【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、呼吸と循環の生理的関係において、静脈血とリンパの還流に促進作用のある腹式呼吸の、健康と美容を目的とする利用と、体表面に対する間欠的で低圧での圧迫を手段とするものであるが、腹式呼吸では横隔膜が収縮して下がる吸息相において、胸腔内圧が減少して降圧相となり、腹腔内圧が増大して昇圧相となる。
一方、横隔膜が弛緩して上方に復位する呼息相では、胸腔内が昇圧して昇圧相となり、腹腔内が降圧して降圧相となる。
このように、胸腔と腹腔では、呼吸によって生じる相反的な圧力変動が繰り返されることから、呼息相で生じる胸腔内の降圧と腹腔内の昇圧によって、上半身にあったリンパの胸腔内への輸送が促進される一方で、下半身の鼠径リンパ節を経由して腹腔内に入るリンパ輸送は抑制される。
逆に、呼息相で生じる胸腔内での昇圧と腹腔内の降圧によって、上半身のリンパの胸腔内への輸送が抑制される一方で、下半身の鼠径リンパ節を経由して腹腔内に入るリンパの輸送は促進される。
従って、呼吸運動によって生じる体腔内の圧力変動を利用し、体表面への低圧による圧迫で皮膚のリンパ輸送を促進するには、被マッサージ部に近位の体腔が胸腔か腹腔かによって、言い換えれば、マッサージ部が上半身か下半身かによって、マンシエットによる圧迫を加える効果的なタイミングが異なり、吸息相では降圧する胸腔に近位の顔面部に、呼息相では降圧する腹腔に近位の腹部又は臀部に圧迫を加えることが、リンパ輸送経路の下流における圧力が減少する際に、上流における圧力を増大させることとなり、マッサージ部皮膚と、それに近位の体腔との間の圧力勾配が大きくなることから、マッサージ部皮膚のリンパ輸送を促進する上で効果的である。
一方、ポンピング作用を利用してマッサージ部皮膚のリンパ輸送を促進するには、リンパ管に送出すべきリンパがリンパ管に満たされている必要があることから、圧迫によるリンパの送出後、皮膚組織への圧迫を停止して、空となり扁平となったリンパ管の外壁が周囲のアンカーリングフィラメントに引っ張られ、容積を回復して管内に陰圧が生じる際に、周囲組織や末梢からのリンパが管内に流入して、再びリンパで満たされるための再充満時間を設ける必要がある。
このため、本発明では、吸息相で腹腔に近位の下半身部を、呼息相で胸腔に近位の上半身部の圧迫を解き、必要とされるリンパの再充満時間を確保するものである。
従って、本発明では、腹式呼吸における呼吸相の判別が必要であり、その判別は、伸縮性のストレッチセンサーを腹部に装着して腹囲の増減を連続的に検知することによって、腹位の増大が開始される呼吸相が吸息相への移行期であり、腹囲の減少が開始される呼吸相が呼息相への移行期であると、CPUを用いて判断し、マンシエットによる圧迫と減圧を開始するタイミングの決定に利用することを手段とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、伸縮性のある腹囲の測定用センサーと腹部用のマンシエットを腹部に装着して、随意的に腹式呼吸を行う際に、腹囲の増減変化時に対応する被マッサージ部のマンシエット圧の増減変化を、被マッサージ者が感知することができることから、腹式呼吸の呼吸相の変化を、呼吸者自身において認識することが容易である。
これによって、腹式呼吸の習得が容易となり、腹式呼吸のトレーナーとしての利用が可能である他、実際に腹式呼吸を行って、腹式呼吸が有する生理的機能の利用を容易化できる作用効果がある。
【0008】
本発明では、腹式呼吸を随意的に行うため、一般的に、呼吸数が減少する一方で、1回換気量が増大することから、高齢者への適用によって、高齢者の呼吸機能を高め、高齢者の健康を維持促進する、トレーニング効果を期待することができる。
【0009】
腹式呼吸の吸息相では、横隔膜が下がる際に、胸腔内の降圧による陰圧の増大と腹腔内の昇圧による陽圧の増大が、相反的に生じるので、胸腔と腹腔の間の圧力勾配が増大する他、腹腔に在る大静脈やリンパ本幹、乳び槽等が、腹圧の増大と移動変形する腹部臓器等によって圧迫を受ける。
これによって、下半身から流入して腹腔内に在った静脈血やリンパ幹液の胸腔内への送出と、静脈角を経由する静脈血とリンパの、胸腔内に在る心臓への還流が促進される。
腹式呼吸の呼息相では、胸腔内の昇圧と腹腔内の降圧が相反して生じることから、静脈血やリンパ幹液の腹腔から胸腔への移送が減少する一方で、下半身からの静脈血やリンパ管液の腹腔内への流入が増加する。そのため、容量脈管である静脈とリンパ幹の容量が増大し、腹腔内における静脈血やリンパ幹液の貯留量が増大する。
しかし、次に来る吸息相にて、胸腔内の陰圧の増大と腹腔内の陽圧の増大が生じることから、腹腔内に貯留した静脈血とリンパ幹液の胸腔内への移送が促進される。
腹式呼吸では、胸腔内と腹腔内における位相を異にした昇圧と降圧が繰り返されることから、腹腔から胸腔へのポンピング作用が賦活され、重力に抗した静脈血やリンパの輸送と大循環系への還流が、腹式呼吸と同調するリズムで促進される結果、大循環系が穏やかに促進されて、全身の血流とリンパ輸送を穏やかに促進する効果を期待することができる。
本発明では、腹式呼吸による体腔内の圧力変動にマッサージ圧の圧力変動を同調させることによって、マッサージ部から体腔へのリンパ輸送における圧力勾配を増大させるように、呼吸運動を利用することができる。
【0010】
腸管の周囲には極めて多くのリンパ管が存在していることが知られている。
腹式呼吸を伴う本発明による皮膚のマッサージでは、横隔膜の下降によって、腸管周囲の圧迫と腹腔内圧の上昇、並びに胸腔内圧の減少等が生じるが、続いて、横隔膜の復位によって、腸管周囲の圧迫の解除と腹腔内圧の減少、並びに胸腔内圧の上昇等が生じる。
この様に、腹腔内圧と胸腔内圧ばかりでなく、腸管周囲の圧力と腸管の位置、形態等が、呼吸運動と同調して変動し、連続的に繰り返されることから、腸管周囲のリンパ輸送が、呼吸運動に同調して促進される。
全身のリンパ球の半数以上が腸に存在していることから、本発明の適用により、リンパ球の大循環系への取り込みを促進して、循環系を介して全身に展開されるリンパ球数を増大させ、免疫力を高める効果を期待することができる。
【0011】
リンパ輸送の停滞によって脂肪細胞が肥大化するメカニズムが明らかにされている。
消化物のうち、脂肪分解産物の脂肪酸やグリセリンは小腸のリンパ管に吸収されるが、リンパ液に含まれる脂肪成分が、リンパ輸送が停滞している全身の各部位のリンパ管壁を透過し、組織間隙に漏出して周囲の脂肪細胞を浸潤することが、該当する部位の脂肪細胞肥大化の原因であり、皮膚組織では皮膚の弛みの原因とされている。
本願発明は、能動的な腹式呼吸によって全身のリンパ流を穏やかに促進し、マッサージ部に於ける間欠的で、低圧で等圧的なマッサージによって、脂肪細胞周囲に漏出した脂肪成分を含む組織液のリンパ管内への取り込みと中枢側へのリンパ輸送を促進して、当該部位の脂肪細胞周囲から脂肪成分を含む組織液を排出し、皮膚の弛みを予防する効果を期待することができる。
【0012】
腸管周囲のリンパ輸送が停滞した場合には、リンパ管液の脂肪成分がリンパ管から漏出して、腸管周囲に在る内臓脂肪細胞を肥大化させると考えられる。
本発明では、腹式呼吸の利用により、腹腔内の腸リンパ本幹から乳び槽を経て胸管に至るリンパ輸送を、生理的に促進する呼吸循環機能の活用が可能であることに加え、横隔膜をはじめ腹部周囲の諸筋群を周期的に能動的に収縮弛緩させることから、腹部リンパ管の蠕動運動を促進して、腹腔内の組織液のリンパ管内への取り込みと、胸腔へのリンパ輸送を促進して、腹部脂肪細胞の肥大化を抑制し、内臓脂肪量の増大を抑制する作用効果を期待することができる。
さらに、内臓脂肪量と脂肪肝の程度とは、相関のあることが知られていることから、本発明の積極的な適用によって、能動的に内臓脂肪量を減少させ、脂肪肝を改善、予防する効果を期待することができる。
【0013】
本願発明を用いる腹部のマッサージでは、横隔膜を弛緩させ、腹腔内圧を減少させる呼息相への移行ポイントにて、腹部に装着したマンシエットの圧力を上げ始めることから、マンシエット圧が腹腔を構成する筋群と組織の緊張力を上回った場合、腹腔内で生じる圧力減少を打ち消すように作用するため、マンシエットの最大圧を、ポンピング作用が生じる範囲で低く設定することが望ましいと考えられる。
一方、マンシエットが皮膚組織のリンパ管や細静脈を圧迫してポンピング作用を及ぼすには、10mmHg〜15mmHg/cm
2の圧力で効果を生じることから、任意に設定するマンシエットの最大圧を10〜15mmHg/cm
2の範囲の中で設定することで、腹部を含む皮膚組織の効果的なリンパマッサージが可能である。これによって、皮下脂肪組織を含む皮膚組織の脂肪細胞の肥大化を抑制し、皮膚の弛みを予防する効果を期待することができる。
【0014】
リンパ輸送の停滞によって皮下脂肪細胞が肥大化し、皮膚の弛みとなることが知られている。
本発明では、生体に対するマッサージ刺激の作用部がマンシエットであることから、顔面用のマンシエットや、腹部用や臀部用のマンシエット等、適用部位に応じた形態と面積のマンシエットの製作が容易であり、柔軟で等圧的な圧迫刺激を身体の各部の皮膚に適用することが容易である。
【0015】
眼窩部と鼻口唇部を開けた顔面用のマンシエットを顔面に装着して、吸息相への移行期にてマンシエットの昇圧を開始し、呼息相への移行期にてマンシエットを減圧する、呼吸相に同調する圧迫式マッサージを行うことにより、顔面部から静脈角を経由して胸腔に至る経路のリンパ輸送を、促進することができる。
これによって、顔面皮膚の脂肪細胞の肥大化や弛みを予防する効果を期待することができる他、負荷する刺激がエアーポンプを用いたマンシエットの空気圧であり、且つ、皮膚に対する等圧の垂直圧であるため、皮膚の繊維構造を傷害する恐れを有した、皮膚組織内で水平方向に働くズレ力や、ネジレ力が発生しないことから、顔面皮膚の弾性率が低下する恐れの少ない、安全性の高いマッサージである特徴を有している。
リンパ管の1分間当たりの収縮回数は血管の脈動数の約1/15であり、本発明も、リンパ輸送に適した低頻度の周期による圧迫式マッサージである。従って、顔面皮膚のリンパ輸送を安全に促進して、皮膚組織の代謝を改善し、顔面皮膚の老化を予防する効果を、長期に渡って安心して期待することができる。
【0016】
腹部あるいは臀部にマンシエットを装着して、吸息相から呼息相へ変化した移行ポイントをマンシエットの昇圧開始ポイントとする、呼吸相に同調した圧迫式マッサージを行うことにより、被マッサージ部皮膚の脂肪細胞の肥大化を予防して、体形の劣化を予防する効果を期待することができる。
一方、顔面部にマンシエットを装着してマッサージを行う場合には、吸息相への移行ポイントをマンシエットの昇圧開始ポイントとするものである。
【0017】
リンパ管は弁を有していて、通常は、それぞれの分節がそれぞれのリズムで緩やかな蠕動運動を行っていることから、マンシエットによる圧迫刺激を行うことで、リンパの輸送経路の上流から下流に至る圧力勾配を、直ちに直管的に生じさせることができるものではない。しかしながら、静脈弁やリンパ管内の弁は圧力に受動的に作動することから、本発明による呼吸リズムに同調した圧迫作用を繰り返し及ぼすことで、上流から下流への弁による整流作用が繰り返し生じて、静脈血やリンパの上流から下流への輸送を促進することができる。
【0018】
本発明では、腹式呼吸を行うことで体形の劣化等を予防する、美容への作用効果を期待することができることから、腹式呼吸を行うモチベーションを高くできる効果があり、美容を目的として、どの部位のマンシエットを用いたマッサージを行っても、腹式呼吸の健康に及ぼす生理的作用効果を享受することができる。
従って、本発明は、美容と健康に良い生理的マッサージシステムである特徴がある。