(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、港湾施設等の水底に堆積した土砂の浚渫には、グラブバケットを使用する方法が広く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
グラブバケットによる浚渫作業は、グラブ浚渫船を施工現場に移動させた後、クレーンを旋回させてグラブバケットを所定の掘削位置上まで移動させ、その位置で両シェルを開放した状態でグラブバケットを水底まで下降させ(グラブ下降工程)、刃先を水底部に食い込ませた状態から両シェルを閉じて水底部の土砂を掴み取る(掘削工程)。
【0004】
そして、土砂を掴んだ状態でグラブバケットを水上まで引き上げ(グラブ上昇工程)、しかる後、クレーンを旋回させてグラブバケットを土運船上に移動させ、その位置でグラブバケットを開放して土運船に浚渫土を積み込む(土砂積み込み工程)。
【0005】
この浚渫作業では、通常のグラブバケットを用いてグラブ下降工程から土砂積み込み工程までの一連の工程を繰り返し、所定範囲の粗掘りを行い、その後、同所定範囲において容量の小さな仕上げ用グラブバケットを用いてグラブ下降工程から土砂積み込み工程までの一連の工程を繰り返すことにより水底部の上層部を浅く掘削(薄層浚渫)し、所定の浚渫深さに水底部を仕上げるようになっている。
【0006】
尚、粗掘り用の通常のグラブバケットと仕上げ用のグラブバケットとを用いる場合には、それぞれにグラブ浚渫船を用意すると、その分、工費が嵩むとともに、グラブ浚渫船の入れ替えなどに時間を要し、工期の長期化を招くという課題があった。
【0007】
そこで、粗掘りから仕上げの薄層浚渫までを同一のグラブバケットで行う方法も用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、クレーンによるグラブバケットの昇降及びグラブバケットを掘削位置と土運船等との間で移動させるためのクレーン旋回に一定の時間を要するため、掘削毎に要する時間(サイクルタイム)が長くなる。水深が深い場所での浚渫作業は、サイクルタイムに占めるグラブバケットの昇降に要する時間の影響が大きく、作業効率が悪かった。
【0010】
また、粗掘りから仕上げの薄層浚渫までを同一のグラブバケットで行う場合、粗掘りに適した大きめのグラブバケットを使用する必要があることから、掘削する土砂量が少ないにも関わらず、大きめのグラブバケットを引き上げる動力を有するクレーンを使用しなければならず、エネルギー効率が悪かった。
【0011】
さらに、仕上げの薄層浚渫の際は、グラブバケットの容量に対して掘削する土砂量が少なく、その分グラブバケット内に土砂とともに取り込まれる余水量が多量になるという問題もあった。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、グラブバケットによって効率的に浚渫作業を行うことができ、且つ、余水の低減を図ることができる浚渫方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、水底の土砂をグラブバケットで掘削する浚渫方法において、所定の掘削位置の土砂を前記グラブバケットで掘削した後、前記グラブバケットを水中で次の掘削位置に移動させ、該次の掘削位置でグラブバケットを開放して土砂を前記次の掘削位置に仮置きし、前記次の掘削位置の土砂を仮置きした土砂とともに前記グラブバケットで掘削することにある。
【0014】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記所定の掘削位置の土砂を掘削する作業と、前記グラブバケットを水中で次の掘削位置に移動させ、該次の掘削位置でグラブバケットを開放して土砂を仮置きする作業と、前記次の掘削位置の土砂を仮置きした土砂とともに掘削する作業と、前記グラブバケットを水上まで持ち上げ、該掘削した土砂を土運船に揚土する作業とを繰り返すことにある。
【0015】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記グラブバケットは、開放時の土砂の拡散を防止する拡散防止手段を備えていることにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る浚渫方法は、請求項1に記載の構成を具備することによって、浚渫作業に要する時間を大幅に短縮し、作業効率を向上させることができる。また、浚渫時にシェル内に取り込まれる余水量を低減することができる。
【0017】
また、本発明において、請求項2に記載の構成を具備することによって、2回分の浚渫作業を1回の工程で効率よく行うことができる。また、水上までグラブバケットを引き上げる作業が減り、その分、水切りによる汚濁拡散の機会も減る。
【0018】
更に、本発明において、請求項3に記載の構成を具備することによって、土砂を仮置きする際の土砂の拡散を防止し、隣接する既掘削箇所への埋め戻しを防止し、確実に仮置き土砂を次の掘削位置の土砂とともにグラブバケットで掴むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る浚渫方法の実施態様を
図1〜
図7に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1はグラブバケットである。
【0021】
グラブバケット1は、
図1、
図2に示すように、吊りワイヤ2,2に支持された支持体3と、支持体3に回動可能に支持された一対のシェル4,4と、シェル4,4を開閉方向に動作させるグラブ開閉機構とを備え、両シェル4,4が開閉可能なグラブを形成している。
【0022】
尚、グラブバケット1は、浚渫作業における粗掘りに適した容量のグラブバケットであって、このグラブバケット1によって粗掘り及び仕上げの薄層浚渫作業を行うようになっている。
【0023】
支持体3は、吊りワイヤ2,2に支持された上部ブロック5と、上部ブロック5下に配置された下部ブロック6と、上端が上部ブロック5に回動可能に支持され、下端がシェル4,4の側面部に回動可能に連結されたアーム7,7とを備え、各シェル4,4は、その上端が下部ブロック6に支軸8を介して回動可能に支持されるとともに、側部がアーム7,7を介して上部ブロック5に連結されている。
【0024】
上部ブロック5は、吊りワイヤ2,2を介してバケット移動手段であるクレーン9に吊り持ちされ、クレーン9によってグラブバケット1全体が上下方向及び水平方向に移動できるようになっている。
【0025】
下部ブロック6は、操作ワイヤ10の繰り出し・巻取り動作によって上部ブロック5に対して相対的に昇降するようになっている。
【0026】
そして、各シェル4,4は、上部ブロック5に対する相対的な下部ブロック6の昇降に連動して開閉動作、即ち、下降することにより両シェル4,4がグラブ開放方向に回動し、上昇することにより両シェル4,4がグラブ閉鎖方向に回動するようになっている。
【0027】
各シェル4,4は、円弧状のシェル底板部4aと、シェル底板部4aの両側縁に連結された前後のシェル側板部4b,4bとを備え、シェル側板部4b,4bの上端が下部ブロック6に支軸8を介して回動可能に支持され、両シェル4,4が閉じられた状態、即ち、グラブが掴み状態にある場合には、シェル底板部4a下縁の刃先部及び両シェル側板部4b,4bの相手側縁部が互いに密着し、グラブが閉鎖されるようになっている。
【0028】
また、このグラブバケット1は、シェル4,4開放時の土砂の拡散を防止する拡散防止手段を備えている。
【0029】
拡散防止手段は、例えば、シェル4,4側板の外側に配置された拡散防止板11を備え、拡散防止板11が連結部材12,12を介して下部ブロック6に連結されている。
【0030】
拡散防止板11は、幅方向(短辺方向)を上下に向けた板状に形成され、グラブバケット1の下降に伴い、水底土砂に差し込まれるようになっている。尚、拡散防止板11の形状は、矩形状に限定されない。
【0031】
連結部材12,12は、その上端が下部ブロック6に固定され、下端側が拡散防止板11の外面に固着されている。尚、連結部材12,12の態様は、特に限定されず、例えば、棒状、板状、綱状等を適宜採用することができる。
【0032】
また、連結部材12,12は、上下方向の衝撃を吸収するスライド機構等からなる緩衝手段を備え、拡散防止板11が水底土砂から受ける抵抗を緩和できるようにしてもよい。
【0033】
次に、このグラブバケット1を使用した浚渫方法を
図3に示す手順に基づいて説明する。尚、本実施例は、粗掘りを終えた後、所定の深さで薄層浚渫によって仕上げ掘りする場合を例に説明し、図中符号13は水底部である。
【0034】
先ず、グラブ浚渫船14を施工現場に移動させ、
図4に示すように、その位置でクレーン9を旋回(旋回角度R)させてシェル4,4を開放した状態のグラブバケット1を所定の掘削位置p1上に移動させる(クレーン旋回工程)。
【0035】
次に、
図5(a)に示すように、その位置で吊りワイヤ2,2を繰り出してグラブバケット1を下降させる(グラブ下降工程)。
【0036】
グラブバケット1は、水中を下降し、
図5(b)に示すように、拡散防止板11が水底土砂に差し込まれるとともに、シェル4,4の着底に伴いグラブバケット1の自重によって両シェル4,4の刃先が水底部13に食い込む。
【0037】
次に、その状態から操作ワイヤ10を巻き取り、上部ブロック5に対し下部ブロック6を相対的に上昇させると、
図5(c)に示すように、両シェル4,4が閉鎖方向に動作し、両シェル4,4が水底部13に堆積した土砂15aを余水wとともに掴み、水底部13の土砂を所定の深さtに掘削する(1回目掘削工程)。
【0038】
次に、
図6(d)に示すように、1回目の浚渫土砂15aを掴んだ状態でグラブバケット1を水中で若干(例えば、D
1:約1m)上昇させ(グラブ微上昇工程)、
図4に示すように、クレーン9を角度R
1(R1<R)だけ微旋回させてグラブバケット1を水中で次の掘削位置p2(
図6(d)中の紙面奥側)上に水平移動させ(クレーン微旋回工程)、しかる後、
図6(e)に示すように、グラブバケット1を拡散防止板11の下端が水底部13に差し込まれるまで下降させる。
【0039】
そして、
図6(f)に示すように、次の掘削位置p2において、上部ブロック5に対し下部ブロック6を相対的に下降させ、両シェル4,4を開放方向に回動させ、バケット内の浚渫土砂15aを所定の掘削位置p2の水底面上に仮置きする(グラブ開放(仮置き)工程)。
【0040】
その際、両シェル4,4の開放に伴い、両シェル4,4間から水平方向に土砂15aが流出しようとするが、土砂15aが拡散防止板11に堰き止められ、拡散せずに次の掘削位置p2上に重ね上げられる。
【0041】
次に、
図7(g)に示すように、シェル4,4を開放した状態で下降させ、両シェル4,4の刃先を次の掘削位置p2において水底部13に食い込ませる(グラブ微下降工程)。
【0042】
そして、その状態から操作ワイヤ10を巻き取り、上部ブロック5に対し下部ブロック6を相対的に上昇させると、
図7(h)に示すように、両シェル4,4が閉鎖方向に動作し、両シェル4,4が次の掘削位置p2の土砂15bを仮置きした土砂15aとともに掴み、所定の深さtに掘削する(グラブ閉鎖(2回目掘削)工程)。
【0043】
その際、両シェル4,4内に仮置きした土砂15aと次の掘削位置p2の土砂15bとが取り込まれることによって、取り込まれた土砂量が多い分、1回分の土砂を掴んだ場合に比べ、両シェル4,4内に取り込まれる余水w量が少なくなる。
【0044】
次に、
図7(i)に示すように、グラブバケット1を水中で上昇させ(グラブ上昇工程)、水切りした後、
図4に示すように、水上でクレーン9を旋回させてグラブバケット1を土運船16上まで移動させ(クレーン旋回工程)、その位置で両シェル4,4を開放して土運船16に浚渫土砂を揚土する(グラブ開放(浚渫土積み込み)工程)。
【0045】
そして、位置を変えて一連の作業を繰り返し、所定範囲の浚渫作業を終えた後、グラブ浚渫船を移動させ、同様の作業を繰り返す。
【0046】
次に、
図4に示すような隣接する2区間の土砂を浚渫する場合において、従来工法の作業時間と本願発明に係る浚渫方法の作業時間とを比較する。
【0047】
従来工法による2区画の浚渫に要する作業時間C
mは、
図3(b)の手順で1区画の土砂を浚渫する作業時間の2倍に相当し、C
m=(c1×2+c2+c3+c4+c5)×2(秒)となる。
【0048】
一方、本発明方法の作業時間C
m´は、
図3(a)の手順を踏むことによって2区画の土砂を浚渫するので、C
m´=c1×2+c2+c3×2+c4+c5×2+c6+c7(秒)となる。
【0049】
尚、各工程に要する作業時間c1〜c8は、下記表1に示す計算式((社)日本埋立浚渫協会、全国浚渫業協会「グラブ浚渫船の標準仕様」, 平成21年10月)に基づいて計算する。また、具体的数値については、表2に示す公称揚土量算定表((社)日本埋立浚渫協会、全国浚渫業協会「グラブ浚渫船の標準仕様」, 平成21年10月)を使用して計算し、その結果を表3に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0050】
本発明に係る浚渫方法は、従来方法と比べ、グラブ下降工程、グラブ上昇工程及び1往復のクレーン旋回工程をそれぞれ1回分省略することができ、それに要する時間分を短縮することができる。
【0051】
一方、本願発明に係る浚渫方法では、グラブ微上昇からグラブ微下降までの各工程からなる仮置き作業を必要とするが、それに要する時間は、グラブ下降工程、グラブ上昇工程のいずれの工程に要する時間よりも短い。
【0052】
よって、表3に示すとおり、本発明に係る浚渫方法は、従来工法に比べ作業時間を大幅(約26〜36%)に短縮することができ、時間当たりの浚渫能力が大幅に向上する。
【0053】
特に、水深が深い場所での浚渫作業においては、グラブバケット1の上昇及び下降に要する時間の影響が大きく、時間短縮効果が顕著に顕れる。
【0054】
また、本発明に係る浚渫方法では、グラブバケット1を水上に引き上げる回数が減少するので、水切りに伴う汚濁拡散の回数も減り、その分汚濁が拡散し難くなる。
【0055】
更に、浚渫作業においては、重量の嵩むグラブバケット1をクレーン9で引き上げる際に最も動力を必要とすることから、グラブ上昇工程の回数が減ることで、その分の動力が不要となりエネルギー効率の向上も図ることができる。
【0056】
また、本発明に係る浚渫方法は、グラブバケット1の開放時の土砂拡散を防止する拡散防止手段(拡散防止板11)を備えていることによって、仮置き時の土砂15aの拡散を防止し、確実に2回分の土砂15a及び15bを同時に掴むことができる。
【0057】
尚、上述の実施例では、作業効率の観点から、所定の掘削位置p1と次の掘削位置p2とを互いに隣接する位置に設けることが好ましいが、所定の掘削位置p1と次の掘削位置p2との間に間隔を設けてもよい。
【0058】
また、上述の実施例では、2回分(2区画)の土砂を揚土する場合について説明したが、掘削工程と土砂仮置き工程とを繰り返し、掴む土砂の量がバケット容量を超えない限り、3回(3区画)分以上の土砂を揚土するようにしてもよい。
【0059】
また、上述の実施例では、拡散防止手段として、連結部材12,12を介して下部ブロック6に連結された拡散防止板11を使用する例について説明したが、拡散防止手段の態様は上述の実施例に限定されない。
【0060】
さらに、上述の実施例では、薄層浚渫による仕上げ掘りに適用した例について説明したが、粗掘り等の通常の浚渫作業に適用してもよい。
【0061】
また、上述の実施例では、土運船16上に揚土する場合について説明したが、陸上に揚土するようにしてもよい。