(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894490
(24)【登録日】2021年6月7日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】ベラプロスト−314d結晶形及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/93 20060101AFI20210621BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20210621BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
C07D307/93
A61P9/12
A61K31/343
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-212964(P2019-212964)
(22)【出願日】2019年11月26日
(65)【公開番号】特開2020-83893(P2020-83893A)
(43)【公開日】2020年6月4日
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】16/199,443
(32)【優先日】2018年11月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512213583
【氏名又は名称】チャイロゲート インターナショナル インク.
【氏名又は名称原語表記】CHIROGATE INTERNATIONAL INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,シ−イ
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ジアン−バン
【審査官】
池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2017/174439(WO,A1)
【文献】
特開昭59−134787(JP,A)
【文献】
特開昭58−124778(JP,A)
【文献】
特開2003−055368(JP,A)
【文献】
平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック,2008年,p.17-23,37-40,45-51,57-65
【文献】
塩路雄作,固形製剤の製造技術,東京:シーエムシー出版,2003年 1月27日,普及版,pp. 9, 12-13,ISBN 4-88231-783-4
【文献】
高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.20-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/93
A61K 31/343
A61P 9/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の2θ反射角:6.1±0.2°、6.6±0.2°、7.2±0.2°、12.1±0.2°及び16.3±0.2°に5つの最も強い特徴的ピークを含む粉末X線回折(XRPD)パターンを有する、ベラプロスト−314d・II型結晶。
【請求項2】
前記XRPDパターンが、さらに以下の2θ反射角:14.3±0.2°,19.5±0.2°、19.7±0.2°、20.6±0.2°、20.9±0.2°、21.4±0.2°、22.3±0.2°、23.2±0.2°、24.8±0.2°及び26.6±0.2°に特徴的なピークを含む、請求項1に記載のベラプロスト−314d・II型
結晶。
【請求項3】
さらに、62.2±1℃のピーク開始温度及び67.5±1℃のピーク最大値を有する吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有する、請求項1に記載のベラプロスト−314d・II型結晶。
【請求項4】
ベラプロスト−314dを、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル tert−ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びこれらの混合物からなる群より選択される第1の溶媒に溶解して、均一溶液を形成する工程と、
温度を低下させる及び/又はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群より選択される第2の溶媒を均一溶液に添加する工程と、
氷浴中で沈殿物が形成されるまで撹拌する工程と、
を含む、請求項1に記載のベラプロスト−314dのII型結晶の調製方法(ただし、第1の溶媒としてイソプロピルエーテル又はジクロロメタンを用いる場合、第1の溶媒の量は、ベラプロスト−314d 1gあたり20mL以上である)。
【請求項5】
さらに、
第2の溶媒又は第1の溶媒と第2の溶媒との混合物を添加して沈殿物を洗浄する工程と、
沈殿物を濾過して除去し、それによってベラプロスト−314d・II型結晶を単離する工程と、
任意にベラプロスト−314d・II型結晶を乾燥させる工程と
を含む、請求項4記載の方法
【請求項6】
以下の2θ反射角:6.2±0.2°、7.2±0.2°、12.4±0.2°、15.7±0.2°及び19.3±0.2°に5つの最も強い特徴的ピークを有する粉末X線回折(XRPD)パターンを有する、ベラプロスト−314d・III型結晶。
【請求項7】
前記XRPDパターンが、さらに以下の2θ反射角:11.9±0.2°、14.3±0.2°、17.9±0.2°、17.9±0.2°、18.7±0.2°、20.4±0.2°、21.5±0.2°、22.6±0.2°、23.0±0.2°、24.8±0.2°に特徴的なピークを含む、請求項6に記載のベラプロスト−314d・III型結晶。
【請求項8】
さらに、61.9±1℃のピーク開始温度及び66.2±1℃のピーク最大を有する吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを含む、請求項6に記載のベラプロスト−314d・III型結晶。
【請求項9】
ベラプロスト−314dを、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン及びこれらの混合物からなる群より選択される第3の溶媒に溶解して、均一溶液を形成する工程と、
温度を低下させる及び/又はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群より選択される第4の溶媒を均一溶液に添加する工程と、
沈殿物が形成されるまで室温で撹拌する工程と、
を含む、請求項6に記載のベラプロスト−314d・III型結晶の製造方法(ただし、第3の溶媒としてイソプロピルエーテル又はジクロロメタンを用いる場合、第3の溶媒の量は、ベラプロスト−314d 1gあたり20mL以上である)。
【請求項10】
さらに、
第4の溶媒又は第3の溶媒と第4の溶媒との混合物を添加して、沈殿物を洗浄する工程と、
沈殿物を濾過して除去し、それによってベラプロスト−314d・III型結晶を単離する工程と、
任意にベラプロスト−314d・III型結晶を乾燥させる工程とを含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、プロスタサイクリン誘導体の固体形態に関し、特に、ベラプロスト−314dの固体結晶形及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベラプロストはスキームAに示すように、4種類の異性体(ベラプロスト−314d、ベラプロスト−314dの鏡像異性体、ベラプロスト−315d及びベラプロスト−315dの鏡像異性体)からなる天然プロスタサイクリンの合成ベンゾプロスタサイクリン類縁体である。中でも、光学的に純粋なベラプロスト−314d(エスベラプロスト、APS−314d又はBPS−314dと称される)は薬理学的に活性な異性体であり、北米及び欧州における肺動脈高血圧症等の疾患の治療のための吸入トレプロスチニル(Tyvaso(登録商標))中の追加活性医薬成分として現在臨床試験中である。ベラプロスト−314dの調製は例えば、非特許文献1、特許文献1及び特許文献2に記載されている。
【0003】
【化1】
【0004】
スキームA
ベラプロスト−314d結晶の安定な固体形態は、商業的考慮のための貯蔵、輸送、及び取扱いにおいて広く使用することができる。さらに、固定された物理化学的特性を有する安定なベラプロスト−314d結晶は一定の操作パラメーター、例えば、通常の医薬製剤についての溶解度及び薬理学的処理についての安定な生体吸収性を提供することができる。特許文献2は、ベラプロスト−314dの結晶形(I型と呼ばれる)を開示する。しかし、ベラプロスト−314d・I型結晶の安定性データは開示されていないので、ベラプロスト−314d・I型結晶の結晶形態変化が存在するかどうかは不明である。したがって、安定なベラプロスト−314dの結晶を調製するための従来の結晶化方法の利点は、先行技術文献に基づいて評価することができない。
【0005】
その結果、新規なベラプロスト−314dの結晶が、商業的使用のために室温保存された場合に安定な状態を保つことができ、効率的かつ経済的な方法で、安定な固体形態のベラプロスト−314dの結晶を調製するための結晶化方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第8779170号明細書
【特許文献2】国際公開第2017/174439号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Heterocycles,2000,53,1085−1092,
【発明の概要】
【0008】
一態様によれば、本発明は、ベラプロスト−314d・II型結晶の安定な固体形状及びその調製方法を提供する。
【0009】
一実施形態では、本発明は、ベラプロスト−314d・II型結晶を調製する方法を提供し、これはエチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル tert−ブチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、イソプロピルアセテート、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される第1の溶媒にベラプロスト−314dを溶解させて均一溶液とし;温度を低下させる及び/又はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びこれらの混合物からなる群から選択される第2の溶媒を均一溶液に添加し、沈殿物が形成されるまで撹拌することを含む。
【0010】
一実施形態では、本発明は、以下の2θ反射角:6.1±0.2°、6.6±0.2°、7.2±0.2°、12.1±0.2°及び16.3±0.2°で5つの最も強い特徴的ピークを示す粉末X線回折(XRPD)パターンを有するベラプロスト−314d・II型結晶を提供する。
【0011】
一実施形態では、本発明は、約62.2±1℃のピーク開始温度及び約67.5±1℃のピーク極大を有する吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・II型結晶を提供する。
【0012】
一態様によれば、本発明は、ベラプロスト−314d・III型結晶の固体形状及びその調製方法を提供する。
【0013】
一実施形態において、本発明は、ベラプロスト−314d・III型結晶を調製するための方法を提供し、これは、ベラプロスト−314dを、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル tert−ブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン及びそれらの混合物からなる群より選択される第3の溶媒に溶解して均一溶液とし;温度を低下させ及び/又はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群より選択される第4の溶媒を均一溶液に添加し;沈殿物が形成されるまで撹拌することを含む。
【0014】
一実施形態では、本発明は、以下の2θ反射角:6.2±0.2°、7.2±0.2°、12.4±0.2°、15.7±0.2°及び19.3±0.2°でその5つの最も強い特徴的ピークを示すXRPDパターンを有するベラプロスト−314d・III型結晶を提供する。
【0015】
一実施形態では、本発明は、約61.9±1℃のピーク開始温度及び約66.2±1℃のピーク極大を有する吸熱ピークを含むDSCサーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・III型結晶を提供する。
【0016】
本発明は固体形態であるベラプロスト−314d・II型結晶を提供し、これは、商業的使用のため室温保存された場合に結晶形が変化することなく、安定なままであり得る。他方、調製されたベラプロスト−314d・III型結晶は、室温保存されると徐々にII型結晶に変化する。固体形であるベラプロスト−314d・II型結晶がベラプロスト−314dの最も安定な形態であることがさらに証明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ベラプロスト−314d結晶・粉末X線回折(XRPD)図を示す。
【
図2】ベラプロスト−314d・II型結晶の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを示す。
【
図3】ベラプロスト−314d・III型結晶のXRPDパターンを示す。
【
図4】ベラプロスト−314d・III型結晶のDSCサーモグラムパターンを示す。
【
図5】室温で1日間、ベラプロスト−314d・III型結晶からII型結晶への結晶形の変化を示す。
【0018】
ベラプロスト−314d・II型結晶及びその製剤
本発明の一実施形態において、ベラプロスト−314d・II型結晶の調製方法は、以下の工程を含む。
(a)ベラプロスト−314dを、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル tert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びこれらの混合物からなる群より選択される第1の溶媒に溶解して、均一溶液を形成する工程;
(b)温度を低下させる及び/又はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の溶媒を均一溶液に添加する工程;
(c)沈殿物が形成されるまで撹拌する工程;
(d)沈殿物を濾過して除去し、それによってベラプロスト−314d・II型結晶を単離する工程;
(e)任意にベラプロスト−314d・II型結晶を乾燥させる工程。
【0019】
第1の溶媒の選択は、ベラプロスト−314d・II型結晶が形成され得るかどうかを決定するための重要な因子である。本発明に、粗ベラプロスト−314dを溶解するために使用される第1の溶剤は、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル tert−ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びこれらの混合物、好ましくは酢酸エチル及び酢酸イソプロピルからなる群から選択される。第1の溶媒の量は、粗ベラプロスト−314d 1gあたり約0.5mL〜約100mL、好ましくは約1mL〜約50mL、より好ましくは約2mL〜約25mLであってもよい。第1の溶媒としてイソプロピルエーテル又はジクロロメタンを用いる場合、その量は、好ましくは約20mL以上である。粗ベラプロスト−314dは、約0℃〜約80℃、好ましくは約10℃〜約70℃、より好ましくは室温〜約60℃の範囲の温度で第1の溶媒に溶解することができる。
【0020】
本発明の一実施形態では、均一溶液の温度が約−30℃〜約60℃、好ましくは約−20℃〜約50℃、より好ましくは約−10℃〜約40℃の範囲の温度に下げられる。
【0021】
好ましい実施形態では、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の溶媒の量は第1の溶媒1mLあたり、約0.5mL〜約40mLまたは約30mL又は約20mL、好ましくは約1mL〜約10mL、より好ましくは約2mL〜約5mLであってもよい。第2の溶媒は、約−30℃〜約60℃、好ましくは約−20℃〜約50℃、より好ましくは約−10℃〜約40℃の範囲の温度で添加することができる。
【0022】
本発明の一実施形態では、結晶析出が約−30℃〜約60℃、好ましくは約−20℃〜約50℃、より好ましくは約−10℃〜約40℃の範囲の温度で行うことができる。好ましい実施形態では、沈殿物が形成されるまで、氷水浴(約0〜5℃)中で約18時間以上撹拌する。
【0023】
本発明の一実施形態では、沈殿物を濾過して除去する工程が第2の溶媒または第1の溶媒と第2の溶媒との混合物を使用して沈殿物を洗浄することを含む。混合溶媒において、第1の溶媒と第2の溶媒との比は、約1:1〜約1:100、好ましくは約1:2〜約1:10であってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態において、ベラプロスト−314d・II型結晶は、以下の2θ反射角:6.1±0.2°、6.6±0.2°、7.2±0.2°、12.1±0.2°及び16.3±0.2°において、その5つの最も強い特徴的ピークを示す粉末X線回折(XRPD)パターンを有する。好ましい実施形態では、XRPDパターンが以下の2θ反射角:14.3±0.2°、19.5±0.2°、19.7±0.2°、20.6±0.2°、20.9±0.2°、21.4±0.2°、22.3±0.2°、23.2±0.2°、24.8±0.2°及び26.6±0.2°における特徴的なピークをさらに含む。より好ましくは、ベラプロスト−314d・II型結晶のXRPDパターンが
図1と一致する。ベラプロスト−314d・II型結晶の特定のデータを表1に示す。
【0026】
一実施形態では、本発明が実質的に
図1に示すようなXRPDパターンを有するベラプロスト−314d・II型結晶を提供する。
【0027】
一実施形態では、本発明が約62.2±1℃のピーク開始温度及び約67.5±1℃のピーク極大を有する吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・II型結晶を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図2に示されるようなDSCサーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・II型結晶を提供する。
【0028】
本発明の方法で使用される有機溶媒のために、沈殿したベラプロスト−314d・II型結晶は緻密な固形特性を有し、従って、容易に濾過される。さらに、残留溶媒は、室温で高真空下で容易に除去することができる。
【0029】
さらに、ベラプロスト−314d・II型結晶は安定な結晶形であり、これは、通常の保存温度(約−20℃)で6ヶ月放置した後でさえ、他の結晶形又は不純物の分解生成物を伴わずに、良好な安定性を示す。
【0030】
ベラプロスト−314d・III型結晶及びその製剤
本発明の一実施形態において、ベラプロスト−314d・III型結晶の調製方法は、以下の工程を含む。
(a)粗ベラプロスト−314dを、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル tert-ブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン及びこれらの混合物からなる群より選択される第3の溶媒に溶解して、均一溶液とする工程;
(b)温度を低下させること及び/又はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される第4の溶媒を均一溶液に添加する工程;
(c)沈殿物が形成されるまで撹拌する工程;
(d)沈殿物を濾過して除去し、それによってベラプロスト−314d・III型結晶を単離する工程;
(e)任意にベラプロスト−314d・III型結晶を乾燥させる工程。
【0031】
第3の溶媒の選択は、ベラプロスト−314d・III型結晶が形成され得るかどうかを決定するための重要な因子である。本発明において、粗ベラプロスト−314dを溶解するために使用される第3の溶剤は、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル tert−ブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン及びそれらの混合物、好ましくはメチル tert−ブチルエーテル及びジクロロメタンからなる群から選択される。第3の溶媒の量は、粗ベラプロスト−314d1gあたり約0.5mL〜約100mL、好ましくは約1mL〜約50mL、より好ましくは約2mL〜約25mLであってもよい。第3の溶媒としてイソプロピルエーテル又はジクロロメタンを用いる場合、量は約20mL以上であることが好ましい。粗ベラプロスト−314dは、約0℃〜約80℃、好ましくは約10℃〜約70℃、より好ましくは室温〜約60℃の範囲の温度で第3の溶媒に溶解することができる。
【0032】
本発明の一実施形態では、均一溶液の温度は約0℃〜約60℃、好ましくは約10℃〜約50℃、より好ましくは約20℃〜約40℃の範囲の温度に下げられる。
【0033】
好ましい実施形態では、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される第4の溶媒の体積は第3の溶媒1mLあたり、約0.5mL〜約40mL又は約30mL又は約20mL、好ましくは約1mL〜約10mL、より好ましくは約2mL〜約5mLであってもよい。第4の溶媒は、約0℃〜約60℃、好ましくは約10℃〜約50℃、より好ましくは約20℃〜約40℃の範囲の温度で添加することができる。好ましい実施形態では、沈殿物が形成されるまで、約18時間以上などの間、室温(約20〜25℃)で撹拌する。
【0034】
本発明の一実施形態では、結晶析出が約0℃〜約60℃、好ましくは約10℃〜約50℃、より好ましくは約20℃〜約40℃の範囲の温度で行うことができる。
【0035】
本発明の一実施形態では、沈殿物を濾過して除去する工程が沈殿物を洗浄するために、第4の溶媒又は第3の溶媒と第4の溶媒との混合物を使用することを含む。混合溶媒において、第3の溶媒と第4の溶媒との比は、約1:1〜約1:100であり、好ましくは約1:2〜約1:10であってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態では、ベラプロスト−314d・III型結晶の反射角:6.2±0.2°、7.2±0.2°、12.4±0.2°、15.7±0.2°及び19.3±0.2°にその5つの最も強い特徴的ピークを示すXRPDパターンを有する。好ましい実施形態では、XRPDパターンが以下の2θ反射角: 11.9±0.2°、14.3±0.2°、17.5±0.2°、17.9±0.2°、18.7±0.2°、20.4±0.2°、21.5±0.2°、22.6±0.2°、23.0±0.2°及び24.8±0.2°に特徴的なピークをさらに含む。より好ましくは、ベラプロスト−314d・III型結晶のXRPDパターンが
図3と一致する。ベラプロスト−314d・III型結晶の特定のデータを表2に示す。
【0038】
一実施形態では、本発明が実質的に
図3に示すようなXRPDパターンを有するベラプロスト−314d・III型結晶を提供する。
【0039】
一実施形態では、本発明は、約61.9±1℃のピーク開始温度及び約66.2±1℃のピーク極大を有する吸熱ピークを含むDSCサーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・III型結晶を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図4に示されるようなDSCサーモグラムパターンを有するベラプロスト−314d・III型結晶を提供する。
【0040】
ベラプロスト−314d・II型結晶の安定性
治療分野で用いるためには、安定な物理化学的特性を有する、室温で最も安定な結晶形が好ましく、通常医薬製剤及び治療で用いるために選択される。
【0041】
一実施形態では、ベラプロスト−314d・II型結晶は安定な結晶形であり、6ヶ月間の通常の保存温度(約−20℃)での保存中に、他の結晶形のない良好な安定性を示す。
【0042】
一実施形態では、ベラプロスト−314d・II型結晶は安定な結晶形であり、室温(約20〜25℃)で6ヶ月間保存中に、他の結晶形のない良好な安定性を示す。
【0043】
一実施形態では、ベラプロスト−314d・III型結晶が室温で安定な結晶形ではない。ベラプロスト−314d・III型結晶は
図5に示すように、室温でせいぜい1日間しか持たず、ベラプロスト−314d・II型結晶に変換される。この結果から、ベラプロスト−314d・II型結晶が室温で最も安定な結晶形であることが示唆される。
【0044】
したがって、ベラプロスト−314d・II型結晶は結晶形の変化を伴わない、室温で最も安定な結晶形であり、医薬製剤に安定な物理化学的特性を提供することができ、商業的使用を考慮して、保存、輸送及び取扱いにおいて広く安全に使用できるという点で有利である。
【実施例】
【0045】
X線散剤回折(XRPD)解析:XRPDパターンを、固定発散スリット及び1D LYNXEYE検出器を有するBruker D2 PHASER回折計で収集した。試料(約100mg)を試料ホルダー上に平らに置いた。調製した試料を、10mA及び30kVの電源でCuK
α放射を用いて、0.02度のステップ寸法及び1秒のステップタイムで、5°〜50°の2θレンジにわたって分析した。CuK
β放射は、発散ビームニッケルフィルターによって除去した。
【0046】
示差走査熱量測定(DSC)解析:DSCサーモグラムパターンをTA DISCOVERY DSC25装置で収集した。試料(約5mg)を、クリンプ閉鎖アルミニウム蓋を有するアルミニウムパン中に秤量した。調製した試料を、窒素流下(約50mL/分)、10℃/分の走査速度で10〜100℃で分析した。融解温度及び融解熱は、測定前にインジウム(In)によって補正した。
【0047】
実施例1
粗ベラプロスト−314dの調製
2,3,8b−テトラヒドロ−2−ヒドロキシ−1−(3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル)−1H−シクロペンタ[b]ベンゾフラン−5−ブタン酸 メチルエステル(50.0g、121.2mmol)をメタノール(200mL)に溶解し、続いて1N水酸化ナトリウム水溶液(200mL)を添加し、混合物を2時間撹拌した。反応混合物を酸−塩基抽出によって単離し、溶媒を真空下で蒸発させた。粗生成物を、勾配溶離剤としてヘキサン及び酢酸エチルの混合物を使用するシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、粗ベラプロスト−314d(33.2g)を得た。
【0048】
実施例2
ベラプロスト−314d・II型結晶の調製
粗ベラプロスト−314d(1.00g、実施例1から)及び酢酸エチル(10mL)を40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。N−ヘキサン(20mL)をゆっくり滴下し、混合物を氷水浴中で18時間、固体沈殿物が生じるまで撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、すすぎ、次いで高真空下、室温で24時間乾燥させて、ベラプロスト−314d・II型結晶(0.75g)を得た。XRPD及びDSCの結果は、
図1及び
図2に示すものと同じであった。
【0049】
実施例3
ベラプロスト−314d・II型結晶の調製
粗ベラプロスト−314d(1.00g、実施例1から)及び酢酸イソプロピル(20mL)を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。N−ヘプタン(40mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で22時間、固体沈殿物が生じるまで撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、すすぎ、次いで高真空下、室温で24時間乾燥させて、ベラプロスト−314d・II型結晶(0.73g)を得た。XRPD及びDSCの結果は、
図1及び
図2に示すものと同じであった。
【0050】
実施例4
ベラプロスト−314d・II型結晶の調製
粗ベラプロスト−314d(0.50g、実施例1から)及びアセトン(7.5mL)を40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。N−ペンタン(15mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で20時間、固体沈殿物が生じるまで撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、すすぎ、次いで高真空下、室温で24時間乾燥させて、ベラプロスト−314d・II型結晶(0.36g)を得た。XRPD及びDSCの結果は、
図1及び
図2に示すものと同じであった。
【0051】
実施例5
ベラプロスト−314d・III型結晶の調製
粗ベラプロスト−314d(1.00g、実施例1から)及びメチル tert−ブチルエーテル(15mL)を40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。N−ヘキサン(30mL)を徐々に滴下し、固体沈殿物が生じるまで混合物を室温で18時間撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、すすぎ、次いで、高真空下、室温で24時間乾燥させて、ベラプロスト−314d・III型結晶(0.74g)を得た。XRPD及びDSCの結果は、
図3及び
図4に示すものと同じであった。
【0052】
実施例6
ベラプロスト−314d・III型結晶の調製
粗ベラプロスト−314d(0.5g、実施例1から)及びメチル tert−ブチルエーテル(10mL)を40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。N−ヘプタン(20mL)をゆっくりと滴下し、固体沈殿物が生じるまで混合物を室温で20時間撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、すすぎ、次いで高真空下、室温で24時間乾燥させて、ベラプロスト−314d・III型結晶(0.37g)を得た。XRPD及びDSCの結果は、
図3及び
図4に示すものと同じであった。
【0053】
実施例7
ベラプロスト−314d・III型結晶の調製
粗ベラプロスト−314d(0.5g、実施例1から)及びジクロロメタン(10mL)を40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。N−ペンタン(20mL)を徐々に滴下し、混合物を室温で20時間、固体沈殿物が生じるまで撹拌した。その後、得られた懸濁液を濾過し、すすぎ、次いで高真空下、室温で24時間乾燥させて、ベラプロスト−314d・III型結晶(0.35g)を得た。XRPD及びDSCの結果は、
図3及び
図4に示すものと同じであった。
【0054】
実施例8
ベラプロスト−314d・III型結晶からII型結晶への変換
ベラプロスト−314d・III型結晶(0.5g、実施例5から)をガラスバイアルに入れ、1日間室温に維持した。その後、
図5に示すように、ベラプロスト−314d・III型結晶は、ベラプロスト−314d・II型結晶に完全に変換された。