、その他の各種形状のランプウェイを有するランプウェイ構造部に適用することもできる。更に、ランプウェイ構造部に代えて、種々の床構造を備えた各種の新設の床構造部に適用して実施することもでき、既存建物1に増設する新設床構造部2に関しては特に制限はなく、したがって、新設床構造部2のうちの入り込み床構造部4に関しても特に制限はない。
【0024】
(2)先の実施形態では、新設床構造部2としてランプウェイ構造部を示し、そのランプウェイ3の入り込み床構造部4への出入口12、13に関して、既存建物1の既存柱7を撤去して、既存の柱スパンS3よりも広いスパンS1、S2の空間で構築した例を示したが、既存の柱スパンS3が出入口12、13として十分な広さを有する場合には、特に既存柱7を撤去する必要はない。
また、入り込み床構造部4としての内部傾斜車路を既存梁8に沿って延びる新設傾斜梁15と新設梁16で構築した新設梁組17上に構築した例を示したが、例えば、新設傾斜梁15は必ずしも既存梁8に沿って延出させる必要はなく、新設梁組17の具体的な構成は、既存建物1や入り込み床構造部4の具体的な構成に即して種々変更して実施することになる。
【符号の説明】
【0025】
1 既存建物
2 新設床構造部としてのランプウェイ構造部
3 螺旋ランプウェイ
4 入り込み床構造部としての内部傾斜車路
5 外部傾斜車路
6 接続車路
7 既存建物の躯体としての既存柱
8 既存建物の躯体としての既存梁
8a 撤去した既存柱により支持されていた躯体としての既存梁の一部
12、13 出入口
15 新設傾斜梁
16 新設梁
17 新設梁組
S1、S2 出入口のスパン
S3 既存の柱スパン