(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893873
(24)【登録日】2021年6月4日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】新規の再生治療剤としてのCAMKK1
(51)【国際特許分類】
A61K 38/45 20060101AFI20210614BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20210614BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20210614BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20210614BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/44 20150101ALI20210614BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20210614BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20210614BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20210614BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20210614BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20210614BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20210614BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20210614BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20210614BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20210614BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20210614BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20210614BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20210614BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210614BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20210614BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20210614BHJP
C12N 9/50 20060101ALN20210614BHJP
【FI】
A61K38/45ZNA
A61K48/00
A61K35/12
A61P29/00
A61K35/76
A61K35/28
A61K35/35
A61K35/50
A61K35/51
A61K35/14 Z
A61K35/545
A61K35/15 Z
A61K35/30
A61K35/44
A61K35/34
A61P9/10
A61P9/04
A61P9/00
A61P25/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P37/06
A61P3/10
A61P11/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P17/02
A61P43/00 105
!C12N15/09 Z
!C12N5/0775
!C12N9/50
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-530094(P2017-530094)
(86)(22)【出願日】2015年12月1日
(65)【公表番号】特表2018-502838(P2018-502838A)
(43)【公表日】2018年2月1日
(86)【国際出願番号】US2015063118
(87)【国際公開番号】WO2016089826
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年11月30日
(31)【優先権主張番号】62/086,026
(32)【優先日】2014年12月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517191909
【氏名又は名称】スンマ ヘルス
【氏名又は名称原語表記】SUMMA HEALTH
(73)【特許権者】
【識別番号】517191910
【氏名又は名称】ノースイースト オハイオ メディカル ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】NORTHEAST OHIO MEDICAL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペン、マーク、エス.
(72)【発明者】
【氏名】キードロウスキー、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】マヨルガ、マリッツァ
【審査官】
大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0246179(US,A1)
【文献】
Stem Cells and Development,2011年,Vol.20,No.4,pp.681-693
【文献】
J Pharmacol Sci,2005年,Vol.97,pp.351-354
【文献】
Stroke,2010年,Vol.41,No.4,e250,178
【文献】
Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996年,Vol.93,pp.10803-10808
【文献】
The Journal of Biological Chemistry,1999年,Vol.274,No.15,pp.10086-10093
【文献】
Stem Cell Research,2008年,Vol.1,pp.129-137
【文献】
J.Cell.Mol.Med.,2012年,Vol.16,No.5,pp.1106-1113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61L、A61P、C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の臓器または組織における炎症状態を処置するための組成物であって、
該臓器または組織の修復を誘導する、および/または、該臓器または組織の機能を改善するための、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼキナーゼ1(CAMKK1)タンパク質、該CAMKK1タンパク質をコードする核酸を含むベクター、該CAMKK1をコードする核酸を含むベクターで改変された細胞、または、該細胞の培養による馴化培地を含む、組成物。
【請求項2】
前記臓器または組織が、心臓、肝臓、腎臓、脳、脊椎、肺、小腸、大腸、動脈、関節、軟骨、皮膚、またはそれらのあらゆる組合せである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記臓器または組織が、前記心臓または心筋である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ベクターが、プラスミドまたはウイルスベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記CAMKK1タンパク質が、CAMKK1 1−413トランケート型、T108A突然変異CAMKK1、S459A突然変異CAMKK1、または、T108A/S459A突然変異CAMKK1を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記タンパク質、ベクター、細胞、または馴化培地が、全身投与されるか、炎症を起こした組織に直接投与されるか、または炎症を起こした組織の周辺に投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記細胞が、間葉系幹細胞である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記炎症状態が、急性心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、卒中、肝疾患、虚血性腎疾患、多発性硬化症、外傷性脳損傷、脊髄の損傷、移植片対宿主疾患(GVHD)、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチ、固形臓器移植による傷害、整形外科の傷害、軟骨障害、創傷、またはそれらのあらゆる組合せである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
1つまたは複数の追加の再生療法を投与することをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記1つまたは複数の再生療法が、骨髄に由来する間葉系幹細胞、脂肪組織、胎盤組織、臍帯、ホウォートンゼリー、月経血、幹細胞、M2マクロファージ、単球、またはそれらのあらゆる組合せである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記幹細胞が、神経前駆細胞、内皮前駆細胞、臓器特異的な内因性幹細胞、またはそれらのあらゆる組合せである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記臓器特異的な内因性幹細胞が、心臓のckit+細胞である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記CAMKK1タンパク質が、ヒトCAMKK1タンパク質、ヒトCAMKK1 1−413トランケート型、ヒトT108A突然変異CAMKK1、ヒトS459A突然変異CAMKK1、または、ヒトT108A/S459A突然変異CAMKK1から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記核酸が、ヒトCAMKK1、ヒトCAMKK1 1−413トランケート型、ヒトT108A突然変異CAMKK1、ヒトS459A突然変異CAMKK1、または、ヒトT108A/S459A突然変異CAMKK1から選択されるタンパク質をコードする、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年12月1日付けで出願された米国仮出願第62/086,026号の優先権を主張し、その開示は参照によりその全体が組み入れられる。
【0002】
本開示は、新規の再生治療剤としてのカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼキナーゼ1(CAMKK1)の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
虚血は、身体の局所的な部分において血流が完全に遮断されているかまたは顕著に低減され、結果的に無酸素状態、低減された基質の供給および代謝産物の蓄積を引き起こしている状態である。長期の虚血は、影響を受けた組織の萎縮、変性、アポトーシス、および壊死を引き起こす。
【0004】
炎症は、初期の傷害の原因に加えて傷害の結果生じる壊死細胞/組織を排除することを目的とした保護的応答である。しかしながら、関節炎などの一部の疾患において、炎症は、傷害がなくても起こる。長期の炎症は、組織破壊、線維症、および/または壊死の原因となる可能性がある。
【0005】
再生医療の目標は、損傷を受けた組織の置き換えおよび内因性の修復経路の誘導を介して、治癒を誘導し、傷害後の線維症および瘢痕形成を予防することである。
【発明の概要】
【0006】
患者の臓器または組織における虚血または炎症状態を処置する方法であって、該臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加を誘導することを含む、方法が本明細書で開示される。
【0007】
要約、加えて以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読めばさらに理解される。開示された方法を例示する目的で、本方法の例示的な実施形態の図面が示されるが、本方法は、開示された具体的な実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A-1D】開示された方法で使用するための例示的なベクターマップを例示する図である。
図1A)hCamKK1の完全ベクター。
図1B)hCamKK1のトランケートされた構成ベクター。
図1C)myc hCamKK1の完全ベクター。
図1D)myc hCamKK1のトランケートされた構成ベクター。
【
図2】指定された処置を用いた、LAD結紮および200万個のMSCから濃縮された馴化培地の注入の2週間後における心臓の機能を表す図である。データは、個々の動物の代表的なものである。−は、平均を表す。
【
図3】CAMKK1経路の例示的な図解を示す図である。
【
図4】細胞中でのCAMKK1発現の例示的な分析を表す図であり、対照(対照またはCDNADAb2)と比較してDAB2発現(siRNADab2)が減少している。
【
図5A】LAD結紮ならびに指定された処置からの馴化培地および細胞の注入の14日後における心臓の機能を表す図である。データは、平均±標準偏差(グループ1つ当たりn=4〜8匹の動物)を表す。
【
図5B】スクランブル(対照siRNA)またはsiRNA:CAMKK1のいずれかで前処置およびトランスフェクトされたMSCの移植の14日後にマッソントリクローム染色で測定した場合の、コラーゲンを発現する左心室の領域のパーセント±標準偏差を表す図である。各データカラム上の4mm切片の代表的な顕微鏡写真は、各処置群からの動物から撮影されたものである。データは、平均±標準偏差として提示される。対照MSCと比較して、
**P<0.05。
【
図5C】AMIの14日後における境界ゾーンにおける血管密度を表す図である。代表的な免疫蛍光染色の共焦点像。内皮細胞染色であって、イソレクチン(緑色)、対応する統合された画像:小麦胚芽アグルチニン(赤色)およびDAPI(青色)ならびに血管密度の数値を含む。データは、平均±SEM(血管/mm
2、グループ1つ当たりn=3)を表す。生理食塩水グループに対して、
*P<0.05。
【
図6】CAMKK1をコードするプラスミドとのLAD結紮後のラットの処置からの例示的な結果を表す図である。改善された心臓の機能を、処置後の1週間および2週間、ビヒクル(生理食塩水またはグルコース処置)と比較して観察した。白色のバー:生理食塩水またはグルコース処置;黒色のバー:CAMKK1プラスミドDNA処置。
【
図7】AMIのげっ歯類モデルにおける駆出率に対するCAMKK1(DNA)の過剰発現の作用を例示する図である。30匹の動物を、直接のLAD結紮によって前壁心筋梗塞の状態にした。LADの結紮後、動物をランダム化し、0.5mgのCAMKK1プラスミドまたは生理食塩水を5回に分割した50〜100μlの注入で注入した。LAD結紮後1週間、2週間、および8週間に、動物は心エコー検査を受け、心臓の傍胸骨の長軸像に基づき駆出率を計算した。LAD結紮、薬物注入および心エコー検査を実行する全ての研究者は、全動物の処置群に対して盲検化された。(プラセボの場合、n=12;CAMKK1の場合、n=15)。プラセボには生理食塩水が注入された。平均±SD。
【
図8A-8B】AMIのげっ歯類モデルにおける駆出率に対する、MSCおよびMSC馴化培地でのMSCにおけるCAMKK1(DNA)の過剰発現の作用を例示する図である。対照は、マーカーcDNAでトランスフェクトされたMSCであった。AMIの1、2および5週間後に心エコー検査を実行した。Y軸は、EF(%)、平均±SDである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
開示された方法は、本開示の一部を形成する添付の図面と共に以下の詳細な説明を参照することより容易に理解することができる。開示された方法は、本明細書に記載されるおよび/または示される具体的な方法に限定されず、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を単なる一例として記載する目的のためであり、特許請求された方法を限定することを意図しないことが理解される。
【0010】
同様に、具体的な別段の明記がない限り、改善に関する可能性のあるメカニズムまたは作用機序または理由についてのあらゆる記載は、単に例示的なものを意味し、開示された方法は、このようなあらゆる示唆された改善に関するメカニズムまたは作用機序または理由が正しいかまたは正しくないかによって制約されないものとする。
【0011】
本明細書で別々の実施形態の文脈において明確化のために記載されている開示された方法の特定の特徴はまた、単一の実施形態と組み合わせて提供され得ることが理解されるものとする。逆に言えば、単一の実施形態の文脈において簡略的に記載されている開示された方法の様々な特徴もまた、別々に、またはあらゆる下位の組合せの形態で提供され得る。
【0012】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、複数形を含む。
【0013】
本開示全体にわたり以下の略語が使用される:AMI(急性心筋梗塞);CAMKK1(カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼキナーゼ1);Dab2(非機能性相同体(disabled homolog)2);MSC(間葉系幹細胞)。
【0014】
本記載の態様に関する様々な用語が、明細書および特許請求の範囲全体にわたり使用される。このような用語は、別段の指定がない限り、当技術分野におけるそれらの通常の意味が与えられるものとする。他の具体的に定義された用語は、本明細書に提供される定義と一致するように解釈されるものとする。
【0015】
本明細書で使用される場合、「核酸」は、少なくとも2つの共有結合で連結されたヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体サブユニットを含有するポリヌクレオチドを指す。核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、またはDNAもしくはRNAの類似体であってもよい。ヌクレオチド類似体は市販されており、このようなヌクレオチド類似体を含有するポリヌクレオチドを調製する方法は公知である(Linら(1994)Nucl.Acids Res.22:5220〜5234;Jellinekら(1995)Biochemistry 34:11363〜11372;Pagratisら(1997)Nature Biotechnol.15:68〜73)。核酸は、一本鎖、二本鎖、またはそれらの混合物であってもよい。本明細書における目的に関して、別段の規定がない限り、核酸は二本鎖であるか、または文脈から明らかである。
【0016】
本明細書で使用される場合、「処置すること」および類似の用語は、虚血または炎症状態による症状の重症度および/または頻度を低減すること、虚血または炎症状態の症状および/または前記症状の根本的な原因を排除すること、虚血または炎症状態の症状および/またはそれらの根本的な原因の頻度または見込みを低減すること、ならびに虚血または炎症状態によって直接的または間接的に引き起こされる損傷を改善または補修することを指す。
【0017】
用語「患者」は、本明細書で使用される場合、あらゆる動物、特定には哺乳動物を意味することが意図される。したがって、本方法は、ヒトおよび非ヒト動物に適用可能であるが、好ましくはマウス、ラット、およびヒトと共に使用され、最も好ましくはヒトと共に使用される。
【0018】
本明細書で使用される場合、「CAMKK1のレベルの増加」は、患者の臓器または組織に正常に存在する量より多くの、患者の臓器または組織におけるCAMKK1タンパク質の量を意味する。
【0019】
患者の臓器または組織における虚血または炎症状態を処置する方法であって、該臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加を誘導することを含む、方法が本明細書で開示される。
【0020】
CAMKK1(カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼキナーゼ1;UniProtKB番号Q8N5S9で公知のヒトCAMKK1)は、カルシウムによって引き起こされるシグナル伝達カスケードに属し、多数の細胞プロセスに関与する。CAMKK1は、Ser/ThrプロテインキナーゼファミリーおよびCamKKサブファミリーに属するトランスフェラーゼであり、心臓、膵臓、扁桃核(amygdale)、視床下部、前立腺および肺で発現される。CAMKK1は、それらのアミノ酸Thr(177)およびThr(196)をそれぞれリン酸化することによってCamK1およびCamK4を活性化する。CAMKK1活性は、それ自身、Ca2+/カルモジュリンによる制御に晒され、CAMKK1の活性は、PKA(cAMP依存性プロテインキナーゼ)によりリン酸化されると減少し、Ca(2+)/カルモジュリンの存在下におけるPKAとのインキュベーションによって増加するが、その非存在下では減少する。このPKAによるCAMKK1のリン酸化および阻害は、cAMP依存性シグナル伝達経路とCa2+依存性シグナル伝達経路とのバランスを調節することに関与する。CAMKK1の核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1および2に記載される。
【0021】
当業者は、虚血状態および炎症状態が多数の異なる臓器または組織で起こる可能性があることを認識している。例えば、虚血状態は、心臓、肝臓、腎臓、脳、脊椎、肺、小腸、大腸、および動脈で起こる可能性がある。同様に、炎症状態は、心臓、肝臓、腎臓、脳、脊椎、肺、腸、動脈、関節、軟骨、および皮膚で起こる可能性がある。したがって、患者の臓器または組織における虚血または炎症状態を処置する方法であって、該臓器または組織は、心臓、肝臓、腎臓、脳、脊椎、肺、小腸、大腸、動脈、関節、軟骨、皮膚、またはそれらのあらゆる組合せである、方法が開示される。一部の実施形態において、本方法は、心臓における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、心筋における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、肝臓における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、腎臓における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、脳における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、脊椎における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、肺における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、小腸における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、大腸における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、動脈における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、関節における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、軟骨における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、皮膚における虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。一部の実施形態において、本方法は、上記の臓器または組織のいずれかにおける虚血または炎症状態を処置するのに使用することができる。
【0022】
臓器または組織におけるCAMKK1のレベルを増加させるのに好適な技術としては、これらに限定されないが、CAMKK1タンパク質を投与すること、CAMKK1をコードする核酸を含むベクターを投与すること、増加したレベルのCAMKK1を生産するように改変された細胞を投与すること、CAMKK1のレベルの増加がもたらされるように改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与すること、またはそれらのあらゆる組合せが挙げられる。
【0023】
前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、例えば、CAMKK1タンパク質を前記臓器または組織に投与することによって達成することができる。好適なCAMKK1タンパク質は、野生型CAMKK1または構成的に活性なCAMKK1を含む。一部の態様において、前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、前記臓器または組織に野生型CAMKK1タンパク質を投与することによって達成することができる。例えば、前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、前記臓器または組織に野生型CAMKK1タンパク質を投与することによって達成することができ、野生型CAMKK1タンパク質は、配列番号2に記載される。他の態様において、前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、構成的に活性なCAMKK1を投与することによって達成することができる。構成的に活性なCAMKK1は、CAMKK1 1−413トランケート型を含んでいてもよい。前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、前記臓器または組織にCAMKK1 1−413トランケート型を投与することによって達成することができ、CAMKK1 1−413トランケート型は、配列番号4に記載される。代替として、構成的に活性なCAMKK1は、T108A突然変異、S459A突然変異、またはT108A/S459A突然変異CAMKK1を含んでいてもよい。前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、前記臓器または組織にT108A突然変異CAMKK1を投与することによって達成することができ、T108A突然変異CAMKK1は、配列番号6に記載される。前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、前記臓器または組織にS459A突然変異CAMKK1を投与することによって達成することができ、S459A突然変異CAMKK1は、配列番号8に記載される。前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、前記臓器または組織にT108A/S459A突然変異CAMKK1を投与することによって達成することができ、T108A/S459A突然変異CAMKK1は、配列番号10に記載される。プロテインキナーゼAによるCAMKK1のリン酸化は、CAMKK1活性を阻害する。それゆえに、例えばこれらの残基の1つまたは複数を除去すること(例えば、トランケーションを介して)またはThr108およびSer459をアラニンに突然変異させることによる構成的に活性でありリン酸化可能ではないCAMKK1の構築が、より強力な治療剤をもたらす可能性がある。
【0024】
前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、CAMKK1をコードする核酸を含むベクターを前記臓器または組織に投与することによって達成することができる。ベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターを含んでいてもよい。一部の態様において、臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、CAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドを投与することによって達成することができる。他の態様において、臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、CAMKK1をコードする核酸を含むウイルスベクターを投与することによって達成することができる。核酸は、野生型CAMKK1または構成的に活性なCAMKK1をコードしてもよい。一部の態様において、臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、野生型CAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターを投与することによって達成することができる。例えば、臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、配列番号1に記載のCAMKK1を含むプラスミドまたはウイルスベクターを投与することによって達成することができる。他の態様において、臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、構成的に活性なCAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターを投与することによって達成することができる。構成的に活性なCAMKK1は、CAMKK1 1−413トランケート型を含んでいてもよい。例えば、臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、配列番号3に記載のCAMKK1 1−413トランケート型を含むプラスミドまたはウイルスベクターを投与することによって達成することができる。代替として、構成的に活性なCAMKK1は、T108A突然変異、S459A突然変異、またはT108A/S459A突然変異CAMKK1を含んでいてもよい。例えば、臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、配列番号5に記載のT108A突然変異CAMKK1を含むプラスミドまたはウイルスベクターを投与することによって達成することができる。臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、配列番号7に記載のS459A突然変異CAMKK1を含むプラスミドまたはウイルスベクターを投与することによって達成することができる。臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、配列番号9に記載のT108A/S459A突然変異CAMKK1を含むプラスミドまたはウイルスベクターを投与することによって達成することができる。
【0025】
開示された方法で使用するための好適なベクターは、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節するか、またはそれ以外の方法で標的化細胞に有益な特性を提供する要素または機能性を含んでいてもよい。このような他の要素としては、例えば、細胞との結合または細胞の標的化に影響を与える要素(細胞型または組織特異的結合を媒介する要素を含む);細胞によるベクターの取り込みに影響を与える要素;取り込み後の細胞内における核酸の局在化に影響を与える要素(例えば核局在化を媒介する薬剤);および核酸の発現に影響を与える要素が挙げられる。このような要素は、ベクターの天然の特徴として提供されることもあり(例えば結合および取り込みを媒介する要素または機能性を有する特定のウイルスベクターの使用)、またはベクターは、このような機能性を提供するように改変されてもよい。またこのような要素は、マーカー、例えばベクターを取り込んで、ベクターによって送達された核酸を発現している細胞を検出または選択するのに使用できる検出可能および/または選択可能なマーカーも含む。選択可能マーカーとしては、例えば、アンピシリンおよびカナマイシンが挙げられる。一部の態様において、選択可能マーカーは、ベクターから除去されていてもよい。
【0026】
好適なウイルスベクターとしては、これらに限定されないが、アデノウイルス(Ad)、アデノ関連ウイルス(AAV)、単純疱疹ウイルス(HSV)、レトロウイルス、レンチウイルス、およびアルファウイルスに由来するものが挙げられる。ヒトおよび非ヒトウイルスベクターの両方を使用することができる。ヒトウイルスベクターが使用される実施形態において、ウイルスベクターは、ヒトにおいて複製欠損になるように改変されてもよい。
【0027】
CAMKK1をコードする核酸を含むベクターは、構成的に活性なプロモーター、組織特異的なプロモーター、または薬物誘導性プロモーター下にあってもよい。例えば、組織特異的なプロモーターをCAMKK1をコードする核酸に融合させて、特定の組織へのその発現を制限することができる。
【0028】
CAMKK1をコードする核酸は、これらに限定されないが、トランスフェクションおよびエレクトロポレーションを含む当技術分野において公知の技術によって細胞に導入することができる。ベクターは、トランスフェクションまたはエレクトロポレーション効率を改善するように改変されてもよい。
【0029】
図1A〜
図1Dに例示的なベクターマップを例示する。
【0030】
前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、増加したレベルのCAMKK1を生産するように改変された細胞を投与することによって達成することができる。細胞は、例えば、CAMKK1をコードする核酸を含むベクターで細胞を改変すること、CAMKK1の発現を誘導する薬剤で細胞を改変すること、またはそれらの組合せにより、増加したCAMKK1のレベルを有するように改変されてもよい。上記で論じられたように、CAMKK1タンパク質は、野生型または構成的に活性なCAMKK1であってもよい。細胞は、配列番号2に記載の野生型CAMKK1タンパク質を発現するように改変されてもよい。細胞は、配列番号4に記載のCAMKK1 1−413タンパク質を発現するように改変されてもよい。細胞は、配列番号6に記載のT108A突然変異CAMKK1を発現するように改変されてもよい。細胞は、配列番号8に記載のS459A突然変異CAMKK1を発現するように改変されてもよい。細胞は、配列番号10に記載のT108A/S459A突然変異CAMKK1を発現するように改変されてもよい。
【0031】
一部の実施形態において、前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、CAMKK1をコードする核酸を含むベクターで改変されている細胞を投与することによって達成することができる。ベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターを含んでいてもよい。一部の態様において、細胞は、CAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドで改変されてもよい。他の態様において、細胞は、CAMKK1をコードする核酸を含むウイルスベクターで改変されてもよい。上記で論じられたように、プラスミドまたはウイルスベクターは、野生型または構成的に活性なCAMKK1をコードする核酸を含んでいてもよい。細胞は、野生型CAMKK1タンパク質をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変されてもよく、核酸は、配列番号1に記載される。細胞は、CAMKK1 1−413タンパク質をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変されてもよく、核酸は、配列番号3に記載される。細胞は、T108A突然変異CAMKK1タンパク質をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変されてもよく、核酸は、配列番号5に記載される。細胞は、S459A突然変異CAMKK1タンパク質をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変されてもよく、核酸は、配列番号7に記載される。細胞は、T108A/S459A突然変異CAMKK1タンパク質をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変されてもよく、核酸は、配列番号9に記載される。
【0032】
他の実施形態において、前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、CAMKK1の発現を誘導する薬剤で改変された細胞を投与することによって達成することができる。好適なCAMKK1の発現を誘導するための薬剤としては、これらに限定されないが、TGF−β、miR145、Dab2阻害剤、またはそれらのあらゆる組合せが挙げられる。一部の態様において、細胞は、TGF−βで改変され、前記臓器または組織に投与されてもよい。他の態様において、細胞は、miR145で改変され、前記臓器または組織に投与されてもよい。例えば、細胞は、配列番号17に記載のmiR145で改変され、前記臓器または組織に投与されてもよい。他の態様において、細胞は、例えばDab2のsiRNAなどのDab2阻害剤で改変され、前記臓器または組織に投与されてもよい。好適なDab2のsiRNAとしては、配列番号11および12、配列番号13および14、または配列番号15および16として記載されるセンスおよびアンチセンス鎖を含むDab2のsiRNAが挙げられる。例えば、細胞は、配列番号11および12として記載されるDab2のsiRNAで改変され、前記臓器または組織に投与されてもよい。細胞は、配列番号13および14として記載されるDab2のsiRNAで改変され、前記臓器または組織に投与されてもよい。例えば、細胞は、配列番号15および16として記載されるDab2のsiRNAで改変され、前記臓器または組織に投与されてもよい。
【0033】
前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、CAMKK1のレベルの増加がもたらされるように改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与することによって達成することができる。細胞の培養物は、例えば、CAMKK1をコードする核酸を含むベクターで細胞を改変すること、CAMKK1の発現を誘導する薬剤で細胞を改変すること、またはそれらの組合せにより、増加したCAMKK1のレベルを有するように改変されてもよい。一部の実施形態において、前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、CAMKK1をコードする核酸を含むベクターで改変されている細胞の培養物からの馴化培地を投与することによって達成することができる。ベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターを含んでいてもよい。一部の態様において、細胞の培養物は、CAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドで改変されてもよい。他の態様において、細胞の培養物は、CAMKK1をコードする核酸を含むウイルスベクターで改変されてもよい。本方法は、配列番号1に記載の野生型CAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与することを含んでいてもよい。本方法は、配列番号3に記載のCAMKK1 1−413をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与することを含んでいてもよい。本方法は、配列番号5に記載のT108A突然変異CAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与することを含んでいてもよい。本方法は、配列番号7に記載のS459A突然変異CAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与することを含んでいてもよい。本方法は、配列番号9に記載のT108A/S459A突然変異CAMKK1をコードする核酸を含むプラスミドまたはウイルスベクターで改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与することを含んでいてもよい。
【0034】
他の実施形態において、前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加は、CAMKK1の発現を誘導する薬剤で改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与することによって達成することができる。好適なCAMKK1の発現を誘導するための薬剤としては、これらに限定されないが、TGF−β、miR145、Dab2阻害剤、またはそれらのあらゆる組合せが挙げられる。
図3で示されるように、TGF−βは、miR−145の上方制御を引き起こし、miR−145の上方制御は、DAB2の下方制御を引き起こし、DAB2の下方制御は、CAMKK1の上方制御を引き起こす。一部の態様において、細胞の培養物は、TGF−βで改変されてもよい。例えば、細胞の培養物は、好適な時間にわたりTGF−βと共にインキュベートされてもよく、馴化培地またはその部分は、回収されてもよく、馴化培地は、前記臓器または組織に投与されてもよい。他の態様において、細胞の培養物は、miR145で改変されてもよい。例えば、細胞の培養物は、miR145でトランスフェクトされてもよく、馴化培地またはその部分は、回収されてもよく、馴化培地は、前記臓器または組織に投与されてもよい。細胞の培養物は、配列番号17に記載のmiR145でトランスフェクトされてもよく、馴化培地またはその部分は、回収されてもよく、馴化培地は、前記臓器または組織に投与されてもよい。他の態様において、細胞の培養物は、例えばDab2のsiRNAなどのDab2阻害剤で改変されてもよい。細胞の培養物は、Dab2のsiRNAでトランスフェクトされてもよく、馴化培地またはその部分は、回収されてもよく、馴化培地は、前記臓器または組織に投与されてもよい。細胞の培養物は、配列番号11および12として記載されるDab2のsiRNAでトランスフェクトされてもよく、馴化培地またはその部分は、回収されてもよく、馴化培地は、前記臓器または組織に投与されてもよい。細胞の培養物は、配列番号13および14として記載されるDab2のsiRNAでトランスフェクトされてもよく、馴化培地またはその部分は、回収されてもよく、馴化培地は、前記臓器または組織に投与されてもよい。細胞の培養物は、配列番号15および16として記載されるDab2のsiRNAでトランスフェクトされてもよく、馴化培地またはその部分は、回収されてもよく、馴化培地は、前記臓器または組織に投与されてもよい。
【0035】
増加したレベルのCAMKK1を生産するように改変された細胞、または馴化培地が得られる細胞の培養物は、間葉系幹細胞であってもよい。
【0036】
タンパク質、ベクター、細胞、または馴化培地は、全身投与されてもよいし、虚血もしくは炎症を起こした組織に直接投与されてもよいし、または虚血もしくは炎症を起こした組織の周辺に投与されてもよい。全身投与に好適な技術としては、経腸投与または非経口投与(注入、点滴、または埋め込み)が挙げられる。タンパク質、ベクター、細胞、または馴化培地は、例えば、経口、硬膜外、大脳内、脳室内、動脈内、関節内、心臓内、筋肉内、病巣内、腹腔内、クモ膜下、静脈内、皮下に、またはそれらのあらゆる組合せで投与することができる。
【0037】
虚血または炎症状態は、急性心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、卒中、肝疾患、虚血性腎疾患、多発性硬化症、外傷性脳損傷、脊髄の損傷、移植片対宿主疾患(GVHD)、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチ、固形臓器移植による傷害、整形外科の傷害、軟骨障害、創傷、またはそれらのあらゆる組合せであり得る。したがって、開示された方法は、上記の列挙された患者の臓器または組織のいずれかにおける虚血または炎症状態を、前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加を誘導することによって処置するのに使用することができる。
【0038】
開示された方法は、1つまたは複数の追加の再生療法を投与することをさらに含んでいてもよい。好適な追加の再生療法としては、これらに限定されないが、骨髄に由来する間葉系幹細胞、脂肪組織、胎盤組織、臍帯、ホウォートンゼリー(Wharton’s Jelly)、月経血、幹細胞、M2マクロファージ、単球、またはそれらのあらゆる組合せが挙げられる。幹細胞は、神経前駆細胞、内皮前駆細胞、臓器特異的な内因性幹細胞、またはそれらのあらゆる組合せであってもよい。一部の態様において、本方法は、神経前駆細胞を投与することをさらに含んでいてもよい。一部の態様において、本方法は、内皮前駆細胞を投与することをさらに含んでいてもよい。一部の態様において、本方法は、内因性幹細胞、例えば心臓のckit+細胞を投与することをさらに含んでいてもよい。一部の態様において、本方法は、上記の幹細胞のあらゆる組合せを投与することをさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は、本明細書で開示された実施形態の一部をさらに説明するために提供される。実施例は、開示された実施形態を例示することを意図しており、限定を意図しない。
【0040】
増殖因子であるトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)でのMSCの前処置は、細胞の免疫抑制および血管新生促進活性を増加させ、再生能力の強化をもたらした(
図2)。AMIのげっ歯類モデルにおいて、TGF−βで処置したMSCから収集された馴化培地を心臓に送達した。未処置のMSCからの馴化培地の送達と比較して、改善された心臓の機能が記録された。
【0041】
受容体結合後、MSC細胞のTGF−β処置は、マイクロRNAであるmiR145の増加によって媒介される、非機能性相同体2(Dab2)、TGF−β1受容体アダプタータンパク質の発現の減少をもたらした(
図3)。また、siRNAを使用してMSCにおいてDab2発現を減少させることも、AMIのげっ歯類モデルにおいて心臓に送達された場合の未処置のMSCからの馴化培地と比較して、トランスフェクトされた細胞から収集された馴化培地によって心臓の機能において改善された利益をもたらした(
図2)。対照およびDab2:siRNAでトランスフェクトされたMSCにおける特異的なケモカインおよび増殖因子のレベルを比較したところ、FGF−2、PDGF−b、IGF−1、SDF−1またはSFRP−2における差は観察されなかった(データ示さず)。
【0042】
MSCの強化されたセクレトームをもたらす分子メカニズムを同定するために、Illumina遺伝子アレイスクリーニングを実行して、Dab−2の下方制御の3つの異なるメカニズム:TGF−β処置、miR145でのトランスフェクション、およびDab2に対するsiRNAでのトランスフェクションに応答する、未処置の細胞と比較した遺伝子の変化を同定した。この実験において、処置された細胞(TGF−β、mir145、またはsiRNA Dab2)または未処置の細胞からのcRNAサンプルを、IlluminaのRat−Ref12発現BeadChipにハイブリダイズさせた。
【0043】
簡単に言えば、標識されたcRNAサンプルを、Illumina RatRef−12発現BeadChipにハイブリダイズさせ、これをIllumina Beadstation GX(Illumina、San Diego、CA、USA)を使用してスキャンした。各BeadChipは、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の参照配列(RefSeq)データベースから選択された22,523種のプローブを含有する。マイクロアレイ画像を、Illumina Beadstudioソフトウェア(Illumina、San Diego、CA、USA)を使用して分析し、強度データを正規化した。
【0044】
差次的に発現された遺伝子を選択するために、ウェルチの2つのサンプルのt検定を実行した。結果を変化倍率および検出p値と組み合わせて、差次的に発現された遺伝子を同定した。具体的には、選択基準は、3回の反復にわたる検出p値の合計が0.1未満かまたはそれに等しいこと、平均p値が0.05未満かまたはそれに等しいこと、および対照と処置されたサンプルとの間の変化倍率が1.5より大きいかまたはそれに等しいことを含む。加えて、集合演算を実行して、共通して脱制御された分子を同定した。
【0045】
差次的に発現される遺伝子の同定後、これらの遺伝子および対応する発現値を含有するデータセットを、インジェヌイティーシステムズパスウェイ分析(Ingenuity Systems Pathway Analysis、IPA)ソフトウェア(Ingenuity Systems、Redwood City、CA)にアップロードした。TGFβ1、miR−145およびDab2に加えてこれらの差次的に発現された遺伝子を、IPAにおける目的分子としてマークした。目的分子をシードとして利用し、インジェヌイティーナレッジベースにおけるそれらと他の分子との関係を同定し、2つの分子間の生物学的な関係(ノード)が有向エッジとして表されるネットワークのセット(有向グラフ)に提示した。加えて、IPAを使用して機能性および既知のパスウェイの分析を行った。目的分子およびその密接に関連した遺伝子を分析し、過剰に提示された機能性グループおよび既知のパスウェイを同定した。これらの遺伝子と機能性グループまたは既知のパスウェイとの間の関連の重要性を、目的分子とグループ/パスウェイとの間の関連が単なる偶然と説明される確率を決定するフィッシャーの正確確率検定を使用して得られたp値を使用して測定した。この研究では、0.05のカットオフ閾値を使用した。
【0046】
未処置の細胞と比較して、処置された細胞から23種の共通する有意な(p<0.05)差次的に発現された遺伝子(>1.5倍の差)が同定された(表1)。パスウェイ分析により、miR145、TGF−βシグナル伝達およびdab−2下方制御下流において、1つの遺伝子、すなわちカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼキナーゼ1(CAMKK1)が同定され、これは、本明細書においてMSCのセクレトームおよび機能を調節することが示される。独立した実験により、Dab2の下方制御はCAMKK1発現の上方制御を引き起こし、CAMKK1タンパク質における上方制御と関連していることが確認された(
図4)。
【0047】
【表1】
【0048】
リアルタイムPCRを実行して、Dab2の下方制御は、培養物中のMSCによるCAMKK1の上方制御を引き起こすことを確認した(データ示さず)。ウェスタンブロット分析から、この上方制御は、CAMKK1タンパク質発現の増加に関連していたことが確認された(データ示さず)。
【0049】
これまで、CAMKK1が、内因性の再生経路を誘導または強化することに関与することは実証されていなかった。MCSセクレトームの調節におけるCAMKK1の役割を実証するために、CAMKK1のsiRNAでのトランスフェクションによりMSCにおいてCAMKK1発現を下方制御した。
図5Aのデータは、LAD結紮時に梗塞部の境界ゾーンに200万個のMSCまたは200万個のMSCから濃縮された馴化培地(condition media)を注入することにより、MSCが媒介する左心室の機能の保護の阻害が起こることを示し、具体的には、AMIの14日後にそれぞれ心臓の機能の30%および20%の増加を示す。しかしながら、CAMKK1の非存在下で、MSCまたはMSC馴化培地の注入に応答する心臓の機能の有意な増加はみられない(
図5A)。CAMKK1の非存在がどのようにMSC注入に対する心筋の応答を変更したかの理解を始めるために、MSCおよびMSC馴化培地の注入に応答するコラーゲン沈着の面積および血管密度を定量した。対照MSCと比較した、CAMKK1:siRNAでトランスフェクトされたMSCに応答するコラーゲン沈着の増加(
図5B)および血管密度増加の鈍化(
図5C)が観察された。これらのデータは、CAMKK1の調節こそが、複数のメカニズムを介する可能性があるMSCセクレトームおよびそれに続く心筋の修復を変更することを実証する。重要なことに、TGF−β1で前処置されたMSCにおけるCAMKK1の下方制御は、これらの細胞からの馴化培地(conditioned)も不活性化した(データ示さず)。
【0050】
MSCにおけるCAMKK1発現によって調節されるパラクリン因子の定義を始めるために、スクランブルまたはCAMKK1:siRNAでトランスフェクトされたMSCからの馴化培地をアッセイした。培地を、トランスフェクションの24時間後から始めて24時間馴化した。心臓内注入を想定して培地を濃縮した。濃縮された馴化培地を、ナイロンベースのサイトカインアレイを使用してアッセイした。CAMKK1の上方制御は治癒を促進するという仮説と一致して、CAMKK1の下方制御は、そのうち4種が炎症性細胞動員に関する5種のサイトカインの上方制御を引き起こした。
【0051】
CAMKK1経路の活性化が他の細胞型の強化された再生能力をもたらすことができるかどうかを試験するために、CMVプロモーターの下流にCAMKK1をコードするプラスミドを開発し、これを利用して、CAMKK1活性の上方制御が改善された心臓の機能をもたらすことができることを実証した。LAD結紮によりげっ歯類でAMIを誘導した後、CAMKK1をコードするプラスミド(KCP−CAMKK1)またはビヒクルを心臓の梗塞周辺の領域に直接注入した。1週間および2週間後に心臓の機能を測定したところ、心エコー検査で測定した場合、KCP−CAMKK1で処置した動物において、ビヒクル(生理食塩水またはグルコース)で処置した動物と比較して心臓の機能の改善がもたらされた(
図6)。総合すると、データから、CAMKK1の過剰発現を介したCAMKK1シグナル伝達経路の活性化は、心臓において強化された再生をもたらすことが実証される。
【0052】
CAMKK1の上方制御が組織修復を誘導するのに十分かどうかを決定するために、対照およびCAMKK1を過剰発現するMSCならびに対照およびCAMKK1を過剰発現するMSCからの馴化培地を用いた研究を実行した。
図8Aおよび
図8Bのデータは、MSCにおけるCAMKK1の過剰発現は、AMIにおけるMSCおよびMSC馴化培地の機能を強化したことを実証する。
【0053】
MSCの非存在下におけるCAMKK1過剰発現が、AMIの設定で左心室に対してMSC様の作用をもたらすことができるかどうかを、CAMKK1を過剰発現させるのにCMVプロモーターを使用したcDNA発現ベクターを生成することによって評価した。プラスミドcDNAの5×100ugの注入を、LAD結紮時に梗塞部の境界ゾーンの周辺に送達した。AMI後の時間の関数としてのLV機能を定量した。
図7で示されるように、MSCの非存在下におけるCAMKK1過剰発現は、LV機能の有意な保護または回復をもたらした。
【0054】
図5BおよびCに表示された実験の最後における組織の組織学的な分析(データ示さず)から、CAMKK1は一貫して、
− マッソントリクローム染色によって測定した場合、梗塞のサイズおよび心筋線維化の減少;
− 梗塞部の境界ゾーンにおける血管密度の増加
をもたらしたことが実証された。
【0055】
CAMKK1発現時において、SDF−1またはSDF−1に対するCAMKK1の作用はない(データ示さず)。CAMKK1アプローチは、SDF−1に対して、十分相乗的であり過剰ではない潜在能力を有するようである。
【0056】
要約
本明細書で開示されたように、CAMKK1は、MSC機能の主要な制御因子であることが同定された。SDF−1:CXCR4軸およびCAMKK1が、誘導された発現に関して分子のオーバーラップがないという事実により、CAMKK1およびSDF−1の組合せが、最も明白には急性傷害において相乗効果を有するはずであることが予想され、慢性の組織傷害においてもその可能性があることを示唆する。
【0057】
開示された方法は、MSCを含む複数の細胞型から再生のセクレトーム(分泌された分子)の強化を誘導する。理論に縛られるつもりはないが、増加したレベルのCAMKK1は、CAMKK1を発現するそれらの細胞から分泌された因子の変更を介して機能的な利益の強化をもたらすと考えられる。このセクレトーム誘導は、新規の再生治療剤として使用することができる。
【0058】
当業者であれば、好ましい実施形態に多数の変更および改変をなすことができること、およびこのような変更および改変は、本発明の本質から逸脱することなくなすことができることを理解しているものと考えられる。それゆえに、添付の特許請求の範囲は、本発明の趣旨および範囲内に含まれるこのような全ての等価な変形を網羅することが意図される。
【0059】
この文書で引用または記載される特許、特許出願、および公報それぞれの開示は、ここでの参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0060】
【表2】
実施形態
以下の実施形態の列挙は、以前の記載を置き換えたりまたはそれらに優先したりするのではなく、それらを補完するためのものであることが意図される。
実施形態1.患者の臓器または組織における虚血または炎症状態を処置する方法であって、該臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加を誘導することを含む、方法。
実施形態2.前記臓器または組織が、心臓、肝臓、腎臓、脳、脊椎、肺、小腸、大腸、動脈、関節、軟骨、皮膚、またはそれらのあらゆる組合せである、実施形態1に記載の方法。
実施形態3.前記臓器または組織が、心臓または心筋である、実施形態2に記載の方法。
実施形態4.前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加が、CAMKK1タンパク質を前記臓器または組織に投与することによって達成される、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態5.前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加が、CAMKK1をコードする核酸を含むベクターを前記臓器または組織に投与することによって達成される、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態6.ベクターが、プラスミドまたはウイルスベクターである、実施形態5に記載の方法。
実施形態7.前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加が、増加したレベルのCAMKK1を生産するように改変された細胞を投与することによって達成される、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態8.前記臓器または組織におけるCAMKK1のレベルの増加が、CAMKK1のレベルの増加がもたらされるように改変された細胞の培養物からの馴化培地を投与することによって達成される、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態9.細胞が、CAMKK1をコードする核酸を含むベクターで改変された、実施形態7または8に記載の方法。
実施形態10.ベクターが、プラスミドまたはウイルスベクターを含む、実施形態9に記載の方法。
実施形態11.細胞が、CAMKK1の発現を誘導する薬剤で改変された、実施形態7または8に記載の方法。
実施形態12.薬剤が、TGF−β、miR145、Dab2阻害剤、またはそれらのあらゆる組合せである、実施形態11に記載の方法。
実施形態13.Dab2阻害剤が、Dab2のsiRNAである、実施形態12に記載の方法。
実施形態14.CAMKK1が、構成的に活性なCAMKK1である、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態15.構成的に活性なCAMKK1が、CAMKK1 1−413トランケート型を含む、実施形態14に記載の方法。
実施形態16.構成的に活性なCAMKK1が、T108A突然変異CAMKK1、S459A突然変異CAMKK1、またはT108A/S459A突然変異CAMKK1を含む、実施形態14に記載の方法。
実施形態17.タンパク質、ベクター、細胞、または馴化培地が、全身投与されるか、虚血もしくは炎症を起こした組織に直接投与されるか、または虚血もしくは炎症を起こした組織の周辺に投与される、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態18.細胞が、間葉系幹細胞である、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態19.虚血または炎症状態が、急性心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、卒中、肝疾患、虚血性腎疾患、多発性硬化症、外傷性脳損傷、脊髄の損傷、移植片対宿主疾患(GVHD)、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチ、固形臓器移植による傷害、整形外科の傷害、軟骨障害、創傷、またはそれらのあらゆる組合せである、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態20.1つまたは複数の追加の再生療法を投与することをさらに含む、前述の実施形態のいずれか一つに記載の方法。
実施形態21.1つまたは複数の再生療法が、骨髄に由来する間葉系幹細胞、脂肪組織、胎盤組織、臍帯、ホウォートンゼリー、月経血、幹細胞、M2マクロファージ、単球、またはそれらのあらゆる組合せである、実施形態20に記載の方法。
実施形態22.幹細胞が、神経前駆細胞、内皮前駆細胞、臓器特異的な内因性幹細胞、またはそれらのあらゆる組合せである、実施形態21に記載の方法。
実施形態23.臓器特異的な内因性幹細胞が、心臓のckit+細胞である、実施形態22に記載の方法。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]