【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例として、
図2に例示したマスクの形状で評価サンプルを試作し、検討した結果について説明する。
【0025】
(面体用濾材の調製)
この実施例における面体は、以下の手順で調製した積層不織布を統一して用いた。まず、市販のレーヨン短繊維[繊度1.7デシテックス,繊維長40mm,重量組成比55%]、レーヨン短繊維[繊度1.6デシテックス,繊維長44mm,重量組成比15%]、ポリエステル短繊維[繊度1.5デシテックス,繊維長38mm,重量組成比20%]、ポリオレフィン短繊維[繊度1.7デシテックス,繊維長51mm,重量組成比10%]をカード機にかけた後、水圧9MPaで水流絡合し、目付30g/m
2、見掛け密度0.08g/cm
3のハーフマットを得た。次いで、やはりカード機によって約65g/m
2の摩擦帯電繊維(市販のポリプロピレン短繊維[繊度2.2デシテックス,繊維長51mm,重量組成比40%]、及び市販のアクリル短繊維[繊度2.2デシテックス,繊維長51mm,重量組成比60%])からなる繊維層を上述したハーフマットに積層し、ウエブを得た。続いて、このウエブの摩擦帯電繊維からなる繊維層側から、針番手40のクロスバーブニードルを針深さ13mm、針密度34本/cm
2の条件でニードルパンチ加工を行い、面体13を構成する濾材とした。
【0026】
(面体の作製並びに特性評価)
次いで、この濾材の表面材(面体の外側層相当)として、市販のポリプロピレン短繊維[繊度2.2デシテックス,繊維長51mm,重量組成比64%]、ポリプロピレン/ポリエチレンからなる芯鞘構造の短繊維[繊度3.3デシテックス,繊維長64mm,重量組成比36%]をカード機にかけた後、水圧9MPaで水流絡合し、目付50g/m
2とした。もう片面の吸気時下流側の表面材(面体の内側層相当)として、市販のポリプロピレン/ポリエチレン製の芯鞘型複合繊維から成るスパンボンド不織布(目付30g/m
2)を配置した。この面体の平板での通気度をフラジール形試験機で測定したところ、150cc/cm
2/sであった。また、この面体の剛性を45°カンチレバー法で測定した結果、15cmであった。本実施例で検証したマスクでは全てのサンプルに、この面体を統一して用いた。
【0027】
(耳掛け部用の各素材調製)
まず、実施例1に係る耳掛け部用の素材aとして、ポリウレタン樹脂からなるメルトブロー不織布(目付20g/m
2)と、ポリエステル短繊維のスパンレース不織布(目付30g/m
2)とをポイントシール加工(直径1mmの円形状,シール密度16個/cm
2)により貼り合わせた。また、実施例2に係る素材bは、上述した素材aの頬接触領域Aに相当する部分に市販の両面テープ『プロセルフ一般用両面テープS』((株)ニトムズ製,商品名)を貼り、素材の剛性に実質的な変化を来すことなく、貼付部分のみを非通気性とした。さらに、比較例1では、上述した素材aの頬接触領域Aにのみ直径1mmの針を用いて針密度1個/cm
2で針穴を開け、通気性に富む素材cを用いた。比較例2の素材dは、素材aの頬接触領域Aに布製テープ『布テープ』(販売元アスクル(株),商品名)を貼付し、非通気性であり、かつ、高剛性とした。また、作製方法及び構造については後に述べるが、参考例として、素材aからなる帯状の部材を接合部から面体にわたる構成成分として接合し、前述した特許文献1の「漏れ防止部」に類似する部分を配設した。この際の耳掛け部の構成素材としては実施例1と同じ素材aを使用した。
【0028】
(マスクサンプルの作製)
上述した各種の面体並びに素材を組合せ、マスク形状に仕上げた。具体的には、調製した面体用の濾材並びに表面材等を重ねて2つ折りにし、この間に前述した接合部23の幅に相当する寸法だけ2枚の耳掛け部用の素材(前述)を挟み込んだ状態で超音波溶着機により溶着接合し、融着部15a並びに15bと接合部23とを同時に形成した。さらに、耳掛け穴とマスクの概形形状を有する打ち抜き型で裁断し、各マスクサンプルを得た。作製したマスクの寸法形状は、面体と耳掛け部との接合部の高さが6.0cm、また、頬接触領域Aのうち、接合されていない耳掛け穴までの距離が1.5cmとなるように統一して設計した。この接合部の高さは標準的な耳の高さとして選定した数値条件である。
【0029】
(マスクサンプルの評価測定)
これら、各面体並びに各素材の平板での通気度並びに剛性などの評価測定結果と構成とを表1に示す。尚、表1では、
図2に示した耳掛け部21を頬接触領域Aと耳接触領域Bとに分け、各々の素材構成を示すと共に、耳接触領域Bを装着するために摘んで所定長に引き延ばした後に形状復帰した状態で通気度並びに剛性について評価測定を実施した。この所定長とは、前述したマンヘッドに装着する際に必要な伸張寸法であり、耳掛け部の実寸75mmに対して25mm伸張させ、統一して100mmにまで引き伸ばした。さらに、このマンヘッドに装着した各マスクの漏れ率を『労研式マスクフィッティングテスター M−03型』(柴田化学株式会社製,商品名)で計測した。この測定機器では、マスクの外と内での大気塵ダスト個数をモニタリングし、大気塵ダストの個数比率を求めて漏れ率をパーセントで算出した。従って、大気塵ダストを含む外気が、マスクの面体層を通過しマスク内に流入すれば、対象粒子は面体層で濾過されるため、マスク内粒子は外気の粒子より少なく計測され、一方、マスクと顔面との隙間から外気が混入すると、マスク内粒子が増える。よって、漏れ率が小さいほど、マスクと顔面との間の密閉性が高いことになる。「漏れ率」は、以下の式により算出される値を用いた。
漏れ率(%)=(Pi/Po) × 100
[式中、Piは、マスク内の対象粒子数で、Poは、マスク外の対象粒子数]
これら測定は、何れも3回実施し、その平均値として求めた。測定順は漏れ率の測定後、マンヘッドから取り外した状態での各領域の通気度測定並びに剛性測定の順とした。
【0030】
【表1】
【0031】
この表1から、本発明の構成を適用した実施例1と、頬接触領域Aの通気性を意図的に高めたことを除き、同一素材で耳掛け部を構成した比較例1との比較では、比較例1の構成で漏れ率が高まってしまう現象が見て採れる。また、実施例2と比較例2との比較では、何れも頬接触領域の通気性を失わせているが、耳掛け部に属する頬接触領域の剛性が面体の剛性に較べて高い条件を備えることで漏れ率が増加してしまう点が理解できる。これら2つの結果から、「面体に対して相対的に耳材の通気度が低いこと」、「面体に対して相対的に耳材の剛性が低いこと」の2つの要件を満足することによって、漏れ率低減効果がより大きくなることが理解できる。
また参考例は、前述のとおり、比較例1のマスクに前述した特許文献3の技術を応用した。まず、耳掛け部に用いた素材aを2つ折にし、幅1cm、長さ6cmの帯状の部材を準備した。次いで、この帯状部材の折線が面体側を向くように接合部の接合時に取り付け、「漏れ防止部」を設けた。しかし、その作製には高度な加工を必要とし、本発明の構成を適用した実施例ほどの漏れ率低減効果は得られなかった。
尚、耳接触領域Bに相当する耳掛け部21では、マスク脱着時の寸法変化によって構造が変化するが、素材の初期値に較べ、全ての測定対象で通気性は高くなり、剛性は低くなるという、ごく僅かな影響が確認できた。これに対して、頬接触領域Aでは脱着による測定結果への影響は全くなかった。