特許第6894075号(P6894075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6894075
(24)【登録日】2021年6月7日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】呼吸相同調型圧迫式マッサージシステム
(51)【国際特許分類】
   A61H 7/00 20060101AFI20210614BHJP
【FI】
   A61H7/00 322B
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-107331(P2020-107331)
(22)【出願日】2020年5月26日
【審査請求日】2020年7月3日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000194413
【氏名又は名称】菅野 康幸
(72)【発明者】
【氏名】菅野 康幸
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0159690(US,A1)
【文献】 特開2008−017890(JP,A)
【文献】 中国実用新案第202876206(CN,U)
【文献】 特開2011−200439(JP,A)
【文献】 「腸リンパ流しの秘けつは水と呼吸!」,2020年 1月21日,NHK-BSプレミアム,URL,https://www.nhk.or.jp/beautyscience-blog/2019/167/419062.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 7/00
A63B 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクターを有するエアーチューブと繋がったゴム嚢と、ゴム嚢を覆う布製カバーと、布製カバーに付けられたマジックバンドで成り、体表面に空気圧を適用するマンシエットと、
CPUに処理を開始させる信号をCPUに送信するSTARTキーと、CPUの処理を終了させる信号をCPUに送信するSTOPキーと、任意にマンシエットの最大圧を設定する信号をCPUに送信する最大圧設定キーと、マンシエットを装着する部位が上半身であるか下半身であるかを示す信号をCPUに送信する装着部位選択キー等を備えた、操作部を有するCPUと、
腹部装着用の装具を有した伸縮性のストレッチセンサーと、ストレッチセンサーと接続し腹囲を連続的に検出する腹囲検出回路と、腹囲検出回路と接続して出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換してCPUに送信するA/Dコンバーターとから成る、腹囲検出部と、
CPUからのエアーポンプ制御信号を受けてエアーポンプを駆動/停止制御するエアーポンプ制御回路と、エアーポンプ制御回路と接続しエアー回路で繋がったマンシエットにエアーを注入してマンシエットを加圧するエアーポンプとで成る、加圧部と、
圧力センサーと電磁弁とエアーポンプを、マンシエット接続用のコネクターを備えたエアーパイプで繋げるエアー回路と、
エアー回路を介してマンシエットと繋がる圧力センサーと、圧力センサーと接続してマンシエット圧を検出するマンシエット圧検出回路と、マンシエット圧検出回路と接続し出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換してCPUに送信するA/Dコンバーターとから成る、マンシエット圧検出部と、
エアー回路を介してマンシエットと繋がる電磁弁と、電磁弁と接続しCPUからの電磁弁制御信号を受けて電磁弁を開/閉制御する電磁弁制御回路とから成る、減圧部と、
操作部を有したCPUと腹囲検出部と加圧部とマンシエット圧検出部と減圧部とに電源を供給する、充電式バッテリーと電源スイッチで成る電源部とを主要構成要素とし、
腹式呼吸に於ける腹囲の変化方向から腹式呼吸の呼吸相を判別し、呼吸相と一義的に対応する胸腔と腹腔の体腔内圧相を判別して、呼吸相が変化した時点を体腔内圧相が変化した時点と判断し、
マンシエットの装着部位が上半身と選択されている場合には、呼吸相が呼息相から吸息相へ変化した時点を胸腔内圧の降圧相への変換時点と判断し、マンシエットの加圧を開始して、設定された最大圧に至るまで加圧を続ける。一方、吸息相から呼息相へ変化した時点では、胸腔内圧の昇圧相への変換時点と判断して、マンシエットの減圧を開始する。
マンシエットの装着部位が下半身と選択されている場合には、呼吸相が吸息相から呼息相へ変化した時点を腹腔内圧の降圧相への変換時点と判断して、マンシエットの加圧を開始し、設定された最大圧に至るまで加圧を続ける。一方、呼息相から吸息相へ変化した時点では、腹腔内圧の昇圧相への変換時点と判断して、マンシエットの減圧を開始する。
上記の機能を有した圧迫式マッサージャーに於いて、任意に設定するマンシエットの最大圧が10〜15mmHg/cmの範囲を含むことを特長とする、呼吸相同調型圧迫式マッサージシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸と循環のリンパ輸送促進メカニズムに協調する圧迫式マッサージシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リンパ浮腫を治療する一手段として、空気圧を利用した圧迫式マッサージャーが利用され、皮膚を間欠的に圧迫することによってリンパ輸送を促進し、浮腫の改善を支援する処置が行われてきた。
一方、圧迫式マッサージは健者においても、足の浮腫みの解消や脚部の疲労の回復等を目的として、一部行われていたが、健者における一般的なマッサージの主な目的が、筋肉疲労の回復と美容であったため、末梢循環の促進と代謝の改善に作用の重きが置かれ、リンパ輸送を促進する方法や、その作用効果等については、必ずしも広い範囲での検討が十分になされていたものではなかった。
しかし、皮膚の弛みの原因となる脂肪細胞の肥大化に、リンパ輸送の停滞が関与していること、内臓脂肪量と脂肪肝の程度とが相関を有すること等が明らかとなり、リンパ輸送の改善が体形と健康維持に有益な手段と成り得ることが明らかとなってきた。
【0003】
一方、リンパの輸送には、リンパ管自体の自動能の他、体表に加えられる外部からの圧力や筋肉の動き等によって引き起こされる受動的な流ればかりでなく、静脈角に注いだリンパを含む静脈血の心臓への還流や、腹部リンパ本幹から胸管へのリンパ輸送に、呼吸によって生じる胸腔内や腹腔内の周期的な圧力変動が促進的に作用していることは、旧来から周知されている生理的現象であった。しかしながら、体形と健康維持、あるは美容を目的として、リンパ輸送の促進を促すマッサージにおいて、呼吸運動を積極的に利用するマッサージ方法と、それを可能にする簡単な装置は提案されていなかった。
他方、生理的な腹式呼吸が、副交感神経系の賦活や腸管運動の促進等、健康上好ましい作用効果を有することが知られており、座禅や健康法等で、腹式呼吸の習得方法が広く紹介されていた。
この様な中、マンシエット、エアーポンプ、電磁弁、CPU等を有した様々な自動血圧計が一般化し、呼吸相に同調した間欠的な圧迫刺激を行う、リンパの圧迫式マッサージシステムの開発に参考とすることが容易となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−126259号
【特許文献2】特開昭59−192349号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、胸腔や腹腔に周期的な圧力変動を生じさせる、健康に有益な作用を有した腹式呼吸を、美容を目的とする皮膚のリンパマッサージに利用することによって、美容と健康に有益な皮膚のリンパマッサージシステムの開発を目的とするもので、マッサージ部の集合リンパ管を経由するリンパや、静脈角を経由する静脈血等が流れ込む体腔の内圧が、腹式呼吸によって減少する際に、体腔に近位に在るマッサージ部へのマンシエットによる低圧な圧迫を行って、皮下脂肪組織を含む皮膚のリンパ輸送を促進する、圧迫式マッサージシステムの開発を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、呼吸と循環の生理的関係において、静脈血とリンパの還流に促進作用のある腹式呼吸の、健康と美容を目的とする利用と、体表面に対する間欠的で低圧での圧迫を手段とするものであるが、腹式呼吸では横隔膜が収縮して下がる吸息相において、胸腔内圧が減少して降圧相となり、腹腔内圧が増大して昇圧相となる。
一方、横隔膜が弛緩して上方に復位する呼息相では、胸腔内が昇圧して昇圧相となり、腹腔内が降圧して降圧相となる。
このように、胸腔と腹腔では、呼吸によって生じる相反的な圧力変動が繰り返されることから、呼息相で生じる胸腔内の降圧と腹腔内の昇圧によって、上半身にあったリンパの胸腔内への輸送が促進される一方で、下半身の鼠径リンパ節を経由して腹腔内に入るリンパ輸送は抑制される。
逆に、呼息相で生じる胸腔内での昇圧と腹腔内の降圧によって、上半身のリンパの胸腔内への輸送が抑制される一方で、下半身の鼠径リンパ節を経由して腹腔内に入るリンパの輸送は促進される。
従って、呼吸運動によって生じる体腔内の圧力変動を利用し、体表面への低圧による圧迫で皮膚のリンパ輸送を促進するには、被マッサージ部に近位の体腔が胸腔か腹腔かによって、言い換えれば、マッサージ部が上半身か下半身かによって、マンシエットによる圧迫を加える効果的なタイミングが異なり、吸息相では降圧する胸腔に近位の顔面部に、呼息相では降圧する腹腔に近位の腹部又は臀部に圧迫を加えることが、リンパ輸送経路の下流における圧力が減少する際に、上流における圧力を増大させることとなり、マッサージ部皮膚と、それに近位の体腔との間の圧力勾配が大きくなることから、マッサージ部皮膚のリンパ輸送を促進する上で効果的である。
一方、ポンピング作用を利用してマッサージ部皮膚のリンパ輸送を促進するには、リンパ管に送出すべきリンパがリンパ管に満たされている必要があることから、圧迫によるリンパの送出後、皮膚組織への圧迫を停止して、空となり扁平となったリンパ管の外壁が周囲のアンカーリングフィラメントに引っ張られ、容積を回復して管内に陰圧が生じる際に、周囲組織や末梢からのリンパが管内に流入して、再びリンパで満たされるための再充満時間を設ける必要がある。
このため、本発明では、吸息相で腹腔に近位の下半身部を、呼息相で胸腔に近位の上半身部の圧迫を解き、必要とされるリンパの再充満時間を確保するものである。
従って、本発明では、腹式呼吸における呼吸相の判別が必要であり、その判別は、伸縮性のストレッチセンサーを腹部に装着して腹囲の増減を連続的に検知することによって、腹位の増大が開始される呼吸相が吸息相への移行期であり、腹囲の減少が開始される呼吸相が呼息相への移行期であると、CPUを用いて判断し、マンシエットによる圧迫と減圧を開始するタイミングの決定に利用することを手段とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、伸縮性のある腹囲の測定用センサーと腹部用のマンシエットを腹部に装着して、随意的に腹式呼吸を行う際に、腹囲の増減変化時に対応する被マッサージ部のマンシエット圧の増減変化を、被マッサージ者が感知することができることから、腹式呼吸の呼吸相の変化を、呼吸者自身において認識することが容易である。
これによって、腹式呼吸の習得が容易となり、腹式呼吸のトレーナーとしての利用が可能である他、実際に腹式呼吸を行って、腹式呼吸が有する生理的機能の利用を容易化できる作用効果がある。
【0008】
本発明では、腹式呼吸を随意的に行うため、一般的に、呼吸数が減少する一方で、1回換気量が増大することから、高齢者への適用によって、高齢者の呼吸機能を高め、高齢者の健康を維持促進する、トレーニング効果を期待することができる。
【0009】
腹式呼吸の吸息相では、横隔膜が下がる際に、胸腔内の降圧による陰圧の増大と腹腔内の昇圧による陽圧の増大が、相反的に生じるので、胸腔と腹腔の間の圧力勾配が増大する他、腹腔に在る大静脈やリンパ本幹、乳び槽等が、腹圧の増大と移動変形する腹部臓器等によって圧迫を受ける。
これによって、下半身から流入して腹腔内に在った静脈血やリンパ幹液の胸腔内への送出と、静脈角を経由する静脈血とリンパの、胸腔内に在る心臓への還流が促進される。
腹式呼吸の呼息相では、胸腔内の昇圧と腹腔内の降圧が相反して生じることから、静脈血やリンパ幹液の腹腔から胸腔への移送が減少する一方で、下半身からの静脈血やリンパ管液の腹腔内への流入が増加する。そのため、容量脈管である静脈とリンパ幹の容量が増大し、腹腔内における静脈血やリンパ幹液の貯留量が増大する。
しかし、次に来る吸息相にて、胸腔内の陰圧の増大と腹腔内の陽圧の増大が生じることから、腹腔内に貯留した静脈血とリンパ幹液の胸腔内への移送が促進される。
腹式呼吸では、胸腔内と腹腔内における位相を異にした昇圧と降圧が繰り返されることから、腹腔から胸腔へのポンピング作用が賦活され、重力に抗した静脈血やリンパの輸送と大循環系への還流が、腹式呼吸と同調するリズムで促進される結果、大循環系が穏やかに促進されて、全身の血流とリンパ輸送を穏やかに促進する効果を期待することができる。
本発明では、腹式呼吸による体腔内の圧力変動にマッサージ圧の圧力変動を同調させることによって、マッサージ部から体腔へのリンパ輸送における圧力勾配を増大させるように、呼吸運動を利用することができる。
【0010】
腸管の周囲には極めて多くのリンパ管が存在していることが知られている。
腹式呼吸を伴う本発明による皮膚のマッサージでは、横隔膜の下降によって、腸管周囲の圧迫と腹腔内圧の上昇、並びに胸腔内圧の減少等が生じるが、続いて、横隔膜の復位によって、腸管周囲の圧迫の解除と腹腔内圧の減少、並びに胸腔内圧の上昇等が生じる。
この様に、腹腔内圧と胸腔内圧ばかりでなく、腸管周囲の圧力と腸管の位置、形態等が、呼吸運動と同調して変動し、連続的に繰り返されることから、腸管周囲のリンパ輸送が、呼吸運動に同調して促進される。
全身のリンパ球の半数以上が腸に存在していることから、本発明の適用により、リンパ球の大循環系への取り込みを促進して、循環系を介して全身に展開されるリンパ球数を増大させ、免疫力を高める効果を期待することができる。
【0011】
リンパ輸送の停滞によって脂肪細胞が肥大化するメカニズムが明らかにされている。
消化物のうち、脂肪分解産物の脂肪酸やグリセリンは小腸のリンパ管に吸収されるが、リンパ液に含まれる脂肪成分が、リンパ輸送が停滞している全身の各部位のリンパ管壁を透過し、組織間隙に漏出して周囲の脂肪細胞を浸潤することが、該当する部位の脂肪細胞肥大化の原因であり、皮膚組織では皮膚の弛みの原因とされている。
本願発明は、能動的な腹式呼吸によって全身のリンパ流を穏やかに促進し、マッサージ部に於ける間欠的で、低圧で等圧的なマッサージによって、脂肪細胞周囲に漏出した脂肪成分を含む組織液のリンパ管内への取り込みと中枢側へのリンパ輸送を促進して、当該部位の脂肪細胞周囲から脂肪成分を含む組織液を排出し、皮膚の弛みを予防する効果を期待することができる。
【0012】
腸管周囲のリンパ輸送が停滞した場合には、リンパ管液の脂肪成分がリンパ管から漏出して、腸管周囲に在る内臓脂肪細胞を肥大化させると考えられる。
本発明では、腹式呼吸の利用により、腹腔内の腸リンパ本幹から乳び槽を経て胸管に至るリンパ輸送を、生理的に促進する呼吸循環機能の活用が可能であることに加え、横隔膜をはじめ腹部周囲の諸筋群を周期的に能動的に収縮弛緩させることから、腹部リンパ管の蠕動運動を促進して、腹腔内の組織液のリンパ管内への取り込みと、胸腔へのリンパ輸送を促進して、腹部脂肪細胞の肥大化を抑制し、内臓脂肪量の増大を抑制する作用効果を期待することができる。
さらに、内臓脂肪量と脂肪肝の程度とは、相関のあることが知られていることから、本発明の積極的な適用によって、能動的に内臓脂肪量を減少させ、脂肪肝を改善、予防する効果を期待することができる。
【0013】
本願発明を用いる腹部のマッサージでは、横隔膜を弛緩させ、腹腔内圧を減少させる呼息相への移行ポイントにて、腹部に装着したマンシエットの圧力を上げ始めることから、マンシエット圧が腹腔を構成する筋群と組織の緊張力を上回った場合、腹腔内で生じる圧力減少を打ち消すように作用するため、マンシエットの最大圧を、ポンピング作用が生じる範囲で低く設定することが望ましいと考えられる。
一方、マンシエットが皮膚組織のリンパ管や細静脈を圧迫してポンピング作用を及ぼすには、10mmHg〜15mmHg/cmの圧力で効果を生じることから、任意に設定するマンシエットの最大圧を10〜15mmHg/cmの範囲の中で設定することで、腹部を含む皮膚組織の効果的なリンパマッサージが可能である。これによって、皮下脂肪組織を含む皮膚組織の脂肪細胞の肥大化を抑制し、皮膚の弛みを予防する効果を期待することができる。
【0014】
リンパ輸送の停滞によって皮下脂肪細胞が肥大化し、皮膚の弛みとなることが知られている。
本発明では、生体に対するマッサージ刺激の作用部がマンシエットであることから、顔面用のマンシエットや、腹部用や臀部用のマンシエット等、適用部位に応じた形態と面積のマンシエットの製作が容易であり、柔軟で等圧的な圧迫刺激を身体の各部の皮膚に適用することが容易である。
【0015】
眼窩部と鼻口唇部を開けた顔面用のマンシエットを顔面に装着して、吸息相への移行期にてマンシエットの昇圧を開始し、呼息相への移行期にてマンシエットを減圧する、呼吸相に同調する圧迫式マッサージを行うことにより、顔面部から静脈角を経由して胸腔に至る経路のリンパ輸送を、促進することができる。
これによって、顔面皮膚の脂肪細胞の肥大化や弛みを予防する効果を期待することができる他、負荷する刺激がエアーポンプを用いたマンシエットの空気圧であり、且つ、皮膚に対する等圧の垂直圧であるため、皮膚の繊維構造を傷害する恐れを有した、皮膚組織内で水平方向に働くズレ力や、ネジレ力が発生しないことから、顔面皮膚の弾性率が低下する恐れの少ない、安全性の高いマッサージである特徴を有している。
リンパ管の1分間当たりの収縮回数は血管の脈動数の約1/15であり、本発明も、リンパ輸送に適した低頻度の周期による圧迫式マッサージである。従って、顔面皮膚のリンパ輸送を安全に促進して、皮膚組織の代謝を改善し、顔面皮膚の老化を予防する効果を、長期に渡って安心して期待することができる。
【0016】
腹部あるいは臀部にマンシエットを装着して、吸息相から呼息相へ変化した移行ポイントをマンシエットの昇圧開始ポイントとする、呼吸相に同調した圧迫式マッサージを行うことにより、被マッサージ部皮膚の脂肪細胞の肥大化を予防して、体形の劣化を予防する効果を期待することができる。
一方、顔面部にマンシエットを装着してマッサージを行う場合には、吸息相への移行ポイントをマンシエットの昇圧開始ポイントとするものである。
【0017】
リンパ管は弁を有していて、通常は、それぞれの分節がそれぞれのリズムで緩やかな蠕動運動を行っていることから、マンシエットによる圧迫刺激を行うことで、リンパの輸送経路の上流から下流に至る圧力勾配を、直ちに直管的に生じさせることができるものではない。しかしながら、静脈弁やリンパ管内の弁は圧力に受動的に作動することから、本発明による呼吸リズムに同調した圧迫作用を繰り返し及ぼすことで、上流から下流への弁による整流作用が繰り返し生じて、静脈血やリンパの上流から下流への輸送を促進することができる。
【0018】
本発明では、腹式呼吸を行うことで体形の劣化等を予防する、美容への作用効果を期待することができることから、腹式呼吸を行うモチベーションを高くできる効果があり、美容を目的として、どの部位のマンシエットを用いたマッサージを行っても、腹式呼吸の健康に及ぼす生理的作用効果を享受することができる。
従って、本発明は、美容と健康に良い生理的マッサージシステムである特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例の、充電式バッテリーと電源スイッチで成る電源部を除く電気回路の構成要素と、エアー回路を示すブロック図である。
図2】本発明実施例の、伸縮性ストレッチセンサー部の模式図である。
図3】本発明実施例の、顔面用マンシエットの模式図である。
図4】本発明実施例の、腹部用マンシエットと装着時の模式図である。
図5】本発明実施例の、臀部用マンシエットと装着時の模式図である。
図6】本発明実施例の、CPUが行う処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図1図6に基づいて説明する。
【0021】
図1においては、充電式バッテリーと電源スイッチで成りCPUと各部に電源を供給する電源部を除いた、電気回路の構成要素とエアー回路を示すブロック図であり、STARTキーとSTOPキーとマンシエットの最大圧を任意に設定する最大圧設定キーとマンシエットの装着部位が上半身であるか下半身であるかを入力する装着部位選択キー等を備えた操作部を有するCPUと、伸縮性ストレッチセンサーと腹囲検出回路とA/Dコンバーター1で成る腹囲検出部と、エアーポンプ制御回路とエアーポンプで成る加圧部と、電磁弁制御回路と電磁弁で成る減圧部と、圧力センサーとマンシエット圧検出回路とA/Dコンバーター2で成るマンシエット圧検出部と、マンシエットとの接続用コネクターを備えたエアーチューブで成るエアー回路とから構成されることを示すもので、加圧部と減圧部とマンシエット圧検出部は、それぞれ耐圧製のエアーチューブによって構成されるエアー回路によって繋がれていて、エアー回路はコネクターによってマンシエットと接続するものであり、操作部を有するCPUは腹囲検出部とマンシエット圧検出部と減圧部と加圧部とに接続しているものである。
【0022】
腹囲検出部は、腹囲の増減を、腹部に装着する伸縮性ストレッチセンサー(1)と接続した腹囲検出回路で検出して、腹囲検出回路から出力されるアナログ信号をA/Dコンバーター1によってデジタル信号に変換し、CPUに送信する。
圧力検出部は、エアー回路のコネクターと繋がったマンシエットのマンシエット圧を、エアー回路で繋がる圧力センサーと、圧力センサーと接続する圧力検出回路で検出して、圧力検出回路から出力されるアナログ信号をA/Dコンバーター2によってデジタル信号に変換し、CPUに送信する。
減圧部は、CPUからの制御信号に基づいて、電磁弁制御回路によって電磁弁を開き、エアー回路と繋がったマンシエットのゴム嚢内の空気を排気してマンシエット圧を下げる。
一方、マンシエット圧を上げる場合には、CPUからの制御信号に基づいて、電磁弁制御回路によって電磁弁を閉じて、エアー回路と繋がったマンシエットのゴム嚢内の空気の排気を停止する。
加圧部は、電磁弁制御回路によって電磁弁が閉じられた状態で、CPUからの制御信号に基づいて、エアーポンプ制御回路によってエアーポンプを駆動し、エアー回路と繋がったマンシエットのゴム嚢内に空気を注入して、マンシエットの圧力を上げる。
【0023】
図2においては、伸縮性のゴムに内包された伸縮性ストレッチセンサー(1)の両端に、固定具としてのマジックバンド(3)の付いたバンド(2)が装具として設置されたものであり、腹囲の増減によって伸縮性ストレッチセンサー(1)が伸び縮みし、その際の長さの変化を、リード線(4)とリード線コネクター(5)で接続する腹囲検出回路によって電気的に検知するものである。
【0024】
図3においては、マジックバンド(9)の付いた装具を有する顔面用マンシエットを示すものであり、眼窩部と鼻口唇部を開けた布製の袋(6)の中にゴム嚢(7)が収容され、ゴム嚢(7)は耐圧性のゴム製エアーチューブ(10)と樹脂製のエアーチューブコネクター(11)によって、装置本体内のエアー回路と接続するものである。
【0025】
図3は顔面用マンシエットを示すものであるが、顔面のリンパは鎖骨下静脈と内頚静脈が交わる静脈角に注ぐことから、マンシエットの装着部位が上半身であることを操作部の装着部位選択キーからCPUに入力することで、胸腔内が降圧する吸息相にてマンシエットの加圧が行われるよう、マンシエットの加減圧のタイミングの設定が自動的に行われる。
【0026】
図4においては、腹部用マンシエット(18)と、その装着時の状態を示しており、布袋(12)内のゴム嚢(13)は腹部にのみ適用される大きさである。
伸縮性ストレッチセンサー(1)と腹部用マンシエット(18)は、それぞれマジックバンド(3)、(14)によって腹部に装着されるものである。
【0027】
図5においては、臀部用マンシエット(25)と、その装着時の状態を示しており、布袋(19)内のゴム嚢(20)は左右の臀部にのみ適用されるものである。
【0028】
図6においては、CPUによる処理の流れを示しており、以下、図に基づいて説明する。
【0029】
操作部のSTARTキーが押された後で、上半身にある顔面のマッサージを目的として、吸息相への移行期でマンシエットの加圧を開始するか、または、下半身にある腹部、あるいは臀部のマッサージを目的として、呼息相への移行期でマンシエットの加圧を開始するかを、操作部に備わっている装着部位選択キー(上/下)から入力してCPUに送信する。
送信された信号を受けて自動的に、吸息相への移行期でマンシエットの加圧を開始する(い)、あるいは呼息相への移行期でマンシエットの加圧を開始する(ろ)、へと分岐する。
分岐後、マンシエットの最大圧(K1)を10〜15mmHg/cmの範囲で、任意に設定して操作部の最大圧設定キーから入力しCPUに送信した後は、STOPキーが押されてCPUの処理が終了に移行するまで、マッサージのための処理がフローチャートに従って繰り返えされる。
【0030】
以下、下半身部に在る腹部あるいは臀部のマッサージを行う場合を例にして、呼息相への移行期でマンシエットの加圧を開始する処理(ろ)について、処理の流れに基づいて説明する。
* 変数Aと変数Bに0を代入して、それぞれの変数を初期化する。
* 腹囲検出部から腹囲のデータを取り込んで変数Aに代入する。
* 0.25秒待つ。
* 腹囲検出部から腹囲のデータを取り込んで変数Bに代入する。
* AとBの大小関係を比較して、B=Aならば、即ち、腹囲に変化が無い場合には、腹囲の検出に戻って同様な処理を繰り返す。
* B≠Aの場合、次に進む。
* AとBの大小関係を比較して、BがAよりも小でない場合、即ち、腹囲が大きくなる場合には吸息相と判断し、▲C▼の減圧処理エリアに飛ぶ。
* BがAよりも小の場合、即ち、腹囲が小さくなる場合には呼息相と判断して、▲a▼のエリア内に在る次の加圧処理に進む。
* 電磁弁が開いているか否かを判別する。
* 電磁弁が開いている場合hs電磁弁を閉じて次に進む。
* 電磁弁が開いていない場合には電磁弁を閉じる処理を省略して次に進む。
* エアーポンプが駆動中であるか否かを判別する。
* エアーポンプが駆動されていなければ、エアーポンプを駆動して次に進む。
* エアーポンプが駆動中であれば、エアーポンプの駆動処理を省略して次に進む。
* 変数MPに0を代入して変数MPを初期化する。
* マンシエット圧検出部からマンシエット圧のデータを取り込み変数MPに代入する。
* 予め設定したマンシエット圧の最大値K1と、マンシエット圧MPを比較して、K1とMPが等しい場合には、改めてマンシエット圧の測定に戻る。
* K1≠MPの場合には次に進む。
* MPとK1を比較して、MP>K1でない場合、即ち、マンシエット圧が設定値を超えていない場合には、エアーポンプの駆動によるマンシエットの加圧を続けながら、腹囲の測定に戻り、同様な処理を繰り返す。
* MP>K1である場合、即ち、マンシエット圧が設定値を超えた場合には、エアーポンプの駆動を停止して▲b▼のエリアの処理に進む。
* ▲b▼では腹囲を測定しながら、呼息相の間は、マンシエット圧を維持しながら腹囲の連続的な測定を繰り返して、吸息相に移行するまで待機し、呼息相に移行したならば▲c▼のエリアの処理に進む。
* ▲c▼では、エアーポンプの駆動状況が、駆動中であればエアーポンプの駆動を停止し、駆動中でなければエアーポンプを停止させる処理を省略して、それぞれ次に進む。
* 電磁弁の開閉状況を判別して、閉じていれば電磁弁を開いてマンシエット内の空気を排気し、閉じていなければ電磁弁を開く処理を省略して、それぞれ次に進む。
* B<Aでない場合、即ち、呼息相でない場合には吸息相であるため、エアーポンプを停止して加圧を中止し、ゴム嚢内の空気を排気してマンシエットを減圧した状態のまま、腹囲の連続的な測定を繰り返しながら待機し、呼息相に移行したならば最初に戻り、STOP信号を受信するまでマッサージを行う処理を繰り返す。
【0031】
顔面のマッサージでは、マンシエットの装着部位が上半身であることから、装着部位選択キーから上半身を選択して入力することにより、(い)のフローチャートに基づいて吸息相でマンシエットを加圧する処理が自動的に行われる。
【0032】
腹囲の測定に0.25秒の間隔を取るのは、体動や呼吸のブレ等による短時間のイレギュラーな体表面の変動が、呼吸相の判別に影響することを防ぐ目的であり、必ずしも、待機時間の設定や、待機時間を0.25秒とすることにこだわるものではない。
【0033】
本実施例では、マンシエットの加圧装置としてエアーポンプを用いているが、コンプレッサーを利用することも可能である。
【0034】
リンパ輸送の促進には筋肉マッサージのような大きな圧力が適当ではないため、マッサージを開始する際に、マンシエットの最大圧を10〜15mmHg/cmの範囲で任意に設定し、操作部の最大圧設定キーから入力してCPUに送信し、マンシエット圧が設定値を超えないように、マンシエットと接続した圧力センサーと、圧力センサーと接続した圧力検出回路と、圧力検出回路と接続したA/Dコンバーターによって、マンシエットのゴム嚢内の圧力情報を連続的にCPUに送信し、マンシエット圧が設定値を超えた場合には、加圧装置であるエアーポンプの駆動を停止させる処置を、フローチャートに基づいてCPUの指令によって行うものである。
【符号の説明】
【0035】
1.伸縮性ストレッチセンサー
2.バンド
3.マジックバンド
4.リード線
5.リード線コネクター
6.布袋
7.ゴム嚢
8.バンド
9.マジックバンド
10.ゴム製エアーチューブ
11.エアーコネクター
12.布袋
13.ゴム嚢
14.マジックバンド
15.マジックバンド折り返し用金具
16.ゴム製エアーチューブ
17.エアーコネクター
18.腹部用マンシエット
19.布袋
20.ゴム嚢
21.マジックバンド
22.マジックバンド折り返し用金具
23.ゴム製エアーチューブ
24.エアーコネクター
25.臀部用マンシエット
【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、健康に有益な作用を有し、胸腔や腹腔に呼吸相に同調した周期的な圧力変動を生じる腹式呼吸を美容マッサージに利用することにより、健康と美容に共に益するリンパマッサージシステムの開発を目的とするもので、皮膚組織のリンパ輸送の促進と、全身のリンパ流の促進を課題とするものである。
【解決手段】本発明では、伸縮性のストレッチセンサーによる腹囲のモニターから腹式呼吸の呼吸相を判別して、呼吸相の変化時点を体腔内圧の変化時点と判断し、体腔内圧の降圧相で体腔に近位の被マッサージ部を、最高圧が10〜15mmHg/cm2の範囲で、間欠的で等圧的な圧迫を呼吸相に同調させて繰り返すことを手段とするものである。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6