(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチド、及び配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドを含む、請求項1に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、例えば、治療目的で使用される既知の抗C5抗体と比べて、より向上した特性のうちの1つを有する抗C5抗体に関する。例えば、本明細書に記載の抗C5抗体は、エクリズマブの血清排出半減期と比べて増加した血清寿命を呈する。それらの向上した薬物動態特性のために、本明細書に記載の抗体は、多くの利点、例えば、完全長または成熟C5に結合し、その切断を阻害する他の抗C5抗体を超える利点を特徴とする。かかる抗C5抗体と同様に、本明細書に記載の抗体は、C5a媒介炎症反応、及びC5の切断から生じるC5b(MAC)依存性細胞溶解を阻害することができる。しかしながら、ヒト血漿中のC5の濃度は、約0.37μMであるため(Rawal and Pangburn(2001)J Immunol 166(4):2635−2642)、エクリズマブなどの抗C5抗体の高濃度使用及び/または頻繁な投与が、ヒトにおいてC5を有効に阻害するためにしばしば必要である。本開示は、実施例において、抗C5抗体が、インビトロ及びインビボで補体を阻害することにおいて非常に有効であるが(例えば、Hillmen et al.(2004)N Engl J Med 350(6):552を参照されたい)、抗体が、血中の高濃度のC5のために、標的媒介クリアランスに対して特に感受性であることを証明する、実験データを記載する。この開示は、本明細書に記載の新たな抗体が、標的媒介クリアランスに対する感受性を低減し、ひいては既知の抗C5抗体と比較して、血中のより長い血清排出半減期(半減期)を有することも示す。
【0013】
それらの長い半減期を考慮して、本明細書に記載の抗体は、既知の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)よりもはるかに低い用量、及び/または少ない頻度でヒトに投与することができ、ヒトにおいて同じもしくはより高いC5の阻害を有効にもたらす。例えば、エクリズマブの用量と比較して、より少ない用量の抗体を投与する能力は、例えば、皮下投与、筋内投与、肺内送達、及び生物学的に分解可能な微小体の使用を介した投与などの追加の送達経路も可能にする。
【0014】
したがって、一態様において、本開示は、エクリズマブと比べて1つ以上の向上した特性(例えば、向上した薬物動態特性)を有する抗C5抗体を特徴とする。抗体またはそのC5結合断片は、(a)補体成分C5に結合する、(b)C5の、断片C5a及びC5bへの切断を阻害する、ならびに(c)(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、(ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、(iii)配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、(iv)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、(v)配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び(vi)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含むものであり、(i)〜(vi)の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、または少なくとも8つ)のアミノ酸(複数可)が、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、C5は、ヒトC5である。
【0015】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、重鎖CDR1の少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、重鎖CDR2の少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、重鎖CDR3の少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。
【0016】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、軽鎖CDR1の少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、配列番号4に対して8位のグリシンは、異なるアミノ酸(例えば、ヒスチジン)で置換される。
【0017】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、軽鎖CDR2の少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、軽鎖CDR3の少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。
【0018】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、置換は、配列番号1に対して1位のグリシン、配列番号1に対して2位のチロシン、配列番号1に対して3位のイソロイシン、配列番号1に対して4位のフェニルアラニン、配列番号1に対して5位のセリン、配列番号1に対して6位のアスパラギン、配列番号1に対して7位のチロシン、配列番号1に対して8位のトリプトファン、配列番号1に対して9位のイソロイシン、配列番号1に対して10位のグルタミン、配列番号2に対して1位のグルタミン酸、配列番号2に対して2位のイソロイシン、配列番号2に対して3位のロイシン、配列番号2に対して4位のプロリン、配列番号2に対して5位のグリシン、配列番号2に対して6位のセリン、配列番号2に対して7位のグリシン、配列番号2に対して8位のセリン、配列番号2に対して9位のトレオニン、配列番号2に対して10位のグルタミン酸、配列番号2に対して11位のチロシン、配列番号2に対して12位のトレオニン、配列番号2に対して13位のグルタミン酸、配列番号2に対して14位のアスパラギン、配列番号2に対して15位のフェニルアラニン、配列番号2に対して16位のリジン、配列番号2に対して17位のアスパラギン酸、配列番号3に対して1位のチロシン、配列番号3に対して2位のフェニルアラニン、配列番号3に対して3位のフェニルアラニン、配列番号3に対して4位のグリシン、配列番号3に対して5位のセリン、配列番号3に対して6位のセリン、配列番号3に対して7位のプロリン、配列番号3に対して8位のアスパラギン、配列番号3に対して9位のトリプトファン、配列番号3に対して10位のチロシン、配列番号3に対して11位のフェニルアラニン、配列番号3に対して12位のアスパラギン酸、及び配列番号3に対して13位のバリンからなる群から選択されるアミノ酸位置で行われる。
【0019】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、置換は、配列番号4に対して8位のグリシン、配列番号4に対して10位のロイシン、配列番号6に対して3位のバリン、及び配列番号6に対して6位のトレオニンからなる群から選択されるアミノ酸位置で行われる。
【0020】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、置換は、配列番号1に対して2位のチロシン、配列番号1に対して9位のイソロイシン、配列番号2に対して3位のロイシン、及び配列番号2に対して8位のセリンからなる群から選択されるアミノ酸位置で行われる。
【0021】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、配列番号1に対して2位のチロシン及び配列番号2に対して3位のロイシンの両方は、異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、異なるアミノ酸は、ヒスチジンである。
【0022】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、配列番号1に対して9位のイソロイシン及び配列番号2に対して8位のセリンの両方は、異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、配列番号1に対して9位のイソロイシン及び配列番号2に対して3位のロイシンの両方は、異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、異なるアミノ酸は、ヒスチジンである。
【0023】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、配列番号1に対して2位のチロシン及び配列番号2に対して8位のセリンの両方は、異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、表1から選択されるアミノ酸置換の組み合わせを含む。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、異なるアミノ酸は、ヒスチジンである。
【0024】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、アミノ酸置換の組み合わせは、抗体またはその抗原結合断片の軽鎖ポリペプチド中の配列番号4に対して8位のグリシンに対する異なるアミノ酸の置換、(ii)抗体またはその抗原結合断片の重鎖ポリペプチド中の配列番号1に対して2位のグリシンに対する異なるアミノ酸の置換、及び(iii)抗体またはその抗原結合断片の重鎖ポリペプチド中の配列番号2に対して8位のセリンに対する異なるアミノ酸の置換を含む。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、異なるアミノ酸は、ヒスチジンである。
【0025】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、配列番号1に対して2位のチロシン及び配列番号2に対して8位のセリンは、ヒスチジンで置換される。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、異なるアミノ酸は、ヒスチジンである。
【0026】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかは、pH7.4及び25℃で、0.1nM≦K
D≦1nMの範囲内である親和性解離定数(K
D)をもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかは、pH7.4及び25℃で、0.2nM≦K
D≦1nMの範囲内であるK
DをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかは、pH7.4及び25℃で、0.5nM≦K
D≦1nMの範囲内であるK
DをもってC5に結合する。
【0027】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかは、pH6.0及び25℃で、≧1nM(例えば、≧50nM、≧100nM、または≧1μM)であるK
DをもってC5に結合する。
【0028】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、[(pH6.0及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
D)/(pH7.4及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
D)]は、25を超える。本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、[(pH6.0及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
D)/(pH7.4及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
D)]は、100を超える(例えば、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1200、1400、1500、1600、1800、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、または8500を超える)。
【0029】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、pH7.4及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
Dは、1nM未満(例えば、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、または0.1nM未満)である。
【0030】
実施例に記載されるいくつかの変異エクリズマブ分子の特徴に基づいて、発明者らは、エクリズマブと比較して向上した薬物動態特性を有する抗体の新たな属を発見した。この属内の抗体は、pH7.4でのC5に対するエクリズマブの親和性よりも弱い、C5に対する親和性を有する。それでも、これらの抗体は、pH7.4で、1nM以下のC5に対する親和性解離定数(K
D)を有する。本開示は、任意の特定の理論または作用機序に拘束されないが、発明者らは、pH7.4でのC5に対するエクリズマブの親和性をわずかに低減すること、及びpH6.0でのC5に対する抗体の親和性に対するその後次の影響が、pH7.4及びpH6.0で同じ/同様の親和性の比率を維持しながら、患者において結果として生じる抗体の補体阻害機能に実質的に影響を及ぼすことなく、抗体のC5媒介クリアランスを実質的に低減すると考える。故に、発明者らは、各々エクリズマブと比べて、必要な薬物動態特性を保持しながら向上した薬物動態特性をもたらす、抗C5抗体についての最適親和性範囲を定義した。したがって、別の態様において、本開示は、(a)pH7.4及び25℃で、≦1nMの親和性解離定数(K
D)をもって補体成分C5に結合し、(b)pH6.0及び25℃で、10nM以上のK
DをもってC5に結合し、(c)C5の、断片C5a及びC5bへの切断を阻害する、単離抗体またはその抗原結合断片を特徴とし、[(pH6.0及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
D)/(pH7.4及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
D)]は、25以上である。
【0031】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH7.4及び25℃で、0.1nM≦K
D≦1nMの範囲内の親和性解離定数(K
D)をもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH7.4及び25℃で、0.2nM≦K
D≦1nMの範囲内のK
DをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH7.4及び25℃で、0.5nM≦K
D≦1nMの範囲内のK
DをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH6.0及び25℃で、≧1nMのK
DをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH6.0及び25℃で、≧50nMのK
DをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH6.0及び25℃で、≧100nMのK
DをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH6.0及び25℃で、≧1μMのK
DをもってC5に結合する。
【0032】
いくつかの実施形態において、[(pH6.0及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
D)/(pH7.4及び25℃でのC5に対する抗体またはその抗原結合断片のK
D)]は、50を超える(例えば、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、または8500を超える)。
【0033】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH7.4及び25℃で、K
D<1nMをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH7.4及び25℃で、K
D<0.8nMをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH7.4及び25℃で、K
D<0.5nMをもってC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、pH7.4及び25℃で、K
D<0.2nMをもってC5に結合する。
【0034】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、(ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、(iii)配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、(iv)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、(v)配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び(vi)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含み、(i)〜(vi)のうちの少なくとも1つのアミノ酸が、異なるアミノ酸で置換される。異なるアミノ酸は、任意のアミノ酸(例えば、ヒスチジン)であり得る。いくつかの実施形態において、重鎖CDR1のうちの少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、重鎖CDR2のうちの少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、重鎖CDR3のうちの少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、軽鎖CDR1のうちの少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、軽鎖CDR2のうちの少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つのアミノ酸は、異なるアミノ酸で置換される。
【0035】
いくつかの実施形態において、置換は、配列番号4に対して8位のグリシン、配列番号4に対して10位のロイシン、配列番号6に対して3位のバリン、及び配列番号6に対して6位のトレオニンからなる群から選択されるアミノ酸位置で行われる。いくつかの実施形態において、置換は、配列番号1に対して2位のチロシン、配列番号1に対して9位のイソロイシン、配列番号2に対して3位のロイシン、及び配列番号2に対して8位のセリンからなる群から選択されるアミノ酸位置で行われる。いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、表1から選択されるアミノ酸置換の組み合わせを含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、CDRに導入されたアミノ酸置換の組み合わせは、(i)抗体またはその抗原結合断片の軽鎖ポリペプチド中の配列番号4に対して8位のグリシンに対する異なるアミノ酸の置換、(ii)抗体またはその抗原結合断片の重鎖ポリペプチドの配列番号1に対して2位のグリシンに対する異なるアミノ酸の置換、及び(iii)抗体またはその抗原結合断片の重鎖ポリペプチドの配列番号2に対して8位のセリンに対する異なるアミノ酸の置換を含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、アミノ酸置換の組み合わせは、(i)抗体またはその抗原結合断片の重鎖ポリペプチドの配列番号1に対して2位のグリシンに対する異なるアミノ酸の置換、及び(ii)抗体またはその抗原結合断片の重鎖ポリペプチドの配列番号2に対して8位のセリンに対する異なるアミノ酸の置換を含む。
【0038】
いくつかの実施形態において、配列番号1に対して2位のチロシン及び配列番号2に対して8位のセリンが(例えば、ヒスチジンで)置換される。
【0039】
いくつかの実施形態において、抗体またはその断片のうちのいずれかは、変異ヒトFc定常領域が誘導された天然ヒトFc定常領域の親和性よりも高い親和性をもって、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)に結合する変異ヒトFc定常領域(例えば、変異ヒトIgG
Fc定常領域)を含む。変異Fc定常領域は、該変異ヒトFc定常領域が誘導された天然ヒトFc定常領域に対して、1つ以上(例えば、2つ、3つ、4つ、または5つ以上)のアミノ酸置換を含むことができる。この置換は、例えば、天然ヒトFc定常領域に対して237、238、239、248、250、252、254、255、256、257、258、265、270、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、325、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、または436(EU付番)アミノ酸位置においてであり得る。この置換は、全てEU付番で、237位のグリシンに対するメチオニン、238位のプロリンに対するアラニン、239位のセリンに対するリジン、248位のリジンに対するイソロイシン、250位のトレオニンに対するアラニン、フェニルアラニン、イソロイシン、メチオニン、グルタミン、セリン、バリン、トリプトファン、またはチロシン、252位のメチオニンに対するフェニルアラニン、トリプトファン、またはチロシン、254位のセリンに対するトレオニン、255位のアルギニンに対するグルタミン酸、256位のトレオニンに対するアスパラギン酸、グルタミン酸、またはグルタミン、257位のプロリンに対するアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン、トレオニン、またはバリン、258位のグルタミン酸に対するヒスチジン、265位のアスパラギン酸に対するアラニン、270位のアスパラギン酸に対するフェニルアラニン、286位のアスパラギンに対するアラニンまたはグルタミン酸、289位のトレオニンに対するヒスチジン、297位のアスパラギンに対するアラニン、298位のセリンに対するグリシン、303位のバリンに対するアラニン、305位のバリンに対するアラニン、307位のトレオニンに対するアラニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、バリン、トリプトファン、またはチロシン、308位のバリンに対するアラニン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、またはトレオニン、309位のロイシンまたはバリンに対するアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、またはアルギニン、311位のグルタミンに対するアラニン、ヒスチジン、またはイソロイシン、312位のアスパラギン酸に対するアラニンまたはヒスチジン、314位のロイシンに対するリジンまたはアルギニン、315位のアスパラギンに対するアラニンまたはヒスチジン、317位のリジンに対するアラニン、325位のアスパラギンに対するグリシン、332位のイソロイシンに対するバリン、334位のリジンに対するロイシン、360位のリジンに対するヒスチジン、376位のアスパラギン酸に対するアラニン、380位のグルタミン酸に対するアラニン、382位のグルタミン酸に対するアラニン、384位のアスパラギンまたはセリンに対するアラニン、385位のグリシンに対するアスパラギン酸またはヒスチジン、386位のグルタミンに対するプロリン、387位のプロリンに対するグルタミン酸、389位のアスパラギンに対するアラニンまたはセリン、424位のセリンに対するアラニン、428位のメチオニンに対するアラニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、またはチロシン、433位のヒスチジンに対するリジン、434位のアスパラギンに対するアラニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリン、トリプトファン、またはチロシン、及び436位のチロシンまたはフェニルアラニンに対するヒスチジンからなる群から選択されるものであり得る。
【0040】
本明細書に記載の抗体または抗原結合断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、変異ヒトFc定常領域は、各々EU付番で、428位にメチオニン及び434位にアスパラギンを含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれかは、配列番号12もしくは14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチド、及び配列番号8もしくは11に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドを含み得るか、またはそれらからなり得る。
【0042】
本開示は、エクリズマブの重鎖可変領域(配列番号7)またはエクリズマブの重鎖領域のCDR(配列番号1〜3)を含む抗体も特徴とし、本明細書に記載の変異ヒトFc定常領域のうちのいずれか、例えば、変異ヒトFc定常領域は、各々EU付番で、428位にメチオニン及び434位にアスパラギンを含む。
【0043】
一実施形態において、抗体または抗原結合断片は、エクリズマブの血清半減期と比べて、ヒトにおいて増加した半減期を有する。本明細書で使用される半減期は、体内の抗体薬物の血漿濃度が2分の1または50%低減されるのにかかる時間として定義される。この血清濃度の50%低減は、循環しており、自然な抗体クリアランスの方法によって除去されない薬物の量を反映する。エクリズマブの半減期は、PNH患者では272+82時間または11.3日であり、aHUS患者では12.1日であると決定された(Soliris処方情報を参照されたい)。本明細書に記載の抗体または断片のヒトにおける半減期は、エクリズマブのヒトにおける半減期と比べて増加し得る。エクリズマブと比べた半減期の増加は、エクリズマブの半減期の少なくとも1.5倍、エクリズマブの半減期の少なくとも2倍、エクリズマブの半減期の少なくとも2.5倍、またはエクリズマブの半減期の少なくとも3倍であり得る。
【0044】
本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、抗体は、ヒトにおいて少なくとも10日以上(例えば、少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40日以上)の血清半減期を有する。この半減期(またはエクリズマブと比べた半減期の延長)は、いくつかの実施形態において、天然に存在するヒトFc定常領域を含む本明細書に記載の抗体によって達成され得る。いくつかの実施形態において、この半減期は、本明細書に記載の変異ヒトFc定常領域を含む抗体と比べて測定される。本明細書に記載の抗体または断片のヒトにおける半減期は、エクリズマブのヒトにおける半減期と比べて増加し得る。本明細書に記載の抗体のヒトにおける半減期は、少なくとも25日、少なくとも26日、少なくとも27日、少なくとも28日、少なくとも29日、少なくとも30日、少なくとも31日、少なくとも32日、少なくとも33日、少なくとも34日、または少なくとも35日である。
【0045】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または断片のうちのいずれかは、ヒト化、完全ヒト、脱免疫化(deimmunized)、またはキメラである。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその断片は、例えば、組換え抗体、単鎖抗体、ダイアボディ、細胞内抗体、Fv断片、Fd断片、Fab断片、Fab’断片、及びF(ab’)
2断片であり得る。
【0046】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその断片のうちのいずれかは、異種部分、例えば糖を含むことができる。例えば、抗体またはその断片は、グリコシル化され得る。この異種部分は、検出可能な標識、例えば、蛍光標識、発光標識、重金属標識、放射性標識、または酵素標識でもあり得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれかは、CHO細胞内で作製され得る。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、検出可能なシアル酸残基を含有しない。
【0048】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれかは、(a)循環中の抗体またはその抗原結合断片の安定化、及び(b)循環中の抗体またはその抗原結合断片の保持、のうちの一方または両方を向上させる部分で修飾され得る。かかる部分は、PEG(PEG化)であり得る。
【0049】
なおも別の態様において、本開示は、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片のうちのいずれかの重鎖及び軽鎖ポリペプチドのうちの一方または両方をコードする核酸を特徴とする。核酸及び細胞(例えば、昆虫細胞、細菌細胞、真菌細胞、または哺乳類細胞)を含むベクター(例えば、クローニングまたは発現ベクター)も特徴とする。本開示は、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれかを生成するための方法を更に提供する。これらの方法は、任意選択で、発現ベクター(組み込みまたは染色体外)を含有する上記細胞(または細胞の培養物)を提供することを含み、このベクターは、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片のうちのいずれかの重鎖及び軽鎖ポリペプチドのうちの一方または両方をコードする核酸を含有する。細胞もしくは細胞の培養物は、核酸によってコードされる抗体またはその抗原結合断片の細胞(もしくは細胞の培養物)による発現を可能にするために十分な条件下、及び時間にわたって培養される。この方法は、抗体またはその抗原結合断片を、細胞(もしくは培養物の細胞)から、または細胞(単数または複数)が培養された培地から単離することを含むこともできる。
【0050】
別の態様において、本開示は、薬学的に許容される担体、及び1つ以上の、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれかを含む、薬学的組成物を特徴とする。
【0051】
別の態様において、本開示は、(i)1つ以上の、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれか、及び(ii)抗体またはその抗原結合断片のヒトへの送達のための手段を含む、治療キットを特徴とする。これらの手段は、例えば、シリンジまたはポンプであり得る。
【0052】
なおも別の態様において、本開示は、ラベルを含む容器、及び1つ以上の、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれかを含む、製品を特徴とし、このラベルは、補体関連病態を有するか、有することが疑われるか、または発症する危険性のあるヒトに組成物が投与されるべきことを示す。この製品は、補体関連病態を有するか、有することが疑われるか、または発症する危険性のあるヒトを治療する際に使用するための、1つ以上の追加の活性治療薬を更に含むことができる。
【0053】
別の態様において、本開示は、補体関連病態に罹患した患者を治療するための方法を特徴とし、この方法は、補体関連病態を治療するために有効な量の、1つ以上の、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれかを対象に投与することを含む。補体関連病態は、例えば、関節リウマチ、抗リン脂質抗体症候群、ループス腎炎、虚血再灌流傷害、非定型溶血性尿毒症症候群、定型溶血性尿毒症症候群、発作性夜間血色素尿症、デンスデポジット病、視神経脊髄炎、多巣性運動ニューロパシー、多発性硬化症、黄斑変性、HELLP症候群、自然流産、血栓性血小板減少性紫斑病、少数免疫性血管炎、表皮水疱症、習慣性流産、外傷性脳損傷、心筋炎、脳血管障害、末梢血管障害、腎血管障害、腸間膜/腸血管障害、血管炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病性腎炎、全身性エリテマトーデス関連血管炎、関節リウマチに関連した血管炎、免疫複合体血管炎、高安病、拡張型心筋症、糖尿病性血管障害、川崎病、静脈ガス塞栓症、ステント留置に続く再狭窄、回転式粥腫切除術、経皮的冠動脈形成術、重症筋無力症、寒冷凝集素病、皮膚筋炎、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、抗リン脂質症候群、グレーブス病、粥状動脈硬化、アルツハイマー病、全身性炎症反応敗血症、敗血症性ショック、脊髄損傷、糸球体腎炎、移植拒絶反応(例えば、腎移植)、橋本甲状腺炎、I型糖尿病、乾癬、天疱瘡、自己免疫溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、デゴス病、及び劇症型抗リン脂質症候群からなる群から選択されるものであり得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、2つの軽鎖ポリペプチド及び2つの重鎖ポリペプチドを含む全抗体を指す。全抗体は、IgM、IgG、IgA、IgD、及びIgE抗体を含む異なる抗体アイソタイプを含む。「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ化またはキメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、脱免疫化抗体、及び完全ヒト抗体を含む。抗体は、様々な種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、オランウータン、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、及びマウスなどの哺乳動物のうちのいずれかにおいて作製され得るか、またはそれから誘導され得る。抗体は、精製抗体または組換え抗体であり得る。
【0055】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」、「抗原結合断片」という用語、または類似語は、標的抗原(例えば、ヒトC5)に結合し、その標的抗原の活性を阻害する能力を保持する抗体の断片を指す。かかる断片としては、例えば、単鎖抗体、単鎖Fv断片(scFv)、Fd断片、Fab断片、Fab’断片、またはF(ab’)
2断片が挙げられる。scFv断片は、scFvが誘導される抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の両方を含む、単一ポリペプチド鎖である。加えて、細胞内抗体、ミニボディ、トリアボディ、及びダイアボディも抗体の定義に含まれ、本明細書に記載の方法での使用に適合可能である。例えば、Todorovska et al.(2001)J Immunol Methods 248(1):47−66、Hudson and Kortt(1999)J Immunol Methods 231(1):177−189、Poljak(1994)Structure 2(12):1121−1123、Rondon and Marasco(1997)Annual Review of Microbiology 51:257−283を参照されたい(各々の開示は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。
【0056】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」という用語は、例えば、ラクダ化単一ドメイン抗体などの単一ドメイン抗体も含む。例えば、Muyldermans et al.(2001)Trends Biochem Sci 26:230−235、Nuttall et al.(2000)Curr Pharm Biotech 1:253−263、Reichmann et al.(1999)J Immunol Meth 231:25−38、PCT出願公開第94/04678号、及び同第94/25591号、ならびに米国特許第6,005,079号を参照されたい(これらの全ては、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。いくつかの実施形態において、この開示は、単一ドメイン抗体が形成されるような修飾を有する、2つのVHドメインを含む単一ドメイン抗体を提供する。
【0057】
いくつかの実施形態において、抗原結合断片は、重鎖ポリペプチドの可変領域及び軽鎖ポリペプチドの可変領域を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗原結合断片は、抗体の軽鎖及び重鎖ポリペプチドのCDRを含む。
本発明は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
単離抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)補体成分ヒトC5に結合し、
(b)C5の、断片C5a及びC5bへの切断を阻害し、
(c)(i)配列番号23に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、(ii)配列番号19に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、(iii)配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、(iv)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、(v)配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び(vi)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む、前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目2)
配列番号12に示される重鎖可変領域、及び配列番号8に示される軽鎖可変領域を含む、項目1に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目3)
変異ヒトFc定常領域であって、前記変異ヒトFc定常領域が誘導された天然ヒトFc定常領域の親和性よりも優れた親和性をもって、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)に結合する、変異ヒトFc定常領域を更に含む、項目1または2に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目4)
前記変異ヒトFc定常領域が、各々EU付番で、428位にメチオニン及び434位にアスパラギンを含む、項目1〜3のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目5)
配列番号13に示される重鎖定常領域を更に含む、項目1〜4のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目6)
配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチド、及び配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドを含む、項目1〜5のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目7)
前記抗体が、ヒトにおいて少なくとも25日の血清半減期を有する、項目1〜6のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目8)
前記抗体またはその抗原結合断片が、pH7.4及び25℃で、0.1nM≦K
D≦1nMの範囲内である親和性解離定数(K
D)をもってヒトC5に結合する、項目1〜7のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目9)
前記抗体またはその抗原結合断片が、pH6.0及び25℃で、K
D≧10nMをもってヒトC5に結合する、項目1〜8のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目10)
[(pH6.0及び25℃でのヒトC5に対する前記抗体またはその抗原結合断片のK
D)/(pH7.4及び25℃でのヒトC5に対する前記抗体またはその抗原結合断片のK
D)]が、25を超える、項目1〜9のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目11)
単離抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)補体成分ヒトC5に結合し、
(b)ヒトC5の、断片C5a及びC5bへの切断を阻害し、
(c)(i)配列番号23に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、(ii)配列番号19に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、(iii)配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、(iv)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、(v)配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び(vi)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含み、
[(pH6.0及び25℃でのヒトC5に対する前記抗体またはその抗原結合断片のK
D)/(pH7.4及び25℃でのヒトC5に対する前記抗体またはその抗原結合断片のK
D)]が、25を超え、
前記変異ヒトFc定常領域が、各々EU付番で、428位にメチオニン及び434位にアスパラギンを含み、
前記抗体が、ヒトにおいて少なくとも25日の血清半減期を有する、前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目12)
前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域ポリペプチド、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、項目11に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目13)
配列番号13に示される重鎖定常領域を更に含む、項目11に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片。
(項目14)
前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチド、及び配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドを含む、単離抗体。
(項目15)
前記抗体が、CHO細胞内で作製される、項目14に記載の前記単離抗体。
(項目16)
前記抗体が、検出可能なシアル酸残基を含有しない、項目15に記載の前記単離抗体。(項目17)
項目14に記載の前記抗体またはその抗原結合断片の前記重鎖ポリペプチドをコードする、核酸。
(項目18)
項目14に記載の前記抗体またはその抗原結合断片の前記重鎖ポリペプチド及び前記軽鎖ポリペプチドの両方をコードする、核酸。
(項目19)
項目17または18に記載の前記核酸を含む、ベクター。
(項目20)
項目17または18に記載の前記核酸を含む、発現ベクター。
(項目21)
項目20に記載の前記発現ベクターを含む、細胞。
(項目22)
抗体またはその抗原結合断片を生成するための方法であって、前記核酸によってコードされた前記抗体または抗原結合断片の項目21に記載の細胞による発現を可能にするために十分な条件下、及び時間にわたって前記細胞を培養することを含む、前記方法。
(項目23)
前記抗体またはその抗原結合断片を単離することを更に含む、項目22に記載の前記方法。
(項目24)
薬学的に許容される担体、及び項目1〜16のいずれか一項に記載の前記抗体またはその抗原結合断片を含む、薬学的組成物。
(項目25)
(i)項目1〜16のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片、及び(ii)前記抗体またはその抗原結合断片の、ヒトへの送達のための手段を含む、治療キット。
(項目26)
前記手段が、シリンジである、項目19に記載の前記治療キット。
(項目27)
製品であって、
ラベルを含む容器と、
(i)項目1〜16のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片を含む組成物と、を含み、前記ラベルが、補体関連病態を有するか、有することが疑われるか、または発症する危険性のあるヒトに前記組成物が投与されるべきことを示す、前記製品。
(項目28)
補体関連病態に罹患した患者を治療するための方法であって、前記補体関連病態を治療するために有効な量の項目1〜16のいずれか一項に記載の前記単離抗体またはその抗原結合断片を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
(項目29)
補体関連病態に罹患した患者を治療するための方法であって、前記補体関連病態を治療するために有効な量の項目24に記載の前記薬学的組成物を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
(項目30)
前記補体関連病態が、関節リウマチ、抗リン脂質抗体症候群、ループス腎炎、虚血再灌流傷害、非定型溶血性尿毒症症候群、定型溶血性尿毒症症候群、発作性夜間血色素尿症、デンスデポジット病、視神経脊髄炎、多巣性運動ニューロパシー、多発性硬化症、黄斑変性、HELLP症候群、自然流産、血栓性血小板減少性紫斑病、少数免疫性血管炎、表皮水疱症、習慣性流産、外傷性脳損傷、心筋炎、脳血管障害、末梢血管障害、腎血管障害、腸間膜/腸血管障害、血管炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病性腎炎、全身性エリテマトーデス関連血管炎、関節リウマチに関連した血管炎、免疫複合体血管炎、高安病、拡張型心筋症、糖尿病性血管障害、川崎病、静脈ガス塞栓症、ステント留置に続く再狭窄、回転式粥腫切除術、経皮的冠動脈形成術、重症筋無力症、寒冷凝集素病、皮膚筋炎、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、抗リン脂質症候群、グレーブス病、粥状動脈硬化、アルツハイマー病、全身性炎症反応敗血症、敗血症性ショック、脊髄損傷、糸球体腎炎、移植拒絶反応、橋本甲状腺炎、I型糖尿病、乾癬、天疱瘡、自己免疫溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、デゴス病、及び劇症型抗リン脂質症候群からなる群から選択される、項目28に記載の前記方法。
【0058】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。好ましい方法及び材料は、下に記載されているが、本明細書に記載のものに類似するか、または相当する方法及び材料を、本開示の方法及び組成物の実施または試験において使用することもできる。本明細書で述べられる全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参照文献は、参照によりそれら全体が組み込まれる。
【0059】
本開示の他の特徴及び利点、例えば、補体関連病態を治療または予防するための方法は、以下の説明、実施例、及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
配列の簡単な説明
【0060】
配列番号1は、エクリズマブの重鎖CDR1のアミノ酸配列を示す(混合型Kabat−Chothia定義の下で定義される)。
配列番号2は、エクリズマブの重鎖CDR2のアミノ酸配列を示す(Kabat定義の下で定義される)。
配列番号3は、エクリズマブの重鎖CDR3のアミノ酸配列を示す(混合型Kabat定義の下で定義される)。
配列番号4は、エクリズマブの軽鎖CDR1のアミノ酸配列を示す(Kabat定義の下で定義される)。
配列番号5は、エクリズマブの軽鎖CDR2のアミノ酸配列を示す(Kabat定義の下で定義される)。
配列番号6は、エクリズマブの軽鎖CDR3のアミノ酸配列を示す(Kabat定義の下で定義される)。
配列番号7は、エクリズマブの重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号8は、エクリズマブ及びBNJ441抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号9は、エクリズマブの重鎖定常領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号10は、エクリズマブの重鎖全体のアミノ酸配列を示す。
配列番号11は、エクリズマブ及びBNJ441抗体の軽鎖全体のアミノ酸配列を示す。
配列番号12は、BNJ441抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号13は、BNJ441抗体の重鎖定常領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号14は、BNJ441抗体の重鎖全体のアミノ酸配列を示す。
配列番号15は、YTE置換を含むIgG2重鎖定常領域変異型のアミノ酸配列を示す。
配列番号16は、配列番号15(上記)に示される重鎖定常領域を含むエクリズマブ変異型の重鎖全体のアミノ酸配列を示す。
配列番号17は、配列番号4に対して8位にグリシンからヒスチジンへの置換を有する、エクリズマブの軽鎖CDR1のアミノ酸配列を示す(Kabat定義の下で定義される)。
配列番号18は、EHG303抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号19は、配列番号2に対して8位のセリンが、ヒスチジンで置換される、エクリズマブの重鎖CDR2のアミノ酸配列を示す。
配列番号20は、いわゆる「FLAG」タグのアミノ酸配列を示す。
配列番号21は、抗原タグとして一般に使用されるポリヒスチジン配列を示す。
配列番号22は、いわゆるヘマグルチニンタグのアミノ酸配列を示す。
配列番号23は、(配列番号1に対して)2位のチロシンが、ヒスチジンで置換される、エクリズマブの重鎖CDR1のアミノ酸配列を示す。
配列番号24は、EHG303抗体の重鎖ポリペプチドアミノ酸配列を示す。
配列番号25は、EHG303抗体の軽鎖ポリペプチドアミノ酸配列を示す。
配列番号26は、EHL049抗体の重鎖ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号27は、EHL049抗体の軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号28は、EHL000重鎖ポリペプチドアミノ酸配列を示す。
配列番号29は、EHL000抗体の軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号30は、BHL006の軽鎖ポリペプチドアミノ酸配列を示す。
配列番号31は、BHL006抗体の重鎖ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号32は、BHL009抗体の軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号33は、BHL009抗体の重鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号34は、BHL0011抗体の軽鎖のアミノ酸配列を示す。
配列番号35は、BHL011抗体の重鎖のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本開示は、とりわけ、終末補体(例えば、C5b−9 TCCのアセンブリ及び/または活性)ならびにC5aアナフィラトキシン媒介炎症を阻害するため、ひいては補体関連障害を治療するために有用な抗体を提供する。抗体は、エクリズマブと比べて、例えば、ヒトにおける血清半減期の増加を含む、いくつかの向上した特性を有する。決して限定することを意図しないが、例示的な抗体、複合体、薬学的組成物、及び製剤、ならびに上記のうちのいずれかを使用するための方法は、以下で詳しく説明され、実施例において例示される。
【0063】
抗体
本明細書に記載の抗C5抗体は、補体成分C5(例えば、ヒトC5)に結合し、C5の断片C5a及びC5bへの切断を阻害する。上記のとおり、かかる抗体は、例えば、治療目的で使用される他の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)と比べて向上した薬物動態特性も有する。
【0064】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、(ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、(iii)配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、(iv)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、(v)配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び(vi)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含み、(i)〜(vi)の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上)のアミノ酸(複数可)が、異なるアミノ酸で置換される。
【0065】
CDRの正確な境界は、異なる方法に従って別様に定義された。いくつかの実施形態において、軽鎖または重鎖可変ドメイン内のCDRまたはフレームワーク領域の位置は、Kabatら[(1991)「Sequences of Proteins of Immunological Interest」NIH Publication No.91−3242、U.S. Department of Health and Human Services、Bethesda,MD]によって定義されるとおりであり得る。かかる場合において、CDRは、「Kabat CDR」(例えば、「Kabat LCDR2」または「Kabat HCDR1」)と称され得る。いくつかの実施形態において、軽鎖または重鎖可変領域のCDRの位置は、Chothia et al.(1989)Nature 342:877−883によって定義されるとおりであり得る。したがって、これらの領域は、「Chothia CDR」(例えば、「Chothia LCDR2」または「Chothia HCDR3」)と称され得る。いくつかの実施形態において、軽鎖及び重鎖可変領域のCDRの位置は、Kabat−Chothia混合定義によって定義されるとおりであり得る。かかる実施形態において、これらの領域は、「混合型Kabat−Chothia CDR」と称され得る。Thomasら[(1996)Mol Immunol 33(17/18):1389−1401]は、Kabat及びChothia定義によるCDR境界の特定を例示する。
【0066】
任意のアミノ酸が、任意の他のアミノ酸で置換され得る。いくつかの実施形態において、この置換は、保存的置換である。保存的置換は、典型的に、以下の群、すなわちグリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン、及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン、及びトレオニン;リジン、ヒスチジン、及びアルギニン;ならびにフェニルアラニン及びチロシン内の置換を含む。いくつかの実施形態において、1つ以上のアミノ酸がヒスチジンで置換される。
【0067】
いくつかの実施形態において、重鎖CDR1の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のアミノ酸が、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、重鎖CDR2の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のアミノ酸が、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、重鎖CDR3の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のアミノ酸が、異なるアミノ酸で置換される。
【0068】
いくつかの実施形態において、軽鎖CDR1の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のアミノ酸が、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、軽鎖CDR2の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のアミノ酸が、異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、軽鎖CDR3の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のアミノ酸が、異なるアミノ酸で置換される。
【0069】
いくつかの実施形態において、置換は、配列番号1に対して1位のグリシン、配列番号1に対して2位のチロシン、配列番号1に対して3位のイソロイシン、配列番号1に対して4位のフェニルアラニン、配列番号1に対して5位のセリン、配列番号1に対して6位のアスパラギン、配列番号1に対して7位のチロシン、配列番号1に対して8位のトリプトファン、配列番号1に対して9位のイソロイシン、配列番号1に対して10位のグルタミン、配列番号2に対して1位のグルタミン酸、配列番号2に対して2位のイソロイシン、配列番号2に対して3位のロイシン、配列番号2に対して4位のプロリン、配列番号2に対して5位のグリシン、配列番号2に対して6位のセリン、配列番号2に対して7位のグリシン、配列番号2に対して8位のセリン、配列番号2に対して9位のトレオニン、配列番号2に対して10位のグルタミン酸、配列番号2に対して11位のチロシン、配列番号2に対して12位のトレオニン、配列番号2に対して13位のグルタミン酸、配列番号2に対して14位のアスパラギン、配列番号2に対して15位のフェニルアラニン、配列番号2に対して16位のリジン、配列番号2に対して17位のアスパラギン酸、配列番号3に対して1位のチロシン、配列番号3に対して2位のフェニルアラニン、配列番号3に対して3位のフェニルアラニン、配列番号3に対して4位のグリシン、配列番号3に対して5位のセリン、配列番号3に対して6位のセリン、配列番号3に対して7位のプロリン、配列番号3に対して8位のアスパラギン、配列番号3に対して9位のトリプトファン、配列番号3に対して10位のチロシン、配列番号3に対して11位のフェニルアラニン、配列番号3に対して12位のアスパラギン酸、及び配列番号3に対して13位のバリンからなる群から選択されるアミノ酸位置で行われる。
【0070】
いくつかの実施形態において、配列番号8に対して31位のグリシンは、異なるアミノ酸で置換される。例えば、エクリズマブの軽鎖のCDR1における下線のグリシン、すなわち、
【化1】
は、異なるアミノ酸で置換され得る。この置換は、グリシンの代わりのヒスチジン、すなわち、
【化2】
であり得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、配列番号7に対して26位のグリシン、配列番号7に対して27位のチロシン、配列番号7に対して28位のイソロイシン、配列番号7に対して29位のフェニルアラニン、配列番号7に対して30位のセリン、配列番号7に対して31位のアスパラギン、配列番号7に対して32位のチロシン、配列番号7に対して33位のトリプトファン、配列番号7に対して34位のイソロイシン、配列番号7に対して35位のグルタミン、配列番号7に対して50位のグルタミン酸、配列番号7に対して51位のイソロイシン、配列番号7に対して52位のロイシン、配列番号7に対して53位のプロリン、配列番号7に対して54位のグリシン、配列番号7に対して55位のセリン、配列番号7に対して56位のグリシン、配列番号7に対して57位のセリン、配列番号7に対して58位のトレオニン、配列番号7に対して59位のグルタミン酸、配列番号7に対して60位のチロシン、配列番号7に対して61位のトレオニン、配列番号7に対して62位のグルタミン酸、配列番号7に対して63位のアスパラギン、配列番号7に対して64位のフェニルアラニン、配列番号7に対して65位のリジン、配列番号7に対して66位のアスパラギン酸、配列番号7に対して99位のチロシン、配列番号7に対して100位のフェニルアラニン、配列番号7に対して101位のフェニルアラニン、配列番号7に対して102位のグリシン、配列番号7に対して103位のセリン、配列番号7に対して104位のセリン、配列番号7に対して105位のプロリン、配列番号7に対して106位のアスパラギン、配列番号7に対して107位のトリプトファン、配列番号7に対して108位のチロシン、配列番号7に対して109位のフェニルアラニン、配列番号7に対して110位のアスパラギン酸、及び配列番号7に対して111位のバリンからなる群から選択されるアミノ酸位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、抗C5抗体は、上記の置換のうちのいずれかの2つ以上(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上)、及び任意の組み合わせを含む。
【0072】
いくつかの実施形態において、抗C5抗体は、エクリズマブに関して以下の基準を満たす少なくとも1つの置換を含む。
(1)pH7.4での会合動態の最大変動が、エクリズマブについて観察される800秒での平均化ピーク相シフトと比較して、800秒で33%小さいピーク相シフト、
(2)pH7.4での解離動態の最大変動が、エクリズマブについて観察される800秒での平均化ピーク相シフトと比較して、800秒超で3倍以下のピーク相シフトの低減、及び
(3)pH6.0での解離動態の最小変化が、エクリズマブについて観察される800秒での平均化ピーク相シフトと比較して、800秒超で少なくとも3倍低減したピーク相シフト。
例えば、上記の基準(1)に関して、エクリズマブとの会合の800秒後の平均化ピーク相シフトが、約0.75nMである場合、0.5nM未満の相シフトを有する(例えば、2回以上再現した)試験抗体は、上記基準を満たさない。対照的に、800秒で0.5nMを超えるピーク相シフトを有する抗C5抗体は、第1の基準を満たす。かかる置換は、pH7.4でのエクリズマブのk
a及びk
dからわずかに逸脱する抗C5抗体を生じるが、pH6.0でのエクリズマブのk
dからより著しく逸脱する。
【0073】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、配列番号8に対して31位のグリシン、配列番号8に対して33位のロイシン、配列番号8に対して91位のバリン、及び配列番号8に対して94位のトレオニンからなる群から選択されるアミノ酸位置に少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、または4つ)のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、配列番号7に対して27位のチロシン、配列番号7に対して34位のイソロイシン、配列番号7に対して52位のロイシン、及び配列番号7に対して57位のセリンからなる群から選択されるアミノ酸位置に少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のアミノ酸置換(複数可)を含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、その軽鎖可変領域内に、以下から選択される少なくとも1つの置換、すなわち、配列番号8に対して31位のグリシン、配列番号8に対して33位のロイシン、配列番号8に対して91位のバリン、及び配列番号8に対して94位のトレオニンを含む。下の表1を参照されたい。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、その重鎖可変領域内に、以下から選択される少なくとも1つの置換、すなわち、配列番号7に対して27位のチロシン、配列番号7に対して34位のイソロイシン、配列番号7に対して52位のロイシン、及び配列番号7に対して57位のセリンを含む。下の表1を参照されたい。
【0075】
いくつかの実施形態において、抗体は、配列番号1〜6によって定義されるCDRセットに対して、少なくとも2つ(例えば、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、または10)のアミノ酸置換を含む。故に、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、表1に記載される組み合わせ、及びアミノ酸位置に2つ以上の置換を含む。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0076】
表1に記載される置換は、指示されたアミノ酸残基とは異なる任意のアミノ酸に対してであり得る。いくつかの実施形態において、異なるアミノ酸は、ヒスチジンである。
【0077】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、配列番号7に対して27位のチロシン、配列番号7に対して34位のイソロイシン、配列番号7に対して52位のロイシン、及び配列番号7に対して57位のセリンからなる群から選択されるアミノ酸位置で行われる置換を含む。いくつかの実施形態において、配列番号7に対して27位のチロシン及び配列番号7に対して52位のロイシンの両方は、各々異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、配列番号7に対して34位のイソロイシン及び配列番号7に対して57位のセリンの両方は、各々異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、配列番号7に対して34位のイソロイシン及び配列番号7に対して52位のロイシンは、各々異なるアミノ酸で置換される。いくつかの実施形態において、配列番号7に対して27位のチロシン及び配列番号7に対して57位のセリンの両方は、各々異なるアミノ酸で置換される。本明細書に記載の抗C5抗体のうちのいずれかのいくつかの実施形態において、異なるアミノ酸は、ヒスチジンである。例えば、27位のチロシン及び57位のセリンは、各々ヒスチジンで置換され得る。
【0078】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列、すなわち、
【化3】
を含むか、またはそれからなる重鎖CDR1を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列、すなわち、
【化4】
を含むか、またはそれからなる重鎖CDR2を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列、すなわち、
【化5】
を含む重鎖可変領域を含む。
【0079】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列、すなわち、
【化6】
を含む軽鎖可変領域を含む。
【0080】
本明細書に記載の抗C5抗体は、pH7.4及び25℃で(ならびに、そうでなければ生理的条件下で)、少なくとも0.1(例えば、少なくとも0.15、0.175、0.2、0.25、0.275、0.3、0.325、0.35、0.375、0.4、0.425、0.45、0.475、0.5、0.525、0.55、0.575、0.6、0.625、0.65、0.675、0.7、0.725、0.75、0.775、0.8、0.825、0.85、0.875、0.9、0.925、0.95、または0.975)nMの親和性解離定数(K
D)をもってC5に結合することができる。いくつかの実施形態において、抗C5抗体のK
Dは、1nM以下(例えば、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、または0.2nM以下)である。
【0081】
本明細書に記載の任意の抗C5抗体のいくつかの実施形態では、[pH6.0、CでのC5に対する抗体のK
D/(pH7.4、25℃でのC5に対する抗体のK
D)]は、21(例えば、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、または8000)を超える。
【0082】
抗体がタンパク質抗原に結合するかどうか、及び/または抗体のタンパク質抗原に対する親和性を決定するための方法は、当該技術分野において既知である。例えば、抗体のタンパク質抗原に対する結合は、限定されないが、ウェスタンブロット、ドットブロット、表面プラズモン共鳴(SPR)方法(例えば、BIAcore system、Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,Sweden and Piscataway,N.J.)、または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などの様々な技法を使用して検出及び/または定量され得る。例えば、Harlow and Lane(1988)″Antibodies:A Laboratory Manual″Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.、Benny K.C.Lo(2004)″Antibody Engineering:Methods and Protocols,″Humana Press(ISBN:1588290921)、Borrebaek(1992)″Antibody Engineering,A Practical Guide,″W.H.Freeman and Co.,NY、Borrebaek(1995)″Antibody Engineering,″2
nd Edition,Oxford University Press,NY,Oxford、Johne et al.(1993)J Immunol Meth 160:191−198、Jonsson et al.(1993)Ann Biol Clin 51:19−26、及びJonsson et al.(1991)Biotechniques 11:620−627を参照されたい。加えて、親和性(例えば、解離定数及び会合定数)を測定するための方法は、実施例に記載される。
【0083】
本明細書で使用される場合、「k
a」という用語は、抗原に対する抗体の会合の速度定数を指す。「k
d」という用語は、抗原/抗原複合体からの抗体の解離の速度定数を指す。そして「K
D」という用語は、抗体−抗原相互作用の平衡解離定数を指す。平衡解離定数は、動態速度定数の比から推測されるK
D=k
a/k
d。かかる決定は、好ましくは25℃または37℃で測定される(実施例を参照されたい)。例えば、ヒトC5に結合する抗体の動態は、表面プラズモン共鳴(SPR)を介して、BIAcore 3000器具上で、抗体を固定するための抗Fc捕捉方法を使用してpH8.0、7.4、7.0、6.5、及び6.0で決定され得る。
【0084】
本明細書に記載の抗C5抗体は、C5タンパク質(例えば、ヒトC5タンパク質)のC5a及び/またはC5b活性断片の生成または活性を遮断することにおいて活性を有し得る。この遮断効果を通じて、抗体は、C5aの炎症促進効果、及び細胞の表面でのC5b−9膜侵襲複合体(MAC)の生成を阻害する。
【0085】
本明細書に記載の特定の抗体が、C5切断を阻害するかどうかを決定するための方法は、当該技術分野において既知である。ヒト補体成分C5の阻害は、対象の体液中の補体の細胞溶解能力を低減し得る。体液(複数可)中に存在する補体の細胞溶解能力のかかる低減は、当該技術分野において周知の方法によって、例えば、Kabat and Mayer(eds.),″Experimental Immunochemistry,2
nd Edition,″135−240,Springfield,IL,CC Thomas(1961),pages 135−139によって記載される溶血アッセイなどの従来の溶血アッセイ、または例えば、Hillmen et al.(2004)N Engl J Med 350(6):552に記載されるニワトリ赤血球溶血方法などの従来のアッセイの変化型などによって測定され得る。候補化合物が、ヒトC5のC5a及びC5b形態への切断を阻害するかどうかを決定するための方法は、当該技術分野において既知であり、例えば、Moongkarndi et al.(1982)Immunobiol 162:397、Moongkarndi et al.(1983)Immunobiol 165:323、Isenman et al.(1980)J Immunol 124(1):326−31、Thomas et al.(1996)Mol Immunol 33(17−18):1389−401、及びEvans et al.(1995)Mol Immunol 32(16):1183−95に記載されている。例えば、体液中のC5a及びC5bの濃度及び/または生理活性は、当該技術分野において周知の方法によって測定され得る。C5a濃度または活性を測定するための方法としては、例えば、走化性アッセイ、RIA、またはELISAが挙げられる(例えば、Ward and Zvaifler(1971)J Clin Invest 50(3):606−16及びWurzner et al.(1991)Complement Inflamm 8:328−340を参照されたい)。C5bの場合、本明細書で考察される溶血アッセイまたは可溶性C5b−9に対するアッセイを使用することができる。当該技術分野において既知の他のアッセイを使用することもできる。これらまたは他の好適な種類のアッセイを使用して、ヒト補体成分C5を阻害することができる候補薬をスクリーニングすることができる。
【0086】
限定されないが、ELISAなどの免疫学的技法を使用して、C5及び/またはその分割生成物のタンパク質濃度を測定し、C5の生物学的に活性な生成物への変換を阻害する、抗C5抗体の能力を決定することができる。いくつかの実施形態において、C5aの生成が測定される。いくつかの実施形態において、C5b−9新エピトープ特異的抗体を使用して、終末補体の形成を検出する。
【0087】
溶血アッセイを使用して、補体活性化に対する抗C5抗体の阻害活性を決定することができる。インビトロでの血清試験溶液中の古典補体経路媒介溶血に対する抗C5抗体の効果を決定するために、例えば、ヘモリシンで被覆されたヒツジ赤血球、または抗ニワトリ赤血球抗体で感作されたニワトリ赤血球を、標的細胞として使用する。溶血のパーセンテージは、阻害剤の非存在下で起こる溶血に等しい100%溶血を考慮することによって正規化される。いくつかの実施形態において、古典補体経路は、例えば、Wieslab(登録商標)古典経路補体キット(Wieslab(登録商標)COMPL CP310、Euro−Diagnostica,Sweden)において用いられる、ヒトIgM抗体によって活性化される。簡単に言うと、試験血清を、ヒトIgM抗体の存在下、抗C5抗体でインキュベートする。生成されるC5b−9の量は、混合物を酵素複合抗C5b−9抗体及び蛍光発生基質と接触させること、ならびに適切な波長での吸光度を測定することによって測定される。対照として、試験血清を、抗C5抗体の非存在下でインキュベートする。いくつかの実施形態において、試験血清は、C5ポリペプチドで再構成されたC5欠乏血清である。
【0088】
代替経路媒介溶血に対する抗C5抗体の影響を決定するために、未感作のウサギまたはモルモット赤血球を標的細胞として使用する。いくつかの実施形態において、血清試験溶液は、C5ポリペプチドで再構成されたC5欠乏血清である。溶血のパーセンテージは、阻害剤の非存在下で起こる溶血に等しい100%溶血を考慮することによって正規化される。いくつかの実施形態において、代替補体経路は、例えば、Wieslab(登録商標)代替経路補体キット(Wieslab(登録商標)COMPL AP330、Euro−Diagnostica,Sweden)において用いられる、リポ多糖分子によって活性化される。簡単に言うと、試験血清を、リポ多糖の存在下、抗C5抗体でインキュベートする。生成されるC5b−9の量は、混合物を酵素複合抗C5b−9抗体及び蛍光発生基質と接触させること、ならびに適切な波長での蛍光を測定することによって測定される。対照として、試験血清を、抗C5抗体の非存在下でインキュベートする。
【0089】
いくつかの実施形態において、C5活性、またはその阻害は、CH50eqアッセイを使用して定量される。CH50eqアッセイは、血清中の総古典補体活性を測定するための方法である。この試験は、抗体感作赤血球を古典補体経路の活性剤として、及び試験血清の様々な希釈液を使用して、50%溶解(CH50)をもたらすために必要な量を決定する溶解アッセイである。溶血パーセントは、例えば、分光光度計を使用して決定され得る。CH50eqアッセイは、終末補体複合体(TCC)自体が測定される溶血に直接関与するため、TCC形成の間接的尺度を提供する。
【0090】
このアッセイは周知であり、当業者によって一般的に実施されている。簡単に言うと、古典補体経路を活性化するために、未希釈の血清試料(例えば、再構成ヒト血清試料)を、抗体感作の赤血球を含有するマイクロアッセイウェルに添加し、それによりTCCを生成する。次に、活性化した血清を、捕捉試薬(例えば、TCCの1つ以上の成分に結合する抗体)で被覆されたマイクロアッセイウェル内で希釈する。活性化試料中に存在するTCCは、マイクロアッセイウェルの表面を被覆するモノクローナル抗体に結合する。ウェルを洗浄し、各ウェルに、検出可能に標識され、結合したTCCを認識する検出試薬を添加する。検出可能な標識は、例えば、蛍光標識または酵素標識であり得る。このアッセイ結果は、1ミリリットル当たりのCH50単位当量(CH50U Eq/mL)で表される。
【0091】
阻害は、例えば、それが終末補体活性に関する場合、類似条件下、及び等モル濃度での対照抗体(またはその抗原結合断片)の影響と比較して、例えば、溶血アッセイまたはCH50eqアッセイにおいて、終末補体の活性の少なくとも5%(例えば、少なくとも6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、または60%)の減少を含む。本明細書で使用される場合、実質的な阻害は、少なくとも40%(例えば、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95%以上)の所与の活性(例えば、終末補体活性)の阻害を指す。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、エクリズマブのCDR(すなわち、配列番号1〜6)に対して1つ以上のアミノ酸置換を含むが、溶血アッセイまたはCH50eqアッセイにおいて、エクリズマブの補体阻害活性の少なくとも30%(例えば、少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95%)を保持する。
【0092】
本明細書に記載の抗C5抗体は、ヒトにおいて、少なくとも20日(例えば、少なくとも21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36日)の血清半減期を有する。抗体の血清半減期を測定するための方法は、当該技術分野において既知であり、実施例において例示される。例えば、Dall’Acqua et al.(2006)J Biol Chem 281:23514−23524、Hinton et al.(2004)J Biol Chem 279:6213−6216、Hinton et al.(2006)J Immunol 176:346−356、及びPetkova et al.(2006)Int Immunol 18(12):1759−69を参照されたい(各々の開示は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、例えば、実施例に記載のマウスモデル系のうちの1つ(例えば、C5欠乏/NOD/scidマウスまたはhFcRnトランスジェニックマウスモデル系)において測定されるように、エクリズマブの血清半減期よりも少なくとも20%(例えば、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、250、300、400、500%)長い血清半減期を有する。
【0093】
Fc領域に対する修飾
本明細書に記載の抗C5抗体は、いくつかの実施形態において、変異ヒトFc定常領域が誘導された天然ヒトFc定常領域の親和性よりも優れた親和性をもって、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)に結合する変異ヒトFc定常領域を含むことができる。例えば、Fc定常領域は、変異ヒトFc定常領域が誘導された天然ヒトFc定常領域と比べて、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、または8以上)のアミノ酸置換を含むことができる。この置換は、相互作用のpH依存を維持しながら、pH6.0において、変異Fc定常領域を含むIgG抗体の、FcRnへの結合親和性を増加させることができる。例えば、Hinton et al.(2004)J Biol Chem 279:6213−6216、及びDatta−Mannan et al.(2007)Drug Metab Dispos 35:1−9を参照されたい。抗体のFc定常領域内の1つ以上の置換が(相互作用のpH依存を維持しながら)pH6.0において、FcRnについてのFc定常領域の親和性を増加させるかどうかを試験するための方法は、当該技術分野において既知であり、実施例において例示される。例えば、Datta−Mannan et al.(2007)J Biol Chem 282(3):1709−1717、国際公開第98/23289号、国際公開第97/34631号、及び米国特許第6,277,375号を参照されたい(各々の開示は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。
【0094】
FcRnについての抗体Fc定常領域の結合親和性を強化する置換は、当該技術分野において既知であり、例えば、(1)Dall’Acqua et al.(2006)J Biol Chem 281:23514−23524に記載のM252Y/S254T/T256E三重置換、(2)Hinton et al.(2004)J Biol Chem 279:6213−6216及びHinton et al.(2006)J Immunol 176:346−356に記載のM428LまたはT250Q/M428L置換、ならびに(3)Petkova et al.(2006)Int Immunol 18(12):1759−69に記載のN434AまたはT307/E380A/N434A置換が挙げられる。追加の置換対合:P257I/Q311I、P257I/N434H、及びD376V/N434Hは、例えば、Datta−Mannan et al.(2007)J Biol Chem 282(3):1709−1717に記載されている(その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0095】
いくつかの実施形態において、変異定常領域は、バリンに対してEUアミノ酸残基255に置換を有する。いくつかの実施形態において、変異定常領域は、アスパラギンに対してEUアミノ酸残基309に置換を有する。いくつかの実施形態において、変異定常領域は、イソロイシンに対してEUアミノ酸残基312に置換を有する。いくつかの実施形態において、変異定常領域は、EUアミノ酸残基386に置換を有する。
【0096】
いくつかの実施形態において、変異Fc定常領域は、それが誘導された天然定常領域と比べて、30以下(例えば、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、または2以下)のアミノ酸置換、挿入、または欠失を含む。いくつかの実施形態において、変異Fc定常領域は、M252Y、S254T、T256E、N434S、M428L、V259I、T250I、及びV308Fからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、変異ヒトFc定常領域は、各々EU付番で、428位にメチオニン、及び434位にアスパラギンを含む。いくつかの実施形態において、変異Fc定常領域は、例えば、米国特許第8,088,376号に記載のように、428L/434S二重置換を含む。
【0097】
いくつかの実施形態において、変異定常領域は、天然ヒトFc定常領域と比べて、アミノ酸位置237、238、239、248、250、252、254、255、256、257、258、265、270、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、325、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、または436(EU付番)に置換を含む。いくつかの実施形態において、この置換は、全てEU付番で、237位のグリシンに対するメチオニン、238位のプロリンに対するアラニン、239位のセリンに対するリジン、248位のリジンに対するイソロイシン、250位のトレオニンに対するアラニン、フェニルアラニン、イソロイシン、メチオニン、グルタミン、セリン、バリン、トリプトファン、またはチロシン、252位のメチオニンに対するフェニルアラニン、トリプトファン、またはチロシン、254位のセリンに対するトレオニン、255位のアルギニンに対するグルタミン酸、256位のトレオニンに対するアスパラギン酸、グルタミン酸、またはグルタミン、257位のプロリンに対するアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン、トレオニン、またはバリン、258位のグルタミン酸に対するヒスチジン、265位のアスパラギン酸に対するアラニン、270位のアスパラギン酸に対するフェニルアラニン、286位のアスパラギンに対するアラニンまたはグルタミン酸、289位のトレオニンに対するヒスチジン、297位に対するアスパラギンに対するアラニン、298位のセリンに対するグリシン、303位のバリンに対するアラニン、305位のバリンに対するアラニン、307位のトレオニンに対するアラニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、バリン、トリプトファン、またはチロシン、308位のバリンに対するアラニン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、またはトレオニン、309位のロイシンまたはバリンに対するアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、またはアルギニン、311位のグルタミンに対するアラニン、ヒスチジン、またはイソロイシン、312位のアスパラギン酸に対するアラニンまたはヒスチジン、314位のロイシンに対するリジンまたはアルギニン、315位のアスパラギンに対するアラニンまたはヒスチジン、317位のリジンに対するアラニン、325位のアスパラギンに対するグリシン、332位のイソロイシンに対するバリン、334位のリジンに対するロイシン、360位のリジンに対するヒスチジン、376位のアスパラギン酸に対するアラニン、380位のグルタミン酸に対するアラニン、382位のグルタミン酸に対するアラニン、384位のアスパラギンまたはセリンに対するアラニン、 385位のグリシンに対するアスパラギン酸またはヒスチジン、386位のグルタミンに対するプロリン、387位のプロリンに対するグルタミン酸、389位のアスパラギンに対するアラニンまたはセリン、424位のセリンに対するアラニン、428位のメチオニンに対するアラニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、またはチロシン、433位のヒスチジンに対するリジン、434位のアスパラギンに対するアラニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリン、トリプトファン、またはチロシン、及び436位のチロシンまたはフェニルアラニに対するヒスチジンからなる群から選択される。
【0098】
本明細書に記載の抗C5抗体は、いくつかの実施形態において、配列番号12もしくは14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチド、及び/または配列番号8もしくは11に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドを含むことができる。
【0099】
抗C5抗体及びその抗原結合断片を生成するための方法
本開示は、本明細書に記載の抗C5抗体及びその抗原結合断片のうちのいずれかを生成するための方法も特徴とする。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体を調製するための方法は、対象(例えば、非ヒト哺乳類)に適切な免疫原で免疫付与することを含み得る。本明細書に記載の抗体のうちのいずれかを生成するための好適な免疫原は、本明細書に記載される。例えば、C5に結合する抗体を生成するために、熟練者は、好適な対象(例えば、ラット、マウス、アレチネズミ、ハムスター、イヌ、ネコ、ブタ、ヤギ、ウマ、または非ヒト霊長類などの非ヒト哺乳類)に、完全長ヒトC5ポリペプチドなどの完全長C5にポリペプチドで免疫付与することができる。いくつかの実施形態において、非ヒト哺乳類は、C5欠乏であり、例えば、Levy and Ladda(1971)Nat New Biol 229(2):51−52、Crocker et al.(1974)J Clin Pathol 27(2):122−124、Wetsel et al.(1990)J Biol Chem 265:2435−2440、及びJungi and Pepys(1981)Immunology 43(2):271−279に記載のC5欠乏マウスである。
【0100】
好適な対象(例えば、非ヒト哺乳動物)は、哺乳動物による抗体の生成を誘発するために十分な回数の後次追加免疫とともに、適切な抗原で免疫付与され得る。免疫原は、補助剤とともに対象(例えば、非ヒト哺乳動物)に投与することができる。対象において抗体を生成する際に有用な補助剤には、タンパク質補助剤、細菌補助剤、例えば、全細菌(BCG、コリネバクテリウム・パルバム、またはサルモネラ・ミネソタ)、ならびに結核菌の細胞壁骨格、トレハロースジミコレート、モノホスホリル脂質A、メタノール抽出可能な残基(MER)を含む細菌成分、完全または不完全フロイント補助剤、ウイルス補助剤、化学補助剤、例えば、水酸化アルミニウム、及びヨード酢酸塩及びコレステリルヘミスクシナートが挙げられるが、これらに限定されない。免疫反応を引き起こすための方法において使用され得る他の補助剤としては、例えば、コレラ毒素及びパラポックスウイルスタンパク質が挙げられる。Bieg et al.(1999)Autoimmunity 31(1):15−24も参照されたい。また例えば、Lodmell et al.(2000)Vaccine 18:1059−1066、Johnson et al.(1999)J Med Chem 42:4640−4649、Baldridge et al.(1999)Methods 19:103−107、及びGupta
et al.(1995)Vaccine 13(14):1263−1276も参照されたい。
【0101】
いくつかの実施形態において、これらの方法は、免疫原に結合するモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞株を調製することを含む。例えば、実験用マウスなどの好適な哺乳動物に、上記のようなC5ポリペプチドで免疫付与する。免疫付与した哺乳動物の抗体生成細胞(例えば、脾臓のB細胞)は、免疫原の少なくとも1回の追加免疫の2〜4日後に単離することができ、次に、好適な骨髄腫細胞株の細胞との融合前に、培地中で短期間成長させられ得る。これらの細胞は、例えば、ワクチニアウイルスまたはポリエチレングリコールなどの融合促進剤の存在下で融合され得る。融合において得られたハイブリッド細胞はクローン化され、所望の抗体を分泌する細胞クローンが選択される。例えば、好適な免疫原で免疫付与したBalb/cマウスの脾臓細胞は、骨髄腫細胞株PAIまたは骨髄腫細胞株Sp2/0−Ag14の細胞と融合され得る。融合後、正常な骨髄腫細胞が所望のハイブリドーマ細胞を過剰増殖させるのを防ぐために、一定間隔で選択培地、例えばHAT培地を補充した好適な培養培地中で細胞を増殖させる。次に、得られたハイブリッド細胞を、所望の抗体、例えば、C5に結合し、C5の断片C5a及びC5bへの切断を阻害する抗体の分泌についてスクリーニングする。
【0102】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれかは、CHO細胞中で作製され得る。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、検出可能なシアル酸残基を含有しない。
【0103】
いくつかの実施形態において、熟練者は、例えば、米国特許第6,300,064号(Knappik et al.、Morphosys AG)及びSchoonbroodt et al.(2005)Nucleic Acids Res 33(9):e81に記載されるように、非免疫優位ライブラリから抗C5抗体を特定することができる.
【0104】
上記方法を使用してスクリーニングされる抗体の亜集団は、当該技術分野において既知の任意の免疫学または生化学に基づく方法を使用して、特定の免疫原(例えば、C5)に対するそれらの特異性及び結合親和性について特徴付けられ得る。例えば、天然の完全長C5への抗体の特異的結合は、C5aと比較して、例えば、限定されないが、ELISAアッセイ、SPRアッセイ、免疫沈降アッセイ、親和性クロマトグラフィー、及び上記の平衡透析などの免疫学または生化学に基づく方法を使用して決定されてもよい。抗体の免疫特異的結合及び交差反応性を分析するために使用され得る免疫アッセイとしては、ウェスタンブロット、RIA、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体固定アッセイ、免疫放射定量アッセイ、蛍光イムノアッセイ、及びタンパク質Aイムノアッセイなどの技法を使用する競合及び非競合アッセイシステムが挙げられるが、これらに限定されない。かかるアッセイは、当該技術分野において日常的であり、周知である。
【0105】
抗体は、抗体のC5との相互作用の動態パラメータを特徴付けるために、当該技術分野において既知の任意のSPRに基づくアッセイを使用してアッセイすることもできる。BIAcore器具(Biacore AB、Uppsala,Sweden)、lAsys器具(Affinity Sensors、Franklin,Massachusetts)、IBISシステム(Windsor Scientific Limited、Berks,UK)、SPR−CELLIAシステム(Nippon Laser and Electronics Lab、Hokkaido,Japan)、及びSPR Detector Spreeta(Texas Instruments、Dallas,Texas)を含むがこれらに限定されない市販の任意のSPR器具を、本明細書に記載の方法において使用することができる。例えば、Mullett et al.(2000)Methods 22:77−91、Dong et al.(2002)Reviews in Mol Biotech 82:303−323、Fivash et al.(1998)Curr Opin Biotechnol 9:97−101、及びRich et al.(2000)Curr Opin Biotechnol 11:54−61を参照されたい。
【0106】
上記方法を使用して、例えば、抗C5抗体が、完全長の天然C3及び/またはC4タンパク質に結合しないかどうかを決定することもできることが理解される。
【0107】
上記参照文献に記載されるように、ファージ選択後、ファージからの抗体コード領域を単離し、それを使用して、ヒト抗体を含む全抗体、または任意の所望の断片を生成して、例えば、下で詳述されるように、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、及び細菌を含む任意の所望の宿主内で発現させることができる。例えば、Fab、Fab’、及びF(ab’)
2断片を組換えにより生成するための技法は、当該技術分野において既知の方法、例えば、PCT公開第92/22324号、Mullinax et al.(1992)BioTechniques 12(6):864−869、及びSawai et al.(1995)Am J Repr Immunol 34:26−34、ならびにBetter et al.(1988)Science 240:1041−1043に開示されるものなどを使用して用いることもできる。単鎖Fv及び抗体を生成するために使用することができる技法の例としては、米国特許第4,946,778号及び同第5,258,498号、Huston et al.(1991)Methods in Enzymology 203:46−88、Shu et al.(1993)Proc Nat Acad Sci USA 90:7995−7999、及びSkerra et al.(1988)Science 240:1038−1040に記載されるものが挙げられる。
【0108】
いくつかの実施形態において、エピトープマッピングを使用して、例えば、抗体と相互作用するC5の領域を特定することができる。特定の抗体が結合するエピトープを特定するための方法も当該技術分野において既知であり、上に記載される。
【0109】
本明細書で特定される抗体及びその断片は、「キメラ」であり得るか、または「キメラ」にされ得る。キメラ抗体及びその抗原結合断片は、2つ以上の異なる種(例えば、マウス及びヒト)からの部分を含む。キメラ抗体は、ヒト定常ドメインに融合した所望の特異性のマウス可変領域を用いて生成され得る(例えば、米国特許第4,816,567号)。この方法で、非ヒト抗体を修飾して、それらがヒト臨床適用に対してより好適になるようにすることができる(例えば、対象における補体媒介障害を治療または予防するための方法)。
【0110】
本開示のモノクローナル抗体は、非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態を含む。ヒト化またはCDR移植mAbは、それらがマウス抗体のように急速に循環から一掃されず、典型的に逆免疫反応を引き起こさないため、ヒトに対する治療薬として特に有用である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒト源からそれに導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒト アミノ酸残基は、多くの場合、「移入」残基と称され、これらは典型的に、「移入」可変ドメインから取られる。ヒト化抗体を調製する方法は、一般に当該技術分野において周知である。例えば、ヒト化は、本質的に、Winter及び同僚の方法に従い(例えば、Jones et al.(1986)Nature 321:522−525、Riechmann et al.(1988)Nature 332:323−327、及びVerhoeyen et al.(1988)Science 239:1534−1536を参照されたい)、齧歯類フレームワークまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列と置換することによって行うことができる。例えば、Staelens et al.(2006)Mol Immunol 43:1243−1257も参照されたい。いくつかの実施形態において、非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、ヒト抗体(レシピエント抗体)であり、所望の特異性、親和性、及び結合能力を有する非ヒト抗体(例えば、マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類抗体)のCDR領域アミノ酸残基が、ヒト抗体のフレームワーク足場の上に移植される。
【0111】
いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンの1つ以上のフレームワーク領域アミノ酸残基は、非ヒト抗体の対応するアミノ酸残基によっても置換される(いわゆる「逆突然変異」)。加えて、ファージ提示ライブラリを使用して、抗体配列内の選択した位置のアミノ酸を変えることができる。ヒト化抗体の特性は、ヒトフレームワークの選択によっても影響される。更に、ヒト化及びキメラ化抗体は、例えば、親和性またはエフェクタ機能などの抗体特性を更に向上させるために、レシピエント抗体またはドナー抗体において見出されない残基を含むように修飾され得る。
【0112】
完全ヒト抗体もまた、本開示において提供される。「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列、好ましくはヒト生殖系配列から誘導される可変及び定常領域(存在する場合)を有する抗体を含む。ヒト抗体は、ヒト生殖系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含むことができる(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異誘発によって、またはインビボでの体細胞突然変異によって誘導される突然変異)。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳類種から誘導されたCDR配列が、ヒトフレームワーク配列上に移植された抗体(すなわち、ヒト化抗体)を含まない。完全ヒトまたはヒト抗体は、ヒト抗体遺伝子を担持する(可変(V)、多様性(D)、連結(J)、及び定常(C)エクソンを担持する)トランスジェニックマウスから、またはヒト細胞から誘導されてもよい。
【0113】
ヒト配列は、ヒト抗体の重鎖及び軽鎖の両方をコードすることができ、マウスにおいて正しく機能して、ヒトにおけるものと類似した広い抗体レパートリーを提供するように再配置を受ける。トランスジェニックマウスは、標的タンパク質免疫原で免疫付与され、特定の抗体及びそれらのコードするRNAの多様なアレイを作り出すことができる。次に、かかる抗体の抗体鎖成分をコードする核酸は、動物から提示ベクターにクローン化されてもよい。典型的に、重鎖及び軽鎖配列をコードする核酸の別個の集団がクローン化され、次にこの別個の集団は、ベクターへの挿入時に組み換えられて、ベクターの任意の所与の複製が重鎖及び軽鎖のランダムな組み合わせを受け取るようになる。このベクターは、抗体鎖が組み立てられ、ベクターを含有する提示パッケージの外面に提示され得るように、抗体鎖を発現するよう設計される。例えば、抗体鎖は、ファージの外面からファージコートタンパク質との融合タンパク質として発現され得る。その後、提示パッケージを、標的に結合する抗体の提示のために選択し、スクリーニングすることができる。
【0114】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、その対応する未改変の定常領域と比べて、低減したエフェクタ機能を有する(または有しない)改変重鎖定常領域を含む。抗C5抗体の定常領域を必要とするエフェクタ機能は、定常領域またはFc領域の特性を改変することによって調節され得る。改変されたエフェクタ機能は、例えば、以下の活性、すなわち抗体依存性細胞傷害性(ADCC)、補体依存性細胞傷害性(CDC)、アポトーシス、1つ以上のFc受容体への結合、及び炎症促進反応のうちの1つ以上の調節を含む。調節は、未改変形態の定常領域の活性と比較して、改変定常領域を含む対象抗体によって呈されるエフェクタ機能活性の増加、減少、または排除を指す。特定の実施形態において、調節は、活性が廃止されるか、または完全に存在しない状況を含む。
【0115】
改変FcR結合親和性及び/またはADCC活性及び/または改変CDC活性を有する改変定常領域は、未改変形態の定常領域と比較して、強化もしくは低減されたFcR結合活性及び/またはADCC活性及び/またはCDC活性を有するポリペプチドである。FcRへの結合の増加を提示する改変定常領域は、未改変ポリペプチドよりも優れた親和性をもって少なくとも1つのFcRに結合する。FcRへの結合の減少を提示する改変定常領域は、未改変形態の定常領域よりも低い親和性をもって少なくとも1つのFcRに結合する。FcRへの結合の減少を提示するかかる変異型は、FcRへの好ましい結合をほとんどまたは全く有しないことがあり、例えば、FcRへの天然配列免疫グロブリン定常領域またはFc領域の結合レベルと比較して、FcRへの結合の0〜50%(例えば、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%未満)である。同様に、調節されたADCC及び/またはCDC活性を提示する改変定常領域は、未改変定常領域と比較して、ADCC及び/またはCDC活性の増加または低減のいずれかを呈することができる。例えば、いくつかの実施形態において、改変定常領域を含む抗C5抗体は、未改変形態の定常領域のADCC及び/またはCDC活性の約0〜50%(例えば、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%未満)を呈し得る。低減したADCC及び/またはCDCを提示する改変定常領域を含む本明細書に記載の抗C5抗体は、低減したADCC及び/またはCDC活性を呈するか、または全く呈しないことがある。
【0116】
ある特定の実施形態において、改変定常領域は、天然配列定常領域または未改変定常領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換、挿入、及び/または欠失、例えば、天然配列定常領域または親ポリペプチドの定常領域内に、約1〜約100のアミノ酸置換、挿入、及び/または欠失を有する。いくつかの実施形態において、本明細書における改変定常領域は、少なくとも約70%の未改変定常領域との相同性(類似性)または同一性、及びいくつかの例では、少なくとも約75%、及び他の例では、少なくとも約80%のそれとの相同性または同一性、及び他の実施形態では、少なくとも約85%、90%、または95%のそれとの相同性または同一性を有する。改変定常領域は、1つ以上のアミノ酸欠失または挿入を含んでもよい。追加として、改変定常領域は、例えば、改変グリコシル化パターンを含む改変翻訳後修飾をもたらす、1つ以上のアミノ酸置換、欠失、または挿入(例えば、1つ以上の糖成分の付加、1つ以上の糖成分の喪失、または未改変定常領域と比べて1つ以上の糖成分の組成物の変化)を含んでもよい。
【0117】
改変エフェクタ機能を有するか、または有しない抗体は、異種定常、Fc、または重鎖領域を有する抗体を操作または生成することによって生成することができ、組換えDNA技術及び/または細胞培養及び発現条件を使用して、改変機能及び/または活性を有する抗体を生成することができる。例えば、組換えDNA技術を使用して、エフェクタ機能を含む抗体機能に影響する領域(例えば、Fcまたは定常領域など)内の1つ以上のアミノ酸置換、欠失、または挿入を操作することができる。代替として、翻訳後修飾、例えば、グリコシル化パターンなどの変化は、細胞培養物、及び抗体が生成される発現条件を操作することによって達成することができる。1つ以上の置換、付加、または欠失を抗体のFc領域に導入するための好適な方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al.(1989)″Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2
nd Edition,″Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.;Harlow and Lane(1988),上記、Borrebaek(1992),上記、Johne et al.(1993),上記、PCT公開第06/53301号、及び米国特許第7,704,497号に記載される、例えば、標準DNA突然変異誘発技法を含む。
【0118】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、低減したエフェクタ機能を呈するか、または全く呈しない。いくつかの実施形態において、抗C5抗体は、ハイブリッド定常領域、またはG2/G4ハイブリッド定常領域などのその部分を含む(例えば、Burton et al.(1992)Adv Immun 51:1−18、Canfield et al.(1991)J Exp Med 173:1483−1491、及びMueller et al.(1997)Mol Immunol 34(6):441−452を参照されたい)。上記を参照されたい。
【0119】
上記のG2/G4構成体を使用することに加えて、低減したエフェクタ機能を有する本明細書に記載の抗C5抗体は、抗体のある特定の領域のアミノ酸配列に他の型の変化を導入することによって生成することができる。かかるアミノ酸配列の変化は、例えば、PCT公開第94/28027号及び同第98/47531号、ならびにXu et al.(2000)Cell Immunol 200:16−26に記載されるAla−Ala突然変異を含むが、これに限定されない。したがって、いくつかの実施形態において、Ala−Ala突然変異を含む定常領域内に1つ以上の突然変異を有する抗C5抗体は、低減したエフェクタ機能を有するか、または全く有しない。これらの実施形態に従って、抗体の定常領域は、234位のアラニンに対する置換、または235位のアラニンに対する突然変異を含み得る。追加として、改変定常領域は、二重突然変異、すなわち、234位のアラニンに対する突然変異、及び235位のアラニンに対する第2の突然変異を含んでもよい。一実施形態において、抗C5抗体は、IgG4フレームワークを含み、Ala−Ala突然変異は、234位のフェニルアラニンからアラニンへの突然変異(複数可)、及び/または235位のロイシンからアラインへの突然変異を説明する。別の実施形態において、抗C5抗体は、IgG1フレームワークを含み、Ala−Ala突然変異は、234位のロイシンからアラニンへの突然変異(複数可)、及び/または235位のロイシンからアラニンへの突然変異を説明する。抗C5抗体は、代替または追加として、CH2ドメイン内に点突然変異K322Aを含む、他の突然変異を担持することがある(Hezareh et al.(2001)J Virol 75:12161−12168)。定常領域内に前述の突然変異(複数可)を有する抗体は、更に遮断または非遮断抗体であってもよい。
【0120】
重鎖定常領域に導入されるとき、追加の置換は、例えば、Shields et al.(2001)J Biol Chem 276(9):6591−6604に記載されるエフェクタ機能の減少をもたらす。特にShieldsらの表1を参照されたい(ヒトFcRn及びFcγRへのヒトIgG1変異体の結合(その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。抗IgE抗体のライブラリ(ライブラリの各抗体は、重鎖定常領域内の1つ以上の置換が異なる)を、Fc受容体の集団(FcRn、FcγRI、FcγRIIA、及びFcγRIIIAを含む)への結合についてスクリーニングすることによって、著者らは、特定のFc−Fc受容体相互作用を調節するいくつかの置換を特定した。例えば、CH2ドメインがD265A置換を含む(Kabatら(上記)による重鎖アミノ酸付番)変異IgG2a重鎖定常領域は、変異定常領域と、IgG Fc受容体FcγRIIB、FcγRIII、FcγRI、及びFcγRIVとの間の相互作用の完全な喪失をもたらす。Shields et al.(2001)6595頁の表1。Baudino et al.(2008)J Immunol 181:6664−6669(上記)も参照されたい。
【0121】
ヒンジ領域内の変化もまた、エフェクタ機能に影響を及ぼす。例えば、ヒンジ領域の欠失は、Fc受容体に対する親和性を低減させることがあり、補体の活性化を低減することがある(Klein et al.(1981)Proc Natl Acad Sci
USA 78:524−528)。したがって、本開示は、ヒンジ領域内の改変を有する抗体にも関する。
【0122】
いくつかの実施形態において、抗C5抗体は、強化または低減された補体依存性細胞傷害性(CDC)を呈する改変定常領域を含むことができる。調節されたCDC活性は、1つ以上のアミノ酸置換、挿入、または欠失を抗体のFc領域内に導入することによって達成することができる。例えば、米国特許第6,194,551号を参照されたい。代替または追加として、システイン残基(複数可)は、Fc領域内に導入されてもよく、それによりこの領域内の鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にする。故に、生成されたホモ二量体抗体は、向上した、もしくは低減した内部化能力、及び/または増加もしくは減少した補体媒介細胞殺滅を有することができる。例えば、Caron et al.(1992)J Exp Med 176:1191−1195及びShopes(1992)Immunol 148:2918−2922、PCT公開第99/51642号、及び同第94/29351号、Duncan and Winter(1988)Nature 322:738−40、ならびに米国特許第5,648,260号及び同第5,624,821号を参照されたい。
【0123】
抗体のエフェクタ機能を調節する別の潜在的手段としては、グリコシル化の変化が挙げられ、例えば、Raju(2003)BioProcess International 1(4):44−53に要約されている。Wright and Morrisonにより、ヒトIgGオリゴ糖の微小不均一性は、CDC及びADCCなどの生体機能、様々なFc受容体への結合、及びClqタンパク質への結合に影響を及ぼし得る。(1997)TIBTECH 15:26−32。抗体のグリコシル化パターンは、生産性細胞及び細胞培養条件(Raju、上記)に応じて異なり得る。かかる差異は、エフェクタ機能及び薬物動態の両方の変化につながり得る。例えば、Israel et al.(1996)Immunology 89(4):573−578、及びNewkirk et
al.(1996)Clin Exp Immunol 106(2):259−264を参照されたい。エフェクタ機能の差異は、エフェクタ細胞上のFcγ受容体(FcγR)に結合するIgGの能力に関連することがある。Shieldsらは、FcγRへの結合を向上させたアミノ酸配列内の改変を有するIgGが、ヒトエフェクタ細胞を使用して、最大100%強化されたADCCを呈し得ることを示した。(2001)J Biol Chem 276(9):6591−6604。これらの改変は、結合界面において見出されないアミノ酸の変化を含むが、糖成分の性質ならびにその構造パターンの両方が、観察される差異に寄与することもある。加えて、IgGのオリゴ糖成分中のフコースの存在または非存在は、結合及びADCCを向上させることができる。例えば、Shields et al.(2002)J Biol Chem 277(30):26733−26740を参照されたい。Asn
297に結合したフコシル化炭水化物を欠失したIgGは、FcγRI受容体への正常な受容体結合を呈した。対照的に、FcγRIIIA受容体への結合は、特により低い抗体濃度で50倍向上し、強化されたADCCを伴っていた。
【0124】
抗体のエフェクタ機能を改変するために、更に他の手法が存在する。例えば、抗体生産性細胞は、高突然変異誘発性であり得、それにより抗体分子全体にわたってランダムに改変されたポリペプチド残基を有する抗体を生成する。例えば、PCT公開第05/011735号を参照されたい。高突然変異誘発性宿主細胞としては、DNAミスマッチ修復において欠乏している細胞が挙げられる。この方法で生成された抗体は、抗原性が低く、及び/または有益な薬物動態特性を有することがある。追加として、かかる抗体は、強化または減少したエフェクタ機能(複数可)などの特性について選択されてもよい。本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片を調製するために有用な分子生物学技法の追加の詳細は、下に記載される。
【0125】
組換え抗体の発現及び精製
本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、分子生物学及びタンパク質化学の技術分野において既知の様々な技法を使用して生成され得る。例えば、抗体の重鎖及び軽鎖ポリペプチドの一方または両方をコードする核酸は、例えば、プロモータ配列、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列、翻訳開始及び停止配列、転写ターミネータシグナル、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサまたはアクチベータ配列を含む、転写及び翻訳制御配列を含む発現ベクターに挿入され得る。制御配列は、プロモータ、ならびに転写開始及び停止配列を含む。加えて、発現ベクターは、それが2つの異なる生物において、例えば、発現のために哺乳類または昆虫細胞において、及びクローニング及び増幅のために原核宿主において維持され得るように、複数の複製系を含み得る。
【0126】
様々な修飾、例えば置換は、当業者に既知の標準方法を使用して、本明細書に記載の重鎖及び/または軽鎖ポリペプチドをコードするDNA配列に導入され得る。例えば、抗体の1つ以上のCDR位置におけるヒスチジン置換の導入は、PCR媒介突然変異誘発などの標準方法を使用して実行することができ、PCR生成物が所望の突然変異または部位特異的突然変異誘発を含むように、突然変異ヌクレオチドがPCRプライマーに組み込まれる。置換は、CDR領域のうちの1つ以上に導入され、例えば、pH7.4またはpH6.0で抗原に対する抗体のK
Dを増加または減少させることができる。部位特異的突然変異誘発における技法は、当該技術分野において周知である。例えば、Sambrookら(上記)を参照されたい。
【0127】
いくつかの可能なベクター系は、哺乳類細胞中の核酸からのクローン化重鎖及び軽鎖ポリペプチドの発現に使用可能である。1つのベクター群は、所望の遺伝子配列の、宿主細胞ゲノムへの統合に依存する。安定して統合されたDNAを有する細胞は、大腸菌gpt(Mulligan and Berg(1981)Proc Natl Acad Sci USA 78:2072)またはTn5 neo(Southern and Berg(1982)Mol Appl Genet 1:327)などの薬物耐性遺伝子を同時に導入することによって選択され得る。選択可能なマーカー遺伝子は、発現されるDNA遺伝子配列に結合され得るか、または同時形質移入によって同じ細胞に導入され得るかのいずれかである(Wigler et al.(1979)Cell 16:77)。第2のベクター群は、自家複製能力を染色体外プラスミドに付与するDNA要素を利用する。これらのベクターは、ウシパピローマウイルス(Sarver et al.(1982)Proc Natl Acad Sci USA,79:7147)、サイトメガロウイルス、ポリオーマウイルス(Deans et al.(1984)Proc Natl Acad Sci USA 81:1292)、またはSV40ウイルス(Lusky and Botchan(1981)Nature 293:79)などの動物ウイルスから誘導され得る。
【0128】
発現ベクターは、核酸の後次発現に好適な方法で細胞に導入され得る。導入の方法は、下で考察される標的細胞型によって主に規定される。例示的な方法としては、CaPO
4沈降、リポソーム融合、カチオンリポソーム、電気穿孔、ウイルス感染、デキストラン媒介形質移入、ポリブレン媒介形質移入、プロトプラスト融合、及び直接微量注入が挙げられる。
【0129】
抗体またはその抗原結合断片の発現に適切な宿主細胞としては、酵母、細菌、昆虫、植物、及び哺乳類細胞が挙げられる。特に、大腸菌などの細菌、サッカロマイセス・セレビシエ及びピキア・パストリスなどの真菌、SF9などの昆虫細胞、哺乳類細胞株(例えば、ヒト細胞株)、ならびに霊長類細胞株が関心対象である。
【0130】
いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、トランスジェニック動物(例えば、トランスジェニック哺乳動物)において発現され、それから精製され得る。例えば、抗体は、例えば、Houdebine(2002)Curr Opin Biotechnol 13(6):625−629、van Kuik−Romeijn et al.(2000)Transgenic Res 9(2):155−159、及びPollock et al.(1999)J Immunol Methods 231(1−2):147−157に記載されるように、トランスジェニック非ヒト哺乳動物(例えば、齧歯動物)において生成され、乳汁から単離され得る。
【0131】
抗体及びその断片は、タンパク質の発現を可能にするために十分な条件下、及び時間にわたって、抗体または断片をコードする核酸を含有する発現ベクターで変換された宿主細胞を培養することによって細胞から生成され得る。タンパク質発現のためのかかる条件は、発現ベクター及び宿主細胞の選択によって異なり、ルーチン実験を通じて当業者により容易に確認される。例えば、大腸菌中で発現された抗体は、封入体から再び折り畳まれ得る(例えば、Hou et al.(1998)Cytokine 10:319−30を参照されたい)。細菌発現系及びそれらの使用のための方法は、当該技術分野において周知である(Current Protocols in Molecular Biology,Wiley & Sons,and Molecular Cloning−−A Laboratory Manual−−3rd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(2001)を参照されたい)。コドン、好適な発現ベクター、及び好適な宿主細胞の選択は、いくつかの因子に応じて異なり、必要に応じて容易に最適化され得る。本明細書に記載の抗体(またはその断片)は、哺乳類細胞において、または酵母、バキュロウイルス、及びインビトロ発現系を含むが、これらに限定されない他の発現系において発現され得る(例えば、Kaszubska et al.(2000)Protein Expression and Purification 18:213−220を参照されたい)。
【0132】
発現に続いて、抗体及びその断片が単離され得る。本明細書に記載のタンパク質(抗体または断片)のうちのいずれかに適用される「精製された」または「単離された」という用語は、成分(例えば、タンパク質または他の天然に存在する生体分子または有機分子)から分離または精製されたポリペプチドを指し、これらはタンパク質を発現する原核生物において、例えば、他のタンパク質、脂質、及び核酸を天然に伴う。典型的に、ポリペプチドは、それが試料中の総タンパク質の少なくとも60重量%(例えば、少なくとも65、70、75、80、85、90、92、95、97、または99重量%)を構成するときに精製される。
【0133】
抗体またはその断片は、どの他の成分が試料中に存在するかに応じて、当業者に既知の様々な方法で単離または精製され得る。標準精製方法としては、電気泳動、分子、免疫学的、及びクロマトグラフィー技法が挙げられ、イオン交換、疎水性、親和性、及び逆相HPLCクロマトグラフィーを含む。例えば、抗体は、標準抗抗体カラム(例えば、タンパク質−Aまたはタンパク質−Gカラム)を使用して精製され得る。タンパク質濃度と併せて、超ろ過及び透析ろ過も有用である。例えば、Scopes(1994)″Protein Purification,3
rd edition,″Springer−Verlag,New York City,New Yorkを参照されたい。必要な精製の程度は、所望の用途に応じて異なる。いくつかの例において、発現された抗体またはその断片の精製は必須でない。
【0134】
精製された抗体またはその断片の収率または純度を決定するための方法は、当該技術分野において既知であり、例えば、ブラッドフォードアッセイ、紫外分光、ビウレットタンパク質アッセイ、ローリータンパク質アッセイ、アミドブラックタンパク質アッセイ、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)、及びゲル電気泳動法(例えば、クマシーブルーまたはコロイド銀染色などのタンパク質染色を使用する)が挙げられる。
【0135】
いくつかの実施形態において、内毒素は、抗体または断片から除去され得る。タンパク質試料から内毒素を除去するための方法は、当該技術分野において既知である。例えば、内毒素は、様々な市販の試薬を使用してタンパク質試料から除去することができ、無制限に、ProteoSpin(商標)内毒素除去キット(Norgen Biotek Corporation)、Detoxi−Gel内毒素除去ゲル(Thermo Scientific、Pierce Protein Research Products)、MiraCLEAN(登録商標)内毒素除去キット(Mirus)、またはAcrodisc(商標)−Mustang(登録商標)E膜(Pall Corporation)が挙げられる。
【0136】
試料中に存在する内毒素を検出する、及び/またはその量を測定するための方法は(精製前及び精製後の両方)、当該技術分野において既知であり、市販のキットが入手可能である。例えば、タンパク質試料中の内毒素の濃度は、QCL−1000発色性キット(BioWhittaker)またはリムルス変形細胞ライセート(LAL)系キット、例えば、Associates of Cape Cod Incorporatedから入手可能なPyrotell(登録商標)、Pyrotell(登録商標)−T、Pyrochrome(登録商標)、Chromo−LAL、及びCSEキットを使用して決定され得る。
【0137】
抗体またはその抗原結合断片の修飾
抗体またはその抗原結合断片は、それらの発現及び精製後に修飾され得る。修飾は、共有結合的または非共有結合的修飾であり得る。かかる修飾は、例えば、ポリペプチドの標的アミノ酸残基を、選択された側鎖または末端残基と反応させることができる有機誘導剤と反応させることによって、抗体または断片に導入され得る。修飾に好適な部位は、例えば、抗体または断片の構造分析またはアミノ酸配列分析を含む様々な基準のうちのいずれかを使用して選択され得る。
【0138】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、異種部分に複合され得る。この異種部分は、例えば、異種ポリペプチド、治療薬(例えば、毒素もしくは薬物)、または限定されないが、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、重金属標識、発光標識、またはビオチンもしくはストレプトアビジンなどの親和性タグなどの検出可能な標識であり得る。好適な異種ポリペプチドとしては、例えば、抗体または断片を精製する際に使用するための、抗原タグ
【化7】
ポリヒスチジン
【化8】
ヘマグルチニン
【化9】
グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、またはマルトース結合タンパク質(MBP))が挙げられる。異種ポリペプチドは、診断または検出可能なマーカーとして有用なポリペプチド(例えば、酵素)、例えば、ルシフェラーゼ、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP))、またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)も含む。好適な放射性標識としては、例えば、
32P、
33P、
14C、
125I、
131I、
35S、及び
3Hが挙げられる。好適な蛍光標識としては、無制限に、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、DyLight(商標)488、フィコエリスリン(PE)、ヨウ化プロピジウム(PI)、PerCP、PE−Alexa Fluor(登録商標)700、Cy5、アロフィコシアニン、及びCy7が挙げられる。蛍光標識は、例えば、様々な発光ランタニド(例えば、ユーロピウムまたはテルビウム)キレートのうちのいずれかを含む。例えば、好適なユーロピウムキレートとしては、ジエチレントリアミ五酢酸(DTPA)またはテトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(DOTA)のユーロピウムイキレートが挙げられる。酵素標識としては、例えば、アルカリホスファターゼ、CAT、ルシフェラーゼ、及びホースラディッシュペルオキシダーゼが挙げられる。
【0139】
2つのタンパク質(例えば、抗体及び異種部分)は、いくつかの既知の化学架橋剤のうちのいずれかを使用して架橋され得る。かかる架橋剤の例は、「ヒンダード」ジスルフィド結合を含む結合を介して2つのアミノ酸残基を結合するものである。これらの結合において、架橋単位内のジスルフィド結合は、例えば、還元グルタチオンまたは酵素ジスルフィド還元酵素の作用による還元から(ジスルフィド結合のいずれかの側の基を妨げることによって)保護される。1つの好適な試薬、4−スクシンイミジルオキシカルボニル−α−メチル−α(2−ピリジルジチオ)トルエン(SMPT)は、タンパク質のうちの一方の末端リジン及び他方の末端システインを利用して、2つのタンパク質間にかかる結合を形成する。各タンパク質上の異なるカップリング部分によって架橋するヘテロ二官能性試薬を使用することもできる。他の有用な架橋剤としては、無制限に、2つのアミノ基(例えば、N−5−アジド−2−ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド)、2つのスルフヒドリル基(例えば、1,4−ビス−マレイミドブタン)、アミノ基及びスルフヒドリル基(例えば、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)、アミノ基及びカルボキシル基(例えば、4−[p−アジドサリチルアミド]ブチルアミン)、ならびにアミノ基及びアルギニンの側鎖内に存在するグアニジニウム基(例えば、p−アジドフェニルグリオキサール一水和物)を結合する試薬が挙げられる。
【0140】
いくつかの実施形態において、放射性標識は、抗体のアミノ酸骨格に直接複合され得る。代替として、放射性標識は、より大きな分子(例えば、遊離アミノ基に結合して関連タンパク質のメタ−ヨードフェニル(mIP)誘導体を形成する、メタ−[
125I]ヨードフェニル−N−ヒドロキシスクシンイミド中の
125I([
125I]mIPNHS)(例えば、Rogers et al.(1997)J Nucl Med 38:1221−1229を参照されたい)またはタンパク質骨格に順次結合されるキレート(例えば、DOTAまたはDTPA)の一部として含まれ得る。放射性標識、またはそれらを含むより大きな分子/キレートを本明細書に記載の抗体または抗原結合断片に複合する方法は、当該技術分野において既知である。かかる方法は、放射性標識またはキレートの、タンパク質への結合を促進する条件下(例えば、pH、塩濃度、及び/または温度)、放射性標識を有するタンパク質をインキュベートすることを必要とする(例えば、米国特許第6,001,329号を参照されたい)。
【0141】
蛍光標識(時として「フルオロフォア」と称される)をタンパク質(例えば、抗体)に複合するための方法は、タンパク質化学の技術分野において既知である。例えば、フルオロフォアは、そのフルオロフォアに付着したスクシンイミジル(NHS)エステルまたはテトラフルオロフェニル(TFP)エステル部分を使用して、タンパク質の遊離アミノ基(例えば、リジンの)またはスルフヒドリル基(例えば、システイン)に複合され得る。いくつかの実施形態において、フルオロフォアは、スルホ−SMCCなどのヘテロ二官能性架橋剤部分に複合され得る。好適な複合方法は、抗体タンパク質またはその断片を、タンパク質へのフルオロフォアの結合を促進する条件下、フルオロフォアでインキュベートすることを必要とする。例えば、Welch and Redvanly(2003)″Handbook of Radiopharmaceuticals:Radiochemistry and Applications,″John Wiley and Sons(ISBN 0471495603)を参照されたい。
【0142】
いくつかの実施形態において、抗体または断片は、例えば、循環中、例えば血液、血清、他の組織中の抗体の安定化及び/または保持を向上させる部分で修飾され得る。例えば、抗体または断片は、例えば、Lee et al.(1999)Bioconjug Chem 10(6):973−8、Kinstler et al.(2002)Advanced Drug Deliveries Reviews 54:477−485、及びRoberts et al.(2002)Advanced Drug Delivery Reviews 54:459−476に記載のようにPEG化またはHES化され得る(Fresenius Kabi,Germany、例えば、Pavisic et al.(2010)Int J Pharm 387(1−2):110−119を参照されたい)。 安定化部分は、抗体(もしくは断片)の安定性または保持を、少なくとも1.5倍(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、40倍、もしくは50倍以上)向上させることができる。
【0143】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、グリコシル化され得る。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、酵素治療もしくは化学治療に供され得るか、または細胞から生成され得、抗体または断片がグリコシル化を低減または不在にするようになる。低減したグリコシル化を有する抗体を生成するための方法は、当該技術分野において既知であり、例えば、米国特許第6,933,368号、Wright et al.(1991)EMBO J 10(10):2717−2723、及びCo et al.(1993)Mol Immunol 30:1361に記載されている。
【0144】
薬学的組成物及び製剤
本明細書に記載の組成物は、例えば、補体関連障害の治療または予防のために対象に投与するための、薬学的溶液として配合され得る。薬学的組成物は、一般に、薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、任意かつ全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤、ならびに生理学的に適合性の同様物を指し、それらを含む。組成物は、薬学的に許容される塩、例えば、酸付加塩または塩基付加塩を含み得る(例えば、Berge et al.(1977)J Pharm Sci 66:1−19を参照されたい)。
【0145】
組成物は、標準方法に従って配合され得る。薬学的配合は、十分に確立された技術分野であり、例えば、Gennaro(2000)″Remington:The Science and Practice of Pharmacy,″20
th Edition,Lippincott,Williams & Wilkins(ISBN:0683306472)、Ansel et al.(1999)″Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,″7
th Edition,Lippincott Williams & Wilkins Publishers(ISBN:0683305727)、及びKibbe(2000)″Handbook of Pharmaceutical Excipients American Pharmaceutical Association,″3
rd Edition(ISBN:091733096X)において更に記載されている。いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、好適な濃度で、2〜8℃(例えば、4℃)での保管に適した緩衝溶液として配合され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、0℃より低い温度(例えば、−20℃または−80℃)での保管のために配合され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、2〜8℃(例えば、4℃)で最長2年(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、1年、1年半、または2年)にわたる保管のために配合され得る。故に、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、2〜8℃(例えば、4℃)で少なくとも1年間の保管において安定である。
【0146】
薬学的組成物は、様々な形態をとり得る。これらの形態としては、例えば、液体、半固体及び固体剤形、例えば液体溶液(例えば、注射溶液及び注入溶液)、分散液または懸濁液、錠剤、ピル、粉末、リポソーム、及び坐剤が挙げられる。好ましい形態は、部分的に、意図される投与様式及び治療適用に依存する。例えば、全身または局所送達を意図した組成物を含有する組成物は、注射溶液または注入溶液の形態をとり得る。したがって、組成物は、非経口様式(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、または筋内注射)による投与のために配合され得る。「非経口投与」、「非経口的に投与される」、及び他の文法的に同等の表現は、本明細書で使用される場合、通常は注射による、経腸及び局所投与以外の投与様式を指し、無制限に、静脈内、鼻腔内、眼内、肺、筋内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、肺内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、脳内、頭蓋内、頸動脈内、及び胸骨内注射及び注入が挙げられる(下記を参照されたい)。
【0147】
組成物は、溶液、マイクロエマルション、分散液、リポソーム、または高濃度での安定した保管に適した他の秩序構造として配合され得る。滅菌注射溶液は、必要な量の本明細書に記載の組成物を、必要に応じて上に列挙された成分のうちの1つまたは組み合わせとともに適切な溶媒に組み込み、続いてろ過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散液は、本明細書に記載の組成物を、塩基性分散培地及び上に列挙されるものから必要な他の成分を含む滅菌媒体中に組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製のための方法は、本明細書に記載の組成物の粉末に加えて、その以前に滅菌ろ過した溶液からの任意の追加の所望の成分(下記を参照されたい)を産生する、真空乾燥及び凍結乾燥を含む。溶液の適切な流動性は、例えば、レチシンなどの被覆の使用によって、分散液の場合は必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。注射可能な組成物の長期吸収は、組成物中に吸収を遅延させる試薬、例えば、モノステアリン酸塩及びゼラチンを含めることによってもたらされ得る。
【0148】
本明細書に記載の組成物は、イムノリポソーム組成物中で配合することもできる。かかる製剤は、当該技術分野において既知の方法、例えば、Epstein et al.(1985)Proc Natl Acad Sci USA 82:3688、Hwang et al.(1980)Proc Natl Acad Sci USA 77:4030、及び米国特許第4,485,045号及び同第4,544,545号に記載の方法などによって調製され得る。増加した循環時間を有するリポソームは、例えば、米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0149】
ある特定の実施形態において、組成物は、化合物を速放から保護する担体、例えば、埋め込み片及びマイクロカプセル化送達系を含む制御放出製剤と配合され得る。酢酸ビニルエチレン、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。かかる製剤の調製のための多くの方法は、当該技術分野において既知である。例えば、J.R.Robinson(1978)″Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,″Marcel Dekker,Inc.,New Yorkを参照されたい。
【0150】
いくつかの実施形態において、組成物は、ヒトなどの哺乳動物に対する肺内投与(例えば、吸入器または噴霧器を介した投与)に適した組成物中に配合され得る。かかる組成物を配合するための方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、米国特許出願公開第20080202513号、米国特許第7,112,341号及び同第6,019,968号、ならびにPCT公開第00/061178号及び同第06/122257号に記載されている(各々の開示は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。乾燥粉末吸入器製剤及び製剤の投与に適したシステムは、例えば、米国特許出願公開第20070235029号、PCT公開第00/69887号、及び米国特許第5,997,848号に記載されている。肺内投与に適した追加の製剤(ならびにポリペプチドを配合するための方法)は、例えば、米国特許出願公開第20050271660号及び同第20090110679号に記載されている。
【0151】
いくつかの実施形態において、組成物は、目に送達するために配合され得る。本明細書で使用される場合、「目」という用語は、目に関連した任意かつ全ての解剖学的組織及び構造を指す。目は、3つの別個の層、すなわち外側強膜、中間脈絡膜層、及び内側網膜からなる壁を有する。レンズの後ろにある房は、硝子体液と称されるゲル状流体で満たされている。目の後部には光を検出する網膜がある。角膜は、画像を目の背後に伝える光学的に透明な組織である。角膜は、目の中に薬物を浸透させるための1つの経路を含む。目に関連した他の解剖学的組織構造としては、分泌系、分配系、及び排泄系を含む導涙系が挙げられる。分泌系は、涙液蒸発、及び遠心性副交感神経供給を有し、身体的または感情的刺激に反応して涙液を分泌する反射分泌体に起因する瞬き及び温度変化によって刺激される分泌体を含む。分配系は、瞼及び開いた目の蓋縁の周りに涙液メニスカスを含み、これが瞬きによって涙液を眼表面全体に広げ、故に乾燥面積が拡大するのを低減する。
【0152】
いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、局所適用または硝子体内注射によって局所的に投与され得る。例えば、いくつかの実施形態において、組成物は、点眼液による投与のために配合され得る。
【0153】
目を治療するための治療調製物は、薬学的に許容される溶液、懸濁液、または軟膏中に1つ以上の活性剤を、約0.01重量%〜約1重量%、好ましくは約0.05〜約0.5%の濃度で含有することができる。調製物は、好ましくは、例えば、限定されないが、保存剤、緩衝剤、等張剤、抗酸化剤及び安定剤、非イオン性湿潤剤または清澄剤、ならびに増粘剤などの追加成分を含有する滅菌水性溶液の形態をとる。
【0154】
かかる溶液中に使用するための好適な保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノール、チメロサールなどが挙げられる。好適な緩衝剤は、例えば、ホウ酸、重炭酸ナトリウム及びカリウム、ホウ酸ナトリウム及びカリウム、炭酸ナトリウム及びカリウム、酢酸ナトリウム、ならびに二リン酸ナトリウムを、pHを約pH6〜pH8の間、好ましくは約pH7〜pH7.5の間に維持するのに十分な量で含む。好適な等張剤は、デキストラン40、デキストラン70、デキストロース、グリセリン、塩化カリウム、プロピレングリコール、及び塩化ナトリウムである。
【0155】
好適な抗酸化剤及び安定剤には、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びチオウレアが挙げられる。好適な湿潤剤及び清澄剤には、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー282、及びチロキサポールが挙げられる。好適な増粘剤には、デキストラン40、デキストラン70、ゼラチン、グリセリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ラノリン、メチルセルロース、ワセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びカルボキシメチルセルロースが挙げられる。調製剤は、従来の方法による治療を必要とする対象(例えば、AMDに罹患した対象)の目に、例えば、液滴の形態で、または1つ以上の組成物を含有する治療溶液中に目を浸すことによって局所的に投与され得る。
【0156】
加えて、薬物を目の硝子体空洞に導入するために、様々なデバイスが開発された。例えば、米国特許出願公開第20020026176号は、硝子体空洞内に突き出して、製剤を硝子体空洞に送達するように、胸膜を通して挿入され得る製剤含有プラグを説明する。別の例において、米国特許第5,443,505号は、目の内部への薬物の持続放出のための、上脈絡膜腔または無血管領域への導入のための埋め込み型デバイスを説明する。米国特許第5,773,019号及び同第6,001,386号は各々、目の胸膜表面に取り付け可能な埋め込み型薬物送達デバイスを開示する。このデバイスは、難溶解性薬剤に対して浸透性の非生体分解可能なポリマーによって被覆された有効量の難溶解性薬剤を含有する内部コアを備える。動作中、この難溶解性薬剤は、デバイスから出る持続放出のために、生体分解可能なポリマー被覆に浸透する。目への治療薬の送達のための追加の方法及びデバイス(例えば、経胸膜パッチ及びコンタクトレンズを介した送達)は、例えば、Ambati and Adamis(2002)Prog Retin Eye Res 21(2):145−151、Ranta and Urtti(2006)Adv Drug Delivery Rev 58(11):1164−1181、Barocas and Balachandran(2008)Expert Opin Drug Delivery 5(1):1−10(10)、Gulsen and Chauhan(2004)Invest Opthalmol Vis Sci 45:2342−2347、Kim et al.(2007)Ophthalmic Res 39:244−254、及びPCT公開第04/073551号に記載されており、それらの開示は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【0157】
上記のように、比較的高濃度の組成物が作製され得る。例えば、これらの組成物は、約10mg/mL〜100mg/mL(例えば、約9mg/mL〜90mg/mL、約9mg/mL〜50mg/mL、約10mg/mL〜50mg/mL、約15mg/mL〜50mg/mL、約15mg/mL〜110mg/mL、約15mg/mL〜100mg/mL、約20mg/mL〜100mg/mL、約20mg/mL〜80mg/mL、約25mg/mL〜100mg/mL、約25mg/mL〜85mg/mL、約20mg/mL〜50mg/mL、約25mg/mL〜50mg/mL、約30mg/mL〜100mg/mL、約30mg/mL〜50mg/mL、約40mg/mL〜100mg/mL、または約50mg/mL〜100mg/mL)の濃度で配合され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、5mg/mL超〜50mg/mL未満の濃度で配合され得る。水性溶液中でタンパク質を配合するための方法は、当該技術分野において既知であり、例えば、米国特許第7,390,786号、McNally and Hastedt(2007),″Protein Formulation and Delivery,″Second Edition,Drugs and the Pharmaceutical Sciences,Volume 175,CRC Press、及びBanga(2005),″Therapeutic peptides and proteins:formulation,processing,and delivery systems,Second Edition″CRC Pressに記載されている。いくつかの実施形態において、水性溶液は、中性pH、例えば、6.5〜8(例えば、両端値を含む7〜8)のpHを有する。いくつかの実施形態において、水性溶液は、約6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、または8.0のpHを有する。いくつかの実施形態において、水性溶液は、6超(または等しい)(例えば、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、または7.9以上)であるが、pH8未満のpHを有する。
【0158】
治療用ポリペプチドをコードする核酸は、細胞内で発現し、薬剤を生成するために使用され得る核酸を送達するように、遺伝子治療プロトコルの一部として使用される遺伝子構成体に組み込まれ得る。かかる成分の発現構成体は、任意の治療上有効な担体、例えば、インビボで細胞に成分遺伝子を有効に送達することができる任意の製剤または組成物中で投与されてもよい。手法としては、組換えレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、レンチウイルス、及び単純ヘルペスウイルス−1(HSV−1)、または組換え細菌もしくは真核プラスミドを含むウイルスベクター中の対象遺伝子の挿入が挙げられる。ウイルスベクターは、細胞を直接形質転換することができ、プラスミドDNAは、例えば、カチオンリポソーム(リポフェクチン)または誘導されたポリリジン複合体、グラミシジンS、人工ウイルスエンベロープまたは他のかかる細胞内担体の助けを借りるとともに、インビボで実行される遺伝子構成体またはCaPO
4沈降(例えば、国際公開第04/060407号を参照されたい)の直接注射によって送達され得る。(下記の「体外手法」も参照されたい。)好適なレトロウイルスの例としては、当業者に既知のpLJ、pZIP、pWE、及びpEMが挙げられる(例えば、Eglitis et al.(1985)Science 230:1395−1398、Danos and Mulligan(1988)Proc Natl Acad Sci USA 85:6460−6464、Wilson et al.(1988)Proc Natl Acad Sci USA 85:3014−3018、Armentano et al.(1990)Proc Natl Acad Sci USA 87:6141−6145、Huber et al.(1991)Proc Natl Acad Sci USA 88:8039−8043、Ferry et al.(1991)Proc Natl Acad Sci USA 88:8377−8381、Chowdhury et al.(1991)Science 254:1802−1805、van Beusechem et al.(1992)Proc Natl Acad Sci USA 89:7640−7644、Kay et al.(1992)Human Gene Therapy 3:641−647、Dai et al.(1992)Proc Natl Acad Sci USA 89:10892−10895、Hwu et al.(1993)J Immunol 150:4104−4115、米国特許第4,868,116号及び同第4,980,286号、ならびにPCT公開第89/07136号、同第89/02468号、同第89/05345号、及び同第92/07573号を参照されたい)。別のウイルス遺伝子送達系は、アデノウイルス由来ベクターを利用する(例えば、Berkner et al.(1988)BioTechniques 6:616、Rosenfeld et al.(1991)Science 252:431−434、及びRosenfeld et al.(1992)Cell 68:143−155を参照されたい)。アデノウイルス株Ad型5 dl324または他のアデノウイルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7など)由来の好適なアデノウイルスベクターは、当業者に既知である。対象遺伝子の送達に有用な更に別のウイルスベクター系は、アデノ関連ウイルス(AAV)である。例えば、Flotte et al.(1992)Am J Respir Cell Mol Biol 7:349−356、Samulski et al.(1989)J Virol 63:3822−3828、及びMcLaughlin et al.(1989)J Virol 62:1963−1973を参照されたい。
【0159】
いくつかの実施形態において、組成物は、1つ以上の追加の治療薬、例えば、対象において補体関連障害(例えば、AP関連障害またはCP関連障害)を治療または予防するための追加の療法と配合され得る。対象において補体関連障害を治療するための追加の薬剤は、治療される特定障害に応じて異なるが、無制限に、降圧剤(例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害剤)[例えば、HELLP症候群を治療する際に使用するため]、抗凝固剤、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン)、または免疫抑制剤(例えば、ビンクリスチンまたはシクロスポリンA)を挙げることができる。抗凝固剤の例としては、例えば、ワルファリン(クマジン)、アスピリン、ヘパリン、フェニンジオン、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス、及びトロンビン阻害剤(例えば、アルガトロバン、レピルジン、ビバリルジン、またはダビガトラン)が挙げられる。本明細書に記載の組成物は、補体関連障害の治療のための線維素溶解剤(例えば、アンクロッド、ε−アミノカプロン酸、抗プラスミン−a
1、プロスタシクリン、及びデフィブロチド)と配合することもできる。いくつかの実施形態において、組成物は、ヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素の阻害剤などの脂質低下剤と配合され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、リツキシマブ(Rituxan(商標)、Biogen Idec,Cambridge,MA)などの抗CD20剤と配合され得るか、またはそれとともに使用され得る。いくつかの実施形態において、例えば、RAの治療の場合、組成物は、インフリキシマブ(Remicade(登録商標)、Centocor,Inc.)及びメトトレキセート(Rheumatrex(登録商標)、Trexall(登録商標))の一方または両方と配合され得る。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)と配合され得る。多くの異なるNSAIDSが入手可能であり、いくつかの店頭薬としては、イブプロフェン(Advil(登録商標)、Motrin(登録商標)、Nuprin(登録商標))及びナプロキセン(Alleve(登録商標))が挙げられ、他の多くは、処方によって入手可能であり、メロキシカム(Mobic(登録商標))、エトドラク(Lodine(登録商標))、ナブメトン(Relafen(登録商標))、スリンダク(Clinoril(登録商標))、トレメンチン(Tolectin(登録商標))、コリンマグネシウムサリチル酸塩(Trilasate(登録商標))、ジクロフェナク(Cataflam(登録商標)、Voltaren(登録商標)、Arthrotec(登録商標))、ジフルシナル(Dolobid(登録商標))、インドメチシン(Indocin(登録商標))、ケトプロフェン(Orudis(登録商標)、Oruvail(登録商標))、オキサプロジン(Daypro(登録商標))、及びピロキシカム(Feldene(登録商標))が挙げられる。いくつかの実施形態において、組成物は、降圧剤、抗てんかん剤(例えば、硫酸マグネシウム)、または抗血栓薬とともに使用するために配合され得る。降圧剤としては、例えば、ラベタロール、ヒドララジン、ニフェジピン、カルシウムチャネル拮抗薬、ニトログリセリン、またはニトロフェリシアン化ナトリウム挙げられる。(例えば、Mihu et al.(2007)J Gastrointestin Liver Dis 16(4):419−424を参照されたい。)抗血栓薬としては、例えば、ヘパリン、抗トロンビン、プロスタシクリン、または低用量アスピリンが挙げられる。
【0160】
いくつかの実施形態において、肺内投与のために配合される組成物は、肺障害を治療するための少なくとも1つの追加活性剤を含み得る。この少なくとも1つの活性剤は、例えば、抗IgE抗体(例えば、オマリズマブ)、抗IL−4抗体もしくは抗IL−5抗体、抗IgE阻害剤(例えば、モンテルカストナトリウム)、交換神経模倣薬(例えば、アルブテロール)、抗生物質(例えば、トブラマイシン)、デオキシリボヌクレアーゼ(例えば、Pulmozyme(登録商標))、抗コリン薬(例えば、イプラトロピウム臭化物)、コルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)、β−アドレノ受容体作動薬、ロイコトリエン阻害剤(例えば、ジレウトン)、5−リポキシゲナーゼ阻害剤、PDE阻害剤、CD23拮抗薬、IL−13拮抗薬、サイトカイン遊離阻害剤、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、抗ヒスタミン、抗炎症薬(例えば、クロモリンナトリウム)、またはヒスタミン遊離阻害剤であり得る。
【0161】
いくつかの実施形態において、組成物は、目の補体関連障害を治療する際に使用するための1つ以上の追加の治療薬とともに投与するために配合され得る。かかる追加の治療薬は、例えば、ベバシズマブもしくはベバシズマブのFab断片、またはラニビズマブ(いずれもRoche Pharmaceuticals,Inc.によって販売されている)、及びペガプタニブナトリウム(Mucogen(登録商標)、Pfizer,Inc.)であり得る。かかるキットは、任意選択で、組成物を対象に投与するための指示書を含むこともできる。
【0162】
いくつかの実施形態において、組成物は、静脈内γグロブリン療法(IVIG)、血漿交換療法、血漿置換、または血漿交換とともに対象に投与するために配合され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、腎移植前、腎移植中、または腎移植後に配合され得る。
【0163】
組成物が第2の活性剤との組み合わせで使用されるべきとき、組成物は、第2の薬剤と共配合され得るか、または組成物は、第2の薬剤配合とは別個に配合され得る。例えば、それぞれの薬学的組成物は、例えば、投与直前に混合され、一緒に投与され得るか、または例えば、同時もしくは異なる時点で別個に投与され得る(下記を参照されたい)。
【0164】
適用
本明細書に記載の組成物は、いくつかの診断及び治療適用において使用され得る。例えば、検出可能に標識された抗原結合分子をアッセイにおいて使用し、試料(例えば、生体試料)中の標的抗原の存在または量を検出することができる。組成物は、標的抗原機能の阻害を研究するために、インビトロアッセイにおいて使用することができる。例えば、組成物が補体タンパク質に結合し、阻害するいくつかの実施形態において、組成物は、補体活性を阻害するか、またはそうでなければ補体関連障害を治療するために有用な追加の新規化合物を特定するように設計されたアッセイにおいて、正の対照として使用され得る。例えば、C5阻害組成物は、C5の生成またはMACの形成を低減または抑制する追加の化合物(例えば、小分子、アプタマー、または抗体)を特定するためのアッセイにおいて、正の対照として使用することができる。組成物は、下で詳述される治療方法において使用することもできる。
【0165】
治療方法
本明細書に記載の組成物は、投与経路に部分的に依存する様々な方法を使用して、対象、例えばヒト対象に投与され得る。経路は、例えば、静脈内注射または注入(IV)、皮下注射(SC)、腹腔内(IP)注射、または筋内注射(IM)であり得る。
【0166】
皮下投与は、デバイスによって達成され得る。このデバイス手段は、シリンジ、充填済みシリンジ、使い切りまたは再使用可能な自動注射器、ペン注射器、パッチ注射器、装着可能な注射器、皮下注射セットを有する形態型シリンジ注射ポンプ、または皮下注射のための抗体薬と化合するための他のデバイスであってもよい。
【0167】
投与は、例えば、局所注入、注射、または移植片によって達成され得る。移植片は、シラスティック膜などの膜、または繊維を含む多孔質、非多孔質、またはゲル状材料であり得る。移植片は、対象への組成物の持続放出または定期放出のために構成され得る。例えば、米国特許出願公開第20080241223号、米国特許第5,501,856号、同第4,863,457号、及び同第3,710,795号、欧州特許第488401号、及び同第430539号を参照されたい(各々の開示は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。本明細書に記載の組成物は、例えば、拡散系、浸食系、または対流系、例えば、浸透圧ポンプ、生分解性移植片、電子拡散系、電子浸透軽、蒸気圧ポンプ、電解ポンプ、発泡ポンプ、圧電ポンプ、浸食ベース系、または電気機械系に基づく埋め込み型デバイスによって対象に送達され得る。
【0168】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、局所投与によって対象に治療的に送達される。本明細書で使用される場合、「局所投与」または「局所送達」は、血管系を介してその意図される標的組織または部位への組成物または薬剤の輸送に依存しない送達を指す。例えば、組成物は、その組成物もしくは薬剤の注射もしくは埋め込みによって、またはその組成物もしくは薬剤を含有するデバイスの注射もしくは埋め込みによって送達されてもよい。標的組織または部位付近の局所投与に続いて、組成物もしくは薬剤、またはその1つ以上の成分は、意図される標的組織もしくは部位に拡散することができる。
【0169】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、接合部(例えば、関節)に局所的に投与され得る。例えば、障害が関節炎である実施形態において、治療上適切な組成物は、接合部(例えば、関節腔内)に、または関節付近に直接投与され得る。本明細書に記載の組成物が局所的に投与され得る関節内接合部の例としては、例えば、臀部、膝、肘、手首、胸鎖、側頭下顎、手根骨、足根骨、足首、及び関節炎病態の対象となる任意の他の接合部が挙げられる。本明細書に記載の組成物は、例えば、肩峰、二頭筋橈骨、肘橈骨、三角筋、膝蓋下、坐骨、及び医療分野において既知の任意の他の嚢などの嚢に投与することもできる。
【0170】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、目に局所的に投与され得る。本明細書で使用される場合、「目」という用語は、目に関連した任意かつ全ての解剖学的組織及び構造を指す。目は、3つの別個の層、すなわち外側強膜、中間脈絡膜層、及び内側網膜からなる壁を有する。レンズの後ろにある房は、硝子体液と称されるゲル状流体で満たされている。目の後部には光を検出する網膜がある。角膜は、画像を目の背後に伝える光学的に透明な組織である。角膜は、目の中に薬物を浸透させるための1つの経路を含む。目に関連した他の解剖学的組織構造としては、分泌系、分配系、及び排泄系を含む導涙系が挙げられる。分泌系は、涙液蒸発、及び遠心性副交感神経供給を有し、身体的または感情的刺激に反応して涙液を分泌する反射分泌体に起因する瞬き及び温度変化によって刺激される分泌体を含む。分配系は、瞼及び開いた目の蓋縁の周りに涙液メニスカスを含み、これが瞬きによって涙液を眼表面全体に広げ、故に乾燥面積が拡大するのを低減する。
【0171】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、目の後房に投与される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、硝子体内に投与される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、経強膜的に投与される。
【0172】
いくつかの実施形態において、例えば、COPDまたは喘息などの障害の治療または予防のための実施形態では、本明細書に記載の組成物は、肺によって対象に投与され得る。肺薬物送達は、吸入によって達成されてもよく、本明細書での吸入による投与は、経口及び/または経鼻であり得る。肺送達のための薬学的デバイスの例としては、定用量吸入器、乾燥粉末吸入器(DPI)、及び噴霧器が挙げられる。例えば、本明細書に記載の組成物は、乾燥粉末吸入器によって対象の肺に投与され得る。これらの吸入器は、分散性かつ安定した乾燥粉末製剤を肺に送達する、推進薬を含まないデバイスである。乾燥粉末吸入器は、医療分野において周知であり、無制限に、TurboHaler(登録商標)(AstraZeneca、London,England)、AIR(登録商標)吸入器(Alkermes(登録商標)、Cambridge,Massachusetts)、Rotahaler(登録商標)(GlaxoSmithKline、London,England)、及びEclipse(商標)(Sanofi−Aventis、Paris,France)が挙げられる。例えば、PCT公開第04/026380号、同第04/024156号、及び同第01/78693号も参照されたい。DPIデバイスは、インスリン及び成長ホルモンなどのポリペプチドの肺投与のために使用されている。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、定用量吸入器によって肺内投与され得る。これらの吸入器は、別個の用量の化合物を肺に送達するために推進薬に依存する。定用量吸入器によって投与される化合物の例としては、例えば、Astovent(登録商標)(Boehringer−Ingelheim、Ridgefield,Connecticut)及びFlovent(登録商標)(GlaxoSmithKline)が挙げられる。例えば、米国特許第6,170,717号、同第5,447,150号、及び同第6,095,141号も参照されたい。
【0173】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、噴霧器によって対象の肺に投与され得る。噴霧器は、圧縮空気を使用して、化合物を液化エアロゾルまたはミストとして送達する。噴霧器は、例えば、ジェット噴霧器(例えば、空気もしくは液体ジェット噴霧器)、または超音波噴霧器であり得る。追加のデバイス及び肺内投与方法は、例えば、米国特許出願公開第20050271660号及び同第20090110679号に記載されている(各々の開示は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。
【0174】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供される組成物は、単位投薬形態で存在し、特に自己投与に好適であり得る。本開示の配合生成物は、典型的に、例えば、バイアルカートリッジ、充填済みシリンジ、または使い切りペンなどの容器内に含まれ得る。米国特許第6,302,855号に記載の投与器デバイスなどの投与器は、例えば、本開示の注射システムとともに使用されてもよい。
【0175】
本開示の注射システムは、米国特許第5,308,341号に記載されるような送達ペンを用いることができる。糖尿病患者へのインスリンの自己送達のために最も一般的に使用されるペンデバイスは、当該技術分野において周知である。かかるデバイスは、少なくとも1つの注射針(例えば、長さ約5〜8mMの31ゲージ針)を備えることができ、典型的に、1つ以上の治療単位用量の治療溶液で充填済みであり、可能な限り少ない痛みで溶液を対象に急速送達するために有用である。
【0176】
ある薬品送達ペンは、インスリンまたは他の薬品のバイアルが受容され得るバイアル保持具を含む。このバイアル保持具は、近位端及び遠位端を有する細長い略管状構造である。バイアル保持具の遠位端は、両端針カニューレに係合するための載置手段を含む。近位端もまた、駆動具及び用量設定装置を含むペン本体に係合するための載置手段を含む。先行技術のバイアル保持具とともに使用するためのバイアルを含む使い切り薬品(例えば、本明細書に記載の組成物の高濃度溶液)は、両端針カニューレの一端によって穿刺され得る穿刺可能な弾性中隔を有する遠位端を含む。このバイアルの近位端は、バイアルの円筒壁との液密係合で摺動可能に配設された停止具を含む。この薬品送達ペンは、薬品のバイアルをバイアル保持具に挿入することによって使用される。次に、ペン本体がバイアル保持具の近位端に接続される。ペン本体は、ペンによって送達される薬品の用量を指定するための用量設定装置、及び選択された用量に対応する距離だけ遠位に、バイアルの停止具を推進するための駆動装置を含む。ペンの使用者は、両側針カニューレをバイアル保持具の両端に載せ、針カニューレの近位先端がバイアル上の中隔を穿刺するようにする。次に患者は、用量を選択し、ペンを操作して停止具を遠位に推進し、選択された用量を送達する。用量選択装置は、選択された用量を注射するとゼロに戻る。次に患者は、針カニューレを除去及び破棄し、薬品送達ペンを、次に必要とされる薬品投与に便利な場所で保持する。バイアル中の薬品は、かかる薬品の数回投与後に使い果たされる。次に患者は、バイアル保持具をペン本体から分離する。次に空のバイアルを除去して破棄することができる。新たなバイアルをバイアル保持具に挿入することができ、バイアル保持具及びペン本体を、上で説明されるように再度組み立てて使用することができる。したがって、薬品送達ペンは、一般に、正確な投薬及び使用の容易性のための駆動機序を有する。
【0177】
回転ノブなどの投薬機序は、使用者が、事前包装された薬品のバイアルからペンによって注射される薬品の量を正確に調整することを可能にする。その薬品の用量を注射するために、使用者は、針を皮下に挿入し、それが押せるだけ遠くにノブを1回押す。ペンは、全体的に機械的なデバイスであり得るか、または使用者に注射される薬品の投薬量を正確に設定及び/または指示するために、電子回路と組み合わされてもよい。例えば、米国特許第6,192,891号を参照されたい。
【0178】
いくつかの実施形態において、ペンデバイスの針は使い切りであり、キットは、1つ以上の使い切り交換針を含む。本明細書で取り上げられている組成物のうちのいずれか1つの送達に適したデバイスは、例えば、米国特許第6,277,099号、同第6,200,296号、及び同第6,146,361号にも記載されている(各々の開示は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。微小針ベースのペンデバイスは、例えば、米国特許第7,556,615号に記載されている(その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。Scandinavian Health Ltdによって製造される精密ペン注射器(PPI)デバイス、Molly(商標)も参照されたい。
【0179】
本開示は、本明細書に記載の組成物などの薬品の慢性及び/または自己投与に適した制御放出または長期放出製剤も提示する。様々な製剤は、ボーラスとして薬品を用いるか、または長期間にわたる連続注入による治療を必要とする患者に投与され得る。
【0180】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の高濃度組成物は、持続放出、長期放出、時限放出、制御放出、または連続放出投与のために配合される。いくつかの実施形態において、デポー製剤は、それを必要とする対象に組成物を投与するために使用される。この方法において、組成物は、数時間または数日の期間にわたって活性剤の段階的放出を提供する1つ以上の担体とともに配合される。かかる製剤は、体内に段階的に分散して活性剤を放出する分解マトリックスに基づく場合が多い。
【0181】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、噴霧器または吸入器によってそれを必要とする対象に投与される。例えば、本明細書に記載の組成物は、噴霧器または吸入器によって、喘息またはCOPDなどの障害に罹患した対象(例えば、ヒト)に送達され得る。
【0182】
対象において障害を治療または予防することができる好適な用量の本明細書に記載の組成物は、例えば、治療される対象の年齢、性別、及び体重、ならびに使用される特定の阻害剤化合物を含む様々な因子に依存し得る。例えば、RAを有する対象を治療するために必要とされる異なる組成物(例えば、抗TNFα組成物)の用量と比較して、異なる用量の1つの組成物(例えば、抗C5組成物)が、その対象を治療するために必要とされ得る。対象に投与される用量に影響を及ぼす他の因子としては、例えば、障害の種類または重症度が挙げられる。例えば、RAを有する対象は、PNHを有する対象とは異なる投薬量の本明細書に記載の抗C5組成物の投与を必要とし得る。他の因子としては、例えば、対象が現在罹患しているか、または以前に罹患していた他の医的障害、対象の一般的健康、対象の遺伝的素因、食事、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、及び対象に投与される任意の他の追加治療薬を挙げることができる。任意の特定の対象に対する特定の投薬及び治療計画は、治療する医療実践者(例えば、医師または看護師)の判断にも依存することも理解すべきである。
【0183】
本明細書に記載の組成物は、固定用量として、または1キログラム当たりのミリグラム(mg/kg)用量で投与され得る。いくつかの実施形態において、用量は、抗体の生成または組成物中の抗原結合分子のうちの1つ以上に対する他の宿主免疫反応を低減または回避するように選択することもできる。決して限定することを意図しないが、本明細書に記載の組成物などの抗体の例示的投薬量としては、例えば、1〜1000mg/kg、1〜100mg/kg、0.5〜50mg/kg、0.1〜100mg/kg、0.5〜25mg/kg、1〜20mg/kg、及び1〜10mg/kgが挙げられる。本明細書に記載の組成物の例示的投薬量としては、無制限に、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg、4mg/kg、8mg/kg、または20mg/kgが挙げられる。
【0184】
薬学的溶液は、治療上有効な量の本明細書に記載の組成物を含み得る。かかる有効量は、投与される組成物の効果、または複数の薬剤が使用される場合は、組成物及び1つ以上の追加活性剤の複合効果に部分的に基づいて、当業者によって容易に決定され得る。治療上有効な量の本明細書に記載の組成物は、個人の疾患状態、年齢、性別、及び体重、ならびに組成物(及び1つ以上の追加活性剤)がその個人において所望の反応、例えば、少なくとも1つの状態パラメータの改善、例えば、補体媒介障害の少なくとも1つの症状の改善を引き出す能力などの因子によっても異なり得る。例えば、治療上有効な量の本明細書に記載の組成物は、特定の障害及び/または当該技術分野において既知または本明細書に記載の特定の障害の症状のうちのいずれか1つを阻害する(その重症度を軽減するか、またはその発生を排除する)、及び/または防止することができる。治療上有効な量は、その組成物のいかなる傷害性または有害効果よりも、治療上有益な効果が上回るものでもある。
【0185】
本明細書に記載の組成物のうちのいずれかの好適なヒト用量は、例えば、第I相用量漸増研究において更に評価され得る。例えば、van Gurp et al.(2008)Am J Transplantation 8(8):1711−1718、Hanouska et al.(2007)Clin Cancer Res 13(2,part 1):523−531、及びHetherington et al.(2006)Antimicrobial Agents and Chemotherapy 50(10):3499−3500を参照されたい。
【0186】
「治療上有効な量」または「治療上有効な用量」という用語、または本明細書で使用される類似語は、所望の生物学的または医的反応(例えば、補体関連障害の1つ以上の症状の改善)を引き出す薬剤(例えば、本明細書に記載の組成物)の量を意味することが意図される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の薬学的溶液は、治療上有効な量の該組成物のうちの少なくとも1つを含有する。いくつかの実施形態において、この溶液は、1つ以上の組成物及び1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11以上)の追加の治療薬を含有し、組成物が全体として治療上有効であるようになる。例えば、溶液は、本明細書に記載の抗C5組成物、及び免疫抑制剤を含有することができ、この組成物及び薬剤は各々、組み合わされたときに、対象において補体関連障害(例えば、COPD、喘息、敗血症、もしくはRAなどの補体関連炎症性障害)を治療または予防するために治療上有効な濃度である。
【0187】
かかる組成物の傷害性及び治療効果は、細胞培養物または実験動物(例えば、本明細書に記載の補体媒介障害のうちのいずれかの動物モデル)において、既知の薬学的手順によって決定され得る。これらの手順は、例えば、LD
50(集団の50%に対して致死的な用量)及びED
50(集団の50%において治療上有効な用量)を決定するために使用され得る。傷害性と治療効果との間の用量比率は、治療指数であり、比率LD
50/ED
50として表現され得る。高い治療指数を呈する本明細書に記載の組成物が好ましい。傷害性副作用を呈する組成物が使用されることがあるが、罹患した組織の部位に対してかかる化合物を標的とする送達系を設計すること、及び性状細胞に対する潜在的な損傷を最小限に抑え、それによって副作用を低減することに注意を払うべきである。
【0188】
細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータを、ヒトにおいて使用するための投薬量の範囲を策定する際に使用することができる。本明細書に記載の組成物の投薬量は、一般に、傷害性をほとんど有しないか、または全く有しない、ED
50を含む組成物の循環濃度の範囲内にある。投薬量は、用いられる投薬形態及び投与経路に応じて、この範囲内で変化してもよい。本明細書に記載の組成物の場合、治療上有効な用量は、最初に細胞培養アッセイから推定され得る。用量は、動物モデルにおいて、細胞培養物中で決定されるIC
50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する抗体の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように策定され得る。かかる情報を使用して、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高性能液体クロマトグラフィーによって測定されてもよい。例えば、局所投与(例えば、目または接合部への)が所望されるいくつかの実施形態において、細胞培養物または動物モデリングを使用して、局所部位内で治療上有効な濃度を達成するために必要な用量を決定することができる。
【0189】
いくつかの実施形態において、これらの方法は、補体関連障害のための他の療法と併せて行うことができる。例えば、組成物は、血漿交換療法、IVIG療法、または血漿交換と同時、その前、またはその後に対象に投与され得る。例えば、Appel et al.(2005)J Am Soc Nephrol 16:1392−1404を参照されたい。いくつかの実施形態において、組成物は、腎移植と同時、その前、またはその後に対象に投与され得る。
【0190】
「対象」は、本明細書で使用される場合、任意の哺乳動物であり得る。例えば、対象は、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、オランウータン、ゴリラ、マカク、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、またはマウスであり得る。いくつかの実施形態において、対象は、幼児(例えば、ヒト幼児)である。
【0191】
本明細書で使用される場合、「予防を必要とする」、「治療を必要とする」、または「それを必要とする」対象は、適切な医療実践者(例えば、ヒトの場合は医師、看護師、または看護実践者、非ヒト哺乳動物の場合は獣医)の判断によって、所与の治療からある程度の利益を享受するものを指す。
【0192】
「予防する」という用語は、当該技術分野において認識されており、病態に関連して使用されるとき、当該技術分野において十分に理解され、本明細書に記載の組成物を受けない対象と比べて、対象における医的病態の症状の発症の頻度を低減するか、または遅延させる組成物の投与を含む。故に、喘息などの補体関連障害の予防は、例えば、未治療対照集団と比べて、予防処置を受ける患者の集団における咳、喘鳴、または胸痛の程度または頻度を低減すること、及び/または治療集団対未反応対照集団において、例えば、統計的及び/または臨床的に有意な量によって、咳または喘鳴の発生を遅延させることを含む。
【0193】
上記のように、本明細書に記載の組成物は(例えば、抗C5組成物)を使用して、関節リウマチ(RA)、ループス腎炎、虚血再灌流傷害、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、定型溶血性尿毒症症候群(tHUS)、デンスデポジット病(DDD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、多発性硬化症(MS)、黄斑変性(例えば、加齢性黄斑変性(AMD))、溶血、高肝酵素及び低血小板(HELLP)症候群、敗血症、皮膚筋炎、糖尿病性網膜症、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自然流産、少数免疫性血管炎、表皮水疱症、習慣性流産、多発性硬化症(MS)、及び外傷性脳損傷などであるが、これらに限定されない様々な補体関連病態を治療することができる。例えば、Holers(2008)Immunological Reviews 223:300−316及びHolers and Thurman(2004)Molecular Immunology 41:147−152を参照されたい。いくつかの実施形態において、補体媒介障害は、心血管障害、心筋炎、脳血管障害、末梢(例えば、筋骨格)血管障害、腎血管障害、腸間膜/腸血管障害、移植片及び/または再移植片に対する血管再生、血管炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病性腎炎、全身性エリテマトーデス関連血管炎、関節リウマチに関連した血管炎、免疫複合体血管炎、臓器または組織移植、高安病、毛細管漏出症候群、拡張型心筋症、糖尿病性血管障害、胸腹部大動脈瘤、川崎病(動脈炎)、うっ血性基体塞栓(VGE)、及びステント留置に続く再狭窄、回転式粥腫切除術、及び経皮的冠動脈形成術(PTCA)などであるが、これらに限定されない補体媒介血管障害である。(例えば、米国特許出願公開第20070172483号を参照されたい。)いくつかの実施形態において、補体関連障害は、重症筋無力症、寒冷凝集素症(CAD)、発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)、皮膚筋炎、強皮症、温式自己免疫性溶血性貧血、グレーブス病、橋本甲状腺炎、I型糖尿病、乾癬、天疱瘡、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、グッドパスチャー症候群、抗リン脂質症候群(APS)、デゴス病、及びカタストロフィーAPS(CAPS)である。
【0194】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、単独で、または第2の抗炎症薬との組み合わせで使用して、RA(上記)、炎症性腸疾患、敗血症(上記)、敗血症性ショック、急性肺傷害、播種性血管内凝固(DIC)、またはクローン病などであるが、これらに限定されない炎症性障害を治療することができる。いくつかの実施形態において、第2の抗炎症薬は、NSAID、コルチコステロイド、メトトレキセート、ヒドロキシクロロキン、エタネルセプト及びインフリキシマブなどの抗TNF薬、リツキシマブなどのB細胞低下剤、インターロイキン−1拮抗薬、またはアバタセプトなどのT細胞共刺激遮断剤からなる群から選択されるものであり得る。
【0195】
いくつかの実施形態において、補体関連障害は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳傷害、アルツハイマー病、及び慢性炎症性脱髄ニューロパシーなどであるが、これらに限定されない補体関連神経学的障害である。
【0196】
補体関連障害は、喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患、α−1抗トリプシン欠損症、気腫、気管支拡張症、閉塞性細気管支炎、肺胞炎、サルコイドーシス、肺線維症、及びコラーゲン血管障害などであるが、これらに限定されない補体関連肺障害も含む。
【0197】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、対象において補体関連炎症反応(例えば、補体関連障害の補体関連炎症反応の態様)の少なくとも1つの症状を治療、予防、または改善するために対象に投与される。例えば、組成物を使用して、移植片拒絶/移植片対宿主疾患(GVHD)、再灌流傷害(例えば、心肺バイパスまたは組織移植に続く)、及び火傷(例えば、重度火傷)、鈍的外傷、脊髄損傷、または凍傷などの他の形態の外傷に続く組織損傷などの補体関連炎症反応に関連した1つ以上の症状を治療、予防、及び/または改善することができる。例えば、Park et al.(1999)Anesth Analg 99(1):42−48、Tofukuji et al.(1998)J Thorac Cardiovasc Surg 116(6):1060−1068、Schmid et al.(1997)Shock 8(2):119−124、及びBless et al.(1999)Am J Physiol 276(1):L57−L63を参照されたい。
【0198】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、単剤療法として対象に投与され得る。代替として、上記のように、この組成物は、別の治療、例えば、補体関連障害または補体関連炎症反応に対する別の治療との複合療法として対象に投与され得る。例えば、この複合療法は、敗血症を有するか、または発症する危険性のある対象に対して治療利益をもたらす、1つ以上の追加の薬剤(例えば、抗凝固剤、降圧剤、または抗炎症薬(例えば、ステロイド))を対象(例えば、ヒト患者)に投与することを含み得る。別の例において、複合療法は、COPDまたは喘息などの補体関連肺障害を有するか、発症する危険性があるか、または有することが疑われる対象に対して治療利益をもたらす、1つ以上の追加薬剤(例えば、抗IgE抗体、抗IL−4抗体、抗IL−5抗体、または抗ヒスタミン)を対象に投与することを含み得る。いくつかの実施形態において、組成物及び1つ以上の追加の活性剤は、同時に投与される。他の実施形態において、組成物が最初に投与され、1つ以上の追加の活性剤が2番目に投与される。いくつかの実施形態において、1つ以上の追加の活性剤が最初に投与され、組成物が2番目に投与される。
【0199】
本明細書に記載の組成物は、以前に投与された、または現在投与されている療法に代わり得るか、または増強することができる。例えば、本明細書に記載の組成物で治療する際、1つ以上の追加活性剤の投与を停止または減少させることができ、例えば、より低いレベルで、例えば、本明細書に記載の抗C5組成物の投与に続いて低レベルのエクリズマブが投与され得る。いくつかの実施形態において、以前の療法の投与が維持され得る。いくつかの実施形態において、組成物のレベルが治療効果をもたらすのに十分なレベルに到達するまで、以前の療法が維持される。2つの療法を組み合わせて投与することができる。
【0200】
本明細書で定義されるように、障害(例えば、敗血症、重度火傷、RA、ループス腎炎、グッドパスチャー症候群、または喘息)の改善について対象(例えば、ヒト患者)を監視することは、疾患パラメータの変化、例えば、所与の障害の1つ以上の症状の改善について対象を評価することを意味する。上記障害(例えば、補体関連障害)のうちの多くの症状は、医学の分野において周知である。いくつかの実施形態において、評価は、本明細書に記載の組成物の投与後、少なくとも1時間、例えば、少なくとも2、4、6、8、12、24、もしくは48時間、または少なくとも1日、2日、4日、10日、13日、20日以上、または少なくとも1週間、2週間、4週間、10週間、13週間、20週間以上にわたって行われる。対象は、次の期間、すなわち、治療の開始前、治療中、または治療のうちの1つ以上の要素が投与された後のうちの1つ以上において評価され得る。評価は、更なる治療の必要性を評価すること、例えば、投薬量、投与頻度、または治療期間を変更すべきかどうかを評価することを含み得る。選択された治療形態を追加または除外する、例えば、本明細書に記載の補体関連障害に対する治療のうちのいずれかを追加または除外する必要性を評価することも含み得る。
【0201】
以下の実施例は、単なる例示であり、多くの変化型及び均等物は、本開示を読むことで当業者に明らかとなるため、いかなる方法においても本開示の範囲を限定するものと見なされるべきではない。本明細書で引用される全ての特許、特許出願、及び刊行物は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0202】
実施例1.エクリズマブの半減期は、いくつかのクリアランス速度の組み合わせである
規定された投与計画を受けるPNH及びaHUS患者におけるエクリズマブの平均半減期は、約11〜12日であるが、IgG2/4 Fcを有するヒト化モノクローナル抗体について予期される半減期は、IgG2またはIgG4 Fcを含有する抗体のそれに類似する、約21〜28日であると予測される。Morell et al.(1970)J Clin Invest 49(4):673−680。エクリズマブの全体クリアランス速度に対する抗原媒介クリアランスの潜在的影響を理解するために、ヒト新生児Fc受容体(hFcRn)マウスモデル(マウスは、内因性FcRnを欠失するが、hFcRnに対してトランスジェニックである(B6.Cg−Fcgrt
tm1Dcr Tg(FCGRT)32Dcr/DcrJ、保管番号014565、Jackson Laboratories,Bar Harbor,Maine))を使用して以下の実験を行った。トランスジェニックFcRnモデルは、例えば、Petkova et al.(2006)Int Immunology 18(12):1759−1769、Oiao et al.(2008)Proc Natl Acad Sci USA 105(27):9337−9342、及びRoopenian et al.(2010)Methods Mol Biol 602:93−104に記載されている。
【0203】
200μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の100μgのエクリズマブの単一用量を、静脈内(i.v.)注射によって5匹のhFcRnトランスジェニックマウスの各々に投与した。約100μLの血液試料を、投与後1、3、7、14、21、28、及び35日目に、マウスの各々から収集した。血清中のエクリズマブの濃度を、ELISAによって測定した。簡単に言えば、アッセイプレートをヒツジ抗ヒトIgκ軽鎖捕捉抗体でコーティングし、遮断した。次にプレートのウェルを、エクリズマブが血清中に存在する場合、捕捉抗体に結合するのを可能にする条件下で血清試料と接触させた。各ウェルに結合したエクリズマブの相対量は、検出可能に標識された抗ヒトIgG4抗体を使用して検出され、既知量のエクリズマブを含有するナイーブマウス血清から生成された標準曲線と比べて定量された。
【0204】
抗体血清半減期は、以下の式を使用して計算した。
【数1】
式中、T=経過した時間、A
o=抗体の元の血清濃度(本研究の1日目における濃度)、A
t=経過時間T後に残留する抗体の量(最小検出可能濃度、または本研究での最後の出血時点(35日目))。
【0205】
実験の結果を
図1に示す。hFcRnマウスモデルにおけるエクリズマブの半減期は、13.49±0.93日であった。
【0206】
hFcRnモデルを使用して、エクリズマブの半減期に対するヒトC5の影響を決定するために、抗体を、投与する前に4:1のモル比でヒトC5(Complement Technology Inc.,カタログ番号:A120)と予備混合し、100μgのエクリズマブの用量を、0日目に静脈内(i.v.)投与した。約100μLの血液を、1、3、7、14、21、28、及び35日目に、後眼窩出血によって血清のために1.5mLのエッペンドルフ管に収集した。
【0207】
図1に示されるように、C5の存在下でのhFcRnマウスモデルにおけるエクリズマブの半減期は、4.55±1.02日であった。これらの結果は、長い半減期がFcRn媒介再生利用によって主に支配されるエンドサイトーシス媒介抗体クリアランス機序に加えて、エクリズマブの半減期が、ヒトC5を通じた抗原媒介クリアランスによって著しく影響され得ることを示す。
【0208】
実施例2.エクリズマブのFcドメイン内のアミノ酸置換は、エクリズマブの半減期を増加させるが、エクリズマブクリアランスに対するC5の影響を上回るには十分でない
IgG抗体のFc領域内の、ある特定のアミノ酸置換は、循環からの抗体の排除速度を低減することが示された。pH6.0でのFcRnについてのIgG抗体の結合親和性を増加させる置換は、かかる生物学的効果の例である。例えば、Dall’Acqua et al.(2006)J Immunol 117:1129−1138及びGhetie et al.(1997)Nat Biotech 15:637−640を参照されたい。Zalevsky et al.[(2010)Nat Biotech 28:157−159]は、血清中のIgG抗体の半減期を増加させることができるいくつかのアミノ酸置換、例えば、M428L/N434Sを説明している。他の半減期を延長するアミノ酸置換には、例えば、T250Q/M428L及びM252Y/S254T/T256Eが挙げられる。例えば、国際特許出願公開第2008/048545号及びDall’Acqua et al.(2006)J Biol Chem 281:23514−23524を参照されたい。エクリズマブのFc定常領域内の1つ以上のアミノ酸置換が、血清中のエクリズマブの半減期を延長することができるかどうかを決定するために、EU付番指標に基づいて、以下の置換、すなわちM252Y/S254T/T256Eをエクリズマブに導入した(以降、このエクリズマブの変異体は、YTE変異体と称される)。重鎖定常領域は、以下のアミノ酸配列で構成される。
【化10】
エクリズマブのYTE変異体の完全長重鎖ポリペプチドについてのアミノ酸配列は、配列番号16に示される。
【0209】
YTE変異体は、実施例1に記載されるhFcRnマウスモデルにおけるエクリズマブとともに評価した。つまり、100μgのエクリズマブ(IgG2/4 Fc領域)、200μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のエクリズマブのFcまたはYTE変異体を含有するエクリズマブの変異体を、8匹のhFcRnトランスジェニックマウスの各々に静脈内(i.v.)注射によって投与した。投与後1、3、7、14、21、28、及び35日目に各マウスから血清を収集した。血清中の各抗体の濃度は、ELISAによって測定し、実施例1に記載されるように半減期を計算した。結果を
図2及び表2に示す。
【表2】
【0210】
図2及び表2に示されるように、YTE置換は、エクリズマブの平均半減期を14.28±1日から29.07±4.7日に2倍より多く増加させた。
【0211】
エクリズマブのYTE変異体の半減期に対するヒトC5の影響を決定するために、実施例1において上に記載されるように、マウスにヒトC5を投与した。100μgのエクリズマブ、エクリズマブ−IgG2変異体、またはエクリズマブ−IgG2 YTE変異体の用量を、0日目に静脈内投与した。
図3及び表3に示されるように、エクリズマブ、エクリズマブ−IgG2変異体、及びエクリズマブ−IgG2 YTE変異体の半減期は、モル過剰のヒトC5の存在下で著しく減少した。故に、エクリズマブのFcRn結合ドメイン内のアミノ酸置換は、エクリズマブの半減期に対するC5媒介クリアランスの寄与を上回るには不十分であった。
【表3】
【0212】
実施例3.半減期に対するエクリズマブのCDR内のアミノ酸置換の影響
上記のように、マウスにおけるエクリズマブの半減期は、その抗原、ヒトC5(hC5)の存在下で著しく短縮される。いかなる特定の理論または作用機序にも拘束されないが、抗原の存在下での加速したクリアランスは、部分的に、C5についてのエクリズマブの非常に高い親和性(K
D pH7.4で約30pM、及びpH6.0で約600pM)の結果であると仮定され、これは飲作用後の早期エンドソームコンパートメント内の抗体:C5複合体の効率的な解離を可能にしない。解離なしに、抗体:抗原複合体は、新生児Fc受容体(FcRn)を介して細胞外コンパートメントに再生利用されるか、またはリソソーム分解の標的とされるかのいずれかである。いずれかの場合、抗体は、その寿命において、2つを超えるC5分子を結合することはできない。
【0213】
C5についてのエクリズマブの強い親和性(K
D 約30pM)は、血中の全C5のほぼ完全な結合を可能にし、ごくわずかなC5が活性化されてC5a及びTCCを形成することを確実にする。したがって、C5についてのエクリズマブの親和性は、抗体で治療された患者におけるその抗体のインビボ有効性に関連づけられる。発明者らは、エクリズマブのインビボでの有効性を損なうことなく、C5についてのエクリズマブの親和性を弱めることを提示する。この開示は、かかる手法に限定されないが、これは、エクリズマブのCDR内の1つ以上の位置にヒスチジンを導入することによって達成された。ヒスチジンは、6.04のpKaを有する。これは、pH値が7.4(血液)から6.0未満(早期エンドソーム)に低下するとき、ヒスチジンがプロトンを得ることを意味する。故に、エンドソーム内で、ヒスチジンはより正電荷を持つようになる。発明者らは、エクリズマブ内のC5に対する結合部位またはその付近にヒスチジンを導入することが、中性pHで血中のC5に対する高い親和性を維持しながら、エンドソーム内の電荷シフトがエンドソーム内の結合を破壊し得ると仮定した。かかる置換は、エンドソームの酸性環境内で、抗体:C5複合体からの抗体の解離を促進することによって半減期を増加させ、それによりC5がリソソーム内で分解される一方で遊離抗体が再生利用されると仮定される。
【0214】
エクリズマブを親抗体として使用し、全てのCDR位置がヒスチジンで置換された一連の変異抗体を生成した。エクリズマブの重鎖可変領域は、以下のアミノ酸配列を有する。
【化11】
(重鎖可変領域のCDR領域に下線が引かれる。)エクリズマブの軽鎖可変領域は、以下のアミノ酸配列を有する。
【化12】
【0215】
このヒスチジンを走査する試みの結果は、エクリズマブの66の単一ヒスチジン置換変異体であった。これらの抗体変異体についての軽鎖及び重鎖コード配列を、確認された哺乳動物細胞及び配列内での発現に適した別個の「単一遺伝子構成体」プラスミドにクローン化した。単一アミノ酸置換を含有する抗体は、単一軽鎖または重鎖をコードする単一遺伝子構成体の同時形質移入によって、HEK293F細胞内で一時的に発現された。未修飾のエクリズマブCDR配列を表す「野生型」重鎖及び軽鎖の同時形質移入も行った(EHL000)。組織培養上清を抗体発現レベルについて正規化し、それらを使用して、Octet Red器具(ForteBio Inc.)上でバイオレイヤー干渉法を用いて、EHL000と比べたヒトC5への抗体結合を評価した。簡単に言えば、抗ヒトIgG Fcバイオセンサー(ForteBio、カタログ番号18−5001)上で抗体を捕捉した。次に装填されたチップを、12.5nMの天然精製ヒトC5を含有するpH7.4の緩衝溶液に800秒間曝露して、親抗体と比べた会合の動態を評価した。解離動態は、チップをpH7.4緩衝溶液またはpH6.0緩衝溶液に800秒間移すことによって評価した。全ての測定を繰り返して、読み取り値の一貫性を確実にした。
【0216】
エクリズマブの単一ヒスチジン置換変異体は、エクリズマブと比べた一連の3つの特性に基づいて選択された。好ましいヒスチジン変異体は、pH7.4でのエクリズマブのk
a及びk
dからわずかに逸脱するにすぎないが、pH6.0でのエクリズマブのk
dから著しく逸脱した。相対閾値選択基準は以下のとおりであった。
(1)pH7.4での会合動態の最大変動が、エクリズマブについて観察される800秒での平均化ピーク相シフトと比較して、800秒で33%小さいピーク相シフト、
(2)pH7.4での解離動態の最大変動が、エクリズマブについて観察される800秒での平均化ピーク相シフトと比較して、800秒超で3倍以下のピーク相シフトの低減、及び
(3)pH6.0での解離動態の最小変化が、エクリズマブについて観察される800秒での平均化ピーク相シフトと比較して、800秒超で少なくとも3倍低減したピーク相シフト。
例えば、上記の項目(1)に関して、800秒のエクリズマブとの会合の後の平均ピーク相シフトが、約0.75nMである場合、0.5nM未満(例えば、2回以上複製された)の相シフトを有する試験抗体は、上記基準を満たさない。対照的に、800秒で0.5nMを超えるピーク相シフトを有する試験抗体は、第1の基準を満たす。
【0217】
これらの閾値を満たす軽鎖可変領域内の単一置換は、全て配列番号8に対して、G31H、L33H、V91H、及びT94Hであった。これらの閾値を満たす重鎖可変領域内の単一置換は、全て配列番号7に対して、Y27H、I34H、L52H、及びS57Hであった。
図5A、5B、5C、及び5Dを参照されたい。
【0218】
単一置換が閾値基準を満たす位置における2つのヒスチジン置換の全ての可能な組み合わせを含む、第2の一連の抗体を生成した。表1を参照されたい。これらの会合及び解離動態は、同じ方法によって分析し、元の親抗体及び単一ヒスチジン置換の両方と比較した。同様に、それぞれ3つまたは4つのヒスチジン置換を含む第3及び第4の一連の抗体を生成し、関連する2つまたは3つのヒスチジン置換先行体と比較して、会合及び解離動態を分析した。表1を参照されたい。各段階において、pH7.4での会合動態の最小閾値、pH7.4での解離動態の最大閾値に対して、及びpH6での解離動態の最小閾値に対して同じ基準を使用した。8つの置換の組み合わせが上記基準を満たし、SPRによるpH7.4及びpH6.0での親和性決定のために選択された。親和性を表4に記載する。
【表4】
【0219】
これらの置換の組み合わせの場合、C5に対するエクリズマブの親和性は、pH6.0で1000倍を超えて低減されたが、pH7.0において、親和性は、20倍以下の親和性の低減を受けた。これらから、EHG303(表4)が、pH7.4でのその高い親和性(0.146nM)及び8,000超の(pH6.0でのK
D)/(pH7.4でのK
D)の比率に起因して、更なる分析のために選択された。EHG303抗体の重鎖ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む。
【化13】
EHG303抗体の軽鎖ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む。
【化14】
上記配列において、下線部分は、各ポリペプチドのリーダー配列に対応し、イタリック体部分は、クローニングによって導入された異種アミノ酸である。
【0220】
EHL049抗体も選択された。その重鎖ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む。
【化15】
EHL049抗体の軽鎖ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む。
【化16】
上記配列において、下線部分は、各ポリペプチドのリーダー配列に対応し、イタリック体部分は、クローニングによって導入された異種アミノ酸である。
【0221】
最後に、EHL000重鎖ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む。
【化17】
EHL000抗体の軽鎖ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む。
【化18】
上記配列において、下線部分は、各ポリペプチドのリーダー配列に対応し、イタリック体部分は、クローニングによって導入された異種アミノ酸である。
【0222】
実施例4.ヒスチジン置換は、血清中のエクリズマブの半減期を延長する
上記EHL及びEHG抗体の各々の軽鎖ポリペプチド及び重鎖ポリペプチドは、単一遺伝子構成体から発現された。EHG303からの重鎖及び軽鎖コード配列は、EHL049抗体についての軽鎖及び重鎖配列と同様に、二重遺伝子発現ベクターに組み入れられた。結果として生じるEHG303クローンは、BNJ421と指定され、結果として生じるEHL049クローンは、BNJ423と指定された。BNJ421の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【化19】
BNJ421の軽鎖可変領域アミノ酸配列は以下のとおりである。
【化20】
BNJ423抗体の重鎖可変領域は、以下のアミノ酸配列を含む。
【化21】
BNJ423の軽鎖アミノ酸配列は、以下のとおりである。
【化22】
【0223】
これらの2つの分子は、免疫不全(NOD/scid)及びC5欠乏のマウスにおいて、EHL000とともに評価した。200μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の100μgのEHL000、BNJ421、またはBNJ423の単一用量を、8匹のマウスの各々に静脈内(i.v.)注射によって投与した。投与後1、3、7、14、21、28、及び35日目に、マウスの各々から血清を収集した。血清中の各抗体の濃度を、ELISAによって測定した。抗体血清半減期は、Pharsight Phoenix(登録商標)WinNonlin(登録商標)バージョン6.3ソフトウェアを使用し、非コンパートメント分析(NCA)及び直接応答Emaxを使用することによって計算した。血清中に残留する抗体のパーセンテージは、以下のように計算した。
【数2】
式中、C
t=所与の日の抗体濃度、及びC
1=1日目の抗体濃度。
結果を
図6及び表5に示す。
【表5】
【0224】
同じマウスモデルを使用してこれらの抗体の半減期に対するヒトC5の影響を決定するために、マウスにヒトC5を、−1日目(抗体をマウスに投与した日の前日)に250μgの負荷用量、続いて50μgのC5の1日2回用量を皮下投与して、血清C5濃度を約20μg/mLで維持した(実施例1に記載のとおり)。
【0225】
図7(及び下の表6)に示されるように、ヒト(hC5)の存在下でのマウスモデルにおけるEHL000(エクリズマブ−IgG1)の半減期(C5対エクリズマブのモル比が1:1を超える濃度で)は、2.49±0.34日であったが、BNJ421及びBNJ423抗体(ヒスチジン置換を含む)の半減期は、それぞれ15.25±0.90日及び22.71±0.71日で実質的により優れていた。これらの結果は、エクリズマブのCDR内のヒスチジン置換、及び結果として生じるC5についてのpH依存性親和性は、エクリズマブと比べて、血清からのエクリズマブ変異体のクリアランスの速度を著しく減少させることを示す。
【表6】
【0226】
実施例5.ヒスチジン置換エクリズマブ変異体は、補体阻害活性を喪失しない
更に、実施例4に記載の実験からのヒトC5を含有する試料の各々における血清溶血活性も評価した。マウス血清中の終末補体活性は、ニワトリ赤血球を溶解するその能力を評価することによって決定した。使用したマウスは、C5欠乏であったため、溶血活性は、試料中のヒトC5の活性に直接反映する。簡単に言うと、0.1% ゼラチン、141mM NaCl、0.5mM MgCl
2、0.15mM CaCl
2、及び1.8mM バルビタールナトリウムを含有するゼラチンベロナール緩衝生理食塩水(GVBS)(Comptechカタログ番号B100)中の50、3、及び0μg/mLでの抗体を、それぞれ低度、中度、及び100%溶解対照として使用した。実験試料は、マウス試験血清をGVBS中1:10に希釈することによって調製した。GVBS中の等量の20%マウスC5欠乏血清及び20%ヒト血清(Bioreclamation、カタログ番号HMSRM−COMP+)を対照ウェルに含み、等量のGVBS中の20%マウスC5欠乏血清及び20%ヒトC5欠乏血清(Complement Technologies、カタログ番号A320)を試験試料ウェルに含む、96ウェルプレート(Corning、Tewksbury,MA カタログ番号3799)の対応する三重ウェルに試料分量(50μL)を分注した。EDTA(500mMで2μL、Sigma、カタログ番号E−9884)を、対照及び試料三重体の両方を第3のウェルに添加して、「溶血なし」血清色対照を生成した。ニワトリ赤血球をGVBS中で洗浄し、感作して、4℃で15分間の抗ニワトリRBCポリクローナル抗体(Intercell Technologies、0.1% v/v)でのインキュベーションによって補体古典経路を活性化し、再度洗浄して、約7.5×10
7細胞/mLの最終濃度でGVBS中に再懸濁した。感作したニワトリ赤血球(約2.5×10
6細胞)を、対照及び試料を含有するプレートに添加し、プレート撹拌器上で簡単に混合して、37℃で30分間インキュベートした。試薬を再度混合し、845×gで3分間遠心分離して、85μLの上清を96ウェル平底マイクロタイタープレート(Nunc,Penfield,NY、カタログ番号439454)のウェルに移した。マイクロプレートリーダーを使用して、415nMでの吸光度を測定し、以下の式を使用して溶血のパーセンテージを決定した。
【数3】
【0227】
図8に示されるように、エクリズマブと比べたpH7.4での親和性のわずかな低減にもかかわらず、BNJ421及びBNJ423の両方は、依然として循環中に存在するヒトC5のほぼ全てを結合し、溶血を阻害することができた。これらの結果は、C5についてのエクリズマブの親和性が、インビボでの抗体の有効性を損なうことなく脆弱化され得、抗体に増加した血清半減期を付与することを示す。
【0228】
実施例6.C5へのpH依存性結合及び強化されたFcRn媒介再生利用は、エクリズマブ変異体の血清半減期に対する追加要素である
上に示されるように、ヒトC5の存在下、ヒスチジン置換エクリズマブ変異体の半減期は、トランスジェニックマウスにおいて著しく延長される。C5及びFcRnへのpH依存性結合の、構成的C5合成及びヒトFcRnの存在下での抗C5抗体の薬物動態(PK)及び薬力学(PD)に対する潜在的な追加の効果を評価するために、トランスジェニックマウス発現ヒトFcRn内にヒト定常領域を有する抗マウスC5抗体を使用して、一連のPK/PD実験を行った。これらのマウス抗C5抗体は、BB5.1の可変領域から操作され、マウス抗体は、マウスC5に結合し、活性代謝断片C5a及びC5bへのその切断を防止するため、エクリズマブの薬理学的代理として機能する[De Vries et al.(2003)Transplantation 3:375−382]。高親和性抗マウスC5抗体(BHL011と指定される)は、BB5.1マウス可変領域、ならびにヒトIgκ及びヒトIgG2/G4定常領域の親和性最適化変異体で操作された。BHL011のpH依存性変異体は、3つのヒスチジン置換をマウス可変領域に組み込むことによって操作された(この変異体は、BHL006と指定された)。第3の抗体は、hFcRnについての親和性を増加させるために、2つのアミノ酸置換をヒト定常領域重鎖(M428L、N434S)に組み込むことによって操作された(この変異体は、BHL009と指定された)。
【0229】
BHL006の軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【化23】
BHL006抗体の重鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【化24】
【0230】
BHL009の軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【化25】
BHL009の重鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【化26】
【0231】
BHL011の軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【化27】
BHL011の重鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【化28】
【0232】
精製されたマウスに結合するBHL011、BHL006、及びBHL009の動態は、抗Fcヒト捕捉方法を使用して、BIACore 3000器具上のSPRを介して決定された。簡単に言うと、pH5.0の10mM 酢酸ナトリウム中で0.1mg/mLに希釈された抗ヒトFc(KPL、カタログ番号:01−10−20)を、アミンカップリングによって8分間、CM5チップの2つのフローセル上に固定した。抗体を、泳動緩衝液(HBS−EP、0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% v/v 界面活性剤P20、GE Life Sciences、カタログ番号:BR1001−88)中で0.25μg/mLに希釈した。次に、希釈した抗体を1つのフローセルに注射し、続いて6nM マウスC5を両方のセルに注射した。第2のフローセルは、参照表面として使用した。結合を、pH7.4及びpH6.0で評価した。表面を毎回20mM HCl、0.01% P20で再生した。1:1ラングミュアモデルを用い、BIA評価4.1ソフトウェアを「二重参照」で使用してデータを処理した。pH6.0でのマウスC5に複合されたBHL011、BHL006、及びBHL009の解離は、6nM マウスC5(pH7.4)の注射に続いて、HBS−EP緩衝液(pH6.0)の注射を用いて同様に評価した。これらの実験の結果を表7に示す。
【表7】
【0233】
構成的C5合成の存在下での抗C5抗体の薬物動態(PK)に対するC5へのpH依存性結合の影響、及び半減期の追加の増加を付与するための強化FcRn再利用の可能性を決定するために、実施例1に記載のトランスジェニックFcRnマウスモデルを使用して、BHL011、BHL006、及びBHL009の総血清濃度を分析した。総抗体血清濃度及び1日目の濃度のパーセンテージとしての血清濃度を
図9〜11に示す。雄マウスは、実線で表され、雌は点線で表される。1日目の総抗体血清濃度は、体重の差及び分布量に比例して、雄よりも雌のほうが高かった。この性差は、恐らく、C5媒介クリアランスから生じる用量依存性非線形性に起因する、BHL011薬物動態の動物間の変異性に寄与した(
図9A及び9B)。一般に、動物間変異性は、加速したクリアランスを示したBHL006用量群中の1匹の雌(2939)を除いて、BHL006(
図10A及び10B)ならびにBHL009(
図11A及び11B)に対して低かった。動物2939における加速したクリアランスの理由は不明である。
【0234】
C5及びhFcRnの構成的合成の存在下、高親和性IgG2/4抗C5抗体(BHL011)は、6日の平均終末半減期を有し、21日目に約98%が循環から一掃された(
図12及び13、表8)。IgG2/4 Fc領域を有するpH依存性抗C5抗体(BHL006)についての平均クリアランス速度は減衰され、16〜19日の平均β相半減期を有する。IgG2/4 Fc領域を有するpH依存性抗C5抗体に対して、hFcRnについての向上した親和性とともに、半減期の追加の約2倍の増加が観察された(約36日のBHL009半減期)。これらのパラメータは、hFcRnマウスにおける抗原の非存在下、M428L、N434S置換の有無にかかわらずIgG2/4抗体に対して観察されるものと一致する。これらの結果は、pH依存性C5結合及びFcRnについての増加した親和性は、抗C5抗体のPK曝露を延長するために追加の効果を付与することを実証する。
【表8】
【0235】
ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける抗マウスC5抗体の薬力学
血清試料中の抗マウスC5抗体の薬理活性は、補体古典経路媒介ニワトリ赤血球(ニワトリ赤血球細胞、cRBC)溶血アッセイにおいて体外で評価された。溶血活性は、投与前試料における活性のパーセンテージとして計算され、
図14〜16に示される。雄は実線、及び雌は点線で表される。体外溶血活性の拮抗作用は、試料中の総抗体の濃度に比例する。溶血活性の拮抗作用の期間における性差は、BHL011に対して顕著であり(
図14)、BHL011 PKについての体重依存性動物間変異性に対応する(
図9)。一般に、動物間変異性は、加速した抗体クリアランスを示したBHL006用量群中の雌(2939)を除いて(
図10)、BHL006(
図15)及びBHL009(
図16)に対して低かった。
【0236】
総抗体血清濃度と体外溶血活性の拮抗作用との相関の差は、C5についての抗体の親和性に比例する。高親和性抗体(BHL011)は、約200μg/mLにおいて溶血活性をほぼ完全に抑制したが(
図17)、弱親和性、pH依存性抗C5抗体は、体外で完全な拮抗作用を達成するために、2〜3倍高い濃度を必要とする(
図18及び19)。
【0237】
pH依存性抗C5抗体におけるこの能力の喪失にもかかわらず、各郡からの動物全体のcRBC溶血に対する平均活性レベルは、それらが延長された投与間隔を支持し得ることを示唆する。14日目に、高親和性抗C5(BHL011)で治療された動物は、40%を超える平均溶血活性レベルを有していたが、pH依存性抗C5(BHL006及びBHL009)で治療された動物は、それぞれ21日目及び28日目まで40%未満の平均溶血活性レベルを維持した(
図20)。
【0238】
高親和性抗マウスC5抗体(BHL011)と比べて、マウスC5(BHL006及びBHL009)に対するpH依存性結合を有する抗体の半減期及び対応する拮抗作用の期間の著しい延長は、pH依存性抗ヒトC5抗体(BNJ421、BNJ423、またはBNJ441)が、ヒトC5を同時投与したマウスにおけるその高親和性の相手(EHL000またはエクリズマブ)と比べて、同様の半減期増加を呈した、実施例4及び7に記載の研究と一致していた。これらの発見は、CDR内の選択ヒスチジン置換を通じてpH依存性抗原結合を操作することが、C5を通じて抗原媒介クリアランスを著しく減衰させ得、遊離抗体が循環に戻り、再生利用されるのを可能にするという概念を更に立証する。更に、BHL009におけるpH依存性抗原結合と、FcRnについての強化された親和性の組み合わせは、PK特性に対する影響の追加要素であり、pH依存性結合単独(BHL006)よりも半減期を二倍にする。これらの観察は、C5へのpH依存性結合が、FcRnについての向上した親和性との組み合わせで、エクリズマブについて観察されるPKパラメータ及び治療的PDの期間の著しい延長をもたらし得、月1回以上の投与を可能にするという仮説と一致している。
【0239】
実施例7.C5へのpH依存性結合を有する変異エクリズマブの生成及びFcRn媒介再生利用の強化
エクリズマブを親分子として使用して、抗体を生成した。エクリズマブと比べて、変異抗体(BNJ441と指定される)は、重鎖内に4つのアミノ酸置換、Tyr−27−His、Ser−57−His、Met−429−Leu、及びAsn−435−Serを含んでいた(BNJ441の429位及び435位は、EU付番システム下で428位及び434位に対応することに留意されたい)。重鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号14に示される。軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号11に示される。これらの突然変異を操作して、2つの別個の機序、すなわち(1)標的媒介抗体クリアランスを通じて抗体クリアランスを低減すること、及び(2)FcRn媒介抗体再生利用の効率性を増加させることを通じて循環半減期を増加させることによって、BNJ441(エクリズマブと比較して)の投与間隔の延長を可能にする。
【0240】
重鎖可変領域の第1及び第2の相補性決定領域(CDR)内の2つのアミノ酸置換、Tyr−27−His及びSer−57−Hisは、C5についてのBNJ441の親和性解離定数(K
D)を、エクリズマブと比較して、pH7.4で約17倍、及びpH6.0で約36倍弱める。第3の重鎖定常領域ドメイン(CH3)内の2つの突然変異、Met−429−Leu及びAsn−435−Serは、FcRnに対するBNJ441の親和性を、エクリズマブと比較して、pH6.0で約10倍増加させる。
【0241】
結合動態(C5に対する抗体)
C5に結合するBNJ441またはエクリズマブの動態は、pH8.0、7.4、7.0、6.5、及び6.0で抗Fc捕捉方法を使用して、BIAcore 3000器具上で表面プラズモン共鳴(SPR)を介して決定された。ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体(KPL番号01−10−20)を、pH5.0の10mM酢酸ナトリウム中で0.1mg/mLに希釈し、アミンカップリングによって8分間、CM5チップの2つのフローセル上に固定した。試験抗体(BNJ441またはエクリズマブ)を、泳動緩衝液(HBS−EP、0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% v/v Surfactant P20、GE Life Sciences、カタログ番号:BR1001−88)中で0.20μg/mLに希釈した。次に、希釈した抗体を、1つのフローセルに注射し(pH7.4実験の場合20μL、及びpH6.0実験の場合40μL)、続いて異なる濃度のC5を両方のセルに注射した。泳動緩衝液は、3M HClを用いてpH7.0、6.5、及び6.0動態について、ならびに0.5M NaOHを用いてpH8.0動態について滴定した。20mM HCl、0.01% P20を用いて、サイクル毎に表面を再生した。1:1ラングミュアモデルを用い、BIAevaluation 4.1ソフトウェア(BIAcore AB、Uppsala,Sweden)を「二重参照」で使用してデータを処理した。
【0242】
pH8.0、7.4、7.0、6.5、及び6.0におけるBNJ441またはエクリズマブからのC5の解離速度は、上記の抗Fc捕捉方法を以下の修正とともに使用して、BIAcore 3000器具上でSPRを介して決定された。希釈した試験抗体を1つのフローセルに注射し、続いて6nMのC5を両方のセルに注射した。C5注射後直ぐに、様々なpHの250μLの泳動緩衝液を注射した。泳動緩衝液は、上記のように調製した。BIAevaluation 4.1ソフトウェア(BIAcore AB、Uppsala,Sweden)を「二重参照」で使用してデータを処理した。BNJ441及びエクリズマブのC5の解離%は、t=0及びt=300秒での解離の差を取ることによって計算した。
【0243】
結合動態(FcRnに対する抗体)
ヒトFcRnに結合するBNJ441またはエクリズマブの動態は、pH7.4及び6.0でのF(ab’)
2捕捉方法を使用して、BIAcore 3000器具上でSPRを介して決定された。pH5.0の10mM酢酸ナトリウム中で0.04mg/mLに希釈されたヤギF(ab’)
2抗ヒトIgG F(ab’)
2(Rockland Immunochemicals、カタログ番号:709−1118)を、アミンカップリングによって7分間、CM5チップの2つのフローセル上に固定した。試験抗体(BNJ441またはエクリズマブ)を、泳動緩衝液((HBS−EP、0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% v/v Surfactant P20、GE Life Sciences,カタログ番号BR1001−88)中で2μg/mLに希釈した。次に、希釈した抗体を、1つのフローセルに注射し、続いてFcRnを両方のセルに注射した。泳動緩衝液は、3M HClを用いてpH6.0動態について滴定した。10mMのグリシンHCl、pH1.5)を用いて、サイクル毎に表面を再生した。1:1ラングミュアモデルを用い、BIAevaluation 4.1ソフトウェア(BIAcore AB、Uppsala,Sweden)を「二重参照」で使用してデータを処理した。
【0244】
結合研究の結果
抗体:C5結合の動態は、pH依存性であることが見出され、会合及び解離速度の両方に対する影響を表9に示す。
【表9】
【0245】
早期エンドソームの飲作用及び酸性化後の抗体:C5複合体の解離の相対速度をモデル化する試みにおいて、抗体:C5複合体は、pH7.4緩衝液中で形成することが可能になり、次に緩衝液のpH状態は、解離中に切り替えられた。300秒後の抗体複合体解離のパーセント(共鳴単位[RU]の減少によって推定される)は、各pH条件に対して計算された(表10)。pH6.0でのBNJ441のみが、5分後に50%を超える抗体:C5複合体解離をもたらした。
【表10】
【0246】
図21A及び21Bは、pHの関数として、BNJ441:C5複合体またはエクリズマブ:C5複合体の解離のパーセンテージの半対数及び線形プロットを示す。
【0247】
重鎖可変領域の第1及び第2の相補性決定領域(CDR)内の2つのアミノ酸置換、Tyr−27−His及びSer−57−Hisは、C5についてのBNJ441の親和性解離定数(K
D)を、エクリズマブと比較して、pH7.4で約17倍、及びpH6.0で約36倍弱める。C5についてのBNJ441の親和性のpH依存性が、27及び/または57位に導入されたヒスチジンのプロトン化状態の変化の結果であるか、または単にC5についての親和性の全体的脆弱化であるかは不明である。しかしながら、他の抗C5抗体において、これらの突然変異は、追加のヒスチジン置換との組み合わせで、6.5を下回るpHレベルではるかに顕著な親和性の喪失をもたらしたことが観察された。第3の重鎖定常領域ドメイン(CH3)内の2つの突然変異、Met−429−Leu及びAsn−435−Serは、FcRnについてのBNJ441の親和性を、エクリズマブと比較して、pH6.0で約10倍強化する。
【0248】
BNJ441抗体のPK特性
BNJ441抗体及びエクリズマブは、免疫不全(NOD/scid)及びC5欠乏のマウスにおいて評価した。200μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の100μgのBNJ441またはエクリズマブの単一用量を、8匹のマウスの各々に静脈内(i.v.)注射によって投与した。投与後1、3、7、14、21、28、及び35日目に、マウスの各々から血清を収集した。血清中の各抗体の濃度を、ELISAによって測定した。
【0249】
図22に示されるように、ヒトC5の非存在下で、血清抗体濃度は、35日の期間にわたってBNJ441及びエクリズマブを投与したマウスにおいて同様に低下した。しかしながら、ヒトC5の存在下で、エクリズマブ血清濃度は、14日後に検出不可能なレベルに急速に低下したが、BNJ441の血清濃度は、更にゆっくりと研究期間にわたって一定速度で低下した(
図23)。
【0250】
ヒトC5の存在及び非存在下で2つの抗体のPKプロファイルを比較したとき、エクリズマブのクリアランスは、ヒトC5の非存在下でのそれと比較して、ヒトC5の存在下で加速されたが、ヒトC5の存在下でのBNJ441のPKプロファイルは、28日目のヒトC5の非存在下でのBNJ441のそれと類似しており、クリアランスは、28日目〜35日目に加速されただけであった(
図24)。BNJ441の半減期及びエクリズマブの半減期は、ヒトC5の非存在下で同等であった(BNJ441の場合、25.37±1.02日、及びエクリズマブの場合、27.65±2.28日)。しかしながら、ヒトC5の存在下でBNJ441は、エクリズマブと比較して、3倍を超える半減期の増加を実証した(BNJ441の場合、13.40±2.18日対エクリズマブの場合、3.93±0.54日)。BNJ441のクリアランス速度は、ヒトC5の存在または非存在下で、28日目まで著しく異ならなかったことに留意すべきである。表11を参照されたい。
【表11-1】
【表11-2】
【0251】
血清溶血活性
抗体の溶血活性に対するヒスチジン置換の効果を決定するために、体外溶血アッセイを、実施例6に記載のように行った。BNJ441またはエクリズマブの存在下で、終末補体活性は、各抗体のそれぞれのPKプロファイルと一致し(
図25)、つまり血清溶血活性の阻害のレベルは、血清中に残留する各抗体の濃度に比例していた。両方の抗体は、3日目まで溶血のほぼ完全な阻害を付与した。しかしながら、エクリズマブは、14日目まで拮抗作用を示さなかったが、BNJ441は、14日目まで約83%の阻害を維持し、28日目まで部分的な補体阻害を維持した。
【0252】
結論
この研究からの発見は、ヒトC5の存在下でBNJ441が、エクリズマブと比較して3倍を超える半減期の延長を示したことを示唆する。更に、エクリズマブと比べたBNJ441の血清半減期は、長い溶血阻害によって証明されるように、延長された薬力学的プロファイルに翻訳された。
実施例8.健康なヒト対象におけるBNJ441の安全性、耐性、PK、及びPD
【0253】
BNJ441の安全性、耐性、PK、及びPDは、第1相ランダム化盲検プラセボ対照単一上昇用量(SAD)ヒト臨床研究において評価し、BNJ441を健康な対象に静脈内投与した。
【0254】
BNJ441を、滅菌の保存量を含まない水性溶液中で配合賦形剤と配合した。BNJ441製剤は、いかなる異常な賦形剤も動物またはヒト起源の賦形剤も含有しなかった。製剤をpH7.0にリン酸緩衝化した。成分は、BNJ441を10mg/mL、リン酸ナトリウム一塩基3.34mM、リン酸ナトリウム二塩基6.63mM、塩化ナトリウム150mM、ポリソルベート80 0.02%、及びQ.S.水を含んでいた。
【0255】
BNJ441製剤は、20mL単回使用バイアル中の10mg/mL抗体溶液として供給され、IV投与のための市販の生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射液、Ph Eur)にそれを希釈することによって注射用に設計された。
【表12-1】
【0256】
健康な10対象が単一用量のBNJ441を受けた。4対象は、200mgの用量を受け、6対象は400mgの用量を受けた。この研究のPK及び安全性データを決定し、下で考察した。
【0257】
薬物動態
200mg及び400mg用量のIV投与後の血清BNJ441濃度−時間プロファイルを
図26に示す。濃度−時間データは、それぞれ200mg及び400mg用量後、最大90日(2136時間)及び57日目(1344時間)まで入手可能であった。平均血清濃度は、200mg用量後、2〜4日間(48〜96時間)にわたって、及び400mg用量後、14〜21日(336〜504時間)にわたって50μg/mL超を維持した。
【0258】
BNJ441 PKパラメータの要約を下の表12で報告する。BNJ441の幾何平均(CV)C
最大は、200mg用量後、78.5(10.2%)μg/mLであり、400mg用量後、139(16.2%)μg/mLであった。観察された中央値(範囲)t
最大は、200mg用量の場合、注入開始後2.4(0.79〜8.0)時間であり、400mg用量の場合、0.58(0.58〜1.1)時間であった。幾何平均(CV)AUC
(0〜56日)は、200mg用量の場合、32,800(8.6%)μ‐hr/mLであり、400mg用量の場合、58,100(18.9%)μg‐hr/mLであった。幾何平均C
最大及びAUC
(0〜56日)は、明らかな用量比例的様式で曝露が増加したことを示す。幾何平均t
1/2(CV)は、それぞれ200mg及び400mg用量の場合、38.5(18.4%)日及び32.9(13.3%)日であった。
【0259】
要約すると、PKデータは、平均BNJ441 C
最大及びAUC
(0〜56日)が、用量比例的様式で増加したことを示唆し、IV投与後の35.5±6.1日の平均(標準偏差[SD])t
1/2を支持する。ニワトリ赤血球細胞(cRBC)溶血データの分析は、BNJ441濃度が100μg/mLを超えたとき、終末補体が、単一400mgIV用量後、最大2日間にわたって完全に阻害されたことを示す。
【表12-2】
【0260】
薬力学
図27に示されるように、長期間にわたってcRBC溶血を阻害するBNJ441の能力も評価した。平均cRBC溶血活性は、プラセボを受けた対象において比較的安定していた。cRBC溶血阻害の発症は急速であり、注入の最後に完全な終末補体阻害が観察された(200mg用量の場合、0.29時間、及び400mg用量の場合、0.58時間)。BNJ441は、用量依存的作用期間を有し、4〜14日間続いた。
【0261】
BNJ441濃度とcRBC溶血との関係をプロットし、
図28に示す。
図28に示されるように、完全な終末補体阻害は、50μg/mLを超えるBNJ441濃度で起こり、25μg/mLを下回るBNJ441濃度で阻害は観察されなかった。
【0262】
実施例9.カニクイザルにおける単一用量研究
BNJ441の単一IV用量を、カニクイザルに60または150mg/kgの用量で(各用量群に対してn=4、1用量群当たり雄2匹及び雌2匹)、2時間注入として投与した。BNJ441分析のための血液試料は、1日目〜112日目に収集した。
【0263】
全てのBNJ441治療したサルを、投与前(0時間)、ならびに8、14、28、56、84、及び112日目に、カニクイザル抗ヒト抗体(CAHA)の存在についてスクリーニングした。
【0264】
60及び150mg/kg用量群の全てのサルは、150mg/kg用量群の動物2002を除いて、少なくとも単発で陽性であると確認された。動物2002におけるCAHAの存在、または他の動物に対する非陽性時点は、ビオチニル化BNJ441及びルテニル化BNJ441架橋アッセイによる投与されたBNJ441の緩衝の可能性に起因して、排除することはできない。陽性CAHA結果は、60mg/kg用量群において投与後56日目〜112日目、及び150mg/kg用量群において28日目〜112日目に観察された。60mg/kgにおいて最初に確認されたCAHA陽性試料は、56日目であり(動物1002及び1503)、84日目に2匹(動物1002及び1503)、112日目に3匹(動物1001、1002、及び1502)であった。56日目及び84日目にCAHA陽性であった動物1503は、112日目においてもはやCAHA陽性ではなかった。150mg/kg用量群において最初に確認されたCAHA陽性試料は、28日目の動物2502であり、続いて56日目に2匹のサル(動物2001及び2502)、84日目に3匹のサル(動物2001、2501、及び2502)、ならびに112日目に3匹のサル(動物2001、2501、及び2502)であった。
【0265】
個々のBNJ441濃度−時間プロファイルを計算した。60mg/kg用量群において、全てのサルは、112日目のPK試料まで定量可能な血漿BNJ441濃度を有していたが、150mg/kg用量群において、1匹のサル(動物2002)のみが112日目まで定量可能な血漿BNJ441濃度を有していた。濃度−時間データは、サルの全身循環中のBNJ441の長い滞留を示した。
【0266】
BNJ441の非コンパートメントPKパラメータ及び要約統計を、全てのサルについて用量レベル毎に計算し、60mg/kg及び150mg/kg用量レベルについてそれぞれ表13及び14に示す。注入期間と一致して、中央値t
最大は、60mg/kg及び150mg/kg用量レベルに対して2時間であった。150mg/kg用量群における1匹のサル、動物2501は、投与後12時間のt
最大を有し、投与後2〜12時間は比較的平坦なプロファイルを有し、投与後12時間の試料濃度は、投与後2時間で観察されたものよりも約5%高かった。幾何平均C
最大、AUC
∞、及びAUC
最後は全て、漸増用量で増加した。幾何平均用量正規化したC
最大値は、2つの用量にわたって類似し、用量の増加に伴うピークBNJ441濃度の用量比例的増加を示すが、幾何平均用量正規化AUC
∞値は、用量群間で異なった。この差は、150mg/kg用量群におけるBNJ441CLのCAHA媒介増加に起因する可能性があり、BNJ441のクリアランスは、60mg/kgを投与したサルと比較して、150mg/kgを投与したサルにおいて約37%高かった。幾何平均V
ssは、2つの用量群間で類似していた(12%以内)。
【表13】
【表14】
【0267】
実施例10.インビトロでFc−γ受容体C1qに結合するBNJ441、エクリズマブ、及びh5G1.1の比較評価 抗体エフェクタ機能の媒介物質であることが知られている分子への3つのヒト化抗体、BNJ441、エクリズマブ、及びh5G1.1‐IgG1の結合を調べた。BNJ441、エクリズマブ、及びh5G1.1‐IgG1は各々、固有の機能及び治療プロファイルを有する。しかしながら、3つの全てが終末補体のヒト化抗体拮抗薬であり、ヒト補体成分C5上で非常に類似したエピトープに結合し、補体活性中のその活性代謝物C5a及びC5bへの切断を防ぐ。
【0268】
BNJ441、エクリズマブ、及びh5G1.1‐IgG1は、それらの 軽鎖 配列において同一であり、各々がヒト化可変領域及びヒトIgκ定常領域を有する。BNJ441及びエクリズマブはいずれも、ヒトハイブリッドIgG2‐G4 Fcを含み、ヒトIgG4のCH2及びCH3の残りに融合されたヒトIgG2からのCH1領域、ヒンジ、及びCH2領域の最初の29アミノ酸を含む。このキメラFcは、IgG2の安定したジスルフィド結合対合を、IgG4のエフェクタのない特性と組み合わせる。BNJ441及びエクリズマブは、可溶性抗原に対して向けられるため、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)または補体依存性細胞傷害性(CDC)を開始するそれらの能力を直接評価することは不可能であった。代わりに、Fcγ受容体(FcγR)及び補体成分C1qへのBNJ441またはエクリズマブ結合の直接測定を行い、結合の非存在下で、それらがADCCまたはCDCをそれぞれ媒介することができないことが推測された。h5G1.1‐IgG1(エクリズマブと同じヒト化可変領域を有するIgG1アイソタイプ抗体)は、対照として含まれた。IgG1アイソタイプFc領域は、エフェクタ機能分子を完全に結合することが予期されるが、h5G1.1‐IgG1自体は、細胞関連抗原の非存在下でADCCまたはCDCを引き出さないであろう。
【0269】
実施例7において上述されるように、BNJ441は、4つのアミノ酸置換を重鎖に導入することによって、そのインビボでの半減期を増加させるようにエクリズマブから操作された。ヒト化重鎖可変領域内の2つのアミノ酸変化、Tyr‐27‐His及びSer‐57‐Hisをそれぞれ(Kabatらによる重鎖アミノ酸付番)導入して、pH6.0でのC5への結合を脱安定化させたが、pH7.4でのC5への結合への影響は最小であった。第3の重鎖定常領域ドメイン(CH3)内の突然変異、Met‐428‐Leu及びAsn‐434‐Serを導入して、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)への結合を強化した。これらの突然変異は一緒に、飲作用後の早期エンドソームの酸性化環境において、抗体:C5複合体の遊離抗体への解離を増加させることによって、抗原媒介薬物クリアランスを著しく減衰させるように、及び早期エンドソームからFcRnによって血管コンパートメントに戻って再利用された抗体の断片を増加させるように設計された。
【0270】
これらの研究において、FcγRサブクラス(FcγR1、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIb/c、FcγRIIIa、及びFcγRIIIb)の、3つの抗体全てとの多量体相互作用を、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)において評価し、FcγRとの単量体相互作用は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して評価した。バイオレイヤー干渉法及びSPRを使用して、3つの抗体へのC1qの結合を調べた。これらの分析を行うために使用された試薬を表15に示す。
【表15】
【0271】
FcγRへの多価抗体複合体の結合
BNJ441、エクリズマブ、またはh5G1.1‐hG1を終夜、ヤギ抗ヒトF(ab’)2−ビオチン(Jackson Immunolabs)を用いて、2:1抗体:F(ab’)2モル比で、1.5mL微量遠心管内のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でインキュベートすることによって、抗体複合体を調製した。
【0272】
Ni−NTA(Qiagen)で事前にコーティングしたマイクロタイタープレートを、50μL/ウェルの6Xヒスチジンタグ付きヒトFcγR(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb/c、FcγRIIIa、またはFcγRIIIb)を用いて、PBS中5μg/mLの受容体濃度で、終夜4℃でインキュベートした。次に、プレートをPBS/0.05% Tween‐20で3回洗浄した。洗浄後、PBS/0.05% Tween‐20中の50μLの抗体複合体を、プレート内で60分間、室温(RT)でインキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween‐20で洗浄した後、PBS/0.05% Tween‐20中50μLのストレプトアビジン−HRP(Invitrogen)をプレートに添加し、60分間室温でインキュベートした。このインキュベーション及び洗浄に続いて、75μLのTMB‐ELISA基質(3,3’,5,5’‐テトラメチルベンジジン、Thermo Scientific)を添加した。反応を75μLの2M H
2SO
4で停止させ、吸光度を450nMで読み取る。
【0273】
試料を2回実験し、データを平均値として提示した。結果をスプレッドシートプログラムに入力した。各濃度の抗体免疫複合体の450nMでの吸光度、または抗体免疫複合体の非存在下での吸光度を、グラフ表示としてプロットした。主要な解離定数を計算し、表16に要約して、下で考察する。
【0274】
FcγRへの一価抗体の結合
FcγRへのBNJ441、エクリズマブ、及びh5G1.1‐IgG結合の動態は、直接固定を使用し、BIAcore 3000器具上でSPRを介して決定された。BNJ441、エクリズマブ、及びh5G1.1を、pH5.0の10mMの酢酸ナトリウム中に希釈し、アミンカップリングによってCM5チップの1つの流動セル上で固定した。第2のフローセルを、参照表面として使用した。泳動緩衝液(HBS−EP、pH7.4)中に希釈したFcγRの濃縮物を両方のセルに注射した。20mM HCl、0.01% P20を用いてサイクル毎に表面を再生した。安定状態親和性モデルを使用し、BIAevaluation 4.1ソフトウェア(BIAcore AB、Uppsala,Sweden)において「二重参照」でデータを分析した。
【0275】
FcγRIへのh5G1.1‐IgG1結合の動態は、その強力な親和性に起因して、単一サイクル動態を介して評価した。抗体を、pH5.0の10mM酢酸ナトリウム中に希釈し、アミンカップリングによってCM5チップの1つのフローセル上で直接固定した。第2のフローセルを、参照表面として使用した。泳動緩衝液(HBS−EP、pH7.4)中に希釈したFcγR1の濃縮物を両方のセルに注射した。このアッセイは、再生を必要としなかった。「二重参照」を伴うBIAevaluation4.1(Biacore AB、Uppsala,Sweden)ソフトウェアにおいて、滴定動態1:1モデルを使用してデータを分析した。
【表16】
【0276】
抗体免疫複合体及びFcγRの結合活性により駆動される多量体相互作用を検出するために、ELISAアッセイを行った。結果を表16に要約する。BNJ441及びエクリズマブは、FcγRI、FcγRIIb/c、FcγRIIIa、またはFcγRIIIbへの検出可能な結合を示さず、それぞれ4倍〜8倍弱いFcγRIIaとの会合を示した。 SPRにより誘導されたBNJ441及びエクリズマブへの単量体FcγR結合に対する解離定数(K
D)は、FcγR相互作用が非常に弱く、2つの抗体間でほぼ区別できないことを確認した。FcγRI(約4μM)、FcγRIIa(約2μM)、FcγRIIb(約9μM)、FcγRIIIa(約7μM)、及びFcγRIIIb(約3μM)。IgG1アイソタイプ対照(h5G1.1‐IgG1)に対する解離定数は、FcγR1との高い親和性相互作用(123pM)、及びIgG2‐G4アイソタイプ抗体、すなわちFcγRIIa(約1μM)、FcγRIIb(約3μM)、FcγRIIIa(約1μM)、及びFcγRIIIb(約2μM)と比べて、低親和性FcγRへの結合の中度の増加と一致した。表16を参照されたい。C1qとBNJ441またはエクリズマブとの間の相互作用は、バイオレイヤー干渉法によって検出できなかった。これらの結果は、エクリズマブのキメラヒトIgG2‐G4 Fcが、FcγRまたはC1qを通じてエフェクタ機能を引き出し、それぞれADCCまたはCDCを媒介する能力をほとんどまたは全く有しないという考えと一致する。更に、これらの結果は、BNJ441に組み込まれた重鎖アミノ酸置換が、エクリズマブと比べて、これらへの結合を著しく改変しないことを示す。
【0277】
実施例11.組織交差反応性研究
1.GLPヒト交差反応性研究
ヒト組織との潜在的交差反応性は、蛍光化したBNJ441(BNJ441‐FITCと指定される)及び異なる抗原特異性を有する対照抗体(OX‐90G2G4‐FITC)を使用して決定した。
【0278】
BNJ441‐FITCは、陽性対照材料(精製されたヒト補体タンパク質C5紫外線[UV]−樹脂スポットスライド、hC5と指定される)の中度〜強度の染色をもたらしたが、陰性対照材料(悪性ペプチドのヒト高カルシウム血症、アミノ酸残基1〜34、UV‐樹脂スポットスライド、PTHrP 1〜34と指定される)とは特異的に反応しなかった。対照物品、OX‐90G2G4‐FITCは、陽性または陰性対照材料のいずれかと特異的に反応しなかった。BNJ441‐FITCの、陽性対照材料との優れた特異的反応、及び陰性対照材料との特異的反応性の欠失、ならびに対照物品の反応性の欠失は、アッセイが感受性、特異的、及び複製可能であることを示した。
【0279】
BNJ441‐FITCによる染色は、下に要約されるように、ヒト組織パネルにおいて観察された。
・大部分のヒト組織中のタンパク質性材料
・以下の組織要素中の細胞質及び/または細胞質性顆粒
‐ 結腸、食道、リンパ節、副甲状腺、脾臓、及び扁桃腺内の単核細胞
‐血液塗抹及び骨髄中の血小板
‐骨髄中の巨核球
‐卵管、肝臓(肝細胞)、膵管、及び子宮頸部内の上皮
‐肺内の中皮
【0280】
C5は、循環血清タンパク質であるため、タンパク質性材料の染色が予期された。単球、マクロファージ、及び樹状細胞などの単核細胞、ならびに血小板は、C5を分泌することが報告されているため、BNJ441‐FITCによるこれらの細胞型の染色も予期された。追加として、中皮細胞株は、C5を生成することが示された。しかしながら、本研究におけるBNJ441‐FITC、または巨核球で染色された上皮細胞型によるC5の発現について記載する文献は入手できなかったが、C5を生成することが示された血小板は、メガロサイトから誘導される。したがって、上皮細胞型の染色は、C5発現の以前に認識されていない部位、または組織区分の、類似しているが未関連のタンパク質もしくは他の構成体(複数可)からのタンパク質配列もしくは構造との組織交差反応性のいずれかを表し得る。しかしながら、タンパク質性材料の染色を除いて、この研究で観察された全ての染色は、性質上細胞質性であり、細胞質及び細胞質構造がインビボで試験物品にアクセス可能である可能性は低い。まとめると、治療関連毒性の予想につながるであろうBNJ441‐FITC染色の特異的交差反応性は観察されなかった。
【0281】
2.GLPカニクイザル組織の交差反応性研究
標準GLP組織の交差反応性研究もまた、カニクイザル組織の集団を使用して行い、ヒト組織結合研究において使用したものと同じ試薬を用いて、オフターゲット及びオンターゲット結合の両方を調べた。
【0282】
下に要約されるように、カニクイザル組織集団において、BNJ441‐FITCによるいくらかの染色が観察された。
・大部分のカニクイザル組織中のタンパク質性材料
・以下の組織要素中の細胞質及び/または細胞質性顆粒
‐リンパ節、脾臓、及び扁桃腺内の単核細胞
‐卵管内の上皮
【0283】
カニクイザル組織集団内で観察されたBNJ441‐FITC染色は、コンパニオンヒト組織交差反応性研究においてヒト組織集団内で観察されたものよりも全体的に低い強度及び少ない頻度であった。更に、ヒト組織集合において、血小板、巨核球、膵臓管上皮、子宮頸部上皮、肝細胞、及び中皮の染色が観察されたが、これらの組織要素は、カニクイザル組織集合内で染色されなかった。更に、タンパク質性材料の染色を除いて、この研究で観察された染色は、性質上細胞質性であり、細胞質及び細胞質構造がインビボで試験物品にアクセス可能である可能性は低い。BNJ441は、ヒトC5に対して非常に特異的である(かつ非ヒト霊長類からのC5とは交差反応性でない)ことが示されたため、この研究で観察された限定結合は、未特定の交差反応性材料との非特異的結合に起因していた可能性が高い。
【0284】
実施例12:終末補体活性アッセイにおけるエクリズマブと比較したBNJ441の能力
C5へのpH依存性結合をもたらすようにBNJ441内で操作された突然変異は、pH7.4でのその親和性(約491pM)を、エクリズマブと比べて(約29.3pM)約17倍弱め、エクリズマブと比較してC5媒介終末補体活性のBNJ441阻害能力を低減することが予期され得る。生理学的に関連した条件下でのBNJ441及びエクリズマブの能力を推定するために、3種の一般的に使用される動物モデル(ニワトリ、ヒツジ、及びウサギ)からの赤血球細胞(RBC)の補体媒介溶血の拮抗作用を、90%正常ヒト血清中で評価した。
【0285】
RBC及びヒツジ赤血球細胞(sRBC)を抗体で事前に感作し、補体古典経路(CCP)の活性化を開始した。ウサギ赤血球細胞(rRBC)を事前に感作せず、補体代替経路(CAP)活性化のモデルとして使用する。100、200、及び400nMの血清中で抗体を事前にインキュベートし、それぞれ約0.5:1、1:1、及び2:1の抗原結合部位対C5のモル比をもたらした。抗体BNJ430は、BNJ441と同じFc領域を含むが、ヒトC5に結合せず、陰性対照として含まれた。0、1、2、3、4、5、6、及び8分での溶血パーセントを測定し、反応が初期速度条件下で観察されたことを保証した。
【0286】
図29に示されるように、BNJ441もエクリズマブも、cRBC溶血において、100nMで拮抗作用を示さなかった。両方の抗体は、エクリズマブと比べて低減した能力を有するBNJ441により、200nMで部分的拮抗作用を呈した(約1:1モル比の抗原結合部位対C5)。溶血の阻害は、2:1モル比の抗原結合部位対C5(400nM)でインキュベートしたとき、いずれかの抗体に対してほぼ完全であった。sRBC溶血アッセイの結果は類似しており、BNJ441の存在下、200nMで20%未満の溶血、及び400nMで各抗体によりほぼ完全な阻害を示した(データ図示せず)。CAP媒介rRBC溶血アッセイは、抗C5抗体の存在下でより高レベルの溶血を呈し、200nMで検出可能な阻害はなく、400nMでは部分的阻害のみであった(データ図示せず)。
【0287】
結論として、これらのインビトロ補体活性アッセイにおいて、エクリズマブと比べたBNJ441の能力の中度喪失は、C5に対するその弱い親和性と一致する。C5についてのBNJ441の親和性は、インビボでC5の濃度及びBNJ441の標的治療レベルより更に約1000倍低く、したがって、その治療効果を損なう可能性は低い。
【0288】
実施例13:終末補体活性アッセイにおけるエクリズマブと比較したBNJ441の選択性
非ヒト動物モデルにおけるBNJ441の薬理活性を評価するために、チンパンジー、ヒヒ、アカゲザル、カニクイザル、ビーグル、ウサギ、モルモット、ラット、及びマウスからの血清中の抗体感作されたcRBCの補体媒介溶血を拮抗するBNJ441の能力を測定した。ヒトIgG2/G4 Fc(BNJ430)を有するエクリズマブ及び抗マウス−C5抗体を、アイソタイプ対照として使用した。
【0289】
各アッセイに対して、Alsever(Lampire Biologicals)中400μLのニワトリ全血から感作cRBCを調製し、1mLのGVBSを用いて4℃で4回洗浄し、GVBS中に5×10
7細胞/mLで再懸濁した。ニワトリ赤血球を感作するために、ポリクローナル抗ニワトリRBC抗体(Rockland)を150μg/mLで細胞に添加し、氷上で15分間インキュベートした。GVBSで1回洗浄した後、細胞を3.6mLの最終容量までGVBS中に再懸濁した。
【0290】
以下の哺乳類、すなわち、ヒト、チンパンジー、ヒヒ、アカゲザル、カニクイザル、ビーグル、ウサギ、モルモット、及びラットからの血清を含むBioreclamationから補体保存血清を得た。抗体BNJ441(10mg/mL)、エクリズマブ(10mg/mL)、BNJ430(0.873mg/mL)を、GVBS中の30%血清中で最終濃度0、60、300、及び600nMに希釈し、室温で30分間インキュベートした。感作されたcRBCを、30μL/ウェル(2.5×10
6細胞)で抗体/血清混合物に添加し、37℃で30分間インキュベートして、30μLの0.5M EDTAを各ウェルに添加することによって反応を停止させた。プレートを1800Xgで3分間遠心分離し、80μLの上清を新たな平底96ウェルプレートに移した。吸光度を415nMで測定した。
【0291】
マウス血清は古典経路補体活性の不良な供給源であるため、マウス血清を1:1でC5欠乏ヒト血清と混合し、マウスにおける潜在的BNJ441薬理活性を評価した。抗体を、GVBS中の50%総血清(25%マウス血清、25% C5欠乏ヒト血清)中で最終濃度0、60、300、及び600nMに希釈し、室温で30分間インキュベートした。感作されたcRBCを抗体/血清混合物に30μL/ウェル(2.5×10
6細胞)で添加し、37℃で30分間インキュベートして、30μLの0.5M EDTAを各ウェルに添加することによって反応を停止させた。プレートを1800Xgで3分間遠心分離し、80μLの上清を新たな平底96ウェルプレートに移した。吸光度を415nMで測定した。
【0292】
抗C5抗体を有しない血清を含む試料を、10mM EDTAとともに、またはなしに、それぞれ溶解なし、または完全溶解として使用した。試料条件は、3回または2回実験した。
【0293】
結果をスプレッドシートに入力し、溶解なし対照のバックグラウンド除去、及び完全な溶血対照と比べた溶血率の正規化、平均値の計算(±s.d.)、及びデータのグラフィック表示を可能にする。溶解なし対照からの平均バックグラウンドの吸光値を、各複製から控除し、試料の吸光度を以下の等式に従い、完全溶解対照における溶解のパーセントとして表した。cRBC溶血の%=(各試料複製試料におけるA415値−溶解なし対照における平均A415値)/(完全溶解対照における平均A415値−溶解なし対照における平均A415値)×100。
【0294】
試料複製のcRBC溶血%の平均及び標準偏差を、グラフィック表示としてプロットした(データ図示せず)。
【0295】
BNJ441は、C5に対する8倍モル過剰の抗原結合部位において試験したいかなる非ヒト血清においても、カニクイザルからの天然C5への検出可能な結合、及びインビトロでの薬理活性を有しないことが示された。まとめると、これらのデータは、ヒトにおける薬物動態または薬力学をモデル化するために適した任意の容易にアクセス可能な非ヒト種において、BNJ441がいかなる関連薬理活性も有しないという結論と一致する。
【0296】
実施例14:BNJ441の物理化学的特徴付け
BNJ441抗体は、組換え、ヒト化抗体であり、2つの同一の448アミノ酸重鎖及び2つの同一の214アミノ酸軽鎖で構成される。
図30を参照されたい。BNJ441の定常領域は、ヒトκ軽鎖定常領域及びハイブリッドヒトIgG2‐IgG4重鎖定常領域(「G2/G4」とも称される)を含む。IgG2/G4定常領域は、抗体のエフェクタ機能活性、補体活性、及び免疫原性を低減するように適切に設計された。重鎖CH1ドメイン、ヒンジ領域、及びCH2ドメインの最初の5アミノ酸は、ヒトIgG2アミノ酸配列、CH2領域内の残基6〜36に一致し、ヒトIgG2及びIgG4アミノ酸配列の両方に共通であるが、CH2ドメイン及びCH3ドメインの残りは、ヒトIgG4アミノ酸配列に一致する。ヒトフレームワーク領域からなるヒトC5結合部位を形成する重鎖及び軽鎖可変領域を、マウス相補性決定領域に移植した。BNJ441抗体内の鎖間ジスルフィド結合を
図31に示す。ジスルフィド結合対合及びN結合グリカン部位の全てに対しる残基番号を
図31に示す。
【0297】
表17は、BNJ441抗体の一般特性を列挙する。下に提示される主成分の理論的化学式及び理論的平均分子量は、抗体が18ジスルフィド結合、2つの重鎖N−末端ピログルタミン酸化、2つの重鎖C末端リジンのクリッピング、及び2つのG0Fグリカン残基の付加を含むことを想定する。BNJ441中のアミノ酸残基の数は、アミノ酸分析によって予測された。
【表17】
【0298】
BNJ441を発現する安定したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を、BNJ441の作製のために発達させた。この細胞株を生成するために使用されたCHOK1SV細胞源は、Lonza Biologics CHOK1SVマスター細胞バンク269‐Mから得られた。この細胞源は、細菌及び真菌汚染物質、ならびに感染性でない細胞内因性レトロウイルス粒子以外の全ての検出可能なウイルスを含まないことが検証された。宿主CHOK1SV細胞を、プラスミドpBNJ441.1で形質導入し、安定したクローンは、MSXにより選択した。一次クローン3A5は、BNJ441の作製のための生成細胞株として選択された。
【0299】
BNJ441バルク薬物バッチの操作及びGMPバッチを調製し、表18に列挙される試験によって物理化学的に特徴付けた。操作バッチは、200Lバイオリアクター内で成長させたCHO細胞を使用するパイロットプラント内で生成し、精製された材料をPK研究において使用した。GMPバッチは、200Lバイオリアクターを使用して、パイロットプラント内で成長させたCHO細胞を使用して生成した。BNJ441操作及びGMPバルク薬物バッチを配合し、約10mg/mLで試験した。これらのバッチの物理化学的特性を表19に要約する。
【表18】
【表19-1】
【表19-2】
【表19-3】
【表19-4】
【表19-5】
【表19-6】
【0300】
表19は、操作バッチに対して決定された無傷分子量が147830.80Daであり、GMPバッチが147830.72Daであったことを示す。これらの値は、表17のBNJ441について計算された主成分分子量値の147,827.62Daと一致し、外部的に較正されたESI−ToF−MSの100ppm質量精度内であった。147,000〜149,500Da範囲を超えて、主要ピークは観察されなかった。この方法は、無傷分子量に基づいて分子を特定した。試験試料をC4 RP‐HPLCカラム上に注射し、水性:有機溶媒勾配で溶出した。次に、溶出液をToF質量分光計にエレクトロスプレーし、クロマトグラフィーピークの上半分からのスペクトルを逆重畳して、無傷分子量を提供した。
【0301】
表19は、BNJ441バッチに対して決定されたN末端配列を示す。重鎖及び軽鎖の決定されたN末端配列は、BNJ441バッチに対するアミノ酸配列と一致した。重鎖は、予期されたとおり、PyroQで遮断されることが見出され、ピログラルタミン酸アミノペプチダーゼ(PGAP)で非遮断された。ポリペプチド鎖のN末端におけるタンパク質の一次配列は、連続エドマン分解及びHPLC分析によって決定した。
【0302】
表19は、BNJ441バッチに対して決定された1分子当たりのアミノ酸分析残基を示す。これらの値は、表19の第1カラムに示される一次配列に基づいて、BNJ441バッチに対して計算された1モル当たりの残基数と全て一致した。アミノ酸分析データを3回取得した。この方法は、タンパク質の、その個々のアミノ酸構成体への酸性加水分解によって分子の一次構造を評価する。この方法は、システインまたはトリプトファンを検出しない。アスパラギン及びアスパラギン酸塩は、単一ピーク内で検出され、Asxと標識された。グルタミン及びグルタミン酸塩も単一ピーク内で検出され、Glxと標識された。20標準アミノ酸のうち、14はこの方法によって固有に検出され、Asx基及びGlx基を加えて合計16アミノ酸となる。表示されるもののうち、BNJ441は、これらの方法によって検出され得る合計1262の残基を有する。
【0303】
表19は、BNJ441バッチに対する円形二色性(CD)近UV局所特徴、遠UV局所特徴、及び逆重畳結果を示す。逆重畳は、所与の参照の組に対してCDProソフトウェアによって決定されたα‐らせん、3/10らせん、β‐シート、回転、ポリ(Pro)IIの量、及び無秩序構造を説明する。各バッチに対する近UV(三次構造)及び遠UV(二次構造)のCDスペクトルを決定した。この方法は、タンパク質などの光学活性(キラル)分子の吸収帯域内に呈された左及び右円偏波光の差分吸収によって、分子内のより高次の分子構造(2
o及び3
o)を評価した。CDスペクトルの逆重畳を行い、結果を表19に示す。
【0304】
表19は、決定された各グリカンの平均分子量を示す。BNJ441バッチについて観察されたN結合オリゴ糖またはグリカン分子量は、表20に示される理論的グリカン分子量と一致した。遊離グリカン分子量スペクトルは、MALDI−TOF質量分光法によって決定された。この方法は、分子量により薬物分子と関連付けられたグリカンを特定した。グリカンは以前に、PNGase Fによって抗体から酵素的に切断された。次に、グリカンを固相抽出し、3,4‐ジヒドロキシ安息香酸マトリックス溶液と混合して、MALDI標的上で同時沈降させた。この乾燥試料を、窒素レーザーを用いてTOF質量分光計中にイオン化した。m/z(M+Na)
+スペクトルを収集した。
【表20】
【0305】
BNJ441バッチについて決定されたオリゴ糖パーセンテージを表19に示す。様々な型のN結合オリゴ糖についての合計、すなわち(G0F、G1Fの合計)、酸性、高マンノース、中性、モノシアリル化、及びジシアリル化を計算した。N結合オリゴ糖のみが中性オリゴ糖を含有していた。中性オリゴ糖のレベルは、操作及びGMPバッチそれぞれについて、99.99及び100.0%であった。オリゴ糖を、HPLCを使用して検出し、クロマトグラムを定量的に評価した。この方法は、酵素的に放出され、蛍光的にタグ付けされたオリゴ糖の保持時間に基づいて、薬物分子と関連したN結合オリゴ糖を特定することによって、グリコシル化パターンを評価する。この方法は、各オリゴ糖種を相対的に豊富に提供した。簡単に言えば、オリゴ糖をPNGase Fにより抗体から酵素的に切断し、アントラニル酸でタグ付けした。HILICろ過工程を使用して、過剰なアントラニル酸を除去した。Showa Denko Asahipakアミノカラムを有するWAX−HPLCシステム上に試料を注射し、蛍光検出器を用いてタグ付けされたオリゴ糖を検出した(360nM励起及び420nM放出)。
【0306】
BNJ441について単糖パーセンテージを決定し、表19に示す。単糖パーセンテージを、蛍光標識に続いて、逆相高圧クロマトグラフィー(RP−HPLC)を使用して、5つの単糖(GlcNAc、GalNAc、ガラクトース、マンノース、フコース)について決定した。このアッセイは、蛍光的に標識された単糖の保持時間に基づいて、薬物分子に関連した単糖を決定することによって、グリコシル化パターンを特徴付ける。簡単に言うと、酸加水分解は、オリゴ糖をタンパク質から除去し、その構成単糖にする。次に、遊離単糖を還元アミン化によってアントラニル酸(AA)で標識した。次に試料を、Waters Symmetry(登録商標)C‐18カラムを有するRP−HPLCシステム上に注射し、AAタグ付けされた単糖を蛍光検出器により検出した(360nM励起、420nM放出)。試料を2回試験し、報告される値は、2つの結果の平均であった。
【0307】
次に、シアル酸N−アセチルノイラミン酸(NANA)、及びN−グリコリルノイラミン酸(NGNA)を決定した。各例において、BNJ441バッチの決定したNANA及びNGNAシアル酸含有量は、表19に示される定量の限界を下回っていた(6mMol/mol未満)。NGNAは、いずれのバッチについても観察されなかった。シアル酸を測定し、蛍光標識に従い、多点較正を使用してRP−HPLC上で分離した。この方法は、薬物分子に関連したシアル酸の型及び相対量を決定することによって、グリコシル化パターンを評価する。シアル酸は、重硫酸ナトリウムでのインキュベーションによって抗体から化学的に切断し、次にO−フェニレンジアミンでタグ付けした。Beckman C18 Ultrasphereカラムを有するRP‐HPLCシステム上に試料を注射し、タグ付けしたシアル酸を、蛍光検出器により検出した(230nM励起、425nM放出)。試料を2回試験し、2つの結果の平均を報告した。
【0308】
表19に示されるように、各BNJ441バッチの決定されたT
m値は、67.0℃であった。示差走査熱量測定(DSC)走査を行い、熱量測定データを、Micro‐Cal VP‐DSCを使用し、75℃/時の速度、20℃〜95℃で上方走査することによって取得した。試料を試験する前に、Y軸及び温度較正を行った。Y軸偏向%誤差は、1%未満であり、移行中点は、28.2℃及び75.9℃の両方で±0.2℃の許容範囲内であった。同じ緩衝液組成物及び容積のブランクに対して、試料を走査した。DSCは、熱変性に起因する展開のエンタルピー(ΔH)を測定する。溶液中の生体分子は、天然(折り畳み)構造とその変性(展開)状態との間で平衡している。移行中点(T
m)は、タンパク質の50%がその天然構造であり、50%が変性される温度である。各試料のT
mは、部落細胞のそれと比較して、試料細胞中の温度勾配にわたってΔHを測定することによって決定される。
【0309】
BNJ441操作及びGMPバッチ材料についての親和性(KD)は、それぞれ461pM及び421pMであり、良好に適合する。各BNJ441バッチの結合動態を表19に示す。表面プラズモン共鳴(Biacore 3000)を使用して、ヒトC5への抗C5抗体(BNJ441)の結合動態を評価した。センサーグラムは示さない。C5に対するBNJ441の動態は、抗Fcヒト捕捉方法を使用して決定した。pH5.0の10mM酢酸ナトリウム中0.1mg/mLに希釈された抗Fcヒト(KPL#01‐10‐20)を、アミンカップリングによって、CM5チップの2つのフローセル上で8分間固定した。抗C5抗体(BNJ441)を、泳動緩衝液(HBS‐EP、0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% P20、pH7.4)中で0.35μg/mLに希釈した。次に、希釈した抗体を他のフローセル上に注射し、続いてC5(0.19〜6nM)を両方のフローセル上に注射した。二次フローセルを参照として使用した。表面を毎回20mMのHCl、0.01%のP20で再生した(100μL/分、200μL注射)。1:1ラングミュアモデルを用い、BIAevaluation 4.1ソフトウェアを「二重参照」で使用してデータを処理した。
【0310】
BNJ441操作及びGMPバッチ材料の自己会合に対する親和性(KD)は、それぞれ7.1mM及び0.27mMであった。表19を参照されたい。不良な適合は、BNJ441操作及びGMPバッチ材料の両方について観察された低レベルの結合に起因し、自己会合及び測定された親和性は、器具の検出の限界レベルを下回った。低レベルの自己会合は、製造性に対して、及び最終的に患者への投与に有益である。センサーグラムは示さない。表面プラズモン共鳴(Biacore 3000)を使用して、抗C5抗体(BNJ441)の自己会合動態を評価した。BNJ441の自己会合動態は、抗体(BNJ441)の直接固定によって決定した。pH5.0の10mM酢酸ナトリウム中約31μg/mLに希釈したBNJ441を、CM5チップの1つのフローセル上で固定し、アミンカップリングによって2000RUを得た。二次フローセルを参照として使用した。次に、抗C5抗体、BNJ441(泳動緩衝液中1.6〜50μM、HBS‐EP、0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% P20、pH7.4)の希釈液を、両方のフローセル上に注射した。不良な結合に起因して、再生は不要であった。安定状態親和性モデルを用い、BIAevaluation 4.1ソフトウェアを「二重参照」で使用してデータを処理した。
【0311】
BNJ441の物理化学的特徴付けを、操作及びGMPバッチを使用して行ったところ、抗体のアミノ酸配列と一致することが示された。この例において要約される物理化学的データは、純度、分子サイズ、同一性、構造、グリコシル化、熱安定性、動態、及び自己会合を含む特性の範囲を包含し、BNJ441バルク薬物の特徴付けの基礎として役立つことが予期される。
【0312】
本開示は、その特定の実施形態を参照して説明されたが、本開示の真の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な変化を行うことができ、均等物が代用され得ることは、当業者によって理解されるべきである。加えて、多くの修正を行い、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、1つまたは複数のプロセス工程を、本開示の目的、趣旨、及び範囲に適合させることができる。全てのかかる修正は、本開示の範囲内であることが意図される。