特許第6894218号(P6894218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894218
(24)【登録日】2021年6月7日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20210621BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   A41D13/11 H
   A62B18/02 C
   A41D13/11 D
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-229653(P2016-229653)
(22)【出願日】2016年11月28日
(65)【公開番号】特開2018-87387(P2018-87387A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年8月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年9月1日森川産業株式会社柏チェーンセンターにおいて販売
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白武 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】竹内 政実
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−125494(JP,A)
【文献】 特開2007−135801(JP,A)
【文献】 特開2008−125657(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3124262(JP,U)
【文献】 特開2015−051135(JP,A)
【文献】 特開2008−220528(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111419(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101626810(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/11
A62B 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の鼻梁から口もとを覆うため、折り線で2つに折り畳まれる面体と、該面体の両側端に取り付けられた耳掛け部と、該耳掛け部に設けられた耳掛け穴を有するマスクにおいて、該面体は摩擦帯電不織布、又は摩擦帯電不織布に吸湿発熱機能を付加した濾材を含み、該耳掛け穴の面体側の端部から前記面体までの頬接触領域に相当する前記耳掛け部の通気度が、前記面体の通気度に較べて低く、かつ前記頬接触領域に相当する耳掛け部の剛性が、前記面体の剛性に較べて低いことを特徴とするマスク(ただし、前記面体の下部に設けられた、フラジール形法による通気度が2cm/(cm・s)以下であるシート部材により構成され、着用者の下あごの先端部を収容する空間を形成する下部ポケット部を有するマスクを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種々の感染症予防に用いて好適なマスクに関するものであり、着用者の呼吸、特に吸気への外気混入を防ぐことが可能なマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会生活の多様化による国内外の往来が活発化し、気候の急激な変化もあいまって、インフルエンザを始めとする種々の感染症に対する関心が高まっている。実質的に早期免疫獲得に乏しい感染症の流行が増加する傾向であり、既に感染した患者に留まらず、予防のためのマスク装着習慣が定着しつつある。マスクの形態も多種多様なものが提案されており、目や口を覆う面体としてガーゼや不織布が多用され、顔面の上下方向に展開可能な複数のプリーツを設けて濾過面積を大きくとり、顔面の左右方向にゴム紐などを取り付けたもの、面体の両側に例えば伸縮性不織布からなる耳かけを備え、顔面の左右方向の対称軸に沿って2つ折りが可能なものなどが知られている。
【0003】
マスクの装着習慣が定着した現在では、着用者が日常生活の中でマスクを装着することによる不具合を改善するための工夫がなされるようになってきた。その一例として、特開2007−61585号公報(特許文献1)では、マスク本体に耳かけ紐を取り付けた形態を例示し、メガネを掛けた着用者の利便性を改善する技術が提案されている。この文献技術では、通気可能なマスク本体(本明細書では、以下、面体と称する)に、紐状の耳掛けを取り付けたマスク形状であって、面体の内側に、薄膜状で空気を通さないか又は通し難い素材からなる薄片を備える構成を提案している。また、この薄片は、その上縁のみを面体と固着し、下縁が鼻孔を完全にふさがない程度の縦幅、並びに、横幅はマスク全幅以下とすると共に、当該薄片の下縁から上縁に向かって複数の切れ目を入れるとの記載がある。この切れ目は、マスクを装着した際に、薄片が鼻の背(以下、本明細書では鼻梁と称する場合がある)に密着することで呼気(以下、排気と称する)の漏れを防ぎ、メガネの曇りを防止し得ると開示されている。
【0004】
また、この特許文献1のように、面体が平面的なガーゼマスク、またはプリーツマスクと称される形態に加えて、顔面の左右方向に広げて用いる「2つ折りマスク」或いは「立体型マスク」と称される形態のマスクも広く普及している。その一例として特開2001−245998号公報(特許文献2)には、着用者の口もとに対する面体(覆い部)と、この面体の対向両側から後方へ延びる耳掛け部とからなるマスクであって、この耳掛け部が伸長性を有する繊維からなる伸長層と弾性伸縮性を有する弾性層とを積層一体化してなる弾性伸長可能な複合シートからなる構成が開示されている。この耳掛け部を構成する弾性層として熱可塑性合成樹脂のエラストマーやウレタン弾性糸を使用した不織布、織布、不定形の繊維ウエブ等、或いはフィルムが例示され、伸長層としてはポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性合成樹脂からなる不織布、織布、不定形の繊維ウエブ等の形態で上述した弾性層に接合される。この技術によって、マスク着用者が耳掛け部の長さ調節を行うことができ、着用感に優れたマスクを実現し得ると記載されている。この形態のマスクでは、面体が鼻根から口もとに沿った方向を軸として折り畳むことが可能であるため、所謂、鼻金を設けない場合であっても、前述したメガネの曇りを防止することが可能である。
【0005】
このようにマスクの形態として様々なものが提案されており、着用者の付け心地に加え、より優れた本来のマスク性能である濾過機能が追求されるようになってきた。その一例として、特開2015−217142号公報(特許文献3)では、不織布で構成され、少なくとも口を覆う面体(覆い部)と、この面体の両端部であり、しかも上下端部に固定された一対の耳掛け部とを有し、この面体の着用者側の両端部側から中央に向かって延在するように、一側部が前述の面体に固定された帯状体からなる漏れ防止部を設けた構成のマスクが提案されている。具体的な態様として、面体はプリーツ加工され、漏れ防止部は、概ね面体の上下寸法に相当する帯状の不織布に折返しを設ける構造となっており、上述したプリーツ形状を固定し、かつ装着者の頬に接触する左右端部に固定される構成が開示されている。この漏れ防止部は、例えば面体の左右端の各々で面体の中央部分に開口を持つポケットのような構造を採っており、面体のプリーツ形状と協働して立体的なマスク形状を実現している。係る構成を採用することによって、漏れ防止部は、面体に取り付けた接顔体のような機能を持ち、例えば目付が30〜40g/m程度の不織布とすることで柔軟であり、面体の左右端に漏れ防止部が面体中央に向かって延在するように側部溶着部を設けることで当該部に剛性を付与する構成であるため、マスクと頬とを密着させ得ると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−61585号公報([特許請求の範囲]、[0018]、[図1]など)
【特許文献2】特開2001−245998号公報([特許請求の範囲]、[0014]、[図1]、[図2]など
【特許文献3】特開2015−217142号公報([特許請求の範囲]、[0007]、[0029]〜[0042]、[図2]など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した背景技術からも理解できるように、面体周縁で生じる漏れに対応するため、面体の上下の端部、或いは左右の端部近傍に種々の構成成分を配設し、着用者に対するマスクの密着性を高めて、より有効なマスク機能を実現できるように工夫されている。とりわけ特許文献3では、特許文献1と同様なプリーツ型マスクを例示しており、帯状の漏れ防止部を面体に取り付け、装着時に面体が袋状又は箱状となるように構成する、密着性向上に有効な技術であることが見て採れる。しかしながら、この特許文献3の技術を適用したマスクでは、面体に漏れ防止部を取り付け、かつゴム紐などを用いる耳掛け部の取り付けという複雑な工程を経なければならず、高度な加工技術を要するという問題がある。加えて、当該技術の構造的な利点として装着者の頬に密着する点が挙げられるが、マスク使用時の具体的な検証はなされていない。
【0008】
また、特許文献2に代表される2つ折りマスクでは、マスクの左右対称の軸となる内外側縁(以下、本明細書では単に「折り線」と称する)が鼻金の機能を兼ね、着用者の鼻梁に沿った形状とすることができ、少なくとも上方向の排気漏れを低減し得る。さらに、この形態のマスクでは面体と耳掛け部との双方を不織布などの素材で構成することができるため、メガネの曇り防止に有効となり、しかも加工が容易である。しかし、面体の左右端部に相当する位置に耳掛け部と、特許文献3に提案される「漏れ防止部」との双方を取り付けるためには、やはり高度な加工技術を要し、しかも吸気時の外気混入に対応することが難しいという問題点がある。
【0009】
本出願に係る発明者は、上述した種々の問題点を検証し、特許文献3に係る頬との密着性向上による装着者の吸気時の外気混入を防ぎ、しかも、2つ折りマスクのように優れた加工性とメガネの曇り軽減とを実現すべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。従って、この発明の目的は、簡素な構造で加工性に富み、しかもマスク着用に際し、吸気における外気混入防止機能を向上させることが可能なマスクを実現し、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的の達成を図るため、本発明の構成によれば、着用者の鼻梁から口もとを覆うため、折り線で2つに折り畳まれる面体と、この面体の両側端に取り付けられた耳掛け部と、この耳掛け部に設けられた耳掛け穴を有するマスクにおいて、この耳掛け穴の面体側の端部から前述した面体までの頬接触領域に相当する前記耳掛け部の通気度が、前述した面体の通気度に較べて低いことを特徴としている。
【0011】
また、この発明の実施に当たり、上述した頬接触領域に相当する耳掛け部の剛性を、前述した面体の剛性に較べて低くするのが好適である。
【発明の効果】
【0012】
この発明の構成を適用することにより、耳掛け部と面体との通気度を適切に選択するのみの簡素な構造で、加工性に富み、かつ耳掛け部からの、吸気時の外気混入防止機能を向上させることが可能なマスクを実現し、提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の好適例を説明するため、マスク装着時の形状を斜視的に示す説明図である。
図2】本発明の好適例として図1に示すマスクを折り畳んだ状態で示す説明図である。
図3】本発明の好適な他例を説明するため、図2と同様に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本出願に係る発明の好適形態について説明する。図1は、2つ折りマスクの装着可能な状態を斜視的に示す説明図である。例示したマスク11は、装着時の左右方向に対称な布片を接合することによって、カップ形状の面体13を構成する。図示例では、面体13の図示上下方向の所定部分で融着部15aと15bとを設けることにより、これら融着部同士の間に連続した稜線状の折り線17が画成されている。このような面体13の図示左右方向の両側端には、各々、耳掛け穴19を設けた耳掛け部21が接合部23で取り付けられる。
【0015】
上述した面体13は、従来周知の濾材と、これに積層したカバー材とを周知のポイントシール加工やホットメルトスプレー法などの通気性を損なうことが少ない技術によって調製することができる。また、いわゆる超音波融着を含むヒートシール技術で各融着部15a、15b或いは接合部23を接合する場合、これら素材を不織布とするのが好ましい。このような面体13を構成する濾材として、本出願人は、低圧損と高効率とを実現できる摩擦帯電不織布を特許第4659232号、或いは、この摩擦帯電不織布に吸湿発熱機能を付加した特願2016−4218号などを提案しており、係る技術による不織布を用いるのが好適である。さらに、カバー材としてはポリオレフィン、ポリプロピレンなどの熱可塑性合成樹脂で構成されるスパンボンド不織布やスパンレース不織布など、従来用いられている素材を濾材の双方の面に積層構成するのが良い。
【0016】
また、前述した耳掛け部21を構成するに当たり、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタンなどの従来用いられている熱可塑性樹脂を不織布、織物、フィルムなどの伸縮性をもったシート状に加工して用いることができる。特に、伸縮性を付与するため、顕在捲縮繊維によるクリンプや上記熱可塑性樹脂のエラストマーを用いても良い。さらに、装着動作を容易に行うため、これら素材に前述した既知の手法で積層複合させ、前述の特許文献2の内容と同様に、加工または着用に耐えうる強度の付与や、伸縮性を調整しても良い。
【0017】
また本出願に係る発明では、面体13における通気度に較べて、耳掛け部21のうち、耳掛け穴19の面体側の端部から面体13までの頬接触領域A(後述)における通気度を低くする必要がある。この通気度とは、JIS L 1096「一般織物試験方法」などに規定されるフラジール形試験機による測定結果であり、前述した特許第4659232号の技術などを利用した場合、面体13の通気度は着用者の快適性を満たす上では300cc/cm/s以下となるのが好ましく、面体としての捕集性能を満たす上では15cc/cm/s以上とするのが好ましい。このため、耳掛け部21を構成する素材は、面体の通気度の95%以下とするのが好ましい。このような面体と耳掛け部との相対的な通気度の差によって、着用者が吸気した際に、耳掛け部の一部である頬密着領域Aが頬に密着する作用を持っているため、この通気度の差は大きい方が、より大きな効果を生じる。
【0018】
また、本発明の実施に当たり、耳掛け部21の装着前の剛性は、前述した面体の剛性に較べて低くするのが好ましい。前述した本出願人の提案する濾材で面体13を構成するのが好適であって、例えばJIS L 1096「一般織物試験方法」などに規定される45°カンチレバー法による剛軟度(以下、剛性と称する場合もある)を5cm以上、18cm以下とすることによって快適な着用と、吸気に伴う面体の形状変化を抑えることができる。これに対して、耳掛け部21の着用前の剛性は、面体の剛軟度の95%以下とすることにより、着用時の取り扱いに好ましい。さらに、前述した面体と耳掛け部とが有する数値条件として、通気性と剛性との双方を満たすことによって、マスク着用後、特に吸気時に良好な密着性が実現でき、極めて低い漏れ率を実現することが可能となる。
【0019】
次に、図2を用いて、主として耳掛け部21の形態と作用効果につき詳細に説明する。図2は、図1に示したマスクの装着前の形状を、折り線17で2つに折り畳まれた状態で平面により示す説明図である。なお、一部の符号を省略するが図1と同一の構成成分には同一の符号を付してある。既に述べたとおり、本発明のマスクは面体13と耳掛け部21とから構成されている。これら構成成分は、互いに重なった状態の略帯状である接合部23で結合固定されている。実際の装着時には、重ねられている2つの耳掛け部21の端部を各々引張り、当該部を引き延ばせて着用者の耳を耳掛け穴19に入れる。この後、着用者の耳が耳掛け穴に入った状態でマスクと顔面との相対的な位置が定まり、耳掛け部21の伸びた寸法が回復して装着を完了する。この間、装着時には耳掛け部21の剛性を前述した好適範囲とすることにより、容易に耳掛け部の端部を摘むことができる。
【0020】
一連の装着動作の間、図2に3本の一点鎖線を付した頬接触領域A並びに耳接触領域Bについての関係に着目すると、通常、耳掛け部21の側端部を含む耳接触領域Bを着用者が摘んで引っ張るため、耳接触領域Bは比較的寸法変化が大きく、頬接触領域Aの接合部23側に近づく程、寸法変化は小さい。本発明者が行った標準的な装着状態の検討結果に依れば、着用者の耳の前方(面体側)では、当該者の顔面サイズにもよるが、頬接触領域Aの寸法変化は実質的に無視できる程度の延びとなる。この検証を行うため、JIS T 8151に規定され、国家検定防じんマスクに用いられる「試験用人頭」(以下、マンヘッドと称する場合がある)を使用した場合、接合部23は面体13を構成する素材と耳掛け部21を構成する素材とが熱的に固定されているため、耳掛け部21の耳接触部側の側端をつまんで引っ張っても、接合部23を含む頬接触領域Aの寸法変化は実質的に認められなかった。
【0021】
本発明は、上述の装着動作後の頬接触領域Aに相当する耳掛け部21の通気度が、面体13の通気度よりも低いため、面体13を介して着用者が吸気する際、面体が顔面に密着するまでに頬接触領域Aの耳掛け部21が、先に頬と密着する構成となっている。これら2つの通気度の数値関係は前述の通りであるが、マスクとしての吸気抵抗などの基本性能を満たしている限り、係る作用効果を奏するには互いの大小関係が相対的に満たされていれば良い。また、上述したとおり、この頬接触領域Aにおける耳掛け部21には実質的な伸びがないため、その構成素材自体が有する通気度が装着後であっても保持され得る。この際、接合部23は、面体と耳掛け部との双方の素材が重なった状態で接合されているため、通気性はマスクの中で最も低く、剛性は最も高い構成成分であって、マスク全体の保形性に寄与することができる。
【0022】
以下、図3を参照して、本発明の他の形態について説明する。図3は、図2と同様に示す説明図であるが、この図3の形態では、図2における接合部23が、より幅の広い接合部23’として構成されている。これは、面体13と耳掛け部21とが重なった領域が耳掛け穴19に至る領域として広く採られているため、接合部23’の風合いが固くなる反面、2つの素材が重ねられた状態で接合されている。このため、頬への密着を考慮した追従性を発揮しえる程度の比較的低い剛性であるならば、呼吸のし易さに寄与しない接合部23‘の通気度を広範囲にわたって効果的に低減させることができる利点がある。
【0023】
以上、本発明の好適形態として、その理解を容易とするため、特定の形状、配置関係、数値的条件などを例示したが、これらは例示に過ぎず、本発明の目的の範囲内で任意好適に変更または変形することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例として、図2に例示したマスクの形状で評価サンプルを試作し、検討した結果について説明する。
【0025】
(面体用濾材の調製)
この実施例における面体は、以下の手順で調製した積層不織布を統一して用いた。まず、市販のレーヨン短繊維[繊度1.7デシテックス,繊維長40mm,重量組成比55%]、レーヨン短繊維[繊度1.6デシテックス,繊維長44mm,重量組成比15%]、ポリエステル短繊維[繊度1.5デシテックス,繊維長38mm,重量組成比20%]、ポリオレフィン短繊維[繊度1.7デシテックス,繊維長51mm,重量組成比10%]をカード機にかけた後、水圧9MPaで水流絡合し、目付30g/m、見掛け密度0.08g/cmのハーフマットを得た。次いで、やはりカード機によって約65g/mの摩擦帯電繊維(市販のポリプロピレン短繊維[繊度2.2デシテックス,繊維長51mm,重量組成比40%]、及び市販のアクリル短繊維[繊度2.2デシテックス,繊維長51mm,重量組成比60%])からなる繊維層を上述したハーフマットに積層し、ウエブを得た。続いて、このウエブの摩擦帯電繊維からなる繊維層側から、針番手40のクロスバーブニードルを針深さ13mm、針密度34本/cmの条件でニードルパンチ加工を行い、面体13を構成する濾材とした。
【0026】
(面体の作製並びに特性評価)
次いで、この濾材の表面材(面体の外側層相当)として、市販のポリプロピレン短繊維[繊度2.2デシテックス,繊維長51mm,重量組成比64%]、ポリプロピレン/ポリエチレンからなる芯鞘構造の短繊維[繊度3.3デシテックス,繊維長64mm,重量組成比36%]をカード機にかけた後、水圧9MPaで水流絡合し、目付50g/mとした。もう片面の吸気時下流側の表面材(面体の内側層相当)として、市販のポリプロピレン/ポリエチレン製の芯鞘型複合繊維から成るスパンボンド不織布(目付30g/m)を配置した。この面体の平板での通気度をフラジール形試験機で測定したところ、150cc/cm/sであった。また、この面体の剛性を45°カンチレバー法で測定した結果、15cmであった。本実施例で検証したマスクでは全てのサンプルに、この面体を統一して用いた。
【0027】
(耳掛け部用の各素材調製)
まず、実施例1に係る耳掛け部用の素材aとして、ポリウレタン樹脂からなるメルトブロー不織布(目付20g/m)と、ポリエステル短繊維のスパンレース不織布(目付30g/m)とをポイントシール加工(直径1mmの円形状,シール密度16個/cm)により貼り合わせた。また、実施例2に係る素材bは、上述した素材aの頬接触領域Aに相当する部分に市販の両面テープ『プロセルフ一般用両面テープS』((株)ニトムズ製,商品名)を貼り、素材の剛性に実質的な変化を来すことなく、貼付部分のみを非通気性とした。さらに、比較例1では、上述した素材aの頬接触領域Aにのみ直径1mmの針を用いて針密度1個/cmで針穴を開け、通気性に富む素材cを用いた。比較例2の素材dは、素材aの頬接触領域Aに布製テープ『布テープ』(販売元アスクル(株),商品名)を貼付し、非通気性であり、かつ、高剛性とした。また、作製方法及び構造については後に述べるが、参考例として、素材aからなる帯状の部材を接合部から面体にわたる構成成分として接合し、前述した特許文献1の「漏れ防止部」に類似する部分を配設した。この際の耳掛け部の構成素材としては実施例1と同じ素材aを使用した。
【0028】
(マスクサンプルの作製)
上述した各種の面体並びに素材を組合せ、マスク形状に仕上げた。具体的には、調製した面体用の濾材並びに表面材等を重ねて2つ折りにし、この間に前述した接合部23の幅に相当する寸法だけ2枚の耳掛け部用の素材(前述)を挟み込んだ状態で超音波溶着機により溶着接合し、融着部15a並びに15bと接合部23とを同時に形成した。さらに、耳掛け穴とマスクの概形形状を有する打ち抜き型で裁断し、各マスクサンプルを得た。作製したマスクの寸法形状は、面体と耳掛け部との接合部の高さが6.0cm、また、頬接触領域Aのうち、接合されていない耳掛け穴までの距離が1.5cmとなるように統一して設計した。この接合部の高さは標準的な耳の高さとして選定した数値条件である。
【0029】
(マスクサンプルの評価測定)
これら、各面体並びに各素材の平板での通気度並びに剛性などの評価測定結果と構成とを表1に示す。尚、表1では、図2に示した耳掛け部21を頬接触領域Aと耳接触領域Bとに分け、各々の素材構成を示すと共に、耳接触領域Bを装着するために摘んで所定長に引き延ばした後に形状復帰した状態で通気度並びに剛性について評価測定を実施した。この所定長とは、前述したマンヘッドに装着する際に必要な伸張寸法であり、耳掛け部の実寸75mmに対して25mm伸張させ、統一して100mmにまで引き伸ばした。さらに、このマンヘッドに装着した各マスクの漏れ率を『労研式マスクフィッティングテスター M−03型』(柴田化学株式会社製,商品名)で計測した。この測定機器では、マスクの外と内での大気塵ダスト個数をモニタリングし、大気塵ダストの個数比率を求めて漏れ率をパーセントで算出した。従って、大気塵ダストを含む外気が、マスクの面体層を通過しマスク内に流入すれば、対象粒子は面体層で濾過されるため、マスク内粒子は外気の粒子より少なく計測され、一方、マスクと顔面との隙間から外気が混入すると、マスク内粒子が増える。よって、漏れ率が小さいほど、マスクと顔面との間の密閉性が高いことになる。「漏れ率」は、以下の式により算出される値を用いた。
漏れ率(%)=(Pi/Po) × 100
[式中、Piは、マスク内の対象粒子数で、Poは、マスク外の対象粒子数]
これら測定は、何れも3回実施し、その平均値として求めた。測定順は漏れ率の測定後、マンヘッドから取り外した状態での各領域の通気度測定並びに剛性測定の順とした。
【0030】
【表1】
【0031】
この表1から、本発明の構成を適用した実施例1と、頬接触領域Aの通気性を意図的に高めたことを除き、同一素材で耳掛け部を構成した比較例1との比較では、比較例1の構成で漏れ率が高まってしまう現象が見て採れる。また、実施例2と比較例2との比較では、何れも頬接触領域の通気性を失わせているが、耳掛け部に属する頬接触領域の剛性が面体の剛性に較べて高い条件を備えることで漏れ率が増加してしまう点が理解できる。これら2つの結果から、「面体に対して相対的に耳材の通気度が低いこと」、「面体に対して相対的に耳材の剛性が低いこと」の2つの要件を満足することによって、漏れ率低減効果がより大きくなることが理解できる。
また参考例は、前述のとおり、比較例1のマスクに前述した特許文献3の技術を応用した。まず、耳掛け部に用いた素材aを2つ折にし、幅1cm、長さ6cmの帯状の部材を準備した。次いで、この帯状部材の折線が面体側を向くように接合部の接合時に取り付け、「漏れ防止部」を設けた。しかし、その作製には高度な加工を必要とし、本発明の構成を適用した実施例ほどの漏れ率低減効果は得られなかった。
尚、耳接触領域Bに相当する耳掛け部21では、マスク脱着時の寸法変化によって構造が変化するが、素材の初期値に較べ、全ての測定対象で通気性は高くなり、剛性は低くなるという、ごく僅かな影響が確認できた。これに対して、頬接触領域Aでは脱着による測定結果への影響は全くなかった。
【符号の説明】
【0032】
11:マスク、13:面体、15a,15b:融着部、23:接合部、17:折り線、
19:耳掛け穴、21耳掛け部、23,23’:接合部、
A:頬接触領域、B:耳接触領域。
図1
図2
図3