(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非プロトン性溶媒がエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択された少なくとも1種である請求項1に記載の電極活物質成形体の製造方法。
請求項1〜4のいずれかに記載の電極活物質成形体の製造方法により製造した電極活物質成形体に電解液を含浸する工程を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の電極活物質成形体の製造方法は、非プロトン性溶媒と電極活物質とを含み樹脂結着剤を含まない混合物を圧縮成形する圧縮成形工程を有し、上記非プロトン性溶媒の融点が、圧縮成形工程における環境温度以上であり、上記混合物中で上記非プロトン性溶媒が固形物として存在することを特徴とする。
【0010】
まず、圧縮成形工程において圧縮成形する材料である混合物に含まれる各成分について説明する。
混合物には、非プロトン性溶媒及び電極活物質が少なくとも含まれる。
電極活物質は、正極活物質であっても負極活物質であってもよい。
【0011】
非プロトン性溶媒とは、水素イオン供与性の基(解離性の水素原子を有する基、例えば、アミノ基、水酸基、及びチオ基。)を有さない溶媒であり、好ましく用いることができる溶媒としては、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン等及びこれらの混合物を用いることができ、より好ましくは通常の非水電解液に用いられている非水溶媒を使用することができる。圧縮成形工程においては、非プロトン性溶媒の種類に合わせて、圧縮成形工程における環境温度を調整して、非プロトン性溶媒の融点が圧縮成形工程における環境温度以上になるようにして使用する。
また、混合物中で非プロトン性溶媒は他の液体に溶解していない状態、すなわち、固形物として存在するようにして圧縮成形工程に供する。
混合物中で非プロトン性溶媒が固形物として存在するということは、非プロトン性溶媒の状態(固体、液体、気体のいずれの状態であるか)が固体であり、かつ、他の液体に溶解していない状態であることを意味する。
電極活物質と非プロトン性溶媒の混合物は全体としては固形物(粉末状の混合物)である。
【0012】
ラクトン化合物としては、5員環(γ−ブチロラクトン及びγ−バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ−バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0013】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート及びジ−n−プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0014】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン及び1,4−ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2−ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0015】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2−エトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン、2−トリフルオロエトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン及び2−メトキシエトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等の鎖状スルホン及びスルホラン等の環状スルホン等が挙げられる。
非プロトン性溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
これらの非プロトン性溶媒の中では、その融点が0℃以上である溶媒が好ましい。
特に、エチレンカーボネート(融点35℃)、ジメチルカーボネート(融点3℃)及びビニレンカーボネート(融点20℃)からなる群から選択された少なくとも1種の溶媒を使用することが好ましい。
これらの溶媒は、電解液として使用される溶媒の中では融点が比較的高い。そのため、非プロトン性溶媒が固形物として存在する状態で圧縮成形工程を行うことにより成形体の表面状態を平滑とするために適している。
なお、本明細書において単に「溶媒の融点」というときには、標準大気圧下で測定した融点を意味する。
【0017】
電極活物質としての正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO
2、LiNiO
2、LiAlMnO
4、LiMnO
2及びLiMn
2O
4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO
4、LiNi
1−xCo
xO
2、LiMn
1−yCo
yO
2、LiNi
1/3Co
1/3Al
1/3O
2及びLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO
2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4及びLiNiPO
4)、遷移金属酸化物(例えばMnO
2及びV
2O
5)、遷移金属硫化物(例えばMoS
2及びTiS
2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0018】
電極活物質としての負極活物質としては、炭素系材料[例えば黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)、炭化ケイ素及び炭素繊維等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物、リチウム・チタン酸化物及びケイ素酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム−スズ合金、リチウム−シリコン合金、リチウム−アルミニウム合金及びリチウム−アルミニウム−マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
上記負極活物質のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め活物質の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0019】
電極活物質は、電極活物質そのものであってもよく、電極活物質の表面の一部又は全部が被覆用樹脂である高分子化合物を含んでなる電極被覆層により被覆された被覆電極活物質であってもよいが、被覆電極活物質であることが好ましい。
電極活物質の表面が電極被覆層で被覆されていると、電極活物質間の距離を一定に保つことが容易になり、導電経路を維持することが容易になり好ましい。
【0020】
電極被覆層は、被覆用樹脂である高分子化合物を含んでなる。また、必要に応じて、さらに、後述する導電助剤を含んでいてもよい。
なお、被覆電極活物質は、電極活物質の表面の一部又は全部が、高分子化合物を含んでなる電極被覆層によって被覆されたものであるが、電極活物質成形体中において、例え被覆電極活物質同士が接触したとしても、接触面において電極被覆層同士が被覆用樹脂によって不可逆的に接着することはない。
【0021】
電極被覆層を構成する高分子化合物としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられ、例えば、国際公開第2015/005117号に記載のリチウムイオン電池活物質被覆用樹脂等が挙げられる。
【0022】
電極被覆層はさらに導電助剤を含んでいることが好ましい。
導電助剤は、導電性を有する材料から選択され、具体的には、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、PAN系炭素繊維及びピッチ系炭素繊維等のカーボンファイバー、カーボンナノファイバー並びにカーボンナノチューブ、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]を用いることができる。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。グラフェンを練り込んだポリプロピレン樹脂も導電助剤として好ましい。
【0023】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、リチウムイオン電池用電極の電気特性の観点から、0.01〜10μmであることが好ましく、0.02〜5μmであることがより好ましく、0.03〜1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、導電助剤の粒子径は、導電助剤が形成する粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0024】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、例えば、繊維状の導電助剤であってもよい。
繊維状の導電助剤としては、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。
繊維状の導電助剤の平均繊維径は、0.1〜20μmであることが好ましい。
【0025】
電極被覆層が導電助剤を含んでいる場合、電極被覆層に含まれる導電助剤の重量は、被覆用樹脂である高分子化合物と導電助剤との合計重量に対して15〜75重量%であることが好ましい。
被覆電極活物質が有する電極被覆層が導電助剤を含んでいる場合、予備充電後に電極活物質の表面にSEI膜が形成された場合であっても電極被覆層に含まれる導電助剤の効果によって活物質間の導通経路を維持することができ、SEI膜の形成による抵抗上昇が抑制できるため好ましく、導電助剤の割合がこの範囲であると抵抗抑制が容易になり更に好ましい。
【0026】
電極活物質として被覆電極活物質を用いる場合には、例えば、電極活物質を万能混合機に入れて30〜50rpmで撹拌した状態で、高分子化合物を含む高分子溶液を1〜90分かけて滴下混合し、さらに必要に応じて導電材料を混合し、撹拌したまま50〜200℃に昇温し、0.007〜0.04MPaまで減圧した後に10〜150分保持することにより、被覆電極活物質を得ることができる。
【0027】
圧縮成形工程において圧縮成形する材料である混合物には、電極被覆層に含まれる上記の導電助剤とは別に導電材料を含んでも良い。導電材料を含むようにすると活物質間の導電経路を維持し易くなり好ましい。
導電材料としては、電極被覆層に含まれる上記の導電助剤と同じものを用いることができ、好ましいものも同じである。
【0028】
圧縮成形工程において圧縮成形する材料である混合物は、リチウムイオン電池電極用バインダー(以下、樹脂結着剤ともいう)を含まない。
本明細書における樹脂結着剤としてはデンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。
また、樹脂結着剤を用いていないため、樹脂結着剤を用いた場合に必要となる加熱等して樹脂結着剤を固化する工程が不要である。
【0029】
混合物中の各成分の配合比率としては、非プロトン性溶媒を2〜10重量%、電極活物質を70〜85重量%とすることが好ましい。
さらに導電材料を含む場合、導電材料を0〜5重量%含むことが好ましい。
これらの重量比率は、圧縮成形工程に供する時点での比率である。
【0030】
また、本明細書における非プロトン性溶媒(圧縮成形工程に供する混合物中で固形物として存在する非プロトン性溶媒)の他に別の種類の溶媒(融点が低く混合物の調製時に液体である溶媒)を混合して、非プロトン性溶媒が上記別の種類の溶媒に溶解した液体の混合液を調製しておき、この混合液と電極活物質を混合して混合物前駆体を得てもよい。
このようにすると非プロトン性溶媒と電極活物質の混合を均一に行いやすいという利点がある。
そして、この混合物前駆体を加熱等して乾燥して、上記別の種類の溶媒(融点が低いため先に留去される)を留去してもよい。
このようにすると、混合物中に非プロトン性溶媒が固形物として残り、本発明の電極活物質成形体の製造方法で使用する混合物が、固形物の状態の非プロトン性溶媒と電極活物質が均一に混合された状態で得られる。
【0031】
圧縮成形工程では、上記混合物を圧縮成形する。
圧縮成形は、油圧プレス装置等の任意の加圧装置及び加圧治具を用いて行うことができる。例えば、円筒形状の有底容器内に混合物を入れて、その上から上記筒の内径より少しだけ小さい径の丸棒形状の加圧治具を挿入し、加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された成形体が得られる。
加圧治具の形状を変更することにより、任意の形状の成形体を得ることができる。
作製する成形体の形状は、厚さ250〜2000μmであることが好ましい。
また、円柱形状の成形体の場合、直径10〜70mmであることが好ましい。
【0032】
圧縮成形工程において、非プロトン性溶媒の融点が圧縮成形工程における環境温度以上となるようにする。言い換えれば、圧縮成形工程における環境温度が非プロトン性溶媒の融点未満になるようにする。
このようにすると、圧縮成形工程を経て得られる電極活物質成形体に含まれる非プロトン性溶媒は固体であるので、圧縮成形工程後の電極活物質成形体の形状が崩れることなく安定した形で得られる。また、表面状態が平滑な電極活物質成形体が得られる。
【0033】
また、加圧装置の加圧治具の温度が溶媒の融点未満であることが好ましい。
圧縮成形工程を行う部屋の室温が溶媒の融点よりも高い場合であっても、加圧装置の加圧治具の温度を低くすることによって、圧縮成形工程における環境温度を非プロトン性溶媒の融点未満にすることができる。
加圧装置の加圧治具の温度を低くする方法としては、加圧治具内に冷却管を配し、冷凍装置を経て冷却された水又は冷凍液を冷却管に流通させる方法等が挙げられる。
【0034】
圧縮成形工程における環境温度以外の圧縮条件としては、上記混合物にかかる圧力は100〜3000MPaであることが好ましい。また、加圧時間は1〜300秒であることが好ましい。
【0035】
圧縮成形工程において混合物に圧力を加えると、加圧下における凝固点降下の作用により混合物中の非プロトン性溶媒の融点が低下し、非プロトン性溶媒が軟化又は溶融することがあり得る。詳細は明らかではないが、圧縮成形工程における加圧により非プロトン性溶媒が軟化又は溶融し、その後、常圧に戻した時に非プロトン性溶媒が再び固化することにより、非プロトン性溶媒により電極活物質間を結合する機能を発現させることができていることも考えられる。混合物中の非プロトン性溶媒が電極活物質間を結合すると、圧縮成形工程後の電極活物質成形体の形状がさらに安定する。
成形性等の観点から、溶媒の融点と圧縮成形工程における環境温度との差(溶媒の融点−圧縮成形工程における環境温度)が10℃以下であることが好ましい。
一例として、溶媒がエチレンカーボネート(融点35℃)である場合、圧縮成形工程における環境温度が25〜30℃であることが好ましい。
【0036】
圧縮成形工程は、集電体上で行ってもよい。集電体上に混合物を配置して圧縮成形を行うことにより、集電体上で電極活物質成形体が得られる。
集電体上で得られた電極活物質成形体は、集電体とともにリチウムイオン電池の電極として使用することができる。
【0037】
集電体としての正極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。また、正極集電体として、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体を用いてもよい。
【0038】
集電体としての負極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料等が挙げられる。なかでも、軽量化、耐食性、高導電性の観点から、好ましくは銅である。負極集電体としては、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等からなる集電体であってもよく、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体であってもよい。
【0039】
正極集電体、負極集電体とも、樹脂集電体を構成する導電剤としては、混合物の任意成分である導電材料と同様のものを好適に用いることができる。
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0040】
上記工程により、電極活物質成形体を得ることができる。
上記圧縮成形工程によって得られた電極活物質成形体は、樹脂結着剤を用いておらず、また加熱等により混合物を固化する工程を行っていないにもかかわらず、混合物中の非プロトン性溶媒が電極活物質間を結合しているため、その形状を維持することが出来る。
また、得られた電極活物質成形体は、本発明のリチウムイオン電池の製造方法に使用することができる。
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、本発明の電極活物質成形体の製造方法により製造した電極活物質成形体に電解液を含浸する工程を含むことを特徴とする。
【0041】
リチウムイオン電池の製造の際には、電極活物質成形体をセパレータと共にセル容器に収容して、電解液を注入して電極活物質成形体に電解液を含浸することが好ましい。
セル容器に収容する電極活物質成形体として、本発明の電極活物質成形体の製造方法により製造した、正極活物質成形体及び負極活物質成形体の両方を用いてもよいし、一方のみを用いてもよい。
一方のみを用いるときは、反対側の電極として公知の対極を用いることができる。
【0042】
得られた電極活物質成形体は電極活物質間を非プロトン性溶媒によって結合しているために取り扱いが容易であり、電極活物質成形体のセル容器への収容が容易である。更に、セル容器内で電極活物質成形体に電解液を注入して、電極活物質成形体に電解液を含浸すると、電極活物質間を結合していた非プロトン性溶媒は電解液に溶解し、電解液の一部となる。セル容器内部で非プロトン性溶媒が電解液に溶解することで、非プロトン性溶媒により相互に結合固定されていた電極活物質がほぐれ、その間に電解液が浸透することで良好なイオン導電性を発揮することができると考えられる。
【0043】
上述したように、電極活物質成形体を集電体の上で得た場合には、集電体と合わせて電極活物質成形体を電極として用いてリチウムイオン電池を製造することも可能である。
【0044】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0045】
電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する電解液を使用することができる。
【0046】
電解質としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、好ましいものとしては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAsF
6及びLiClO
4等の無機酸のリチウム塩系電解質、LiN(FSO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)
2及びLiN(C
2F
5SO
2)
2等のフッ素原子を有するスルホニルイミド系電解質、LiC(CF
3SO
2)
3等のフッ素原子を有するスルホニルメチド系電解質等が挙げられる。
【0047】
注入する電解液に使用する非水溶媒としては、本発明の電極活物質成形体の製造方法において使用することができる非プロトン性溶媒として例示した溶媒を使用することができる。
注入する電解液に使用する非水溶媒は、電極活物質成形体の製造方法において使用した非プロトン性溶媒と同じであってもよく、異なっていてもよい。また、これらの溶媒を組み合わせた混合溶媒でもよい。
非プロトン性溶媒又はその混合溶媒のなかでも、低温での電池特性等の観点から、融点が−20℃以下の溶媒が好ましく、更に好ましくは−30℃以下である。
【0048】
電解液に含まれる前記の電解質の濃度は、低温での電池特性等の観点から、0.3〜3Mであることが好ましい。
【実施例】
【0049】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0050】
<製造例1:被覆層用高分子化合物とその溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2−エチルヘキシルメタクリレート242.8部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)4.7部をDMF58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度50%の共重合体溶液を得た。これにDMFを789.8部加えて、樹脂固形分濃度30重量%である被覆層用高分子化合物溶液を得た。
【0051】
<製造例2:被覆正極活物質粒子の作製>
正極活物質粉末(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2粉末、体積平均粒子径4μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用高分子化合物溶液6.1部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
【0052】
<製造例3:被覆負極活物質粒子の作製>
難黒鉛化性炭素粉末(平均粒子径20μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆層用高分子化合物溶液6.1部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]11.3部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質粒子を得た。
【0053】
(実施例1)正極活物質成形体の製造
製造例2で得た被覆正極活物質粒子5gと炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S−243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]0.1gとを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで3分間混合した。
さらに、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネート(重量比3:7)の混合溶液1.045gを加えて、2000rpmで3分間混合した。
次いで、80℃、−0.1MPaで減圧乾燥することによりメチルエチルカーボネートを留去し、被覆正極活物質、固形物の状態の非プロトン性溶媒としてのエチレンカーボネート、導電材料としての炭素繊維を含む混合物を得た。
【0054】
上記混合物0.636gを秤量し、円筒形状の有底容器内に混合物を入れて加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された成形体を得た。
加圧条件は、加圧圧力150MPa、加圧時間5秒であり、加圧装置の加圧治具の温度は加圧時の室温と等しく20℃であった。
【0055】
(実施例2)負極活物質成形体の製造
製造例3で得た被覆負極活物質粒子5gとエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネート(重量比3:7)の混合溶液3.248gを加えて、2000rpmで3分間混合した。
次いで、80℃、−0.1MPaで減圧乾燥することによりメチルエチルカーボネートを留去し、被覆負極活物質と固形物の状態の非プロトン性溶媒としてのエチレンカーボネートを含む混合物を得た。
【0056】
上記混合物0.292gを秤量し、円筒形状の有底容器内に混合物を入れて加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された成形体を得た。
加圧条件は、加圧圧力150MPa、加圧時間5秒であり、加圧装置の加圧治具の温度は加圧時の室温と等しく20℃であった。
【0057】
(実施例3)負極活物質成形体の製造
製造例3で得た被覆負極活物質粒子5gとエチレンカーボネート0.974gとを20℃の環境下において2000rpmで3分間混合した。得られた混合物0.292gを秤量し、円筒形状の有底容器内に混合物を入れて加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された成形体を得た。
加圧条件は、加圧圧力150MPa、加圧時間5秒であり、加圧装置の加圧治具の温度は加圧時の室温と等しく20℃であった。
【0058】
(比較例1)比較正極活物質成形体の製造
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を3mol/Lの割合で溶解させて作製した非水電解液20部と炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S−243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで7分間混合して混合電解液を作製した。
続いて上記混合電解液10部と製造例2で製造した被覆正極活物質粒子90部を混合した後、更にあわとり練太郎で2000rpmで1.5分間混合して、被覆活物質濃度90重量%の正極活物質スラリーを作製した。この正極活物質スラリー中では、エチレンカーボネートはメチルエチルカーボネートに溶解した状態で存在している。そのため、圧縮成形工程に供する混合物中に非プロトン性溶媒が固形物として存在しているとはいえない。
【0059】
上記正極活物質スラリー0.636gを秤量し、円筒形状の有底容器内に混合物を入れて加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された成形体を得た。
加圧条件は実施例1と同様とした。
【0060】
(比較例2)比較負極活物質成形体の製造
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を3mol/Lの割合で溶解させて作製した非水電解液10部と製造例3で製造した被覆負極活物質粒子90部を混合した後、遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで1.5分間混合して、被覆活物質濃度90重量%の負極活物質スラリーを作製した。この負極活物質スラリー中では、エチレンカーボネートはメチルエチルカーボネートに溶解した状態で存在している。そのため、圧縮成形工程に供する混合物中に非プロトン性溶媒が固形物として存在しているとはいえない。
【0061】
上記負極活物質スラリー0.292gを秤量し、円筒形状の有底容器内に混合物を入れて加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された成形体を得た。
加圧条件は実施例2と同様とした。
【0062】
(形状の維持の評価)
各実施例及び各比較例で作製した成形体を大気中に放置した場合、又は、メッシュの上に成形体を置いて電解液中に浸漬した場合の形状の変化を観察した。
電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を3mol/Lの割合で溶解させて作製した非水電解液を使用した。
評価基準は以下の通りとして表1に示した。
◎:10分以上経過しても形状を維持している。
○:5分経過後〜10分経過前に形状が崩れた。
×:大気中放置後、又は、電解液浸漬後すぐ〜5分未満で形状が崩れた。
【0063】
(表面平滑性の評価)
各実施例及び各比較例で作製した成形体を3次元形状測定器VR−3200(キーエンス社製)で高さ方向の粗さの指標として二乗平均平方根偏差:Sqを測定した。
【0064】
【表1】
【0065】
各実施例で作製した電極活物質成形体は、大気中及び電解液中で長期間の形状維持ができるものであった。また、表面平滑性に優れていた。
【0066】
一方、各比較例で作製した電極活物質成形体は、電解液中での長期間の形状維持ができないものであり、また、表面平滑性に劣るものであった。
各比較例では、圧縮成形工程から解放した際に活物質が加圧治具に付着している場合があり、それに起因して表面平滑性が悪化しているものと推測された。