特許第6893858号(P6893858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6893858軸流流体機械、及びそのチップクリアランス測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893858
(24)【登録日】2021年6月4日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】軸流流体機械、及びそのチップクリアランス測定方法
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/00 20060101AFI20210614BHJP
   F04D 29/64 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   F01D25/00 V
   F04D29/64 C
【請求項の数】17
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-204670(P2017-204670)
(22)【出願日】2017年10月23日
(65)【公開番号】特開2019-78203(P2019-78203A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】坪倉 一孝
(72)【発明者】
【氏名】森本 仁志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝一
(72)【発明者】
【氏名】生島 一弘
(72)【発明者】
【氏名】小向 琢也
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 幹弘
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−013046(JP,A)
【文献】 特開2012−082734(JP,A)
【文献】 特開昭52−018512(JP,A)
【文献】 特開平03−172502(JP,A)
【文献】 特開昭59−018207(JP,A)
【文献】 特開2001−248406(JP,A)
【文献】 米国特許第5438756(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 11/00−11/24
F01D 25/00
F02C 7/00
F04D 19/02
F04D 29/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ軸線に対する周方向に間隔をあけて配置されている複数の動翼を有し、前記ロータ軸線を中心として回転するロータと、
前記ロータ軸線が延びる軸線方向で前記複数の動翼からズレた位置で、前記周方向に間隔をあけて配置されている複数の静翼を有する静翼列と、
前記静翼列を前記ロータ軸線に対する径方向外側から保持する筒状の保持環と、
前記保持環を前記径方向外側から支持する筒状の車室と、
を備え、
前記保持環と前記車室とのそれぞれは、互いに係合する係合部を有し、
前記保持環と前記車室とのうちの一方の部材の係合部は、前記ロータ軸線に対する径方向で他方の部材側に突出し且つ前記周方向に延びる凸部を有し、
前記他方の部材の係合部は、前記径方向で前記一方の部材側に突出し且つ前記周方向に延び、前記軸線方向で互いに対向して両者間に前記凸部が入る溝を形成する一対の壁板部を有し、
前記車室には、前記軸線方向で前記車室中の前記係合部が形成されている領域内において、前記軸線方向の一方側に片寄った貫通中心位置を中心として、前記径方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記車室の前記係合部中で、前記貫通孔を基準にして前記軸線方向の他方側の部分は、前記周方向の全域に存在し、
前記貫通中心位置を基準にして前記軸線方向の前記一方側で且つ前記周方向の前記貫通中心位置の部分は、前記貫通孔により前記車室の前記係合部が欠けている、
軸流流体機械。
【請求項2】
請求項1に記載の軸流流体機械において、
前記車室の前記係合部は、前記凸部を有し、
前記保持環の前記係合部は、前記一対の壁板部を有し、
前記軸線方向で相対する側のうち、前記ロータの回転で前記軸線方向に流れる流体の圧力が高まる側である高圧側が前記他方側であり、前記高圧側に対する反対側の低圧側が前記一方側であり、
前記貫通中心位置は、前記軸線方向で前記車室中の前記係合部が形成されている領域内において、前記軸線方向の前記低圧側に片寄った位置であり、
前記車室の前記凸部中で、前記貫通孔を基準にして前記軸線方向の前記高圧側の部分は、前記周方向の全域に存在する、
軸流流体機械。
【請求項3】
請求項1に記載の軸流流体機械において、
前記車室の前記係合部は、前記一対の壁板部を有し、
前記保持環の前記係合部は、前記凸部を有し、
前記軸線方向で相対する側のうち、前記ロータの回転で前記軸線方向に流れる流体の圧力が高まる側である高圧側が前記一方側であり、前記高圧側に対する反対側の低圧側が前記他方側であり、
前記貫通中心位置は、前記軸線方向で前記車室中の前記係合部が形成されている領域内において、前記軸線方向の前記高圧側に片寄った位置であり、
前記車室の前記一対の壁板部のうち、前記貫通孔を基準にして前記軸線方向の前記低圧側の壁板部は、前記周方向の全域に存在する、
軸流流体機械。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の軸流流体機械において、
前記車室には、前記貫通孔が前記周方向に間隔をあけて複数形成されている、
軸流流体機械。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の軸流流体機械において、
前記貫通孔に挿通されるピンを備え、
前記貫通孔は、前記貫通中心位置を中心として円柱状の孔であり、
前記ピンは、前記貫通孔に挿通可能で且つ前記貫通孔の内周面に接する外周面を有する円柱状のピン本体と、前記ピン本体のピン中心軸線が延びるピン延在方向における前記ピン本体の端に形成されている偏芯部と、を有し、
前記偏芯部は、前記ピン中心軸線と平行で且つ前記ピン中心軸線から離れた偏芯軸を中心として円柱状を成し、且つ外径が前記ピン本体の外径よりも小さい、
軸流流体機械。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の軸流流体機械において、
前記貫通孔に挿通されるピンを備え、
前記ピンは、前記ピンが延びるピン延在方向における前記ピンの端部に、前記ピン延在方向に対して傾斜したテーパ面が形成されている、
軸流流体機械。
【請求項7】
請求項6に記載の軸流流体機械において、
前記貫通孔を前記径方向外側から塞ぐ蓋を備える、
軸流流体機械。
【請求項8】
請求項7に記載の軸流流体機械において、
前記ピンの前記ピン延在方向の長さは、前記ピンを前記貫通孔に押し込んだ際に、前記貫通孔を前記蓋で塞ぐときに、前記ピンが前記蓋に干渉する長さである、
軸流流体機械。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の軸流流体機械において、
前記車室は、前記軸線方向の第一の側である軸線上流側から気体が流入し、前記軸線上流側とは反対側の軸線下流側から前記気体を吐出する圧縮機車室であり、
前記ロータは、前記ロータ軸線を中心に回転することで、前記気体が前記軸線下流側に向うに連れて前記気体を圧縮する圧縮機ロータである、
軸流流体機械。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の軸流流体機械において、
前記車室は、前記軸線方向の第一の側である軸線上流側から気体が流入し、前記軸線上流側とは反対側の軸線下流側から前記気体を排気するタービン車室であり、
前記ロータは、前記タービン車室内を前記軸線上流側から前記軸線下流側に流れる前記気体により、回転力が付与されるタービンロータである、
軸流流体機械。
【請求項11】
ロータ軸線に対する周方向に間隔をあけて配置されている複数の動翼を有し、前記ロータ軸線を中心として回転するロータと、
前記ロータ軸線が延びる軸線方向で前記複数の動翼からズレた位置で、前記周方向に間隔をあけて配置されている複数の静翼を有する静翼列と、
前記静翼列を前記ロータ軸線に対する径方向外側から保持する筒状の保持環と、
前記保持環を前記径方向外側から支持する筒状の車室と、
を備え、
前記保持環と前記車室とのそれぞれは、互いに係合する係合部を有し、
前記保持環と前記車室とのうちの一方の部材の係合部は、前記ロータ軸線に対する径方向で他方の部材側に突出し且つ前記周方向に延びる凸部を有し、
前記他方の部材の係合部は、前記径方向で前記一方の部材側に突出し且つ前記周方向に延び、前記軸線方向で互いに対向して両者間に前記凸部が入る溝を形成する一対の壁板部を有している、
軸流流体機械の前記動翼と前記動翼の前記径方向外側に存在する静止部材との間のチップクリアランスを測定するチップクリアランス測定方法において、
前記軸線方向で相対する側のうち、前記ロータの回転で前記軸線方向に流れる流体が高圧になる高圧側とは反対側の低圧側に、前記周方向で互いに異なる複数の押し位置から前記保持環を押す運転状態再現工程と、
前記運転状態再現工程の実行中に、前記動翼と前記静止部材との間のチップクリアランスを測定する測定工程と、
を実行するチップクリアランス測定方法。
【請求項12】
請求項11に記載のチップクリアランス測定方法において、
前記車室には、前記径方向に貫通する貫通孔が形成されており、
前記軸流流体機械は、前記貫通孔に挿通されるピンを備えており、
前記運転状態再現工程は、前記ピンを前記車室の前記貫通孔に入れて、前記貫通孔の内周面に対して前記ピンを相対変位させることで、前記ピンにより、複数の前記押し位置のうちの一の押し位置で前記保持環を前記低圧側に押すピン操作工程を含む、
チップクリアランス測定方法。
【請求項13】
請求項1から4のいずれか一項に記載の軸流流体機械のチップクリアランス測定方法において、
前記軸流流体機械は、前記貫通孔に挿通されるピンを備えており、
前記軸線方向で相対する側のうち、前記ロータの回転で前記軸線方向に流れる流体の圧力が高まる高圧側とは反対側の低圧側に、前記周方向で互いに異なる複数の押し位置から前記保持環を押す運転状態再現工程と、
前記運転状態再現工程の実行中に、前記動翼と前記動翼の径方向外側に存在する静止部材との間のチップクリアランスを測定する測定工程と、
を実行し、
前記運転状態再現工程は、前記ピンを前記車室の前記貫通孔に入れて、前記貫通孔の内周面に対して前記ピンを相対変位させることで、前記ピンにより、複数の前記押し位置のうちの一の押し位置で前記保持環を前記低圧側に押すピン操作工程を含む、
チップクリアランス測定方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のチップクリアランス測定方法において、
前記車室には、複数の前記押し位置の数と同じ数の前記貫通孔が前記周方向に間隔をあけて形成されており、
前記軸流流体機械は、複数の前記押し位置の数と同じ数の前記ピンを備えており、
前記運転状態再現工程では、全ての前記押し位置毎に、前記ピンを用いて前記ピン操作工程を実行する、
チップクリアランス測定方法。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか一項に記載のチップクリアランス測定方法において、
前記ピンは、前記貫通孔に挿通可能で且つ貫通孔の内周面に接する外周面を有する円柱状のピン本体と、前記ピン本体のピン中心軸線が延びるピン延在方向における前記ピン本体の端に形成されている偏芯部と、を有し、
前記偏芯部は、前記ピン中心軸線と平行で且つ前記ピン中心軸線から離れた偏芯軸を中心として円柱状を成し、且つ外径が前記ピン本体の外径よりも小さく、
前記ピン操作工程では、前記ピンの前記偏芯部を前記ロータ軸線に対する径方向内側に向けて、前記ピンを前記貫通孔に入れ、前記ピン中心軸線を中心として前記貫通孔内で前記ピンを回転させる、
チップクリアランス測定方法。
【請求項16】
請求項12から14のいずれか一項に記載のチップクリアランス測定方法において、
前記ピンは、前記ピンが延びるピン延在方向における前記ピンの端部に、前記ピン延在方向に対して傾斜したテーパ面が形成されており、
前記ピン操作工程では、前記ピンの前記テーパ面が形成されている側の端部を前記ロータ軸線に対する径方向内側に向け且つ前記テーパ面を前記低圧側に向けて、前記ピンを前記貫通孔内に押し込む、
チップクリアランス測定方法。
【請求項17】
請求項12から16のいずれか一項に記載のチップクリアランス測定方法において、
前記保持環は、前記高圧側を向く高圧側端面と前記低圧側を向く低圧側端面とを有し、
前記運転状態再現工程は、前記高圧側端面中で、前記周方向における複数の前記押し位置のうちの前記ピン操作工程で押す押し位置を除く押し位置に、ジャッキの動作端を接触させ、前記ジャッキを操作して、前記ジャッキにより前記保持環を前記低圧側に押すジャッキ操作工程を含む、
チップクリアランス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸流流体機械、及びそのチップクリアランス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸流流体機械は、軸線を中心として回転するロータと、軸線を中心として筒状を成しロータの外周側に配置されている保持環と、保持環の内周側に配置され保持環により保持されている複数の静翼列と、軸線を中心として筒状を成し保持環の外周側に配置されている車室と、を備えている。複数の静翼列は、軸線方向に間隔をあけて配置されている。静翼列は、軸線に対する周方向に並ぶ複数の静翼で構成される。ロータは、ロータ軸と、このロータ軸に取り付けられている複数の動翼列とを有する。各動翼列は、複数の静翼列のうちのいずれか一の静翼列の軸線上流側又は軸線下流側に配置される。動翼列は、周方向に並ぶ複数の動翼で構成される。
【0003】
このような軸流流体機械では、動翼の径方向外側端と、この動翼の径方向外側に配置されている静止部材との間の間隔、つまりチップクリアランスの大きさにより、性能が左右される。このため、軸流流体機械の製造過程等では、このチップクリアランスが測定される。
【0004】
軸流流体機械のチップクリアランス測定方法としては、例えば、以下の特許文献1に記載されている方法がある。この方法では、径方向に車室及び保持環を径方向に貫通する筒状のガイドフレームを設け、この筒状のガイドフレーム内に測定用ロッドを挿入する。そして、この方法では、この測定用ロッドの先端を動翼の径方向外側端に接触させ、そのときの測定用ロッドの移動量等からチップクリアランスを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−077868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
組立過程等で行われるチップクリアランス測定は、軸流流体機械の運転時における性能が目的の性能を満たすか否かを確認する等の為に行われる。このため、組立過程であっても、運転状態に近い状態でチップクリアランスを測定することが好ましい。
【0007】
そこで、本発明は、組立過程でも、運転状態に近い状態でのチップクリアランスを測定できる軸流流体機械、及びそのチッククリアランス測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための発明に係る第一態様の軸流流体機械は、
ロータ軸線に対する周方向に間隔をあけて配置されている複数の動翼を有し、前記ロータ軸線を中心として回転するロータと、前記ロータ軸線が延びる軸線方向で前記複数の動翼からズレた位置で、前記周方向に間隔をあけて配置されている複数の静翼を有する静翼列と、前記静翼列を前記ロータ軸線に対する径方向外側から保持する筒状の保持環と、前記保持環を前記径方向外側から支持する筒状の車室と、を備える。前記保持環と前記車室とのそれぞれは、互いに係合する係合部を有する。前記保持環と前記車室とのうちの一方の部材の係合部は、前記ロータ軸線に対する径方向で他方の部材側に突出し且つ前記周方向に延びる凸部を有する。前記他方の部材の係合部は、前記径方向で前記一方の部材側に突出し且つ前記周方向に延び、前記軸線方向で互いに対向して両者間に前記凸部が入る溝を形成する一対の壁板部を有する。前記車室には、前記軸線方向で前記車室中の前記係合部が形成されている領域内において、前記軸線方向の一方側に片寄った貫通中心位置を中心として、前記径方向に貫通する貫通孔が形成されている。前記車室の前記係合部中で、前記貫通孔を基準にして前記軸線方向の他方側の部分は、前記周方向の全域に存在する。前記貫通中心位置を基準にして前記軸線方向の前記一方側で且つ前記周方向の前記貫通中心位置の部分は、前記貫通孔により前記車室の前記係合部が欠けている。
【0009】
軸流流体機械では、その起動過程等において、車室の熱伸びと保持環の熱伸びとに差が生じる。この熱伸び差を吸収するため、保持環と車室とのうちの一方の部材の凸部が他方の部材の溝に入り込んだ状態でも、凸部と溝を形成する面との間には、隙間が存在する。このため、凸部が溝に入り込んだ状態でも、一方の部材の凸部に対して他方の部材の溝が僅かに相対移動可能である。すなわち、車室と保持環とが係合している状態でも、車室に対して保持環が僅かに相対移動可能である。
【0010】
軸流流体機械では、軸線上流側と軸線下流側とのうち、一方の側が、軸線流体機械内を流れる流体の圧力が高まる高圧側になり、他方の側がこの流体の圧力が相対的に低い低圧側になる。よって、運転状態の軸流流体機械では、静翼に低圧側向きの力が作用する。ところで、前述したように、車室と保持環とが係合している状態でも、車室に対して保持環が僅かに相対移動可能である。このため、静翼を保持している保持環は、静翼に作用する低圧側向きの力により、車室に対して低圧側にわずかに相対移動する。
【0011】
動翼の径方向外側に存在する静止部材の内周面は、ガスパス面を形成する。動翼の径方向外側端とガスパス面との間の径方向の間隔がチップクリアランスである。チップクリアランス測定での測定基点の一つである静止部材の内周面の内径は、軸線方向の位置により異なる。静止部材は、保持環又は保持環に支持された部材である。このため、車室に対する静止部材の軸線方向の相対位置が、チップクリアランスの測定時と軸流流体機械の運転時とで異なっていると、運転状態の軸流流体機械におけるチップクリアランスを測定することできない。
【0012】
本態様の軸流流体機械では、チップクリアランスを測定する前に、後述の第五態様又は第六態様のピンを車室の貫通孔に入れて、貫通孔の内周面に対してピンを相対変位させて、このピンにより、保持環を低圧側に押す。この結果、軸線方向における車室と保持環との相対位置関係は、ピンで保持環を低圧側Dalに押すことで、運転状態の軸流流体機械と同じになる。
【0013】
本態様では、ピンで保持環を低圧側に押している状態を維持しつつ、前述のチップクリアランスを測定する。よって、本態様では、運転状態に近い状態でのチップクリアランスを測定できる。
【0014】
径方向で保持環と車室との間の空間のうち、保持環及び車室の係合部を基準にして高圧側の空間には、流体が流入する。本態様では、貫通中心位置を基準にして軸線方向の一方側で且つ周方向の貫通中心位置の部分は、貫通孔により車室の係合部が欠けている。しかしながら、本態様では、車室の係合部中で、貫通孔を基準にして軸線方向の他方側の部分は、周方向の全域に存在する。このため、係合部を基準にした高圧側の空間に流入した流体が、係合部を基準にして低圧側の空間に流出するのを抑制することができる。
【0015】
前記目的を達成するための発明に係る第二態様の軸流流体機械は、
前記第一態様の軸流流体機械において、前記車室の前記係合部は、前記凸部を有し、前記保持環の前記係合部は、前記一対の壁板部を有する。前記軸線方向で相対する側のうち、前記ロータの回転で前記軸線方向に流れる流体の圧力が高まる側である高圧側が前記他方側であり、前記高圧側に対する反対側の低圧側が前記一方側である。前記貫通中心位置は、前記軸線方向で前記車室中の前記係合部が形成されている領域内において、前記軸線方向の前記低圧側に片寄った位置である。前記車室の前記凸部中で、前記貫通孔を基準にして前記軸線方向の前記高圧側の部分は、前記周方向の全域に存在する。
【0016】
前記目的を達成するための発明に係る第三態様の軸流流体機械は、
前記第一態様の軸流流体機械において、前記車室の前記係合部は、前記一対の壁板部を有し、前記保持環の前記係合部は、前記凸部を有する。前記軸線方向で相対する側のうち、前記ロータの回転で前記軸線方向に流れる流体の圧力が高まる側である高圧側が前記一方側であり、前記高圧側に対する反対側の低圧側が前記他方側である。前記貫通中心位置は、前記軸線方向で前記車室中の前記係合部が形成されている領域内において、前記軸線方向の前記高圧側に片寄った位置であり、前記車室の前記一対の壁板部のうち、前記貫通孔を基準にして前記軸線方向の前記低圧側の壁板部は、前記周方向の全域に存在する。
【0017】
前記目的を達成するための発明に係る第四態様の軸流流体機械は、
以上の前記第一態様から前記第三態様のいずれかの軸流流体機械において、前記車室には、前記貫通孔が前記周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0018】
前記目的を達成するための発明に係る第五態様の軸流流体機械は、
以上の前記第一態様から前記第四態様のいずれかの軸流流体機械において、
前記貫通孔に挿通されるピンを備える。前記貫通孔は、前記貫通中心位置を中心として円柱状の孔である。前記ピンは、前記貫通孔に挿通可能で且つ貫通孔の内周面に接する外周面を有する円柱状のピン本体と、前記ピン本体のピン中心軸線が延びるピン延在方向における前記ピン本体の端に形成されている偏芯部と、を有する。前記偏芯部は、前記ピン中心軸線と平行で且つ前記ピン中心軸線から離れた偏芯軸を中心として円柱状を成し、且つ外径が前記ピン本体の外径よりも小さい。
【0019】
本態様では、ピンを貫通孔に挿通し、ピン中心軸線を中心にしてピンを回転させることで、ピンの偏芯部により保持環を低圧側に押すことができる。
【0020】
前記目的を達成するための発明に係る第六態様の軸流流体機械は、
以上の前記第一態様から前記第四態様のいずれかの軸流流体機械において、前記貫通孔に挿通されるピンを備える。前記ピンは、前記ピンが延びるピン延在方向における前記ピンの端部に、前記ピン延在方向に対して傾斜したテーパ面が形成されている。
【0021】
本態様では、ピンのテーパ面を低圧側に向けて、このピンを貫通孔内に押し込むことで、ピンのテーパ面により保持環を低圧側に押すことができる。
【0022】
前記目的を達成するための発明に係る第七態様の軸流流体機械は、
前記第六態様の軸流流体機械において、前記貫通孔を前記径方向外側から塞ぐ蓋を備える。
【0023】
前記目的を達成するための発明に係る第八態様の軸流流体機械は、
前記第七態様の軸流流体機械において、前記ピンの前記ピン延在方向の長さは、前記ピンを前記貫通孔に押し込んだ際に、前記貫通孔を前記蓋で塞ぐときに、前記ピンが前記蓋に干渉する長さである。
【0024】
本態様では、ピンが貫通孔内に残っている場合、貫通孔を蓋で塞ぐことができない。このため、貫通孔を蓋で塞ぐ際に、ピンが貫通孔内に残っている場合、作業者がピンの存在に気付く。よって、本態様では、ピンの抜き忘れを防止することができる。
【0025】
前記目的を達成するための発明に係る第九態様の軸流流体機械は、
前記第一態様から前記第八態様のいずれかの軸流流体機械において、前記車室は、前記軸線方向の第一の側である軸線上流側から気体が流入し、前記軸線上流側とは反対側の軸線下流側から前記気体を吐出する圧縮機車室である。前記ロータは、前記ロータ軸線を中心に回転することで、前記気体が前記軸線下流側に向うに連れて前記気体を圧縮する圧縮機ロータである。
【0026】
前記目的を達成するための発明に係る第十態様の軸流流体機械は、
前記第一態様から前記第八態様のいずれかの軸流流体機械において、前記車室は、前記軸線方向の第一の側である軸線上流側から気体が流入し、前記軸線上流側とは反対側の軸線下流側から前記気体を排気するタービン車室である。前記ロータは、前記タービン車室内を前記軸線上流側から前記軸線下流側に流れる前記気体により、回転力が付与されるタービンロータである。
【0027】
前記目的を達成するための発明に係る第十一態様のチップクリアランス測定方法は、以下の軸流流体機械に適用される。
ロータ軸線に対する周方向に間隔をあけて配置されている複数の動翼を有し、前記ロータ軸線を中心として回転するロータと、前記ロータ軸線が延びる軸線方向で前記複数の動翼からズレた位置で、前記周方向に間隔をあけて配置されている複数の静翼を有する静翼列と、前記静翼列を前記ロータ軸線に対する径方向外側から保持する筒状の保持環と、前記保持環を前記径方向外側から支持する筒状の車室と、を備える。前記保持環と前記車室とのそれぞれは、互いに係合する係合部を有する。前記保持環と前記車室とのうちの一方の部材の係合部は、前記ロータ軸線に対する径方向で他方の部材側に突出し且つ前記周方向に延びる凸部を有する。前記他方の部材の係合部は、前記径方向で前記一方の部材側に突出し且つ前記周方向に延び、前記軸線方向で互いに対向して両者間に前記凸部が入る溝を形成する一対の壁板部を有している。
当該チッククリアランス測定方法では、前記軸線方向で相対する側のうち、前記ロータの回転で前記軸線方向に流れる流体が高圧になる高圧側とは反対側の低圧側に、前記周方向で互いに異なる複数の押し位置から前記保持環を押す運転状態再現工程と、前記運転状態再現工程の実行中に、前記動翼と前記動翼の前記径方向外側に存在する静止部材との間のチップクリアランスを測定する測定工程と、を実行する。
【0028】
前記目的を達成するための発明に係る第十二態様のチップクリアランス測定方法は、
前記第十一態様のチップクリアランス測定方法において、前記車室には、前記径方向に貫通する貫通孔が形成されており、前記軸流流体機械は、前記貫通孔に挿通されるピンを備えており、前記運転状態再現工程は、前記ピンを前記車室の前記貫通孔に入れて、前記貫通孔の内周面に対して前記ピンを相対変位させることで、前記ピンにより、複数の前記押し位置のうちの一の押し位置で前記保持環を前記低圧側に押すピン操作工程を含む。
【0029】
前記目的を達成するための発明に係る第十三態様のチップクリアランス測定方法は、
前記第一態様から前記第四態様のいずれかの軸流流体機械のチップクリアランス測定方法において、前記軸流流体機械は、前記貫通孔に挿通されるピンを備えており、前記軸線方向で相対する側のうち、前記ロータの回転で前記軸線方向に流れる流体の圧力が高まる高圧側とは反対側の低圧側に、前記周方向で互いに異なる複数の押し位置から前記保持環を押す運転状態再現工程と、前記運転状態再現工程の実行中に、前記動翼と前記動翼の径方向外側に存在する静止部材との間のチップクリアランスを測定する測定工程と、を実行する。前記運転状態再現工程は、前記ピンを前記車室の前記貫通孔に入れて、前記貫通孔の内周面に対して前記ピンを相対変位させることで、前記ピンにより、複数の前記押し位置のうちの一の押し位置で前記保持環を前記低圧側に押すピン操作工程を含む。
【0030】
前記目的を達成するための発明に係る第十四態様のチップクリアランス測定方法は、
前記第十二態様又は前記第十三態様のチップクリアランス測定方法において、前記車室には、複数の前記押し位置の数と同じ数の前記貫通孔が形成されており、前記軸流流体機械は、複数の前記押し位置の数と同じ数の前記ピンを備えており、前記運転状態再現工程では、全ての前記押し位置毎に、前記ピンを用いて前記ピン操作工程を実行する。
【0031】
前記目的を達成するための発明に係る第十五態様のチップクリアランス測定方法は、
前記第十二態様から前記第十四態様のいずれかのチップクリアランス測定方法において、前記ピンは、前記貫通孔に挿通可能で且つ貫通孔の内周面に接する外周面を有する円柱状のピン本体と、前記ピン本体のピン中心軸線が延びるピン延在方向における前記ピン本体の端に形成されている偏芯部と、を有し、前記偏芯部は、前記ピン中心軸線と平行で且つ前記ピン中心軸線から離れた偏芯軸を中心として円柱状を成し、且つ外径が前記ピン本体の外径よりも小さく、前記ピン操作工程では、前記ピンの前記偏芯部を前記ロータ軸線に対する径方向内側に向けて、前記ピンを前記貫通孔に入れ、前記ピン中心軸線を中心として前記貫通孔内で前記ピンを回転させる。
【0032】
前記目的を達成するための発明に係る第十六態様のチップクリアランス測定方法は、
前記第十二態様から前記第十四態様のいずれかのチップクリアランス測定方法において、前記ピンは、前記ピンが延びるピン延在方向における前記ピンの端部に、前記ピン延在方向に対して傾斜したテーパ面が形成されており、前記ピン操作工程では、前記ピンの前記テーパ面が形成されている側の端部を前記ロータ軸線に対する径方向内側に向け且つ前記テーパ面を前記低圧側に向けて、前記ピンを前記貫通孔内に押し込む。
【0033】
前記目的を達成するための発明に係る第十七態様のチップクリアランス測定方法は、
前記第十二態様から前記第十六態様のいずれかのチップクリアランス測定方法において、前記保持環は、前記高圧側を向く高圧側端面と前記低圧側を向く低圧側端面とを有し、前記運転状態再現工程は、前記高圧側端面中で、前記周方向における複数の前記押し位置のうちの前記ピン操作工程で押す押し位置を除く押し位置に、ジャッキの動作端を接触させ、前記ジャッキを操作して、前記ジャッキにより前記保持環を前記低圧側に押すジャッキ操作工程を含む。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様によれば、運転状態に近い状態でのチップクリアランスを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係る第一実施形態におけるガスタービンの模式的な断面図である。
図2】本発明に係る第一実施形態におけるガスタービンの要部断面図である。
図3】本発明に係る第一実施形態における圧縮機車室及び保持環の腰部断面図である。
図4図2におけるIV−IV線断面図である。
図5】本発明に係る第一実施形態における運転状態再現前の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図6】本発明に係る第一実施形態における運転状態再現時の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図7】本発明に係る第一実施形態における運転状態再現構造の要部斜視図である。
図8】本発明に係る第一実施形態におけるチップクリアランス測定方法の手順を示すフローチャートである。
図9】本発明に係る第一実施形態における運転状態再現行程の実行中の圧縮機の模式的断面図である。
図10】ジャッキのみでの運転状態再現行程の実行中の圧縮機の模式的断面図である。
図11】本発明に係る第二実施形態における運転状態再現前の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図12】本発明に係る第二実施形態における運転状態再現時の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図13】本発明に係る第二実施形態の変形例における運転状態再現前の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図14】本発明に係る第二実施形態の変形例における運転状態再現時の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図15】本発明に係る第三実施形態における運転状態再現時の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図16】本発明に係る第四実施形態における運転状態再現時の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図17】本発明に係る第一実施形態における変形例の運転状態再現構造を示す。同図(A)は、運転状態再現構造の要部断面図である。同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
図18】本発明に係る第一実施形態における第一変形例の押し位置を示す説明図である。
図19】本発明に係る第一実施形態における第二変形例の押し位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の一実施形態及びその変形例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0037】
「第一実施形態」
軸流流体機械の第一実施形態について、図1図10を参照して説明する。
【0038】
本実施形態の軸流流体機械は、ガスタービン1の圧縮機10である。図1に示すように、ガスタービン1は、空気Aを圧縮する圧縮機10と、圧縮機10で圧縮された空気中で燃料Fを燃焼させて燃焼ガスGを生成する燃焼器40と、燃焼ガスGにより駆動するタービン50と、を備えている。
【0039】
圧縮機10は、ロータ軸線Arを中心として回転する圧縮機ロータ11と、圧縮機ロータ11を覆う圧縮機車室20と、複数の静翼列18と、を備える。タービン50は、ロータ軸線Arを中心として回転するタービンロータ51と、タービンロータ51を覆うタービン車室60と、複数の静翼列58と、を備える。
【0040】
圧縮機ロータ11とタービンロータ51とは、同一ロータ軸線Ar上に位置し、互いに接続されてガスタービンロータ2を成す。このガスタービンロータ2には、例えば、発電機GENのロータが接続される。また、圧縮機車室20とタービン車室60とは、互いに接続されてガスタービン車室5を成す。なお、以下では、ロータ軸線Arが延びる方向を軸線方向Da、このロータ軸線Arを中心とした周方向を単に周方向Dcとし、ロータ軸線Arに対して垂直な方向を径方向Drとする。また、軸線方向Daでタービン50を基準にして圧縮機10側を軸線上流側Dau、その反対側を軸線下流側Dadとする。また、径方向Drでロータ軸線Arに近づく側を径方向内側Dri、その反対側を径方向外側Droとする。
【0041】
圧縮機ロータ11は、ロータ軸線Arを中心として軸線方向Daに延びるロータ軸12と、このロータ軸12に取り付けられている複数の動翼列13と、を有する。複数の動翼列13は、軸線方向Daに並んでいる。各動翼列13は、いずれも、周方向Dcに並んでいる複数の動翼14で構成される。複数の動翼列13の各軸線下流側Dadには、静翼列18が配置されている。各静翼列18は、圧縮機車室20の内側に設けられている。各静翼列18は、いずれも、周方向Dcに並んでいる複数の静翼19で構成され。よって、この圧縮機10は、軸流流体機械である。
【0042】
タービンロータ51は、ロータ軸線Arを中心として軸線方向Daに延びるロータ軸52と、このロータ軸52に取り付けられている複数の動翼列53と、を有する。複数の動翼列53は、軸線方向Daに並んでいる。各動翼列53は、いずれも、周方向Dcに並んでいる複数の動翼54で構成される。複数の動翼列53の各軸線上流側Dauには、静翼列58が配置されている。各静翼列58は、タービン車室60の内側に設けられている。各静翼列58は、いずれも、周方向Dcに並んでいる複数の静翼59で構成されている。よって、このタービン50は、軸流流体機械である。
【0043】
以上のように、ガスタービン1を構成する圧縮機10及びタービン50が軸流流体機械であるため、このガスタービン1も軸流流体機械である。
【0044】
図2に示すように、圧縮機10は、さらに、静翼19を保持する複数の保持環30を備える。複数の保持環30は、軸線方向Daに並んでいる。保持環30は、ロータ軸線Arを中心として筒状の環本体31と、環本体31から径方向外側Droに突出する環脚部32と、を有する。環脚部32は、周方向Dcに延びている。圧縮機車室20は、ロータ軸線Arを中心として筒状の車室本体21と、車室本体21から径方向内側Driに突出する複数の車室脚部22と、を有する。保持環30は、その環脚部32が車室脚部22に係合することで、圧縮機車室20に支持される。保持環30の径方向内側Driの部分には、1以上の静翼列18が固定されている。この保持環30の径方向内側Driとロータ軸12の径方向外側Droとの間の筒状の空間は、空気圧縮流路39を形成する。この空気圧縮流路39中に、複数の動翼14及び複数の静翼19が配置されている。
【0045】
圧縮機車室20に流入した空気は、この空気圧縮流路39を軸線下流側Dadに流れるに連れて次第に圧縮され、高圧になる。よって、軸流流体機械の一つである圧縮機10は、軸線下流側Dadが高圧側Dahで、軸線上流側Dauが低圧側Dalである。
【0046】
図3に示すように、保持環30と圧縮機車室20とのそれぞれは、互いに係合する係合部23,33を有する。圧縮機車室20の係合部23は、車室脚部22から径方向内側Driに突出する凸部24を有する。この凸部24は、周方向Dcに延びている。また、保持環30の係合部33は、環脚部32から径方向外側Droに突出し、軸線方向Daで互いに対向している一対の壁板部34を有する。一対の壁板部34は、周方向Dcに延びている。一対の壁板部34の間には、圧縮機車室20の凸部24が入る溝35が形成される。この溝35は、径方向内側Driに向って凹み周方向Dcに延びている。保持環30の溝35に、圧縮機車室20の凸部24が入り込むことで、保持環30が圧縮機車室20に係合することになる。但し、凸部24が溝35に入り込んだ状態でも、軸線方向Da及び径方向Drにおいて、凸部24と溝35を形成する面との間には、僅かな隙間がある。保持環30と圧縮機車室20とは、圧縮機10の起動過程等において、軸線方向Da及び径方向Drにおいて熱伸び差が生じる。凸部24と溝35を形成する面との間の隙間は、この熱伸び差を吸収するために存在する。このように、凸部24が溝35に入り込んだ状態でも、凸部24と溝35を形成する面との間に隙間があるため、圧縮機車室20の凸部24に対して保持環30の凹部が僅かに相対移動可能である。すなわち、圧縮機車室20と保持環30とが係合している状態でも、圧縮機車室20に対して保持環30が軸線方向Da及び径方向Drに僅かに相対移動可能である。
【0047】
筒状の環本体31の内周面は、ガスパス面31pを形成する。このガスパス面31pが空気圧縮流路39の径方向外側Droの縁を画定する。ガスパス面31pの一部は、動翼14と径方向で対向する。この動翼14の径方向外側Droの端とガスパス面31pとの間の径方向の間隔がチップクリアランスCである。チップクリアランスCが小さいと、圧縮機10の起動過程等で、圧縮機ロータ11と保持環30との径方向Drの熱伸び差等により、動翼14が保持環30に接触することがある。一方、チップクリアランスCが大きいと、チップクリアランスCからの空気の漏れ量が多くなる。このため、チップクリアランスCが大きいと、圧縮機10の性能が低下する。よって、圧縮機10の性能は、このチップクリアランスCの大きさに左右される。このため、圧縮機10の製造過程等では、このチップクリアランスCが測定される。
【0048】
図2に示すように、タービン50は、複数の保持環(翼環という場合もある)70と複数の遮熱環78と複数の分割環76とを備える。複数の保持環70は、軸線方向Daに並んでいる。保持環70は、ロータ軸線Arを中心として筒状の環本体71と、環本体71から径方向外側Droに突出する環脚部72と、を有する。環脚部72は、周方向Dcに延びている。タービン車室60は、ロータ軸線Arを中心として筒状の車室本体61と、車室本体61から径方向内側Driに突出する複数の車室脚部62と、を有する。保持環70は、その環脚部72が車室脚部62に係合することで、タービン車室60に支持される。
【0049】
静翼59は、翼形を成し径方向Drに延びる翼体59bと、翼体59bの径方向外側Droに設けられている外側シュラウド59oと、翼体59bの径方向内側Driに設けられている内側シュラウド59iとを有する。動翼54は、翼形を成し径方向Drに延びる翼体54bと、翼体54bの径方向内側Driが設けられているプラットフォーム54pと、を有する。動翼54は、このプラットフォーム54pの径方向内側Driの部分がロータ軸52に固定されている。このプラットフォーム54pは、静翼59の内側シュラウド59iと軸線方向Daで隣り合っている。分割環76は、軸線方向Daで隣り合う静翼59の外側シュラウド59o間に配置されている。このため、分割環76は、径方向Drで動翼54と対向している。
【0050】
遮熱環78は、分割環76と保持環70とを接続する。遮熱環78は、さらに、静翼59の外側シュラウド59oと保持環70とを接続する。よって、静翼59は、遮熱環78を介して保持環70に保持される。
【0051】
静翼59の内側シュラウド59iと外側シュラウド59oとの間、及び動翼54のプラットフォーム54pと分割環76との間の筒状の空間は、燃焼ガス流路79を形成する。この燃焼ガス流路79には、燃焼器40からの燃焼ガスGが流入する。燃焼ガスGは、この燃焼ガス流路79を軸線下流側Dadに流れる。燃焼ガスGは、この燃焼ガス流路79を流れる過程で、タービンロータ51に回転力を付与する。このため、燃焼ガスGは、この燃焼ガス流路79を軸線下流側Dadに流れるに連れて、次第に圧力が低下する。よって、軸流流体機械の一つであるタービン50は、前述の圧縮機10とは異なり、軸線下流側Dadが低圧側Dalで、軸線上流側Dauが高圧側Dahである。
【0052】
分割環76で、径方向内側Driを向く面は、ガスパス面76pを形成する。このガスパス面76pが燃焼ガス流路79の径方向外側Droの縁を画定する。ガスパス面76pの一部は、動翼54と径方向Drで対向する。この動翼54の径方向外側Dro端とガスパス面76pとの間の径方向Drの間隔がチップクリアランスである。チップクリアランスが小さいと、タービン50の起動過程等で、タービンロータ51と保持環70との径方向Drの熱伸び差等により、動翼54が分割環76に接触することがある。一方、チップクリアランスが大きいと、チップクリアランスからの燃焼ガスGの漏れ量が多くなる。このため、チップクリアランスが大きいと、タービン50の性能が低下する。よって、タービン50の性能は、このチップクリアランスの大きさに左右される。このため、タービン50の製造過程等では、このチップクリアランスが測定される。
【0053】
次に、圧縮機10の状態をチップクリアランスの測定に適した状態にするための運転状態再現構造について、説明する。
【0054】
この運転状態再現構造は、図3に示すように、圧縮機車室20を径方向Drに貫通する円柱状の貫通孔28と、この貫通孔28に挿通される偏芯ピン80と、この貫通孔28の径方向外側Droの部分を塞ぐ蓋89と、を有する。
【0055】
図4に示すように、圧縮機車室20は、上半車室20uと下半車室20lとを有する。上半車室20uは、ロータ軸線Arを基準にして、圧縮機車室20の上半を構成する。また、下半車室20lは、ロータ軸線Arを基準にして、圧縮機車室20の下半を構成する。上半車室20uの周方向Dcの両端には、径方向外側Droに突出するフランジ20fuが形成されている。また、下半車室20lの周方向Dcの両端にも、径方向外側Droに突出するフランジ20flが形成されている。上半車室20uと下半車室20lとは、互いのフランジ20fu,20flがボルトにより連結されることで結合する。先述の圧縮機車室20の貫通孔28は、本実施形態では、下半車室20l中で、周方向Dcで互いに異なる2つの位置に形成されている。なお、複数の保持環30も、それぞれ、複数の部分保持環を周方向Dcに並べて構成される。言い換えると、一の部分保持環は、保持環30における周方向の一部分を構成する。
【0056】
図3図5図7に示すように、貫通孔28の中心軸の位置である貫通中心位置Phcは、軸線方向Daで圧縮機車室20中の係合部23が形成されている領域内において、軸線上流側Dau(低圧側Dal)に片寄った位置である。ここで、軸線上流側Dauに片寄った位置とは、圧縮機車室20の係合部23の軸線方向Daにおける中心位置Ppcから軸線上流側Dauに僅かに離れた位置である。また、圧縮機車室20の係合部23の軸線方向Daにおける中心位置Ppcとは、この係合部23が有する凸部24の軸線方向Daにおける中心位置、つまり凸幅中心位置である。よって、貫通中心位置Phcは、圧縮機車室20中の係合部23が形成されている領域内において、凸幅中心位置Ppcから軸線上流側Dau(低圧側Dal)に僅かに離れた位置である。
【0057】
周方向Dcに延びる凸部24は、図5及び図7に示すように、軸線方向Daで相対する側を向く一対の面24u,24dを有する。一対の面24u,24dのうち、一方の面は、他方の面よりも軸線上流側Dauに位置し、且つ軸線上流側Dauを向く上流端面24uである。また、他方の面は、上流端面24uよりも軸線下流側Dadに位置し且つ軸線下流側Dadを向く下流端面24dである。この凸部24が入り込む溝35は、軸線方向Daで向かい合う一対の面35u,35dを有する。一対の面35u,35dのうち、一方の面は、他方の面よりも軸線上流側Dauに位置し、且つ軸線下流側Dadを向く上流溝側面35uである。また、他方の面は、上流溝側面35uよりも軸線下流側Dadに位置に且つ軸線上流側Dauを向く下流溝側面35dである。凸部24が溝35に入り込んだ状態では、凸部24の上流端面24uと溝35の上流溝側面35uとが軸線方向Daで対向し、凸部24の下流端面24dと溝35の下流溝側面35dとが軸線方向Daで対向する。
【0058】
凸部24は、貫通孔28により一部が欠けている。具体的に、凸部24の上流端面24uは、周方向Dcにおける貫通中心位置Phcを含む部分が欠けている。この凸部24の上流端面24uは、軸線方向Daで貫通中心位置Phcよりも軸線上流側Dau(低圧側Dl)の位置である。一方、凸部24の下流端面24dは、周方向Dcの全域にわたって存在し、上流端面24uのように欠けた部分がない。この凸部24の下流端面24dは、軸線方向Daで貫通中心位置Phcよりも軸線下流側Dad(高圧側Dh)の位置である。
【0059】
偏芯ピン80は、貫通孔28に挿通可能な円柱状のピン本体81と、ピン本体81のピン中心軸線Apが延びるピン延在方向Dpにおけるピン本体81の端に形成されている偏芯部82と、を有する。円柱状のピン本体81の外径は、貫通孔28の内径と実質的に同じである。このため、ピン本体81を貫通孔28に挿通させると、ピン中心軸線Apと貫通孔28の貫通中心位置Phcとが実質的に一致する。また、ピン本体81を貫通孔28に挿通させると、ピン本体81の外周面と貫通孔28の内周面とが接する。偏芯部82は、ピン中心軸線Apと平行で且つピン中心軸線Apから離れた偏芯軸Adを中心として円柱状を成している。この偏芯部82の外径は、ピン本体81の外径よりも小さい。図3に示すように、ピン延在方向Dpにおけるピン本体81の端であって、偏芯部82が設けられている側とは反対側の端には、偏芯部82側に凹むレンチ穴83が形成されている。
【0060】
偏芯ピン80のピン延在方向Dpの全長は、偏芯ピン80を貫通孔28に挿通させ、この偏芯ピン80を径方向内側Driに最も押し込んだ際、貫通孔28を蓋89で塞ぐときに、偏芯ピン80が蓋89に干渉する長さである。
【0061】
次に、図8に示すフローチャートに従って、圧縮機10の製造過程でのチップクリアランスの測定手順について説明する。
【0062】
まず、チップクリアランスを測定可能な状態に圧縮機10を組み立てる(S1:準備工程)。この準備工程(S1)では、図9に示すように、まず、下半車室20lを設置場所に設置する。次に、複数の保持環30のそれぞれの下部分保持環30lを下半車室20l内に取り付ける。次に、圧縮機ロータ11を設置する。そして、複数の保持環30のうち、一の保持環30の上部分保持環30uを下部分保持環30lに接続する。すなわち、複数の保持環30のうち、一の保持環30のみを組み立てる。なお、ここでは、圧縮機10が三つの保持環30を備え、三つの保持環30のうち、軸線方向Daにおける真ん中の保持環30aのみを組み立て、この保持環30aをチップクリアランスの測定対象とする。
【0063】
以上で、準備工程(S1)は完了する。準備工程(S1)が完了すると、この状態の圧縮機をチップクリアランスの測定に適した状態にする(S2:運転状態再現工程)。
【0064】
圧縮機ロータ11が回転すると、前述したように、空気Aが空気圧縮流路39中を軸線上流側Dauから軸線下流側Dadへ流れる。空気Aの圧力は、空気Aが軸線下流側Dadに流れるに連れて次第に高まる。よって、運転状態の圧縮機10では、一つの静翼19を基準として、軸線下流側Dadが高圧側Dahになり、軸線上流側Dauが低圧側Dalになる。すなわち、運転状態の圧縮機10では、一つの静翼19を基準として、軸線下流側Dadの空間と軸線上流側Dauの空間との間で圧力差が生じる。このため、運転状態の圧縮機10では、静翼19に軸線上流側Dau向きの力が作用する。ところで、前述したように、圧縮機車室20と保持環30とが係合している状態でも、圧縮機車室20に対して保持環30が僅かに相対移動可能である。圧縮機車室20はタービン車室60に固定されているが、保持環30は、圧縮機車室20に対して軸線方向Daに移動可能に保持されている。従って、保持環30は、軸線上流側Dauの方向へ前述の圧力差分の力を受けて、保持環30の溝35の下流溝側面35dが圧縮機車室20の凸部24の下流端面24dに接触するまで、軸線上流側Dauの方向に移動する。つまり、静翼19を保持している保持環30は、静翼19に作用する軸線上流側Dau向きの力により、圧縮機車室20に対して軸線上流側Dau(低圧側Dal)に僅かに相対移動する。この結果、運転状態の圧縮機10では、図6に示すように、保持環30における溝35の下流溝側面35dと圧縮機車室20における凸部24の下流端面24dとが接することになる。溝35の下流溝側面35dと凸部24の下流端面24dとが接している状態では、両面24d,35dの位置を基準にして、軸線下流側Dadの空間と軸線上流側Dauの空間との間で上記と同じ圧力差が生じる。
【0065】
図3及び図6に示すように、径方向Drで保持環30と圧縮機車室20との間の空間のうち、保持環30及び圧縮機車室20の係合部23,33を基準にして軸線下流側Dadの下流側空間Sdには、空気圧縮流路39からの空気Aが流入する。運転状態の圧縮機10では、前述したように、溝35の下流溝側面35dと凸部24の下流端面24dとが接し、且つ溝35の下流溝側面35dと凸部24の下流端面24dとがそれぞれ周方向Dcの全域に渡って存在しているので、下流側空間Sdに流入した空気が保持環30及び圧縮機車室20の係合部23,33を介して、上流側空間Suに流出することを抑制することができる。すなわち、運転状態の圧縮機10では、溝35の下流溝側面35dと凸部24の下流端面24dとが、下流側空間Sd内の空気が上流側空間Suに流出するのを抑制するシール面になる。また、前述したように、溝35の下流溝側面35dと凸部24の下流端面24dとが接している状態では、両面24d,35dの位置を基準にして、軸線下流側Dadの空間と軸線上流側Dauの空間との間で圧力差が生じる。具体的に、溝35の径方向外側Droを向く底面35tと凸部24の径方向内側Driを向く内側端面24tとの間に形成され、上流側空間Suに連通する上流側隙間空間Sduと、軸線下流側Dadにおける壁板部34の径方向外側Droを向く外側端面34dと車室脚部22の径方向内側Driを向く内側端面22dとの間に形成され、下流側空間Sdに連通する下流側隙間空間Sddとの間に、上記と同じ圧力差が生じる。この圧力差で生じる力により互いに接触する溝35の下流溝側面35dと凸部24の下流端面24dとが、前述したように、シール面となる。
【0066】
チップクリアランス測定での測定基点の一つである保持環30の内周面の内径は、軸線方向Daの位置により異なる。このため、圧縮機車室20に対する保持環30の軸線方向Daの相対位置が、チップクリアランスの測定時と圧縮機10の運転時とで異なっていると、運転状態の圧縮機10におけるチップクリアランスを測定することできない。
【0067】
そこで、本実施形態では、運転状態再現工程(S2)の実行により、圧縮機車室20に対する保持環30の軸線方向Daの相対位置を圧縮機10の運転時の位置にする。具体的に、この運転状態再現工程(S2)では、図4に示すように、周方向Dcで互いに異なる四つの押し位置PPj,PPpから保持環30を軸線上流側Dau(低圧側Dl)に押す。保持環30を軸線上流側Dau(低圧側Dl)に押すにあたり、運転状態再現工程(S2)では、ジャッキJを用いて保持環30を軸線上流側Dauに押すジャッキ操作工程(S2a)と、偏芯ピン80を用いて保持環30を軸線上流側Dauに押すピン操作工程(S2b)とを併行して実行する。四つの押し位置PPj,PPpのうち、二つの押し位置PPjがジャッキJによる押し位置であり、残りの二つの押し位置PPjが偏芯ピン80による押し位置である。
【0068】
ジャッキ操作工程(S2a)では、まず、図4及び図9に示すように、二つの押し位置PPjのそれぞれにジャッキJを配置する。ここでは、測定対象である軸線方向Daの真ん中の保持環30aと、この保持環30aの軸線下流側Dadに隣接する下流側保持環30bの下部分保持環30lとの間に、ジャッキJを配置する。準備工程(S1)が完了した段階で、測定対象の保持環30aと、下流側保持環30bの下部分保持環30lとの間であって下側の部分は、下半車室20lで覆われているため、ジャッキJを配置することができない。このため、ジャッキ操作工程(S2a)では、測定対象の保持環30aの下流側端面(高圧側端面)31dと、下流側保持環30bの下部分保持環30lの上流側端面(低圧側端面)31uとの間であって、下部分保持環30lの上側の部分、つまり、下部分保持環30lの周方向Dcの両端の部分に、ジャッキJを配置する。このようにジャッキJを配置した位置が、図4及び図9に示すように、ジャッキJによる押し位置PPjである。
【0069】
二つのジャッキJの配置が完了すると、二つのジャッキJを操作して、測定対象の保持環30aの高圧側端面31d中で、押し位置PPjにジャッキJの動作端を接触させて、この押し位置PPjを軸線上流側Dau(低圧側Dal)に押す。
【0070】
ところで、二つのジャッキJのみで測定対象の保持環30aを軸線上流側Dau(低圧側Dal)に押すと、図10に示すように、筒状の保持環30aの中心軸線がロータ軸線Arに対して傾いてしまい、正確なチップクリアランスCを測定することができない。
【0071】
そこで、本実施形態では、測定対象の保持環30aのうち、図4及び図9に示すように、ジャッキJによる押し位置PPjよりも下の位置を偏芯ピン80よる押し位置PPpとし、この押し位置PPpを偏芯ピン80で押す。ピン操作工程(S2b)では、図3及び図4に示すように、圧縮機車室20の二つの貫通孔28に偏芯ピン80を挿通する。この際、偏芯ピン80の偏芯部82を、径方向内側Driに向けて、この偏芯ピン80を貫通孔28に挿通する。そして、この偏芯ピン80を貫通孔28内で回転させる。すなわち、偏芯ピン80を貫通孔28の内周面に対して相対変位させる。この際、偏芯ピン80のレンチ穴83にレンチの先端を差し込み、レンチを操作して、偏芯ピン80を貫通孔28内で回転させる。
【0072】
準備工程(S1)が完了した段階で、圧縮機車室20の凸部24は、保持環30の溝35内で、軸線方向Daのいずれかの位置に位置している。仮に、準備工程(S1)が完了した段階で、図5に示すように、凸部24の上流端面24uが溝35の上流溝側面35uと接し、凸部24の下流端面24dが溝35の下流溝側面35dから軸線上流側Dauに離れているとする。すなわち、保持環30が圧縮機車室20に対して最も軸線下流側Dad(高圧側Dh)に位置しているとする。ピン中心軸線Ap(≒貫通中心位置Phc)を中心として偏芯ピン80を回転させると、図6に示すように、偏芯ピン80の偏芯部82が軸線上流側Dauに移動して、偏芯部82の一部が凸部24の上流端面24uよりも軸線上流側Dau(低圧側Dal)に位置するようになる。このため、偏芯部82の一部が溝35の上流溝側面35uに接して、溝35が形成されている保持環30を軸線上流側Dau(低圧側Dal)に押す。この結果、測定対象の保持環30は、圧縮機車室20に対して相対的に軸線上流側Dau(低圧側Dal)に移動し、凸部24の下流端面24dが溝35の下流溝側面35dと接するようになる。すなわち、測定対象の保持環30と圧縮機車室20との軸線方向Daの位置関係は、この段階で運転状態の圧縮機10と同じになる。
【0073】
運転状態再現工程(S2)での作業が完了すると、この作業で実現した状態を維持しつつ、図3に示すように、測定対象の保持環30のガスパス面31pとこのガスパス面31pに対向する動翼14の先端との間のチップクリアランスCを測定する(S3:測定工程)。この測定工程(S3)では、例えば、市販の隙間ゲージ等のクリアランス計を用いて、チップクリアランスCを測定する。なお、クリアランス計としては、如何なるものを用いてもよい。例えば、チップクリアランスCの変化に応じて、保持環30のガスパス面31pと動翼14の先端との間の静電容量が変化することを利用して、チップクリアランスCを測定する静電容量式のクリアランス計であってもよい。
【0074】
以上で、圧縮機10の製造過程でのチップクリアランスの測定が完了する。
【0075】
測定工程(S3)により得られたチップクリアランスが許容範囲内でなければ、測定対象の保持環30aの下部分保持環30lと上部分保持環30uの組み付けを再度行う等の作業を行う。一方、測定工程(S3)により得られたチップクリアランスが許容範囲内であれば、上半車室20uを下半車室20lに組み付ける等の作業を行い、圧縮機10を完成させる。測定工程(S3)の後、圧縮機10を完成させる作業の前に、圧縮機車室20の貫通孔28から偏芯ピン80を抜取り、貫通孔28を蓋89で塞ぐ。偏芯ピン80のピン延在方向Dpの全長は、前述したように、この偏芯ピン80を貫通孔28に押し込んだ際、貫通孔28を蓋89で塞ぐときに、偏芯ピン80が蓋89に干渉する長さである。このため、貫通孔28に偏芯ピン80を置き忘れた場合には、貫通孔28を蓋89で塞ぐことができない。よって、本実施形態では、貫通孔28からの偏芯ピン80の抜き忘れを防止することができる。
【0076】
以上のように、本実施形態では、製造過程においても、運転状態再現工程(S2)の実行により、圧縮機10の運転状態に近い状態でのチップクリアランスCを測定することができる。
【0077】
「第二実施形態」
軸流流体機械の第二実施形態について、図11及び図12を参照して説明する。なお、本実施形態を含め以下の実施形態の軸流流体機械は、運転状態再現構造が第一実施形態と異なるものの、他の構造は第一実施形態の軸流流体機械の構造と基本的に同じである。よって、以下では、運転状態再現構造を中心として説明する。
【0078】
第一実施形態の圧縮機車室20の係合部23は、凸部24を有する。また、第一実施形態の保持環30の係合部33は、溝35を形成する一対の壁板部34を有する。しかしながら、凸部と溝との配置関係が逆の場合もある。すなわち、図11及び図12に示すように、圧縮機車室20の係合部23aが溝26を形成する一対の壁板部25を有し、保持環30の係合部33aが凸部36を有する場合もある。前述したように、運転状態の圧縮機10では、静翼19を保持している保持環30には軸線上流側Dau向きの力が作用する。このため、運転状態の圧縮機10では、図12に示すように、保持環30に作用する軸線上流側Dau向きの力により、保持環30における凸部36の上流端面36uと圧縮機車室20における溝26の上流溝側面26uとが接することになる。
【0079】
本実施形態の圧縮機10は、圧縮機車室20の係合部23aが一対の壁板部25を有し、保持環30の係合部33aが凸部36を有する場合の運転状態再現構造を有する。本実施形態の運転状態再現構造は、第一実施形態の運転状態再現構造と同様、圧縮機車室20を径方向Drに貫通する円柱状の貫通孔28と、この貫通孔28に挿通される偏芯ピン80と、この貫通孔28の径方向外側Droの部分を塞ぐ蓋89(図3参照)と、を有する。
【0080】
本実施形態において、貫通孔28の中心軸の位置である貫通中心位置Phcは、軸線方向Daで圧縮機車室20中の係合部23aが形成されている領域内において、軸線下流側Dad(高圧側Dah)に片寄った位置である。ここで、軸線下流側Dadに片寄った位置とは、圧縮機車室20の係合部23aの軸線方向Daにおける中心位置Pccよりも軸線下流側Dadの位置である。また、圧縮機車室20の係合部23aの軸線方向Daにおける中心位置Pccとは、この係合部23aが形成する溝26の軸線方向Daにおける中心位置、つまり溝幅中心位置である。よって、貫通中心位置Phcは、圧縮機車室20中の係合部23aが形成されている領域内において、溝幅中心位置Pccよりも軸線下流側Dad(高圧側Dah)の位置である。
【0081】
圧縮機車室20の一対の壁板部25のうち、軸線下流側Dad(高圧側Dah)の壁板部25は、貫通孔28により一部が欠けている。一方、一対の壁板部25のうち、軸線上流側Dau(低圧側Dal)の壁板部25は、周方向Dcの全域にわたって存在する。このため、運転状態の圧縮機10では、前述したように、保持環30に作用する軸線上流側Dau向きの力により、保持環30における凸部36の上流端面36uと圧縮機車室20における溝26の上流溝側面26uとが接し、両面26u,36uがシール面となる。
【0082】
本実施形態の偏芯ピン80は、第一実施形態の偏芯ピン80と同一である。
【0083】
本実施形態でも、第一実施形態と同様、準備工程後に、運転状態再現工程を実行する。準備工程が完了した段階で、圧縮機車室20の溝26内で、保持環30の凸部36は、軸線方向Daのいずれかの位置に位置している。仮に、準備工程が完了した段階で、図11に示すように、凸部36の下流端面36dが溝26の下流溝側面26dと接し、凸部36の上流端面36uが溝26の上流溝側面26uから軸線下流側Dadに離れているとする。すなわち、保持環30が圧縮機車室20に対して最も軸線下流側Dad(高圧側Dh)に位置しているとする。本実施形態において、ピン操作工程で、ピン中心軸線Ap(≒貫通中心位置Phc)を中心として偏芯ピン80を回転させると、図12に示すように、偏芯部82が軸線上流側Dauに移動し、偏芯部82の一部が溝26の下流溝側面26dよりも軸線上流側Dau(低圧側Dal)に位置するようになる。このため、偏芯部82の一部が凸部36の下流端面36dに接して、凸部36が形成されている保持環30を軸線上流側Dau(低圧側Dal)に押す。この結果、保持環30は、圧縮機車室20に対して相対的に軸線上流側Dau(低圧側Dal)に移動し、凸部36の上流端面36uが溝26の上流溝側面26uと接するようになる。すなわち、保持環30と圧縮機車室20との軸線方向Daの位置関係は、ピン操作工程を含む運転状態再現工程の実行で運転状態の圧縮機10と同じになる。
【0084】
よって、本実施形態でも、運転状態再現工程の実行により、圧縮機10の運転状態に近い状態でのチップクリアランスを測定することができる。
【0085】
なお、本実施形態では、図11に示すように、車室脚部22における軸線下流側Dadの面である下流端面22dが周方向Dcの全域に渡って存在している。しかしながら、この下流端面22dは、一部切り欠かれていてもよい。
【0086】
偏芯ピン80の強度を高めるために、偏芯ピン80の外径を大きくしたい場合がある。この場合、偏芯ピン80が挿入される車室脚部22の貫通孔28の径を大きくする必要がある。この貫通孔28の径を大きくすると、前述の下流端面22dが、一部切り欠かれる場合がある。そこで、この例を第二実施形態の変形例として、図13及び図14を参照して説明する。
【0087】
本変形例の偏芯ピン80aにおけるピン本体81aの外径は、第二実施形態の偏芯ピン80におけるピン本体81の外径よりも大きい。また、本変形例の偏芯ピン80aにおける偏芯部82aの外径は、第二実施形態の偏芯ピン80における偏芯部82の外径よりも大きい。このため、本変形例で、偏芯ピン80aが挿入される車室脚部22の貫通孔28aの内径も、第二実施形態の車室脚部22における貫通孔28の内径よりも大きい。
【0088】
本変形例では、車室脚部22の貫通孔28aにより、車室脚部22の下流端面22dが一部切り欠かれている。この切り欠き部22cからは、偏芯ピン80aの一部が軸線下流側Dadに突出している。このように、車室脚部22の下流端面22dが一部切り欠かれていても、ピン中心軸線Apを中心として、偏芯ピン80aを回転させることができる。このため、本変形例でも、偏芯ピン80aを回転させることで、第二実施形態と同様に、凸部36の上流端面36uと溝26の上流溝側面26uとを接触させることができ、両面36u,26uがシール面となる。すなわち、本変形例でも、第二実施形態と同様、保持環30と圧縮機車室20との軸線方向Daの位置関係は、ピン操作工程を含む運転状態再現工程の実行で運転状態の圧縮機10と同じになる。
【0089】
よって、本変形例でも、運転状態再現工程の実行により、圧縮機10の運転状態に近い状態でのチップクリアランスを測定することができる。
【0090】
「第三実施形態」
軸流流体機械の第三実施形態について、図15を参照して説明する。
【0091】
本実施形態は、第一実施形態の変形例である。第一実施形態の運転状態再現構造は、貫通孔28に挿通されるピンが偏芯ピン80である。一方、本実施形態の運転状態再現構造は、貫通孔28に挿通されるピンがテーパピン85である。本実施形態の運転状態再現構造は、第一実施形態の運転状態再現構造の偏芯ピン80がテーパピン85に替わったことを除いて、第一実施形態の運転状態再現構造と同じ構造である。
【0092】
テーパピン85は、貫通孔28に挿通可能な円柱状のピン本体86を有する。このピン本体86で、ピン中心軸線Apが延びるピン延在方向Dpの第一の側Dp1の第一端部には、ピン延在方向Dpに対して傾斜したテーパ面87が形成されている。このテーパ面87は、ピン延在方向Dpの第二の側Dp2から第一の側Dp2に向かうに連れて次第に、ピン本体86の外周面でピン中心軸線Apを中心として互いに点対称な第一点p1から第二点p2の側に向かう側に傾斜している。
【0093】
本実施形態のピン操作工程では、テーパピン85の第一端部を径方向内側Driに向け且つテーパ面87を軸線上流側Dau(低圧側Dal)に向けて、このテーパピン85を貫通孔28内に押し込む。すなわち、貫通孔28の内周面に対してテーパピン85を相対移動させる。テーパピン85を貫通孔28内に押し込む過程で、テーパピン85のテーパ面87が、保持環30の一対の壁板部34のうち、軸線上流側Dau(低圧側Dal)の壁板部34に接する。具体的には、軸線上流側Dau(低圧側Dal)の壁板部34のうち、径方向外側Droを向く径方向外側面35oと上流溝側面35uとの角にテーパ面87が接する。テーパ面87が角に接した後も、テーパピン85を押し込むと、テーパ面87中で角に接する位置が軸線上流側Dauに移動する。このため、このテーパピン85の押込みにより、壁板部34を有する保持環30は、このテーパピン85より軸線上流側Dau(低圧側Dal)に押されて、圧縮機車室20に対して相対的に軸線上流側Dau(低圧側Dal)に移動し、凸部24の下流端面24dが溝35の下流溝側面35dと接するようになる。すなわち、保持環30と圧縮機車室20との軸線方向Daの位置関係は、このピン操作工程を含む運転状態再現工程の実行で運転状態の圧縮機10と同じになる。
【0094】
よって、本実施形態でも、運転状態再現工程の実行により、圧縮機10の運転状態に近い状態でのチップクリアランスを測定することができる。
【0095】
「第四実施形態」
軸流流体機械の第四実施形態について、図16を参照して説明する。
【0096】
本実施形態は、第二実施形態の変形例である。第二実施形態の運転状態再現構造は、貫通孔28に挿通されるピンが偏芯ピン80である。一方、本実施形態の運転状態再現構造は、貫通孔28に挿通されるピンがテーパピン85である。本実施形態の運転状態再現構造は、第二実施形態の運転状態再現構造の偏芯ピン80がテーパピン85に替わったことを除いて、第二実施形態の運転状態再現構造と同じ構造である。
【0097】
テーパピン85は、第三実施形態のテーパピン85と同じである。
【0098】
本実施形態のピン操作工程でも、第三実施形態と同様、テーパピン85の第一端部を径方向内側Driに向け且つテーパ面87を軸線上流側Dau(低圧側Dal)に向けて、このテーパピン85を貫通孔28内に押し込む。すなわち、貫通孔28の内周面に対してテーパピン85を相対移動させる。テーパピン85を貫通孔28内に押し込む過程で、テーパピン85のテーパ面87が、保持環30の凸部36に接する。具体的には、凸部36の部分で、径方向外側Droを向く径方向外側面36oと下流端面36dとの角にテーパ面87が接する。テーパ面87が角に接した後も、テーパピン85を押し込むと、テーパ面87中で角に接する位置が軸線上流側Dauに移動する。このため、このテーパピン85の押込みにより、凸部36を有する保持環30は、このテーパピン85より軸線上流側Dau(低圧側Dal)に押されて、凸部36の上流端面36uが溝26の上流溝側面26uと接するようになる。すなわち、保持環30と圧縮機車室20との軸線方向Daの位置関係は、このピン操作工程を含む運転状態再現工程の実行で運転状態の圧縮機10と同じになる。
【0099】
よって、本実施形態でも、運転状態再現工程の実行により、圧縮機10の運転状態に近い状態でのチップクリアランスを測定することができる。
【0100】
なお、本実施形態及び第三実施形態において、テーパピン85が挿通される貫通孔28の形状は、円柱状である。しかしながら、この貫通孔28の形状は、角柱状であってもよい。つまり、貫通孔28の断面形状は、丸に限定されない。この場合、テーパピン85の断面形状は、貫通孔28の断面形状に合っていることが好ましい。
【0101】
「変形例」
以上の実施形態は、ガスタービン1の圧縮機10のチップクリアランスを測定する例である。しかしながら、以上で説明したガスタービン1の圧縮機10と同様、ロータと、静翼列と、保持環と、車室と、を有し、且つ保持環と車室とのそれぞれが互いに係合する係合部を有している軸流流体機械であれば、本発明に係る運転状態再現構造を適用することができ、以上で説明したチップクリアランス測定方法を実行することができる。
【0102】
例えば、以上で説明したガスタービン1のタービン50も軸流流体機械で有る。しかも、このタービン50も、図2を用いて説明したように、圧縮機10と同様に、ロータ51と、静翼列58と、車室60と、保持環70と、を有し、且つ車室60と保持環70とのそれぞれが互いに係合する係合部63,73を有している。よって、このタービン50に関しても、以上の各実施形態で説明したいずれかの運転状態再現構造を採用し、この運転状態再現構造を利用して、タービン50の運転状態を再現した状態で、このタービン50のチップクリアランスを測定してもよい。但し、圧縮機10は、軸線下流側Dadが高圧側Dahで軸線上流側Dauが低圧側Dalであるのに対して、タービン50は軸線下流側Dadが低圧側Dalで軸線上流側Dauが高圧側Dahである。このため、タービン50に以上で説明したいずれかの運転状態再現構造を採用する場合、圧縮機10の運転状態再現構造の貫通中心位置Phcを基準にして、この運転状態再現構造を軸線方向Daで対称な構造にすればよい。
【0103】
具体的には、例えば、タービン50に第一実施形態の圧縮機10における運転状態再現構造を採用する場合、図17に示すように、貫通孔28の中心軸の位置である貫通中心位置Phcは、軸線方向Daでタービン車室60中の係合部63が形成されている領域内において、軸線下流側Dad(低圧側Dal)に片寄った位置である。ここで、軸線下流側Dadに片寄った位置とは、タービン車室60の係合部63の軸線方向Daにおける中心位置Ppcよりも軸線下流側Dadの位置である。また、タービン車室60の係合部63の軸線方向Daにおける中心位置Ppcとは、この係合部63が有する凸部24の軸線方向Daにおける中心位置、つまり凸幅中心位置である。よって、貫通中心位置Phcは、タービン車室60中の係合部63が形成されている領域内において、凸幅中心位置Ppcよりも軸線下流側Dad(低圧側Dal)の位置である。
【0104】
周方向Dcに延びる凸部24は、貫通孔28により一部が欠けている。具体的に、凸部24の下流端面24dは、周方向Dcにおける貫通中心位置Phcを含む部分が欠けている。この凸部24の下流端面24dは、軸線方向Daで貫通中心位置Phcよりも軸線下流Dad(低圧側Dl)の位置である。一方、凸部24の上流端面24uは、周方向Dcの全域にわたって存在する。この凸部24の上流端面24uは、軸線方向Daで貫通中心位置Phcよりも軸線上流側Dau(高圧側Dh)の位置である。
【0105】
以上のように、タービン50に第一実施形態の圧縮機10における運転状態再現構造を採用する場合、タービン50の運転状態再現構造は、第一実施形態の運転状態再現構造の貫通中心位置Phcを基準にして、この運転状態再現構造を軸線方向Daで対称にした構造になる。言い換えると、第一実施形態の運転状態再現構造を示す図6中の貫通中心位置Phcを基準にして、同図が示す構造を軸線方向Daで対称にした図が、タービン50の運転状態再現構造を示す図17と一致する。
【0106】
運転状態のタービン50では、静翼59を保持している保持環70には軸線下流側Dad向きの力が作用する。このため、運転状態のタービン50では、保持環70における溝35の上流溝側面35uとタービン車室60における凸部24の上流端面24uとが接することになる。
【0107】
図17に示す例で、ピン操作工程の実行で偏芯ピン80を回転させると、偏芯ピン80の偏芯部82が軸線下流側Dadに移動して、偏芯部82の一部が凸部24の下流端面24dよりも軸線下流側Dad(低圧側Dal)に位置するようになる。このため、偏芯部82の一部が溝35の下流溝側面35dに接して、溝35が形成されている保持環70を軸線下流側Dad(低圧側Dal)に押す。この結果、保持環70は、タービン車室60に対して相対的に軸線下流側Dad(低圧側Dal)に移動し、凸部24の上流端面24uが溝35の上流溝側面35uと接するようになる。すなわち、保持環70とタービン車室60との軸線方向Daの位置関係は、ピン操作工程(S2b)を含む運転状態再現工程の実行で、運転状態のタービン50と同じになる。
【0108】
また、タービン50のように、軸線下流側が低圧側Dalである軸流流体機械に、第二実施形態の圧縮機10における運転状態再現構造を採用する場合、このような流流体機械の運転状態再現構造は、第二実施形態の運転状態再現構造の貫通中心位置Phcを基準にして、この運転状態再現構造を軸線方向Daで対称にした構造になる。また、軸線下流側が低圧側Dalである軸流流体機械に、第三実施形態の圧縮機10における運転状態再現構造を採用する場合、このような流流体機械の運転状態再現構造は、第三実施形態の運転状態再現構造の貫通中心位置Phcを基準にして、この運転状態再現構造を軸線方向Daで対称にした構造になる。軸線下流側が低圧側Dalである軸流流体機械に、第四実施形態の圧縮機10における運転状態再現構造を採用する場合、このような軸流流体機械の運転状態再現構造は、第四実施形態の運転状態再現構造の貫通中心位置Phcを基準にして、この運転状態再現構造を軸線方向Daで対称にした構造になる。
【0109】
以上の実施形態では、図4を用いて説明したように、押し位置PPj,PPpが四つであり、そのうち、上側の二つの押し位置PPjを除く、下側の二つの押し位置PPpが偏芯ピン80による押し位置である。しかしながら、図18に示すように、押し位置PPj,PPpを三つにして、上側の二つの押し位置PPjを除く、下側の一つの押し位置を偏芯ピン80による押し位置PPpにしてもよい。また、押し位置PPj,PPpを五つにして、そのうち、上側の二つの押し位置PPjを除く、下側の三つの押し位置を偏芯ピン80による押し位置PPpにしてもよい。
【0110】
以上の実施形態では、運転状態再現工程でジャッキJを用いることから、圧縮機車室20の下半車室20lに上半車室20uが取り付けられていない状態で、運転状態再現工程及び測定工程を実行する。しかしながら、ジャッキJを用いず、ピンのみを用いて運転状態再現工程を実行する場合には、圧縮機車室20の下半車室20lに上半車室20uが取り付けられている状態で、運転状態再現工程及び測定工程を実行することができる。この場合、図19に示すように、例えば、ロータ軸線Arよりも上側にピン80による二つの押し位置PPpを設定し、ロータ軸線Arよりも下側にもピン80による二つの押し位置PPpを設定する。なお、ロータ軸線Arよりも上側の押し位置PPpは一つであってもよい。また、ロータ軸線Arよりも下側の押し位置PPpは三つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0111】
1:ガスタービン
2:ガスタービンロータ
5:ガスタービン車室
10:圧縮機
11:圧縮機ロータ
12:ロータ軸
13:動翼列
14:動翼
18:静翼列
19:静翼
20:圧縮機車室
20u:上半車室
20l:下半車室
20fu,20fl:フランジ
21:車室本体
22:車室脚部
22c:切り欠き部
22d:下流端面
23,23a:係合部
24:凸部
24u:上流端面
24d:下流端面
25:壁板部
26:溝
26u:上流溝側面
26d:下流溝側面
28,28a:貫通孔
30:保持環
30l:下部分保持環
30u:上部分保持環
31:環本体
31u:上流側端面(低圧側端面)
31d:下流側端面(高圧側端面)
31p:ガスパス面
32:環脚部
33,33a:係合部
34:壁板部
35:溝
35u:上流溝側面
35d:下流溝側面
36:凸部
36u:上流端面
36d:下流端面
39:空気圧縮流路
40:燃焼器
50:タービン
51:タービンロータ
52:ロータ軸
53:動翼列
54:動翼
54b:翼体
54p:プラットフォーム
58:静翼列
59:静翼
59b:翼体
59o:外側シュラウド
59i:内側シュラウド
60:タービン車室
61:車室本体
62:車室脚部
63:係合部
70:保持環
71:環本体
72:環脚部
73:係合部
76:分割環
76p:ガスパス面
78:遮熱環
79:燃焼ガス流路
80,80a:偏芯ピン
81,81a:ピン本体
82,82a:偏芯部
83:レンチ穴
85:テーパピン
86:ピン本体
87:テーパ面
89:蓋
C:チップクリアランス
J:ジャッキ
Su:上流側空間
Sd:下流側空間
p1:第一点
p2:第二点
Ar:ロータ軸線
Phc:貫通中心位置
Ppc:係合部の中心位置(凸幅中心位置)
Pcc:係合部の中心位置(溝幅中心位置)
Ap:ピン中心軸線
Ad:偏芯軸
PPj:ジャッキによる押し位置
PPp:ピンによる押し位置
Da:軸線方向
Dau:軸線上流側
Dad:軸線下流側
Dc:周方向
Dr:径方向
Dri:径方向内側
Dro:径方向外側
Dh:高圧側
Dl:低圧側
Dp:ピン延在方向
Dp1:第一の側
Dp2:第二の側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19