(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは特許文献1に記載の方法を改良することを試みた。具体的には、この方法は、磁石により生じる磁場が無視できるように、各磁力計に対して初期化が行われることを前提としている。よって、この初期化の期間中に、各磁力計はその装置が置かれている環境の周囲磁場に実質的に対応した周囲信号を測定する。各磁力計の当該測定値はまた、センサ特有のオフセット値が割り当てられる。この信号は、センサの磁化効果、あるいは、例えば磁気抵抗器などの、特定の構成の変動に起因する可能性がある。この方法を実行している間、初期時間に決定された周囲信号およびオフセット信号は、各磁力計が算出する測定値から引かれる。しかしながら、そのオフセット信号、およびより低い程度においての周囲信号は時間により変動し得るものであり、このことは各磁力計の信号測定がドリフトすることにつながる。磁石により生成された磁場の測定における制御不能なバイアスがもたらされ、このことは、この磁石の位置の推定における誤差につながる可能性がある。
【0007】
加えて、初期化工程は、磁石に対して磁力計の配列から十分な距離に配置されることを要求するため、生じる磁場が磁力計の測定値に影響を及ぼさないといった制約となり得る。例えば、その磁石が磁力計に生じさせる磁場が周囲磁場に対応して無視できるものであるために、磁気モーメントが0.2Am
2である磁石は磁力計から30cmの距離に配置されなければならない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、より高精度に磁石の位置を決定し、より定期的にあるいは並行して複数の初期化が考慮されるように、再初期化される方法を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の主題は磁石の位置を推定する方法であって、上記磁石は複数の磁力計を有する磁力計の配列に対して移動し、各磁力計は上記磁石により生じる少なくとも1の測定軸に沿った磁場を測定可能であって、以下のステップを含むものである。
a)各磁力計により、基準時間において基準磁場を測定し
b)上記基準時間において上記磁石に対して基準位置を割り当て、
c)上記基準時間の後の測定時間に各磁力計が上記磁石により生じた磁場を測定し、
d)磁力計ごとに、ステップc)において測定された磁場とステップa)において測定された基準磁場との差を示す差動磁場を算出し、
e)各差動磁場および上記基準位置の推定に基づいて、上記測定時間における上記磁石の位置を推定し、そして、
f)測定時間をインクリメントさせている間は、ステップe)で取得した推定値に基づいて、ステップc)からステップe)を反復する。
【0010】
第1の反復において、基準位置は、特に、基準時に磁石に割り当てられた基準位置であってもよい。それは既知であってもよいし、任意に決定されもよい。
【0011】
この方法は、ステップe)において、上記測定時間よりも前の時間における上記磁石の位置の推定値と、上記測定時間よりも前の時間に算出された上記基準位置の推定値と、に基づいて上記磁石の位置を推定してもよく、また、ステップe)は、上記測定時間において上記基準位置を推定するステップを備えていてもよい。
【0012】
上記方法は、ステップe)の後に、対応した測定時間における磁石の位置および基準位置の推定値を検証するステップe´)を含んでもよく、このステップは次のサブステップを含むものである。
i)上記測定時間と上記基準時間の間における磁石の動きを決定するステップであって、それらの各時間において、上記時間における上記磁力計により測定される上記磁場の係数に依存する重み付け要素により、各磁力計の位置が重み付けされるステップ。
ii)サブステップi)において決定される動きと、上記測定時間において上記磁石の位置と上記基準位置との推定値を用いて算出される動きとを比較するステップ。
【0013】
サブステップiは、各磁力計に対して瞬時差動磁場と称される差動磁場を決定するステップであって、瞬時差動磁場が第1時間における上記磁場と第2時間における上記磁場との変化を示し、上記第2時間が上記第1時間に隣接し、上記決定がこれらの各時間において瞬時差動磁場を取得するように上記測定時間と上記基準時間とに応じた第1時間が考慮されつつ連続して実行されるステップを備えてもよく、各重みづけ要素の上記決定は、上記測定時間および上記基準時間における上記瞬時差動磁場のそれぞれの上記係数に基づいて上記測定時間および上記基準時間において実行される。
【0014】
一実施形態によれば、複数の基準位置が取得されるように、ステップa)およびb)が繰り返され、各基準位置は、基準時間と、上記基準時間において上記磁石に割り当てられた上記位置と、上記基準時間における各磁力計によって測定される上記磁場と、に関連し、さらに、ステップd)は、少なくとも1の基準磁場からの少なくとも1の差動磁場の算出処理を含む。
【0015】
この実施形態によれば、各基準位置が
検証指標に依存しているステップd)およびステップe)の各測定時間において上記基準位置が考慮されているか否かに関わらず上記
検証指標に関連してもよく、基準位置の数が予め設定された基準位置の数より小さい場合に、ステップa)およびステップb)が繰り返されてもよく、ステップd)が、各磁力計に対してステップc)で測定される磁場と各基準磁場との差をそれぞれ示す、複数の差動磁場を算出するステップを備えていてもよい。
【0016】
ステップe)はさらに、中間推定値と呼ばれる、上記測定時間における上記磁石の複数の推定値を有してもよく、各中間推定値は、1つずつ異なる基準位置に基づいており、上記測定時間における上記磁石の位置はこれら中間推定値に応じて決定される。このステップは、各測定時間における各基準位置の上記推定値を更新するステップを含んでいてもよい。その後、上記測定時間における上記磁石の位置は、上記中間推定値の任意選択で加重平均から、最も遠いか、または、上記複数の中間推定値から予め設定された距離を超えた位置の基準位置である上記基準位置を考慮することにより、これらと共に関連付けられた上記
検証指標に対応して選択された基準位置に基づいて、連続する上記複数の基準位置の各基準位置を考慮することにより、推定されてもよい。
【0017】
上記方法は、単独で、または技術的に生産可能な組み合わせで、以下の特徴の1つを含むことができる。
ステップb)において、任意の位置、または基準時間における磁石の位置の推定は上記基準位置に割り当てられること。
ステップe)は、各測定時間における磁石の位置の推定と別に、この時間における方向の推定を含むこと。
ステップe)はまた、上記測定時間における上記磁石の磁気モーメントの成分の推定を含むこと。
上記磁石の磁場の係数が予め設定された値または設定範囲に対応するように、これらの成分に対して条件が置かれてもよい。
【0018】
一実施形態によれば、ステップe)は測定時間に関連する状態ベクトルの決定をすることを含み、この状態ベクトルは上記測定時間を処理する時間における上記状態ベクトルにより決定され、この処理時間は基準時間あるいは先行繰り返し、特に先行繰り返しに対応した測定時間であってもよい。この状態ベクトルは特に、上記測定時間における上記磁石の位置、上記測定時間における、上記磁石の少なくとも一の基準位置の推定、そして、上記測定時間および上記基準時間における上記磁石の磁気モーメントの推定を含んでもよい。この状態ベクトルはステップc)、d)、およびe)をそれぞれ繰り返すことにより最新の状態にされていてもよく、この場合、ステップeは測定時間に先行する、例えば上記時間は先行繰り返しに対応する時間に関連する状態ベクトルに基づいて、上記測定時間において上記状態ベクトルを推定するサブステップと、ステップd)において決定された上記差動磁場に基づいて、上記測定時間における上記状態ベクトルを更新するサブステップとを含んでいてもよい。
【0019】
一実施形態によれば、上記実施形態と互換性があり、ステップd)は、上記測定時間において平均差動磁場を決定する処理を備え、上記平均差動磁場は、上記測定時間に各磁力計により測定された上記磁場の平均と上記基準時間それぞれの差を示しており、ステップe)は、このように確立された平均差動磁場を考慮に入れる処理を含み、その項は差動磁場から差し引かれる。
【0020】
この場合ステップe)は磁力計ごとの上記測定時間における上記差動磁場を推定し、上記平均を決定する処理と、各磁力計による各差動磁場の上記推定の上記平均を考慮に入れる処理であって、上記項は、上記測定時間に各磁力計により測定された差動磁場から差し引かれるものを備えていてもよい。
【0021】
一実施形態によれば、複数の基準が用いられるときは、融合基準位置と称される基準位置が確立される。この融合基準位置の決定は、次のステップを備える。測定時間における第1基準位置の上記推定に基づいて、上記第1基準位置に関連する上記基準時間に上記磁石により生成される磁場を決定し、この基準時間における周囲磁場を決定する処理と、上記測定時間における第2基準位置の推定に基づいて、上記第2基準位置に関連した上記基準時間において上記磁石により生成された磁場を決定し、この基準時間における周囲磁場を決定する処理と、このように確立された上記周囲磁場を組み合わせて新たな基準位置を確立する処理であって、この基準位置は、無限遠が割り当てられるか、またはゼロ基準磁気モーメントが割り当てられる。
【0022】
この実施形態によれば、複数の基準位置はこの場合は、基準位置に関連した各基準時間における多くの周囲磁場を推定することにより融合してもよい。
【0023】
いずれの実施形態についても、ステップeは、例えばカルマンフィルタあるいは拡張カルマンフィルタのような機能的推定を用いて実行されてよい。
【0024】
本発明の他の主題は、可動する磁石の定位装置であって、上記磁石は磁力計の配列に関連して動かされ、各磁力計は様々な測定時間において少なくとも1の測定軸に沿って上記磁石が発生させる磁場の測定が可能であり、上記装置は、各測定時間において上記磁石の位置を決定するように、各測定時間において各磁力計による上記測定値を受け取り、この特許出願に記載した方法を実行するプロセッサを含む。
【0025】
本発明の他の主題は、この特許出願に記載した方法を実行する命令を含むデータ記憶メディアであって、これらの命令はマイクロプロセッサにより実行することが可能である。
【0026】
本発明は、非限定的な例として、以下に示される図面を参照して与えられる以下の説明を読むことにより、よりよく理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の説明において、同一の参照符号は、同じ要素を参照するために用いられている。
【0029】
図1Aは磁力計10
1、10
2、・・・、10
i、・・・、10
lの配列を含むホルダ12を示している。ここで各磁力計はマトリクス配列に配置されている。各磁力計は、1≦i≦Iとなるように指数iによって参照される。この配列はI磁力計を含み、この場合、I=32である。この例では、磁力計は、軸XおよびYによって画定される平面内で、同一平面上、または実質的に同一平面上にある。各磁力計10
iは、それがさらされる磁場B
i、特に、少なくとも1つの測定軸x
i、y
i、z
iに沿ったこの磁場の成分を測定することができる。この図では、ホルダ12に関連する基準フレームRの軸X、Y、Zが示されている。好ましくは、各磁力計は3軸磁力計である。この場合、各磁力計の測定軸x
i、y
i、z
iは参照フレームRの測定軸と一致してもよい。ホルダ12は、この例では、堅い保持部材であり、磁力計が固定されている。これは、特に、課題におけるプリント回路基板(PCB)であってもよい。この例では、磁力計は互いに対して適所に固定されており、これは好ましい構成である。
【0030】
図1Bは、
図1Aを参照して説明したホルダ12を含む本発明による装置を示し、ホルダ12は、例えばマイクロプロセッサであるプロセッサ20に接続されている。プロセッサ20は、命令を収容しているメモリ22に接続されており、この命令は後述する方法を行うためにプロセッサ20により実行可能な状態になっている。これらの命令はハードディスク、CD−ROMまたは他の種類のメモリのようなストレージメディアにプロセッサにより読み込み可能に蓄積されていてもよい。このプロセッサは、例えばスクリーンのようなディスプレイ24に接続されていてもよい。
【0031】
図1Bはまた、磁力計に関連して動かされる磁石15を示している。この磁石は磁石基準系R´と称され、軸X´、Y´、およびZ´が
図1Bに示されている基準系に関連づけられている。この基準系はホルダの基準系Rに対して移動可能である。この磁石により生成された双極子磁気モーメントmは基準系Rについて、例えば基準系は軸XYZにより定義される基準系Rから、例えば軸X´Y´およびZ´により定義される基準系R´への移動に関連づけられて、オイラー角ψ(歳差)、θ(章動)、およびφ(固有回転)を用いて回転してもよい。
【0032】
磁石15は、永久磁石、電磁石または残留磁場を有する強磁性材料であってもよい。その磁気モーメントは、例えば、0.01A・m
2と1A・m
2との間に含まれる。それは、装置が磁力計の配列に対してペンの動きを検出できるように、堅い環を介してペンに固定されることが好ましい。この磁石によって複数の磁力計に生成される磁場は、磁石が上記磁力計によって「見られる」、すなわち検出されるように、好ましくは100A/mまたは500A/mより高い。当業者であれば、この磁石がこのホルダから少なくとも5cmまたは10cmの距離にある場合、この磁石により生成される磁場が各磁力計により検出可能となるように、磁石および磁力計の仕様を設定することができるであろう。
【0033】
1つの用途では、磁力計12とペンとの間に配置された支持面上に、筆記媒体が置かれる。従来技術の記載において言及された特許文献1(WO2013144337)に記載された装置の場合と同様に、ペンによってこの紙上に成された記述をこの装置が記録できるように、この紙は特にこの支持面に対して付けることができる。この筆記媒体は紙、ボール紙、または布であってもよい。そして、この筆記媒体は、磁石によって生成された磁場が配列を形成する複数の磁力計によって検出されるように、十分薄いものである。そしてユーザはペンを動かして紙の上に記述し、メモリ22に蓄積され、および/またはスクリーン24に表示されるように、プロセッサ20により磁石の動きが追跡される。
【0034】
ホルダの基準系R内にその経路を確立するために、時間の関数としてその磁石の位置を検出するために行われる方法の主なステップが、
図2Aを参照して説明される。上述のように、この方法はプロセッサ20により行われ、プロセッサ20は上記配列の磁力計10
iにより測定されたデータを受け取る。そして連続しているこの磁石の位置はメモリ22に蓄積され、および/または表示スクリーン24に伝えられる。
【0035】
各磁力計は、少なくとも1の測定軸測定軸x
i、y
i、z
iに沿って磁場B
iを測定するように構成される。この磁場は、磁石15によって生成される有用な磁場B
i15と、装置が置かれる磁気環境に起因するB
envと表される周囲磁場と、B
ioffsetと表されるオフセット信号を形成する磁力計の応答におけるドリフトとの合計である。このオフセット信号は各磁力計に依存している一方で、周囲磁場は全ての磁力計に対して同一であると考えられる。すなわち、以下の式により示される。
【数1】
【0036】
ステップ100:基準磁場の測定
このステップでは、各磁力計10
iが基準磁場と呼ばれる磁場B
i(t
ref)を測定する。この測定は基準時間t
refに行われる。従来技術と異なり、この磁石15は、少なくとも1の磁力計、そして好ましくは全ての磁力計に対して顕著な磁場を生成するように、基準位置に配置される。さらに、上記基準時間において、この磁石の基準磁気モーメントと称されるこの磁気モーメントがm
ref(t
ref)と表される。
【0037】
ステップ110:基準位置の割り当て
このステップにおいて、基準系R内の磁石15の座標に対応している、r
ref(t
ref)と表される基準位置が割り当てられる。この基準位置に関する演繹的なもの(アプリオリ)が利用可能でないときは、例えば予め設定された位置など、任意に定義することができる。
【0038】
ステップ120:時間のインクリメント
ステップ100からステップ110において、サンプリング時間の周期に離散化された時間であるステップ120は、ステップ100から110の間に考慮される基準時間t
refに応じて時間をインクリメントする。以下のステップは繰り返して行われ、ランクnの各繰り返しは測定時間または現在時間と称される時間t
nに関連づけられている。
【0039】
ステップ130:各磁力計10
iによる現在時間t
nにおける磁場B
i(t
n)の測定
【0040】
ステップ140:差動測定
各磁力計10
iは、ステップ130で測定された磁場B
i(t
n)とステップ100で測定基準磁場B
i(t
ref)との差を示す差動磁場ΔB
i(t
n)の演算を行う。各磁力計に対して、軸ごとに基準時間と現在時間との座標を減算することによって、この差が演算される。当該磁力計の全ての差動磁場ΔB
i(t
n)を有する差分測定値ΔB(t
n)のベクトルが形成される。この例において、32個の3軸磁力計がこの配列に含まれており、ベクトルΔB(t
n)は96項を含んでおり、各項は、磁力計10iにより取得された1軸毎の異なる磁場を示している。異なる測定の利点は、これらが周囲磁場および各磁力計10iのオフセット信号を除外することが可能なことである。つまり、以下の式により表される。
【数2】
【0041】
基準時間t
refおよびこの時間における磁場B
i(t
ref)の測定が定期的に更新されるかぎり、
であり、
である。よって、この差分測定値ΔB
i(t
n)は、周囲磁場および各検出器のオフセット信号に依存していない。以下に、この基準時間の更新について説明する。
【0042】
ステップ150:現在時間における磁石の位置の推定
【0043】
一般的に、現在時間t
nにおける磁石r(t
n)の位置の推定を含んでいる状態ベクトルx(t
n)は、このステップにおいて決定され、この推定は、先行して繰り返されて推定された状態ベクトルx(t
n−1)に依存して行われる。第1の繰り返しにおいて、この推定は、初期化された状態ベクトルに依存して行われる。この推定は、拡張カルマンフィルタ型の再帰的推定器を実装することによって実行される。この状態ベクトルx(t
n)は、以下の推定を含む。
・磁石の向きθ(t
n)を決定することができることに基づく、現在時刻t
nにおける磁石の位置r(t
n)の推定と、その磁気モーメントm(t
n)の推定。
・基準時間における磁石の向きθ
ref(t
n)を決定することができることに基づく、現在時間t
nにおける磁石r
ref(t
n)の基準位置の推定と、基準磁気モーメントm
ref(t
n)の推定。第1の反復では、磁石の基準位置r
ref(t
ref)は、基準時間に磁石に割り当てられた位置に対応し、これは既知であるか、または任意に決定される。
【0044】
この例では、状態ベクトルは以下の推定が含まれる。
・現在時間t
nおよび基準時間t
refにおけるこのホルダに関連づけられている基準系RのX、Y、Z軸に沿った磁石の座標の推定。
・それぞれの時間における、基準系RのX、Y、Z軸に対応した磁石の磁気モーメントの座標m
x、m
y、m
zの推定。
【0045】
したがって、この例において、状態ベクトルx(t
n)は、次元(12.1)のベクトルである。
【0046】
ステップ150のサブステップは
図2Bを参照して説明され、これらのサブステップは状態ベクトルを推定するサブステップ151、イノベーションを演算するサブステップ152、ゲインを演算するサブステップ153、およびサブステップ151から153に基づいて状態ベクトルの更新を行うサブステップ154を含む。
【0047】
サブステップ151:推定
先行繰り返しにおいて得られた状態ベクトルx(t
n−1)を知ることにより状態ベクトルx(t
n)が推定される。この推定は、
【数3】
という表現からx(t
n|t
n−1)で表される。この例では、x(t
n|t
n−1)=x(t
n−1)、すなわち予測関数fは恒等関数である。1つの変形例によれば、予測関数は、1つ以上の先行位置、そして、先行繰り返しの間に磁石の移動および/または回転に関連する運動パラメータの推定を考慮に入れる。これらの運動パラメータは、速度、加速度、 角速度、角加速度である。第1の繰り返しにおいて、推定は、基準時間における磁石の位置r
ref(t
ref)および磁気モーメントm
refによって決定された初期状態ベクトルに基づいている。ステップ151において、以下の式
【数4】
を用いて誤差G(t
n|t
n−1)の共分散行列も推定される。
ここで、
・F(t
n)は予測行列であり、先行状態n−1から現在の状態nに関連する。この例において、12×12サイズの単位行列
・Tは転置演算子である。
・Q(t
n)は、12×12サイズのプロセスのノイズ共分散行列である。
・G(t
n−1)は、誤差の共分散行列である。それは、先行繰り返しから生じる。第1の繰り返し(n=1)において、G(t
n−1)は対角行列に初期化される。
【0048】
サブステップ152:イノベーションベクトルおよびイノベーションベクトルの共分散の演算
イノベーションベクトルy(t
n)は以下の式を用いて決定される。
【数5】
ここで、
・ΔB(t
n)はステップ140で確立された96×1サイズの差分測定値のベクトルである。
・hは、直接モデルを表す関数であり、状態ベクトルの項を差分測定値のベクトルΔB(t
n)の項に関連づける。h(x(t
n|t
n−1))は96×1サイズのベクトルである。h(x(t
n|t
n−1))は、各磁力計に対する、時間t
nにおける差動磁場の推定を表している。ベクトルh(x(t
n|t
n−1))の各項は、ある軸に沿った、磁力計10
iにおける差動磁場の推定を表している。ベクトルΔB(t
n)のように、このベクトルの項の数は、当該磁力計10iの数に各磁力計の測定軸の数を掛けた数に等しい。
【0049】
よって、この方法は、本事例におけるベクトルΔB(t
n)である測定値と、ベクトルh(x(t
n|t
n−1))の形をとるこれらの測定値の推定値との比較を含んでいる。この比較は特に減算の形式をとる。イノベーションベクトルS(t
n)の共分散は次の式によって得られる。
【数6】
ここで、
・H(t
n)は測定値と状態ベクトルとを関連づける行列であり、この行列の各項H
u,v(t
n)は、
【数7】
ここでuはベクトルΔB(t
n)の項の指数(この例においては1≦u≦96)であり、vは状態ベクトルx(t
n)の項の指数(この例においては1≦v≦12)である。H(t
n)は96×12サイズの行列である。
・R(t
n)は96×96サイズの、行列のノイズの共分散行列である。
【0050】
状態ベクトルが磁石の磁気モーメントの成分の推定を含む場合、このステップは、この係数の既知の値に対応した磁場の係数の推定における条件を用いてもよい。言い換えれば、条件は、磁石の磁場の係数が予め設定された値またはレンジに対応するように、磁石の磁場の上記成分に配置される。これにより未知数の数を低減させることができた。
【0051】
サブステップ153:ゲインの算出
カルマンフィルタのゲインは以下のような12×96サイズの行列K(t
n)である。
【数8】
【0052】
サブステップ154:状態ベクトルの更新
状態ベクトルx(t
n)は、予測x(t
n|t
n−1)、イノベーションy(t
n)、およびゲインL(t
n)に基づいて、式(6)を用いて更新される。
【数9】
このステップはまた、以下の式(7)を用いた誤差の共分散行列の更新を含む。
【数10】
ここで、Iは単位行列である。
【0053】
よって、状態行列x(t
n)は、以下の推定を含んで決定される。
・例えば、上述の角度θx、θy、θzの1つ以上の傾きのような、磁石の向きθ決定することができるということに基づく、現在時間(t
n)における磁石の位置r(t
n)および磁気モーメントm(t
n)の推定。
・各現在時間t
nにおいて更新される、磁石の基準位置r
ref(t
n)および基準磁気モーメントm
ref(t
n)の推定。
【0054】
反復過程の間に、磁石r
refの基準位置の推定が精緻化される。
したがって、基準磁場B
i(t
ref)の測定中にこの位置を正確に推定する必要はない。
【0055】
ステップ160:再反復
ステップ160において、時間は1単位インクリメントされ(t
n=t
n+1)、繰り返し処理はステップ130に戻り、サブステップ154で推定されたx(t
n−1)とG(t
n−1)の推定値に基づいて、再開する。
【0056】
新たな反復の前に、ステップ160は、磁石の位置r(t
n)の推定を検証するステップを含んでいてもよい。そして、このステップは、
図3Aを参照しながら以下に説明する4つのサブステップ161〜164を含んでいる。
【0057】
特に、上述した状態ベクトルx(t
n)の推定のためのアルゴリズムは、現在時間t
nにおける磁石の位置r(t
n)、その磁気モーメントm(t
n)、基準位置r
ref(t
n)、および基準磁気モーメントm
ref(t
n)の推定が、それぞれr
1、m
1、r
2、m
2またはr
2、−m
2、r
1、−m
1である二つの対称形状に収束する。これは、反復アルゴリズムによって処理された測定値が差分測定値であり、次の特性に関連するという事実に関連する。
【数11】
ここで、B
i(r
k、m
k)は、位置r
kに位置する磁石によって生成され、磁気モーメントm
kを有し、磁力計10
iによって測定される磁場である。
【0058】
よって、現在時間t
nに推定される状態ベクトルx(t
n)は、次のいずれかが示されているといえる。
・磁石の位置はr(t
n)=r
1である。この時間における磁気モーメントがm
1であり、そして、基準時間における位置および磁気モーメントはそれぞれr
2およびm
2である。
・あるいは、磁石の位置はr(t
n)=r
2である。この時間における磁気モーメントが−m
2であり、そして、基準時間における位置および磁気モーメントはそれぞれr
1および−m
1である。
【0059】
これは、現在時間におけるマグネットの位置と基準位置との間で混乱を招く可能性がある。状態ベクトルx(t
n)によって与えられる推定を検証するために、ステップ160は以下の検証プロセスを含む。
【0060】
サブステップ161:重心の推定
このサブステップは、時間t
nにこのグループの各磁力計によって測定される差動磁場ΔB
i(t
n)に基づいて、磁力計10iのグループを選択する処理を含む。そして、このステップはまた、以下の式を用いて測定される時間の基準系Rにおける磁石のいわゆる重心位置b(t
n)を推定する処理を含む。
【数12】
ここで、
・k
i(t
n)は、時間t
nに磁力計10
iに割り当てられた重み付け項である。例えばk
i(t
n)は、以下の式により示される。
【数13】
ここで、B
i(t
n−q)は、時間t
n−qの磁力計10
iにより測定された磁場B
iの値である。この時間t
n−qは時間t
nに隣接している。隣接により、これら2つの時間の間隔は、5秒より短いか、あるいは2秒または1秒より短いのが好ましい。指数qは、好ましくは1〜10の整数である。この例では、q=5である。ΔB
i´(t
n)は、2つの隣接する時間t
nとt
n−qの間の磁場の局所的変化に対応しているため、瞬時差動磁場と称される。
・r
iはこのホルダの基準系Rにおける磁力計10
iの座標を示している。
【0061】
このサブステップはまた、以下の式に用いられる基準位置の重心位置の推定を含んでいる。
【数14】
ここで、k
i(t
ref)は時間t
refに磁力計10
iに割り当てられた重み付け項である。例えば、k
i(t
ref)は以下の式で示される。
【数15】
ここで、
は、前の段落で定義されたような、上記基準時間における瞬時差動磁場のノルムである。t
ref±q´は、実質的に基準時間t
refに対応するように、基準時間t
refの前後に1回以上反復される時間である。指数q´は、好ましくは1〜10の整数であり、例えば1に等しい。
【0062】
例として記載されたように、磁力計が同一平面上にある場合に、各重心位置b(t
n)およびb(t
ref)は測定時間と参照時間のそれぞれにおける磁力計の平面における磁石の位置の推定に対応している。
【0063】
サブステップ162:動きベクトルの決定
重心b(t
ref)と(t
n)との間、および位置r
ref(t
n)とr(t
n)との間の動きとして示される2つのベクトルv
b(t
n)とv
r(t
n)の座標がそれぞれ決定される。
【0064】
サブステップ164:状態ベクトルの検証
予め決定された2つのベクトルv
b(t
n)とv
r(t
n)とを比較することにより、状態ベクトルx(t
n)が検証される。例えば、これらのベクトルのスカラー積によって比較を行うことができる。このスカラー積はベクトルv
b(t
n)とv
r(t
n)それぞれのノルムの積によって正規化されてもよい。そして正規化された指標ind(t
n)が取得され、この値により、反復において推定された状態ベクトルx(t
n)が検証されたか否かを決定する。
【数16】
ここで、・はスカラー積演算子を表し、×は乗算を示す。ノルムの積を用いた正規化により、時間t
nに関連づけられた指標ind(t
n)は、−1≦ind(t
n)≦1となるように取得される。この指標は、ベクトルV
b(t
n)およびv
r(t
n)によって形成される角度の余弦を表している。ind(t
n)≧0.7の場合には、状態ベクトルx(t
n)は検証された状態である。
の場合には、状態ベクトルは更新されず、新たな反復が実行される。ind(t
n)<−0.7の場合には、状態ベクトルは無効であって、以下に示すように、時間t
nにおける磁石の基準位置r
ref(t
n)と位置r(t
n)の推定を反転可能であることを示す値のように修正されてもよい。一般に、この比較は、2つの動きベクトルv
b(t
n)とv
r(t
n)とのそれぞれの方向を比較する指標ind(t
n)を決定することを目的とし、状態ベクトルx(t
n)はこれらの方向が充分に近いことが考慮されていることを検証される。
【0065】
検証ステップ160の原理は、状態ベクトルによって与えられ、正確ではあるが不確定な磁石の位置の推定と、重心の計算によって与えられ、正確ではないが確かなこの位置の推定とを比較することである。
【0066】
ベクトルが無効化された場合、磁石の位置と基準位置、および測定時間と基準時間とにおける磁気モーメントを修正することによってそれは修正される。
この修正は、以下の更新を同時に行うことによって行われる。
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【0067】
図3Bおよび
図3Cは、状態ベクトルx(t
n)がそれぞれ検証された場合、および検証されない場合の2つの構成をそれぞれ示している。各図において、磁力計10
1、10
2、...10
i、...10
Iおよびそれらの関連する位置r
1、r
2、...r
i、...r
Iが示されている。重心位置b(t
n)およびb(t
ref)も示されている。この例では、磁力計は同一平面上にある。したがって、重心位置b(t
n)およびb(t
ref)は、磁力計の平面XY内にある。位置r(t
n)およびr
ref(t
n)も示されており、後者はおそらくそれぞれがZ軸に沿って互いに異なる座標を有する。
図3bは、状態ベクトルが、次のように正しく推定された場合に対応している。すなわち、動きベクトルV
b(t
n)およびV
r(t
n)が互いに隣り合う方向を有し、かつ指標ind(t
n)が1に近い正である、という推定である。この場合、状態ベクトルx(t
n)が検証される。
【0068】
図3Cは、
図3Bの構成と対称的な構成を示し、ここで、ステップ150のアルゴリズムは、現在時間における基準位置と磁石の位置が反転された状態ベクトルx(t
n)を推定する。ベクトルV
b(t
n)とV
r(t
n)とはほぼ逆の向きを有し、指標ind(t
n)は負である。この場合、状態ベクトルx(t
n)は検証されない。マグネットの位置r(t
n)の投影は、重心位置b(t
n)によって正しく推定されず、この推定は、よりロバストであるが精度が低い。したがって、この状態ベクトルは誤りであり、考慮に入れないか、または修正される必要がある。
【0069】
他の検証方法が実行される。例えば、位置r(t
n)が測定時間における重心位置b(t
n)よりも基準重心位置b(t
ref)により近い場合は、状態ベクトルは無効である。
指標が少なくとも以下に示すものと等しくなるように他のオプションを確立する。
・ベクトルr(t
n)−b(t
n)のノルムに加えられたベクトルr
ref(t
n)−b(t
ref)のノルム。
・ベクトルr(t
n)−b(t
ref)のノルムに加えられたベクトルr
ref(t
n)−b(t
n)のノルム。
【0070】
換言すると、本実施の形態によれば、ステップ140は次のような指標を確立する。
【数21】
もし以下の式が成立する場合には、状態ベクトルは検証されている。
【数22】
もし以下の式が成立する場合には、状態ベクトルは検証されていない。
【数23】
【0071】
実施形態がどのようなものであれ、反復nにおいて、または各反復において、ステップ130は、時間t
nにおいてそれぞれ測定された磁場B
i(t
n)の強度に応じて磁力計10
iを選択するサブステップを含めることができる。これは、ノルム
から決定されるものであって、その強さが予め設定された閾値より高く、および/または低い磁場を測定する磁力計のグループを選択することを有する。これにより、(磁場の強さが高過ぎるために)飽和していると考えられる磁力計、および/または、(磁場の強さが低すぎるために)その測定が顕著ではないと考えられる磁力計を排除することを可能とする。選択の閾値は、事前に設定されていてもよい。選択に続くステップ140および150において、イノベーションベクトルy(t
n)および行列H(t
n)、R(t
n)、K(t
n)、S(t
n)の差分ベクトルΔB(t
n)の次元は、選択された磁力計の数に適合される。反復nにおいて選択される磁力計の数は、様々な反復の間で変化してもよい。
【0072】
周囲磁場の考慮
一実施形態によれば、ステップ150において、この方法は、測定時間t
nにおいて、地球の磁場、あるいは全ての磁力計に一様に磁場を生成する別の原因の磁場による周囲磁場が考慮される。この場は、ステップ152において、平均差動磁場を表すベクトル
を決定することにより考慮される。このベクトルを取得するために、全ての磁力計10
iに対して以下の計算が行われる。
・時間t
nにおいて各ベクトルB
i(t
n)の平均として表され、任意に重み付けされている、ベクトル
・時間t
refにおいて各ベクトルB
i(t
ref)の平均として表され、任意に重み付けされている、ベクトル
【0073】
重み付けされた平均値が計算される場合、それぞれぞれの磁石に対する距離が閾値よりも大きい磁力計に対しては、高い重み付け係数(例えば1)を使用することができ、重み付け係数ゼロが、その他のものに用いられる。変形例として、各重み付け係数は、センサの測定における不確実性を表す。測定の不確かさが高いほど、重み付け係数は小さくなる。
【0074】
平均差動磁場を表すベクトル
は、ベクトル
およびベクトル
を減算することにより得られる。すなわち、以下の式により示される。
【数24】
【0075】
このベクトル
は、様々な磁力計において考慮される測定軸の数と等しいサイズを有している。3軸の磁力計の場合、平均差動磁場を表すベクトルのサイズは3×1である。
【0076】
このように、再配置ベクトル
と称されるベクトルは、決定される。これは、ステップ140で確立された差分測定値のベクトルΔB(t
n)と同じサイズであって、例えば、測定軸の数が乗算された当該磁力計の数と等しいサイズである。この例において、このサイズは32×3=96である。再配置された平均差動磁場ベクトル
はベクトル
の項を当該磁力計の数だけ連結することにより得られる。このベクトル
は96×1サイズである。
【0077】
さらに、推定された差動磁場の平均
が決定される。この平均の各項は同じ測定軸に対応してサブステップ152で決定されたベクトルh(x(t
n|t
n−1))の項の平均である。3軸磁力計であることを考慮する場合には、ベクトルh(x(t
n|t
n−1))の、それぞれの測定軸に対応している項は、平均化される。上述のようにベクトル
の決定に関して、この平均は重み付けされてもよい。この場合、ベクトル
および
は同じ重み付け係数を用いて決定される。各測定軸に対して推定された平均差動磁場を表すベクトル
が取得され、このベクトルのサイズは、当該測定軸の数(この例では3×1である)と等しい。そして、推定された平均差動磁場を表すものである、再配置されたベクトル
が決定される。丁度ベクトル
のように、ベクトル
はベクトル
の項を当該磁力計10
iの数と同じ回数連結して得られる。この例において、ベクトル
のサイズは96×1である。
【0078】
そして、イノベーションは式(3´)を用いて計算される。
【数25】
ここで、
【数26】
そして、
【数27】
【0080】
上記説明において、様々な測定時間における磁石の位置が推定される前にステップ100および110において基準位置が考慮される。しかしながら、反復方法においては、磁力計と磁石とが離れていることを要しない新しい基準位置が考慮される。このことは、各基準位置が磁石の位置の測定、および基準時間における磁気モーメントの推定に関連するため、本発明の顕著な利点である。よって、ユーザが磁力計から磁石を離す必要なく、あらゆる時間において基準位置を変更することができる。対称的に、ある時間においては基準磁場B
i(t
ref)がこの装置の全ての磁力計に対して顕著であることが好ましい。これにより、ユーザに制約を与えることなく、より頻繁に基準位置を更新することができる。よって、周囲磁場のドリフトによる影響が制限され、磁石の位置精度が向上する。これは、安価な磁力計が使用されることを可能にする。なぜなら、この測定ドリフトが基準位置のより頻繁な更新を介して補償されるので、電位測定ドリフトが許容され得るからである。
【0081】
更新は、現在時間(t
n)と基準時間(t
ref)を比較し、これら2つの時間の間隔が予め設定された閾値を超えた場合は基準位置を更新することにより実行される。これは定期的な更新である。そして/または、更新は、ステップ150において実行されたアルゴリズムのパラメータであって、特にイノベーションy(t
n)の値を分析することにより実行される。そして/または、更新は、磁石があまり動いていない場合、すなわち、ある時間間隔において移動量が閾値よりも小さい場合に更新される。
【0082】
したがって、更新はユーザの介在なしに自動的に行われる。これにより、この装置の操作性および信頼性が向上する。
【0083】
基準位置を更新する間、ステップ100および110が実行され、そして、以下の反復において、新たな基準時間t
refに関連する新たな基準位置r
refが考慮される。このような更新の間に、例えば、ある配置において新たな基準位置r
ref(t
ref)としてアプリオリを得ることが可能である。この基準位置は、磁石の最後の位置、すなわち、基準位置の更新の直前に確立された位置によって決定される。これにより、最初の測定時間から新たな更新時間に位置精度を向上させることができる。
【0085】
図4Aに示される1の実施形態によれば、複数の基準位置r
ref,jが考慮され、これらは1の基準時間t
ref,j、この時間における1の基準位置r
ref(t
ref,j),および1の基準磁気モーメントm
ref,jに関連している。そして、状態ベクトルは、現在時間における磁石の位置r(t
n)と磁気モーメントm
ref,j(t
n)とは別に、この時間の、1以上の基準位置r
ref,j(t
n)および関連する基準磁気モーメントm
ref,j(t
n)の推定を含む。指標jは、当該基準位置と関連しており、1≦j≦Jであって、Jは当該基準位置の数である。Jは例えば10と等しい。ステップ200および210は、各ステップが基準位置jに関連して実行されることを除いて、
図2Aを参照して説明したステップ100および110とそれぞれ相似である。
【0086】
ステップ230は、上述のようにステップ130と相似であって、各磁力計10
iは測定時間(t
n)において磁場Bi(t
n)を測定する。
【0087】
ステップ240において、各磁力計10
iに対して、差動磁場ΔB
i,j(t
n)は、磁力計10
iにより測定される磁場B
i(t
n)と基準時間t
ref,jにおいて磁力計10
iにより測定される磁場B
i(t
ref,j)との差分に対応して計算される。
【0088】
そして、状態ベクトルx(t
n)を決定するステップ250は、ステップ150と類似的に実行され、このベクトルは先行する反復において決定された磁石の位置から最も遠い基準位置r
ref,j(t
n−1)に基づいて決定される。
【0089】
1の実施形態によれば、続いて、ステップ250は、各基準位置jに関連する中間状態ベクトルx(t
n,j)を推定するように各基準位置を考慮して実行される。そして、この中間状態ベクトルはさらに、現在時間(t
n)における磁石の位置r(t
n,j)および磁気モーメントm(t
n,j)の推定を含み、j番目の基準位置であるr
ref(t
n,j)およびj番目の基準位置に関連する磁気モーメントm
ref(t
n,j)の推定を含む。そして、当該基準位置が決定されるのと同じ数の中間状態ベクトルx(t
n,j)が連続して決定される。各中間状態ベクトルは、測定時間(t
n)における磁石の位置r(t
n,j)を含み、この位置は中間位置と呼ばれ、そして、指標jの基準位置に関連して確立される。
【0090】
各中間状態ベクトルx(t
n,j)の平均を取ることにより、状態ベクトルx(t
n)を推定することが可能である。そして磁石の位置r(t
n)は、中間位置r(t
n,j)の平均を取ることにより推定される。任意選択的に、この平均は、各中間位置に関連する重み係数によって重み付けされてもよい。重み係数は、例えば、基準位置r
ref(t
n,j)およびこれに関連する中間位置r(t
n,j)が離れるほど増加する。また、イノベーションベクトルy(t
n,j)のノルムの逆数により、重み付けされてもよい。
【0091】
磁石の位置の推定は、1または複数の中間状態ベクトルx(t
n,j)のみが考慮されるものであってもよく、その指標jは、基準位置r
ref(r
ref(t
n,j)から最も遠い(1または複数の)中間位置r(t
n,j)に関連する。そして、閾値となる距離は次のように定義されてもよい。すなわち、関連する基準位置r
ref(t
n,j)が上記中間位置r(t
n,j)の閾値の距離よりも大きい距離に配置されている場合にのみ、中間状態ベクトルx(t
n,j)が考慮されてもよい。このような閾値距離は数cm、例えば1または2cmであってもよい。そして状態ベクトルx(t
n)は、このように選択された中間状態ベクトルにより、または、選択された中間状態ベクトルの平均により決定される。基準位置r
ref(t
n,j)が考慮されるか否かは、この基準位置に関連する検証指標V
j(t
n)の値に依存してもよい。この検証指標は次のように説明される。
【0092】
一実施形態によれば、複数の基準位置が考慮される場合、磁石の位置の推定は、特定の基準位置のみ、例えば、既に最小回数n
minの反復の対象とされている基準位置のみを考慮する。換言すると、新たな基準位置j−newは基準時間t
ref,j−newにおいて選択され、これは最小回数n
minの反復の対象とされており、この反復の間に基準時間における磁石r
ref(t
n,j−new)の位置は確立されている。もし、この最小反復回数に届いていない場合には、磁石の位置r(t
n)の推定はこの基準位置を考慮しない。この最小反復回数は、基準時間における磁石の位置r
ref(t
n,j−new)の推定を、あらに選択された基準に対して精緻化することを可能にする。これは、基準位置r(t
n,j−new)が充分な精度を伴って推定された場合に、磁石の位置r(t
n,j−new)の推定を考慮するということである。この最小反復回数は、予め設定されてもよく、または、基準時間t
ref,j−newにおける磁石の位置の二つの連続する推定r
ref(t
n,j−new)、r
ref(t
n+1,j−new)の変化に依存してもよく、後者は、二つの連続する推定の相対偏差が充分に小さい場合に小さいと考えられる。これは、磁石の位置の推定に使用する前に、新たに考慮された基準位置の推定が精緻化される「加熱時間」を考慮することに相当する。
【0093】
図4Bに示される一の変形例によれば、ステップ250は反復して実行され、各基準位置は各反復において連続して考慮される。
【0094】
よって、最初の反復(j=1)において、状態ベクトルx(t
n,j=1)は、位置r(t
n,j=1)および磁気モーメントm(t
n,j=1)の中間推定を含み、そして、1つめの基準位置r
ref(t
n,j=1)および1回目の基準時間t
0,j=1における磁石の磁気モーメントm(t
n,j)の推定が決定される。そして、反復jにおいて得られる、中間状態ベクトルx(t
n,j)および誤差G(t
n,j)の共分散行列は、以下の反復(j=j+1)の状態ベクトルの推定を行うステップ251において、以下の式により実行される。
【数28】
および
【数29】
【0095】
アルゴリズムは上述のように継続され、さらに以下を決定する。
・イノベーションベクトルy(t
n,j)およびイノベーションの共分散行列S(t
n,j)(ステップ252)
・ゲイン行列K(t
n,j)(ステップ253)
・中間状態ベクトルx(t
n,j)および関連する共益分散行列G(t
n,j)の推定(ステップ254)であって、このベクトルおよび行列は以下の反復において用いられる(ステップ255そしてステップ251)
【0096】
j番目の反復において、アルゴリズムは、反復Jの中間状態ベクトルx(t
n,j=J)に対応する状態ベクトルx(t
n)を生成する。このベクトルは、好ましくは、上述のステップ160と同様に検証の対象とされ(ステップ260)、その後、プロセスは測定時間t
n+1で再び繰り返される。よって、磁石r(t
n)およびその磁気モーメントm(t
n)の推定が得られ、これに基づいて、方向θ(t
n)が計算される。各基準位置r
ref(t
n、j)の最新バージョンも得られる。
【0097】
一変形例によれば、状態ベクトルx(t
n)は、複数の差動磁場における測定の基礎となる全ての基準位置を含む。これらの基準位置は反復の過程で精緻化される。
【0098】
一変形例によれば、複数の磁石が移動され、状態ベクトルはそれぞれの位置の推定および少なくとも1の基準位置の推定を含む。状態ベクトルはまた、1または複数の、各磁石の磁気モーメントの成分の推定を含む。
【0099】
このアルゴリズムにおいて複数の基準位置が考慮されている場合、これらのうちの1または複数の基準位置は無限であってもよく、または磁気モーメントはゼロであってもよい。これは、基準位置が磁力計によりカバーされる距離の範囲外に配置される場合に対応している。このとき、この配置の各磁力計10
iが生成する基準磁場B
i(t
ref)は無視できる。上述の各実施例において、各基準位置に対して、現在時間t
nにおけるj番目の基準位置の検証として表される検証指標V
j(t
n)が割り当てられてもよい。この検証指標は特に、現在時間(t
n)と指標jの基準位置関連する基準時間(t
ref,j)の比較に依存してもよい。基準位置は、これら2つの時間の間隔が予め設定された閾値を超えた場合に更新される。これは、基準位置を定期的に更新可能としている。そして/または、このアルゴリズムのパラメータ、特にイノベーションy(t
n,j)の値の解析はステップ150において実行されてもよい。そして/または、空間的に分布した基準位置r
ref(t
n,j)の分布を得てもよい。よって、基準位置は、新たな基準位置がその近傍に配置された場合、例えば、予め設定された距離よりも小さい距離の場合に置き換えられる。これにより、基準位置の空間分布が最適化される。
【0100】
検証指数が、基準位置がこれ以上検証されないことを示している場合に、これは
図4Aで示したステップ200およひ210において、または
図2Aを参照しながら説明したステップ100から110において再配置される。
【0102】
複数の基準の使用に基づく実施例に対して適用可能な一変形例によれば、複数の基準位置が用いられ、そして、上記基準位置の融合に基づく新たな基準位置が決定される。例えば、j番目の基準位置およびj+1番目の基準位置は既知である。
【0103】
現在時間(t
n)においては、各磁力計10
iに対して周囲磁場
および
が推定され、基準時間(t
ref,j)および(t
ref,j+1)に対してもそれぞれ推定される。周囲磁場は、センサの環境およびセンサのドリフトによる磁場(B
envおよびB
ioffset)が以下の式によって定義されることを意味する:
【数30】
以下の式は、例えば時間t
nにおいてj番目の基準位置r
ref(t
n,j)に配置された磁石によって生成された磁場の推定に対応する。
【数31】
また、以下の式は、時間t
nにおけるj+1番目の基準位置r
ref(t
n,j+1)に配置された磁石により生成された磁場の推定に対応している。
【数32】
例えば以下の式に示すように、線形結合の形式をとることにより、
および
の推定に基づいて、新たな基準j´を定義することができる。
【数33】
この基準j´(融合基準と称される)は、磁石がない場合に、周囲磁場の線形結合に対応している。よって、基準位置r(t
ref,j´)は、ゼロの基準モーメントm
ref、および/または無限の位置r
refに割り当てられる。
【0104】
同一平面状の磁力計の配列を参照しながら説明したが、本発明は、例えば曲線表面を描く場合など、任意の配列の磁力計の構成を用いて実現することができる。任意の実施形態は、好ましくは、ホルダ12の例のように、磁力計が互いに強固に接続されている。
【0105】
さらに、この説明に記載された方法は、拡張カルマンフィルタの使用に基づいている。本発明は、直接モデルの逆変換を可能にする推定器を実装する他の実施形態、特に、当業者に知られている任意の再帰推定器を含む。