【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0035】
図1は、本発明の一実施例であるエンボス付半円筒状成形品10の平面を示す写真である。エンボス付半円筒状成形品10は、幅方向W1の横断面において凸断面形状(凸形状)を成しその凸断面形状が長手方向L1において連続した全体として半割り円筒形状の鞍型の本体部12と、本体部12の幅方向W1の両端に本体部12の長手方向L1に沿って長手状に形成された平坦な一対のフランジ部14とを有し、全体として凸形の断面形状が長手方向に連続した半円筒形状を成している。エンボス付半円筒状成形品10の本体部12の幅方向W1の両端には、平坦な一対のフランジ部14が長手方向L1に沿って長手状に形成されている。
【0036】
エンボス付半円筒状成形品10が車両の排気管からの熱を遮断するヒートインシュレータとして用いられる場合は、上記本体部12は、遮熱部として機能するものであり、遮熱すべき排気系部品等の形状に応じて複雑な3次元形状に成形され、例えば半円筒形状の径寸法が連続的或いは段階的に変化させられている。また、一対のフランジ部14の端部、及び本体部12の幅方向W1の中央部には、取付穴16が中央に貫通して形成された矩形の取付座18が、それぞれ形成されている。エンボス付半円筒状成形品10の少なくとも一部、例えば本体部12の幅方向中央部には、エンボス付金属板(以下、単に金属板という)20の山線(稜線)32及び谷線34が本体部12の幅方向W1に形成されている。
【0037】
エンボス付半円筒状成形品10は、
図2に示すエンボス付金属板(以下、単に金属板という)20から型押し成形されたものである。金属板20は、例えば、JISH4000:2014に規定のアルミニウム合金A3004P(エンボス加工前の板厚tcが0.4mm)にて構成されており、一対のプレス型を用いてエンボス加工を施すことにより所定の凹凸パターンが設けられたものである。
図2は、金属板20の斜視図であって、フィレット(円弧)をかけた図である。
【0038】
図3は、
図2の金属板20のエンボスの凹凸形状を説明するためのフィレットをかけない平面図すなわちX−Y平面図であって、山線32及び谷線34が直線で示されている。
図3は、X−Y−Z直交座標において
図2の紙面をX−Y平面とし、そのX−Y平面と平行に金属板20を載置した状態で、Z軸方向である紙面の上方から見た平面図である。
【0039】
図3には、金属板20に設けられた凹凸パターンの、長さa1である4つの辺をそれぞれ有する4つの四角形(平行四辺形)から成る基本単位である一つの単位山形30が太線で示され、その単位山形30にX軸方向及びY軸方向にそれぞれ隣接する単位山形30が太線より細い実線で示されている。
図3では、第1横断線22、第2横断線24上の辺a1は、斜めの線であるため、山線32、谷線34上のa1よりも短く示されている。
【0040】
図4は、
図3のIV−IV矢視断面を示す図である。
図5は、
図3のV−V矢視断面を示す図である。
図6は、
図3のVI−VI矢視断面を示す図である。
図7は、
図3のVII矢視図である。
図3に示すように金属板20における単位山形30は、山線(稜線)32の一部を相互に構成する一対の平行四辺形と、山線32の一部に対して所定の開き角(折れ曲がり角度)αで連続する山線32の他の一部を相互に構成する他の一対の平行四辺形と、の4つの四角形によって構成された基本単位である。
【0041】
金属板20は、単位山形30が、X軸方向において山線32が連続するように、且つX軸方向に直交するY軸方向において谷線34を挟んで連続するように、相互に連結されることで、構成されている。これにより、山線32は、一定周期のピッチP1でX−Y平面内で所定の開き角(折れ曲がり角度)αでジグザグに折れ曲がりながらY軸方向に延びる。同様に、谷線34は、一定周期のピッチP1でX−Y平面内で所定の折れ曲がり角度(開き角)αでジグザグに折れ曲がりながらY軸方向に延びる。山線32及び谷線34は、X軸方向において一定の間隔で交互に位置している。谷線34は一定の間隔P2でX軸方向に離間して設けられているとともに、山線32は一定の間隔P2でX軸方向に離間して設けられている。
【0042】
金属板20には、谷線34の折れ点38a、38b及び山線32の折れ点36a、36bのうちX軸(正)方向に突き出す折れ点38a及び折れ点36aを結ぶようにX−Z平面内で折れ曲がりながらX軸方向に
図3の平面図上では直線状に延びる第1横断線22と、谷線34の折れ点38a、38b及び山線32の折れ点36a、36bのうちX軸(正)方向に凹んだ折れ点38b及び折れ点36bを結ぶようにZ軸方向に折れ曲がりながらX軸方向に
図3の平面図上では直線状に延びる第2横断線24とが、Y軸方向に離間して交互に多数設けられている。
【0043】
第1横断線22のY軸方向の間隔、及び第2横断線24のY軸方向の間隔は、何れも谷線34、山線32の折れ線のピッチP1に応じて定まり、互いに同じ寸法で、ピッチP1と同じ寸法である。そして、谷線34に沿って谷折りの稜線が形成され、山線32に沿って山折りの稜線が形成されるように、谷線34、山線32、第1横断線22、及び第2横断線24で囲まれた多数の四角形平面が設けられ、その多数の四角形平面によって所定の凹凸パターンが形成されている。
【0044】
単位山形30は、
図3に示すように、山線32を挟んで両側に隣接して位置する一対の四角形平面S1、S2と、その一対の四角形平面S1、S2に連続してY軸方向に設けられた一対の四角形平面S3、S4とを合わせた計4枚の四角形平面S1〜S4によって基本単位が構成されており、平面視において横向きV字形状に折れ曲がった形状を成している。本実施例の場合には、単位山形30の平面視における谷線34及び山線32の横向きV字形状の折れ曲がり角度、すなわち谷線34及び山線32のX軸方向に突き出す折れ点38a及び折れ点36aの開き角(折れ曲がり角度)αは、互いに同じ角度であり、単位山形30を形成している4枚の四角形平面S1〜S4は、一対の上辺72及び下辺74と一対の側辺76とが相互に等しい長さa1を有するそれぞれ形状が同じ平行四辺形である。
【0045】
図3のIV−IV矢視断面図を示す
図4は、単位山形30の四角形平面S1とS3との間の稜線である第2横断線24のY−Z断面を示している。
図3のV−V矢視断面図を示す
図5は、四角形平面S2とS4との間の稜線である第2横断線24のY−Z断面を示している。
図3のVI−VI矢視断面図を示す
図6は、第2横断線24に沿って第2横断線24の折れ点36b、38bを通るX−Z断面を示している。
図3におけるVII矢視図である
図7は、金属板20の成形厚みすなわちエンボスパターンのZ軸方向の高さh1のY軸方向の連続性を示している。
図5〜
図6に示すように、谷線34、山線32、第1横断線22、及び第2横断線24に沿って形成される谷折りや山折りの稜線部分には、それぞれ稜線に対して直角な断面において曲率半径r1の円弧形状の丸み(フィレット)が設けられている。曲率半径r1は、例えば四角形平面S1〜S4の一辺の長さa1の37%〜50%の寸法である。
【0046】
次に、このようなエンボスの凹凸パターンが設けられた金属板20の各部の寸法、角度の具体例を説明する。金属板20の板厚tbは0.3mm〜0.6mm程度の範囲内が適当であり、本実施例では0.4mmである。すなわち、素材であるアルミニウム合金の平板の板厚tcが0.3mm〜0.6mmであり、この平板にエンボス加工が施されて凹凸パターンが形成されることによる伸びによって板厚が若干減少する。例えば、板厚tcが0.4mmである場合には、エンボス加工されるとそれよりも小さく、例えば金属板20の板厚tbは0.38mm程度になる。四角形平面S1〜S4の一辺の長さa1は、6mm〜8mmの範囲内である。エンボスパターンのZ軸方向の高さh1は1.6mm〜1.8mmの範囲内である。谷線34及び山線32のX軸方向に突き出す折れ点38a及び折れ点36aの開き角(折れ曲がり角度)αは、110°〜120°の範囲内である。谷線34、山線32、第1横断線22、及び第2横断線24に沿って形成される谷折りや山折りの稜線部分に形成された丸みの曲率半径r1は、3.0mm〜3.5mmの範囲内である。
【0047】
このような金属板20によれば、折れ線状の谷線34及び山線32と直交するようにX軸方向に設けられる第1横断線22及び第2横断線24が、平面視においてそれぞれY軸方向にジグザグに折れ曲がった折れ線形状を成している。また、X軸方向では、
図6のX−Z断面に示すように、山線32を稜線とする山と、谷線34を谷筋とする谷が交互に連続している。また、Y軸方向では、
図7のY−Z断面に示すように、山線32を稜線とする山と谷線34を谷筋とする谷とがそのまま連続している。このため、金属板20には、X軸方向の曲げ剛性が低く且つY軸方向において曲げ剛性が高い、曲げ剛性の異方性が備えられている。また、金属板20には、後述の
図8に示す成形型40及びポンチ型50との間の成形過程における摩擦抵抗が、X軸方向において高く、且つY軸方向において低い、摩擦抵抗の異方性が備えられている。
【0048】
次に、金属板20からエンボス付半円筒状成形品10を成形する型押し成形に用いる金型、及び成形工程を説明する。
図8は、型押し成形に用いる金型、すなわち成形型(上型)40、ポンチ型50(下型)、及び、皺押え型60の横断面を、模式的に示している。
図8において、成形型40には、エンボス付半円筒状成形品10の凸状外表面に対応した形状の凹状成形面42と、成形型40のR角部44を挟んで凹状成形面42に隣接する面状成形面46とが形成されている。成形型40の下側には、成形型40に形成されている凹状成形面42に押し込まれる半円筒形の凸状成形面52が形成されたポンチ型50が、例えば図示しない油圧シリンダによって上下方向に駆動可能に配置されている。そして、成形型40の面状成形面46に対向する押え面62が形成された皺押え型60が、ポンチ型50に隣接して配置されている。
【0049】
成形型40のR角部44は、例えば、金属板20に形成された単位山形30を構成する四角形平面S1〜S4のそれぞれの一辺の長さa1(例えば6mm〜8mm)の1〜2倍程度の曲率半径を有している。半円筒形の凸状成形面52の長手方向L2及び幅方向W2は、型押し成形後のエンボス付半円筒状成形品10の長手方向L1及び幅方向W1と一致している。
【0050】
凸状成形面52の頂面には、エンボス付半円筒状成形品10の一部に取付座18を形成するために、凹状成形面42の一部に金属板20を挟んで密着させられる矩形の取付座成形突部52aが形成されている。この取付座成形突部52aが凹状成形面42の一部に金属板20を挟んで密着させられた型押し状態では、凹状成形面42と凸状成形面52との間は、凹状成形面42と矩形の取付座成形突部52aとの間を除いて、金属板20のエンボスパターンの凹凸が潰れない隙間、例えば金属板20の成形厚みすなわち高さh1、或いはその高さh1よりも大きく設定された間隙が形成される。
【0051】
図9は、エンボス付半円筒状成形品10を型押し成形するための工程を説明する図である。
図9において、エンボス付金属板設定工程P10では、成形型40とポンチ型50及び皺押え型60との間が開いた離隔状態で、金属板20が、ポンチ型50及び皺押え型60の上に載置される。このときの金属板20は、金属板20の曲げ剛性が高い方向すなわち谷線34及び山線32が連なるY軸方向が、
図8の紙面に垂直な方向である凹状成形面42或いは半円筒形の凸状成形面52の長手方向L2に交差する方向となるように設定される。好適には、金属板20のY軸方向が、長手方向L2に直交する幅方向W2に対して±45°となるように設定され、更に好適には、長手方向L2に直交する方向である幅方向W2となるように、すなわち幅方向W2に対して0°となるように設定される。
【0052】
皺押え工程P20では、皺押え型60の押え面62と成形型40の面状成形面46との間が金属板20の高さh1と同等程度、或いはその高さh1よりも大きく設定された間隙となるまで、皺押え型60が成形型40の面状成形面46に向って上昇させられ、金属板20が皺押え型60の押え面62と成形型40の面状成形面46との間に保持される。
【0053】
型押し成形工程P30では、ポンチ型50が上昇させられ、皺押え型60が成形型40の面状成形面46との間で金属板20を保持している状態で、ポンチ型50の半円筒形の凸状成形面52が、成形型40の凹状成形面42内に、凸状成形面52に形成された取付座成形突部52aが凹状成形面42の一部に金属板20を挟んで密着させられるまで挿入されることで、金属板20が凸状成形面52と凹状成形面42との間で型押し成形される。
【0054】
型開き・取出し工程P40では、ポンチ型50及び皺押え型60が下方へ駆動されて成形型40から引き離され、型押し成形されたエンボス付半円筒状成形品10が、成形型40から取り出される。
【0055】
このように、エンボス付金属板設定工程P10で、金属板20の曲げ剛性が高い方向すなわち谷線34及び山線32が連なるY軸方向が
図8の紙面に垂直な方向である凹状成形面42の長手方向或いは半円筒形の凸状成形面52の長手方向に直交する方向となるように設定されている状態とされる。そして、型押し成形工程P30においてポンチ型50の半円筒形の凸状成形面52が成形型40の凹状成形面42内に挿入される過程で、成形型40の面状成形面46と皺押え型60との間で保持されている金属板20が、凹状成形面42内へ引き込まれる。このとき、金属板20の曲げ剛性が高い方向すなわち谷線34及び山線32が連なるY軸方向に、すなわちエンボス付半円筒状成形品10の幅方向W1に、金属板20が引き込まれるので、金属板20の凹凸が成形型40のR角部44に当たることが抑制され、金属板20と成形型40のR角部44との間の摺動抵抗が低くされる。
【0056】
これにより、凹状成形面42内へ引き込まれる金属板20の移動がなめらかとなり、エンボス付半円筒状成形品10の型押し成形性が向上して、皺の伝播が抑制され分散化される。この皺の分散化により、多方面の座屈(皺)が抑制されて微小な穴の発生が抑制される。すなわち、エンボス付半円筒状成形品10の割れや皺の発生が抑制される。
【0057】
上記の型押し成形によって、エンボス付半円筒状成形品10の少なくとも一部、例えば本体部12の幅方向中央部には、エンボス付金属板(以下、単に金属板という)20の山線32及び谷線34が本体部12の幅方向W1すなわち長手方向L1に直交する方向に形成されている。また、金属板20の曲げ剛性が低い方向、すなわち谷線34及び山線32が交互に連なるX軸方向が、エンボス付半円筒状成形品10の長手方向L1となる。しかし、エンボス付半円筒状成形品10は、横断面(幅方向W1の断面)が凸形状であって、その凸形状が長手方向L1に連続する半円筒状であって、長手方向L1において曲げ剛性が高いので、金属板20の曲げ剛性が低いX軸方向が長手方向L1となっても、エンボス付半円筒状成形品10の曲げ剛性に問題がない。
【0058】
ここで、金属板20のエンボス形状に影響する因子として、四角形平面S1〜S4の一辺の長さa1と、金属板20の高さ(成形厚み)h1と、谷線34及び山線32のX軸方向に突き出す折れ点38a及び折れ点36aの開き角(折れ曲がり角度)αと、谷線34、山線32、第1横断線22、及び第2横断線24に沿って形成される谷折りや山折りの稜線部分に形成された丸みの曲率半径r1と、の4因子を用い、
図10に示す相互関係を有する4因子3水準を用いて、直交試験法でCAE(Computer Aided Engineering)解析を行ない、成形性、曲げ剛性、面内剛性のそれぞれについて、金属板20のエンボス形状のパラメータを選定した。
図11は、4因子3水準についての解析試料No.1〜No.9の直交表を示している。
【0059】
(成形性解析)
本発明者等は、CAE解析によりアルミニウム合金A3004P製で板厚tbが0.4mmの金属板20について、
図12に示す高さDhが7mm、台座外径DD1が44mmφ、台座内径DD2が30mmφの解析モデルDMで型押し成形の解析を行った。
図11に示す9種類の解析試料No.1〜No.9毎に、成形後の最大板厚減少箇所の板厚taを測定し、その板厚減少率RTを
図13の解析表内の板厚減少率RTの欄に記載した。板厚減少率RTは、型押し成形前の板厚をtb、型押し成形後の板厚をtaとすると、RT=((tb−ta)/tb)×100から求められる。板厚減少率RTが低いほど成形性は優位である。
【0060】
図13の解析表において、a1欄のK1は、a1=6mmである解析試料No.1〜No.3の板厚減少率RTの合計を示している。a1欄のK2は、a1=8mmである解析試料No.4〜No.6の板厚減少率RTの合計を示している。a1欄のK3は、a1=10mmである解析試料No.7〜No.9の板厚減少率RTの合計を示している。
【0061】
h1欄のK1は、h1=1.4mmである解析試料No.1、No.4、No.7の板厚減少率RTの合計を示している。h1欄のK2は、h1=1.6mmである解析試料No.2、No.5、No.8の板厚減少率RTの合計を示している。h1欄のK3は、h1=1.8mmである解析試料No.3、No.6、No.9の板厚減少率RTの合計を示している。
【0062】
α欄のK1は、α=100°である解析試料No.1、No.6、No.8の板厚減少率RTの合計を示している。α欄のK2は、α=110°である解析試料No.2、No.4、No.9の板厚減少率RTの合計を示している。α欄のK3は、α=120°である解析試料No.3、No.5、No.7の板厚減少率RTの合計を示している。
【0063】
r1欄のK1は、r1=3mmである解析試料No.1、No.5、No.9の板厚減少率RT(%)の合計を示している。r1欄のK2は、r1=3.5mmである解析試料No.2、No.6、No.7の板厚減少率RT(%)の合計を示している。r1欄のK3は、r1=4mmである解析試料No.3、No.4、No.8の板厚減少率RT(%)の合計を示している。
【0064】
図13のk1は、解析試料No.1〜No.3の板厚減少率RTの平均値(k1=K1/3)である。k2は、解析試料No.4〜No.6の板厚減少率RTの平均値(k2=K2/3)である。k3は、解析試料No.7〜No.9の板厚減少率RTの平均値(k3=K3/3)である。また、
図13の極差Rは、a1欄、h1欄、α欄、r1欄におけるそれぞれのk1、k2、k3の最大値と最小値との差である。
図13の影響度は、a1欄、h1欄、α欄、r1欄における極差Rの値の大小関係を示している。
【0065】
図13の最適組み合わせは、a1欄、h1欄、α欄、r1欄におけるそれぞれのK1、K2、K3のうちの最小値を示すものに対応する解析試料のa1の値、h1の値、αの値、r1の値である。
【0066】
a1欄については、K1、K2、K3のうちのK2が最小値であるから、K2が示す減少率の合計はa1=8mmである解析試料No.4〜No.6の値であるので、a1の最適値は「8mm」であると決定される。
【0067】
h1欄については、K1、K2、K3のうちのK3が最小値であるから、K3が示す減少率の合計はh1=1.8mmである解析試料No.3、No.6、No.9の値であるので、h1の最適値は「1.8mm」であると決定される。
【0068】
α欄については、K1、K2、K3のうちのK2が最小値であるから、K2が示す減少率の合計はα=110°である解析試料No.2、No.4、No.9の値であるので、αの最適値は「110°」であると決定される。
【0069】
r1欄については、K1、K2、K3のうちのK1が最小値であるから、K1が示す減少率の合計はr1=3mmである解析試料No.1、No.5、No.9の値であるので、r1の最適値は「3mm」であると決定される。
【0070】
図14はa1の値に関する板厚減少率RTの大きさすなわち成形性への影響を示すグラフ、
図15はh1の値に関する板厚減少率RTの大きさすなわち成形性への影響を示すグラフ、
図16はαの値に関する板厚減少率RTの大きさすなわち成形性への影響を示すグラフ、
図17はr1の値に関する板厚減少率RTの大きさすなわち成形性への影響を示すグラフである。成形性は、板厚減少率RTが低いほど高いという評価である。
【0071】
(曲げ剛性の解析)
本発明者等は、アルミニウム合金A3004P製で板厚tbが0.4mmの金属板20から、100mm×20mmの長手状の大きさで、低剛性方向すなわちX軸方向に長い解析試験片と、金属板20の高剛性方向すなわちY軸方向に長い試験片とを切り出し、それら2種類の試験片を水平な片持ち状態で基端を支持し、それらの試験片の先端(自由端)に3Nの先端荷重(負荷)P(N)をかけたときの、X軸方向に長い試験片の先端の変位量(撓み)σx(mm)及びY軸方向に長い試験片の先端の変位量(撓み)σy(mm)を、計算値と実際値との整合性が予め確認されたCAEの演算式を用いてそれぞれ算出し、
図18の撓みσxの欄、及び、
図23の撓みσyの欄に記載した。
【0072】
また、低剛性方向(X軸方向)に長い試験片の曲げ剛性Gx(N/mm)は、式(1)で表され、高剛性方向(Y軸方向)に長い試験片の曲げ剛性Gy(N/mm)は、式(2)で表されるので、式(1)からX軸方向の曲げ剛性Gxを算出し、式(2)からY軸方向の曲げ剛性Gyを算出して、
図18の曲げ剛性Gxの欄、及び
図23の曲げ剛性Gyの欄にそれぞれ記載した。
Gx=P/σx ・・・(1)
Gy=P/σy ・・・(2)
【0073】
図18は、X軸方向に長い解析試験片についての曲げ剛性Gxの解析表であり、
図13と同様にして、a1、h1、α、及びr1の最適値は、「8mm」、「1.8mm」、「100°」、「3mm」であると決定される。
図19はa1の値に関する撓みσxへの影響を示すグラフ、
図20はh1の値に関する撓みσxへの影響を示すグラフ、
図21はαの値に関する撓みσxへの影響を示すグラフ、
図22はr1の値に関する撓みσxへの影響を示すグラフである。
【0074】
図23は、Y軸方向に長い解析試験片についての曲げ剛性Gyの解析表であり、
図13と同様にして、a1、h1、α、及びr1の最適値は、「6mm」、「1.8mm」、「120°」、「3.5mm」であると決定される。
図24はa1の値に関する撓みσyへの影響を示すグラフ、
図25はh1の値に関する撓みσyへの影響を示すグラフ、
図26はαの値に関する撓みσyへの影響を示すグラフ、
図27はr1の値に関する撓みσyへの影響を示すグラフである。曲げ剛性G(Gx、Gy)が高い値であるほど、試験片の先端の変位量(撓み)σ(σx、σy)が小さいほど、型押し成形時の皺の発生が低くなることに関係している。
【0075】
(面内剛性の解析)
本発明者等は、アルミニウム合金A3004P製で板厚tbが0.4mmの金属板20から、100mm×20mmの長手状の試験片を切り出し、X軸方向に長い解析試験片と金属板20のY軸方向に長い試験片との2種類について、それらの試験片を片持ち状態で垂直に支持し、その試験片の自由端に10Nの荷重(負荷)を試験片の長手方向にかけたときの自由端の試験片長手方向の圧縮変位量である面内変形(座屈変形)δx(mm)及びδy(mm)を、計算値と実際値との整合性が予め確認されたCAEの演算式を用いてそれぞれ算出し、
図28の面内変形δxの欄および
図33の面内変形δyの欄に記載した。
【0076】
また、低剛性方向(X軸方向)に長い試験片の面内剛性(座屈)ZGx(N/mm)は、式(3)で表され、高剛性方向(Y軸方向)に長い試験片の面内剛性(座屈)ZGy(N/mm)は、式(4)で表される。式(3)からX軸方向の面内剛性ZGxを算出し、式(4)からY軸方向の面内剛性ZGyを算出して、
図28の面内剛性ZGxの欄、及び
図33の面内剛性ZGyの欄にそれぞれ記載した。面内剛性(座屈)ZG(ZGx、ZGy)が高いほど、面内変形δ(δx、δy)が低い値であるほど、型押し成形時の皺の発生が低くなることに関係している。
ZGx=P/δx ・・・(3)
ZGy=P/δy ・・・(4)
【0077】
図28は、X軸方向に長い解析試験片についての面内剛性ZGxの解析表であり、
図13と同様にして、a1、h1、α、及びr1の最適値は、「8mm」、「1.4mm」、「100°」、「3mm」であると決定される。
図29はa1の値に関する面内変形δxへの影響を示すグラフ、
図30はh1の値に関する面内変形δxへの影響を示すグラフ、
図31はαの値に関する面内変形δxへの影響を示すグラフ、
図32はr1の値に関する面内変形δxへの影響を示すグラフである。
【0078】
図33は、Y軸方向に長い解析試験片についての面内剛性ZGyの解析表であり、
図13と同様にして、a1、h1、α、及びr1の最適値は、「6mm」、「1.8mm」、「120°」、「3mm」であると決定される。
図34はa1の値に関する面内変形δyへの影響を示すグラフ、
図35はh1の値に関する面内変形δyへの影響を示すグラフ、
図36はαの値に関する面内変形δyへの影響を示すグラフ、
図37はr1の値に関する面内変形δyへの影響を示すグラフである。
【0079】
図38は、上記のように、成形性、曲げ剛性Gx、曲げ剛性Gy、面内剛性ZGx、面内剛性ZGyについてそれぞれ決定されたa1、h1、α、及びr1の最適値と、それら最適値から総合的に決定され総合最適値を説明する図表である。
図38に示すように、a1についての総合最適値は6〜8mm、h1についての総合最適値は1.6〜1.8、αについての総合最適値は110〜120°、r1についての総合最適値は3〜3.5に決定される。
【0080】
(面動摩擦試験)
本発明者等は、複数種類の金属板の試験片を移動テーブル上にそれぞれ固定し、金型を想定した鋼材試験片を金属板の上に載置して面接触させ、この状態で移動テーブルを移動させたときに発生する各金属板の鋼材試験片に対する動摩擦係数を、以下の測定条件を用いて測定した。
測定器:新東科学社製のトライボギア測定機(TYPE:14)
鋼材試験片の大きさ :100×200mm
金属板試験片の大きさ :40×40mm
垂直荷重 :200g
移動テーブルの移動速度 :100mm/min
金属板試験片の種類
試験片1:エンボスの無いアルミニウム合金板
試験片2:従来のエンボス付アルミニウム合金板
試験片3:a1、h1、α、及びr1が
図38の最適値であるエンボス付アルミニウム合金板(金属板20)
【0081】
図39は、上記の面動摩擦試験の結果を示している。
図39において、N0°は、エンボス無しのアルミニウム合金板(試験片1)をその圧延方向に摩擦したときの動摩擦測定を示し、N90°は、エンボス無しのアルミニウム合金板(試験片1)の幅方向に摩擦したときの動摩擦測定を示し、G0°は、
図47及び
図48に示す従来のエンボス付アルミニウム合金板(試験片2)のX軸方向に摩擦したときの動摩擦測定を示し、G90°は、
図47及び
図48に示す従来のエンボス付アルミニウム合金板(試験片2)のY軸方向に摩擦したときの動摩擦測定を示し、W0°は、金属板20(試験片3)のX軸方向に摩擦したときの動摩擦測定を示し、W90°は、金属板20(試験片3)のY軸方向に摩擦したときの動摩擦測定を示している。
【0082】
動摩擦係数μk及び動摩擦力Fk(gf)については、エンボス無しのアルミニウム合金板及び従来のエンボス付アルミニウム合金板よりも、a1、h1、α、及びr1が最適値に設定されている金属板20が最も小さく、型押し成形時の成形において優位性が示された。
【0083】
(ダイRに対する抵抗力試験)
本発明者等は、複数種類の金属板の試験片を移動テーブル上に固定し、金型のR角部を想定したL字当て板を金属板の上に載置して線接触させ、この状態で移動テーブルを移動させたときに金属板に発生するL字当て板による動摩擦力(抵抗力)Fk(gf)を、以下の測定条件を用いて測定した。
測定器:新東科学社製のトライボギア測定機(TYPE:14)
L字当て板の長さ :40mm
L字当て板の角部の曲率半径 :5mm
金属板試験片の大きさ :40×200mm
垂直荷重 :200g
移動テーブルの移動速度 :100mm/min
金属板試験片の種類
試験片4:従来のエンボス付アルミニウム合金板
試験片5:a1、h1、α、及びr1が
図38の最適値であるエンボス付アルミニウム合金板(金属板20)
【0084】
図40はW0°すなわち金属板20のX軸方向に摩擦したときの動摩擦力の測定値、
図41はW90°すなわち金属板20のY軸方向に摩擦したときの動摩擦力の測定値、
図49は、G0°すなわち
図47及び
図48に示す従来のエンボス付アルミニウム合金板のX軸方向に摩擦したときの動摩擦力の測定値、
図50はG90°すなわち
図47及び
図48に示す従来のエンボス付アルミニウム合金板のY軸方向に摩擦したときの動摩擦力の測定値をそれぞれ示している。
【0085】
図40及び
図41に示すように、金属板20のL字当て板の角部による線接触最大摩擦抵抗力は、従来のエンボス付金属板(
図49及び
図50)に比較して半分程度であった。特に、
図41に示すように、金属板20のY軸方向(山線32及び谷線34が連なる方向)では、動摩擦力の振れ幅が小さく、従来のエンボス付金属板のY軸方向(
図50)と比較して、1/4の値であった。
【0086】
図42は、アルミニウム合金A3004P製で板厚tbが0.4mmの金属板20であり、単位山形30を構成する4つの四角形の一辺の長さa1が6mmであり、高さh1が1.6mmであり、曲率半径r1が、3.5mmであるが、山線32の開き角αが、75°、90°、105°、120°である4種類の金属板20について、X軸方向の撓みσx、Y軸方向の撓みσy、高剛性方向(Y軸方向)の曲げ剛性Gyの低剛性方向(X軸方向)の曲げ剛性Gxに対する比の値(曲げ剛性比)RG、及び板厚減少率RTを前述と同様にそれぞれ測定し、算出した。曲げ剛性比RGは、金属板20の曲げ剛性の異方性を示す値であり、式(5)から求められる。また、板厚減少率RTは、型押し成形により変形させられる金属板20の成形性に対応する数値である。
RG=σx/σy ・・・ (5)
【0087】
図43は、山線32の開き角αに対するY軸方向の撓みσyの変化を示している。山線32の開き角αの増加に伴って、Y軸方向の撓みσyが小さくなり、Y軸方向の曲げ剛性Gyが増加している。
図44は、山線32の開き角αに対する曲げ剛性比RGの変化を示している。山線32の開き角αの増加に伴って、曲げ剛性比RGが増加し、金属板20の曲げ剛性の異方性が顕著となっている。山線32の開き角αが100°以上となると、Y軸方向の撓みσyが小さくなって安定し、曲げ剛性比RGが増加して安定している。
【0088】
図45は、山線32の開き角αに対する金属板20の板厚減少率RTの変化を示している。山線32の開き角αの増加に伴って、金属板20の板厚減少率RTが減少し、成形性が高くなることを示している。
図46は、曲げ剛性比RGに対する金属板20の板厚減少率RTの変化を示している。曲げ剛性比RGの増加に伴って、金属板20の板厚減少率RTが減少し、成形性が高くなることを示している。曲げ剛性比RGが4.30以上となると、成形性に関連する板厚減少率RTが5.10より小さくなる。
【0089】
図43〜
図46に示すように、金属板20は、好適には、その山線32の開き角αが100°以上とされることで、撓みσyが6.5mm以下、曲げ剛性比RGが4.30以上とされるとともに、金属板20の板厚減少率RTが5.1%以下とされ、成形性が高められている。
【0090】
上述のように、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、曲げ剛性が高い高剛性方向(Y軸方向)と、その高剛性方向と交差して前記高剛性方向よりも曲げ剛性が低い低剛性方向(X軸方向)とを有して曲げ剛性に異方性を有するエンボス付金属板20を、凹状成形面42が形成された成形型40と凹状成形面42内に挿入される半円筒状の凸状成形面52が形成されたポンチ型50との間で型押しすることで、横断面(幅方向W1の断面)において凸形状を成し且つ前記凸形状が長手方向L1に連なるエンボス付半円筒状成形品10を成形するエンボス付半円筒状成形品10の成形方法であって、エンボス付金属板20を、エンボス付金属板20の高剛性方向が凸状成形面52の長手方向と交差する方向となるように設定するエンボス付金属板設定工程P10と、成形型40とポンチ型50とを相互に接近させることにより、エンボス付金属板20を成形型40とポンチ型50との間で型押し成形を行う型押し成形工程P30と、を順に実行する。
【0091】
このようにすれば、型押し成形の過程で、金属板20の成形型40の凹状成形面42内へ引き込まれる方向は、曲げ剛性が高い高剛性方向(Y軸方向)の方向であってエンボスの山が連なって成形厚みが略一定である方向の方向成分を含むことから、成形型40の凹状成形面42とポンチ型50の凸状成形面52とが接近したときの金属板20の引き込み抵抗が低く抑制されるので、型押し成形過程における金属板20の流れが円滑となり、金属板20の割れや皺の発生が抑制される。
【0092】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、前記高剛性方向(Y軸方向)の曲げ剛性の前記低剛性方向(X軸方向)の曲げ剛性比RGの値が4.3以上である。これにより、型押し成形において、成形性が高いほど曲げ剛性比RGが高いので、4.3以上の曲げ剛性比RGが得られる金属板20によれば、高い成形性が得られる。
【0093】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、高さDhが7mm、台座外径DD1が44mm、台座内径DD2が30mmである台座の解析モデルDMを用いた型押し成形の解析において、金属板20の板厚減少率RTは5.1%以下である。これにより、型押し成形において、成形性が高いほど板厚減少率RTが低いので、5.1%以下の板厚減少率RTが得られる金属板20によれば、高い成形性が得られる。
【0094】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、金属板20は、高剛性方向(Y軸方向)において成形厚みh1が均一となるように金属板20のエンボスの山頂が連なるように成形される。金属板20の曲げ剛性が高い高剛性方向が半円筒状の凸状成形面52の長手方向L1に交差する方向とされている状態で、金属板20の高剛性方向の成形厚みh1が均一となるようにエンボスの山頂が連ねられているので、型押し成形中に引き込まれる金属板20の抵抗が低くなって金属板20の流れが円滑となり、金属板20の割れや皺の発生が抑制される。
【0095】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、金属板20は、フィレットをかけない平面図において、山折りにより上辺72が連結された1対の四角形平面(S1及びS2)と1対の四角形平面(S3及びS4)同士の側辺76が山折りにより形成される一対の山線32が1つの折れ点36bを有するように連結された4つの四角形平面(S1、S2、S3、S4)を基本単位とし、4つの四角形平面(S1、S2、S3、S4)が山線(稜線)32の方向(Y軸方向)に連続させられ、谷折りにより4つの四角形平面(S1、S2、S3、S4)の下辺74と隣接する他の4つの四角形平面(S1、S2、S3、S4)の下辺74が連結された谷線34が形成されるように前記隣接する側に連続させられることで、低剛性方向(X軸方向)に凹凸が形成され、山線(稜線)32の方向(Y軸方向)に高剛性方向を有し、平面視において折れ点36bを中心とした山線32の開き角αが100°以上である。これにより、山線32方向において成形厚みh1が一定で曲げ剛性が高く、山線32方向に直交する方向において成形厚みh1が周期的に変化して曲げ剛性が低い、曲げ剛性の異方性がある金属板20が得られる。
【0096】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、板厚tbが0.4mmのエンボス付金属板20から切り出した100mm×20mmの高剛性方向(Y軸方向)に長手状の試験片の基端部を片持ち状に水平に支持し、前記長手状の試験片の先端に3Nの荷重を付与したときの前記長手状試験片の変位量すなわち撓みσyは、6.5mm以下である。撓みσyが小さいほど、エンボス付金属板の高剛性方向の曲げ剛性Gyが高いので、高剛性方向の曲げ剛性Gyが充分に高い金属板20が得られる。
【0097】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、四角形平面S1、S2、S3、S4は、上辺72、下辺74及び側辺76が相互に等しい長さa1を有する平行四辺形であり、山線32と谷線34との間の高さすなわち成形厚みをh1、平面視において折れ点36bを中心とした山線32の開き角をα、山線32に沿った断面において折れ点36bの曲率半径をr1としたとき、長さa1は、6〜8mmであり、前記高さh1は、1.6〜1.8mmであり、開き角αは、110〜120°であり、曲率半径r1は、3〜3.5mmであり、金属板20は、型押し成形前の板厚tbが0.3〜0.6mmのアルミニウム合金板であることにある。これにより、曲げ剛性Gy及び面内剛性ZGyが高く、型押し成形後の板厚減少率RTが低いエンボス付金属板20が、得られる。
【0098】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、型押し成形は、成形型40の凹状成形面42にR角部44を挟んで隣接する面状成形面46に対向する押え面62が形成された皺押え型60を用いて、面状成形面46に対して金属板20の成形厚みh1よりも大きい間隙で金属板20を押えた状態で、凹状成形面42が形成された成形型40と成形型40の凹状成形面42内に挿入される半円筒形の凸状成形面52が形成されたポンチ型50との間で金属板20を型押しする。これにより、型押し成形により得られたエンボス付半円筒状成形品10が剛性の高いものとなるとともに、割れや皺の発生が抑制される。また、成形型40の凹状成形面42と面状成形面46との間のR角部44に摺接しても引き込み抵抗が低く抑制されるので、型押し成形過程における金属板20の流れが円滑となり、金属板20の割れや皺の発生が抑制される。
【0099】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、エンボス付半円筒状成形品10は、金属板20のエンボスの山が潰された取付座18を有するものであり、ポンチ型50の凸状成形面52には、取付座18を形成するために金属板20を介して密着させられる取付座成形突部52aが形成され、成形型40の凹状成形面42及びポンチ型50の凸状成形面52のうちの取付座成形突部52aを除く部分は、凹状成形面42と凸状成形面52の取付座成形突部52aとが密着させられた型押し状態では、金属板20の成形厚みh1よりも大きい間隙で離隔させられる。これにより、型押し成形により得られたエンボス付半円筒状成形品10は、剛性の高く、割れや皺の発生が抑制されるとともに、取付座18が同時に得られる。
【0100】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10の成形方法によれば、エンボス付半円筒状成形品10は、曲げ剛性に異方性のあるエンボス付金属板からなる、横断面(幅方向W1の断面)において凸形状を成し且つその凸形状が長手方向L1に連なる半円筒形状であって、金属板20の曲げ剛性が高い方向(Y軸方向)が、すくなくとも本体部12の幅方向の中央部において、半円筒形の凸状成形面の長手方向L1に直交する方向(幅方向W1)とされていることから、エンボス付半円筒状成形品10が剛性の高いものとなるとともに、割れや皺の発生が抑制される。
【0101】
また、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10によれば、曲げ剛性が高い高剛性方向(Y軸方向)と、高剛性方向と交差して高剛性方向よりも曲げ剛性が低い低剛性方向(X軸方向)と、を有して曲げ剛性に異方性のある金属板20から曲成された、横断面(幅方向W1の断面)において凸形状を成し且つ凸形状が長手方向に連なるエンボス付半円筒状成形品10であって、金属板20は、高剛性方向が半円筒状の本体部12の長手方向L1に交差する方向とされている。このため、エンボス付半円筒状成形品10が剛性の高いものとなるとともに、成形性が高められるので、割れや皺の発生が抑制される。
【0102】
また、本実施例のエンボス付金属板20によれば、その平面視において山線(稜線)32の一部を相互に構成する一対の四角形平面(S1、S2、S3、S4)と山線32に所定の折れ曲がり角度で連続する山線32の他の一部を相互に構成する他の一対の四角形平面(S1、S2、S3、S4)との4枚の四角形平面によって構成された基本単位が、高剛性方向(Y軸方向)において山線32が連続するように、且つ高剛性方向に直交する低剛性方向(X軸方向)において谷線34を挟んで山線32が繰り返し位置するように、成形される。この結果、エンボス付金属板20には、高剛性方向において低剛性方向よりも曲げ剛性が相対的に高くされ、曲げ剛性の異方性が設けられている。型押し成形に際して、エンボス付金属板20の成形型40とポンチ型50との間のすべり抵抗については、山線32及び谷線34が連なる高剛性方向において山線32及び谷線34と交差する低剛性方向よりもすべり抵抗が小さい。
【0103】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0104】
例えば、本実施例のエンボス付半円筒状成形品10は、車両の排気管から車体を断熱する車両用ヒートインシュレータに好適に適用されるが、例えば、車両用以外のヒートインシュレータや、ヒートインシュレータ以外の半割りの円筒形状を有する3次元形状部材にも適用され得る。車両用ヒートインシュレータは、自動車の排気系部品や触媒コンバータ等の高温になる部材と、ボデー等の近接部材との間に介挿されて遮熱するためのものである。エンボス付金属板20の材質としては、アルミニウムやアルミニウム合金が好適に用いられるが、その他の材質の金属板を採用することもできる。また、これ等の金属板に対し、例えば一対のプレス型や回転ローラ型を用いてエンボス加工を施すことにより、曲げ剛性に異方性がある所定のエンボスパターンが設けられたエンボス付金属板を得ることができる。
【0105】
また、本実施例の金属板20はアルミニウム合金A3004Pから構成されていたが、例えば、Al−Mn系アルミニウム合金板、Al−Mg系アルミニウム合金板、純アルミニウム板、Al−Cu系アルミニウム合金板、Al−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金板、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板のいずれかの材質から選択されたものを採用することもできる。
【0106】
また、本実施例のエンボス付金属板20における山線32及び谷線34は、エンボス付金属板20の平面であるX−Y平面内において、例えば互いに等しい一定の周期で高剛性方向(Y軸方向)にジグザグに折れ曲がっているとともに、互いに等しい一定の間隔で低剛性方向(X軸方向)に離間して設けられるが、例えばジグザグの形状やピッチが異なる2周期以上の複数周期を1単位として繰り返したり、間隔が異なる複数の間隔を1単位として繰り返したりしても良いなど、種々の態様が可能である。第5発明では単位山形の形状を規定しているが、谷部分の形状を単位形状として規定することもできる。
【0107】
また、本発明のエンボス付金属板は、必ずしも4枚の四角形によって構成された基本単位(単位山形30)が、高剛性方向(Y軸方向)において山線32が連続するように、且つ高剛性方向に直交する低剛性方向(X軸方向)において谷線34を挟んで山線32が繰り返し位置するように成形されたものでなくてもよく、エンボス形状は、一方向に連続する複数本の凸形状が平行に形成されることにより曲げ剛性の異方性が設けられたり、引用文献1に示すように、多数の円形凸部が形成されることにより曲げ剛性の異方性が設けられたものであってもよい。
【0108】
本実施例のエンボス付金属板20における高剛性方向(Y軸方向)とエンボス付半円筒状成形品10における長手方向L1とは直交していたが、エンボス付半円筒状成形品10の形状による皺の発生状況によっては、皺の分散を制御する目的で、金属板20の高剛性方向(Y軸方向)とエンボス付半円筒状成形品10の横断面方向(幅方向W1)との最適角度を見出すことにより、斜めの交差に設定されていてもよい。
【0109】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。