特許第6894095号(P6894095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894095
(24)【登録日】2021年6月7日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】鋼材構造物の締結構造及び締結方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 33/06 20060101AFI20210614BHJP
   C23F 15/00 20060101ALI20210614BHJP
   F16B 43/00 20060101ALI20210614BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20210614BHJP
   C23C 4/129 20160101ALI20210614BHJP
【FI】
   F16B33/06 Z
   C23F15/00
   F16B43/00 Z
   F16B5/02 U
   C23C4/129
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-62226(P2018-62226)
(22)【出願日】2018年3月28日
(65)【公開番号】特開2019-173863(P2019-173863A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】591210600
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391033724
【氏名又は名称】シーケー金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512047483
【氏名又は名称】株式会社新免鉄工所
(73)【特許権者】
【識別番号】593232480
【氏名又は名称】日鉄ボルテン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】米田 達則
(72)【発明者】
【氏名】街道 浩
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】大野 克紀
(72)【発明者】
【氏名】大橋 一善
(72)【発明者】
【氏名】新免 僖秀
(72)【発明者】
【氏名】葭本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】吉見 正頼
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−099144(JP,A)
【文献】 特開2013−024333(JP,A)
【文献】 特開昭52−039057(JP,A)
【文献】 特開昭52−134965(JP,A)
【文献】 特開2017−101718(JP,A)
【文献】 特開2013−173983(JP,A)
【文献】 特開2010−276124(JP,A)
【文献】 特開平05−171491(JP,A)
【文献】 特開2010−070851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 33/06
C23F 15/00
F16B 5/02
F16B 43/00
C23C 4/129
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材をボルト及びナットで締結する締結方法であって、
ボルトは溶融亜鉛メッキ処理後に頭部側を金属溶射し、ねじ部側を防錆処理してあり、
ボルトの頭部側に位置するボルト側座金は溶融亜鉛メッキ処理後に金属溶射してあり、
ナットは溶融亜鉛メッキ処理後にナット側座金との接触面に潤滑処理し、その後に防錆処理をしてあり、
ナット側座金は溶融亜鉛メッキ処理に防錆処理してあり、
前記ボルトを前記ボルト側座金を介して締結される鋼材の締結孔に挿入し、ボルトの先から前記ナットを前記ナット側座金を介して締め付けることで鋼材を締結した後に前記ナット側の露出部を金属溶射することを特徴とする鋼材構造物の締結方法。
【請求項2】
前記ナット側の露出部を金属溶射する溶射ガンは狭隘部用のフレーム溶射ガンであって、
溶射面に対する溶射角度30°以下、溶射距離2〜5cmの範囲で溶射可能であることを特徴とする請求項記載の鋼材構造物の締結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁等の長期間にわたって防錆が要求される鋼材構造物の締結構造及びその締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の構造物に用いられる鋼桁等においては長期間にわたって防錆が要求されている。
そこで、NETIS登録番号:QS−040005の新技術報告では、塗装による防錆または、溶融亜鉛めっきによる犠牲防食よりも長期防錆機能を有する防錆方法として、鋼材に溶射材を用いて表面に溶射膜を被覆することを開示する。
しかしながら、せっかく鋼材本体を長期防錆してもボルトに溶射膜が被覆されていないために接合部が腐食し、赤錆が発生するという問題があった。
そこで本出願人らは、先に長期防錆に優れた接合構造体(特許文献1)、及びそれに適したフレーム溶射ガン用エクステンション(特許文献2)を提案している。
本発明は、それらを組み合せることで施工性に優れ、長期防錆を可能にすることを目的にされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−99144号公報
【特許文献2】特開2013−173983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、現地での締結作業及び金属溶射性に優れ、長期防錆が可能な鋼材構造物の締結構造及びその締結方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る鋼材構造物の締結構造は、鋼材をボルト及びナットにて締結した締結構造であって、締結部は締結される鋼材と、鋼製のボルト、ボルト側座金、及びナット、ナット側座金で構成され、前記ボルト及びボルト側座金は溶融亜鉛メッキ層とその上に形成した金属溶射皮膜層をボルトの頭部及びボルト側座金に有し、前記ナット及びナット側座金は溶融亜鉛メッキ層と、その上であってナットとナット側座金との接触面の一方に潤滑材層を有し、前記ナット側の露出部は前記溶融亜鉛メッキ層の上に形成した金属溶射皮膜層を有することを特徴とする。
【0006】
ここでボルト及びナットは、六角高力ボルト等の鋼製ボルトである。
ボルト側座金とは、ボルトとナットで締め付ける際にボルトの頭部の根元側に位置する座金をいい、ナット側座金とは締め付ける際にナット側と接触する座金をいう。
また、ナット側の露出部とはボルトとナットで鋼材を締結した後に外部に露出するナットの表面,ボルトの先端側のねじ部,ナット側座金の露出部分をいう。
【0007】
本発明に用いる潤滑材層とは、例えば金属石鹸等、塗布,ディッピング後に潤滑性を有するものをいい、ナット側座金とナットの接触面にこのような潤滑材層を有することで締結時にナットを回して締め込む際に接触面がこすれるときの摩擦係数を所定以内に抑えることができる。
【0008】
本発明において、ナット側の露出部に形成される金属溶射皮膜は施工現場にて溶射することで、形成される。
その溶射ガンについては後述する。
【0009】
本発明において、溶融亜鉛メッキ層は含有するPb,Cd,Sn及びBi成分の合計量が0.16質量%以下で残部がZnからなるのが好ましい。
これにより、特許文献1に詳細に開示されているとおり、溶射熱による含有成分のガス化を抑え、金属溶射皮膜の密着性が優れる。
【0010】
本発明において、溶射皮膜層はAl−Mg系合金又はZn−Al系合金からなるのが好ましい。
例えば、5%MgのAl−Mgワイヤー,15%AlのZn−Alワイヤー等が例として挙げられる。
【0011】
本発明に係る鋼材構造物の締結方法は、鋼材をボルト及びナットで締結する締結方法であって、ボルトは溶融亜鉛メッキ処理後に頭部側を金属溶射し、ねじ部側を防錆処理してあり、ボルトの頭部側に位置するボルト側座金は溶融亜鉛メッキ処理後に金属溶射してあり、ナットは溶融亜鉛メッキ処理後にナット側座金との接触面に潤滑処理し、その後に防錆処理をしてあり、ナット側座金は溶融亜鉛メッキ処理に防錆処理してあり、前記ボルトを前記ボルト側座金を介して締結される鋼材の締結孔に挿入し、ボルトの先から前記ナットを前記ナット側座金を介して締め付けることで鋼材を締結した後に前記ナット側の露出部を金属溶射することを特徴とする。
防錆処理とは、化成皮膜処理等にて溶融亜鉛メッキ表面の酸化を防止するためのものである。
【0012】
ここで、ナット側の露出部を金属溶射する溶射ガンは狭隘部用のフレーム溶射ガンであって、溶射面に対する溶射角度30°以下、溶射距離2〜5cmの範囲でも溶射可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ナットとナット側座金の接触面に金属石鹸等による潤滑材層を形成したことにより、ナットを締め付ける際に所定の締め付け力が得られる。
また、溶融亜鉛メッキ処理後にクロム系,ノンクロム系等の溶液を用いて化成処理し、酸化防錆処理を行うことで、溶融亜鉛メッキ処理後30〜180日等の長期にわたった場合にあっても締結後に密着性に優れた金属溶射皮膜を形成することができる。
これにより、金属溶射直前のブラスト処理を行うことなく屋外の架設現場でも溶射が可能になる。
さらには、後述する狭隘部用のフレーム溶射ガンを用いると、不必要な箇所を除き必要としている部分だけに集中して溶射できるので、溶射材料の無駄な消費を抑え、歩留まりを向上させることができるとともに、ナット側露出部に溶射する際に、その周囲にいわゆる溶射ダストが発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ボルト,座金,ナットの表面処理の構成例を示す。
図2】(a)に鋼材構造物の締結例を示し、(b)に締結部の分解図を示す。
図3】ボルト,ナットにて締結後の状態を示す。
図4】(a)はフレーム溶射ガンの例を示し、(b)は部分拡大図を示す。
図5】エクステンション部分の構造図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る締結方法及びその構造例を以下図に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0016】
図2に鋼桁の締結例を示す。
桁のウエブやフランジ部50を両側の添接板51を介して、ボルト,ナットにて締結した例である。
その締結部の分解図を図2(b)に示す。
ボルト10にボルト側の座金20を装着し、鋼材に有する締結孔に通し、ボルト10の先端側からナット側座金30を取り付け、さらにナット40にて締め付けることになる。
【0017】
ボルト,ナット類の仕様を図1に示す。
六角高力ボルト等のボルト10は、全体を溶融亜鉛メッキによるメッキ処理(1)を行い、表面にメッキ皮膜1を形成する。
次にボルト10の頭部10a及び胴部等のねじ部10b以外の部分は、ブラスト処理後に金属溶射(2)を行い、溶射皮膜2を形成する。
溶射皮膜2は、通常実施されている封孔処理を行う。
ねじ部10bは、軽くスイープブラストを行い、クロメート処理,ノンクロムタイプの化成処理等の防錆処理(3)を行い、防錆皮膜3を形成する。
これにより、現地で工期に合せて使用するまでの30日〜180日の長期保存が可能である。
【0018】
ボルト側座金20は、溶融亜鉛メッキ処理(1)し、次に金属溶射を行う。
【0019】
ナット側座金30は、同様にメッキ皮膜1を形成した後にスイープブラストを行い、防錆処理(3)を行う。
【0020】
ナット40は、同様にメッキ皮膜1を形成後にナット側座金30との接触面に潤滑処理(4)を行い、金属石鹸等の潤滑皮膜4を形成する。
この潤滑皮膜4を形成する方法としては、この接触面に部分的に塗布してもよく、またディッピング等により、ナット全体に潤滑皮膜4を形成後に上記接触面及び内側のねじ部以外をスイープブラスト等にて、この潤滑皮膜4を除去してもよい。
また、接触面に潤滑皮膜4を形成する前に潤滑材が付着しやすいように、スイープブラストを行ってもよい。
ナット40は、その後に防錆処理(3)を行い、保存することができる。
【0021】
これらのボルト,座金,ナットを用いて、鋼材を締結した状態を図3に示す。
ナット40,ボルト10のねじ部10b,ナット側座金30は、この時点で金属溶射皮膜が形成されていない。
そこで、図3にて点線で示したナット側の露出部を狭隘部用の溶射ガンを用いて、周囲に溶射ダストの発生するのを抑えつつ、溶射皮膜2を形成する。
溶射皮膜2を形成後は、通常行われている封孔処理をする。
次に、溶射ガンの構造例を説明する。
図4(a)に、ガン100の全体図、図4(b)に先端部分の拡大図を示す。
図5にエクステンション110の構造例を示す。
エクステンション110の連結部119をガン本体の内側に差し込み、ジョイント部材120を用いてガン本体に、めねじ部120aにて螺着する。
ジョイント部材120の先のおねじ部120bにはエクステンションパイプ111の後端側のめねじ部111aにて螺着できるようになっている。
本実施例では、外径約27mmのエクステンションパイプの内側であって、溶射線材Mを送り込むためのワイヤー用パイプ112を中心に配置し、その両側に燃料ガスを通すための燃料導管114と酸素ガスを通すための酸素導管113を並行に配設した。
燃料導管114と酸素導管113の先端部は、混合部115に連結してある。
混合部115の先端にノズル117をノズルナット116で取り付け、このノズルナット116の先端段差部にエアーキャップ118の後端部を押し付けるようにしてエクステンションパイプ111の先端内側突部111bでエアーキャップ118の後端外側段差部を締め付けるように、エクステンションパイプ111の後端をジョイント部材120に螺着する例になっている。
【0022】
これにより、このようなフレーム溶射ガンは、エクステンション110の先端部にて、酸素と、アセチレンガス等の燃料ガスがミキシングされ、エクステンションの先端部に設けたエアーキャップ118のエアーの流れにより、燃焼フレームFが形成される。
これにより、小さい燃焼炎にて線径2〜3mmの金属溶射ワイヤーMを充分に溶融できる。
熱エネルギーが小さいため、溶射距離を2〜5cmの短い距離に設定できる。
また、溶射面に対して、30°以下,10〜20°の小さい溶射角度であっても、密着力の強い溶射皮膜が形成される。
【符号の説明】
【0023】
1 メッキ皮膜
2 溶射皮膜
3 防錆皮膜
4 潤滑皮膜
10 ボルト
20 ボルト側座金
30 ナット側座金
40 ナット
図1
図2
図3
図4
図5