【文献】
KILIAN, O et al.,High-efficiency homologous recombination in theoil-producing alga Nannochloropsis sp.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 2011, vol.108, p. 21265-21269,Abstract, Genbank accession no. JF946488
【文献】
NELSON JA et al.,Targeted Disruption of the NIT8 Gene in Chlamydomonas reinhardtii,Mol. Cell. Biol., 1995, vol.15, no.10, p.5762-5769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
微細藻類のゲノム上の下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子を欠失、又は下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子の発現を抑制し、微細藻類における硝酸の基質アナログに対する耐性を向上させる方法。
(A)配列番号41で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸トランスポーター活性を有するタンパク質。
微細藻類のゲノム上の下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子、並びに下記タンパク質(C)若しくは(D)をコードする遺伝子を、欠失又は発現を抑制し、微細藻類における硝酸の基質アナログに対する耐性を向上させる方法。
(A)配列番号41で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸トランスポーター活性を有するタンパク質。
(C)配列番号42で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸還元酵素活性を有するタンパク質。
ゲノム上の下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子が欠失、又は下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子の発現が抑制されている、硝酸の基質アナログに対する耐性を有する、微細藻類の形質転換体。
(A)配列番号41で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸トランスポーター活性を有するタンパク質。
ゲノム上の下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子、並びに下記タンパク質(C)若しくは(D)をコードする遺伝子が、欠失又は発現が抑制されている、硝酸の基質アナログに対する耐性を有する、微細藻類の形質転換体。
(A)配列番号41で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸トランスポーター活性を有するタンパク質。
(C)配列番号42で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸還元酵素活性を有するタンパク質。
微細藻類のゲノム上の下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子を欠失、又は下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子の発現を抑制し、硝酸の基質アナログに対する耐性を指標として形質転換体を取得する、硝酸の基質アナログに対する耐性を有する形質転換体の作製方法。
(A)配列番号41で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸トランスポーター活性を有するタンパク質。
微細藻類のゲノム上の下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子、並びに下記タンパク質(C)若しくは(D)をコードする遺伝子を、欠失又は発現を抑制し、硝酸の基質アナログに対する耐性を指標として形質転換体を取得する、硝酸の基質アナログに対する耐性を有する形質転換体の作製方法。
(A)配列番号41で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸トランスポーター活性を有するタンパク質。
(C)配列番号42で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ硝酸還元酵素活性を有するタンパク質。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION [Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press] 記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
さらに明細書において、遺伝子の「上流」とは、翻訳開始点からの位置ではなく、対象として捉えている遺伝子又は領域の5'末端側の部位又はこれに続く領域を示す。一方、遺伝子の「下流」とは、対象として捉えている遺伝子又は領域の3'末端側の部位又はこれに続く領域を示す。
また、本明細書において、宿主に対して所望の遺伝子の改変を行い得られた微細藻類を「形質転換体」という。
【0017】
本発明の第1の実施態様では、特定の微細藻類のゲノム上のNRT遺伝子を欠失させる。あるいは、特定の微細藻類のゲノムにコードされるNRT遺伝子の発現を抑制する。特定の微細藻類において後述のNRT遺伝子の欠失又はその遺伝子の発現を抑制することで、微細藻類の生育性に影響を与える硝酸の基質アナログに対する耐性、好ましくは塩素酸耐性、が向上する。本発明の形質転換体は、向上した硝酸の基質アナログに対する耐性(好ましくは塩素酸耐性)を指標に選抜することもできる。
さらに前述のように、窒素代謝により塩素酸イオンが還元されて生成する亜塩素酸イオンは、通常の微生物に対して高い毒性を示す。これに対して本発明の形質転換体は塩素酸に対して高い耐性を有する。そのため、塩素酸を含有する培地で本発明の形質転換体を培養した場合、目的外の微生物のコンタミネーションを防止することができる。特に、本発明の形質転換体を、各種微生物やこれらの栄養源が混入する可能性が高い屋外で培養しても、培養途中でのコンタミネーションに対して十分に適宜対処できる。
なお、本明細書において「NRT遺伝子」とは、NRTをコードする領域の塩基配列からなるDNAの他、NRTの発現を調節する領域の塩基配列からなるDNAや、NRTをコードする領域とNRTの発現を調節する領域の塩基配列からなるDNAも包含する。
【0018】
本発明におけるNRTは、前記タンパク質(A)又は(B)を指す。配列番号41で表されるアミノ酸配列は、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株由来のNRT(以下、「NoNRT」ともいう)である。なお、コナミドリムシ(非特許文献2に記載)のNRTのアミノ酸配列に対する、配列番号41で表されるアミノ酸配列の相同性は、約38%である。
前記タンパク質(A)及び(B)はいずれも、NRT活性を有する。本明細書において「NRT活性」とは、外界から細胞内部への硝酸イオンや塩素酸イオンの輸送能を意味する。
【0019】
タンパク質がNRT活性を有することは、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、硝酸イオンの輸送体が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養し、硝酸を窒素源として生育が可能かどうかを分析することで確認できる。
【0020】
タンパク質(B)は、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列との同一性が70%以上のアミノ酸配列からなり、かつNRT活性を有する。
一般に、タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければタンパク質としての機能を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても機能に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような機能に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されてもタンパク質本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにNRT活性が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
【0021】
前記タンパク質(B)において、NRT活性の点から、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列との同一性は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(B)として、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上141個以下、好ましくは1個以上117個以下、より好ましくは1個以上94個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上24個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
【0022】
前記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子として、下記DNA(a)又は(b)からなる遺伝子が挙げられる。
(a)配列番号39で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が55%以上の塩基配列からなり、かつNRT活性を有するタンパク質をコードするDNA。
配列番号39の塩基配列は、NoNRTをコードする遺伝子の塩基配列である。
【0023】
前記DNA(b)において、NRT活性の点から、前記DNA(a)の塩基配列との同一性は60%以上がより好ましく、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また前記DNA(b)として、前記DNA(a)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上634個以下、好ましくは1個以上563個以下、より好ましくは1個以上493個以下、より1個以上423個以下、好ましくは1個以上352個以下、より好ましくは1個以上282個以下、より好ましくは1個以上212個以下、より好ましくは1個以上141個以下、より好ましくは1個以上113個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上29個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつNRT活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(b)として、前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNRT活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNAも好ましい。
【0024】
NRT遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号41に示すアミノ酸配列又は配列番号39に示す塩基配列に基づいて、NRT遺伝子を人工的に合成できる。NRT遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス・オキュラータからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION [Joseph Sambrook, David W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001) ] 記載の方法等により行うことができる。また、実施例で用いたナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145は、国立環境研究所(NIES)より入手することができる。
【0025】
本発明の第2の実施態様は、前述のNRT遺伝子に加えて、NR遺伝子についても欠失又は発現を抑制させる。これらの遺伝子を欠失又は発現を抑制することで硝酸の基質アナログに対する耐性がより向上する。そのため、硝酸の基質アナログ、好ましくは塩素酸、をより高い濃度で含有する条件下であっても、得られる形質転換体は生育が可能である。よって、本発明の形質転換体は、向上した硝酸の基質アナログに対する耐性(好ましくは塩素酸耐性)を指標に選抜することができる。ここで、本明細書における「NR」とは、硝酸イオンを還元して亜硝酸イオンを生じる酵素である。また、硝酸イオンの基質アナログとして塩素酸イオンを還元し、亜塩素酸イオンの生成も行う。
なお、本明細書において「NR遺伝子」とは、NRをコードする領域の塩基配列からなるDNAの他、NRの発現を調節する領域の塩基配列からなるDNAや、NRをコードする領域とNRの発現を調節する領域の塩基配列からなるDNAも包含する。
なお本明細書において、NRT遺伝子及びNR遺伝子を「欠失又は発現を抑制する」とは、下記(I)、(II)、(III)及び(IV)に示す遺伝子操作を意味する。
(I)NRT遺伝子及びNR遺伝子をそれぞれ欠失する。
(II)NRT遺伝子及びNR遺伝子の発現をそれぞれ抑制する。
(III)NRT遺伝子を欠失し、NR遺伝子の発現を抑制する。
(IV)NRT遺伝子の発現を抑制し、NR遺伝子を欠失する。
【0026】
本明細書におけるNRは、前記タンパク質(C)又は(D)を指す。配列番号42のアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス属に属する微細藻類であるナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株由来のNR(以下、「NoNR」ともいう)である。
前記タンパク質(C)及び(D)はいずれも、NR活性を有する。本明細書において「NR活性」とは、硝酸イオンを還元して亜硝酸イオンを生成する反応を触媒する活性、又は塩素酸イオンを還元して亜塩素酸イオンを生成する反応を触媒する活性を意味する。
【0027】
タンパク質(D)は、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列との同一性が70%以上のアミノ酸配列からなり、かつNR活性を有する。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにNR活性が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
【0028】
前記タンパク質(D)において、NR活性の点から、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列との同一性は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(D)として、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上255個以下、好ましくは1個以上212個以下、より好ましくは1個以上170個以下、より好ましくは1個以上128個以下、より好ましくは1個以上85個以下、より好ましくは1個以上68個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上9個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
【0029】
なお、ナンノクロロプシス・オキュラータ等の藻類は、私的又は公的な研究所等の保存機関より入手することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株は、国立環境研究所(NIES)から入手することができる。
【0030】
前記NR、好ましくはタンパク質(C)又は(D)、をコードする遺伝子として、下記DNA(c)又は(d)からなる遺伝子が挙げられる。
(c)配列番号40で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が70%以上の塩基配列からなり、かつNR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
配列番号40の塩基配列は、NoNRをコードする遺伝子の塩基配列である。
【0031】
前記DNA(d)において、NR活性の点から、前記DNA(c)の塩基配列との同一性は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また前記DNA(d)として、配列番号40で表される塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上764個以下、好ましくは1個以上636個以下、より好ましくは1個以上509個以下、好ましくは1個以上382個以下、より好ましくは1個以上255個以下、より好ましくは1個以上204個以下、より好ましくは1個以上128個以下、より好ましくは1個以上51個以下、より好ましくは1個以上26個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつNR活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(d)として、前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNR活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAも好ましい。
【0032】
NR遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号42に示すアミノ酸配列又は配列番号40に示す塩基配列に基づいて、NR遺伝子を人工的に合成できる。NR遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス・オキュラータからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION [Joseph Sambrook, David W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001) ] 記載の方法等により行うことができる。また、実施例で用いたナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145は、国立環境研究所(NIES)より入手することができる。
【0033】
本発明において、ゲノム上のNRT遺伝子やNR遺伝子の欠失又は発現を抑制する方法としては特に制限はなく、常法より適宜選択することができる。NRT遺伝子やNR遺伝子が欠失又はこれらの発現が抑制されていることは、形質転換体のゲノム配列の解析や、NRT活性、NR活性を常法に測定することで確認できる。
例えば、ゲノム上のNRT遺伝子やNR遺伝子を破壊することで、NRT遺伝子やNR遺伝子を欠失させることができる。具体的には、NRT遺伝子やNR遺伝子の一部を含む適当なDNA断片を微細藻類の細胞内に取り込ませ、NRT遺伝子やNR遺伝子の一部領域に於ける相同組換えによってゲノム上のNRT遺伝子やNR遺伝子の全部又は一部を他の任意のDNA断片(例えば、任意の選択マーカー)で置換し、又は任意のDNA断片(例えば、任意の選択マーカー)を挿入してNRT遺伝子やNR遺伝子を分断し、NRT遺伝子やNR遺伝子を欠失することが可能である。
また、ランダムな遺伝子の発現の抑制方法として、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどの変異誘発剤の使用、紫外線やガンマ線等の照射によりNRT遺伝子やNR遺伝子の突然変異を誘発する方法、NRT遺伝子やNR遺伝子中(例えば、活性部位、基質結合部位、並びに転写若しくは翻訳開始領域)に部位特異的点突然変異(例えば、フレームシフト突然変異、インフレーム突然変異、終止コドンの挿入など)を誘発する方法、アンチセンス法、RNA干渉法、プロモーター競合等が挙げられる。
本発明において、ゲノム上のNRT遺伝子やNR遺伝子を破壊し、これら遺伝子を欠失させることが好ましい。
【0034】
NRT遺伝子やNR遺伝子の破壊に用いる相同組換え用DNAカセットのサイズは、微細藻類への導入効率や、相同組換え効率、前記各種遺伝子のサイズなどを考慮し、適宜設定することができる。例えば、400bp以上が好ましく、500bp以上がより好ましい。またその上限値は、2.0kbpが好ましく、2.5kbpがより好ましい。
また、相同組換えにより欠損させるゲノムの長さは、15kbp以下が好ましく、10kbp以下がより好ましい。さらに、導入する各種遺伝子の長さは、10kbp以下が好ましく、8kbp以下がより好ましい。
【0035】
前記相同組換え用DNAカセットを微細藻類に導入する形質転換方法は、微細藻類の種類に応じて常法より適宜選択することができる。
例えば、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、LP形質転換方法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法等が挙げられる。また、本発明では、Nature Communications, DOI:10.1038/ncomms1688, 2012等に記載のエレクトロポレーション法を用いて形質転換を行うこともできる。
【0036】
本発明で用いる微細藻類は、遺伝子改変技術が確立している観点から、真正眼点藻綱の微細藻類が好ましく、ユースチグマトス目(Eustigmatales)の微細藻類がより好ましく、ナンノクロロプシス属の微細藻類がより好ましい。ナンノクロロプシス属の微細藻類の具体例としては、ナンノクロロプシス・オキュラータ、ナンノクロロプシス・オセアニカ(
Nannochloropsis oceanica)、オキュラータ、ナンノクロロプシス・ガディタナ(
Nannochloropsis gaditana)、ナンノクロロプシス・サリナ(
Nannochloropsis salina)、ナンノクロロプシス・アトムス(
Nannochloropsis atomus)、ナンノクロロプシス・マキュラタ(
Nannochloropsis maculata)、ナンノクロロプシス・グラニュラータ(
Nannochloropsis granulata)、ナンノクロロプシス・エスピー(
Nannochloropsis sp. )等が挙げられる。このうち、ナンノクロロプシス・オキュラータ、ナンノクロロプシス・オセアニカ又はオキュラータ、ナンノクロロプシス・ガディタナが好ましく、ナンノクロロプシス・オキュラータがより好ましい。
【0037】
NRT遺伝子やNR遺伝子が欠失又はそれらの発現が抑制された形質転換体の選択は、常法により行えるが、硝酸の基質アナログに対する耐性を指標として行うことが好ましく、塩素酸耐性を指標として行うことがより好ましい。
具体的には、宿主の種類に応じて、培地に含まれる硝酸の基質アナログ(好ましくは塩素酸)又はその塩の濃度と、形質転換体の培養期間を適宜選択し、硝酸の基質アナログ(好ましくは塩素酸)の存在下で培養したとき生育可能な株を、硝酸の基質アナログ(好ましくは塩素酸)耐性を獲得した形質転換体として選抜する。
培地に含まれる塩素酸又はその塩の濃度は、3mM以上が好ましく、5mM以上がより好ましい。また培養期間は、1週間以上が好ましく、2週間以上がより好ましく、8週間以下が好ましい。
【0038】
NRT遺伝子やNR遺伝子を欠失又はそれらの発現を抑制した形質転換体では、硝酸資化性が低下している場合がある。その場合、尿素、アンモニア、亜硝酸などを窒素源として含有する培地で形質転換体を培養することが好ましい。
培地に含まれる前記窒素源の濃度は適宜設定することができる。具体的には、前記窒素源の濃度は、窒素原子等量で、1mg/L以上が好ましく、5mg/L以上がより好ましく、10mg/L以上がより好ましい。またその上限値は、2,000mg/Lが好ましく、1,000mg/Lがより好ましく、500mg/Lがより好ましく、200mg/Lがより好ましい。
【0039】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の微細藻類における硝酸の基質アナログに対する耐性を向上させる方法、形質転換体、を開示する。
【0040】
<1>微細藻類のゲノム上の下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子を欠失、又は下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子の発現を抑制し、微細藻類における硝酸の基質アナログに対する耐性を向上させる方法。
(A)配列番号41で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつNRT活性を有するタンパク質。
<2>微細藻類のゲノム上の下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子、並びに下記タンパク質(C)若しくは(D)をコードする遺伝子を、欠失又は発現を抑制し、微細藻類における硝酸の基質アナログに対する耐性を向上させる方法。
(A)配列番号41で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつNRT活性を有するタンパク質。
(C)配列番号42で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつNR活性を有するタンパク質。
【0041】
<3>ゲノム上の前記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子が欠失、又は下記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子の発現が抑制されている、硝酸の基質アナログに対する耐性を有する、微細藻類の形質転換体。
<4>ゲノム上の前記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子、並びに前記タンパク質(C)若しくは(D)をコードする遺伝子が、欠失又は発現が抑制されている、硝酸の基質アナログに対する耐性を有する、微細藻類の形質転換体。
【0042】
<5>微細藻類のゲノム上の前記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子を欠失、又は前記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子の発現を抑制し、硝酸の基質アナログに対する耐性を指標として形質転換体を取得する、硝酸の基質アナログに対する耐性を有する形質転換体の作製方法。
<6>微細藻類のゲノム上の前記タンパク質(A)若しくは(B)をコードする遺伝子、並びに前記タンパク質(C)若しくは(D)をコードする遺伝子を、欠失又は発現を抑制し、硝酸の基質アナログに対する耐性を指標として形質転換体を取得する、硝酸の基質アナログに対する耐性を有する形質転換体の作製方法。
【0043】
<7>前記の、硝酸の基質アナログが、塩素酸である、前記<1>〜<6>のいずれか1項記載の方法、又は形質転換体
<8>前記形質転換体が、塩素酸又はその塩を3mM以上、好ましくは5mM以上で含有する培地で、1週間以上、好ましくは2週間以上、8週間以下、を培養したとき、生育可能である、前記<1>〜<7>のいずれか1項記載の方法、又は形質転換体。
<9>前記形質転換体を、尿素、アンモニア、及び亜硝酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を窒素源として含有する培地で培養する、前記<1>〜<8>のいずれか1項記載の方法、又は形質転換体。
<10>培地に含まれる前記窒素源の濃度が、窒素原子等量で、1mg/L以上、好ましくは5mg/L以上、より好ましくは10mg/L以上、であり、2,000mg/L以下、好ましくは1,000mg/L以下、より好ましくは500mg/L以下、より好ましくは200mg/L以下、である、前記<9>項記載の方法、又は形質転換体。
【0044】
<11>前記タンパク質(B)が、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上141個以下、より好ましくは1個以上117個以下、より好ましくは1個以上94個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上24個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<1>〜<10>のいずれか1項記載の方法、又は形質転換体。
<12>前記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子が、下記DNA(a)又は(b)からなる遺伝子である、前記<1>〜<11>のいずれか1項記載の方法、又は形質転換体。
(a)配列番号39で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が55%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつNRT活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<13>前記DNA(b)が、前記DNA(a)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上634個以下、より好ましくは1個以上563個以下、より好ましくは1個以上493個以下、より好ましくは1個以上423個以下、より好ましくは1個以上352個以下、より好ましくは1個以上282個以下、より好ましくは1個以上212個以下、より好ましくは1個以上141個以下、より好ましくは1個以上113個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上29個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつNRT活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNRT活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<12>項記載の方法、又は形質転換体。
【0045】
<14>前記タンパク質(D)が、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上523個以下、より好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上392個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上196個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上26個以下、さらに好ましくは1個以上13個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<2>、<4>、及び<6>〜<13>のいずれか1項記載の方法、又は形質転換体。
<15>前記タンパク質(C)又は(D)をコードする遺伝子が、下記DNA(c)又は(d)からなる遺伝子である、前記前記<2>、<4>、及び<6>〜<14>のいずれか1項記載の方法、又は形質転換体。
(c)配列番号40で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつNR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<16>前記DNA(d)が、前記DNA(c)の塩基配列に、1又は複数個、好ましく1個以上764個以下、より好ましくは1個以上636個以下、より好ましくは1個以上509個以下、好ましくは1個以上382個以下、より好ましくは1個以上255個以下、より好ましくは1個以上204個以下、より好ましくは1個以上128個以下、より好ましくは1個以上51個以下、より好ましくは1個以上26個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつNR活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNR活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<15>項記載の方法、又は形質転換体。
【0046】
<17>前記微細藻類が、真正眼点藻綱、好ましくはユースチグマトス目の微細藻類、より好ましくはナンノクロロプシス属の微細藻類、である、前記<1>〜<16>のいずれか1項に記載の方法、又は形質転換体。
<18>前記微細藻類が、ナンノクロロプシス・オキュラータ、ナンノクロロプシス・オセアニカ、オキュラータ、ナンノクロロプシス・ガディタナ、ナンノクロロプシス・サリナ、ナンノクロロプシス・アトムス、ナンノクロロプシス・マキュラタ、ナンノクロロプシス・グラニュラータ、及びナンノクロロプシス・エスピーからなる群より選ばれる、好ましくはナンノクロロプシス・オキュラータ、ナンノクロロプシス・オセアニカ、オキュラータ、及びナンノクロロプシス・ガディタナからなる群より選ばれる、より好ましくはナンノクロロプシス・オキュラータ、である、前記<1>〜<17>のいずれか1項に記載の方法、又は形質転換体。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、本実施例で用いるプライマーの塩基配列を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例1 ナンノクロロプシス・オキュラータへの塩素酸耐性の付与
(1)ゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
ゼオシン耐性遺伝子(配列番号1)を人工合成し、これを鋳型として表1に示すプライマー番号2及びプライマー番号3のプライマー対を用いてPCRを行い、ゼオシン耐性遺伝子を増幅した。
また、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株(独立行政法人国立環境研究所(NIES)より入手)のゲノムを鋳型として、表1に示すプライマー番号4及びプライマー番号5のプライマー対、並びにプライマー番号6及びプライマー番号7のプライマー対をそれぞれ用いてPCRを行い、VCP1プロモーター配列(配列番号8)及びVCP1ターミネーター配列(配列番号9)を増幅した。
さらに、プラスミドベクターpUC118(タカラバイオ社製)を鋳型として、表1に示すプライマー番号10及びプライマー番号11のプライマー対を用いてPCRを行い、プラスミドベクターpUC118を増幅した。
得られた4つの断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて融合し、ゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドを構築した。
【0050】
(2)ナンノクロロプシス内在性NRT遺伝子及びNR遺伝子の相同組換え用プラスミドの構築
ナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株より抽出したゲノムを鋳型として、表1に示すプライマー番号12及びプライマー番号13のプライマー対、プライマー番号14及びプライマー番号15のプライマー対、プライマー番号16及びプライマー番号17のプライマー対、並びにプライマー番号18及びプライマー番号19のプライマー対をそれぞれ用いてPCRを行い、
図2に示すNRT遺伝子及びNR遺伝子(以下、「NRT-NR遺伝子」ともいう)周辺のゲノム配列(配列番号20)の部分配列(ゲノム配列(W)(配列番号20の2254〜3849位(配列番号21))、ゲノム配列(X)(配列番号20の5969〜7479位(配列番号22))、ゲノム配列(Y)(配列番号20の6816〜8286位(配列番号23))、ゲノム配列(Z)(配列番号20の8516〜10053位(配列番号24))を増幅した。
また、前述のゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドを鋳型に、表1に示すプライマー番号25及びプライマー番号26のプライマー対を用いてPCRを行い、ゼオシン耐性遺伝子発現用カセットPvcp1-ble-Tvcp1を取得した。
【0051】
その後、得られたゲノム配列(W)断片、ゲノム配列(X)断片、ゼオシン耐性遺伝子発現用カセット、及び前述のプラスミドベクターpUC118をIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて融合し、NRT遺伝子相同組換え用プラスミド(以下、「NRT遺伝子KO用プラスミド」ともいう)を構築した。
同様に、ゲノム配列(Y)断片、ゲノム配列(Z)断片、ゼオシン耐性遺伝子発現用カセット断片、及びプラスミドベクターpUC118を融合し、NR遺伝子相同組換え用プラスミド(以下、「NR遺伝子KO用プラスミド」ともいう)を構築した。
さらに、ゲノム配列(W)断片、ゲノム配列(Z)断片、ゼオシン耐性遺伝子発現用カセット断片、及びプラスミドベクターpUC118を融合し、NRT-NR遺伝子相同組換え用プラスミド(1)(以下、「NRT-NR遺伝子KO用プラスミド(1)」ともいう)を構築した。
なおこれらのプラスミドは、配列番号20の上流ゲノム配列(ゲノム配列(W)断片又はゲノム配列(Y)断片)、VCP1プロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、VCP1ターミネーター配列、及び配列番号20の下流ゲノム配列(ゲノム配列(X)断片又はゲノ配列(Z)断片)の順に連結したインサート配列と、pUC118ベクター配列からなる(
図3(a)〜(c)参照)。
【0052】
(3)相同組換え用プラスミドのナンノクロロプシス・オキュラータへの導入
前記NRT遺伝子相同組換え用プラスミドを鋳型として、表1に示すプライマー番号27及びプライマー番号28のプライマー対を用いてPCRを行い、NRT遺伝子相同組換え用カセット(
図3(a)に示すプラスミドのインサート配列)を増幅した。
同様に、前記NR遺伝子相同組換え用プラスミドを鋳型として、表1に示すプライマー番号29及びプライマー番号30のプライマー対を用いてPCRを行い、NR遺伝子相同組換え用カセット(
図3(b)に示すプラスミドのインサート配列)を増幅した。
さらに、前記NRT-NR遺伝子相同組換え用プラスミド(1)を鋳型として、表1に示すプライマー番号27及びプライマー番号30のプライマー対を用いてPCRを行い、NRT-NR遺伝子相同組換え用カセット(1)(
図3(c)に示すプラスミドのインサート配列)を増幅した。
増幅した各DNA断片を、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche Applied Science社製)を用いて精製した。
【0053】
培養したナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株を遠心回収し、384mMのソルビトール溶液で洗浄し、ソルビトールで懸濁した細胞液を宿主として用いた。
上記で増幅した3種の相同組換え用カセット約500ngをそれぞれ宿主細胞と混和し、50μF、500Ω、2,200v/2mmの条件でエレクトロポレーションを行った。
尿素液体培地(尿素400mg、NaH
2PO
4・2H
2O 30mg、ビタミンB12 0.5μg、ビオチン0.5μg、チアミン100μg、Na
2SiO
3・9H
2O 10mg、Na
2EDTA・2H
2O 4.4mg、FeCl
3・6H
2O 3.16mg、FeCl
3・6H
2O 12μg、ZnSO
4・7H
2O 21μg、MnCl
2・4H
2O 180μg、CuSO
4・5H
2O 7μg、Na
2MoO
4・2H
2O 7μg/人工海水1L)(以下、「尿素培地」という)にて24時間回復培養を行った。その後、2μg/mLのゼオシンを含有する尿素寒天培地に塗布し、25℃、0.3%CO
2雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2〜3週間培養した。
【0054】
(4)NR遺伝子破壊株、NRT遺伝子破壊株、並びにNRT遺伝子及びNR遺伝子破壊株の選抜
ゼオシン耐性を指標に得られたコロニーの中から、相同組換え用カセットによってナンノクロロプシス・オキュラータのNR遺伝子、NRT遺伝子、又はNRT-NR遺伝子が破壊された株をそれぞれPCRにより選抜した。
【0055】
NR遺伝子破壊株(以下、「ΔNR株」ともいう)は、
図4(a)に示すように、野生(WT)株のゲノムDNAと前記NR遺伝子相同組換え用カセット(NR-KO断片)の相同配列を利用した組換えにより、ゲノム上にコードされたNR遺伝子を破壊することで取得できる。
ΔNR株の選抜は、表1に示すプライマー番号31及びプライマー番号32のプライマー対を用いてPCRを行い、増幅される断片の長さの違いを指標として行った(
図4(b)及び(c)参照)。
図4(c)に示すように、WT株では、約3.4kbpの遺伝子断片の増幅が確認された。これに対して、ΔNR株では、約5.0kbpの遺伝子断片の増幅が確認された。
【0056】
NRT遺伝子破壊株(以下、「ΔNRT株」ともいう)は、
図5(a)に示すように、WT株のゲノムDNAと前記NRT遺伝子相同組換え用カセット(NRT-KO断片)の相同配列を利用した組換えにより、ゲノム上にコードされたNRT遺伝子を破壊することで取得できる。
ΔNRT株の選抜は、表1に示すプライマー番号33及びプライマー番号34のプライマー対を用いてPCRを行い、断片増幅の有無を指標として行った(
図5(b)及び(c)参照)。
図5(c)に示すように、WT株では、遺伝子断片の増幅は行われない。これに対して、ΔNR株では、約3.3kbpの遺伝子断片の増幅が確認された。
【0057】
NRT-NR遺伝子の破壊株(以下、「ΔNRTΔNR株」ともいう)は、
図6(a)に示すように、WT株のゲノムDNAと前記NRT-NR遺伝子相同組換え用カセット(1)(NRT-NR-KO断片(1))の相同配列を利用した組換えにより、ゲノム上にコードされたNRT遺伝子及びNR遺伝子を破壊することで取得できる。
ΔNRTΔNR株の選抜は、表1に示すプライマー番号35及びプライマー番号36のプライマー対を用いてPCRを行い、増幅される断片の長さの違いを指標として行った(
図6(b)及び(c)参照)。
図6(c)に示すように、WT株では、約6.9kbpの遺伝子断片の増幅が確認された。これに対して、ΔNRTΔNR株では、約4.1kbpの遺伝子断片の増幅が確認された。
【0058】
(5)ΔNR株、ΔNRT株、ΔNRTΔNR株の塩素酸耐性評価
ΔNR株、ΔNRT株、及びΔNRTΔNR株をそれぞれ、尿素寒天培地、尿素寒天培地の窒素源である尿素を硝酸に置き換えた硝酸寒天培地(硝酸1.1g、NaH
2PO
4・2H
2O 30mg、ビタミンB12 0.5μg、ビオチン 0.5μg、チアミン 100μg、Na
2SiO
3・9H2O 10mg、Na
2EDTA・2H
2O 4.4mg、FeCl
3・6H2O 3.16mg、FeCl
3・6H
2O 12μg、ZnSO
4・7H
2O 21μg、MnCl
2・4H
2O 180μg、CuSO
4・5H2O 7μg、Na
2MoO
4・2H
2O 7μg/人工海水1L)、及び5mM塩素酸カリウム(KClO
3)を含有する尿素寒天培地の3種の寒天培地それぞれに播種し、25℃、0.3%CO
2雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2〜3週間培養した。
対照としてWT株についても同様の検討を行った。
【0059】
培養後の寒天培地の様子を
図7に示す。
図7に示すように、硝酸寒天培地を用いた場合、WT株についてのみ生育は可能であったが、ΔNR株、ΔNRT株、及びΔNRTΔNR株では生育は確認できなかった。一方で、WT株、ΔNR株、ΔNRT株、及びΔNRTΔNR株はいずれも、尿素寒天培地での生育は可能であった。これら結果から、ナンノクロロプシス属に属する藻類においてNRT遺伝子やNR遺伝子が破壊されると、硝酸の資化性が喪失する。また、ナンノクロロプシスは硝酸の代わりに尿素を窒素源とすることも可能であることを示している。
【0060】
また、前述の通り、塩素酸はNRにより変換されることで細胞毒性を示すことが、一般に知られている。そこで、ナンノクロロプシスの塩素酸に対する感受性について、WT株、ΔNR株、ΔNRT株、及びΔNRTΔNR株の塩素酸含有寒天培地上での生育を比較することで評価した。
その結果、
図7の下段に示すように、WT株は塩素酸暴露によって死滅した。また、一般に言われているようにNR遺伝子の発現を抑制した株(ΔNR株)でも生育性を評価したが、5mMの塩素酸条件下において生育は確認されず、NR遺伝子の破壊だけでは塩素酸耐性を向上させることはできなかった。これに対して、ΔNRT株では塩素酸暴露条件下においても生育が確認され、NRT活性の抑制により、WT株に比べ塩素酸耐性が向上することを確認した。更に、ΔNRTΔNR株では、ΔNRT株と比較しても良好な生育が見られ、NRTとNRの活性が共に抑制されることで塩素酸耐性が飛躍的に向上することが示された。
【0061】
さらに、尿素寒天培地に添加する塩素酸カリウム濃度を変えて、前述と同様の方法により、WT株、ΔNR株、ΔNRT株、及びΔNRTΔNR株の生育性を評価した(spot後3週間)。なお、生育性の評価は、下記の評価基準により行った。
(評価基準)
−:生育せず
+:生育抑制、(若干の)色素退色
++:生育抑制
+++:十分に生育
その結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示すように、ΔNRT株では塩素酸の濃度が5mMの条件下においても生育が確認され、NRT活性の抑制によりWT株やΔNR株に比べ塩素酸耐性が向上することを確認した。更に、ΔNRTΔNR株では塩素酸耐性が飛躍的に向上し、塩素酸の濃度が30mMの条件下においても生育が可能であった。
【0064】
以上のように、真正眼点藻綱において、NRT遺伝子を欠失又は発現を抑制することで、塩素酸などの硝酸の基質アナログに対する耐性を向上させることができる。
さらに、NRT遺伝子に加えて、NR遺伝子も欠失又は発現を抑制することで、硝酸の基質アナログに対する耐性が顕著に向上し、高濃度の塩素酸存在下でも生育が可能な形質転換体を作製することができる。
【0065】
実施例2 ナンノクロロプシス・オキュラータの塩素酸耐性を指標としたΔNRTΔNR株の取得
(1)ナンノクロロプシス内在性NRT-NR遺伝子の相同組換え用プラスミドの構築
実施例1で作製したNRT-NR遺伝子KO用プラスミド(1)(
図3(c)参照)を鋳型として、表1に示すプライマー番号37及びプライマー番号38のプライマー対を用いてPCRを行い、
図2に示すNRT-NR遺伝子周辺のゲノム配列(配列番号20)の部分配列(ゲノム配列(W)(配列番号21)、ゲノム配列(Z)(配列番号24))がpUC118ベクター配列によって連結された断片を増幅した。
この増幅断片を実施例1と同様の方法にて融合し、薬剤耐性遺伝子(ble)発現用カセットを含まないNRT-NR遺伝子相同組換え用プラスミド(2)(以下、「NRT-NR遺伝子KO用プラスミド(2)」ともいう)を構築した。
なお、本発現プラスミドは、
図2に示すナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株のゲノム配列(W)とゲノム配列(Z)を順に連結したインサート配列と、pUC118ベクター配列からなる(
図8(a)参照)。
【0066】
(2)相同組換え用プラスミドのナンノクロロプシス・オキュラータへの導入
前記NRT-NR遺伝子相同組換え用プラスミド(2)を鋳型として、表1に示すプライマー番号27及びプライマー番号30のプライマー対を用いてPCRを行い、NRT-NR遺伝子相同組換え用カセット(2)(
図8(a)に示すプラスミドのインサート配列)を増幅した。
増幅したDNA断片を用いて、実施例1と同様の方法でナンノクロロプシス・オキュラータへ導入し、回復培養を行った。回復培養後、20mM塩素酸カリウム(KClO
3)含有尿素寒天培地に塗布し、25℃、0.3%CO
2雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2〜3週間培養し、塩素酸耐性を指標としてコロニーを取得した。
【0067】
(3)塩素酸耐性株のNRT-NR周辺ゲノムの解析
塩素酸耐性を指標に取得された形質転換体について、NRT-NR遺伝子周辺のゲノムを確認した。
表1に示すプライマー番号35及びプライマー番号36のプライマー対を用いてPCRを行い、NRT-NR遺伝子周辺ゲノムを増幅した。その結果、塩素酸耐性を指標として取得した株では全て約2.2kbpの断片が増幅された。
図8(b)に示すとおり、WT株のゲノムDNAと、前記NRT-NR遺伝子相同組換え用カセット(2)(NRT-NR-KO断片(2))の相同配列箇所において相同組換えが生じると、ΔNRTΔNR株が取得される。よって、上記条件でのPCRにより増幅される断片は、WT株で約6.9kbp、ΔNRTΔNR株で約2.2kbpの断片が増幅される(
図8(c)及び(d)参照)。
【0068】
以上の結果より、塩素酸耐性を指標に取得された株は全てΔNRTΔNR株であることが明らかとなった。このことから、塩素酸耐性を指標とした形質転換体の取得も可能であることが示された。