特許第6894249号(P6894249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894249
(24)【登録日】2021年6月7日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/025 20060101AFI20210621BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20210621BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20210621BHJP
   B01D 46/42 20060101ALN20210621BHJP
【FI】
   F01N3/025 101
   F01N3/023 KZAB
   F02D45/00 360Z
   !B01D46/42 B
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-21555(P2017-21555)
(22)【出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2017-219025(P2017-219025A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-110874(P2016-110874)
(32)【優先日】2016年6月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】袋田 聖
(72)【発明者】
【氏名】須沢 匠
(72)【発明者】
【氏名】仙田 幸二
(72)【発明者】
【氏名】大河原 誠治
【審査官】 楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−214178(JP,A)
【文献】 特開2015−229942(JP,A)
【文献】 特開2007−182788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/02〜 3/038
B01D 46/42
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される内燃機関の排気通路に配され、この排気通路を流れる排気に含まれる可燃性の粒子状物質および不燃成分を捕捉するフィルターと、
このフィルターに捕捉された粒子状物質の堆積量を取得する手段と、
前記フィルターに捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃焼手段と、
前記フィルターに捕捉された不燃成分の堆積量を取得する手段と、
前記燃焼手段の作動と共に、前記車両の備えるEGR制御弁および空気圧縮機の駆動を制御する制御手段と
を具えた排気浄化装置であって、前記制御手段は、
前記フィルターに捕捉された粒子状物質の堆積量が第1の所定値以上、かつ前記フィルターに捕捉された不燃成分の堆積量が第2の所定値未満の場合、前記フィルターの温度が第1の温度となるように、前記燃焼手段の作動を制御し、
前記フィルターに捕捉された粒子状物質の堆積量が前記第1の所定値以上、かつ前記フィルターに捕捉された不燃成分の堆積量が前記第2の所定値以上の場合、前記フィルターの温度を前記第1の温度よりも低温の第2の温度にして、前記車両がEGR運転領域にある場合、前記EGR制御弁の開度を絞るか、あるいは前記車両がEGR運転領域にない場合、前記空気圧縮機により外部から排気通路に圧縮空気を供給することにより、前記フィルターを通過する流れを増大させるように、前記燃焼手段の作動を制御することを特徴とする排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気に含まれる粒子状物質を浄化するための排気浄化装置に関し、特に不燃物質の堆積を抑制し得るようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排気に対する環境への影響をできるだけ少なくするため、排気中に含まれる有害成分を捕捉または吸着したり、あるいは無害化する排気浄化装置を排気通路中に組み込んだ内燃機関が知られている。例えば、圧縮点火方式の内燃機関においては、排気中にPM(Particulate Matter)と呼称される炭素質や炭化水素成分を含む可燃性の粒子状物質が含まれるため、PMトラップを排気通路に組み込んでこれを捕捉するようにしている。また、ピストンの往復動に伴って内燃機関の燃焼室に浸入するエンジン油には、カルシウム化合物などのいわゆるアッシュ、すなわち灰分の他に、マンガン化合物や亜鉛化合物あるいはリンや硫黄などを含む金属系添加剤が配合されている。これらの金属化合物は、通常、燃焼室で燃えて完全に分解することなく排気と共に不燃成分として燃焼室から排気通路へと排出されるため、このような不燃成分もまた、PMと共にPMトラップに捕捉されることとなる。
【0003】
このように、排気に含まれるPMや不燃成分がPMトラップに堆積し続けると、PMトラップが目詰まりを起こしてしまい、内燃機関の継続的かつ円滑な運転を困難にする。このため、このPMトラップに捕捉されたPMを燃焼させたり、不燃成分をPMトラップから除去して定期的にPMトラップを再生させる必要がある。
【0004】
上述したPMトラップとして最もよく知られているものは触媒化DPF(Diesel Particulate Filter)であり、高温の排気を通過させることによって堆積したPMを燃焼させて除去することができる。しかしながら、不燃成分に関しては、高温の排気を通過させただけでは触媒化DPFからこれを除去させることが難しい。このような課題に対処するため、特許文献1においては排気通路を流れる排気流量が少ない内燃機関の運転状態において、触媒化DPFに流入する排気をリッチ空燃比の状態にしている。これにより、金属化合物成分、特に不燃成分の大部分を占めるカルシウム化合物が還元される結果、触媒化DPFからカルシウム化合物を除去することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−054268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、フィルターの再生時には、フィルターを600℃以上に加熱してフィルターに捕捉された可燃性の粒子状物質を燃焼させている。しかしながら、フィルターに捕捉された不燃成分は、フィルターを600℃以上に加熱してもフィルターから剥離することなく、フィルターに留まってしまう。上述した触媒化DPFに関しても、実際問題として触媒化DPFには金属化合物成分のみならずPMも堆積しており、このような状況で特許文献1に記載のカルシウム化合物を還元できたとしても、残りの不燃成分を触媒化DPFから排出させることは困難である。
【0007】
本発明の目的は、可燃性の粒子状物質と共にフィルターに捕捉された不燃成分をフィルターから効率よく剥離させることが可能な排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フィルターの再生時にこれを500〜550℃程度に加熱してフィルターに捕捉された可燃性の粒子状物質を燃焼させた場合、フィルターに捕捉された不燃成分がフィルターから剥離してフィルターから排除され得ることを見出した。
【0009】
本発明による排気浄化装置は、このような知見に鑑みてなされたものであり、内燃機関の排気通路に配され、この排気通路を流れる排気に含まれる可燃性の粒子状物質を捕捉するフィルターと、このフィルターに捕捉された粒子状物質の堆積量を取得する手段と、前記フィルターに捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃焼手段と、前記フィルターに捕捉された不燃成分の堆積量を取得する手段と、前記燃焼手段の作動を制御する制御手段とを具える。前記制御手段は、前記フィルターに捕捉された粒子状物質の堆積量が第1の所定値以上、かつ前記フィルターに捕捉された不燃成分の堆積量が第2の所定値未満の場合、前記フィルターの温度が第1の温度となるように、前記燃焼手段の作動を制御する。これに対し、前記フィルターに捕捉された粒子状物質の堆積量が前記第1の所定値以上、かつ前記フィルターに捕捉された不燃成分の堆積量が前記第2の所定値以上の場合、前記制御手段は、前記フィルターの温度が前記第1の温度よりも低温の第2の温度となるように、前記燃焼手段の作動を制御する。
【0010】
本発明においては、フィルターに捕捉された粒子状物質の堆積量が第1の所定値以上の場合、フィルターに捕捉された粒子状物質を燃焼させるフィルターの再生処理が行われる。この時、フィルターに捕捉された不燃成分の堆積量が第2の所定値未満の場合には、フィルターの温度を第1の温度に上昇させてフィルターに捕捉された粒子状物質を燃焼させる。一方、フィルターに捕捉された不燃成分の堆積量が第2の所定値以上の場合には、フィルターの温度を第1の温度よりも低い第2の温度に上昇させてフィルターに捕捉された不燃成分をフィルターから剥離しやすくし、同時にフィルターに捕捉された粒子状物質を燃焼させることにより、剥離した不燃成分をフィルターの下流側へと流動させる。
【0011】
本発明による排気浄化装置において、第1の温度が600℃以上であり、第2の温度は500℃から550℃の範囲にあることが有効である。
【0012】
第2の温度によるフィルターへの累積投入熱量を取得するようにしてもよい。そして、この累積投入熱量がフィルターからの不燃成分の浮き上がりの始まるような閾値を越えた場合、フィルターを通過する排気流量を所定時間だけ増大させ、不燃成分をフィルターの下流側への流動を促進させることが有効である。この時、フィルターを通過する排気流量を増大させる間、第2の温度によるフィルターの加熱を中断することが有効である。また、フィルターを通過する排気流量を増大させる手段として、車両がEGR運転領域にある場合、EGR制御弁の開度を絞るか、あるいは車両がEGR運転領域にない場合、外部から空気圧縮機により排気通路に圧縮空気を供給することができる。
【0013】
フィルターが触媒化DPFであってよく、この場合、酸化触媒をフィルターの細孔内を含むフィルターの全体に担体を介して配したものであってよい。あるいは、排気通路の上流側に面するフィルターの表面にのみ担体を介して酸化触媒を配したものであってよい。
【0014】
フィルターから剥離した不燃成分を通過させるため、フィルターの平均細孔径は12μm以上であることが好ましい。しかしながら、粒子状物質を捕捉するために平均細孔径は16μm以下であることが好ましい。
【0015】
第2の所定値が10μm未満の場合、不燃成分によるフィルターの目詰まりは実質的に生じないので、不燃成分の第2の所定値は10μmであってよい。
【0016】
燃焼手段は、フィルターよりも上流側の排気通路に配されて燃料をこの排気通路に供給するための燃料添加弁と、この燃料添加弁とフィルターとの間の排気通路に配され、燃料添加弁によって排気通路に添加された燃料を燃焼させてフィルターに流入する排気の温度を昇温させる酸化触媒装置とを含むものであってよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の排気浄化装置によると、フィルターに捕捉された粒子状物質をフィルターから除去することに加え、この粒子状物質と共にフィルターに捕捉された不燃成分をより確実にフィルターから剥離させることができる。この結果、フィルターの再生処理を効率よく行うことが可能となる。
【0018】
第2の温度を500℃から550℃の範囲に設定した場合、フィルターに捕捉された不燃成分をより確実にフィルターから剥離させることができる。
【0019】
フィルターに担体を介して酸化触媒を担持させた場合、粒子状物質の燃焼をより促進させることができる。
【0020】
フィルターの平均細孔径が16μm以下の場合、粒子状物質をフィルターによって確実に捕捉することができる。
【0021】
フィルターの平均細孔径が12μm以上の場合、フィルターから剥離した不燃成分をフィルターからその下流側の排気通路へと排出させることができる。
【0022】
不燃成分の第2の所定値を10μmにした場合、フィルターを第2の温度で加熱する回数を少なくしてフィルターの再生処理を効率よく行うことができる。
【0023】
燃焼手段が燃料添加弁と酸化触媒装置とを含む場合、フィルターの温度をより迅速かつ正確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を圧縮点火方式の内燃機関に適用させた一実施形態のシステム概念図である。
図2図1に示した実施形態における主要部の制御ブロック図である。
図3図1に示した実施形態において、エンジン回転速度と燃料噴射量とEGR運転領域および非EGR運転領域との関係を表すマップである。
図4】DPFよりも下流側の排気温とDPFの温度との関係を模式的に表すグラフである。
図5図1に示した実施形態におけるDPFの部分を抽出拡大した断面図である。
図6】フィルターの他の実施形態を模式的に表す抽出拡大断面図である。
図7図1に示した実施形態において、DPFに対する加熱時間と、その加熱温度と、DPFからの不燃成分の浮き上がりの開始および移動完了時点との関係を表すグラフである。
図8】車両の累積走行距離と不燃成分の堆積量との関係を模式的に表すグラフである。
図9図1に示した実施形態における排気浄化手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明による排気浄化装置を圧縮点火方式の内燃機関に組み込んだ一実施形態について、図1図9を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態のみに限らず、対象となる内燃機関に要求される特性に応じて構成を適宜変更することが可能である。
【0026】
本実施形態におけるエンジンシステムの概念を図1に示し、このエンジンシステムにおける制御ブロックを図2に示す。なお、図1にはエンジン10の吸排気のための動弁機構や消音器の他に、エンジン10の円滑な運転のために必要とされる各種センサー類などもその一部が便宜的に省略されていることに注意されたい。
【0027】
本実施形態におけるエンジン10は、燃料である軽油を燃料噴射弁11から圧縮状態にある燃焼室10a内に直接噴射することにより、自然着火させる圧縮点火方式の多気筒内燃機関である。しかしながら、単気筒の内燃機関であっても本発明を適用し得るものである。燃焼室10aにそれぞれ臨む吸気ポート12aおよび排気ポート12bが形成されたシリンダーヘッド12には、吸気ポート12aを開閉する吸気弁13aおよび排気ポート12bを開閉する排気弁13bを含む図示しない動弁機構が組み込まれている。先の燃料噴射弁11もこのシリンダーヘッド12に組み込まれている。
【0028】
本実施形態における燃料噴射弁11は、燃料である軽油を圧縮行程の終了直前、つまりピストン14aの圧縮上死点直前にのみ燃焼室10a内に直接噴射する直噴単噴射型式のものであるが、これに限定されない。
【0029】
燃料噴射弁11から燃焼室10a内に供給される燃料の噴射量および噴射時期は、運転者によるアクセルペダル15の踏み込み量を含む車両の運転状態に基づいてECU16により制御される。アクセルペダル15の踏み込み量は、アクセル開度センサー17により検出され、その検出情報がECU16に出力される。
【0030】
本実施形態におけるECU16は、アクセル開度センサー17や後述する各種センサー類などからの情報に基づき、車両およびエンジン10の運転状態を判定する運転状態判定部16aと、燃料噴射設定部16bと、燃料噴射弁駆動部16cとを有する。
【0031】
燃料噴射設定部16bは、運転状態判定部16aにて判定した車両の運転状態に基づき、エンジン10の駆動トルク、つまり燃料噴射弁11からの燃料噴射量と、その噴射時期などを設定する。ECU16の燃料噴射弁駆動部16cは、この燃料噴射設定部16bにて設定された燃料噴射量に対応した燃料が設定された噴射時期に噴射されるように、燃料噴射弁11を駆動する。
【0032】
吸気ポート12aに連通するようにシリンダーヘッド12に連結されて吸気ポート12aと共に吸気通路18aを画成する吸気管18には、スロットルアクチュエーター19を介して吸気通路18aの開度を調整するためのスロットル弁20が組み込まれている。このスロットル弁20の開度、すなわちスロットル開度は、アクセル開度センサー17によって検出されるアクセルペダル15の踏み込み量や車両の運転状態に基づき、ECU16のスロットル開度設定部16dにて設定される。そして、このスロットル開度設定部16dにて設定された開度となるように、ECU16のスロットル弁駆動部16eがスロットルアクチュエーター19を介してスロットル弁20の駆動を行う。スロットル弁20よりも上流側の吸気通路18aには、ここを流れる吸気流量を検出してこれらをECU16に出力するエアーフローメーター21が設けられている。
【0033】
ピストン14aが往復動するシリンダーブロック14には、連接棒14bを介してピストン14aが連結されるクランク軸14cの回転位相、つまりクランク角を検出してこれをECU16に出力するクランク角センサー22が取り付けられている。ECU16の運転状態判定部16aは、このクランク角センサー22からの情報に基づいてクランク軸14cの回転位相やエンジン回転速度の他に、車両の走行速度などを実時間で把握する。
【0034】
排気ポート12bに連通するようにシリンダーヘッド12に連結される排気管23は、排気ポート12bと共に排気通路23aを画成する。本実施形態のエンジンシステムには、EGR装置24と、排気タービン式過給機(以下、単に過給機と記述する)25と、排気通路23aに燃料を添加する燃料添加弁26と、排気浄化装置27とがさらに組み込まれている。
【0035】
EGR装置24は、排気通路23a内を流れる排気の一部を吸気通路18aに導き、排気に含まれるNOX、すなわち窒素酸化物の発生量を抑制する。このEGR装置24は、EGR通路28aを画成するEGR管28と、このEGR管28に設けられてEGR通路28aを流れる排気の流量を制御するEGR制御弁29とを具えている。EGR管28は、シリンダーヘッド12と過給機25のタービン25aとの間の排気通路23aに一端が連通すると共に他端がスロットル弁20とシリンダーヘッド12との間の吸気通路18aに連通している。
【0036】
ECU16の運転状態判定部16aには、エンジン10回転速度と、燃料噴射弁11からの燃料噴射量とに基づいて予め設定された図3に示す如きEGR運転領域に関するマップが記憶されている。本実施形態では、エンジン10を搭載した車両がEGR運転領域にあることをECU16の運転状態判定部16aが判定した場合、この時の車両の運転状態に応じてEGR制御弁29の開度がECU16のEGR量設定部16fにて設定される。ECU16のEGR制御弁駆動部16gは、EGR制御弁29をEGR量設定部16fにて設定された開度に制御し、それ以外の場合は基本的にEGR通路28aを塞ぐように閉じた状態にEGR制御弁29を駆動する。
【0037】
過給機25は、排気通路23aを流れる排気の運動エネルギーを利用して燃焼室10aへの過給を行い、吸気密度を高め、吸気流量を増加させるためのものである。この過給機25は、排気通路23aに組み込まれたタービン25aと、このタービン25aと一体に回転するコンプレッサー25bとで主要部が構成されている。コンプレッサー25bは、スロットル弁20とエアーフローメーター21との間の吸気通路18aに組み込まれている。過給機25のコンプレッサー25bとスロットル弁20との間の吸気通路18aには、高温の排気にさらされるタービン25a側からの伝熱によりコンプレッサー25bを介して加熱される吸気温を低下させるためのインタークーラー25cが組み込まれている。
【0038】
燃焼室10a内での混合気の燃焼により生成する有害物質を無害化するための排気浄化装置27は、過給機25のタービン25aよりも下流側の排気通路23aに配されている。本実施形態における排気浄化装置27は、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)30と、触媒化DPF31とを有するが、NOX触媒などの他の触媒コンバーターをさらに追加することも可能である。本実施形態におけるDOC30は、その下流に配された本発明におけるフィルターとしての触媒化DPF(以下、単にDPFと記述する)31の再生処理を行うためのものである。すなわち、DOC30の上流側に配された燃料添加弁26から排気通路23aに添加される燃料を燃焼させ、これによって高温となった排気をDPF31に送り込むことにより、DPF31に堆積した可燃性の粒子状物質、すなわちPMの燃焼を促進させることができる。
【0039】
DPF31の温度は、排気浄化装置27のケーシング27aに取り付けられたフィルター温度センサー32により検出され、その情報がECU16に出力される。
【0040】
このようなフィルター温度センサー32に代え、DPF31の下流側の排気通路23aを流れる排気温を取得し、この排気温に基づいてDPF31の温度を取得することも可能である。DPF31の下流側の排気通路23aを流れる排気温と、DPF31の温度との関係を模式的に表す図4に示すように、DPF31の下流側の排気通路23aを流れる排気温は、DPF31の温度に対して相関性を有している。従って、DPF31の下流側の排気通路23aを流れる排気温を排気温センサーなどで検出することでも、DPF31の温度をほぼ正確に取得することができる。
【0041】
本実施形態におけるDPF31の部分を抽出拡大した断面構造を模式的に図5に示す。本実施形態におけるDPF31は、ハニカム構造のフィルター基材31aと、このフィルター基材31aの表面に形成された触媒担体層31bと、この触媒担体層31bに担持される図示しない酸化触媒とで構成されるが、これ限定されない。例えば、図5と同様なDPF31の抽出拡大断面構造を模式的に図6に示す。このDPF31は、多孔質のフィルター基材31aと、第2フィルター層31cと、この第2フィルター層31cに積層される触媒担体層31bと、この触媒担体層31bに担持される図示しない酸化触媒とで構成されている。第2フィルター層31cは、排気通路23aの上流側に面するフィルター基材31aの表面に形成され、その平均細孔径が16μm以下に設定されている。何れの構成であっても、DPF31の平均細孔径は、不燃成分の通過しやすさおよびPMの捕捉しやすさを考慮して12μm以上かつ16μm以下であることが好ましい。先のフィルター基材31aは、排気通路23aを仕切るようにケーシング27a内に保持される。
【0042】
DPF31に捕捉されて堆積するPMの除去のためにDPF31を再生処理する場合、DPF31を高温の第1の温度TH、例えば650℃に加熱すると、PMは燃焼して気化し、DPF31から排除されるものの、不燃成分はDPF31に残留したままとなる。これに対し、DPF31を第1の温度THよりも低い第2の温度TL、例えば500〜550℃に加熱すると、PMの燃焼気化が緩やかとなり、DPF31の再生時間を通常よりも長く継続させる必要が生ずる。しかしながら、PMの燃焼に伴って不燃成分がDPF31から浮き上がり、排気の流れに沿ってDPF31の下流側へと流動しやすくなることが判明した。この現象は、PMの堆積量がある程度以上の場合にのみ発生し、PMの堆積量が少ない状態でDPF31を第2の温度TLに加熱しても、不燃成分はDPF31から浮き上がることなく、DPF31に留まったままとなる。また、第2の温度TLを500℃未満に設定した場合には、不燃成分がDPF31から浮き上がるものの、排気の流れに沿って流動することなく、DPF31に留まったままとなることも確認できた。
【0043】
ここで、DPF31に対する加熱時間と、DPF31の加熱温度と、DPF31からの不燃成分の浮き上がりの始まりおよび流動終了時点との関係を模式的に図7に示す。図7中、破線は不燃成分がDPF31から浮き上がり始める時点を示し、実線は不燃成分がDPF31からの移動を完了する時点を示す。一例で説明すると、DPF31を500℃に加熱した場合、加熱を開始してから60分ほどで不燃成分がDPF31から浮き上がり、加熱を開始してから90分ほどで、この浮き上がり位置から完全に下流側へと移動し終えることを理解することができる。また、DPF31を550℃に加熱した場合には、加熱を開始してから5分ほどで不燃成分がDPF31から浮き上がり、加熱を開始してから15分ほどで、この浮き上がり位置から完全に下流側へと移動し終える。これに対し、DPF31を450℃に加熱した場合、加熱を開始してから90分ほどで不燃成分がDPF31から浮き上がりものの、この浮き上がり位置から下流側へと不燃成分は移動しない。
【0044】
従って、不燃成分がある程度DPF31に堆積するまでは高温の第1の温度TH(600℃以上)にてDPF31の再生処理を行い、不燃成分がある程度DPF31に堆積した場合には、低温の第2の温度TL(500〜550℃)にてDPF31の再生処理を所定時間行うことが有効である。これによって、不燃成分をDPF31の下流側へと流動させ、DPF31の有効表面積の低減を抑えることができる。何れに場合においても、DPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが所定値ΔPLに達するまで、DPF31の再生処理を継続する。
【0045】
DPF31に捕捉されて堆積する不燃成分の堆積量は、基本的にエンジン油の消費量に対して相関性を有しているが、個々の車両の走行距離にほぼ比例することも判明している。車両の累積走行距離OとDPF31に捕捉された不燃成分の堆積量との関係を模式的に図8に示す。DPF31に堆積する不燃成分が例えば10μm以上となった場合、この不燃成分の除去を行うことが有効である。DPF31に堆積する不燃成分が10μm以上となるのは、エンジン10の特性や運転状態によっても変化するが、一例として車両の累積走行距離Oが50000km前後である。そこで、本実施形態におけるECU16の運転状態判定部16aは、車両の累積走行距離Oが50000kmに達した時点でDPF31から不燃成分を除去するためにDPF31の再生処理が必要であると判定する。そして、低温でのDPF31の再生処理を終了する度に車両の累積走行距離Oをリセットするようになっている。つまり、本実施形態におけるECU16の運転状態判定部16aは、本発明におけるフィルターに捕捉された不燃成分の堆積量を取得する手段としても機能する。
【0046】
また、ECU16の運転状態判定部16aは、DPF31を第2の温度TLにて加熱を行った場合のDPF31に対する累積加熱時間、すなわち累積投入熱量QAを算出し、DPF31から不燃成分の浮き上がりが始まっているか否かを判定する。累積投入熱量QAは、DPF31の加熱温度が500℃の場合、60分間の累積加熱時間に相当し、DPF31の加熱温度が550℃の場合、5分間の累積加熱時間に相当し、第2の温度TLに応じて累積加熱時間は変化する。
【0047】
本実施形態では、DPF31を第2の温度TLにて加熱することによって、DPF31から浮き上がる不燃成分をより確実にDPF31の下流側へと移動させやすくするため、DPF31に流れる排気流量を一時的に増大させるようにしている。具体的には、車両がEGR運転領域にある場合、EGR制御弁29の開度を低減させることにより、排気還流量を抑制し、これによってDPF31へと流れる排気流量を増大させる。また、車両がEGR運転領域にない場合には、空気圧縮機33を用いて過給機25と排気浄化装置27との間の排気通路23aへと圧縮空気を供給し、DPF31へと流れる排気流量を増大させる。さらには、スロットル弁20の開度を大きくして排気流量を増大させることも可能であるが、この場合には車両の駆動力が変わらないように、燃料噴射量や噴射時期などを同時に変更する必要がある。何れの場合においても、少なくとも図7中の破線から実線へと至る期間に亙って排気流量を増大させることが有効であり、不燃成分をDPF31の下流側へ移動させるための排気流量は、車両の運転状態や不燃成分の堆積量などに応じて増減することが好ましい。
【0048】
本実施形態のECU16は、車両の運転状態に基づいて空気圧縮機33の作動を制御する空気圧縮機駆動部16jを具えている。この空気圧縮機駆動部16jは、累積投入熱量QA図7中の破線で示す閾値QRに達した状態において、車両がEGR運転領域にない場合、空気圧縮機33を作動させて圧縮空気をDPF31の上流側の排気通路23aへと供給する。これにより、DPF31を通過する排気流量を増大させてDPF31から浮き上がった不燃成分がDPF31の下流側へと移動するのを促すことができる。
【0049】
DPF31のケーシング27aには、DPF31の上流側および下流側のケーシング27a内の圧力差を検出してこれをECU16に出力する差圧センサー34が取り付けられている。本実施形態における差圧センサー34は、DPF31に捕捉されたPMの堆積量を取得する本発明の手段として機能し、PMを捕捉したDPF31の再生処理の必要性の有無を判定するための情報をECU16に与えることができる。ECU16の運転状態判定部16aは、この差圧センサー34によって取得された差圧ΔPが予め設定した閾値ΔPH以上となった場合、DPF31の再生処理が必要であると判定する。そして、DPF31の再生処理中に差圧センサー34によって取得される差圧ΔPが予め設定した閾値ΔPL以下となった場合、DPF31の再生処理が不要であると判定する。このような差圧センサー34に代え、燃料消費量などに基づいてDPF31に捕捉されたPMの堆積量を推定し、このPMの堆積量に基づいてDPF31の再生処理の必要性の有無を判定するようにしてもよい。
【0050】
燃料噴射弁と基本的に同一構成を持つ燃料添加弁26は、過給機25のタービン25aとDOC30との間の排気通路23aに配され、排気浄化装置27のDOC30と共に本発明の燃焼手段として機能する。燃料添加弁26からの燃料の添加量は、ECU16にて設定されるDPF31の目標加熱温度と、フィルター温度センサー32から取得されるDPF31の温度や排気空燃比などを含む車両の運転状態とに基づき、ECU16の燃料添加設定部16hにて設定される。ECU16の燃料添加弁駆動部16iは、この燃料添加設定部16hにて設定された燃料が排気通路23aに添加されるように、燃料添加弁26の作動を制御する。本実施形態におけるDPF31の目標加熱温度は、不燃成分の堆積量が少ない場合に設定される高温の第1目標加熱温度THと、不燃成分の堆積量が所定値以上となった場合に設定される低温の第2目標加熱温度TLとを有する。上述した知見から、第1目標加熱温度THは例えば600〜650℃程度に設定され、第2目標加熱温度TLは例えば500〜550℃程度に設定される。
【0051】
ECU16は、アクセル開度センサー17,エアーフローメーター21,クランク角センサー22,フィルター温度センサー32,差圧センサー34などからの検出情報に基づき、エンジン10の運転状態を把握する。そして、予め設定されたプログラムに従って円滑なエンジン10の運転がなされるように、燃料噴射弁11,スロットルアクチュエーター19,EGR制御弁29,燃料添加弁26などの作動を制御する。
【0052】
このような本実施形態における排気浄化手順を図9のフローチャートを参照しながら説明すると、まずS11のステップにてDPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第1の閾値ΔPH以上か否かを判定する。ここで、DPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第1の閾値ΔPH未満である、すなわちDPF31が目詰まりしていないので再生処理を行う必要がないと判断した場合には、差圧ΔPが第1の閾値ΔPH以上となるまで、S11のステップの処理を繰り返す。
【0053】
このようにして、S11のステップにてDPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第1の閾値ΔPH以上である、すなわちDPF31が目詰まりしているので再生処理を行う必要があると判断した場合には、S12のステップに移行する。ここで、不燃成分を除去するためのフラグがセットされているか否かを判定するが、最初はフラグがセットされていないので、S13のステップに移行してDPF31を第1の温度THとなるように加熱する。そして、S14のステップにてDPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第2の閾値ΔPL以下か否かを判定し、DPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第2の閾値ΔPL以下となるまで、S14のステップを繰り返し実行する。
【0054】
このようにして、S14のステップにてDPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第2の閾値ΔPL以下である、すなわちDPF31の再生処理が完了したと判断した場合には、S15のステップに移行してDPF31の再生処理のための加熱を止める。しかる後、S16のステップにて累積走行距離Oが閾値OR、例えば50000km以上か否かを判定する。ここで、累積走行距離Oが閾値OR以上である、すなわち不燃成分をDPF31から除去する必要があると判断した場合にはS17のステップに移行して不燃成分を処理するためのフラグをセットした後、上述したS11のステップに戻る。
【0055】
また、先のS16のステップにて累積走行距離Oが閾値OR未満である、すなわち不燃成分を除去する必要がないと判断した場合には、何もせずにS11のステップに戻る。
【0056】
前記S12のステップにてフラグがセットされている、すなわちDPF31に堆積した不燃成分を除去する必要があると判断した場合には、S18のステップに移行してDPF31を第2の温度TLとなるように加熱する。同時に、累積投入熱量QAを算出する。そして、S19のステップにて累積投入熱量QAが閾値QR以上か否かを判定する。ここで、累積投入熱量QAが閾値QR以上である、すなわち不燃成分をDPF31の下流側に流動させてDPFの目詰まりを阻止することが好ましいと判断した場合には、S20のステップに移行する。そして、DPF31の加熱を中断した後、S21のステップにて車両がEGR運転領域にあるか否かを判定する。ここで車両がEGR運転領域にあると判断した場合には、S22のステップに移行してEGR制御弁29の開度を低減し、より多くの排気がDPF31側へと流れるようにし、DPF31に堆積した不燃成分のDPF31の下流側への流動を促進させる。また、S21のステップにて車両がEGR運転領域にない、すなわちEGR制御弁29の開度が0%であって、EGR制御弁の開度を絞ってDPF31への排気流量を増大させることができないと判断した場合には、S23のステップに移行する。そして、空気圧縮機33を作動させて圧縮空気を排気通路23aに供給し、DPF31側へと流れる排気の流速を増大させ、DPF31に堆積した不燃成分のDPF31の下流側への流動を促進させる。
【0057】
DPF31を通過する排気の流速を増大させるS22,S23のステップに続き、S24のステップにてタイマーのカウントアップを行う。そして、S25のステップにてタイマーのカウント値Cnがあらかじめ設定した閾値CR以上か否かを判定し、このカウント値Cnが閾値CR以上となるまで、S24,S25のステップを繰り返す。このようにして、タイマーのカウント値Cnが閾値CR以上である、すなわちDPF31に堆積した不燃成分のDPF31の下流側への流動が完了したと判断した場合には、S26のステップに移行する。そして、EGR制御弁29の開度を現在の車両の運転状態に適合した開度へと戻すか、あるいは空気圧縮機33による圧縮空気の供給を停止する。また、累積投入熱量QAおよびタイマーのカウント値Cnをそれぞれ0にリセットすると共にフラグもリセットし、さらにDPF31を第2の温度TLとなるように加熱を再開する。
【0058】
しかる後、S27のステップにてDPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第2の閾値ΔPL以下か否かを判定し、DPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第2の閾値ΔPL以下となるまで、S27のステップを繰り返し実行する。
【0059】
このようにして、S27のステップにてDPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第2の閾値ΔPL以下である、すなわちDPF31の再生処理が完了したと判断した場合には、S28のステップに移行する。そして、DPF31の再生処理のための加熱を止めた後、S11のステップに戻る。
【0060】
一方、S19のステップにて累積投入熱量QAが閾値QR未満である、すなわち不燃成分をDPF31の下流側にまだ流動させる必要がないと判断した場合には、先のS27のステップに移行する。そして、DPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第2の閾値ΔPL以下か否かを判定し、DPF31の上流側と下流側との差圧ΔPが第2の閾値ΔPL以下となるまで、S27のステップを繰り返し実行する。
【0061】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のない構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0062】
10 エンジン
16a 運転状態判定部
16h 燃料添加設定部
16i 燃料添加弁駆動部
23a 排気通路
26 燃料添加弁
27 排気浄化装置
30 DOC
31 触媒化DPF
34 差圧センサー
O 累積走行距離
R 累積走行距離に関する閾値
ΔP DPFの上流側と下流側との差圧
ΔPH 差圧に関する第1の閾値
H 第1目標加熱温度
L 第2目標加熱温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9