特許第6893835号(P6893835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893835
(24)【登録日】2021年6月4日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20210614BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20210614BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-123487(P2017-123487)
(22)【出願日】2017年6月23日
(65)【公開番号】特開2019-9278(P2019-9278A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 眞彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 勝章
(72)【発明者】
【氏名】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】振角 一平
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−127268(JP,A)
【文献】 特開2016−119418(JP,A)
【文献】 特開2016−171332(JP,A)
【文献】 特開2010−153626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子A、塩基性化合物B、及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって、
前記研磨液組成物中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径dと、前記研磨液組成物と同じ濃度でシリカ粒子A及び塩基性化合物Bを含有する水分散液中に存在するシリカ粒子Aの平均粒径d0との比d/d0が1.1以下であり、
水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である、シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。
【請求項2】
水溶性高分子Cのシリカ粒子Aに対する吸着量が3質量%以下である、請求項1に記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。
【請求項3】
水溶性高分子Cがポリビニルアルキルエーテルである、請求項1又は2に記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。
【請求項4】
25℃におけるpHが9.0以上12.0以下である、請求項1から3のいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。
【請求項5】
研磨液組成物中のシリカ粒子Aのゼータ電位が、−30mV以下である、請求項1からのいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。
【請求項6】
シリコンウェーハのエッチング速度が、30nm/h未満である、請求項1からのいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。
【請求項7】
水溶性高分子Cの含有量に対するシリカ粒子Aの含有量の比A/Cが、3以上である、請求項1からのいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。
【請求項8】
水溶性高分子Cの含有量に対するシリカ粒子Aの含有量の比A/Cが、170以下である、請求項1からのいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物。
【請求項9】
請求項1からのいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物、これを用いた研磨方法、並びに半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体メモリの高記録容量化に対する要求の高まりから半導体装置のデザインルールは微細化が進んでいる。このため半導体装置の製造過程で行われるフォトリソグラフィーにおいて焦点深度は浅くなり、シリコンウェーハ(ベアウェーハ)の表面欠陥(LPD:Light point defects)や表面粗さ(ヘイズ)の低減に対する要求はますます厳しくなっている。
【0003】
シリコンウェーハの品質を向上する目的で、シリコンウェーハの研磨は多段階で行われている。特に研磨の最終段階で行われる仕上げ研磨は、ヘイズの低減とパーティクルやスクラッチ、ピット等の表面欠陥の低減とを目的として行われている。
【0004】
シリコンウェーハの研磨に用いられる研磨液組成物として、保存安定性の向上、良好な生産性が確保される研磨速度の担保、及びLPDとヘイズの低減を目的とし、シリカ粒子と、含窒素塩基性化合物と、ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)等のアクリルアミド誘導体に由来する構成単位を含む水溶性高分子とを含むシリコンウェーハの研磨液組成物が開示されている(特許文献1)。また、ヘイズレベルの改善を目的とし、シリカ粒子と、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)と、ポリエチレンオキサイドと、アルカリ化合物とを含む研磨用液成物が開示されている(特許文献2)。また、ヘイズレベルを低下させることなくウェーハ表面に付着するパーティクルを低減することを目的とし、シリカ粒子、アンモニア等の塩基性化合物、HEC等の水溶性高分子、アルコール性水酸基を1〜10個有する化合物を含む研磨液組成物が開示されている(特許文献3)。さらに、LPDの低減を目的とし、ポリビニルピロリドン及びポリN−ビニルホルムアルデヒドから選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子と、アルカリとを含有する、予備研磨用(すなわち粗研磨用)の研磨液組成物が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−222863号公報
【特許文献2】特開2004―128089号公報
【特許文献3】特開平11―116942号公報
【特許文献4】特開2008−53415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の研磨液組成物を用いた仕上げ研磨では、研磨されたシリコンウェーハ表面の更なるヘイズの低減が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズを低減できるシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物、及びこれを用いた研磨方法、並びに半導体基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シリカ粒子A、塩基性化合物B、及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって、水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である、シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物に関する。
【0009】
本発明は、本発明のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む、研磨方法に関する。
【0010】
本発明は、本発明のシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズを低減できる、シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物、及び当該シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物を用いた研磨方法、並びに半導体基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、シリカ粒子A(以下、「成分A」ともいう)、塩基性化合物B(以下、「成分B」ともいう)、及び所定の水溶性高分子C(以下、「成分C」ともいう)を含む研磨液組成物をシリコンウェーハの仕上げ研磨に用いることにより、ヘイズを低減できるという知見に基づく。
【0013】
すなわち、本発明は、一態様において、シリカ粒子A、塩基性化合物B、及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって、水溶性高分子Cのシリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上である、シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物に関する。さらに、本発明は、その他の態様において、シリカ粒子A、塩基性化合物B、及び水溶性高分子Cを含むシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物であって、水溶性高分子Cがポリビニルアルキルエーテルである、シリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物に関する。以下の説明において、これらシリコンウェーハ用仕上げ研磨液組成物をまとめて「本発明の研磨液組成物」ともいう。
【0014】
本発明の効果発現機構の詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
本発明では、水溶性高分子Cは、シリカ粒子への吸着が抑制される一方で、被研磨シリコンウェーハに吸着する。これにより、ヘイズの悪化の原因となるシリカ粒子Aが直接被研磨シリコンウェーハに接触することが抑制され、且つ、ヘイズの悪化の原因となる塩基性化合物Bによるウェーハ表面の腐食が抑制され、エッチング速度が抑制されると考えられる。故に、水溶性高分子Cは、研磨されたシリコンウェーハの洗浄工程におけるパーティクル(シリカ粒子や研磨くず)の脱離性向上、エッチング速度の低減、及びヘイズの低減にも寄与すると考えられる。
ただし、本発明はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
本発明において、「エッチング速度」とは、研磨されるシリコンウェーハが研磨液組成物に溶解する速度をいう。シリコンウェーハの腐食抑制及びヘイズ低減の観点から、エッチング速度は低いことが好ましい。
【0016】
[シリカ粒子A(成分A)]
本発明の研磨液組成物には、研磨材としてシリカ粒子A(成分A)が含まれる。成分Aの具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が挙げられ、ヘイズ低減の観点から、コロイダルシリカが好ましい。
【0017】
成分Aの使用形態としては、操作性の観点から、スラリー状が好ましい。本発明の研磨液組成物に含まれる成分Aがコロイダルシリカである場合、アルカリ金属やアルカリ土類金属等によるシリコンウェーハの汚染を防止する観点から、コロイダルシリカは、アルコキシシランの加水分解物から得たものであることが好ましい。アルコキシシランの加水分解物から得られるシリカ粒子は、例えば、従来から公知の方法によって作製できる。
【0018】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度の確保の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、30nm以上が更により好ましく、そして、研磨速度の確保及びヘイズ低減の観点から、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、38nm以下が更に好ましい。
【0019】
特に、成分Aとしてコロイダルシリカを用いた場合、成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度の確保及びヘイズ低減の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、40nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましい。
【0020】
本発明において、成分Aの平均一次粒子径は、窒素吸着(BET)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて算出される。比表面積は、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。
【0021】
成分Aの平均二次粒子径は、研磨速度の確保の観点から、40nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましく、60nm以上が更に好ましく、そして、研磨速度の確保及びヘイズ低減の観点から、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、75nm以下が更に好ましい。
【0022】
本発明において、平均二次粒子径は、動的光散乱(DLS)法によって測定される値であり、例えば、実施例に記載の装置を用いて測定できる。
【0023】
成分Aの会合度は、研磨速度の確保及びヘイズ低減の観点から、5.0以下が好ましく、3.0以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、そして、同様の観点から、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。成分Aがコロイダルシリカである場合、その会合度は、研磨速度の確保及びヘイズ低減の観点から、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、そして、同様の観点から、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。
【0024】
本発明において、成分Aの会合度とは、成分Aの形状を表す係数であり、下記式により算出される。
会合度=平均二次粒子径/平均一次粒子径
【0025】
成分Aの会合度の調整方法としては、例えば、特開平6−254383号公報、特開平11−214338号公報、特開平11−60232号公報、特開2005−060217号公報、特開2005−060219号公報等に記載の方法を採用することができる。
【0026】
研磨液組成物中に存在する成分Aの平均粒径d(以下、「研磨液組成物中での成分Aの平均粒径d」ともいう)と、研磨液組成物と同じ濃度で成分A及び成分Bを含有する水分散液中に存在する成分Aの平均粒径d0(以下、「成分A及び成分Bの水分散液中での成分Aの平均粒径d0」ともいう)との比d/d0は、ヘイズ低減の観点から、1.1以下が好ましく、1.09以下がより好ましく、1.02以下が更に好ましく、そして、1.00以上が好ましい。本発明において、比d/d0は、分散度合いを意味する。比d/d0の値が1に近いほど、分散の度合いがよいことを示す。平均粒径d及びd0はそれぞれ、動的光散乱法により測定される値であり、具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0027】
研磨液組成物中の成分Aのゼータ電位は、ヘイズ低減の観点から、−30mV以下が好ましく、−35mV以下がより好ましく、−40mV以下が更に好ましく、そして、研磨速度の観点から、−100mV以上が好ましく、−80mV以上が好ましく、−60mV以上が更に好ましい。
【0028】
成分Aの形状は、いわゆる球型及び/又はいわゆるマユ型であることが好ましい。
【0029】
本発明の研磨液組成物に含まれる成分Aの含有量は、研磨速度の確保の観点から、SiO2換算で、0.04質量%以上が好ましく、0.09質量%以上がより好ましく、0.13質量%以上が更に好ましく、そして、ヘイズ低減の観点から、0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。
【0030】
[塩基性化合物B(成分B)]
本発明の研磨液組成物は、保存安定性の向上、研磨速度の確保及びヘイズ低減の観点から、塩基性化合物B(成分B)を含む。そして、同様の観点から、成分Bは、水溶性であることが好ましく、すなわち水溶性の塩基性化合物であることが好ましい。本発明において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいい、「水溶性の塩基性化合物」とは、水に溶解したとき、塩基性を示す化合物をいう。
【0031】
成分Bとしては、例えば、アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の含窒素塩基性化合物が挙げられる。アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の含窒素塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノ−ルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノ−ルアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、及び水酸化テトラメチルアンモニウムから選ばれる1種又は2種以上の組合せが挙げられる。本発明に係る研磨液組成物に含まれうる含窒素塩基性化合物としては、ヘイズ低減、保存安定性の向上及び研磨速度の確保の観点から、アンモニアが好ましい。
【0032】
本発明の研磨液組成物に含まれる成分Bの含有量は、ヘイズ低減、保存安定性の向上及び研磨速度の確保の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、そして、ヘイズ低減の観点から、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.025質量%以下が更に好ましい。
【0033】
本発明の研磨液組成物に含まれる成分Bの含有量に対する成分Aの含有量の比A/Bは、ヘイズ低減の観点から、0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、5.0以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、300以下が好ましく、100以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。
【0034】
[水溶性高分子C(成分C)]
本発明の研磨液組成物は、ヘイズ低減、保存安定性の向上及び研磨速度の確保の観点から、水溶性高分子C(成分C)を含有する。本発明において、成分Cの「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。成分Cは、天然物を原料とする水溶性高分子であってもよいし、天然物を原料としない合成系の水溶性高分子であってもよい。天然物を原料とする水溶性高分子としては、例えば、従来から使用されているHECが挙げられる。通常、HECは天然物のセルロースを原料とするものであり、セルロール由来の水不溶物が含まれるため、HECを含有する研磨液組成物では、表面欠陥や表面粗さ等の低減効果が十分ではない。また、エッチング速度の低減効果も十分ではない。よって、成分Cは、品質安定性及びエッチング速度の抑制の観点から、合成系の水溶性高分子が好ましい。
【0035】
成分Cの一実施形態としては、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、例えば、シリコンウェーハに対する吸着量が750ng/cm2以上の水溶性高分子が挙げられる。成分Cのその他の実施形態としては、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、例えば、ポリビニルアルキルエーテルが挙げられ、具体的には、下記式(1)で表される構成単位aを含む水溶性高分子が挙げられる。シリコンウェーハに対する吸着量については後述する。成分Cは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
【化1】
【0037】
上記式(1)において、Rは、アルキル基であり、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、炭素数1以上4以下のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0038】
前記式(1)で表される構成単位aの供給源である単量体としては、例えば、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等が挙げられ、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、ビニルメチルエーテルが好ましい。これらは、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
式(1)で表される構成単位aを含む水溶性高分子は、構成単位a以外に他の構成単位bを含む共重合体であってもよい。構成単位bを形成する単量体成分としては、アニオン性モノマー、ノニオン性モノマーが好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェニルスルホン酸、アリルスルホン酸、アリルポリエチレングリコールエーテル、スチレン、及びその誘導体等が挙げられる。前記誘導体としては、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等の炭素数1以上18以下の炭化水素基を有するメタクリル酸エステル、及びポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。
【0040】
成分Cが構成単位a及びbを含む共重合体である場合、構成単位aと構成単位bとの質量比(a/b)は、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点からは、50/50以上が好ましく、70/30以上がより好ましく、80/20以上が更に好ましく、90/10以上が更により好ましい。
【0041】
成分Cが構成単位a及びbを含む共重合体である場合、構成単位aと構成単位bの配列は、ブロックでもランダムでもよく、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、ランダムが好ましい。
【0042】
成分Cの重量平均分子量は、エッチング速度の抑制、ヘイズ低減及び研磨速度の確保の観点から、20万未満が好ましく、15万以下がより好ましく、10万以下が更に好ましく、そして、同様の観点から、500以上が好ましく、1000以上がより好ましい。成分Cの重量平均分子量は後の実施例に記載の方法により測定される。
【0043】
本発明の研磨液組成物に含まれる成分Cの含有量は、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、0.0005質量%以上が好ましく、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましく、0.05質量%以下が更により好ましい。
【0044】
本発明の研磨液組成物に含まれる成分Cの含有量に対する成分Aの含有量の比A/Cは、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1.0以上が更に好ましく、3.0以上が更により好ましく、5.0以上が更により好ましく、そして、同様の観点から、250以下が好ましく、200以下がより好ましく、170以下が更に好ましく、150以下が更により好ましく、50以下が更により好ましく、30以下が更により好ましい。
【0045】
本発明の研磨液組成物における成分Cの成分Aへの吸着量は、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、1質量%未満が更により好ましく、0.5質量%未満が更により好ましい。本発明において、成分Cの成分Aへの吸着量は、全有機体炭素(Total Organic Carbon;以下、「TOC」ともいう)法により算出でき、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
ここで、成分Cの成分Aへの吸着量の測定方法の一例を示す。
研磨液組成物を遠心分離処理して成分Aを含む沈殿物と上澄み液に分離し、全有機体炭素計を用いて上澄み液の全有機体炭素量(以下、「TOC値」ともいう)を測定する。また、研磨液組成物と同じ濃度で成分Cを含有する水溶液のTOC値を測定する。そして、これらTOC値の差を、シリカへ吸着した成分Cの吸着量として算出する。
【0046】
本発明の研磨液組成物における成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量は、エッチング速度の抑制及びヘイズ低減の観点から、750ng/cm2以上が好ましく、800ng/cm2以上がより好ましく、850ng/cm2以上が更に好ましく、900ng/cm2以上が更に好ましく、そして、研磨速度の観点から、2000ng/cm2以下が好ましく、1500ng/cm2以下がより好ましく、1200ng/cm2以下が更に好ましい。成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量は、例えば、水晶振動子マイクロバランス(quartz crystal microbalance with dissipation、QCM-D)法により水晶振動子センサーを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。水晶振動子センサーとは、一般的に、水晶振動子(測定基板)の両面にそれぞれ形成された電極に電圧を印加して発振させ、その振動数と波長を測定するセンサーである。
ここで、成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量の測定方法の一例を示す。
成分Cの水溶液を水晶振動子センサーに接触させ、水晶振動子センサーの共振周波数を測定する。水晶振動子センサーとしては、水晶振動子の表面がシリコン系材料(例えば、ポリシリコン、単結晶シリコン等)でコーティングされているセンサー(例えば、polysiliconセンサー、siliconセンサー等)が挙げられる。そして、センサー表面への成分Cの吸着により生じる水晶振動子センサーの振動数変化量及び減衰定数変化量を用いて、Sauerbreyの式又はKelvin-Voightの式によってセンサー表面の質量変化量を算出する。この質量変化量を、成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量として求めることができる。
【0047】
本発明の研磨液組成物の限定されない一実施形態において、成分Cは、ポリビニルアルコール(PVA)を含まない。
【0048】
[水系媒体(成分D)]
本発明の研磨液組成物は、水系媒体(以下、「成分D」ともいう)を含んでいてもよい。成分Dとしては、例えば、イオン交換水や超純水等の水、又は水と溶媒との混合媒体等が挙げられ、上記溶媒としては、水と混合可能な溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)が好ましい。成分Dとしては、なかでも、ヘイズ低減の観点から、イオン交換水又は超純水がより好ましく、超純水が更に好ましい。成分Dが水と溶媒との混合媒体である場合、混合媒体全体に対する水の割合は、経済性の観点から、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%が更に好ましい。
【0049】
本発明の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、成分A、成分B、成分C及び後述するその他の任意成分の残余とすることができる。
【0050】
本発明の研磨液組成物の25℃におけるpHは、研磨速度の確保の観点から、9.0以上が好ましく、9.5以上がより好ましく、10.0以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、12.0以下が好ましく、11.5以下がより好ましく、11.0以下が更に好ましい。pHの調整は、成分B及び後述するpH調整剤から選ばれる1種以上を適宜添加して行うことができる。ここで、25℃におけるpHは、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM−30G)を用いて測定でき、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して1分後の数値とすることができる。
【0051】
本発明の研磨液組成物は、シリコンウェーハの腐食抑制及びヘイズ低減の観点から、シリコンウェーハのエッチング速度が、30nm/h未満が好ましく、10nm/h以下がより好ましく、5nm/h以下が更に好ましい。
【0052】
[その他の任意成分]
本発明の研磨液組成物は、本発明の効果が妨げられない範囲で、更に、成分C以外の水溶性高分子(以下「成分E」ともいう)、pH調整剤、防腐剤、アルコール類、キレート剤、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種のその他任意成分が含まれてもよい。前記その他の任意成分は、本発明の効果を損なわない範囲で研磨液組成物中に含有されることが好ましく、研磨液組成物中の前記その他の任意成分の含有量は、0質量%以上が好ましく、0質量%超がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0053】
成分Eとしては、ヘイズ低減の観点から、例えば、ポリオキシアルキレン化合物が挙げられる。ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリプロピレングリコール等のアルキレングリコールアルキレンオキシド付加物;グリセリンアルキレンオキシド付加物;及びペンタエリスリトールアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上が挙げられ、これらの中でも、ヘイズ低減の観点から、エチレングリコールアルキレンオキシド付加物が好ましく、PEGがより好ましい。
【0054】
pH調整剤としては、例えば、酸性化合物が挙げられる。酸性化合物としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸;酢酸、シュウ酸、コハク酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸;から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0055】
防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウムクロライド、ベンゼトニウムクロライド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、(5−クロロ−)2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、過酸化水素、及び次亜塩素酸塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0056】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、2−メチル−2−プロパノオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びグリセリンから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0057】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、及びトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0058】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩;アルキルリン酸エステル等のリン酸エステル塩;から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0059】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン(硬化)ヒマシ油等のポリエチレングリコール型;ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド等の多価アルコール型;及び脂肪酸アルカノールアミド;から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0060】
上記において説明した研磨液組成物中の各成分の含有量は、研磨液組成物の使用時における含有量である。本発明の研磨液組成物は、その保存安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造及び輸送コストをさらに低くできる点で好ましい。本発明の研磨液組成物の濃縮液は、使用時に、必要に応じて前述の水系媒体で適宜希釈して使用すればよい。
【0061】
次に、前記研磨液組成物の濃縮液の調製方法の一例について説明する。
【0062】
前記研磨液組成物の濃縮液は、例えば、成分A、成分B及び成分Cと、必要に応じて上述した成分D及びその他の任意成分とを混合することによって調製できる。
【0063】
成分Aの水系媒体への分散は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミル、又はビーズミル等の撹拌機等を用いて行うことができる。成分Aの凝集等により生じた粗大粒子が水系媒体中に含まれる場合、遠心分離やフィルターを用いたろ過等により、当該粗大粒子を除去すると好ましい。成分Aの水系媒体への分散は、成分Cの存在下で行うと好ましい。
【0064】
[半導体基板の製造方法及び研磨方法]
本発明の研磨液組成物は、例えば、半導体基板の製造方法における、被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程や、被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程を含む研磨方法に用いられうる。本発明の研磨液組成物の研磨対象である被研磨シリコンウェーハとしては、例えば、単結晶100面シリコンウェーハ、111面シリコンウェーハ、110面シリコンウェーハ等が挙げられ、ヘイズ低減の観点から、単結晶100面シリコンウェーハが好ましい。また、前記シリコンウェーハの抵抗率としては、ヘイズ低減の観点から、好ましくは0.0001Ω・cm以上、より好ましくは0.001Ω・cm以上、更に好ましくは0.01Ω・cm以上、更により好ましくは0.1Ω・cm以上であり、そして、好ましくは100Ω・cm以下、より好ましくは50Ω・cm以下、更に好ましくは20Ω・cm以下である。
【0065】
前記被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程は、例えば、単結晶シリコンインゴットを薄円板状にスライスすることにより得られた単結晶シリコンウェーハを平面化するラッピング(粗研磨)工程と、ラッピングされた単結晶シリコンウェーハをエッチングした後、単結晶シリコンウェーハ表面を鏡面化する仕上げ研磨工程とを含むことができる。本発明の研磨液組成物は、ヘイズ低減の観点から、上記仕上げ研磨工程で用いられるとより好ましい。
【0066】
本発明の半導体基板の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略称する場合もある。)及び本発明の研磨方法(以下、「本発明の研磨方法」と略称する場合もある。)は、被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程の前に、本発明の研磨液組成物の濃縮液を希釈する希釈工程を含んでいてもよい。希釈媒には、例えば、成分Dを用いることができる。希釈倍率は、希釈した後の研磨時の濃度を確保できれば特に限定されなくてもよく、製造及び輸送コストをさらに低くできる観点から、2倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましく、30倍以上が更に好ましく、55倍以上が更により好ましく、そして、保存安定性の観点から、160倍以下が好ましく、120倍以下がより好ましく、100倍以下が更に好ましく、60倍以下が更により好ましい。
【0067】
前記希釈工程で希釈される研磨液組成物の濃縮液は、製造及び輸送コスト低減、保存安定性の向上の観点から、例えば、成分Aを1〜20質量%、成分Bを0.1〜5質量%、成分Cを0.1〜10量%含んでいると好ましい。
【0068】
前記希釈工程で希釈される研磨液組成物の濃縮液は、表面欠陥低減の観点から、ニッケル含有量が、100ppb以下が好ましく、20ppb以下がより好ましく、5ppb以下が更に好ましく、1ppb以下が更により好ましく、そして、コスト低減の観点から、0ppbより大きいことが好ましい。同様の観点から、研磨液組成物の濃縮液中に含まれる鉄、銅、銀の各含有量も、100ppb以下が好ましく、20ppb以下がより好ましく、5ppb以下が更に好ましく、そして、0ppbより大きいことが好ましい。
【0069】
前記被研磨シリコンウェーハを研磨する工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨シリコンウェーハを挟み込み、3〜20kPaの研磨圧力で被研磨シリコンウェーハを研磨することができる。
【0070】
上記研磨圧力とは、研磨時に被研磨シリコンウェーハの被研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。研磨圧力は、研磨速度を向上させ経済的に研磨を行う観点から、3kPa以上が好ましく、4kPa以上がより好ましく、5kPa以上が更に好ましく、5.5kPa以上が更により好ましい。そして、表面品質を向上させ、且つ研磨されたシリコンウェーハにおける残留応力を緩和する観点から、研磨圧力は、20kPa以下が好ましく、18kPa以下がより好ましく、16kPa以下が更に好ましい。
【0071】
前記被研磨シリコンウェーハを研磨する工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨シリコンウェーハを挟み込み、15℃以上40℃以下の研磨液組成物及び研磨パッド表面温度で被研磨シリコンウェーハを研磨することができる。研磨液組成物の温度及び研磨パッド表面温度としては、表面欠陥低減の観点から、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、そして、ヘイズ低減の観点から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、25℃以下が更に好ましい。
【0072】
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法は、前記研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程の後に、研磨された被研磨シリコンウェーハを洗浄する工程を更に含むことができる。
【0073】
[研磨液キット]
本発明は、本発明の研磨液組成物を製造するための研磨液キットであって、成分Aを含有する分散液が容器に収納された容器入りシリカ分散液を含む、研磨液キット(以下、「本発明のキット」と略称する場合もある。)に関する。本発明のキットによれば、ヘイズを低減可能な研磨液組成物が得られうる。
本発明のキットの一実施形態としては、例えば、成分A、成分B及び成分Dを含むシリカ分散液と、成分C及び成分Dを含む添加剤水溶液とを相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水系媒体を用いて希釈される研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。本発明のキットの他の実施形態としては、例えば、成分A、成分B及び成分Dを含むシリカ分散液と、成分B、成分C及び成分Dを含む添加剤水溶液と、を相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水系媒体を用いて希釈される研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。前記シリカ分散液及び添加剤水溶液にはそれぞれ、必要に応じて上述した任意成分が含まれていてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0075】
1.水溶性高分子C(成分C)の合成又はその詳細
(1)実施例1〜3、比較例2及び参考例1の成分C
実施例1〜3の成分Cには、ポリビニルメチルエーテル(PVME、重量平均分子量:80,000、東京化成工業社製)を用いた。比較例2の成分Cには、ポリビニルピロリドン(PVP、重量平均分子量:36万、東京化成工業社製、「K−60」)を用いた。
参考例1の成分Cには、ヒドロキシエチルセルロース(HEC、重量平均分子量:24万、ダイセルファインケム社製「SE−400」)を用いた。
【0076】
(2)比較例3の成分C
比較例3の成分Cには、下記のようにして合成したHEAA単独重合体(pHEAA)を用いた。
ヒドロキシエチルアクリルアミド150g(1.30mol、興人社製)を100gのイオン交換水に溶解し、モノマー水溶液を調製した。また、別に、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド 0.035g(重合開始剤、「V−50」、1.30mmol、和光純薬社製)を70gのイオン交換水に溶解し、重合開始剤水溶液を調製した。ジムロート冷却管、温度計及び三日月形テフロン(登録商標)製撹拌翼を備えた2Lセパラブルフラスコに、イオン交換水1,180gを投入した後、セパラブルフラスコ内を窒素置換した。次いで、オイルバスを用いてセパラブルフラスコ内の温度を68℃に昇温した後、予め調製した上記モノマー水溶液と上記重合開始剤水溶液を各々3.5時間かけて撹拌を行っているセパラブルフラスコ内に滴下した。滴下終了後、反応溶液の温度及び撹拌を4時間保持し、無色透明の10質量%ポリヒドロキシエチルアクリルアミド(pHEAA、重量平均分子量:700,000)水溶液1,500gを得た。
【0077】
(3)比較例4の成分C
比較例4の成分Cには、下記のようにして合成したHEAA単独重合体(pHEAA)を用いた。
300mLナスフラスコにヒドロキシエチルアクリルアミド(KJケミカルズ社製)15g、2−シアノ−2−プロピルドデシルトリチオカルボネート(シグマアルドリッチ社製)0.073g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(重合開始剤、「V−65」、和光純薬社製)0.005g、メタノール(和光純薬社製)150g、スターラーチップを入れ、三方コックとジムロート冷却管を取り付けた。30分間窒素バブリングを行なった後、オイルバスを用いてフラスコ内の温度を51℃に昇温し、重合を5時間行った。そして、前記フラスコ内の混合液を氷冷して重合を終了し、ポリマー溶液を得た。次いで、アセトン/n−ヘキサン(=50/50vol比)にポリマー溶液を滴下し、ポリマーを析出させ、ポリマーを取り出し乾燥によりポリマー固体(pHEAA、重量平均分子量:48,000)を得た。
【0078】
2.各種パラメータの測定方法
(1)水溶性高分子C(成分C)の重量平均分子量の測定
成分Cの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得たクロマトグラム中のピークに基づき算出した。各成分Cにおける、GPCの測定条件は以下の通りである。なお、HECの重量平均分子量はカタログ値である。
[実施例1〜3の成分C]
装置:HLC−8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:α−M + α−M(アニオン)
溶離液:60mmol/L H3PO4 、 50mmol/L LiBr /DMF
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE−61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリスチレン
[比較例3の成分C]
装置:HLC−8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:GMPWXL+GMPWXL(アニオン)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE−61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
[比較例4の成分C]
装置:HLC−8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:α−M + α−M (アニオン)
溶離液:50mmol/L LiBr /DMF
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE−61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリスチレン
【0079】
(2)シリカ粒子A(成分A)の平均一次粒子径の測定
成分Aの平均一次粒子径(nm)は、BET法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて下記式で算出した。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
【0080】
成分Aの比表面積は、下記の[前処理]をした後、測定サンプル約0.1gを測定セルに小数点以下4桁まで精量し、比表面積の測定直前に110℃の雰囲気下で30分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置、「フローソーブIII2305」、島津製作所製)を用いてBET法により測定した。
[前処理]
(a)スラリー状の成分Aを硝酸水溶液でpH2.5±0.1に調整する。
(b)pH2.5±0.1に調整されたスラリー状の成分Aをシャーレにとり150℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させる。
(c)乾燥後、得られた試料をメノウ乳鉢で細かく粉砕する。
(d)粉砕された試料を40℃のイオン交換水に懸濁させ、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過する。
(e)フィルター上の濾過物を20gのイオン交換水(40℃)で5回洗浄する。
(f)濾過物が付着したフィルターをシャーレにとり、110℃の雰囲気下で4時間乾燥させる。
(g)乾燥した濾過物(成分A)をフィルター屑が混入しないようにとり、乳鉢で細かく粉砕して測定サンプルを得た。
【0081】
(3)シリカ粒子A(成分A)の平均二次粒子径
成分Aの平均二次粒子径(nm)は、成分Aの濃度が0.15質量%となるように成分Aをイオン交換水に添加して得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、シスメックス社製)を用いて測定した。
【0082】
(4)平均粒径d、d0、及び比d/d0
研磨液組成物中での成分Aの平均粒径dは、成分Aの濃度が0.15質量%、成分Bの濃度が0.01質量%となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、シスメックス社製)を用いて測定した。
成分A及び成分Bの水分散液中での成分Aの平均粒径d0は、成分Aの濃度が0.15質量%、成分Bの濃度が0.01質量%となるように、成分Bの水溶液に成分Aを添加して得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、シスメックス社製)を用いて測定した。平均粒径d0は69.6nmであった。
そして、得られた平均粒径d及び平均粒径d0を用いて、比d/d0を求めた。
【0083】
(5)シリカ粒子A(成分A)のゼータ電位
成分Aのゼータ電位は、成分Aの濃度が0.15質量%となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物をDisposable folded capillary cellsにいれ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、シスメックス社製)を用いて測定した。
【0084】
(6)水溶性高分子C(成分C)のシリコンウェーハに対する吸着量
成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量は、下記条件で水晶振動子マイクロバランス(quartz crystal microbalance with dissipation、QCM-D)法により測定した。
[測定条件]
測定装置:水晶振動子マイクロバランスQCM-D(E4、Q-sense社製)
センサー(測定基板):polysilicon (silicon) センサー
参照液:MilliQ水
流量:0.1mL/min
測定温度:25℃
[測定方法]
センサーを、アセトン、5質量%H22水溶液、1質量%フッ酸水溶液でそれぞれ5分間超音波洗浄を行い、MilliQ水ですすいでから窒素ブローで乾燥させた。その後、センサーを測定装置にセッティングしてMilliQ水を流し、振動数を安定化させた。そして、ポリマー水溶液(成分Cを0.01質量%となるように水で希釈した溶液)を流し、振動数変化(Δf)及び減衰定数変化(ΔD)を測定した。測定値からsauerbreyの式もしくはKelvin-Voightの式を用いて成分Cのシリコンウェーハに対する吸着量を算出した。
【0085】
(7)水溶性高分子C(成分C)のシリカ粒子A(成分A)への吸着量
成分Aの濃度が0.15質量%、成分Bの濃度が0.01質量%、成分Cの濃度が表1に示す含有量となるように研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で希釈して得た研磨液組成物を15分静置した。その後、遠心分離処理(25,000rpm、1時間)を行い、シリカを含む沈降物と上澄み液を分離し、全有機体炭素計(島津製作所製「TOC−L CPH」)を用いて、上澄み液のTOC値を測定した。別途、各濃度の成分Cの水溶液のTOC値から検量線を作成し、この検量線と上澄み液のTOC値からシリカへ吸着した成分Cの吸着量を計算した。
【0086】
3.研磨液組成物の調製
成分A(コロイダルシリカ、平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、会合度2.0)、成分B含有水溶液(28質量%アンモニア水、キシダ化学(株)、試薬特級)、表1に示す成分C、及び超純水を攪拌混合して、実施例1〜3、比較例1〜4及び参考例1の研磨液組成物の濃縮液を得た。表1における各成分A〜Cの含有量は、濃縮液を50倍に希釈して得た研磨液組成物についての値、すなわち、研磨液組成物の使用時における含有量である。成分A、成分B及び成分Cを除いた残余は超純水である。なお、成分Aの含有量は、SiO2換算濃度である。
【0087】
4.研磨方法
上記の研磨液組成物の濃縮液をイオン交換水で50倍希釈して得た研磨液組成物(pH10.6±0.1(25℃))について、研磨直前にそれぞれフィルター(コンパクトカートリッジフィルター「MCP−LX−C10S」、アドバンテック社製)にてろ過を行い、下記の研磨条件でシリコンウェーハ[直径200mmのシリコン片面鏡面ウェーハ(伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)]に対して仕上げ研磨を行った。当該仕上げ研磨に先立ってシリコンウェーハに対して市販の研磨液組成物を用いてあらかじめ粗研磨を実施した。粗研磨を終了し仕上げ研磨に供したシリコンウェーハのヘイズは、2〜3ppmであった。ヘイズは、KLA Tencor社製「Surfscan SP1−DLS」を用いて測定される暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値である。
【0088】
<仕上げ研磨条件>
研磨機:片面8インチ研磨機(岡本工作機械製作所製「SPP600S」)
研磨パッド:スエードパッド(東レ コーテックス社製、アスカー硬度:64、厚さ:1.37mm、ナップ長:450um、開口径:60um)
シリコンウェーハ研磨圧力:100g/cm2
定盤回転速度:60rpm
研磨時間:5分
研磨液組成物の供給速度:150g/分
研磨液組成物の温度:23℃
キャリア回転速度:62rpm
【0089】
5.洗浄方法
仕上げ研磨後、シリコンウェーハに対して、オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を下記のとおり行った。オゾン洗浄では、20ppmのオゾンを含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコンウェーハの中央に向かって3分間噴射した。このときオゾン水の温度は常温とした。次に希フッ酸洗浄を行った。希フッ酸洗浄では、0.5質量%のフッ化水素アンモニウム(特級、ナカライテクス社製)を含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコンウェーハの中央に向かって6秒間噴射した。上記オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を1セットとして計2セット行い、最後にスピン乾燥を行った。スピン乾燥では1,500rpmでシリコンウェーハを回転させた。
【0090】
6.評価
(1)エッチング速度の測定方法
仕上げ研磨で使用したものと同様のシリコンウェーハを4cm×4cmにカットし、調製した実施例1〜3、比較例1〜4及び参考例1の研磨液組成物30gに全て浸かる状態で40℃の恒温室で24時間浸漬した。浸漬によって減少したシリコンウェーハの厚みを、減少した重量とシリコンウェーハの比重を用いて算出した。算出した厚みと浸漬時間とから、エッチング速度を算出した。
【0091】
(2)シリコンウェーハのヘイズの評価
洗浄後のシリコンウェーハ表面のヘイズ(ppm)の評価には、KLA Tencor社製「Surfscan SP1−DLS」を用いて測定される、暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値を用いた。ヘイズの数値は小さいほど表面の平坦性が高いことを示す。ヘイズの結果を表1に示した。ヘイズの測定は、各々2枚のシリコンウェーハに対して行い、各々平均値を表1に示した。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示されるように、実施例1〜3の研磨液組成物を用いた場合、比較例1〜4の研磨液組成物を用いた場合に比べて、研磨されたシリコンウェーハのヘイズが低減されていた。さらに、実施例1〜3の研磨液組成物では、エッチング速度が効果的に抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の研磨液組成物を用いれば、研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズを低減できる。よって、本発明の研磨液組成物は、様々な半導体基板の製造過程で用いられる研磨液組成物として有用であり、なかでも、シリコンウェーハの仕上げ研磨用の研磨液組成物として有用である。