(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記移動目標シフト手段は、前記位置向き算出手段により算出された前記対象者の向きに直交する方向の前記対象者側へ前記移動目標をシフトするものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の移動体。
前記移動目標シフト手段は、前記角度偏差とシグモイド曲線とに基づいて前記移動目標のシフト量を算出するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の移動体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して、本実施形態における移動体1の構成を説明する。
図1(a)は、移動体1の
側面図であ
り、図1(b)は、移動体1の上面図である。移動体1は、ユーザH(対象者)の右前方にて、ユーザHに対し適切な位置に移動して、ユーザHに随行できる装置として機能する。
【0011】
図1に示す通り、移動体1は、主に略円柱状の外装2と、その外装2の内部に配設され移動体1の各部を制御する制御部10と、測距センサ16と、車輪17とを有する。測距センサ16は、外装2の上部に配置され、レーザ光を全方位(360度)に対して照射することで、測距センサ16と物体との距離を検知(測距)する装置である。測距センサ16は、角度0.25度毎に検出された対象物との距離を、その角度に対応付けて制御部10へ送信する。また、測距センサ16は上下方向に移動可能に構成され、予め測距センサ16からのレーザ光がユーザHの肩周辺に照射されるよう、測距センサ16の上下方向の位置が適宜設定される。以下、測距センサ16から検知される距離および角度のことを「測距データ」と称す。
【0012】
車輪17は、外装2の下部における左右一対に対向して設けられる車輪である。
図1(b)に示すように、左右の車輪17間の幅はdとされる。左右の車輪17それぞれにはモータ(図示せず)が接続され、後述する駆動部18(
図4参照)からの制御信号に基づいてモータを駆動させることで、移動体1が移動される。
【0013】
左右のモータを、同じ出力で正転および逆転させることで移動体1の前方移動および後方移動を行い、また、モータを差動させることで、移動体1の移動方向の変更を行う。ここで移動体1は、車輪17が設けられる左右方向へは直接移動できないので、かかる左右方向への移動には移動方向の変更が必要となる。即ち、移動体1は、非ホロノミックな拘束条件を有する車輪17及び駆動部18(移動部)によって移動するものである。
【0014】
次に、
図2,
図3を参照して、移動体1の移動目標T1および制御目標T2について説明する。
図2は移動体1の移動目標T1を示す図であり、
図3(a)は移動体1の制御目標T2を示す図であり、
図3(b)は、ユーザHがその場で左回転した場合の制御目標T2とシフト制御目標T2’との位置をそれぞれ示す図である。
【0015】
図2に示す通り、移動体1は、ユーザHの右前方に設定される移動目標T1を随行しながら移動する。本実施形態では、移動体1の移動目標T1は、ユーザHの前側「0.6m」かつ右側「0.3m」の位置とされる。また、移動体1は測距センサ16から測距される測距データMPを、移動体1の位置Prを原点(0,0)、移動体1の向きDrを90度とし、移動体1における水平方向をxr軸,そのxr軸に直交する垂直方向をyr軸とした「移動体座標系」と、ユーザHの位置Puを原点(0,0)、ユーザHの向きDuを90度とし、ユーザHの水平方向をxu軸,そのxu軸に直交する垂直方向をyu軸とした「ユーザ座標系」とに基づいて処理することで、移動制御が行われる。
【0016】
ところで、ユーザHが旋回した場合、移動体1も合わせて旋回する必要がある。ここで、移動体1と移動目標T1との距離は比較的小さいので、移動体1の旋回半径も小さくなる。ここで、移動体1は、左右の車輪17を差動させることで旋回するので、小さな旋回半径による急旋回をしようとしても十分に旋回できず、ユーザHへの随行が遅れてしまう虞がある。
【0017】
そこで、
図3(a)に示すように、移動目標T1をyu軸方向へYsだけ移動(シフト)した制御目標T2が設定され、移動体1は該制御目標T2を目標として移動制御される。本実施形態では、移動目標T1のシフト量YsはユーザHの速度Vuに基づいて算出され、具体的には、数式1に基づいて算出される。
【0018】
【数1】
数式1において、ΔTは所定の時間間隔であり「1秒間」が例示される。即ち、制御目標T2は、移動目標T1にユーザHが1秒間進む距離が加算された位置である。該制御目標T2を移動目標として移動体1が移動することで、移動体1と移動目標との距離を確保することができる。従って、移動体1が移動目標T1を移動目標とする場合よりも、移動体1の旋回半径を大きくすることができる。よって、ユーザHが急激に旋回したとしても、移動体1は大きな旋回半径に沿って緩やか旋回すれば良いので、ユーザHへの随行遅れを抑制することができる。
【0019】
ここで、ユーザHが回転または旋回した場合の移動体1の移動動作を説明する。まず、ユーザHが右回転または右旋回した場合は、ユーザHが移動体1の位置する方向へ回転または旋回するので、かかる回転または旋回に伴う制御目標T2の変化は小さくて済む。従って、制御目標T2に従って移動する移動体1の軌跡(以下「移動軌跡」と略す)は、全体的に小回りとなる。
【0020】
一方で、ユーザHが左回転または左旋回した場合、ユーザHは右前方に位置する移動体1とは逆方向へ回転または旋回する。即ちユーザHは、移動体1から離れる方向へ回転または旋回するので、かかる回転または旋回に伴う制御目標T2の変化は、ユーザHが右回転または右旋回した場合と比較しても大きくなる。これによって、移動軌跡は全体的に大回りとなってしまう。
【0021】
また、移動体1はユーザHの右前方を随行しているので、ユーザHの右前方に位置する移動体1において、ユーザHが同一の角度で左旋回または右旋回した場合、旋回後のユーザHの向きDuと移動体1の向きDrとの角度偏差は、ユーザHが左旋回をした場合の方が小さくなる。詳細は
図7で後述するが、移動体1を操舵するための操舵指令値ωは、移動体1の向きDrと制御目標T2に基づく位置との角度偏差に応じた値であり、上述した通り、制御目標T2は、移動目標T1に基づいて算出され、更に移動目標T1はユーザHの向きDuに基づいて算出されるので、移動体1の向きDrとユーザHの向きDuとの角度偏差が小さいほど、操舵指令値ωが小さくなる。従って、ユーザHが右旋回した場合よりも、左旋回した場合の方が操舵指令値ωが小さくなるので、その分、移動体1は大回りな移動となってしまう。
【0022】
そこで本実施形態では、移動体1の向きDrによる角度Δθに基づいて、制御目標T2をxu軸方向におけるユーザH側にXsだけ移動(シフト)した、シフト制御目標T2’が算出され、かかるシフト制御目標T2’を目標として、移動体1が移動制御される。ここで、
図3(b)を参照して、ユーザHがその場で左回転した場合の、制御目標T2とシフト制御目標T2’との位置の比較を行う。
【0023】
図3(b)は、ユーザHがその場で左回転した場合の制御目標T2とシフト制御目標T2’との位置をそれぞれ示す図である。
図3(b)において、ユーザHは向きDaから、向きDb→向きDc→向きDd・・・と、その場で左回転を行い、ユーザHは向きDd以降も左回転を続けている。また、
図3(b)は説明のため、ユーザHがその場で左回転した場合でも、シフト量Ysを0ではない一定値に設定したものを図示している。
【0024】
かかるユーザHの回転によって、ユーザの向きDaに対応する制御目標T2aが算出され、制御目標T2aからシフト制御目標T2a’が算出される。なお、
図3(b)において、ユーザHの向きDaと、移動体1の向きDrは一致しているので、制御目標T2aとシフト制御目標T2a’とは同一の位置とされる。
【0025】
順次、ユーザHの向きDbから制御目標T2bが算出され、ユーザHの向きDbと移動体1の向きDrとに基づいてシフト量Xsbが算出され、この制御目標T2bとシフト量Xsbとからシフト制御目標T2b’が算出される。同様に、ユーザHの向きDcおよび移動体1の向きDrから制御目標T2c、シフト量Xsc及びシフト制御目標T2c’が算出され、ユーザHの向きDdおよび移動体1の向きDrから制御目標T2d、シフト量Xsd及びシフト制御目標T2d’が算出される。
【0026】
シフト制御目標T2b’〜T2d’は、制御目標T2b〜T2dよりもxu軸方向に、即ち、ユーザHの正面側にシフトされるので、ユーザHの位置Puとシフト制御目標T2b’〜T2d’との距離は、位置Puと制御目標T2b〜T2dとの距離よりも小さくなる。従って、シフト制御目標T2b’〜T2d’による分布は、制御目標T2b〜T2dによる分布よりもユーザH側となる。これにより、シフト制御目標T2b’〜T2d’に基づく移動軌跡は、制御目標T2b〜T2dに基づく移動軌跡よりも即ち小回りとできるので、ユーザHが左回転した場合でも、移動体1が大回りすることを抑制できる。
【0027】
次に、
図4を参照して、移動体1の電気的構成について説明する。
図4は、移動体1の電気的構成を示すブロック図である。移動体1は制御部10を有し、その制御部10はCPU11と、フラッシュROM12と、RAM13とを有し、これらはバスライン14を介して入出力ポート15にそれぞれ接続されている。入出力ポート15には、更に、測距センサ16と、駆動部18とが接続されている。
【0028】
CPU11は、バスライン14により接続された各部を制御する演算装置である。フラッシュROM12は、CPU11により実行されるプログラムや固定値データ等を格納した書き換え可能な不揮発性の記憶装置であり、制御プログラム12aが記憶される。CPU11によって制御プログラム12aが実行されると、図
5のメイン処理が実行される。
【0029】
RAM13は、CPU11が制御プログラム12aの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリであり、測距センサ16から測距された測距データMPが記憶される測距データメモリ13aと、ユーザHの位置Puが記憶されるユーザ位置メモリ13bと、ユーザHの速度Vuが記憶されるユーザ速度メモリ13cと、ユーザHの向きDuが記憶されるユーザ向きメモリ13dと、移動体1の位置Prが記憶される移動体位置メモリ13eと、移動体1の向きDrが記憶される移動体向きメモリ13fと、移動体1の移動目標T1が記憶される目標位置メモリ13gと、移動体1の位置Prと移動目標T1とのxu軸方向の偏差である横偏差ΔXt(
図7(a)参照)が記憶される横偏差メモリ13hと、シフト制御目標T2’が記憶される制御目標位置メモリ13iと、中点角度メモリ13jと、中点角度前回値メモリ13kと、移動体1を操舵するための操舵指令値ωが記憶される操舵指令値メモリ13mとがそれぞれ設けられる。
【0030】
中点角度メモリ13jは、移動体1の位置Prとシフト制御目標T2’とを結ぶ移動体1の目標経路R(
図7(a)参照)における中点Tcと
移動体1の位置Prとを結ぶ線分と、移動体1の
向きDrとのなす角の角度Δθ
tが記憶されるメモリであり、中点角度前回値メモリ13kは、その角度Δθ
tの前回値Δθ
t0が記憶されるメモリである。
【0031】
本実施形態において、ユーザ位置メモリ13b,ユーザ向きメモリ13dは上述した移動体座標系に基づく値とされ、移動体位置メモリ13e、移動体向きメモリ13f、目標位置メモリ13g、制御目標位置メモリ13i、中点角度メモリ13j及び中点角度前回値メモリ13kはユーザ座標系に基づく値とされる。
【0032】
駆動部18は、移動体1を移動動作させるための装置であり、車輪17(
図1参照)および車輪17の駆動源となるモータ(図示せず)等から構成される。制御部10から制御信号が駆動部18に入力されると、入力された制御信号に基づいてモータが回転し、該モータの回転が動力となって車輪17が駆動し、移動体1を動作させる。
【0033】
次に、
図5〜
図7を参照して、移動体1のCPU11で実行されるメイン処理を説明する。
図5は、移動体1のメイン処理のフローチャートである。メイン処理は移動体1の電源投入直後に実行される。メイン処理はまず、測距センサ16から取得した測距データMPを測距データメモリ13aに保存する(S1)。
【0034】
S1の処理の後、測距データメモリ13aの測距データMPに基づいて、ユーザHの位置Pu、ユーザHの速度Vu及びユーザHの向きDuを移動体座標系に基づいて算出し、それぞれユーザ位置メモリ13b、ユーザ速度メモリ13c及びユーザ向きメモリ13dに保存する(S2)。測距データMPは移動体1を基準とした値であるので、ユーザHの位置Pu、ユーザHの速度Vu及びユーザHの向きDuは、上述した移動体座標系に基づいて算出される。
【0035】
S2の処理の後、ユーザ位置メモリ13b及びユーザ向きメモリ13dに記憶される、移動体座標系によるユーザHの位置Pu及び向きDuを座標変換することで、ユーザ座標系における移動体1の位置Pr及び移動体1の向きDrとを算出し、それぞれ移動体位置メモリ13e及び移動体向きメモリ13fに保存する(S3)。
【0036】
S3の処理の後、ユーザ座標系における移動目標T1を算出し、目標位置メモリ13gに保存する(S4)。S4の処理の後、移動体位置メモリ13eの移動体の位置Prと目標位置メモリ13gの移動目標T1との、xu軸方向の偏差である横偏差ΔXtを算出し、横偏差メモリ13hへ保存する(S5)。
【0037】
S5の処理の後、目標位置メモリ13gに記憶される移動目標T1と、ユーザ速度メモリ13cに記憶されるユーザHの速度Vuとから、制御目標T2を算出する(S6)。具体的には、まず、上述した数式1によりユーザHの速度Vuからシフト量Ys(
図3参照)が算出され、移動目標T1に対して、該シフト量Ysを移動目標T1のyu軸方向に加算した位置が、制御目標T2とされる。
【0038】
S6の処理の後、移動体向きメモリ13fの移動体1の向きDrに基づいて制御目標T2をシフトすることで、シフト制御目標T2’を算出し、制御目標位置メモリ13iへ保存する(S7)。かかるS7の処理による、シフト制御目標T2’の算出について
図6を参照して説明する。
【0039】
図6(a)は移動体1の制御目標を示す図であり、
図6(b)は、角度偏差Δθに応じたシフト制御目標T2’のxu軸方向の位置X
T2’を示すグラフである。
図6(a)に示すように、制御目標T2を、移動体1の向きDrとyu軸とのなす角である角度偏差Δθに基づいてシフトすることで、シフト制御目標T2’が算出される。シフト制御目標T2’のxu軸方向における位置X
T2’は、制御目標T2のxu軸方向の位置X
T2と角度偏差Δθとによって、以下の数式2で決定される。
【0040】
【数2】
なお、数式2におけるα
1,β
1,θ
maxは係数であり、実験によって予め算出される値である。かかる数式2で算出された位置X
T2’が、制御目標位置メモリ13iに記憶される。
【0041】
ここで、
図6(
b)を参照して、角度偏差Δθと位置X
T2’との関係について説明する。
図6(
b)に示すように、シフト制御目標T2’のxu軸方向における位置X
T2’は、シグモイド曲線に従って、角度偏差Δθの増加に伴いなだらかに減少する。位置X
T2’と制御目標T2のxu軸方向における位置X
T2との偏差が、
図6(a)におけるシフト量Xsに該当する。これにより、シフト制御目標T2’が制御目標T2よりもユーザH側となるので、ユーザHがその場で左回転したり左旋回した場合も、移動体1が大回りに移動することを抑制できる。
【0042】
また、シフト量Xsが、シグモイド曲線に従って角度偏差Δθの増加に伴い、なだらかに変化するので、角度偏差Δθが小さい場合は、即ち、ユーザHの向きDuが僅かに変化した場合は、過敏にシフト量Xsが増加しない。これによって、ユーザHの向きDuの僅かな変化によって、移動体1は急激に方向転換することはないので、移動体1の挙動を安定させることができ、更に、ユーザHにとって、より自然な移動体1の移動動作を実現できる。
【0043】
図5に戻る。S7の処理によって、制御目標T2は、ユーザH側のシフト制御目標T2’へシフトされるので、ユーザHが左回りや左旋回した場合に移動体1が大回りに移動されるのを抑制できる。本実施形態では、更に移動体1の大回りな移動を抑制するため、かかるシフト制御目標T2’へシフトに加え、移動体1を操舵するための操舵指令値ωを、移動体1の位置Prと移動目標T1との横偏差ΔXtに応じて補正する。かかる操舵指令値ωの補正について、
図5と
図7とを参照して説明する。
【0044】
まず
図5において、S7の処理の後、移動体位置メモリ13eの移動体1の位置Prと、制御目標位置メモリ13iのシフト制御目標T2’とから、位置Prからシフト制御目標T2’への目標経路Rを算出し(S8)、目標経路Rと、移動体向きメモリ13fの移動体1の向きDrとのなす角度θtを算出し、中点角度メモリ13jへ保存する(S9)。S9の処理の後、中点角度メモリ13jの角度θtと、中点角度前回値メモリ13kの角度θtの前回値Δθ
t0とから、操舵指令値ωを算出する(S10)。かかる操舵指令値ωを、横偏差メモリ13hの横偏差ΔXtに基づいて補正し、補正された操舵指令値ωを操舵指令値メモリ13mに保存する(S11)。かかるS8〜S11の処理による操舵指令値ωの算出および補正について、
図7を参照して説明する。
【0045】
図7(a)において、移動体1の位置Prから、
図5のS7の処理で算出されたシフト制御目標T2’へ移動体1が移動するための目標経路Rが算出される(図
5のS8)。本実施形態では、目標経路Rは、位置Prとシフト制御目標T2’とを結ぶS字状の曲線とされ、目標経路Rの曲線形状は、移動体1が安定して位置Prからシフト制御目標T2’へ移動できる程度とされる。操舵指令値の算出として、まず、目標経路Rに沿って移動体1を移動させる目標地点として、目標経路Rの中点Tcが選択され、かかる中点Tcに向けて移動体1を移動するための操舵指令値ω1が算出される。具体的には、操舵指令値ω1は、中点Tcと移動体1の向きDrとのなす角である角度Δθ
tと、Δθ
tの前回値Δθ
t0と、左右の車輪17の幅dとから、数式3にて算出される。
【0046】
【数3】
ここで、K
p1,K
p2,K
dは係数であり、実験によって予め算出される値である。かかる操舵指令値ω1によって、移動体1はシフト制御目標T2’へ向かって移動できるが、本実施形態では、操舵指令値ω1へ更に、横偏差ΔXtに基づく横偏差項f(ΔXt)で補正した操舵指令値ωに基づいて、移動体1を操舵する。具体的には、横偏差項f(ΔXt)は数式4で算出され、横偏差項f(ΔXt)及び操舵指令値ω1による、操舵指令値ωは数式5で算出される。
【0047】
【数4】
ここで、α
2,β
2,ω
maxは係数であり、実験によって予め算出される値である。
図5のS11の処理では、数式5による操舵指令値ωが操舵指令値メモリ13mに記憶される。
【0048】
図7(b)に示すように、横偏差項f(ΔXt)はシグモイド曲線に従って、横偏差ΔXtの増加に伴ってなだらかに増加する。具体的には、横偏差ΔXtに応じて、横偏差項f(ΔXt)は大きな値が設定される。横偏差ΔXtの絶対値が大きくなるほど、移動体1と移動目標T1との距離が離れるほどに、横偏差項f(ΔXt)が大きくなり、横偏差ΔXtの絶対値が小さいほど、横偏差項f(ΔXt)は小さくなる。
【0049】
横偏差ΔXtの絶対値が大きい場合は、移動体1と移動目標T1とのxu軸方向の偏差が大きい場合であり、移動体1と、移動目標T1や移動目標T1に基づいて算出されるシフト制御目標T2’とが離れている場合である。この場合、横偏差項f(ΔXt)は大きな値が設定されることで、操舵指令値ωが大きくなる。これによって、移動体1とシフト制御目標T2’とが離れている場合は、大きな操舵指令値ωによって、移動体1をより早くシフト制御目標T2’側へ移動できるので、移動体1は、より小回りに移動できる。
【0050】
一方で、横偏差ΔXtの絶対値が小さい場合は、移動体1とシフト制御目標T2’との偏差が小さい場合であるので、ユーザH側に向けて操舵する必要はない。この場合に、横偏差項f(ΔXt)の値が小さく設定されることで、移動体1がユーザH側へ向けて操舵されることはないので、移動体1の操舵に関する不安定な動作が抑制され、移動体1の挙動を安定させることができる。
【0051】
図5に戻る。S11の処理の後、操舵指令値メモリ13mの操舵指令値ωに基づいて、駆動部18を動作させ、移動体1を移動させる(S13)。これにより、制御目標T2より小回りとなったシフト制御目標T2’に対して、更にシフト制御目標T2’側へ大きく操舵されるので、移動体1の移動軌跡をより一層小回りとできる。かかるここで、ユーザHがその場で左回転した場合の、シフト制御目標T2’および操舵指令値ωによる移動体1の移動軌跡について、
図8を参照して説明する。
【0052】
図8は、ユーザHが左回転した場合の制御目標T2とシフト制御目標T2’との移動軌跡をそれぞれ示す図である。
図8も説明のため、ユーザHがその場で左回転した場合でも、シフト量Ysを0ではない一定値に設定したものを図示している。
図8においても
図3(b)と同様に、ユーザHは向きDaから向きDb→向きDc→向きDd・・・と、その場で左回転を行い、ユーザHは向きDd以降も左回転を続ける。ユーザの向きDaから制御目標T2a及びシフト制御目標T2a'が算出され、同様に、ユーザの向きDb〜Ddから制御目標T2a〜T2d及びシフト制御目標T2a’〜T2d’が算出される。
【0053】
図8に示すように、従来の制御目標T2a〜T2dによる移動体1の移動は、ユーザHが右回りに回転した場合よりも大回りな制御目標T2a〜T2dに沿うように操舵される。従って、移動体1の制御目標T2a〜T2dへの移動による移動軌跡Qbも、大回りな軌跡となる。
【0054】
これに対して、本実施形態の移動体1は、制御目標T2a〜T2dよりも、小回りなシフト制御目標T2a’〜T2d’が設定され、更に、移動体1の位置Prと移動目標T1との横偏差ΔXtによる横偏差項f(ΔXt)が加えられた操舵指令値ωに基づいて移動される。これにより、移動体1は小回りなシフト制御目標T2a’〜T2d’よりも、ユーザH側に沿って移動されるので、かかる移動による移動軌跡Qは、シフト制御目標T2a’〜T2d’よりも更に小回りとできる。
【0055】
従って、本実施形態の移動体1は、ユーザHが左回転した場合や左旋回した場合でも、シフト制御目標T2a’〜T2d’と、横偏差項f(ΔXt)とによる操舵指令値ωに基づいて移動されるので、移動体1が大回りとなるのを抑制できる。これにより、移動体1は、ユーザHが左回転した場合や左旋回した場合でも、随行遅れをすることなく、適切にユーザHへ随行移動できる。
【0056】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0057】
上記実施形態では、目標経路Rの中点Tcに基づいて操舵指令値ω1を算出する構成とした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、目標経路R上の中点Tcに近傍する位置や、中点Tc近傍の目標経路Rに近似する位置等の目標経路Rの中間点に基づいて、操舵指令値ω1を算出する構成としても良い。また、目標経路Rの変曲点や鞍点、極大点や極小点等の目標経路Rの特徴を表す位置や、それら位置の近傍の位置に基づいて操舵指令値ω1を算出する構成としても良い。また、その時点での移動体1の速度Vrや角速度と、シフト制御目標T2’に到達した時点において目標とされる移動体1の速度や角速度とに応じて、操舵指令値ω1を算出する構成としても良い。
【0058】
上記実施形態では、ユーザHの位置Pu、速度Vu及び向きDuを測距センサ16の測距データに基づいて算出した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、測距センサ16の代わりにカメラを搭載し、該カメラで取得された画像に基づいて、ユーザHの位置Pu、速度Vu及び向きDuを算出する構成としても良い。
【0059】
上記実施形態では、
図6(b),
図7(b)において、位置X
T2’や横偏差項f(ΔXt)をシグモイド曲線に従って変化させる構成とした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、位置X
T2’や横偏差項f(ΔXt)をガウス曲線等、他の形状の曲線に基づいて変化させる構成としても良い。
【0060】
上記実施形態では、横偏差ΔXtを移動体の位置Prと移動目標T1との、xu軸方向の偏差とした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、横偏差ΔXtを移動体の位置Prとシフト制御目標T2’との、xu軸方向の偏差としても良い。
【0061】
上記実施形態では、移動体1は、ユーザHの右前方を随行しながら移動する構成とした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、移動体1をユーザHの左前方を随行しながら移動する構成としても良い。
【0062】
上記実施形態に挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。