(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894489
(24)【登録日】2021年6月7日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】ベラプロスト−314d・一水和物結晶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/93 20060101AFI20210621BHJP
A61K 31/5585 20060101ALN20210621BHJP
A61P 9/12 20060101ALN20210621BHJP
【FI】
C07D307/93
!A61K31/5585
!A61P9/12
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-212064(P2019-212064)
(22)【出願日】2019年11月25日
(65)【公開番号】特開2020-83892(P2020-83892A)
(43)【公開日】2020年6月4日
【審査請求日】2019年11月25日
(31)【優先権主張番号】16/199,471
(32)【優先日】2018年11月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512213583
【氏名又は名称】チャイロゲート インターナショナル インク.
【氏名又は名称原語表記】CHIROGATE INTERNATIONAL INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,シ−イ
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ジアン−バン
【審査官】
池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2017/174439(WO,A1)
【文献】
特表2014−522811(JP,A)
【文献】
特開昭59−134787(JP,A)
【文献】
特開2005−002024(JP,A)
【文献】
Umemiya, Shigenobu et al,Enantioselective Total Synthesis of Beraprost Using Organocatalyst,Organic Letters,2017年,19(5),p.1112-1115, Supporting Information
【文献】
Wakita, Hisanori et al,Total synthesis of optically active m-phenylene PGI2 derivative: Beraprost,Heterocycles,2000年,53(5),p.1085-1110
【文献】
平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック −原理とノウハウ−,丸善株式会社,2008年 7月25日,p.57-84
【文献】
芦澤一英,医薬品の多形現象と晶析の科学,2002年 9月20日,p.273,278,305-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/93
A61K 31/5585
A61P 9/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項2】
結晶形である、請求項1に記載のベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項3】
結晶形が、6.1±0.2°、12.1±0.2°、13.9±0.2°、16.9±0.2°、19.4±0.2°及び21.6±0.2℃の2θ反射角で6つの最も強い特徴的なピークを示すX線粉末回折(XRPD)パターンを有するA型である、請求項2に記載のベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項4】
XRPDパターンが、以下の2θ反射角:8.8±0.2°、18.4±0.2°、18.9±0.2°、20.3±0.2°、21.1±0.2°、21.8±0.2°、23.3±0.2°、24.9±0.2°及び28.0±0.2°に特徴的なピークをさらに含む、請求項3に記載のベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項5】
50.5±1℃のピーク開始温度及び55.4±1℃及び63.0±1℃のピーク最大値を有する2つの吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有する、請求項3に記載のベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項6】
結晶形が、以下の2θ反射角:6.5±0.2°、13.0±0.2°、18.2±0.2°、19.0±0.2°、20.1±0.2°、及び20.9±0.2°でその6つの最も強い特徴的ピークを示すXRPDパターンを有するB型である、請求項2に記載のベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項7】
XRPDパターンが、以下の2θ反射角:8.7±0.2°、13.8±0.2°、15.0±0.2°、15.9±0.2°、22.4±0.2°、23.7±0.2°、26.2±0.2°、27.5±0.2°及び28.5±0.2°における特徴的なピークをさらに含む、請求項6に記載のベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項8】
50.9±1℃のピーク開始温度及び56.4±1℃及び64.2±1℃のピーク最大を有する2つの吸熱ピークを含むDSCサーモグラムパターンを有する、請求項6に記載のベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項9】
結晶形が、以下からなる群から選択される、請求項2に記載のベラプロスト−314d・一水和物:
(a)6.1±0.2°、12.1±0.2°、13.9±0.2°、16.9±0.2°、19.4±0.2°及び21.6±0.2°の2θ反射角で6つの最も強い特徴ピークを示す粉末X線回析(XRPD)図を有するA型;
(b)6.5±0.2°、13.0±0.2°、18.2±0.2°、19.0±0.2°、20.1±0.2°及び20.9±0.2°の2θ反射角で6つの最も強い特徴ピークを示すXRPD図を有するB型;及び
(c)これらの混合物。
【請求項10】
結晶形が30±5℃未満の温度でA型であり、結晶が30±5℃を超える温度でB型である、請求項9に記載のベラプロスト−314d・一水和物。
【請求項11】
以下の工程を含む、ベラプロスト−314d・一水和物結晶を調製するための方法:
ベラプロスト−314dを、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びこれらの混合物からなる群より選択される第1の溶媒に溶解して、均一溶液を形成する工程;
温度を低下させ、及び/又は第2の溶媒を添加し、ここで第2の溶媒は水であり、沈殿物が形成されるまで撹拌する工程。
【請求項12】
以下の工程をさらに含む、請求項11に記載の方法:
第2の溶媒又は第1の溶媒と第2の溶媒との混合物を添加して沈殿物を洗浄する工程;
沈殿物を濾過して除去し、場合により沈殿を乾燥させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、プロスタサイクリン誘導体の固体形態に関し、特に、ベラプロスト−314d・一水和物の固体形態及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベラプロストはスキームAに示すように、4種類の異性体(ベラプロスト−314d、ベラプロスト−314dの鏡像異性体、ベラプロスト−315d及びベラプロスト−315dの鏡像異性体)からなる天然プロスタサイクリンの合成ベンゾプロスタサイクリン類縁体である。中でも、光学的に純粋なベラプロスト-314d(エスベラプロスト、APS−314d又はBPS−314dと称される)は薬理学的に活性な異性体であり、北米及び欧州における肺動脈高血圧症等の疾患の治療のための吸入トレプロスチニル(Tyvaso(登録商標))中の追加活性医薬成分として現在臨床試験中である。
【0003】
【化1】
【0004】
スキームA
ベラプロスト−314dの無水物は例えば、特許文献1、非特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されている。ベラプロスト−314dの化学構造の特徴によれば、ベラプロスト−314d無水物の分子は遊離の活性カルボニル酸官能基を含み、これは、他の無水ベラプロスト-314d分子のヒドロキシル官能基で容易にエステル化されて、室温で二量体を形成することができ、及び/又は残留溶媒や賦形剤に含まれるアルコールによりエステル化されて、保存中に望ましくないエステル不純物を形成することがある。したがって、ベラプロスト−314d無水物は、室温で不安定であり、商業的考慮事項での保存、輸送及び製剤化の目的に適していない。
【0005】
ベラプロスト−314dは、薬理学的観点から非常に重要である。その結果、保存、輸送、取扱い及び製剤において利点を示す安定な固体形態のベラプロスト−314dの効率的かつ経済的な製剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第8779170号明細書
【特許文献2】国際公開第2017/174439号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Heterocycles,2000,53,1085−1092,
【発明の概要】
【0008】
驚くべきことに、ベラプロスト−314dが一水和物で存在し得ることが見出された。
【0009】
一態様によれば、本発明は、ベラプロスト−314d・一水和物に関する。
【0010】
一実施形態において、本発明は、3378±4cm
−1、3200±4cm
−1、3020±4cm
−1、2965±4cm
−1、2923±4cm
-1、2887±4cm
-1、2873±4cm
−1、1683±4cm
−1、1593±4cm
-1、1453±4cm
−1、1349±4cm
−1、1304±4cm
−1、1277±4cm
−1、1254±4cm
−1、1231±4cm
−1、1196±4cm
−1、1151±4cm
−1、1076±4cm
−1、1036±4cm
−1、1012±4cm
−1、967±4cm
−1、954±4cm
−1、930±4cm
−1、891±4cm
−1、865±4cm
−1、835±4cm
−1、806±4cm
−1、764±4cm
−1、743±4cm
−1及び667±4cm
−1のピークを含む1%KBrフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを有するベラプロスト−314d・一水和物を提供する。
【0011】
一実施形態では、カールフィッシャー滴定及び熱重量分析(TGA)によって得られるベラプロスト−314dの水和物中において4.33±2%という水の含有量は、それが実質的にベラプロスト−314dの一水和物であることの裏付けとなる。
【0012】
一態様によれば、本発明は、ベラプロスト−314d・無水物より長期間室温で安定であるベラプロスト−314d・一水和物結晶を提供する。
【0013】
一態様によれば、本発明は、A型と称される、以下の2θ反射角:6.1±0.2°、12.1±0.2°、13.9±0.2°、16.9±0.2°、19.4±0.2°、及び21.6±0.2°でその6つの最も強い特徴的ピークを示すX線粉末回折(XRPD)パターンを有する、ベラプロスト−314d・一水和物結晶の形成を提供する。
【0014】
一実施形態では、本発明は、約50.5±1°のピーク開始温度及び約55.4±1°及び63.0±1°のピーク最大値を有する2つの吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・一水和物A型結晶を提供する。
【0015】
一態様によれば、本発明は、以下の2θ反射角:6.5±0.2°、13.0±0.2°、18.2±0.2°、19.0±0.2°、20.1±0.2°、及び20.9±0.2°でその6つの最も強い特徴的ピークを示す、B型と称されるベラプロスト−314d・一水和物結晶の形成を提供する。
【0016】
一実施形態では、本発明が約50.9±1℃のピーク開始温度及び約56.4±1℃及び64.2±1℃のピーク最大値を有する2つの吸熱ピークを含むDSCサーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・一水和物B型結晶を提供する。
【0017】
一実施形態では、ベラプロスト−314d・一水和物の結晶形は30±5℃未満の温度でA型である。温度が30℃を超えると、ベラプロスト−314d・一水和物A型結晶は徐々にベラプロスト−314d・一水和物B型結晶に転換し、温度が30±5℃未満に低下すると、ベラプロスト−314d・一水和物B型結晶は元のA型結晶に戻り、ベラプロスト−314d・一水和物のA型とB型との間の結晶形変化は可逆的である。
【0018】
一態様によれば、本発明は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群より選択される第1の溶媒にベラプロスト−314dを溶解して均一溶液とする工程;降温させる工程及び/又は第2の溶媒である水を該均一溶液に加える工程;並びに沈殿物が形成されるまで撹拌する工程を含む、結晶形ベラプロスト−314d・一水和物の調製方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ベラプロスト−314d・一水和物結晶のフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。
【
図2】ベラプロスト−314d・無水物のフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。
【
図3】ベラプロスト−314d・一水和物A型結晶の粉末X線回折(XRPD)パターンを示す。
【
図4】ベラプロスト−314d・一水和物B型結晶の粉末X線回折(XRPD)パターンを示す。
【
図5】ベラプロスト−314d・一水和物結晶のA型とB型との間の可逆的結晶形の変化を示す。
【
図6】ベラプロスト−314d・一水和物A型結晶の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを示す。
【
図7】ベラプロスト−314d・一水和物B型結晶の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを示す。
【
図8】(a)25℃、27℃、29℃、31℃、33℃、35℃で24時間処理中のベラプロスト−314d・一水和物のA型結晶からB型結晶への変化、及び(b)25℃、27℃、29℃、31℃、33℃、35℃で24時間処理中にA型結晶から変化したベラプロスト−314d・一水和物B型結晶の含有量を示す。
【0020】
ベラプロスト-314dの一水和物形態の特定
本発明において、驚くべきことに、ベラプロスト−314dが一水和物で存在し得ることが見出された。
【0021】
ベラプロスト−314d・一水和物の特定は、以下のプロセスによって確認された:
1.FTIR分光法による水和物の特徴の確認、
2.カールフィッシャー滴定による水分含量の測定、
3.TGAによる含水量の測定。
【0022】
一実施形態では、ベラプロスト−314dの一水和形態が3378±4cm
-1、3200±4cm
−1、3020±4cm
−1、2965±4cm
−1、2923±4cm
-1、2887±4cm
-1、2873±4cm
-1、1683±4cm
-1、1593±4cm
−1、1453±4cm
-1、1375±4cm
-1、1349±4cm
-1、1277±4cm
-1、1254±4cm
-1、1231±4cm
-1、1196±4cm
-1、1099±4cm
-1、1076±4cm
−1、1036±4cm
-1、1012±4cm
-1、967±4cm
−1、954±4cm
−1、930±4cm
−1、891±4cm
−1、865±4cm
−1、835±4cm
−1、806±4cm
−1、764±4cm
−1、743±4cm
−1及び667±4cm
-1にピークを含む1%KBrフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを有する。
【0023】
一実施形態では、本発明が実質的に
図1に示すような1% KBr FTIRスペクトルを有するベラプロスト−314d・一水和物結晶を提供する。
【0024】
ベラプロスト−314dの一水和物と無水物との比較を、
図1及び
図2にそれぞれFTIRスペクトルで示す。ベラプロスト−314d・無水物は、米国特許第8,779,170号に記載されている方法によって調製した。約3200±4cm
−1及び約1683±4cm
−1におけるベラプロスト−314d・一水和物のFTIR特徴ピークは生成物の特徴を強調し、ベラプロスト−314dの一水和物が別の分子実体であることを示す。
【0025】
本発明の方法によって得られたベラプロスト−314d・一水和物結晶は、本質的に一水和物である。ベラプロスト−314d中の1モルの水分子は、約4.33質量%であると計算された。カールフィッシャー滴定及び熱重量分析(TGA)によって測定された4.33±2%の水の含有量は、本発明のベラプロスト−314d・一水和物について、ベラプロスト−314dの水和形態で存在する水が1モルのみであることを確認する。
【0026】
ベラプロスト−314d・無水物は強い生物学的活性を有する微細な飛散性物質であり、そのため商用取扱中の暴露を回避することが困難である。本発明において、ベラプロスト−314d・一水和物が生成することにより静電気が大幅に減少するため、一水和物化されたベラプロスト−314dは、秤量がはるかに容易である。
【0027】
したがって、本発明のベラプロスト−314d・一水和物は貯蔵、輸送、処理及び製剤化において利点を示し、商業目的のために広く安全に使用することができる。
【0028】
ベラプロスト−314d・一水和物の結晶形及びその調製
本発明の一実施形態において、ベラプロスト−314d・一水和物結晶の調製法は、以下の工程を含む:
【0029】
(a)粗ベラプロスト−314dを、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びこれらの混合物からなる群より選択される第1の溶媒に溶解して、均一溶液を形成する工程;
(b)温度を低下させること、及び/又は水の第2の溶媒を均一溶液に添加する工程;
(c)沈殿物が形成されるまで撹拌する工程;
(d)沈殿物を濾過して除去することによってベラプロスト−314d・一水和物結晶を単離し、任意にベラプロスト−314d・一水和物結晶を乾燥させる工程。
【0030】
第1の溶媒の選択は、ベラプロスト−314d・一水和物結晶が形成され得るかどうかを決定するための鍵である。本発明において、粗ベラプロスト−314dを溶解するために使用される第1の溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びこれらの混合物、好ましくはエタノールからなる群から選択される。第1の溶媒の体積は、粗ベラプロスト−314d 1gあたり約0.5mL〜約100mL、好ましくは約1mL〜約50mL、より好ましくは約2mL〜約25mLであってもよい。粗ベラプロスト−314dは、約0℃〜約80℃、好ましくは約10℃〜約70℃、より好ましくは室温〜約60℃の範囲の温度で第1の溶媒に溶解することができる。
【0031】
本発明の一実施形態では、均一溶液の温度が約−30℃〜約60℃、好ましくは約−20℃〜約50℃、より好ましくは約−10℃〜約40℃の範囲の温度に下げられる。
【0032】
好ましい実施形態では、第2の溶媒は水である。第2の溶媒の体積は、第1の溶媒1mLあたり約0.5mL〜約20mL、好ましくは約1mL〜約10mL、より好ましくは約2mL〜約5mLであってもよい。第2の溶媒は、約−30℃〜約60℃、好ましくは約−20℃〜約50℃、より好ましくは約−10℃〜約40℃の範囲の温度で添加することができる。
【0033】
本発明の一実施形態では、結晶析出が約−30℃〜約60℃、好ましくは約−20℃〜約50℃、より好ましくは約−10℃〜約40℃の範囲の温度で行うことができる。
【0034】
本発明の一実施形態では、沈殿物を濾過して除去する工程が第2の溶媒又は第1の溶媒と第2の溶媒との混合物を使用して沈殿物を洗浄することを含む。混合溶媒において、第1の溶媒と第2の溶媒との比は、約1:1〜約1:100、好ましくは約1:2〜約1:10であってもよい。
【0035】
本発明において、ベラプロスト−314d・一水和物の結晶形は、以下からなる群から選択される:
(a
)6.1±0.2°、12.1±0.2°、13.9±0.2°、16.9±0.2°、19.4±0.2°及び21.6±0.2°の2θ反射角で6つの最も強い特徴ピークを示す粉末X線回析(XRPD)図を有す
るA型;
(b
)6.5±0.2°、13.0±0.2°、18.2±0.2°、19.0±0.2°、20.1±0.2°及び20.9±0.2°の2θ反射角で6つの最も強い特徴ピークを示
すXRPD図を有するB型;
及び
(c)これらの混合物。
【0036】
本発明の一実施形態において、ベラプロスト−314d・一水和物結晶は
図3に示されるように、30±5℃未満でA型と呼ばれるXRPDパターンの特徴を示す。温度が30±5℃を超えて上昇すると、ベラプロスト−314d・一水和物結晶のXRPDパターンは
図4に示すように、B型と呼ばれる、異なる特徴に徐々に変化する。温度が30±5℃未満に下がると、ベラプロスト−314d・一水和物結晶のXRPDパターンは元のA型に戻り、温度の上昇及び低下によるA型とB型との間のベラプロスト−314d・一水和物の結晶形の変化は
図5に示すように可逆的であり、5回以上繰り返し行うことができる。
【0037】
ベラプロスト−314d・一水和物結晶を調製するための溶媒及び沈殿温度の選択も、沈殿中のベラプロスト−314d・一水和物の結晶形に影響を及ぼす。例えば、純粋なA型はより高い沈殿温度(30±5℃を超える)で第1及び第2の溶媒としてエタノール及び水を使用することによって沈殿させることができるが、A型はより高い沈殿温度に維持しつつ、時間とともに徐々にB型に転化する。これに対して、純粋なB型はより低い沈殿温度(30±5℃未満)で第1及び第2の溶媒としてアセトニトリル及び水を使用して沈殿させることができるが、それにもかかわらず、B型はより低い沈殿温度に保ちながら、時間とともにA型に変化する。
【0038】
本発明の一実施形態では、ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶が以下の2θ反射角:6.1±0.2°、12.1±0.2°、13.9±0.2°、16.9±0.2°、19.4±0.2°及び21.6±0.2°でその6つの最も強い特徴的ピークを示すXRPDパターンを有する。好ましい実施形態では、XRPDパターンが以下の2θ反射角:8.8±0.2°、18.4±0.2°、18.9±0.2°、20.3±0.2°、21.1±0.2°、21.8±0.2°、23.3±0.2°、24.9±0.2°及び28.0±0.2°に特徴的なピークをさらに含む。より好ましくは、ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶のXRPDパターンが
図3と一致する。ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶の特定のデータを表1に示す。
【0040】
一実施形態では、本発明は、以下の2θ反射角:6.1±0.2°、12.1±0.2°、13.9±0.2°、16.9±0.2°、19.4±0.2°及び21.6±0.2°にその6つの最も強い特徴的ピークを示すXRPDパターンを有するベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶を提供する。
【0041】
一実施形態では、本発明が実質的に
図3に示すようなXRPDパターン有するベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶を提供する。
【0042】
一実施形態では、本発明が約50.5±1℃のピーク開始温度及び約55.4±1℃及び63.0±1℃のピーク最大値を有する2つの吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図6に示されるようなDSCサーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶を提供する。
【0043】
本発明の一実施形態において、ベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶は、以下の2θ反射角:6.5±0.2°、13.0±0.2°、18.2±0.2°、19.0±0.2°、20.1±0.2°、及び20.9±0.2°において、その6つの最も強い特徴的ピークを示すXRPDパターンを有する。好ましい実施形態では、XRPDパターンが以下の2θ反射角:8.7±0.2°、13.8±0.2°、15.0±0.2°、15.9±0.2°、22.4±0.2°、23.7±0.2°、26.2±0.2°、27.5±0.2°、及び28.5±0.2°に特徴的なピークをさらに含む。より好ましくは、ベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶のXRPDパターンが
図4と一致する。ベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶の特定のデータを表2に示す。
【0045】
一実施形態では、本発明が以下の2θ反射角:6.5±0.2°、13.0±0.2°、18.2±0.2°、19.0±0.2°、20.1±0.2°及び20.9±0.2°にその6つの最も強い特徴的ピークを示すXRPDパターンを有するベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶を提供する。
【0046】
一実施形態では、本発明が実質的に
図4に示すようなXRPDパターン有するベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶を提供する。
【0047】
一実施形態では、本発明が約50.9±1℃のピーク開始温度及び約56.4±1℃及び64.2±1℃のピーク最大値を有する2つの吸熱ピークを含むDSCサーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図7に示されるようなDSCサーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶を提供する。
【0048】
本発明において、カールフィッシャー滴定及びTGAによって測定されたベラプロスト−314d・一水和物・A型及びB型結晶中の4.33±2%の水の含有量は、1モルの水が結晶形の変化の間にベラプロスト−314dの水和物の形態で保存されたことを示す。さらに、ベラプロスト−314d・一水和物・A型及びB型のFTIR特徴ピークの変化は、結晶形変化の前後で見えないようである。
【実施例】
【0049】
粉末X線回折(XRPD)解析:XRPDパターンを、固定発散スリット及び1D LYNXEYE検出器を有するBruker D2 PHASER回折計で収集した。試料(約100mg)を試料ホルダー上に平らに置いた。調製した試料を、10mA及び30kVの電源でCuK
α放射を用いて、0.02度のステップ寸法及び1秒のステップタイムで、5°〜50°の2θレンジにわたって分析した。CuK
β放射は、発散ビームニッケルフィルターによって除去した。
【0050】
フーリエ変換赤外(FTIR)分析:FTIRスペクトルをPerkin Elmer SPECTRUM 100装置で収集した。サンプルを、メノウ乳鉢及び乳棒を用いて約1:100の割合(w/w)で臭化カリウム(KBr)と混合した。混合物をペレットダイ中で約10〜13トンの圧力で2分間圧縮した。得られた円板を、4cm
−1の分解能で、4000cm
−1から650cm
−1まで、収集した背景に対して4回スキャンした。データをベースライン補正し、正規化した。
【0051】
示差走査熱量測定(DSC)解析:DSCパターンをTA DISCOVERY DSC25装置で収集した。試料(約5mg)を、クリンプ閉鎖アルミニウム蓋を有するアルミニウムパン中に秤量した。調製した試料を、窒素流下(約50mL/分)、10℃/分の走査速度で10〜100℃で分析した。融解温度及び融解熱は、測定前にインジウム(In)によって補正した。
【0052】
実施例1
粗ベラプロスト-314dの調製
メチル 4−((1R,2R,3aS,8bS)−2−ヒドロキシ−1−(((3S,4S,e)−3−ヒドロキシ−4−メチルオクト−1−エン−6−イン−1−イル)−2,3,3a,8b−テトラヒドロ−1H−シクロペンタ[b]ベンゾフラン−5−イル)ブタノエート(50.0g、121.2mmol)をメタノール200mLに溶解し、続いて1N水酸化ナトリウム水溶液200mLを加え、混合物を室温で2時間撹拌した。反応混合物を酸−塩基抽出によって単離し、溶媒を真空下で留去した。粗生成物を、勾配溶離剤としてヘキサン及び酢酸エチルの混合物を使用するシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、粗ベラプロスト−314d 33.2gを得た。
【0053】
実施例2
ベラプロスト−314d・無水物の調製
ベラプロスト−314d・無水物は、米国特許第8,779,170号に開示されている方法によって調製した。メチル4−((1R,2R,3aS,8bS)−2−ヒドロキシ−1−((3S,4S,e)−3−ヒドロキシ−4−メチルオクト−1−エン−6−イン−1−イル)−2,3,3a,8b−テトラヒドロ−1H−シクロペンタ[b]ベンゾフラン−5−イル)ブタノエート(1.00g)をメタノールと水酸化ナトリウム水溶液中で反応させた。反応混合物を酸塩基抽出によって単離した。粗生成物を濃縮して、真空中で残留溶媒を留去して、ベラプロスト−314d・無水物0.70gを泡状固体として得た。
【0054】
実施例3
ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶
粗ベラプロスト−314d(10.00g、実施例1から)及びエタノール(10mL)の製剤を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。水(20mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で18時間、固体沈殿物が生じるまで撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、洗浄し、次いで高真空下、室温で24時間乾燥し、のベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶(7.0g)を得た(XRPD及びDSCの結果は、
図3及び
図6に示すものと同じ)。
【0055】
実施例4
ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶
粗ベラプロスト−314d(1.00g、実施例1から)及びメタノール(10mL)の製剤を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。水(20mL)を徐々に滴下し、混合物を固体沈殿物が生じるまで18時間撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、洗浄し、次いで高真空下、室温で24時間乾燥し、ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶(0.62g)を得た(XRPD及びDSCの結果は、
図3及び
図6に示すものと同じ)。
【0056】
実施例5
ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶
粗ベラプロスト−314d(0.30g、実施例1から)及びイソプロピルアルコール(2.0mL)の製剤を、溶解のために40℃で加熱し、次いで室温に冷却した。水(6.0mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で18時間、固体沈殿物が生じるまで撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、洗浄し、次いで高真空下、室温で24時間乾燥して、0.19gのベラプロスト−314d・一水和物A型結晶を得た。XRPD及びDSCの結果は、
図3及び
図6に示すものと同じである。
【0057】
実施例6
ベラプロスト−314d・一水和物A型結晶
粗ベラプロスト−314d(0.30g、実施例1から)及びメタノール(1.5mL)の製剤を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。水(4.5mL)をゆっくり滴下し、混合物を氷水浴中で18時間、固体沈殿物が生じるまで撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、洗浄し、次いで高真空下、室温で24時間乾燥させて、0.20gのベラプロスト−314d・一水和物A型結晶を得た(XRPD及びDSCの結果は、
図3及び
図6に示すものと同じ)。
【0058】
実施例7
ベラプロスト−314d・一水和物A型結晶の調製
粗ベラプロスト−314d(0.30g、実施例1から)及びジメチルスルホキシド(0.6mL)の製剤を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。水(1.2mL)を徐々に滴下し、混合物を固体沈殿物が生じるまで48時間撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、洗浄し、次いで高真空下、室温で24時間乾燥させて、0.20gのベラプロスト−314d・一水和物A型結晶を得た(XRPD及びDSCの結果は、
図3及び
図6に示すものと同じ)。
【0059】
実施例8
ベラプロスト−314d・一水和物B型結晶の調製
粗ベラプロスト−314d(0.30g、実施例1から)及びアセトニトリル(6mL)を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。水(12mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で24時間、固体沈殿物が生じるまで撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、洗浄し、次いで、高真空下、室温で24時間乾燥させて、ベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶(0.22g)を得た(XRPD及びDSCの結果は、
図4及び
図7に示すものと同じ)。
【0060】
実施例9
ベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶の調製
ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶(0.10g、実施例3から)をガラスバイアルに入れ、35℃に加熱し、同温度で18時間放置した。その後、ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶は、ベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶に完全に変化した。XRPD及びDSCの結果は、
図4及び
図7に示すものと同じである。
【0061】
実施例10
ベラプロスト−314d・一水和物・B型結晶の調製
ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶(0.10g、実施例3から)をガラスバイアルに入れ、40℃で加熱し、同温度で6時間放置した。その後、ベラプロスト−314d・一水和物・A型結晶は、ベラプロスト−314d・一水和物B型結晶に完全に変化した。XRPD及びDSCの結果は
図4及び
図7に示すものと同じである。
【0062】
実施例11
ベラプロスト−314d・一水和物・A型及びB型結晶の形状の変化
図3に示すように、ベラプロスト−314d・一水和物結晶は30±5℃未満の温度でA型と称されるXRPDパターン特徴を示す。温度が30±5℃を超えて上昇すると、
図4に示すように、ベラプロスト−314d・一水和物結晶のXRPDパターンはB型と称される異なる特徴に徐々に変化する。温度が30±5℃未満に低下すると、ベラプロスト−314d・一水和物結晶のXRPDパターンは元のA型に戻り、温度の上昇及び低下によるA型とB型間のベラプロスト−314d・一水和物の結晶形の変化は
図5に示すように可逆的であり、5回を超えて繰り返し行うことができる。
【0063】
ベラプロスト−314d・一水和物A型及びB型の結晶形変化の臨界温度(t
*)を測定した。ベラプロスト−314d・一水和物A型結晶(0.10g、実施例3から)を硝子バイアルに入れ、25℃、27℃、29℃、31℃、33℃及び35℃に加熱し、24時間同じ温度で放置した。
図8(a)に示すように、31℃、33℃及び35℃のXRPDパターンは結晶形の変化中にA型及びB型の両方を含む中間状態を示す。25℃、27℃及び29℃のXRPDパターンはB型の特徴ピークがなくA型のままであり、これは、A型からB型へのベラプロスト−314d・一水和物の結晶形変化が24時間31℃を超える温度でのみ起こったことを示す。
図8(b)に示すように、B型の含有量はXRPDパターンからピーク分解法によって計算した。変化したB型のいずれも観察されず、ベラプロスト−314d・一水和物のA型からB型への結晶形の変化は、約30±5℃の臨界温度未満の温度では起こらなかったことを示した。
【0064】
実施例12
ベラプロスト−314dの無水物と、一水和物の安定性
ベラプロスト−314d・一水和物は室温で安定である。例えば、水和物の存在による二量体及び/又は望ましくないエステル化副産物の形成を回避することができる。ベラプロスト−314d・一水和物(実施例3から、約0.10g)及び同量のベラプロスト−314d・無水物(実施例2から)をそれぞれガラスバイアルに入れ、3日間40℃に維持して放置した。表3に示すように、40℃で処理した後、ベラプロスト−314d・一水和物及びベラプロスト−314d・無水物の分析物及び全不純物を、HPLCによって測定した。安定性データは、ベラプロスト−314d・一水和物がベラプロスト−314d・無水物よりも安定であることを示す。ベラプロスト−314d・一水和物の分析物は明らかな減少を示さず、ベラプロスト−314d・一水和物の総不純物はベラプロスト−314d・無水物の分析物と比較してわずかに0.33%増加し、ベラプロスト−314d・一水和物が40℃で3日間ベラプロスト−314d・無水物よりも安定であることを示した。したがって、ベラプロスト−314dの安定性は、ベラプロスト−314d・一水和物の形成により有意に改善された。
【0065】
【表3】