【実施例】
【0118】
熱傷の評価に関する代替案の概要 図1Aおよび1Bは、本発明の代替案の一例である。これらの図に示された装置は、熱傷を有する対象の全身を評価するのに特に適している。この装置は、差し迫った治療の必要条件に関する臨床的決定がなされる熱傷のトリアージにおいて特に有用である。この実施例において、プローブ100は、1以上の光源、ここでは4つの光源101、104、118、120と、画像取得装置102とを有する。光源101、104、118、120は、組織部位、ここでは組織103を照射するが、プローブ100に向かい合った対象の体表全体が照射されると有利である。別の代替案において、前記1以上の光源は、発光ダイオード(LED)、ハロゲンランプ、タングステンランプ、または他の照射技術であってもよい。1以上の光源は、白色光またはユーザの所望に応じて選択される1以上のスペクトルバンドにわたる光を放射してもよい。
【0119】
多くのLEDはバンド幅の狭い光(例えば、半値全幅が50nm以下)を生成するため、特定のLEDを選択することで特定のバンド幅の照射を行うことができる。一般に、そのような1以上のスペクトルバンドは、得ようとするデータの種類および/または臨床応用に最も適切な光の測定を考慮して選択される。前記1以上の光源は、光源に電力を供給し、かつ制御するための1以上のドライバに連結されてもよい。これらのドライバは、光源自体の一部であってもよく、独立していてもよい。選択可能なフィルター(例えばフィルターホイール)を備えた複数の狭帯域光源または広帯域光源を用いて、多数のスペクトルバンドの光を順次または同時に組織103に照射してもよい。選択されるスペクトルバンドの中心波長は、一般的に可視波長および近赤外波長の範囲にあり、例えば約400〜1100nm(400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、もしくは1100nm、あるいはこれらの値のいずれか未満、これらの値のいずれか以上、またはこれらの値のいずれか2つの間にある波長)である。
【0120】
いくつかの代替案において、光源は、実質的に一様な強度で組織部位を照射する。実質的に一様な強度は、例えば、光源101、104、118、120の一部として提供され、組織103に照射される光の強度をほぼ一様に分布させるような散光器を使用することによって達成できる。散光器には、望ましくない鏡面反射光を減じるというさらなる利点がある。高出力LEDの使用により、広いスペクトルの空間的に一様な照射パターンを用いることで、画像取得装置102によって得られる信号の信号対ノイズ比の顕著な改善が達成できる場合もある。市松模様照射のようなパターン化光システムを使用できる場合もある。そのような特定の代替案では、画像取得装置の視野は、光源に直接照射されないが照射領域に隣接している組織部位に向けられている。例えば、実質的に一様な強度の光が使用されるとき、画像取得装置102のような画像取得装置は、照射部位外からの光を読み取ってもよい。同様に、例えば市松模様照射が使用されるとき、取得装置102は市松模様の中で照射されていない部分からの光を読み取ってもよい。
【0121】
さらに、本明細書に記載されるいくつかの代替案において実質的に一様な強度の光が有効であるとしても、別の代替案においては一様でない光を使用してもよく、その場合、表面全体として光の強度差が最小化されるように1以上の光が配置される。このような差は、データの取得中に、またはバックエンドソフトウェアまたはハードウェアロジックにより補償される場合もある。例えば、トップハット変換またはその他の画像処理技術を用いて、一様でない背景照明を補償してもよい。
【0122】
特定の代替案において、光は所望により偏光されてもよい。反射、選択吸収、屈折、散乱、および/または当技術分野で知られている任意の偏光方法を使用して偏光される場合もある。偏光には、例えばプリズム(ニコルプリズム等)、鏡、および/または反射面、フィルター(偏光フィルター等)、レンズ、および/または結晶を利用してもよい。光は、交差偏光されてもよく、共偏光されてもよい。いくつかの代替案において、前記1以上の光源からの光は、対象を照射する前に偏光される。例えば、偏光フィルターは、光源101、104、118、120の一部として提供されてもよい。いくつかの代替案では、組織から反射された光は、組織からの反射後に偏光される。例えば、偏光フィルターは取得装置102の一部として提供されてもよい。別の代替案において、光は、対象を照射する前と反射された後の両方で偏光される。例えば、偏光フィルターは、光源101、104、118、120の一部として、またさらにデータ収集装置102の一部として提供されてもよい。
【0123】
使用する偏光技術の種類は、照射角度、受光角度、使用する照射光源の種類、所望のデータの種類(例えば、散乱光、吸収光、反射光、透過光および/または蛍光の測定)、およびイメージングされる組織の深さ等の要因に依存しうる。例えば、組織への照射が行われると、光のいくらかは皮膚の最上層から直接反射されて表面グレアや表面反射となる。この反射光はしばしば、皮膚組織内に拡散する光(皮膚組織内で散乱(例えば反射)され、方向や極性が変化しうる)とは異なる極性を有している。取得装置に読み取られるグレアや反射の量を最少にしつつ、読み取られる後方散乱光の量を最大にするために、交差偏光技術を使用してもよい。例えば、偏光フィルターは、光源101、104、118、120の一部として、またさらにデータ収集装置102の一部として提供されてもよい。そのような構成において、光は、ターゲット103に照射される前に、まず偏光される。この光がターゲット103から反射された後、反射された光は、ターゲット103の表面から反射されて読み取られる入射光の量を最少にしつつ後方散乱光を測定できるように、第1の偏光方向とは直角の方向に偏光されてもよい。
【0124】
いくつかの状況においては、特定の深さで組織のイメージングを行うことが望ましい場合もある。例えば、特定の深さで組織のイメージングを行うことは、特定の深さにある特定の創傷を評価し、がん性腫瘍の有無の確認および/もしくはその位置の特定、または腫瘍のステージもしくはがんの進行の判定、または本明細書に開示において言及した他の任意の治療用途に使用することができる。当技術分野で知られている特定の偏光技術を用いることにより、光学特性および/または平均自由行程に基づいて、特定の深さにある組織の選択的イメージングを行ってもよい。
【0125】
特定の代替案では、イメージングの深さを制御するための別の技術を使用してもよい。例えば、組織の光学的散乱特性は温度とともに変化し、組織に光が侵入する深さは、冷却により深くなる。そのため、イメージングされる組織部位の温度を制御することによって、イメージングの深さを制御してもよい。また、例えば、光源を様々な周波数でのパルス(または点滅)させることによって、イメージングの深さを制御してもよい。パルス光は非パルス光よりも深くまで皮膚に侵入し、パルス幅が長いほど、光は深く侵入する。別の代替案としては、光の強度を調整することによってイメージングの深さを変えることができ、高強度の光は、低強度の光よりも深くまで侵入する。
【0126】
図1Aに示されているように、画像取得装置102は、組織103から反射された光を受光するように構成されている。画像取得装置120は、照射部位、照射部位のサブ部位、または非照射部位からの光を検出することができる。以下に記載するように、画像取得装置102の視野は、プローブ100に面している対象の体表全体を含んでもよい。プローブに面した対象の全体が照射され、プローブに面した対象の全体が画像取得装置の視野に入るとき、分類の早さと容易さが向上する。画像取得装置102は、照射される組織103の全体または一部のイメージングに適した光学素子を備えた2次元電荷結合素子(CCD)または相補型金属酸化物半導体(CMOS)であってもよい。
【0127】
いくつかの代替案において、モジュール112は、プローブ100と連結されてもよいコントローラ、クラシファイヤ、およびプロセッサである。モジュール112はプローブ100を制御するが、これにはその物理的位置、光の強度、分解能、フィルターの色、もしくは本明細書に記載のカメラおよび/または光源の任意のパラメータ等のパラメータの設定が含まれてもよい。モジュール112は、プローブによって得られたデータの受信および処理を行うが、これについては後に説明する。
【0128】
いくつかの代替案において、モジュール112は、さらにモジュール114と連結されてもよい。モジュール114は、ディスプレイおよびユーザインターフェース(UI)である。ディスプレイおよびUIは、ユーザに情報および/またはデータを示す。いくつかの代替案において、その情報および/またはデータには、ある組織状態の有無、該組織状態の重症度、および/または対象に関する付加的情報が含まれ、本明細書で言及される任意の情報が含まれる。モジュール114は、ユーザ入力を受信する。いくつかの代替案において、ユーザ入力には、年齢、体重、身長、性別、人種、皮膚の色もしくは外観、および/または血圧等の患者についての情報が含まれる。モジュール114はさらに、較正情報を含むユーザ入力、ユーザの選択する走査位置、ユーザの選択する組織状態、および/または診断のための付加的情報を受信することもあり、これには本明細書で言及される任意の情報が含まれる。特定の代替案では、上述のユーザ入力の一部または全部が、ユーザがモジュール114を用いて情報を入力することなく自動的にモジュール112に送信されてもよい。
【0129】
図1Bに示されているように、いくつかの代替案において、プローブ100は、上方、下方、左方向、右方向、右斜め上方、左斜め上方、右斜め下方、左斜め下方、もしくはこれらの方向の任意の組み合わせのような、任意の方向またはそれらを組み合わせた方向に移動することができる。いくつかの代替案では、プローブは対象に対して垂直な方向に移動してもよく、この場合、プローブは対象に近づいたり対象から遠ざかったりする。プローブは、例えば、レールに連結されていてもよく、コントローラ112によって手動または自動で位置制御される関節アームに連結されていてもよく、あるいはこれらを組み合わせたものに連結されていてもよい。いくつかの代替案では、光源または画像取得装置のいずれかが固定されていてもよく、別の代替案では、それぞれが独立して移動できるよう構成されていてもよい。特定の代替案では、画像取得装置とモータとを連結して画像取得装置の動作を自動化してもよく、これによって対象の各セクションをカメラによりイメージングすることが可能となる。カメラもまた、レール、軌道、ガイド、および/または駆動可能なアームと連結できる。画像取得装置の移動中、光源は組織部位103の全体を照射してもよいが、走査プロセスの間、カメラによるイメージングが行われる所望の部位の組織のみを照射するよう、制御されてもよい。
【0130】
図1Aに示される代替案では、対象またはその一部(例えば対象の身体の全体または所望の位置の組織)の画像が得られるよう、対象は背景110を背にして直立の位置にある。いくつかの代替案では、背景110は支持構造物であり、画像を取得する間、対象はその上に水平または角度をつけた状態で横になったりもたれたりする。画像を取得する間に対象の体重を測定できるよう、体重計106および108が備えられていてもよい。さらに、体重計に加えて、あるいは体重計の代わりに、心拍数、体温、身体組成、肥満度指数、体型、血圧、およびこれ以外の生理的なデータを測定するための生体リーダが備えられていてもよい。
【0131】
図2は、装置によって画像を取得するために、ディスプレイ/UI114上に提示されたUI200の例である。この代替案では、組織103が光源によって照射されている間、ユーザインターフェースは、画像取得装置の視野を表示する。特定の代替案では、ユーザは、対象202の全体が含まれるように、画像取得装置102の視野の位置を定めてもよい。ユーザは、ズーム要素208を使用して、対象が視野のほぼ全体を占めるよう、画像取得装置102を調整してもよい。いくつかの代替案では、ユーザは、対象202に関する他の情報を得るためにユーザインターフェースを使用してもよい。例えば、ユーザは、対象の身長を測定するために、位置204および位置206を選択してもよい。ユーザが、ユーザインターフェースを使用して、例えば画像取得ボタン210を押すこと等によって、対象の画像を取得するよう画像取得装置に指示を行う場合もある。
【0132】
画像を用いて組織の分類を行うために対象の画像を取得する際、光源(フィルターが付随する場合はそれらとともに)および画像取得装置は、対象の画像を複数取得できるよう制御される。取得される複数の画像は、反射光の異なるスペクトルバンドおよび/または異なる時間に関連付けられている。異なるスペクトルバンドで取得された画像は、組織部位を分類するためのMSI技術によって処理されてもよく、また時間的に異なる画像は、組織を分類するためのPPG技術によって処理されてもよい。いくつかの代替案では、両タイプの画像セットが得られ、得られた結果は、より正確な分類を行うためにマージされる。これについては後に説明する。
【0133】
熱傷患者の場合、画像の取得は、対象を前向き、後ろ向き、左向き、右向きといった様々な向きにして行われる。患者は、背景110を背にしてこれらの様々な向きで立ってもよく、背景110が水平な支持構造物であれば、患者は背景110の上に、様々な向きで横たわってもよい。取得された画像から得られるデータは、対象の皮膚の様々な領域が熱傷であるか否かを分類するために使用されるが、熱傷である領域の熱傷の程度の分類に使用されてもよい。
【0134】
異なる向きで画像を取得した後、対象のそれぞれの向きについての画像データを、コントローラ/クラシファイヤ/プロセッサ112によって処理してもよい。背景110が皮膚組織と異なる特徴的な色であれば、コントローラ/クラシファイヤ/プロセッサは、対象を背景と区別し、取得した各画像における各画素を背景または対象のいずれかとして割り当ててもよい。別の代替案では、UIの使用によって、最初の画像(例えば、
図2に示すような)上で対象の輪郭をトレース(例えば、タッチスクリーン上でスタイラスを用いて、あるいはマウスとカーソルとを用いて)することで、背景と対象とを区別してもよい。対象に関連する画像の画素が特定された後、MSIおよび/またはPPG技術を用いてこれらを解析し、対象の皮膚の領域を熱傷の状態によって分類してもよい。
【0135】
このプロセスによるディスプレイ/UI114への出力例を
図3に示す。この代替案において、出力された画像212は対象250の正面像を示しており、対象の正面から取得した複数の画像を使用して対象の正面の皮膚の異なる部分が分類されている。出力された画像212において、異なる分類結果は、例えば出力される画像の色を変えることで示されていてもよい。例えば、コントローラ/クラシファイヤ/プロセッサは、部位222をIII度の熱傷、部位224をI度の熱傷、部位226をII度の熱傷と特定している。また、プロセッサは、さらに例えば部位228を健康な組織と特定している。画像214は、対象250の背面像の例であり、部位230はIII度の熱傷、部位232はI度の熱傷、部位234はII度の熱傷として分類されている。さらに、これら以外の組織部位は、健康な組織と特定されている。画像216および画像218は、それぞれ対象250の左から見た像および右から見た像であり、部位236はIII度の熱傷、部位238はII度の熱傷、部位242はI度の熱傷として分類されている。さらに、これら以外の組織部位は、健康な組織と特定されている。
【0136】
画像212、214、216、218に示す分類データから、特定の代替案では熱傷の%TBSAが計算され、
図3のボックス220内に見られるように、ユーザに対する結果の出力がUI上で行われる。熱傷の程度による分類が行われると、
図3のボックス220内に見られるように、熱傷の1以上の分類についての%TBSAが出力される。熱傷組織を評価するために光学イメージング法が使用されてきたが、熱傷の%TBSAを見積もる装置はいまだ開発されていない。
【0137】
患者の全体または一部の画像データを使用して熱傷の%TBSAを得ることには、これまで解決できなかった複雑な要因に関わっている。ある代替案において、
図3の4つの画像212、214、216、218を用いた簡単な計算をすることによって、トリアージの目的に十分な精度の見積もりが可能であることが見出された。この代替案では、すべての画像において熱傷と分類された全画素の合計である第1のカウントを求め、すべての画像における対象の全画素の合計である第2のカウントを求め、第1のカウントを第2のカウントで割ることによって、熱傷の%TBSAを求めることができる。例えば、III度の熱傷の%TBSAを計算するために、システムは、部位222、230、236の画素を計算し、その合計画素数を、対象250の全表面の総画素数で、すなわち画像212、214、216、218に見られる対象250の全画素を計数して合計することで得られる総画素数で割る。
【0138】
特定の代替案では、加算する面積を調整することによって、熱傷の%TBSAの見積もり精度を高めることができる。例えば、単に部位を合算するのではなく、モジュール112等のプロセッサは、画像を解析することによって2以上の画像に現れている領域を特定してもよい。このようにすれば、複数の画像に捕捉された領域が2回以上数えられることは避けられる。例えば、画像212の部位222と画像216の部位236はいずれも、対象250の胸部の1つの部分を捉えている。部位236と222の面積が合算されるなら、胸の一部が2回以上数えられることになる。特定の代替案では、プロセッサは部位222および236(または画像212および216の全体)を解析し、該胸部は1回だけ数える。いくつかの代替案では、部位の重複および/または類似性は、画像処理技術(境界検出や分割等)、参照マーカー、ならびに/または標準化された体型によって重複を見積もるための予測解析およびコンピュータ学習を使用して計算することができる。
【0139】
特定の代替案では、対象のための3次元体型モデルが構築されてもよい。この人体モデルは、標準化された体型モデルならびに/または身長、体重、身体組成(例えば、体脂肪率)、肥満度指数、体の全体もしくは一部に対する特定の測定、または体の大きさまたは体型の任意の指標のようなパラメータから構築された体型モデルに基づくものであってもよい。これらのパラメータは、モジュール114のようなUIを用いてユーザが入力するパラメータであってもよく、プローブ100、生体リーダ106、および/もしくは生体リーダ108によって測定または計算されるパラメータ、またはモジュール112のようなプロセッサ/クラシファイヤによって受信または計算される任意の指標であってよい。3次元体型モデルが作成されると、分類された組織部位をこの3次元体型モデルの領域に投射することが可能となる。重複の場合、重複部位が複数回数えられることのないように、プロセッサは差異の解析を行う。熱傷の%TBSAは、1以上の分類(例えば、I度の熱傷、II度の熱傷、III度の熱傷、または健康な組織)に該当する面積を合算し、それを体表全体の面積で割ることによって概算することができる。
【0140】
いくつかの代替案において、モジュール112のようなプロセッサは、複数の2次元画像(例えば画像212、214、216、218)から1つの3次元モデルを再構成してもよい。いくつかの代替案において、このような再構成は、ユークリッドの再構成、線形層化、または複数の2次元画像を変換して3次元再構成を行う任意かつ既知の変換法等の投射を用いて行われてもよい。特定の代替案において、2次元画像から3次元再構成を行うための変換は、カメラの角度、カメラと対象との距離、対象から得られる測定値、および/または任意の参照測定値もしくは参照オブジェクト等の任意かつ既知のパラメータを考慮して行われてもよい。2次元画像を使用して3次元モデルが作成されると、熱傷の%TBSAは、1以上の分類(例えば、I度の熱傷、II度の熱傷、III度の熱傷、または健康な組織)に該当する面積の合算によって概算することができる。
【0141】
熱傷の%TBSAがプロセッサによって計算されると、その結果はユーザに向けて出力される。例えば、出力220は、熱傷の%TBSAが40%と計算され、III度の熱傷の%TBSAは12%と計算された例を示している。この情報は、モジュール114のようなディスプレイを使用して、ユーザに表示されてもよい。モジュール114のようなディスプレイは、さらに、死亡率の推定値や、対象の治療に関連するその他の情報等の別の情報を表示してもよい。死亡率の推定値の例では、
図6のチャートに示すようなデータがプロセッサ112に保存され、%TBSAおよび/または対象の年齢(ユーザに既知、あるいはユーザが推定してシステムに入力)に基づいて死亡率を推定するために使用されてもよい。
【0142】
図4は、本明細書に記載のいくつかの装置が熱傷の%TBSAをどのように計算するかを示す別の例である。この図は、複数の画像が合算されて熱傷の%TBSAが計算されるモザイク技術を示す。場合によって、モザイクは、プローブ100のようなプローブが各画像を得るために自動的に位置決めされるような自動プログラムを用いて作成されてもよい。この自動化は、駆動可能なアーム、モータ、レール、またはプローブを移動させるための任意の方法もしくは装置を利用するものであってよい。その結果、プローブは、
図4に示す格子パターンのような特定のパターンとなるようなイメージングを行う場合もある。別法として、プローブ100のようなプローブの位置決めをユーザが行って、モザイクを作成してもよい。次いで、ユーザは、対象の任意の数の部位について、任意の数の画像を得るべくイメージングを行うことができる。
【0143】
モザイク技術の代替法を使用する任意の場合において、モザイク部分201は頭部の表面の1つの画像であってもよい。モザイク部分207は、手の画像としての独立した画像であってもよく、体幹の一部をさらに捉えたものであってもよい。他のモザイク部分を形成するためにイメージングされる、対象またはその一部(別の表面の画像を含む)のさらなる画像の数は、何枚であってもよい。これらの画像は、重複していてもよく、はっきり分かれていてもよい。画像を重複させ、かつ/または同じ特徴、位置、場所、もしくは組織部位について複数の(例えば、異なる視点からの)画像を得て、オーバーレイ技術またはマスキング技術を適用することによって、分解能の向上および/または所望の組織の3次元レンダリングを達成することができる。
【0144】
このような様々な画像を組み合わせたりつなぎ合わせたりして、全身の表面積を計算することもできる。画像を組み合わせる前に、画像処理技術を使用して背景を除去し、対象の体のみを残す場合もある。画像の組み合わせを容易にするために、境界検出技術を使用して体の各部の輪郭を得てもよい。体の一部分を捉えた重複画像が存在する場合、組織の相互相関を実行することで、各部分を正しくまとめ、つなぎ合わせ、組み合わせる方法を決定できる。
【0145】
場合によって、様々な画像を組み合わせて、1つの組織分類に該当する全表面積を得てもよい。例えば、モザイク部分211および212は、熱傷のような組織状態にある表面積を概算するために使用される画像であるかもしれない。ここでも、組み立てられる個々の画像は、はっきり分かれていても、重複していてもよく、また組織の同じ部位または場所を異なる視点からイメージングしたものであってもよい。画像を組み合わせるプロセスは、当該組織状態として分類された組織の画像を複数取得し、当該分類部位に属する表面積を概算するためにそれらを組み合わせることを含む。
【0146】
いくつかの代替案では、イメージングされていない部位を補うための補間技術を用いて面積の見積もりを行う必要があるかもしれない。例えば、対象のいくつかの部分が、イメージング時に偶然に除外されたり、熱傷でないこと、もしくは見積もりを行おうとしている状態とは別の状態にあることが明白であるという理由から除外されたりする場合がある。場合によって、対象の特定の領域が、場所的な理由(例えば、対象の脇の下にある)または対象の物理的制限(例えば、対象の傷が重く移動ができない)によって、イメージング困難なこともある。そのような補間では、イメージングされない部位の見積もりを行うために、体の対称性を利用したり、1つの部位と別の部位との間に直線を射影したりしてもよい。例えば、ふくらはぎの画像205が欠失していた場合、大腿の画像213に示されている脚の境界から、脚の下の画像203および/または215に示されている足首および足部の境界へと、直線射影できるであろう。この射影により、脚部のおよその形状を得ることができ、イメージングされていない脚表面の見積もりが可能となる。
【0147】
対象の様々な部分の表面積を見積もるために使用できる方法は、他にも存在する。例えば、
図5に、9の法則およびLund−Browderチャートを示す。例えば、500で示す図は、9の法則の説明であり、頭頸部および腕は、それぞれ体表全体の面積の9%と見積もられている。例えば、腕501の合計表面積は、9の法則の下では、図の人物の体表全体の面積の9%であると見積もることができる。9の法則の下では、片脚ならびに体幹の前面および後面の面積はそれぞれ、体表全体の面積の18%であると見積もられる。例えば、脚502の合計表面積は、9の法則の下では、図の人物の体表全体の面積の18%であると見積もることができる。
【0148】
503で示す図は、体の様々な部分の表面積を概算する別の方法の存在を示す例である。Lund−Browderチャート504は、患者の年齢によって表面積を見積もる1つ方法を示す。このチャートは、0歳、1歳、5歳、10歳、および15歳の子どもの頭部の1/2、大腿部の1/2、および下肢の1/2の体表面積の相対パーセンテージの概算値を示す。
【0149】
9の法則およびLund−Browderチャートはいずれも、体表全体の面積(TBSA)を計算するために使用できる見積もりの例に過ぎない。これらの見積もりもまた、体の一部がイメージングされない場合に使用される前述の技術を補うものとして使用できる。例えば、イメージングされない脚の表面積は、TBSAの18%を占めると仮定することで把握できる。
【0150】
患者によっては、9の法則、Lund−Browder、および他の見積もり方法が当てはまらないこともある。例えば、太り過ぎの患者や、体の特定の部位に過剰な組織を有する患者は、相対表面積が異なることもある。したがって、本明細書に記載されるイメージング技術は、従来行われてきたこれらのチャートのみに頼った方法と比べて、熱傷の%TBSAをより正確に計算できるものである。さらに、本明細書に記載される%TBSA計算のいずれにおいても、モジュール114に入力された任意のデータ、またはモジュール112に自動的に送信された任意のデータを利用することができる。例えば、対象の年齢は、Lund−Browderチャートを用いた体表面積の相対パーセンテージの概算において、有効に使用することができる。代替例では、性別、体重、身長、体格、体型、皮膚の色、人種、イメージングされた体の向き、および/または本開示において言及される任意の関連データを含む他のデータが、%TBSAを計算するために入力または取得されてもよい。
【0151】
組織分類の%TBSAを知ることは、適切な治療の決定にとって重要でありうる。例えば、熱傷では、熱傷の%TBSAが増加するほど死亡率は高まる。
図6は、米国熱傷協会がまとめたものであり、年齢群と熱傷の大きさによる死亡率を示している。患者の熱傷の%TBSAが増加するにつれ、概して死亡率は上昇することがわかる。したがって、緊急治療を施すためには、%TBSAの高い患者をできる限り迅速に特定することが重要でありうる。さらに、熱傷の%TBSAが高まるにつれて、死亡率の勾配が急になる。したがって、熱傷の%TBSAが高い場合、死に至る危険性が特に大きい対象を他から識別する際に、従来の方法よりも精度が高いことは重要である。大規模災害のような緊急事態で資源に限りがある場合、このような識別を行う能力は、特に重要であろう。したがって、本発明による代替案の、熱傷の%TBSAを計算する能力は、長きにわたる要望を満たすものである。
【0152】
例えば、所望される治療決定の1つとして、蘇生のための流体量の決定が挙げられる。流体の喪失は、大きな熱傷を負った人々が直面する最も重大な問題の1つである。したがって、熱傷患者に投与される流体の量の適切な管理は、回復のための重要な側面と言える。多くの場合、流体が少な過ぎると、熱傷浮腫、熱傷ショック、脱水、死、および/または他の合併症につながりうる。流体が多過ぎても、感染症、浮腫、急性呼吸窮迫症候群、腹部コンパートメント症候群、水分過剰、および/または死といった合併症のリスクが増す。蘇生に必要な流体の量は、熱傷の%TBSAに関連する。例えば、軽い熱傷であれば、一般に、経口の水分補給によって蘇生することができる。しかしながら、熱傷の%TBSAが15〜20%(例えば、15%、16%、17%、18%、19%、もしくは20%、またはこれらのパーセンテージの間にある任意のパーセンテージ)に近づくと、対象における体液変動が大きくなり、熱傷浮腫や熱傷ショックを避けるためには、流体の管理がより重要になる。熱傷の%TBSAが約20%を超えると(例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはこれらのパーセンテージの間にある任意のパーセンテージ)、血管内蘇生輸液を開始することが推奨されている。
【0153】
特定の代替案では、計算された熱傷の%TBSAをプロセッサ112のようなプロセッサが用いることによって、患者に与えるべき流体の量が決定されてもよい。例えば、パークランドの公式を用いることで、熱傷の%TBSAに基づいて、治療の最初の24時間に投与する蘇生輸液量を概算してもよい。パークランドの公式は、V=4×m×(A×100)で表され、Vはミリリットルで表した輸液量であり、mはキログラムで表した対象の質量であり、Aは小数で表した%TBSA(例えば、体表の50%に熱傷を負った対象であれば、0.5)である。計算された量の半量が最初の8時間で投与され、残りの半量は、その後16時間かけて投与される。流体の投与計画は、システムのユーザに向けて、例えば
図3の出力220の一部のように、UI上に出力されてもよい。例えば、体重100kgの対象が体表の50%に熱傷を負っている場合、システムは、パークランドの公式に従って、次の8時間は1250mL/時、その後16時間は625mL/時というような24時間の流体蘇生計画を出力してもよい。
【0154】
パークランドの公式は、特定の患者のニーズを満たすよう調整することもできる。例えば、高齢の患者に投与される流体の量は、水分過剰による浮腫や合併症が生じやすいため、減じる必要がある。一方、幼児のような若年の患者は、流体量が過剰であっても合併症のリスクは低い。投与する流体の量の調整には、対象の状態(例えば、熱傷の重症度)、脈拍、血圧、呼吸数および他の生理学的パラメータのような他の要因を使用することもできる。特定の代替案では、プロセッサ112のようなプロセッサは、投与する流体の量を調整するためにこれらの要因を使用する。これらの要因は、ユーザインターフェース(ディスプレイ/UI114等)を通じて入力されても、プローブ100または生体リーダ106および/もしくは108によって測定されても、かつ/または別の方法でプロセッサ112によって入力、計算、概算、もしくは取得されてもよい。これらの要因は、さらに当該患者の病歴から得られる別のデータ、または他の患者から得られるデータを含んでいてもよい。プロセッサはさらに、計算において考慮する要因として別のデータ(当該患者の別のデータ、較正情報、および他の患者から得られるデータ)を得るために、動的ライブラリから情報を取得してもよい。
【0155】
いくつかの代替案において、考慮してもよい別の要因は、患者の総血液量および/または患者の総血液量における変化である。血液量が少ないことは、患者が蘇生のためにより多くの流体を必要としていることを示す。血液量を測定および/または概算する様々な方法が存在する。例えば、患者の血液量が多ければ、患者の組織に吸収される光は多い。このような効果は、赤色光または近赤外光領域(例えば、840nm、850nm、860nm、870nm、もしくは880nm、またはこれらの値のいずれか2つの間にある波長を含む、840nm〜880nmの範囲またはこの近傍)において容易に測定することができるが、これは、このような波長の光が組織を容易に通過することによる。本明細書に開示する代替案は、反射する赤色光または近赤外光の量の変化を経時的に測定することによって総血液量および/または総血液量における変化を概算するために、使用することができる。例えば、いくつかの代替案において、反射する赤色光または近赤外光の量の経時的変化は、心臓の鼓動波形の収縮期および拡張期における位相シフトを測定するために使用することができる。これらのシフトは、収縮期圧および拡張期圧を知るために使用することができ、状況によっては、右心室および左心室の脈圧を見積もるために使用することができる。外部カフもまた、収縮期圧および拡張期圧を測定するために、追加的または代替的に使用することができる。次いで、この脈圧を使用して、左心室および右心室からの1回拍出量(1回の鼓動で心室から送り出される血液の量)を見積もることができる。この1回拍出量を用いれば、これと心拍数(心拍数もまた、本明細書で開示される代替案によって測定できる)とを掛け合わせることによって、心室からの心拍出量を計算することができる。この心拍出量は、血液量および/または血液量の変化を見積もるために使用されてもよい。
【0156】
当技術分野において既知の他の技術、例えば、PPG、カテーテル、プレチスモグラフィ、他のイメージング技術、および/または静脈の伸展製を測定する別の技術等を使用して、血液量および/または血液量の変化を測定または概算することができる。例えば、酸素飽和度および脈拍を測定するために、患者がパルスオキシメータを装着してもよい。しかしながら、パルスオキシメータは、血管床(指、耳、または前額部)の血液量および/または血液量の変化を測定するPPG装置としての役割をも果たすものであってよい。
【0157】
いくつかの代替案において、総血液量および/または総血液量の変化のデータは、UI114等を使用するユーザによって、または別の手段によってデータパス(例えば、ワイヤを用いた接続またはワイヤレス送信等)に沿ってプロセッサに入力される。総血液量および/または総血液量の変化は、患者に投与される流体の量を計算するために、単独で、または%TBSAもしくは本開示で言及される別の任意の要因と組み合わせて使用されてもよい。これらの追加的な要因および変更は、表示される流体蘇生計画に自動的に組み入れることができる。
【0158】
さらに、他の代替案では、%TBSAに基づいて熱傷患者に投与される流体の量を計算する別の方法が使用される。別の方法としては、ブルックの公式、ブルックの改変公式、パークランドの公式、および当技術分野で既知である別の任意の相関が挙げられる。代替案では、標準公式が一切使用されなくてもよい。例えば、投与される流体の量は、機械学習を通じて計算することもでき、患者の病歴または他の患者の病歴を含む病歴データから別の方法で算定することもできる。
【0159】
次いで、組織を照射し、画像を取得し、画像データを解析するために使用される特定の装置および方法に目を向ければ、熱傷および他の傷を評価するための装置および方法を開発するための多くの試みがなされてきたことが理解されるであろう。いくつかの方法には、サーモグラフィー、核磁気共鳴、分光法、レーザードップラーフローメトリー、および超音波が含まれる。さらに、組織の微小血管床における血液量の変化を検出するために、プレチスモグラフィー(PPG)が使用されている。単に容積測定のみを行うPPGを単独で使用するだけでは、組織の完全な分類はなし得ない場合もある。また、マルチスペクトルイメージング(MSI)は皮膚組織における差異を識別するために使用されてきたが、この技術では組織の完全な分類はなし得ない。現在のMSI技術では、肌タイプ、体の異なる領域の皮膚の違い、および考えられる傷の前処理による差異を埋め合わせることは、困難である場合が多い。MSI単独では、皮膚の状態に関する全般的な評価をなし得ない可能性があるが、これは、MSI技術が、皮膚の外観および皮膚の構成のみを測定し、組織に対する栄養や酸素の供給可能性といった、皮膚の分類にとって重要な動的変数を測定しないことによる。
【0160】
本明細書に記載されるいくつかの代替案では、皮膚の分類の迅速性、信頼性、および正確性を改善するために、MSIとPPGとが組み合わされる。本明細書に記載される該代替案では、例えば、皮膚の構造および機能(外傷を受けた皮膚とは対照的な正常な状態であるように正しく機能するか)をより正確に評価するために、画像データを使用して、血液、水、コラーゲン、メラニン、および他のマーカーの寄与を測定することができる。さらに、本明細書に記載される代替案では、皮膚から反射される光の変化を経時的に検出することで、重要な生理学的情報を取得する。これによって、臨床医が組織の生存率および機能、例えば組織のある部位における血液灌流および酸素化等を迅速に評価することが可能となる。
【0161】
図7に、いくつかの代替案においてプローブ100、コントローラ/クラシファイヤ/プロセッサ112およびディスプレイ/UI114として使用することができる(必須ではない)システムを示す。
図7のシステムについては後に説明するが、MSI技術とPPG技術とが組み合わされていることにより、これまでのシステムと比べて、より小さい面積の組織部位をより高い精度で解析して分類するために使用することができ、必ずしも上記した全身解析のシステムおよび方法と関連付けて使用する必要はない。
【0162】
図7のシステムにおいて、プローブ408は、1以上の光源と1以上の高分解能マルチスペクトルカメラを含む。このカメラは、高精度な組織分類を実行するために、時間的、空間的なスペクトル分解能を維持しつつ、ターゲットである組織部位409を複数の画像で記録する。プローブ408は、複数のカメラ、イメージング装置、プリズム、ビームスプリッタ、光検知器、フィルター、およびマルチスペクトルバンド光源を含んでもよい。このカメラは、当該組織部位について、異なる波長の光の散乱、吸収、反射、透過、および/または蛍光を経時的に測定することができる。このシステムは、また、ディスプレイ/UI414と、プローブ408の動作を制御し、ユーザからの入力を受信し、ディスプレイの出力を制御し、画像の画素の解析および分類を実行するコントローラ/クラシファイヤ/プロセッサ412とを含む。
【0163】
データセット410は、プローブ408の出力例であり、イメージングされた空間的位置における複数の異なる時間、複数の異なる波長の反射光に関するデータを含む。イメージングされた空間的位置における複数の異なる波長の光に関するデータの例を、データサブセット404に示す。データサブセット404は、当該組織部位の複数の画像を含んでいてもよく、それぞれの画像は、選択された複数の異なる周波数帯において、該組織部位から反射された光を測定したものである。データサブセット404の複数の画像は、同時に取得されたものであってもよく、本質的に同時に取得されたものであってもよい。「本質的に同時に」とは、時間差が1秒以内であることを意味する。イメージングされた空間的位置における、複数の異なる時間の組織部位からの反射光に関するデータの例を、データサブセット404に示す。データサブセット402は、1秒より長い時間、一般的には2秒より長い時間をかけて、複数の異なる時間にイメージングされた複数の画像を含む。データサブセット402の複数の画像は、選択された1つの周波数帯で取得されたものであってよい。場合によって、データサブセット404の複数の画像は、1秒より長い時間、一般的には2秒より長い時間をかけてイメージングされてもよく、データサブセット402の複数の画像は、複数の周波数帯でイメージングされてもよい。しかしながら、サブセット404およびサブセット402を含む、組み合わされたデータセットは、複数の異なる時間および複数の異なる周波数帯のいずれにも対応する画像を含む。
【0164】
データサブセット404の画像を収集するために、いくつかの代替案では、前記1以上のカメラは、パスバンドの異なる複数のフィルターを備えたフィルターホイールに連結される。該1以上のカメラが対象の組織部位の画像を取得する際、フィルターホイールが回転する。フィルターホイールの回転に応じて、フィルターの位置に同期した画像を取得することによって、該1以上のカメラは、異なるスペクトルバンドで対象を記録することができる。このようにして、カメラは、組織部位の各画素で反射された、複数の異なる周波数帯の光を受光する。実際に、多くの場合、本明細書に記載される装置は、これらのフィルターの使用によって、ヒトの目では識別できないスペクトルの光を解析できるようになる。多くの場合、これらの様々なスペクトルにおいて反射および/または吸収される光の量により、対象の組織または特定の組織部位の化学的組成および物理的組成についての手がかりが得られる。フィルターを使用して得られたデータが3次元データアレイを形成する場合もあり、このデータアレイの1つの次元はスペクトルであり、2つは空間的次元である。2つの空間的次元における各画素は、取得された各スペクトルバンドにおける反射光の強度によって特定されるスペクトルシグネチャーによって特徴付けることができる。様々な波長の光の強度は、ターゲットの組成についての情報を与える。これは、組成が異なれば、様々な周波数の光の散乱、吸収、反射、透過、および/または蛍光発光が異なることによる。これらの様々な波長の光を測定することによって、プローブ408は、画像の各画素に対応する個々の空間的位置における組成情報を捕捉する。
【0165】
データサブセット404とするために複数のスペクトルバンドで画像を取得する特定の代替案において、前記1以上のカメラは、ハイパースペクトルライン走査イメージング装置を含む。ハイパースペクトルラインスキャナは、フィルターホイールの各フィルターの分離したバンドの代わりに連続したスペクトルバンドを有する。このハイパースペクトルラインスキャナのフィルターは、CMOS画像センサーと一体化されていてもよい。場合により、該フィルターは、モノリシックに一体化された光学干渉フィルターであり、複数のフィルターが階段状に配置されている。場合により、該フィルターは、くさび状および/または階段状の形状である。場合により、400〜1100nmの波長(400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、もしくは1100nm、あるいはこれらの値のいずれか2つの間にある波長等)に対応する数十から数百のスペクトルバンドが存在することもある。イメージング装置は、それぞれのフィルターラインを使用して組織を走査し、組織からの反射光を、それぞれのフィルターを通して検出する。
【0166】
また別の代替案では、異なるスペクトルバンドの光のフィルタリングを行うための別のフィルターシステムを使用することができる。例えば、いくつかの代替案ではファブリペローフィルターが使用される。他のフィルター構成も、例えば、フィルターをタイル構造に配置したり、ベイヤーアレイまたはマルチセンサアレイのようなパターンでフィルターを画像センサー(CMOS、CCD等)上に直接配置したりして、使用することができる。
【0167】
いずれの場合も、フィルターのパスバンドは、得ようとしている情報のタイプに基づいて選択される。例えば、熱傷の部位および周囲の組織における血液、水、コラーゲン、およびメラニンの寄与を捉えるために、熱傷の部位は、壊死組織除去の各段階において、400〜1100nmの波長(400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、もしくは1100nm、あるいはこれらの値のいずれか2つの間にある波長等)でイメージングされてもよい。重症度の異なる中間層熱傷を観察するための、ブタ熱傷モデルを使用した特定の実験において、壊死組織除去プロセスをガイドするためには、約515nm、750nm、および972nmの波長の吸収スペクトルが所望され、一方、深達〜中間性中間層熱傷と、深達性中間層熱傷とを識別するためには、約542nm、669nm、および960nmの波長の吸収スペクトルが所望された。
【0168】
別の実験では、中間層熱傷を有するミニブタの成体のイメージングを行った。健康な皮膚、充血、移植可能、血液、重度でない熱傷、および重度の熱傷として組織を分類するために、健康な皮膚のサンプル、熱傷サンプル、および熱傷からの切除片のサンプルを使用した。実験において、「健康な皮膚」には、熱傷に関連する傷を有さない皮膚領域を含めた。「充血」は、灌流の多い領域に相当し、これは一般に、治療をせずとも治癒することが期待されるI度の熱傷に相当するものであった。「移植可能」のカテゴリーは、一般に、点状出血を有する淡いピンク色の皮膚に相当するものであった。この組織は、一般に、皮膚移植に望ましいものであった。「血液」のカテゴリーは、分類すべき組織を血液が覆っているために、溜まった血液を除去して再度イメージングする必要のある、やや広い部位に相当するものであった。「重度でない熱傷」のカテゴリーは、灌流が減少しているうっ血領域ではあるが、救済の可能性のある組織に相当するものであった。「重度の熱傷」のカテゴリーは、タンパク質が凝固して不可逆的な組織の喪失が生じ、切除が望ましい部位に相当するものであった。
【0169】
本開示の代替案を用いて、組織サンプルから反射された光を、400〜1100nmの範囲にある様々な波長(400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、もしくは1100nm、あるいはこれらの値のいずれか2つの間にある波長等)で測定し、種類の異なる組織間で反射光の量の差が大きくなる波長のセットを求めた。このような差は、組織のクラスを、少なくとも健康な皮膚、充血、移植可能、血液、重度でない熱傷、および重度の熱傷のカテゴリーへと効果的に分類するために使用できる可能性がある。最適なセットは、時には、重複の最も少ない、最も示差的な波長を含む波長セットとして特定された。これに関連して、最も示差的な波長は、特定の組織クラスを他のクラスから効果的に識別できる波長として見出された場合もあった。最小の重複は、同じ情報を測定した複数の波長のうち1つのみを含めることによって見出された場合もあった。波長のセットを用いて組織サンプルを分類した後、この分類を医師による組織サンプルの正確な評価と比較した。
【0170】
分類の精度を試験するために、異なる実験にわたるデータ分割を行った。実験の第1のセットでは、475nm、515nm、532nm、560nm、578nm、860nm、601nm、および940nmの波長の測定を行った。実験の第2のセットでは、420nm、542nm、581nm、726nm、800nm、860nm、972nm、および1064nmの波長の測定を行った。実験の第3のセットでは、420nm、542nm、581nm、601nm、726nm、800nm、972nm、および860nmの波長の測定を行った。実験の第4のセットでは、620nm、669nm、680nm、780nm、820nm、839nm、900nm、および860nmの波長の測定を行った。
【0171】
第1の実験セットと第2の実験セットにおいて、組織の分類に最良の変動を示した波長は、83%の精度で組織を分類するために使用された。これらの波長は、(相対的な重みの順に)726nm、420nm、515nm、560nm、800nm、1064nm、972nm、および581nmであった。同様に第3の実験セットと第4の実験セットにおいて、組織の分類に最良の変動を示した波長は、74%の精度で組織を分類するために使用された。これらの波長は、(相対的な重みの順に)581nm、420nm、620nm、860nm、601nm、680nm、669nm、および972nmであった。これらのセットのいずれにおいても、その精度は、臨床判断のための現在の標準的な信頼性(熱傷の深さを67〜71%の精度で測定する)よりも高かった。さらに、860nmの波長は、MSIのアルゴリズムにもPPGのアルゴリズムにも特に効果的であり、したがって、これらを組み合わせた装置にも効果的であることがわかる。これらの実験のセットから、400〜1100nmの範囲にある波長(400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、もしくは1100nm、あるいはこれらの値のいずれか2つの間にある波長等)は、効果的な組織分類に使用可能であることがわかる。前述の通り、他の波長セットも同様に有効でありうる。例えば、実験において有効であった波長セットを用いると、重複は最小限に抑えられた。したがって、他の波長も、組織のいくつかの特徴を効果的に分類するために使用できる。また、上記した実験を用いて、熱傷および/または本明細書に記載した他の組織状態を効果的に分類する他の波長を見出してもよい。
【0172】
概して言えば、上記の実験により、400〜900nmの範囲にある波長(400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、もしくは900nm、あるいはこれらの値のいずれか2つの間にある波長を含む)は、熱傷のイメージングに特に有効であることが見出された。さらに詳しくは、この範囲において、熱傷をイメージングするための波長セットを構成することができ、このセットにおいて、少なくとも1つの波長は500nm未満であり、少なくとも2つの波長は500〜650nmの間にあり、かつ少なくとも3つの波長は700〜900nmの間にあった。このセットは、熱傷をイメージングし、イメージングされた熱傷組織を複数のカテゴリーに分類することにおいて効果的であった。
【0173】
また、この実験に基づいて、試験した各波長を、分類における見かけの有意性の順に並べ、以下のランキングとして示す。
【表1】
【0174】
データサブセット420の画像を収集するために、前記1以上のカメラは、患者の生理学的事象または状態に相当する組織部位の動きに起因する反射光強度の経時的変化を測定できるような十分に短い時間間隔で、選択された数の画像を取得できるよう構成されている。場合によって、時間を置いて取得された複数の画像から得られるデータは3次元データアレイを形成するが、このデータアレイは、時間的次元を1つ、空間的次元を2つ有している。3次元アレイ内の各画素は、反射光強度の時間ドメインにおける変化によって特徴付けることができる。この時間ドメイン信号は、血圧、心拍数、血管抵抗、神経刺激、心臓血管の健康、呼吸数、体温および/または血液量に関連する異なる周波数成分において異なるエネルギーを有している。特定の代替案においては、ノイズを除去するために、フィルターを使用してもよい。例えば、室内における周囲光の主たる波長スペクトルに相当する光の波長を除去するために、860nmのバンドパスフィルターを使用してもよく、これにより、取得される画像は、プローブ408の光源に由来する反射光に応じたものとなる。このようにすることで、交流電源ラインの周波数に起因して周囲光に存在する60ヘルツの揺らぎのような、周囲光の揺らぎによる偽信号を低減および/または防止できる。
【0175】
画像取得および信号処理の有利な手順についてのさらなる詳細を、
図8を参照しつつ説明する。この図は、
図7の装置で実行されうるプロセスを示す。
図8は、組織を分類するためのいくつかの代替案において使用されるプロセスを例示するフロー
図600である。ブロック602および603は、いくつかの代替案において、例えば、プローブ408を使用して、複数のマルチスペクトル画像や時間分離画像(例えば、動画)が取得されることを示している。時間分離画像、例えば、データサブセット402において、全体としてノイズが少なく、信号対ノイズ比の高い信号を得るためには、比較的長い露出時間が望ましいことがわかった。特定の場合において、捕捉時間は27秒とされたが、これは従来のPPGイメージングプロセスにおける捕捉時間である7秒よりも長い。したがって、いくつかの代替案において望ましい捕捉時間は、少なくとも8秒、9秒、10秒、11秒、12秒、13秒、14秒、15秒、16秒、17秒、18秒、19秒、20秒、21秒、22秒、23秒、24秒、25秒、26秒、27秒、28秒、29秒、30秒、31秒、32秒、33秒、34秒、35秒、36秒、37秒、38秒、39秒、40秒、41秒、42秒、43秒、44秒、45秒、46秒、47秒、48秒、49秒、50秒、51秒、52秒、53秒、54秒、55秒、56秒、57秒、58秒、59秒、もしくは60秒であるか、これらよりも長いか、またはこれらの値のいずれか2つの間の時間である。この捕捉時間中にイメージング装置が捕捉する1秒当たりのフレーム数を、設定してもよい。状況によっては、1秒当たり30フレーム(30fps)または1秒当たり60フレーム(60fps)が、組織のイメージングにおいて効果的である。30fpsで27秒間であれば、イメージング装置は約810枚の画像を取得する。60fpsで27秒間であれば、イメージング装置は約1620枚の画像を取得する。いくつかの代替案では、取得する画像の枚数は、(例えば、ヒトの心拍を捕捉するために)必要とされるデータの分解能に依存することもある。例えば、CMOSカメラの場合、20〜120fpsが使用されてもよい。これは、20fps、30fps、40fps、50fps、60fps、70fps、80fps、90fps、100fps、110fps、もしくは120fpsまたはこれらの値のいずれか2つの間にあるサンプリングレートを含む。
【0176】
また、特定の代替案では、光の強度が高く、信号が飽和してパルス波形がマスクされる場所である照射スポットのために、光源の位置決めが重要であった。いくつかの代替案では、この問題は、散光器および他のフロントエンドハードウェア技術を用いることで解決できた。しかしながら、フロントエンド技術によって照射スポットを除去できない場合、いくつかの代替案では、照射スポットを除去するために、信号処理を行った。実際に、信頼性のある組織病理画像を作成するために、ノイズが除去される一方で、信号は望ましく保存され、表示される。このプロセスは、照射スポットに関するノイズおよび他の無関係な信号を除去することを含む。
【0177】
ブロック604において、時間分解型画像シーケンス(例えば、データサブセット402)は、処理のために、コントローラ/クラシファイヤ/プロセッサ412に送信され、ここでは、組織部位における血液灌流を計算するためのPPGアルゴリズムが使用される。このプロセスは、ノイズを除去し、目的の信号の部分を取り出して、信号対ノイズ比を押し上げるために、増幅、線形化、信号の平均化、相関、および/または1以上のフィルター(例えば、バンドパス、ハイパス、もしくはローパス)を含むことができる。過度のフィルタリングは不可欠なデータを除去することになり、フィルタリングが不十分であると信号の解析が困難になるため、フィルターの選択は重要である。相互相関および自己相関も、ノイズを除去するために使用することができる。いくつかの代替案では、後述するように、サンプル信号を使用してノイズを除去することもできる。次いで、この信号は周波数ドメインに変換される。例えば、いくつかの代替案では、高速フーリエ変換(FFT)が使用される。FFTの実行後、信号は周波数によって解析される。複数の時間分離画像にわたる、各画素での反射光強度の時間ドメインにおける変動は、様々な周波数において信号エネルギーを有している。これらの周波数、およびそれらが対応している生理学的事象は、画素によってイメージングされた組織位置におけるそのような生理学的事象の発生と強度の影響の指標となる。例えば、ヒトの安静時の心拍の周波数にほぼ等しい1.0ヘルツ付近のバンドに存在する画素の信号強度は、画像中の画素の位置にある組織への、あるいはその近傍での血流を評価するために使用することができる。
【0178】
いくつかの代替案では、関連する信号は極大値を見ることにより特定することができる。例えば、心拍数は、最も高いピークの周波数近傍のバンドにおける信号のエネルギーに注目し、該ピークが心拍に誘導される血圧の変化の一部であると仮定することによって見出された。しかしながら、この方法では、実際の心拍数の信号よりも高いピークを有すノイズを特定できないかもしれない。そのような場合、他の代替案では、ノイズ信号、ホワイトノイズ信号および他の信号の実例または参照データベースに基づいてコンピュータ学習やコンピュータトレーニングを行う信号処理が用いられる。このコンピュータは、当該信号をノイズから識別することを習得するために、関連する信号およびノイズの例について解析を行う。例えば、血流に関する信号を特定する場合、心拍と同じ周波数成分を有する信号であれば、関連している可能性がある。コンピュータ学習では、心拍をノイズから識別するために、心拍信号の例を利用したり、心拍信号の参照用データベースを参照したりする。コンピュータ学習プロセスは、そのような基準点およびデータベースを利用して、ホワイトノイズ、擬似心拍信号、および心拍信号よりも高いピークを有するノイズ信号を解析することもできる。コンピュータ学習は、周波数、振幅、信号対ノイズ比、ゼロ交差、代表的形状、または他の信号特性等の特徴に基づいて、信号を特定することができる。
【0179】
いくつかの状況では、信号を特定するために、さらなる比較が行われる。例えば、いくつかの代替案では、精選された臨床病期信号の編集が行われる。次いで、測定された信号を目的の信号またはノイズとして分類するために、精選された臨床病期信号と測定された信号との比較が行われる。実施されたさらなる技術的進歩は、エッジ効果の除去であった。いくつかの代替案において、画像の端部に粒状ノイズが見られ、目的の部位を所望の通りに際立たせることができない場合もあった。エッジ効果を除去すると、目的の部位は、より高い信号強度を示した。いくつかの代替案では、エッジの除去は、平均化、膨張と収縮、エッジの検出と強調を含む画像処理によって達成された。
【0180】
別の技術的な進歩は、動きアーチファクトの自動的な除去であった。動きアーチファクトは、患者の呼吸、患者の動き、または画像に歪みをきたす可能性のある、カメラもしくは患者の周囲の一般的な振動に関連する動きを含む。これらの動きアーチファクトを除去するために、信号の「ウィンドウ」処理を行った。これは、周囲の部分よりもはるかに大きく、かつノイズの多い時間ドメインの部位を特定し、それらの部位を「動き」として特定するものである。次いで、これらのセグメントを時間ドメインから切り取ることにより、動きアーチファクトのない修正信号が得られる。ノイズおよびそれ以外の不要な信号の部分を除去するために、別のフィルターや選択方法が使用されてもよい。この処理の後、所望の周波数(たとえば、一般に約1ヘルツ)において計算された信号エネルギーによって、組織部位(例えば、2次元の画素位置それぞれ)を、その画素位置における血液灌流を特徴付けるカテゴリーに分類することができる。
【0181】
いくつかの代替案では、ブロック602および604と実質的に同時に、さらにブロック603および605が実行される。ブロック603では、マルチスペクトルデータキューブ(例えば、
図7のデータサブセット404)を形成する画像の取得が行われる。このデータキューブは、MSIスペクトルバンドのそれぞれについての2次元画像を含む。このような代替案において、ブロック605では、次いでデータを分析するためにMSIアルゴリズムが適用され、ブロック614では、システムによって、組織部位のそれぞれ(例えば、2次元の画素位置それぞれ)に組織組成のカテゴリーが割り当てられる。
【0182】
ブロック616は、MSIとPPGの両方のデータに基づいて組織分類をするために、血液の潅流とブロック603および604からのMSIデータを組み合わせる。
【0183】
例えば、説明のために言えば、8枚のバンドパスフィルターの使用により、イメージングされた各画素に対して、選択されたスペクトルバンドにそれぞれ対応する8つの反射率値が生成されるようにしてもよい。また、赤外光または近赤外光波長(例えば、840nm、850nm、860nm、870nmもしくは880nm、またはこれらの値のいずれか2つの間にある波長を含む、840nm〜880nmの近傍)に中心波長を有するフィルターを使用して、1秒当たり30フレームのイメージングを27秒間行うことで、810枚の画像を取得してもよい。これら810枚の画像に対して、上述したように周波数ドメインにおける解析を行い、イメージングされた各空間位置における血液潅流を特徴付け、イメージングされた各画素の潅流値を生成するPPGデータを得てもよい。このように、イメージングされた組織部位の各画素は、8枚のバンドパスフィルターのそれぞれを用いて取得された測定値に対応する測定値と、局所的な血流に対応する値とを有する。したがって、各画素の測定値は合計9つとなる。これらの9つの測定値を使用して、画素を異なるカテゴリーに分割(例えば、分類)することができる。当業者であれば理解できるであろうが、各画素について任意の数(例えば、2つ、10、20、もしくはこれらのいずれか2つの間にある任意の数、またはそのいずれかよりも大きな数)の測定値を取得することができ、そのような測定値によって画素を分割してもよい。
【0184】
様々な分割法/分類法を使用できるであろう。一般に、クラシファイヤは、測定パラメータおよび適切な分類が既知である「トレーニング」データセットを使用してトレーニングされる。トレーニングされたクラシファイヤは、次いで、やはり測定パラメータおよび適切な分類が既知であるが、クラシファイヤのトレーニングには使用されなかった「テスト」データセットによってテストされる。クラシファイヤの質は、そのクラシファイヤがテストデータセットをどの程度正しく分類するかによって評価することができる。いくつかの代替案では、所定の数のカテゴリーを使用して、画素をそれら所定のカテゴリーへと分類することができる。例えば、トリアージ環境において熱傷を分類するために、健康な皮膚、充血、重度でない熱傷、および重度の熱傷のカテゴリーを使用してしてもよい。
【0185】
他の代替案では、カテゴリーの数は未知であり、プロセッサ112のようなプロセッサが、画素のグループ化、およびそれらの相対的な特徴に基づいてカテゴリーを作成する。例えば、プロセッサは、特定の波長において血流量がかなり少なく、正規化された画素強度がかなり低い組織部位を、周囲の測定値と比較したそれらの測定値を根拠として、重度の熱傷と関連があるものとして特定することができる。
【0186】
いくつかの代替案では、画素は、各カテゴリーにあらかじめ設定された値の範囲に基づいて分配される。例えば、光反射率の値の特定の範囲は、健康な皮膚と関連付けられてもよい。データがその範囲内にあれば、その組織は健康な皮膚として特定される。あらかじめ設定された範囲は、システム412上のメモリーに保存されていてもよく、ユーザによって入力されてもよく、またはシステム学習もしくは適合アルゴリズムによって自動的に決定されてもよい。いくつかの代替案では、カテゴリーは、データアップリンク、クラウド(本明細書で後述される)、または他の任意のデータソースのような外部のソースによってシステムに伝達される情報によって定義される。他の代替案では、各カテゴリーの値の現在の範囲は未知であり、プロセッサは、各画素における測定値を相互に比較し、それに基づいてカテゴリーの適合化を行う。
【0187】
いくつかの代替案では、適合アルゴリズムを使用して、共通の特徴を有するグループに画素を分類し、それらのグループを特定してもよい。例えば、グラフ理論を使用して、最小カットのようなグラフカットを見出すことによって、画素をカテゴリーに分類することができる。他の分割方法を使用してもよく、例えば、閾値化、クラスタリング(例えば、k平均法、階層的クラスタリング、ファジィクラスタリング)、流域アルゴリズム、境界検出、領域拡張、統計的グルーピング、形状認識、形態学的画像処理、コンピュータトレーニング/コンピュータビジョン、ヒストグラムベース法、およびデータをグループに分類するための当業界で既知である任意の分割法を使用することができる。
【0188】
いくつかの代替案では、分割にさらに情報を加えるために病歴データを使用してもよい。病歴データは、当該患者が以前に得たデータおよび/または他の患者から得られたデータを含んでいてもよい。特定の代替案では、皮膚の色、人種、年齢、体重、性別、および他の生理的な要因のような他のデータが、分割プロセスにおいて考慮される。いずれの場合にも、データはアップロードされてもよく、クラウドから得てもよく、別の方法でシステムに入力されてもよく、UI114が使用されてもよい。特定の代替案では、患者データの動的ライブラリが解析される。t−検定、f−検定、z−検定、またはその他任意の比較のための統計的手法を含む統計的手法を用いて、以前に特定された画像と取得した画像とを比較してもよい。このような比較は、例えば、測定された画素強度、画素の、画像内の他の画素に対する相対的測定値、および画素の分布を考慮して行うことができる。
【0189】
特定の代替案では、組織の分類を支援するために、熱傷のような組織の状態の典型的な画像で動的ライブラリが更新されてもよい。別の代替案において、それらの画像は、どのような組織状態を示しているか、またそれをどの程度明確に示しているかによって、指定され特定されてもよい。イメージングされた皮膚の状態における角度、質、および状態の差異を考慮するために、動的ライブラリには、異なる角度から撮られた様々な画像が含まれていることが望ましい。
【0190】
図8に戻るが、様々な出力データが、ユーザに提示されうる。そのようなデータとしては、PPGデータに基づくPPG潅流画像620、MSIデータに基づくMSI分類画像、通常のRGBデータに基づく白色光照射画像、およびMSIデータとPPGデータの組み合わせに基づく分類を示すMSI/PPG融合画像622が挙げられる。例えば、
図1〜
図6を参照しつつこれまでに説明したトリアージ装置において、
図3のディスプレイの出力212、214、216、および218は、組み合わせによるMSI/PPG融合分類画像622であってもよい。このような画像において、対象の組織部位(例えば、画素)はそれぞれ、上記した通り、健康、充血、重度の熱傷、および重度でない熱傷のような熱傷のカテゴリーに分類される。これに加えてあるいはこれに代えて、
図3に示すような、各カテゴリーにおける%TBSA等の出力データがユーザに提示されることもある。
【0191】
組織を分類する際に組成および生存率データの両方を用いることは、先行技術に対して大きな進歩である。
図9A、
図9B、
図9C、および
図9Dは、熱傷分類におけるそのような利点のいくつかを示すものである。ある実験では、中間層熱傷を有するミニブタの成体のイメージングを行った。
図9Aは、実験に使用した5つの組織サンプルの例である。
図9Aは、通常の写真用カメラを用いて撮影したものである。これらの画像は、受傷前(例えば、熱傷前)の組織表面、熱傷後の表面、ならびに熱傷に対して接線方向に3回の切除(1回目の切除、2回目の切除および3回目の切除)を行い、その表面を撮影したものである。同じ5つの組織サンプルを使用して、PPGの結果、MSIの結果、および本明細書に開示される特定の代替案による、組織をPPGアルゴリズムとMSIアルゴリズムの両方に基づいて分類する新しいシステムの結果を比較した。この実験の画像は、医師が独立して解析することのできる組織を撮影したものであるため、これらのイメージング装置の結果を比較することによって、組織の分類における異なるイメージング技術の効果を評価することができる。
【0192】
図9Bは、画像の各画素におけるPPGイメージングのデータのみを示す5つの画像の例である。画像は、PPGデータのみに基づいて組織を正しく分類することには限界があることを示している。このデータから容易に特定できるのは、血流が最少である、最も重度の熱傷組織のみである。組織部位808、810、812、および814は、血流が最少であるそのような組織部位の例であり、評価の結果、他の部位よりもかなり暗い色で示されている。これら以外の部位は、そのスペクトルにおいて、血流の読み取り値が最大と最小の間のいずれかの場所にあり、分類は困難である。
【0193】
図9Cは、画像の各画素におけるMSIイメージングのデータのみを示す5つの画像の例である。画像は、このMSIデータのみに基づいて組織を正しく分類することにも限界があることを示している。受傷前の画像において、実際には「健康な皮膚」であるべき組織の多くが「充血」として分類されている。熱傷の画像において、部位816は、重度の熱傷として正確に特定されている。しかしながら、部位818のようないくつかの部位は、「健康な皮膚」であるところを「重度の熱傷」として誤って分類されている。1回目の切除において、部位820のような部位は、「移植可能な創傷床」として分類されるべきであるところを「重度でない熱傷」として誤って特定されている。同様に、3回目の切除の部位820もまた、「移植可能な創傷床」として分類されるべきであるところを「重度でない熱傷」として誤って特定されている。
【0194】
図9Dは、本明細書に開示される特定の代替案による、少なくともPPGアルゴリズムとMSIアルゴリズムをいずれも利用する新しいシステムから得られたデータを示す、同じ5枚の画像の例である。この新システムは、受傷前の組織を「健康な皮膚」として正しく特定する。熱傷の画像において、新システムは、部位826の「重度の熱傷」である組織を囲む「充血」組織のリングとして部位824を正しく特定する。このリングは、PPGやMSIでは正しく特定されなかった。熱傷の画像において、新システムはさらに、実際には健康な皮膚であるところを「重度の熱傷」とする誤りを減少させた。同様に、1回目の切除の画像および3回目の切除の画像において、新システムは、移植可能な創傷床を正しく特定したが、これはMSI画像やPPG画像ではなされなかった。すなわち、MSIイメージング装置は、「移植可能な創傷床」とされるべき部位820および822を、「重度でない熱傷」として誤って分類した。新システムは、部位828および830として示されるこれら同一の部位を、「移植可能な創傷床」として正確に特定する。
【0195】
この実験の結果からわかるように、組成および生存率の両方に基づいて組織を分類する新しいシステムは、PPG単独およびMSI単独を含む先行技術よりも適切に、壊死組織除去の異なる段階における熱傷を分類した。このように、新システムは、先行技術における他のシステムおよび方法に対する、予想外の大きな進歩をもたらすものである。
【0196】
本明細書に記載されるいくつかの代替案の臨床用途の1つは、熱傷の分類である。
図10に、熱傷治療の流れを簡略化して示す。組織700は、組織に熱傷があることを示している。皮膚層702は、皮膚の表面に熱傷があることを示している。熱傷は、しばしば、皮膚の変色や表皮の喪失につながる。皮膚層702の下には、血液が供給されない変性した皮膚である組織層704が存在する。これは、時として凝固部、凝固壊死部、または焼痂と呼ばれる。これは、死んだ組織である。組織層704の近傍またはその周囲は、熱傷の程度に応じて、血流に変化をきたした別の組織でありうる。このような組織は、時としてうっ血部と呼ばれるが、うっ血部とは、凝固部の周囲に存在うる、細胞障害の程度が軽度な領域である。凝固部からさらに離れた、うっ血部の外側に存在するのは、組織が回復の可能性を有する充血部である。熱傷は、I度からIV度に分類され、I度の熱傷は表面に最も近く最も軽い熱傷であり、IV度の熱傷は筋肉や骨に達する最も重度の熱傷である。
【0197】
重症度の異なる熱傷の間の微妙な違いは、識別が可能であったとしても、肉眼での識別は困難なことがある。実際に、早期の段階では、熱傷の全体的な影響は皮膚の奥深くに隠されており、外科的介入なしには、熱傷の程度、さらには熱傷組織の有無さえ、ほとんど判断できない。しかしながら、重症度の違いにかかわらず、熱傷の治療では、時間が最も重要である。実際に、早期の治療により、熱傷の回復に大きな差が出ることがある。
【0198】
いくつかの代替案は、熱傷の重症度の評価および特定に有効である。実際に、本明細書に記載された装置は、熱傷の物理的位置を把握し、熱傷の重症度(例えば、熱傷の程度、およびそれが表皮熱傷であるか、浅達性中間層熱傷であるか、深達性中間層熱傷であるか、または全層熱傷であるか)を含む特徴を判定し、かつ熱傷の総体的%TBSAまたは重症度ごとの%TBSAを見出すことができる。上述の通り、皮膚組織の性質や特性は熱傷後に変化する。その結果、組織の様々な層が光を吸収し、反射する様子は、組織の種類によって、また熱傷の程度によって異なることとなる。このような場合、本明細書に記載のいくつかの代替案の高分解能マルチスペクトルカメラであれば、これらの差異を捉え、それを用いて皮膚の組成を評価し、熱傷の種類および熱傷の重症度を特定することができる。しかしながら、この情報だけでは、熱傷の重症度の評価が不完全となることがある。先に述べたように、熱傷の重症度は、現時点での皮膚の損傷の程度のみならず、組織への血流の有無にも関連する。したがって、いくつかの代替案で用いられる高分解能マルチスペクトルカメラは、望ましいことに、組織部位への血流を測定することもでき、皮膚組成および血流の情報を組み合わせることによって、熱傷の有無および熱傷の重症度をより詳細かつ正確に判断することができる。
【0199】
メス706は、熱傷の処置を行う方法の一例である。壊死組織除去術によって、死んだ組織、損傷組織、感染組織、壊死組織、または壊死しかかっている組織を切除し、残った健康な組織の治癒を改善し、促進する。実際、先にも述べたように、組織の切除の過不足によって生命が脅かされる結果となることがある。熱傷の切除が不十分であると、失活した組織に移植片を載せることになり、移植片の生着が悪くなる。熱傷の切除が不十分であると、さらに、感染症のリスクの増加および/または治療が長引くことにつながる。一方、過度に切除してしまうと、過剰な失血や切除面からの出血につながることがあり、移植片の生着不良を招きうる。本明細書に記載の装置は、健康な組織と切除する必要がある組織との境界を定量的に特定する方法を提供する。これは、組織の評価に関して専門家の主観的な意見に依拠している当技術分野の現状に対する進歩である。
【0200】
この例では、熱傷708を切除し、創傷床710を残す。死んだ組織を除去した後、きれいになった創傷床712は、移植の準備のできた状態となるが、この移植は、健康な組織を切除部位に移植し、組織の回復を助けるものである。実際に、本明細書に記載された装置および手法の利点は、外科的介入および移植の前に、熱傷の非専門家が非侵襲的なツールを用いて熱傷の重症度を迅速に評価できることである。
【0201】
図11は、本明細書に記載の装置のいくつかが移植片の生存率評価に使用される応用例を示す。いくつかの代替案で使用される移植片は、組織または再生細胞の移植物であり、幹細胞、内皮細胞、内皮細胞前駆体、および/または単離、富化、もしくは濃縮された形態にあるこれらの細胞の混合物、または補綴物、支持物、もしくは医療装置を包含しうる。いくつかの代替案で使用される移植片は、足場、補綴物、または医療装置とともに、組織および/または上記細胞を含んでもよい。組織の移植時に血液供給が得られない場合、移植が成功すれば、移植片を支持する周囲の組織によって新たな血液供給がなされるであろう。いくつかの用途は、幹細胞、内皮細胞、内皮細胞前駆体、および/または単離、富化、もしくは濃縮された形態にあるこれらの細胞の混合物を包含しうる再生細胞の導入を含み、この移植片は、前記細胞が、例えば血管新生または動脈形成によって新たな血液供給を直接的または間接的に生じる能力によって血液を供給することができる。いくつかの用途は、移植片および/または再生細胞の利用を含み、該再生細胞は、幹細胞、内皮細胞、内皮細胞前駆体、および/または単離、富化、もしくは濃縮された形態にあるこれらの細胞の混合物を、単独で、またはFGF、HGF、もしくはVEGFのような1以上の成長因子が補充された足場、補綴物、もしくは医療装置と組み合わせて含んでもよい。本明細書に記載の装置は、移植片がうまく取り込まれたか否か、または移植片が拒絶されて壊死組織になるか否かによって、移植片を分類することができる。画像900は、本明細書に記載の代替案によって生成した画像であり、組織部位は、複数の異なる時間および複数の異なる周波数帯域のいずれにも対応するようイメージングされている。画像上の色は、血液が供給されている健康な組織の存在を示している。これとは対照的に、画像902は、血液が供給されていない不健康な組織を示しており、移植に失敗したことがわかる。
【0202】
本明細書に記載される装置の別の臨床用途は、圧迫潰瘍または床ずれとしても知られる褥瘡潰瘍の分類である。この創傷は、組織に圧力が加わることによって生じ、その結果、組織への血流が妨げられる。この閉塞の結果、組織の壊死および喪失が起こる。これにより、多くの場合、後の段階になって組織の色が目に見えて変化する。褥瘡潰瘍は、喪失した組織の量に関連してI度からIV度に分類されることもある。
【0203】
褥瘡潰瘍の特定が困難であるのは、閉塞の初期には、組織の表面から容易には認められない組織の変化が生じうることによる。本明細書に記載の装置は、進行の早期の段階にある褥瘡潰瘍の特定に効果的であり、これにより、早期の予防的処置が容易になる。
図12に、褥瘡潰瘍の存在または誘導を特定し、異なる段階にある褥瘡潰瘍を分類するための、本明細書に記載の装置の応用例を示す。画像800は、皮膚組織に組織分類データを重ね合わせた図である。色のついた部分は、表面下に褥瘡潰瘍があることを示す。本明細書の記載の通りに製造した装置を用いて、複数の異なる時間および複数の異なる周波数帯域で光反射率を読み取ることによって分類を行ったところ、組織の組成における差異および組織への血流の差異を検出することができた。画像806は、13日後の組織表面の写真であり、この患者はII度の褥瘡潰瘍を有している。
【0204】
組織への血流が妨げられる褥瘡潰瘍とは対照的に、組織に存在する血液が多過ぎることもある。充血は、紅斑として現れることもあるが、組織への血流が増加するものである。これは、腫れ、変色、および壊死につながることがある。また、毛細血管および静脈のうっ血、組織における過剰なヘモジデリン、および線維症を伴うこともある。本発明の代替案は、充血している組織を初期段階に特定し、評価する上で有効である。ここでもまた、組織への血流とともに、組織の性質や特性の変化を検出できるという組み合わせにより、これらの代替案では、充血している組織の重症度を容易に特定し、評価することができる。
【0205】
本明細書に記載される代替装置は、組織の分類および評価が必要とされる医療分野において、他にも多数の用途がある。熱傷、褥瘡潰瘍、および充血と同様に、他の種類の創傷もまた、本発明の代替装置によって分類し、評価することができる。そのような創傷には、擦過傷、断裂、出血、裂傷、穿刺傷、穿通創、慢性創傷、または組織への血流の変化に伴って組織の性質および特性が変化する任意の種類の創傷が含まれる。本明細書に提示する代替装置は、組織の生存率に関する生理学的情報を、単純な画像フォーマットで医療従事者に提供する。創傷部位における血液灌流および酸素化等の情報は、創傷治癒の重要な指標である。皮膚の下に隠されたこれらの血行動態特性を画像化することにより、医師は、創傷治癒の進行をよりよく知ることができ、得た知識に基づいてタイムリーな患者ケアの決定を下すことができる。同時に、本明細書に記載されたいくつかの装置によって、皮膚の状態を表す皮膚組成に関する情報を得ることができる。
【0206】
本明細書に記載のいくつかの装置の使用は、損傷組織が存在する用途に限定されるものではない。実際、いくつかの代替装置は、健康な組織を検出して、該健康な組織を壊死組織や壊死しかかっている組織と識別するものであってもよい。
【0207】
健康な組織が分類され、評価されうる場の1つは、創傷や皮膚の疾患との比較にある。例えば、熱傷に伴い、該熱傷に関連して、あるいは該熱傷と並んで、健康な組織の部位が存在するかもしれない。健康な組織と、壊死組織または壊死組織となる運命にある組織との境界がどこにあるかを特定できることは、熱傷の診断および治療のいずれにも有用である。複数の異なる時間および複数の異なる周波数帯域の両方で皮膚をイメージングし、皮膚の組成ならびに当該組織部位での血液灌流および酸素化を評価することにより、健康な皮膚を特定することができる。
【0208】
本明細書に記載される代替案では、移植組織または再生細胞移植物としての成功の見込みに基づいて組織を分類してもよい。この分類では、レシピエント組織の性質および特性に加えて、レシピエント組織が新たな血液供給を受け入れる能力も考慮される。代替案では、組織が移植片または再生細胞移植物のために新たな血液供給を形成する可能性、および皮膚が全般的にどの程度健康であるかに基づいて、受容組織を分類することもできる。移植組織と受容組織、いずれの分類においても、本明細書に記載のいくつかの装置は、複数の異なる時間および複数の異なる周波数帯域に対応する複数の画像を解析することができる。
【0209】
単に組織の健康状態を分類することに加えて、本明細書に記載される代替案では、皮膚のある部位における厚さのような、組織の様々な態様を測定してもよく、皮膚の肉芽組織を評価してもよい。別の例では、本明細書に記載の装置を用いて、縫合箇所の周囲組織の健康状態および縫合箇所の治癒状態を、監視して評価することができる。
【0210】
本明細書に記載のいくつかの装置の別の用途は、組織の治癒を監視することである。本明細書に記載される装置は、創傷がどのように変化するか、または健康な組織がどのように形成されるかを監視するために、多数の時点において複数の画像を取得することもできる。場合によっては、ステロイド、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、抗生物質、幹細胞および/もしくは内皮細胞を含む単離もしくは濃縮された細胞集団、または組織移植片のような治療剤を、創傷または他の疾患を治療するために使用してもよく、本明細書に記載の装置を使用してそのような治療を監視することもできる。いくつかの代替案では、特定の治療の実施前、実施中または実施後の組織の治癒を評価することによって、治療剤の有効性を監視することができる。いくつかの代替案では、複数の異なる時間および複数の異なる周波数帯で複数画像を取得することにより、これを行う。これらの画像により、皮膚から反射された光を用いて、組織の性質および特性ならびに組織への血流を評価することができる。その結果、本明細書に記載の装置は、組織がどのように治癒しているか、ならびに治療剤が治癒過程を促進する効果および速度についての貴重な情報を与えることができる。
【0211】
いくつかの代替案を使用して、左心室補助装置(LVAD)の導入、およびそのような移植を行った後の治癒プロセスを監視してもよい。LVADの流量が増加すると、拡張期圧は上昇し、収縮期圧は一定のままであり、脈圧は減少する。収縮期圧と拡張期圧の差である脈圧は、左心室の収縮性、血管内容積、予負荷、および後負荷圧、および送出速度の影響を受ける。したがって、動脈血圧値および波形の評価は、LVADと心臓血管系との生理学的相互作用に関する貴重な情報を提供する。例えば、不十分な左心室機能は、脈動性を示さない動脈波形に関連する。本明細書に記載の代替案は、LVAD移植後の患者における脈動流の戻りの監視に使用することができ、患者の回復を監視して支援する上での強力なツールを提供することができる。
【0212】
特定の代替案は、整形外科手術における組織の移動および再建処置の術中管理を提供するために使用されてもよい。例えば、乳癌患者の治療において、全乳房切除およびその後の乳房再建が必要となることがある。乳房再建に伴う合併症は50%もの高い比率で起こることが報告されている。本明細書に記載の装置により、移植片を受け入れようとしている組織と移植組織自体とをいずれも評価することが、容易になりうる。このような代替案における評価は、上記の手法を使用して、組織の健康状態および質、ならびに血液灌流および酸素化を注視するものである。
【0213】
特定の代替案を、慢性創傷の治療の解析を容易にするために使用してもよい。慢性創傷の患者は、費用のかかる先進医療を頻繁に受けるが、その効果を測る尺度はない。本明細書に記載される代替案では、上述のイメージング技術を用いて慢性創傷の画像化を行い、創傷の大きさ、創傷の深さ、創傷組織の存在、および健康な組織の存在を含む、慢性創傷の定量的データを得ることができる。
【0214】
本明細書に記載される特定の代替案は、四肢の退行を特定する際に使用されてもよい。このような用途では、画像から四肢の末梢灌流が識別される。これを使用して、正常な四肢の健康状態の監視のみならず、成長因子(FGF、HGF、またはVEGF)および/または再生細胞の導入のような特殊な治療が必要となりうる、四肢における末梢血流不全(例えば、四肢虚血または末梢血管疾患の部位)を検出することもできる。再生細胞としては、幹細胞、内皮細胞前駆体、内皮初原細胞、またはこの種の細胞を含む濃縮または単離された集団が挙げられるが、これに限定されるものではない。これにより、早期の治療が可能となり、四肢の切断が避けられる場合もある。その他の、より重篤な症例において、医療専門家が十分な情報に基づいて四肢切断の必要性の有無を決定するためのデータを提供する場合もある。
【0215】
本明細書に記載の装置の別の用途は、血管攣縮(すなわち、血管の狭窄)を起こした患者に生じるレイノー現象の治療に関する。血管攣縮は、典型的には、指に血液を供給する指動脈で起こるが、足、鼻、耳、および唇にも現れることが知られている。いくつかの代替装置は、レイノー現象を有する患者を正確に特定することができ、これは診断のどの段階においても有用である。
【0216】
いくつかの代替装置は、がん細胞の存在、がん細胞の増殖、転移、腫瘍負荷、またはがんのステージの特定、分類、または評価のために、また、治療後におけるがん細胞の存在、がん細胞の増殖、転移、腫瘍負荷、またはがんのステージにおける低減の特定、分類、または評価のために使用されてもよい。このような代替装置は、組織から反射された光を測定して皮膚の組成を決定するが、皮膚の組成は、がん細胞に関連する異常な組成を反映しうるものである。代替装置はまた、複数の異なる時間に取得された複数の画像を評価することによって、がん細胞への血流を測定することができる。血流は、がん細胞の存在、がん細胞の増殖、転移、腫瘍負荷、またはがんのステージに関連する、組織への異常な血流を示しうる。がん細胞を除去した後、本発明の代替装置を用いて回復の監視を行ってもよく、監視対象には、健康な組織の増殖およびがん細胞の再発が含まれる。
【0217】
前述の代替装置の特徴は、研究室や診療所においても試験され、良い結果が出ている。例えば、脈動性血流に起因する組織の動的変化を機械的に模倣する光学組織ファントムを用いた実験において、本明細書に記載の装置は、レーザードップラーイメージングよりも光透過が大きく、また、組織ファントム材料の下で鼓動する流体の流れを正確に検出した。この実験では、40〜200bpm(0.67〜3.33Hz)の範囲の脈動流を試験することで、安静時から運動時または労作時の早い速度に至る、ヒトの心拍数の全範囲を試験した。
【0218】
また、ブタの熱傷モデルで実施した、様々な重症度の熱傷をイメージングした実験では、本明細書に記載の代替装置が生成した画像を、参照ライブラリおよびコンピュータトレーニングとともに用いることにより、健康な皮膚、充血、1.0mmを超える熱傷、1.0mm未満の熱傷、血液、および健康な創傷床に相当する部位が正確に特定された。これらは、壊死組織除去術を実施する際に外科医が遭遇する種類の組織であった。
【0219】
さらに、上記の状態のいくつかについて、本明細書に記載の装置を用いて臨床試験を実施した。この試験の参加者は、心胸郭の手術後にイメージングされた。選定基準は、以下の通りであった。18歳以上;現在、心胸郭手術後の入院中であるか、またはその予定がある;除外対象でない大きさの創傷を有するか、または創傷の発生につながるリスクを有している。リスク因子には、循環不良、組織の機械的ストレス、温度、湿度、感染症、投薬、栄養、疾患、年齢、および体型が含まれていた。選定基準を満たす創傷としては、皮弁による創傷、熱傷による創傷、院内発生創傷、褥瘡潰瘍、足の糖尿病性潰瘍、および末梢血管機能不全の症例が含まれる。対象は、最長3か月間にわたって、定期的に実施される30分間のセッションにおいてイメージングされた。組織の変化の速度を監視するために、週に最高3回のイメージングを行った患者もあった。以下に、本試験で行われた観察の一部をまとめる。
【表2】
【0220】
本明細書に記載されるいくつかの代替案の特徴は、当該装置を、組織の状態の1以上の参照点を含む動的ライブラリと連結できることである。場合により、動的ライブラリは、健康な皮膚組織に関する情報を含む基点画像を含んでいてもよい。動的ライブラリは、さらに、創傷または皮膚疾患の進行および/または治癒を確認するための比較点として、創傷または皮膚疾患の様々な画像を含んでいてもよい。動的ライブラリは、さらに、正常心拍数、異常心拍数、ノイズ信号、健康組織に相当する信号、および不健康な組織に相当する信号のサンプル等、関連する信号のサンプル信号を含んでいてもよい。
【0221】
いくつかの代替案では、動的ライブラリ内の画像は、本明細書で記載される装置によって撮られた別の画像またはデータである。いくつかの代替案では、動的ライブラリは、本発明の態様ではない装置によって撮られた画像および/またはデータを含む。これらの画像は、対象を評価したり、または治療したりするために使用することができる。
【0222】
動的ライブラリの一例を
図13に示す。
図13において、イメージング装置1000は、クラウド1002に接続されている。イメージング装置1000は、本明細書で記載されるような装置であってもよく、動的ライブラリに接続された他の任意のコンピュータまたはユーザ装置であってもよい。場合により、クラウド1002は、複数のデータセンターを含むプログラム実行サービス(PES)を含んでいてもよく、各データセンターは1以上の仮想デスクトップを実行するよう構成可能な1以上の物理的コンピュータシステムを含み、各仮想デスクトップは1以上のアプリケーションを実行するよう構成可能なオペレーティングシステムを含むコンピュータ環境に関連付けられ、PESのユーザのコンピュータ装置は、ネットワークを介して各仮想デスクトップにアクセスすることができる。クラウドは、計算と記憶とを同期させるための他のアプローチを含んでもよい。
【0223】
データパス1004は、イメージング装置1000とクラウド1002との双方向接続を示す。クラウド1002自体が処理コンポーネント1006を有し、処理コンポーネント1006は、クラウド1002が信号を受信し、データを処理し、ソートアルゴリズムを実行し、動的ライブラリが1以上のコンピュータ装置と同期されるべきか否かを示すメタデータを生成するものである。
【0224】
いくつかの代替案では、データ解析および分類はクラウド内で実行される。そのような解析は、得られた信号と比較するためのサンプル信号に関するデータの収集を含みうる。そのようなサンプリングは、得られた信号の組織部位を分類する際に使用することができる。他の代替案では、処理コンポーネントは、データ収集サイトでローカル処理を実行するために、イメージング装置1000に搭載されていてもよい。
【0225】
動的ライブラリのデータの収集と解析に加えて、処理コンポーネントは一般的な誤差データおよび計算結果を含んでいてもよい。誤差は、ローカルサイトで計算してクラウドに集約したり、クラウドで計算したりすることができる。状況によっては、特定の分類モデルの誤差閾値を確立することができる。閾値は、第一種過誤および第二種過誤(すなわち、偽陽性および偽陰性)の結果ならびに臨床的信頼性の基準を考慮したものである。
【0226】
処理コンポーネント1006は、また、データの解析を行ってもよい。クラウド1002はまた、データコンポーネント1008を有し、データコンポーネント1008は、動的ライブラリ自体の情報を含み、またアップデートを受け取る。データコンポーネント1008と処理コンポーネント1006は、互いに連結されている。
【0227】
別のソースおよびレポジトリがクラウドに接続されていてもよい。この例では、エンティティ1012もまたクラウド1002に接続されている。エンティティ1012は、クラウド1002に接続されたシステム1000のような任意の装置またはシステムのシステム機能を向上させるためのアップデートおよびアルゴリズムを提供することのできるエンティティである。学習と経験を通じて各段階の方法をアップデートすることにより、全体の誤差を低減させてもよい。エンティティ1012は、複数の分類アルゴリズムの変更を同時に迅速に評価し、全体的な向上を図ってもよい。また、新たな臨床用途のための新たなデータセットおよびモデルをアップロードしてもよい。また、エンティティ1012は、システム1000、またはクラウド1002に接続された任意の装置またはシステムをアップデートして、例えば、凍傷を解析する等の新たな治療用途のためにデータを取得し、該データを解析することができる。このようにして機能を拡張し、科学的知識の向上にシステムを適応させることができる。
【0228】
さらに、本明細書に開示された様々な態様は、組織ファントムおよび動物モデルを用いた実験において、その有効性が実証されている。これらの実験により、本明細書の代替案は、少なくとも熱傷の治療に有効でありうることが実証された。以下の非限定的な実施例は、説明を目的として提示される。実施例は、実施した実験のさらなる詳細を提供するものである。
1.実験1.1 実施例1:組織ファントムおよび動物モデルにおける、スポットライト照射および平面照射を使用した実験1.1.1 材料および方法【0229】
この研究におけるPPGシステムは、3つの機能モジュール、すなわち、照射、センサー(CMOSカメラ)、およびイメージングターゲットからなる。照射モジュールおよびセンサーモジュールは、ターゲットに対して同じ側に配置される(すなわち反射モード;
図14A−14C)。オブジェクトに入射する光ビームはターゲット内で散乱し、後方散乱された光信号がカメラによって捕捉される。不透明な媒質中に埋没したイメージングターゲットは経時的な変化を示し(すなわち、脈動性血流によって血管の容積が変化する)、後方散乱光の強度に変調が起きる。
1.1.1.a. 照射モジュール【0230】
3つの異なる照射モジュールを比較する:1)単一波長のLEDダイオードを用いたスポットライト照射;2)広いスペクトルのタングステン電球を用いた平面照射;3)高出力単一波長LEDエミッタを用いた平面照射。3つの照射モジュールには、時間当たりの強度振動が1%未満である高安定性DC電源によって電力が供給される。
【0231】
図14A−14Cは、反射モードで動作するベンチトップシステムを示す。
図14Aのダイアグラム1400は単一波長LEDスポットライトを示し、
図14Bのダイアグラム1401はタングステン電球を示し、
図14Cのダイアグラム1402は高出力LEDエミッタを示す。照射下のオブジェクトは光学的に不透明な媒質であり、より不透明なオブジェクトが深さ=dに埋没している。
1.1.1.a.i. 単一LED【0232】
850nmの単一LEDダイオード(例えば、KCL−5230H、Kodenshi
AUK)を、オブジェクトの表面(例えば、ダイアグラム1400)からの距離D1=18cmのCMOSカメラ(例えば、Nocturn XL、Photonis USA)と並べて固定した。LEDの全放射角12度は、センサーの視野内で、中心のずれた直径約3.8cmのスポットサークルを生成する。円形照射スポットの中心はFOV内にあるが、ターゲットの中心からわずかにずれている。
1.1.1.a.ii. タングステン電球【0233】
タングステン−ハロゲン電球(例えば、ViP Pro−light、Lowel Inc.)を、オブジェクト(例えば、ダイアグラム1401)からの距離D2=60cmのカメラ(例えば、BM−141GE、JAI Inc)に隣接するよう取り付けた。電球の投影指向性を低減させ、より均一にターゲットを照らすために、擦りガラスディフューザ(例えば、モデル:iP−50、Lowel Inc.)を2枚、電球の正面に取り付けた。照射領域は、カメラのFOVよりも広く、照射の空間的均一性は、スポットLEDよりも良好であった。
1.1.1.a.iii. 高出力LEDエミッタ【0234】
4つの高出力モノリシックLEDエミッタ(例えば、SFH4740、OSRAM)を、同軸モードでセンサー(例えば、Nocturn XL、Photonis USA)と同じ平面に取り付けられた2×2アレイに配置した。LEDエミッタアレイは、ターゲットの表面(例えば、ダイアグラム1420)からD3=30cmの位置に、カメラとともに配置された。空間強度の変化は15%未満に低減された。カメラのFOVは光学レンズによって制御され、照射領域よりもわずかに狭かった。
1.1.1.b. システムの構成【0235】
LEDスポットライトまたはLEDエミッタを使用するシステムでは、モノクロCMOSカメラ(例えば、Nocturn XL、Photonis USA)を検出器として使用した。これは、暗騒音が低く、ダイナミックレンジ高いものである。10ビットのADC分解能によって得られる信号対ノイズ比は60dBである。タングステン光照射システムの場合、カメラ(例えば、BM−141GE、JAI Inc.)は、同等のダイナミックレンジ(58dB)およびNocturn XLカメラと同じ10ビットのADC分解能を提供する。これら2台のカメラで撮影された画像は、1280×1040(アスペクト比5:4)にトリミングされた。タングステン照射システムは、FOVを制御するために望遠レンズ(例えば、Distagon T
*2.8/25 ZF−IR、Zeiss Inc.)を利用したが、これは、タングステン光のイメージング距離が、タングステン電球によって生じる熱のために、他の2つの構成よりも長いことによる。
【0236】
これら3つのシステム構成において、カメラは垂直下向きに、オブジェクトの表面に対面するよう取り付けた。システム間の比較のために、20×16cmの共通FOVの制御を行った。各システム構成におけるカメラの露出時間は、反射率参照標準(例えば、反射率95%の標準パネル;Spectralon SG3151、LabSphere Inc.)を用いて較正した。露出時間は、各カメラのダイナミックレンジの全範囲を利用するように調整された。
1.1.1.c. ファントム【0237】
図15は、ペトリ皿に入った組織ファントムと、ヒトの脈動血流をシミュレートするためのファントム装置とを示す。組織ファントム1500はペトリ皿の中にあり、この均質なファントムの下には弾性チューブがあり、皮膚の下の血流を模倣している。ファントム装置1501は、実験室内でヒトの脈動性血流をシミュレートするように設計されている。蠕動ポンプが運動流体を送り出し、ゼラチン−イントラリピッド組織状ファントムマトリックスの8.0mm下で脈動する弾性ファントム血管を通過させる。チューブの弾力性により、ヒトの動脈と同様、ファントム血管における約2%の容積膨張が、蠕動ポンプの各サイクルで生じる。
【0238】
皮膚の表面下を流れる血液を模倣するように、組織状ファントムモデルを設計した。組織ファントムマトリックスは、Thatcherらに従って作製した(
図15)。簡単に説明すると、トリス緩衝生理食塩水(例えば、pH7.4,Alfa Aesar)中の10(w/v)%のゼラチン(例えば、Bタイプ、JT Baker)を、滅菌したIntralipid脂肪乳剤(例えば、20(w/v)%、Baxter)と混合する。Intralipidの終濃度が20%となるように調節した。さらに、組織の吸収特性を模倣するよう、0.2%の運動標準(例えば、ポリスチレンビーズと墨汁との混合物)をゼラチンマトリックスに加えた。この混合物をペトリ皿(例えば、Novatech、直径150mm)に注ぎ、均質なバックグラウンド媒質を形成した。血管を模倣する内径1.58mmのSilasticチューブ(例えば、Dow−Corning)を、表面からd=8mm下に配置した。ポンプサイクルごとに、内径は約2%拡大するが、これは心臓周期における末梢動脈の直径の変化を模倣するものである。
【0239】
脈動性心臓周期を模倣するために、チューブ内の吸収性血液状流体を、40ヘルツの2ローラー蠕動ポンプ(例えば、Watson Marlow、Model#sciQ32)によって送り出した。これは、ヒトの正常な心拍数80bpmを模倣している(
図15)。ファントム血管を通るこの脈動流がPPG信号を生成し、PPGイメージング装置による測定の対象となる。
1.1.1.d. 動物モデル【0240】
図16は、円形状の動物の皮膚におけるインビボ熱傷と壊死組織除去術モデルを示す。ハンフォードブタは、その皮膚がヒトの皮膚と解剖学的に類似していることから、動物モデルとして選択された。このブタの表皮の厚さは30〜40μmであり、これはヒトの表皮の50〜120μmに近い。さらに、血管構造および細胞外マトリックス組成物が、ヒトの皮膚と似ている。この動物の取り扱いは、「実験動物の人道的取り扱いと使用に関する公衆衛生局(PHS)方針」に従った。処置は、設備の整った大動物手術室で実施した。この熱傷モデルおよび研究プロトコルは、動物実験委員会(IACUC)によって承認された。
【0241】
温度と圧力を制御した黄銅棒を用いて、熱傷モデルを準備した。黄銅棒をオーブンに入れて100℃に加熱し、ブタの背中の皮膚に0.2kg/cm
2の圧力で60秒間押し付けた。この方法により、深達性中間層熱傷が生じた。創傷部位は、直径3.6cmの深達性中間層熱傷を含んでいた(
図16)。照射の均一性およびPPG信号強度を比較するために、各イメージングシステムを用いて、熱傷の画像を収集した。
1.1.1.e. 画素による比較【0242】
図17は、時間分解されたPPG信号の抽出を示す。ダイアグラム1700は、800個の偶発フレームから順次抽出された画素(x,y)における強度を示す。ダイアグラム1701は、PPG信号を定量化するための処理方法を示す。
【0243】
1秒当たり30フレームのフレームレートで、800枚の一連の画像を取得し、非圧縮のTIFFファイルとして保存した。PPG信号強度は、画素ごとに計算した。PPG信号および画像を処理するための重要なステップは、次の通りである(
図17)。(1)DCワンダリングを除去する、トレンド除去;(2)データ量を縮小するための、時間ドメインにおけるダウンサンプリング;(3)信号のフィルタリング;(4)時間分解信号を周波数ドメインに変換する高速フーリエ変換(FFT);(5)スペクトルパワー、特に心拍数に相当する周波数におけるスペクトルパワーの抽出;(6)高周波数帯域(ノイズとみなす)における強度の合計に対する心拍帯域における強度の合計の比を信号対ノイズ比(SNR)として計算;(7)PPG画像出力では、カラーマップを使用して、各画素のPPG SNRを表示。その色は、単一の画像内で最低の信号から最高の信号まで直線的にマッピングされている。
【0244】
信号処理は、MATLAB(バージョン2014a,MathWorks,Inc.,USA)を用いて行った。
1.1.2. 結果1.1.2.a. 照射パターンの評価【0245】
3つの照射モジュールの光パターンを特徴付けるために、拡散反射パネル(SPECTRALON(登録商標),LabSphere Inc.)をカメラおよび光源の下に配置した。パネル面はカメラに対して垂直とした。
【0246】
図18A−18Cは、平坦な反射パネルをイメージングターゲットとして用いた場合の、LEDスポットライト(不均一照射)(
図18Aの画像1800)と、タングステン光(均一照射)(
図18Bの画像1801)と、LEDエミッタ(改善された均一照射)(
図18Cの画像1802)との空間照射強度の比較を示す。
【0247】
照射パターンの画像は、3つの照射モジュール間で異なっていた(
図18)。LEDスポットライトの反射パターン(画像1800)では、FOV内に非常に明るいスポットがあり、高輝度領域であることを示すが、その周囲の領域は、光源から遠ざかるほど暗くなっている。単一のLEDを使用すると、LEDエンクロージャ構造の存在に起因するさらなる影がターゲット上に現れる。影の存在は、照射の均一性をさらに低下させる。タングステン光(画像1801)を用いると、照射パターンはスポット照射よりも均一になり、FOV内の影の影響は除去された。LEDエミッタ(画像1802)では、照射強度の差は最小であることが観察された。空間的変動は15%未満に制御され、時間的安定性もよく制御されて、変動は1%未満であった。
【0248】
図19は、3つの照射パターン間の強度プロファイル線の比較を示す。SPECTRALON(登録商標)パネルからの、スポットライト(画像1800参照)、タングステン光(画像1801参照)、およびLEDエミッタ光(画像1802参照)における対角強度プロファイル線である。
【0249】
これら3つの照射パターンを横切る対角強度プロフィル線は、強度の変動を際立たせるものである(
図19)。スポットライトのFOVが、スポット領域(平坦な最上部)、周囲の薄暗いリム(肩部)を実際の有効領域として、また有用性の低い離れた領域にも彩度を得るためには、フルダイナミックレンジのカメラ(例えば、10ビット、強度値0〜1024の)を必要とすることは明らかである。タングステン光とLEDエミッタ光は、空間的な均一性を向上させ、高ダイナミックレンジのカメラを用いる必要性を低減する。
1.1.2.b. ファントムにおける結果【0250】
図20A−20Cは、LEDスポットライト(
図20Aの画像2000)、タングステン光(
図20Bの画像2001)、およびLEDエミッタ(
図20Cの画像2002)を使用して、組織ファントムおよびその下にある脈動性ファントム血管をイメージングした結果を示す。イメージング結果に、ファントムの画像を重ねている。
【0251】
組織状のファントムイメージングターゲットを、これら3つの照射モジュールの下に置き、慎重に制御されたベンチテストを行って、照射強度の変動および照射パターンの、PPG信号に対する影響を調べた(
図20)。LEDスポットライト(画像2000)の場合、ファントム血管は視野の薄暗い領域に配置された。全体的に、ファントム血管の位置を判別することができた。ファントム血管の位置は正確であり、実験した配置とよく一致する。しかしながら、ファントム血管(左端)がスポット中心(FOVの左上隅)に近づくにつれてイメージング結果は徐々に薄れ、一方、他端に向かっては、照射強度が視野の端に沿って低下するにつれてファントム血管の幅が広くなっている。ペトリ皿の縁が周縁部に暗い影を落として有効FOVを減じ、ユーザが画像を解釈することが困難になる。
【0252】
タングステン光の照射(画像2001)の場合、入射ビームは、カメラの軸からわずかに離れる方向に向かい、小さな入射角が生じる。次いで、タングステン電球の指向性により、ファントムの表面にわずかに光沢のある(すなわち、鏡面反射)領域ができる。この効果が画素を飽和させ、PPG信号の検出を妨げる。ファントム血管の位置は、その真の位置からずれる。加えて、タングステン光源から放出される光は、その大部分が赤外光であるため、オブジェクトの内部で大量の熱が発生し、ゼラチン質の組織状ファントムを急速に変性させる。表面の温度は、室温から急速に上昇し、30分間で30〜40℃に達する(ここでは示さず)。
【0253】
高出力LEDエミッタ照射(画像2002)の場合、イメージング結果のカラー出力は連続的であり、ファントム血管の幅は一定に保たれた。PPG信号の位置は、ファントム血管の実際の位置と一致している。画像のコントラストは適切であった。これはタングステン光およびスポットライトよりも画質が優れていることを示している。また、ファントム内での熱の蓄積はなかった。30分間の温度変化は0.1℃未満であり、これは無視できる。
【0254】
3つの照射方法の評価に続いて、ファントムモデルを照射強度試験に供し、測定されたPPG信号の強度に対する照射強度の影響を調べた。この研究の目的は、視野全体の照射の均一性に加えて照射強度も最大にする必要があることの実証であった。組織状ファントム装置と、高出力LEDエミッタ照射を有するDeepViewシステムと組み合わせて用い、LEDエミッタへの入力電圧を変化させることによって入射光の強度条件が様々に変化するよう制御して、ベンチテストを実施した。入力電圧を変化させることによって、イメージング装置が正確に解像できる最大絶対放射照度を示す飽和点まで、照射強度を上げることができた。この飽和点に達したのは、エミッタへの入力電圧が12.95Vの時点であったが、これは絶対放射照度値としては約0.004W/m
2に相当する。この飽和点は、最大値の20%の増分で強度閾値を確立するための基準として用いられた。
【0255】
図21は、組織状ファントムの脈動部位におけるPPG信号のパワースペクトル密度と、イメージング装置の飽和点(放射照度0.004W/m
2)以下でのLEDエミッタモジュールからの光の最大強度のパーセンテージとの関係を示す。データポイントは、3つの組織状ファントムレプリカからサンプリングされた5画素の平均値を反映している。対数回帰(R
2=0.9995)であり、エラーバーは平均値に対する標準偏差を表す。
【0256】
照射レベル0%から100%のそれぞれにおいて画像を記録し、DeepView独自のアルゴリズムで処理した(
図17)。処理した画像からの情報を利用して、いくつかの画素を、ファントムチューブに沿った高脈動部位から手動で選択した。選択した画素を抽出し、個々に処理して、兆候を示しているそれらの点におけるPPG信号の強度を決定した。PPG信号の強度を評価するために使用した尺度は、周波数間の信号電力の分布の指標であるパワースペクトル密度(PSD)であった。この脈動周波数でのパワースペクトル密度について、サンプル間、レベル間での比較を行い、検討した。このプロセスを、3つのファントムの複数の画素について繰り返した。すなわち、各レベルでサンプリングを行い、PSD値は、各レベルの値が反映されるよう平均値を求めた(
図21)。その結果、受信したPPG信号の強度は強度値の全域にわたって常に増加し、明確な対数傾向を示している。
【0257】
これらの結果から、照射強度の最大化が重要なパラメータであることが示され、また、辺縁に沿った暗い部位は有用なPPG信号の信号強度の損失を引き起こすため、視野全体にわたる均一な照射が必要であることが確認された。
1.1.2.c. 動物における結果【0258】
図22は、PPG信号強度に基づく、健康なブタの皮膚における部位内の画素の分類を示す。画像2201およびグラフ2202は、LEDスポット照射(画像2200に示す)の結果である。画像2204およびグラフ2205は、LEDエミッタ照射(画像2203)の結果を反映するものである。
【0259】
LEDスポットおよびLEDチップを照射源として用いて、ブタの皮膚に入射する光の強度を測定した。LEDスポット照射の場合、光が組織に入射した部位の画素は完全に飽和していた(画像2200参照)。画像中の残りの画素における照射は、カメラの感度範囲の50%以下であった。一方、全視野照射では、イメージング領域のブタの皮膚の大部分が、カメラの感度範囲の70〜90%という多量の光を反射していることがわかる(画像2203参照)。飽和している画素はほとんどなく、真っ暗な画素は全くない。LEDエミッタの均一性により、照射強度の変動がよく抑制され、隣り合う画素間での比較が可能なPPG信号を得ることが期待される。
【0260】
一様なLEDチップ照射方式によって得られる血流が比較により有利であることを確認するために、LEDスポットライトタイプから得たPPG信号およびLEDエミッタ照射タイプから得たPPG信号について検討した。この検討のために、血流が全体にわたって均一であると推定可能な、1種類の均一な組織からなるブタ皮膚の一領域について評価を行った。この組織の種類としては、健康な皮膚を選択した。健康な皮膚であれば、ブタの背中の広い範囲で容易に得ることができ、この組織に存在する血流は、ブタの背中のどの点においても同様である可能性が高いからである。予想通り、均一な照射を行うことで、出力画像における健康な皮膚からのPPG信号もより均一に現れることがわかった。目的の部位(画像2201および2204の枠内)からのPPG信号をヒストグラムとしてプロットしたところ、均一照射を使用した場合、PGG信号の分布はよりガウス分布に近くなり、この部位から収集されたPPG信号を欠く画素はないことがわかる。LEDスポット照射の構成(
図22)では、PPG信号を収集しない画素が多く、PPG信号を有する組織部位は散在的かつ不均一であった。医師がこのデータを解釈するのは困難であろう。
【0261】
創傷内の血流は治癒および組織生存率の評価における重要な因子であることから、動物の熱傷モデルを用いて、これらの照射パターンを熱傷の評価に適用することの妥当性を評価した。中間層熱傷では、組織全体に血液を運ぶ動脈構造に損傷がある。この損傷部位には、血流がほとんどあるいは全くないことが予想される。したがって、熱傷を受けた皮膚からは、PPG信号がほとんどあるいは全く得られないであろう。
【0262】
図23A−23Fは、ブタの皮膚上の熱傷への様々な照射パターンおよび対応する画像を示す。具体的に言えば、
図23A−23Cは、LEDスポットライト(
図23A)、タングステン光(
図23B)、およびLEDエミッタ光(
図23C)を用いた照射パターンを示している。対応するイメージング結果(例えば、
図23D−23F)はそれぞれ、熱傷および健康な組織を検出する性能を示す。
【0263】
LEDスポット照射(
図23A)の場合、ファントム実験と同様、熱傷は照射スポットの中心から4.0cm離れていた。熱傷の円の半分は薄暗い周縁部にあり、残りの半分は画像の暗い領域にあった。イメージング結果(
図23D)では、円形の熱傷領域の端部はなお判読可能であるが、中心部は周囲の健康な皮膚組織と区別がつかない。この画像において、照射が組織に直接入射する部位は完全に飽和し、PPG信号は検出されなかった。同様に、光スポットとは対照的な周辺部位は、暗過ぎるためイメージング装置による評価ができない。暗領域およびスポット領域内にあるこれらの非熱傷組織では、生理学的に健康な組織であるにもかかわらず、イメージング結果に血流信号は現れない。
【0264】
タングステン光照射モジュール(
図23B)では、FOVはほぼ均一に照射された。イメージング結果(
図23E)では、熱傷の端部、形状、および領域が解像された。SNRコントラストも適切であり、照射によって周囲の健康な組織から十分なPPG信号が得られることがわかる。入射ビームの指向性のため、FOVの右半分の照射強度は左半分よりも弱い。それに応じて、イメージング結果(
図23E)において、画像の右半分は左半分よりもSNRコントラストが高く、血液灌流に関して、FOVの右半分は左半分よりも生存率が高いという誤った解釈が誘導される。
【0265】
LEDエミッタモジュール(
図23C)の場合、FOV内の照射はタングステン光源よりも均一であり、PPG画像もさらに良好になっている。イメージング結果(
図23F)は、実際の組織に対応する熱傷の端部、形状、および領域を示している。イメージング結果において、熱傷の周囲の健康な組織も均質な画像として示され、熱傷部位との対比は明らかである。画像の最下部では、剃り残された毛の端部が線として画像の結果に現れているが、毛の下の健康な組織(血液灌流を伴う)はなお、均質な背景と同じコントラストを示している。
1.1.3. 結論【0266】
照射機能は、PPGシステムにおいて重要な役割を果たす。この研究は、LEDスポットライト、タングステン光、およびLEDエミッタアレイを使用して、PPGイメージングにおける強度と均一性を含む照射の違いを調べるものである。組織状ファントムに基づく予備評価ではPPG信号が照射強度の関数であることが示されており、イメージング設定において正確なPPG信号を得るには、均一な照射が理想的であるように思われる。動物モデルでは、照射強度の変化が、生理学的に類似性の高い領域である健康な皮膚組織から受信されるPPG信号に影響を与えることを示し、組織のファントムでの結果を確認した。熱傷の存在下では、組織の損傷により血流が弱まっているため、PPG信号の低減が予想される。均一照射はさらに、熱傷領域の検出精度向上という点においても、他の2つのパターンよりも有利である。タングステン光およびLED光は、いずれも均一な照射パターンをもたらすが、LED光源は、臨床環境において他にも多くの利点を有している。ターゲットの表面に大きな温度変化をもたらさず、信頼性が高く、電力要件は低い。患者の血液灌流の評価を行うことができるPPGイメージング装置のような、高感度、非侵襲、かつ安全な装置は、創傷ケア環境における臨床医にとって非常に価値があると考えられる。視野全体で高強度かつ均一な光を達成する能力がより高い、本明細書で提示するエミッタアレイのような照射モジュールを用いれば、これらの臨床用途は、PPGイメージング技術によって正確かつ精度高く実現されるであろう。
1.2. 実施例2:ブタ熱傷モデルを用いた壊死組織除去における、マルチスペクトルイメージングによる順次特徴付けに関する実験【0267】
ブタの熱傷モデルを用いて、様々な重症度の中間層熱傷について調べた。ミニブタの背中に4×4cmの熱傷を8つ作製した。4つの熱傷はそのまま試験に供し、他の4つは接線方向に順次切除を行った。400〜1000nmの波長で、これらの熱傷部位のイメージングを行った。
【0268】
組織構造によって、様々な中間層熱傷が得られたことを確認した。スペクトル画像の解析から、MSIが、健康な組織、浅達性中間層熱傷、および深達性中間層熱傷のスペクトルプロファイルにおける顕著な差異を検出することがわかる。515nm、542nm、629nm、および669nmの吸収スペクトルは、浅達性中間層熱傷と深達性中間層熱傷との識別において最も正確であり、972nmの吸収スペクトルは、壊死組織除去プロセスのガイドにおいて最も正確であった。
【0269】
非専門家が様々な重症度の中間層熱傷を識別し、患者に外科手術が必要か否かを評価する能力は、臨床環境におけるMSI装置の使用により改善できる可能性がある。
1.2.1. 材料および方法【0270】
この動物実験で用いた方法は、Branskiら、Gurfinkelら、およびSingerらの方法の変法であった。この熱傷モデルおよび研究プロトコルは、動物実験委員会(IACUC)によって承認された。
1.2.1.a. 熱傷モデルおよび研究のプロトコル【0271】
体重47.5kgの雄性ハンフォードミニブタの成体(月齢7.2)を使用した。この動物の取り扱いは、「実験動物の人道的取り扱いと使用に関する公衆衛生局方針」に従った。処置は、設備の整った大動物手術室で実施した。このミニブタを、麻酔前に一晩絶食させた。麻酔は、テラゾール(約2.2mg/kg,IM)とキシラジン(約0.44mg/kg,IM)の併用により誘導した。動物に挿管し、イソフルラン(0.1〜5%、100%酸素と混合)を用いて麻酔を維持した。実験中に監視および記録を行ったバイタルサインとしては、心拍数、血圧、呼吸数、およびPPG波形が挙げられる。実験の終わりに、ペントバルビタールナトリウム(390mg/mL)を1.0mL/4.5kg体重の最小用量で用い、動物を安楽死させた。
【0272】
100℃に設定された金属アルミニウム棒を用いて、ミニブタの背中に4×4cmの熱傷を8つ作製した。加熱した棒を当てる時間を変えることにより、様々な深さの熱傷を得た:健康な皮膚(0秒);浅達性中間層熱傷(30秒);深達性中間層熱傷1(DPT1;45秒);深達性中間層熱傷2(DPT2;90秒)。各タイプにつき2つの熱傷を作製し、4つを1ブロックとし、2つのブロックが隣接するようにした。
図24は、ブタの背中の熱傷の位置を示す。数字はブロックを表し、文字は処置を表す(「1」はブロックI、「2」はブロックII、「a」は対照、「b」はSPT、「c」はDPT1、「d」はDPT2)。
図25は、ブロックI(左)およびブロックII(右)における組織の大きさを示す。
【0273】
ブロックIの熱傷のイメージングは、熱傷前、熱傷直後、および熱傷の1時間後に行った。次いで、これらの熱傷を5cm×4cm×1cmの組織塊(
図25)として切除したが、その際、熱傷全体をそのまま採取するために、周囲の健康な組織も帯状に含まれるようにした。ブロックIを、「熱傷分類実験」と呼ぶ。
【0274】
ブロックIIの熱傷については、熱傷を深さ1mmごとに層状に切り出すために、電動デルマトームセット(例えば、ジンマー社、インディアナ州ワルソー)を用いて、接線方向の切除を連続的に行った。例えば、
図26に、壊死組織除去のプロセスの例を示す。組織を5cm×5cm×0.1cmの連続した薄片として切除し(
図25)、創傷部位の下に点状の出血が観察されるまでこれを続けた(
図26)。ブロックIIの熱傷のイメージングは、熱傷前、熱傷直後、および各切除の後に行った。このブロックを「熱傷壊死組織除去実験」と呼ぶ。
【0275】
組織サンプル(組織塊および接線方向に切除された層)はそれぞれ、10%中性緩衝ホルマリン中に保存し、組織病理学検査に送った。各サンプルを薄片化し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。接線方向の切除を行ったブロックIIの熱傷については、生きた組織に到達した切除層がどれであるかを、それぞれが別施設に所属する病理学者2名が正確に判定した。熱傷の全体的な重症度は、皮膚の損傷のパーセンテージによって判定した。皮膚の損傷が20%未満であれば浅達性中間層熱傷、20%を超えて100%未満の皮膚損傷は深達性中間層熱傷とみなした。
1.2.1.b. 機器およびデータの解析【0276】
MSIはすべて、Spectral MDの創傷評価プロトタイプによって行った。このカメラは、画素数1392(h)×1040(v)のシリコン電荷結合素子(CCD)を有している。交換可能な8枚のフィルターを有する回転ホイールが装置内で回転することで、高速MSIが可能になる。有効面積は10.2mm×8.3mmである。250Wのタングステン光源を使用して視野を照射した(LowePro)。8枚のフィルターの波長は、450nm、515nm、542nm、620nm、669nm、750nm、860nm、および972nmであった(半値全幅10nm)。取得後の処理はすべてMATLAB(v2013b)によって行った。
1.2.1.c. 統計的解析【0277】
組織学的所見をガイドとして用いて、熱傷の画像それぞれにおいて特定の部位を選択し、それらの部位を構成する信号の分類を行った。異なる熱傷深度からの信号を、双方向ANOVAおよび多重比較(Tukey−Kramer)によって比較した。壊死組織除去の解析は、3要因のANOVAおよび多重比較(Tukey−Kramer)を用いて行った。p値の計算にはBonferonni法を用いたが、これは、p値が0.05を検定数で除した値よりも小さい場合に有意とみなすものである。
1.2.2. 理論【0278】
組織は、血液、メラニン、水、脂肪、およびECMの独特の組み合わせから構成されている考えることで単純化できる。上記成分のうち1種で全体が構成されているファントムから反射した白色光を測定すると、各ファントムの吸収スペクトルには固有のピークまたは優位な波長のあることがわかる。
図27A−27Eは、様々な組織成分の吸収スペクトルを示す。これらの優位な波長で生じる変化に注目することにより、熱傷の種類による変化をよりよく認識することができる。浅達性中間層熱傷と深達性中間層熱傷とを識別する上で、血液のスペクトルが重要であろうという仮説を立てた。これは、深達性中間層熱傷では浅達性中間層熱傷よりも血管の損傷やうっ血が多いであろうという推測に基づくものである。したがって、プロトタイプには、血液の吸収ピークの範囲である450〜669nmの波長を含めた。また、深達性中間層熱傷では浅達性中間層熱傷よりも、理論的に多くのECMが損傷することから、ECMの波長も含めた。
【0279】
波長450nm、550nm、650nm、および800nmを見ると、従来の臨床的判断のみに頼る場合と比較して、熱傷の深さの分類が改善されることがわかる。皮膚組織成分の光学特性についての検討を終えた後、先に確立されたこれらの波長を中心として、上記したように熱傷評価の助けとなる可能性の高い8つのさらなる波長の試験を試みた。試験した波長は、420nm、515nm、542nm、629nm、669nm、750nm、860nm、および972nmである。
1.2.3. 結果1.2.3.a. 組織学【0280】
ブロックIおよびブロックIIにおける病態生理学的変化を、盲検の組織病理学者が層ごとに解析し、その熱傷組織を深さによって分類した。合計で、3つが浅達性中間層熱傷、3つ深達性中間層熱傷、2つが健康な対照と判定された。
図28に、接線方向の切除(層としての切除)を行った熱傷の組織構造を示す。黒い線は熱傷の全範囲を示し、黄色の線は熱傷の影響が最も深刻な領域を示す。
【0281】
壊死組織として除去した組織を解析し、デルマトームのみを用いた連続的切除によって熱傷組織をどの程度効率的に除去できるかを確認した。組織構造から、それぞれの部位において、最大4回の切除によって熱傷組織がすべて除去されたことがわかった。それぞれの部位における最後の切除では、熱傷の境界にある深部の健康な組織も除去された。時折、最後の切除片が健康な創傷床のみを含む場合があり、これは、1段階前で除去を停止できたことを意味している。
図29に、動物実験の壊死組織除去において接線方向に連続的に切除された組織片を示す。最も上の切片は真皮の表層であり、その下に続く層は真皮のより深い部分である。矢印は組織片の表層を示す。黒い線は熱傷の全範囲を示し、黄色の線は熱傷の影響が最も深刻な領域を示す。
1.2.3.b. 熱傷の分類実験【0282】
Spectral MDの創傷評価プロトタイプは、ブロックIにおける各種の組織を、健康、SPT、DPT1、またはDPT2として正しく分類することができた。
図30は熱傷直後のMSIデータのプロットであり、熱傷の種類によって当初の反射スペクトルが異なることを示す。すべての熱傷部位と健康な対照から得られた4つの反射スペクトルを示す。多重比較に基づく統計的解析により、420nmを除くすべての波長が、SPTの熱傷とDPT1/2の熱傷を識別する上で有効であることが確認された。多重比較からさらに、420nm、542nm、669nm、および860nmの波長を用いたMSIによってDPT1とDPT2とを識別できることが示された。以下の表は、熱傷の分類における多重比較を示しており、p値1はSPT対DPT1に対応し、p値2はSPT対DPT2に対応している(この実験における有意なp値は、0.05/6=0.008未満である)。
【表3】
【0283】
したがって、MSIは、様々な深さの熱傷を、光のいくつかの主要な波長における固有のスペクトルシグネチャーによって、受傷直後に識別することができる。
【0284】
次いで、受傷の1時間後に収集した画像データを同じ様式でプロットし、重症度の識別の再現性を調べた。
図31は、各種の熱傷の、受傷直後および受傷1時間後のスペクトルを示す。MSTがSPTとDPTとを識別できるか否かを判断するために、データ解析にDPT2を使用した。臨床的関連に注目するため、1時間後のデータにおけるDPT1対DPT2の多重比較は実施しなかった。評価プロトタイプによる測定の結果、熱傷の種類ごとに異なる反射スペクトルが得られた。この実験では、SPTの熱傷とDPTの熱傷とを識別する上で、すべての波長が有効であった。
【0285】
1時間後についての多重比較の結果は、以下の通りである(この実験における有意なp値は、0.05/15=0.003未満である)。
【表4】
1.2.3.c. 熱傷壊死組織除去実験
【0286】
第2の実験では、創傷評価プロトタイプが、健康な組織とDPT熱傷とを識別する能力を利用して、壊死組織除去の停止に適な層を特定できるか否かを試験した。ここでは、DPI1の創傷とDPT2の創傷をともに切除することを考えた。この実験の目的が、MSIが創傷の深さによらず壊死組織から生きた組織を特定できるか否かを試験することにあったからである。一般的に、接線方向の切除はSPTの熱傷には行われないため、この壊死組織除去の解析にSPTデータは含めなかった。この模擬壊死組織除去プロセスでは、972nmの波長が壊死組織除去の解析に最も有用であった。多重比較において、当初の熱傷部位と1回目の切除の後の創傷床との間に、差は認められなかった。2回目の切除の後の熱傷部位と健康な対照との間に、統計的な差はなかった。3回目の切除の後の熱傷部位も、健康な対照との比較において、差はなかった。以下の表は、これらの結果をまとめたものであり、壊死組織除去に関する多重比較による解析結果を示している。
【表5】
【0287】
表中、HWB
*は「健康な創傷床」を意味し、健康
*は「HWB」を意味し、健康
**は「切除した深さに位置する健康な創傷床」を意味する。この実験における有意なp値は、0.05/45=0.001未満である。「†」は、予測されるp値が、組織病理学検査および組織サンプルの分類によって決められたことを示す。測定されたp値はいずれも、予測された値と一致した。
【0288】
これらの結果は、壊死組織除去の2回目の切除によって熱傷組織の最後の縁が除去されたことを確認した組織学的評価と一致している。515nm、669nm、および750nmの波長では、健康な創傷床と過剰な除去を行った後の創傷床(熱傷組織が既に除去された後の創傷床)に統計的な差異は見られなかった。
図32に、各切除層の全波長の反射スペクトルを示す。これは、健康な対照の反射スペクトル、一度切除した健康な対照の反射スペクトル、各切除時の熱傷組織のスペクトルの平均、および各切除時の創傷床スペクトルの平均をプロットしたものである。
1.2.4. 考察【0289】
Spectral MDの創傷評価プロトタイプは、様々な重症度の中間層熱傷を識別することができ、熱傷壊死組織除去が適切な切除深さで行われたのがいつであるかを判定することができる。多重比較統計により、以下の差異の解像に最適である波長が見出された:SPT対DPTの損傷、DPT1の損傷対DPT2の損傷、および壊死熱傷組織対生存創傷床。
【0290】
DPT1とDPT2とを識別することによって外科的介入の全体的治療計画が変更されることはないが、この分解能で熱傷の重症度を分類できることは、プロトタイプに機能が追加されることになる。今後研究が進めば、MSIを使用して深さを測定するアルゴリズムを作成することができる。この情報は、その後、大きな熱傷全体にわたってすべての深さを含む総合的熱傷等高線図を作成するために使用されてもよく、これは、臨床医が熱傷領域全体の壊死組織除去計画を作成する助けとなる。吸収スペクトルと熱傷の正確な深さとを関連付けるアルゴリズムをさらに開発するために、さらなる研究が行われてもよい。
【0291】
「理論」のセクションで仮定したように、515nm、542nm、629nm、および669nmの波長は、熱傷直後および熱傷の1時間後のSPT損傷とDPT損傷との識別に有用であった。420〜669nmの波長範囲は、血液の吸収スペクトルに関連している。熱傷の深さによってうっ血の程度は様々であることから、このような波長の光が組織にどのように扱われるかは、その組織が属する熱傷の分類によって異なるため、MSIによる識別が可能となる。同様のスペクトル(420nm、542nm、669nm、および860nm)によってDPT1の創傷とDPT2の創傷とを識別することができ、この考えはさらに支持される。
【0292】
ECMの吸収ピーク(750nm、860nm、972nm)、水の吸収ピーク(971nm)、および脂肪分の吸収ピーク(930nm)と関連する波長もまた、熱傷の種類の識別に有用であった。SPTの熱傷はDPTの熱傷よりも皮膚の損傷が少ない。したがって、SPTではDPTと比べて損傷のないECMが多く存在し、水分はより均一に分布しているため、MSIによってSPTとDPTとを識別できると仮定できる。一方、DPT1の熱傷とDPT2の熱傷はいずれも全層熱傷ではないため、これらの熱傷の間に、深さによる皮膚脂肪含量の差はなさそうである。得られた結果は、これらの予測と一致している。
【0293】
この研究では、MSI技術を使用して熱傷壊死組織除去の適切な深さを判定する可能性もまた示されている。515nm、669nm、750nm、および972nmの波長を使用して、部分的に壊死組織を切除した熱傷と生存創傷床の反射スペクトルにおける差異を特定することができた。515nmおよび669nmの波長は、血液の吸収ピークに相当する。750nmおよび972nmの波長は、ECMの吸収スペクトルに相当し、972nmは水の吸収ピークにも相当している。これらの結果は、健康な組織と熱傷組織とを比較するとき、組織成分としての血液、ECM、および水の変化が最も大きいことを示唆している。熱傷はECMと血管を破壊するため、これは合理的である。972nmの波長は、どの実験においても、組織分類に臨床的に有用であることが示された。これは、熱傷が組織内の水の分布を乱すことによって説明できるかもしれない。この乱れによって、健康組織と熱傷組織との間にMSIで検出することのできる顕著な差が生じることとなり、その差を利用して壊死組織除去をガイドすることができる。
1.2.5. 結論【0294】
Spectral MDによる創傷評価プロトタイプは、ブタの熱傷モデルにおける熱傷を分類し、壊死組織除去をガイドするデータを提供する。これは、熱傷のトリアージおよび壊死組織除去術の助けとなる臨床装置の開発の可能性を示している。この技術を、早期の熱傷ケアにおける日常的な使用のために実施できれば、緊急時にケアチームが容易に利用できる、なじみ深いものとなるであろう。
【0295】
この装置を熱傷の自動分類に適合させるために、将来的な実験には、この実験で得られた有効波長等が組み入れられるであろう。現在の、Spectral MDによる創傷評価プロトタイプは、研究者が解析し、組織の分類を目的として解釈するデータを取得しているに過ぎない。目標とするのは、MSIデータを解析し、自動分類を行い、見やすく理解しやすい出力を生成するアルゴリズムの設計である。そのために、この実験で得られたデータをスペクトル参照データベースに加え、分類アルゴリズムのトレーニングに使用する。今後もブタの熱傷実験は必要になるであろうが、ブタの熱傷データベースを強力な土台として、最終的には臨床環境においてプロトタイプを試験する予定である。
1.3. 実施例3:ブタ深達性中間層熱傷モデルにPPGおよびMSIを用いた実験【0296】
熱傷壊死組織除去術は、切除の範囲と深さを特定するための訓練を要する難しい技術であるが、どこをどの程度切除すべきかについて外科医に合図できる装置があれば、恩恵を受けられるであろう。模擬熱傷壊死組織除去術において生存創傷床と熱傷組織を識別する能力について、迅速かつ非侵襲的な2つの光学イメージング技術の調査を行った。
【0297】
PPGイメージングおよびMSIを使用して、深達性中間層熱傷における壊死組織除去の初期段階、中間段階、および最終段階のイメージングを行った。PPGイメージングでは、皮膚の微小循環における血流をマッピングすることができ、MSIでは、可視光波長および赤外線波長の組織反射スペクトルを収集して、参照ライブラリに基づいて組織を分類することができる。例えば、
図33は、創傷壊死組織除去の手法、および壊死組織と移植のための生存創傷床との間の相対血流を検出するPPGイメージング装置を示している。このようなPPGイメージングシステムの構成要素の例を
図34に示す。MSIシステムの構成要素を
図35に示す。
【0298】
この実験では、ブタの深達性中間層熱傷モデルを作製し、深さ1.0mmに設定した電動デルマトームを用いて、接線方向の切除を連続的に行った。切除された焼痂をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、壊死組織除去の各段階で残存している熱傷の程度を判定した。
【0299】
PPGイメージング装置では、熱傷組織が存在する場所での血流が顕著に少ないことが示され、MSI法では、生存創傷床に残っている熱傷組織が創傷床と区別して描写されることが確認できた。これらの結果は、独立して実施された組織学的解析によって確認された。
【0300】
これらの装置は、切除の適切な深さを特定できるものであり、それらの画像は、創傷床において移植の準備が整ったかどうかについて、外科医に合図を送りうるものであることが見出された。これらの出力画像は、手術室における臨床判断を容易にすることが期待される。
【0301】
熱傷のケアにPPGイメージングおよびMSIの技術を適用するために、科学者および技術者は、現行のケア標準を改善する能力を発揮しなければならない。壊死組織除去術中の既知の時点に得た画像を含む動物画像データベースを基に教師あり機械学習アルゴリズムを開発し、トレーニングすることを含む実験を行った。開発した分類アルゴリズムの精度が現行の臨床ケア標準を上回っていることを実証する。このアルゴリズムは、最終的には、PPGイメージングおよびMSIによって収集されたイメージングデータを、切除および移植手術を行う医療提供者にとって不可欠な情報に翻訳するために適用されるであろう。
1.3.1. 方法1.3.1.a. フォトプレチスモグラフィイメージング装置【0302】
PPGイメージングシステムは、暗騒音が低くダイナミックレンジの高い10ビットのモノクロCMOSカメラ(Nocturn XL、Photonis USA)から構成されている。10ビットのADC分解能によって得られる信号対ノイズ比は60dBである。このイメージング装置の分解能は、1280×1040(アスペクト比5:4)に設定した。カメラは垂直下向きに、オブジェクトの表面に対面するよう取り付けた。システム間の比較のために、20×16cmの共通視野(FOV)の制御を行った。カメラの露出時間は、95%の反射率参照標準(Spectralon SG3151、LabSphere Inc.;ニューハンプシャー州ノースサットン)を用いて較正した。組織を照射するために、4つの高出力モノリシックLEDエミッタ(SFH4740、OSRAM)を、同軸モードでセンサーと同じ平面に取り付けられた2×2アレイに配置した。LEDエミッタアレイは、ターゲットの表面15cmの位置に、カメラとともに配置された。LEDエミッタが選択されたのは、カメラのFOV内の組織を均一に照射できる(すなわち、空間強度の変化は15%未満であった)ことによる。カメラのFOVは光学レンズによって制御され、照射領域よりもわずかに狭かった。
【0303】
呼吸中に動物が動くことでPPG信号にノイズが入るため、PPIイメージングの当初の解析は困難であった。エンベロープ抽出と呼ばれる信号処理法を用いて、呼吸運動の影響を低減させることができた。画像の各画素に対し、ローパスフィルタを用いた信号の平滑化を行い、ノイズの多い信号の包絡線を抽出した。次いで、ノイズの多い信号をその包絡線で区分し、信号中の大きな動作スパイクを除去した。残りの明瞭な信号は、情報を示すものであり、これが処理されてPPG画像が得られる。
1.3.1.b. マルチスペクトルイメージング装置【0304】
マルチスペクトル画像の収集は、400〜1100nmの間にある固有の波長を有する8枚の光学バンドパスフィルターを備えたフィルターホイールカメラ(SpectroCam、Pixelteq;フロリダ州ラルゴ)を使用し、Staring法によって行った。我々のシステムに最も適したフィルターを選択するために、以前の研究で特定された22枚のそれぞれ異なるフィルターを試験し、特徴選択と呼ばれる技術を使用して波長選択のためのデータ解析を行った。この研究では、透過ピークが581nm、420nm、620nm、860nm、601nm、680nm、669nm、および972nmである波長フィルター(フィルター幅は、±10nm;Ocean Thin Films;フロリダ州ラルゴ)を使用した。イメージングセンサーのスペクトル応答の差を補償するために、正方形の95%反射率参照標準(Spectralon SG3151、LabSphere Inc.;ニューハンプシャー州ノースサットン)を用いて、システムの較正を行った。使用した光源は、イメージング装置の視野内の照射プロファイルをより均一にするための擦りガラスディフューザを備えた、250Wのタングステンハロゲンランプ(LowePro)であった。このシステムでは、望遠レンズ(Distagon T*2.8/25 ZF−IR、Zeiss Inc.;USA)を利用した。
1.3.1.c. ブタモデル【0305】
この動物実験で用いた方法は、Branskiら,2008、およびGurfinkelら,2010の方法の変法であった。体重約40kgのハンフォードブタの成体を、手術前に馴化させた。適切な麻酔および鎮痛の下、ブタの背中の正中線近くに、深達性中間層熱傷を作製した。創傷を作製するために、100℃に熱した黄銅棒を、皮膚に60秒間押し付けた(圧力0.2kg/cm
2)。黄銅棒の直径3.6cmであり、生じた創傷の寸法は同一であった。それぞれのブタに合計6つの創傷を作製したが、このとき、円形の熱傷それぞれに隣接する健康な組織を無傷の対照組織として使用するために、創傷と創傷との間隔が保たれるようにした。
【0306】
適切な切除深さとなるようイメージング装置を較正するために、接線方向に鋭い切除を行うための標準モデルを開発した。接線方向の切除とは、一様かつ連続的に繰り返して行われる、熱傷の部分的切除である。これは、深さ1.0mm(幅6.0cm)に設定した電動デルマトームセットを、生存創傷床の深さに至る熱傷全体が切除されるまで、熱傷上を複数回通過させることによって達成された。
【0307】
下方にある生存創傷床を露出させるために、デルマトームを3回通過させることによって深達性中間層熱傷を切除した。実験では、点状出血が現れる点まで組織を除去できれば、壊死組織除去が成功したとみなした。円形の熱傷それぞれに隣接する健康な組織を、無傷の対照組織として使用した。データ収集を行った時点は、0)受傷前、1)受傷直後、2)3層の壊死組織それぞれの除去時点であった(
図36)。それぞれの時点において、PPG画像、MSI画像、ならびに心拍数、呼吸数、および血圧を含む生理学的データを収集した。接線方向の切除を行う度に、組織構造を調べる目的で、切除した組織を保存した。
1.3.1.d. 生存創傷床の特定【0308】
研究の詳細を知らされていない組織病理学者が、組織学とカラー写真とを基にして、生存創傷床の組織が露出した深さを判定した。組織学的検討は、Gurfinkelら,2010に従って実施された。簡単に言えば、接線方向に切除された各組織サンプルを10%中性緩衝ホルマリン(NBF)で固定し、認定組織病理学者による処理および検査(Alizee Pathology、メリーランド州サーモント)に送付した。各試料から代表的な生検材料を採取し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)を用いて染色した。生存創傷床に到達したのが、接線方向のどの切除であったかを判定するために、組織病理学者は、組織の薄片の中で最も重度の熱傷を受けた領域の境界を特定し、形態計測解析を用いてこの熱傷の深さを見出した。研究の各時点において、熱傷のデジタル写真も撮影した。色の標準化のために、創傷の横に色基準片を置いた。
1.3.1.e. マルチスペクトルイメージングのための分類アルゴリズム【0309】
生のMSIデータキューブ内の画素の分類を自動化するために、分類アルゴリズムおよび熱傷組織スペクトル参照データベースを作成した。データベースの作成は、以下の3つの手順を踏んだ。第1に、動物実験データによって得られた画像から特定の画素を選択するために技術者が使用できるプログラムを書いた。第2に、動物実験によって得られた接線方向に切除した組織サンプルを認定組織病理学者が処理して解析し、各組織片における熱傷の位置および重症度を特定した。第3に、経験豊富な外科医がカラー写真を観察し、壊死組織除去として切除した組織における点状出血の位置および生存組織と非生存組織を特定した。これらのステップが完了した後、技術者2名が約120枚のMSI画像から手作業による画素の選択を行った。
【0310】
先のステップで作成した参照データに基づいて画素を6つの異なる生理学的クラスに分類する機械学習アルゴリズムを構築した。クラシファイヤアルゴリズムとしては、二次判別分析(QDA)を使用した。アルゴリズムの精度は以下のように判定した。各MSI画像の画素が組織学より適切なクラスに分類された後、6つのクラスそれぞれにつき、24の熱傷部位にわたる2000画素を用いて、分類アルゴリズムのトレーニングを行った。次いで、トレーニング画素は換えずに、各クラスにつき新たに2000の画素を無作為に選択し、分類アルゴリズムの効率を試験した。分類の精度は、SokolovaおよびLapalmeに従って計算した。
【0311】
実験で使用した6つの生理学的クラスとその説明を、以下に示す。
【0312】
健康的な皮膚:ほとんどすべての画像に存在する一般的な組織である。
【0313】
充血:1947年にJacksonにより記載された熱傷の3区分の1つである。血管系が拡張されているが、完全な回復が期待される。
【0314】
創傷床(移植可能):移植可能な創傷床組織は、皮膚移植片の適用に理想的な表面である。白色またはピンク色であり、点状出血が見られる。
【0315】
血液:表面に多量の血液が溜まっており、血液を吸引して当該領域を再度イメージングするよう外科医に指示すべき状態である。
【0316】
重度でない熱傷:2週間以内に自然に治癒するであろう軽度の熱傷を伴う組織。
【0317】
重度の熱傷(移植不可能):壊死および回復不可能な熱傷が起きた凝固部であり、自然に治癒することはなく、皮膚移植片も受け付けない。
1.3.1.f. 統計および画像処理【0318】
画像の処理および統計は、すべてMATLAB(v2013b)上で行われた。
1.3.2. 結果1.3.2.a. 熱傷の作製およびその深さ【0319】
4匹のミニブタを用いて、24箇所の深達性中間層熱傷を作製した。24箇所の創傷のうち16箇所(67%)は、圧力制御された高温の棒による面積の等しい創傷であることがわかった。それぞれの熱傷から接線方向に3回の切除が行われ、各切片における熱傷の程度が、組織病理学者によって判定された。72の切片それぞれについて形態計測による解析を行い、熱傷深さの一貫性とデルマトームによる接線方向の切除の一貫性を定量化した。デルマトームによる切除の平均厚さは1.36±0.16mm(標準偏差12%、
図37)であった。
【0320】
熱傷組織は、熱傷により何らかの影響を受けた部位と、熱傷により重度の影響を受けた部位に区別された。熱傷組織全体の平均深さは3.73±0.58mm(標準偏差16%)であり、重度熱傷である部分の深さは約1.49±0.59mm(標準偏差±39%)であった。これらの結果を
図37にまとめて示す。後者の計測値は分散が非常に大きいが、これは、重度熱傷の部位と何らかの熱傷を有する部位とを区別する際に、組織病理学者がより主観的に組織の変化を判断したことに関連している可能性がある。
【0321】
接線方向に切除された熱傷組織について、デルマトームが3回通過したことにより生存創傷床に到達したことを、組織学的に確認した。点状出血が現れる点まで組織を除去できれば、壊死組織除去が成功したとみなした。24の創傷のうち24箇所(100%)において、組織の除去により、全体的に均一かつ点状出血を有する創傷床が出現した。これは、デルマトームの3回またはそれ以下の回数の通過で、重度の熱傷を受けた組織がすべて除去されたことを示す組織構造によって確認された(
図38)。点状出血という証拠があるにもかかわらず、組織学的には、24の創傷のうち8箇所(33%)において、熱傷により何らかの影響を受けた組織すべてが完全に除去されたわけではないことが示された。しかしながら、イメージングデータを見ていない認定外科医が、壊死組織除去後の創傷床のカラー写真を検討し、熱傷の影響が軽度であるこのような組織に移植を行うことは許容範囲内であること、また、そのような組織が重度の創傷に変化する見込みはないことを確認した。
1.3.2.b. フォトプレチスモグラフィイメージング【0322】
画像に存在する3種類の組織、すなわち健康な皮膚組織、熱傷組織、および創傷床組織からのPPG信号の差異を調べた。熱傷組織からのPPG信号の信号対ノイズ比は、他の2種類の組織と比較して顕著な差があることがわかった(健康な皮膚:6.5±3.4dB、生存創傷床:6.2±4.1dB、熱傷組織:4.5
*±2.5dB、
*p<0.05)。これらの結果には再現性があった。24の熱傷部位のうち20箇所から収集したPPG画像を用いて、切除の適切な点を特定することができた。
【0323】
熱傷の深さ全体にわたるPPG信号の変化を明らかにするために、1つの創傷についての一連の画像を提示する(
図39)。当初のPPG信号は、無傷の皮膚全体にわたって比較的均一である。この信号は、熱傷が生じた場所に相当する画像の中心部で劇的に低下する。皮膚の最初の1.0mmの層を除去しても、創傷床における熱傷組織は依然として顕著であり、相対PPG信号が低いことは、この組織の存在と関連している。およそ2〜3mmの深さ(2回目の切除後)では、創傷床のPPG信号に戻っている。
1.3.2.c. マルチスペクトルイメージング【0324】
外科医および組織学者の監督下で選択された画素のラベル付データベースから、24の熱傷すべてから無作為に選択された2000画素を組み合わせてテストデータセットとした。このテストセットを、事前トレーニングを行ったQDAアルゴリズムによって分類し、実際のクラスラベルと比較して混同行列を生成した(
図42)。この行列では、行列の中央に位置する対角線上に、正確な分類の数が示されている。不正確な分類は、対角線から外れた要素に示されている。全体的な分類精度は86%であることがわかった。当該アルゴリズムによって、創傷床からの「血液」は、92%の成功率という、6つのクラス中最高の精度で分類することができた。他の5つのクラスも同様の精度で分類され、分類精度が最も低い「重度の熱傷」の成功率は81%であった。混同行列から、重度の熱傷組織を健康な皮膚とみなし、健康な皮膚を重度の熱傷とみなす誤分類が起こりがちであることがわかる。また、充血組織を血液とみなす誤分類やその逆も多いことを見出した。
【0325】
分類されたMSI出力画像は、熱傷の位置およびその境界を良好に示している(
図40)。MSIは、デルマトームを使用して熱傷領域をより深く切除しようとする際に、生存創傷床を明確に特定することができた。これらの画像においても、先の混同行列の解析の際に述べた画素の誤分類が見られる。この空間表現から、誤差は典型的にはランダムではなく、画像の特定の領域に高い頻度で発生することがわかる。例えば、創傷床が健康な皮膚として分類される誤りの多くは、
図40の1回目の壊死組織除去の図の上部のみで生じている。
【0326】
同一の創傷内に深さの異なる熱傷が含まれる場合、これは一般的な臨床シナリオであるが、MSI画像の結果から、より重度の熱傷領域を特定することができた(
図41)。これは、受傷直後および切除プロセスにおいて該当する。これらの画像は、このツールが手術計画を立てる上で、特に経験の浅い外科医にとっていかに効果的であるかを示すために提供されている。
1.3.3 結論【0327】
PPGイメージングデータの結果から、熱傷組織は健康な組織と比較してPPG信号が顕著に少ないことがわかる。臨床的観点から言えば、これは、熱傷の疑いがあるものをPPGイメージング技術の助けを得て特定できることを意味する。外科医が組織を切除する際、壊死組織を除去して生存創傷床を露出させるにつれ、それに応じてPPGイメージング信号が増すことが期待できた。信号が生存組織に特有の強度に達したとき、PPGイメージング装置は、創傷床に適度な血流があること、また組織が移植片を支持可能であることを外科医に示すであろう。
【0328】
MSIイメージングの結果も有望である。この研究で用いた8つの波長で、様々な組織クラスの分類において平均して86%の精度が得られた。熱傷組織を分類するための現在のケア標準は、経験を積んだ熱傷外科医の臨床判断である。切除および移植における外科医の分類精度についての研究報告はないが、経験豊富な外科医による初期の熱傷深さ評価の臨床研究では、60〜80%の精度が示されている。初期評価における外科医の精度は、必ずしも熟練した外科医の手術の精度を示すものではないが、熱傷の手術中に最適切除深さを正しく判断するという課題の達成は、初期評価と同様に困難であると考えられる。したがって、この調査で示されたMSIイメージングの精度は、最も熟練した専門家と同等であることが確信でき、また、MSIが経験の浅い外科医の臨床的意思決定を改善する可能性を有することに疑いの余地はない。
【0329】
PPGデータから計算された特徴は、MSIデータ解析のために既に確立されている、同じ機械学習技術を用いた反射スペクトルデータと組み合わせることができる。PPGとMSIの生データキューブはいずれも同一の光学的ハードウェアを用いて収集できるため、各システムから得られる、クラシファイヤの式に含めるべき顕著な特徴を決定することは、統計解析の問題である。MSI単独でも熱傷の境界を効果的に特定できるが、PPG信号から得られる動的血流情報をMSIの反射率データをと組み合わせることで、組織の生存率に関する重要な情報を含めることができると考えられる。
【0330】
切除および移植の際に熱傷を適切に分類することは、熱傷患者のケアを最適化する上で不可欠である。PPGイメージングとMSIは、壊死組織除去術をガイドすることにおいて熱傷外科医および専門外の外科医のいずれにとっても助けとなる2つの技術である。PPGイメージングは、血流を検出することによって、血液含量が特徴的に高い健康な組織を識別する。MSIは、主要な波長の反射光を集め、組織クラスそれぞれに固有の反射スペクトルを生成して分類する。ブタの熱傷モデルを用いて、臨床応用におけるこれらの技術の実行可能性および実用性を示した。PPGイメージングおよびMSIを個別にまたは組み合わせて使用することは、医療提供者の診断精度を向上させ、皮膚移植手術中の壊死組織除去プロセスを最適化する助けとなる。
1.3.3.a. 実務への適用可能性【0331】
外科的壊死組織除去を適切に行うために、医師は何年もの訓練を受ける。多数の負傷者が発生する状況下で複数の手術を行う必要が生じた場合、経験の乏しい外科医は数え切れないほどの障害に直面する。組織の切除の過不足はいずれも、重度の合併症につながる。熱傷の切除が不十分であると、失活した組織に移植片を載せることになり、移植片の生着が悪くなり、感染症のリスクが増す。一方、過度に切除には過剰な失血のリスクがあり、これもまた移植片の生着不良を招きうる。手術を技術的に実施することに加えて、外科医は、周術期における体液および血液の適切な管理を指示できなければならない。さらに、タイミングが重要であり、わずか48時間が経過しただけでも、創傷の切除を受ける患者は、それより24時間早く手術を受けた同様の患者と比較すると2倍量の血液を失うことになる。最後に、深さの異なる複数の熱傷部位が熱傷領域の全体にわたって存在する場合、熱傷ケアの提供はさらに複雑になる。このような熱傷の切除および移植において、生存可能な皮膚の切除を最小限に抑えつつ非生存組織を最大限に除去するように計画を立てることは、困難である。
【0332】
熱傷外科医と熱傷が専門ではない外科医とのギャップを低減するためには、支援ツールが必要とされる。理想的な解決策は、切除すべき部位を特定し、切除の適切な深さを判定し、患者の治療管理をガイドする生命兆候を監視するものである。臨床応用のためのさらなる要件は、診断精度の向上、患者の現実的な条件への適応、および治療チームへの有用なデータの即時提供である。さらに、最適な解決策は、多数の負傷者が発生する事故のような、熱傷専門家に比べて患者が圧倒的に多い状況下で、非専門家を支援するために容易に採用できるものである。
【0333】
上述のように、この問題に対する有望な解決策として、いくつかのイメージングモダリティが提案されている。ほとんどの技術は、理由は様々であるが、臨床診療において実用的でないことがこれまでに判明している。外科医が自力で行う臨床判断と比べて精度が低い技術もある。他の解決策は、患者が長時間じっと横たわっていることを要したり、データの取得に何日もかかったり、正確な診断のために侵襲的処置を要したりする。このような制限を伴う臨床ツールは、医療提供者が容易に採用できるものではない。
【0334】
MSIおよびPPGイメージングは、本明細書で概説した実験も含めて、熱傷ケアを改善するためのこれらの要件を実際に満たしうる技術であることが示されている。これらの技術をベッドサイドで利用できる臨床ツールに転換する作業を行うことにより、米国の熱傷犠牲者の生活の質を向上させることができる。
【0335】
この解決策は世界的な影響を与えるであろう。発展途上国の貧しい人々は、調理や照明をたき火に頼っている。このような生活環境により、女性や子どもは、重度熱傷の高いリスクに曝されている。例えば、南アジアでは、HIV/エイズやマラリアに感染して死亡する女性や子どもよりも、重度の熱傷で死亡する女性や子どものほうが多い。医療へのアクセスの欠如は、比較的軽度の熱傷が恒久的な障害となることを意味するが、この恒久的な障害は、熱傷治療支援装置の利用によって治療を施す際に高度な技能が必要とされなくなれば、予防できるものである。
1.4. 実施例4:外れ値の検出と除去によって熱傷診断イメージング装置の精度を改善するための実験【0336】
この実施例4に記載される方法、システム、アルゴリズム、技術、および/または開示、ならびに実質的に類似したバージョンおよび/または変形は、本開示に記載される任意の方法または装置における計算に使用することができる。
【0337】
この実験では、熱傷の壊死組織除去を計画し実施する熱傷外科医を支援する熱傷診断装置を開発するために、マルチスペクトルイメージング(MSI)を使用した。モデルを構築するには、熱傷組織を正確に代表するトレーニングデータが必要となる。正確なトレーニングデータを取得することは困難であるが、その理由の一部として、生のMSIデータを適切な組織クラスに分類する際に誤りが生じやすいことが挙げられる。トレーニングデータセットから外れ値を除去することによってその困難を乗り越えることができ、分類精度の改善につながると仮定した。最初のMSIトレーニングデータベースを構築し、熱傷に存在する臨床的に重要な組織を分類する我々のアルゴリズムの能力を調べるために、ブタの熱傷モデルを開発した。ブタの画像からグラウンドトゥルースのデータベースを作成した後、トレーニングデータセットの外れ値を計算するために、Z検定および単変量解析に基づく多段階法を開発した。10倍交差検定を用いて、トレーニングの都度、外れ値の有無にかかわらずアルゴリズムの精度を比較した。この外れ値除去法によって、波長空間におけるトレーニングデータの分散を低減できることが示された。外れ値をトレーニングデータセットから除去することで、試験の精度は63%から76%に改善され、より良い出力が得られた。トレーニングデータを調整するためのこの簡単な方法の確立により、我々のアルゴリズムの精度は、熱傷評価における現在のケア標準と同等のレベルまで向上した。熱傷外科医や熱傷治療施設が国内にほとんどないことを考えると、この技術は、専門施設へのアクセスが十分でない熱傷患者のための熱傷のケア標準を改善するものと期待される。
1.4.1. マルチスペクトルイメージングの応用【0338】
カメラ技術の開発とともに、NASAによる天文学、農業、防衛、地質学、医療イメージングアプリケーション等の様々な異なる技術から生まれたマルチスペクトルイメージング(MSI)およびハイパースペクトルイメージング(HSI)の技術。
【0339】
熱傷の解析のための、MSI技術の応用について紹介する。熱傷を治療するためには、最初の創傷の深さの判定が重要である。浅達性中間層熱傷として知られている浅い熱傷は、外科的治療を必要とせず、典型的には支援療法で治癒する。深さに応じて深達性中間層熱傷または全層熱傷として分類される、より重度の熱傷は、移植手術の土台となる生存創傷床を露出させるために、壊死組織をすべて外科的に切除しなければならない。現時点では、熱傷を分類するためのゴールドスタンダードは、熟練した熱傷外科医による臨床判断である。しかしながら、そのような専門家の正確さは60〜80%に過ぎないと推定されており、非専門家の正確さは50%以下である。熱傷治療に関する臨床上の意思決定を改善するためには、熱傷の分類精度を、特に熱傷の専門家のいない医療センターにおいて向上させるための技術的解決策が必要である。MSIは、熱傷組織を潜在的に高い精度で異なる臨床カテゴリーに分類することができ、これにより、外科医は適切な治療手段をより頻繁に、より迅速に選択することができる。重度の熱傷から壊死組織を除去する際、外科医は、健康な組織の過剰な除去を最小限に抑えようとする。MSIは、さらに、術中に熱傷組織を分類して熱傷と健康な創傷床とを区別し、健康な組織の不必要な切除を防ぐことで外科的切除を支援する可能性を有している。
【0340】
ヒトの皮膚は、複数の発色団成分からなる多層組織であり、その中に血液、水、メラニン、および脂肪という4つの重要な成分が存在する。様々な皮膚層の血液、水、メラニン、および脂肪は、特定の波長の光、特に可視帯域および近赤外帯域の光照射に対して、確立されたスペクトル応答を示す。MSIを用いて複数の特徴的な入射波長に対する異なる組織の応答を捕捉し解析することにより、例えば、他の組織の間に存在する血液を、その固有のスペクトル応答によって特定することができる。入射光に対する組織応答は、その吸光度によって定量化される。MSIにより、特定の波長範囲にわたる吸光度データを収集することで、組織クラスのそれぞれに存在する組織成分の相対量に基づいて、異なる種類の組織を分類することができる。
【0341】
MSIは様々な種類の組織から、固有のスペクトルデータを捕捉することができるが、新しいスペクトル画像を解釈し、組織を正しく特定するためには、分類モデルを開発する必要がある。このモデルを開発する際には困難が生じるが、これは、後に分類に使用されるものと同種のデータから、機械学習と呼ばれるプロセスを通じて、構築されなければならないことによる。したがって、最初のモデルを構築する際、まず「トレーニング」データセットを収集し、「グラウンドトゥルース」として手動で分類する必要がある。グラウンドトゥルースを確立することは、どのような機械学習アプリケーションにおいても重要なステップであり、したがって、このようなアプリケーションの開発において、最も吟味される段階の1つである。正確な分類モデルを構築するには、極めて正確なグラウンドトゥルースが必要である。グラウンドトゥルースを確立する方法は、構成される分類モデルが何を評価するためのものであるかによって異なる。しかし、いずれの事例においても、必要な情報を収集するためには、現在のゴールドスタンダードを使用している臨床専門家によって、グラウンドトゥルースの確立がなされなければならない。熱傷の場合、組織分類のゴールドスタンダードは組織病理学的評価である。グラウンドトゥルースを確立するための、我々の技術の詳細を提示する。
【0342】
その後、トレーニングセットを使用して分類モデルを作成し、次いで、さらに収集したデータによって分類モデルの試験を行い、グラウンドトゥルースに対する精度を判定する。グラウンドトゥルーストレーニングデータセットから分類モデルを構築するための様々なアルゴリズムが開発されている。例えば、サポートベクターマシン(SVM)アルゴリズムは、ハイパースペクトルイメージングデータ解析のためのカーネルベースの機械学習において、これまでに使用されている。
【0343】
結局のところ、グラウンドトゥルースを確立するには、トレーニングデータに対して手作業による境界設定がなされるため、結果として得られるモデルには分類誤差に起因する潜在的な偏りがある。例えば、健康な皮膚がトレーニングデータにおいて血液として不適切に分類された場合、結果として得られるモデルでは、健康な皮膚と血液とを正確に分類することが困難になる。トレーニングデータは分類モデルを構築するために使用されるサンプル空間であるため、そのような偏りを減らすことは、モデルの精度を改善するための鍵である。
【0344】
どのようなトレーニングセットによっても避けられない偏りのために、開発後の試験におけるモデルの精度は低くなる。分散を低減し、モデルの精度を向上させるためには、トレーニングデータセットの「外れ値」を特定して除去することが有用である。外れ値は、他の観測変数と統計的に異なる観測変数として定義される。外れ値検出(異常検出または特異点検出とも呼ばれる)は統計的パターン認識調査の重要な要素であり、クレジットカード詐欺、センサイベント、医療診断、およびネットワークセキュリティ等の分野で応用されている。外れ値検出には、確立された方法がいくつか存在する。一般に実施されている外れ値検出技術の1つは、モデルベースのアルゴリズムである。
【0345】
モデルベースのアルゴリズムでは、統計的検定により、サンプル分布のパラメータが推定される。例えば、ガウス分布は、平均と標準偏差という2つのパラメータによって記述される。これらのパラメータは、最尤推定または最大事後確率推定によって決定される。単変量ガウス分布において、外れ値とは、Zスコア(標準スコア)によって定量化されるモデルパラメータ内に含まれる確率が両極端である(高いまたは低い)点を言う。従来、確率が0.95よりも大きい、あるいは0.05よりも小さいサンプルは、単変量解析において外れ値とみなされる。
【0346】
モデルベースのアルゴリズムは、多くの場合に外れ値を正しく識別する。しかし、これらのモデルを定義するパラメータは、最初に計算される時点で、潜在的な外れ値の影響を受けることに注意しなければならない。すなわち、外れ値を特定して除去することが可能になる前に、サンプルセット全体を使用してパラメータが生成される。したがって、これらのアルゴリズムが分類モデルを生成する前に外れ値を特定して除去することによって、モデルの精度を高めることができる。この研究では、外れ値除去の概念を適用した、医療空間における機械学習アルゴリズムを提供する。MSIイメージングデータはまず、確立されたブタの熱傷モデルから捕捉した。次いで、マルチスペクトル画像の評価を行い、熱傷の画像に存在する異なる組織を分類するために設計されたモデルの分類精度を定量的に改善するための統計的解決手段を提供した。
1.4.2 外れ値の検出および除去【0347】
外れ値の検出および除去は、統計およびパターン認識の領域では重要な一領域であり、クレジットカード詐欺、興味深いセンサイベント、医療診断、ネットワークセキュリティ等の様々な分野で広く使用されている。外れ値の検出は、異常検出、特異点検出のような別名で呼ばれることもある。外れ値検出のほとんどが、モデルベースおよび近接度ベースで行われる。モデルベースのアルゴリズムでは、統計的検定を使用してサンプル分布のパラメータを推定することができ、サンプル分布は、例えば、中心極限定理(CLT)に基づくガウス分布とみなすことができる。ガウス分布の場合、2つのパラメータは、平均値および標準偏差と考えることができる。これらのパラメータは、最尤推定または最大事後確率推定から得ることができる。モデルベースのアプローチにおいて、外れ値は発生確率の低い点であり、Zスコア(標準スコア)を計算することで推定できる。経験則として、確率の値が0.95より大きい場合、または0.05より小さい場合、そのようなサンプルは外れ値とみなされる。これは単変量解析に基づいている。多変量正規分布であれば、
【数1】
となり、ここでμはすべての点の平均値、Σは平均からの共分散行列である。点xからμまでのマハラノビス距離を計算することができる。マハラノビス距離は、自由度dのχ
2分布に従う(dはデータの次元である)。最後に、すべての点xに関して、マハラノビス距離がχ
2(0.975)より大きければ、この点は外れ値であるとみなされる。統計的試験の考え方はほとんどの場合に有効であるが、しかしながら、パラメータプロセスを推定する際に、パラメータは潜在的な外れ値の影響を受けやすい。同時に、次元が高い場合、マハラノビスの距離は、自由度が大きいほど類似する。深さベースのアプローチでは、データ空間の境界において外れ値の探索がなされ、偏差ベースのアプローチでは、外れ値を除去することで分散が最小化される。
【0348】
近接度ベースの外れ値検出では、最近傍の考え方を用いて包含または除外の近似を生成することができる。まず、距離の概念が重要である。N個のサンプルとM個の変数がある場合、行列のサイズはN×Mであり、例えばユークリッド距離を使用することによって、サンプル空間における距離を
【数2】
で定義される距離として計算することができる。クラスタリング法は、この距離の概念を採用する一般的な方法である。クラスタリングアルゴリズムでは、中心(重心)が特定されている任意の点群について、半径ωを定義することができる。新たな点がこの半径以下の距離にあれば、適切な点であるとみなされ、この新しいデータ点を含むように重心が更新される。K最近傍アルゴリズムの場合、その点からk個の最近傍点までの距離の合計である。しかし、データセットの次元が高い場合、この方法は「次元の呪い」のために機能しないかもしれない。
【0349】
中心傾向の別の定義に基づく方法は、他にも存在する。例えば、局所外れ値因子(LOF)は密度に基づくものである。密度は、点のクラスタから推定できる。特定のクラスタまたは点群の密度が隣接するものよりも低い場合、このクラスタに含まれる点は外れ値の可能性がある。ここでも、データセットが高次元データであれば、これらのアルゴリズムは機能しないかもしれない。高次元のデータセットを扱うために、角度ベースの外れ値検出(ABOD)およびグリッドベースの部分空間外れ値検出が提案されている。
2. 手法2.1 ハードウェアおよびイメージングおよび動物モデル マルチスペクトル画像データは、自製ベンチトップイメージング構成を用いて取得した。
図1に、この画像取得システムの概要を示す。照射源および画像捕捉モジュールはいずれも、ターゲットの表面から60cmの距離に、反射モードで配置した。タングステン光(ViP Pro−light、Lowel Inc.)は、DCモードでターゲット表面上に広域スペクトルを投影した。タングステン光の正面に擦りガラス(iP−50、Lowel Inc.)を1枚取り付け、光を拡散させて空間照射の均一性を高めた。入射光のいくらかはターゲット表面を透過したが、一方で画像捕捉モジュールによって、後方散乱光信号を収集した。画像捕捉モジュールは、高性能IR強化光学レンズ(型式:Distagon T * F−2.8/25mm、Zeiss)、8スロットフィルターホイール、および12ビットモノクロカメラ(BM−141GE、JAI Inc.)から構成されていた。光学バンドパスフィルターは、カメラのために、光から単一の波長を分離するように設計され、選択された。以下の8枚のバンドパスフィルターを、フィルターホイールに取り付けた。8枚のフィルターの中心波長(CWL)および半値全幅(FWHM)は、420−20、542−10、581−20、601−13、726−41、800−10、860−20、および972−10であった(CWL−FWHM、いずれもnm)。反射率ゼニスライトパネル(SphereOptics GmbH)を用いて波長強度を正規化した。画素の最大値は4098(12ビット)であった。実装された8つの波長は、各波長における既知の皮膚組織吸収挙動に基づいて、組織を正確に識別して有用な分類が行えるように選択された。フィルターホイールが回転する際、カメラは8枚のフィルターのそれぞれを通して、単一波長の画像を連続的に捕捉した。画像は、非圧縮形式でコンピュータに保存された。計算および統計はすべて、MATLAB(登録商標)ソフトウェア(バージョン2014b)を用いて実行した。
【0350】
図43A−43Cは、ハードウェアシステム構成の一例を示す(
図43A)。マルチスペクトル画像データは、自製ベンチトップイメージング構成を用いて取得した。
図43Aに、この画像取得システムの概要を示す。
図43A−43Cの例ではタングステン光を用いたが、他の実施形態における光源は、任意の広域スペクトル照射源またはデータ解析に必要な所望の波長の光に一致する任意の照射源とすることができる。
【0351】
上記システムを使用し、動物実験委員会(IACUC)のもとで設計された熱傷モデル科学研究プロトコルに従って、動物のデータを収集した。ヒトの皮膚(表皮の厚さ:50〜120μm)に近いものとするため、動物モデルとしては、雄性ハンフォードブタ(表皮の厚さ:30〜40μm)を選択した。
【0352】
ブタの背中に円形の熱傷(直径=3.6cm)を作製した(
図43B、43C)。この段階では、3種類の皮膚組織、すなわち健康、熱傷、および充血(受傷後の血液灌流の増加による皮膚の発赤)が視覚化された。壊死組織除去は、深さ1mmの接線方向の切除により連続した切除層が得られるように実施され、それぞれの熱傷において、壊死組織除去を行う領域は6cm×6cmであった(
図43B)。壊死組織除去中、6つの異なる皮膚組織、すなわち健康、中間層熱傷または全層熱傷(熱傷の重症度による)、血液、創傷床、および充血が認められた。接線方向に切除された層はそれぞれ、10%中性緩衝ホルマリン中に保存し、組織病理学検査に送った。各サンプルを薄片化し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。組織学的検査の目的は、上記した種類の組織を識別する「ゴールドスタンダード」を得て、マルチスペクトル画像におけるそれらの位置を知ることであった。熱傷の損傷の深さ、および生きた組織に到達した切除層が正確にどれであるかを、病理学者2名が判定した。
【0353】
それぞれ6箇所に熱傷を有する3頭のブタを使用した。熱傷の箇所それぞれについて、8つの波長すべてを用いて、少なくとも5つの異なる時点において画像を取得した。すなわち、受傷前のベースライン画像、熱傷直後の画像、デルマトームによる最初の1mmの接線方向の切除後の画像、およびさらに2回の接線方向の切除後の画像である。
2.2 トレーニングデータの収集および分類アルゴリズム【0354】
分類モデルを生成するために教師あり学習法を実施した。6つの皮膚組織分類からなるトレーニングデータベースを構築するために、組織学的データを参照として使用して、取得した画像ごとに画素強度および6種類の組織それぞれの位置を抽出した。接線方向に切除された皮膚の各切片を、確立されたプロトコルに従って、認定病理学者によって決定された熱傷深さを示すように区分した(
図44)。また、健康、中間層熱傷、完全な熱傷、血液、創傷床、および充血の部位を示すための描画ツールを開発した。病理学者は、H&E染色からこれらの部位を決定するために、以下のパラメータを使用した。焼痂は、最大の損傷を受けた全層熱傷である。コラーゲンおよび他の組織成分の凝固による不可逆的な組織喪失が存在する。組織学的に、この部位は、細胞全体の喪失を特徴とする。中間層熱傷では組織における灌流が低減し、血管閉塞の所見がある。コラーゲンは全般的にその構造的完全性を保持している。しかしながら、核濃縮を伴う細胞壊死の形跡が見られる。この組織区分は、回復の見込みがあると考えられる。健康な創傷床は、熱傷よりも深部に存在し、本質的に正常な組織学的所見の見られる場所として画定される。これらの部位は、先に取得されたスペクトルイメージングデータと関連付けられ、それによって、我々の分類アルゴリズムを判定するグラウンドトゥルースが確立される。
【0355】
サポートベクターマシン(SVM)アルゴリズムとk最近傍(KNN)分類アルゴリズム(
図49(A2)および
図49(B2)参照)では、良好な結果を得られなかった。健康な状態であるA1の出力には健康な皮膚組織が存在するはずであったが、出力に創傷床が存在する等、他の組織の存在が観察された。熱傷の場合、生理学から、熱傷の周囲には充血が存在すべきであることがわかっていた。さらに、健康な皮膚は、出力において全層熱傷として分類されるべきではなかった(
図49(B2))。10分割交差検証によるモデルの精度は63%であり、これは期待した必要精度よりもはるかに低かった。この2つの結果から、検出を正当化し、小さなデータベースから外れ値を除去することができる。
2.3 外れ値の検出【0356】
外れ値がモデルに及ぼす影響を低減するために、上述した確立された最尤推定を基に、2つの新規概念を利用した外れ値検出アルゴリズムを開発した。まず、サンプル空間の中央付近に位置するサンプルのサブセットを部分空間として取り出し、最尤推定を用いてモデルの平均値および標準偏差パラメータを計算した。この部分空間を「第1のウィンドウ」と呼び、新規な係数α1およびα2(0〜0.5、無名数)によってそのサイズを調整した。これらの係数は、当該サンプル空間の中央から左右それぞれの距離として定義される(したがって、第1のウィンドウの幅はα1+α2に等しい)。サンプル空間全体の幅が1となるよう正規化すると、α1=α2=0.5の設定において、サンプル全体が第1のウィンドウとして選択されることになる。これらの係数を適切に調整することによって、分類モデルの分布パラメータ[ガウス分布における平均(μ)および標準偏差(σ)]を計算する前に外れ値を除去することができる。次に、第1のウィンドウ内の外れ値を検出するための閾値を生成するために、(Zスコアまたは他の分布関数による)確率を新しい特徴の重要度(wi)で重み付け(Wi)した。これらのステップの技術的詳細は以下の通りである。
【0357】
我々は、動物モデルから収集したスペクトルデータからなる大きなサンプル空間から始めた。アルゴリズムの基礎は、確立された最尤推定技術からなる。独立同分布のサンプルであれば、結合密度関数は
【数3】
となる。
【0358】
x
1;x
2;x
3;...;x
nはサンプル、θはモデルのパラメータである。関数の尤度は
【数4】
となる。
【0359】
実際に、対数尤度として知られる尤度関数の対数は、以下のように適用することができる。
【数5】
【0360】
θ
0を推定するには、次の方程式を最大にするθの値を計算する。
【数6】
【0361】
最尤推定の方法により、パラメータθ
0を計算することができる。サンプルの分布がガウス分布であれば、最尤推定パラメータを表す数学的方程式は
【数7】
【数8】
となり、ここでx
iは中央付近のサンプルの値である。外れ値を検出して除去するための、我々の第1の新規な方法では、以下のように係数α
iによってこれらのパラメータを制御する必要がある。
【数9】
【0362】
ここで、外れ値を検出して除去するための、第2の新規な方法を適用する。外れ値を検出する際に、確率を置き換える重みを指定する。まず、確率(p
i)および特徴の重要度(w
i)を決定する。確率p
iは、サンプル分布関数の分布パラメータを用いて計算することができる。例えば、ガウス分布であれば、p
iは標準Zスコアから生成され、Zスコアは
【数10】
として計算される。
【数11】
ここでμはサンプルの平均値であり、σはサンプルの標準偏差である。Zスコアから、p
iが以下のように決まる。
【数12】
【0363】
我々の外れ値検出アルゴリズムについては、下記に従って確率値p
iの調整を行った。
【数13】
【0364】
特徴の重要度w
iは、所望のアプリケーション20、21に依存して変わる可能性があり、任意のモデルの精度を改善するために調整することができる。我々の場合、特徴の重要度は、異なる組織クラスをそれぞれ区別するためにMSI装置に実装された8つの波長それぞれの相対的有用性によって決定した。機械学習の領域では、判別情報の多い波長ほど、高い重み値が付与された。
【0365】
上記のステップにおいて確率p
iおよび特徴の重要度w
iが計算されると、サンプルの重み(W
i)は次のように計算される。
【数14】
【0366】
最後に、データの「第2のウィンドウ」を生成するために、閾値の重み(W
threshold)が割り当てられる。与えられたサンプルのW
iがW
thresholdより大きければ、このサンプルはトレーニングセット(第2のウィンドウ)に割り当てられる。さもなければ、このサンプル点は外れ値とみなされ、トレーニングセットから除去される。
【0367】
アルゴリズムの係数(α
1,α
2,w
i、およびW
threshold)として有効な値を見出すために、実験を繰り返した。
3. 結果3.1 外れ値の検出【0368】
データを分類して外れ値を除去するためのアルゴリズムの実行に先立ち、フィルタリングされていないスペクトルイメージングデータをSVMアルゴリズムおよびk最近傍(KNN)分類アルゴリズムによって解析し、複数の熱傷分類モデルのトレーニングを行った。トレーニング後、これらのモデルに分類すべき試験データを与えた際、分類の平均精度は、グラウンドトゥルースに対して全体として63%であった。熱傷モデルにおいてこのベースライン精度を確立した後、同じ分類アルゴリズムのトレーニングを行う前に、スペクトルイメージングデータセットに対してデータ分類外れ値除去アルゴリズムを適用した。
【0369】
実験を通じて、アルゴリズムの係数の実効値は、α
1=α
2=0.2、w
1=w
2=...=w
8=1、W
threshold=7であることがわかった。これらのパラメータを割り当てた後、「第1のウィンドウ」の平均値および標準偏差のパラメータを、MSIに実装された8つの波長それぞれについて計算した。
【0370】
外れ値を検出して除去した後のデータ分類アルゴリズムの結果を、
図48Aおよび
図48Bに示す。2次元特徴空間における6つのクラスを、
図48Aでは外れ値を含めて示し、
図48Bでは外れ値を除去して示している。説明のために、サンプル空間(赤色)は2次元で示し、実装した8つの波長のうち2つのみを表示している。外れ値の検出および除去の後、熱傷分類モデルのトレーニングに使用される部分空間である第2のウィンドウ(青色)は、より均質かつ緊密なクラスタとなっており、理論的に、結果として得られるモデルは精度の高いものとなる。
【0371】
データ分類と外れ値検出を行うアルゴリズムの結果を8つのMSI波長すべてにわたって視覚化するために、外れ値を検出して除去する前と後の、組織分類のそれぞれにおいてすべての波長で収集したサンプルを表す箱ひげ図を描いた。最初のサンプル空間(
図46A−46Fおよび
図47A、
図47B)では、組織分類はいずれも、特に血液は、相当数の外れ値を含んでいた。外れ値の検出および除去を行うと、部分空間内に残存する外れ値の数は、
図47Bに示すように大幅に減少した。
【0372】
6つの組織分類すべてのスペクトルデータを同時に表示した代表的な2次元サンプル空間を、
図48Aおよび
図48Bに示す。
図47Aおよび
図47Bの箱ひげ図のデータは、組織分類ごとに、8つの波長すべてについて、外れ値の検出および除去前(a)および後(b)のサンプル空間を示している。箱は四分位範囲を表している。赤い+の記号は、データの外れ値との境界を示す。外れ値の検出後、サンプル空間に残存する外れ値の数は、いずれの組織クラスにおいても有意に減少したが、とりわけ血液のクラスの減少が顕著であった。血液は明らかな例外であるとしても、様々な組織クラスのプロットは、概してクラスタ状であった。しかし、クラスタ間にはかなりの重複が認められた。外れ値の検出および除去を行うアルゴリズムを適用すると、組織クラス間の分離が、明らかに改善された。外れ値を除去した後、同じ分類アルゴリズム(SVM、KNN等)を使用して、新たな熱傷分類モデルを生成した。全体としての平均モデル精度は、63%から76%へと改善された。
【0373】
外れ値検出のプロセスを示した後の統計的な効果を、各バンドの箱ひげ図によって、
図46A−46Fならびに
図47Aおよび
図47Bに示す。さらに、提案したアルゴリズムの効果を示すために、最も重要な2つの波長を使用して、2次元特徴空間を構築した。可視および近赤外バンドにおける血液の性質のため、サンプル空間全体に青色が広がる。我々のアルゴリズムの使用により、血液のクラスの収束が見られることは明らかである。赤色の健康のクラスについても、同じ説明が適用される。
3.2 動物モデルの結果【0374】
図49に、モデル分類精度の改善を示す。外れ値を除去する前の分類モデルは、健康な皮膚と、生理学的に熱傷を取り囲んでいる充血部とを正確に区別して検出することができなかった。このモデルでは、実際には健康な皮膚の存在する場所が、別のいくつかの組織クラスであると予測された。熱傷の周囲の充血部は、血液の存在として予測された。さらに、充血ゾーンの外側の健康な皮膚は、誤って全層熱傷として分類された。しかし、外れ値を除去した後のモデルは、対照の画像および熱傷の画像のいずれにおいても、健康な皮膚と、熱傷の周囲の充血部とを正確に分類した。
4. 結論【0375】
この実験には、強調に価する点がいくつか存在する。まず、アルゴリズムの係数に割り当てられた値(α1、再帰的処理におけるアプローチ)である。これらの値は、本稿で提示する特定のMSIアプリケーションにおいて効果的に精度を高めたことにより選択された。しかし、他のアプリケーションにおいては、望ましい結果を得るためにこれらの値を調整する必要があるだろう。
【0376】
興味深いことに、最適な特徴の重要度(w
i)は、波長ごとに最適な値を特定するための実験を行った後に、全波長について1という値に設定された。特徴の重要度(w
i)として、最終的にいずれも1が割り当てられたということは、MSI装置に採用された8つの波長それぞれが、互いから独立して特有の分光情報を提供するよう選択されたという事実を反映している。この結果は、波長の選択が、先に記載した皮膚組織と熱傷組織の光学特性に従ってなされたのであれば、驚くには値しない。
【0377】
正確に分類することが最も困難な組織は血液であった。
図47Aおよび
図47Bならびに
図48Aおよび
図48Bに示されているように、血液として収集されたサンプル空間が不均一であることから、明らかである。血液を特徴付けるスペクトルデータの二峰性分布は、可視光バンドおよび近赤外光バンドにおける血液固有の吸光スペクトルの結果であり、これもまた二峰性である。他の組織クラスはそれぞれ単一の吸光度ピークを有し、スペクトルデータの分布は多少均質度の高いものとなる。
【0378】
最終的に、外れ値を検出して除去するアルゴリズムは、皮膚組織を分類するためのMSIアプリケーションの精度を大幅に改善した。このアルゴリズムにより、各組織クラスのサンプル空間における分散を減少させることができた。このようにして分散を抑制することにより、それに対応してスペクトル特性の重なりが低減された。重なりが減少すると、分類モデルのトレーニングが改善され、分類精度の明らかな向上が認められた。最終精度76%を達成したことで、少なくとも、熱傷組織の分類における現在の臨床基準(熱傷専門家による臨床判断)を満たすようにモデルを改善できたと言える。このモデルは、熱傷の専門家を容易には得られない環境において、熱傷の被災者を処置する医師の意思決定を支援する可能性を有している。
切断に関する例示的実施形態の概要【0379】
上記したような、治癒の可能性を決定するための十分に正確な計測/試験および身体の創傷治癒能力に影響を与えることが知られている複数の因子の欠如は、評価の改善には診断に対する多変量法が必要であることを意味している。Spectral MDは、この問題に対処するための独特の位置にある。というのは、我々の装置は、組織の病理学的プロセスを分類するために、独立した複数の変数として情報を扱うよう設計されているからである。Spectral MDのイメージング装置は、機械学習アルゴリズムを使用して、2つの光学イメージング技術、すなわちフォトプレチスモグラフィイメージング(PPGイメージング)とマルチスペクトルイメージング(MSI)とを組み合わせることにより、糖尿病コントロールや喫煙等の患者の健康指標を用いて予後情報を生成する(
図50)。
【0380】
図50に、本明細書の開示に従って患者の健康指標と組み合わせることで、予後情報を生成することのできる2つの光学イメージング技術、すなわちフォトプレチスモグラフィイメージング(PPGイメージング)およびマルチスペクトルイメージング(MSI)を高度に概略化して示す。この装置をDeepView(Gen2)と呼ぶ。DeepView(Gen2)は、血行障害性疾患の患者において適切なLOAを選択するために必要な高感度および高特異性を保持するものとして期待されている。これら2つの光学イメージング法は、動脈灌流および組織の酸素化を含む重要な組織特性を推定するように設計されている。これらの2つの尺度は、LOAの選択にとって重要な鍵となるが、これは、血行障害性疾患を有する患者における創傷治癒が、動脈潅流の深刻な欠如に起因する組織の酸素化の低下によって妨げられることによる(Norgren,Hiatt,Dormandy,Nehler,Harris,& Fowkes,TASC II Working Group. Inter−Society Consensus for the Management of Peripheral Arterial Disease(TASC II),2007)(Mohler III,Screening for Peripheral Artery Disease,2012)。我々の方法を使用すれば、脚の広範囲にわたる組織レベルの灌流を同時に評価して、下肢の低灌流部位を特定することができる。これは、患者の病歴および診察と血管調査(患者の微小循環の詳細な評価を含むことはまれである)との組み合わせに基づいて観察者が適切なLOAを評価しなければならない臨床判断のみに頼った当て推量とは対照的である。一方、DeepView(Gen2)は、創傷治癒の可能性に関して全身的影響を及ぼすような、患者の健康指標の評価も行う。組織の微小循環の局所評価と創傷治癒に影響を与える全身的要因の総合評価とを組み合わせることにより、DeepView(Gen2)は、単一の変数ではなく、創傷治癒に影響を与える複数の要因について説明するものである。
【0381】
DeepView(Gen2)システムでは、適切な予測解析のための多変量システムを調査することを目的として、機械学習と呼ばれる統計学的訓練規律を利用している。このアプローチは、創傷治癒に影響を及ぼす全身的要因(糖尿病、喫煙状況、年齢、栄養状態等)に、現在の技術では微小循環において容易に観察することができない局所的微小循環評価から得られるデータを組み込むことによって、患者の一次創傷治癒の全体的な可能性についての重要な情報を提供するものと考えられる。局所的要因および全身的要因はいずれも最終的な治癒の可能性に影響するため、これらの要因すべてを併せて考慮することによって、DeepView(Gen2)システムの精度が向上する。
【0382】
我々の装置は、研究レベルでは、切断後の一次創傷治癒の可能性予測において、少なくとも95%の感度および95%の特異性を有するであろう(第I相の実現可能性試験および第II相の達成基準参照)。この感度および特異性で切断前の患者の日常的評価に使用されれば、DeepView(Gen2)は再切断率を67%低下させることが期待される。これにより、年間の再切断数を10000回減らすことができ、切断を受けた患者の生活の質が改善され、切断を受けた患者のケアに関する医療経費が削減される。現在、切断前のABI検査に関して、メディケア(Medicare:高齢者向け医療保険制度)は患者1人当たり約150ドルの医療費を負担しているが、費用の大部分は検査を実施する技術者の時間および検査結果を解釈する医師の時間によるものである(Criqui,et al.,2008)。提案する装置は、現行の血管評価と同等の費用で賄えると予想されるため、LOA評価の現在の費用に影響を与えることはない。現行のLOA試験とは異なり、我々のイメージングシステムは消耗品を必要としない。日常的な洗浄および点検の費用は、現在市販されているシステムの費用と同等である。費用については、「商業化計画」において詳述する。
【0383】
Spectral MDのDeepView(Gen2)イメージング技術は、我々の知る限り、フォトプレチスモグラフィイメージング(PPGイメージング)とマルチスペクトルイメージング(MSI)の光学イメージング技術を融合させて設計された最初のシステムである。
図51に、2つの光学イメージング技術、すなわちフォトプレチスモグラフィイメージング(PPGイメージング)およびマルチスペクトルイメージング(MSI)を融合させて設計された装置(DeepView)の例を示す。さらに、これは、我々の知る限り、患者の重要な健康指標をその評価アルゴリズムに組み込むことのできる最初のイメージング技術である。このシステムの開発以前、Spectral MDは、プレチスモグラフィ波形の2次元画像を提供する、米国での販売に関してFDAの認可を受けた最初の企業であった(第1世代(Gen1)技術))。第2世代(Gen2)の技術では、血流評価(すなわち、動脈パルス振幅)と組織の特徴付け(すなわち、スペクトル分析)とを組み合わせることができる。組織からこれらの測定値を同時に取得できれば、いずれかの測定値単独の場合と比べて、組織をより正確に評価することができる(下記の「予備的研究」を参照のこと)。
【0384】
特定のLOAにおける治癒の可能性を判定するための研究から、切断が成功する部位と失敗する部位とでは、組織の酸素レベルに顕著な差があることがわかっている。これらの研究では、経皮酸素化測定(TCOM)を使用して、組織の酸素化についての調査が行われた。しかしながら、TCOMは、数十年にわたって利用可能であったにもかかわらず臨床評価を超えるものとはなっていない。また、大規模な臨床試験でも、特定のLOAにおいて切断の成功の予兆となる組織の酸素化に関する明確なカットオフ値は得られていない。専門家の評価によれば、TCOMが臨床診療に採用されていないことには、いくつかの理由がある。何よりもまず、TCOMでは、データは非常に小さな関心領域から収集される。また、TCOMでは患者の皮膚を熱することが必要となり、これは、特に血行障害性疾患の患者において、時として皮膚の熱傷につながる。さらに、TCOMの結果は、周囲温度の変動や局所的な組織浮腫の影響を受けるため、装置の経時的整合性が制限される。
【0385】
DeepView(Gen2)は、TCOMや利用可能な他の装置の様々な制限を克服することで、選択されたLOAにおける治癒の可能性を予知できるように設計されている。この装置は組織表面の広い領域のデータを捕捉するため、単独の領域ではなく表面全体にわたって組織の酸素化および灌流のばらつきに関する特徴付けおよびマッピングを行うことが可能となる。DeepView(Gen2)は、非侵襲かつ非接触であり、有害な放射線を放出することもないため、患者に害をなす重大なリスクを伴わない。この装置は、周囲温度が多少変動しても、その影響を受けない。しかしながら、最も重要であるのは、DeepView(Gen2)が、臨床的に重要な患者の健康指標(糖尿病の病歴、感染症の存在、喫煙状況、栄養状態等)を解析し、創傷治癒の可能性の包括的な評価をエンドユーザに提供することである。以前の技術では、局所的な組織の酸素化を評価することしかできなかった。
アプローチ【0386】
提案するイメージング装置の態様には、LOAの最適な選択を含む組織分類の様々な用途のための非侵襲的光学イメージングが包含される。Spectral MDのDeepView(Gen2)イメージングシステムは、組織灌流の測定および患者の健康指標に基づく診断画像を提供するポイントオブケア(POC)灌流イメージングシステムである。看護スタッフがイメージング検査を行うためのトレーニングは、容易である。手足のイメージングに要する時間は約10分間であり、結果は、医師が検討できるように電子的に保存される。患者側から見れば、この検査には有害な副作用がなく、皮膚への接触がなく、不快感も生じないため、非常に受け入れやすい。
【0387】
この提案において研究すべき重要な革新的事項は、切断計画における創傷の治癒可能性についての診断精度を向上させるために、微小循環評価に患者の健康指標を追加することである。次のセクションで、DeepViewの各要素の個々の値を提示し、これら複数の変数をどのように組み合わせることで創傷の治癒可能性についての1つの予測を得ることができるか、簡単な考察を述べて締めくくることとする。
【0388】
上述の通り、DeepView(Gen2)装置は、血流評価の2つの光学イメージング法を同時に実行する。2つのイメージング法のうち1つ目のPPGイメージングは、心拍数、呼吸数、およびSpO2等のバイタルサインを捕捉するためのパルスオキシメトリで使用されている技術と同一であるが、DeepView(Gen2)は、組織の広い範囲にわたって100万に及ぶ固有のPPG信号を捕捉することから、より進んだ技術であると言える(Severinghaus&Honda,1987)。PPG信号は、光と血管組織における動的変化との相互作用の測定によって生成される。血管組織は、心拍周期の収縮期血圧波に合わせてその容積が約1〜2%の膨張および収縮を繰り返す(Webster,1997)。この血液の流入は、組織の容積を増し、光を強く吸収するヘモグロビンタンパクをさらに運び入れる。そのため、この組織における光の総吸収度は、心拍に合わせて規則的に変動する。この情報は、パルスオキシメータによって報告される生命信号に翻訳されうる。
【0389】
プレチスモグラムから画像を生成するために、組織を通る光路を利用する(Thatcher,Plant,King,Block,Fan,&iMaio,2014)。組織の表面に入射する光の一部は、組織内で散乱する。この散乱光の一部は、最初に入射したときと同じ表面を通って組織から出る(Hu,Peris,Echiadis,Zheng,& Shi,2009)。高感度のデジタルカメラを用いて、組織のある領域におけるこの後方散乱光の収集を行うが、その際、イメージング装置の各画素が、散乱光の強度の変化によって決まる固有のPPG波形を含むようにする。相対的な組織血流2次元ビジュアルマップを生成するために、固有の波形それぞれの振幅を測定する。精度を向上させるために、多くの拍動サンプルの平均振幅を測定する。
【0390】
DeepView(Gen2)が行う2つ目の光学的測定はMSIである。この技術は、可視光と近赤外(NIR)光(400〜100nm)の選択波長に関して、組織の表面からの反射率を測定するものである。物質のスペクトルによる特性評価は、主として地質探査や軍事標的の検出のためのリモートセンシング(例えば、衛星や飛行中のイメージング)に使用されているが、この技術は、医療用途に進出しつつある(Li,He,Wang,Liu,Xu,& Guo,2013)。この方法は、PADを含む多くの病態に関連する重要な皮膚特性の定量化に有効である。LOAの選択に関して、MSIは、ヘモグロビンの容積分率および酸素化されたヘモグロビンの存在を定量化することができる(Jolivot,Benezeth,& Marzani,2013)(Zonios,Bykowski,& Kollias,2001)。この技術の他の用途については、後の「予備的研究」において記載する。
【0391】
DeepView(Gen2)のMSIで使用する光の波長は、光と組織との相互作用の確立された特徴付けに基づいて選択される。角質層および表皮に存在するメラニンは、主として紫外波長および可視波長を吸収する。近赤外光波長(700〜5000nm)は、メラニンにほとんど吸収されず真皮を貫通するため、真皮の深さの測定には最良であることがわかっている。ヘモグロビンは、真皮を通る血管内に多く含まれ、その濃度によって、320nmを超える波長が真皮に吸収される度合いが決まる。ヘモグロビンによる光の吸収は、分子が酸素化されているか否かによっても変化する。組織におけるメラニンおよびヘモグロビンの濃度ならびに酸素化されたヘモグロビンの割合が疾患状態の間に変化すると、MSIは結果として生じる反射スペクトルの変化を検出することができる。したがって、異常な皮膚組織は、その反射スペクトルの変化を健康な組織と比較することによって特定することができる。MSIは、より新しいハイパースペクトルイメージング装置と比較すると、組織を特徴付けるための固有の波長数は少ないが、空間分解能、スペクトル範囲、画像取得速度、およびコストの組み合わせを総合的に考慮すると、より優れている(Lu&Fei,2014)。
【0392】
DeepView(Gen2)が利用するデータの第3の要素は、日常的な患者の評価において収集された、関連する患者の健康指標である。創傷治癒に影響を及ぼす様々な因子が特定され、詳細に記載されている。通常、これらの因子(患者の年齢、糖尿病の診断、喫煙歴、感染症、肥満、投薬、栄養状態を含む)の多くまたはすべてが、血行障害性疾患により下肢切断を受ける患者に影響を与える。臨床医は現在、見込みのあるLOAを評価する際に、これらの変数をゲシュタルト的に考慮するが、DeepView(Gen2)は、これらの指標を定量的に評価することにより、所定のLOAにおける一次創傷治癒の可能性を予測することができる。患者の健康指標と光学イメージングデータとの統合は、DeepView装置の機械学習アルゴリズムによって実行される。医師は、イメージングに際して、関連する患者の健康指標を装置に入力するだけでよい。このデータは、PPGイメージングおよびMSIによって収集された光学データと同様に、機械学習アルゴリズムには追加の変数として扱われる。機械学習アルゴリズムは、トレーニングにより、DeepView(Gen2)によって収集されたすべてのデータを評価した後、定量的な出力を生成する。定量的出力は翻訳されて、走査された組織表面の複数の領域が切断後に治癒する可能性の高い領域であるか低い領域であるかを特定できる画像となる。
【0393】
DeepView(Gen2)の装置は、DeepView(Gen1)のPPGイメージング装置と、MSIカメラと、患者の客観的健康指標の入力とを組み合わせたものである(
図52)。
図52に、DeepView(Gen1)PPGイメージング装置、MSIカメラ、および患者の客観的健康指標の入力の組み合わせの例を示す。
予備的研究【0394】
システムの設定およびアルゴリズムを調整することにより、異なる病理学的条件下で組織特性を評価することができるようにDeepView(Gen2)を調整することができる。この提案の第I相におけるLOAの研究に向けて、特定のアルゴリズムを開発し、一次切断後の創傷治癒を予測するためにパルス振幅および組織の酸素化の測定に合わせた特定の光学機器とフィルターを使用することとする(「実験の計画および方法」のセクションを参照のこと)。提案する技術に関して、可能性のある別用途のために一連のベンチトップ試験、前臨床試験、およびパイロット臨床試験を行い、成功を収めた。LOAを選択における本装置の使用をサポートするために、これらのテストの結果を提示する。
前臨床熱傷モデル【0395】
熱傷の壊死組織除去における外科医をガイドするための使用を意図して、血流(すなわち、動脈パルス振幅)と組織構造の完全性(血液量、炎症、および壊死を含む)との組み合わせの検出(例えば、スペクトル解析)に特有の光学機器、フィルター、およびアルゴリズムを使用した。表皮の微小血管系の状態を評価するための、我々のPPGアルゴリズムおよびMSIアルゴリズムは、個別に用いても同時に使用しても、熱傷後の壊死組織を正確に特定することが続いて実証された。DeepView(Gen2)PPGイメージングシステムの使用により、熱傷により壊死した組織における血流は周囲の健康な組織における血流と顕著に異なることを確認した。MSIカメラを用いて、IACUCに承認されたブタ熱傷モデル実験において、外科的に除去する必要のある熱傷組織の存在を、組織病理学的なゴールドスタンダードに従って正確に特定できる(96%の感度および82%の特異性)ことを実証した。
【0396】
簡単に説明すると、熱した棒を圧力を制御しつつ4匹のミニブタに押し当て、24箇所の深達性中間層熱傷を作製した。受傷の10分後に、1.0mmの壊死組織除去を、健康な組織に達するまで連続的に行い、除去直後のPPG信号およびMSI信号を得た。壊死組織を除去する都度、切除した組織サンプルを処理し、盲検法で評価を行う組織病理学者に提供した。ゴールドスタンダードである組織病理学的評価において、認定組織病理学者は、各切除片における健康な創傷床組織および非生存熱傷組織を特定した。さらに、認定外科医が熱傷のカラー写真を盲検的に観察し、健康な創傷床組織および非生存熱傷組織を特定した。我々は組織病理学者および外科医の解析結果を知ることなく独立して作業を行い、PPGおよびMSIの評価結果を決定した。
【0397】
異なる組織クラス間のPPG信号強度の差異を特定することにより、我々のPPGイメージング装置は、組織学的評価による判定と同様に、壊死組織除去の適切な点を特定することができた。一連のデータの収集は、熱傷を導入する前の関心部位におけるPPG信号の測定から開始したが、無傷の皮膚のPPG信号は、予想通りに一様に健康な組織を示した。しかしながら、熱傷が発生すると、熱傷が生じた場所に相当する画像の中心部のPPG信号は劇的に低下する。一方、周囲の組織はなお、健康な無傷の組織に一致する信号を示していた。
【0398】
図53に、熱傷組織の信号と、壊死組織除去によって現れた健康な創傷床の信号の違いを示す。連続的な壊死組織除去に続いて処理された画像は、さらなる切除を必要とする熱傷組織の信号と、壊死組織除去によって最終的に現れた健康な創傷床の信号との顕著な違いを示している。熱傷組織の平均信号強度は2.8±1.8dBであり、健康な皮膚および健康な創傷床組織の信号強度は、いずれもそれよりも相当大きく、それぞれ4.4±2.2dBおよび4.2±2.6dBであった(p<0.05)。驚くには値しないが、PPGの所見と組織病理学者および外科医の所見とは、完全に一致していた。
【0399】
同じ実験を通して、MSIによる評価は、熱傷壊死組織除去中に存在する重要な生理学的組織クラスを、82%の精度で正確に分類することができた。特に、熱傷壊死組織については、組織病理学的判定によれば、96%の感度および82%の特異性を達成した。このMSIによる評価では、健康な皮膚、充血、創傷床、血液、軽度の熱傷、および重度の壊死熱傷の6つの可能な生理学的クラスが組み入れられた。
図54に、これら6つの例示的生理学的クラスを示す。熱傷部位の複数の相を通る一連のPPG信号と同様に、MSIの結果においても、熱傷発生前の健康な皮膚の均一性が最初に検出され、続いて、健康な創傷床に到達するまでの連続的な壊死組織除去の間、様々な種類の生存組織および非生存組織が、正確に識別された。
【0400】
最後のステップで、組み合わせされたPPGデータとMSIのデータの有効性を評価した。上述の通り、同一の熱傷におけるPPG信号とMSI信号を、1つのイメージングシステムで同時に収集した。組み合わせたデータおよび機械学習アルゴリズムを使用して、2つの測定を融合させる効果を試験した。このデータセットから、MSI単独での精度は82%であることがわかった。MSIデータを有するクラシファイヤにPPGデータを含めると、全体の精度は88%に向上した。
図55は、PPGデータ、MSIデータ、およびPPGデータとMSIデータとを組み合わせた結果を示す画像である。
パイロット臨床試験(実現可能性試験)【0401】
図56に、手、大腿、および足の部位におけるPPG信号の例を示す。DeepView(Gen1)PPGイメージング装置についても、様々な臨床応用において有用な血流データを提供するために、PPGイメージングの能力を確認するパイロット臨床試験を実施した。データには、褥瘡潰瘍、皮膚移植、および下肢虚血における組織生存率を決定するために心血管ICUの患者から収集した皮膚血流のPPG画像が含まれていた。パイロット臨床評価の一例として、大動脈解離により膝窩動脈の両側凝固および四肢への血流異常が生じている女性の症例を示す。血管外科医の臨床評価から、膝よりも遠位の脚部における血流減少が予測された。手、大腿(膝の近位)および足の脈動性血流の存在を測定した。得られた画像によれば、手および大腿部にはPPG信号(脈動性部位)が存在するが、足には脈動流が存在せず、この結果は、患者の既知の臨床状態と相関するものであった。これらの予備調査によって証明されたDeepView技術の血流検出能は、LOAの選択をガイドする能力を有するDeepView装置の重要な特徴である。
要約および考察【0402】
PPGおよびMSIの機能を備えた装置の使用により、熱傷モデルおよび患者の症例において血流および酸素含有量が不足している組織を特定できることを実証した。我々の技術の直接的な実現方法は、熱傷の分類とPADにおけるLOAの特定とでは異なるが、プロセスの基本的な原理は同じである。臨床ユーザが熱傷を調査しているか、様々なLOAにおける潜在的な一次創傷部位を評価しているかに関わらず、いずれの状況においても同じ物理的組織成分の測定を行う。熱傷の評価とLOAの評価(または可能なその他の評価)で異なるのは、異なるアルゴリズムとフィルターセットが使用されることのみである。上で示したように、我々の技術では、PPGとMSIをいずれも使用することにより、表皮の微小血管系および血液灌流の減少によって引き起こされる病理をより正確に調べることができる。我々の技術によれば、熱傷の調査で情報をもたらした原理と同じ原理に基づいて、所定のLOAにおける治癒の可能性を予測することができる。創傷治癒の結果に影響を与える重要な患者の健康指標を追加することで、DeepView(Gen2)の精度はさらに向上するはずである。第I相試験において、この仮説を検証する。
実験計画および方法:第I相 パイロット臨床試験【0403】
第I相での具体的な目的は、パイロット臨床試験における切断部位の治癒能力診断に我々の装置を使用することの実現可能性の試験である。この評価の一環として、様々な切断シナリオにおける治癒能力を診断するための機械学習診断アルゴリズムをトレーニングする目的で、多数の切断患者からデータを収集する。試験のこの段階では、ヒトが適切なモデルとなるが、これは、装置が迅速かつ非侵襲的であり、ベッドサイドや術前のような日常のケア環境でイメージングによる研究を実施できることによる。
【0404】
図57に、機械学習診断アルゴリズムをトレーニングするプロセスの例を示す。機械学習診断アルゴリズムをトレーニングするには、それを最終的に使用する母集団からのデータが必要とされる(
図57)。重要であるのは、アルゴリズムの精度は、トレーニングデータの真の状態(この場合は、治癒しない切断グループと治癒する切断グループ)を特定するために使用される方法と同程度にしかならないことである。これに対処する目的で、結果を追跡し、分類するための標準切断治癒評価システムを作成した。試験対象についての結果が積み上がると、アルゴリズムを発展させ、解析する作業を開始できる。機械学習アルゴリズムの開発では、初期精度の決定、精度改善のための調査の実行、および新たな精度の評価が繰り返される。この実行可能性パイロット試験は、微小循環イメージングと患者の健康指標とを組み合わせると、より大規模な中枢試験における成功の可能性が高くなることを示す証拠となる。
【0405】
これは、60人の患者の調査からなるパイロット臨床試験計画であり、PAD患者の切断の一次治癒に関するDeepView(Gen2)システムの予測精度を、現在のケア標準と比較するものである。
【0406】
DeepView(Gen2)イメージング装置は、光学的方法によって、皮膚の血液供給に関するスペクトル信号およびPPG信号を、広い範囲(最大15×20cmの組織)から収集する。この装置は、下肢の皮膚の微小循環を複数の大きな部位にわたって調査することに適している。DeepView装置の特徴は、患者の重要な健康特性をその診断アルゴリズムに統合して精度を高められることである。パイロット試験では、中枢試験で確認されることになる患者の重要な健康指標を特定する。この試験の主要な目的は、装置の機械学習診断アルゴリズムに含まれる患者の健康指標によって、微小循環測定単独の場合よりも精度が高まることの確認である。この試験では、従来のLOAそれぞれにおける微小循環を測定し、創傷治癒に影響を及ぼす患者の健康特性と組み合わせることで、切断後の患者における一次創傷治癒の見込みとの相関を見極める。
【0407】
すべての患者の切断予定の下肢について検査を行い、試験に含める。臨床関連の患者の健康情報は、施設のケア提供者が収集する。我々の実験的イメージング装置を用いた測定は、Spectral MDによってあらかじめトレーニングされた病院のスタッフが行うこととして、イメージング試験が実施される。
【0408】
切断端を覆うために使用される皮膚の部位は、DeepView(Gen2)LOAアルゴリズムによって、治癒能力の有無について評価される。DeepView(Gen2)による解析を担当する技術者には、切断が行われる箇所についての臨床判断の結果は知らされない。
【0409】
真の陽性(+)および真の陰性(−)の事象、あるいは治癒しない対象および治癒した対象を得るために、切断後の一次創傷治癒評価標準(表2)を使用する。この評価は、3つのカテゴリー、すなわち切断成功、治癒遅延を伴う切断成功、および治癒不全から構成されている。切断成功は、30日以内に肉芽組織が完成して治癒し、さらなる切断の必要がない状態と考えられる。治癒遅延を伴う切断成功は、治癒が遅延して30日後の肉芽組織形成は不完全であるが、6ヶ月以内に最終的な治癒に至り、さらに近位での再切断の必要はない状態と考えられる。治癒不全は、壊死および/もしくは壊疽が生じ、かつ/またはさらに近位での再切断の必要がある状態と特徴付けられる。また、治癒に血管再建が必要となる創傷は、切断失敗と考える。
【表6】
【0410】
この治癒評価は、手術の30日後に行う。治癒の遅れている対象については、手術の6ヶ月後に2回目の治癒評価を行う。6カ月後も治癒せず、かつより近位での再切断を受けていない対象は、非治癒群に分類される。
【0411】
図58に、臨床検査のフローの例を示す。DeepViewイメージング評価(
図58):Spectral MDのGen 2装置を用いた皮膚をイメージングすることによって、対象それぞれの微小循環データを収集する。切断が予定されている脚を、それぞれ約30秒間走査する。PAD患者における従来の外科的切断法に従い、足首および足の各部位をイメージングする。従来の切断とは、膝上(AKA)、膝下(BKA)、足首の上(すなわち足)、中足骨横断、またはつま先である。断端を覆う組織片として使用する皮膚部位を選択して解析する(
図59)。
【0412】
図59に、従来の切断手術に関わる組織を例示する。点線は皮膚の切開位置を示し、赤い楕円は、切断の一次治癒を成功させるためには生存している必要のある皮膚の位置を示す。
【0413】
診断モデルで使用される患者の重要な健康指標は、個々の臨床現場の臨床スタッフにより収集される。ケア標準を超えるデータは一切収集しない。そのような指標としては、糖尿病コントロール(例えば、HbA1c、グルコース、およびインスリン)、喫煙歴、肥満(例えば、BMIまたは腹囲)、栄養物(例えば、アルブミン、プレアルブミン、トランスフェリン等)、感染症(例えば、白血球数、顆粒球の状態、体温、抗生物質の使用)、年齢、傷害のメカニズム、および重要な投薬(例えば、グルココルチコイドまたは化学療法)等が挙げられるが、これらに限定されない。この情報は、DeepViewイメージング装置のソフトウェアへの入力により、診断アルゴリズムに追加される。
【0414】
対象を非治癒(+の事象)と治癒(−の事象)クラスへと分類する機械学習アルゴリズムの開発は、各患者について収集された臨床的特徴に基づいて行われる。最初に、特徴のすべてをアルゴリズムに含める。次いで、以下のような10分割交差検証によって、アルゴリズムの精度を判定する。ランダムに選択した60%の対象を用いてアルゴリズム係数を生成し、次いで、トレーニングされたクラシファイヤによって残りの40%を分類する。40%のホールドアウト群を分類する際のアルゴリズムの精度は、標準的な感度・特異度の方法を使用して計算する。これを10回繰り返すことで、精度についてのロバストな定量化が達成される。
【0415】
図60に、切断レベルのためのクラシファイヤモデルを生成するステップの例を示す。最初の精度が確立された後、精度を向上させるための標準的な一連の手法を用いて、アルゴリズムを発展させる作業を開始する(
図60)。このプロセスにおける重大な問題の1つは、この段階で有するモデルのような大きなモデルにおけるバイアスとバリアンスのトレードオフを解決することである。別の言い方をすれば、このアルゴリズムは現在の試験集団のデータには非常に良く適合するものの、一般的な母集団には転用できないかもしれない。これに対処する目的で、高精度であるが変数間の冗長性が最小であるような(すなわち、共分散のモデルから情報を削除した)微小循環測定と患者健康データの組み合わせを確立するために、特徴選択(Toward Integrating Feature
Selection Algorithms for Classification
and Clustering,Huan Liu and Lei Yu)を実行する。この段階で、データを分類するための様々なクラシファイヤモデルについても検討する。これには、線形判別分析、二次判別解析、決定木、クラスタリング、およびニューラルネットワークが含まれる。
【0416】
成功の判定基準:我々の装置における切断の一次治癒予測確率が現在のケア標準(70〜90%)に匹敵することを実証し、より大きな臨床検査において、この精度のさらなる向上が十分に達成可能であることを示す必要がある。
【0417】
考えられる問題と解決策:切断手術に伴って血管再建術が実施されることもあり、この処置が診断結果に影響を及ぼす場合がある。そのような症例を記録し、統計解析において考慮することで、該処置と診断決定との間に関連があるか否かを特定する。
【0418】
潜在する別の問題は、2値のいずれかとして得られる装置の出力において、治癒群と治癒遅延群とが組み合わさっていることである。実際に、治癒遅延群と治癒群とでは、診断出力において別カテゴリーとできるような有意な差が見られることもある。逆に、治癒遅延群は、非治癒群により近く、容易には区別できないこともある。この場合、より近位の画像のデータをアルゴリズムに含めてもよい。装置の臨床的有用性は、この場合、単に成功または失敗を特定するだけでなく、切断における合併症をも特定するツールとして、さらに価値があるかもしれない。
【0419】
皮膚の色素沈着に差があれば、本試験で対象から収集する測定値にばらつきが生じることとなる。このような差を克服するために、我々の方法は、患者の組織の健康な部位を特定することを含み、これを基準としてDeepViewによる測定の正規化を行うことができる。
【0420】
別の問題は、PAD患者において、皮膚への正常な血流が観察されうることである。これは、側副血管による補償の結果かもしれない。しかしながら、PADを有する患者は、運動や短期虚血に対する応答が低いことが示されている。容易に実施できるように改変した試験として、測定する肢の圧力カフを膨らませて3分間虚血状態とした後に、患者のDeepView信号を試験することが挙げられる。PADでは、反応性充血応答におけるピークの50%に達するまでの時間が長くなることが知られているが、これは、DeepViewが評価するものと同じ組織の光学特性によって測定することができる。
実験の計画および方法 第II相【0421】
第II相は、臨床診断性能試験であり、PAD患者が最初の切断を受けた後の一次創傷治癒の可能性予測における、我々の装置の感度および特異性を評価するものである。この母集団を選択した理由は、現在の臨床ケア標準を用いてLOAを選択した場合に創傷治癒が陰性となる対象を得る確率において約20%の改善が見込まれるからである。DeepView(Gen2)装置の臨床診断性能は、DeepView(Gen2)による診断が、主要エンドポイントとしての創傷治癒結果をいかに正確に予測できるかを定量化する手段によって特徴付けられる。先の試験で用いられたゴールドスタンダードの方法を用いて創傷治癒評価を標準化し、PADにおける切断後の創傷治癒を分類する。
【0422】
DeepView(Gen2)の画像は、従来の各切断レベルにおける断端の最遠位部を覆う皮膚組織片に使用される皮膚部位から収集される。この組織部位が選択されるのは、手術部位の一次治癒にとって決定的に重要であることによる。切断後の治癒可能性についての従来の診断は、微小血管流を測定するのみであったが、本試験の目的は、微小循環の測定と患者の健康指標のいずれをも含むDeepView(Gen2)アルゴリズムの精度を評価することである。
【0423】
標準化された創傷治癒評価により決定される切断成功の可能性を評価するための、DeepView(Gen2)イメージングの感度と特異度。
【0424】
これは、354人の患者の調査からなる中枢臨床試験計画であり、PAD患者の切断の一次治癒に関するDeepView(Gen2)システムの予測精度を、現在のケア標準と比較するものである。
【0425】
DeepView(Gen2)イメージング装置は、光学的方法によって、皮膚の血液供給に関するスペクトル信号およびPPG信号を、広い範囲(最大15×20cmの組織)から収集する。この装置は、下肢の皮膚の微小循環を広い範囲にわたって調査することに適している。この装置の特徴は、患者の重要な健康指標をその診断アルゴリズムに統合して精度を高められることである。パイロット試験は、この中枢試験で確認されることになる、患者の最も重要な健康指標を特定するために行われる。この試験の主要な目的は、パイロット試験で特定され、重要な情報として装置の機械学習診断アルゴリズムに含まれることになる患者の健康指標を確認することである。この試験では、従来のLOAそれぞれにおける微小循環を測定し、創傷治癒に影響を及ぼす患者の健康特性と組み合わせることで、切断後の患者における一次創傷治癒の見込みとの相関を見極める。
【0426】
データの収集:すべての患者の切断予定の下肢について検査を行い、試験に含める。臨床的に意義のある患者の健康指標は、施設のケア提供者により収集される。我々の実験的イメージング装置を用いた測定は、Spectral MDによってあらかじめトレーニングされた病院のスタッフが行うこととして、イメージング試験が実施される。
【0427】
切断端を覆うために使用される皮膚の部位は、DeepView(Gen2)LOAアルゴリズムによって、治癒能力の有無について評価される。DeepView(Gen2)による解析を担当する技術者には、切断が行われる箇所についての臨床判断の結果は知らされない。
【0428】
真の陽性(+)および真の陰性(−)の事象、すなわち治癒しない対象および治癒した対象を得るために、切断後の一次創傷治癒評価標準(表2)を使用する。この評価は、3つのカテゴリー、すなわち切断成功、治癒遅延を伴う切断成功、および治癒不全から構成されている。切断成功は、30日以内に肉芽組織が完成して治癒し、さらなる切断の必要がない状態と考えられる。治癒遅延を伴う切断成功は、治癒が遅延して30日後の肉芽組織形成は不完全であるが、6ヶ月以内に最終的な治癒に至り、さらに近位での再切断の必要はない状態と考えられる。治癒不全は、壊死および/もしくは壊疽が生じ、かつ/またはさらに近位での再切断の必要がある状態と特徴付けられる。また、治癒に血管再建が必要となる創傷は、切断失敗と考える。
【0429】
この治癒評価は、手術の30日後に行う。治癒の遅れている対象については、手術の6ヶ月後に2回目の治癒評価を行う。6カ月後も治癒せず、かつより近位での再切断を受けていない対象は、非治癒群に分類される。
【0430】
図61に、DeepViewによるイメージングを評価するための、臨床検査のフローの例を示す。切断部位の治癒の診断は、Spectral MD(Gen2)イメージング装置を用いたイメージング中に行われる。切断が予定されている脚を、それぞれ約30秒間走査する。PAD患者における従来の外科的切断法に従い、足首および足の各部位をイメージングする。従来の切断とは、膝上(AKA)、膝下(BKA)、足首の上(AAA)、中足骨横断、またはつま先である。断端を覆う組織片として使用する皮膚部位を選択して解析する(
図59)。
【0431】
患者の健康指標の収集:診断モデルで使用される患者の重要な健康指標は、個々の臨床現場の臨床スタッフにより収集される。ケア標準を超えるデータは一切収集しない。そのような指標は、パイロット試験で特定されるが、糖尿病コントロール(例えば、HbA1c、グルコース、およびインスリン)、喫煙歴、肥満(例えば、BMIまたは腹囲)、栄養物(例えば、アルブミン、プレアルブミン、トランスフェリン等)、感染症(例えば、白血球数、顆粒球の状態、体温、抗生物質の使用)、年齢、傷害のメカニズム、および重要な投薬(例えば、グルココルチコイドまたは化学療法)等を含むことが期待される。この情報は、DeepViewイメージング装置のソフトウェアへの入力により、診断アルゴリズムに追加される。
【0432】
データの解析と統計:患肢の5箇所の切断部位から得たDeepView(Gen2)イメージングによる測定値を評価し、創傷治癒の可能性を判定する。それぞれの肢について、全般的な治癒スコアを決定し、その測定値と切断の実際の成否とを比較して、評価の全般的な精度を得る。これは、受信者操作特性(ROC)、すなわち感度および特異性に関する重要な結果評価基準となる。
【0433】
創傷の治癒を評価する重要な結果評価基準を得るために、臨床医により決定された切断部位から得たDeepView(Gen2)の診断と、標準化された創傷治癒評価により決定される切断の成否とを比較する。この解析により、DeepViewの診断のアルゴリズムのための受信者操作特性(ROC)曲線が得られる。
【0434】
検出力解析:臨床試験は、装置の感度と特異性を確立し、それらの数値がLOAを選択する臨床判断をしのぐものであるか否かを試験するよう計画される。我々が定めた試験の目標は、LOAの診断においてDeepView(Gen2)システムが95%の感度と95%の特異性を達成し、現在の臨床判断における70〜90%という不十分な精度を克服することである。サンプルサイズを確立するには、まず陽性予測値(PPV)と陰性予測値(NPV)を定める必要があり、そのためには有病率が既知でなければならない。DeepView(Gen2)によってスクリーニングされる集団(血行障害性疾患によって患肢の最初の切断を必要とする18歳を超える患者)における、より近位レベルでの再切断の有病率が約20%(参考値)であることを確認した。したがって、所望の陽性予測値(PPV DeepView)は97%であり、所望の陰性予測値(NPV DeepView)は93%である。
【0435】
以下の仮説を検証するためのサンプルサイズの解析は、Steinberg et al., 2008,“Sample size for positive and negative predictive value in diagnostic research using case−control designs,”Biostatistics,vol.10,no.1,pp.94−105,2009に概説される方法を用いて実施した。有意水準(α)は0.05、所望の検出力(β)は0.80である。
PPVについて
H
0:PPV
DeepView=PPV
clinical judgementH
1:PPV
DeepView>PPV
clinical judgementNPVについて
H
0:NPV
DeepView=NPV
clinical judgementH
1:NPV
DeepView>NPV
clinical judgement【0436】
その結果、これらの帰無仮説(H
0)が棄却されるためには、登録した計236の下肢の1/5が、我々の治癒評価により非治癒(+の事象)となる必要があることが示される(
図62)。しかしながら、登録前に対象の病状を知りうるわけではないため、我々は1/5という比率をあらかじめ選択することはできない。したがって、この比率は異なりうる。この比率がはるかに低く、肢の1/10が非治癒(+)であれば、試験には約450の肢が必要となる。また、この比がはるかに高く、肢の3/5が非治癒(+)であれば、計124の肢で足りる。
【0437】
図62に、統計的なサンプルサイズ解析の結果を例示する。試験集団における切断非治癒(+)の切断治癒(−)に対する比率を基にした全サンプルサイズ。有意水準(α)は0.05であり、所望の検出力(β)は0.80である。
【0438】
陰性の対象に対する陽性の対象の比率のばらつきを考慮し、最初の見積もりの236に対して約50%の対象をさらに加える。したがって、合計サンプルサイズは、計354名の対象から構成されることとなる。試験は最小リスク試験であり、多忙な診療所では年間約100例の切断が行われるため、この数字は十分に達成可能であると考えられる。試験データの取得と同時に監視を行い、試験した肢の総数と、切断成功(−の事象)に対する切断失敗(+の事象)の比率とを計算し、適切な比率および合計サンプルサイズが得られたところで試験を中止する。
【0439】
期待される結果:DeepViewの出力と一次創傷治癒との相関の程度を判定するために、DeepViewの結果と、対象を治癒群または非治癒群に分類する標準的な治癒評価とを比較する。この比較により、切断後の一次治癒を予測するための高感度および高特異性をサポートする相関の存在が示されるものと期待される。
【0440】
成功の判定基準:ROCは、現在のケア標準(70〜90%の精度)によって確立された必要値よりも高い感度および特異性が得られるような決定閾値を含む必要がある。
【0441】
考えられる問題と解決策:診断アルゴリズムで使用されるすべての非イメージングデータ(患者の健康指標)の重要度を強化するのに十分な大きさのサンプルサイズを得ることが困難な場合がある。例えば、糖尿病は重要な臨床上の特徴であるが、集団内のすべての患者が糖尿病を有していたり、あるいはその効果を試験するのに十分な力を発揮できる比率で存在していなかったりすることがある。そのために、診断アルゴリズムにおいて、この並存症の存在を解釈できないことがある。この患者集団は、全般的な健康状態としては多くの類似点を有することが予想されるが、その変数の中には、様々なレベルで測定されるため単なる二値として扱うことのできないものも存在する。例えば、糖尿病を有する対象の場合、HbA1cおよび血糖試験の測定値は、コントロール範囲を有するかもしれない。これが不可能な場合には、格段に大きな切断集団について調査を行うことのできる市販後解析においてデータを継続的に収集することも考えられる。
性能例の概要【0442】
実験データにより、PPGの特徴とMSIの特徴とを1つのアルゴリズム内で融合させることの利点が例示されるが、これは、以下で説明する図に示されている。
【0443】
以下の説明において、特徴セットには、フォトプレチスモグラフィ(PPG)、マルチスペクトルイメージング(MSI)、および実画像(RI)が含まれる。例示的手法には、グラウンドトゥルースを描くこと、3つの特徴集合のそれぞれを個々に、また組み合わせて使用し、分類アルゴリズムをトレーニングすること、画像を分類すること、および異なる特徴セットの要素を有するクラシファイヤと比較するために誤差を報告することが含まれる。現時点で、特徴は既に開発されており、分類に使用することができる。これらの特徴を、特徴セットの3つのカテゴリー、すなわちPPG、MSI、およびRIに分類する。以下の例では、クラシファイヤであるQDA(二次判別分析)に対し、様々な特徴セットを用いたトレーニングを行った。33の特徴すべてがモデルに組み込まれるまで、特徴セットの組み合わせを続けた。発展させた各クラシファイヤ(すなわち別個の特徴セットを備えた各クラシファイヤ)を、その分類誤差に基づいて比較した。
【0444】
図63B−63Fは、様々なクラシファイヤについての参照画像、グラウンドトゥルース画像、分類結果、およびエラー画像を示す。これらについて、以下でより詳細に説明する。
図63Aは、
図63B−63Fの結果における色分けを説明する図である。青色は健康な組織、緑色は切除した組織、オレンジ色は浅い熱傷、赤色は熱傷を示す。
【0445】
DeepViewクラシファイヤは、以下の14の特徴を含む。
1. Deep Viewの出力
2. 最大/平均
3. 平均からの標準偏差
4. 交差数
5. SNR 小近傍
6. 改善されたSNR
7. 正規化された照射
8. 正規化されたDeepView画像
9. 標準偏差
10. 歪度
11. 尖度
12. X勾配
13. Y勾配
14. 勾配の標準偏差
【0446】
図63Bに、DeepViewクラシファイヤにおける、参照画像、グラウンドトゥルース画像、分類結果、およびエラー画像を示す。エラー画像内の黄色(
図63Bのモノクロ複写の場合は白/明色)の割合で示されているように、DeepViewクラシファイヤの全誤差率は45%であった。
【0447】
実画像クラシファイヤは、以下の11の特徴を含む。
1. 実画像
2. 正規化された実画像
3. 歪度
4. 尖度
5. X勾配
6. Y勾配
7. X勾配の標準偏差
8. 小近傍領域
9. 正規化された小近傍領域
10. 大近傍領域
11. 正規化された大近傍領域
【0448】
図63Cに、実画像クラシファイヤにおける、参照画像、グラウンドトゥルース画像、分類結果、およびエラー画像を示す。エラー画像内の黄色(
図63Cのモノクロ複写の場合は白/明色)の割合で示されているように、実画像クラシファイヤの全誤差率は16%であった。
【0449】
図63Dに、DeepViewクラシファイヤと実画像クラシファイヤの組み合わせにおける、参照画像、グラウンドトゥルース画像、分類結果、およびエラー画像を示す。このDeepView/実画像組み合わせクラシファイヤでは、上記したDeepViewの14の特徴と実画像の11の特徴を含む25の特徴を使用した。エラー画像内の黄色(
図63Bのモノクロ複写の場合は白/明色)の割合で示されているように、DeepView/実画像組み合わせクラシファイヤの全誤差率は19%であった。
【0450】
MSIクラシファイヤは、以下の8つの特徴を含む。
1. MSIλ
12. MSIλ
23. MSIλ
34. MSIλ
45. MSIλ
56. MSIλ
67. MSIλ
78. MSIλ
8【0451】
図63Eに、MSIクラシファイヤにおける、参照画像、グラウンドトゥルース画像、分類結果、およびエラー画像を示す。エラー画像内の黄色(
図63Eのモノクロ複写の場合は白/明色)の割合で示されているように、DeepView/実画像組み合わせクラシファイヤの全誤差率は3.4%であった。
【0452】
図63Fに、DeepViewクラシファイヤと実画像クラシファイヤとMSIとの組み合わせにおける、参照画像、グラウンドトゥルース画像、分類結果、およびエラー画像を示す。このDeepView/実画像/MSI組み合わせクラシファイヤでは、上記したDeepViewの14の特徴と実画像の11の特徴とMSIの8つの特徴を含む33の特徴を使用した。エラー画像内の黄色(
図63Fのモノクロ複写の場合は白/明色)の割合で示されているように、DeepView/実画像/MSI組み合わせクラシファイヤの全誤差率は2.7%であった。
【0453】
図64A、64Bは、異なる分類技術の特徴構成(feature composition)を比較する図である。
図64Aに、DVO(DeepView)クラシファイヤ、RIクラシファイヤ、DVO+RIクラシファイヤ、MSIクラシファイヤ、およびDVO+RI+MSIクラシファイヤの誤差(e)の比較を示す。ここで、e=誤差=全体(不正確な分類)/全体(分類全体)である。図に示すように、DVO+RI+MSIクラシファイヤの誤差は、DVO+RIクラシファイヤの誤差と比べて71.7%少ない。
【0454】
図64Bに、試験時点のDVO(DeepView)クラシファイヤ、RIクラシファイヤ、DVO+RIクラシファイヤ、MSIクラシファイヤ、およびDVO+RI+MSIクラシファイヤの誤差(e)の比較を示す。
【0455】
図63B−64Bのデータが示すように、特徴を追加するにつれて、エラーは低減される。特徴群は、重要度の順にランク付けすることができ、一例では、(1)MSI、(2)RI、(3)PPGとしてランク付けすることができる。分類アルゴリズムのいくつかの実施形態は転用可能である。これは、第1の対象でトレーニングしたアルゴリズムを、次いで第2の対象の創傷の分類に使用できることを意味する。
システムの実装および用語【0456】
本明細書で開示される実施形態は、対象の組織を特定、評価、および/または分類するためのシステム、方法、および装置を提供する。当業者であれば、このような代替物を、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの任意の組み合わせにおいて実施できることを理解するであろう。
【0457】
上記の実験のいずれにおいても、特定の態様、代替形態、または実施例に関して記載された特徴、材料、特性、または群は、両立が不可能な場合を除いて、本明細書に記載された別の態様、代替形態、または実施例に適用可能であると理解されるべきである。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示された特徴および/または開示された方法もしくはプロセスのステップはいずれも、そのような特徴および/またはステップの少なくともいくつかが互いに排他的である組み合わせを除く任意の組み合わせとすることができる。保護対象は、上記の代替形態の詳細に限定されない。保護対象は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)に開示された特徴の中の任意の新規な特徴または任意の新規な特徴の組み合わせに及び、また、本明細書に開示された任意の方法またはプロセスの任意の新規なステップまたは任意の新規なステップの組み合わせに及ぶ。
【0458】
特定の代替形態が記載されているが、これらの代替形態は単なる一例として提示されたものであり、保護範囲の限定を意図するものではない。実際、本明細書に記載の新規な方法およびシステムは、他の様々な形態で具体化されてもよい。さらに、本明細書に記載された方法およびシステムの形態には、様々な省略、置換、および変更がなされてもよい。いくつかの代替案では、説明および/または開示されたプロセスの実際のステップが、図示されたものと異なる場合があることを、当業者であれば理解するであろう。代替形態に応じて、上記のステップのうち特定のいくつかを削除してもよく、別のステップを追加してもよい。さらに、本明細書で開示された特定の代替形態の特徴および属性は、異なる方法で組み合わせられてさらなる代替形態を形成してもよく、それらはすべて本明細書の開示の範囲内にある。
【0459】
本明細書の要素を「第1の」、「第2の」のように指定したとしても、それらの要素の数量や順序を一般に限定するわけではない。本明細書において、このような指定は、2つ以上の要素または1つ以上の要素の2つ以上の例を区別する簡便な方法として使用されている。したがって、第1の要素および第2の要素に言及したとしても、そこで使用される要素が2つのみであることや、第1の要素が何らかの方法で第2の要素に先行する必要があることを意味するわけではない。また、別段の記載がない限り、要素のセットは、1つ以上の要素を含むことができる。
【0460】
当業者であれば、情報や信号は、様々な異なる科学技術や手法のうち任意の技術または手法を用いて表現可能であることを理解するであろう。例えば、上記の説明を通して参照されるデータ、命令、コマンド、情報、信号、ビット、シンボル、およびチップは、電圧、電流、電磁波、磁場もしくは磁性粒子、光場もしくは光学粒子、またはこれらの任意の組み合わせによって表すことができる。
【0461】
当業者であれば、本明細書で開示される態様に関連して記載された様々な例示、モジュール、プロセッサ、手段、回路、およびアルゴリズムステップはいずれも、電子ハードウェア(例えば、ソースコーディングまたは他の技術を用いて設計されていてもよい、デジタル実装、アナログ実装、またはこれら2つの組み合わせ)、命令を組み込んだプログラムもしくは設計コードの様々な形態(本明細書では、便宜上、「ソフトウェア」または「ソフトウェアモジュール」と呼ぶこともある)、または両者の組み合わせとして実装されうることを理解するであろう。ハードウェアとソフトウェアとのこの互換性を明確に説明するために、種々の例示的なコンポーネント、ブロック、モジュール、回路、およびステップについて、それらの機能に関して説明してきた。そのような機能がハードウェアとして実装されるかソフトウェアとして実装されるかは、特定のアプリケーションおよび設計によりシステム全体にかかる制約に依存する。当業者であれば、記載の機能をアプリケーションごとに様々な方法で実装することができるが、そのような実装の決定は、本明細書の開示の範囲から逸脱するものと解釈されるべきではない。
【0462】
本明細書において、図面に関連して開示し、説明した態様に関連して説明した種々の例示的な論理、コンポーネント、モジュール、および回路は、集積回路(IC)、アクセス端末、またはアクセスポイント内に実装されてもよく、それらの内部で実行されてもよい。ICは、本明細書に開示された機能を実行するよう設計された汎用プロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、もしくは他のプログラマブルロジックデバイス、ディスクリートゲート、もしくはトランジスタロジック、ディスクリートハードウェアコンポーネント、電子コンポーネント、光学コンポーネント、機械コンポーネント、またはそれらの組み合わせを含んでいてもよく、当該IC内、IC外、または内外いずれにも存在するコードまたは命令を実行するものであってよい。論理ブロック、モジュール、および回路は、ネットワーク内または装置内の様々なコンポーネントと通信するためのアンテナおよび/またはトランシーバを含むことができる。汎用プロセッサは、マイクロプロセッサであってもよいが、代替として、任意の従来型のプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、またはステートマシーンであってもよい。プロセッサはまた、複数のコンピュータデバイスの組み合わせ、例えば、DSPとマイクロプロセッサとの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサの組み合わせ、1以上のマイクロプロセッサとDSPコアとの組み合わせ、または類似の別の構成として実装されてもよい。モジュールの機能は、本明細書で教示される何らかの別の方法で実施されてもよい。本明細書に(例えば、添付図面の1以上に関して)記載される機能は、いくつかの態様において、添付の特許請求の範囲において機能に替えて「手段」とすることもできる。
【0463】
ソフトウェアに実装される場合、機能は、コンピュータ可読媒体上の1以上の命令またはコードとして保存または伝送されてもよい。本明細書に開示される方法またはアルゴリズムのステップは、コンピュータ可読媒体上に存在してもよくかつプロセッサでの実行が可能なソフトウェアモジュール内に実装されてもよい。コンピュータ可読媒体は、コンピュータの記憶媒体と、コンピュータプログラムを1つの場所から別の場所へ転送することの可能な任意の媒体を含む通信媒体とを、いずれも包含する。記憶媒体は、コンピュータによってアクセスされうる、利用可能な任意の媒体であってよい。そのようなコンピュータ可読媒体は、RAM、ROM、EEPROM、CD−ROM、もしくは他の光ディスク記憶装置、磁気ディスク記憶装置、もしくは他の磁気記憶装置、または、コンピュータによるアクセスが可能であり、かつ命令またはデータ構造の形態にある所望のプログラムコードを保存するための使用が可能な任意の別の媒体を含んでもよいが、これらは例示であり、限定ではない。また、任意の接続を、コンピュータ可読媒体と適切に称してもよい。本明細書で使用するディスク(disk)およびディスク(disc)は、コンパクトディスク(disc)(CD)、レーザーディスク(disc)、光ディスク(disc)、デジタルバーサタイルディスク(disc)(DVD)、フロッピーディスク(disk)およびブルーレイディスク(disc)を含むが、これらのディスク(disc)はレーザーを用いてデータを光学的に再生するものであり、一方ディスク(disk)は、通常、データを磁気的に再生するものである。上記の組み合わせもまた、コンピュータ可読媒体の範囲に含まれるべきである。加えて、方法またはアルゴリズムのオペレーションは、コードおよび命令のうちの1つまたは任意の組み合わせまたはセットとして、コンピュータプログラム製品に組み込まれていてもよい機械可読媒体およびコンピュータ可読媒体上に存在してもよい。
【0464】
開示の任意のプロセスにおいて複数のステップが特定の順序または階層で記載されていたとしても、そのような順序や階層は、サンプルアプローチの一例であることが理解される。設計嗜好に基づいて、本明細書の開示の範囲内にとどまりながら、プロセスにおけるステップの特定の順序または階層を再構成できることが理解される。添付の、方法の請求項は、様々なステップの要素を例示的な順序で提示するが、提示された特定の順序または階層への限定を意味するものではない。
【0465】
本開示で説明した実施形態に対する様々な変更は、当業者には容易かつ明らかであり、本明細書で定義される一般的な原理は、本明細書の開示の精神および範囲から逸脱することなく、別の実施形態に適用されうる。したがって、本開示は、ここに示された実施態様への限定を意図するものではなく、開示された請求項、原理および新規な特徴に相応する最も広い範囲を許容するものである。
【0466】
本明細書の別個の実施形態の文脈に記載される複数の特徴を組み合わせて、単一の実施形態で実施することもできる。逆に、単一の実施形態の文脈に記載されている様々な特徴を、複数の実施形態で別個に、または任意適切なサブコンビネーションとして実施することもできる。さらに、特徴が、特定の組み合わせで作用するものとして記載されていたり、当初の請求の範囲にそのように記載されていたとしても、場合によっては、請求の範囲に記載された組み合わせから1以上の特徴を切り出すことができ、また請求の範囲に記載された組み合わせをサブコンビネーションまたはサブコンビネーションのバリエーションとしてもよい。
【0467】
同様に、オペレーションは、図面には特定の順序で示されているが、所望の結果を得るためには、そのようなオペレーションを示された順序で順次に実行したり、図示したオペレーションのすべてを実行したりする必要があると理解されるべきではない。特定の状況では、マルチタスク処理や並列処理が有利な場合もある。さらに、上記の実施形態における様々なシステムコンポーネントの分離は、あらゆる実施形態においてそのような分離を要するものと理解されるべきではなく、記載のプログラムコンポーネントやシステムは、一般に、単一のソフトウェア製品内に一体化されたり、複数のソフトウェア製品にパッケージされてもよいと理解されるべきである。さらに、別の実施形態もまた、以下の請求項の範囲内にある。場合によっては、請求項に列挙された動作を異なる順序で実行しながら、なお所望の結果を得ることもできる。
【0468】
本明細書の開示は、特定の代替形態、実施例、および用途を含むが、当業者であれば、本明細書の開示は、具体的に開示された代替形態を超えて、別の代替的な代替形態および/または使用、明らかな改変物およびそれらの均等物に及び、ここに記載されている機能と利点のすべてを提供するものではない代替物をも含むことを理解するであろう。したがって、本開示の範囲は、ここに示される好ましい代替形態の具体的な開示によって限定されることを意図するものではなく、ここに提示する請求項または将来提示される請求項によって定義されるものであってよい。例えば、ここに提示される任意の請求項に加えて、以降の代替形態もまた本開示の範囲内に包含されることが意図される。
【0469】
先の説明では、実施例を完全に理解するために具体的な詳細が示されている。しかしながら、当業者であれば、そのような実施例は、記載の具体的な詳細がなくとも実施可能であることを理解するであろう。例えば、電気的構成要素/デバイスをブロック図で示すことで、不必要な詳細によって実施例が不明瞭になることを回避できる。別の例では、そのような構成要素、別の構造、および技術を詳細に示すことにより、実施例をさらに説明することができる。
【0470】
開示の実施形態に関する先の説明は、当業者による本発明の実施または使用を可能にするために提供される。これらの実施形態に対する様々な変更は、当業者には容易かつ明らかであり、本明細書で定義される一般的な原理は、本発明の精神または範囲から逸脱することなく他の実施形態にも適用され得る。したがって、本発明は、ここに示された実施態様への限定を意図するものではなく、開示された原理および新規な特徴に相応する最も広い範囲を許容するものである。